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平成17(ワ)12138著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件

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裁判所 一部認容 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成19年1月30日
事件種別 民事
当事者 被告コピーライツ・ジャパン株式会社鳥海哲郎
原告株式会社ファミリア井上周一
法令 著作権
不正競争防止法2条1項13号9回
民法709条7回
不正競争防止法3条1項3回
商標法2条3項6号2回
特許法198条2回
著作権法60条1回
著作権法30条1回
不正競争防止法3条1回
不正競争防止法2条1項1号1回
商標法4条1項16号1回
著作権法401条1回
商標法2条3項1回
商標法73条1回
キーワード 許諾83回
ライセンス63回
侵害40回
差止34回
商標権24回
損害賠償7回
実施4回
特許権3回
実用新案権2回
意匠権1回
無効1回
主文 1 被告は,別紙原告製品目録記載1ないし6の図柄の著作権に基づいて,原告が同目録記載1ないし6のタオルを製造,販売する行為を差し止める権利を有しないことを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
事件の概要 本件は ベアトリクス・ポター Beatrix Potter が創作した絵本である T, ( ) 「 HE TALE OF PETER RABBIT (邦題「ピーターラビットのおはなし )中の絵柄」 」 (原画)についての著作権の日本における管理業務(商品化許諾業務)を行っ ている被告に対し,同絵柄を使用したバスタオル及びフェイスタオルの販売を 企画したと主張する原告が, ( ) 日本における同絵柄(原画)の著作権が存続期間満了により消滅したこ1 とを理由に,被告が原告に対し同著作権に基づく差止請求権を有しないこと の確認を求めるとともに, C( ) 同著作権が消滅した後も被告が被告ライセンス商品についていわゆる2 表示など同絵柄(原画)について未だ著作権が存続しているかのような表示 をライセンシーをして使用させ,需要者ないし取引者をして同絵柄の著作権 が日本において未だ存続しているかのように誤認させる表示をしているとこ ろ,同表示は,同ライセンス商品の品質又は内容及び後記被告商品化許諾業 務に係る役務の質又は内容を誤認させる不正競争行為(不正競争防止法2条 1項13号)に該当すると主張して,不正競争防止法3条1項に基づき,同

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判決文

平成19年1月30日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成17年(ワ)第12138号 著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件
口頭弁論終結日 平成18年10月17日
判 決
原 告 株 式 会 社 フ ァ ミ リ ア
訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司
井 上 周 一
小 野 昌 延
被 告 コピーライツ・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 小 泉 淑 子
鳥 海 哲 郎
菅 尋 史
大 江 修 子
主 文
1 被告は,別紙原告製品目録記載1ないし6の図柄の著作権に基づい
て,原告が同目録記載1ないし6のタオルを製造,販売する行為を差
し止める権利を有しないことを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の各負担
とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文1項と同旨
2 被告は,ベアトリクス・ポターが創作した著作物に別紙被告表示記載1ない
し5の表示( 以下「 被告表示 」と総称し ,個別に指称するときは「 被告表示1 」
「被告表示2」などという 。)を使用してはならない。
3 被告は,被告とベアトリクス・ポターの著作物の利用についてのライセンス
契約をしたライセンシーに対して,ベアトリクス・ポターが創作した著作物に
被告表示を使用させ,又はこれを表示させた商品の販売,広告及びこれを表示
させた役務の提供,広告をさせてはならない。
4 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成17年12月17日(訴
状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は ,ベアトリクス・ポター( Beatrix Potter )が創作した絵本である「 T
HE TALE OF PETER RABBIT 」(邦題「ピーターラビットのおはなし 」)中の絵柄
(原画)についての著作権の日本における管理業務(商品化許諾業務)を行っ
ている被告に対し,同絵柄を使用したバスタオル及びフェイスタオルの販売を
企画したと主張する原告が,
( 1) 日本における同絵柄(原画)の著作権が存続期間満了により消滅したこ
とを理由に,被告が原告に対し同著作権に基づく差止請求権を有しないこと
の確認を求めるとともに,
( 2) 同著作権が消滅した後も被告が被告ライセンス商品についていわゆる C
表示など同絵柄(原画)について未だ著作権が存続しているかのような表示
をライセンシーをして使用させ,需要者ないし取引者をして同絵柄の著作権
が日本において未だ存続しているかのように誤認させる表示をしているとこ
ろ,同表示は,同ライセンス商品の品質又は内容及び後記被告商品化許諾業
務に係る役務の質又は内容を誤認させる不正競争行為(不正競争防止法2条
1項13号)に該当すると主張して,不正競争防止法3条1項に基づき,同
表示を自ら使用すること並びにライセンシーをして使用させること及び同表
示を使用し,又は使用させた商品の販売等や役務の提供等の差止めと,
( 3) 同法4条又は民法709条の不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日
の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む 。)

それぞれ求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は,当事者間に争いのない
事実である 。)
( 1) 原告は,昭和25年に創業された子供用被服,文房具,日用雑貨品等の
商品を製造販売することを目的とする株式会社である。
被告は,著作権,商標権,特許権,実用新案権等の無体財産権の販売代理
及び仲介業務等を目的とする株式会社であり,フレデリック・ウォーン・ア
ンド・カンパニー・リミテッド(Frederick Warne and Company Limited.
以下「 FW社 」という 。 の有する著作権の日本における管理業務( 以下「 被

告商品化許諾業務」ともいう 。)を行っている。
( 2) 原告は,別紙原告製品目録記載1ないし6のバスタオル及びフェイスタ
オル(以下「原告製品」と総称する 。)の製造販売を計画し,その図柄はベ
アトリクス・ポター創作の絵本である「THE TALE OF PETER RABBIT 」(邦題
「ピーターラビットのおはなし 」。以下「本件絵本」という 。)の中の絵柄
の一部を使用したものである(甲4,9。以下,本件絵本で使用されている
絵柄のうち原告製品で使用されている絵柄を「本件絵柄」という 。 。

( 3) 本件絵柄を含む本件絵本の言語的部分及び絵画的部分に係る著作権は,
FW社が有していたが ,日本においてその保護期間がいずれも平成16年 2

004年)5月21日をもって満了し,現在では消滅している。
( 4) 被告は,FW社の著作権管理業務(被告商品化許諾業務)において,被
告から使用許諾を受けた者に対し,その者の商品又は役務に「 C Frederick
Warne & Co.,20XX」という表示(以下「本件 C 表示」という 。 ,
) 「Licensed
by C opyrights Group 」(以下,被告表示2を「 C opyrights Group」と表
記する 。)との表示(以下「本件ライセンス表示」といい,本件 C 表示と併
せて「本件 C 表示等」ということがある 。)及び本件 C 表示等の全部又は一
部を含む被告表示3ないし5を使用させ,かつ,この表示義務を被告商品化
許諾業務を行う上で ,ライセンスを許諾するにあたっての条件としている 甲

16 )。そして,現に,これらの表示を付したライセンス商品(以下「被告
ライセンス商品」という 。)が販売されている。
2 争点
( 1) 著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無
( 2) 被告表示を表示する被告の行為は商品の品質・内容,役務の質・内容の
誤認を惹起させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たる
か。また被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか。
( 3) 被告の不正競争行為ないし不法行為と原告の損害との因果関係及び損害

3 争点に関する当事者の主張
( 1) 争点( 1)(著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無)に
ついて
【原告の主張】
ア 本件絵柄を含む本件絵本の著作権は,平成16年5月21日の保護期間
満了により消滅し,現在これらはパブリックドメインに帰している。そこ
で,原告は,平成17年9月より,本件絵柄をそのままプリントして使用
した原告製品を製造販売することを計画していた。
ところが,被告は,上記著作権が消滅しているのに,本件絵柄を含むベ
アトリクス・ポターの創作した様々な絵柄に本件 C 表示を付したり ,「Co
pyrights」社の社名の頭文字の「C」に○印を付する表示(被告表示2)
をするなど,本件 C 表示と紛らわしい表示を使用して,著作権の保護期間
が満了していると思われる絵画にも,いまだ被告が著作権を有するかのよ
うに一般消費者に誤解を与えかねないような虚偽の著作権表示を行ってい
る。そのため,原告の取引先を始めとする第三者は,本件絵柄についても
著作権侵害のおそれがあるのではないかと思い,余計な紛争に巻き込まれ
ることをおそれ ,原告と原告製品の取引を行わない 。このように ,原告は ,
原告製品を販売できないという現実の不利益を被っている。
したがって,原告製品の販売を行うためには,被告に対し著作権に基づ
く差止請求権の不存在を確認する利益が存在する。
イ 被告は,日本において本件絵柄の著作権が消滅したことを認めており,
また,被告の業務内容が著作権の管理業務(被告商品化許諾業務)を行っ
ているだけであるから,原告に対し,著作権に基づく差止請求権を行使す
ることはあり得ず,したがって,その不存在を確認する利益がないと主張
する。しかし,以下のとおり,被告の上記主張は理由がない。
(ア) 被告は,自らの立場を,FW社の単なる「著作権の管理業務」を行
うにすぎないものであるかのようにいうが,それ以上の役割を果たして
いる。すなわち,被告は,FW社のライセンシーであり,日本の会社に
サブライセンスしているが,現在すべてのライセンス商品には「Licens
ed by C opyrights Group」(本件ライセンス表示)と表示させている。
ライセンス契約上もライセンサーは被告であり,日本の会社はライセン
シーである。そして,被告が実際に営業において果たしている日本での
役割は,FW社の単なる代理でなく,代行者のごとき立場であって,F
W社自身が直接的に日本でライセンス契約をしたり営業活動をすること
はごくまれであり,現実には被告がライセンサーとして活動している。
被告は,日本の会社との標準商品化契約書(甲7)上,ライセンシーに
対し著作権侵害訴訟等の提起について被告の同意を得ることを義務づ
け,被告のウェブサイトにも被告の業務内容として「ライセンシーと版
権元の双方に影響を及ぼす,知的所有権の侵害や不正使用などの問題と
も取り組んでいます 。」と表示し,FW社の著作権ライセンス事業につ
いて「単なる代理人」として活動しているだけでなく,より強い権限を
有し,または少なくともそれを有するような外観を作り上げている。
このように,被告は,FW社の日本における商品化事業における再
使用許諾権付きの独占的使用権者(サブライセンサー)であり,日本
において独占的使用権を有しているので,FW社が本件絵柄等の著作
物について著作権を有するとしても,FW社の差止請求権を債権者代
位権により代位行使できる。したがって,被告が著作権に基づく差止
請求権を行使する可能性がある。
(イ) また,被告は,本件絵柄の著作権の保護期間が満了した後におい
ても ,新聞広告( 甲10の1・2 ) カレンダー( 甲11 )等において ,

例えば「 前略) C Frederick Warne & Co.,2004(中略)Licensed by

C opyrights Group」との記載をしている。この記載を見た取引者及び
需要者は,日本において,いまだに本件絵柄を含むベアトリクス・ポ
ターの作画全般が2004年制作の著作権保護を受けているような誤
解を受けるし,さらに,被告は,FW社の著作権表示よりも目立つ形
で,すなわち被告の名称表示中の「 C 」部分を著作権表示である C マ
ークよりも大きくなるように表示して,あたかも被告自身に著作権が
帰属すると誤認させるような表示をしている。
このように,被告は,自ら単なるFW社の著作権管理業務を行って
いるだけの立場ではないような広告を行い,かつFW社とともに著作
権の保護期間を誤解させるような表示や,著作権表示と紛らわしい表
示を積極的に行い,ベアトリクス・ポターの原画がパブリックドメイ
ンに帰していることが一般的に知られないようにし,著作権について
正確に理解していない取引者及び需要者が,日本においてもいまだ著
作権の保護がベアトリクス・ポターの原画にあるかのように誤認する
ような外観を積極的に作出している。
(ウ) さらに,被告は,本件絵柄を含む本件絵本に描かれた絵柄につい
て著作権を主張する意思はないと主張するが,被告自身が実際に行っ
ている上記の表示などからすると,現実の市場での行動は,本件訴訟
上の被告の態度と明らかに相反している。したがって,被告が本件訴
訟で著作権を主張する意思はないと答弁するのみで確認の利益がない
ということはできない。いかに原告が本件絵本の著作権保護期間の満
了について取引先に説明しようと,被告が上記のような著作権表示を
継続する限り,かつ,著作権保護期間の満了を周知徹底しない限り,
現実的に原告は取引先に原告製品を販売することができない状態にな
っているのである。
【被告の主張】
確認の訴えは,給付の訴えと異なり,確認の対象となり得るものが形式
的には無限定であるから,原告の権利又は法律的地位に不安が現に存在し,
かつ不安を除去する方法として原告・被告間でその訴訟物たる権利又は法
律関係の存否の判決をすることが有効適切である場合であるか否か,すな
わち確認の利益があるか否かを個々の訴訟ごとに吟味しなければならない。
そして,請求の趣旨1項の著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求の
訴えについては,以下の理由により,原告は何ら確認の利益を有しない。
ア まず,被告は,原告製品に表示されたそれとおぼしき「ピーターラビ
ットのおはなし」を始めとする一連の本件絵本に描かれた絵柄(本件絵
柄を含む 。 についての著作権が日本において消滅したことを認めており ,

被告が同著作権の存在や同著作権に基づき原告製品を製造販売する行為
を差し止める権利の存在を主張した事実は全く存在せず,これらの権利
の有無につき原告及び被告の間に争いはない。したがって,本件で,原
告の権利又は法律的地位に現実的な不安は生じていない。
「原告の権利又は法律的地位に現実的な不安が生じる」のは,通常,
被告が原告の法的地位を否認したり,原告の地位と相容れない地位を主
張したりする場合であるが,上記のとおり,被告は,著作権に基づいて
原告製品の製造販売行為を差し止める権利を有しないことを認めている
のであって,被告が原告に対し,著作権に基づく差止請求をしたことは
ないし,するおそれもない。
この点,原告は,被告ライセンス商品に被告表示を付することにより,
原告製品を販売し得る地位に不安が生じていると主張する。しかし,被
告表示は,原告に対するものではなく一般に向けてのものであるから,
被告表示を付したこと自体で自動的,一般的に原告について「商品を販
売し得る地位の現実的な不安」があるとして確認の利益が認められるも
のではない。仮にそうだとすれば,被告表示を目にする何人にも確認の
利益が認められることになり,確認の利益を訴訟要件とする意味がなく
なる。本来,請求原因事実として「原告に対し」権利主張していること
が必要なのである。なぜ,万人の中で原告が確認の訴えを提起できるの
かを説明するためには,被告表示により,原告に商品を販売できない不
利益が現実的具体的に生じていること,すなわち,原告が原告製品の取
引を拒絶された事実及び被告表示と当該取引拒絶事実との因果関係が具
体的に主張立証される必要がある。しかしながら,本件でこの点につい
ての具体的な主張立証は一切なされていない。
仮に,原告の法律的地位に不安が現に生じているとしても,以下のと
おり,本件確認請求は,そのような不安を除去する方法として有効適切
ではない。すなわち,確認の訴えの対象としては,より有効・抜本的な
解決の得られる訴訟物を選ぶべきであるから,自己の権利の積極的確認
ができるときは,相手方の権利の消極的確認を求めるべきではないとさ
れている。このことからすれば,原告としては,被告が著作権に基づく
差止請求権を有しないことの確認を求めるよりも,原告が原告製品を販
売する権利のあることの確認を求めるべきであるから,本件確認請求は,
原告の法律的地位の不安を除去する方法として有効適切ではない。しか
るに,原告は,あえて消極的確認を求めている。それは,FW社が有す
る商標権及び不正競争防止法上の地位ゆえに原告が原告製品を販売し得
る地位にあるとは主張できず,積極的確認を求めることができないから
である。すなわち,上記のとおり,原告製品が製造販売される場合,当
該製造販売はFW社が有する商標権の侵害であるし,また不正競争防止
法上の不正競争行為にも該当するのであるから,原告は,本来的に正当
に原告製品を販売し得る地位になく,そのような確認を求める正当な利
益を有しないのである。またそもそも被告が原告に対し著作権に基づく
差止請求権を有しないことを確認しても,被告にはなお本件 C 表示等を
付する権利があり,他方原告にこれを禁じる権利はない。よって,被告
による本件 C 表示等はなお存続し得るのであって,原告の不安は除去さ
れない。
したがって,この点からも,被告が著作権に基づく差止請求権を有し
ないことを確認する意味はなく,原告に確認の利益はない。
イ 次に,二次的著作物について創作性があれば,FW社が著作権を有し
ていることを主張することがあるかもしれない。しかし,著作権の管理
業務を行うにすぎない被告自身が著作権に基づく差止請求権を有すると
主張することは,その事業内容に照らし全くあり得ない。あり得ないこ
とについて確認する意味はないから,原告は上記訴えに関し確認の利益
を有しない。
この点,原告は,縷々理由をあげて,被告がFW社の単なる代理人で
なく,代行者のごとき立場であるとか,被告が実際には権利者又は権利
者と同等の立場であることを広告しているとして被告の「強い立場」を
主張する。原告の上記主張の趣旨は必ずしも明らかでないが,仮に,被
告が,権利者と同様にその独自の裁量でFW社の有する権利に基づき差
止請求権を行使できるとの趣旨であれば,事実と異なる。そもそも「代行
者」であっても,権利者でない以上,FW社からの指示なく差止請求権を
行使することなどできない。また,原告が上記主張の理由としてあげる
事実,すなわち,被告のすべてのライセンス商品には「Licensed by C o
pyrights Group」と表示させていること,ライセンシーの訴訟提起につ
いてライセンサーすなわち被告の同意を要することとされていること,
被告のウェブページ上で「ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす,
知的所有権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます 。」と表記
されていること等は,日本における被告の立場がFW社が保有する権利
の管理業務の受託者であるという被告の主張と矛盾せず,むしろこれを
裏付けるだけのものである。
( 2) 争点( 2)(被告表示を表示する被告の行為は,商品の品質・内容,役務の
質・内容の誤認を惹起させる不正競争行為 不正競争防止法2条1項13号 )

に当たるか 。また ,被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか )
について
【原告の主張】
被告は,本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの絵柄の著作物について,
すでに著作権の保護期間が満了しているのに,いまだに著作権が存続してい
るかのように誤認させる被告表示を被告ライセンス商品又は被告商品化許諾
業務に係る役務に表示しているところ,この行為は,以下のとおり,被告の
商品(タオル等)の品質・内容及び役務(被告商品化許諾業務)の質・内容
の誤認惹起表示に該当し ,不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為 以

下「13号の不正競争行為」という 。)にあたるとともに,民法709条の
不法行為を構成する。
ア 被告の13号の不正競争行為の態様
商品の品質等誤認惹起表示について ,「表示媒体」はベアトリクス・ポ
ターの絵柄の使用されている商品(タオル等)であり ,「表示事項」は商
品の品質・内容であり ,「行為態様」は本件絵柄について日本においては
著作権保護期間が満了しているのに,いまだに著作権が存続しているよう
に誤認させる表示をしている行為である。
また,役務の質等誤認惹起表示について ,「表示媒体」は本件絵柄を含
む商品化許諾業務という役務であるが ,役務が無形であることから 役務 」

の「使用」に該当する「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役
務の提供に係る物」である商品(カレンダー・タオル等)であり,同商品
に被告表示を付する行為が誤認表示行為にあたる(商標法2条3項6号。
甲11,12 )。あるいは,インターネットの電磁的方法により行う映像
面を介した役務の提供に当たりその映像面に被告表示を表示して役務を提
供する行為( 同7号 。甲13 ) さらには役務に関する広告等( 新聞広告・

しおり)に被告表示を付して展示・頒布等する行為(同8号。甲10,1
4,15)が誤認表示にあたる 。「表示事項」は役務の質・内容であり,
「行為態様」はベアトリクス・ポターの絵柄の著作物について日本におい
ては著作権保護期間が満了しているのに,いまだ著作権が存続しているよ
うに誤認させる表示をしている行為である。
被告表示の具体的態様は ,いずれも「 C 」 又は「 Copyrights 」の「 C 」

(大文字)の文字を囲み次の文字である「o 」(小文字)に重なる部分の
みが欠ける「○ 」(丸印)を含むものである。なお,後者は ,「o 」(小文
字)の上端に接しており,下端にはわずかな隙間があるだけである。隙間
は全くないこともあり,あるいは,小さく書いた場合には,わずかな隙間
はほとんど意識されない。
被告表示は,著作権表示の一部である「 C 」を含むか,又はそれと酷似
する。さらに , C 」の直後に社名またはその一部(opyrights)が表示

されている。
著作権表示は,①「 C 」の記号,②著作権者名,③最初の発行年の各記
載により構成されているところ,被告表示は,まず①の「 C 」の記号,ま
たはこれと極めて類似する記号を使用している 。次に ,②被告の会社名称 ,
又は , C 」の記号と極めて類似する記号を被告の会社名称の一部として

利用して被告の会社名称を表示している。しかも,被告の会社名称は,著
作財産権の代名詞であり, C の由来となった「複製権」を意味する「copy
right」の語を主要部とする名称である。③の最初の発行年の記載は,た
とえば「2005」などの西暦も表示されている場合には,2005年発行の
著作物についての著作権表示と誤認され,著作権がなお存続すると誤認さ
せる。
需要者は,これを一体として見た場合,著作権保護を受ける著作物であ
ることを警告する著作権表示と認識する( C が警告的作用のあることは被
告も争っていない 。 。そして,被告表示が,著作権保護期間が満了した

ベアトリクス・ポターの原画付近に付された場合には,それらの原画につ
いていまだ日本においても著作権が存続しているとの誤認を需要者に与え
る。
被告の著作権を重要な権利要素とする被告商品化許諾業務との関係でい
うと,被告表示により,ベアトリクス・ポターの原画を使用するには被告
から使用許諾を受けなければならない,あるいは当該原画の付された商品
や業務(役務)は著作権で保護されている対象であるとの誤認を生じさせ
る。
このような誤認は,商品の物的な意味での品質・内容ではないが,商品
の価値に直結する性質の,商品に付帯する権利の有無や内容についての品
質,内容に関するものである。被告商品化許諾業務の役務については,そ
の質,内容についての誤認である。取引者や消費者は,ベアトリクス・ポ
ターの絵がついているから著作物に対する好みで商品を購入するのであ
り,商品の物理的な品質とともに,それにも増して当該商品の価値を左右
するものは,それに付されている公有財産となった絵柄であり,それは商
品の品質や商品の内容そのものである。
イ 商品又は役務の誤認惹起表示の意義等
「商品の品質,内容」及び「役務の質,内容」の意義については ,「品
質」と「質」は対象が商品か役務かで使い分けられているだけであり,ま
た品質と内容又は質と内容を区別する実益はない(甲24,25 )。
被告表示のような虚偽の著作権表示が,品質(質)か内容か明確に峻別
することが困難であったとしても,不正競争防止法2条1項13号の規制
対象となることは間違いない。また,著作権表示は,立法経緯から本条項
の対象外とされた「供給可能量,販売量の多寡,業界における地位,企業
の歴史,取引先,提携先等」のいずれにも該当しない。また,これらに準
じる表示でもない(甲25 )。このように,立法経緯からしても虚偽の著
作権表示を同号の適用外とする理由は見い出せない。
産業財産権の四法においては,公示制度があることの関係もあり,虚
偽表示が明文で規制されている(特許法198条,同188条,実用新
案法58条,同52条,意匠法71条,同65条,商標法80条,同7
4条 )。このような規定のあることは,著作権表示についても虚偽が許さ
れないことを積極的に裏付けているといえる。その性格上,著作権法に
明文がないことは,虚偽が適法で許されるということではない。知的財
産権全体の均衡のある解釈がなされるべきであることには異論はないで
あろう。
著作権表示については,上記のような刑事罰を科す規定はない。しか
し,審査制度のない著作権表示の虚偽に刑事責任まで負わせる程度の違
法性がないというだけであり,これを取り上げて虚偽の著作権表示が適
法であると判断するのは相当でない。
さらに,商標権の表示(商標法73条,同法施行規則17条の「商標
登録表示」とは異なる 。)として, R の表示を行うことがあるが,登録商
標でないものにこの表示をすれば虚偽表示になり得るとされる 甲24 )
( 。
このように,商標では,商標登録表示以外についても,商標法80条,
同74条の適用可能性があるとされている 。商標法4条1項16号は , 商

品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」について,商
標登録を受けることができないとされる。そして,同条項の審査基準に
おいては ,「5.商標の付記的部分に『JIS 』 『JAS 』 『特許 』 『実
, , ,
用新案 』 『意匠』等の文字又は記号があるときは,これらの文字等が補

正により削除されない限り本号の規定を適用するものとする 。 とされる 。

なお,ここでは「商標」が除外されているが,そもそも商標について「商
標」の文字等を付記しても誤認は生じないためであると思われる。そし
て,この審査基準においては ,「意匠」についても対象としており,また
「等」として,限定列挙している趣旨でもないから ,「著作権」について
も対象としていると考えられる。
ウ 二次的著作物との関係
被告は ,被告表示が原画の二次的著作物の著作権表示であると主張する 。
しかし,二次的著作物との関係でも,被告表示は品質等誤認表示に該当す
る。
まず ,商品等の質量等に関する一部の情報のみを強調して表示する結果 ,
その商品等全体の質量等について誤認するおそれがあれば,その強調され
た情報自体は正しい表示であったとしても,質量等誤認表示に当たること
がある。
たしかに,原画について著作権が満了していても,その組合せによって
は全体として二次的著作物となることはあり得る。しかし,原画を組み合
わせただけ,または若干の加除増減を行った絵画について,原画を超えて
二次的著作物として著作権が成立するのは極めて限定的な範囲である。た
とえ二次的著作物として著作権が成立している局面があるとしても,あた
かも個々の原画自体に著作権が残存しているような紛らわしい被告表示を
行うことは,二次的著作物が成立しているという一部の情報のみを強調し
て,全体の質・内容について誤認を生じさせるおそれがある。
エ 13号の不正競争行為と需要者の関係
被告表示が,著作権保護期間の満了した原画付近に付された場合,原画
について,いまだ著作権が存続しているとの誤認を与える。
そして ,このような誤認の結果 ,被告から実際に許諾を受けた需要者 取

引者)は,実際には著作権により保護されていないにもかかわらず,著作
権により保護されるものとして,被告から不必要な許諾を得ている。
また,被告から許諾を受けようとする取引者は,本来であれば被告から
許諾を得る必要がないにもかかわらず,事実上誤った認識のもとに許諾を
受けていることになる。そうでない者は,誤認表示を利用している,より
悪質な者である。
さらに,商品を購入する消費者も,著作権で保護されている絵柄が付さ
れた商品であるとの誤認あるいは正当な著作権を有する者の許諾を得た商
品や業務活動であるなどとの誤認を生じる。
いずれにしても,取引者や消費者である需要者が直接的な損害を受ける
ことは13号の不正競争行為の要件事実とはなっていないので,事情にす
ぎないが,上記の誤認によって影響を受ける需要者の観点から付言するも
のである。以上のように,被告は,被告表示を行うことによって,需要者
である取引者・消費者に対し,いまだ著作権保護を受けているとの警告的
作用を有する被告表示を行い,著作権管理業務において,著作権保護期間
が満了して著作権の保護を受けない原画自体について,著作権の保護を受
けているものとしてライセンシーに使用を許諾し,あるいは,著作権では
なお保護されているかのような観を呈する誤認的表示を行っているのであ
る。
オ 営業上の利益の侵害
被告の13号の不正競争行為により,原告は,不正競争防止法3条1項
の「営業上の利益を侵害されるおそれ」がある。
すなわち,13号の不正競争行為と侵害された営業上の利益の直接的な
つながりが立証しにくいときであっても,営業上の利益を侵害されるおそ
れは認められる。
本件では,原告は,著作権保護期間の満了したベアトリクス・ポターの
原画について,それを使用した原告製品の販売を実際に計画し,準備して
いる。したがって,原告は,実際にベアトリクス・ポターの原画を付した
製品を販売する際には,事実上,他者が同原画について著作権に基づく著
作権管理業務を行っているという表示を付した商品が現実に市場で競合す
るなど密接な利害関係を有している。そして,実際にも本件では被告が表
示を止めないために,いまだに原告製品の販売を行うのに支障を来す状況
にある。
被告の役務は ,ベアトリクス・ポター著作の絵本を主たる対象とした ピ

ーターラビット」に関連する商品化許諾業務であるが,その許諾業務にお
いて被告表示を使用しているだけでなく,許諾を受ける者に対し,許諾の
条件として被告表示を付することを要求している。このように,被告は上
記役務を提供するに当たり,許諾を受ける者に対しても被告表示をさせ,
許諾を受けた者の売上げから許諾料を徴収するなどして経済的な利益を上
げているので,被告の提供する役務を全体として見た場合,被告自身は商
品化許諾業務を行っているだけでなく,許諾を受けた者の商品の製造販売
についても利害関係を有し,これに密接に関わっている。したがって,原
告が公正な条件の下で営業活動を行うことの利益又は公正な事業者が享有
する競争上の地位を脅かされているかを検討する場合には,単に被告商品
化許諾業務のみを対象とするだけでは不十分であり,被告から許諾を受け
た者が商品を製造販売することも踏まえて判断を行う必要がある 。そして ,
原告は,原告製品の販売を予定しており,これと被告から許諾を受けた者
が商品の製造販売を行うことは競争関係にある。そのため,被告から許諾
を受けた者がその商品にいまだ著作権の保護が及ぶような被告表示がある
ために,それを見た百貨店の販売担当者が原告製品の販売を中止するよう
求めることとなり,原告はその販売を行えなくなっているという営業上の
損害を被っているといえる。
カ 13号の不正競争行為の成否に関するまとめ
以上のとおり,被告は,被告表示を行い,商品の品質等誤認表示あるい
は役務の質等誤認表示を行っている。そして,原告は被告の品質等誤認表
示により,少なくとも営業上の利益を侵害されるおそれがあるから,不正
競争防止法3条に基づき,被告表示の使用等の差止めを求めるとともに,
同法4条に基づき,損害賠償を求めることができる。
キ 民法709条の不法行為の成否
(ア) 著作権表示については,万国著作権条約上又は上記国内法において
は明文で虚偽の又は不当な表示を規制する規定はない。しかし,不当な
著作権表示が法的に全く何らの規制も受けず,自由に使用することがで
きるものではないことはもちろんである。少なくとも表示する者は誤解
をされない表示を行う条理上の義務,あるいは,虚偽の表示をしてはな
らない条理上の義務を負う 。そうすると ,著作権表示と紛らわしい表示 ,
まさに被告及びFW社が現在行っている表示についても同様に,一般に
需要者に誤解を与えるのであれば,当然,そのような表示は許されない
ものと考えられる(ちなみに,産業財産権の虚偽表示には,刑事罰が科
されている。特許法198条,同188条,実用新案法58条,同52
条,意匠法71条,同65条,商標法80条,同74条 )。
(イ) したがって,被告は,そのような表示を行う合理的な理由も必要も
何もなく被告表示を行ってはならない義務を負っているのであり,その
義務に違反してそのような表示を行うことは,原告に対する不法行為を
構成する。仮に,本件のような事態が具体的に発生しているのにかかわ
らず,これを知りつつ具体的な対策をとらずに放置するときには,さら
に強度の違法性を帯びることは明らかである。
ク 万国著作権条約上の要請について
被告は,被告が本件 C 表示をさせているのは,万国著作権条約上,被告
の権利確保のために法律上要求される行為であるから,13号の不正競争
行為に該当することはないし,民法709条の不法行為を構成することも
ないと主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,第1に,本件の著作権の虚偽表示は,日本で被告の指示で付さ
れている。被告の被許諾者間との契約により,日本で虚偽表示を付した商
品が製造され販売されているのである。この事実を無視して,他国で保護
される必要があるから,日本で虚偽表示を付した商品の製造販売が許され
る理由はない。第2に,百歩譲って仮に被告の主張するように「著作物の
保護について無方式主義を採用する国において発行された著作物が,方式
主義の国で保護されるためには,すべての著作物について万国著作権条約
が規定する著作権表示を行わなければならない」との立場に立って考えて
も,現実には,ベアトリクス・ポターの原画が,万国著作権条約に規定す
る著作権表示により保護を受ける場面はほとんど考えられない。
(ア) 該当国
万国著作権条約上の著作権表示により著作物の保護を受けるために
は,ベルヌ条約を締結せず,かつ,万国著作権条約を締結し,かつ,方
式主義を採用していることを要する 。まず ,平成17年4月末において ,
ベルヌ条約を締結せず,かつ,万国著作権条約を締結している国は,ラ
オスとカンボジアの2か国のみである(甲20 )。次に,著作物の保護
方式については,ラオスでは著作権法制自体,整備されておらず,そも
そも著作物の保護が行われていない(甲21。これを示すに ,「商人」
という語以外 ,「営業」とか「企業」という語も最近作ったぐらいであ
る。弁護士も首都に数名いるのみである 。 。他方,カンボジアでは,

自国民及び自国内で創作等がなされた著作物については無方式主義を採
用し,他の国において創作された著作物については登録を要し方式主義
を採用するようである(甲22。ポルポト政権が貨幣を廃止していたこ
とは周知のところである。民法すら最近出来たところである 。 。した

がって,現時点で著作権表示を行う意義があり得るのは,カンボジア1
か国だけである。ただ,カンボジアも,最近になり上記の内容の著作権
法が制定されたばかりである(甲23 )。
まず,カンボジアで本件絵柄にカンボジア著作権法による保護が与え
られるかどうかを具体的にみると,本件絵柄はベアトリクス・ポターの
死後50年以上になるから,カンボジア著作権法30条により,著作権
法による保護は与えられない。カンボジア(のみならず他の殆どの国)
では米国著作権法401条(a)のような著作権表示を付することを強制
し要求することはないから, C 表示は必要でない。ちなみに,米国著作
権法でも虚偽の著作権表示は当該著作物の著作権を無効にするから,虚
偽の著作権表示を前提にしても意味がない。万国著作権条約3条につい
ての被告の立論は,権利行使に著作権表示が厳格に要求された過去の米
国著作権法のことを念頭にしていると思われるが,その米国でも属地性
の原則から,著作権表示を付さないで著作物を外国で発行していても,
現在では米国で著作権を取得する権利を喪失しないとされるし,まして
期間が切れた後,警告である C 表示は必要がない。
そして,著作権法のない現在のラオスで本件絵柄が著作物として保護
されることはなく,ラオスが著作物を著作者の死後70年保護する規定
を設ける可能性はない。加えて,米国と同様の権利行使に著作権表示を
要求する方式の法制をとる可能性はない。
(イ) 被告の活動範囲
被告のウェブページでは,被告が属するコピーライツ・グループは,
全世界に広がり活動しているかのように表示されている(甲8の2 )。
また,被告は,ベアトリクス・ポターの「ピーターラビット」は,全世
界において商品化され,流通しているとする。しかし,上記のウェブペ
ージの記載を額面どおりにみると,コピーライツ・グループは ,「事務
所を英国・ドイツ・日本に,提携代理店を米国に置」いているものの,
実際に著作権表示による保護を受ける必要があるカンボジアでは商品化
権事業を全く行っていない。個人レベルでは別として,日本とカンボジ
アの間で,現実に被告がどれ程の商品を輸出して販売を行っているかは
疑問である。ましてや日本語表記したポターの著作物を利用した日本製
品の輸出販売がカンボジアに対してどれ程の量なされているかについて
の主張も立証も被告から全くない。
また,甲第8号証の2のウェブページの記載では,コピーライツアジ
アは被告と同じ連絡先を使用している。このことからしても,コピーラ
イツアジアが実体として存在するとしても,その主要市場は日本が中心
となっていることが明らかである。
【被告の主張】
ア 13号の不正競争行為の成否
(ア) 13号の不正競争行為不該当性
被告表示は誤認惹起表示とはいえない。
a まず,取引者又は消費者等の需要者は,被告表示1又は2を見て,
被告の著作権の表示であると認識し,被告表示1又は2が付された
絵柄等につき被告が著作権を有すると誤認することはあり得ない。
被告表示1のごとき単なる「 C 」という表示は,いわゆる C 表示で
はない。甲17ないし19号証では , C 」というマークが書籍の表

紙及び/又は裏表紙に表示されているが,これらは,当該書籍につ
き著者やその他の者が著作権を有することを示すために表示されて
いるものではなく,当該表示を見た者をしてそのように認識させる
こともない。よって,被告表示1を見た者が,当該表示が付された
絵柄等につき被告が著作権を有すると認識することはあり得ないし,
何者かが著作権を有することを示すものであると認識することもな
い。
被告表示2は,被告の商号のロゴマークであり,これを見た者が
認識するのは , C opyrights」という被告の商号であり ,
「 「Licensed
by C opyrights」とあれば ,被告によりライセンスを受けている( 本
件の場合,商標権等の権利に関する使用許諾である 。)との認識が生
ずるものである。よって,需要者が,被告表示2を「著作権表示」
であると認識し,被告に著作権があると誤認することはあり得ない。
原告は,被告表示2が「著作権表示」あるいはそれに紛らわしい表
示であることの根拠として,万国著作権条約3条1項で「… C の記
号,著作権者の名及び最初の発行の年は,著作権の保護が要求され
ていることが明らかになる… 」と規定されていることをあげるが , C

opyrights」と「 C Copyrights」とが明確に区別されて認識されるも
のであることはいうまでもない。
b 仮に,需要者において,本件 C 表示又は被告表示3ないし5を見
て,本件絵柄について日本国内において著作権が現存すると誤認す
ることがあったとしても,それは不正競争防止法2条1項13号の
「商品の品質,内容についての誤認」又は「役務の質,内容につい
ての誤認」ではない。よって,被告各表示を付することは ,「不正競
争」に該当しない。
なお, C には,単に「著作物」であることを示す意味もあり得る。
そして ,「著作物」であれば,著作権の保護期間が満了した後でも,
一定限度で「 著作物 」としての要保護性は認められる 。すなわち , 著

作者が存しなくなった後における人格的利益の保護」の規定である
著作権法60条の違反については刑事罰が定められており(同法1
20条 ),この点に期間制限はない。そうすると,全く著作物性のな
いものと保護期間が満了した著作物とは,要保護性が異なるのであ
るから , 著作物 」であることを外部に表示することには意味がある 。

c ある商品について著作権が現存するか否かは ,「品質」の字義から
して明らかに当該商品の「品質」にかかわるものではなく ,「品質に
ついての誤認」に該当しない。
d 他方 ,「内容」の字義からすると,著作権が現存するか否かもこれ
に含まれると考える余地もないではない。しかしながら,不正競争
防止法2条1項13号の趣旨からすれば,著作権が現存するか否か
が同号にいう「商品の内容」であると解する余地はない。すなわち,
本号は,商品の原産地や品質等,あるいは役務の質や内容等が,取
引を選択し決定する際の重要な情報であり,これらの事項について
誤認表示が行われれば,不当な需要が喚起され,公正な競争秩序が
乱れることになるので,かかる誤認表示を不正競争と位置づけて規
制するものである。本来,誤認表示は,不当景品類及び不当表示防
止法4条によって一般的に規制されるものであるところ,特に上記
の趣旨から ,「原産地,品質(質),内容,製造方法,用途,数量」を
限定列挙して,競争者間における民事的規制として誤認表示の規制
を規定したものである。よって,本号によって不正競争として規制
される誤認表示とは,不当な需要を喚起する場合,すなわち,当該
誤認により,誤認がなければ取引を選択しなかったであろう需要者
を取引に向かわせ,もって競業者より優位な立場に立つような場合
に限られる。すなわち,本号にいう「商品の内容」とは,その誤認
によって不当な需要が喚起されるものでなければならない。
この点,ある商品につき著作権が現存するか否かは,不当な需要
を喚起するものではない。すなわち,消費者が商品を購入する際に,
著作権が現存するか否かをもって購入するか否かの判断要素とする
ことはない。消費者は購入するのみであるから,被告から苦情を受
けることなど想定されないのであって ,「使用すると,被告から苦情
を受けるなどのトラブルが起こるとの誤解」は,消費者との間では
生じないのである。他方,日本国内の商品製造者において,仮に,
著作権が現存するか否か ,「使用すると,被告から苦情を受けるなど
のトラブルが起こるとの誤解」が,被告との間でベアトリクス・ポ
ターの絵柄のライセンス契約を締結するか否かについての判断に影
響することがあったとしても,原告はこのようなライセンス契約締
結について,被告の「競業者」ではない。よって,被告表示によっ
て不当な需要が喚起されることはなく,被告が原告に対し優位な立
場に立つこともない。本件でも,絵本の絵柄の内容の良否に影響す
るかどうかを見るべきであるが,海外では当然付されている C 表示
が,日本で付されるか付されないかにより,絵本の絵柄の内容の良
し悪しに影響することは考えられない。絵本の絵柄を鑑賞するのに
C 表示の有無は全く関係ないのであるから,絵本の絵柄の品質,内
容が誤認されることはない。
仮に百歩譲って,原告がベアトリクス・ポターの絵柄のライセン
スを第三者に供与する事業を行おうとしても,それはFW社の有す
る権利によって不正競争防止法や商標法により禁止されるものであ
るから,被告と競争関係に立つ可能性は全くない。すなわち,著作
権がないのであれば,原告とベアトリクス・ポターの絵柄のライセ
ンス契約を締結しようと判断する商品製造者は,存在し得ない。著
作権のみを配慮し他の権利は全く考慮しないという非常に特殊な商
品製造者を需要者と捉えることは非常識極まりない。
よって,各被告表示は,本号の「誤認表示」に該当しない。
e ところで,原告が,役務の質・内容について問題としているのは,
特定していないが,被告表示2であると思われる(その他の被告表
示については,その表示主体は被告ではないし,原告は,被告が被
告の役務の表示として使用した事実を主張・立証していない。また,
実際に被告は使用しておらず被告がそのような事実を認めてもいな
い。 。

他方,被告表示2についても,被告表示2により何らの「誤認」
も生じないことが明らかであることは前記のとおりであるから,主
張自体失当である。なお,被告表示2が役務として使用されている
との主張により,原告は被告表示2が被告の営業表示,すなわち商
号として使用されていることを認めているものであって,被告はこ
れを有利に援用する。
f 以上より,被告表示を商品に付することはそもそも不正競争行為
にあたり得ず,不正競争防止法に基づく原告の主張は主張自体失当
である。
g 原告は,特許法,実用新案法,意匠法,商標法において虚偽表示
が明文で規制されていることをもって,著作権表示についても虚偽
が許されないことを積極的に裏付けていると主張する。しかし,損
害賠償額について推定規定や罰則等,類似する規定を有する著作権
法とこれら四法においてあえて著作権法において虚偽表示の禁止規
定をおいていないことを重視すべきであって,これら四法に虚偽表
示の禁止規定があるからといって,本件 C 表示や被告表示2ないし
5の違法性や不正競争行為該当性が裏付けられることには全くなら
ない。すなわち,四法については権利の有無が登録により形式的に
明らかであり,また公的機関の審査に対する公衆の信頼もある。こ
れに対して,著作権については,実際の権利の有無は不明瞭であり
(創作性の有無など判断が微妙な場合が多々ある 。 ,かつ,公的機

関が関与していないのであるから,それに対する信頼も考慮する必
要がないという大きな本質的な差異がある。なお,原告は,著作権
表示については上記のような刑事罰を科す規定はないと述べるが,
著作権法にはそもそも禁止規定からしてない。
(イ) 被告表示をするについての正当な理由
以下のとおり,被告が本件 C 表示をしているのは,被告の権利確保
のために法律上要求される行為であって,かかる行為が不法行為とな
る余地はない。
a 万国著作権条約の要請
C マークは,方式主義の国と無方式主義のベルヌ同盟国とを結ぶ
架け橋の条約として締結された万国著作権条約上,著作権保護の要
件とされるものである。万国著作権条約3条1項は,次のとおり保
護要件を定めている。すなわち ,「締約国は,自国の法令に基づき著
作権の保護の条件として納入,登録,表示,公証人による証明,手
数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うこと
を要求する場合には,この条約に基づいて保護を受ける著作物であ
って自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものに
つき,著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物
のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初
の発行の年とともに C の記号を表示している限り,その要求が満た
されたものと認める。 C の記号,著作権者の名及び最初の発行の年
は,著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当
な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない 。 と 。したがって ,

万国著作権条約の保護を受けるためには「すべての複製物」に C 表
示を付することが要求されているのであって, C 表示を付さない複
製物が存在した場合,同条約による保護を受け得なくなってしまう
のである。
本件絵柄及びそのキャラクターの名称等は,全世界において商品
化され,当該商品は全世界において流通しているものである。他方,
本件絵柄の著作権が消滅したのは,後記bのとおり日本のみである。
よって,海外で存続する本件絵柄の著作権について,全世界におけ
る保護を図る必要がある。そして,現に,方式主義の国は存続し,
このような国における保護は,万国著作権条約に頼らねばならない
ところ,すべての複製物に C 表示を付するのがその要求である。と
すれば,FW社が被告に対し,日本のライセンシーに対してもその
製造販売する商品に C 表示を義務付けるよう指示し,被告がそれに
従うことは当然である。
b 海外で著作権が存続していること
C 表示は,無方式主義の国にあっても,事実上著作権者を明らか
にする目的で,さらには著作権侵害者に対して損害賠償を求める場
合に, C 表示の存在により侵害者の過失の立証が容易になる可能性
があるという意義もあって,慣習的に著作物に付されるものである。
ところで,ベルヌ条約あるいは万国著作権条約加盟国中で,本件
絵柄の著作権が消滅したのは日本だけである(ただし,米国では,
登録を欠いたため元から著作権が成立していない 。 。この点,日本

国内会社向けライセンス対象商品であったとしても,日本で C 表示
を付さない複製物が存在したことが立証されれば,万国著作権条約
による保護を受け得なくなるのである。さらには,いったん製造販
売された後の流通は権利者側ではコントロールしきれないものであ
り,国外に販売されていく可能性がある。特に,本件絵本のキャラ
クターは全世界的に人気の高いキャラクターであり,その商品化商
品も全世界的に人気があるので,国外流通の可能性はより高い。と
すれば,権利者としては,全世界において C 表示を付する意義を認
めて付している以上,日本国内会社向けライセンス対象商品であっ
たとしても一律に本件 C 表示を付さざるを得ない。他方,たとえば
甲13号証のウェブサイトなどは,そもそも全世界からアクセスで
きるものであって,本件 C 表示は必須である。
c 二次的著作物の存在
本件絵本のキャラクターに関しては,FW社を著作権者として,
本件絵柄を原著作物とする二次的著作物たる新たな創作的な絵柄が
創作されており,これら二次的著作物にかかる著作権はいまだ存続
している。現在商品化されている商品にはこれらの二次的著作物を
含むものも多い。これらの著作物については, C 表示が付されるべ
きものである。
(a) FW社が行う本件絵本のキャラクターの商品化事業において,
商品化事業の参加者となったメーカーは,基本的に,被告よりイ
ンターネット上の資料庫( URL: http://www.warneimages.com )で ,
メーカーごとのユーザーネーム及びパスワードをもって提供され
るイメージ画像から一つを選択して,あるいは複数を組み合わせ
て,商品デザインを作成する。このインターネット上の資料庫に
は,本件絵柄(原画)とともに,ベアトリクス・ポターの死後,
FW社のデザイナーが描き起こしたイラスト(RCAナンバーの
もの)がストックされている。これらRCAナンバーのイラスト
は,絵柄は本件絵柄とほぼ同一であるものの色調が異なるもの,
本件絵本の登場人物の後姿や本件絵柄で他の動植物等により隠さ
れている部分等,本件絵本において描かれていない面を描いたも
の,本件絵本のキャラクターにつき本件絵柄とは異なるポーズで
描いたもの,本件絵本のキャラクターと組み合わせて使われる植
物,昆虫,小鳥,その他背景を新たに創作し描いたものなどであ
り,いずれも本件絵柄とは別個の新たな著作物あるいは本件絵柄
を原著作物とする二次的著作物たり得るものである。
なお,種類が豊富であること及び解像度の問題から,商品化事
業の参加者において商品のデザインをする際には,これらRCA
ナンバーの描き起こしたイラストが使用される場合が最近特に増
加している。そして,上述のとおり,商品化事業の参加者は,こ
れらのイラストを組み合わせて ,「ピーターラビットシリーズ」の
商品化商品をデザインする。その組合せ及び配置により,このデ
ザインの時点で新たな著作物又は二次的著作物が創作される場合
もある。また,商品によっては,本件絵柄またはRCAナンバー
のイラストが三次元化される場合もある。この場合も,三次元化
において創作性が認められ,二次的著作物たりうる。
なお,資料庫のストック中に希望する背景等が見つからない場
合,あるいは各絵柄を組み合わせる際にそのつなぎとして更に背
景等が必要となる場合,商品化事業の参加者からの依頼を受けて,
FW社側で更に新しくイラストを作成する場合もある。
また,商品化事業の常として,商品化事業の参加者のデザイン
については,被告を通してFW社が許諾しない限り商品化するこ
とはできないし,本件商品化商品の「ピーターラビットシリーズ」
の絵柄にかかるデザイン部分の著作権が商品化事業の参加者にお
いて発生する場合は,商品化事業の参加者との契約上,発生とと
もに当然にFW社に当該著作権が移転することとされている。
(b) このように,本件商品化事業に係る商品は,新たな著作物又は
二次的著作物を含み,または全体として二次的著作物となってい
るものであるから,これらの二次的著作物については,通常著作
物に C 表示が付されるのと同様に, C 表示が付されるべきもので
ある。
この点原告は,二次的著作物として著作権が成立するのは,限
られた範囲であり,仮に被告が主張するように二次的著作物全体
についての著作権表示であったとしても,それは明らかに限られ
た一部においてのものであって,それ以外の大部分については,
そもそも著作権は認められない種類のものであり,原画の基本的
な要素を構成する主要部分については虚偽になるのであるから,
上記の「誤認させるような表示」に該当し,不当であると主張す
る。
しかし,まず,二次的著作物として著作権が成立するのは限ら
れた範囲であり,その他の大部分については著作権が認められな
いという事実主張を否認する。前記のとおり,被告商品化許諾業
務に係る商品(被告ライセンス商品)については,かなりの範囲
で新たな著作物が使用されている場合が多く,またそれらと本件
絵柄が一体となって全体として二次的著作物ともなり得ているも
のである。かかる状況下にあって,ある商品に描かれた新しい著
作物あるいは二次的著作物たる絵柄について,同一商品上に一体
として著作権の消滅した絵柄が描かれている限り,一切 C 表示を
付することができないと考えるのは不当である。本件でも,著作
物性が認められ得る被告ライセンス商品上の絵柄について,その
中に著作権の消滅した絵柄が描かれているからといって, C 表示
を付してはならない理由はない。なお,この場合,新しい著作物
部分あるいは二次的著作物部分についての C 表示であることを当
該部分を摘示して説明した上で付するのは,現実的でない。よっ
て,被告商品化許諾業務において被告が被許諾者に求めているの
と同様に,商品の適当な場所に,本件 C 表示を付することを要求
せざるを得ないのである。
なお,原画の著作権が消滅している場合にも,当該原画の二次
的著作物が存在するとして C 表示を付するというのは,他の商品
化事業にあっても行われていることである。例えば「不思議の国
のアリス」のサー・ジョン・テニエルによる挿絵は既に著作権が消
滅しているが,同挿絵に基づく「不思議の国のアリス」のキャラ
クターたちの商品化事業を行う英国マクミラン社は,原画に彩色
したものについては著作権が生じているとしてこの著作権の使用
許諾に基づき商品化事業を行っており,その商品化商品製造にあ
たっては ,「THE MACMILLAN/ALICE/1865/ C 1911/1995/1996 Mac
millan Publishers Limited」という表示を付けさせている 。(乙
30)
(ウ) 本件ライセンス表示
「 C opyrights」というのは被告が属するCopyrights Groupのロゴ
表記である(甲8の1∼3 ) 「Copyrights Japan」という社名は,

著作物のない箇所などにも,様々な場面で使用しているものであり,
商号につきどのようなロゴを用いるかは自由である。
原告は,仮にこれが被告の「ロゴマーク」であったとしても,そ
れを見た取引者及び需要者が,著作権を有すると誤認するものであ
ると主張するが,全く事実を無視した主張といわざるを得ない。原
告が主張するところの本件 C 表示としてFW社名が摘示されている
そのすぐ下に「Licensed by C opyrights Group」と表記された場合
に,需要者が被告に著作権があると誤認することはない。
(エ) 適法な営業上の利益の侵害の不存在
そもそも原告が原告製品の製造販売を行うことは違法であり,原
告に法的保護に値する営業上の利益はない。すなわち,タオルは第
24類の布製身の回り品に該当するところ,原告製品目録1及び4
のタオルについては商標登録第4798294号の商標権(乙1及
び2)を,同目録2及び5のタオルについては商標登録第4798
298号の商標権(乙5及び6)を,同目録3及び6のタオルにつ
いては商標登録第4798295号の商標権(乙3及び4)を,そ
れぞれ侵害する。また,原告製品に表示された本件絵柄のいずれも
が,FW社及び商品化許諾業務を行っているグループの商品表示又
は営業表示として周知著名であって,原告はかかるFW社の周知著
名表示を使用するものであるから,不正競争防止法2条1項1号及
び2号の不正競争行為にも該当する。仮に原告の取引先が原告との
原告製品の取引を拒絶したとの主張が事実であるとしても,当該取
引先は,かかる商標権及び不正競争防止法上の理由から(あるいは
原告製品のデザインなどの品質上の理由かもしれないし,価格上の
理由かもしれないし , さらには , 取引先特有の理由かもしれない 。 ,

取引を拒絶したのであって,著作権があると誤信して取引を拒絶し
たとは到底いえない。したがって,原告に侵害されるべき営業上の
利益は全く存しない。
イ 民法709条の不法行為の成否
原告は,本件絵柄の著作権消滅後も,本件 C 表示や本件ライセンス表示
をしていることをもって,被告が原告の権利侵害行為を行っていると主張
する。しかし,権利侵害行為というためには,上記各表示をすることが,
被告の作為義務あるいは不作為義務違反といえることが必要であるが,原
告は,これにつき単に「条理上の義務」がある,と主張するのみである。
そして,原告は,なぜそのような条理上の義務が発生するのかについて何
ら合理的な主張をしていない。
したがって,被告表示をすることが民法709条の不法行為に該当する
との原告の主張も理由がない。
( 3) 争点( 3)(被告の不正競争行為ないし不法行為と原告の損害との因果関係
及び損害額)について
【原告の主張】
ア 百貨店等との原告製品の販売交渉の経緯
原告は,株式会社高島屋,株式会社大丸,株式会社ミレニアム リテイ
リング(西武・そごう ),株式会社阪急百貨店,株式会社近鉄百貨店にお
いて原告製品の販売を計画していたが,これら取引先の担当部署からは,
「現在,各百貨店の通常売場や催事場において,ピーターラビットの絵柄
を使用した商品がライセンス商品と称して C を表示して販売されている 」,
「ベアトリクス・ポター原作の『ピーターラビットのおはなし』の著作権
が終了し ,パブリックドメインになったと言われても ,よくわからない 」,
「お客様から何かのクレーム・お問合せがあった場合に,同じような絵に
著作権表示があると言われれば誰でも対応できる自信がない」などといっ
た理由をあげて,原告製品の販売を拒否されている(甲4,5 )。そのた
め原告製品の販売が,事実上できない事態となっている。
なお,被告は,通常,商品化商品を売り込む営業活動を行う場合は実際
のサンプル商品を作成した上でそのようなサンプルを見せて売り込むもの
であると主張する。しかし,本件では,原告製品を販売するのは原告自身
であり,また原告が販売することの了解を求めた者は,百貨店において商
品販売を専門に行っている担当者であり,一般的な商品知識はもちろん原
告の他の製品についてもよく知っている専門家である。したがって,原告
がわざわざサンプル商品を持参しなければならないという状況ではない。
販売交渉を行った百貨店及びその経過の概要は,おおむね以下のとおり
である。
(ア) 販売活動・交渉の実施
原告は,独自に単独で店舗を構えるほか,百貨店やショッピングセン
ター内などの一角に直営店などを開設して,子供服などの販売の営業を
行っている。この百貨店内などに開設されている原告店舗は店舗貸しに
なっており,店舗内での取扱商品については入店している百貨店の了解
を得て販売を行わなければならない。そこで,原告は,平成17年9月
に,原告店舗が開設されている複数の百貨店に原告製品の企画を説明し
百貨店内の原告店舗での販売を相談した。その際,別紙原告製品目録と
同様のものを原告製品の見本として提示した。
(イ) 販売交渉先からの回答
しかし,百貨店の担当者からは,店頭での取扱いについて了解を得ら
れなかったため,原告は原告製品を販売することができない。百貨店の
担当者は ,いずれも原告製品の店頭での販売を躊躇している理由として ,
被告の著作権表示を挙げる( C 表示は被告も自認しているとおり,第三
者に対する警告的作用を有している 。 。

イ 原告の損害との因果関係及び損害
原告が原告製品を販売できないのは,従来タオル販売実績のある百貨店
の担当者より,店舗内での販売について了解を得られないためである。
そして,そのような了解を得られないのは,著作権保護期間が満了した
ベアトリクス・ポターの原画について,被告がいまだに被告表示を行って
いるためである(すなわち, C 表示の警告的作用を行っているからであ
る 。 。すなわち,被告表示がある以上,百貨店の担当者がベアトリクス・

ポターの原画の著作権にまつわる紛争やトラブルを避けるためには,被告
の警告を考慮して原告製品の取扱いを控えざるを得ないのである。
また,著作権表示に警告的作用があることは被告も認めるところである
が,まさにその作用が効果を奏し,これにより原告の百貨店での販売が妨
害されているのである。特に原告が主要な取引先としている百貨店は,一
般に取扱商品の選択には慎重であることがよく知られているところであ
る。したがって,被告の警告表示があるために,百貨店が原告製品の取扱
いを控えているといえる。
このように,被告の不正競争行為ないし不法行為によって,原告は,計
画していた原告製品の製造販売ができず,経済的な損害を受けており,そ
の損害額は,少なくとも200万円を下らない。
なお,被告は,商標権について述べるが,ベアトリクス・ポターの原画
自体には登録商標表示はなされていないので,これは取引の拒絶とは無関
係である。現に,商標権の存在を理由に取引を拒絶した百貨店は存在しな
い。
【被告の主張】
原告は,本件 C 表示と原告の損害との因果関係の主張として,本件 C 表示
の警告的作用ゆえに,原告製品の販売について「相談」した百貨店から,当
該百貨店における「原告製品」の販売を断られる結果となり,よって当該百
貨店において原告製品を販売できなくなった旨主張する。しかし,原告の主
張立証内容からは,そもそも原告が主張するような「相談」が実際に行われ
たのか甚だ疑問であり,到底「本件 C 表示の警告的作用ゆえに,百貨店から
原告製品の販売を断られた」事実を認めることはできない。またそのような
事実があったと仮定したとしても,果たしてそのような事実ゆえに原告が当
該百貨店において何故自らの責任と判断において原告製品を販売できないこ
とになるのか甚だ疑問であり,被告はこれを否認する。
また,原告の主張内容からすると,必ずしも明らかではないが,原告は百
貨店に対し,百貨店内の原告直営店での販売について,バイヤーなどの「交
渉担当者」に「相談」したということのようである。しかしながら,通常,
直営店での大半の商品取扱いについては,当該直営店を運営する者の判断に
委ねられるのが原則であり,バイヤーに話して交渉する必要があるのは百貨
店等の平場等いわゆる一般売り場で取り扱ってもらう場合と考えられる。し
たがって ,そもそも原告が全ての取扱い予定商品につき ,バイヤーなどの 交

渉担当者」に,個別・具体的に当該商品販売の可否について「相談」をした
のかどうか自体,甚だ疑問である。また,原告がそのような「相談」をした
と仮定し,さらに当該相談の結果交渉担当者が原告製品の販売に賛成しなか
ったと仮定したとしても,それゆえに直営店での販売が不可能となるもので
はないと思われる。
なお,通常,商品化商品を売り込む営業活動を行う場合は実際のサンプ
ル商品を作成した上でそのようなサンプルを見せて売り込むものであると
ころ,本件では単なるプリプロダクションデザインにすぎず,これらのみ
をもって原告が原告製品の製造販売を具体的に予定し,さらには取引先に
対して販売を行おうとしたと認めることはできない。
さらに,原告従業員のX作成の陳述書(甲30)においては,百貨店の担
当者の回答内容として,同人の主観によりまとめられた内容(例えば,各回
答内容はいくつかのパターンにわかれるものの同パターンのものについては
交渉先ごとに同一文言で記載されており,各回答内容が,各交渉担当者が実
際に回答した文言内容ではなく,X氏の主観に基づくまとめであることが明
らかである 。)が箇条書きされているのみであり,実際にX氏と交渉担当者
の間でどのようなやりとりがなされたのかは全く不明であり,到底具体的な
主張立証がなされているとはいえない。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点( 1)(著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無)につ
いて
(1) 原告は,被告の原告に対する本件絵柄の著作権に基づく差止請求権が存
在しないことの確認を求めており,その訴えは,いわゆる権利の消極的確認
の訴えの範疇に属するものである。そして,一般に,確認の訴えにおける確
認の利益は,原告の権利又は法律的地位に現存する不安・危険を除去するた
めに,判決によってこの権利関係の存否を確認することが必要かつ適切であ
る場合に認められるところ,消極的確認訴訟の場合においては,被告が権利
の存在を何らかの形で主張していれば,特段の事情のない限り,原告として
はその権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存することに
なるものというべきであり,これを除去するために判決をもってその不存在
の確認を求める利益を有するものということができる。
( 2) 原告は,著作権が消滅しているのに,被告が,本件絵柄を含むベアトリ
クス・ポターの創作した様々な絵柄に本件 C 表示を付したり,コピーライツ
社(Copyrights社)の社名の頭文字のCに○印を付し本件 C 表示と紛らわし
い表示を使用して,著作権の保護期間が満了していると思われる絵画にも,
いまだ被告が著作権を有するかのように一般消費者に誤解を与えかねないよ
うな虚偽の著作権表示を行っており,これにより,原告の取引先を始めとす
る第三者は,本件絵柄についても著作権侵害のおそれがあるのではないかと
思い,余計な紛争に巻き込まれることをおそれ,原告と原告製品の取引を行
わないのであり,原告には,原告製品を販売できないという現実の不利益が
発生していると主張している。
( 3) 以下に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア FW社の日本における商品化権及び販売促進化権のエージェント(代理
人)は,当初,訴外福音館書店であったが,平成9年11月30日をもっ
て両者間のエージェント契約は終了し,同年12月1日以降,被告がFW
社と日本における商品化権及び販売促進化権のエージェント契約を締結
し,それ以降,FW社が著作権等を有する著作物等について日本において
商品化許諾業務を行う主体として,日本国内の企業とライセンス契約を締
結する権限を取得した(甲6 )。
イ 被告は,ライセンサーとして日本国内の企業をライセンシーとして商品
化許諾契約(ライセンス契約)を締結するものであり,その標準となる標
準契約書(甲7の1・2)には,著作権及び商標権の保護に関して次の記
載がある。
(ア) ライセンシーは,実施権許諾製品に,クレジット,著作権及び商標
標示文若しくは別表(省略)記載の記号を入れることに同意する。
(イ) ライセンシーは,本契約に基づいて許諾された著作権ならびに商標
権を保護するために必要な範囲まで,ライセンサー及び所有者を援助す
ることに同意する。その目的のために,ライセンサー若しくは所有者が
望んだ場合は,ライセンサー若しくは所有者の費用負担において,ライ
センサー若しくは所有者の名前において,あるいはライセンシーの名前
において,あるいは当事者としてライセンシーと共に,権利侵害の訴訟
若しくはその他の訴訟を起こすこともあり得るものとする。ライセンシ
ーは,かかる著作権並びに商標権の侵害,若しくは実施権許諾製品,そ
のラベル付け,包装,それに関する宣伝・パブリシティツールの模倣に
気づいたときは,すみやかにライセンサーに書面で通知し,ライセンサ
ーは,それに関して訴訟を起こすかどうかについて決定する権限を有す
るものとする。ライセンシーは,所有者の代理人としてのライセンサー
の文書による同意を初めに得ることなく,かかる侵害若しくは模倣に関
連して,いかなる訴訟を起こすことも措置を講じることもしてはならな
い。
(ウ) また,被告は,そのウェブページ(甲8の1∼3)において ,「コ
ピーライツグループ」の業務内容を次のように説明している。
「提供サービス
コピーライツは,ライセンシーならびにライセンサーの代理人とし
て,次のような業務を行っています。
(中略)
5.会計・法務サービス」
そして,上記の「5.会計・法務サービス」については,以下のよ
うな解説を行っている。
「法務
(中略)
●さらに,ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす,知的所有
権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます 。」
(エ) 被告は,平成16年12月3日(本件絵柄に対する著作権の消滅後
である 。 ,FW社と連名で,繊研新聞に次のことを記載した全面広告

を出し,本件 C 表示を表示した(甲10の1・2 )。
「作者のビアトリクス・ポターは,自分の作り出したキャラクターのク
オリティに細心の注意を払いました。そしてビアトリクスの意思を継い
で全ての知的財産権を管理する版権元のフレデリック・ウォーン社と版
権管理のパートナーであるコピーライツ社(日本ではコピーライツ・ジ
ャパン株式会社)は,キャラクターのあらゆる商品化・販売促進への使
用にあたり,クオリティを維持するために尽力して来ました。ピーター
ラビットTMは,オリジナルのイメージ・クオリティを維持しながら,
常に新たなデザイン化がなされています 。」
「ピーターラビットTMは,多くの著作権,商標権,不正競争防止法
などによって保護されています。版権元の許認可なしでの不正な使用に
よる商品化とその販売に対しては,知的財産権の侵害行為として断固法
的措置を講じることを辞しません。コピーライツ・ジャパンは版権元の
正規代理店として,愛される世界のキャラクター,ピーターラビットT
Mを守り続けてまいります。ピーターラビットTMの商品化・ライセン
スと販売に関するお問い合わせは,コピーライツ・ジャパンにご連絡く
ださい 。」
ウ なお,被告が被告ライセンス商品について被告表示2の表示及び同3な
いし5の表示を義務づけ,現にこれを表示したライセンス商品が販売され
ていることは,当事者間に争いがない。また,証拠(甲30)によれば,
原告従業員のXは,原告が企画した原告製品を主要百貨店で販売してもら
うため,各百貨店の商品仕入れ及び店頭販売の担当者に,その旨の相談を
したところ,同担当者の多くから,原告製品を店頭で販売することは待っ
てほしい,現在,各店の売り場等においてピーターラビットの絵柄を使用
した商品がライセンス商品として C を表示されて販売されている,ベアト
リクス・ポター原作の ピーターラビットのおはなし 」
「 の著作権が終了し ,
パブリックドメインに帰していると言われても,各店の店頭ではそのこと
がよく理解されず,お客様から著作権等に関してクレームや問合せがあっ
た場合に現場の全社員がこれに対応できる自信がないなどと回答されたこ
と,原告は,結局,上記各百貨店等から原告製品の店頭での販売を断られ
たことが認められ,これを左右するに足りる証拠はない。
( 4) そこで ,C 表示の意義についてみるに ,万国著作権条約( パリ改正条約 )
は,2条において「いずれかの締約国の国民の発行された著作物及びいずれ
かの締約国において最初に発行された著作物は,他のいずれの締約国におい
ても,当該他の締約国が自国において最初に発行された自国民の著作物に与
えている保護と同一の保護及びこの条約が特に与える保護を受ける 。」とし
た上で,3条1項において ,「締約国は,自国の法令に基づき著作権の保護
の条件として納入,登録,表示,公証人による証明,手数料の支払又は自国
における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には,この条
約に基づいて保護を受ける著作物であって自国外で最初に発行されかつその
著作者が自国民でないものにつき,著作者その他の著作権者の許諾を得て発
行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の
名及び最初の発行の年とともに C の記号を表示している限り,その要求が満
たされたものと認める。 C の記号,著作権者の名及び最初の発行の年は,著
作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適
当な場所に掲げなければならない 。 と定めている 。すなわち ,C の記号は ,

自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件としている万国
著作権条約の締約国が,その締約国で著作権の保護を受けるための方式とし
て要求しているものを満たしたと認めるための要件として ,「著作者その他
の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初
の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに」これを表示する
ことを要求したものである。
このように, C の記号は,ある著作物がいずれかの締約国で著作権の保護
を受けるための条件として一定の方式を満たすことを要求している場合に,
当該締約国において著作権の保護を受けるための方式を満たしたと認められ
るために表示されるものであって,それ自体として当該著作物について著作
権を創設するものではないことは明らかである。また,日本のように,著作
権の保護について上記のような方式主義を採用していない国においては,そ
の表示が義務づけられているものではないことはもちろん, C の記号の表示
( C 表示)の有無によって著作権の保護の有無が法的に左右されるものでは
ない。したがって,日本においては, C 表示が付されていないからといって
著作権の保護を受けないというものではないし,逆に, C 表示が付されてい
るからといって,当然にそれが著作権の保護を受ける著作物と認められるも
のではなく, C 表示の有無とこれを表示した著作物が日本国内において保護
されるか否かは,法律上はまったく無関係である。
( 5) しかしながら, C 表示は,その現実的な機能として,著作者及び最初の
発行年の記載と相まって,いまだ当該著作物について,当該著作者を著作権
者とする著作権が存続している旨を積極的に表明するとの側面をも有するも
のであり,その著作物を無断で使用する場合には著作権侵害になることを需
要者又は取引者に対し警告するという機能を有することを否定することはで
きない( C 表示がかかる警告的機能を有すること自体は,被告もこれを認め
ている 。 。

他方,既に存続期間が経過するなどして著作権が消滅している著作物は,
いわゆるパブリックドメインに帰したものとして何人も自由に使用できるも
のであるから,著作権が消滅し,パブリックドメインに帰した本件絵柄をそ
のまま使用した原告製品を販売することを計画している原告は,これを著作
権に基づく権利行使を受けないで自由に販売し得るという法律的地位を有し
ているということができる。
しかるに ,被告がFW社の日本における著作権の管理業務を行う者として ,
ライセンシーに対し本件 C 表示を付することを義務づけ,その結果,被告ラ
イセンス商品には,本件 C 表示が付されて現に販売されているところ,被告
が表示させている本件 C 表示は,著作権の存続期間が満了している本件絵柄
とそうでない二次的著作物を何ら区別することなく,包括的に著作権を表示
するものとなっており(甲11など ),実際上の機能として,本件絵柄につ
いて著作権の存続期間が満了しているにもかかわらず,いまだ著作権が存続
しているとの印象を与えるおそれのあるものであり,かつ,実態として警告
的作用を有している。また,被告は,自らのウェブページにおいて ,「ライ
センシーと版権元の双方に影響を及ぼす,知的所有権の侵害や不正使用など
の問題とも取り組んでいます 。」などと表示し,さらに,新聞の全面広告で
も「ピーターラビットTMは,多くの著作権・商標権・不正競争防止法など
によって保護されています。版権元の許認可なしでの不正な使用による商品
化とその販売に対しては,知的財産権の侵害行為として断固法的措置を講じ
ることを辞しません 。」などと表示して,本件絵柄を含むベアトリクス・ポ
ターの創作した絵柄(原画)と二次的著作物とを特に区別することなく,そ
の著作権がいまだ存続していることを前提に,その侵害に対しては断固とし
た法的措置を執ることを言明している。そして,その結果,本件絵柄を使用
した原告製品を取り扱うことを予定している百貨店等の取引者が,著作権の
存続期間が満了した本件絵柄とそうでない二次的著作物の区別に疎いことも
あって,被告からの著作権に基づく権利行使を受けることをおもんぱかり,
これを一因として原告製品の取扱いを躊躇しているものである 。そうすると ,
原告には,被告から著作権に基づく権利行使を受けることなく原告製品を販
売し得るという法律的地位に不安・危険が生じているということができ,こ
のような不安・危険を除去するためには,原告が,本件絵柄について被告が
原告に対する著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する旨の判決
を得るのが有効適切であるということができる。
もっとも,実際に,上記取引者が,もっぱら被告から著作権に基づく権利
行使を受けることのみをおもんぱかって,原告製品の取扱いを躊躇している
かどうかは,本件証拠上必ずしも明確であるとはいい難い(FW社は本件絵
柄を登録商標とする商標権を取得しており(乙1ないし6 ),上記取引者が
FW社から商標権に基づく権利行使を受けることを危惧して原告製品の取扱
いを躊躇している可能性もある 。 。しかし,本件 C 表示の存在やウェブサ

イト等での被告の広告から上記取引者が被告から著作権に基づく権利行使を
受けることを懸念することは十分あり得ることであり,他に原告製品の取扱
いを妨げる事情があり得ること 上記の商標権に基づく権利行使を受けたり ,

被告の主張するように不正競争防止法に基づく権利行使を受けることがあり
得ること)は,著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める利
益が存在することを否定するものではない。
( 6) 被告は,本件絵柄についての著作権が日本において消滅したことを認め
ており,被告が同著作権の存在や同著作権に基づき原告製品を製造販売する
行為を差し止める権利の存在を主張した事実は全く存在せず,これらの権利
の有無につき原告及び被告の間に争いはないから,本件で,原告の権利又は
法律的地位に現実的な不安は生じていないと主張する。
なるほど,被告は,本件訴訟において,上記著作権が日本において存続期
間満了により消滅したことを認めており,また,同著作権終了後において,
訴訟上あるいは訴訟外で原告に対し本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの
創作した絵柄(原画)について著作権がある旨を主張したことがあると認め
るに足りる証拠はない。そして,権利の消極的確認訴訟において確認の利益
を基礎づける事実としては,被告が原告に対し当該権利の存在を主張してい
て,原告・被告間に権利の存否をめぐる紛争の存在することがその典型例と
して考えられる。しかし,消極的確認訴訟の確認の利益を基礎づける事実が
そのような場合に限られるものと解すべき根拠はなく,要は,被告の行為に
よって原告の法律的地位に不安・危険が存在し,これを除去するために判決
をもって権利の不存在を確認することが有効,適切であれば確認の利益を基
礎づける事実としては足りると解すべきである。本件において,被告は,F
W社が著作権を有していた本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した
絵柄について,FW社が同絵柄についていまだ同著作権を有しており,同絵
柄を無断で使用する行為は著作権侵害行為であるとの警告を発する機能をも
有する本件 C 表示を表示させているのであって,被告のウェブサイト等での
広告と相まって,原告は,被告のかかる行為によって,著作権に基づく権利
行使を受けるおそれがない状態で原告製品を販売し,又は取引先をして販売
させ得る法律的地位に不安・危険を生じさせていることを否定することはで
きない。
また,被告は,本件訴訟上,本件絵柄について著作権が消滅したことを認
めていて,その権利の有無につき原告及び被告の間に争いはないから確認の
利益を欠く旨主張するが,被告は,原告の同著作権に基づく差止請求権の不
存在確認請求に対し,同請求を認諾しているわけではなく,かえって,本案
の答弁において,原告の上記請求を棄却する旨の判決を求めているから,被
告が同著作権が消滅していることを認めているからといって,著作権に基づ
く差止請求権の有無に関して原告と被告との間で争いがないとはいえず,上
記確認請求の訴えが確認の利益を欠くものということはできない(訴訟実務
上も,確認請求に対し,請求棄却の判決を求めながら請求原因事実を認める
との答弁がされることが少なくないが,このような場合に,同確認請求に係
る訴えが確認の利益を欠く不適法なものとは解されていない 。 。

次に,被告は,本件確認請求は,原告の法律的地位に生じた不安を除去す
る方法として有効適切ではないと主張し,その理由として,原告製品の製造
販売は,FW社が有する商標権の侵害であるし,また不正競争防止法上の不
正競争行為にも該当し,原告は本来的に正当に原告製品を販売し得る地位に
ないから,そのような確認を求める正当な利益を有さず,被告が原告に対し
著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認しても,被告にはなお本件
C 表示等を付する権利があり,他方原告にこれを禁じる権利はないから,被
告による本件 C 表示等はなお存続し得ることを挙げる。
しかし,本件絵柄を使用した原告製品に対する本件絵柄の著作権に基づく
差止請求権の有無について原告・被告間に争いがないとはいえないことは,
上記のとおりであり,これにより原告の法律的地位に不安・危険が生じてい
る以上,原告と被告との間で,被告の原告に対する同著作権に基づく差止請
求権の不存在を判決をもって確認する利益は肯定されるのであって,これと
は別に,被告が原告に対し原告製品の販売が商標権侵害ないし不正競争行為
に当たるとしてその差止めを求める権利を有すると解されるとしても,この
ことによって,本件確認請求に係る訴えが確認の利益を欠く不適法なものと
解することはできない。
したがって,被告の上記主張はいずれも採用できない。
( 7) さらに,被告は,著作権の管理業務(商品化許諾業務)を行うにすぎな
い被告自身が著作権に基づく差止請求権を有すると主張することは,その事
業内容に照らし全くあり得ないから,あり得ないことについて確認する利益
はないとも主張する。
しかし,日本における被告のライセンシーがライセンス商品に本件 C 表示
等や被告表示3ないし5を表示しているのは ,前記(3)の認定事実のとおり ,
ライセンス契約上,被告がライセンシーに対しその表示を義務づけているか
らにほかならず,その表示主体は被告と評価することができる。そして,被
告をライセンサーとする日本国内の企業との間で締結されるべきライセンス
契約に関する標準契約書には ,「…その目的のために,ライセンサー若しく
は所有者が望んだ場合は ,ライセンサー若しくは所有者の費用負担において ,
ライセンサー若しくは所有者の名前において,あるいはライセンシーの名前
において,あるいは当事者としてライセンシーと共に,権利侵害の訴訟若し
くはその他の訴訟を起こすこともあり得るものとする。ライセンシーは,か
かる著作権並びに商標権の侵害 ,若しくは実施権許諾製品 ,そのラベル付け ,
包装,それに関する宣伝・パブリシティツールの模倣に気づいたときは,す
みやかにライセンサーに書面で通知し,ライセンサーは,それに関して訴訟
を起こすかどうかについて決定する権限を有するものとする。ライセンシー
は,所有者の代理人としてのライセンサーの文書による同意を初めに得るこ
となく,かかる侵害若しくは模倣に関連して,いかなる訴訟を起こすことも
措置を講じることもしてはならない 。」との,被告が「ライセンサー…の名
前において,あるいは当事者としてライセンシーと共に」著作権に基づく訴
訟上の権利行使を行うことを想定した条項が設けられているほか,被告は,
そのウェブページや新聞広告において,自己の名の下に著作権を含む知的財
産権の侵害に対しては断固とした法的措置を執る旨を言明している。以上の
被告の行動にかんがみれば,少なくとも外観上,被告が自己又はライセンシ
ーの名の下に,自らの判断で又はFW社の指示によって著作権に基づく差止
請求権を行使するおそれがないとはいえない。したがって,被告の上記主張
は採用できず,本件確認請求に係る訴えには確認の利益が認められる。
( 8) そして,本件絵柄を含む本件絵本の言語的部分及び絵画的部分に係るF
W社の著作権は,日本においてその保護期間がいずれも平成16年(200
4年)5月21日をもって終了し,現在では消滅していることは,当事者間
に争いがないから,被告は,原告に対し,本件絵柄の著作権に基づく差止請
求権を有しないことは明らかである。
よって,被告との間で,被告が原告に対し本件絵柄の著作権に基づく差止
請求権を有しないことの確認を求める原告の請求は理由がある。
2 争点( 2)(被告表示を表示する被告の行為は商品の品質・内容,役務の質・
内容の誤認を惹起させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に当
たるか。また被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか 。)につ
いて
( 1) 13号の不正競争行為の成否について
ア 不正競争防止法2条1項13号は,商品若しくは役務若しくはその広告
若しくは取引に用いる書類若しくは通信に,その商品の原産地,品質,内
容,製造方法,用途若しくは数量若しくはその役務の質,内容,用途若し
くは数量について誤認させるような表示をし,又はその表示をした商品を
譲渡するなどし,若しくはその表示をして役務を提供する行為を不正競争
行為としている。
自己の商品又は役務(以下「商品等」ということがある 。)に関し,他
の商品等と差別化を図り,自己の商品等の優秀性をアピールする適正な情
報をその商品や商品の広告等に表示して需要者に示すことは,これにより
商品等を適確に選択させる有益な情報を需要者に提供し,その商品等の正
当な需要を喚起し,ひいては事業者間の競争をより健全かつ活気あるもの
にする。他方,商品等若しくはその広告等に表示する原産地,品質,内容
等を偽り,需要者の誤認を招くような表示をすることは,適正な表示を行
う他の事業者より競争上不当に優位に立ち,需要者の需要を不当に喚起す
る一方,適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて
顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになる。そして,このよ
うな行為を放置すれば公正な競争秩序を阻害することにもつながる。不正
競争防止法が上記行為を不正競争行為としたのは,このような趣旨に出た
ものと解される。
本件において,原告は,①被告のライセンシーに対し,その販売するベ
アトリクス・ポターの絵柄の使用されているライセンス商品(タオル等)
に被告表示をさせることにより,本件絵柄の著作物について日本において
は著作権保護期間が満了しているのに,いまだに著作権が存続しているよ
うに誤認させるような表示をしたものであるところ,この表示は上記商品
の品質・内容について誤認させるような表示に該当する,また,②本件絵
柄を含む商品化許諾業務という役務の使用,すなわち「役務の提供に当た
りその提供を受ける者の当該役務の提供に係るもの 」(商標法2条3項6
号)である被告ライセンシーの販売する商品に被告表示をさせ ,あるいは ,
インターネットの電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当た
りその映像面に被告表示を表示して役務を提供し(同7号 ),さらには役
務に関する広告等(新聞広告・しおり)に被告表示を付して展示・頒布等
する(同8号)などにより,ベアトリクス・ポターの絵柄の著作物につい
て日本においては著作権保護期間が満了しているのに,いまだ著作権が存
続しているように誤認させる表示をしたものであるところ,この表示は被
告商品化許諾業務の質・内容について誤認させるような表示に該当する旨
主張する。
そこで,以下,各被告表示ごとに13号の不正競争行為の成否について
検討する。
イ 被告表示1について
被告表示1は,アルファベットの「C」を○で囲んだ「 C 」の一文字を
表示するものであるところ,原告は,被告表示1も著作権表示ないしその
一部であり,原告主張のような誤認を生じさせる表示であると主張するも
のと解される。
しかし , C 」は,それ自体として著作権表示とか, C 表示などと称さ

れることがないとはいえないものの,前記のとおり,万国著作権条約上,
C の記号は,自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件
としている締約国が,その締約国で著作権の保護を受けるための方式とし
て要求しているものを満たしたものと認めるための要件として ,「著作者
その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物が
その最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに C の記
号を表示している限り,その要求が満たされたものと認める 。」とされて
いるものであり,著作権者の名,最初の発行の年と相まって著作権表示を
構成するものであって , C 」一文字だけで著作権表示といえるものでは

ない。さらに , C 」はその一文字だけでは , A 」や「 B 」などと同様
「 「
に,単なる符号 ,記号として表示される例も少なくないと認められるから ,
「 C 」の一文字だけでは,当然に万国著作権条約上の保護要件を満たす著
作権表示を表し,ないし象徴するものとはいえず,それが単独で商品等に
表示されたとしても,原告の主張するような「本件絵柄の著作物について
日本においては著作権保護期間が満了しているのに,いまだに著作権が存
続している 」ように誤認させるような表示とはいえないというべきである 。
したがって,被告表示1を被告ライセンス商品あるいは被告商品化許諾
業務という役務に表示する行為は,13号の不正競争行為に当たらない。
ウ 被告表示2について
被告表示2は , C opyrights Group」と表示するものである。証拠(甲

8の1・2)によれば ,「コピーライツ」社は,英国に本社を置く著作権
会社であり,事務所(法人)を英国,ドイツ,日本に,提携代理店を米国
に置いており,これらを総称して「コピーライツグループ(Copyrights G
roup )」と称し,被告は,その日本における事務所を置く日本法人である
ことが認められる。そして,被告表示2は,被告が属する「コピーライツ
グループ 」を英語表記した「 Copyrights Group 」の冒頭の「 C 」 大文字 )

の文字を囲み,次の文字である「o 」(小文字)に重なる部分のみが欠け
る「○ 」(丸印)を含むものとして表記されているものである。
原告は,被告表示2は著作権表示の一部である「 C 」を含むか又はそれ
と酷似する記号を使用し,さらに「 C 」の直後に社名又はその一部(opyr
ights)が表示されているものであり , C 」の記号と極めて類似する記

号を被告の会社名称の一部として利用して被告の会社名称を表示してい
る,また,被告の会社名称は,著作財産権の代名詞であり, C の由来とな
った「複製権」を意味する「copyright」の語を主要部とする名称であっ
て,需要者は,これを一体として見た場合,著作権保護を受ける著作物で
あることを警告する著作権表示と認識し,そして,被告表示が,著作権保
護期間が満了したベアトリクス・ポターの原画付近に付された場合には,
それらの原画についていまだ日本においても著作権が存続しているとの誤
認を需要者に与える旨主張する。
被告は,被告表示2は単に「コピーライツグループ」のロゴであると主
張するところ,証拠(甲8の1)によれば,たしかに被告表示2は,英国
に本社を置く著作権会社である「コピーライツ(Copyrights )」社の海外
事務所たる法人等の集団である「コピーライツグループ」のロゴとして使
用されていることが認められる。もっとも,英国に本社を置くコピーライ
ツ社は,その社名が複製権を意味する「copyright」をほぼそのまま表記
したものであり,しかも,その冒頭の「C 」(大文字)の文字を囲み,次
の文字である「o 」(小文字)に重なる部分のみが欠ける「○ 」(丸印)
を含むものとして表記されているから,冒頭の「○」で囲まれた「C」が
「 C 」と紛らわしい表記であることは否定できない。
しかし , C 」の一文字だけで万国著作権条約上の保護要件を満たす著

作権表示を表すものとはいえないことは,前示のとおりである。また,コ
ピーライツ社や被告を含むコピーライツグループの名称が,著作財産権の
代表的内容である「複製権」を表す「copyright」の頭文字の「C」を大
文字とした上,これを○で囲む「 C 」の記号と紛らわしい表示を含んでい
るものの,この表示自体が万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表
示といえないことは明らかであるし,需要者の通常の判断能力を前提とし
て同表示を含む実際の使用態様である被告表示3ないし5全体の表示を観
察すれば,被告表示2は,やはり「コピーライツグループ」のロゴとして
使用されているものと認識されるというべきであって,これをもってFW
社ないし被告もその構成員となっている「コピーライツグループ(Copyri
ghts Group )」が本件絵柄の著作権を有していることを表示しているもの
とは外観上も解することができない。したがって,被告表示2は,原告の
主張するような「本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期
間が満了しているのに,いまだに著作権が存続している」ように誤認させ
るような表示とはいえないというべきである。
エ 被告表示3ないし5について
(ア) 被告表示3及び4は,いずれも「 C 」の記号に続いて,著作権者で
あるFW社の表示及びその最初の発行の年(2005年)が表示されて
いるから,万国著作権条約により保護を受ける要件を満たす著作権表示
ということができる。そして,いずれも本件ライセンス表示を伴う。ま
た,被告表示3には,FW社がベアトリクス・ポターのキャラクターの
名前及び絵柄についてすべての著作権及び商標権を有する旨(Frederick
Warne & Co. is the owner of all copyrights and trademarks in th
e Beatrix Potter characters names and illustrations)が記載されて
いる。
被告表示5は , C 」の記号及び著作権者であるFW社を表示するも

のであるが,最初に発行された年の記載がないので,万国著作権条約に
より保護を受ける著作権表示とはいえないものの,このような著作権表
示と紛らわしい表示であるということができる。そして,本件ライセン
ス表示を伴うものである。
ところで,被告は,本件表示3ないし5の表示主体は被告ではない旨
主張する。しかし,前示のとおり,被告は,日本国内の企業との間で締
結するライセンス契約上,同企業に対し,被告表示3ないし5の表示を
義務づけ,同企業をしてそのライセンス商品に同表示を使用させている
のであるから,それがFW社の指示に基づくものであるとしても,その
表示主体は被告にほかならないというべきである。
(イ) 原告は,被告表示3ないし5の表示によって,本件絵柄の著作物に
ついて日本においては著作権保護期間が満了しているのに,いまだに著
作権が存続しているように誤認させるものであると主張する 。なるほど ,
被告表示3及び4の表示が本件絵柄付近に表示されていれば,本件絵柄
についての著作権が既に保護期間満了により消滅しているのに,同表示
に接した需要者をして,本件絵柄が2005年に発行された著作物であ
って,いまだ著作権の存続している著作物であると誤認させるものとい
えなくはなさそうである。また,被告表示5についても,最初の発行の
年が表示されていない点で,正確には万国著作権条約にいう著作権表示
ということはできないものの,この表示が本件絵柄付近に表示されてい
れば,これに接した需要者をして,やはり本件絵柄がいまだ著作権の存
続している著作物であると誤認させるものともいえそうである。
もっとも,前記1( 4)で説示したとおり,万国著作権条約に定める C
の記号は,ある著作物がいずれかの締約国で著作権の保護を受けるため
の条件として一定の方式を満たすことを要求している場合に,当該締約
国において著作権の保護を受けるための方式を満たしたと認められるた
めに表示されるものであって,それ自体として当該著作物について著作
権を創設するものではないし,日本のように,著作権の保護について上
記のような方式主義を採用していない国においては,その表示を義務づ
けられているものではないことはもちろん, C の記号の表示( C 表示)
の有無によって著作権の保護の有無が法的に左右されるものでないか
ら,日本においては, C 表示が付されていないからといって著作権の保
護を受けないというものではないし,逆に, C 表示が付されているから
といって,当然に著作権の保護を受ける著作物と認められるものではな
い。このように,被告表示3ないし5は,それが被告の商品に描かれた
本件絵柄付近に表示されていても,当然に本件絵柄に著作権の保護が及
ぶことを保証するものではない。しかし, C 表示は,その現実的な機能
として,著作者及び最初の発行年の記載と相まって,いまだ当該著作物
について,当該著作者を著作権者とする著作権が存続している旨を積極
的に表明するとの側面をも有するものであること,そして,その著作物
を無断で使用する場合には著作権侵害になることを需要者又は取引者に
対し警告するという機能を有することを否定できないことも ,前記1( 4)
で説示したとおりである。
ところで,被告表示3ないし5の付された商品に関する何らかの事項
についてある種の誤認を生じさせ得るとしても,それが13号の不正競
争行為を構成するというためには,その表示が商品の原産地,品質,内
容,製造方法,用途若しくは数量,役務の質,内容,用途若しくは数量
について誤認させるようなものでなければならないところ(13号の不
正競争行為として上記誤認の対象として列挙されているものは限定的な
列挙であると解される 。 ,原告は,上記各表示は,被告ライセンス商

品の品質,内容及び被告商品化許諾業務という役務の質,内容について
誤認を生じさせるものであると主張するので,以下に検討する。
(ウ) まず,被告表示3ないし5が,被告ライセンス商品の品質を誤認さ
せるものかどうかについて検討する。商品の品質とは,その商品の有す
る性質や性能をいい,たとえばタオルという商品であれば,その素材と
なる繊維の種類,その配合割合,肌触り,仕上がり具合等がその典型的
なものとして挙げられるであろう。しかし,タオルに絵柄が描かれてい
る場合,その絵柄が著作権による保護の対象となる著作物であるという
ことが,13号の不正競争行為にいう誤認表示の対象となる商品の品質
ということはできないというべきである。けだし,商品に描かれた絵柄
が著作権の保護を受ける著作物であることが「商品の品質」に含まれる
とするのはその通常の用語の意味から離れることになるし,仮にこれを
肯定するとすれば,著作権による保護の対象となる著作物たる絵柄(例
えば,最近描かれた現代絵画)を使用した商品が,著作権保護期間が満
了しパブリックドメインに帰した絵柄(例えばゴッホの絵画作品)を使
用した商品よりも品質の上で優れていることを前提とせざるを得ない
が,そのような前提を採り得ないことは明らかであるからである。した
がって,被告表示3ないし5が被告ライセンス商品の品質を誤認させる
ものということはできない。
次に,被告表示3ないし5が,被告ライセンス商品の内容を誤認させ
るものかどうかについて検討する。商品の内容とは,その商品の実質や
属性をいうものと解され,その商品に描かれた絵柄が著作権の保護を受
ける著作物であるというのも,その文言上は商品の実質や属性に当たる
と解する余地がないとはいえない。しかし,商品の実質や属性であれば
どのようなものであっても,13号の不正競争行為である誤認表示の対
象となる「商品の内容」ということはできないのであって,前示のとお
り ,同号の趣旨が ,商品等若しくはその広告等に表示する原産地 ,品質 ,
内容等を偽り,需要者の誤認を招くような表示をすることは,適正な表
示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち,需要者の需要を不当
に喚起する一方,適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に
立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになる点に
あることからすれば ,「商品の内容」に関する誤認表示とは,商品に誤
認を招くような表示をすることにより,その表示を信じた需要者の需要
を不当に喚起するような表示であることを要すると解すべきである。こ
れを本件についてみると,原告は,本件表示は本件絵柄の著作物につい
て日本においては著作権保護期間が満了しているのに,いまだに著作権
が存続していると誤認させるものであると主張するところ,タオル等の
商品に使用された絵柄が消費者等の需要者の需要を喚起するもの,すな
わち,消費者等の需要者が,たとえばタオルの品質であるその素材とな
る繊維の種類,その配合割合,肌触り,仕上がり具合等とは別に又はこ
れと並んでタオルに使用された絵柄に着目して当該商品を選択する場
合,その選択の基準となるのは,その絵柄そのものの美しさや芸術性の
高さ等によるのであって,消費者等の需要者は,その絵柄が著作権の保
護を受ける著作物であるか否かによってこれを購入するか否かを決定し
ているものではないというべきである。
したがって,被告表示3ないし5は,それが本件絵柄の著作物につい
て日本においては著作権保護期間が満了しているのにいまだに著作権が
存続していると誤認させるものであるとしても,13号の不正競争行為
である「商品の内容」に関する誤認表示には該当しないというべきであ
る。
ちなみに,商品に実際には存在しない特許権,実用新案権,意匠権を
表示する行為は13号の不正競争行為に該当する場合が多いと解される
が,そのように解されるのは,そのような表示が需要者をして当該商品
が特許や,実用新案登録,意匠登録を認められたような優れた技術,デ
ザインを有するという商品の品質,内容を誤認させるものである場合が
多いからであると解される。これに対し,消費者等の需要者は,その絵
柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かによってこれを購入する
か否かを決定しているものではなく,そのような事項は商品の品質,内
容に関するものとはいえないから,著作権の保護期間経過後の著作物に
著作権表示を付することと上記のような特許権等の虚偽表示とを同列に
論じることはできない。
以上のとおり,被告表示3ないし5は,被告ライセンス商品の品質・
内容を誤認させるものとはいえず,13号の不正競争行為には該当しな
いというべきである。
また,被告ライセンス商品に描かれた絵柄が,ベアトリクス・ポター
の創作した原画を原著作物とする二次的著作物に該当する場合には,当
該二次的著作物において新たに付与された創作的部分について原画の著
作権とは別の著作権が生ずるから(最高裁平成9年7月17日第一小法
廷判決・民集51巻6号2714頁参照 ),上記創作的部分の存在を根
拠に被告表示3ないし5を表示することが直ちに虚偽の表示であるとい
うことはできない。証拠(乙11ないし17,20ないし29(枝番の
あるものはそれを含む 。 )及び弁論の全趣旨によれば,被告ライセン

ス商品に使用されている絵柄には,本件絵柄を含むベアトリクス・ポタ
ーの創作した原画について,これに含まれない本件絵本の登場人物の後
ろ姿や本件絵柄で他の動植物等により隠されている部分等が新たに描き
込まれていたり,同一の絵柄でも登場人物のポーズを変えたりするなど
若干の改変が加えられているものが少なくなく,さらには上記原画を三
次元化した商品が開発されていること,これらの新たに付与された創作
的部分は,いずれもFW社が行う本件絵本のキャラクターの商品化事業
において,FW社が本件絵柄(原画)のほか,ベアトリクス・ポターの
死後,FW社のデザイナーが描き起こしたイラスト(RCAナンバーの
もの)がストックされているインターネット上の資料庫(URL: http://
www.warneimages.com)を設け,商品化事業の参加者となったメーカー
がメーカーごとのユーザーネーム及びパスワードをもって被告から提供
される同資料庫にストックされているイメージ画像から一つを選択し,
あるいは複数を組み合わせて,商品デザインを作成したり,資料庫のス
トック中に希望する背景等が見つからない場合,あるいは各絵柄を組み
合わせる際にそのつなぎとして更に背景等が必要となる場合,商品化事
業の参加者からの依頼を受けて,FW社側で更に新しくイラストを作成
する場合もあること,上記のとおり被告商品化許諾業務における被許諾
者によって創作されたデザインについては,被告を通してFW社が許諾
しない限り商品化することはできないし,被告ライセンス商品の「ピー
ターラビットシリーズ」の絵柄にかかるデザイン部分の著作権が上記被
許諾者において発生する場合は,同被許諾者との契約上,発生とともに
当然にFW社に当該著作権が移転することとされていることが認められ
る。以上の事実によれば,被告ライセンス商品中,本件絵柄に上記のよ
うな新たな絵柄が付加され,又は改変が加えられているなどの新たに付
与された創作的部分が存在するときは,その創作的部分については原画
の著作権とは別に著作権が成立し得るものであり,その著作権はFW社
に帰属するところ,被告表示3ないし5はその創作的部分に付されてい
るとみることもできなくはない。そうすると,被告表示3ないし5を使
用することは,直ちに本件絵柄の著作物についていまだに著作権が存続
していることを誤認させることにはならないといえる。これに対し,原
告は,原画を組み合わせただけ,または若干の加除増減を行った絵画に
ついて,原画を超えて,二次的著作物として著作権が成立するのは極め
て限定的な範囲であって,たとえ二次的著作物として著作権が成立して
いる局面があるとしても,あたかも個々の原画自体に著作権が残存して
いるような紛らわしい被告表示を行うことは,二次的著作物が成立して
いるという一部の情報のみを強調して,全体の質・内容について誤認を
生じさせるおそれがある旨主張する。しかし,原著作物に対していかな
る範囲が創作的部分として原著作物に対する著作権とは別の著作権が成
立するのかは一義的に明確であるとはいえず,新たな創作的部分につい
ては著作権表示をしてその無断使用を禁ずる警告的機能を果たさせる必
要性があることも否定できないし,新たに付与された創作的部分を他の
部分と区別して著作権表示をすることを求めることは実際的でない。そ
して,前記説示のとおり,日本において著作権表示が果たす役割は,上
記警告的機能を超えるものではなく,それが日本の著作権法によって保
護されるべき著作物であることを保証するものではないことにかんがみ
ると,上記のような二次的著作物である被告ライセンス商品について,
被告表示3ないし5を表示することが商品の品質・内容の誤認惹起表示
として禁止されると解することはできない。
さらに,万国著作権条約が著作物の保護要件として定める著作権表示
は,上記警告的機能を有するものであるが,本来は,同条約で定めると
おり,自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件とし
ている(方式主義を採用している)締約国が,その締約国で著作権の保
護を受けるための方式として要求しているものを満たしたものと認める
ための要件であって ,「著作者その他の著作権者の許諾を得て発行され
た当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名
及び最初の発行の年とともに」表示することが要求されているものであ
る。したがって,ある著作物が著作権の保護に関して方式主義を採用し
ている締約国で著作権の保護を受けるためには,既に著作権の保護期間
が満了している国を含め,著作権者の許諾を得て発行されたすべての複
製物について著作権表示をすることが要求されているのであり,そうで
あるとすれば,既に著作権の保護期間が終了している国において著作権
表示をすることができないとすると,当該著作物については方式主義を
採用している締約国においては保護され得ないという不合理な結果を招
来することになる。たしかに,原告の主張するように,現在,方式主義
を採用している締約国は,わずかにラオスとカンボジアの2か国のみで
あって(甲20 ),このうちラオスでは著作権法制自体が整備されてい
ないのであり(甲21の2 ),これらの2か国で本件絵柄を含むベアト
リクス・ポターの創作した絵柄が著作権の保護を受け得るかどうかが現
実の問題となるのかについては疑問の存するところである。しかし,上
記2か国において,本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵
柄の著作権に基づく権利を行使することが必要となる事態が現実に生じ
るかどうかはともかくとして,万国著作権条約が一般的に,方式主義を
採用している締約国で著作権の保護を受けるためには,すべての複製物
について著作権表示を要すると規定している以上,既に著作権の保護期
間が満了している国において著作権表示をすることを13号の不正競争
行為に該当するものとして禁圧することは,同条約の趣旨に合致しない
といわざるを得ない。したがって,この観点からしても,著作権表示又
はその一部を含む被告表示3ないし5を表示する行為をもって,商品の
品質・内容を誤認させる不正競争行為に該当すると解することはできな
いというべきである。この説示に反する原告の主張は採用できない。
なお,被告表示3ないし5のうちの本件ライセンス表示の部分(Lice
nsed by C opyrights Group)は,当該商品が被告のライセンスを得て
製造販売されているものであることを表示するものであり,何ら虚偽の
事実を含むものではないことが明らかである。
以上のとおり,被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を付するこ
とが13号の不正競争行為に該当するということはできない。
(エ) 次に,被告表示3ないし5が,被告の役務(商品化許諾業務)の質
及び内容を誤認させるか否かについて検討する。
まず,被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を表示させた被告の
行為が同商品の品質・内容を誤認させる13号の不正競争行為に該当し
ないことは,上記(ウ)で説示したとおりである。しかし,被告が被告ラ
イセンス商品に被告表示3ないし5の表示をさせることにより,その表
示の対象である商品が被告商品化許諾業務という役務の使用(役務の提
供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物(商標法2条
3項6号 ))にあたり,これが被告と商品化許諾契約を締結して同許諾
業務に係る役務の提供を受けようとする需要者との関係で,同役務の
質・内容を誤認させるかどうかは,別個に判断すべき事項である。そし
て,商品化許諾業務という役務提供を受けるにあたり,需要者(被告と
商品化許諾契約を締結しようとする企業等)は,被告(ライセンサー)
やそのライセンサーであるFW社が商品化すべきキャラクターについて
いかなる権利を有しているかを重要な要素として,同契約の締結の要否
を検討するものと考えられるから,被告表示3ないし5を本件絵柄その
他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄 原画 )
( 付近に付した場合には ,
ベアトリクス・ポターの原画を使用するには被告から使用許諾を受けな
ければならない,あるいはその原画の付された商品は著作権で保護され
ている対象であるとの誤認を生じさせ,したがって,被告の役務である
被告商品化許諾業務の質・内容について誤認を生じさせるものであると
いえる。また,被告が,インターネットの電磁的方法により行う映像面
を介した役務の提供に当たりその映像面に被告表示を表示して役務を提
供する行為( 同7号 )さらには役務に関する広告等( 新聞広告・しおり )
に,被告表示3ないし5を本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作
した絵柄(原画)付近に付して展示・頒布等する(同8号)などの被告
の行為も,同様に,被告の役務である上記商品化許諾業務の質・内容を
誤認させる表示に当たるものといえる。
もっとも,前記(ウ)のとおり,被告表示3ないし5が付されている絵
柄は,本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)そ
のものばかりではなく,これに含まれない本件絵本の登場人物の後ろ姿
や本件絵柄で他の動植物等により隠されている部分等が新たに描き込ま
れていたり,同一の絵柄でも登場人物のポーズを変えたりするなど若干
の改変が加えられたりしているものが少なくなく,さらには上記原画を
三次元化した商品が開発されている。これら新たに付与された創作的部
分については原画の著作権とは別に著作権が成立し得るものであり,そ
の著作権はFW社に帰属するのであるから,そのような本件絵柄を含む
ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)を原著作物とする二次的
著作物である絵柄に被告表示3ないし5を付する行為は,直ちに被告商
品化許諾業務という役務の質・内容を誤認させる表示には該当しないと
いうべきである。
さらに ,本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄 原画 )

そのものが描かれた被告ライセンス商品,インターネットの電磁的方法
により行う映像面を介した役務の提供に当たってのその映像面,役務に
関する広告等(新聞広告・しおり)に被告表示3ないし5を付して役務
を提供する行為が13号の不正競争行為に当たるとしても,原告は,そ
の不正競争行為により営業上の利益を侵害されるおそれがあるとはいえ
ないというべきである。すなわち,原告の主張する「営業上の利益を侵
害されるおそれ」とは,原告は,著作権保護期間の満了した本件絵柄を
使用した原告製品の販売を計画し準備しているところ,他者が本件絵柄
について著作権に基づく著作権管理業務を行っているという表示を付し
た商品が現実に市場で競合しており,そのような虚偽の表示により,原
告製品の販売を行うのに支障を来すおそれがあるというにあるものと解
される。しかし,役務に関する誤認惹起表示等を不正競争行為とした趣
旨は,前記のとおり,役務若しくはその広告等に表示する質・内容等を
偽り,需要者の誤認を招くような表示をすることは,適正な表示を行う
他の事業者より競争上不当に優位に立ち,需要者の需要を不当に喚起す
る一方,適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされ
て顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになるからである。
したがって,13号の不正競争行為により侵害される営業上の利益もか
かる観点からその存否が検討されるべきところ,原告は,被告と競争関
係に立つ商品化許諾業務を営む事業者ではなく,したがって,商品化許
諾業務という役務の質・内容を誤認させる表示により,本件における需
要者すなわち被告商品化許諾業務における日本のライセンシーを奪われ
るという関係に立たないことが明らかである。原告は,本件絵柄を使用
した原告製品を販売することを計画し準備しているものであり ,むしろ ,
被告ライセンス商品を販売する被告のライセンシー(被告商品化許諾業
務の被許諾者たる需要者)と競争関係に立つものであるところ,そのラ
イセンシーが被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を付すること
が,その商品の品質・内容を誤認させる表示に当たらないことは,前記
(ウ)説示のとおりである。
原告は,原告が公正な条件の下で営業活動を行うことの利益又は公正
な事業者が享有する競争上の地位を脅かされているかを検討する場合に
は,単に被告商品化許諾業務のみを対象とするだけでは不十分であり,
被告から許諾を受けた者が商品を製造販売することも踏まえて判断を行
う必要がある旨主張するが,上記説示に照らし採用できない。
以上によれば,被告ライセンス商品や広告等に被告表示3ないし5を
付する被告の行為は,その一部が13号の不正競争行為にあたると解さ
れるとしても,原告は,同行為により営業上の利益を侵害されるおそれ
があるとは認められない。
したがって,原告は,被告に対し,被告表示3ないし5を自ら使用す
ることや,ライセンシーをして使用させること及び同表示を使用し,又
は使用させた商品の販売等や役務の提供等の差止めを求める権利を有さ
ず(不正競争防止法3条1項 ),また,同法4条に基づく損害賠償請求
権を有しないことになる。
( 2) 民法709条の不法行為の成否について
原告は,不当な著作権表示が法的に全く何らの規制も受けず,これを自由
に使用することができるものではなく,少なくともその表示をする者は誤解
をされない表示を行い,あるいは,虚偽の表示をしてはならない条理上の義
務を負うところ,被告は,著作権表示と紛らわしい被告表示を,合理的な理
由も必要も何もなく使用してはならない義務を負っているのであり,その義
務に違反して被告表示を行うことは,原告に対する不法行為を構成するなど
と主張する。
しかし,原告のいうところの条理上の義務とは,要するに,そもそも真実
とは異なる表示をしてはならないという抽象的な内容をいうものにすぎず,
具体的にいかなる要件の下に,いかなる態様の表示が民法上の不法行為責任
を生じさせる不法行為となるのか明らかではない。不正競争防止法が,一定
の表示媒体,表示事項及び行為態様を特定し,13号の不正競争行為に該当
する行為を限定している趣旨にかんがみると,13号の不正競争行為に該当
しない行為を民法上の不法行為として損害賠償責任を負わせることは,極め
て例外的な場合であると解され,被侵害利益の重大性,行為態様の悪質性に
照らして違法性が極めて高いものに限られるものというべきである。
これを本件についてみると ,まず ,前記(1)イ ,ウのとおり ,被告表示1 ,
2はそもそも著作権表示に該当しないものであり,取引者をして前記のよう
な誤認を生じさせるものではないから,これを表示することが不法行為を構
成するものでないことは明らかである。他方,被告表示3ないし5は,一応
著作権表示又はこれと紛らわしい表示を含むものであり,取引者をして原告
製品に使用された本件絵柄がいまだ著作権による保護を受けるものであり,
これを取り扱えば,被告ないしFW社から著作権に基づく権利行使を受ける
のではないかの危惧を生じさせ得るものといえる。しかし,前示のとおり,
日本は著作権の保護に関していわゆる方式主義を採用しておらず,このよう
な著作権表示の有無と著作権に基づく権利行使の可否とは無関係であり,被
告表示3ないし5が本件絵柄に著作権が存続していることを法律上保証する
ような表示ではないこと,被告としては万国著作権条約上,いわゆる方式主
義を採用している国においてFW社による著作権に基づく権利行使の機会を
確保するために,被告の発行するすべての著作物について著作権表示をして
いることが要求されるのであり,被告表示3ないし5を被告ライセンス商品
に表示することについて正当な利益を有するものといえること,また,証拠
( 乙1ないし6 )及び弁論の全趣旨によれば ,FW社は ,本件絵柄について ,
原告製品であるタオル類を含む「布製身の回り品」を指定商品に含む登録商
標の商標権を有していることが認められ,同事実によれば,被告表示3ない
し5のみが原告製品を販売することに対する障害になっているものとはいえ
ないこと,FW社は,もともと本件絵柄について著作権を有していたもので
あり,被告は,被告商品化許諾業務を遂行するために,著作権の保護期間終
了後も被告表示3ないし5を表示し続けたのにすぎないものであること,そ
の他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,被告が被告表示3ないし5を使
用することが,原告に対する不法行為責任を生じさせるほどの違法性を有す
るものではないというべきである。
3 結論
以上のとおりであり,被告との間で,被告が原告に対し本件絵柄の著作権に
基づく差止請求権を有しないことの確認を求める原告の請求は理由があるから
これを認容し,被告に対し,不正競争防止法3条1項に基づき被告表示の禁止
及び被告表示を使用した被告ライセンス商品の販売等の禁止を求めるととも
に,同法4条及び民法709条に基づき損害賠償を求める原告の請求は,その
余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれもこれを棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁 判 長 裁 判 官 田 中 俊 次
裁 判 官 髙 松 宏 之
裁 判 官 西 森 み ゆ き

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