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平成18(ワ)18196補償金請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成19年1月17日
事件種別 民事
当事者 被告三共有機合成株式会社
原告
法令 特許権
特許法35条3項1回
特許法35条1回
キーワード 特許権97回
実施34回
職務発明13回
許諾2回
抵触1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,被告の従業員であった原告が,被告在職中に3件の職務発明を行い,こ れら職務発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡したとして,被告に対し,特許 法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項に基づき, 上記譲渡に対する相当の対価及び民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。

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判決文

平成19年1月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(ワ)第18196号 補償金請求事件
口頭弁論終結日 平成18年11月15日
判 決
神奈川県座間市<以下略>
原告 A
同訴訟代理人弁護士 西田研志
同訴訟復代理人弁護士 中原俊明
同 長谷川一男
同 山田冬樹
同 山口政貴
同 桐生貴央
同 鈴木徳太郎
同 森川洋平
同補佐人弁理士 中村和男
川崎市高津区<以下略>
被告 三共有機合成株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫
同 牧野知彦
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,金5346万円及びこれに対する平成18年8月21日
(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,被告在職中に3件の職務発明を行い,こ
れら職務発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡したとして,被告に対し,特許
法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項に基づき,
上記譲渡に対する相当の対価及び民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 被告
被告は,有機錫化合物,プラスチック用添加剤,触媒,ファインケミカル製品等
の製造販売及び研究開発を目的とする株式会社である。
(争いのない事実)
(2) 原告
原告は,被告の従業員として,主に塩化ビニール(以下「 PVC 」という。)用安定
剤(液状錫系安定剤)の研究開発に従事するなどしていたが,平成18年3月15日
に被告を退職した。
(争いのない事実)
(3) 本件各特許権
被告は,以下の特許権を有する(以下,アに係る特許権を「本件特許権1」,イに
係る特許権を「本件特許権2」,ウに係る特許権を「本件特許権3」といい,その発明
をそれぞれ「本件特許発明1」のようにいう。また,これらの特許権及び発明を併せ
て,それぞれ「本件各特許権」及び「本件各特許発明」という。)。
ア 本件特許権1
特許番号 特許第2511030号
発明の名称 塩素含有樹脂の安定化法
出願日 昭和62年4月25日
登録日 平成8年4月16日
訂正登録日 平成10年10月13日
発明者 B(以下「B」という。),原告,C(以下「C」という。),
D(以下「D」という。)
特許請求の範囲 別紙「本件特許権1」記載のとおり(甲1の1及び2)
(争いのない事実)
イ 本件特許権2
特許番号 特許第2511101号
発明の名称 塩素含有樹脂の安定化法
出願日 昭和63年3月16日
登録日 平成8年4月16日
発明者 B,E(以下「E」という。),F(以下「F」という。),G
特許請求の範囲 別紙「本件特許権2」記載のとおり(甲2)
(争いのない事実。ただし,本件特許発明2の発明者に原告が含まれるか否かにつ
いては,後記のとおり争いがある。)
ウ 本件特許権3
特許番号 特許第3076659号
発明の名称 安定剤組成物
出願日 平成4年2月28日
登録日 平成12年6月9日
発明者 H(以下「H」という。),原告
特許請求の範囲 別紙「本件特許権3」記載のとおり(甲3)
(争いのない事実)
(4) 特許を受ける権利の譲渡
ア 本件各特許発明は,いずれも各発明者が被告における職務上行った発明で
ある。
(争いのない事実)
イ 本件特許発明1
原告ら本件特許発明1の発明者は,昭和62年3月ころ,同発明を完成させ,同
年4月1日,被告に対し,同発明に係る特許を受ける権利を譲渡した。
(争いのない事実)
ウ 本件特許発明3
原告ら本件特許発明3の発明者は,平成4年2月ころ,同発明を完成させ,同月
18日,被告に対し,同発明に係る特許を受ける権利を譲渡した。
(争いのない事実)
(5) 職務発明に関する規定
ア 本件各特許発明の当時,被告においては,特に職務発明の取扱いについて
明示的に定めた勤務規則その他の定めはなかった。
(争いのない事実)
イ 本件就業規則
被告の就業規則(乙6。以下「本件就業規則」という。)第11章には,本件各特許
発明の当時から現在に至るまで,次の規定がある。
第58条 従業員が次の各号の1に該当する場合は選考の上表彰する。
1.永年誠実に勤続した者
2.業務能率および人格が衆に優れ模範となる者
3.業務上有益なる発明改良又は工夫,考案をなしたる者
4.災害を未然に防止し又は災害に際し特に功労のあった者
5.国家的,社会的に功績があって会社ならびに従業員の名誉になる行為のあ
った者
6.その他表彰に値すると認められたる行為のあった者
第59条 表彰は次によりこれを行う。但し,必要あるものは2以上を併せ行い
衆知せしめる。
1.賞状の授与
2.賞品の授与
3.賞金の授与…
(争いのない事実)
ウ 平成16年規程
被告は,平成16年3月1日,業務発明規程(甲11。以下「平成16年規程」と
いう。)を制定し,同年4月1日よりこれを施行している。平成16年規程には,
次の規定がある。
第3条(定義)
…6.この規程において,「職務発明」とは,従業員等の現在又は過去の職務に
属する発明又は考案をいう。…
第5条(取扱い手続き)
従業員等は,業務発明をなし,その権利を会社に譲渡する意志があるときは,
その内容を記載した明細書(案)等を「業務発明届出書」(様式1),「発明・考案合意
書」(様式2)及び「譲渡証書」(様式3)と共に,所属部署長を経由し調査開発部長に
届出るものとする。…
3.会社は,業務発明審査会において,届出られた業務発明の譲渡受諾可否
等について審査を行い,その審査結果を「業務発明審査結果通知書」(様式4)により,
所属部署長を経由し発明・考案者に通知する。…
第9条(実績報奨審査会)
…3.売上実績報奨の審査の時期は,出願日から5年間の年度売上額の最高額
に基づく基準額が1千万円を超えた場合はその出願が登録された後に行い,又,登
録後の年度売上額の最高額に基づく基準額が1千万円を超えた場合は登録後6年目
と11年目に行う。…
第12条(出願報奨)
会社は,従業員等から譲渡を受けた業務発明を国内外に出願するか否かに係わ
らず,発明・考案者に次の出願報奨金を支払う。
発明 5,000円/人…
第13条(実績報奨)
会社は,国内外の特許発明又は登録実用新案の運用又は実施によって,関連す
る製品の売上に貢献したと認められた場合,該発明・考案者に対し,4項に規定す
る基準額を基にした下記のケース1∼ケース3に応じて,別途定める売上実績報奨
金を支払う。…
10.実績報奨は,実績報奨審査の結果に基づき,社長が表彰状及び実績報
奨金を授与する。…
第14条(転退職又は死亡時の報奨)
第12条乃至第13条の各報奨金を受ける権利は,該権利に係わる発明・考案
者が転職し,又は退職した後も存続する。…
(争いのない事実)
(6) 被告による時効援用1
被告は,原告に対し,平成18年3月2日付け「回答書」(乙7の2)の送付により,
本件各特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡に対する相当対価請求権につき消滅
時効を援用する旨の意思表示をし,そのころ,当該意思表示は原告に到達した。
(明らかに争わない事実)
(7) 原告による本件訴訟提起
原告は,平成18年2月22日付け通知書により,被告に対し,相当対価の支払
を催告し,同年8月21日,本件訴訟を提起した。
(争いのない事実,裁判所に顕著な事実)
(8) 被告による時効援用2
被告は,平成18年10月4日に開催された第1回口頭弁論期日において,答弁
書の陳述により,予備的に,原告に対し,本件各特許発明に係る特許を受ける権利
の譲渡に対する相当対価請求権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(裁判所に顕著な事実)
2 争点
( 1) 原告の被告に対する本件特許発明2に係る特許を受ける権利の譲渡の有無
(2) 本件各特許発明により被告が受けるべき利益の額
(3) 本件各特許発明がされるについての被告の貢献の程度
(4) 本件各特許発明における共同発明者の貢献の程度
(5) 本件各特許発明の相当の対価
(6) 消滅時効の成否
3 争点に関する当事者の主張
( 1) 原告の被告に対する本件特許発明2に係る特許を受ける権利の譲渡の有無
(原告の主張)
ア 原告による本件特許発明2の発明
(ア) 原告は,被告の命令を受け,PVC 安定剤に関する研究に従事していたと
ころ,昭和59年4月ころ,コスト高の問題等を解決して,ベンズアルデヒド+2
倍のβメルカプトプロピオン酸反応物(以下「 NO.2002 」という。)を添加した PVC
安定剤を完成させ,これまでの PVC 安定剤よりも性能を向上させることに成功し
た。
(イ) 原告は ,更なる PVC 安定剤の性能向上を目指し ,NO.2002 を添加した PVC
安定剤にラウリルチオプロピオン酸を加えることの検討を開始し,昭和61年4月
ころ,NO.2002 とラウリルチオプロピオン酸のコスト削減を可能にしてコスト高の
問題を解決するとともに,更なる PVC 安定剤の性能向上に成功した。
(ウ) 原告は,更なる PVC 安定剤の性能向上を目指し,種々の研究を重ねた結
果, PVC 安定剤に過塩素酸を添加することがよいのではないかと発見し,基礎テ
ストを繰り返したところ,昭和62年3月ころ,過塩素酸が添加された PVC 安定
剤の開発に成功し,塩素含有樹脂の安定化法の発明(本件特許発明1)を完成させた。
(エ) 原告は,そのころ, PVC 安定剤に NO.2002 とラウリルチオプロピオン酸
を併用する発明及び本件特許発明1を併用する PVC 安定剤の発明にも成功した(本
件特許発明2)。
イ 特許を受ける権利の譲渡
(ア) 本件特許発明2に係る特許を受ける権利は,昭和62年3月ころ,原告
から被告に対し,黙示的な合意により譲渡された。
(イ) 確かに,本件特許発明2に係る特許を受ける権利の譲渡について,原告
は,被告から譲渡証書の提示を受けていない。しかし,原告は,被告に在職中に行
った発明は上司が特許出願書類を作成し,被告名義で特許出願されることが被告の
慣行であることを知っていたため,この点について異議を述べなかったというにと
どまる。
(被告の主張)
ア 原告の主張ア(原告による本件特許発明2の発明)は否認する。
イ 同イ(特許を受ける権利の譲渡)は否認する。
仮に本件特許発明2の発明者に原告が含まれるとしても,被告が同発明に係る特
許を受ける権利を譲り受けたのは,昭和63年3月2日である(乙4の1)。
(2) 本件各特許発明により被告が受けるべき利益の額
(原告の主張)
ア 被告による実施態様
被告は,別紙被告製品目録記載の製品(以下これらを一括して「被告製品」ともい
う。)すべてにおいて,基本特許である本件特許権1を実施している。
被告は,被告製品のうち RC-704 及び RC-704A には,本件特許権3も実施してい
る。
また,被告は,その余の「 RC 」と付く被告製品には,本件特許権2も実施してい
る。
イ 被告製品の売上げ
(ア) 被告製品の製造量
a 被告製品の平成8年から平成18年7月末までの間の総製造量は,合計
5550トンである。
[内訳]
平成8年 500トン, 平成9年 500トン
平成10年 400トン, 平成11年 500トン
平成12年 500トン, 平成13年 300トン
平成14年 550トン, 平成15年 700トン
平成16年 750トン, 平成17年 700トン
平成18年(7月末まで) 150トン
b 被告の製造したもののうち,不良品等の問題なく被告製品として販売さ
れるのは,製造量のうちの98%(収率)であるから,5440トンが上記期間にお
ける被告製品の最終的な製造量合計である。
5,550t × 0.98%≒ 5,440t
(イ) 平成18年7月末までの被告製品の売上げ
被告製品には,1キログラム当たりの単価が700円の製品から950円の製品
まであることから,その1キログラム当たりの平均単価は800円と換算するのが
妥当である。
したがって,平成8年から平成18年7月末までの間の被告製品の売上げは,4
3億5200万円を下らない。これは,基本特許である本件特許権1を実施した被
告製品の売上げに当たる。
5,440,000 ㎏× 800 円/㎏= 4,352,000,000 円
(ウ) 平成18年8月から存続期間満了までの被告製品の売上げ
a 考え方
平成18年8月から本件各特許権の存続期間満了までの間の被告製品の売上げに
ついては,平成8年から平成18年7月末までの間の被告製品の平均製造量(以下
「本件平均製造量」という。)に本件各特許権の権利残月数を乗じ,これに将来の事
情を考慮して一定の調整率を乗じて算出すべきである。具体的には以下のとおりと
なる。
b 本件平均製造量と権利残月数
( a) 本件平均製造量は,1か月当たり約40トンである。
( b) 本件特許権1の残月数は9か月,本件特許権2のそれは20か月,本
件特許権3のそれは67か月である。
c 本件特許権1を実施している被告製品の売上げ
本件平均製造量に本件特許権1の残月数,被告製品の上記平均単価及び将来の事
情を考慮した調整率0.4を乗じると,本件特許権1を実施している被告製品の平
成18年8月から本件特許権1の存続期間満了までの売上げは,1億1520万円
を下らない。
40t/月× 9 か月× 800 円/㎏× 0.4 = 115,200,000 円
d 本件特許権2を実施している被告製品の売上げ
本件特許権2を実施している被告製品は,本件特許権1をも実施していることか
ら,期間の重複を避けるため,本件特許権2の残月数から本件特許権1の残月数を
控除する必要がある。そこで,本件平均製造量,上記控除後の本件特許権2の残月
数,被告製品の上記平均単価及び将来の事情を考慮した調整率0.3を乗じると,
本件特許権2を実施している被告製品の平成18年8月から本件特許権2の存続期
間満了までの売上げは,1億0560万円を下らない。
40t/月×(20 か月− 9 か月)× 800 円/㎏× 0.3 = 105,600,000 円
e 本件特許権3を実施している被告製品の売上げ
本件特許権3を実施している被告製品は,本件特許権1をも実施していることか
ら,期間の重複を避けるため,本件特許権3の残月数から本件特許権1の残月数を
控除する必要がある。そこで,本件平均製造量,上記控除後の本件特許権3の残月
数,被告製品の上記平均単価及び将来の事情を考慮した調整率0.1を乗じると,
本件特許権3を実施している被告製品の平成18年8月から本件特許権3の存続期
間満了までの売上げは,1億7920万円を下らない。
40t/月 × 56 か 月 (計 算 違 い が あり , 58 か 月 が 正し い 。 )× 800 円 /㎏ × 0.1 =
179,200,000 円
(エ) まとめ
したがって,被告の被告製品による平成8年から本件各特許権の存続期間満了ま
での間の売上げは,合計47億5200万円を下らない。
4,352,000,000 円+115,200,000 円+105,600,000 円+179,200,000 円=4,752,000,000 円
ウ 被告の本件各特許権取得による独占的利益額
(ア) 実施許諾による競業他社の売上げ
本件各特許権は,ブチル錫系液状安定剤に関するものであるところ,ブチル錫系
液状安定剤における市場のシェアは,被告が少なくとも50%を占めており,被告
は競業他社に対し非常に優位な状況を確保している。これは,被告が,本件各特許
権により,従来製品よりも勝った,着色防止と熱安定化効果とを同時に達成可能と
する塩素含有樹脂の安定剤の製造販売を独占しており,他社において被告製品と同
様の製品を製造販売し得ないことによる。
このような事情を考慮すれば,仮に被告が本件各特許権を競業他社に実施許諾し
た場合,少なくとも被告の総売上額の2分の1である23億7600万円は,競業
他社によって売り上げられていたと考えられる。
[内訳]
本件特許権1 (4,352,000,000 円+115,200,000 円)× 1/2=2,233,600,000 円
本件特許権2 105,600,000 円× 1/2=52,800,000 円
本件特許権3 179,200,000 円× 1/2=89,600,000 円
2,233,600,000 円+52,800,000 円+89,600,000 円 =2,376,000,000 円
(イ) 本件各特許権の実施料率
上記のとおり被告の競業他社に対する優位性は本件各特許権によるものであるこ
と,及び特許権実施料率に関する実態調査結果によれば,本件各特許権の実施料率
は,いずれも5%を下らない。
(ウ) まとめ
したがって,被告の本件各特許権による独占的利益額は,本件特許権1の実施に
よるものが1億1168万円,本件特許権2の実施によるものが264万円,本件
特許権3の実施によるものが448万円,合計1億1880万円である。
本件特許権1 2,233,600,000 円× 5%=111,680,000 円
本件特許権2 52,800,000 円× 5%=2,640,000 円
本件特許権3 89,600,000 円× 5%=4,480,000 円
111,680,000 円+2,640,000 円+4,480,000 円=118,800,000 円
(被告の主張)
ア(ア) 原告の主張ア(被告による実施態様)のうち,本件特許権3が RC-704
及び RC-704A において実施されていることは認め,その余は否認する。
(イ) 本件特許権1及び2は,いずれも塩素含有樹脂に安定剤を特定の割合で
添加する方法の発明であるところ,被告は安定剤の製造販売のみを行っており,こ
れを塩素含有樹脂に添加するのは被告の顧客であるから,被告は,本件特許権1及
び2を実施していない。また,本件特許権1及び2においては,塩素含有樹脂と安
定剤の比率が問題となるところ,被告は,顧客がどのような比率で安定剤を添加し
ているのかを知らない。
イ 原告の主張イ(被告製品の売上げ)及び同ウ(被告の本件各特許権取得によ
る独占的利益額)はいずれも否認する。
(3) 本件各特許発明がされるについての被告の貢献の程度
(原告の主張)
ア 被告の貢献
被告は,本件各特許発明に関して,研究開発資金及び設備の提供を行っており,
これにより本件各特許発明の完成に貢献した。
イ 原告の貢献
(ア) 研究開発スタッフ
原告が本件各特許発明の研究を開始した昭和58年ころ,研究開発スタッフには
D及びI氏がおり,その後,一時的にJ氏及びCが加わった。また,昭和62年か
らはK氏が,平成元年からはM氏がスタッフに加わり,原告と共同して本件各特許
発明の研究開発が行われた。
しかし,本件各特許発明に関する研究開発テーマの設定,新素材の調査・選定,
素材の配合割合の設定等実質的な発明行為は,すべて原告が行ったものであり,ス
タッフ(実質はDのみ)は,単に原告からの指示の下に性能調査を行い,その結果を
原告に報告していただけである。
(イ) 本件特許発明1の特許出願に至る経緯
a 本件特許発明1に関する特許出願書類の原案は,同発明がほぼ完成した
昭和62年1月ころにほぼ完成し,被告の担当部署に提出された。
しかし,担当者は,同年2月ころ,原告に対し,同発明によっては特許権を取得
することはできない旨報告した。原告は,これに対し,同発明と先行技術との構成
及び効果の相違を説明し,同発明を特許出願すべき旨強く説得し,結局,被告は,
同発明を出願し,本件特許権1の設定登録を受けた。
b 本件特許権1については,平成8年12月25日,特許異議申立てがさ
れたが,原告の本件特許発明1に関する実験データに基づき訂正請求が認められ,
本件特許権1は維持された。
c 以上より,原告は,本件特許権1の権利化及びこれにより被告が得た利
益につき大きく貢献した。
(ウ) 被告製品の営業販売
被告は,本件特許発明1及び2の完成後も,被告製品の実際の性能や安全性等の
問題から,被告製品の販売に慎重な態度を取り,これについての具体的な指示を行
わなかった。このため,原告は,昭和63年ころ,被告内にて行われた技術部と営
業部とのミーティングにおいて被告製品の紹介をした。その結果,原告は,被告製
品について営業部から非常に高い評価を得るとともに,営業担当に同行して取引先
に被告製品の紹介をするよう求められた。また,原告自身,被告製品に関する説明
は原告しかし得ないと考えたこともあって,原告は,平成元年4月ころから,営業
担当に同行して取引先に被告製品の性能等の説明を行い,これを売り歩いた。
原告は,このような努力を平成8年ころまで続け,その成果として被告製品の納
入実績を上げた。
(エ) NO.2002 の製法の改良
NO.2002 の製法にはトルエンを使用していたところ,トルエンは環境に対する影
響等の点で問題のある物質であったため,被告の工場のある神奈川県小田原市の環
境規制に抵触するものであった。
そこで,原告は, NO.2002 の製法を,従来のトルエンを使用する方法から,反応
機にβ‐ MPA,ベンズアルデヒドを仕込み,95℃∼100℃で100分反応後
に脱水を行う,トルエンを使用しない方法に変更した。これにより,原告は,上記
環境規制をクリアし,また, NO.2002 の製造量の増加,コストダウンにも貢献した。
(オ) カレンダー成型用安定剤の採用
被告のカレンダー成型用安定剤の分野における市場競争力は,押出成型用安定剤
の分野に比べて劣るものであった。
そこで,原告は,平成3年∼5年ころ,同分野における被告の市場競争力を高め
るべく,カレンダー成型用安定剤の開発とユーザーフォローを積極的に行い,その
結果,被告は,同分野への本格的な進出を行った。
このように,原告は,競争力が劣っているという被告のカレンダー成型用安定剤
市場でのイメージの払拭に成功し,被告の市場競争力を高めることに大きく貢献し
た。
(カ) MPO のコストダウン
従前,被告は,被告製品である JF-101C 及び JF-105 の製造につき,コスト高の
問題を抱えていた。これは,原料であるβメルカプトプロピオン酸オクチル(以下
「 MPO 」という。)につき,他社製造のものを使用した被告製品は経時変化が著し
く早く起こってしまい,一定の効果を得られないという問題があったことから,被
告は,単価の高い被告工場の製造したものを使用していたことが原因であった。
そこで,原告は,平成4年から,この問題を解決すべく ,原料に他社製造の MPO
を使用することの研究を開始し,試行錯誤の末,他社製造の MPO を使用した被告
製品の経時変化を抑えることに成功し,他社製造の MPO を使用した被告製品につ
き,被告工場で製造される MPO を原料とするものと同様の性能を有するものを完
成させ,製品化に成功した。これにより,被告は,他社製造の MPO を使用するこ
とが可能となり,上記コスト高の問題を解消した。
ウ まとめ
以上の事情を総合的に考慮すると,本件各特許発明の完成及び本件各特許権が生
み出す利益等に対する原告の貢献の程度は高く,これらに対する被告の貢献度は5
5%程度とするのが相当である。
(被告の主張)
原告の主張はいずれも否認する。
原告が上記イ(エ)∼(カ)で主張する事実は,本件各特許発明と関係のない事情であ
る。
(4) 本件各特許発明における共同発明者の貢献の程度
(原告の主張)
ア 本件特許発明1について
(ア) 本件特許発明1については,原告がそのすべての研究開発テーマの設定 ,
新素材の調査・選定,素材の配合割合の設定等の実質的な発明行為を行い,完成さ
せた。
(イ) Bは,単に本件特許権1の出願書類を作成したこと,及び原告が本件特
許発明1を完成させた当時の原告の上司であったことから,発明者として記載され
たにとどまる。
また,Cは,本件特許発明1の完成に当たり,原告を形式的にサポートしていた
という理由によって,発明者として記載されたにとどまる。
(ウ) 以上より,本件特許発明1を完成させるに当たっての原告の寄与率は,
100%である。
イ 本件特許発明2について
(ア) 本件特許発明2についても,本件特許発明1と同様に,原告がそのすべ
ての研究開発テーマの設定,新素材の調査・選定,素材の配合割合の設定等の実質
的な発明行為を行い,完成させた。
(イ) B及びEは,原告が本件特許発明2を完成させた当時の原告の上司であ
ったことから,発明者として記載されたにとどまる。
また,Fは,本件特許発明2の完成に当たり,原告を形式的にサポートしていた
という理由によって,発明者として記載されたにとどまる。
(ウ) 以上より,本件特許発明2を完成させるに当たっての原告の寄与率は,
100%である。
ウ 本件特許発明3について
(ア) 本件特許発明3についても,原告がそのすべての研究開発テーマの設定 ,
新素材の調査・選定,素材の配合割合の設定等の実質的な発明行為を行い,完成さ
せた。
(イ) Hは,原告が本件特許発明3を完成させた当時の原告の上司であったこ
とから,発明者として記載されたにとどまる。
(ウ) 以上より,本件特許発明3を完成させるに当たっての原告の寄与率は,
100%である。
(被告の主張)
原告の主張はいずれも否認する。
(5) 本件各特許発明の相当の対価
(原告の主張)
ア 以上より,本件各特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡に対する相当対
価の額は,被告が受けるべき利益の額から被告の貢献(55%)を控除した金額に対
し,共同発明者間における原告の寄与率を乗じた額である。すなわち,本件特許権
1については5025万6000円,本件特許権2については118万8000円,
本件特許権3については201万6000円,合計5346万円をもって,本件各
特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡に対する相当対価とすべきである。
本件特許権1 111,680,000 円×( 1-0.55)× 100%=50,256,000 円
本件特許権2 2,640,000 円×( 1-0.55)× 100%=1,188,000 円
本件特許権3 4,480,000 円×( 1-0.55)× 100%=2,016,000 円
5,256,000 円 +1,188,000 円 +2,016,000 円=53,460,000 円
イ よって,原告は,被告に対し,本件各特許発明に係る特許を受ける権利の
譲渡に対する相当対価として,本件特許権1については5025万6000円,本
件特許権2については118万8000円,本件特許権3については201万60
00円,合計5346万円及びこれに対する本件訴訟提起の日から支払済みまで年
5分の割合による民法所定の遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
原告の主張はいずれも否認する。
(6) 消滅時効の成否
(被告の主張)
ア 消滅時効期間の経過
(ア)a 職務発明について使用者等に特許を受ける権利又は特許権を承継させ
るなどした従業者等が取得する相当対価請求権の消滅時効期間は,その売買契約に
基づく代金請求権という性質から,5年と解すべきである。
b 次の特許を受ける権利の譲渡がされた日から,いずれも5年が経過した。
本件特許権1 昭和62年4月1日
本件特許権2 昭和63年3月2日
本件特許権3 平成4年2月18日
(イ) 仮に,従業者等の使用者等に対する相当対価請求権の消滅時効期間を1
0年と解すべきとしても,本件各特許発明については,上記特許を受ける権利の譲
渡がされた日から,いずれも10年が経過した。
(ウ) したがって,本件特許発明1及び3のみならず,仮に本件特許発明2に
ついても発明者に原告が含まれるとしても,原告の被告に対する本件各特許発明に
ついての相当対価請求権は,いずれも時効により消滅した。
イ 後記原告の主張イ(時効利益の放棄又は時効援用の権利濫用)について
(ア) 後記原告の主張イのうち,平成16年規程に原告主張の規定が存在する
ことは認め,その余は否認する。
(イ) 平成16年規程は,施行日以降の出願についてのみ適用される規程とし
て制定されたものであり,原告には同規程の適用はない。
そうである以上,被告は,平成16年規程の制定により時効利益を放棄したもの
ではないし,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たることもない。
ウ 後記原告の主張ウ(本件就業規則による相当対価請求の時期の制限)につい

(ア) 後記原告の主張ウのうち,(ア)(法律上の障害)及び(ウ)(まとめ)は否認す
る。
(イ) 本件就業規則58条にいう「業務上有益なる発明」をした者は,永年誠実
に勤続した者などの明らかに職務発明とは無関係な項目と同列に扱われていること,
「発明」は,「改良又は工夫」という本来的に特許法35条3項の定める譲渡対価の発
生しない業績と同列に記載されていること,「有益なる発明…をなしたる者」とする
のみで,特許を受ける権利等の譲渡を表彰の要件としていないこと,「有益なる発
明」のみに限定して表彰の対象としていること,同59条の定める表彰の方法は金
銭の授与に限られていないことなどにかんがみると,本件就業規則58条は,文字
どおり従業員の表彰について規定したものにすぎず,職務発明の対価の規定とは無
関係である。
したがって,本件における消滅時効の起算点は,本件各特許発明に係る特許を受
ける権利の譲渡がされた日であると解すべきである。
(ウ) 仮に,本件就業規則58条をもって職務発明の対価に関する規定である
と解釈した場合でも,本件就業規則には表彰時期についての明確な規定はないから,
やはり消滅時効の起算点は本件各特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡がされた
日であると解すべきである。
(エ) 仮に,有益な発明であるか否かが判明した日を起算点とすると考えたと
しても,当該発明を実施した製品が製造されれば有益であるといえることから,当
該発明を実施した製品の製造開始日をもって,消滅時効の起算点と解すべきである。
本件特許権1の実施品とされる JF-101C 及び本件特許権2の実施品とされる
RC-682 については,遅くとも平成3年9月には製造された。また,本件特許権3
の実施品とされる RC-704 については,遅くとも平成7年9月には製造された。
したがって,本件においては,やはり本件各特許発明についての相当対価請求権
はいずれも既に時効消滅している。
(原告の主張)
ア(ア) 被告の主張ア(ア)a(5年)は争う。
従業者等の使用者等に対する相当対価請求権の消滅時効期間は,発明者である従
業者等の保護の見地から,10年と解すべきである。
同(ア)b(5年経過)は認める。
(イ) 同(イ)(10年経過)は認める。
(ウ) 同(ウ)(まとめ)は否認する。
イ 時効利益の放棄又は時効援用の権利濫用(主位的主張)
(ア) 平成16年規程制定当時,原告は被告の従業員であったが,その後退職
した。平成16年規程14条によれば,報奨金を受ける権利は従業員の退職後も存
続するとされており,平成16年規程の制定に当たっては,一切の経過規定はなく,
また,適用を受けるべき者について何らの制限も設けられていない。
したがって,平成16年規程によれば,退職前に被告に特許を受ける権利を譲渡
した者であっても,会社の利益に貢献したものは,無制限に相当対価請求をし得る
のであり,原告はこれに当たる。
(イ) 平成16年規程12条によれば,出願報奨金は,出願するかしないかに
かかわらず,1人当たり5000円を支払うこととされている。
また,売上実績報奨金については,その審査の時期は,出願日から5年間の年度
売上額の最高額に基づく基準額が1000万円を超えた場合はその出願が登録され
た後に行い,登録後の年度売上額の最高額に基づく基準額が1000万円を超えた
場合は,登録後6年目及び11年目に行うこととされている(同規程9条3項)。そ
の支払については,実績報奨審査の結果に基づき,社長が表彰状及び実績報奨金を
授与する(同規程13条10項)とあるだけで,具体的な支払方法と時期の特定はな
い。このため,売上実績報奨金の最終の支払は,登録から11年目以降となる。
(ウ) このように,権利譲渡,出願,登録という流れの中で,出願から登録後
11年目という極めて長い期間で売上実績報奨金の支払額が算定され,しかも,退
職者にも,退職前の発明に関し,退職前の売上実績報奨金の支払を認めていること
からすると,権利譲渡から10年以上経過した本件でも,被告は消滅時効の利益を
放棄したものと考えられる。
そうでないとしても,このような被告による消滅時効の援用は,権利濫用に当た
る。
ウ 本件就業規則による相当対価請求の時期の制限(予備的主張)
(ア) 原告に対し平成16年規程の適用がないとしても,本件就業規則58条
にいう「業務上有益なる発明」といえるためには,当該職務発明が特許として登録さ
れることが必要であり,それまでは,相当対価の支払請求権の行使につき法律上の
障害があるものとして,その支払を請求し得ない。
したがって,相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件においては,本件各特
許権の設定登録の日と解すべきである。
(イ) 原告は,前提事実( 7)のとおり,被告に対し,平成18年2月に相当対価
の支払を催告し,その後6か月以内に本件訴えを提起した。
(ウ) よって,本件各特許権についての相当対価請求権についての消滅時効は ,
10年の消滅時効期間が経過する前に中断された。
第3 当裁判所の判断
1 消滅時効の成否について
(1) 消滅時効の起算点
ア 契約,勤務規則等によって職務発明について特許を受ける権利を使用者に
承継させた場合,従業者は,対価の支払時期が契約,勤務規則等に定められていな
い限り,直ちに相当の対価の支払を請求することができるから,上記特許を受ける
権利を承継させた時期が相当の対価についての消滅時効の起算点となる。
イ 前提事実( 4)イ及びウのとおり,原告は,被告に対し,本件特許発明1及
び3に係る特許を受ける権利を,それぞれ昭和62年4月1日及び平成4年2月1
8日に譲渡したものであり,仮に,原告が本件特許発明2の発明者であるとしても,
原告は,遅くとも昭和63年3月2日までに本件特許発明2に係る特許を受ける権
利が被告に譲渡された旨主張している。
ウ したがって,時効期間を5年と解した場合はもちろん,10年と解した場
合であっても,相当の対価の支払時期を定めた契約,勤務規則等が存在しない限り,
本件各特許発明についての相当対価の請求権は,時効消滅したものとなる。
(2) 原告の平成16年規程に基づく主位的主張について
ア 原告は,主位的に,平成16年規程が原告に適用されることにより,被告
は消滅時効を援用し得ない旨主張する。
イ(ア) しかしながら,平成16年規程には,附則に「この規程は2004年
4月1日より実施する 。」と規定されているが,その施行前に発明され被告に承継
された発明の取扱いを明示的に定めた規定は設けられていない。
(甲11)
(イ) 平成16年規程の制定過程で,被告が同規程を施行前に被告に承継され
た発明についても遡及適用する意思を有していたことを窺わせる事実は認められな
い。
かえって,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,被告の経営検討会議は,平
成16年規程の制定につき検討した平成14年12月10日開催の会議において,
平成16年規程の適用対象につき,その施行日以降に出願した発明から対象とする
方向で検討していたことが認められる。
(ウ) さらに,平成16年規程を遡及的に適用すれば,被告の従業員によって
過去に行われた発明すべてがその適用対象となりかねず,その場合,被告に非常に
重い経済的・事務的な負担を生じるおそれがあるといわざるを得ない。
(エ) これらの事情を総合的に考慮すると,平成16年規程においてその実施
前に行われた発明の取扱いに関する規定等が設けられていないことをもって,同規
程が施行前の発明にも適用される趣旨であるとは解することは到底できず,同規程
は,同規程施行後の発明に適用されるべきものと認めるべきである。
したがって,被告は,平成16年規程の制定により時効利益を放棄したものでは
ないし,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たることもないから,原告の主
位的主張は理由がない。
(3) 原告の本件就業規則58条に基づく予備的主張について
ア 原告は,予備的に,本件就業規則58条をもって職務発明についての規定
と見るべきところ,特許として登録されるか否かが判明しない限り「業務上有益な
る発明」に当たるか否かの判断ができないから,消滅時効は完成していない旨主張
する。
イ 前提事実(5)イのとおり,本件就業規則58条において,「業務上有益なる
発明」は,「永年誠実に勤続した者」又は「業務上有益なる…改良又は工夫,考案をな
したる者」などと同列のものとして位置付けられ,表彰対象として挙げられている 。
また,表彰の方式は,賞金の授与のほか,賞状又は賞品の授与とされている(同規
則59条)。しかも,発明に係る特許を受ける権利等の譲渡は,表彰の要件とはさ
れていない。
また,上記「業務上有益なる発明」であるか否かは,その発明が特許を受けられる
ことと必ずしも同義ではない。
さらに,前提事実( 5)イのとおり,本件就業規則第11章は,平成16年規程の
施行後も,変更されることなく存続している。
これらの事情によれば,本件就業規則58条は,恩典的な表彰について定めたも
のであるにとどまり,同条をもって,職務発明の取扱いに関する規定と解すること
はできないというべきである。
したがって,原告の予備的主張は理由がない。
(4) まとめ
以上のとおり,仮に本件特許発明2の発明者に原告が含まれるとしても,本件各
特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡による原告の相当対価請求権は,いずれも
時効消滅したものである。
2 結論
よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由が
ないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市 川 正 巳
裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
賴 晋 一
別紙
本件特許権1
別紙
本件特許権2
別紙
本件特許権3
(別紙)
被告製品目録
RC-637S, RC-646, RC-668C, RC-669, RC-669A, RC-669B, RC-671, RC-675C,
RC-678L, RC-680A, RC-680B, RC-681B, RC-682, RC-682A, RC-684, RC-690,
RC-691,RC-691A,RC-692B,RC-693,RC-697,RC-695,RC-699B,RC-704,
RC-704A,RC-706,RC-707,RC-708,RC-709,RC-711A,RC-711C,RC-718,
RC-721,
JF-101C,JF-105,
SJ-5

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