平成18(行ケ)10253審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成18年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告有限会社守谷商店
|
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
|
キーワード |
審決26回 刊行物16回 実施4回 進歩性2回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
原告は,後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対す
る不服の審判請求をしたが,特許庁が平成18年4月10日付けで請求不成立
の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
判決言渡 平成18年12月25日
平成18年(行ケ)第10253号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年12月20日
判 決
原 告 有 限 会 社 守 谷 商 店
訴訟代理人弁護士 寺 澤 正 孝
同 竹 澤 大 格
補 佐 人 弁 理 士 吉 田 豊
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 小 林 信 雄
同 赤 穂 隆 雄
同 高 瀬 勤
同 小 池 正 彦
同 内 山 進
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2002−1806号事件について,平成18年4月10日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
原告は,後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対す
る不服の審判請求をしたが,特許庁が平成18年4月10日付けで請求不成立
の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
なお,上記不服審判請求につき特許庁は,平成15年5月2日付けで請求不
成立の審決をしたところ,原告からの訴えに基づき東京高等裁判所が平成16
年11月11日付けで審決取消しの判決をしたことから,特許庁で審理が再開
され,平成18年4月10日付けで上記のとおり再び請求不成立の審決がなさ
れたものである。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 株式会社ジェイプランは,平成8年4月1日,名称を「結婚式場等ブラ
イダル情報の案内方法」とする発明につき特許出願(請求項の数1。以下
「本願」という 。)をしたところ,特許庁は拒絶査定をした。原告は,株
式会社ジェイプランから,上記特許を受ける権利を譲り受け,平成14年
1月21日,その旨を特許庁長官に届け出た上,平成14年2月6日,特
許請求の範囲を補正して(請求項の数2。甲2 ),上記拒絶査定に対する
不服の審判請求をした。特許庁は,この請求を不服2002−1806号
事件として審理した上,平成15年5月2日,上記補正を却下した上,
「本件審判の請求は,成り立たない 。」との審決をした(第1次審決。甲
11 )。これに対し,原告から審決取消訴訟が提起され,東京高等裁判所
はこれを平成15年(行ケ)第266号事件として審理した上,平成16
年11月11日,引用発明の誤認等を理由に,第1次審決を取り消す旨の
判決(第1次判決。甲12)をした。
イ そこで,特許庁は,上記不服2002−1806号事件につきさらに審
理し,その中で,平成17年6月21日,上記補正を却下する旨の決定を
し,また原告により平成17年9月21日特許請求の範囲等が補正された
が(請求項の数3。甲3 ),同庁は,平成18年4月10日 ,「本件審判
の請求は,成り立たない 。」との審決(第2次審決)をし,その謄本は平
成18年5月1日原告に送達された。
(2) 発明の内容
平成17年9月21日に補正された後の特許請求の範囲は,前記のとおり
請求項1∼3から成り,そのうち請求項1の記載は,下記のとおりである
(以下,これを「本願発明」という。 。
)
記
「所定の文字列からなるドメイン名のサイト(14)が用意されると共に,
インターネット(16)を介してインターネット端末(18)に接続され
るWebサーバ(10)と前記サーバに接続される端末(12)を備えた
結婚式場等ブライダル情報の案内方法において,
前記インターネット端末(18)を介して前記ドメイン名でアクセスさ
れたとき,結婚に関する情報と,式場検索のメニュー項目が少なくとも含
まれたページを提示し,
前記結婚に関する情報の項目が選択されたとき,前記結婚に関する情報
を提供すると共に,前記インターネット端末(18)から予め定められた
操作が行われたとき,問い合わせ文を前記端末(12)で受け付けて応答
文を前記インターネット端末(18)へ送出し,
前記式場検索の項目が選択されたとき,少なくとも地域および結婚条件
を含む結婚式場の検索条件を提示して前記検索条件の入力を促し,
前記検索条件が入力されたとき,該当の結婚式場を全て提示していずれ
かの選択入力を受け付け,
前記受け付けられた選択入力が示す,前記結婚式場の表記文字列と,前
記結婚式場の名称と前記ドメイン名の結合したアドレスが掲載されたホー
ムページを提示し,
前記アドレスでアクセスされたとき,前記アドレスと対応したホームペ
ージへジャンプして前記ホームページを提示する,
ことを特徴とした結婚式場等ブライダル情報の案内方法 。」
(3) 審決の内容
ア 第2次審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明は,下記刊行物1に記載された発明,下記刊行物
2に記載された事項及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きない,としたものである。
記
刊行物1:INTERNET magazine No.2(1994.12.18発行)の124頁∼12
9頁(特に,126∼127頁の「サンフランシスコのホテル
はおまかせ」の記事 )(以下,ここに記載された発明を「引用
発明」という。〔甲13 〕)
刊行物2: 日経コンピュータ」1995年5月1日号の126頁∼127頁
「
(甲14)
イ なお審決は,上記判断に当たり,引用発明の内容,及び本願発明との一
致点及び相違点1∼8を,次のとおり認定した。
<引用発明の内容>
「所定の文字列からなるドメイン名のサイトが用意されると共に,インター
ネットを介してユーザ端末に接続されるWWWサーバを備えたホテル等旅行
に関する情報の提供方法において,
前記ユーザ端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,旅行に
関する情報と,ホテル検索のメニュー項目が少なくとも含まれたページを
提示し,
前記旅行に関する情報の項目が選択されたとき,前記旅行に関する情報
を提供し,
前記ホテル検索の項目が選択されたとき,少なくとも地域及びその他の
条件を含むホテルの検索条件を提示して前記検索条件の入力を促し,
前記検索条件が入力されたとき,該当のホテルを全て提示していずれか
の選択入力を受け付け,
前記受け付けられた選択入力が示す,前記ホテルの標記文字列が掲載さ
れたページをそのページのURLとともに提示する
ことを特徴としたホテル等旅行情報の提供方法。」
<一致点>
「所定の文字列からなるドメイン名のサイトが用意されると共に,インター
ネットを介してインターネット端末に接続されるWebサーバを備えた情
報の案内方法において,
前記インターネット端末を介して前記ドメイン名でアクセスされたとき,
情報と,施設検索のメニュー項目が少なくとも含まれたページを提示し,
前記情報の項目が選択されたとき,前記情報を提供し,
前記施設検索の項目が選択されたとき,少なくとも地域を含む施設の検
索条件を提示して前記検索条件の入力を促し,
前記検索条件が入力されたとき,該当の施設を全て提示していずれかの
選択入力を受け付け,
前記受け付けられた選択入力が示す,前記施設の表記文字列が掲載され
たウェブページを提示する,
ことを特徴とした情報の案内方法 。」
<相違点1>本願発明は ,「前記サーバに接続される端末」も備えるのに対
し,引用発明はそうでない点。
<相違点2>本願発明は ,「結婚式場等ブライダル」情報を案内するのに対
し,引用発明は,ホテル等旅行情報を案内する点。
<相違点3>本願発明の情報及び施設は,それぞれ ,「結婚に関する」情報
及び「結婚式場」であるのに対し,引用発明の情報及び施設は,それぞれ,
旅行に関する情報及びホテルである点。
<相違点4>本願発明は,情報の項目が選択されたとき ,「前記インターネ
ット端末から予め定められた操作が行われたとき,問い合わせ文を前記端
末で受け付けて応答文を前記インターネット端末へ送出」するのに対し,
引用発明はそうでない点。
<相違点5>本願発明の検索条件は ,「結婚条件」を含むのに対し,引用発
明はそうでない点。
<相違点6>本願発明のウェブページは ,「前記結婚式場の名称と前記ドメ
イン名の結合したアドレス」を掲載するのに対し,引用発明はそうでない
点。
<相違点7>本願発明のウェブページは,「ホームページ」であるのに対し,
引用発明はそうでない点。
<相違点8>本願発明は ,「前記アドレスでアクセスされたとき,前記アド
レスと対応したホームページへジャンプして前記ホームページを提示す
る」のに対し,引用発明はそうでない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決は,相違点2,3の判断を誤り(取消事由1 ),相違
点6,7の判断を誤った(取消事由2)から,違法として取り消されるべ
きである。
ア 取消事由1(相違点2,3の判断の誤り)
(ア) 審決は,相違点2,3について ,「…後者(判決注,引用発明)に
おいて,提供する情報及び施設として,旅行に関する情報及びホテルに
代えて,結婚に関する情報及び結婚式場を採用し,結婚式場等ブライダ
ル情報の案内方法として構成することは,当業者が容易に想到し得るこ
とである 。 (7頁17行∼20行 ) 「…本願発明と刊行物1で取り扱
」 ,
うコンテンツの相違を克服することは,当業者にとって容易であるとい
うべきである 。 (10頁7行∼8行)とするが,以下に照らせば,誤
」
りである。
(イ) すなわち,結婚式場の決定プロセスは,ホテルや飛行機の予約のよ
うに予めユーザにおいて具体的なニーズが定まっているものではなく,
多様な制約条件の中で試行錯誤を繰り返すことを本質とするものであり,
そのような複雑なプロセスを十分にサポートできる構成でなければ,案
内方法として実用に耐えられない。そして,本願発明の評価においては,
その対象である結婚式場等ブライダル情報の特徴を無視することはでき
ないから,その点を看過し,予めユーザにおいて具体的なニーズが決ま
っているホテル予約情報等と同列に論じた審決は誤りである。
(ウ) また,本願以前には,引用例2に示唆されるように結婚式場情報の
提供サービスについて十分な需要があったにもかかわらず,本願以降も,
長い間,本願発明以外の方法による提供の試み自体が行われなかった。
このことは,結婚式場等ブライダル情報の提供がインターネットになじ
むものとは到底考えられていなかったことを示しており,結婚式等ブラ
イダル情報を採用することが当業者に容易になしえなかったことの端的
な裏付けとなり得る。
(エ) 本願発明と引用発明という2つの構成から導き出される効果の違い
は極めて顕著である。すなわち,引用発明のように,情報提供が1枚の
ウェブページでしかできないような単純な構成では,内容の柔軟な変更
や最新の情報の提供ができないところ,本願発明の構成は,この限界を
克服したがゆえに,広告主(甲6,7)からもユーザ(甲8∼10)か
らも高く評価されたのである。また,プロモーション効果という観点か
らみても,引用発明は本願発明と比べて広告効果が格段に落ちる。
イ 取消事由2(相違点6,7の判断の誤り)
(ア) 審決は ,「…後者(判決注,引用発明)において,選択されたウェ
ブページのファイル名を含んだアドレスを,施設の名称とドメイン名の
結合したものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである 。」
(8頁19行∼21行 ) 「…後者(判決注,引用発明)において,施
,
設の名称とドメイン名の結合したアドレスをウェブページに掲載するこ
とは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,…ウェブページ
に前記結婚式場の名称と前記ドメイン名の結合したアドレスを掲載する
ことも,また,容易である 。 (8頁下9行∼下4行 ) 「…本願発明に
」 ,
おいて,ホームページのアドレスは,結婚式場の名称とドメイン名が結
合したものであることを要件とするだけであり,結婚式場の名称とドメ
イン名が直接結合したものであることを要件とするものではない。…刊
行物1において,WWWサーバ内の情報を整理して管理する形態を変更す
ることは,当業者が適宜なし得ることである 。 (10頁9行∼16
」
行)とするが,以下に照らせば,誤りである。
(イ) すなわち,相違点6,7は,商標的価値を持つウェブサイトのアド
レスの自他識別力を高めるとともに,事業者が自らの式場名が含まれた
ウェブサイト内で複数のウェブページと画像ファイルを一括管理できる
ようにする,という本願発明の技術上の工夫に由来するものである。前
者の工夫は,無個性のカテゴリの名称(刊行物1で言えば hotels)の介
在によって,結婚式場の名称の持つ個性が減殺されアドレスの長名化に
より検索の容易性が損なわれアドレスとしての使い勝手も悪くなるとい
う問題を回避するという要請に応えるものであり(本願明細書〔公開特
許公報は甲1〕の段落【0022 】 【0041】参照 )
, ,また,後者の
工夫は,1枚のウェブページよりも複数のウェブページと画像ファイル
を組み合わせた方が効果的かつ魅力的なコミュニケーションが期待でき
るという観点から,結婚式場探しの複雑な試行錯誤のプロセスに耐えら
れる仕組みを提供するという要請に応えるものである(本願明細書〔甲
1〕の段落【0023】 【0042】参照)
, 。
(ウ) 本願発明は,以上の観点から,本願発明の目的,課題,その解決方
法及び特許請求の範囲の記載全体の趣旨を総合すると,結婚式場の名称
とドメイン名を直接的に,換言すれば,間に何ものかを介在させること
なく結合することを当然にその構成要件とするものである。このことは,
本願明細書〔甲1〕の段落【0028】に ,「…これらのホームページ
には結婚式場,会場の表記文字列(図2ではホテルJ-plan ),上記のド
メイン名と結婚式場,会場の名称が結合したアドレス(例えば,kekkon
-net.or.jp/jplan")が示されており ,」と記載され ,【図2】において,
ステップ202で画面表示のフォーマットとして「お客様のアドレスは
kekkon-net.or.jp/お客様となります」と記載されていることからも明
らかであるし,そのような直接的な結合でなければ「大きな広告宣伝効
果」(本願明細書の段落【0041 】)も期待できない。
(エ) 被告は,アドレスにおける式場の名称とドメイン名との結合の態様
について,本願発明における「結合」は「直接結合」と限定的に解釈さ
れるべきでないと主張する。
しかし,本願発明は,請求項1のおいて書きに ,「所定の文字列から
なるドメイン名のサイト(14)が用意されると共に,インターネット
(16)を介してインターネット端末(18)に接続されるWebサー
バ(10)と前記サーバに接続される端末(12)を備えた結婚式場等
ブライダル情報の案内方法において ,」と記載されるように,サーバを
通じて公開されるコンテンツのクオリティをサーバ管理者自らが直接コ
ントロールすることによってサーバ管理者や商品役務の提供主体である
広告主のブランド力を高めることを企図し,ユーザディレクトリへのア
クセス権ないしアップされるコンテンツの編成権をサーバ管理者が独占
する仕組みになっている。一方,乙3(広野忠敏「インターネット通
信」 DOS/V POWER REPORT 第6巻第1号,株式会社インプレス,1
996年2月1日発行,P162∼165)も含め被告が本願発明との
構成の類似点を指摘する会員向けプロバイダーサービスにおいては,本
願発明と異なり,会員ユーザのHPアドレスにおいてユーザ名とドメイ
ン名との間にチルダ[ ~]が介在しているところ,チルダはそれが付され
たユーザホームディレクトリ内のファイルへのアクセス権がウェブサー
バ管理者以外の者にも開放されることを意味するから,サーバを通じて
公開されるコンテンツのクオリティをサーバ管理者自ら直接コントロー
ルすることによってサーバ管理者や商品役務の提供主体である広告主の
ブランド力を高めるという本願発明が企図する目的は達成できない。
したがって,Webサーバ内の情報管理方法が当業者の裁量に属す
る事項であるとしても,引用例においてもWebページやアドレスの
構成が明らかにされていないことからも明らかなように,相違点6,
7を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(オ) 上記ア(エ)に記載したとおり,本願発明と引用発明という2つの構成
から導き出される効果の違いは極めて顕著である。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 情報提供の分野において,旅行情報や結婚式情報は,提供される情報コ
ンテンツとして代表的なものであり(菊地芳秀他「情報サービス端末の概
要」社団法人情報処理学会第39回(平成元年後期)全国大会講演論文集
(Ⅱ)P759∼760〔乙1 〕,特開平5−236153号公報〔乙2 〕 ,
)
旅行情報を提供するシステムと結婚情報を提供するシステムとは,情報コ
ンテンツが相違するだけで,システム自体は共通するもので構成できるの
であるから,引用発明のホテル等情報を結婚式等ブライダル情報に置き換
えることに,なんらの阻害要因もない。
イ 原告は,結婚式場等ブライダル情報の案内方法には,複雑なプロセスを
十分にサポートできる構成がなければ実用に耐えられないと主張するが,
本願発明の案内方法の技術的構成に関係しない主張である。
原告の,本願発明と引用発明という2つの構成から導き出される効果の
違いは極めて顕著である,との主張も争う。原告は,Webサイトのアド
レスの商業的価値について主張するが,商業的価値は,技術的思想と関係
しない事項である。
ウ したがって,審決の相違点2,3の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点6,7の判断の誤り)に対し
ア Webサーバ内の情報をどのように管理するかは,サーバを管理する当
業者が自由に設計できる事項である。しかも,プロバイダのWebサーバ
に会員ユーザのホームページを開設することは,本願の出願前に,複数の
プロバイダで行われており,その際,会員ユーザのホームぺージアドレス
を,ユーザ名とドメイン名の結合したものとすることは,周知の事項であ
る(乙3)から,引用発明において,ウェッブページをホームページとし
て構成し,そのアドレスを施設の名称,すなわち,結婚式場の名称とドメ
イン名の結合したものとすることは,当業者が容易に想到し得る事項であ
る。
イ 原告は,本願発明は,結婚式場の名称とドメイン名を直接的に,換言す
れば,間に何ものかを介在させることなく結合することを当然にその構成
要件とすると主張する。しかし,本願発明では,ホームページのアドレス
は,結婚式場の名称とドメイン名が結合したものであることが要件とされ
ており,両者の直接結合は要件とされていないことが請求項の記載それ自
体から明らかである。しかも,Webページのアドレスは,当業者が適宜
設定し得るのであるから,請求項1における結合を「直接結合」と限定解
釈すべき理由はない。
また原告は,本願発明は,1枚のウェブページよりも複数のウェブペー
ジと画像ファイルを組み合わせた方が効果的かつ魅力的なコミュニケーシ
ョンが期待できるという観点から,複雑な試行錯誤のプロセスに耐えられ
る仕組みを提供するという要請に応えるものであるとも主張するが,本願
発明において,ホームページの構成に係る構成は ,「…前記結婚式場の表
記文字列と,前記結婚式場の名称と前記ドメイン名の結合したアドレスが
掲載されたホームページ…」というだけであるから,原告の主張は請求の
範囲の記載に基づかないものである。なお,ウェブページに画像を掲載し
たり,他のウェブページにリンクを張ること等は,周知の事項である。
さらに原告の,本願発明と引用発明という2つの構成から導き出される
効果の違いは極めて顕著である,との主張も争う。原告は,Webサイト
のアドレスの商業的価値について主張するが,商業的価値は,技術的思想
と関係しない事項である。
ウ したがって,審決の相違点6,7の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ),(2)(発明の内容 ),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2 取消事由1(相違点2,3の判断の誤り)について
(1) 刊行物2の内容
ア 刊行物2には,次の記載がある。
(ア)「広告特集 インターネット活用
NTTソフトウェア株式会社
広域コミュニケーション・システムと業務システムを融合するミドル
ウエア「VGUIDE」
これからのインターネット利用は,情報を検索したり,メールを交換
するだけでなく,企業システムに上手に組み込んでいく必要がある。
NTTソフトウェア(株)が提供する「VGUIDE」は,広域コミュ
ニケーション・システムと業務システムを融合させることのできるミ
ドルウエアとしても注目される。(126頁上欄)
(イ)「求められる業務システムと広域コミュニケーションシステムの融合
業務システムはさらに様変わりを続けている。もはや企業システム
は,電子メールやインターネット接続などの拡張性を抜きにしては語
れないようになった。…
そこでNTTソフトウェア(株)が提案するのが ,「Functionality-C
rossroad(機能の十字路 )」という考え方だ。…これは,従来のデー
タ層/機能層/プレゼンテーション層を結ぶ垂直方向の業務処理デー
タの流れと交差するものとして,メールシステムや,ワークフロー制
御システム,インターネットなどで構成される水平方向のコミュニケ
ーションの流れを融合させることを提案するものである。… 」(12
6頁右欄2行∼127頁左欄7行)
(ウ)「インターネットと業務システムの連携も可能
VGUIDEとインターネットを利用したクロスロード・システム
例は,結婚式場予約,中古車販売など,いくらでも想定される。旅行
会社であれば,ホテルのカウンターから美しい情報案内システムを通
して飛行機や劇場予約ができ,しかも料金の精算も可能となる。チケ
ット案内にはインターネットのマルチメディアをはじめとする豊かな
表現力と情報検索の柔軟さを利用し,かつチケット予約や料金の請求
については高性能な業務システムとの連動ができるなど,サービス向
上と競争力アップにも役立つ。車のメーカーであれば,全国のディー
ラーにWWWクライアントを設置しておき,迫力ある情報プレゼンテ
ーションにあわせて,業務サーバーにアクセスして納期をすぐに応答
したり,あるいは購入情報をリアルタイムに集計して,生産システム
をタイムリーに変更することもできる。強力なRTS機能(判決注,
リアルタイムシステム機能)を持つVGUIDEだからこそ,インタ
ーネットを同期型トランザクション処理と密接に連携させることがで
きるのである。… 」(127頁中欄18行∼右欄12行)
イ 上記ア(ア)∼(ウ)によれば,刊行物2には,これからのインターネット
利用は,情報を検索したり,メールを交換するだけでなく,企業システ
ムに上手に組み込んでいく必要があることが指摘され,広域コミュニケ
ーション・システムと業務システムを融合させることのできるミドルウ
エアとして,NTTソフトウェア(株)が提供する「VGUIDE」が紹
介された上で,これにより従来の業務処理データの流れと,インターネ
ットなどのコミュニケーションの流れを融合させることが提案され,こ
のようなインターネットを利用した業務システムの応用例として,結婚
式場の予約が例示されていることが認められる。
(2) 乙1,2の内容
ア 乙1(菊地芳秀他「情報サービス端末の概要」社団法人情報処理学会第
39回(平成元年後期)全国大会講演論文集(Ⅱ)平成元年10月16日∼
1 8 日 ) 乙 2 ( 特 開 平 5− 2 36 1 53 号 公報 の 【発 明の 詳 細 な 説
,
明】)には,次の記載がある。
(ア)「筆者らは…情報サービス業務に焦点をあて,そのアプリケーション
が短期間で作成できることを目的とした情報サービス端末用プラットフ
ォームの開発を行っている。…表1.情報サービス業務の例…旅行,結
婚式場の案内・斡旋…」(乙1の759頁)
(イ)「図1に…アプリケーションの例を示す。図1.対象とするアプリケ
ーション 情報案内…結婚式場… 」(乙1の760頁)
(ウ)「本発明は,双方向型情報提供装置に関し,特に複数種の案内情報を
提供する情報提供センター装置と,この情報提供センター装置から離れ
た場所に配設され情報提供センター装置に公衆通信回線を介して選択的
に接続され情報提供センター装置から供給される情報を出力手段を介し
て出力する複数の情報提供端末装置とを備えた双方向情報提供装置に関
するものである。 (乙2の【産業上の利用分野】段落【0001 】
」 )
(エ)「…メニュー画面には,初期メニュー画面として,例えば「1:各種
案内…」であり,項目番号1の「各種案内」のサブメニュー画面として,
例えば「…2:旅行案内,…5:結婚式場案内,…」であり,… 」(乙
2の【実施例】段落【0016】)
(オ)「…初期メニュー画面からタッチパネル52の画面キーを介して項目
番号1の「案内情報」を選択したときには,案内情報のサブメニュー
「…2:旅行案内,…5:結婚式場案内,…」が表示され,… 」(乙2
の【実施例】段落【0036 】)
イ 上記ア(ア)∼(オ)によれば,上記乙1,2には,情報サービス端末用プラ
ットフォームや双方向情報提供装置といった仕組みにおいて,ホテル等旅
行情報と結婚式場等ブライダル情報とが,提供する情報の内容の例として
並記されていることが認められるから,ホテル等旅行情報の案内と結婚式
場等ブライダル情報の案内とが,提供すべき情報の内容を構成するものと
して,本願の出願前によく知られていたものであることが認められる。
(3) 上記(1),(2)によれば,刊行物2に,インターネットを利用した業務シ
ステムの応用例として,結婚式場の予約が例示されており,また,ホテル
等旅行情報の案内と結婚式場等ブライダル情報の案内とが,提供すべき情
報の内容を構成するものとして,本願の出願前によく知られていたという
のであるから,ホテル等旅行情報の案内に係る引用発明に接した当業者
(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,案内
すべき情報の内容を,ホテル等旅行情報に代えて結婚式場等ブライダル情
報とすることは,ごく自然に想到することというべきである。
(4) 原告の主張に対する補足的説明
ア 原告は,結婚式場の決定プロセスは,多様な制約条件の中で試行錯誤を
繰り返すことを本質とするものであり,そのような複雑なプロセスを十分
にサポートできる構成でなければ,案内方法として実用に耐えられない,
そして,本願発明の評価においては,その対象である結婚式場等ブライダ
ル情報の特徴を無視することはできないから,その点を看過し,予めユー
ザにおいて具体的なニーズが決まっているホテル予約情報等と同列に論じ
た審決は誤りである,と主張する。
しかし,結婚式場の決定プロセスが,多様な制約条件の中で試行錯誤を
繰り返すことを本質とするものであり,予めユーザにおいて具体的なニー
ズが決まっているホテル予約情報等と異なる性質を有することを前提とし
たとしても,上記(2)イで説示したように,情報サービス端末用プラット
フォームや双方向情報提供装置といった仕組みにおいて,ホテル等旅行情
報と結婚式場等ブライダル情報とが,提供する情報の内容の例として並記
され,ホテル等旅行情報の案内と結婚式場等ブライダル情報の案内とが,
提供すべき情報の内容を構成するものとして,本願の出願前によく知られ
ていたというのである。これに照らせば,ユーザによるホテル等と結婚式
場等の決定プロセスに原告主張のような相違があったとしても,当業者が
刊行物2や乙1,2の記載内容を引用発明に適用することを技術的に妨げ
る要因になるとまでは解することができない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本願以前には,引用例2に示唆されるように結婚式場情報の提
供サービスについて十分な需要があったにもかかわらず,本願以降も,長
い間,本願発明以外の方法による提供の試み自体が行われなかった,この
ことは,結婚式場等ブライダル情報の提供がインターネットになじむもの
とは到底考えられていなかったことを示しており,結婚式等ブライダル情
報を採用することが当業者に容易になしえなかったことの端的な裏付けと
なり得る,と主張する。
しかし,仮に,本願以降も,長い間,本願発明以外の方法による提供の
試み自体が行われなかったことを前提としたとしても,上記(3)に説示し
たように,刊行物2に,インターネットを利用した業務システムの応用例
として,結婚式場の予約が例示されており,また,ホテル等旅行情報の案
内と結婚式場等ブライダル情報の案内とが,提供すべき情報の内容を構成
するものとして,本願の出願前によく知られていたというのである。そう
すると,これに照らせば,当業者の技術思想として,結婚式場等ブライダ
ル情報の提供がインターネットになじむものとは到底考えられていなかっ
たとはいえず,結婚式等ブライダル情報を採用することが当業者に容易に
なしえなかったともいえないことは明らかである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願発明と引用発明という2つの構成から導き出される効果の
違いは極めて顕著である,すなわち,引用発明のように,情報提供が1枚
のウェブページでしかできないような単純な構成では,内容の柔軟な変更
や最新の情報の提供ができない,本願発明は,その構成によって,この限
界を克服したがゆえに,広告主(甲6,7)からもユーザ(甲8∼10)
からも高く評価された,また,プロモーション効果という観点からみても,
引用発明は本願発明と比べて広告効果が格段に落ちる,と主張する。
しかし,本願発明の実施形態が,広告主やユーザから高く評価されたり,
プロモーション効果に優れることがあるとしても,それは,提供するサー
ビスの内容,利用のし易さ,表示の仕方,宣伝広告の方法などに左右され
るところが大きいと考えられ,必ずしも本願発明の要旨と認定される発明
の構成から導かれたものとは言い難い。そして,本願発明の進歩性の有無
の判断は,引用例との対比によりなされるべきものであるところ,上記
(1)∼(4)及び後記3に説示するとおり,本願発明は,引用発明,刊行物2
との対比により,進歩性を認めることができないから,かかる本願発明の
作用効果は,引用発明,刊行物2に記載された事項及び周知事項から当業
者が予測し得る程度のものというほかなく,格別のものともいえない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(5) よって,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点6,7の判断の誤り)について
(1) 発明の要旨認定は,特許請求の範囲に基づいてなされるべきであるから,
特許請求の範囲から読み取ることができないような技術的意義を,発明の要
旨と認定することはできないというべきである。
しかるに,本願発明の「前記結婚式場の名称と前記ドメイン名の結合した
アドレスが掲載されたホームページ」における「結合」との文言について,
特許請求の範囲をみても,単に ,「結合したアドレス」とされており,結婚
式場の名称とドメイン名とを文字や符号を介して結合してアドレスを構成す
る場合を排除していない。したがって,本願発明において,結婚式場の名称
とドメイン名を直接的に,間に何ものかを介在させることなく結合すること
をその発明の要旨と認定することはできないというべきである。
(2) このような解釈は,本件明細書の発明の詳細な説明,図面とも整合する
ものである。
すなわち,確かに,原告主張のように,本願明細書〔甲1〕の段落【00
2 8 】 と 【 図 2 】 に お い て , 結 婚 式 場 名 ( jplan) と ド メ イ ン 名
(kekkon-net.or.jp/)とが直接的に結合した例が示されている。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明において,結婚式場名とドメイン
名との結合について言及した箇所を見ると,
「しかも,インターネット端末18が広く普及することが予想され,インタ
ーネット16を利用する者の多くがターゲットとなる結婚適齢期の若者に集
中し, ”kekkon-net”の文字列が含まれる検索の容易なドメイン名がサイト1
4に付与され,このドメイン名と式場,会場の名称の結合したアドレスが各
結婚式場業者のホームページに割り当てられるので,大きな広告宣伝効果を
期待できる。(段落【0022 】
」 )
「さらに,式場に関する情報が電子的なものであることから,その内容を必
要に応じて柔軟に変更でき,常に最新の情報を提供できる。しかも,インタ
ーネット端末18が広く普及すると予想され,インターネット16を利用す
る者の多くがターゲットとなる結婚適齢期の若者に集中し,インターネット
端末18を所有する者が優良な顧客として見込め ,”kekkon−net
”の文字列が含まれる検索の容易なドメイン名がサイト14に付与され,こ
のドメイン名と式場,会場の名称の結合したアドレスが各結婚式場業者のホ
ームページに割り当てられるので,大きな宣伝広告効果を期待できる 。」
(段落【0041 】)
との記載がある。
しかし,これらの記載をみても,結婚式場の名称とドメイン名とが結合し
たアドレスがホームページに割り当てられるので,大きな広告宣伝効果を期
待できるというに過ぎず,かえって,ホームページにおいて,結婚式場の名
称とドメイン名とが結合したものがアドレスとして表示されれば足り,必ず
しも両者が文字や符号を介することなく直接的に結合している必要はないも
のと理解できるものである。
以上によれば,たとえ本願明細書の段落【0028】と【図2】において,
結婚式場名( jplan)とドメイン名( kekkon-net.or.jp/)とが直接的に結合した
例が示されていたとしても,これは本願発明の実施の一態様に止まるものと
いうほかなく,上記説示に照らしても,ここから結婚式場の名称とドメイン
名との結合の直接性の有無についての技術的意義まで読み取るのは無理があ
るというほかないから,本願明細書の発明の詳細な説明,図面の記載も,上
記(1)の判断を裏付けるものというべきである。
(3) 以上によれば,本願発明における「結合」は,文字や符号を介してドメ
イン名と結婚式場等の名称とを結合させた場合を排除しないものというべき
であるところ,引用発明の「 http://www.hotelres.com/hotels/hilsq.html」(甲1
3,127頁左欄ウェブページ表示の「 location」の欄)も,乙3(広野忠
敏「インターネット通信」DOS/V POWER REPORT 第6巻第1号,株式会
社インプレス,1996年2月1日発行・165頁右欄)の
「http://www.st.rim.or.jp/~ユーザ名」も,ドメイン名と事業者名とを結合した
ものをアドレスとしたものであることに変わりはないのであるから,相違点
6は,実質的には相違点とはいえないというべきである。
なお,仮に本願発明が,ドメイン名と結婚式場等の名称とが直接的に結合
したアドレスをホームページに表示するものであったとしても,引用発明の
「 http://www.hotelres.com/hotels/hilsq.html」に含まれる「 /hotels/」は,ドメイ
ン名とヒルトンホテルのページの間に /hotels/という階層が入っていることを
示すに過ぎず,また,乙3の「 http://www.st.rim.or.jp/~ユーザ名」に含まれる
「 ~」(チルダ)は,ユーザがページを直接管理できることを示しているに
過ぎないところ,ウェブサーバ内のウェブページをどのように管理するか
(ページをホームページとして構成するかどうか,情報にどのような階層構
造を持たせるか,どのような管理形態とし,ユーザのアクセスの形態をどの
ようにするか等)は,サーバを管理する者が提供しようとするサービスの形
態や利用のし易さを考慮して,当業者が適宜設定する設計事項にすぎないも
のであるから,ドメイン名と結婚式場等の名称とが直接的に結合したアドレ
スをホームページに表示するように構成することは,当業者が容易に想到で
きたものといえる。
また,上記のように,ウェブサーバ内のウェブページをどのように管理す
るかは,サーバを管理する者が提供しようとするサービスの形態や利用のし
易さを考慮して,当業者が適宜設定する設計事項にすぎないものであるから,
これに照らせば,当業者は,相違点7についても容易に想到できたものとい
うべきである。
(4) 原告の主張に対する補足的説明
ア 原告は,相違点6,7は,商標的価値を持つウェブサイトのアドレスの
自他識別力を高めるとともに,事業者が自らの式場名が含まれたウェブサ
イト内で複数のウェブページと画像ファイルを一括管理できるようにする,
という本願発明の技術上の工夫に由来するものである,前者の工夫は,無
個性のカテゴリの名称(刊行物1で言えば hotels)の介在によって,結婚
式場の名称の持つ個性が減殺され,アドレスが長名化により検索の容易性
が損なわれ,アドレスとしての使い勝手も悪くなるという問題を回避する
という要請に応えるものであり(本願明細書〔甲1〕の段落【0022】,
【0041】参照 ),また,後者の工夫は,1枚のウェブページよりも複
数のウェブページと画像ファイルを組み合わせた方が効果的かつ魅力的な
コミュニケーションが期待できるという観点から,結婚式場探しの複雑な
試行錯誤のプロセスに耐えられる仕組みを提供するという要請に応えるも
のである(本願明細書の段落【0023 】 【0042】参照 )
, ,と主張す
る。
しかし,たとえ相違点6,7が,原告主張のような技術上の工夫に由来
するものであったとしても,上記(1)で説示したとおり,発明の要旨認定
は,特許請求の範囲に基づいてなされるべきであるから,特許請求の範囲
から読み取ることができないような技術的意義を,相違点6,7が原告主
張のような技術上の工夫に由来するものであるとの理由で当然に発明の要
旨と認定することはできない。このことは,本願明細書の段落【002
2 】 【0023 】 【0041 】 【0042】の記載を仮に参酌したとし
, , ,
ても,これらのみから当然に結婚式場の名称とドメイン名との結合の直接
性の有無についての技術的意義まで読み取るのは無理があるというほかな
い。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 次に原告は,本願発明は,その目的,課題,その解決方法及び特許請求
の範囲の記載全体の趣旨を総合すると,結婚式場の名称とドメイン名を直
接的に,換言すれば,間に何ものかを介在させることなく結合することを
当然にその構成要件とするものであるとし,本願明細書の段落【002
8 】 【0041 】 【図2】について主張する。しかし,上記(1)に説示し
, ,
たとおり,発明の要旨認定は,特許請求の範囲に基づいてなされるべきで
あるから,特許請求の範囲から読み取ることができないような技術的意義
を,目的,課題,その解決方法及び特許請求の範囲の記載全体の趣旨を総
合して発明の要旨として認定することはできないし,本願明細書の段落
【0028 】 【0041 】 【図2】を仮に参酌したとしても,前記(2),
, ,
(4)アにも説示したとおり,これらから結婚式場の名称とドメイン名との
結合の直接性の有無についての技術的意義まで読み取るのは無理があると
いうほかない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 次に原告は,本願発明は,特許請求の範囲のおいて書きに ,「所定の文
字列からなるドメイン名のサイト(14)が用意されると共に,インター
ネット(16)を介してインターネット端末(18)に接続されるWeb
サーバ(10)と前記サーバに接続される端末(12)を備えた結婚式場
等ブライダル情報の案内方法において ,」と記載されるように,サーバを
通じて公開されるコンテンツのクオリティをサーバ管理者自らが直接コン
トロールすることによってサーバ管理者や商品役務の提供主体である広告
主のブランド力を高めることを企図し,ユーザディレクトリへのアクセス
権ないしアップされるコンテンツの編成権をサーバ管理者が独占する仕組
みになっている,一方,乙3も含め被告が本願発明との構成の類似点を指
摘する会員向けプロバイダーサービスにおいては,本願発明と異なり,会
員ユーザのHPアドレスにおいてユーザ名とドメイン名との間にチルダ
[~]が介在しているところ,チルダはそれが付されたユーザホームディレ
クトリ内のファイルへのアクセス権がウェブサーバ管理者以外の者にも開
放されることを意味するから,サーバを通じて公開されるコンテンツのク
オリティをサーバ管理者自ら直接コントロールすることによってサーバ管
理者や商品役務の提供主体である広告主のブランド力を高めるという本願
発明が企図する目的は達成できないと主張するところ,確かに,乙3にお
いては,アドレスは , http://www.st.rim.or.jp/~ユーザ名 」
「 (乙3の165頁
右欄中の記載)とされ,ドメイン名とユーザのホームページとの間にチル
ダ[ ~]が介在している。
しかし,上記(1)に説示したとおり,特許請求の範囲から読み取ること
ができないような技術的意義を発明の要旨と認定することはできないとこ
ろ,原告主張の特許請求の範囲中 ,「所定の文字列からなるドメイン名の
サイト(14)が用意されると共に,インターネット(16)を介してイ
ンターネット端末(18)に接続されるWebサーバ(10)と前記サー
バに接続される端末(12)を備えた結婚式場等ブライダル情報の案内方
法において ,」とのみ述べた文言内容から,直ちに,ユーザディレクトリ
へのアクセス権ないしアップされるコンテンツの編成権をサーバ管理者が
独占する仕組みであるとの技術的意義を導くことはその文言内容からして
無理があるというほかなく,チルダ[~]が介在し,それが付されたユーザ
ホームディレクトリ内のファイルへのアクセス権がウェブサーバ管理者以
外の者にも開放される形態を全く排除しているとまで読み取ることはでき
ない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ なお,原告の,本願発明と引用発明という2つの構成から導き出される
効果の違いは極めて顕著である,との主張が採用できないことは,上記2
(4)ウで説示したとおりである。
(5) よって,取消事由2は理由がない。
4 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 田 中 孝 一
最新の判決一覧に戻る