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平成18(行ケ)10334審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成18年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告茂徳科技股份有限公司
法令 商標権
商標法4条1項4回
キーワード 審決30回
商標権2回
主文 1 特許庁が不服2004−16941号事件について平成18年2月28日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が後記商標の出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服と して審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消し を求めた事案である。

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判決文

平成18年12月25日言渡
平成18年(行ケ)第10334号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年11月27日
判 決
原 告 茂徳科技股份有限公司
訴訟代理人弁理士 小 谷 武
同 木 村 吉 宏
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 田 中 敬 規
同 田 代 茂 夫
同 内 山 進
主 文
1 特許庁が不服2004−16941号事件について平成18年2月28日にした
審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が後記商標の出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服と
して審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消し
を求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年5月26日,後記本願商標につき商標登録出願(以下「本
願」という。)をしたが,平成16年5月14日に特許庁から拒絶査定を受けた
ので,これに対する不服審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2004−16941号事件として審理した上,平成18年
2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本
は平成18年3月20日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加さ
れた。
(2)本願商標の内容(甲1)
ア 商標
イ 指定役務
第42類
「各種コンピュータ製品・電子製品・通信製品・情報製品及びこれらの
周辺機器・構成部分・部品の研究・開発・設計・検査・試験」
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商
標は,下記引用商標1及び2とは,外観において相違し,観念において比較
することができないとしても,称呼において類似し,かつ,本願商標の指定
役務と同一又は類似の役務が引用商標1及び2の各指定役務中に包含されて
いるから,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができない,と
したものである。

ア 引用商標1(登録4735251号) イ 引用商標2(登録4735252号)
・ 商標(標準文字) ・ 商標
「プラモス」
・指定役務(引用商標1及び2に共通)
第40類
「合成樹脂成形品の成形加工,合成樹脂成形品の成形加工に関するコ
ンサルティング,合成樹脂成形品の二次加工,合成樹脂成形品の二
次加工に関するコンサルティング,合成樹脂成形用金型の加工,合
成樹脂成形品の成形加工のための光造形模型の製作,金属の加工,
ゴムの加工,プラスチックの加工,セラミックの加工,木材の加
工,紙の加工,石材の加工,廃棄物の再生,材料を特定しない総合
的な材料処理情報の提供,印刷」
第42類
「合成樹脂成形品の形状設計・評価・助言及び技術指導,合成樹脂成
形品用金型の設計・助言及び技術指導,合成樹脂成形品及びその二
次加工品に関する試験・技術指導,合成樹脂成形品の破壊解析,機
械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械
等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプ
ログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用
途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又
は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説
明,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研
究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験
・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,計測器の貸与,
電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具
の貸与」
・ 出願日(共通)
平成14年11月29日
・ 登録日(共通)
平成15年12月19日
・ 商標権者(共通)
ダイセル化学工業株式会社
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決が,本件商標は引用商標1,2との関係で商標法4条
1項11号に該当すると判断したことは,以下のとおり誤りであり,審決は違
法として取り消されるべきである。
ア(「プロモス」の称呼のみを取り出して類否判断に供したことの誤り)
審決は,本願商標から「ProMOS」の文字部分のみを分離・抽出し,これ
より「プロモス」の称呼をも生ずるとして,各引用商標との類否判断を行
っているが,このような審決の認定は誤りである。
(ア)(図形部分と文字部分を分離して認定したことの誤り)
確かに,本願商標中の図形及び各欧文字は段を違えて表されてはいる
が,各欧文字は上段に表された図形の横幅に合わせてバランスよく2段
に配されているものであり,商標全体としては,やや横長の四角形の枠
内にすべての構成要素が配されたまとまりのある態様として,渾然一体
の商標と需要者らには認識されるものである。このようなまとまりのあ
る商標を,単に図形と文字という相違によって,また文字の大きさ等の
相違により,それぞれをばらばらにとらえた上で,ここから「ProMOS」
の部分のみを抽出することは妥当ではない。
実際,本願商標は「ProMOS」のみから成るものではなく,これは図形
を含めた態様そのままに使用され,自他役務の識別に機能するものであ
る。その際,これより図形部分を無視することはできず,同様に
「TECHNOLOGIES」の文字も無視されるものではないため,まとまりのあ
る全体的な構成と相まって,需要者らには「図形+プロモステクノロジ
ーズ」との理解でとらえられ,称呼も「プロモステクノロジーズ」のみ
を生ずる。
本願商標はすべての構成要素が渾然一体となった態様であり,殊更
「ProMOS」の部分のみが分離・抽出されるものではないため,これらの
構成要素をばらばらにして本願商標を把握しようとする審決の判断手法
は誤っている。
(イ)文字部分の称呼の一体性
本願商標が図形部分を含めて渾然一体であることは上記のとおりであ
るが,このうち「ProMOS/TECHNOLOGIES」の文字部分のみをとってみて
も,ここからは「プロモステクノロジーズ」の称呼のみが生ずるのであ
り,「プロモス」の称呼のみを分離するべきではない。
すなわち,「ProMOS/TECHNOLOGIES」は,原告の英語社名を表してお
り,この一連で一つの企業体を指すものである。したがって,本願商標
において,「ProMOS/TECHNOLOGIES」の文字部分は一体的な称呼におい
てのみ認識されるべきものである。
イ(本願商標の「プロモス」の称呼と引用商標の「プラモス」の称呼とが類
似すると判断したことの誤り)
仮に,本願商標中の「ProMOS」の文字から「プロモス」の称呼が生じる
としても,以下のとおり,各引用商標の称呼である「プラモス」に類似す
るものではなく,両者が類似するとした審決の判断は誤りである。
(ア)審決は,本願商標の「プロモス」と各引用商標の「プラモス」に関
し,「ロ」と「ラ」は発音が近似すること,称呼上の差異を明確に聴別
し難い構成音の第2音に位置することを理由に,称呼上類似であると判
断している。しかし,比較の対象はあくまでも「プロモス」と「プラモ
ス」なのであって,それぞれの称呼の長さや,前後の音との関係等にお
いてみれば,単に第2音目に差異音が位置するからといって類似するわ
けではなく,また混同が生ずるものでもない。
すなわち,まず,「プロモス」と「プラモス」はいずれもわずか4音
という短い称呼であって,そのような短い称呼中にあっての1音の差異
というのは,全体的な称呼に及ぼす影響は決して小さくない。審決は,
両商標の差異音の位置に関し,差異を明確に聴別し難い第2音に位置す
るとしているが,全体で4音しかない称呼の第2番目に位置する音とい
うのは,第1音目の新鮮な印象を受け継いでいるのであり,どのような
音が発せられるのか,これを聞く者にいまだ関心を抱かせるものである
から,むしろ差異は明確であるといえる。
(イ)本願商標の「プロモス」の場合は,第2音の「ロ」と次の「モ」の母
音が同じオ段に属する音であるため,「ロモ」の部分が滑らかにつなが
り,全体としても比較的滑らかに「プロモス」と発音される。一方,各
引用商標の「プラモス」は,第2音の「ラ」がア段に属する音であり,
これは口を大きく開けて明りょうに発音される音であるため,「ラモ」
のつながりも本願商標ほどに滑らかなものではない。むしろ引用商標
は,「ラ」で一度大きく開いた口を,次の「モ」で先をすぼめるように
しなければならない作業が加わるため,「プラモス」の全体としても滑
らかな発音というよりは,1音1音がメリハリをもって発音されるもの
といえ,その中にあって差異音である「ラ」はことさら明りょうに発音
されるものである。
(ウ)さらに,両称呼は「プロ・モス」及び「プラ・モス」という2音節か
ら成るものとみるのが自然であり,称呼される両者においては,「プ
ロ」あるいは「プラ」という塊が称呼においても意識されることとな
る。
そして,本願商標の「プロモス」のうちの「プロ」は,「プロフェッ
ショナル,専門職にふさわしい」などの意味を有する語として我が国で
親しまれており,「プロ」という発音は我が国の需要者らにとっては非
常に馴染みのある発音となっているため,他の音と聞き違える場合は少
ない。他方,各引用商標の「プラモス」のうちの「プラ」は,「プラス
チック」の略語として我が国では親しまれているため,同様に,他の音
との間で聞き違いをすることは少ない。
(エ)「プロ」や「プラ」から生まれる意味合いという点に関し,審決は,
「プロモス」及び「プラモス」はいずれも特定の意味合いを生じること
のない造語から成るものとして,観念において比較することができない
と述べるにとどまる。しかし,本願商標の「Pro」からは「プロフェッ
ショナル」のようなイメージが生じ,引用商標の「プラ」「PLA」から
は「プラスチック」といったイメージが生じることも確かであるから,
上記(ウ)のとおり親しまれた発音であるだけにこれが称呼の聞き取りに
おいて影響を及ぼさずにはおかず,さらには,商標より生ずるイメージ
の一部を担う部分であるため,こうした相違は商標を区別しやすい方向
に作用しこそすれ,その逆はあり得ない。
ウ(総合的な考察による類否判断の誤り)
(ア)商標の類否判断については,商標の有する外観,称呼及び観念のそれ
ぞれの判断要素を総合的に考察すべきものであるところ,審決は,この
うちの称呼が類似することから,本願商標は引用商標と類似する,と判
断したものである。
しかし,本願商標の「ProMOS」の文字部分から単独の称呼が生ずると
しても,これにより図形部分や「TECHNOLOGIES」の文字部分が消えてな
くなるわけではないので,その場合でも図形等の印象が商標の類否判断
において深く影響する。本願商標は全体が図形を含めてまとまりのよい
構成であり,特に本願商標にあって図形は目立つため,看者はその全体
を記憶することとなる。よって,仮に「プロモス」の称呼により本願商
標が取引に資されることがあったとしても,それは図形と文字とが一体
となった商標であることが需要者らの念頭にあるものであって,プロモ
ス・テクノロジーズ社の社章という意識が記憶にも残るものであるか
ら,単なる文字商標でありしかも発音が異なる引用商標とは,容易に識
別が可能である。
(イ)商標の類否判断は,商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層
その他商品又は役務の取引の実情を考慮し,需要者の通常有する注意力
を基準として判断しなければならない。ここにいう取引の実情を,当該
指定商品や役務に係る一般的・恒常的な取引の実情をいうとして検討す
れば,本願商標と各引用商標とは非類似といえる。
本願商標の指定役務は,他人からの依頼に基づき,コンピュータ機器
等の研究や開発,設計を行い,また,これらの機能や性能につき検査や
試験を行うというサービスである。これらのサービスの需要者層は当然
にコンピュータ等を扱う専門の業者が主となるのであり,分野としては
非常に限られた特殊な範囲が対象となっている。このような特殊なサー
ビスについては,どのような会社がこれを提供するのかということは重
要であるから,こうした分野における需要者の商標を見る際の注意力と
いうのも,一般消費財などの需要者に比較して高いといえる。
一方,各引用商標は本願の指定役務のように対象商品が限定された特
殊な分野のサービスを明確に含むものではない。仮に,類似範囲とされ
る分野について各引用商標が使用されたとしても,少なくとも本願の指
定役務の分野は上記の通り限定されており,当該分野の需要者らは通常
一般の商品の需要者より注意力は高いといえるため,依然としてここに
両商標が類似のものとして受け取られるおそれはない。
また,人が直接提供を行うサービスの分野については,提供主体こそ
が重要なのであるから,役務に用いられる商標においては,それ自体が
転々流通する商品と比較して,商標とその提供主体との結び付きはより
強くなっている。よって,サービスが商標の称呼のみにより取引に資さ
れる場合は少なく,仮に口頭や電話で取引が行われることがあったとし
ても,相手方が重要なのであるから,この場合も現に向き合っている相
手を十分に理解した上で取引を行い,万一,相手を誤認して話を進めて
も取引自体が進まない。こうした実態を考慮すれば,本願商標の一部分
の称呼のみが一人歩きするということも考え難い。
(ウ)判例によれば,商標の類否については,対比される両商標が同一・類
似の商品について使用された場合に,商品の出所について誤認混同のお
それがあるか否かによって決すべきであることを前提に,そのためには
「その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況
に基づいて判断するのを相当とする」(最高裁昭和43年2月27日第三小
法廷判決・民集22巻2号399頁参照)とされている。
そこで,本件に関する具体的な取引の実情を検討すると,まず本願商
標については,これは指定役務がすでに相当程度具体的に限定されてお
り,その内容も上記に説明したとおりであるところ,需要者層はコンピ
ュータ等の分野の専門業者が主であり,商標は原告会社そのものを表し
ている。他方,引用商標はその指定役務に特に合成樹脂成形品に関する
サービスを明記していることからも分かるように,これは実際には「合
成樹脂成形品の形状設計・評価・助言及び技術指導,合成樹脂成形品の
破壊解析」などについて使用されるものであり,商標は当該サービス自
体の名称である。
本願商標及び各引用商標は,使用対象となるサービスがこのように異
なるのであり,その需要者も共通性を見いだせず,そもそも役務の提供
主体等の混同を生じる前提が存在しないともいえる。このように,具体
的な取引の実情にかんがみれば,ますます本願商標と各引用商標とが混
同される余地のないことは明らかである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり原告主張の取消事由はい
ずれも理由がない。
(1)原告の主張アに対し
本願商標は,その構成に照らせば,図形部分と欧文字部分とが視覚的に分
離して看取され得るばかりでなく,その構成全体をもって特定の称呼,観念
を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特
段の事情は見いだし得ないものであるから,本願商標は,その図形部分と欧
文字部分とがそれぞれ独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得
るというべきである。
そして,本願商標の構成中の欧文字部分についてみるに,「ProMOS」の文
字は「TECHNOLOGIES」の文字に比べて大きく,特定の意味合いを生ずること
のない造語から成るものであり,それ自体,独立して自他役務の識別標識と
しての機能を果たし得るものである。また,「ProMOS/TECHNOLOGIES」とい
う全体の文字数は18字と冗長なものであって,ここから生ずる「プロモステ
クノロジーズ」の称呼も11音と冗長なものであるから,一気一連に称呼され
るとはいい難いものである。
そうすると,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際において,本願商標に接する取
引者,需要者は,その構成中のほぼ中央に顕著に表された「ProMOS」の文字
部分に着目し,当該文字に相応する称呼をもって取引に資する場合も決して
少なくないと考えられるから,本願商標は,「ProMOS」の文字部分から「プ
ロモス」の称呼をも生ずるというべきである。
(2)原告の主張イに対し
本願商標から生ずる「プロモス」の称呼と,各引用商標の「プラモス」の
称呼とは,共に4音から成り,そのうちの第2音において「ロ」と「ラ」の
音の差異を有するにすぎない上,差異音である「ロ」と「ラ」とは発音・調
音の方法が近似する。また,第2音は,明瞭に発音され聴取される語頭音
「プ」の直後である関係上,比較的弱く響く音となり,明瞭に聴取され難い
ものとなる。
これらのことからすれば,それぞれを一連に称呼するときは,語感,語調
が近似し,互いに聴き誤るおそれがあるというべきである。
(3)原告の主張ウに対し
ア 審決は,本願商標について分離観察を行い,本願商標の「ProMOS」が独
立した自他役務の識別標識としての機能を果たすと認定した上,当該文字
部分と引用商標1,2の「プラモス」及び「PLAMOS」の文字とは,称呼上
類似するものであり,しかも,いずれも特徴のない一般的な書体をもって
表されていて,外観上,看者に強い印象を与えるような差異を有するもの
ではなく,また,いずれの文字も特定の観念を生ずることのない造語から
なるものであることから,本願商標と各引用商標との外観,称呼及び観念
の各要素を総合的に検討した結果,本願商標と引用商標とは類似するもの
であると判断したものである。その認定及び判断に,原告主張の誤りはな
い。
イ また指定役務の取引の実情を踏まえて判断しても,本願商標に係る指定
役務の対象となる製品は,非常に広範囲にわたるものであるから,同種の
役務を提供する企業が多数存在することは容易に推認できるところであ
り,そのような多数の企業の中から取引先を選択する過程においては,新
聞や雑誌等の各種媒体による宣伝広告,報道,記事等を通じて本願商標を
記憶し,その記憶を通じて,取引に資するものと考えられる。そして,そ
の際には,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成全体のほぼ中央
に大きく顕著に表され,それ自体,特定の観念を生ずることのない造語か
ら成るものであって独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得
る「ProMOS」の文字部分に着目し,これをもって取引に資する場合も決し
て少なくないというべきである。
また,当該役務の取引において,FAXや電子メールといった通信手段
を用いて取引が行われる場合があることは被告も否定するものではない
が,そのような場合があることをもって直ちに,当該通信手段による取引
形態が一般的で主流となっているとまではいい難く,むしろ簡易,迅速を
尊ぶ取引の実際においては,極めて簡便な電話を用いた口頭による取引を
行う場合も決して少なくないと考えられる。
そして,口頭による取引を行うに当たっては,その取引において使用さ
れる商標から生ずる称呼が役務の識別に際し重要な要素となり得るとこ
ろ,前記(2)のとおり,本願商標と各引用商標との語感,語調が近似し,互
いに聴き誤るおそれのある商標というべきである。
ウ 原告は,指定役務の取引の実情に照らせば出所の混同が生じないと主張
する。しかし,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情とは,その
指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的なそれを指すもので
あって,単に該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特
殊的,限定的なそれを指すものでないところ,原告の述べる本願商標及び
各引用商標に係る具体的な取引の実情とは,単に各商標が現在使用されて
いる役務についての特殊的,限定的なものにすぎず,その指定役務全般に
ついての一般的,恒常的な取引の実情とはいい得ないものであるから,こ
のような実情を前提に,本願商標と各引用商標について,役務の提供主体
等の混同を生ずることはないとする原告の主張は,失当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願商標の内容)及び
(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下において,原告主張の取消事由に基づき,審決の当否を判断す
ることとする。
2 原告の主張アについて
(1)原告は,審決が,本願商標から「プロモス」の称呼が生ずるとして,同称
呼を各引用商標との類否判断に供したことは誤りであると主張する。しか
し,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。
(2)本願商標は,前記のとおり,図形と文字とを三段に配した組み合わせから
構成されているところ,上段に配される図形部分は特定の称呼,観念を生じ
させない抽象的な図形である。そして,本願商標の全体的な構成を見ても,
上段の図形部分の全体的な形状はほぼ長方形であり,中段及び下段の
「ProMOS」「TECHNOLOGIES」の文字も標準的な書体で書されており,これら
が上下三段に平行に配されているにすぎないから,図形と文字とが一体とな
って一つのデザインを形成しているものとも認められない。
したがって,図形部分と,中段及び下段の「ProMOS」「TECHNOLOGIES」と
を,常に一体のものとして把握しなければならない理由は見いだし難い。原
告は,上下三段の横幅が揃えられていること等から,やや横長の四角形の枠
内にすべての構成要素が配されたまとまりのある態様として渾然一体のもの
として需要者らに認識されると主張するが,これらの特徴は,本願商標を把
握するに当たり文字部分を図形部分から分離することの妨げになるものとは
いえない。
(3)次に,「ProMOS」「TECHNOLOGIES」の文字部分から生ずる称呼について検
討すると,下記①∼③の点に照らして,本願商標に接する取引者・需要者
は,「ProMOS」の部分に着目すると認められるから,本願商標からは,
「ProMOS」を英語風に発音した「プロモス」の称呼が生ずると認められる。

①「ProMOS」「TECHNOLOGIES」とが上下二段に配置されており,両者を
一体として把握しなければならないものではない。
②「ProMOS」の文字が,「TECHNOLOGIES」よりも大きな書体で記されて
いる。
③「ProMOS」は特段の意味を持たない造語であって固有名詞であると認
識される可能性が高い。これに対し,「TECHNOLOGIES」が,英語の普
通名詞「Technology」の複数形であることは公知の事実であり,「広
辞苑」(第5版)にも「テクノロジー【Technology】①技術学。工
学。②科学技術」との項目があることからも明らかなように,外来語
としてすでに一般化している。
原告は,「ProMOS TECHNOLOGIES」が原告の英語社名を表しており,一連で
一つの企業体を指すものであること等を理由に,「ProMOS TECHNOLOGIES」の
文字部分からはこれらを一体とした「プロモステクノロジーズ」の称呼のみ
が生ずると主張するが,上記①∼③の点に照らせば,「プロモス」のみの称
呼も生ずるというべきであり,採用することができない。
3 原告の主張イについて
(1)原告は,審決が,本願商標から生ずる「プロモス」の称呼と,各引用商標
から生ずる「プラモス」の称呼とが類似すると判断したことは誤りであると
主張するので検討する。
(2)「プロモス」の称呼と「プラモス」の称呼とは,ともに4音構成から成
り,そのうち「プ」「モ」「ス」の3音を共通にしている。そして,相違す
る第2音目の「ロ」と「ラ」についてみると,両音は,ともにラ行に属し子
音「r」を共通にしており,異なる母音の「o」と「a」とは,いわゆる母
音三角形の隣同士に位置し調音方法も類似する音声であって(1976年8月10日
第3版発行「音聲學大辞典」株式会社三修社刊),近似する音として聴取されること
が認められる。しかしながら,その一方で,「プロモス」及び「プラモス」
のような称呼を一連に発音するときは,語頭の「プ」ではなく第2音の
「ロ」又は「ラ」に強勢が置かれるのが一般的であることは,当裁判所に顕
著な事実である。
そうすると,「プロモス」「プラモス」の両称呼をそれぞれ一連に発音す
るときは,その語調,語感がある程度は近似するといえるものの,これを耳
にする者にとって,両称呼を区別することは多くの場合に可能であると認め
られる。したがって,審決が,両商標は称呼において類似すると断定したこ
とは,適当ではないといわざるを得ない。
4 原告の主張ウについて
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合
に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべ
きであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に
考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具
体的取引状況に基づいて判断すべきである。また,商標の外観,観念又は称
呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測
させる一応の基準にすぎず,したがって,上記三点のうちその一において類
似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等
によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについて
は,これを類似商標と解すべきでない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷
判決・民集22巻2号399頁参照)。このことは,商品ではなく役務について
用いられる商標においても同様であると解される。
そこで,上記の見地に立って原告主張の取消事由の当否について検討す
る。
(2)本願商標と引用商標とは,審決が認定するとおり(審決3頁第6段落),
外観において相違し,観念において比較することができないものである上
に,上記3のとおり,称呼において近似するものではあるが,多くの場合に
区別が可能であるものと認められる。
そして,これらの外観,観念,称呼によって取引者に与える印象,記憶,
連想等について検討すると,「広辞苑」(第5版)には,「プロ」で始まる
外 来 語 と し て 「 プ ロ グ ラ ム 」 ( program) 「 プ ロ ダ ク シ ョ ン 」
(production)「プロフェッショナル」(professional)等の多数の項目が
あり,「プロ」の項に「プログラム,プロダクション,……,プロフェッシ
ョナル,……などの略」と記載されているところからみて,「プロ」で始ま
る「プロモス」の称呼に接した者は,これらのものを連想するものと認めら
れる。また,「プラ」で始まる外来語としては「プラスチック」
(plastic)が著名であり,「広辞苑」(第5版)には「プラモデル」の項
に「(プラスチック・モデル plastic model に由来する商品名)プラスチッ
ク製の部品を組み立てる模型名」との記載があるとおり,「プラスチック」
を「プラ」と略することも一般に行われているところからみて,「プラ」で
始まる「プラモス」の称呼に接する者は,プラスチックに関連した印象を抱
くものと認められる。これらの事情を考慮すれば,取引者に与える印象,記
憶,連想の点からみても,本願商標と引用商標とを識別することは十分に可
能である。したがって,外観,観念,称呼を総合的に観察すれば,本願商標
と引用商標とは,類似する商標であるということはできない。
(3)さらに,指定役務の取引の実情を踏まえて判断すれば,役務の出所に誤認
混同をきたすおそれはきわめて小さいものというべきである。
本願の指定役務は前記のとおり「各種コンピュータ製品・電子製品・通信
製品・情報製品及びこれらの周辺機器・構成部分・部品の研究・開発・設計
・検査・試験」である。これらの指定役務の性質自体からして,これらの役
務を発注しようとする者(取引者・需要者)の大部分は,情報通信分野を中
心とする電子機器・部品の製造業者,流通業者等であることが,容易に推認
される。そうすると,本願商標を使用した役務の取引者・需要者は,当該役
務に関して一定程度以上の知識経験を備えた少数の者に限られると解され
る。
また,本願商標の指定役務の提供は,例えばコンピュータ製品の開発であ
れば,専門的な知識及び経験を備えた技術者によって,高度の技術及び/又
は特別の設備を用いて行われるものであって,その他の指定役務について
も,程度の差こそあれ,その提供には相応の人的・物的資源を要することが
容易に推認される。そして,本願商標を使用した役務の取引者・需要者は,
自らが有する知識経験に基づいて,役務の提供者が有するこれらの人的・物
的資源を慎重に検討した上で,当該役務の提供を発注する否かを決定するこ
とが明らかである。
これらの事情にかんがみると,本願商標の指定役務の取引者・需要者は,
本願商標の一部分から生ずる称呼にすぎない「プロモス」という称呼のみに
よってその役務を発注することはないか,あったとしても極めてまれである
と認められる。したがって,本願商標から生ずる「プロモス」の称呼が各引
用商標の「プラモス」の称呼と近似することのみをもって,役務の出所に誤
認混同が生ずるおそれがあるということはできない。被告は,簡易迅速を尊
ぶ取引の実際においては,極めて簡便な電話を用いた口頭による取引を行う
場合も決して少なくないと考えられると主張するが,上記の点に照らして採
用することができない。
(4)一方,被告は,本願商標及び各引用商標の指定役務に係る取引の実情とし
て原告が主張する内容は各商標が現在使用されている役務についての特殊
的,限定的なものにすぎず,各商標の指定役務全般についての一般的,恒常
的な取引の実情とはいい得ない,と主張する。
確かに,原告の主張中には,本願商標についての出願人の使用状況及び各
引用商標についての商標権者(ダイセル化学工業株式会社)の使用状況を指
摘した上,これらを「取引の実情」として考慮すれば役務の出所の誤認混同
は生じないと主張している部分があるところ,原告主張のうちこれらの指摘
事項は,各商標の指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情では
なく,各商標が現在使用されている役務についての特殊的,限定的な取引の
事情にすぎないから,登録出願された商標が商標法4条1項11号に該当する
か否かの判断において参酌すべきものではない。しかし,上記(3)のとお
り,本願商標の指定役務は,役務の性質自体からして,正に「一般的,恒常
的」に,限られた範囲の取引者,需要者によって,役務の提供者の能力等に
ついての十分な注意のもとに発注されるものと推認できるのであるから,こ
のことを看過している点において,審決の判断には誤りがあるといわざると
得ない。
(5)したがって,本願商標と各引用商標とは,同一または類似の商品に使用さ
れた場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められ
ず,互いに類似する商標であるということはできない。
5 結語
以上のとおり,審決には,商標法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法
があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすべきものである。よって,原告
の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 岡 本 岳
裁判官 上 田 卓 哉

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