平成17(行ケ)10735審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年12月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y 原告株式会社キーエンス
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対象物 |
光学顕微鏡及び光学顕微鏡の深度測定方法 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
審決141回 進歩性22回 実施8回 無効5回 新規性4回 特許権1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「光学顕微鏡及び光学顕微鏡の深度測定方法」とす
る特許第3544019号発明(平成6年12月2日出願〔以下「本件出
願」という。〕,平成16年4月16日設定登録。以下「本件特許」とい
う。)の特許権者である。 |
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判決文
平成17年(行ケ)第10735号 審決取消請求事件(平成18年12月7日口
頭弁論終結)
判 決
原 告 株 式 会 社 キ ー エ ン ス
訴訟代理人弁理士 小 栗 昌 平
同 本 多 弘 徳
被 告 Y
訴訟代理人弁理士 大 山 健 次 郎
同 小 山 有
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2004−80226号事件について平成17年9月7日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「光学顕微鏡及び光学顕微鏡の深度測定方法」とす
る特許第3544019号発明(平成6年12月2日出願〔以下「本件出
願」という。〕,平成16年4月16日設定登録。以下「本件特許」とい
う。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成16年11月12日,原告を被請求人として,本件特許を無
効とすることを求めて審判の請求をした。
特許庁は,上記請求を無効2004−80226号事件として審理した上,
平成17年9月7日,「特許第3544019号の請求項1乃至5に係る発
明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月20日,
原告に送達された。
2 本件特許の特許公報(甲11,以下「本件明細書」という。)の特許請求の
範囲の請求項1ないし5に記載された発明(以下,請求項1に記載された発明
を「本件発明1」などという。)の要旨
【請求項1】レーザ光を出射するレーザ光源と,
上記レーザ光を試料付近に集光するための対物レンズと,
共焦点位置に配置され,上記試料でのレーザ反射光を受光するための一次元
イメージセンサと,
上記試料でのレーザ光の集光位置を上記一次元イメージセンサの長手方向に
対応する方向にのみ一次元的に走査するために,レーザ光を偏向する偏向手段
と,
上記試料を載置するための試料ステージを深さ方向にのみ上記偏向手段と同
期して駆動するように制御するステージ制御手段と,
上記試料ステージの深さ方向の情報とそれに対応する上記一次元イメージセ
ンサの各素子での受光量の情報に基づいた各素子についての受光量のピーク位
置を記憶することで,当該ピーク位置に基づく深度の情報を記憶する記憶部と,
上記深度の情報から試料の断面の情報を求める演算手段と,
上記試料に光を照射するための上記レーザ光源とは異なる観察用光源と,
上記観察用光源からの上記試料での反射光を上記対物レンズを介して受光す
る撮像装置とを有することを特徴とする光学顕微鏡。
【請求項2】請求項1において,上記撮像装置で撮像された画像に,上記断
面の情報を重ね合わせた画像信号を出力することを特徴とする光学顕微鏡。
【請求項3】請求項1または2において,上記撮像装置からの画像信号を記
憶するフレームメモリと,このフレームメモリの画像信号または上記撮像装置
からの出力を選択的に切り換えてモニタに出力するセレクタとを備えた光学顕
微鏡。
【請求項4】請求項1∼3のいずれかにおいて,試料を載置した試料ステー
ジをオートフォーカスモードにおいて上下動させ,上記一次元イメージセンサ
からの出力を取り込んで受光光量が最大となったときの試料ステージの高さを
選択するオートフォーカス装置を備えた光学顕微鏡。
【請求項5】レーザ光により試料を1次元的に走査し,一次元イメージセン
サにおいて受光した試料からのレーザ反射光の受光量及び上記試料が載置され
た試料ステージの深さ方向の位置を記憶部に記憶する第1ステップと,上記試
料ステージを一段階深さ方向に上昇または下降させる第2ステップと,
レーザ光により試料表面を1次元的に走査し,一次元イメージセンサにおい
て受光した受光量が上記記憶部に記憶された受光量よりも大きい場合に,上記
記憶部に記憶された受光量と深さ方向の位置を書き換える第3ステップと,
上記試料ステージが第2ステップにおいて上昇された場合には,上記試料ス
テージが上昇端になるまで上記第2ステップでの上昇と上記第3ステップを繰
り返し,上記試料ステージが第2ステップにおいて下降された場合には,上記
試料ステージが下降端になるまで上記第2ステップの下降と上記第3ステップ
を繰り返す第4ステップと,
上記記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情報として撮像装置
で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステップとを有すること
を特徴とする光学顕微鏡の深度測定方法。
3 審決の理由
(1) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1は,昭和63年1月
1日発行「映像情報 INDUSTRIAL;1988 Vol.20,No.1」(甲3,
以下「引用例3」という。)に記載された「共焦点顕微鏡において,レーザ
光を出射するレーザ光源と,レーザ光を試料に集光するための対物レンズと,
CCDからなる検出素子と,レーザ光を水平方向に走査するための音響光学
偏向素子と,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,各画素
について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素
の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状を測定する手段と,試料
の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と,を備えた共焦点
顕微鏡」の発明(以下「甲第3号証発明1」という。)及び周知技術に基づ
いて,当業者が容易に想到することができたものであり,本件発明2は,引
用例3及び特開平5−176228号公報(甲6,以下「甲6公報」とい
う。)に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到す
ることができたものであり,本件発明3は,引用例3,甲6公報及び特開昭
63−86977号公報(甲7,以下「甲7公報」という。)に記載された
発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたもの
であり,本件発明4は,引用例3,甲6公報,甲7公報及び実開平6−55
112号公報(甲8,以下「甲8公報」という。)に記載された発明並びに
周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであり,本
件発明5は,引用例3に記載された「試料に対し音響光学偏向素子によりレ
ーザ光を水平方向に走査し,CCDにより試料からの反射光を受光するとと
もに,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,各画素につい
て最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素の奥行
方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状すなわち断層像を測定する手段
と,試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて表示する共焦点顕微鏡による
表面形状測定方法」の発明(以下「甲第3号証発明2」という。)及び周知
技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとして,本
件発明1ないし5に係る特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反し
てされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきもので
あるとした。
(2) 審決が認定した,本件発明1と甲第3号証発明1との一致点及び相違点は,
それぞれ次のとおりである(なお,A∼Iの符号は,被告が審判請求書にお
いて,本件発明1の構成の分節のために使用した符号であり,審決も同符号
を使用しているので,これを引用する。)。
ア 一致点
レーザ光を出射するレーザ光源と(A),上記レーザ光を試料付近に集
光するための対物レンズと(B),共焦点位置に配置され,上記試料での
レーザ反射光を受光するための一次元イメージセンサと(C),上記試料
でのレーザ光の集光位置を上記一次元イメージセンサの長手方向に対応す
る方向にのみ一次元的に走査するために,レーザ光を偏向する偏向手段と
(D),上記試料を載置するための試料ステージを深さ方向にのみ上記偏
向手段と同期して駆動するように制御するステージ制御手段と(E),上
記試料ステージの深さ方向の情報とそれに対応する上記一次元イメージセ
ンサの各素子での受光量の情報に基づいた各素子についての受光量のピー
ク位置を記憶することで,当該ピーク位置に基づく深度の情報を記憶する
記憶部と(F),上記深度の情報から試料の断面の情報を求める演算手段
と(G),を備えた光学顕微鏡。
イ 相違点
本件発明1が,試料に光を照射するためのレーザ光源とは異なる観察用
光源と(H),上記観察用光源からの上記試料での反射光を上記対物レン
ズを介して受光する撮像装置(I)を備えているのに対し,甲第3号証発
明1では,試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と
有しているものの,前記構成(H)及び(I)については記載がない点。
(3) 審決が認定した,本件発明5と甲第3号証発明2との一致点及び相違点は,
それぞれ次のとおりである(なお,M∼Qの符号は,被告が審判請求書にお
いて,本件発明5の構成の分節のために使用した符号であり,審決も同符号
を使用しているので,これを引用する。)。
ア 一致点
レーザ光により試料を1次元的に走査し,一次元イメージセンサにおい
て受光した試料からのレーザ反射光の受光量及び上記試料が載置された試
料ステージの深さ方向の位置を記憶部に記憶する第1ステップと(M),
上記試料ステージを一段階深さ方向に上昇または下降させる第2ステップ
と(N),レーザ光により試料表面を1次元的に走査し,一次元イメージ
センサにおいて受光した受光量が上記記憶部に記憶された受光量よりも大
きい場合に,上記記憶部に記憶された受光量と深さ方向の位置を書き換え
る第3ステップと(O),上記試料ステージが第2ステップにおいて上昇
された場合には,上記試料ステージが上昇端になるまで上記第2ステップ
での上昇と上記第3ステップを繰り返し,上記試料ステージが第2ステッ
プにおいて下降された場合には,上記試料ステージが下降端になるまで上
記第2ステップの下降と上記第3ステップを繰り返す第4ステップと
(P),を有することを特徴とする光学顕微鏡の深度測定方法。
イ 相違点
本件発明5が,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情報
として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステ
ップ(Q)を有するのに対し,甲第3号証発明2では,試料の2次元画像
と断層像が重ね合わせて表示するステップを有するものの,前記構成
(Q)については記載がない点。
第3 原告主張の審決取消事由
審決は,甲第3号証発明1及び2の認定を誤り(取消事由1),また,その
余の引用発明の認定を誤り(取消事由2),本件発明1と甲第3号証発明1及
び本件発明5と甲第3号証発明2との相違点をそれぞれ看過し(取消事由3),
本件発明1の進歩性についての判断を誤り(取消事由4),本件発明1ないし
5の進歩性についての判断を誤り(取消事由5),その結果,本件発明1ない
し5は,当業者が容易に想到できたものであるとの誤った結論を導いたもので
あり,違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(甲第3号証発明1及び2の認定の誤り)
(1) 審決は,引用例3に,甲第3号証発明1として,「共焦点顕微鏡において,
レーザ光を出射するレーザ光源と,レーザ光を試料に集光するための対物レ
ンズと,CCDからなる検出素子と,レーザ光を水平方向に走査するための
音響光学偏向素子と,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,
各画素について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,
各画素の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状を測定する手段と,
試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と,を備えた共
焦点顕微鏡」(審決謄本11頁第4段落)の発明が記載されていると認定し
たが,引用例3においては,試料の2次元画像を得る具体的方法の記載があ
るにもかかわらず,これを認定しなかった点において誤りがある。
(2) 審決は,引用例3に,甲第3号証発明2として,「試料に対し音響光学偏
向素子によりレーザ光を水平方向に走査し,CCDにより試料からの反射光
を受光するとともに,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,
各画素について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,
各画素の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状すなわち断層像を
測定する手段と,試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて表示する共焦点
顕微鏡による表面形状測定方法」(審決謄本15頁第1段落)の発明が記載
されていると認定したが,引用例3においては,撮像装置につき,具体的な
記載があるにもかかわらず,これを認定しなかった点において誤りがある。
(3) 引用例3の写真2は,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られる
合焦点画像の合成像(2次元画像)に,焦点移動メモリーに付随する別のメ
モリであるZ軸メモリからの表面形状出力(断層像)を重ねて表示したもの
として,一義的に理解できる。そして,このような表示方法は,甲第3号証
発明1及び2に固有必須の特徴的構成であり,それらの発明における2次元
画像は,焦点移動メモリーによって得られる合焦点画像の合成像に限定され
るものである。
審決は,引用例3の写真2に示された2次元画像が合焦点の合成像である
との認定を行わず,あたかも,一般化抽象化した2次元画像が表示されてい
るかのように認定し,引用例3には,試料の2次元画像を得る方法や撮像装
置についての記載があるにもかかわらず,甲第3号証発明1及び2に固有必
須の特徴的構成を無視し,2次元画像を得る方法や撮像装置についての記載
がないかのように認定した。これは,発明の対比における主引用発明の主要
構成部分に係る認定の誤りである。
2 取消事由2(その余の引用発明の認定の誤り)
(1) 審決は,「レーザ光を用いた光学顕微鏡において,レーザ光とは別個に白
色光等を試料に照射しその反射光を受光して試料画像を得る試料観察手段を
備えることは甲第1号証(注,特開平5−60978号公報,甲1,以下
「甲1公報」という。)及び参考資料(注,特開平1−123102号公報,
甲9,以下「甲9公報」という。)に開示されているように本願出願前周知
である。」(審決謄本13頁第3段落)と認定したが,誤りである。
甲1公報には,被測定物にレーザ光の波長以外の波長を有する光を照射す
るようにして,測定領域の確認をする構成が示されているにすぎず,これは,
試料の「断面情報」や「表面形状」(「断層像」)の測定とは全く関係がな
く,2次元画像と断層像とを重ね合わせて表示することとも関係がない。
また,甲9公報は,レーザ光と異なる波長の光を用いて,被測定物の測定
位置を観察する観察用光学系の構成を示すもので,トレンチ(深い溝)の深
さを測定する装置に関し,その第2∼3図のように,単に溝の深さである表
面と底面との差「H」を測定するものにすぎず,その「深さ」の意義は,本
件発明1の「断面形状」(「断層像」)を求めるための「深度の情報」の意
義とは異なり,試料の「断面情報」や「表面形状」(「断層像」)の測定を
示唆するものではなく,また,2次元画像と断層像とを重ね合わせて表示す
ることとは関係がない。
(2) 審決は,「甲第6号証(注,甲6公報)にも,電子顕微鏡装置において,
2次元画像と断面画像を重ね合わせて表示画像表示装置が開示されてい
る。」(審決謄本14頁第4段落)と認定したが,誤りである。
甲6公報には,「断面プロファイル」の用語が各所に記載されているが,
その「断面プロファイル」の用語の意義は,審決がいう「断面画像」(「断
層像」)とは全く別のものであり,甲6公報には,審決がいう「2次元画像
と断面画像を重ね合わせて表示」する画像表示装置は記載されていない。甲
6公報においては,画像検出器1により得られた2次元画像の画像情報があ
るのみで,試料の「表面形状」(「断層像」)の情報は得ておらず,審決は,
甲6公報に記載された「画像の断面」を,それとは異なる「試料の断面」と
誤認した。
被告は,電子顕微鏡で撮像された2次元画像の特定のラインに沿う濃度分
布は,試料の断面形状と厳格に対応する情報ではないが,試料の表面形状と
輝度分布との間の相関データを介して,電子顕微鏡により得られた2次元画
像の輝度分布から試料の表面形状を特定するために利用されている旨主張す
るが,電子顕微鏡の知見によれば,「原子番号効果」(甲14),「原子番
号効果−組成効果」(甲16)によって2次電子の量が変わり,凹凸がなく
ても濃淡の画面が表示されることがあるなど,種々の要因で2次電子の量が
変わり,表示される画面の濃淡が変化するから,電子顕微鏡によって,濃淡
のある画像を得たとしても,凹凸の実態(「断面画像」)を把握することは
できず,被告の主張は,失当である。
(3) 審決は,「甲第7号証(注,甲7公報)には,撮像装置と映像出力回路と
の間にフレームメモリとスイッチを接続した撮像装置が記載されている」
(審決謄本14頁第6段落)と認定したが,これは,共焦点顕微鏡には関係
がない甲7公報のカラー固体撮像装置の特徴的構成を無視してされたもので
あり,誤りである。
(4) 審決は,「甲第8号証(注,甲8公報)にはオートフォーカス機構を有す
るレーザ顕微鏡が記載されている」(審決謄本14頁第7段落)と認定した
が,これは甲8公報の共焦点顕微鏡の特徴的構成を無視してされたものであ
り,誤りである。
3 取消事由3(相違点の看過)
(1) 審決は,本件発明1と甲第3号証発明1との相違点を,前記第2の3(2)
イのとおり,「本件発明1が,試料に光を照射するためのレーザ光源とは異
なる観察用光源と(H),上記観察用光源からの上記試料での反射光を上記
対物レンズを介して受光する撮像装置(I)を備えているのに対し,甲第3
号証発明1では,試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手
段と有しているものの,前記構成(H)及び(I)については記載がない
点」(審決謄本12頁最終段落∼13頁第1段落)と認定したが,相違点を
看過しており,誤りである。
本件発明1の構成H,Iは,「試料に光を照射するためのレーザ光源とは
異なる観察用光源と(H)」及び「上記観察用光源からの上記試料での反射
光を上記対物レンズを介して受光する撮像装置(I)」という構成であり,
試料の2次元画像を得る手段をレーザ光源とは異なる観察用光源に限定した
構成である。一方,甲第3号証発明1は,共焦点光学系の焦点移動メモリー
による合焦点画像の「合成像である2次元画像」に,焦点移動メモリーに付
随するZ軸メモリからの断層像を重ねて表示するものとして,一義的に解さ
れる。
このことは,審判の審理における第1回口頭審理調書(乙1,以下「本件
調書」という。)においても,本件発明1と甲第3号証発明1との相違に関
し,両当事者間の確認事項として,「甲第3号証のものとは,本件特許1に
ついては,AからGについて一致し,H及びIで相違する。」と記載され,
また,被請求人(注,原告)の陳述として,「二次元画像を得る手段は異な
る」と記載されて,2次元画像を得る手段の相違が確認されている。
したがって,甲第3号証発明1と本件発明1の対比に当たっては,両者に
おいて「2次元画像を得る手段」が異なっているのであるから,その点を相
違点として認定しなければならないにもかかわらず,審決が,甲第3号証発
明1の「2次元画像」(合成像)を得る手段(共焦点光学系とその焦点移動
メモリー)を無視して相違点を認定したことは,相違点を看過したものであ
る。
(2) 審決は,本件発明5と甲第3号証発明2との相違点を,前記第2の3(3)
イのとおり,「本件発明5が,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を
断面の情報として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する
第5ステップ(Q)を有するのに対し,甲第3号証発明2では,試料の2次
元画像と断層像が重ね合わせて表示するステップを有するものの,前記構成
(Q)については記載がない点」(審決謄本16頁第1段落)と認定したが,
相違点を看過しており,誤りである。
本件発明5の構成Qは,「記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断
面の情報として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第
5ステップ(Q)」であり,これは,審決において認定された「試料の2次
元画像と断層像が重ね合わせて表示するステップ」(審決謄本16頁第1段
落),「試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて表示するステップ」(同
頁第3段落)に相当する。
一方,甲第3号証発明2は,「試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて
表示するステップ」として,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得ら
れる合成像である2次元画像に,焦点移動メモリーに付随するZ軸メモリか
らの表面形状出力(断層像)を重ねて表示することが一義的に対応する。
このことは,本件調書においても,本件発明5と甲第3号証発明2との相
違に関し,「MからPで一致し,Qで相違する」と記載されているほか,前
記(1)のとおり,「二次元画像を得る手段は異なる」と記載され,2次元画
像を得る手段の相違が確認されている。
したがって,甲第3号証発明2と本件発明5との対比に当たっては,両者
において「2次元画像を得るステップ」が異なっているのであるから,その
点を相違点として認定しなければならないにもかかわらず,審決が,甲第3
号証発明2の「2次元画像」(合成像)を得るステップ(共焦点光学系とそ
の焦点移動メモリーにより合成像を得るステップ)を無視して相違点の認定
をしたことは,相違点を看過したものである。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)
(1) 審決は,「甲第3号証発明1に係る2次元画像を得る手段として,レーザ
光源とは異なる白色光等からなる観察光源と撮像装置からなる観察手段を用
いることは,甲第3号証発明1及び周知技術に基づけば,当業者が容易に想
到することができたものである」(審決謄本13頁第4段落)と判断したが,
誤りである。
甲第3号証発明1の2次元画像(写真2の背景の2次元画像)は,引用例
3の記載に基づけば,焦点移動メモリーにより得られた,合焦点画像の「合
成像である2次元画像」に一義的に限定されるものである。そして,甲第3
号証発明1は,試料の2次元画像(断層像と重ねて表示するためのもの)で
ある「合成像」を得る手段としての「焦点移動メモリー」を固有必須の構成
として有する,一体的に完結した発明である。引用例3には,試料の観察手
段として,固有必須の構成である「焦点移動メモリー」にさらに重複して,
周知技術とされる他の手段を付加することの示唆や動機付けはどこにも示さ
れていない。また,同発明の断層像と重ねて表示する2次元画像を得る手段
を二重にすれば複雑となるし,そもそも,二重にする構成がどのようなもの
か想起することは難しい。そして,甲第3号証発明1に固有必須の「焦点移
動メモリー」を除外すれば,もはや,甲第3号証発明1でなくなるのであり,
同発明の「焦点移動メモリー」を周知技術とされる他の手段で置換すること
はできないものであるから,甲第3号証発明1の2次元画像を焦点移動メモ
リーによる合成像の2次元画像以外の2次元画像とすることを想到する余地
はない。
審決は,本件発明1と甲第3号証発明1の2次元画像(断層像と重ね合わ
せて表示するためのもの)を得る手段の相互の関係を考慮しなければならな
いにもかかわらず,これを考慮せずに,容易想到性の判断を誤ったものであ
る。
(2) 審決は,甲第3号証発明1に適用する「周知技術」として,甲1公報,甲
9公報記載の技術を掲げるが,甲1公報は,試料の「表面形状」(「断層
像」)の測定とは全く関係がないし,甲9公報は,「トレンチ(深い溝)」
表面と底面との差を測定するものにすぎず,「表面形状」(「断層像」)の
測定を示唆するものではない。
甲第3号証発明1は,試料の2次元画像(焦点移動メモリーにより得られ
る合成像)と断層像とを重ね合わせて表示する手段を有するものであるが,
上記の甲1公報及び甲9公報記載の技術は,単に2次元画像を観察するとい
うものであって,2次元画像と断層像とを重ね合わせて表示することとは関
係がなく,このような「周知技術」を甲第3号証発明1に組み合わせること
の示唆や動機付けはどこにも示されていない。
また,甲1公報及び甲9公報記載の技術は,「光源からレーザ光の波長を
除く」ものであり,仮に,甲1公報及び甲9公報記載の試料観察手段を甲第
3号証発明1に適用しても,技術的困難性から試料の2次元画像と断層像と
を重ね合わせて表示することはできず,本件発明1の構成を容易に想到する
ことはできない。
(3) 審決は,「甲第1号証(注,甲1公報)及び参考資料(注,甲9公報)に
記載のような試料観察手段を甲第3号証発明1に適用することを阻害する要
因も特段存在しない。」(審決謄本13頁第3段落)としたが,誤りである。
甲第3号証発明1は,共焦点光学系の「1つの光学系」のみで試料の2次
元画像の観察も表面形状(「断層像」)の測定もでき,それらを重ね合わせ
て表示することができるという構成を有するものであり,共焦点光学系の優
位をうたい,通常の光学顕微鏡を積極的に排除したものである。
甲第3号証発明1の発明者が,同発明と同じ発明について,本件出願と
同時期に執筆した文献(甲17∼20)には,走査形レーザ顕微鏡に対する
光学顕微鏡の不利な点が記載されている。特に,ICパターンについては,
「超微細パターンを有するものの例として半導体ウェハがある。・・・ここ
で,上記半導体の製造には,これら微細パターンを高速にかつ非破壊でセン
シングし,解析または監視する必要がある。ところが,光学顕微鏡では表2
に示すように分解能,焦点深度ともに不足するため適用困難である。・・・
したがって,非破壊で,焦点深度が深く高速検出が可能なSLM(注,走査
形レーザ顕微鏡)が上記ニーズに適用される可能性がある。」(甲17の8
9頁右欄11行目∼90頁左欄16行目)とされ,引用例3の写真2や図1
2に一致する写真や図とともにSLMが説明され,SLMの光学顕微鏡に対
する優位性が説明され,半導体ウェハの微細パターンに対して,光学顕微鏡
は「適用困難」とされる一方で,SLMが「適用」と説明され,「試料に対
する適用性」の比較表においては,「立体形状」も「表面形状」も,「SL
M」(走査形レーザ顕微鏡)は「○」(「可能」)と,「光学顕微鏡」は
「×」(「不可」)と記載されている(甲17の87頁の表2)。そして,
他の文献(甲18∼20)においても,光学顕微鏡の不利な点が述べられて
いるように,本件出願時において,共焦点レーザ顕微鏡の優位性が喧伝され,
試料の2次元画像と表面形状(断層像)とを重ね合わせて表示するに際し,
2次元画像を得る手段として,焦点移動メモリーを備えた共焦点レーザ顕微
鏡に比べ,光学顕微鏡は使うものではないとの技術常識が形成されていた。
したがって,甲第3号証発明1に対し,通常光による撮像手段を適用する
には阻害要因がある。本件発明1は,本件出願当時の技術常識に全く逆行し
て,光学顕微鏡により得られる2次元画像に断層像を重ね合わせて表示する
構成を採用し,簡素な構成で試料の測定を可能にする構成を創造したもので
あり,本件発明1の技術的思想(課題,目的,解決手段)は,甲第3号証発
明1のものとは全く異なる。
5 取消事由5(本件発明1ないし5の進歩性についての判断の誤り)
( 1) 審決は,「本件発明2は,甲第3号証(注,引用例3)及び甲第6号証
(注,甲6公報)に記載の発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に
想到することができたものである。」(審決謄本14頁第5段落)とし,
「本件発明3は,甲第3号証,甲第6号証及び甲第7号証(注,甲7公報)
に記載の発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することがで
きたものである。」(審決謄本14頁第6段落)とし,「本件発明4は,甲
第3号証及び甲第6号証∼甲第8号証(注,甲8公報)に記載の発明並びに
周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。」
(審決謄本14頁第7段落)としたが,誤りである。
甲6公報に記載された画像の濃淡の波形から断面形状が分かることはなく,
単に画像の濃淡レベルの調整を行うものにすぎないから,甲6公報に「電子
顕微鏡装置において,2次元画像と断面画像を重ね合わせて表示画像表示装
置が開示されている。」(審決謄本14頁第4段落)という技術が記載され
たとの審決の認定は誤りであり,このような誤った認定を基にして,本件発
明2ないし4について,容易に想到することができるとした審決の上記判断
は,いずれも誤りである。
被告は,審決は,試料の2次元画像上に表面形状を重ねて表示する技術的
特徴が,引用例3に開示されていることを前提として,さらに補強的に,甲
6公報を提示したものである旨主張するが,審決に「甲第3号証(注,引用
例3)及び第6号証(注,甲6公報)」(審決謄本14頁第5段落)等と記
載されているように,甲6公報は,引用例3の補強的なものではなく,引用
例3の限定された2次元画像(合成像)を一般化抽象化しようとする意図に
沿った,主要な組み合わせ引用例である。
(2) 審決は,本件発明5と甲第3号証発明2との相違点の判断において,「断
層像すなわち断面の情報と撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて
出力するステップを設けることは,甲第3号証発明2及び周知技術に基づけ
ば,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決謄本16頁
第4段落)としたが,誤りである。
審決は,甲第3号証発明2の認定を誤り,本件発明5と甲第3号証発明2
との相違点を看過して,容易想到性の判断をしており,誤った前提に基づく
上記判断は誤りである。
また,本件発明1についてと同様,甲第3号証発明2及び「周知技術」か
ら本件発明5を想到することの示唆も動機付けもなく,かえって,本件発明
5の技術的思想(課題,目的,解決手段)は,甲第3号証発明2のものとは
全く異なるものであり,甲第3号証発明2から本件発明5を想到するには,
阻害要因がある。
(3) 本件発明1ないし5は,試料の断面情報を測定して表示するためのレーザ
顕微鏡の構成と,試料外観を観察して表示するための撮像装置を有する光学
顕微鏡の構成を備え,レーザ反射光を受光するイメージセンサに対応する方
向のみにレーザ光を偏向するように構成し,試料ステージは深さ方向にのみ
レーザ光偏向と同期するように構成し,観察用光源からの反射光は撮像装置
(CCDカメラ)で受光するように構成して,簡単な構造により,試料の断
面情報と外観画像とを重ね合わせて表示することができるように構成した,
新たな技術的思想に係るものである。
本件発明1ないし5は,半導体集積回路等において必要とされる断面情報
の特性にかんがみて構成されたところに特徴があり(本件明細書【000
6】),共焦点原理を,反射面(界面)のZ方向位置の測定に利用する一方,
試料外観の光学顕微鏡像は撮像装置で得るようにして,機械的・電気的に簡
単な構成により,必要な断面情報を得て,その断面情報と試料外観の観察像
とを同時に得て重ね合わせて表示するものである。
本件発明1ないし5は,共焦点原理による測定と光学顕微鏡像による観察
とを巧みに結合し,光学顕微鏡と共焦点顕微鏡という異なる観察源から得ら
れた情報を重ね合わせるという,常識を覆す構成により,非常にシンプルな
構成でありながら,表面形状の観察が可能になるという優れたものであり,
このような構成は従来全く想定されたことはなく,新規性・進歩性を有する
発明である。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(甲第3号証発明1及び2の認定の誤り)について
原告は,審決の甲第3号証発明1及び2の認定に誤りがある旨主張するが,
失当である。
引用例3の写真2は,焦点移動メモリーに記憶されている試料の画像情報と
Z軸メモリに記憶されている試料の表面形状出力とをモニタ上に重ねて表示し
た画像である。焦点移動メモリーは画像メモリであるから,焦点移動メモリー
に記憶されている画像情報は,試料の2次元画素の各輝度値であり,引用例3
において,焦点移動メモリーに記憶されている画像情報をモニタ上に表示した
場合,モニタ上には試料の2次元画像が表示される。また,焦点移動メモリー
に記憶されている画像情報は,Z軸ステージを対物レンズの光軸方向に移動さ
せながらレーザビームにより試料表面を2次元走査し,検出器から出力される
各画素の最大輝度値であって,この最大輝度値をモニタ上に表示した画像は,
光軸方向の所定の深さにわたってすべての画素が合焦した2次元画像である。
したがって,引用例3の写真2には,試料の2次元画像が表示されている。
さらに,本件発明1の構成との対比の観点から検討すると,本件発明1は,
試料の2次元画像を撮像する手段に関して,「上記レーザ光源とは異なる観察
用光源と観察用光源からの試料からの反射光を対物レンズを介して受光する撮
像装置とを有する」(構成(H)及び(I))とのみ記載されており,試料の
2次元画像を撮像する手段として,一般的な撮像手段を用いることしか記載さ
れておらず,出力される試料の2次元画像は,格別な特徴がない,一般的な2
次元画像にすぎない。さらに,本件発明1においては,試料の2次元画像上に
断面形状を重ねて表示することは必須の構成として記載されていない。
したがって,本件発明1と引用例3に記載されたレーザ顕微鏡との構成上の
差異を論ずるに当たり,引用例3に記載された2次元画像の特性や撮像手段等
について言及する実益は認められないから,引用例3の写真2の表示内容に関
して,「試料のウェハーの表面形状の表示例であり,試料の2次元画像と断層
像が重ね合わされて表示されているものと認められる。」(審決謄本7頁第7
段落)として,甲第3号証発明1及び2を認定した審決に誤りはない。
2 取消事由2(その余の引用発明の誤り)について
(1) 原告は,「レーザ光を用いた光学顕微鏡において,レーザ光とは別個に白
色光等を試料に照射しその反射光を受光して試料画像を得る試料観察手段を
備えることは甲第1号証(注,甲1公報)及び参考資料(注,甲9公報)に
開示されているように本願出願前周知である。」(審決謄本13頁第3段
落)とした審決の認定が誤りである旨主張する。
しかし,甲1公報には,1次元走査型の共焦点光学系と試料の2次元画像
を撮像する観察光学系とを備えるレーザ顕微鏡が開示されており,その1次
元走査型の共焦点光学系は,レーザ光源と,レーザ光を1次元的にビーム偏
向するAO素子(音響光学素子)と,レーザ光を試料向けて投射する対物レ
ンズと,試料からの反射光を受光する一次元CCDイメージセンサとを有し,
その観察光学系は,対物レンズを介して試料に向けて白色光を投射するリン
グ状照射部と,試料から反射光を受光する二次元CCDイメージセンサとを
有する。さらに,レーザ光と観察用の照明光とは,共通の光軸に沿って伝搬
している。このように,甲1公報には,レーザ光により試料表面を走査する
共焦点光学系に加えて,試料の2次元画像を撮像する試料観察手段を有する
ことが記載されている。
また,甲9公報には,試料表面をレーザ光により1次元走査する共焦点光
学系と,試料の2次元画像を撮像する観察光学系とを有し,レーザ光により
試料を1次元的に走査してトレンチの深さを測定するトレンチ深さ測定装置
が開示されている。トレンチ深さ測定装置は,試料表面をレーザビームによ
り走査し,その反射光の強度からトレンチの深さを測定するものであるから,
甲9公報には,レーザ光を用いる光学顕微鏡において,試料の深度を測定す
る共焦点光学系に加えて,試料観察手段を有することが記載されている。
したがって,甲1公報及び甲9公報には,共焦点光学系に加えて,試料観
察手段を有する顕微鏡が開示されているといえるので,審決の認定に誤りは
ない。
(2) 原告は,「甲第6号証(注,甲6公報)にも,電子顕微鏡装置において,
2 次元画像と断面画像とを重ね合わせて表示する画像表示装置が開示されて
いる。」(審決謄本14頁第4段落)とした審決の認定の誤りを主張する。
甲6公報に記載の画像表示装置においては,電子顕微鏡により検出された
2次電子の強度に対応した試料の濃淡分布ないし輝度分布を表す2次元画像
情報をビデオメモリに格納し,当該2次元画像のあるラインに沿う輝度値を
テキストメモリに格納している。そして,当該ライン上の各画素のアドレス
を横軸にプロットし,各画素の輝度値を縦軸にプロットし,得られる曲線の
2値の画像データを断面プロファイルと称し,2次元画像に重ねて表示して
いる。ここで,電子顕微鏡により得られた2次元画像の特定のラインに沿う
輝度分布は,試料を断面として見た場合の断面輪郭ないし表面輪郭に対応し
た物理的意義を有し,試料の断面形状と厳格に対応する情報ではないが,試
料の表面形状と輝度分布との間の相関データを介して,電子顕微鏡により得
られた2次元画像の輝度分布から試料の表面形状を特定するために利用され
ている。甲6公報に記載の画像表示装置では,電子顕微鏡により得られた2
次元画像と,試料の表面形状と相関する2次元画像の特定のライン上の輝度
分布とを重ねてモニタ上に表示している。したがって,甲6公報には,電子
顕微鏡装置において2次元画像と断面画像を重ねて表示する画像表示装置が
開示されており,審決の認定に誤りはない。
(3) 原告は,「甲第7号証(注,甲7公報)には,撮像装置と映像出力回路の
間にフレームメモリとスイッチとを接続した撮像装置が記載されている」
(審決謄本14頁第6段落)とした審決の認定の誤りを主張するが,甲7公
報には,2次元画像を撮像する撮像装置の後段にフレームメモリとスイッチ
とを接続し,撮像装置からの出力信号を映像信号生成回路に直接出力し又は
一旦フレームメモリに記憶してから出力する技術が記載されており,当該技
術は,画像処理の分野において周知慣用技術であるから,甲7公報に,撮像
装置と映像出力回路との間にフレームメモリとスイッチとを接続した撮像装
置が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
(4) 原告は,「甲第8号証(注,甲8公報)にはオートフォーカス機構を有す
るレーザ顕微鏡が記載されている」(審決謄本14頁第7段落)とした審決
の認定の誤りを主張するが,甲8公報には,オートフォーカス機構を有する
共焦点顕微鏡が開示されており,共焦点顕微鏡において,オートフォーカス
機構を設けることは,レーザ顕微鏡の分野において周知慣用技術であり,審
決の認定に誤りはない。
原告は,甲7公報及び甲8公報に記載の発明には,試料の2次元画像上に
断面形状を重ねて表示する技術的特徴が記載されていない旨主張するが,そ
もそも,本件発明1は,試料の2次元画像上に断面形状を重ねて表示する技
術的特徴を必須要件として規定していないから,原告の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点の看過)について
(1) 原告は,甲第3号証発明1と本件発明1との対比に当たり,両発明におい
て異なっている2次元画像を得る手段の相違を相違点として認定しなければ
ならないとして,審決が,本件発明1と甲第3号証発明1との相違点を看過
している旨主張するが,失当である。
甲第3号証発明1においては,共焦点光学系によって,試料の2次元画像
が撮像されており,また,共焦点光学系により撮像された試料の2次元画像
上に断層像を重ねて表示する手段を有することも明らかであるが,引用例3
には,共焦点光学系とは異なる別の撮像装置を用いて試料の2次元画像を撮
像することは記載されていない。
これに対し,本件発明1は,特許請求の範囲の記載において,「2次元画
像」の用語及び「2次元画像撮像装置」の用語は用いられていないので,ど
のような手段により試料の2次元画像を撮像するか不明であるが,発明の詳
細な説明の欄の記載を参酌して,特許請求の範囲の記載を解釈すれば,本件
発明1は,レーザ光源とは異なる観察用光源(H)と試料からの反射光を受
光する撮像装置(I)により,試料の2次元画像を撮像しているものと認め
られる。しかし,そのような撮像手段は,格別な技術的特徴を有する撮像手
段ではなく,一般的な意味における撮像手段である。
したがって,本件発明1の「試料からの反射光を対物レンズを介して受光
する撮像装置」と引用例3の「共焦点光学系」による撮像との間に,2次元
画像を撮像する手段について,どのような構成上の差異があるかを論ずるこ
とができず,試料の2次元画像を撮像する手段に関し,本件発明1と甲第3
号証発明1の構成上の差異を論ずる実益は存在しない。他方,甲第3号証発
明1には,共焦点光学系とは異なる別の撮像装置により試料の2次元画像を
撮像することは開示されていない。
以上によれば,本件発明1と甲第3号証発明1との相違点として,「本件
発明1が,試料に光を照射するためのレーザ光源とは異なる観察用光源と
(H),上記観察用光源からの上記試料での反射光を上記対物レンズを介し
て受光する撮像装置(I)を備えているのに対し,甲第3号証発明1では,
試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と有しているも
のの,前記構成(H)及び(I)については記載がない点。」を認定した審
決に相違点の看過はない。
(2) 原告は,本件発明5と甲第3号証発明2との対比に当たり,両発明におい
て異なっている「2次元画像を得るステップ」の相違を相違点として認定し
なければならないとして,審決が,本件発明5と甲第3号証発明2との相違
点を看過している旨主張する。
しかし,甲第3号証発明2においては,試料の2次元画像は,共焦点光学
系により撮像されている。また,引用例3には,共焦点光学系以外の撮像手
段を用いて試料の2次元画像を撮像することは記載されていない。
他方,本件発明5は,特許請求の範囲の「深さ方向の位置の情報を断面の
情報として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ス
テップ」との記載によれば,試料の2次元画像が「撮像装置」で撮像されて
いるが,この「撮像装置」との用語は,広範で抽象的な用語であり,例えば,
共焦点光学系も撮像装置の概念に含まれる。そして,撮像装置を共焦点光学
系と解した場合,本件発明5は,甲第3号証発明2と同一発明であり,新規
性のない発明となる。したがって,本件発明2と甲第3号証発明2との2次
元画像を形成する工程上の差異を論ずるに当たり,2次元画像を得る工程を
特定する実益は存在しない。
そして,2次元画像を得るステップにつき,甲第3号証発明2においては,
試料の2次元画像は共焦点光学系により撮像され,本件発明5においては,
「撮像装置」により撮像されているところ,本件出願時の技術水準を考慮す
れば,当該「撮像装置」には共焦点光学系も含むものであるから,本件発明
5と甲第3号証発明2とを対比しても,2次元画像を得るステップに差異は
認められない。他方,本件明細書には,共焦点光学系とは異なる別の撮像装
置により試料の2次元画像を撮像することが記載されている。
以上によれば,本件発明5と甲第3号証発明2との相違点として,「本件
発明5が,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情報として撮
像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステップ(Q)
を有するのに対し,甲第3号証発明2では,試料の2次元画像と断層像が重
ね合わせて表示するステップを有するものの,前記構成(Q)については記
載がない点。」を認定した審決に相違点の看過はない。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)について
(1) 原告は,「甲第3号証発明1に係る2次元画像を得る手段として,レーザ
光源とは異なる白色光等からなる観察光源と撮像装置からなる観察手段を用
いることは,甲第3号証発明1及び周知技術に基づけば,当業者が容易に想
到できたものである。」(審決謄本13頁第4段落)とした審決の判断は誤
りであるとして,甲第3号証発明1に,甲1公報及び甲9公報に記載された
周知技術を組み合わせる動機付けが存在しない旨主張する。
甲1公報には,レーザ顕微鏡に試料の2次元画像を撮像する観察光学系を
設ける必要性及び観察光学系を設けた場合の作用効果が記載されている。
ここで,引用例3に記載の2次元走査型のレーザ顕微鏡においては,操作
者はモニタ上に表示される共焦点画像を観察して観察すべき部位を選択する
が,共焦点光学系は,高分解能画像が得られる一方で,焦点深度が浅いとい
う特有の性質を有し,試料表面の焦点の合った部分からの反射光しか光検出
器に入射しない性質を有している。このため,試料表面に凹凸が存在する場
合,焦点の合っていない部位からの反射光は光検出器にほとんど入射しない
ところから,当該部位の画像は形成されず,視野選択する際,必要な画像情
報がモニタ上に表示されず,誤った視野選択が行われる欠点がある。ところ
が,観察光学系として2次元イメージセンサを用いた場合,試料表面に凹凸
が存在しても視野全体にわたって比較的焦点の合った画像がモニタ上に表示
され,操作者は,2次元イメージセンサで撮像されたモニタ像を観察しなが
ら視野を選択することができるメリットが得られる。
そうすると,2次元走査型のレーザ顕微鏡において,共焦点光学系とは別
に,観察用の光源と2次元イメージセンサを用いて試料像が撮像できれば,
当該2次元イメージセンサで撮像した試料像をモニタ上に表示しながら試料
の観察したい部位を選択できる利点があり,視野選択の操作性が向上する。
そして,甲1公報に記載された共焦点光学系を有するレーザ顕微鏡に関す
る事項は,2次元走査型のレーザ顕微鏡にもあてはまり,2次元走査型のレ
ーザ顕微鏡に対し,観察光源と2次元イメージセンサを有する観察光学系を
設けることにより,共焦点光学系の特性を利用しつつ,共焦点光学系の欠点
が解消される。
したがって,甲1公報及び甲9公報に記載の周知技術に基づき,引用例3
に記載されたレーザ顕微鏡に観察光学系を設ける強い動機付けが認められる。
(2) さらに,本件明細書には,試料の深度に関する情報を検出する共焦点光学
系と試料の外観を観察する観察光学系とを有する顕微鏡は,従来から知られ
た技術である旨が記載されている(段落【0002】)。このことからして
も,引用例3に記載のレーザ顕微鏡に観察光学系を付加することは,当業者
が容易に想到できたものと認められるし,また,本件出願時の技術水準を示
す特開平1−282515号公報(乙4,以下「乙4公報」という。)及び
特開平1−316715号公報(乙5,以下「乙5公報」という。)に開示
されているように,試料の2次元画像を撮像する2次元走査型のレーザ顕微
鏡において,共焦点光学系とは別に,試料の2次元画像を観察する観察用の
光学系を設けることは周知であった。すなわち,本件出願時,レーザ顕微鏡
に観察光学系を設けることは,当業者にとって周知の事項であった。
したがって,以上の観点からしても,甲第3号証発明1に甲1公報及び甲
9公報記載の周知技術を適用する動機付けは存在する。
(3) 原告は,甲第3号証発明1に甲1公報及び甲9公報に記載の技術を組み合
わせる動機付けがない理由として,甲1公報及び甲9公報に記載の装置は,
表面形状を測定していないこと,試料の2次元画像上に断面形状を重ねて表
示していないことを挙げる。
しかし,本件発明1は,特許請求の範囲の記載によれば,試料の2次元画
像上に断面形状を重ねて表示する構成は有さず,光学顕微鏡の構成要素によ
り特定されている。したがって,上記の組合せの動機付けの有無は,光学顕
微鏡の構造形態から判断されるべきであるところ,引用例3に記載されたレ
ーザ顕微鏡と甲1公報に記載されたレーザ顕微鏡及び甲9公報に記載された
深さ測定装置とは,共に,共焦点光学系を主要な光学系とするレーザ顕微鏡
である点において共通し,甲第3号証発明1に記載されたレーザ顕微鏡に観
察光学系を設ける客観的な動機付けが認められる。
(4) 原告は,「甲第1号証(注,甲1公報)及び参考資料(注,甲9公報)に
記載のような試料観察手段を甲第3号証発明1に適用することを阻害する要
因も特段存在しない。」(審決謄本13頁第3段落)とした審決の判断が誤
りである旨主張するが,失当である。
引用例3に記載のレーザ顕微鏡においては,共焦点光学系により試料の2
次元画像を撮像すると共に,試料の断面形状も計測しているが,上記のとお
り,共焦点光学系は,視野選択性に難点がある。このような共焦点光学系の
固有の欠点を解消するためには,共焦点光学系に観察光学系を光学的に結合
し,観察光学系により撮像した2次元画像を用いることが最も効率的であり,
乙4公報及び乙5公報に開示されているように,共焦点顕微鏡においては,
別途,観察光学系を設けることが当業者に広く知られていた。また,引用例
3に記載のレーザ顕微鏡に観察光学系が付加された製品が出荷された場合,
良好な性能に加え,操作性が改善されていることから,市場において,高い
評価を受けることが想定されるのであり,市場におけるユーザのニーズを考
慮すれば,引用例3に記載のレーザ顕微鏡に観察光学系を付加して操作性を
改善することは,当業者が容易に想到する事項である。
5 取消事由5(本件発明1ないし5の進歩性についての判断の誤り)について
(1) 原告は,「本件発明2は,甲第3号証(注,引用例3)及び甲第6号証
(注,甲6公報)に記載の発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に
想到することができたものである。」(審決謄本14頁第5段落)とした審
決の判断を争うが,理由がない。
本件調書に記載されているように,引用例3の写真2には,試料の2次元
画像上に試料の表面形状を重ねて表示した画像が表示されていて,試料の2
次元画像上に表面形状を重ねて表示することは,本件出願前から公然知られ
た事項である。
また,甲6公報に記載されているように,電子顕微鏡の分野において,電
子顕微鏡により撮像された試料の2次元画像上に断面画像を重ねて表示する
ことが知られている。電子顕微鏡で撮像された2次元画像の特定のラインに
沿う濃度分布は,試料の断面形状と厳格に対応する情報ではないが,試料の
表面形状と相関するデータとして広く利用されており,電子顕微鏡の分野に
おいて試料の断面情報として利用されていて,試料の2次元画像上に断面形
状(表面形状)を重ねて表示する技術は,レーザ顕微鏡の分野だけでなく電
子顕微鏡の分野においても行われており,本件出願前から周知の事項である。
一方,試料の2次元画像を撮像する観察光学系とレーザビームで試料表面
を走査する共焦点光学系とを有するレーザ顕微鏡は周知の技術であり,引用
例3に記載のレーザ顕微鏡に観察光学系を設けることは当業者が容易に想到
できた事項である。そうすると,引用例3に記載された試料の2次元画像上
に表面形状を重ねて表示する技術的特徴に基づき,観察光学系により撮像さ
れた試料の2次元画像上に,共焦点光学系により測定された断面形状を重ね
て表示することは,引用例3に記載された内容に対し,甲6公報に記載され
た発明や甲1公報及び甲9公報に記載された周知技術を組み合わせることに
より容易に想到できた事項である。
なお,原告は,甲6公報には,試料の断面形状が重ねて表示されていると
は認められない旨主張するが,審決は,引用例3に記載された内容を基本と
して,甲1公報及び甲9公報に記載された周知技術及び甲6公報に記載され
た発明を適用することにより,本件発明2は容易に想到できた発明であると
認定しているのであり,試料の2次元画像上に表面形状を重ねて表示する技
術的特徴が,引用例3に開示されていることを前提として,補強的に甲6公
報を提示し,電子顕微鏡の分野においても試料の2次元画像上に断面画像を
重ねて表示することが記載されているとしたものである。原告の主張は,審
決の内容を正解しないでこれを論難するにすぎない。
したがって,審決のした本件発明2の容易想到性の判断に瑕疵は認められ
ない。
(2) 原告は,「本件発明3は,甲第3号証(注,引用例3),甲第6号証(注,
甲6公報)及び甲第7号証(注,甲7公報)に記載の発明並びに周知技術に
基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決謄本
14頁第6段落)とした審決の判断を争うが,甲7公報に開示されているよ
うに,2次元画像を撮像する撮像装置の後段にフレームメモリとスイッチと
を接続し,撮像装置からの出力信号を映像信号生成回路に直接出力し又は一
旦フレームメモリに記憶してから出力する技術は,本件出願前から画像処理
の技術分野において周知慣用技術である。したがって,撮像装置からの出力
信号を直接出力するか,又は,いったんフレームメモリに記憶してから出力
するかは,当業者の設計的事項にすぎないものであり,本件発明3の進歩性
についての審決の判断に誤りはない。
(3) 原告は,「本件発明4は,甲第3号証(注,引用例3)及び甲第6号証
(注,甲6公報)∼甲第8号証(注,甲8公報)に記載の発明並びに周知技
術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決
謄本14頁第7段落)とした審決の判断を争うが,レーザ顕微鏡の分野にお
いて,オートフォーカスを利用することは周知慣用技術であって,既存のレ
ーザ顕微鏡に広く実施されており,本件発明4の進歩性についての審決の判
断に誤りはない。
(4) 原告は,本件発明5について,「レーザ光を用いた光学顕微鏡において,
試料全体を把握するために,レーザ光とは別個に,白色光等を試料に照射し
その反射光を受光してなる撮像装置を設けることは甲第1号証(注,甲1公
報)及び参考資料(注,甲9公報)に開示されているように本願出願前周知
である。そして,甲第3号証発明2及び上記周知技術は,いずれもレーザ顕
微鏡を対象とする点で技術分野を同じくし,また,上記周知技術に係る撮像
装置を甲第3号証発明2に適用することを阻害する要因も特段存在しな
い。」(審決謄本16頁第3段落)とした審決の判断を争うが,理由がない。
本件発明1についての容易相当性の判断と同様,引用例3に記載のレーザ
顕微鏡と甲1公報及び甲9公報に記載の周知技術とは,共焦点光学系を主要
な光学系とする点において共通し,しかも,引用例3に記載されたレーザ顕
微鏡に対し,甲1公報及び甲9公報に記載の周知技術を適用する際の阻害要
因は存在しない。また,引用例3に記載のレーザ顕微鏡の視野設定における
操作性を改善するため,引用例3に記載のレーザ顕微鏡に観察光学系を設け
る動機付けが認められ,当該レーザ顕微鏡に観察光学系を付加する阻害要因
は存在しない。
したがって,審決の判断に誤りはない。
(5) 原告は,本件発明1ないし5は,簡単な構造により,試料の断面情報と外
観画像とを重ね合わせて表示することができるように構成したものであり,
共焦点原理による測定と光学顕微鏡による観察とを巧みに結合して構成した,
新たな技術的思想に係るものであることなどから,本件発明1ないし5に進
歩性がある旨主張する。
しかし,共焦点光学系と光学顕微鏡とを結合した光学装置は,甲9公報に
開示されており,本件出願前から公然知られ,新規性を有しない技術である。
原告の主張は,本件発明1ないし5について,光学顕微鏡と共焦点顕微鏡と
いう異なる観察源から得られた情報を重ね合わせるという,常識を覆す構成
を有するものであることを前提とするが,本件発明1は,試料の2次元画像
情報と断面情報とを重ねて表示する構成要件が除外されており,単に試料の
2次元画像と断面形状とを個別に出力する光学顕微鏡にすぎない。他方,試
料の2次元画像と深度情報とを個別に出力することは,甲9公報に記載され,
本件出願前から公然知られた技術である。したがって,本件発明1ないし5
の技術的思想は,本件出願前から公然知られた周知技術そのもの又は周知技
術から容易に想到できるものである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲第3号証発明1及び2の認定の誤り)について
(1) 原告は,審決が引用例3に記載されているとして認定した甲第3号証発明
1,すなわち,「共焦点顕微鏡において,レーザ光を出射するレーザ光源と,
レーザ光を試料に集光するための対物レンズと,CCDからなる検出素子と,
レーザ光を水平方向に走査するための音響光学偏向素子と,試料をZ軸ステ
ージによって奥行方向に移動しながら,各画素について最大輝度を与えるス
テージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素の奥行方向の高さ情報をスト
アし,試料の表面形状を測定する手段と,試料の2次元画像と断層像が重ね
合わせて表示する表示手段と,を備えた共焦点顕微鏡」(審決謄本11頁第
4段落)の発明について,引用例3には,試料の2次元画像を得る具体的方
法の記載があるにもかかわらず,これを認定しなかった点において誤りがあ
る旨主張する。
そこで,まず,本件発明1における試料の2次元画像を得る方法について
みてみると,特許請求の範囲の記載の「上記試料に光を照射するための上記
レーザ光源とは異なる観察用光源と,上記観察用光源からの上記試料での反
射光を上記対物レンズを介して受光する撮像装置とを有することを特徴とす
る光学顕微鏡。」との構成によれば,本件発明1は,レーザ光源とは異なる
観察用光源を有し,同光源を用いる撮像装置により,2次元画像を得るもの
である。
(2) 他方,引用例3には,共焦点型光学系を利用したレーザ顕微鏡に係る発明
が記載されているところ,試料の2次元画像を得る方法につき,以下の記載
がある。
ア 「2.レーザースキャン 共焦点型の光学系は図2からも分かる様に
本質的に光軸上の1点を拡大することになるので得られる画像は0次元の
ものとなる。従って2次元画像を得るためには何等かの形で走査を行う必
要がある。走査には,A.試料 B.集束光束 のいずれかを移動させれ
ば良い。・・・集束光点の走査にも数種類の方法があるが,このうち実用
的なものは,(イ)ガルバノミラー (ロ)ポリゴンミラー (ハ)AO
素子(音響光学偏向素子)などである。(イ)のガルバノミラーは高速走
査には不適当だが,小型で偏向角の波長依存性も無く使い易いので1LM
11/2LM11では垂直方向の走査に使用している。水平方向の走査に
はより高速性を要求されるので(ロ)又(ハ)の方法が残ることになる。
(ロ)のポリゴンミラーに関してはレザープリンタ等で広く使用されてお
り,実績のあるスキャナーであるが,高倍率顕微鏡に使うには振動が大き
過ぎるので不適当である。(ハ)のAO素子は偏向角の波長依存性がある
という欠点はあるものの,振動が皆無であり小型であるという利点がある
ので,1LM11/2LM11ではこれを水平方向のスキャンに使用して
いる。このような走査法によって,1LM11/2LM11の大な特長の
一つであるリアルタイム画像を得ている。これは共焦点型光学系を持つ顕
微鏡として世界初の成功例である。これら水平,垂直の走査を光路図で示
すと図3,4の様になる。」(68頁左欄14行目∼69頁左欄4行目)
イ 「3.焦点移動メモリー 共焦点型光学系の画像処理分野での応用例と
して最も大きな成果は,この焦点移動メモリーであろう。焦点移動メモリ
ーとは試料上の焦点面を奥行方向にスキャンし,その間に合焦点情報のみ
を選択的に画像メモリーへ書き込むことで,焦点深度が無限に深い映像を
得るという,まさに夢の様な画像処理的手法のことである。では,なぜこ
の手法が通常の顕微鏡では不可能であり,共焦点型レーザー顕微鏡ではそ
れが可能になるかという点を考えてみよう。図5は共焦点型光学系を反射
型として応用するときの光路図である。図2と比較すれば1つの対物レン
ズに2回光を通して(往復使用することで)共焦点型になっているのがす
ぐに分かる。この図5では試料面に正確に焦点が合っているから,点光源
から出た光は試料の反射率に応じて減衰するものの,試料によって反射さ
れた光の大部分はピンホールを通過して検出器に入る。一方この光学系が
焦点を外れた場合を考えると,前ピン状態が図6,後ピン状態が図7であ
り,そのどちらも検出器に入る光量は激減する。つまり共焦点型の光学系
はピントの合った画素だけが明るいという非常にユニークな特長を持って
いるのである。今,対物レンズから試料まので距離•を可変していったと
きの光検出器からの出力Iおよび像の解像度Rをグラフにしてみると図8
の様になる。通常の顕微鏡で同じ関係をグラフにすると図9の様になる。
(図8と図9では分かり易くするために隣接画素も同じ反射率を持つもの
としている。) 図8から共焦点型レーザー顕微鏡では解像力のピークと
明るさのピークが一致しているという重大な特長を読み取ることができる。
言い換えれば画像処理装置は各画素について明るさにだけ注目していれば
解像力が最大になった位置(合焦点面)を知ることができるということに
なる。通常の光学顕微鏡の場合(図9)にはこうはいかない。図9を感覚
的に説明すればこうなる。顕微鏡(一眼レフのカメラのファインダーでも
良い)をのぞきながら焦点を移動させていくと,ぼやけていた像が次第に
焦点が合っていき,完全に焦点が合った位置で像の解像力は最大となり,
再び像はボケてくる。しかしこの間視野の明るさにはほとんど変化はなく,
焦点が合っているかいないかは像の解像力だけがたよりである。解像力と
は本来,隣接画素との相互関係で決まるものであるから,通常の顕微鏡光
学系の場合,1画素だけに注目して,焦点が合っているのかいないのかと
いう判断はつけられない。一方,図8で示す共焦点型顕微鏡の場合は1画
素だけに注目していても,その明るさIから焦点が合っているかいないか
という判断をつけられる。この特長を利用して無限の焦点深度を得る画像
処理手法を我々は焦点移動メモリーと呼んでいる。図10に焦点移動メモ
リーのブロックダイヤグラムを示す。図11はこのメモリ−の動作概念図
であり,写真1に焦点移動メモリーによって得られた画像出力例を示す。
尚,この焦点移動メモリーは1LM11/2LM11には標準装備され
ている。」(69頁左欄5行目∼70頁左欄5行目)
ウ 「4.表面形状測定 合焦点面での画素情報が最も明るいという,共焦
点型光学系の特長は,表面形状測定にも応用することができる。試料をZ
軸ステージによって奥行方向に移動しながら,各画素について最大輝度を
与えるステージのZ軸変位量を別のメモリに記憶させれば,各画素につい
て奥行方向の高さ情報をストアすることができる。(図12参照) この
メモリの内容を何等かの形で表示すれば,試料の表面形状を知ることがで
きる。写真2はこの様にして得られた表面形状の表示例である。この方式
の表面形状測定の特長としては
1.非接触である。
2.微小画素についても高さ情報を知ることができる。
3.他の方式と比べて測定に要する時間が短い。
などが考えられる。」(70頁左欄6行目∼末行)
エ 図10として,焦点移動メモリーのブロックダイヤグラムが,図11と
して,同メモリーの動作概念図が,図12として,Z軸メモリを経て表面
形状出力がされ,メモリーブレーン等を経て焦点移動メモリー出力がされ
るなどの表面形状表示回路の図が示され,また,蠅の複眼の写真1とLS
Iウエハーの写真2が示され,写真2には,背景画像とともに,左端から
右端にかけ,上下に変動する波線が示されている。
( 3) そうすると,引用例3には,上記(2)ア及びウを中心に,共焦点光学系を
利用して試料の表面形状を測定する手段が記載されており,具体的には,レ
ーザ光を出射するレーザ光源と,レーザ光を試料に集光するための対物レン
ズと,CCDからなる検出素子と,レーザ光を水平方向に走査するための音
響光学偏向素子と,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,
各画素について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,
各画素の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状を測定する手段を
有する共焦点顕微鏡に係る発明が記載されている。
また,引用例3には,上記( 2)イに照らせば,共焦点レーザ顕微鏡におい
て2次元画像を得る技術が記載されているが,その2次元画像は,共焦点光
学系を利用して,焦点移動メモリーと呼ばれるメモリーを利用することによ
って,得られるものである。
さらに,引用例3の写真2における背景画像は,2次元画像であって,図
11に示される「焦点移動メモリー」によって得られた合焦点画像の「合成
像」であると解され,また,図10の「焦点移動メモリー出力」による写真
1の画像と同様,図12の「焦点移動メモリー出力」によって得られた合成
像の画像であると解される。そして,引用例3の写真2の左端から右端にか
けて上下に変動する波線は,上記(2)ウの「Z軸変位量を別のメモリに記
憶」との記載及び図12の「Z軸メモリ」の記載からみて,図12の「Z軸
メモリ」からの「表面形状出力」を画像表示したものである。したがって,
引用例3の写真2には,2次元画像といえる,共焦点光学系の焦点移動メモ
リーによって得られる合焦点画像の合成像が示されるとともに,その合成像
に対して,Z軸メモリからの表面形状出力を重ねて表示したものが記載され
ている。
本件発明1における試料の2次元画像を得る方法は,前記( 1)のとおり,
レーザ光源とは異なる観察用光源を用いる撮像装置により,2次元画像を得
るというものである。
これに対し,引用例3の写真2に示された2次元画像は,上記のとおり,
レーザ光源を利用する共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られた合
焦点画像の合成像であって,レーザ光源とは異なる観察用光源からの試料で
の反射光を上記対物レンズを介して受光する撮像装置によって得られたもの
ではない。したがって,引用例3における2次元画像は,本件発明1の画像
を得る構成とは異なった構成によって得られたものである。
ところで,本件発明1の進歩性判断を行う際の引用発明との対比に当たっ
ては,本件発明1の構成との対比がされるものであり,そのような対比に必
要な限度で引用発明の構成が認定されるところ,本件発明1の試料の2次元
画像を得る構成につき,甲第3号証発明1は,同構成を備えていないことが
認められ,他方,引用例3に記載された2次元画像を得る構成は,本件発明
1の2次元画像を得る構成とは異なるものであって,本件発明1の構成に含
まれるものではない。そうすると,引用例3において,本件発明1の構成に
含まれない構成が記載されていても,発明の対比の際の引用発明の認定に当
たっては,同構成を必ず認定しなければならないものではない。
以上によれば,本件発明1と対比される甲第3号証発明1について,上記
(1)のとおり認定し,本件発明1に備えられた試料の2次元画像を得る構成
を備えることについては認定せず,また,甲第3号証発明1として,引用例
3に記載された2次元画像を得る構成については認定しなかった審決に原告
主張の誤りはない。
なお,原告は,審決は,引用例3の写真2の2次元画像が焦点移動メモリ
ーによって得られる合焦点画像の合成像に限定されるものであるにもかかわ
らず,甲第3号証発明1に固有必須の特徴的構成を無視し,試料の2次元画
像を得る方法の記載がないかのように認定した点において誤りがある旨主張
するが,前記のとおり,本件発明1の進歩性の判断に当たっては,本件発明
1の構成との対比がされるものであり,また,後記4( 5)のとおり,引用例
3に記載されている技術において,試料の表面形状測定の手段と試料の2次
元画像を得る手段の各技術が一体として完結した技術とは認められず,引用
例3に記載されている発明は,焦点移動メモリーによって得られる合焦点画
像の合成像であることを固有必須の構成とするものでないから,審決の甲第
3号証発明1の認定に誤りはなく,原告の主張は採用の限りではない。
(4) 原告は,審決が引用例3に記載されているとして認定した甲第3号証発明
2,すなわち,「試料に対し音響光学偏向素子によりレーザ光を水平方向に
走査し,CCDにより試料からの反射光を受光するとともに,試料をZ軸ス
テージによって奥行方向に移動しながら,各画素について最大輝度を与える
ステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素の奥行方向の高さ情報をス
トアし,試料の表面形状すなわち断層像を測定する手段と,試料の2次元画
像と断層像を重ね合わせて表示する共焦点顕微鏡による表面形状測定方法」
(審決謄本15頁第1段落)の発明について,引用例3には,撮像装置につ
き,具体的な記載があるにもかかわらず,これを認定しなかった点において
誤りがある旨主張する。
本件発明5の発明の要旨は,前記第2の2のとおりであり,本件発明5は,
記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情報として撮像装置で撮
像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステップを有するものであ
る。本件発明5における「撮像装置で撮像された試料の画像」について,特
許請求の範囲の他の請求項における「撮像装置」の意義も参酌するなどして,
深さ方向の位置の情報を得るステップとは異なる別個のステップで撮像され
た試料の画像と解すると,引用例3の写真2の試料の画像は,前記( 3)のと
おり,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られた合焦点画像の合成
像であり,同引用例においては,深さ方向の位置の情報を得るステップも共
焦点光学系を利用しているので,2次元画像を「撮像装置」により得ている
ものではないとして,引用例3には,本件発明5にいう,撮像装置で撮像さ
れた試料の画像や,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情報
として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステッ
プは開示されていないと解釈することも可能である。
ところで,本件発明1で述べたところと同様,発明の進歩性判断を行う際
の引用発明との対比に当たっては,本件発明5の構成との対比に必要な限度
で引用発明の構成が認定されるところ,本件発明5の撮像装置及び同撮像装
置によって撮像された試料の画像と断面の情報とを重ねあわせて出力するス
テップについて,甲第3号証発明2は,それを備えておらず,他方,引用例
3に記載された試料の2次元画像を得る方法は,本件発明5が備える構成で
はないと解釈することができる。そうすると,引用例3において,本件発明
5に含まれない構成が記載されていても,発明の対比の際の引用発明の認定
に当たっては,同構成を必ず認定しなければならないものではない。
他方,引用例3には,前記(2)によれば,「試料に対し音響光学偏向素子
によりレーザ光を水平方向に走査し,CCDにより試料からの反射光を受光
するとともに,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,各画
素について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画
素の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状すなわち断層像を測定
する手段」及び「試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて表示する共焦点
顕微鏡による表面形状測定方法」が記載されていることが認められる。
したがって,甲第3号証発明2として,前記のとおり認定し,本件発明5
の「第5ステップ」を備えることは認定せず,また,引用例3における,2
次元画像を得る方法についての本件発明5の構成に含まれていない構成を認
定しなかった審決に原告主張の誤りはない。
なお,原告は,審決は,引用例3には,撮像装置についての記載があるに
もかかわらず,甲第3号証発明2に固有必須の特徴的構成を無視し,撮像装
置についての記載がないかのように認定した点において誤りがある旨主張す
るが,本件発明5の進歩性の判断に当たっては,本件発明5の構成との対比
がされるものであり,その観点から,審決の甲第3号証発明2の認定に誤り
はないことは上記のとおりであり,また,後記5( 2)のとおり,引用例3に
記載されている技術において,光学顕微鏡による深度測定方法と試料の2次
元画像を得る撮像装置とは一体として完結した技術とは認められず,引用例
3に記載されている発明は,引用例3に記載の撮像装置を固有必須の構成と
するものでないから,原告の主張は,採用することができない。
(5) 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(その余の引用発明の認定の誤り)について
(1) 原告は,審決が,本件出願前の周知技術として,「レーザ光を用いた光学
顕微鏡において,レーザ光とは別個に白色光等を試料に照射しその反射光を
受光して試料画像を得る試料観察手段を備えること」(審決謄本13頁第3
段落)は,甲1公報及び甲9公報に開示されていると認定したのに対し,こ
れらに記載されているものは,試料の「断面情報」や「表面形状」(「断層
像」)の測定とは全く関係がなく,また,2次元画像と断層像とを重ね合わ
せて表示することとは関係がないとして,審決の認定の誤りを主張する。
しかし,そもそも,審決は,甲1公報及び甲9公報に,試料の断面情報等
の測定ができることや,2次元画像と断層像とを重ね合わせて表示すること
が記載されていると認定したものではなく,本件発明1ないし5の進歩性判
断の際の周知技術の認定に当たって,甲1公報及び甲9公報には,「レーザ
光を用いた光学顕微鏡において,レーザ光とは別個に白色光等を試料に照射
しその反射光を受光して試料画像を得る試料観察手段を備えること」が記載
されていると認定したものである。そして,甲1公報には,「【作用】前記
構成のレーザ顕微鏡において,レーザ光の波長以外の波長を有する光(例え
ばHe−Neレーザ光の場合は波長が0.633μm(赤)であるので白色
光源に緑色フィルターをかけて赤色を除いた波長の光を被測定物に照射し,
その反射光及び散乱光を二次元受光部により検出することにより被測定物の
サンプル形状の概略を検出できる。よってこの検出を予め行って所望測定領
域を絞った後に,レーザ光を用いて高分解能の測定をすることができる。」
(段落【0006】)との記載がある。また,甲9公報には,「(作用)本
発明によれば,以上のようにトレンチ深さ測定装置を構成したので,共焦点
光学系は反射光の強弱を識別することによりトレンチの深さ方向に対する高
度な分解能をもってその深さを検出する働きをし,制御ステージは被測定物
の3次元方向の制御に基づきトレンチの座標データを提供して前記共焦点光
学系と共働する。また,観測用光学系は被測定物の測定箇所の目視による観
察を可能にする働きをする。これらの働きにより,トレンチ深さの測定は非
接触及び非破壊で短時間内に行なわれる。したがって,前記問題点を除去す
ることができる。」(2頁左下欄3行目∼同15行目)との記載がある。
これらによれば,甲1公報及び甲9公報においては,レーザ光を用いた光
学顕微鏡において,レーザ光とは別個に白色光等を試料に照射しその反射光
を受光して試料画像を得る試料観察手段を備えることが記載されていること
が明らかであるから,これと同旨の審決に原告主張の誤りはない。
(2) 審決は,「甲第6号証(注,甲6公報)にも,電子顕微鏡装置において,
2次元画像と断面画像を重ね合わせて表示画像表示装置が開示されてい
る。」(審決謄本14頁第4段落)と認定したのに対し,原告は,甲6公報
の「断面プロフィル」は「断面画像」とは異なり,甲6公報には,「2次元
画像と断面画像を重ね合わせて表示」する画像表示装置は記載されていない
旨主張する。
ア 甲6公報には,以下の記載がある。
(ア) 「【従来の技術】例えば走査型電子顕微鏡による2次元の観察画像を
CRTディスプレイに表示するような場合には,その観察画像の内の
或る特定のラインに沿う画像の断面の輪郭,即ち断面のプロファイル
を同時にリアルタイムで観察したいときがある。2次元の観察画像の
断面のプロファイルとは,或る特定のライン上の座標を例えば横軸に
取って,そのライン上の各画素の濃度に対応する例えば縦軸上の位置
にそれぞれ所定の色の点をプロットして得られた曲線を言う。同様に,
ITVカメラで撮影した3次元物体の画像の斜視図をCRTディスプ
レイに表示しているような場合には,その3次元物体の画像の内の或
る特定の断面におけるプロファイルを同時にリアルタイムで観察した
いときがある。そのように或る特定のライン又は面における観察画像
の断面のプロファイルをリアルタイムで観察するための従来の画像表
示装置は,図2に示すような構造であった。この図2において,1は
画像検出器を示し,例えば走査型電子顕微鏡の場合には画像検出器1
は2次電子を検出するための検出器であり,ITVカメラの場合には
画像検出器1は撮像素子である。その画像検出器1から出力される画
像信号は,画像増幅器2を介してフレームメモリ3に格納され,フレ
ームメモリ3から読み出された画像信号がCRTディスプレイ4に供
給される。これにより,画像検出器1により得られた画像信号に対応
する2次元画像がリアルタイムでCRTディスプレイ4に表示される。
それと並行して,画像増幅器2から出力される画像信号はプロファイ
ル表示用のCRTディスプレイ5にも供給されている。従って,画像
増幅器2は画像検出器1から出力される画像信号をフレームメモリ3
及びCRTディスプレイ5に共に最適となるように調節する。そして,
CRTディスプレイ5では,供給される画像信号の中から1フレーム
毎に或る特定のライン上の画像信号が抽出され,そのラインの座標を
例えば横軸として,縦軸上のそのライン上の画像信号のレベルに対応
する位置に所定の色の点が連続的に表示される。これにより,画像検
出器1が観察対象とする2次元画像の内の或る特定のラインに沿う断
面のプロファイルが,リアルタイムでそのCRTディスプレイ5に表
示される。」(段落【0002】ないし【0004】)
(イ) 「図1は本実施例のブロック図であり,1は2次電子検出器等の画像
検出器,6は全体としてフレームメモリ,7は全体の動作を制御する
計算機を示す。その画像検出器1から出力されるアナログの画像信号
を,画像増幅器2を介してフレームメモリ6に供給し,画像増幅器2
は,その画像信号のレベルをフレームメモリ6に格納するのに最適な
レベルに調節する。フレームメモリ6は,画像増幅器2から連続的に
供給されて来る画像信号をメモリを介してCRTディスプレイ4に供
給する。これにより,画像検出器1により得られた画像信号に対応す
る2次元の原画像がリアルタイムでCRTディスプレイ4に表示され
る。また,フレームメモリ6は,その2次元の原画像の内の計算機7
から指定されたラインに沿う画像信号をプロファイル展開してCRT
ディスプレイ4に供給する。これにより,そのプロファイル展開され
た画像が2次元の原画像に重畳された形式でリアルタイムにCRTデ
ィスプレイ4に表示される。」(段落【0010】)
(ウ) 「2次元の原画像の内の或るラインに沿う断面のプロファイルであ
るラインプロファイル(より正確にはそのライン上の画像データの濃
淡を曲線で表したもの)をリアルタイムで観察する場合には,計算機
7からCPU12に対してラインプロファイルの重畳表示の指示コマ
ンド及び当該ラインのアドレス(ラインアドレス)を伝達する。これ
に対応して,CPU12はビデオメモリ9の記憶領域からそのライン
アドレス上の各8ビットの画像データを順次読み取り,テキストメモ
リ13の記憶領域において,そのラインアドレス上の座標を水平アド
レスとして各画像データの濃度を垂直アドレスとする画素の画像デー
タとして“1”を書き込む。テキストメモリ13上のその他の記憶領
域には“0”が書き込まれている。これにより,そのラインアドレス
に沿うビデオメモリ9の各画素の濃度を示す8ビットの画像データが,
テキストメモリ13の垂直方向にビット展開される。具体的に説明す
るに,ビデオメモリ9に格納されている画像データに対応する画像は,
図1のビデオメモリ9の表面に描かれている周辺が暗く内部が明るい
図形であるとする。このときラインアドレスとしてその図形を横切る
水平走査ラインのアドレスを選択すると,そのラインに沿う一連の画
素の濃度はその図形の外部で淡く内部で濃くなる。従って,そのライ
ンアドレスに沿う画像のラインプロファイルは,図1のテキストメモ
リ13の表面に示すように,水平方向の両側で値が小さく中央部で値
が大きい曲線となり,この曲線の2値の画像データがテキストメモリ
13に格納される。」(段落【0013】,【0014】)
(エ) 「従って,CRTディスプレイ4には,2次元の原画像に対して指
定されたラインに沿う画像の断面のプロファイルが重畳してリアルタ
イムで表示される。具体的に,図1のCRTディスプレイ4の表面に
示すように,その2次元の原画像と平行に指定されたラインに沿う断
面のプロファイルが表示される。この場合,画像検出器1から画像増
幅器2を介してフレームメモリ6へ供給される入力画像信号に対応す
る画像が,1フレーム毎に状態が変化する動画であっても,指定され
たラインアドレスのラインプロファイル画像は,常にその動画に追従
してリアルタイムで同一のCRTディスプレイ4上に重畳して表示さ
れる。本実施例におけるリアルタイムとは,画像検出器1で検出され
てからせいぜい1フレーム周期∼2フレーム周期程度の遅延時間で,
という意味である。」(段落【0016】)
イ そうすると,甲6公報において,「断面プロファイル」とは,「観察画
像の内の或る特定のラインに沿う画像の断面の輪郭」(上記ア(ア))とさ
れていて,断面のプロファイルであるラインプロファイルは,「より正確
にはそのライン上の画像データの濃淡を曲線で表したもの」(同(ウ))と
されている。したがって,甲6公報において,「断面プロファイル」は,
濃淡で示されるものではあるが,断面の輪郭を示すものとされているので
あり,そのような断面の輪郭に関する情報が,2次元画像に重ね合わせて
表示する画像表示装置が示されているといえる。
したがって,甲6公報には,電子顕微鏡装置において,2次元画像と断
面の輪郭に関する情報である断面画像を重ね合わせて表示する画像表示装
置が記載されているとした審決に誤りはない。
ウ 原告は,電子顕微鏡に係る知見によれば,「原子番号効果」(甲14),
「原子番号効果−組成効果」(甲16)によっても2次電子の量が変わり,
凹凸がなくても濃淡の画面が表示されることがあり,その他,種々の要因
で2次電子の量が変わり表示される画面の濃淡が変化するから,電子顕微
鏡の画像の濃淡によって凹凸の実態(「断面画像」)を把握することはで
きない旨主張する。
しかし,甲6公報において,「断面プロフィル」の用語が,断面の輪郭
を示すものとされていることは上記のとおりであり,また,原告がその主
張の根拠として掲げる文献に記載されているのは,電子顕微鏡においては,
「原子番号効果」(甲14),「原子番号効果−組成効果」(甲16)に
よって検出器に面した2次電子だけでなく,検出器から見て影になってい
る部分の2次電子も検出してしまうことや,走査速度はゆっくりにするこ
とが必要であること,そして,装置のグレードによって解像度に差がある
ので,使用する装置の限界を知って,像の解釈をするよう心得ることが必
要であるというものであって,画面の濃淡によって,断面の輪郭を把握す
ることが一切できないという記載があるわけではないから,原告の主張は,
採用できない。
(3) 原告は,審決が,甲7公報には,「撮像装置と映像出力回路との間にフレ
ームメモリとスイッチを接続した撮像装置が記載されている」(審決謄本1
4頁第6段落)と認定したのに対し,同認定は,共焦点顕微鏡には関係がな
い甲7公報のカラー固体撮像装置の特徴的構成を無視してされたものであり,
誤りである旨主張する。
しかし,甲7公報には,「第1図において,光学系(図示せず)によって
撮像面に結ばれた被写体像は,カラー固体撮像素子41によって一次元カラ
ー撮像信号に変換される。この一次元カラー撮像信号は,プリアンプ42を
介してγ補正回路43に供給され,γ補正された後,スイツチ回路44に供
給される。上記被写体像をそのまま出力する通常撮影時,スイッチ回路44
のスイッチ45の可動接片aは端子bに接続され,スイッチ46はオフ状態
に設定される。・・・そして,輝度信号処理回路49の出力とカラーエンコ
ーダ51の出力とがY/C合成回路52で合成され,複合映像信号Vとして
出力される。一方,静止画再生時は,スイッチ45の可動接片aが端子cに
接続され,スイッチ46はオン状態に設定される。・・・このデジタル信号
化された信号はメモリ55に実時間で記憶される。このメモリ55から実時
間で読み出された信号は,D/A変換回路54で一次元カラー信号に逆変換
された後,スイッチ45を通してY/C分離回路48に供給される。この後
は,上述したような処理を受け,静止画像の複合映像信号Vとして出力され
る。」(2頁右下欄6行目∼3頁左上欄17行目)との記載があり,これに
よれば,甲7公報には,「撮像装置と映像出力回路との間にフレームメモリ
とスイッチとを接続した撮像装置が記載されている」ことが認められる。
審決は,「請求項1または2において,上記撮像装置からの画像信号を記
憶するフレームメモリと,このフレームメモリの画像信号または上記撮像装
置からの出力を選択的に切り換えてモニタに出力するセレクタとを備えた光
学顕微鏡」という本件発明3の進歩性の判断をするに当たって,甲7公報記
載の技術のうち,進歩性の判断に当たり必要な上記技術を認定したものであ
り,その引用発明の認定において,原告主張の誤りはない。
(4) 原告は,審決が,甲8公報には,「オートフォーカス機構を有するレーザ
顕微鏡が記載されている」(審決謄本14頁第7段落)と認定したのに対し,
同認定は,甲8公報の共焦点顕微鏡の特徴的構成を無視してされたものであ
り,誤りである旨主張する。
しかし,甲8公報には,「【実施例】・・・図1は本考案の共焦点顕微鏡
の一実施例を示す構成図である。・・・図1において,10は試料6を入射
光軸方向に自動的に動かすZステージ,11は試料6からの反射光を受光し
て画面上の1点の光量をモニタするCCDカメラ,12はCCDカメラ11
に接続され,光量の最大点を探し,その位置でZステージ10を止めるよう
に制御するCPUである。 ・・・まず,試料6のZステージ10は,自動
的に対物レンズ5のワーキングディスタンスより少し近づいた点で止まる。
次に,徐々にZステージ10は,対物レンズ5から離れていく。この時,C
PU12は,試料6からの光量をモニタするCCDカメラ11の或る点の光
量の最大値を探し,その位置にZステージ10を止める。なお,共焦点系で
は,最大光量点が試料6の表面を示している。したがって,Zステージ10
を光軸方向に動かした時に,或る点の光量が最大光量の点となるなら,その
時のZステージ10の位置が試料6の表面であり,オートフォーカス動作が
得られる。」(段落【0008】【0009】)との記載があり,これによ
れば,甲8公報には,「オートフォーカス機構を有するレーザ顕微鏡が記載
されている」ことは明らかである。
審決の上記認定は,「請求項1∼3のいずれかにおいて,試料を載置した
試料ステージをオートフォーカスモードにおいて上下動させ,上記一次元イ
メージセンサからの出力を取り込んで受光光量が最大となったときの試料ス
テージの高さを選択するオートフォーカス装置を備えた光学顕微鏡」という
本件発明4の容易想到性の判断に当たり,甲8公報記載の技術のうち,甲8
公報には,「オートフォーカス機構を有するレーザ顕微鏡」が記載されてい
ると認定したものであって,その認定に原告主張の誤りはない。
(5) 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点の看過)について
( 1) 審決は,前記第2の3(2)イのとおり,本件発明1と甲第3号証発明1と
の相違点として,「本件発明1が,試料に光を照射するためのレーザ光源と
は異なる観察用光源と(H),上記観察用光源からの上記試料での反射光を
上記対物レンズを介して受光する撮像装置(I)を備えているのに対し,甲
第3号証発明1では,試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表
示手段と有しているものの,前記構成(H)及び(I)については記載がな
い点。」(審決謄本12頁最終段落∼13頁第1段落)と認定したのに対し,
原告は,甲第3号証発明1と本件発明1を対比するに当たっては,両者にお
いて「2次元画像を得る手段」が異なっているのであるから,その点を相違
点として認定しなければならず,審決は,相違点を看過したものである旨主
張する。
しかし,上記1のとおり,本件発明1において,2次元画像は,レーザ光
源とは異なる観察用光源により得られたものであるのに対し,引用例3に記
載されている2次元画像は,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得ら
れる合焦点画像の合成像である。本件発明1の進歩性の判断に当たっての引
用発明との対比に当たっては,本件発明1の構成との対比がされるものであ
るから,引用発明と本件発明1との対比において,引用例に本件発明1の構
成に含まれない構成が記載されているとき,その構成について,引用発明と
して認定しないこと,及び,発明の対比において,本件発明の構成に含まれ
ない構成について,これを相違点として認定しないことは,いずれも誤りで
はない。
したがって,審決が,本件発明1と甲第3号証発明1との相違点の認定に
当たり,本件発明1の構成に含まれない構成,すなわち,甲第3号証発明1
の2次元画像が,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られる合焦点
画像の合成像である点を,相違点として認定しなかったことに誤りはなく,
原告主張の相違点の看過はない。
(2) 審決は,前記第2の3(3)イのとおり,本件発明5と甲第3号証発明2と
の相違点として,「本件発明5が,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情
報を断面の情報として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力
する第5ステップ(Q)を有するのに対し,甲第3号証発明2では,試料の
2次元画像と断層像が重ね合わせて表示するステップを有するものの,前記
構成(Q)については記載がない点」(審決謄本15頁最終段落∼16頁第
1段落)と認定したのに対し,原告は,甲第3号証発明2と本件発明5とを
適正に対比するには,両者において「2次元画像を得るステップ」が異なっ
ているのであるから,その点を相違点として認定しなければならず,審決は
相違点を看過している旨主張する。
しかし,上記1のとおり,本件発明5において,試料の画像は,撮像装置
により得られたものであるのに対し,引用例3に記載されている2次元画像
は,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られる合焦点画像の合成像
である。上記(1)と同様,本件発明5の進歩性の判断に当たっての引用発明
との対比に当たっては,本件発明5の構成との対比がされるものであるから,
引用発明と本件発明5との対比において,引用例に本件発明5の構成に含ま
れない構成が記載されているとき,その構成について,引用発明として認定
しないこと,及び,発明の対比において,本件発明の構成に含まれない構成
について,これを相違点として認定しないことは,いずれも誤りではない。
したがって,審決が,本件発明5と甲第3号証発明2との相違点において,
本件発明1の構成に含まれない構成,すなわち,甲第3号証発明2の試料の
2次元画像が,共焦点光学系の焦点移動メモリーによって得られる合焦点画
像の合成像である点を,相違点として認定しなかったことに原告主張の誤り
はない。
(3) そうすると,原告主張の取消事由3も理由がない。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)について
( 1) 前記1( 1)∼(3)及び3(1)のとおり,本件発明1と甲第3号証発明1とは,
「本件発明1が,試料に光を照射するためのレーザ光源とは異なる観察用光
源と(H),上記観察用光源からの上記試料での反射光を上記対物レンズを
介して受光する撮像装置(I)を備えているのに対し,甲第3号証発明1で
は,試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と有してい
るものの,前記構成(H)及び(I)については記載がない点」において相
違するところ,原告は,審決が,「甲第3号証発明1に係る2次元画像を得
る手段として,レーザ光源とは異なる白色光等からなる観察光源と撮像装置
からなる観察手段を用いることは,甲第3号証発明1及び周知技術に基づけ
ば,当業者が容易に想到することができたものである」(審決謄本13頁第
4段落)と判断したのに対し,その判断が誤りである旨主張する。
(2) そこで,本件出願時における技術水準についてみると,甲1公報には,以
下の記載がある
ア 「【産業上の利用分野】本発明は共焦点型のレーザ顕微鏡に関し,特に,
測定領域の確認ができると共に,所望測定領域へのアクセス時間の短縮化
を図るために工夫したものである。
【従来の技術】近年,対物レンズと接眼レンズとから構成される光学顕
微鏡の代りに,レーザ光を被測定物に照射し,その反射光を検出し,画像
処理を施して,例えば生物内部の様子を鮮明に描き出したり,不透明な半
導体の内部状態を画像化するようなレーザ顕微鏡が出現されている。この
レーザ顕微鏡は焦点のあった面だけが情報を取り出す「共焦点型」である
ため,従来の光学顕微鏡と比べて,鮮明な像が得られ分解能が優れている。
【発明が解決しようとする課題】ところでレーザ顕微鏡はレーザ光の走
査によって画像を作り出すもので,2次元以上の空間を微細な点(0次
元)に分解し,その各点からの情報を時系列に伝送処理されているので,
現在被測定物のどの位置を測定していかが判らないという問題がある。ま
た,希望測定領域のみの観察についても,時系列的に処理するためアクセ
ス時間が遅いという問題がある。本発明は以上述べた事情に鑑み,所望の
測定領域の確認が容易となり,必要な箇所だけを詳細に観察し,測定時間
の短縮を図ることができるレーザ顕微鏡を提供することを目的とする。」
(段落【0001】∼【0004】)
イ 「図1に示すように,本実施例に係るレーザ顕微鏡10は,レーザ光
(He−Neレーザ光:波長0.633μm)Lを出射するレーザ光源部
11と,出射したレーザ光Lを拡大するビームエクスパンダ12と,拡大
されたレーザ光を一方向に走査したレーザ走査光L Sとするレーザ光調光
手段としてのAO素子13と,このレーザ走査光L Sを被測定物に照射す
る対物レンズ14と,被測定物Rでのレーザ走査光L Sの反射光RL Sをビ
ームスプリッタ15A,15Bを介して受光するHe−Ne用干渉フィル
タ16を有する一次元受光部としての一次元CCDイメージセンサ17か
らなるレーザ光測定部と,上記対物レンズ14の外周に設けられたリング
状照射部18から被測定物にレーザ光Lの波長以外の波長を有する光(本
実施例においては緑色フィルタによって赤をカットした白色光)L W を照
射する光源部19と,この光の被測定物Rでの反射散乱光をビームスプリ
ッタ15A,15Bを介して受光する二次元受光部としての二次元CCD
イメージセンサ20とからなる白色光測定部とを具備するものである。本
実施例においてはレーザ光調光手段としてAO素子13を用いて一方向に
走査した走査光L Sを得るようにしている。ここで,AO素子とは,トラ
ンスデューサーを有する光学媒体(二酸化テルル)にレーザー光を入射さ
せ,光学媒体中に発生した超音波によってレーザー光回折し,光を偏向さ
せるものをいい音響光学偏向素子と称されている。」 (段落【000
9】,【0010】)
ウ 「尚,一次元のラインセンサはレーザ光が当る箇所のみの反射光の情報
を得るが,一方の二次元センサは図1に示すように,モニタ22ではレー
ザ光の当る位置が明るい二次元の映像をモニタを得ることができる。一次
元センサによる測定サンプル形状の測定においては,レーザ光が照射され
ている一次元状の位置の情報しか得られないため,サンプルのどの箇所を
測定しているかを知ることが困難であるが,二次元センサによる観測では
サンプル形状およびレーザ光の照射されている位置を同時に知ることがで
きるため,サンプルのどの箇所を測定しているのかを即座に知ることがで
きる。また,二次元センサは一次元センサとは独立に駆動されるため,一
次元センサでの測定を行っているときに同時にその測定位置を知ることが
できる。」(段落【0015】,【0016】)
(3) また,甲9公報には,以下の記載がある。
ア 「(問題点を解決するための手段)本発明は,前記問題点を解決するた
めに,点光源からのレ−ザ光を対物レンズにより被測定物に集光し,該被
測定物からの反射光を点受光して該反射光の強度により前記被測定物に形
成されたトレンチの深さを検出する共焦点光学系と,前記被測定物の3次
元方向の移動を制御し前記レ−ザ光に該被測定物上の相対的な走査を行な
わしめる制御ステ−ジと,前記レ−ザ光と異なる波長の光を用いて前記被
測定物の測定位置を観察する観察用光学系とで,トレンチ深さ測定装置を
構成したものである。」(2頁右上欄11行目∼左下欄2行目)
イ 「前記観察用光学系20は,制御ステ−ジ30上の被測定物31におけ
る測定箇所を観察するためのもので,共焦点光学系10を補うものである。
即ち,共焦点光学系10から得られる像は基本的には0次元であるため,
画像面にはならず測定箇所を識別することが難しい。これを共焦点光学系
10で解決するためには,高密度及び高速度の2次元走査をレ−ザ光側か
制御ステ−ジ30側で行なう必要があり,技術的には可能なものの高価か
つ複雑な機構となつてしまう。したがつて,本発明では簡単な方式として,
通常の光学顕微鏡とほぼ同様の観察用光学系20を,共焦点光学系10と
複合して設けたものである。この観察用光学系20は,例えばハロゲンラ
ンプから成る照明光源21を有し,その光軸上前方に集光レンズ22,及
び特定波長領域の光のみ透過させるバンドパス光学フイルタ23を有して
いる。」(3頁左上欄7行目∼右上欄4行目)
(4) 上記に照らせば,本件出願時において,レーザ光を利用する共焦点光学系
を備えた光学顕微鏡につき,その共焦点光学系から得られる情報のみでは,
測定箇所を知ることが必ずしも容易でなく,この点を解決しなければならな
いことは,周知の技術課題であったと認められる。
そして,上記周知の技術課題を解決するため,甲1公報には,「二次元受
光部」で測定する技術が記載され,甲9公報には,「観察用光学系20」の
採用が記載されているように,共焦点光学系を備えた光学顕微鏡において,
共焦点光学系とは別の観察用の光学系を用いて,試料を2次元的に観察する
ことも周知の技術であったと認められる。
共焦点光学系を備えた顕微鏡において,上記の周知の課題を解決するため
に,共に焦点光学系とは別の光学系を用いることが周知の技術であったこと
は,本件明細書に,「【従来の技術】従来より,試料(被写体)の外観を観
察するための観察用光学系と,レーザ光の反射光の強度を測定して,試料の
深度に関する情報を検出する共焦点光学系とを備えた光学顕微鏡が知られて
いる(たとえば,特開平1−123102号(注,甲9公報),同−277
812号公報参照)。この種の顕微鏡は,試料の拡大像だけでなく,試料の
深度も含めた三次元的なデータが得られ,半導体集積回路のような微細な構
造を知る上で有用である。」(段落【0002】)と記載されていることか
らも明らかである。
そうすると,甲第3号証発明1は,レーザ光を利用する共焦点光学系を備
えた光学顕微鏡であり,上記の周知の課題を有していたところ,その課題を
解決するために,共焦点光学系とは別の観察用光学系を設けることは周知の
技術であったのであるから,甲第3号証発明1の構成において,本件発明1
の構成と同様の,2次元画像を得る手段として,レーザ光源とは異なる白色
光等からなる観察光源と撮像装置からなる観察手段を用いる構成を採用する
ことは,当業者が容易に想到することであるといえる。
(5) これに対し,原告は,甲第3号証発明1は,試料の2次元画像(断層像と
重ねて表示するためのもの)の「合成像」を得る手段である「焦点移動メモ
リー」を固有必須の構成として有する一体的に完結したものであって,引用
例3の写真の2次元画像は,焦点移動メモリーにより得られた合焦点画像で
ある合成像としての2次元画像に一義的に限定され,他の手段による2次元
画像とすることを想到する余地はないこと,同発明に固有必須の「焦点移動
メモリー」にさらに重複して他の手段を付加することの示唆や動機付けはど
こにも示されていないこと,同発明の断層像と重ねて表示する2次元画像を
得る手段を二重にすれば複雑となるし,そもそも,二重にする構成がどのよ
うなものか想起することは難しいこと,甲第3号証発明1から「焦点移動メ
モリー」を除外すれば,もはや,甲第3号証発明1ではなくなるのであり,
同発明の「焦点移動メモリー」を周知技術とされる他の手段で置換すること
はできないことを指摘して,甲第3号証発明1に係る2次元画像を得る手段
として,レーザ光源とは異なる白色光等からなる観察光源と撮像装置からな
る観察手段を用いることは,甲第3号証発明1及び周知技術に基づけば,当
業者が容易に想到することができたものであるとした審決の判断を争ってい
る。
原告の主張は,要するに,引用例3に記載された発明は,焦点移動メモリ
ーを固有必須の構成として有し,引用例3の写真2に示されたような,焦点
移動メモリーにより得られた合焦点画像である合成像としての2次元画像を
得るものとして完結したものであるから,同2次元画像を得る方法に代えて,
本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到することができな
いことをいうものと解される。
確かに,引用例3においては,2次元画像が共焦点光学系を利用した,焦
点移動メモリーにより得られた合成画像であることが記載されているととも
に,引用例3の写真2には,同合成画像と,共焦点光学系を利用して得られ
た表面形状出力が重ねて表示されている。しかし,共焦点顕微鏡において,
甲第3号証発明1の構成である「各画素について最大輝度を与えるステージ
のZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素の奥行方向の高さ情報をストアし,
試料の表面形状を測定する手段」と,試料の2次元画像を得る手段とは,そ
れぞれ目的を異にする,性質上独立した技術的な要素であると認めることが
できるものであるから,引用例3の上記記載により,共焦点顕微鏡において,
表面形状を測定する手段と試料の2次元画像を得る手段が,技術上,独立し
た要素であることが変わるものではなく,当業者にとり,引用例3に記載さ
れた発明は,上記の2個の要素に分けることができるものである。
このことは,引用例3において,「3.焦点移動メモリー」の項において,
焦点移動メモリーと呼ばれるメモリーを利用した合成画像を得ることが記載
されるとともに(前記1(2)イ),項目を異にする「4.表面形状測定」の
項において,「合焦点面での画素情報が最も明るいという,共焦点型光学系
の特徴は,表面形状測定にも応用することができる。試料をZ軸ステージに
よって奥行方向に移動しながら,各画素について最大輝度を与えるステージ
のZ軸変位量を別のメモリに記憶させれば,各画素について奥行方向の高さ
情報をストアすることができる。」(同ウ)として,共焦点光学系につき,
合成画像を得るという観点からではなく,それとは異なる,表面形状の測定
をするという観点から,活用することが可能であることが記載され,それら
が,それぞれ独立した技術として理解可能なように記載されていることから
も明らかである。このような別個の技術であることが明らかなものにつき,
上記合成画像と表面形状測定の結果を重ね合わせて表示する写真が存在する
ことにより,両技術について,分離できない,完結した技術となるものでは
ない。
そうすると,引用例3に記載されている,試料の表面形状測定の手段と,
試料の2次元画像を得る手段の各技術は,一体として完結した技術とは認め
られず,当業者はそれぞれの技術を要素として理解できるものである。審決
は,前記1及び3のとおり,そのうち,本件発明1との対比のため,引用例
3の試料の表面形状測定の手段を中心として,「共焦点顕微鏡において,レ
ーザ光を出射するレーザ光源と,レーザ光を試料に集光するための対物レン
ズと,CCDからなる検出素子と,レーザ光を水平方向に走査するための音
響光学偏向素子と,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,
各画素について最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,
各画素の奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状を測定する手段と,
試料の2次元画像と断層像が重ね合わせて表示する表示手段と,を備えた共
焦点顕微鏡」を,甲第3号証発明1として,認定したものである。そして,
そのように認定された甲第3号証発明1において,試料の表面形状を測定す
る手段につき,本件発明1の構成と甲第3号証発明1の構成が一致し,他方,
試料の2次元画像を得る手段について,甲第3号証発明1の構成に基づき,
本件発明1の構成を想到することが容易なことは,前記(4)のとおりである。
以上によれば,甲第3号証発明1が,焦点移動メモリーを固有必須の構成
として有し,引用例3の写真2に示されたような,焦点移動メモリーにより
得られた合焦点画像である合成像としての2次元画像を得るものとして完結
したものであることを理由に,甲第3号証発明1に基づく容易想到性を否定
すべき旨の原告の主張は,採用することができない。
(6) 原告は,審決が周知技術とした甲1公報及び甲9公報記載の技術について,
単に2次元画像を見るだけのものにすぎず,2次元画像と断層像とを重ね合
わせて表示することとは関係がなく,このような技術を甲第3号証発明1に
組み合わせることの示唆や動機付けはどこにも示されていないこと,これら
の技術は,「光源からレーザ光の波長を除く」ものであり,仮に,甲1公報
及び甲9公報記載の試料観察手段を甲第3号証発明1に適用しても,技術的
困難性から試料の2次元画像と断層像とを重ね合わせて表示することはでき
ず,本件発明1に容易に想到することはできない旨主張する。
しかし,前記(4)のとおり,本件出願時において,レーザ光を利用する共
焦点光学系を備えた光学顕微鏡につき,その共焦点光学系から得られる情報
のみでは,測定箇所を知ることが必ずしも容易でなく,この点を解決しなけ
ればならないことは,周知の技術課題であり,また,その課題を解決するた
めに,甲1公報や甲9公報に記載されたような,共焦点光学系とは別の光学
系を用いて,試料を2次元的に観察することも周知の技術であったのである。
そして,甲第3号証発明1は,共焦点光学系を備えた光学顕微鏡なのである
から,当業者であれば,当然に,同分野において周知の技術課題を認識して
いたのであり,また,その課題を解決するための上記技術が周知であった以
上,甲第3号証発明1に対し,甲1公報や甲9公報記載の技術を組み合わせ
る動機付けがあると認められる。
この点について,原告は,甲第3号証発明1は,共焦点光学系の「1つの
光学系」のみで試料の2次元画像と表面形状(「断層像」)を重ね合わせて
表示することができる構成であって,共焦点光学系の優位をうたい,通常の
光学顕微鏡を積極的に排除して,これを不要とする構成であって,甲第3号
証発明1に上記試料観察手段を適用することを阻害する要因がある旨主張し,
審決が,「甲第1号証(注,甲1公報)及び参考資料(注,甲9公報)に記
載のような試料観察手段を甲第3号証発明1に適用することを阻害する要因
も特段存在しない。」(審決謄本13頁第3段落)としたことを論難するが,
前記のとおり,甲第3号証発明1は,試料の表面形状を得る手段と2次元画
像を得る手段を有するところ,甲第3号証発明1における試料の表面形状を
得る手段が,本件発明1における2次元画像を得る手段の構成を排除すると
は認められないから,原告の主張は,理由がない。
(7) 原告は,光学顕微鏡には,欠点があり,本件出願時において,共焦点レー
ザ顕微鏡の優位性が喧伝され,試料の2次元画像と表面形状(断層像)とを
重ね合わせて表示するに際し,2次元画像を得る手段として,焦点移動メモ
リーを備えた共焦点レーザ顕微鏡に比して,光学顕微鏡は使うものではない
との技術常識が形成されていたと主張し,甲第3号証発明1の発明者が,同
発明と同じ発明について,本件出願と同時期に執筆した文献(甲17ないし
20)を提出する。
しかし,上記文献においては,通常の光学顕微鏡と共焦点レーザ顕微鏡と
の比較についての記載はあるが,甲第3号証発明1は,そもそも,共焦点レ
ーザ顕微鏡に係る発明であって,共焦点光学系を利用して表面形状を測定す
る手段を有するものであり,ただ,本件発明1との対比において,その2次
元画像を得る手段が問題となっているのであるから,通常の光学顕微鏡と共
焦点レーザ顕微鏡そのものの比較は,本件において直接関係はない。また,
共焦点レーザ顕微鏡において,測定個所を容易に知ることができないとの課
題の解決のために,共焦点光学系とは別の光学系を用いて,試料を2次元的
に観察することが周知の技術であったと認められることは,前記( 4)のとお
りであり,そのような目的で2次元画像を得ようとする場合に,焦点移動メ
モリーを利用した合成像でなければならないという技術常識が形成されてい
たとは認められないから,原告の主張は,失当というほかない。
(8) 以上によれば,原告主張の取消事由4も理由がない。
5 取消事由5(本件発明1ないし5の進歩性についての判断の誤り)について
(1) 原告は,審決の甲6公報記載の技術の認定が誤っていることを前提として,
甲6公報記載の技術に基づき,本件発明2ないし4を当業者が容易に想到で
きるとした審決の判断が誤りである旨主張するが,前記2(2)のとおり,審
決の甲6公報記載の技術の認定には誤りはなく,原告の主張は,前提を欠く
ものである。
(2) 本件発明5と甲第3号証発明2との相違点は,前記1(4)及び3(2)のとお
り,「本件発明5が,記憶部に記憶された深さ方向の位置の情報を断面の情
報として撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する第5ステ
ップ(Q)を有するのに対し,甲第3号証発明2では,試料の2次元画像と
断層像が重ね合わせて表示するステップを有するものの,前記構成(Q)に
ついては記載がない点」であるところ,原告は,審決が,この相違点につい
ての判断において,「断層像すなわち断面の情報と撮像装置で撮像された試
料の画像と重ね合わせて出力するステップを設けることは,甲第3号証発明
2及び周知技術に基づけば,当業者が容易に想到することができたものであ
る。」(審決謄本16頁第4段落)としたのに対し,その判断が誤りである
旨主張する。
しかし,前記4(2)及び( 3)によれば,レーザ光を用いた光学顕微鏡におい
て,レーザ光とは別個に,白色光等を試料に照射しその反射光を受光してな
る撮像装置を設けることは,本件出願時において,周知の技術であったとい
うことができる。そして,甲第3号証発明2は,上記周知技術と,レーザ顕
微鏡を対象とする点で技術分野を同じくするのであり,当業者が,上記周知
技術を甲第3号証発明2に適用し,甲第3号証発明2に対し,撮像装置を設
け,断面の情報と撮像装置で撮像された試料の画像と重ね合わせて出力する
ステップを設け,本件発明5に想到することは,容易であったといわなけれ
ばならない。
この点について,原告は,本件発明5と甲第3号証発明2との対比におい
て,審決は,相違点を看過して,容易想到性の判断をしており,誤った前提
に基づく上記判断は誤りである旨主張する。原告の主張は,本件発明1にお
ける主張と同様,引用例3に記載された発明は,焦点移動メモリーを固有必
須の構成として有し,引用例3の写真2に示されたような,焦点移動メモリ
ーにより得られた合焦点画像である合成像としての2次元画像を得るものと
して完結したものであることを前提とするものであるが,ここにおいても,
当業者は,引用例3に記載された技術について,光学顕微鏡における深度測
定方法に係る技術と,試料の2次元画像を得る技術を,一体として完結した
技術ではなく,それぞれ独立した技術として理解できるのであり,審決は,
前記1及び3のとおり,そのうち,本件発明5との対比のため,引用例3の
深度測定方法に係る技術を中心として,「試料に対し音響光学偏向素子によ
りレーザ光を水平方向に走査し,CCDにより試料からの反射光を受光する
とともに,試料をZ軸ステージによって奥行方向に移動しながら,各画素に
ついて最大輝度を与えるステージのZ軸変位量をメモリに記憶し,各画素の
奥行方向の高さ情報をストアし,試料の表面形状すなわち断層像を測定する
手段と,試料の2次元画像と断層像を重ね合わせて表示する共焦点顕微鏡に
よる表面形状測定方法」を甲第3号証発明2として認定したものである。審
決が,上記のとおり甲第3号証発明2を認定したことに誤りはなく,原告主
張の相違点の看過がないことは,前記3(2)のとおりであり,原告の主張は
前提を欠く。
その他,原告は,本件発明1と同様,甲第3号証発明2及び「周知技術」
から本件発明5を想到することの示唆も動機付けもなく,かえって,本件発
明5の技術的思想(課題,目的,解決手段)は,甲第3号証発明2のものと
は全く異なるものであり,甲第3号証発明2から本件発明5に想到するには
阻害要因がある旨主張するが,上記に照らし,理由がない。
(3) 原告は,本件発明1ないし5は,簡単な構造により,試料の断面情報と外
観画像とを重ね合わせて表示することができるように構成した,新たな技術
的思想に係るものであること,半導体集積回路等において必要とされる断面
情報の特性にかんがみてされたところに特徴があること,光学顕微鏡と共焦
点顕微鏡という異なる観察源から得られた情報を重ね合わせるという,常識
を覆す構成により,非常にシンプルな構成でありながら,表面形状の観察が
可能になるという優れたものであり,このような構成は従来全く想定された
ことはなく,新規性・進歩性を有する発明である旨主張する。
しかし,本件発明1ないし5の構成のうち,試料の断面の情報を求める手
段に係る構成,又は,深度測定方法に係る構成については,甲第3号証発明
1又は2と一致するものであり,本件発明1ないし5の構成は,甲第3号証
発明1又は2の構成に周知の技術を付加したものといえるものである。そし
て,その周知技術の付加も,前記のとおり,本件各発明に係る顕微鏡の分野
においては,当業者が容易に想到し得るものというほかはなく,原告の主張
は,採用できない。
(4) そうすると,原告主張の取消事由5も失当である。
6 以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 宍 戸 充
裁判官 柴 田 義 明
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