平成18(行ケ)10063審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年12月11日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告東成産業有限会社
X
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対象物 |
土壌中性固化剤及び地盤等の改良工法並びに重金属溶出防止手段(後に「土壌中性固化剤及び地盤等 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
刊行物106回 審決39回 実施26回 優先権2回 進歩性1回 新規性1回
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主文 |
原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告ら被承継人松田技研工業株式会社が,名称を「土壌中性固化剤及び
地盤等の改良工法並びに重金属溶出防止手段 (後に「土壌中性固化剤及び地盤等」
の改良工法並びに重金属溶出防止方法」と補正 )とする発明につき特許出願をし。
て拒絶査定を受けたので,特許を受ける権利を承継した原告らが,これを不服とし
て審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審
決の取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成18年(行ケ)第10063号 審決取消請求事件
平成18年12月11日判決言渡,平成18年10月18日口頭弁論終結
判 決
原 告 東成産業有限会社
原 告 X
両名訴訟代理人弁理士 庄司建治
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指 定 代 理 人 西川和子,脇村善一,徳永英男,田中敬規
主 文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2004−1525号事件について平成17年12月20日にし
た審決を取り消す。
」との判決。
第2 事案の概要
本件は,原告ら被承継人松田技研工業株式会社が,名称を「土壌中性固化剤及び
地盤等の改良工法並びに重金属溶出防止手段」(後に「土壌中性固化剤及び地盤等
の改良工法並びに重金属溶出防止方法」と補正 。)とする発明につき特許出願をし
て拒絶査定を受けたので,特許を受ける権利を承継した原告らが,これを不服とし
て審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審
決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲第1号証,乙第1号証)
出願人:松田技研工業株式会社
発明の名称: 土壌中性固化剤及び地盤等の改良工法並びに重金属溶出防止手段」
「
(平成15年9月8日付けで「土壌中性固化剤及び地盤等の改良工法並びに重金属
溶出防止方法」と補正。)
出願番号:特願2001−212678号
出願日:平成13年7月12日
優先権主張日:平成12年11月9日(日本)
(2) 本件手続
手続補正日:平成15年9月8日(甲第2号証)(以下「第1次手続補正」とい
う。)
拒絶査定日:平成15年11月26日(甲第3号証)
出願人名義変更届日:平成16年1月22日(甲第11号証)
審判請求日:平成16年1月22日(不服2004−1525号) 甲第4号証)
(
手続補正日:平成16年1月22日(甲第5号証 )(以下「本件手続補正」とい
う。)
審決日:平成17年12月20日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成18年1月16日
2 本願発明の要旨
(1) 審決が対象とした発明は,第1次手続補正後の請求項1に記載された発明
(以下「本件発明1」という。なお,請求項の数は10個である。)であり,その
発明の要旨は,以下のとおりである。
「 請求項1】
【 酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウム,ポリ塩化
アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,酸性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,
リン酸,水溶液のPH値が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の10
∼100重量部の酸性固化助剤と,活性炭,活性白土,セピオライト,ケイソー土,
ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,グアガム,硫酸カルシウム,ス
ラグの中,単独又は二種以上の吸水剤とを混合して使用するものであることを特徴
とする土壌中性固化剤。」
(2) 本件手続補正後の請求項1に記載された発明(下線部が補正箇所であり,
以下「補正後発明1」という。なお,請求項の数は10個である。)の要旨は,以
下のとおりである。
「 請求項1】
【 酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウム,ポリ塩化
アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,スルファミン酸,リン酸,水溶液のPH
値が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の10∼100重量部の酸性
固化助剤と,活性白土,セピオライト,ケイソー土,ゼオライト,シリカヒームの
ポーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,スラグの中,単独又は二種以上の吸水剤と
を混合して使用するものであることを特徴とする土壌中性固化剤。」
3 審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,補正後発明1は,いずれも本
件特許出願に係る優先権主張日(平成12年11月9日)前に国内で頒布された特
開2000−239660号公報(甲第8号証。以下「刊行物1」という 。)及び
特開2000−109829号公報(甲第9号証。以下「刊行物2」という。)に
それぞれ記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたもので
あり,特許法29条2項の規定によって,特許出願の際,独立して特許を受けるこ
とができないものであるから,本件手続補正は,同法17条の2第5項で準用する
同法126条5項の規定に違反するとして,本件手続補正を却下した上,本件発明
1を対象として審理をし,本件発明1は,刊行物1,2記載の発明に基づき,当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
って特許を受けることができない,と判断したものである。
「2.平成16年1月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成16年1月22日付けの手続補正を却下する。
[理由]
請求項1についての補正は,発明を特定するために並列的に記載された必要な事項を削除す
るものであるから,特許請求の範囲の減縮に相当するものであるところ,補正後の特許請求の
範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(補正後発明1)は特許出願の際独立
して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第5項で準用する同法
第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で準用する特許法第
53条第1項の規定により却下されるべきものである。
以下(1)∼(5)に,理由を詳述する。
(1)補正後発明1
補正後発明1は,補正後の明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載さ
れた次の事項により特定されるものである。
(上記2の(2)のとおりにつき,省略)
(2)原査定の拒絶理由で引用された刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000−239660号公報(刊行物1 ),特開2
000−109829号公報(刊行物2)には,以下のことが記載されている。
(a)特開2000−239660号公報:
(a1 )「酸化マグネシウムと,硫酸アルミニウム,硫酸第1鉄,ポリ塩化アルミニウム,酸
性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,ポリアクリル酸,硫酸アンモニウム,明ばん,仮焼明ば
ん石,および硫酸亜鉛からなる群から選ばれた一種または二種以上の固化剤とを含むことを特
徴とする土壌固化剤」(特許請求の範囲の請求項1)
(a2 )「該固化剤は該酸化マグネシウム100重量部に付して10∼100重量部添加され
る請求項1に記載の土壌固化剤」
(同請求項2)
(a3 )「該酸化マグネシウムと該固化剤とを含む混合物に酸性剤5∼50重量%および有機
高分子凝集剤および/または吸水剤0.1∼2.0重量%を添加したことを特徴とする土壌固
化剤 」(同請求項4)
(a4 ) 上記酸化マグネシウムの固化剤としては ,酸化マグネシウムと ,硫酸アルミニウム ,
「
硫酸第1鉄 ,ポリ塩化アルミニウム,酸性硫酸ナトリウム ,スルファミン酸 ,ポリアクリル酸 ,
硫酸アンモニウム,明ばん,仮焼明ばん石,および硫酸亜鉛からなる群から選ばれた一種また
は二種以上の化合物が使用される。上記固化剤のうち,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニ
ウム,酸性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,ポリアクリル酸,硫酸アンモニウムは処理土の
pHを低くする作用もある。(公報段落【0007】
」 )
(a5 )「酸性剤としては,例えば粉末硫酸,硼酸等の粉末状の無機酸あるいは蓚酸,クエン
酸,リンゴ酸,ベンゼンスルホン酸等の粉末状の有機酸,硫酸アンモニウム,ベンゼンスルホ
ン酸アンモニウム等の強酸と弱塩基との粉末状の塩,塩化第2鉄,塩化マグネシウム,塩化ア
ンモニウム等の粉末状の酸性塩等が使用される 。・・・吸水剤としては例えば下水焼却灰,木
炭,活性炭,シリカゲル等がある 。(同段落【0008】【0009】
」 , )
(a6 )「上記成分においては,酸化マグネシウムと固化剤と土壌との固化反応によって土壌
が固化せしめられるが,酸性剤によって土壌のpHを酸性側,望ましくはpH5∼9,更に望
ましくはpH5.8∼8.6に調節して該酸化マグネシウムと該固化剤と土壌との固化反応を
促進する。また水分を多量に含有する土壌の場合には,上記成分に加えて上記有機高分子凝集
剤および/または吸水剤を添加すると,土壌が凝縮して水が排除され,あるいは土壌中の水が
吸収され,望ましい固さの土壌固化物が得られる。上記成分以外に,所望なれば炭酸カルシウ
ム,無水石膏,半水石膏,タルク,未焼ドロマイト ,ケイ石粉等の充填材が添加されてもよい 。」
(同段落【0011】)
(a7)〔実施例1〕地下鉄工事で発生した粘土質土壌(含水率47重量%,含水比89重量
「
%,一軸圧縮強度0 kg/cm ,pH7.8)1000 cc に対し,軽焼酸化マグネシウム100
重量部,硫酸アルミニウム20重量部の混合物に10重量%の粉末酸性硫酸ナトリウムを添加
した土壌固化剤40gを添加し攪拌混合した 。・・・表1によれば,該土壌は3時間後には搬
出に支障ない程度に固化し,更に7日後にはpH値が水質基準の上限8.6を下回った 。(同
」
段落【0015】∼【0016】)とされ,表1の「経時 7日」の「pH」欄は,「8.5」と記載さ
れている。
(a8 )「本発明の土壌固化剤は,土壌と混合して短時間に運搬輸送の可能な程度に固化せし
めることが出来,また固化物は水との接触によっても崩壊せず,更に重機類で容易に突崩すこ
とが出来,建設現場での発生土等の土壌の大量迅速処理が可能になる。また固化した土壌のp
H値を水質基準の上限8.6を下回るようにすることが出来るので,該土壌からの地下水や雨
水等の滲出水が周囲の環境へ悪影響を与えることもなく,植生に対しても問題がない。したが
って該土壌は再利用が可能である 。(同段落【0028】
」 )
(b)特開2000−109829号公報:
(b1)【請求項1】15∼40重量部の酸化マグネシウムと,4∼10重量部の硫酸アルミ
「
ニウム及び/または硫酸鉄と,残部がせっこうより成る組成物を必須成分とする,含水土壌用
固化材。(特許請求の範囲の請求項1)
」
(b2)【請求項4】請求項1に記載の固化材必須成分100重量部当たり,更に5∼60重
「
量部の無機質多孔体吸水材を添加した,含水土壌用固化材 。(同請求項4)
」
(b3 )「本発明の固化材における主成分の一つであるせっこうは,水和反応による土壌中の
水の固定化とその水硬性により,含水土壌の固化を促進すると考えられ,二水物以外であれば
履歴に関係なく使用することが出来る。例えば,半水せっこう,無水せっこう,又はこれらの
混合物を何等問題無く使用出来る 」
(公報段落【0011】)
(b4 )「本発明の固化材は,必須成分である酸化マグネシウム,硫酸アルミニウム及び/又
は硫酸鉄を適量混合することにより十分その性能を発揮するが,更に無機多孔体吸水材及び/
又は吸水性有機物を添加することにより,固化材添加後土壌のpH値を殆ど変動させることな
く,固化改良後土壌の一軸圧縮強度を更に改善することが出来る。吸水材は,土壌中に存在す
る自由水と結合・固定化して,含まれる自由水量を少なくする働きを有していることから,吸
水材を添加した固化材の使用は,含水比の低い含水土壌の固化改良と同じになり,固化材添加
後土壌の一軸圧縮強度が高くなるものと考えられる。従って,含水比の高い土壌の固化改良に
おいては,吸水材の添加は特に効果的である 。(同段落【 0012】
」 )
(b5) 一方,本発明で使用可能な無機多孔体吸水材例としては ,パーライト ,ゼオライト ,
「
シリカ,ボトムアッシュ等を挙げることが出来るが,中でもパーライトが,吸水性能,化学的
安定性,価格面で最も好ましい材料である 。(同段落【0014】
」 )
(b6 )「本発明の固化材は組成的に簡単なものであるが,改良後土壌の材令7日後の一軸圧
縮強度は0.5 kgf / cm 以上と歩行可能な強度を有していることから,その上での作業が
可能になるだけでなく,pH値も,土壌の緩衝能力によるpH値降下が速やかにおこり易い1
0以下に収まっており,アルカリ公害を引き起こす可能性も低く,含水土壌の固化改良材とし
ての利用価値が高い。(同段落【0027】
」 )
(3)対比・判断
刊行物1には ,「酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウム等から選ばれた固化
剤10∼100重量部を含む土壌固化剤 」
(摘記(a1 ) (a2 )
, )が記載されており,補正後
発明1と上記の刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は ,「酸化マグネシウム10
0重量部に,硫酸アルミニウムを10∼100重量部を含む土壌固化剤」で一致するものの,
(ⅰ) 「硫酸アルミニウム」が,補正後発明1においては「酸性固化助剤 」であるのに対して ,
刊行物1に記載された発明においては ,
「固化剤」である点,
(ⅱ) 「土壌固化剤」が,補正後発明1においては「中性」と特定されているのに対し,刊行
物1に記載された発明においてはそのような特定はなされていない点,
(ⅲ) 補正後発明1においては,さらに ,「吸水剤」を発明特定事項としているのに対し,刊
行物1に記載された発明においてはこれを発明特定事項としていない点,
で相違する。
(ⅰ)について
補正後発明1においては「酸性固化助剤」とされているところ,本願特許明細書における説
明をみると,段落【 0027】には ,「さらに前記酸性固化助剤は,硫酸アルミニウム,ポリ塩化
アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,酸性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,リン酸,水
溶液のPH値が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の固化剤を混合せしめたもの
である。 と説明され,この説明からすると , 酸性固化助剤」とは「固化剤 」であると解され ,
」 「
一方,刊行物1に記載された発明においても ,「上記固化剤のうち,硫酸アルミニウム,ポリ
塩化アルミニウム,酸性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,ポリアクリル酸,硫酸アンモニウ
ムは処理土のpHを低くする作用もある 。(摘記(a4 ) と記載されていることからすると,
」 )
硫酸アルミニウムを用いた場合,処理土のpHを低くする作用,すなわち,酸性固化剤である
といえる。さらに,固化剤でも固化助剤でも,酸化マグネシウムとともに用いて土壌を固化す
る点においては差異がなく,そうしてみると,両者に共通する硫酸アルミニウムが,酸性固化
助剤であっても固化剤であっても実質的には同じことと解され,この相違点は,実質的な相違
点ではない。
(ⅱ)について
本願特許明細書の段落【 0009】の【発明が解決しようとする課題】には「本発明の土壌中性
固化剤は,毒性の強い六価クロムを含有するセメント系固化剤の代りに,酸化マグネシウムを
主成分とし,さらに処理土のPH値が5∼9好ましくは5.8∼8.6になるように酸性固化
助剤を混合した中性固化剤を添加混合せしめ,固化強度を著増し,且アルカリ及び重金属汚染
の恐れのない安全な改良土としたものである 。」とされていることからすると,補正後発明1
における「中性」とは ,「PH値が5∼9好ましくは5.8∼8.6」のものと認められると
ころ,刊行物1に記載された発明においても,酸性剤を用いた場合ではあるが ,「土壌のpH
を酸性側,望ましくはpH5∼9,更に望ましくはpH5.8∼8.6に調節して該酸化マグ
ネシウムと該固化剤と土壌との固化反応を促進する 。 (摘記(a6 )
」 )とされ,さらに,実施
例1においては ,「軽焼酸化マグネシウム100重量部,硫酸アルミニウム20重量部の混合
物に10重量%の粉末酸性硫酸ナトリウムを添加した土壌固化剤」を用いており,刊行物1に
記載された発明における酸性剤を用いていないにもかかわらず(摘記(a5 ) ,その7日後の
)
pH値が8.5であって水質基準の上限を下回るものである(摘記(a7 )。
)
そうしてみると,刊行物1に記載された発明においても,実際には中性状態で用いられてい
ると認められ,両者の間に差異はないから,この点も実質的な相違点ではない。
(ⅲ)について
刊行物1に記載された発明においても ,吸水剤を用いる旨(摘記(a3 )(a5 ),また,
, )
吸水剤を用いるとなお良い旨(摘記(a6 ),記載されており,さらに,吸水剤とはされてい
)
ないが ,(a6)で摘記した「無水石膏,半水石膏」はいずれも硫酸カルシウムのことであっ
て,吸水する性質があることは当業者に周知の事項である。
また,刊行物2にも土壌用固化材の発明が記載されているが,ここでも,酸化マグネシウ
ムと硫酸アルミニウムに加えてせっこうを用いており(摘記(b1 ) ,ここで「せっこう」と
)
は「水和反応による土壌中の水の固定化とその水硬性により,含水土壌の固化を促進すると考
えられ,二水物以外であれば履歴に関係なく使用することが出来る。例えば,半水せっこう,
無水せっこう,又はこれらの混合物を何等問題無く使用出来る 」
(摘記(b3 )
)と記載されて
いるから,これは明らかに吸水作用を意図しており,さらに,同刊行物2に,ゼオライトのよ
うな吸水材が用いられる旨(摘記(b2 )(b5 ),吸水材を用いるとなお良い旨(摘記(b
, )
4),記載されており,吸収材と吸収剤は技術的に同じ意味であるから ,土壌固化剤において ,
)
刊行物1,2に記載された「せっこう」の成分である硫酸カルシウムや,刊行物2に記載され
たゼオライト吸水剤を用いることは,当業者が普通に試みる範囲のものと認められる。
したがって,この相違点も,刊行物1,2に記載されたものから,当業者が容易に導ける
ところである。
補正後発明1の効果について
補正後発明1の効果は,本願特許明細書の段落【 0080】に【発明の効果】として記載されて
いるように ,「請求項1記載の発明は ,
・・・なので,前記酸化マグネシウムと酸性固化助剤が
不良地盤や軟弱地盤等の土壌内に注入されると前記土壌中に含有する水分と結合して固化せし
め,前記不良地盤や軟弱地盤を強度の大きい良好な地盤にすることができた 。」というもので
あるところ,刊行物1に記載された発明においても ,
(a8)に摘記したように ,
「土壌と混合
して固化せしめることが出来,固化した土壌のpH値を水質基準の上限8.6を下回るように
することが出来る」と記載され,さらに刊行物2に記載された発明においても ,(b6)に摘
記したように「改良後土壌の材令7日後の一軸圧縮強度は0.5 kgf / cm 以上と歩行可能
な強度を有している」というものであり,補正後発明1の効果もこれらの刊行物に記載された
効果と同種のものである。
また ,補正後発明1の実施例において用いた固化剤は , 本発明の固化剤 」とされるのみ(特
「
許明細書の段落【0033】等)で具体的組成は明らかにされておらず ,唯一同段落【0064】に「上
記のように混合した固化剤は以下のとおりであった。 酸化マグネシウム 50% 過リン酸
石灰 25% 硫酸第一鉄 25%」と組成が記載されているが,これは吸水剤を用いていな
いため補正後発明1の実施例とは認められず,本願特許明細書の記載から補正後発明1の効果
がどのように優れるものであるのか,確認できない。
したがって,補正後発明1の効果は,刊行物1,2に記載されたものから当業者が予測しう
る範囲のものと認められる。
以上のとおりであるから,補正後発明1は,刊行物1,2に記載された発明に基いて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(4 )(省略)
(5)むすび
以上のとおりであるから,補正後発明1は,本願出願前に国内で頒布された刊行物1,2に
記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29
条第2項の規定によって,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,前記補正は,特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に
違反するものである。
3.本件発明
(1)本件発明
平成16年1月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本件の請求項1∼1
0に係る発明は,平成15年9月8日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲
の請求項1∼10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,請求項1に
係る発明(以下,「本件発明1」という。
)は,以下のとおりである。
(上記2の(1)のとおりであるから省略)
(2)刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1,2,及びその記載事項は,上記2 .(2)に示
したとおりである。
(3)対比・判断
本件発明1は,上記したとおりであって,上記2 .(1)で示した補正後発明1を包含する
ものであるところ,補正後発明1が,本願出願前に国内で頒布された刊行物1,2に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項
の規定により特許を受けることができないものであることは,上記2 .(5)で示したとおり
であるから,これを包含する本件発明1も,同様の理由により,特許法第29条第2項の規定
により特許を受けることができない。
(4)むすび
以上のとおりであるから,本件発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受ける
ことができない。」
第3 原告らの主張(審決取消事由)の要点
審決は,補正後発明1と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物発明1」とい
う。)との一致点の認定を誤り,補正後発明1と刊行物発明1との相違点(ⅲ)につ
いての判断を誤り,さらに,補正後発明1の顕著な効果を看過して,補正後発明1
が,刊行物1,2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができ
たものと誤って判断して,本件手続補正を却下したものであり,また,本件発明1
について,これと同様の誤った認定判断により,本件発明1が刊行物1,2に記載
された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと誤って判断した
ものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は,補正後発明1と刊行物発明1とが, 酸化マグネシウム100重量部に,
「
硫酸アルミニウムを10∼100重量部を含む土壌固化剤」である点で一致すると
認定した。
しかしながら,補正後発明1の要旨は,酸性固化助剤を「硫酸アルミニウム,ポ
リ塩化アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,スルファミン酸,リン酸,水溶液
のPH値が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の10∼100重量部
の酸性固化助剤」と規定するのに対し,刊行物発明1においては,固化剤を「硫酸
アルミニウム,硫酸第1鉄,ポリ塩化アルミニウム,酸性硫酸ナトリウム,スルフ
ァミン酸,ポリアクリル酸,硫酸アンモニウム,明ばん,仮焼明ばん石,および硫
酸亜鉛からなる群から選ばれた一種または二種以上の固化剤」とするものである。
補正後発明1の酸性固化助剤と刊行物発明1の固化剤とは,一部は共通するものの ,
一部は共通しておらず,それぞれの選択の範囲は著しく相違しており,両者は,同
一又は実質的に同一ではない。補正後発明1は,上記「酸性固化助剤」の選択肢の
うちから,単独あるいは二種以上のものを使用する発明であって,このようなもの
は,刊行物1に記載されていないから,審決が,酸性固化助剤(固化剤)に関して ,
「硫酸アルミニウムを10∼100重量部を含む」点で一致するとした認定は誤り
である。
2 取消事由2(相違点(ⅲ)についての判断の誤り)
審決は,補正後発明1と刊行物発明1との相違点(ⅲ)として認定した「補正後発
明1においては,さらに,『吸水剤』を発明特定事項としているのに対し,刊行物
発明1においてはこれを発明特定事項としていない点」につき ,「刊行物発明1に
おいても,吸水剤を用いる旨(摘記(a3 ) (a5 ) ,また,吸水剤を用いると
, )
なお良い旨(摘記(a6),記載されており ,さらに ,吸水剤とはされていないが,
)
(a6)で摘記した「無水石膏,半水石膏」はいずれも硫酸カルシウムのことであ
って,吸水する性質があることは当業者に周知の事項である。 また,刊行物2に
も土壌用固化材の発明が記載されているが,ここでも,酸化マグネシウムと硫酸ア
ルミニウムに加えてせっこうを用いており(摘記(b1),ここで『せっこう』と
)
は『水和反応による土壌中の水の固定化とその水硬性により,含水土壌の固化を促
進すると考えられ,二水物以外であれば履歴に関係なく使用することが出来る。例
えば,半水せっこう,無水せっこう,又はこれらの混合物を何等問題無く使用出来
る』(摘記(b3))と記載されているから,これは明らかに吸水作用を意図してお
り,さらに,同刊行物2に,ゼオライトのような吸水材が用いられる旨(摘記(b
2) (b5 ) ,吸水材を用いるとなお良い旨(摘記(b4 ) ,記載されており,
, ) )
吸収材と吸収剤は技術的に同じ意味であるから,土壌固化剤において,刊行物1,
2に記載された『せっこう』の成分である硫酸カルシウムや,刊行物2に記載され
たゼオライト吸水剤を用いることは,当業者が普通に試みる範囲のものと認められ
る。」と判断したが,以下のとおり,誤りである。
すなわち,補正後発明1は,吸水剤を「活性白土,セピオライト,ケイソー土,
ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,スラグの中,
単独又は二種以上の吸水剤」と規定するのに対し,刊行物1に記載された吸水剤は ,
「炭酸カルシウム,無水石膏,半水石膏,タルク,未焼ドロマイト,ケイ石粉等」
(段落【0011】)であり,また,刊行物2に記載された吸水材(吸水剤)は ,「無機
質多孔体吸水材 」(特許請求の範囲の請求項4) 「半水せっこう,無水せっこう」
,
(段落 0011】, パーライト,
【 )「 ゼオライト,シリカ,ボトムアッシュ等」 段落 0014】
( 【 )
である。このように,刊行物1,2記載の吸水剤は,種類が少なく,使用するもの
の選択の範囲も小さく限定されているのに対し,補正後発明1の吸水剤は,種類が
多く,かつ,使用するものの選択の範囲も拡大しているのであるから,刊行物1,
2記載の吸水剤を刊行物発明1に適用しても,相違点(ⅲ)に係る補正後発明1の構
成となるものではない。
3 取消事由3(補正後発明1の効果に関する認定の誤り)
審決は ,「補正後発明1の効果は,本願特許明細書の段落【0080】に【発明の効
果】として記載されているように,『請求項1記載の発明は ,・・・なので,前記酸
化マグネシウムと酸性固化助剤が不良地盤や軟弱地盤等の土壌内に注入されると前
記土壌中に含有する水分と結合して固化せしめ,前記不良地盤や軟弱地盤を強度の
大きい良好な地盤にすることができた。』というものであるところ,刊行物1に記
載された発明においても,・・・ 土壌と混合して固化せしめることが出来,固化し
『
た土壌のpH値を水質基準の上限8.6を下回るようにすることが出来る』と記載
され,さらに刊行物2に記載された発明においても,
・・・ 改良後土壌の材令7日
『
後の一軸圧縮強度は0.5 kgf / cm2 以上と歩行可能な強度を有している』という
ものであり,補正後発明1の効果もこれらの刊行物に記載された効果と同種のもの
である。 また,補正後発明1の実施例において用いた固化剤は,『本発明の固化
剤』とされるのみ(特許明細書の段落【 0033】等)で具体的組成は明らかにされて
おらず,唯一同段落【0064】に『上記のように混合した固化剤は以下のとおりであ
った。 酸化マグネシウム 50% 過リン酸石灰 25% 硫酸第一鉄 25% 』
と組成が記載されているが,これは吸水剤を用いていないため補正後発明1の実施
例とは認められず,本願特許明細書の記載から補正後発明1の効果がどのように優
れるものであるのか,確認できない。 したがって,補正後発明1の効果は,刊行
物1,2に記載されたものから当業者が予測しうる範囲のものと認められる。」と
認定したが,以下のとおり,誤りである。
すなわち,補正後発明1は,酸性固化助剤と吸水剤に係る構成において,それぞ
れ,刊行物1,2に記載された発明より,使用し得るものの種類が多く,かつ,2
種以上を選択し,混合して使用することを可能としたことにより,選択の範囲も著
しく拡大しており,それに比例して,不良地盤や軟弱地盤等の土壌内に注入される
と,土壌中に含有する水分と結合して固化せしめ,不良地盤や軟弱地盤等を強度の
大きい良好な地盤にすることができるという効果を奏するものである。刊行物1,
2に記載された発明は,固化剤と吸水剤の種類及び選択の範囲が小さいので,得ら
れる効果の点において,補正後発明1と著しい差異が生ずることは必然である。
なお,審決が指摘する本件補正に係る明細書(甲第5号証。以下「補正明細書」
という。)の段落【0064】は,請求項4記載の発明に係る実施例であって,補正後
発明1に係る実施例ではない。審決は,補正明細書の補正後発明1の実施例に具体
的組成が記載されておらず,補正明細書の記載から補正後発明1の効果がどのよう
に優れるものであるか確認できないとするが,段落【 0028】【0029】に補正後発明
,
1を含む請求項1∼3記載の発明の組成について記載してあるほか,段落【0031】
∼ 0039】
【 の実施例の記載により ,補正後発明1の優れた効果は明らかであるので ,
審決の認定は誤りである。
4 取消事由4(本件発明1についての認定判断の誤り)
審決は,本件発明1につき,「本件発明1は ,・・・補正後発明1を包含するもの
であるところ,補正後発明1が,本願出願前に国内で頒布された刊行物1,2に記
載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許
法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることは,上
記2 .(5)で示したとおりであるから,これを包含する本件発明1も,同様の理
由により,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と
して,これが容易想到であるとの認定判断をした。
しかしながら,本件発明1が補正後発明1を包含するものであることは認めるが,
補正後発明1が容易想到であるとの認定判断が誤りであることは,上記1∼3のと
おりであるから,補正後発明1が容易想到であることを前提として,本件発明1が
容易想到であるとした審決の上記認定判断も誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
原告らは,補正後発明1の「酸性固化助剤」と刊行物発明1の「固化剤」とは,
選択の範囲が著しく相違しており,両者は同一又は実質的に同一ではないから,補
正後発明1と刊行物発明1とが ,「酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミ
ニウムを10∼100重量部を含む土壌固化剤」である点で一致するとした審決の
一致点の認定には誤りがあると主張する。
しかしながら,補正後発明1の「酸性固化助剤」と刊行物発明1の「固化剤」と
は,それぞれの選択肢のうち,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム,硫酸第
一鉄及びスルファミン酸が共通するものであり,その配合量に関しても,刊行物1
には,酸化マグネシウム100重量部に対し「固化剤」を10∼100重量部添加
する旨が記載されており(特許請求の範囲の請求項2) 補正後発明1における「酸
,
性固化助剤」の配合量と全く同一である。
審決は,酸性固化助剤(固化剤)に係る選択肢としてこのように共通するものの
うち,硫酸アルミニウムに着目し,補正後発明1と刊行物発明1とが,「酸化マグ
ネシウム100重量部に」「硫酸アルミニウムを10∼100重量部を含む」点で
,
一致すると認定したものであって,この認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点(ⅲ)についての判断の誤り)に対し
原告らは,刊行物1,2記載の吸水剤は,種類が少なく,使用するものの選択の
範囲も小さく限定されているのに対し,補正後発明1の吸水剤は,種類が多く,か
つ,使用するものの選択の範囲も拡大しているのであるから,刊行物1,2記載の
吸水剤を刊行物発明1に適用しても,相違点(ⅲ)に係る補正後発明1の構成となら
ないと主張する。
しかしながら,補正後発明1の要旨には,吸水剤として,硫酸カルシウム,ゼオ
ライトをそれぞれ単独で使用することが規定されているところ,審決の刊行物1の
記載事項(a6)で摘記した「無水石膏 ,半水石膏 」 刊行物2の記載事項(b1)
, ,
(b3)で摘記した「せっこう」「半水せっこう,無水せっこう」は,いずれも硫
,
酸カルシウムのことであって,吸水する性質があることは当業者に周知の事項であ
り,刊行物2の上記(b3)で摘記した部分にもせっこうを吸水剤として用いる趣
旨が記載されていること,また,刊行物2には,審決の刊行物2の記載事項(b5)
で摘記した「ゼオライト」が,吸水剤の例として記載されていることは,審決の相
違点(ⅲ)についての判断のとおりである。
したがって,相違点(ⅲ)につき ,「土壌固化剤において,刊行物1,2に記載さ
れた『せっこう』の成分である硫酸カルシウムや,刊行物2に記載されたゼオライ
ト吸水剤を用いることは,当業者が普通に試みる範囲のものと認められる。 した
がって,この相違点も,刊行物1,2に記載されたものから,当業者が容易に導け
るところである。」とした審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(補正後発明1の効果に関する認定の誤り)に対し
原告らは,補正後発明1は,酸性固化助剤と吸水剤に係る構成において,使用し
得るものの種類が多く,かつ,2種以上を選択し,混合して使用することを可能と
したことにより,不良地盤や軟弱地盤等を強度の大きい良好な地盤にすることがで
きるという効果を奏すると主張するが,そのような効果について,補正明細書には
記載されておらず,かつ,使用し得るものの種類を多くし,2種以上を混合して使
用することを可能としたことにより,従来固化することが不可能であった不良地盤
や軟弱地盤を固化し得るようになったというような具体例の記載もない。当該主張
は,明細書の記載に基づくものではないというべきである。
なお,原告らが言及する段落【0028】【0029】等の記載事項を考慮しても,補正
,
明細書の記載上,補正後発明1の実施例において実際に用いた固化剤の組成がどの
ようなものであったのかは明らかではなく,このことからも,補正明細書の記載か
ら補正後発明1の効果がどのように優れるものであるのか確認することはできな
い。
したがって,補正後発明1の効果に関する審決の認定に誤りはない。
4 取消事由4(本件発明1についての認定判断の誤り)に対し
補正後発明1が容易想到であるとする審決の認定判断に誤りがないことは,上記
1∼3のとおりであり,したがって,これを包含する本件発明1が容易想到である
とする審決の認定判断も誤りがない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
原告らは,補正後発明1の「酸性固化助剤」と刊行物発明1の「固化剤」とは,
選択の範囲が著しく相違しており,両者は同一又は実質的に同一ではないから,補
正後発明1と刊行物発明1とが ,「酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミ
ニウムを10∼100重量部を含む土壌固化剤」である点で一致するとした審決の
一致点の認定には誤りがあると主張する。
しかしながら,補正後発明1の要旨は,「酸性固化助剤」に関して,「硫酸アルミ
ニウム,ポリ塩化アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,スルファミン酸,リン
酸,水溶液のPH値が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の10∼1
00重量部の酸性固化助剤」と規定するものであって,「硫酸アルミニウム」以下
7種類の選択肢( 水溶液のPH値が7以下のリン化合物」も1種類と数える 。
「 )
から,1種類( 単独 」
「 )を選択することが許容されているので,「硫酸アルミニウ
ム」のみを選択することも可能である。したがって ,「①酸化マグネシウム100
重量部,②硫酸アルミニウム10∼100重量部,③活性白土,セピオライト,ケ
イソー土,ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,ス
ラグから選択した単独又は二種以上の吸水剤を混合して使用する土壌中性固化剤」
が,補正後発明1の1態様であることが認められる。
他方,刊行物1には,審決が認定するとおり ,「酸化マグネシウムと,硫酸アル
ミニウム,硫酸第1鉄,ポリ塩化アルミニウム,酸性硫酸ナトリウム,スルファミ
ン酸,ポリアクリル酸,硫酸アンモニウム,明ばん,仮焼明ばん石,および硫酸亜
鉛からなる群から選ばれた一種または二種以上の固化剤とを含むことを特徴とする
土壌固化剤 」(特許請求の範囲の請求項1) 「該固化剤は該酸化マグネシウム10
,
0重量部に付して10∼100重量部添加される請求項1に記載の土壌固化剤 」同
(
請求項2) との各記載があり,土壌固化剤において,酸化マグネシウム100重
量部に対し,固化剤を10∼100重量部配合することが記載され,また,この場
合も,固化剤として,上記請求項1に記載された「硫酸アルミニウム」以下10種
類の選択肢のうちから,1種類を選択することが許容されているので,「硫酸アル
ミニウム」のみを選択することも可能である。したがって ,「①酸化マグネシウム
100重量部,②硫酸アルミニウム10∼100重量部を含む土壌固化剤」が,刊
行物発明1の1態様であることが認められる。
そうすると,補正後発明1の上記態様と,刊行物発明1の上記態様とが ,「酸化
マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウムを10∼100重量部を含む土壌
固化剤」である点で一致することは明らかであるから,補正後発明1と刊行物発明
1とが,「酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウムを10∼100重
量部を含む土壌固化剤」である点で一致するとした審決の認定に誤りはない なお,
(
審決は,「硫酸アルミニウム」が,補正後発明1においては「酸性固化助剤」であ
り,刊行物発明1においては「固化剤」である点,及び「土壌固化剤」が,補正後
発明1においては「中性」と特定されており,刊行物発明1においてはかかる特定
はされていない点を,それぞれ相違点(ⅰ),(ⅱ)として認定しており,これらの点
は,一致点の認定に含まれていない。。
)
選択の範囲が著しく相違しているから,補正後発明1の「酸性固化助剤」と刊行
物発明1の「固化剤 」は同一又は実質的に同一ではないとする原告らの主張は, 著
「
しく」との文言があるためにやや曖昧ではあるものの,審理の対象である発明と引
用発明との,それぞれ選択肢を含む発明特定事項より成る構成を対比する場合にお
いて,両者の選択肢が完全に(あるいは大部分が)重複しなければ,当該構成は一
致するものではないとする見解を前提とするものと解されるが,当該選択肢から,
それぞれ独立に選択されるものが一つでも同一であれば,審理の対象である発明の
当該選択肢を含む構成は,引用発明の構成と一致するものというべきである。なぜ
なら,この場合に,審理の対象である発明は,当該構成に関しては,選択肢から独
立に選択されるものごとに成り立つ個々の態様の集合体であるということができ,
その個々の態様の一つ一つが,いずれも特許性(新規性及び進歩性)を備える必要
があるからである。したがって,原告らの上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点(ⅲ)についての判断の誤り)について
原告らは,刊行物1,2記載の吸水剤は,種類が少なく,使用するものの選択の
範囲も小さく限定されているのに対し,補正後発明1の吸水剤は,種類が多く,か
つ,使用するものの選択の範囲も拡大しているのであるから,刊行物1,2記載の
吸水剤を刊行物発明1に適用しても,相違点(ⅲ)に係る補正後発明1の構成となら
ないと主張する。
しかしながら,補正後発明1の要旨は,「吸水剤」に関して,「活性白土,セピオ
ライト,ケイソー土,ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,硫酸カル
シウム,スラグの中,単独又は二種以上の吸水剤」と規定するものであって,「活
性白土」以下7種類の選択肢から,1種類( 単独」
「 )を選択することが許容されて
いるので,「硫酸カルシウム」のみを選択すること,あるいは「ゼオライト」のみ
を選択することは,いずれも可能である。したがって,刊行物発明1と上記1の一
致点において一致する補正後発明1の態様,すなわち,「①酸化マグネシウム10
0重量部,②硫酸アルミニウム10∼100重量部,③活性白土,セピオライト,
ケイソー土,ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,
スラグから選択した単独又は二種以上の吸水剤を混合して使用する土壌中性固化
剤」のうち,③の吸水剤の部分を「硫酸カルシウム」としたもの,又は「ゼオライ
ト」としたものも,それぞれ補正後発明1の1態様であることになる。
他方,補正後発明1と上記一致点で一致する刊行物発明1の態様が,「①酸化マ
グネシウム100重量部,②硫酸アルミニウム10∼100重量部を含む土壌固化
剤」というものであることも上記1のとおりである。
しかるところ,審決が認定するとおり,刊行物1には,「上記成分においては,
酸化マグネシウムと固化剤と土壌との固化反応によって土壌が固化せしめられる
が,酸性剤によって土壌のpHを酸性側,望ましくはpH5∼9,更に望ましくは
pH5.8∼8.6に調節して該酸化マグネシウムと該固化剤と土壌との固化反応
を促進する。また水分を多量に含有する土壌の場合には,上記成分に加えて上記有
機高分子凝集剤および/または吸水剤を添加すると,
土壌が凝縮して水が排除され ,
あるいは土壌中の水が吸収され,望ましい固さの土壌固化物が得られる。上記成分
以外に,所望なれば炭酸カルシウム,無水石膏,半水石膏,タルク,未焼ドロマイ
ト,ケイ石粉等の充填材が添加されてもよい。 (段落【 0011】
」 )との記載があり,
土壌固化剤に任意成分として吸水剤を添加すること,及び特に吸水剤とはされてい
ないが,無水せっこう及び半水せっこうを添加することが記載されており,また,
刊行物2には,「15∼40重量部の酸化マグネシウムと,4∼10重量部の硫酸
アルミニウム及び/または硫酸鉄と,残部がせっこうより成る組成物を必須成分と
する,含水土壌用固化材 。 (特許請求の範囲の請求項1 ) 「請求項1に記載の固
」 ,
化材必須成分100重量部当たり,更に5∼60重量部の無機質多孔体吸水材を添
加した,含水土壌用固化材 。 (同請求項4 ) 「本発明の固化材における主成分の
」 ,
一つであるせっこうは,水和反応による土壌中の水の固定化とその水硬性により,
含水土壌の固化を促進すると考えられ,二水物以外であれば履歴に関係なく使用す
ることが出来る。例えば,半水せっこう,無水せっこう,又はこれらの混合物を何
等問題無く使用出来る 」(段落【0011】 ,
) 「本発明の固化材は,・・・更に無機多孔
体吸水材及び/又は吸水性有機物を添加することにより,固化材添加後土壌のpH
値を殆ど変動させることなく,固化改良後土壌の一軸圧縮強度を更に改善すること
が出来る。吸水材は,土壌中に存在する自由水と結合・固定化して,含まれる自由
水量を少なくする働きを有していることから,吸水材を添加した固化材の使用は,
含水比の低い含水土壌の固化改良と同じになり,固化材添加後土壌の一軸圧縮強度
が高くなるものと考えられる。従って,含水比の高い土壌の固化改良においては,
吸水材の添加は特に効果的である。(段落【0012】 「本発明で使用可能な無機多
」 )
孔体吸水材例としては,パーライト,ゼオライト,シリカ,ボトムアッシュ等を挙
げることが出来る」
(段落【0014】)との各記載があり,これらの記載によれば,土
壌固化剤添加後の土壌の一軸圧縮強度を高くするために,土壌固化材 土壌固化剤)
(
に吸水材(吸水剤)を添加すること,この吸水剤の例としてゼオライト等が挙げら
れること,また,せっこう(半水せっこう,無水せっこう,又はこれらの混合物)
を添加することによって,土壌中の水の固定化による含水土壌の固化促進という,
吸水剤と同様の作用を奏することが記載されているところ,刊行物1,2のこれら
の記載は,土壌固化剤に,吸水剤としてゼオライトを,あるいは実質的に吸水剤と
して,せっこう(半水せっこう,無水せっこう)を添加することが,含水比の高い
土壌の固化に効果的であることを開示したものということができる。そして,19
89年(平成元年)8月15日縮刷版第32刷発行の「化学大辞典5」(乙第2号
証)及び同「化学大辞典9 」(乙第3号証)によれば,せっこうとは硫酸カルシウ
ムのことであり,二水塩 CaSO4・2H2O が「せっこう」又は「結晶せっこう」と,
半水塩 CaSO4・1/2H2O が「半水せっこう」と,無水塩 CaSO4 が「無水せっこう」
と称されていることが認められ,さらに,そのことが,本件特許出願の少なくとも
10年以上前から,上記「化学大辞典」のような一般的な化学辞典に掲載されてい
ることに照らし,本件特許出願当時,当業者の技術常識であったことも認められる。
そうすると,刊行物1,2に接した当業者が,上記「①酸化マグネシウム100
重量部,②硫酸アルミニウム10∼100重量部を含む土壌固化剤」という態様の
刊行物発明1に,硫酸カルシウム(二水塩を除く。)又はゼオライトを添加するこ
とは,普通に試みることであると認められるところ,上記態様の刊行物発明1が,
吸水剤として「硫酸カルシウム」又は「ゼオライト」を備えた場合には,上記各態
様(③の吸水剤の部分を「硫酸カルシウム」とした態様,又は「ゼオライト」とし
た態様)の補正後発明1と,吸水剤の構成においても同一となること,すなわち,
相違点(ⅲ)に係る補正後発明1の構成を備えるに至ることは,明らかであるから,
「土壌固化剤において,刊行物1,2に記載された「せっこう」の成分である硫酸
カルシウムや,刊行物2に記載されたゼオライト吸水剤を用いることは,当業者が
普通に試みる範囲のものと認められる。 したがって,この相違点も,刊行物1,
2に記載されたものから,当業者が容易に導けるところである 。」とした審決の判
断に誤りはない。
刊行物1,2記載の吸水剤は,種類が少なく,使用するものの選択の範囲も小さ
く限定されているのに対し,補正後発明1の吸水剤は,種類が多く,かつ,使用す
るものの選択の範囲も拡大しているのであるから,刊行物1,2記載の吸水剤を刊
行物発明1に適用しても,相違点(ⅲ)に係る補正後発明1の構成とならないとの原
告ら主張は,審理の対象である発明の,選択肢を含む発明特定事項より成る構成が,
主引用例記載の発明との相違点とされたため,副引用例記載の公知技術を適用する
ことにより,当該相違点に係る構成を導くことが容易想到であるか否かを判断する
場合において,審理の対象である発明の当該相違点に係る構成における選択肢が,
適用される公知技術における選択肢と完全に あるいは大部分が)
( 重複しなければ ,
審理の対象である発明の当該相違点に係る構成が容易想到とはいえないとする見解
を前提とするものと解されるが,前同様,誤りであって,かかる原告らの主張を採
用することはできない。
3 取消事由3(補正後発明1の効果に関する認定の誤り)について
(1) 補正明細書には,補正後発明1の効果に関し ,【発明の効果】
「 請求項1
記載の発明は,酸化マグネシウム100重量部に,硫酸アルミニウム,ポリ塩化ア
ルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,スルファミン酸,リン酸,水溶液のPH値
が7以下のリン化合物の中,単独あるいは二種以上の10∼100重量%の酸性固
化助剤と,活性白土,セピオライト,ケイソー土,ゼオライト,シリカヒームのポ
ーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,スラグの中,単独又は二種以上の吸水剤とを
混合して使用するものであることを特徴とする土壌中性固化剤なので,前記酸化マ
グネシウムと酸性固化助剤が不良地盤や軟弱地盤等の土壌内に注入されると前記土
壌中に含有する水分と結合して固化せしめ,前記不良地盤や軟弱地盤を強度の大き
い良好な地盤にすることができた。 (段落【0080】 ,
」 ) 「さらに本発明の中性固化剤
の使用によって,改良された固化土は,PH値が5∼9好ましくは5.8∼8.6
以内なので,有害金属とされている六価クロム等は含有しない重金属汚染のおそれ
のない安全な改良土が得られる利点がある。 (段落【0081】
」 )との各記載がある。
なお,補正明細書には,「また発明は,前記吸水剤が,活性炭,活性白土,セピオ
ライト,ケイソー土,ゼオライト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,グアガム,
硫酸カルシウム,スラグの中,単独又は二種以上混合して使用するものである土壌
中性固化剤なので,前記吸水剤を使用することによって,高含水の前記不良地盤や
軟弱地盤等の土壌内に注入されると,含水比が高くても十分固化し,固さも十分に
固い改良地盤等を得ることができた。(段落【0082】 との記載もあるが,これは,
」 )
補正後発明1の要旨に規定する「活性白土,セピオライト,ケイソー土,ゼオライ
ト,シリカヒームのポーラスな無機鉱物,硫酸カルシウム,スラグの中,単独又は
二種以上の吸水剤」のほかに,補正後発明1の吸水剤ではない「活性炭」及び「グ
アガム」を含めた吸水剤の効果について記載したものであるから,補正後発明1の
効果に関する記載と認めることはできない。
上記段落【0080】【0081】の記載によれば,補正後発明1の効果として,不良地
,
盤や軟弱地盤の土壌内に注入されると,これを強度の大きい良好な地盤にすること
ができ,また,固化土のPH値を5∼9とし,かつ,六価クロム等の有害金属等を
含有せず ,重金属汚染のない改良土を得られることが認められる 上記段落 0081】
( 【
の記載は紛らわしいが,段落【 0005】【0009】の記載によれば,改良土が六価クロ
,
ムを含まないのは,六価クロムを含有するセメント系固化剤に代えて,酸化マグネ
シウムを,土壌固化剤の主成分としたことによる効果であって,PH値の限定とは
直接の関係はないことが窺われる。。もっとも,具体的に,どの程度の不良地盤や
)
軟弱地盤をどの程度の強度の地盤とすることができるのかは,明らかではない。ま
た,上記の記載は,地盤の固化改良に係る効果に関するものであるが,請求項3の
「泥土又はヘドロの内部に,請求項1に該当する中性固化剤を処理対象土の容量に
対し2∼100重量部添加混合し改良土として再生し,再生後土地造成土及び道路
の路床土に利用せしめたことを特徴とする泥土,ヘドロ改良工法。」との記載によ
れば,補正後発明1の土壌中性固化剤は,浚渫工事等による発生土に添加して固化
改良するためにも使用されることが認められる。
(2) なお,補正明細書には,補正後発明1を含む請求項1∼3記載の発明に関
する(段落【0023】 実施例であるとして,第1実施例(段落【0031】∼【0034】,
) )
第2実施例(段落【0035】∼【 0037】)及び第3実施例(段落【 0038】∼【 0039】)
の記載があるが,これらの実施例に用いた固化剤の具体的組成については,上記各
実施例に係る段落中に記載がなく,追試が不可能であって,これらの実施例の記載
から補正後発明1の効果を確認することはできない。なお,この点について,原告
らは,段落【0028】 【0029】に補正後発明1を含む請求項1∼3記載の発明の組成
,
について記載してある旨主張するが,原告ら主張に係る段落【 0028】【0029】を含
,
む段落【0026】∼【0029】の記載を見ても,酸性固化助剤については「前記酸性固
化助剤は,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム,硫酸第一鉄,塩化第二鉄,
酸性硫酸ナトリウム,スルファミン酸,リン酸,水溶液のPH値が7以下のリン化
合物の中,単独あるいは二種以上の固化剤を混合せしめたものである 。 (段落
」
【0027】 と,吸水剤については「活性炭 ,活性白土 ,セピオライト,ケイソー土,
)
ゼオライト,シリカヒーム等のポーラスな無機鉱物,グアガム,硫酸カルシウム,
スラグの中,何れか単独あるいは二種以上混合して使用する 。(段落【0029】 と,
」 )
それぞれ数種類のものを列挙してあるにすぎず,これらの記載によっても,実施例
1∼3には,酸性固化助剤及び吸水剤として,実際には,何を,どの程度の量使用
したのかを特定することはできない。のみならず,上記段落【 0027】の酸性固化助
剤の列挙の中には,補正後発明1の酸性固化助剤ではない「酸性硫酸ナトリウム」
が,上記段落【0029】の吸水剤の列挙の中には,補正後発明1の吸水剤ではない「活
性炭」及び「グアガム」が,それぞれ含まれており,さらに,補正後発明1におい
て必須の成分である吸水剤につき,「本発明において,対象改良土が高含水比の場
合,前記固化剤に,吸水剤を併用せしめてもよい。 (段落【 0028】
」 )との記載があ
って,これが任意成分とされているから,上記段落【 0026】∼【 0029】の酸性固化
助剤及び吸水剤の記載が,補正後発明1に係るものであると認めることさえできな
い。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) 以上のほか,補正明細書中に,補正後発明1に係る具体的な効果を明らか
にする記載は見当たらない。
(4) 他方,刊行物1には,「本発明は,例えばシールド工法,地中連続壁工法,
浚渫工法,表層および深層地盤改良工法等の建設現場からの発生土のような土壌を
固化させるために使用される土壌固化剤に関するものである。(段落【0001】, 上
」 )「
記建設現場からの発生土のような土壌は水分を多量に含み流動性があり,そのまゝ
では運搬,輸送が困難である。そこで該土壌には土壌固化剤を添加して固化させた
上で運搬,輸送行なう方法が採られている。 (段落【0002】 ,
」 ) 「本発明はこのよう
な建設現場からの発生土のような土壌を短時間で運搬,輸送が可能な程度に固
化させることを課題とするものであり」(段落【0005】 ,〔実施例1〕地下鉄工事
)「
で発生した粘土質土壌(含水率47重量%,含水比89重量%,一軸圧縮強度
0 kg / cm 2,pH7.8)1000 cc に対し,軽焼酸化マグネシウム100重
量部,硫酸アルミニウム20重量部の混合物に10重量%の粉末酸性硫酸ナトリウ
ムを添加した土壌固化剤40gを添加し攪拌混合した。・・・該土壌は3時間後に
は搬出に支障ない程度に固化し,更に7日後にはpH値が水質基準の上限8.6を
下回った。7日間気中養生した該土壌を水中に投下した所,3日後でも崩壊はみら
れなかった。(段落【 0015】∼段落【0016】,〔実施例2〕トンネル工事で発生し
」 )「
た砂質シルト土壌(含水率63重量%,含水比170重量%,一軸圧縮強度0 kg
/ cm 2,pH6.7)1000 cc に対し,軽焼酸化マグネシウム100重量部,
ポリ塩化アルミニウム20重量部の混合物に45重量%の半水石膏を添加した土壌
固化剤50gを添加し攪拌混合した 。・・・該土壌は直後でも搬出に支障ない程度
に固化し,更に8時間後にはpH値が水質基準の上限8.6を下回った。24時間
気中養生した該土壌を水中に投下した所,3日後でも崩壊はみられなかった。(段
」
落【0017】∼【 0018】 ,〔実施例3〕実施例2の土壌に水を加えて含水率67重量
)「
%,含水比203重量%に調製した。該土壌1000 cc に対し,軽焼酸化マグネ
シウム100重量部,明ばん50重量部の混合物に50重量%の未焼ドロマイト,
0.3重量%のポリアクリル酸ナトリウムを添加した土壌固化剤50gおよび10
0gを添加し攪拌混合した 。・・・該土壌は土壌固化剤50g添加,100g添加
のいずれも1時間で搬出に支障ない程度に固化した。また8時間後のpHは両者共
に7.8であった。24時間気中養生した該土壌を水中に投下した所,3日後でも
崩壊はみられなかった。(段落【 0019】∼【 0020】,〔実施例4〕実施例1の土壌
」 )「
1000 cc に軽焼酸化マグネシウム100重量部,硫酸第1鉄80重量部の混合
物に50重量%のケイ石粉と1重量%のエチレンカーボネートを添加した土壌固化
剤100gを添加し攪拌混合した。・・・該土壌は20分後には搬出に支障ない程
度に固化し,pH値は水質基準の上限8.6を下回った。24時間気中養生した該
土壌を水中に投下した所,3日後でも崩壊はみられなかった 。 (段落【 0021】∼
」
【0022】,〔実施例5〕浚渫工事から発生した有機質粘質土壌(含水率65重量%,
)「
含水比186重量%,強熱加熱残分53重量%/ cm 2,pH6.3)1000 cc
に軽焼酸化マグネシウム100重量部,硫酸亜鉛50重量部,硫酸アルミニウム1
5重量部の混合物に炭酸カルシウム30重量%,グアガム0.3重量%を添加した
土壌固化剤150gを添加し攪拌混合した 。・・・該土壌は5時間後には搬出に支
障ない程度に固化し,更に7日後のpH値は水質基準の上限8.6を下回った。7
日間気中養生した該土壌を水中に投下した所,3日後でも崩壊はみられなかった。」
(段落【 0023】∼【 0024】 ,
) 「本発明の土壌固化剤は,土壌と混合して短時間に運
搬輸送の可能な程度に固化せしめることが出来・・・また固化した土壌のpH値を
水質基準の上限8.6を下回るようにすることが出来るので・・・該土壌は再利用
が可能である。(段落【0028】
」 )との各記載がある。
これらの記載によれば,刊行物1には,シールド工法,地中連続壁工法,浚渫工
法,表層及び深層地盤改良工法等の建設現場からの発生土のような土壌であって,
含水比80∼200重量%程度,PH6.3∼7.8程度のものに添加し,搬出に
支障ない程度に固化させるとともに,固化した土壌のPH値を,8.6を下回るよ
うにすることができる土壌固化剤が記載されており,かつ,技術常識上,上記土壌
固化剤の成分中に六価クロムを含有するものはないことが認められる。
(5) そうすると,刊行物1記載の土壌固化剤は,補正後発明1と同様の用途に
用いられ,固化土のPH値を5∼9の範囲内とし,かつ,六価クロム等の有害金属
等を含有せず,重金属汚染のない改良土とし得る点でも補正後発明1と変わりはな
い。そうであれば,不良地盤や軟弱地盤の土壌内に注入されると,これを強度の大
きい良好な地盤にすることができるとはされているが,その固化改良作用の具体的
な程度ないし内容が明らかではない補正後発明1が,上記刊行物1に記載された土
壌固化剤よりも格別顕著な効果を奏するものと認めることはできないというべきで
ある。
したがって,「補正後発明1の効果は,刊行物1,2に記載されたものから当業
者が予測しうる範囲のものと認められる。」との審決の判断は,刊行物1について
誤りはなく,この判断が誤りであるとする原告らの主張は,刊行物2について検討
するまでもなく,失当である。
4 取消事由4(本件発明1についての認定判断の誤り)について
本件発明1が補正後発明1を包含するものであることは当事者間に争いがない
(具体的には,補正後発明1は,本件発明1の酸性固化助剤の選択肢から「酸性硫
酸ナトリウム」が,また,本件発明1の吸水剤の選択肢から「活性炭」及び「グア
ガム」が削除されたものである。。そして,補正後発明1が容易想到であるとする
)
審決の認定判断に原告ら主張の誤りがないことは,上記1∼3のとおりであるから ,
本件発明1についても,少なくとも,補正後発明1と重複する部分については,同
様の理由により容易想到であるというべきであり,そうすると,それ自体として,
容易想到であるといわざるを得ない。
したがって,これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。
5 結論
以上によれば,原告らの主張はすべて理由がなく,原告らの請求は棄却されるべ
きである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
高 野 輝 久
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