平成17(行ケ)10622審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年11月29日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告イーエムシーコーポレイション
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対象物 |
共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに関する方法及び装置 |
法令 |
特許権
特許法17条の22回 特許法163条2項2回 特許法171条2項1回 特許法143条1回 特許法29条1項1回 特許法159条1項1回
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キーワード |
審決104回 分割26回 優先権9回 刊行物5回 実施2回 侵害1回 無効1回
|
主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,名称を「共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに
関する方法及び装置」とする発明につき特許出願(国際出願)をして拒絶査定を受
け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決が
なされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成17年(行ケ)第10622号 審決取消請求事件
平成18年11月29日判決言渡,平成18年9月6日口頭弁論終結
判 決
原 告 イーエムシー コーポレイション
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,飯田圭,外村玲子
訴訟代理人弁理士 西島孝喜,越柴絵里
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指 定 代 理 人 大日方和幸,大野克人,山崎慎一,小池正彦,田中敬規
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003−17417号事件について平成17年3月30日にし
た審決を取り消す。
」との判決。
第2 事案の概要
本件は,原告が,名称を「共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに
関する方法及び装置」とする発明につき特許出願(国際出願)をして拒絶査定を受
け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決が
なされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲第3号証)
出願人:イーエムシー コーポレイション(原告)
発明の名称: 共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに関する方法
「
及び装置」
出願番号:特願平9−543030
出願日:平成9年5月29日
優先権主張日:平成8年5月31日(米国),平成9年4月25日(米国)
(2) 本件手続
手続補正日:平成15年4月15日 甲第19号証。 「第1次補正」
( 以下 という 。)
拒絶査定日:平成15年6月2日(甲第20号証)
審判請求日:平成15年9月8日(不服2003−17417号)
手続補正日:平成15年10月8日(甲第2号証。以下「本件補正」という 。)
審決日:平成17年3月30日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成17年4月11日
2 発明の要旨
(1) 審決は,本件補正を却下し,第1次補正後の請求項1に記載された発明を
審決の対象としたところ,この発明の要旨は,下記のとおりである(以下,この発
明を「第1次補正発明」という。なお,第1次補正後の特許請求の範囲の請求項の
数は10個である。。
)
「データが,第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレ
ージファシリティ(207,210,211,212 )にストアされ,第1(OLTP,
200)及び第2(DSS,201)のアプリケーションによってデータセットへの
アクセスを制御するための方法であって,
A) 前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータス
トレージファシリティ(213,214,215,216)を構成し,
B) 第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリテ
ィと並列に接続することにより,第1の( ESTABLISH)コマンドに応答して第1
のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージフ
ァシリティにデータセットのコピーを確立させ,前記確立が,第1のアプリケーシ
ョンと,第1のデータストレージファシリティとの間で独立したオペレーションで
あり,
C) 第2の(SPLIT)コマンドに応答して,
i) 第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2の
データストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し
(256∼258),第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファン
クションを終了させ,
ii) その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2
のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるよう
に,第2のアプリケーションによってアドレスされるように第2のストレージファ
シリティを再接続させ(260,261,262),
D) 第3の ESTABLISH,
( REESTABLISH,RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE
(276))コマンドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了
させる,
ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。」
(2) 本件補正後の請求項1に記載された発明は,下記のとおりである(下線部
が補正箇所であり,以下,この発明を「本件補正発明」という。なお,本件補正後
の特許請求の範囲の請求項の数は10個である 。。
)
「データが,第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレ
ージファシリティ(207,210,211,212 )にストアされ,第1(OLTP,
200)及び第2(DSS,201)のアプリケーションによってデータセットへの
アクセスを制御するための方法であって,
A) 前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータス
トレージファシリティ(213,214,215,216)を構成し,
B) 第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリテ
ィと並列に接続することにより,第1のアプリケーションと第1のデータストレー
ジファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータスト
レージファシリティからデータを受け,第1の( ESTABLISH)コマンドに応答し
て第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレ
ージファシリティにデータセットのコピーを確立させ,
C) 第2の(SPLIT)コマンドに応答して,
i) 第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2の
データストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し
(256∼258),第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファン
クションを終了させ,
ii) その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2
のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるよう
に,第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーション
を利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させ(260,2
61,262),
D) 第3の ESTABLISH,
( REESTABLISH,RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE
(276))コマンドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了
させ,
前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプ
リケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーシ
ョンと同時且つ独立して生じる,
ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。」
3 審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであり,要するに,本件補正発明は,第1次補正発
明の減縮に該当するものであるが, IBM Storage Subsystem Library "IBM 3990
「
Strage Control Reference Fifth Edition", September 1991」(甲第9号証。以下「引用例
1」という 。)及び特開平5−233162号公報(甲第11号証。以下「引用例
3」という。 にそれぞれ記載された発明並びに特開平7−281933号公報(甲
)
第10号証。以下「引用例2」という。)に開示された周知技術に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正は,特許法17条の
2第5項が準用する126条4項(平成15年法律第47号による改正前のもの。
以下同じ。)に違反するものであり,特許法159条1項が準用する53条1項に
より却下すべきであるとし,第1次補正発明を対象として審理した上,引用例1に
記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも
のであるから,同法29条2項により特許を受けることができない,としたもので
ある。
「2.補正却下の決定
(中略)
(1) 手続補正の内容
(中略)
本件補正についてその内容をみると,
ア)請求項1の
「 B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に
接続することにより,第1の( ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージフ
ァシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピ
ーを確立させ,前記確立が第1のアプリケーションと,第1のデータストレージファシリティ
との間で独立したオペレーションであり ,
」との特定事項を,
「 B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に
接続することにより,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデー
タとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデータを
受け,第1の( ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関
するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ ,」
とするものであって,
補正前の「独立したオペレーション」について ,
「独立した」を「同時で並列」とし,さら
に,「データセットのコピー」について ,
「第1のデータストレージファシリティからデータを
受け ,」との事項を付加するものである。
イ)また,請求項1の
「 ii)その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータス
トレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2のアプリケー
ションによってアドレスされるように第2のストレージファシリティを再接続させ(260,
261,262)」との特定事項を,
,
「 ii)その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータス
トレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2のデータスト
レージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のス
トレージファシリティを再接続させ(260,261,262 )」とするものであって,
,
「第2のストレージファシリティを再接続させ」ることに対して ,
「第2のデータストレー
ジファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために」との事項を
付加するものである。
ウ)そして,請求項1の
「ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法 。」との特定事項を,
「前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケー
ションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独
立して生じる,ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法 。」とする
ものであって,
「前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケー
ションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独
立して生じる,」との事項を付加するものである。
上記(ア)∼(ウ)は,それぞれ,特許請求の範囲に記載された特定事項について限定する
ものであるから,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
に該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(本件補正発明)が特許出願の際独立
して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用す
る同法第126条第4項の規定に適合するか否か)について,以下に検討する。
(2) 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された「IBM Storage Subsystem Library "IBM 3990 Strage Control
Reference Fifth Edition", September 1991」(引用例1)には,
「Dual Copy Operations
The 3990 Model 3 can have dual copy volumes. Dual copy allows the user to have two identical sets
of data on two different DASD volumes within the same subsystem.
When a host program establishes dual copy and identifies two DASD volumes as a duplex pair, the
3990 model 3 maintains two identical copies of a volume, independent of application-level host
programming. See establish Duplex Pair X'12' on page 159 for information on how to specify a
primary and a secondary device.」「デュアルコピー・オペレーション
(
3990 モデル 3 は,デュアルコピー領域を持つことができる。デュアルコピーは,同じサブシ
ステム内の2つの異なる DASD 領域上に,ユーザーが二つの同一のデータセットを保持できる
ようにする。
ホスト・プログラムがデュアルコピーを確立し,2つの DASD をデュプレックス・ペアであ
ると認識する場合,3990 のモデル 3 はアプリケーション・レベルのホスト・プログラミングと
無関係に,領域上の2つの同一のコピーを維持する。 159 頁の,デュプレックス・ペアの開始
X'12'には,プライマリとセカンダリの装置を指定する方法についての情報が記載されてい
る。)
」(第14頁第32行∼第40行)
「Dual copy has four device states: ・・・略・・・
Duplex: Has two devices, the primary and the secondary. These devices make up the duplex pair. Only
the primary device is functional to the host system.
All commands that address the secondary device are rejected, except for the following:
・・・略・・・
Suspended Duplex: A state caused by one of two events:( 1)a host program requests the state of the
duplex pair be changed to suspended, or( 2)the 3990 Model 3 is unable to synchronize the contents of
the two devices, and has stopped duplicate writes.」「デュアルコピーは,4つのデバイス状態を
(
有する: ・・・略・・・
デュプレックス:プライマリとセカンダリとの二つのデバイスを有する。これら二つのデバイ
スがデュプレックス・ペアを形成する。プライマリデバイスだけがホストシステムに機能的で
ある。セカンダリデバイスをアドレスする命令は次の例外を除きすべて拒絶される。
・・・略・・・
サスペンディドデュプレックス:二つのイベントのどちらかによって起こされる状態:( 1)ホ
ストプログラムがデュプレックス・ペアの状態をサスペンディッドに変更するよう要求する,
または(2),3990 モデル 3 は,2つの装置の内容を同期させることができなくなる,ことによ
って二重書き込みが中断される。)(第15頁第10行∼第33行)
」」
「Establish Duplex Pair X'12' The order makes a duplex pair from the devices that the
parameters specify as the primary and secondary devices. It can also restore a duplex pair from a
suspended duplex pair or replace a failed duplex device with another device.When possible it also
returns the device to the original channel address.」(「デュプレックス・ペアの開始 X'12' こ
の命令はパラメーターがプライマリ・セカンダリのデバイスとして指定するデバイスからデュ
プレックス・ペアを作る。さらに,それはサスペンディドデュプレックス・ペアからデュプレ
ックス・ペアを回復するか,あるいは故障したデュプレックスデバイスを別のデバイスに取り
替えることができる。さらに可能な場合,それは,デバイスをオリジナルのチャンネルアドレ
スに戻す。)
」(第159頁第1行∼第8行)
「6-7 Determine if a copy is required to establish the duplex pair. The values are:
00 Device are syncronized( the data is identical), do not copy to establish the deplex pair.
01 Copy from the primary to the secondary device to establish the duplex pair. The entire volume will
be copied to syncronize the two DASD devices.」 6-7 デュプレクスペアを確立すためにコピーが
(
要求されるかどうか決定する。値は次のとおり:
00 デバイスが同期化され(データは同一),デュプレックスペアを確立するためのコピーを行
わない。
01 デュプレックスペアを確立するためにプライマリからセカンダリデバイスにコピーを行う 。
2つの DASD 装置の全領域はコピーされ同期化される 。(第159頁第32表第7行∼第11
)
行)
と記載されている。
したがって,引用例1には,
「A)プライマリデバイスに対応するようにセカンダリデバイスを構成し,
B)セカンダリデバイスをプライマリデバイスと並列に接続することにより,アプリケーション
・レベルのホスト・プログラミングと無関係に,領域上の2つの同一のコピーを維持し,
デュプレックス・ペアの開始命令に応答して,ホストシステムによって機能するプライマリ
デバイスに関するミラーとしてセカンダリデバイスにデータセットのコピーを確立させ,
C)
i)ホストプログラムの命令に応答して,セカンダリデバイスをプライマリデバイスから切断
し,セカンダリデバイスの二重書き込みを終了させ
ii)サスペンディドデュプレックス状態とし
D)サスペンディドデュプレックス・ペアからデュプレックス・ペアを回復する命令に応答し
て,デュプレックス・ペアを回復する 。
」
発明が記載されている。
また,周知技術を示す公知文献として,特開平7−281933号公報(引用例2)には,
「【0004】一方,オンラインシステムのような24時間連続運用するシステムにおいては,フ
ァイル保護の信頼性向上を目的としてディスク装置を多重化 ,例えば ,二重化して運用される 。
このように,ディスク装置が二重化された計算機システムに関して,バックアップ処理中は図
5に示すように,片系のディスク装置を業務処理から切離し ,一方の系で運用することにより ,
切り離されたディスク装置のバックアップを行なう方法がある。
【0005】図5において,バックアップ処理を行うときは,運用管理プロセス101は,副系デ
ィスク装置92を業務処理から切り離すために,業務プロセス102に業務処理を一時中断さ
せる。そのために,業務プロセス102に中断要求を出す。業務プロセス102は,業務処理
の適当な区切りにおいて処理を中断し,中断したことを運用管理プロセス101に中断要求に
対する応答として返す。該応答を運用管理プロセス101が受け取ると,運用管理プロセス1
01は,片系閉塞指示を2重化ディスクドライバ105に送り,副系ディスク装置92を業務
処理から切り離す 。運用管理プロセス101は ,その後業務プロセス102に再開を指示する 。
以後は,2重化ディスクドライバ105とディスクドライバ107との間の,点線の矢印で示
すやり取りは行われない。次に運用管理プロセス101はバックアッププロセス104にバッ
クアップ処理の起動を指示する。バックアッププロセス104は,ディスクドライバ107と
MT(磁気テープ装置)ドライバ8とを介して副系ディスク装置92の内容を MT 94に転送
する。バックアップ処理が終了後,運用管理プロセス101は,業務プロセス102を一時中
断させて,副系ディスク装置を2重化ディスクドライバ105の管理下に戻させる 。(段落番
」
号[0004]∼[ 0005],図5)と記載されている。
そして,原査定の拒絶の理由に引用された特開平5−233162号公報(引用例3 )には ,
「【0018】
2重化ディスク装置3は,ディスクA12およびB13を2重化ディスク装置として制御す
る2重化ディスク制御部11,ディスクA12,B13の現在の動作モードを保持するディス
クモードテーブル10を具備している。
【0019】
本計算機システムはこのように構成されているので,業務タスク5によって処理データを2
重化ディスクとして使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務中に,データ退避
の保守タスク6が起動されると,業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用する
ことにより,業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を
並列処理することができる。
・・・途中略・・・
2重化ディスク制御部11は,業務属性のタスク5からのアクセス要求を業務モードの設定
されているディスクAに,保守属性のタスク6からのアクセス要求を保守モードのディスクB
に対処させる。つまり,タスクの属性とディスクの動作モードのパターンマッチングにより,
各タスクがアクセスできるディスクが限定される。各ディスクの動作モードを動的に変更すれ
ば,各タスクがアクセスできるディスクも動的に変更される。したがって各タスクは,アクセ
ス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない 。(段落番号[ 0018]∼
[0021])と記載されている。
(3) 対比・判断
本件補正発明と引用例1に記載された発明とを比較すると,引用例1に記載された「プライ
マリデバイス 」 「セカンダリデバイス」は,2つの冗長データストレージであるから,本件補
,
正発明の「第1のデータストレージファシリティ 」「第2のデータストレージファシリティ」
,
に相当する。
また,引用例1に記載された「デュプレックス・ペアの開始の命令 」 「サスペンディドデュ
,
プレックスに変更する要求」はそれぞれ,ミラーリング機能の開始,停止を行うものであるか
ら,本件補正発明の「第1の( ESTABLISH)コマンド 」 「第2の(SPLIT)コマンド」に相当
,
する。
そして,引用例1に記載された「デュプレックス・ペアの開始の命令」は,ミラーリング機
能の再開を行うものであるから,本件補正発明の「第3の( ESTABLISH, REESTABLISH,
RESTORE,INCREMENTAL, RESTORE(276))コマンド」に相当する。
加えて,引用例1に記載された「ホストシステム」は,第1のデータストレージファシリテ
ィをアドレス可能であるから,本件補正発明の「第1のアプリケーション」に相当する。
したがって,両者は,
「データが,第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレージファシ
リティにストアされ,第1のアプリケーションによってデータセットへのアクセスを制御する
ための方法であって,
A)前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータストレージファ
シリティを構成し,
B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接
続することにより,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータ
との間のオペレーションと同時で並列にデータを受け,第1のコマンドに応答して第1のデー
タストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデー
タセットのコピーを確立させ,
C)第2のコマンドに応答して,
i)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断
し,第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ,
D)第3のコマンドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させる,ス
テップを有するアクセスを制御する方法」である点で一致し, 次の3点で相違している。
(相違点1)
本件補正発明は,第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシ
リティと並列に接続することにより,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファ
シリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリテ
ィからデータを受けるものであるのに対し,引用例1に記載のものは,第1のデータストレー
ジファシリティからデータを受けるか否かが不明である点。
(相違点2)
本件補正発明は,第2の(SPLIT)コマンドに応答して,
i)第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2のデータストレ
ージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し(256∼258 ),第
2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ,
ii)その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータスト
レージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2のデータストレ
ージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のスト
レージファシリティを再接続させるものであるのに対し,
引用例1に記載された発明においては,ミラーファンクションを終了させるコマンドが,第
1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして与えられることは示されてお
らず,また,二つのデバイスが切り離されている状態においては,セカンダリデバイスは直接
アドレス可能であることが明らかであるものの,第2のアプリケーションを利用するために,
デバイスを接続することは示されていない点。
(相違点3)
本件補正発明は,前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第
1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーショ
ンと同時且つ独立して生じるものであるのに対して,引用例1に記載された発明においてはこ
の点について明らかでない点。
次に,これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
複数のデータストレージに同一のデータを保持するものにおいて,第2のデータストレージ
ファシリティがアプリケーションが書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティ
からアプリケーションの動作と同時で並列にデータを受けるよう構成することは,慣用の技術
にすぎない 例えば ,
( 特開平7−244597号公報 ,特開平7−262070号公報を参照 。)
第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレー
ションと同時で並列に,第1のデータストレージファシリティと第2のデータストレージファ
シリティとに同一の内容を保持するものである引用例1において,本件補正発明のごとく,第
2のデータストレージファシリティが第1のデータストレージファシリティからデータをアプ
リケーションの動作と同時で並列に受けるよう構成することは当業者が適宜なし得るものと認
められる。
(相違点2について)
ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されているディスク装置
を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行うことは,例えば引用例2
に記載されているように周知技術と認められる。
ここで,引用例2の前記記載および図5には ,「片系閉塞指示」として,業務プロセスに応
答して,運用管理プロセスがメモリミラーファンクションを終了させ,その後,業務プロセス
が正系ディスクに対して業務処理を行うのと平行して,切り離された予備系ディスク装置に対
して,バックアッププロセス104がアクセスを行うことが記載されている。
引用例2の ,「片系閉塞指示」は,本件補正発明の ,「第2の( SPLIT)コマンド」に相当す
るものであり,引用例2の「業務プロセス 」「運用管理プロセス」は,それぞれ,本件補正発
,
明の「第1のアプリケーション 」「独立のオペレーション」に対応させることができ,二重化
されているディスク装置を切り離すことはバックアッププロセスを利用するために行われるか
ら,相違点1における第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケー
ションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させることに相当す
る。
したがって,前記相違点2に相当する事項は,引用例2に記載されるような周知技術のバッ
クアッププロセスと比較して異なるものと認めることはできず,引用例1に記載されたものに
おいて,本件補正発明のごとく,第2のコマンドに応答して,
i)第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2のデータストレ
ージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し,第2のデータストレー
ジファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ,
ii)その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータスト
レージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2のデータストレ
ージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のスト
レージファシリティを再接続させるよう構成することは当業者が適宜なし得たものと認められ
る。
(相違点3について)
引用例3には ,「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用しているデ
ィスクA,Bに格納するオンライン業務中に,データ退避の保守タスク6が起動されると,業
務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用することにより,業務処理を継続したま
まディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処理することができる 」 また ,
,
「各タスクは,アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない」
と記載されている。
ここで,引用例3の「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用してい
るディスクA,Bに格納するオンライン業務中」 データ退避の保守タスク6が起動されると ,
,
「
業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用する 」「業務処理を継続したままディ
,
スクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処理することができる 」 各タスクは,
,
「
アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない 」,との記載は,
それぞれ,本件補正発明の「確立 」 「切断」 「オペレーションと同時 」 「オペレーションと独
, , ,
立」に対応させることができ,前記相違点3に係る ,「確立させ,切断させ,終了させる各オ
ペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティ
のデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる」ことは,引用例3に記載された
技術と認められる。
したがって,引用例1において,本件補正発明のごとく,確立させ,切断させ,終了させる
各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリ
ティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じるようにすることは,引用例3
に記載された技術を付加するものであって当業者が適宜なし得たものと認められる。
なお,多重書き込みは障害の発生に備えることを主要な目的としたものであるから,障害等
の発生時においても,通常のアプリケーションの動作に影響を与えることなく,多重書き込み
の状態が独立して変更されることはごく普通の技術である。例えば,原査定の拒絶の理由にお
いて周知技術として引用された特開平7−121315号には,復旧作業中に通常のアクセス
動作が行われることが記載されており,前記相違点3に係る「確立させ,切断させ,終了させ
る各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシ
リティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる」ことは,多重化ディスク
装置における障害予備,障害復旧における周知の技術と認めることもできる。
また,相違点1∼3に係る技術を組み合わせることによる格別の効果を認めることもできな
い
(4) むすび
以上のとおり,本件補正発明は,引用例1,3に記載された発明および周知の技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第17条の2第5項で準用
する同法第126条第4項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同
法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.本願発明について
(1) 本願発明
平成15年10月8日付手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発
明(本願発明)は平成15年4月15日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載され
た事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 請求項1】データが,第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータスト
【
レージファシリティ(207,210,211,212)にストアされ,第1( OLTP,20
0)及び第2(DSS,201)のアプリケーションによってデータセットへのアクセスを制御
するための方法であって,
A)前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータストレージファ
シリティ(213,214,215,216)を構成し,
B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接
続することにより,第1の( ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファ
シリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピー
を確立させ,前記確立が,第1のアプリケーションと,第1のデータストレージファシリティ
との間で独立したオペレーションであり,
C)第2の(SPLIT)コマンドに応答して,
i)第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2のデータストレ
ージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し(256∼258 ),第
2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ,
ii)その後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータスト
レージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2のアプリケーシ
ョンによってアドレスされるように第2のストレージファシリティを再接続させ(260,2
61,262),
D)第3の(ESTABLISH,REESTABLISH,RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE(276))
コマンドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させる,
ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。 」
(2) 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された「IBM Storage Subsystem Library "IBM 3990 Strage Control
Reference Fifth Edition", September 1991」(引用例1 ),及び,周知技術を示す参考文献である,
特開平7−281933号公報(引用例2)には,前記2.( 2)に記載したとおりの技術的事
項が開示されている。
(3) 対比・判断
本件発明は,前記2.(1)で検討した本件補正発明における,
「第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレー
シ ョ ン と 同 時 で 並 列 に 第1 の デ ー タ ス ト レ ージ フ ァ シ リ テ ィ か ら デー タ を 受 け , 第 1の
( ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーと
して第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ ,」を「第1の
( ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーと
して第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ,前記確立が第
1のアプリケーションと,第1のデータストレージファシリティとの間で独立したオペレーシ
ョンであり ,」としたものであり,また ,
「第2のデータストレージファシリティをアドレスす
る第2のアプリケーションを利用可能とする」点を削除し,さらに ,「前記確立させ,切断さ
せ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータスト
レージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる ,」ことを削
除したものである。
したがって,本件発明においては,前記2.( 3)で検討した「相違点1」が削除され ,
「相違
点2」に対する限定がはずれ ,「相違点3」が削除されたものであるから,本件補正発明にお
ける「相違点2」が前記2.(3)に記載した理由によって,引用例1に記載された発明および
周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる以上,本願発
明は,引用例1に記載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものと認められる。
4.むすび
以上のとおりであって,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,前記引用例1に記
載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
から,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく ,拒絶すべきものである 。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本件補正発明につき,特許法17条の2第5項が準用する126条4項
所定の要件(独立特許要件)の有無を判断するに当たり,引用例1(本訴甲第9号
証)に記載された発明(以下「引用発明1」という 。)の認定を誤るなどして,本
件補正発明と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1 ),審決の認定した
相違点1∼3についての判断を誤り(取消事由2∼4),さらに,必要な拒絶理由
通知を怠り,また,忌避事由を有する審判官が審決の構成に加わるという,手続的
瑕疵がある(取消事由5,6)から,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 引用発明1の認定の誤り
審決は,引用発明1が「 A)プライマリデバイスに対応するようにセカンダリデ
バイスを構成し, B)セカンダリデバイスをプライマリデバイスと並列に接続する
ことにより,アプリケーション・レベルのホスト・プログラミングと無関係に,領
域上の2つの同一のコピーを維持(する)」ものと認定したところ ,この 無関係に」
「
との文言は,本件補正発明の要件 B)に係る「同時で並列に」と同義のものとして
用いられている。
しかしながら,下記( 2)のとおり,本件補正発明の要件である上記「同時で並列
に」とは,各オペレーションが ,「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に
, ,
独立して」「同時」かつ「並行」に行われることを意味し,各オペレーションが「多
,
重」化されたものであったり,「関連し合っている」ものは排除されているものと
解すべきである。しかるに,引用発明1においては,ホスト・プログラムとプライ
マリデバイスとの間のオペレーションは,プライマリデバイスからセカンダリデバ
イスへのコピー処理がなされている間は中断されるものであるから,各オペレーシ
ョンが,「互いに干渉しないように」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ
, , ,
「並行」に行われるものではない。
したがって,引用発明1においては,本件補正発明の「同時で並列に」と同一の
意味で,ホスト・プログラムと「無関係に」コピー処理が行われるものではなく,
審決の上記引用発明1の認定は誤りである。
(2) 本件補正発明の「同時で並列に 」「同時且つ独立して」等の意義
,
ア 本件特許出願に係る優先権主張日(平成8年5月31日)前である平成4年
11月25日に発刊された,本件補正発明の技術分野と同一又は近接する技術分野
における一般的な辞典である「情報処理用語大事典 」(甲第29号証の1∼6)に
掲載された,複数の情報処理に係る「並列」 parallel),
( 「同時」 concurrent) ,
( 「独
立」 independent) 及び「並行」 concurrent)の各語の意義及びこれらの語を含む熟
( (
語の技術的,一般的な意味を参酌すれば,本件補正発明において,①第1のアプリ
ケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーショ
ンと,第1のデータストレージファシリティから第2のデータストレージファシリ
ティへのデータセットのミラーリングコピーを確立させるオペレーションとに関す
る「同時で並列に」
(要件 B))との規定,②第2のデータストレージファシリティ
を第1のデータストレージファシリティから切断し,第2のデータストレージファ
シリティのメモリミラーファンクションを終了させるオペレーションに関する「独
立のオペレーションとして」(要件 C)の i))との規定,③第1及び第2のアプリケ
ーションによる第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットへの
各アクセスに関する「並行に」(要件 C)の ii))との規定,④第1のアプリケーシ
ョンと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと,
第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させるオペレーションとに関する
「同時且つ独立して」(要件 D))との規定は,いずれも,同各オペレーション(ア
クセス)が ,「互いに干渉しないように」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」
, , ,
かつ「並行」に行われることを意味するものというべきである。
上記情報処理用語大事典には ,「並列処理 」 「並行処理」について ,
, 「ひと続き
の処理を分割し・・・多重化なども含み 」「多重処理を含めていうこともある」と
,
しているが,各オペレーションが「多重」化されたものであったり ,「関連し合っ
て」いるものは,本件補正発明にはいずれも適合せず,排除されていることが明ら
かである。
イ 本件特許出願に係る明細書(甲第3号証。ただし,第1次補正(甲第19号
証)により一部訂正がなされている。以下,この訂正後のものを「本願明細書」と
いう 。)には,以下の記載がある。これらの記載を参酌すれば,本件補正発明にお
ける上記「同時で並列に 」 「独立のオペレーションとして 」 「並行に 」 「同時且
, , ,
つ独立して」との各規定の意義が上記アのとおりであることは,十分開示されてい
るといえる。
(ア) 「同時で並列に」(要件 B))に関し
a 「通常のミラーリングモード」に関し
「通常のミラーリングオペレーションモードでは,ローカルシステム10はアクティブシス
テムであり,リモートシステム11はもっぱらミラーとして機能する。例えば,図1のシステ
ムがデータベースを構成するとき,ローカルシステム10は,データベースへの変更を有効に
することができるそれらを含む OLTP アプリケーションを全て処理する 。(20頁20∼24
」
行)
「従って,通常のオペレーティングモード中 ,ホストシステム13のあらゆる変化によって ,
記憶装置セット15及び16のデータが記憶装置セット42及び43の対応する変化を自動的
に生成するようにさせる。更に,通常のオペレーションにおいて,記憶装置セット42及び4
3又はその論理ボリュームは,記憶装置セット15及び16の対応するもの,又は,システム
マネージャ23及びシステムマネージャ50からの構成情報によってその論理ボリュームを正
確にミラーリングする 。・・・通常のオペレーティングモード及びデータベースシステムのコ
ンテキストにおいて,ローカルシステム10は,データベースに関するプライマリ・リポジト
リを構成する記憶装置15及び16を変更することによってアプリケーションを処理するオン
ライントランザクションを全て処理する。リモートシステム11はそのデータベースのミラー
としてのみ作動する。(22頁1∼14行)
」
b 「変形実施形態」に関し
「ローカル及びリモートシステム10及び11のサイトのような複数のサイトで,本発明と
関連する共通のデータベース又はデータセットに対する並行アクセスを達成するために,図1
のトラックステータスブロック26及び53の情報のようなトラックステータス情報を使用す
ることが可能であることが分かった。更に,この並行アクセスが,所定の記憶装置内にストレ
ージスペースを割り当てることによって,若しくは,1つ又は他のサイトで記憶装置を追加す
ることによって達成されることを見いだした 。(30頁7∼13行)
」
「更に明らかなように,BCVデバイスの使用は並行なアクセスをホスト200及び201
によって単一のデータセットに対して可能にするが,ホスト200が OLTP,又は,ボリュー
ム210乃至212にいかなる衝撃又は負荷なしに, OLTP 又は同様なプロセスを継続するこ
とができる 。(31頁21∼24行)
」
c 「ESTABLISH コマンド」に関し
「同時発生の通常鏡映記憶装置を維持するコピープログラムはM1及びM2鏡映記憶装置2
24及び225の一方からM3ミラーとしてオペレートする BCV 装置226にデータをコピ
ーする。(34頁15∼18行)
」
(イ) 「独立のオペレーションとして 」(要件 C)の i))に関し
「本発明によれば,図1のホストシステム40は,情報を記憶装置セット42及び43に書
き込む能力で独立して処理することができる。データベースシステムのコンテキストでは,ホ
ストシステム40は,データベース・コンテンツに基づいたレポートを生成するために判断支
援システムアプリケーションを処理するための独立機構となる 。(22頁16∼20行)
」
「図14に示したようにこの手続は。 SPLIT コマンドがステップ251のホストアダプター
によって受け入れられたとき開始する 。
・・・ステップ254は SPLIT リクエストを装置コン
トローラ21に発行し,更なる伝達を他のホストから装置コントローラにブロックする。ステ
ップ255において,BCV装置226のための装置コントローラは SPLIT コマンド又はリク
エストを受け入れる。・・・ミラーオペレーションの内容における BCV 装置226の状態は装
置をボリュームAアプリケーション221に応答するシステムに関して動作不可能( NR)状
態に置く事により切断される 。(35頁26行∼36頁14行)
」
「これが起きると,ボリュームBアプリケーション222は今度,SPLIT コマンドの瞬間に
あるときデータセットにアクセスする。このデータの処理は次いで,データセットの複写した
コピー上の,ボリュームAアプリケーションと並行して又は同時に起きる 。(37頁22∼2
」
5行)
(ウ) 「同時且つ独立して」(要件 D))に関し
「判断支援システムの処理又はそれと等しいアプリケーションが終わるとき,システムマネ
ージャ50は,通信リンク12を介して接続を再設定し,リモートシステム11を通常のオペ
レーティングモードに戻す。(24頁21∼23行)
」
「ステップ116がコントロールをステップ117にシフトするとき,図6の再同期プロセ
スは,各トラックに関するビットパターンをテストし,データを再同期させる必要があるそれ
らのみをコピーする。このオペレーションは,通常のオペレーションで同時に発生し,この場
合,プロセス中に,ホストシステム13のいかなる変化も,データがまたリモートシステム1
1の変化を生成するようにさせる 。(28頁15∼20行)
」
(3) 一致点の認定の誤り1
審決は,本件補正発明と引用発明1とが , B)第2のデータストレージファシリ
「
ティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより,第1の
アプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレ
ーションと同時で並列にデータを受け,第1のコマンドに応答して第1のデータス
トレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティ
にデータセットのコピーを確立させ」る点で一致すると認定したが,上記( 1)のと
おり,引用発明1においては,第1のコマンド(デュプレックス・ペアの開始の命
令)に応答してなされる,第1のデータストレージファシリティ(プライマリデバ
イス)から第2のデータストレージファシリティ(セカンダリデバイス)へのデー
タセットのコピーの確立は,第1のアプリケーション(ホスト・プログラミング)
と第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと「同時
で並列に」なされるものではないから,審決の上記認定は誤りである。
(4) 一致点の認定の誤り2
審決は,引用発明1の「サスペンディドデュプレックスに変更する要求」が本件
補正発明の「第2の( SPLIT)コマンド」に相当するとした上,本件補正発明と引
用発明1とが , C)第2のコマンドに応答して,i)第2のデータストレージファ
「
シリティを第1のデータストレージファシリティから切断し,第2のデータストレ
ージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ」る点で一致すると認
定したが,以下のとおり,誤りである。
すなわち,本件補正発明においては,第2のコマンド( SPLIT)に応答して,メ
モリミラーファンクションを終了させた後 ,「第1及び第2のアプリケーションが
それぞれ,並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットに
アクセスすることができるように,第2のデータストレージファシリティをアドレ
スする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリ
ティを再接続させ」ること(要件 C)ii))が規定されており,このことにより,第
2のデータストレージファシリティは,デュプレックス状態を終了させて,第2の
アプリケーション用に使用できるものである。これに対し,引用発明1においては ,
デュプレックス・ペアを構成する第1及び第2のデータストレージファシリティの
いずれか一方が故障した場合にのみ,かつ,第2のデータストレージファシリティ
のメモリミラーファンクションとは無関係に(すなわち,デュプレックスペンディ
ング状態にある場合にも),第2のコマンド(サスペンディドデュプレックスに変
更する要求)が発行され,これに応答して,故障したデータストレージファシリテ
ィと正常なデータストレージファシリティとをデュプレックス・サスペンディド状
態にするものである。したがって,引用発明1の第2のコマンド(サスペンディド
デュプレックスに変更する要求)は本件補正発明の第2のコマンド(SPLIT)に相
当するものではなく,審決の上記一致点の認定は誤りである。
(5) 一致点の認定の誤り3
審決は,引用発明1の「デュプレックス・ペアの開始の命令」が,本件補正発明
の 第3の ESTABLISH,
「 ( REESTABLISH,RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE)
コマンド」に相当するとした上,本件補正発明と引用発明1とが,「第3のコマン
ドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させる,ステップ
を有するアクセスを制御する方法」である点で一致すると認定したが,以下のとお
り,誤りである。
すなわち,本件補正発明においては,第3の( ESTABLISH, REESTABLISH,
RESTORE, INCREMENTAL, RESTORE)コマンドに応答して ,「第2のコマンド
に応答するオペレーション」を終了させるところ,その終了のオペレーションのア
クセスが第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータ
との間のオペレーションと「同時かつ独立して」 すなわち,上記(2)のとおり, 互
, 「
いに干渉しないように」「単独で」「完全に独立して」「同時」かつ「並行」に,
, , ,
生じるものである。これに対し,引用発明1においては,第3のコマンド(デュプ
レックス・ペアの開始の命令。第1のコマンドと同じ。)は,第1のデータストレ
ージファシリティと第2のデータストレージファシリティとの間のミラーリングコ
ピーを実行するものにすぎず,「第2のコマンドに応答するオペレーション」を終
了させるものではないから,引用発明1の「デュプレックス・ペアの開始の命令」
は , 本 件 補 正 発 明 の 「 第 3 の ( ESTABLISH, REESTABLISH, RESTORE,
INCREMENTAL, RESTORE)コマンド」に相当するものではない。のみならず,
上記(1),(3)のとおり,引用発明1において,ホスト・プログラム(第1のアプリ
ケーション)とプライマリデバイス(第1のデータストレージファシリティ)との
間のオペレーションは,プライマリデバイスからセカンダリデバイス(第2のデー
タストレージファシリティ)へのコピー処理がなされている間は,中断されるもの
であるから,各オペレーションが「同時かつ独立して」,行われるものではない。
したがって,審決の上記一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
審決は,本件補正発明と引用発明1との相違点1として認定した ,「本件補正発
明は,第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリテ
ィと並列に接続することにより,第1のアプリケーションと第1のデータストレー
ジファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータスト
レージファシリティからデータを受けるものであるのに対し,引用例1に記載のも
のは,第1のデータストレージファシリティからデータを受けるか否かが不明であ
る点」につき,特開平7−244597号公報(本訴甲第12号証)及び特開平7
−262070号公報(本訴甲第13号証)を挙げて,「複数のデータストレージ
に同一のデータを保持するものにおいて,第2のデータストレージファシリティが
アプリケーションが書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティから
アプリケーションの動作と同時で並列にデータを受けるよう構成することは,慣用
の技術にすぎない」とした上,「第1のアプリケーションと第1のデータストレー
ジファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に,第1のデータス
トレージファシリティと第2のデータストレージファシリティとに同一の内容を保
持するものである」引用発明1において,第2のデータストレージファシリティが
第1のデータストレージファシリティからデータをアプリケーションの動作と同時
で並列に受けるよう構成することは当業者が適宜なし得るものと判断したが,以下
のとおり,誤りである。
すなわち,上記1の(2)のとおり,本件補正発明において,「第2のデータストレ
ージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することに
より,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータと
の間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデ
ータを受け」(要件 B))との規定に係る「同時で並列に」とは,第1のデータスト
レージファシリティから第2のデータストレージファシリティへのデータセットの
ミラーリングコピーを確立させるオペレーションと,第1のアプリケーションと第
1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションとが ,「互い
に干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に行
, , ,
われることを意味するものである。しかるに,審決が挙示する特開平7−2445
97号公報及び特開平7−262070号公報には,第1のアプリケーションと第
1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと「同時で並
列に」第2データストレージファシリティが第1のデータストレージファシリティ
からデータを受けることは記載されていない。このことは,本訴において被告が挙
示する特開昭55−34756号公報(乙第1号証)及び特表平8−509565
号公報(乙第2号証)においても同様である。
したがって,審決が「第2のデータストレージファシリティがアプリケーション
が書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティからアプリケーション
の動作と同時で並列にデータを受けるよう構成することは,慣用の技術」であると
した審決の認定は誤りであり,この認定を前提として,「引用発明1において,第
2のデータストレージファシリティが第1のデータストレージファシリティからデ
ータをアプリケーションの動作と同時で並列に受けるよう構成することは当業者が
適宜なし得るものと」した判断も誤りである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
(1) 審決は,「本件補正発明は,第2の(SPLIT)コマンドに応答して,i)第1
のアプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして,第2のデータスト
レージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し,第2のデ
ータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ, ii)その
後,第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ,並行に第1及び第2のデータス
トレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように,第2の
データストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能
とするために第2のストレージファシリティを再接続させるものであるのに対し,
引用例発明1においては,ミラーファンクションを終了させるコマンドが,第1の
アプリケーションに応答して,独立のオペレーションとして与えられることは示さ
れておらず,また,二つのデバイスが切り離されている状態においては,セカンダ
リデバイスは直接アドレス可能であることが明らかであるものの,第2のアプリケ
ーションを利用するために,デバイスを接続することは示されていない点」を,本
件補正発明と引用発明1との相違点2として認定した。
しかしながら,上記1の( 4)のとおり,引用発明1では,デュプレックス・ペア
を構成するプライマリデバイス及びセカンダリデバイス(第1のデータストレージ
ファシリティ及び第2のデータストレージファシリティ)のいずれか一方が故障し
た場合にのみ,第2のコマンド(サスペンディドデュプレックスに変更する要求)
が発行され,これに応答して,故障したデバイスと正常なデバイスとをデュプレッ
クス・サスペンディド状態にするものである。そして,故障したデバイスはもはや
使用できないので,例えば,セカンダリデバイスが故障した場合には,その使用は
停止される。したがって,上記相違点2の認定のうち,「二つのデバイスが切り離
されている状態においては,セカンダリデバイスは直接アドレス可能である」とす
る部分は誤りである。
(2) 審決は,上記相違点2につき,引用例2(特開平7−281933号公報 。
本訴甲第10号証)を挙げて,「ディスク装置が二重化された計算機システムにお
いて,通常二重化されているディスク装置を切り離した状態にして,バックアップ
プロセス等の処理動作を行う」ことが周知技術であるとした上 ,「引用例2・・・
には ,『片系閉塞指示』として,業務プロセスに応答して,運用管理プロセスがメ
モリミラーファンクションを終了させ,その後,業務プロセスが正系ディスクに対
して業務処理を行うのと平行して,切り離された予備系ディスク装置に対して,バ
ックアッププロセス104がアクセスを行うことが記載されている。引用例2の,
『片系閉塞指示』は,本件補正発明の ,『第2の( SPLIT)コマンド』に相当する
ものであり,引用例2の『業務プロセス 』『運用管理プロセス』は,それぞれ,本
,
件補正発明の『第1のアプリケーション』『独立のオペレーション』に対応させる
ことができ,二重化されているディスク装置を切り離すことはバックアッププロセ
スを利用するために行われるから,相違点1における第2のデータストレージファ
シリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のス
トレージファシリティを再接続させることに相当する。」とし ,「したがって,前記
相違点2に相当する事項は,引用例2に記載されるような周知技術のバックアップ
プロセスと比較して異なるものと認めることはできず」,引用発明1において,相
違点2に係る本件補正発明のように構成することは,当業者が適宜なし得たものと
判断した。しかしながら,以下のとおり,審決の上記認定判断は誤りである。
すなわち,審決の上記認定判断において ,「引用発明1において,相違点2に係
る本件補正発明のように構成することは,当業者が適宜なし得た」ことの理由とさ
れているのは,「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重
化されているディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処
理動作を行う」ことという抽象的な技術事項ではなく,引用例2に基づいて認定し
たより具体的なバックアッププロセスである。そして,引用例2は,本件特許出願
に係る優先権主張日(平成8年5月31日)の7か月程前である平成7年10月2
7日に頒布された公開特許公報であって,このような刊行物に記載された具体的な
バックアッププロセスが,上記優先権主張日において周知技術であったと認定する
ことはできない。したがって,審決の上記認定判断は,誤って周知技術と認定した
技術事項に基づく点において誤りである。
のみならず,本件補正発明において,「第1のアプリケーションに応答して,独
立のオペレーションとして,第2のデータストレージファシリティを第1のデータ
ストレージファシリティから切断し,第2のデータストレージファシリティのメモ
リミラーファンクションを終了させ(る)」(要件 C)i))との規定における「独立の
オペレーションとして」とは,上記1の(2)のとおり,第2のデータストレージフ
ァシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し,第2のデータスト
レージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させるオペレーション
が,第1のアプリケーションと「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に
, ,
独立して」「同時」かつ「並行」に,実行されることを意味するものである。しか
,
るに,引用例2記載の発明においては,「独立のオペレーションとして」,運用管理
プロセスからの片系閉塞指示が出され,正系ディスクと予備系ディスクとが切り離
されるものではないから,審決の「引用例2の ,『片系閉塞指示』は,本件補正発
明の ,『第2の(SPLIT)コマンド』に相当するものであり,引用例2の・・・ 運
『
用管理プロセス』は,・・・本件補正発明の・・・ 独立のオペレーション』に対応
『
させることができ(る)」との認定も誤りである。
さらに,上記( 1)のとおり,引用発明1では,デュプレックス・ペアを構成する
プライマリデバイス及びセカンダリデバイスがデュプレックス・サスペンディド状
態となった後は,セカンダリデバイスの使用は停止され,これに格納されているデ
ータを使用しようとする第2のアプリケーションは想定されていないのであるか
ら,このような引用発明1に,第2のアプリケーション(バックアッププロセス)
によるセカンダリデバイス(予備系ディスク)へのアクセスが示された引用例2の
技術を組み合わせようとすることも,その動機付けがない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)
審決は,本件補正発明と引用発明1との相違点3として認定した ,「本件補正発
明は,前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1
のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペ
レーションと同時且つ独立して生じるものであるのに対して,引用例1に記載され
た発明においてはこの点について明らかでない点」につき,引用例3(特開平5−
233162号公報。本訴甲第11号証)の「業務タスク5によって処理データを
2重化ディスクとして使用しているディスクA ,Bに格納するオンライン業務中 」,
「データ退避の保守タスク6が起動されると,業務タスク5と保守タスク6は1基
ずつディスクを専用する」「業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気
,
テープ4へのデータ退避を並列処理することができる」「各タスクは,アクセス対
,
象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない」との各記載を,
それぞれ,本件補正発明の「確立 」 「切断 」 「オペレーションと同時 」 「オペレ
, , ,
ーションと独立」に対応させることができ,本件補正発明の相違点3に係る構成 確
(
立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケー
ションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと
同時且つ独立して生じること)は,引用例3に記載された技術であるとし,引用例
1において,上記本件補正発明の相違点3に係る構成とすることは,引用例3に記
載された技術を付加するものであって当業者が適宜なし得たものと判断した上,さ
らに,特開平7−121315号公報(甲第14号証)を挙げて,多重書き込みは
障害の発生に備えることを主要な目的としたものであるから,障害等の発生時にお
いても,通常のアプリケーションの動作に影響を与えることなく,多重書き込みの
状態が独立して変更されることはごく普通の技術であるとし,本件補正発明の相違
点3に係る構成が,多重化ディスク装置における障害予備,障害復旧における周知
の技術と認めることもできる旨付加した。しかしながら,以下のとおり,審決の上
記認定判断は,いずれも誤りである。
すなわち,まず,引用例3記載の「業務タスク5によって処理データを2重化デ
ィスクとして使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務」においては,
第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレー
ジファシリティにデータセットのコピーを「確立」させるための,業務タスク5に
よるアプリケーションアクセスが,「第1のアプリケーションと第1のデータスト
レージファシリティのデータとの間のオペレーション」にもなっているから(段落
【0019】 ,両者が ,
) 「同時で並列に」,すなわち ,「互いに干渉しないように 」 「単
,
独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に行われるものではなく,本件
, ,
補正発明の構成(要件 B))とは異なるものであり,したがって,本件補正発明の
意味における「同時且つ独立に」生じるものではない。
また,引用例3記載の「各タスクは,アクセス対象のディスクがどれなのかをプ
ログラム上で意識する必要はない」とは,プログラムにおいて,業務モードと保守
モードとに対応するディスクのディスク名を直接コーディングせず,各ディスクを
識別し得る識別子をテーブル上に記述し,2重化ディスク制御部によって,業務タ
スク又は保守タスクからのアクセス要求を,識別子に従って,当該業務に対応する
)
ディスクに対処させることを意味しており(段落【0021】 ,したがって,このこと
と,本件補正発明の「確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセ
ス」が,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータ
との間のオペレーションと「独立して」,両者が,「同時で並列に」,すなわち,「互
いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に
, , ,
行われることとは,全く異なる内容である。
さらに,上記特開平7−121315号公報に記載された発明も,本件補正発明
の相違点3に係る 確立させ ,
「 切断させ ,終了させる各オペレーションのアクセス」
が,「第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータと
の間のオペレーション」と「同時且つ独立して 」,すなわち,「互いに干渉しないよ
うに 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に生ずることを開示
, , ,
するものではない。
5 取消事由5(拒絶理由通知の懈怠)
本件特許出願に対する拒絶査定(甲第20号証)は,拒絶の理由として,平成1
4年10月4日付け拒絶理由通知(甲第16号証)に係る理由( 2)を引用するもの
であり,同拒絶理由通知の理由( 2)は,請求項1の発明につき,引用例1,引用例
3,特開平7−244597号公報(甲第12号証)及び特開平3−256146
号公報にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明し得るとしたものである。
本件審判の請求後,本件補正がなされたため,審判請求は前置審査に付され,審査
官から特許庁長官に対し,平成16年5月21日付け前置報告書(甲第22号証)
が提出されたが,同報告書は,本件補正発明が,引用例1及び引用例2に基づいて
容易に発明し得るとするものである。そして,審決が,相違点2についての判断に
当たって,形式上,引用例2を周知技術が記載されたいわゆる周知例として用いて
いるものの,実質上,審決が引用例2によって認定した技術事項が周知技術といえ
るようなものではないことは,上記3の(2)のとおりである。
上記のとおり,前置審査においても,本件審判においても,引用例2は,本件補
正発明に対する,拒絶査定と異なる拒絶の理由を構成するものであるから,前置審
査に当たった審査官は特許法163条2項で準用する50条により,審判長は同法
159条2項で準用する50条により,原告に対し,引用例2を含む拒絶の理由を
通知すべきところ,このような拒絶理由通知はなされなかった。
したがって,審決には,上記各条項に違背した違法があり,この違法が審決の結
論に影響を及ぼすことは明らかである。
6 取消事由6(忌避事由を有する審判官の審決関与)
株式会社L(以下「L」という。)は,平成14年8月12日,特許庁長官に対
し,引用例1,引用例3,特開平3−256146号公報ほか1点の各文献を提出
して,本件特許出願に係る発明が特許法29条1項又は2項に該当する発明である
とする情報提供を行った(甲第15号証)。このうち,引用例1,引用例3,特開
平3−256146号公報が,拒絶査定において,拒絶の理由とされたことは上記
5のとおりであり,審決が引用例1,引用例3を拒絶の理由としたことは,上記第
2の3のとおりである。また,原告とLとの間には,平成14年ないし平成15年
当時,米国における特許侵害紛争が生じており(甲第5∼7号証),重大な利害対
立関係があった。そして,N特許事務所は,Lの特許出願等の代理人として極めて
多くの案件を手がけている弁理士が所属し,Lと密接な関係がある弁理士事務所で
ある(甲第25∼第28号証)。
しかるところ,審決の構成審判官の1人であるM審判官(以下「M審判官」とい
う。)は,本件審決の作成日付の翌日である平成17年3月31日に特許庁を退官
し,同年4月初旬頃,弁理士として,N特許事務所に入所している。そして,この
ような事実経過から見て,M審判官は,遅くとも同事務所に入所する1∼2か月前
までに同事務所の弁理士と面接し,同事務所が上記情報提供者であるLと,上記の
ような密接な関係を有することを知った上で,同事務所への入所を決定したはずで
ある。
そうであれば,M審判官には ,「審判官について審判の構成を妨げるべき事情」
があったことは明らかであり,それにもかかわらず,上記情報提供に係る文献を主
たる引用例とする審決に関与したのであるから,審決には結論に影響を及ぼすべき
違法がある。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
(1) 「引用発明1の認定の誤り」に対し
原告は,引用発明1においては,本件補正発明の「同時で並列に」と同一の意味
で,ホスト・プログラムと「無関係に」コピー処理が行われるものではなく,審決
の引用発明1の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,引用発明1において,ホスト・プログラムとプライマリデバイス
との間のオペレーションが,プライマリデバイスからセカンダリデバイスへのコピ
ー処理がなされている間は中断されるとしても,このコピー処理が終われば,中断
の状態は解消し,ホスト・プログラムからプライマリデバイスへの書込みが可能と
なるものである。そして,引用発明1は,ホスト・プログラムからプライマリデバ
イスへの書込みと,プライマリデバイスからセカンダリデバイスへのコピー処理を
繰り返すものであるから,ホスト・プログラムがどのような書込み要求をしても,
つまりホスト・プログラミングとは無関係に,プライマリデバイスとセカンダリデ
バイスとの間のミラーリングコピーが維持されていることは,明らかである。
原告の上記主張は,本件補正発明に係る,第1のアプリケーションと第1のデー
タストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと,第1のデータスト
レージファシリティから第2のデータストレージファシリティへのデータセットの
ミラーリングコピーを確立させるオペレーションとに関する「同時で並列に」(要
件 B))との規定が,上記各オペレーションが「互いに干渉しないように」 「単独
,
で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に行われることを意味するという
, ,
前提に拠るものであるところ,後記(2)のとおり,そのような前提に理由がないか
ら,原告の上記主張は失当である。
(2) 本件補正発明の「同時で並列に 」「同時且つ独立して」等の意義
,
原告は,本件補正発明における,「同時で並列に」(要件 B))との規定,「独立の
オペレーションとして」(要件 C)の i))との規定,「並行に」(要件 C)の ii))との
規定及び「同時且つ独立して」との規定が,いずれも,同各オペレーション(アク
セス)が,「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」か
, , ,
つ「並行」に行われることを意味するものと主張する。
しかしながら,これらの規定に係る用語が,それぞれ表現を異にし,また,それ
ぞれ異なる場面で使われていることにかんがみれば,それぞれの意味は記載されて
いるとおりに区別して解釈されるべきものである。本願明細書の発明の詳細な説明
にも,これらの用語について,「互いに干渉しないように」 「単独で 」 「完全に独
, ,
立して」「同時」かつ「並行」に行われることを意味するとの記載はないから,原
,
告の主張に係る解釈は,発明の詳細な説明に根拠があるものでもない。さらに,こ
れらの用語に含まれる, ひと続きの処理を分割し・・・多重化なども含 むこと)
「 ( 」
及び「多重処理を含めていうこと」という意味を排除する理由も明らかでない。し
たがって,上記の各規定を,原告主張のように解釈する理由はない。
(3) 「一致点の認定の誤り1」に対し
原告は,本件補正発明と引用発明1とが , B)第2のデータストレージファシリ
「
ティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより,第1の
アプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレ
ーションと同時で並列にデータを受け,第1のコマンドに応答して第1のデータス
トレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティ
にデータセットのコピーを確立させ」る点で一致するとした審決の認定が誤りであ
ると主張するが,当該主張は,審決の引用発明1の認定が誤りであることを理由と
するものであり,本件補正発明の「同時で並列に」との規定が ,「互いに干渉しな
いように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に行われること
, , ,
を意味するという主張を前提とするものであるが,これらの前提に理由がないこと
は上記(1),(2)のとおりであるから,上記一致点の認定に誤りがあるとの主張も失
当である。
(4) 「一致点の認定の誤り2」に対し
原告は,本件補正発明では,第2のコマンド( SPLIT)により,第2のデータス
トレージファシリティは,デュプレックス状態を終了させて,第2のアプリケーシ
ョン用に使用できるものであるのに対し,引用発明1の第2のコマンド(サスペン
ディドデュプレックスに変更する要求)は,第1及び第2のデータストレージファ
シリティのいずれか一方が故障した場合にのみ発行され,故障したデータストレー
ジファシリティと正常なデータストレージファシリティとをデュプレックス・サス
ペンディド状態にするものであるから,引用発明1の第2のコマンドは本件補正発
明の第2のコマンドに相当するものではなく,本件補正発明と引用発明1とが, )
「C
第2のコマンドに応答して,i)第2のデータストレージファシリティを第1のデ
ータストレージファシリティから切断し,第2のデータストレージファシリティの
メモリミラーファンクションを終了させ」る点で一致するとした審決の認定は誤り
であると主張する。
しかしながら,本件補正発明において,第2のコマンド(SPLIT)がどのような
場合に発行されるかについては,限定されていないから,本件補正発明は,第1又
は第2のデータストレージファシリティのいずれかが故障した場合に第2のコマン
ドを発行することを排除するものでなく,そのような場合を含むものということが
できる。のみならず,審決は,相違点2に関し,第1又は第2のデータストレージ
ファシリティ(ディスク装置)のいずれもが故障していない場合でも,両者を切り
離した状態にして処理動作を行うことが周知である旨認定しているから(審決書1
0頁16∼24行),仮に,引用発明1の第2のコマンドと本件補正発明の第2の
コマンドとが,原告主張の点で相違するとしても,当該相違点については,実質的
に判断しているということができ,この一致点の認定の誤りは審決の結論に影響を
及ぼすものではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(5) 「一致点の認定の誤り3」に対し
原告 は,本 件補正 発明に おいては ,第3の( ESTABLISH, REESTABLISH,
RESTORE, INCREMENTAL, RESTORE)コマンドに応答して ,「第2のコマンド
に応答するオペレーション」を終了させるものであるのに対し,引用発明1では,
第3のコマンド(デュプレックス・ペアの開始の命令。第1のコマンド同じ。 は,
)
第1のデータストレージファシリティと第2のデータストレージファシリティとの
間のミラーリングコピーを実行するものにすぎず,「第2のコマンドに応答するオ
ペレーション」を終了させるものではないから,引用発明1の「デュプレックス・
ペアの開始の命令」は,本件補正発明の第3のコマンドに相当するものではなく,
本件補正発明と引用発明1とが ,「第3のコマンドに応答して,第2のコマンドに
応答するオペレーションを終了させる,ステップを有するアクセスを制御する方法」
である点で一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,本件補正発明においても第3のコマンドは,第1のコマンドであ
る「ESTABLISH」を含むものである。そして,引用発明1の「デュプレックス・
ペアの開始の命令」は,サスペンディドデュプレックス・ペアの状態から,ミラー
リングコピーを再開させ,デュプレックス・ペアを回復するものであるから,本件
補正発明の「ESTABLISH」コマンドに相当するものであり ,「サスペンディドデュ
プレックスに変更する要求 」(第2のコマンド)に応答するオペレーションである
「サスペンディドデュプレックス・ペア」を終了させるものであることは明らかで
ある。したがって,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対し
原告は,審決が「複数のデータストレージに同一のデータを保持するものにおい
て,第2のデータストレージファシリティがアプリケーションが書き込み対象とす
る第1のデータストレージファシリティからアプリケーションの動作と同時で並列
にデータを受けるよう構成すること」が慣用技術であることを示すために挙示した
特開平7−244597号公報(甲第12号証)及び特開平7−262070号公
報(甲第13号証)に,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシ
リティのデータとの間のオペレーションと「同時で並列に」第2データストレージ
ファシリティが第1のデータストレージファシリティからデータを受けることは記
載されていないとして,相違点1に対する審決の判断が誤りであると主張する。
しかしながら,甲第12号証には,直接アクセス記憶装置(DASD)データのリ
アルタイム遠隔コピーのためのシステムにおいて,1次側で実行されデータ又は更
新を生成するアプリケーション・プログラムを考慮せずに,2次側で1次側のデー
タをバックアップすることが,甲第13号証には,1次側の DASD 書込みオペレ
ーションが,そのデータのコピーが2次位置で確認されるまで実行されない(言い
換えれば,たとえ,データのコピーが2次位置で確認されるまで1次側において書
込みができないものであっても,1次側の DASD 書込みオペレーションが行われ
ている間に,2次位置が1次側のデータのコピーを受けるように構成した)同期シ
ステムが記載されており,これらは ,「複数のデータストレージに同一のデータを
保持するものにおいて,第2のデータストレージファシリティがアプリケーション
が書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティからアプリケーション
の動作と同時で並列にデータを受けるよう構成すること」が慣用技術であることを
示しているものである。さらに,特開昭55−34756号公報(乙第1号証)に
は,1組のデータ・バッファを用いて2台のディスクに同一のデータを記録するが,
2台のディスクは同期することなく,非同期で発生する書込み終了事象を書込終了
判定回路6で書込み終了信号に置き換え,上位装置(コンピュータ本体)から見る
と,書込みの間に2重書きしているシステムが,特表平8−509565号公報 乙
(
第2号証)には,1次ホストの影響を受けずに,1次側データ記憶システムから2
次側データ記憶システムにデータをコピーすることが記載されていて,これらも上
記慣用技術を開示するものである。
なお,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータ
との間のオペレーションと,第1のデータストレージファシリティから第2のデー
タストレージファシリティへのデータセットのミラーリングコピーを確立させるオ
ペレーションに関する相違点1において,本件補正発明の相違点3に係る「同時且
つ独立して」という構成を考慮したとしても,甲第12号証及び乙第2号証は,第
1のデータストレージファシリティから第2のデータストレージファシリティへの
データセットのミラーリングコピーを確立させるオペレーションが,第1のアプリ
ケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーショ
ンから影響を受けずに,すなわち,「独立して」行われることが慣用技術であるこ
とを示している。
したがって,本件補正発明の相違点1に係る構成は,当業者が容易に想到し得る
ものである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対し
原告は,審決が相違点2についての認定判断において「引用発明1において,相
違点2に係る本件補正発明のように構成することは,当業者が適宜なし得た」こと
の理由としているのは,「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,
通常二重化されているディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセ
ス等の処理動作を行う」ことという抽象的な技術事項ではなく,引用例2に基づい
て認定したより具体的なバックアッププロセスであって,これは周知技術といえな
いから,審決の認定判断は,誤って周知技術と認定した技術事項に基づく点におい
て誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,相違点2についての認定判断において,「ディスク装置
が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されているディスク装置を切
り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行う」という周知技術
を示すために,引用例2を挙示したものであって,引用例2に基づき,原告の主張
する「具体的なバックアッププロセス」を認定したものではない。そして,上記周
知技術は,引用例2のほか,1995年(平成7年)8月1日発行の渡辺榮一他著
「OLTP システム−オンライントランザクション処理−」(乙第4号証)のような
一般的な解説書や,一般的な雑誌である「日経エレクトロニクス」609号(平成
6年6月6日発行)所収の中村正弘による「複製ファイルの非同期更新が分散デー
タベースの中心技術に−2相コミットの代替手段として浮上−」と題する解説記事
(乙第5号証)にも記載されており,本件特許出願に係る優先権主張日(平成8年
5月31日)当時,周知であったことは明らかである。
また,原告は,引用例2記載の発明においては , 独立のオペレーションとして」
「 ,
運用管理プロセスからの片系閉塞指示が出され,正系ディスクと予備系ディスクと
が切り離されるものではないと主張するが ,「独立のオペレーション」というよう
な場合の「独立」との用語が,アプリケーション・レベルから独立してという意味
で用いられることは周知であり,したがって,本件補正発明の相違点2に係る構成
が「独立のオペレーションとして」としたことに格別の意義はなく,上記主張は失
当である。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)に対し
原告は,引用例3記載の「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクと
して使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務」において,第1のデ
ータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシ
リティにデータセットのコピーを「確立」させるための,業務タスク5によるアプ
リケーションアクセスが,「第1のアプリケーションと第1のデータストレージフ
ァシリティのデータとの間のオペレーション」と「同時且つ独立して」行われるも
のではなく,また,引用例3記載の「各タスクは,アクセス対象のディスクがどれ
なのかをプログラム上で意識する必要はない」ことが,第1のアプリケーションと
第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーション」と「独立
して」行われるものでもないと主張する。
しかしながら,本件補正発明の相違点3に係る「オペレーションと独立」との規
定に格別の意義がないことは上記3の場合と同様であるから,上記主張は理由がな
い。
5 取消事由5(拒絶理由通知の懈怠)に対し
原告は,審決が引用例2によって認定した技術事項が周知技術といえるようなも
のではないことを前提として,引用例2を含む拒絶の理由につき,拒絶理由通知を
懈怠した違法があると主張するが,審決が ,相違点2についての認定判断において ,
「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されているデ
ィスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行う」
という周知技術を示すために,引用例2を挙示したものであることは,上記3のと
おりであるから,原告の主張は前提を欠くものであって,失当である。
6 取消事由6(忌避事由を有する審判官の審決関与)に対し
原告は,審決の構成審判官の1人であるM審判官が,本件特許出願に係る情報提
供者の案件を多く手がけている弁理士が所属する弁理士事務所に入所予定であった
として,M審判官につき忌避事由が存在すると主張するが,原告主張の上記事実の
みでは忌避の原因となるべき,審判官と具体的事件との間に客観的に公正な審判を
期待し得ないような,人的,物的に特殊な関係がある場合には当たらない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 本件補正発明の「同時で並列に 」「同時且つ独立して」等の意義
,
原告の「引用発明1の認定の誤り」の主張は,本件補正発明における「同時で並
列に」「同時且つ独立して」等の意義が,原告主張のとおりであることを前提とす
,
るので,まず,この点から判断する。
本件補正発明における「同時で並列に」(要件 B))「独立のオペレーションとし
,
て」(要件 C)の i))「並行に 」
, (要件 C)の ii))「同時且つ独立して」
, (要件 D))
の各用語の意義について直接定義ないし説明した箇所は,本願明細書に見当たらな
い。
そうであれば,これらの用語は,通常の技術用語としての意義を有するものとし
た場合に,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記述と矛盾しなければ,そのよ
うな意義を有するものとして理解すべきものであるから,以下,この点について検
討する。
ア 「同時で並列に」(要件 B))について
(ア) 原告が引用する「情報処理用語大事典」には,複数の情報処理に係る「並
列」に関連する用語として,「並列操作(parallel operation)」につき「複数個の作業
および操作を同時に行うこと。」との,また,「並列処理(parallel processing)」につ
き 演算や処理の高速化のためひと続きの処理を分割し同時に並列に処理すること。
「
計算機の高速処理技術の一つであり,これには命令やデータの並列処理,プログラ
ムや演算の多重化なども含み,パイプライン方式,アレイプロセッサ,多重演算な
どの実際的手法がある。」との説明が付されている(甲第29号証の6)。そうする
と,「並列」の意義中には,すでに「同時」の概念が含まれており,また ,「並列」
処理には, 多重化」や「多重演算 」も含まれているということができる。さらに,
「
「情報処理用語大事典」の「同時処理(concurrent processing)」の項目は,「並行処
理」と同義としており(同号証の4)「並行処理(concurrent processing)」について
,
は「複数の処理を同時に行う形態。特定の計算機では複数のレジスタをもつアーキ
テクチャによって同時に二つ以上の命令を実行できる。多重処理を含めていうこと
もある。」との説明が付されているから(同号証の6) 「同時」処理も多重化処理
,
を含むものということができる。したがって,「並列」や「同時」という用語は,
通常の技術用語としては,多重化処理のように,複数の処理を時間区分に分割して
行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間
間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されている場合を含むものと認められ
る。
(イ) 他方,本件補正発明の要旨の要件 B)は,「第1のアプリケーションと第1
のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーション」と,第2のデ
ータストレージファシリティが「第1のデータストレージファシリティからデータ
を受け」る処理とが ,「同時で並列に」なされていることを規定するものであると
ころ,この「同時で並列に」との規定が,複数の処理を時間区分に分割して行い,
ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔を
とれば複数の処理実体が同時に処理されているような場合を含むと理解しても,矛
盾なく理解し得るものである。
(ウ) 原告は,上記「同時で並列に」との規定が,原告主張のとおりの意義を有
するとする根拠として,本願明細書の発明の詳細な説明の記載 上記第3の1の(2)
(
のイの(ア)のa∼c)を挙げるが,原告挙示の各記載は,各オペレーション(処理)
が「同時で並列に」なされるための具体的な技術手段の記載を含むものではなく,
複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみ
が処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されて
いるような場合を含むと理解しても,矛盾なく理解し得ることに変わりはない。
(エ) そうすると,「同時で並列に」(要件 B))の意義については,複数の処理
を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理され
ているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されているという
意義を含むものとして理解するのが相当である。原告は,多重化処理を排斥すると
主張するが,そのように解さなければならない根拠はない。
イ 「同時且つ独立して」(要件 D))について
(ア) 「情報処理用語大事典」の「同時処理(並行処理)」の項目が,多重化処
理を含むものとしていることは ,上記アの(ア)のとおりである。また,同事典には,
複数の情報処理に係る「独立」に関連する用語として,「独立ユーティリティプロ
グラム」につき「主に直接アクセスボリュームの初期設定や,オペレーティングシ
ステム運用の準備に使われるプログラム。オペレーティングシステム( OS)とは
完全に独立して動作し,各種のサービスプログラムによって構成される。」との説
明が付され(甲第29号証の5 ),この場合には,各種のサービスプログラム(ア
プリケーションプログラムの一種ということができる。)がオペレーションシステ
ムとは独立して動作するという意味合いで 独立」
「 の語が用いられている。そして ,
多重化処理のように,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれ
か一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実
体が同時に処理されているような場合は,アプリケーションプログラムからみれば
複数の処理が同時に行われているといえるから,他の処理とは「独立に」実行され
ているということができる。したがって,「独立」や「同時」という用語は,通常
の技術用語としては,多重化処理のように,複数の処理を時間区分に分割して行い ,
ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔を
とれば複数の処理実体が同時に処理されている場合を含むものと認められる。
(イ) 他方,本件補正発明の要旨の要件 D)は,「前記確立させ,切断させ,終了
させる各オペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータス
トレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じ
る」と規定するところ,この「確立させ」は,要件 B)の「第1の( ESTABLISH)
コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第
2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ」ることを,
「切断させ」は,要件 C)i)の「第1のアプリケーションに応答して,独立のオペ
レーションとして,第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレー
ジファシリティから切断」することを, 終了させ」は,要件 D)に含まれている「第
「
3の( ESTABLISH, REESTABLISH, RESTORE, INCREMENTAL, RESTORE(2
76))コマンドに応答して,第2のコマンドに応答するオペレーションを終了さ
せ」ることを,それぞれ指しており,これらの各オペレーションのアクセスが, 第
「
1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオ
ペレーションと同時且つ独立して生じる」という趣旨であると解される。そうであ
れば,この「同時且つ独立して」との規定は,複数の処理を時間区分に分割して行
い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間
隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されているような場合を含むと理解して
も,上記「前記確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションのアクセスが,
第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間の
オペレーションと同時且つ独立して生じる」との規定は,矛盾なく理解し得るもの
である。
(ウ) 原告は,上記「同時且つ独立して」との規定が,原告主張のとおりの意義
を有するとする根拠として,本願明細書の発明の詳細な説明の記載(上記第3の1
の( 2)のイの(ウ))を挙げるが,原告挙示の記載は,各オペレーション(処理)が
「同時且つ独立して」なされるための具体的な技術手段の記載を含むものではなく,
複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみ
が処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されて
いるような場合を含むと理解しても,矛盾なく理解し得ることに変わりはない。
なお,少なくとも「切断させ」(要件 C)i)る処理の際には,本件補正発明におい
て,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体
のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理さ
れているような態様の処理がなされているものと認められることは,後記ウの(ウ)
のとおりである。
(エ) そうすると,「同時且つ独立して」(要件 D))の意義については,複数の
処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理
されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されていると
いう意義を含むものとして理解するのが相当である。原告は,多重化処理を排斥す
ると主張するが,そのように解さなければならない根拠はない。
ウ 「独立のオペレーションとして」(要件 C)の i))について
(ア) 「独立」という用語が,通常の技術用語としては,多重化処理のように,
複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみ
が処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されて
いる場合を含むものと認めることができることは,上記イの(ア)のとおりである。
(イ) 本件補正発明の要旨の要件 C)i)は, 第1のアプリケーションに応答して,
「
独立のオペレーションとして,第2のデータストレージファシリティを第1のデー
タストレージファシリティから切断し」とするが,この規定は ,「第1のアプリケ
ーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーショ
ン」から「独立のオペレーションとして」なされるとの趣旨であると解されること
は,上記イの(イ)のとおりであり(もっとも,「第1のアプリケーションに応答し
て」の部分の技術的意義が明確ではなく,容易想到性の判断は,この部分を除外し
て行わざるを得ないことは,後記3の( 2)のとおりである 。 ,そうであれば ,
) 「独
立のオペレーションとして」との規定は,複数の処理を時間区分に分割して行い,
ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔を
とれば複数の処理実体が同時に処理されているような場合を含むと理解しても,矛
盾なく理解し得るものであることも,上記イの(イ)と同様である。
(ウ) 原告は,上記「独立のオペレーションとして」との規定が,原告主張のと
おりの意義を有するとする根拠として,本願明細書の発明の詳細な説明の記載(上
記第3の1の( 2)のイの(イ))を挙げるが,原告挙示の記載は,各オペレーション
が「独立のオペレーションとして」なされるための具体的な技術手段の記載を含む
ものではなく,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つ
の処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同
時に処理されているような場合を含むと理解しても,矛盾なく理解し得ることに変
わりはない。
のみならず,本願明細書には,原告が引用する「図14に示したようにこの手続
は・・・動作不可能(NR)状態に置く事により切断される。 (35頁26行∼3
」
6頁14行)との記載中に,「ステップ255において,BCV 装置226のための
装置コントローラは SPLIT コマンド又はリクエストを受け入れる。M1及びM2
ミラー装置224及び225は SPLIT コマンドへの応答中,いかなるアクティビ
ティーをも阻止する。これは,SPLIT コマンドへの応答の処理中,他のホストから
装置へ転記される新たな書き込みを阻止する。 36頁5∼9行)
」
( との記載があり ,
図11を参照すると,この記載は,SPLIT コマンド(第2のコマンド)が発行され
た場合には,これに応答した処理が終了するまで,M1及びM2ミラー装置224
及び225(第1のデータストレージファシリティ)に対するすべての書込み(し
たがって,第1のアプリケーションからの書込みも)中断されるということである
から,要件 C)i)の「切断」の際に,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが
処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されてい
るという態様の処理がなされていることを示唆するものというべきである。
(エ) そうすると,「独立のオペレーションとして 」(要件 C)i))の意義につい
ては,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実
体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理
されているという意義を含むものとして理解するのが相当である。原告は,多重化
処理を排斥すると主張するが,そのように解さなければならない根拠はない。
エ 上記ア∼ウのとおり,少なくとも,「同時で並列に」(要件 B)) 「独立のオ
,
ペレーションとして」(要件 C)の i))「同時且つ独立して」
, (要件 D))の各用語の
意義は,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理
実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処
理されているという意義を含むものとして理解することができるものである。
(2) 引用発明1の認定について
原告は,審決の引用発明1についての「 A)プライマリデバイスに対応するよう
にセカンダリデバイスを構成し, B)セカンダリデバイスをプライマリデバイスと
並列に接続することにより,アプリケーション・レベルのホスト・プログラミング
と無関係に,領域上の2つの同一のコピーを維持(する)」との認定中, 無関係に 」
「
との文言は,本件補正発明の要件 B)に係る「同時で並列に」と同義のものとして
用いられているが,引用発明1においては,ホスト・プログラムとプライマリデバ
イスとの間のオペレーションは,プライマリデバイスからセカンダリデバイスへの
コピー処理がなされている間は中断されるものであるから,各オペレーションが,
「互いに干渉しないように」「単独で」「完全に独立して 」「同時」かつ「並行」
, , ,
に行われるという意味である,本件補正発明の「同時で並列に」と同一の意味で,
ホスト・プログラムと「無関係に」コピー処理が行われるものではなく,上記審決
の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,引用例1には, ホスト・プログラムがデュアルコピーを設定し,
「
2つの DASD を『デュプレックス・ペア』として認識した場合,3990 モデル 3 は
アプリケーション・レベルのホスト・プログラミングと無関係に,あるボリューム
の2組の全く同一のコピーを保持します 。(翻訳文1頁9∼12行,なお,審決5
」
頁6∼9行は,多少訳文の字句を異にするものの,この記載を引用例1の記載事項
として認定している 。)との記載があり,審決の引用発明1に係る「無関係に」と
の部分の認定は,この記載によるものと認められる。そして,たとえ,この「無関
係に」との文言が,本件補正発明の要件 B)に係る「同時で並列に」と同義のもの
として用いられており,かつ,引用発明1においては,ホスト・プログラムとプラ
イマリデバイスとの間のオペレーションは,プライマリデバイスからセカンダリデ
バイスへのコピー処理がなされている間は中断されるものであるとしても,本件補
正発明の要件 B)に係る「同時で並列に」の要件が,複数の処理を時間区分に分割
して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の
時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されているという意義を含むものと
解されることは,上記( 1)のとおりであるから,引用発明1において,本件補正発
明の「同時で並列に」と同一の意味で,ホスト・プログラムと「無関係に」コピー
処理が行われるものではないとする原告主張を採用することはできず,したがって,
審決の引用発明1の認定に原告主張の誤りはない。
(3) 「一致点の認定の誤り1」について
原告の「一致点の認定の誤り1」に関する主張は,審決の引用発明1の認定に原
告主張の誤りがあることを前提とするものであるところ,その前提を欠くことは,
上記(2)のとおりであるから,原告の主張を採用することはできない。
(4) 「一致点の認定の誤り2」について
本件補正発明と引用発明1とが「C)第2のコマンドに応答して,i)第2のデー
タストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し,第
2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ」る
点で一致するとした審決の認定に関し,原告は,本件補正発明においては,第2の
コマンド(SPLIT)に応答して,メモリミラーファンクションを終了させた後,第
2のデータストレージファシリティは,デュプレックス状態を終了させて,第2の
アプリケーション用に使用できるものであるのに対し,引用発明1は,デュプレッ
クス・ペアを構成する第1及び第2のデータストレージファシリティのいずれか一
方が故障した場合にのみ,かつ,第2のデータストレージファシリティのメモリミ
ラーファンクションとは無関係に(すなわち,デュプレックスペンディング状態に
ある場合にも)第2のコマンド(サスペンディドデュプレックスに変更する要求)
が発行され,これに応答して,故障したデータストレージファシリティと正常なデ
ータストレージファシリティとをデュプレックス・サスペンディド状態にするもの
であるから,引用発明1の第2のコマンド(サスペンディドデュプレックスに変更
する要求)は本件補正発明の第2のコマンド(SPLIT)に相当するものではなく,
審決の上記一致点の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,本願明細書には,第2のコマンド( SPLIT)に応答するオペレー
ションを終了させる第3のコマンドの一つである「 RESTORE」コマンドに関し,
「RESTORE コマンドはミラーデバイス224及び225に対する BCV デバイス
226のデータを全て復元する。障害がM1及びM2ミラーデバイス224及び2
25で発生するならば,このプロシージャは有用であり, BCV デバイス226は
有効なコピーを有する。例えば,ボリュームBアプリケーション222がバックア
ップオペレーションであるならば,データは BCV デバイスにおいて変化しない。
M1及びM2ミラーデバイス224及び225の両方におけるデータセットが無効
であるように,ディスク障害又はファイル破損イベントが生じるならば,RESTORE
コマンドが,BCV デバイス226からの以前の SPLIT コマンドの当時存在してい
たバージョンのM1及びM2ミラーデバイス224及び225におけるデータを復
元する。 (42頁9∼18行)との記載があり,図11を参照すると,
」 「M1及び
M2ミラーデバイス224及び225」は ,「第1のデータストレージファシリテ
ィ」に相当するから,上記記載により,本件補正発明において,第3のコマンドの
前提となる第2のコマンド(SPLIT)が,第1のデータストレージファシリティが
故障した場合にも発行されることが認められる。また,引用発明1の第2のコマン
ド(サスペンディドデュプレックスに変更する要求)が,デュプレックス状態にお
いて発行されることがあることも明らかである。そうすると,引用発明1の第2の
コマンド(サスペンディドデュプレックスに変更する要求)は本件補正発明の第2
のコマンド( SPLIT)に相当するものではないとする原告の主張を採用することは
できず,したがって,審決の上記一致点の認定に原告主張の誤りはない。
(5) 「一致点の認定の誤り3」について
本件補正発明と引用発明1とが,「第3のコマンドに応答して,第2のコマンド
に応答するオペレーションを終了させる,ステップを有するアクセスを制御する方
法」である点で一致するとした審決の認定に関し,原告は,本件補正発明において
は,第3の ESTABLISH,
( REESTABLISH,RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE)
コマンドに応答して ,「第2のコマンドに応答するオペレーション」を終了させ,
その終了のオペレーションのアクセスが第1のアプリケーションと第1のデータス
トレージファシリティのデータとの間のオペレーションと「同時かつ独立して 」,
すなわち,「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」か
, , ,
つ「並行」に,生じるものであるのに対し,引用発明1の第3のコマンド(デュプ
レックス・ペアの開始の命令。第1のコマンドと同じ。)は,第1のデータストレ
ージファシリティと第2のデータストレージファシリティとの間のミラーリングコ
ピーを実行するもので,「第2のコマンドに応答するオペレーション」を終了させ
るものではなく,かつ,ホスト・プログラム(第1のアプリケーション)とプライ
マリデバイス 第1のデータストレージファシリティ )
( との間のオペレーションと,
プライマリデバイスからセカンダリデバイス(第2のデータストレージファシリテ
ィ)へのコピー処理とは,「同時かつ独立して」,行われるものではないから,審決
の上記一致点の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,本件補正発明においても,第1のコマンドと同一である
「 ESTABLISH」コマンドが第3のコマンドの一つでもあるから , ESTABLISH」
「
コマンドに応答してなされる,第1のデータストレージファシリティと第2のデー
タストレージファシリティとの間のミラーリングコピーの確立は,「第2のコマン
ドに応答するオペレーション」を終了させるものとされていることが明らかであり,
かつ,引用発明1の「デュプレックス・ペアの開始の命令」に応答して行われるホ
スト・プログラムとプライマリデバイスとの間のオペレーションと,プライマリデ
バイスからセカンダリデバイスへのコピー処理とが,
「同時かつ独立して」,行われ
るものではないとの原告主張が失当であることは,上記(2),(3)のとおりであるか
ら,引用発明1の「デュプレックス・ペアの開始の命令」は本件補正発明の第3の
コマンドに相当するものであり,審決の上記一致点の認定に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
原告は,審決が,相違点1についての判断において,「複数のデータストレージ
に同一のデータを保持するものにおいて,第2のデータストレージファシリティが
アプリケーションが書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティから
アプリケーションの動作と同時で並列にデータを受けるよう構成することは,慣用
の技術にすぎない」と認定した点に関し,本件補正発明の要件 B)に係る「同時で
並列に」とは,第1のデータストレージファシリティから第2のデータストレージ
ファシリティへのデータセットのミラーリングコピーを確立させるオペレーション
と,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの
間のオペレーションとが,「互いに干渉しないように」 「単独で 」 「完全に独立し
, ,
て」「同時」かつ「並行」に行われることを意味するものであるところ,周知例と
,
して審決が挙示した特開平7−244597号公報及び特開平7−262070号
公報にも,本訴において被告が挙示する特開昭55−34756号公報(乙第1号
証)及び特表平8−509565号公報(乙第2号証)にも,第1のアプリケーシ
ョンと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと
「同時で並列に」第2データストレージファシリティが第1のデータストレージフ
ァシリティからデータを受けることは記載されていないから,審決の上記慣用技術
の認定は誤りであり,これを前提とする相違点1についての判断も誤りであると主
張する。
しかしながら,本件補正発明の要件 B)に係る「同時で並列に」との規定が,複
数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが
処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されてい
るという意義を含むものと解されることは,上記1の(1)のとおりである。
そして,特開平7−244597号公報(甲第12号証)には,直接アクセス記
憶装置( DASD)データのリアルタイム遠隔コピーのためのシステムに関し ,「遠
隔データの二重化は,同期と非同期の2つの一般的なカテゴリに分けられる。同期
遠隔コピーでは,一次データを二次側に送り,一次 DASD の入出力操作を終了す
る(一次ホストにチャネル終了(CE)と装置終了(DE)を出力する)前にこのよ
うなデータの受取りを確認する必要がある。このため,同期コピーでは,二次側の
確認を待っている間に,一次 DASD の入出力応答時間が遅くなる。(段落【0017】
」 ,
なお,この部分は,従来技術の指摘という趣旨で記載されている。)との記載があ
り,また,特開平7−262070号公報(甲第13号証)には,従来技術に関し ,
「実時間遠隔データ2重化システムは,更新シーケンスの保全性を2次または遠隔
DASD データ・コピーとして保証する特定の手段を必要とする。これを達成する1
つの方法では,DASD サブシステムを制御する同期システムを提供する。こうした
システムでは,1次 DASD 書込みオペレーションは,そのデータのコピーが2次
位置において確認されるまで,実行されない。こうした同期システムの問題は,2
重化システムの全体的なオペレーションを低速化することである。(段落【0003】
」 )
との記載がある。そうすると,これらの発明は,1次側(第1のデータストレージ
ファシリティ)から2次側(第2のデータストレージファシリティ)へのデータの
コピーが終了(確認)されるまで,1次側データへの書込み等のオペレーションが
中断されるというものではあっても,データのコピーが終了すれば,1次側データ
へのオペレーションは再開される(したがって,全体としての1次側データへのオ
ペレーションの間に,2次側が1次側のデータのコピーを受ける)構成といえるの
であるから,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの
処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時
に処理されているということができるものである。そして,これらの発明が,上記
各刊行物において従来技術として記載されていることにかんがみれば,このような
技術が,本件特許出願に係る優先権主張日(平成8年5月31日)において,慣用
技術であったものと認めることができる。
そうすると,本訴において被告が挙示する特開昭55−34756号公報(乙第
1号証)及び特表平8−509565号公報(乙第2号証)について検討するまで
もなく,審決が ,「複数のデータストレージに同一のデータを保持するものにおい
て,第2のデータストレージファシリティがアプリケーションが書き込み対象とす
る第1のデータストレージファシリティからアプリケーションの動作と同時で並列
にデータを受けるよう構成することは,慣用の技術にすぎない」と認定したことに
原告主張の誤りはなく,したがって,この認定を前提とする相違点1についての判
断にも誤りはない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 引用例1には,引用発明において,第2のコマンド(サスペンディドデュ
プレックスに変更する要求)が発行される場合として,デュプレックス・ペアを構
成するプライマリデバイス及びセカンダリデバイスのいずれか一方が故障した場合
のみが記載されているところ(翻訳文3頁14行∼4頁2行),原告は,セカンダ
リデバイスが故障した場合には,その使用は停止されるから,審決の相違点2の認
定のうち,「二つのデバイスが切り離されている状態においては,セカンダリデバ
イスは直接アドレス可能である」とする部分は誤りであると主張する。
しかしながら,引用例1の上記記載によれば,引用発明1において,第2のコマ
ンドが発行される場合として,プライマリデバイスが故障した場合を含むことが認
められ,この場合には,セカンダリデバイスは直接アドレス可能であることは明ら
かであり(引用例1には,故障したデバイスは,必ずセカンダリデバイスになると
か,故障したのがプライマリデバイスである場合,プライマリデバイスとセカンダ
リデバイスとが交代するという趣旨の記載があるが(翻訳文4頁3∼5行,5頁2
3∼24行 ),これは,ホスト・システムが機能するデバイスをプライマリデバイ
スとするということを前提にして,故障しなかったデバイスをプライマリデバイス ,
故障したデバイスをセカンダリデバイスと認識し,ホスト・システムが故障しなか
ったデバイスとの間で機能するという趣旨であるから 翻訳文4頁12∼15行)
( ,
プライマリデバイスが故障した場合には,ホスト・システムは,従前のセカンダリ
デバイスに対しアクセスすることを意味するものである。なお,審決は,「第2の
アプリケーションを利用するために,デバイス(セカンダリデバイス)を接続する
こと」は相違点として認定している。,上記主張を採用することはできない。
)
(2) 原告は,相違点2についての判断において審決がした「ディスク装置が二
重化された計算機システムにおいて,通常二重化されているディスク装置を切り離
した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行うことは,例えば引用例
2に記載されているように周知技術と認められる」との認定に関し,審決が,相違
点2について「引用発明1において,相違点2に係る本件補正発明のように構成す
ることは,当業者が適宜なし得た」と判断したことの理由とされているのは,上記
のような抽象的な技術事項ではなく,引用例2に基づいて認定したより具体的なバ
ックアッププロセスであり,この具体的なバックアッププロセスが,上記優先権主
張日において周知技術であったと認定することはできないから,審決の上記認定判
断は,誤って周知技術と認定した技術事項に基づく点において誤りであると主張す
る。そして,原告が,審決の相違点2についての判断において理由とされたのが,
上記「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されてい
るディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行
うこと」ではなく,より具体的なバックアッププロセスであるとするのは,審決の
「引用例2・・・には,『片系閉塞指示』として,業務プロセスに応答して,運用
管理プロセスがメモリミラーファンクションを終了させ,その後,業務プロセスが
正系ディスクに対して業務処理を行うのと平行して,切り離された予備系ディスク
装置に対して,バックアッププロセス104がアクセスを行うことが記載されてい
る。 引用例2の,『片系閉塞指示』は,本件補正発明の,『第2の(SPLIT)コマ
ンド』に相当するものであり,引用例2の『業務プロセス』『運用管理プロセス』
,
は,それぞれ,本件補正発明の『第1のアプリケーション 』『独立のオペレーショ
ン』に対応させることができ,二重化されているディスク装置を切り離すことはバ
ックアッププロセスを利用するために行われるから,相違点1における第2のデー
タストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とす
るために第2のストレージファシリティを再接続させることに相当する。 したが
って,前記相違点2に相当する事項は,引用例2に記載されるような周知技術のバ
ックアッププロセスと比較して異なるものと認めることはできず」との説示を根拠
とするものであると解される。
しかしながら,引用発明1に係る相違点2に関する事項は,「ミラーファンクシ
ョンを終了させるコマンドが,第1のアプリケーションに応答して,独立のオペレ
ーションとして与えられること」が示されていないことと ,「二つのデバイスが切
り離されている状態において,第2のアプリケーションを利用するために,デバイ
ス(セカンダリデバイスを指す 。)を接続すること」が示されていないことの2点
である。そして ,「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二
重化されているディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の
処理動作を行うこと」が周知技術であるとすれば,この技術は,通常業務プロセス
を第1のアプリケーションとした場合に,第2のアプリケーションに相当する「バ
ックアッププロセス等」が,2次側の記憶装置を対象として処理を行うという趣旨
であるから(そうでなければ,通常二重化されているディスク装置を切り離した状
態にする意味がなくなる。このような意味で,「ディスク装置が二重化された計算
機システムにおいて,通常二重化されているディスク装置を切り離した状態にして ,
バックアッププロセス等の処理動作を行うこと」が周知技術であると認められるこ
とは後記のとおりである。,
) 引用発明1に上記周知技術を適用することにより, 二
「
つのデバイスが切り離されている状態において,第2のアプリケーションを利用す
るために,デバイス(セカンダリデバイス)を接続する」構成を,容易に得られる
ことが認められる。
これに対し,「ミラーファンクションを終了させるコマンドが,第1のアプリケ
ーションに応答して,独立のオペレーションとして与えられることが示されている
こと」は,上記周知技術と直接関係する技術事項ではない。しかしながら ,「ミラ
ーファンクションを終了させるコマンドが,第1のアプリケーションに応答して,
独立のオペレーションとして与えられる」ということのうちの(すなわち,本件補
正発明の要旨の「C) 第2の(SPLIT)コマンドに応答して, i)第1のアプリケー
ションに応答して,独立のオペレーションとして,第2のデータストレージファシ
リティを第1のデータストレージファシリティから切断し」との規定のうちの ),
「第1のアプリケーションに応答して, の技術的意義は ,そもそも明確ではなく,
」
相違点2に関する容易想到性の判断は,この部分を除外して行わざるを得ない(ち
なみに,本件補正発明に対応する発明が記載された米国特許公報(甲第4号証)の
当該箇所は, C)in response to a second command: i) detaching the second data storage
「
facility from the first data storage facility independently of operations in response to the
first application・・・」
(31欄15∼19行)とされており,これは「C) 第2の
コマンドに応答して: i)第1のアプリケーションに応答するオペレーションから独
立して,第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリ
ティから切断し」ということであるから,その趣旨は明確である。。そうすると,
)
残るのは「独立のオペレーションとして」という部分であるが,上記1の( 1)のと
おり,本件補正発明のこの規定は,「第1のアプリケーションと第1のデータスト
レージファシリティのデータとの間のオペレーション」から「独立のオペレーショ
ンとして」なされるとの趣旨であって,「独立のオペレーションとして」なされる
とは,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの処理実
体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理
されているという意義を含むものとして理解されるのであり,結局 ,「第1のアプ
リケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーシ
ョン」と「第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシ
リティから切断するオペレーション」とが,これら複数の処理を時間区分に分割し
て行い,ある時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時
間間隔をとれば複数の処理実体が同時に処理されているという場合を含んでいると
いうことであるところ,上記の「独立のオペレーションとして」の意義は ,「情報
処理用語大事典 」(甲第29号証の1∼6。同書が,本件特許出願に係る優先権主
張日(平成8年5月31日)前である平成4年11月25日に発刊された,本件補
正発明の技術分野と同一又は近接する技術分野における一般的な辞典であること
は,原告が自認するところである。)に掲記された説明に基づくものであるから,
「ミラーファンクションを終了させるコマンド」が,このような意味で「独立のオ
ペレーションとして」与えられる技術も,本件特許出願に係る優先権主張日の当時,
周知技術であったというべきである。
したがって,本件補正発明の相違点2に係る構成は,引用発明1に上記各周知技
術を適用して,当業者が適宜なし得たものというべきであり,審決の認定判断は,
「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されているデ
ィスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行うこ
と」という周知技術による部分が,相違点2のうちの「二つのデバイスが切り離さ
れている状態において,第2のアプリケーションを利用するために,デバイスを接
続すること」のみである点を看過したもので,正確性を欠くものではあるが,審決
の結論に影響を及ぼす誤りがあるということはできない。なお,審決が,相違点2
についての判断において,「引用例2・・・には ,『片系閉塞指示』として,業務プ
ロセスに応答して,運用管理プロセスがメモリミラーファンクションを終了させ,
その後,業務プロセスが正系ディスクに対して業務処理を行うのと平行して,切り
離された予備系ディスク装置に対して,バックアッププロセス104がアクセスを
行うことが記載されている。 引用例2の, 片系閉塞指示』は,本件補正発明の ,
『
『第2の(SPLIT)コマンド』に相当するものであり ,引用例2の『業務プロセス』,
『運用管理プロセス』は,それぞれ,本件補正発明の『第1のアプリケーション』
『独立のオペレーション』に対応させることができ,二重化されているディスク装
置を切り離すことはバックアッププロセスを利用するために行われるから,相違点
1における第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケー
ションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させること
に相当する 。」との説示を行ったのは,周知例として挙げた引用例2記載の技術を
例にとり,本件補正発明の相違点2に係る構成が,引用発明1に周知技術を適用し
て得られるとの論理過程を説明しようとする意図によるものであると認められ,上
記の説示がなされたからといって,審決が,引用例2に基づいて認定したより具体
的なバックアッププロセスに基づいて,「引用発明1において,相違点2に係る本
件補正発明のように構成することは,当業者が適宜なし得た」ものと判断したとい
うことはできない。
そこで,翻って,「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常
二重化されているディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等
の処理動作を行うこと」(通常業務プロセスを第1のアプリケーションとした場合
に,第2のアプリケーションに相当する「バックアッププロセス等」が,2次側の
記憶装置を対象として処理を行うという趣旨を含む 。)が,周知技術といえるかど
うかについて,検討する。
まず,引用例2には,従来技術として,「オンラインシステムのような24時間
連続運用するシステムにおいては,ファイル保護の信頼性向上を目的としてディス
ク装置を多重化,例えば,二重化して運用される。このように,ディスク装置が二
重化された計算機システムに関して,バックアップ処理中は図5に示すように,片
系のディスク装置を業務処理から切離し,一方の系で運用することにより,切り離
されたディスク装置のバックアップを行なう方法がある 。 (段落【 0004】 ,
」 ) 「図5
において,バックアップ処理を行うときは,運用管理プロセス101は,副系ディ
スク装置92を業務処理から切り離すために,業務プロセス102に業務処理を一
時中断させる。そのために,業務プロセス102に中断要求を出す。業務プロセス
102は,業務処理の適当な区切りにおいて処理を中断し,中断したことを運用管
理プロセス101に中断要求に対する応答として返す。該応答を運用管理プロセス
101が受け取ると,運用管理プロセス101は,片系閉塞指示を2重化ディスク
ドライバ105に送り,副系ディスク装置92を業務処理から切り離す。運用管理
プロセス101は,その後業務プロセス102に再開を指示する。以後は,2重化
ディスクドライバ105とディスクドライバ107との間の,点線の矢印で示すや
り取りは行われない。次に運用管理プロセス101はバックアッププロセス104
にバックアップ処理の起動を指示する。バックアッププロセス104は,ディスク
ドライバ107と MT(磁気テープ装置)ドライバ8とを介して副系ディスク装置
92の内容を MT 94に転送する。バックアップ処理が終了後,運用管理プロセス
101は,業務プロセス102を一時中断させて,副系ディスク装置を2重化ディ
スクドライバ105の管理下に戻させる 。 (段落【 0005】
」 )との各記載がある。ま
た,1995年(平成7年)8月1日発行の渡辺榮一他著「 OLTP システム−オン
ライントランザクション処理−」(乙第4号証)には,「オペレータは, RDF が予
備データベースを凍結するように要求できる。 RDF は,データベースに更新を適
用することを止め,一貫性のある 部分的なトランザクションがない)
( 状態にする。
そのようにした後で,予備データベースを使って報告書を作成すればよい。この間 ,
トランザクションは,主データベースに基づいて実行されるが,予備データベース
は静止したままである。報告書の作成が完了すると,オペレータは,RDF が予備
データベースの更新を再開するように指示できる。 予備データベースが凍結され
ていた間も,災害予防策は依然として機能している。ジャーナルレコードが主シス
テム上でつくられるとともに,RDF はそれを予備システムヘコピーし続けるが,
更新の適用を遅らせる。 (88頁12∼20行)との記載があり,
」 「日経エレクト
ロニクス」609号(平成6年6月6日発行)所収の中村正弘による「複製ファイ
ルの非同期更新が分散データベースの中心技術に−2相コミットの代替手段として
浮上−」と題する解説記事(乙第5号証)中には,「複製という言葉からわかるよ
うに,レプリケーション手法は複数のコンピュータに同じ内容のデータベースを重
複してもつ環境で利用する。マスタのデータベースが更新されたときに,ネットワ
ークを介してレプリカも同じように書き換える 。 (101頁右欄1∼7行 ) 「レ
」 ,
プリカの更新は非同期で実行する。ここが重要である。つまりマスタの更新と,レ
プリカの書き換えには時間的なズレが生じる。システム全体でみると,データ内容
の整合性が一時的にとれていない状況になる。これは理屈で言えば重大な欠陥だが,
現実の業務では多少のタイムラグは問題にならないことが多い。だれもが常に最新
のデータを必要としているわけではないからである。1分遅れ,30分遅れ,場合
によっては1日あるいは1ヵ月遅れで十分という業務も少なくない。(102頁左
」
欄2∼15行)「図6
, レプリケーション機能を2相コミット機能の代替手段とし
て利用する例 更新処理をする「主」ファイルと参照処理だけの「副」ファイルを
明確に分けたシステム形態を採る必要がある。 108頁の図6 )
」
( との記載がある 。
これらの記載には,ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二
重化されているディスク装置を切り離した状態にして,通常業務プロセス以外の バ
「
ックアッププロセス等」(引用例2の「バックアッププロセス 」,乙第4号証の「報
告書の作成」,乙第5号証の「参照処理」)が,2次側のディスク装置(引用例2の
「副系ディスク装置92」,乙第4号証の「予備データベース」(正確には,予備デ
ータベースが格納されている記憶装置) 乙第5号証の レプリカ 」 を対象として,
, 「 )
アクセスすることが開示されており,引用例2の上記記載が従来技術についてのも
のであること,乙第4,第5号証が一般的な解説書,雑誌であることを併せ考える
と,「ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて,通常二重化されてい
るディスク装置を切り離した状態にして,バックアッププロセス等の処理動作を行
うこと」(通常業務プロセスを第1のアプリケーションとした場合に,第2のアプ
リケーションに相当する「バックアッププロセス等」が,2次側の記憶装置を対象
として処理を行うという趣旨を含む 。)が,周知技術といい得るものであることが
認められる。
なお,原告は,本件補正発明の要件 C)i)の規定における「独立のオペレーショ
ンとして」の意義が「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」
, , ,
「同時」かつ「並行」に,実行されることを意味するものであると主張し,あるい
は,引用発明1では,デュプレックス・ペアを構成するプライマリデバイス及びセ
カンダリデバイスがデュプレックス・サスペンディド状態となった後は,セカンダ
リデバイスの使用は停止されるとして,審決の相違点2についての認定判断が誤り
であるとも主張するが,これらの主張を採用し得ないことは,すでに述べたとおり
である。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
原告は,相違点3について,引用例3(特開平5−233162号公報。甲第1
1号証)の「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用してい
るディスクA,Bに格納するオンライン業務中 」「データ退避の保守タスク6が起
,
動されると,業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用する」「業務
,
処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処
理することができる」「各タスクは,アクセス対象のディスクがどれなのかをプロ
,
グラム上で意識する必要はない」との各記載を,それぞれ,本件補正発明の 確立」
「 ,
「切断 」 「オペレーションと同時 」 「オペレーションと独立」に対応させること
, ,
ができ,本件補正発明の相違点3に係る構成(確立させ,切断させ,終了させる各
オペレーションのアクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータストレージ
ファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じること ) ,
は
引用例3に記載された技術であって,引用例1において,上記本件補正発明の相違
点3に係る構成とすることは,引用例3に記載された技術を付加するもので,当業
者が適宜なし得たものとした審決の判断が誤りであると主張する。
しかるところ,引用例3には ,「本発明は,多重化された補助記憶装置を備える
無停止型計算機システムに係り」(段落【 0001】,
)「2重化ディスク装置3は,ディ
スクA12およびB13を2重化ディスク装置として制御する2重化ディスク制御
部11,ディスクA12,B13の現在の動作モードを保持するディスクモードテ
ーブル10を具備している 。 (段落【0018】 ,
」 ) 「本計算機システムはこのように構
成されているので,業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用
しているディスクA,Bに格納するオンライン業務中に,データ退避の保守タスク
6が起動されると,業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用するこ
とにより,業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデー
タ退避を並列処理することができる 。 (段落【 0019】 ,
」 ) 「このように本実施例にお
けるシステムは,中央処理装置1が業務タスク5と保守タスク6を並列処理するマ
ルチタスク機能を具備している。マルチタスク機能は中央処理装置1がひとつの計
算機システムでは,複数のタスクの時分割処理によって実行される,一方,中央処
理装置1が複数のマルチプロセッサシステムにおいては各タスクのディスクへのア
クセスは,各プロッセッサ共通の OS によってシリアライズされる。このようにマ
ルチタスク機能によれば,プロッセッサが1でも複数でもアクセスされるディスク
はそれを意識する必要はない。 (段落【 0020】 ,
」 ) 「業務タスク5と保守タスク6に
は各々がアクセス可能なディスク装置の動作モードを示す業務属性あるいは保守属
性を異なるデータパターンで,たとえば図2のように00と11のパターンのよう
にテーブル7上で付与する。また,2重化ディスク装置3の各ディスクにもそれぞ
れ独立して設定し,変更可能な動作モード(業務モードまたは保守モード)を図3
のようにテーブル10上に設定する。2重化ディスク制御部11は,業務属性のタ
スク5からのアクセス要求を業務モードの設定されているディスクAに,保守属性
のタスク6からのアクセス要求を保守モードのディスクBに対処させる。つまり,
タスクの属性とディスクの動作モードのパターンマッチングにより,各タスクがア
クセスできるディスクが限定される。各ディスクの動作モードを動的に変更すれば ,
各タスクがアクセスできるディスクも動的に変更される。したがって各タスクは,
アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない。(段
」
落【 0021】 ,
) 「図4は,本システムにおける各タスクのアクセスと,2基のディス
クの動作遷移を示すフローチャートである。2重化ディスク装置3は,通常,両系
とも業務モードに設定されている。これによって,2重化ディスク制御部11は業
務タスク5からのアクセス要求があると,両系のディスク12,13に対して同様
にアクセスし,両系の記憶内容を同一に保っている(区間a )」 段落【0022】, 区
。( )「
間aの状態で,コンソール2などからデータ退避の割込みコマンドが投入されると
保守タスク6が起動され,本システムは業務タスク5と保守タスク6の並列処理を
開始する。まず,保守タスク6は保守モード設定要求を出し,この要求を受けた2
重化ディスク制御部11は2重系の片系,本例ではディスクBを保守モードに設定
変更する。この結果,ディスクBは業務タスク5からはアクセス不可能になり,デ
ータ更新を停止される。この間も,ディスクAは業務モードを保持しているので,
業務タスク5は業務モードのディスクAを用いて業務処理を継続する。ついで,保
守タスク6は2重化ディスク制御部11にデータ読出し要求を出す。データ退避タ
スク6は保守属性を持っているので,当タスクからの読出し要求は2重化ディスク
制御部12により,保守モードのディスクBにアクセスされる。ディスクBから読
出されたデータは磁気テープ装置4に書込まれる。全てのデータが読出されたとこ
ろで,保守タスク5は保守モード解除要求を制御部11に出力してデータ退避処理
を終了する(区間b)」
。(段落【 0023】,
)「データ退避作業が終了すると,制御部1
1は保守モードのディスクBを業務モードに再設定する。業務モードに復帰したデ
ィスクBは,退避処理の間,記憶内容が更新されていないので,ディスクAからハ
ードウェア的にコピーが行われ,両ディスクの内容の一致化が行われる(オンライ
ンコピー)。このオンラインコピーは,2重化ディスクの障害回復時等に従来から
行われているもので,オンラインコピーのタスクは業務タスク5の処理と並行して
行うことができる(区間c )。両系ディスクの一致化が終了すると,両ディスクは
本来の2重化ディスクに復帰し,業務タスク5はディスク12,13に対して同様
にアクセスする(区間d)」
。(段落【0024】)との各記載がある。
そして,これらの記載によれば,引用例3記載の計算機システムは,業務タスク
5によって処理データを2重化ディスクとして使用しているディスクA,Bに格納
するオンライン業務を行うもので(段落【0019】,2重化ディスク装置3は,通常,
)
両系とも業務モードに設定され,2重化ディスク制御部11は業務タスク5からの
アクセス要求があると,両系のディスク12,13に対して同様にアクセスし,両
系の記憶内容を同一に保っている(段落【 0022】)ことが認められるところ,この
ことは,本件補正発明の「確立させるオペレーション」が,第1のアプリケーショ
ン(業務タスク)と第1のデータストレージファシリティ(ディスクA又はディス
クB,あるいはディスク12又はディスク13)のデータとの間のオペレーション
と同時且つ独立して生じることに相当するものである。原告は ,「確立」させるた
めの,業務タスク5によるアプリケーションアクセスが,「第1のアプリケーショ
ンと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーション」にも
なっているから,両者が , 同時で並列に」 すなわち , 互いに干渉しないように 」
「 , 「 ,
「単独で 」 「完全に独立して 」 「同時」かつ「並行」に行われるものではなく,
, ,
本件補正発明の構成(要件 B))とは異なるものであると主張するが,本件補正発
明の「同時で並列に」との規定(要件 B)) 又は「同時且つ独立して」との規定(要
,
件 D))が,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある時点ではいずれか一つの
処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれば複数の処理実体が同時
に処理されているという意義を含むものと解されることは,上記1の( 1)のとおり
であり,これを「互いに干渉しないように 」 「単独で 」 「完全に独立して 」 「同
, , ,
時」かつ「並行」に行われるものに限定する理由はないから,上記主張を採用する
ことはできない。
また,引用例3記載の計算機システムは,データ退避の保守タスク6が起動され
ると,業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用することにより,業
務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列
処理することができる(段落【0019】 【 0023】
, )ことが認められるところ,このこ
とは,本件補正発明の「切断させるオペレーション」が,第1のアプリケーション
(業務タスク)と第1のデータストレージファシリティ(ディスクA又はディスク
B)のデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じることに相当するも
のである。
さらに,引用例3記載の計算機システムでは,データ退避処理が終了すると,業
務タスク5の処理と並行して行うことができるオンラインコピーによって,両ディ
スクの内容の一致化が行われ,その終了後,両ディスクは本来の2重化ディスクに
復帰するものであることが認められるところ,このことは,本件補正発明の「終了
させるオペレーション」が,第1のアプリケーション(業務タスク)と第1のデー
タストレージファシリティ(コピー元のディスク)のデータとの間のオペレーショ
ンと同時且つ独立して生じることに相当するものである。この場合も,「同時且つ
独立して」との規定(要件 D))が,複数の処理を時間区分に分割して行い,ある
時点ではいずれか一つの処理実体のみが処理されているが,一定の時間間隔をとれ
ば複数の処理実体が同時に処理されているという意義を含むものと解され,これを
「互いに干渉しないように」「単独で」「完全に独立して 」「同時」かつ「並行」
, , ,
に行われるものに限定する理由がないことは,上記1の(1)のとおりである。
したがって,審決の相違点3についての判断は,不正確な点もあるが,本件補正
発明の相違点3に係る構成(確立させ,切断させ,終了させる各オペレーションの
アクセスが,第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデ
ータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じること)が,引用例3に記載
された技術であり,引用例1において,上記本件補正発明の相違点3に係る構成と
することは,引用例3に記載された技術を付加するものであって当業者が適宜なし
得たものと判断した限りにおいて,誤りはない。
そうすると,その余の点(特開平7−121315号公報に記載された発明に関
する部分)について判断するまでもなく,原告の取消事由4(相違点3についての
判断の誤り)は失当である。
5 取消事由5(拒絶理由通知の懈怠)について
原告の主張は,審決が引用例2によって認定した技術事項が,実質上,周知技術
といえるようなものではないことを前提とするものであるが,この前提自体が誤り
であることは,上記3の(2)のとおりであるから,上記原告の主張を採用すること
もできない。
もっとも,平成16年5月21日付け前置報告書(甲第22号証)によれば,前
置審査に当たった審査官は,引用例2を,公知技術が記載された刊行物として把握
したことが認められるから,同審査官は,特許法163条2項で準用する50条に
より,原告に対し,引用例2を含む拒絶の理由を通知すべきところ,このような拒
絶理由通知がなされたとの主張立証はない。そうすると,同審査官による前置審査
手続には,上記条項に違背した違法があるといわざるを得ないが,審決は,引用例
2に記載された具体的な技術自体を公知技術としたものではないから,上記審査官
の違法は,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
6 取消事由6(忌避事由を有する審判官の審決関与)
原告は,本件特許出願に対し,Lが,引用例1,引用例3等の提出をすることに
より情報提供を行い,また,審決の構成審判官の1人であるM審判官が,審決後に
Lの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけている弁理士が所属する
弁理士事務所に入所したところ,その入所時期からみて,M審判官は,審決前に,
同事務所が上記情報提供者であるLと,上記のような密接な関係を有することを知
った上で,同事務所への入所を決定したはずであるとし,このような事実は,M審
判官についての忌避事由に当たり,審決は,忌避事由を有する審判官が関与した違
法があると主張する。
しかしながら,「審判官について審判の構成を妨げるべき事情があるとき」(特許
法141条1項)とは,審判官と審判事件との関係から見て,不公正な審判がなさ
れるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合をいうも
のである。そして,仮に,Lが主張の情報提供を行い,かつ,M審判官が,審決当
時,上記弁理士事務所にLの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけ
ている弁理士が所属することを知った上で,入所することを決めていたとしても,
情報提供は,特許法施行規則13条の2に根拠を有し,何人においてもすることの
できる手続であること,M審判官が上記弁理士事務所に入所することを決めたから
といって,同審判官とLとの間に,直接,何らかの関係が生ずるものではないこと
を併せ考えると,同審判官と本件審判事件との関係から見て,不公正な審判がなさ
れるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合に当たる
ということはできない。
のみならず,審判官が忌避事由を有していたとしても,除斥事由を有する場合と
異なり,当事者等の申立てに基づく忌避の決定(特許法143条)を経なければ,
当該審判官が当該審判事件から排斥されるわけではない。そして,忌避の申立てが
ないまま,審決がなされた場合には,たとえ,それが,忌避事由が存することを当
事者等において知らなかったためであったとしても,もはや当事者等は忌避申立て
をすることができなくなったと解すべきであり,したがって,忌避の決定がなされ
る可能性はなくなったのであるから,当該審判官が審決に関与したことについて,
忌避の制度との関係で違法の問題が生ずる余地はない。なお,忌避事由を有する審
判官が審決に関与したことは,再審事由に当たるものともされていない(特許法1
71条2項,民事訴訟法338条1項)。
そうすると,原告の上記主張は,いずれにしても失当である。
7 結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきで
ある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
高 野 輝 久
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