平成18(ネ)10031商標権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所 横浜地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成18年11月6日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告)株式会社ビー・アンド・エム 控訴人(原告)X 被控訴人(被告)株式会社ビー・アンド・エム
|
法令 |
商標権
商標法4条1項10号10回 商標法47条1回
|
キーワード |
許諾8回 無効8回 無効審判5回 商標権3回 侵害2回 損害賠償2回 差止2回
|
主文 |
本件控訴を棄却する。控訴費用は,控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
, 「 」,「 」,「 」本判決においては 原判決と同様に又はこれに準じて 本件商標 被控訴人標章1 Y
等の略称を用いる。 |
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判決文
平成18年(ネ)第10031号 商標権侵害差止等請求控訴事件
平成18年11月6日判決言渡,平成18年7月31日口頭弁論終結
(原審・横浜地方裁判所平成15年(ワ)第3155号,平成18年2月22日判決)
判 決
控訴人(原告) X
訴訟代理人弁護士 北本善彦,窪田耕一,弁理士 高橋康夫
被控訴人(被告) 株式会社ビー・アンド・エム
訴訟代理人弁護士 岡部光平,飯田直久,三浦修,小山昌人,井澤秀昭,出光恭
介
主 文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決中,控訴人敗訴部分のうち,損害賠償請求を棄却した部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成18年8月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
本判決においては,原判決と同様に又はこれに準じて「本件商標 」「被控訴人標章1」「Y」
, ,
等の略称を用いる。
1 原審において,原告X(控訴人)は,被告(被控訴人)が本件登録商標と類
似する標章を使用しているとして,被告に対し, 原判決別紙被告標章目録記載1
①
ないし5の標章を付したウェットスーツの販売の差止め及び廃棄,②使用料相当損
害金の支払いを求めた。また,原告A(以下「A」という 。)は,被告を退職する
際の約定に基づく200万円の退職金の支払いを求めた。
これに対し,原判決は,Aの請求は理由があるとして認容したが,控訴人の請求
については,①本件登録商標が被控訴人標章1ないし3,6に類似していることは
明らかである,②これらの被控訴人標章は,商標法4条1項10号の「他人の業務
に係る商品…を表示するもの」に当たる,③本件商標登録は,不正競争の目的でこ
れを受けたものと認められるので,無効審判請求が除斥期間(商標法47条)の経
過により妨げられることもないと判断して,これを棄却した。
そこで,控訴人は,原判決を不服として控訴をした。当審では,本件商標権に基
づく損害賠償請求のみが審理の対象となり,主な争点は,①被控訴人標章1ない
し3,6は,商標法4条1項10号の「他人の業務に係る商品…を表示するもの」
に当たるかどうか,②本件商標登録は「不正競争の目的」でこれを受けたものかど
うかである。
本件における当事者の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び
理由」中の「第5 争点に関する当事者の主張」(Aの請求に関する部分を除く。)
のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)
(1) 商標法4条1項10号の「他人の」という要件の充足性
本件商標を含む「FUTURE」標章は,Aに帰属し,商標法4条1項10号の
「他人の」という要件を満たさない。
Aは,被控訴人の事業が再開される平成元年より以前から,「FUTURE」と
の表示に関心を抱き,これをウェットスーツのブランド名あるいは標章として用い
ることを検討してきた。そして,そのイメージを具体的にデザインしたり,ウェッ
トスーツに載せた構図を考えてきた。このように,Aは,被控訴人が事業を再開す
る以前から,独自に本件商標を含む「FUTURE」ブランドを完成させていた。
Aは,被控訴人のパンフレットに自己の名前を載せ,同社が販売するウェットスー
ツに自己の名前を記載して販売し,被控訴人が事業を再開した後も,被控訴人の名
前ではなく自己の名前で「FUTURE」標章のついた商品を販売するなど,本件
商標を含む「FUTURE」標章をA自身のブランドとして使ってきた。これは,
A自身が,本件商標を含む「FUTURE」標章を自己のものと認識していたこと
を示している。
被控訴人会社の代表者であるYは,控訴人が本件商標の出願を行っていることを
知った上で,被控訴人を権利者として,「FUTUREWAVE」という名前の商
標登録をしている。また,Yは,Aが退職する際に,Aに対し ,「AはFUTUR
Eの商標を持っているのだから,FUTUREをやればいい。俺はFUTUREW
AVEの商標を持っているし,クラウンマークでやるから 。」と述べ,Aが退職し
た後も,控訴人及びAに対し,今後は「FUTURE」のついた商標を使わないと
約束している。Yのこのような言動は,本件商標を含む「FUTURE」標章がA
のものであり,被控訴人はAから許諾を得てこれらの標章を使用しているにすぎな
いことをYが十分認識していたことを示している。
以上のとおり,本件商標を含む「FUTURE」標章がAに帰属していたことは
明らかであり,Aは,生計をともにする控訴人の名義で自己の商標を登録したにす
ぎないのであるから,商標法4条1項10号の 他人の」
「 という要件を充足しない。
仮に,この要件に形式的に当たるとしても,Aから許諾を受けて「FUTURE」
商標を使用していた被控訴人が,商標法4条1項10号に基づいて無効の主張をす
るのは信義則に反する。
(2) 「不正競争の目的」の不存在
本件において控訴人に「不正競争の目的」がないことは明らかである。
前記のとおり,本件商標を含む「FUTURE」標章は,Aに帰属する。本件商
標の出願登録は,Aにとっては,自己が創作し,自己の標章として扱っていた「F
UTURE」標章を妻の名前で行ったにすぎず,Yも「FUTURE」の標章はA
のものであるとの認識を有していたのであるから,控訴人が本件商標登録を受けた
のは自己の法的権利を保護するためにすぎず,「不正競争の目的」に基づくもので
はない。
本件商標出願は,不合理でワンマン的な経営を行うようになったYへの不信感を
感じていたAが,過労のため体調を崩したことが契機である。Aは,自分自身や家
族の将来について真剣に考え,その結果,自己が創作し,育ててきた唯一の財産と
もいえる本件商標を含む「FUTURE」標章の権利をYに奪われないようにする
ため,妻である控訴人の名前で商標出願したものである。控訴人及びAは,自らの
持つ標章を法的に保護するために,本件商標出願を行ったにすぎないのであり,被
控訴人の標章を横取りし,又は競業を行うために商標登録を行ったのではない。
本件商標登録当時,Yの不当な対応により,Yに対するAの信用は失われており,
AとYとは気軽に話のできるような間柄ではなく,また,AとYは,本件商標を含
む「FUTURE」標章がAに帰属するという認識を共有していたため,Aは,本
件商標登録について,酒席でYに伝えて了承を得たものである。
本件では,被控訴人が事業を再開して以来,控訴人が本件商標登録の出願をする
までに約9年間あったが,Yは ,「FUTURE」標章等を被控訴人の商標として
出願登録しなかった。かえって,Yは,控訴人が本件商標出願を行っていることを
知りながら, FUTUREWAVE」という名前で商標登録を行っている。Yは,
「
Aが退職した際も,「俺はFUTUREWAVEの商標をもっているし,クラウン
マークでやる」などと述べているのであり,Aが被控訴人会社を退職した後も,控
訴人及びAに対し,今後は被控訴人は FUTURE」
「 を使わないと約束している。
Yは,本件商標を含む「FUTURE」標章がAに帰属することを認識していたか
らこそ,被控訴人の商標として「FUTURE」を商標登録しなかったのである。
以上のとおり,本件商標登録が「不正競争の目的」をもってなされたものではな
いことは明らかである。
(3) 結論
本件商標登録が商標法4条1項10号に該当するとともに,「不正競争の目的」
をもってされたものであるとの原判決の判断は誤りであり,控訴人の請求は認容さ
れるべきである。
3 当審における被控訴人の主張の要点
(1) 商標法4条1項10号の「他人の」という要件の充足性
控訴人は,商標として出願登録されていない被控訴人標章の帰属について縷々主
張するが,商標として出願登録されていない標章に商標法は格別の保護を与えてい
ないのであって,控訴人の主張は失当である。
また,控訴人が主張する事実は,そもそも存在しないか,存在したとしても,本
件商標が控訴人にとって「他人の」商標ではなかったことを裏付ける事実であると
はいえない。控訴人は,被控訴人が事業を再開する前に,Aが独自に本件商標を含
む「FUTURE」ブランドを完成させていたと主張するが,そのような事実はな
い。また,パンフレットにAの氏名が掲載されたことはあるが,ウェットスーツの
型をデザインした者として掲載されているにすぎず,製品の生産者ないし提供者と
しては,被控訴人名が記載されている。さらに,Aが,平成元年ころ,被控訴人に
対して「FUTURE」という標章の使用を許諾したという事実もない。
平成14年末にAが被控訴人会社を退社する際のやりとりは,これを過大に評価
すべきではなく,そのやりとりから,Aが,平成元年ころ,被控訴人に対して「F
UTURE」標章の使用を許諾したという事実が認められるものではない。
したがって,商標法4条1項10号の「他人の」の要件を満たすとした原判決の
判断は正当である。
(2) 「不正競争の目的」の不存在
原判決が正当に認定した事実によれば,控訴人は,Yについての不満をAから聞
かされていたところ,被控訴人が本件商標について商標登録をしていないことに目
をつけたAと共謀して,将来Aが被控訴人会社を退社した際に,被控訴人が築き上
げてきた本件商標に対する信用を利用してウェットスーツ販売を営もうと考え,Y
に無断で本件商標の登録を思い立ち実行したものと認められる 。このような目的は,
まさに「不正競争の目的」であり,その旨認定した原判決は正当である。
控訴人は,Yに対するAの信頼が失われたことなどの理由から,Aは,本件商標
登録について酒席でYに伝えたと主張する。しかしながら,そのような重大な事柄
を酒の席で話したというのはあまりにも不自然であり,Aの供述は信用できない。
AがYに不信感を募らせていたことに照らすと,Aは,被控訴人のためではなく,
自分自身の利益のために本件商標登録に及んだと考えるのが自然であり,「不正競
争の目的」を有していたことが推認できる。
したがって,本件商標登録について「不正競争の目的」があったと認定した原判
決は正当である。
(3) 結論
以上のとおり,本件では,商標法4条1項10号の「他人の」という要件が充足
していることは明らかであり,本件商標登録が「不正競争の目的」をもってされた
ものであるとの原判決の判断も正当である。
第3 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実及び本件証拠により認定できる事実は,原判決の
「事実及び理由」の「第3 基礎となる事実」及び「第6 当裁判所の判断 」「1 本
件の事実関係」記載のとおりであるから,下記のとおり,これを引用する( 引用部
分には,本判決の表記方法等に合わせて変更した部分がある。以下同様。 。
)
(1) 基礎となる事実
「1 被控訴人会社の設立
A及び被控訴人会社の代表者であるY及び訴外B(以下「B」という 。)は,昭和61年4
月5日,ウェットスーツの製造,販売等を目的として被控訴人会社を設立した。
2 被控訴人の事業中断及び再開
昭和62年になると,被控訴人はマリンレジャー商品の製造,販売等を行う株式会社ブルー
マリンに事実上吸収合併されたような状態となり,A,Y及びBは同社に勤務することになっ
たが,平成元年,AとYは同社を退社して,Aが100万円,Y及びその父が400万円を出
資してAが取締役に,Yが代表取締役にそれぞれ就任して被控訴人の事業を再開した。事業再
開後の被控訴人においては,Aがウェットスーツのデザインや型紙の製作を担当し,Yが営業
を担当した。
なお,被控訴人は平成15年7月31日に有限会社から株式会社に組織変更した。
3 被控訴人の商標の使用
被控訴人は,上記事業の再開に際して,その製造,販売するウェットスーツのブランド名と
して「FUTURE」を採用し,その直後から,被控訴人標章6(1)を付したサーファー向け
のウェットスーツの製造 ,販売を開始し ,平成9年までには上記標章とともに ,被控訴人標章1
な い し 3 及 び 6 (2)の 標 章 も そ の 製 造 , 販 売 す る ウ ェ ッ ト ス ー ツ に 付 す る よ う に な っ た
(甲28,乙4の1ないし5,20,A,被控訴人代表者 )
。
4 本件商標の登録
控訴人は,平成9年6月4日,本件商標の登録を出願し,平成11年8月27日,以下のと
おり,本件商標は登録された(甲3,4 )
。
(1) 登録番号 第4309285号
(2) 出願年月日 平成9年6月4日
(3) 登録年月日 平成11年8月27日
(4) 商品及び役務の区分 第9類
(5) 指定商品
理化学機械器具,測定機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工
ガラス(建築用のものを除く 。,救命用具,レコード,メトロノーム,オゾン発生器 ,電解槽 ,
)
遊園地用機械器具,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シ
ミュレーター,鉄道用信号機 ,乗物の故障の警告用の三角標識 ,発光式又は機械式の道路標識 ,
火災報知機,ガス漏れ警報器,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装
置,盗難警報器,保安用ヘルメット,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用
マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販
売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数又は選別用の機械,作業
記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレ
コーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手
のはり付けチェック装置,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き
板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶
断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置
(6) 登録商標 原判決別紙原告登録商標目録記載のとおり
5 被控訴人の商標登録
被控訴人は,平成11年9月2日,原判決別紙被告登録商標目録記載1及び2の商標につい
て商標登録を出願し,平成12年7月21日,以下のとおり ,これらの商標は登録された 乙11
(
の1・2)。
(1) ア 登録番号 第4402426号
イ 出願年月日 平成11年9月2日
ウ 登録年月日 平成12年7月21日
エ 商品及び役務の区分 第25類
オ 指定商品 ウインドサーフィン用ウエットスーツ,その他の運動用特殊衣服,運
動用特殊靴,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,そ
の他
カ 登録商標 原判決別紙被告登録商標目録記載1のとおり
(2) ア 登録番号 第4402427号
イ 出願年月日 平成11年9月2日
ウ 登録年月日 平成12年7月21日
エ 商品及び役務の区分 第25類
オ 指定商品 ウインドサーフィン用ウエットスーツ,その他の運動用特殊衣服,運
動用特殊靴,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,そ
の他
カ 登録商標 原判決別紙被告登録商標目録記載2のとおり
6 Aの退職
Aは ,平成14年12月20日,被控訴人会社の取締役を辞任した(甲28 ,31 ,乙20 ,
A,被控訴人代表者)」
。
(2) 本件の事実関係
「前記基礎となる事実に証拠 甲2ないし4 , , ,
( 7 8 12ないし17 ,26ないし28 ,30
の1ないし4,31 ,乙1ないし12,20 ,24の1ないし4 ,25 ,A ,被控訴人代表者 )
と弁論の全趣旨を合わせると,次の事実を認めることができる。
(1) 被控訴人によるウェットスーツの販売開始
被控訴人は,平成元年4月ころに事業を再開したが,その際に,ウェットスーツのブランド
名を「FUTURE」とすることにして,被控訴人標章6(1)を付したウェットスーツの製造 ,
販売を開始した。
被控訴人会社の代表者Yは,同月 ,「FUTURE」という標章を商標登録できるかどうか
の調査を弁理士に依頼したところ,弁理士から「同一商標の登録はありませんので,使用して
も商標権侵害が主張されるおそれはないものと思われますが,出願しても登録できるかどうか
については多少疑問が残ります 。」との回答があったため,この時点で登録出願等はしなかっ
た。
(2) 被控訴人による本件商標等の使用及び広告宣伝
ア その後,被控訴人は,被控訴人標章1ないし3及び6を付したウェットスーツの製造,
販売を継続し,平成9年までの取引先は1都1道1府22県に及んだ。被控訴人の平成8年度
の売上高は約1億1500万円に上り ,その大部分がウェットスーツの売上であり ,平成9年4
月の時点では月200着以上のウェットスーツを販売するまでに至った。
イ 被控訴人は,平成9年までの間に,主要なサーフィン雑誌に広告を掲載したり,国内外
のプロサーファーと用品提供の契約を締結するなどして ,「FUTURE」ブランドの商品の
宣伝活動を行い,サーフィン雑誌に同ブランドの商品が紹介されることもあった。
例えば,被控訴人は,平成2年4月及び5月に開催された世界アマチュアサーフィン選手権
大会のカタログに「FUTURE」ブランドのウェットスーツの広告を出したこと(乙5 ),
サーフィン雑誌「SURFIN ’LIFE 」の平成2年5月号 ,6月号 ,10月号 ,平成3年6
月号 ,平成4年6月号,平成5年6月号,平成6年11月号 ,平成7年5月号ないし11月号 ,
平成8年5月号,6月号 ,11月号,12月号に ,被控訴人標章1 ,2及び6等を付したウェッ
トスーツ等の商品の広告を掲載するなどしたこと(乙6の1ないし13,15ないし20 ),
サーフィン雑誌「SURFER 」の平成2年2月号に被控訴人標章6(1)を付したウェットスー
ツの広告を掲載したこと(乙7 ),サーフィン雑誌「Flipper」の平成7年5月号,7
月号,11月号,平成8年5月号に被控訴人標章1,2及び6(2)等を付したウェットスーツ
等の商品の広告を掲載したこと(乙8の1ないし4 ),ボディーボード雑誌「BB life
magazine」の平成8年5月号に被控訴人標章1,2及び6(2)を付した商品の広告
を掲載したこと(乙9)といった事実を挙げることができる(控訴人が本件商標の登録出願し
た平成9年6月4日の時点でウェットスーツのブランドとして FUTURE 」
「 が我が国のサー
ファー間に周知されていたことは当事者間に争いがない 。。
)
(3) 本件商標の登録出願
控訴人は,平成9年6月4日,本件商標の登録を出願したが,このことについて被控訴人会
社の代表者であるYは控訴人及びAから何も聞いていなかった。なお,このころ,既にAは,
報酬や仕事のやり方等についてYに対して不満を持つようになっていた。
(4) 被控訴人各登録商標の登録出願
被控訴人会社の代表者であるYは,平成11年8月,取引先から控訴人が本件商標の登録出
願をしたことを聞いて,弁理士に対して,被控訴人でも「FUTURE」の標章について商標
登録ができるかどうかの調査を依頼したところ,弁理士からの回答は,同一の商標について他
に先願者がいるので,今から出願しても登録を受けることはできないが ,「FUTURE」の
前後に何らかの文字を加えれば登録を受けることができるというものであった。
そこで,被控訴人会社の代表者は,同年9月2日,被控訴人各登録商標の登録を出願した。
(5) A退職時の話合い
平成14年12月20日,Aは報酬額についての不満等から被控訴人会社を退職することに
なったが,その際に,YはAに対して ,「AはFUTUREの商標を持っているのだから,F
UTUREをやればいい。俺はFUTURE WAVEの商標を持っているし,クラウンマー
クでやるから 。」と話し,その結果として本件商標は控訴人及びAが使用し,被控訴人はブラ
ンド名を「FUTURE WAVE」に変え,被控訴人各登録商標を使用して営業を続けると
いうことになった。
(6) A退職後の経緯
控訴人は,平成15年1月29日付けで,被控訴人に対し,本件商標の使用を中止するか,
控訴人と使用許諾契約を締結するよう求める旨の通知書を送付した(甲12 )
。
これに対し,被控訴人は,同年2月3日付けの文書で,控訴人に対し,被控訴人は,同年1
月より,本件商標は使用しないで被控訴人各登録商標を使用する準備を進めており,3か月前
後で得意先や関連会社への告知をしながら使用商標を「FUTURE WAVE」に変更する
旨通知した(甲13)。
Aは,同年6月3日から ,
「FUTURE DESIGN」の商号で本件商標を付したウェッ
トスーツの販売を開始した。
(7) A退職後の被控訴人各商標等の使用状況
ア 被控訴人の平成14年度春夏用のカタログ(甲2の1)には,被控訴人標章1ないし3
及び6を付した商品が掲載されており,被控訴人標章4及び5を付した商品は掲載されていな
かった。
イ 被控訴人の平成15年度春夏用のカタログ(甲2の2,8,30の1)には,被控訴人
標章1ないし3及び5を付した商品が掲載されており,被控訴人標章4及び6を付した商品は
掲載されていなかった。
ウ 被控訴人の平成15年度秋冬用及び平成16年度春夏用のカタログ(甲30の2・3)
には,その表紙に被控訴人標章6(2)を付したウェットスーツを着用したモデルの写真が掲載
されているが,それ以外に被控訴人標章6を付した商品は掲載されておらず,被控訴人標章1
ないし3及び5を付した商品が掲載されており,被控訴人標章4を付した商品は掲載されてい
なかった。
エ 被控訴人の平成16年度秋冬用のカタログ 甲30の4 )
( には ,被控訴人標章1ないし3
及び5を付した商品が掲載されており,被控訴人標章4及び6を付した商品は掲載されていな
かった。
オ 平成17年度春夏用のカタログ(乙25)には,被控訴人標章1及び5を付した商品が
掲載されており,被控訴人標章2ないし4,6を付した商品は掲載されていなかった 。
」
2 商標法4条1項10号の「他人の」という要件の充足性
(1) 商標法4条1項10号は,「他人の業務に係る商品…を表示するものとして
需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品
…又はこれらに類似する商品…について使用をするもの」については商標登録を受
けることができないと定めている。
控訴人は,被控訴人標章1ないし3,6は,「他人の業務に係る商品…を表示す
るもの」に該当しないと主張するが,上記認定事実によれば,被控訴人は,平成元
年4月ころに事業を再開してから,被控訴人標章1ないし3,6を付したウェット
スーツを製造,販売し,本件商標が出願された平成9年6月4日の時点では,これ
らの被控訴人標章は,我が国のサーファー間に広く知られていたものと認められる 。
これらのウェットスーツが被控訴人の製造,販売する商品として表示されていたこ
とは,乙1∼9のパンフレット等からも明らかであり,需要者は,これらのウェッ
トスーツを被控訴人の業務に係る商品を表示するものと認識していたものと認めら
れる。
控訴人は,被控訴人のパンフレットにAが自己の名前を掲載し(乙4の2 ),会
社が販売するウェットスーツに自己の名前を記載し,自己の名前で FUTURE」
「
標章のついた商品を販売した(甲10の①)などと主張する。
しかしながら,乙4の2のパンフレットには,頁の中央右側に「B&M co.,LTD」
と記載され,その左下隅部分に,目を凝らして辛うじて見える程度の大きさで
「PRODUCE B&M co.,LTD, WET SUITS PATTERNER A, PHOTO GRAPHER C」などと記
載されているにすぎず(しかも,この記載はパンフレットの制作,デザイン,写真
に関するものと考えられる。,この記載をもって,需要者が当該ウェットスーツを
)
Aの業務に係る商品と認識するとは考えられない。
また,甲10の①は,水着のデザインが描かれた紙片にすぎず,Aが自らの名前
で「FUTURE」標章のウェットスーツを需要者に販売したと認めるような記載
はなく,他に,AがA又は控訴人の名前においてウェットスーツを製造販売し,あ
るいはA又は控訴人の名前が付されたウェットスーツを製造又は販売したと認める
証拠もない。したがって,この点でも,「FUTURE」標章がAの業務に係る商
品として需要者に認識されていたということはできない。
(2) 控訴人は,本件商標も含む「FUTURE」標章は,Aのものであり,A
が被控訴人にその使用を許諾したものであると主張する。控訴人の主張は,商標の
出願以前の標章であっても,これを着想,デザイン化等した者に,排他的な使用権
が発生し,本件では,そのような権利を有するAが被控訴人に使用許諾したとの主
張と理解し得るが,Aが,被控訴人会社の取締役に就任する前に,又は被控訴人会
社の取締役として,被控訴人が製造又は販売するウェットスーツの標章を着想し,
デザインしたとしても,それによってAに同標章を排他的に使用する商標法上の権
利が発生するものではないのであって,控訴人の主張は,その前提において失当で
ある。また,控訴人が主張するような,Aに本件商標に関する何らかの権利のある
ことを前提とする使用許諾の合意の存在を認めるに足る証拠もない。
(3) したがって,被控訴人標章1ないし3,6は,商標法4条1項10号は, 他
「
人の業務に係る商品…を表示するもの」に当たるということができる。
3 「不正競争の目的」の不存在
(1) 当裁判所は,原判決と同様,本件商標登録は「不正競争の目的で商標登録
を受けた」ものであると判断するが,その理由は,原判決の「第6 当裁判所の判
断」「2 争点2(登録無効の抗弁の成否)について」「(4) 除斥期間について」記
載のとおりであるので,下記のとおり,これを引用する。
「ア 控訴人は,除斥期間の経過により,被控訴人は本件商標の無効審判を請求することが
できず,したがって,本件訴訟においても本件商標登録に無効理由がある旨の抗弁を主張する
ことはできないと主張する。
この点,商標法47条は,同法4条1項10号に違反してされた商標登録であっても,商標
権の設定の登録の日から5年を経過した後は ,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き ,
商標登録の無効審判請求をすることができない旨規定しており,本件においては,本件商標が
登録された日である平成11年8月27日から既に5年を経過していることは明らかである。
そこで,被控訴人は,本件商標登録を受けるについて控訴人には不正競争の目的があった旨主
張するので,この点について検討する。
イ 上記不正競争の目的とは,他人の信用を利用して不当な利益を得る目的をいうものと解
されるので,本件に即していえば,控訴人が本件商標登録を受けるについて,被控訴人がそれ
までに築いてきた「FUTURE」ブランドとしての信用を利用して不当な利益を得る目的が
あったかどうかが問題になるものと解される。
ウ 控訴人は,本件商標の登録を出願した理由について,平成9年になってAが原因不明の
病気となり,将来のことを心配したAが控訴人に本件商標に係る権利を譲渡してくれたので,
これを保護するために出願したにすぎない旨主張している。
しかしながら,既に認定したとおり,被控訴人標章1ないし3及び6は,平成元年以来,被
控訴人が使用してきており,控訴人が本件商標の登録を出願する平成9年までの間に,この点
について格別の問題が生じていたようにもうかがえないことからすれば,控訴人による本件商
標の登録出願は,いかにも唐突との感を免れないし,被控訴人に明確な説明もせずに登録出願
するということ自体が不自然というべきであって,上記控訴人の主張に沿う控訴人及びAの供
述(甲28,31,A)は直ちには採用できない。
かえって,上記のように平成9年になって,突然,被控訴人にも明確に説明しないままに商
標登録の出願をしたことの不自然さに加えて,本件では,① 平成9年ころにはAはYの経営
内容に対して不満を抱くようになっていたこと,② 平成9年ころには ,
「FUTURE」との
ブランド名は我が国のウェットスーツの需用者の間では周知されていたこと,③ 被控訴人は
「FUTURE」の標章等について何の商標登録もしていなかったこと,④ 控訴人は被控訴
人会社の取締役であるAの妻であり,本件商標の登録を出願するについては,上記①ないし③
の事情はAから聞かされて知っていたと推認されること,⑤ 控訴人は,Aが被控訴人会社を
退職した1か月後には被控訴人に対して本件商標の使用中止等を求める通知書を送付している
こと,⑥ 控訴人は,Aが被控訴人会社を退職するとすぐに,2人でウェットスーツを販売す
る事業を開始すべく準備を開始し,平成15年6月ころから「FUTURE DESIGN」
の商号で,本件商標を付したウェットスーツの販売を開始したこと,等の事実が指摘できるの
であって,これらの事実を総合してみると ,控訴人は , FUTURE」
「 というブランドがウェッ
トスーツの需用者間で周知された存在であり,当該ウェットスーツには被控訴人標章1ない
し3及び6が使用されていることを知りながら ,Aが被控訴人会社を退職した場合には同じ F
「
UTURE」のブランド名でウェットスーツの販売等をするのに備えて本件商標の登録を出願
したものと認められ,これによれば,控訴人には上記イで述べた不正競争の目的があったと認
めるのが相当である。
控訴人は,本件商標の登録については被控訴人も許容していたから不正競争の目的はない旨
主張するが,登録出願に先立って控訴人なりAが被控訴人にその旨の明確な説明をした事実の
認められないことは既に述べたとおりであり,他に上記認定を左右し得る証拠は存しない。
したがって,本件商標登録については,なお無効審判を請求することが可能である 。
」
(2) 控訴人は,本件商標出願は,被控訴人会社の代表者であるYへの不信感を
感じていたAが,自分自身や家族の将来を考え,本件商標を含む「FUTURE」
標章についての自己の権利をYに奪われないようにするため,妻の名前で商標出願
したにすぎないのであって,被控訴人の標章を横取りし,又は競業を行うために商
標登録を行ったのではないと主張する。
しかしながら,Aは,本件商標の出願当時,被控訴人会社の取締役の地位にあっ
たところ,一般に,取締役が,代表者と不和になったことから,自らの退職後のこ
とや家族の生活のことを考え,当該会社が使用している周知標章又はそれと類似の
標章が商標登録されていないことを利用して,当該代表者の同意を得ることなく妻
の名義で商標出願することは,それ自体,不正な競争目的の存在を強く推認させる
ものというべきである。
本件では,Aが被控訴人会社の代表者のYのやり方に対して不満を抱いていたこ
と,Aが自らや家族の将来のことを考えて妻である控訴人名義で本件商標出願に及
び,控訴人もそのことを聞いていたこと,本件商標が被控訴人標章1ないし3,6
と同一又は類似の「FUTURE」という文字からなるものであること,被控訴人
標章1ないし3,6は本件商標の出願当時周知であったが,商標出願はされておら
ず,Aがそのことを知っていたことは明らかである。
また,前記判示のとおり,Aは,被控訴人会社を退職してまもなく,本件商標を
用いてウェットスーツの販売を開始するとともに,控訴人は,被控訴人に対し,本
件商標の使用中止等を求める通知書を送付しているとの事実が認められ,Aは,被
控訴人会社を退職後に,本件商標を使用し,実際に被控訴人と競業関係にある事業
を開始するに至ったものと認められる。
さらに,控訴人は,Aが,Yに対し,本件商標登録について酒席で伝え,その承
諾を得た旨主張するが,被控訴人の使用している周知の被控訴人標章と同様の「F
UTURE」という文字からなる商標の登録を取締役の妻の名義で行うというよう
な重要な事柄について,AがYに酒席で伝え,その承諾を得たというのはいかにも
不自然であり,Yもそのような話があったことを否定する証言をしている。本件商
標出願当時のAとYの関係も考慮すると,Aが本件商標登録についてYに相談し,
その承諾を得ていたとは到底認め難い。
控訴人は ,Aが退職した際に,YがAに 俺はFUTUREWAVEの商標をもっ
「
ているし,クラウンマークでやる」などと述べ,Aが被控訴人会社を退職した後も,
控訴人及びAに対し,今後は被控訴人は「FUTURE」を使わないことを約束し
たとの事実を指摘する。確かに,前記1(2)の「本件の事実関係 」によれば ,Yは,
本件商標登録について知りながら無効審判請求を提起するなどの行動をとらず,A
が退職する際も本件登録商標をAが使用することを容認するような発言している
が,他方で,本件商標登録の事実を知って弁理士と対応策を協議しているとの事実
も認められるのであり,このような事実も考慮すると,Yが本件商標出願及び登録
について事前に承諾していたとまでは認められない。
以上によれば,被控訴人会社の代表者であるYのやり方に不満を抱いていたAは,
被控訴人会社の取締役の地位にありながら,被控訴人が使用している周知の被控訴
人標章1ないし3,6などが商標登録されていないことを利用して,自らが被控訴
人会社を退職した後のことや家族のことを考え,Yの同意を得ることなく,妻の名
義で商標出願をし,被控訴人会社を退職後は,本件商標を使用して,被控訴人と競
争関係にある事業に及んでいるものと認められ,このような事実関係のもとにおい
ては,本件商標登録を受けるについて,控訴人には「不正競争の目的」があったと
いうべきである。
4 結論
以上のとおり,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
佐 藤 達 文
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