平成18(行ケ)10060審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年10月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ハタノヤ株式会社 原告X
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法令 |
実用新案権
実用新案法3条1項2号3回 実用新案法47条2項1回 特許法181条2項1回
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キーワード |
審決107回 実施72回 無効34回 無効審判24回 抵触5回 侵害2回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
原告は,後記実用新案登録を有していたところ,被告が無効審判請求をした
ので,特許庁は審理の上,平成16年1月28日に請求不成立の審決をした
が,当庁は,被告からの訴えに基づき,平成17年6月30日,審決取消しの
判決をし,確定した。そこで上記無効審判請求は,再び特許庁で審理され,特
許庁は,平成18年1月6日,上記実用新案登録を無効とする旨の審決をし
た。本件は,平成18年1月6日になされた上記審決に不服の原告が,その取
消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成18年(行ケ)第10060号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年10月4日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁護士 三 谷 浩 二 郎
被 告 ハ タ ノ ヤ 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 小 林 正 治
同 森 徳 久
同 小 林 正 英
訴訟代理人弁護士 五 藤 昭 雄
同 芦 川 淳 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2002−35295号事件について平成18年1月6日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
原告は,後記実用新案登録を有していたところ,被告が無効審判請求をした
ので,特許庁は審理の上,平成16年1月28日に請求不成立の審決をした
が,当庁は,被告からの訴えに基づき,平成17年6月30日,審決取消しの
判決をし,確定した。そこで上記無効審判請求は,再び特許庁で審理され,特
許庁は,平成18年1月6日,上記実用新案登録を無効とする旨の審決をし
た。本件は,平成18年1月6日になされた上記審決に不服の原告が,その取
消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 原告は,昭和63年9月24日,名称を「表面筋状薄肉こんにゃく」と
する考案について実用新案登録出願をし,平成10年12月11日,実用
新案登録第2150363号として設定登録を受けた(請求項1。以下
「本件実用新案登録」という。)。
イ ところが,被告から,平成14年7月15日付けで,本件実用新案登録
について無効審判請求がなされたので,特許庁は,これを無効2002−
35295号事件(以下「本件無効審判事件」という。)として審理し,
平成16年1月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「第1次審決」という。甲101)をした。
ウ これに対し,被告は,第1次審決に対して取消訴訟(東京高裁平成16
年(行ケ)第89号,その後,当庁平成17年(行ケ)第10061号。
以下「第1次訴訟」という。)を提起したところ,当庁は,平成17年6
月30日,同事件について,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「第1
次判決」という。甲102)をし,同判決は確定した。
エ そこで,特許庁は,上記無効2002−35295号事件について再び
審理した上,平成18年1月6日,「本件実用新案登録を無効とする。」
との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成18年1月
18日原告に送達された。
(2) 考案の内容
本件実用新案登録の請求項1の内容は,下記のとおりである(以下「本件
考案」という。)。
記
【請求項1】個々に独立した多数個のノズルが1∼2列に連設された押出
ノズルから,太さ3mm以下に押出された糸状こんにゃくを即横幅方向へ
一体化して,長手方向に多数の凹条(2)と凸条(3)を表面に有し,凸
条(3)部分の厚肉部が3mm以下であって,凹条(2)部分の薄肉部が
半透明の縞模様を形成してなる表面筋状薄肉こんにゃく。
(3) 本件審決の内容
本件審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,下
記のとおりである。
記
第1次判決において,「カネマタ食品工業株式会社(以下「カネマタ食
品」という。)は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表
面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,昭和58年11月ころまでには,公然
実施していたものと認めるのが相当である。」と判示された。この判示事項
は,審判合議体を拘束する。したがって,本件考案は本件実用新案登録出願
前に日本国内において公然実施された考案であるから,本件実用新案登録
は,実用新案法3条1項2号に違反してされたものであり,無効とすべきも
のである。
(4) 本件審決の取消事由
しかしながら,本件審決が前提とした第1次判決には,判決に影響を及ぼ
す重要な事項について判断の遺脱があったから,これに基づく本件審決には
瑕疵があることになるので,取り消されるべきである。
ア 取消判決の拘束力の範囲
審決又は決定が判決によって取り消されこれが確定すると,判決は,そ
の事件について審判官を拘束し(行政事件訴訟法33条1項),この拘束
力のもとに審判官はさらに審理を行い,審決又は決定をする(実用新案法
47条2項,特許法181条5項)。この拘束力は,当該事件について審
理され,判決の理由において違法事由として示された事実上及び法律上の
判断について生ずるが,それ以外には及ばない。
実際に生起する訴訟の審決取消判決では,当該訴訟の結論を導くための
説示に主眼がおかれるため,拘束力の範囲を把握するのに必要な論理的思
考過程を理解しにくい説示となることがある。判決の理由説示に際しては
この点を念頭におくべきであるし,取消し後の審判手続においては,判決
の理由の文面そのままを理解するのではなく,判決の結論に至る論理的帰
結を踏まえて,拘束力の範囲を慎重に見極める必要がある。
最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決(民集46巻4号245頁)
には,園部裁判官の次の意見が述べられている。
「再度の審判の審決を不服として提起された再度の審決取消訴訟の審理
判断において,当初の審決取消訴訟の判決の趣旨に従ってされた当該審
決を,その限りにおいて適法であるとし,これを違法とすることができ
ないということについては,法廷意見が述べるように当然の理であると
は考えない。…行政事件訴訟法第33条は,取消判決の実効性を担保す
るという政策的な見地から,当該処分に関係のある行政庁に対し判決の
趣旨に従うべきことを規定したのにとどまり,当初の審決取消訴訟の判
決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断をも当然に拘束す
ることを規定したものではないと解されるからである。…右規定の背後
にある公益性への配慮あるいは迅速で実効性のある訴訟の遂行という法
意にかんがみれば,当初の審決取消訴訟に続く累次の訴訟において,裁
判所は,従前の各確定判決の理由中の認定判断から審決の根拠となるべ
き行為規範を見出し,それとの関係において,審決の適法性を審理し判
断することが,行政事件訴訟の制度の趣旨にも合致した妥当な処理であ
ると考えるのである。」
この園部裁判官の意見の趣旨は,①第1次判決の理由中の認定判断,②
審決の根拠となるべき行為規範,③両者の関係における審決の適法性を総
合的に審決の適法性として審理し判断すべきものと理解する。この意見
は,本件訴訟においても重視されなければならない。
イ 取消事由1(本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施
していた考案の認定を欠いている違法,及び本件審決が同考案と本件考案
が一致しないことを看過した違法)
(ア) 本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内にお
いて実施していた発明の認定を欠いている違法
a 「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において公然実施された
考案」(実用新案法3条1項2号)に該当するか否かの判断は,①実
用新案登録に係る考案の認定,②引用考案の認定,③実用新案登録に
係る考案と引用考案との一致点及び相違点の認定,④相違点について
の認定・判断,⑤結論の論理構成によって結論に至っていることが必
要である。
b 本件審決は,公然実施を審理する上で,①本件実用新案登録に係る
本件考案を認定したが,以下のとおり,②カネマタ食品が本件実用新
案登録出願前に日本国内において実施していた考案(以下「カネマタ
考案」という。)がいかなるものかについての認定をしていない。
(a) 第1次審決及び本件審決が,カネマタ考案について記載した部
分は次の箇所である。
α 第1次審決(甲101)の「3.当審の判断」の「(五)」に,
「甲第11及び15号証に添付の写真の目皿を用いれば甲第
5,11,及び13ないし15号証に添付の写真のようなこんに
ゃく製品が得られ,当該こんにゃく製品は,本件請求項1におい
て特定する「表面筋状薄肉こんにゃく」の要件を満たすものであ
るとの請求人の主張に対して,被請求人は特に反論していない」
(11頁7行∼11行),「昭和57年当時㈱川口屋スーパーチェ
ンにおいて販売されていた「きしめん風こんにゃく」及び昭和5
8,59年当時販売されていた「高級料亭の味しゃぶしゃぶ」と
いう製品の形状を推認することはできない。」(17頁11行∼
13行)との記載がある。
β 本件審決の「3.知財高裁審決取消判決(平成17年(行ケ)
第10061号)の概要」の「(1) 発見品について」に,「発見
品(訴訟段階で提出された「しゃぶしゃぶこんにゃく」の現物で
あって,このこんにゃくの形状,構造が,本件考案に係る「表面
筋状薄肉こんにゃく」と同一であることについては,当事者間に
争いがない。 ) には…」(5頁12行∼14行)との記載があ
る。
(b) 上記(a)αの記載は,「被請求人は特に反論していない」と記
載したのみで,カネマタ考案の認定判断を欠いているものである。
(c) 上記(a)βに記載された第1次判決の概要部分は,認める部分
を確定的な事実とするものではない上,「カネマタ考案の構成」を
認定したものではない。
(d) したがって,本件審決には,カネマタ考案がいかなるものかに
ついて認定されていない。
c さらに,本件審決は,③本件考案とカネマタ考案との一致点及び相
違点の認定並びに④相違点についての認定判断をしていない。
d よって,本件審決は,論理構成自体が不合理であり,違法なものと
して取り消されるべきである。
e また,第1次判決は,カネマタ考案も本件考案も認定することな
く,構成要件の対比もしていないものであって,カネマタ考案の構成
要件と本件考案の構成要件が同一であると判断する法的根拠が示され
ていないから,主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断
を欠いており,この判決に拘束力はない。
(イ) 本件審決がカネマタ考案と本件考案が一致しないことを看過した違
法
以下のとおり,カネマタ考案の製造に用いる目皿は,本件考案に用い
る目皿とは異なるから,カネマタ考案が本件考案と一致するとの認定は
できない。これを看過した本件審決は,違法なものとして取り消される
べきである。
a 被告は,本件無効審判事件において,次の主張をしている。
(a) カネマタ考案の構造(審判請求書[甲103]9頁)
① 直径0.9㎜の孔が0.4∼0.5㎜の間隔で開けられ,その
孔の列が縦,横に数列開けられた目皿の各孔(押し出しノズル)か
ら,
② 太さ3㎜以下に押し出された糸こんにゃく(0.9㎜の孔から
押し出された糸こんにゃくの直径は当然3㎜以下である)を,
即,横方向へ接着させて一体化して,
③ 表面長手方向に,多数の凹条(糸状こんにゃくの接着部分)と凸
状(糸こんにゃくの部分)を有し,
④ 凸条部分の厚肉部が3㎜以下(0.9㎜の孔から押し出される
糸こんにゃくの直径は圧力開放により膨張しても3㎜以下である
)であって,
⑤ 凹条部分の薄肉部が半透明の縞模様を形成してなる表面筋状薄
肉こんにゃく
(b) 本件考案とカネマタ考案の比較(審判請求書[甲103]10
頁下5行∼1行)
本件考案の「個々に独立した多数個のノズルが1∼2列に連接さ
れた押出ノズルから」は,カネマタ考案の「直径0.9㎜の孔が
0.4∼0.5㎜の間隔で開けられ,その孔が数列開けられた目皿
の各孔(押し出しノズル)から」と同一又はほとんど同一構造であ
る。
b 本件考案は,「個々に独立した多数個のノズル」を構成要素として
いる考案である。したがって,本件考案に用いる目皿は,孔間にすき
間がある。
これに対し,被告が主張するカネマタ考案は,「0.9㎜の孔が
0.4∼0.5㎜間隔で開けられた」目皿を用いるものである。ここ
でいう「孔間隔」は,左右の孔の中心間距離を意味する。そうする
と,孔間隔(左右の孔の中心間距離)は,0.4∼0.5㎜であるか
ら,孔間のすき間は,0.4∼0.5㎜−0.9㎜=−0.5∼−
0.4㎜となって,マイナスとなる。したがって,当該目皿では,孔
間にはすき間が発生しないので,オーバーラップ状につながった一体
孔となる。
以上のとおり,カネマタ考案に用いる目皿と本件考案に用いる目皿
とでは,孔間のすき間の有無において異なっている。
c 被告は,本件無効審判事件においてカネマタ考案に係る目皿が検甲
1の目皿であるとして検甲1を提出した。しかし,検甲1の目皿は,
「十数個の孔の間隔(平均間隔)を測定すると,1.35㎜で,横一
列に,その孔が設けられている。」,「表側から測定して,その口径
は0.9から1㎜である。」というもの(甲110)であって,被告
が主張するカネマタ考案に係る目皿(上記bのもの)とは異なってい
る。
第1次判決(甲102)は,カネマタ考案に係る目皿について,
「孔径は0.9㎜,孔の間隔は1㎜前後」と認定した(23頁15行
など)。しかし,この認定は,被告が主張するカネマタ考案に係る目
皿(上記bのもの)とは異なっており,当事者の主張に基づかない事
実認定をしたものであるから,拘束力は生じない。
d 以上のとおり,カネマタ考案が本件考案と一致するとの認定をする
ことはできない
ウ 取消事由2(本件審決が発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範
囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及び発見品は押
されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日
に製造されたものであるとの認定をした違法)
(ア) 本件審決が,発見品の日付印につき,第1次判決の拘束力の範囲外
の事項について拘束力を受けるものと判断した違法
a 第1次判決(甲102)は,第4の2(1)(「発見品について」)
において,次のような趣旨の認定判断をしている(17頁下4行∼2
2頁6行)。
「発見品(訴訟段階で提出された「しゃぶしゃぶこんにゃく」の現物
であって,このこんにゃくの形状,構造が本件考案1及び2によって
製造される「筋組織状こんにゃくと同一であることについては,当事
者間に争いがない)には,「60.10.27製造」又は「60.11.
1製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付印部
分がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情
が認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月2
7日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されると
いうべきである。
原告(本訴の被告)が提出した証拠及び弁論の全趣旨から認定でき
る事実によれば,発見品は,その包装袋に押された日付印のとおり,
昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものである
と認めるのが自然というべきであり,この認定を覆すに足りる的確な
証拠は見当たらない。
発見品が発見されたタイミングがよいこと,発見品の発見によっ
て,原告(本訴の被告)のみならずカネマタ食品が利益を受けること
等は,被告(本訴の原告)の主張するとおりであるとしても,そのこ
とから直ちに,発見品の製造時期がその製造日付とは異なる時期であ
ることが推認されるというわけではないから,被告(本訴の原告)の
主張は,上記の認定判断を左右するものではない。
以上によれば,発見品は,その日付印のとおり,昭和60年10月
27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが相当
である。」
b しかし,カネマタ食品が,発見品の押印日付当時,発見品の内容物
・外観(日付を含む)のものを定常的に製造していたこと,発見品が
そのうちに含まれるものであることを認定をしなければ,発見品がそ
の日付印の日に製造されたものと認めることはできない。
ところが,第1次判決は,発見品の製造及び製造に至るまでの事実
については,上記aの「発見品について」の認定判断とは異なる,同
判決第4の2(2) (「本件公然実施の事実について」)ア(ア)∼(オ)
で認定している。
したがって,発見品の製造及び製造に至るまでの事実は,発見品が
その日付印の日に製造されたものであるとの認定に関し,第1次判決
の拘束力の範囲外である。
さらに,第1次判決が,第4の2(1)(「発見品について」)にお
いて認定しているイ(ア)∼(キ)の事実は「発見品自体」に係るもので
あって,「日付印部分」に係るものではない。第1次判決は,「発見
品自体」又は「日付印部分」と前置きしながら,「日付印部分」につ
いては全く審理していない。したがって,発見品の「日付印部分」も
第1次判決の拘束力の範囲外である。
本件審決は,以上のような第1次判決の拘束力の範囲外の事項につ
いて,拘束力を受けるものとして判断をしているから,違法なものと
して取り消されるべきである。
(イ) 発見品は,押されている日付に製造されたものでないにもかかわら
ず,本件審決は,その日に製造されたものであるとの認定をした違法
a 第1次訴訟における,発見品の日付印に関する主張立証の経緯は,
次のとおりであった。
(a) 被告は,第1次訴訟において,発見品の製造日は甲40(本訴
の甲112)の回転式ゴム印と同類の回転式ゴム印で刻印した旨を
主張した(準備書面(1)[甲111]30頁13行∼15行)が,
実際に用いたゴム印及びスタンプ台を提示しなかった。
(b) そこで,原告が,被告の主張を前提とすると,回転式ゴム印表
示するために特殊なスタンプインクを用いていたことになる,発見
品にゴム印で日付が押印されていたことは,不自然である,と指摘
した(第2準備書面[甲113]4頁2行∼下5行)。
(c) そうすると,被告はカネマタ食品が使用していたスタンプ台の
インキはシャチハタ株式会社(以下「シャチハタ」という。)の不
滅インキであると主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下4行
∼3行)。
(d) 被告は,発見品の日付印と新たに押された日付印のインキの違
いを判別する試験結果(甲121[本訴の甲117])を提出した
が,その試験において,不滅インキではなくTATインキを用い
た。被告代理人は,TATインキの性能は,発見品に使用された当
時の不滅インキとほぼ同じであると説明した。
(e) 原告は,被告が主張する「不滅インキ」とは乙7(本訴の甲1
20)乙8(本訴の甲121)の製品であるとして写真を提示した
(平成17年3月22日付け最終準備書面[甲119]22頁11
行∼12行)。被告はこれについて全く反論しておらず,発見品に
使用した不滅インキの種類を,原告が提示した上記乙7及び乙8の
製品であることを自認した。
(f) 被告は,財団法人化学物質評価研究機構が行った,発見品の日
付印と新たに押された日付印のインキの違いを判別する試験報告書
(甲124[本訴の甲123])を提出したが,上記試験報告書に
は,上記乙7及び乙8の製品とは異なる「多目的タイプ 強着スタ
ンプ台 タート ATG−3 油性顔料系 黒」の写真が載せられて
いる。
b 以上の第1次訴訟の審理を通じて,原告は,被告の主張立証の矛盾
点,不自然な点を指摘していた。それにもかかわらず,第1次判決
は,「日付印部分」そのものの真偽を審理,判断しなかった。第1次
判決には,「日付印部分」の真偽の審理,判断の遺脱があったことが
明らかである。
c また,第1次訴訟では,被告は,次の3主張をしたのであり,これ
を立証する必要があった。しかし,被告は,③について陳述書を提示
したのみであり,①と②を立証していない。
① 押印期日が 昭和60年10月27日,昭和60年11月1日で
あること
② スタンプインキはシャチハタの不滅インキであること
③ ゴム印で数人で手押ししたものであること
d 上記aの発見品の「日付印部分」に関する被告の主張立証には,次
のとおり矛盾点,不自然な点がある。
(a) 被告は,発見品の「日付印」に不滅インキを用いたと主張しな
がら,不滅インキスタンプ台を証拠として提示しないばかりか,押
印に用いたという不滅インキも特定しておらず,原告が提出した上
記乙7及び乙8に反論もしていない。
(b) 被告は,発見品の「日付印」に使用したものと「ほぼ同じ性能
である」として,TATインキを試験に使用した。「ほぼ同じ性能
である」との主張は,押印に用いられていなければならないインキ
とは性能・成分が異なるということを被告が知っているということ
である。
(c) 原告が提出した上記乙7及び乙8の製品である「不滅インキ
プラスチック用 SFP」は,現在は「タートインキ プラスチッ
ク用 STP」との名称で商品として存在している。ところが,財
団法人化学物質評価研究機構が行った試験報告書に写真が載せられ
ているものは,「多目的タイプ 強着スタンプ台 タート ATG
−3 油性顔料系 黒」である。「不滅インキ プラスチック用
SFP」と「多目的タイプ 強着スタンプ台 タート ATG−3
油性顔料系 黒」とは,成分・用途が異なる。
押印比較試験は同一性能のスタンプインキを用いなければなら
ず,かつ,当時のスタンプインキが現存するにもかかわらず,上記
試験報告書の試験は,これを用いずに試験をしている。財団法人化
学物質評価研究機構も専門業者として当然その常識を備えているは
ずであるが,試験報告書にはインクの同一性を前提としたことの記
載はない。
(d) 発見品の押印に用いられたというシャチハタのスタンプインキ
は,インキの製造時期からして,「不滅インキ プラスチック用」
しかありえないにもかかわらず,被告がこれを全く立証しようとし
ないことからして,発見品の「日付印」には押印日付当時存在して
いなかった「TATインキ」が用いられていることが容易に推測さ
れる。
被告が実験に使用した「多目的タイプ 強着スタンプ台 タート
ATG−3 油性顔料系 黒」は,発見品に押されたスタンプイン
クと一致させるためのものとしか考えられない。
(e) 被告が発見品の「日付印」のインキとほぼ同じ性能であるとす
る「多目的タイプ 強着スタンプ台 タート ATG−3 油性顔
料系 黒」を用いてポリエチレン,ナイロン等のプラスチック類へ
なつ印した場合の印影乾燥時間は「5∼10分」となっている(甲
136)。そうすると,印字部分のインクが乾いて包装用フィルム
に定着するまでその印字部を触れられないし,印字部を重ねられな
いという非効率的作業をカネマタ食品が行っていたことになり,こ
れは製造業者の常識から逸脱している。
e 発見品には,被告の他の製品では見られない「不滅インキのゴム
印」が押されている。また,被告は,孔径が0.9㎜の目皿では,目
詰まりが激しく連続稼働できないから,孔径が1.5㎜の目皿に変え
たと主張立証しているにもかかわらず,発見品は,孔径が0.9㎜の
目皿を用いて製造されたものである。これらは,発見品がその日付け
の日に製造されたものでないというべき「特段の事情」となる。
f さらに,第1次訴訟における被告の主張立証には,次のような虚偽
がある。
(a) ハンドラベラーによる日付ラベルの貼付けについて
被告は,第1次訴訟において,「カネマタ食品がゴム印を押して
いたのは販売店からの要請による。ラベルの日付は剥がれ易いこ
と,張り替えができることから,当時,大手販売店は包装袋に直接
印を押すよう要請してきた。カネマタ食品はそれに従っただけであ
る。」と主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下11行∼8
行)。
しかし,そのような要請をした販売店も担当者も不明である。証
明は陳述書によるものだけであって,そこにはいかようにでも記載
できるのである。要請があったことについて信用できる証拠は全く
ない。
そして,当時カネマタ食品はラベルを張り替えようとしてもそれ
ができない特殊カットしたラベル(SA専用ラベル)を使用してい
たことが明らかになった(甲138,139)。したがって,被告
の上記主張は根拠がない。
なお,カネマタ食品は,現在でも張替えが可能な透明ラベルを貼
り付けた商品を販売している(甲143∼146)。
(b) 包装機について
被告は,第1次訴訟において,「カネマタ食品は,カネマタ食品
製造の各種こんにゃくの包装に,中央包装機株式会社の三方自動包
装機を使用してきた。その機械(発見品を包装した包装機)は包装
フィルムの開口部を,5か所シールする ( 5本のシール線が入
る)機械であり,包装時に製造日を印字できない方式のものであっ
た 」 旨 の 主 張 を し た ( 準 備 書 面 (2)[ 甲 1 4 8 ] 4 頁 6 行 ∼ 9
行)。
しかし,中央包装機株式会社の三方自動包装機カタログ(甲14
9,150)によれば,5本のシール線が入るというMS−602
型,3本のシール線が入るというMS−601型は,包装速度が異
なるのみで,他の寸法・仕様は全く同じである。
そして,いずれにも,「仕様」の「標準装備品」の欄に,「印字
装置 ( ゴム印 ) 」と記載され,「オプション ( 別仕様 ) 」の欄に
「ホットプリンター・・・最大4段(20 × 30㎜)」と記載されて
いる。
被告提出の,中央包装機株式会社の「三方自動包装機製造,販売
証明書」(甲151)には,「製造指示・仕様書」が添付されてい
るが,MS−602型の「製造指示・仕様書」には,「印字装置」
の項に「背張り」を丸で囲んである。これはロールフィルムから形
成される縦シールの部分,すなわち「背張り」となる部分に印字す
るものと考えられる。これに対して,MS−601型の「製造指示
・仕様書」には,「印字装置」の項に「背張り(603不適) 表
面印字機 AA(直角打ちのみ)」と記載された中で「AA」を丸
で囲んである。
以上によると,カネマタ食品は,MS−602型では「背張り」
部分にゴム印で印字する標準装備仕様で,MS−601型ではホッ
トプリンターで印字するオプション装備仕様で購入したものと考え
られる。
したがって,発見品の包装に用いた包装機について,「包装時に
製造日を印字できない方式のものであった」との主張は,虚偽であ
る。
(c) 「いび特産こんにゃく」と日付表示について
発見品と同時に発見したと被告が主張している「いび特産こんに
ゃく」には,「61 .8.11製造」と印字されており(甲140の
1),しかも,その包装の熱シール跡は5本線である(甲154)
から,「いび特産こんにゃく」と発見品は,同じ包装機を使って包
装していた事実が明らかとなる。
そして,「いび特産こんにゃく」の包装材に印字されている
「61.8.11製造」という製造年月日表示は機械印字である。
このように「いび特産こんにゃく」の製造年月日を機械印字して
いる事実が認められるにもかかわらず,同じ包装機を使う発見品の
製造年月が機械印字でないことを説明できる理由はない。
(d) カネマタ食品が押印に用いたスタンプインクについて
カネマタ食品が昭和58年12月5日に三星セロファン株式会社
から購入した株式会社オクイが販売する「ヘビ印不滅スタンプイン
ク」は,手押スタンパー用のインクであったか,又は,日付押印用
に機械に組み込まれたスタンパー用のインクであった(甲15
5)。このインクの乾燥時間は3秒である。
被告が発見品に押印してあるインクとほぼ同じ性能であるとして
いるシャチハタの「多目的タイプ強着スタンプ台タート ATG−
3 油性顔料系 黒」のインキの印影乾燥時間は,既に指摘したと
おり,「5∼10分」であるのに対し,上記の「ヘビ印不滅スタン
プインク」の乾燥時間は3秒と格段に短いから,常識的に考えて,
製造業者がそのいずれを選択して営業用に使うかは明白である。
g そして,発見品は事後的に製造可能である。
カネマタ食品は,現在の製造工場(新工場)において,公然実施を
主張する関係者らと平成14年4月10日に孔径0.9㎜の目皿を用
いて復元実験をして,こんにゃくを製造している(本件無効審判事件
におけるAの証人調書[甲104]27頁∼28頁)ところ,発見品
を事後的に製造することが可能である条件が次のとおり存する。
包材:被告は「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の初版デザインのフィ
ルムは使い切って残っていなかったと主張するが,他製品の
包装用ロール状フィルムが残っているから,「しゃぶしゃぶ
用こんにゃく」の初版デザインの包装用フィルムも実際には
残っていたと考えられる。これを否定し得る証拠はない。
目皿:押出孔径0.9㎜の目皿は現存する。
包装機:MS−602型包装機も現存しており使用可能である。
印字:印字設定をしなければ機械で印字されない。ゴム印による日
付は製造後いつの時点でも押印することができるものであ
る。
中身のこんにゃくの状況については,市販品の中には購入時点にお
いて既にこんにゃく同士が一体となっているものがある(甲225の
1∼4)上,こんにゃくが弾力性を減少するのに20年以上を必要と
するものではないことは,被告自らが「保存できない」と主張してい
たことからも明らかである。発見品の内容物に弾力性が失われていた
ことは20年という時間経過の証拠とならない。
エ 取消事由3(本件審決がカネマタ食品による公然実施の事実について第
1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した
違法,及びカネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず
本件審決が公然実施の事実があったものと認定した違法)
(ア) 本件審決が,カネマタ食品による公然実施の事実について,第1次
判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違
法
a 第1次判決(甲102)は,カネマタ食品による公然実施の事実に
ついて,第4の2(2)において,次のような趣旨の認定判断をしてい
る(22頁8行∼29頁10行)。
「発見品は,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造され
たものであるとの上記認定を前提に,本件公然実施の事実(カネマタ
食品が昭和56年ころに本件考案1及び2と同様の方法及び装置を開
発し,それにより,こんにゃくを製造販売していた事実)の有無につ
いて検討すると,原告(本訴の被告)が提出した証拠及び弁論の全趣
旨から認定できる事実を総合すれば,カネマタ食品は,本件考案1と
同一の筋組織状こんにゃくの製造方法及び本件考案2と同一の筋組織
状こんにゃくの製造装置に係る考案を,遅くとも,カネマタ食品が本
件こんにゃく(発見品と同じ形状,構造のこんにゃく)の製造販売を
本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していた
ものと認めるのが相当である。
したがって,本件公然実施の事実を認めるに足りないとした審決の
認定判断は,結果的に誤りであったというほかはなく,原告(本訴の
被告)の取消事由の主張は理由があるから,審決は,違法として取消
しを免れない。」
b 第1次判決は,上記のとおり,「遅くとも,カネマタ食品が本件こ
んにゃくの製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでに
は,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判断した。
しかし,当事者は,「本件目皿(Aが本件こんにゃく用として当初
に作成した目皿)を本格的製造に用いることが可能である。」との主
張をしておらず,第1次判決も「本件目皿を本格的製造に用いること
が可能である。」との認定をしていない。
したがって,「本件目皿を本格的製造に用いることが可能であ
る。」という点は,第1次判決の拘束力の範囲外である。
c 第1次判決では,カネマタ食品が松田機械工業株式会社(以下「松
田機械」という。)から昭和56年5月11日に購入した4枚の孔の
開いていない目皿のうちから,本件目皿を製作したとの認定をしてい
る(23頁8行∼18行)。そして,「…昭和56年9月2日に孔の
開いていない目皿4枚を,さらに昭和56年10月30日にも同様の
目皿3枚を購入し,Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目
皿の製作作業を続けた。」との認定をしている(23頁19行∼22
行)。
しかし,本件目皿の製作においてAは何の試行錯誤もしていないこ
とが明らかであるから,試行錯誤に関する第1次判決の上記認定は,
当事者の主張及び証拠に基づかないものであって,第1次判決の拘束
力の範囲外である。
d 第1次判決では,カネマタ考案について,「製造方法は…糸こんに
ゃく用の目皿の代わりに,…本件目皿(孔間隔は1㎜前後 )を取り付
けて行う方法であった。」との認定をしている(23頁下2行∼24
頁2行)。
しかし,本件目皿についての「孔間隔は1㎜前後」との認定は,被
告の主張に基づかないものであるから,第1次判決の拘束力の範囲外
である。
e 第1次判決は,「このほか,被告(本訴の原告)は,カネマタ食品
が本件実用新案登録を無効にすることにつき利害関係を有し,原告
(本訴の被告)の訴訟追行に協力し続けていること等を理由として,
A作成の陳述書(甲80[本訴の甲162])その他の関係証拠の信
用性を論難するが,そもそも,…昭和60年10月又は11月に製造
された発見品の存在が認められ,これがA作成の陳述書(甲80)を
始めとする関係証拠と符合することからすると,それらの証拠は相互
にその信用性を高め合うものであるということができる…」と判断し
ている(27頁下9行∼3行)。
しかし,具体的にどの認定事実をもって「関係証拠と符合する」と
判断したのかを示しておらず,第1次判決の拘束力の範囲外である。
f 本件審決は,以上のような第1次判決の拘束力の範囲外の事項につ
いて,拘束力が及ぶとして審理をせずに,カネマタ食品による公然実
施の事実を認めている違法があり,取消しを免れない。
(イ) カネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず,本
件審決が公然実施の事実があったものと認定した違法
本件審決は,第1次判決の拘束力を理由として,カネマタ食品による
公然実施の事実があったものと認定しているが,この認定には,次のと
おり誤りがある。
a 目皿使用に関する第1次判決の認定判断の矛盾
(a) 目皿使用に関する被告及びカネマタ食品の主張の経緯
① 被告は,本件無効審判事件の平成15年3月11日付け上申書
(甲165)において,「カネマタ食品は,しゃぶしゃぶ用こん
にゃく製造用の目皿を,最初に1枚,次に1枚,その後2枚製作
した。最初の2枚は,孔径0.9㎜の目皿であった。後の2枚
は,目詰まりしないように,孔径を1.5㎜とした。」旨の主張
をした(2頁5行∼13行)が,孔径1.5㎜のスリット付き目
皿2枚についての証拠を提示しなかった。
② 被告は,大阪高裁平成14年(ネ)第1693号事件(控訴人
:被告,被控訴人:日本繊食有限会社ほか1名)の平成15年2
月27日付け準備書面(甲166)において,昭和56年に買い
付けた巣板11枚のうち,しゃぶしゃぶ用こんにゃく目皿として
使用できたのは,試作品を含めて2枚と主張した(2頁下7行∼
6行)が,その孔径1.5㎜のスリット付き目皿2枚の証拠を提
示しなかった。
③ カネマタ食品は,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件
(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)の平
成16年8月31日付け答弁書(甲167)において,「11枚
の巣板のうち,2枚を使用して,こんにゃく用の孔径0.9㎜で
孔間がスリットで連通されてない試作段階の目皿を作り,2枚を
使用して,孔径1.5㎜で孔間が0.2㎜のスリットで連通した
目皿を作り,残り7枚のうち6枚は,異なる形状のこんにゃくの
新規開発のための目皿の試作に使用した。残り1枚は未加工のま
ま被告で保管していたが,平成16年8月に特許実施例の実験の
ため孔をあけた。」旨の主張をした(8頁9行∼15行)。しか
し,11枚中の3枚(孔径1.5㎜のスリット付き目皿2枚,未
加工1枚)の証拠を提示しなかった。
カネマタ食品は,同事件において,平成17年2月14日にな
って,孔径1.5㎜のスリット付き目皿2枚(乙78の3,4[
本訴の甲169の3,4])及び平成16年8月に穴あけしたと
いう実験用目皿1枚を含む11枚の目皿の写真を提示した(乙7
8の1∼11[本訴の甲169の1∼11])。そして,カネマ
タ食品は,平成17年2月14日付け準備書面(甲168)にお
いて,孔径0.9㎜の目皿のことを「孔径0.9㎜で孔間にスリ
ットで連通されてない試作段階の目皿」と述べ,「こんにゃくを
試作」と述べて,孔径0.9㎜の目皿及びそれを用いて製造した
こんにゃくのいずれもが試作段階のものであったとの主張をした
(8頁下2行∼9頁1行)。
(b) 以上により,孔径0.9㎜の目皿は試作段階のものであり,カ
ネマタ食品がしゃぶしゃぶ用こんにゃくを製造することが可能にな
った目皿は,孔径1.5㎜のスリット付き目皿であったことが明ら
かである。
(c) 第1次判決(甲102)は,孔径0.9㎜の目皿から孔径1.
5㎜の目皿に切替えた時期について,次のように判断している(2
5頁下2行∼26頁7行)。
「また,被告(本訴の原告)は,昭和62年9月5日に,松田機械
からカネマタ食品に対し「無地スイタ」2枚が販売された事実を指
摘するが,Aが,当初,孔間隔を0.9㎜の本件目皿を製作した
後,孔間隔を1.5㎜のものを新たに製作したことは関係証拠から
明らかであるところ,後者の製作時期が昭和62年であったとすれ
ば,上記「無地スイタ」販売の事実とも,格別,矛盾は生じない
し,仮に,そうでないとしても,昭和62年9月ころに,カネマタ
食品が,本件こんにゃく製造用の目皿を追加で製作した可能性も存
するから,この点に関する被告(本訴の原告)の指摘は,必ずし
も,…認定判断を左右するものではない。」(孔間隔0.9㎜及び
1.5㎜は,孔径0.9㎜及び1.5㎜の誤りと思われる)
しかし,上記のとおり,被告は,昭和56年に購入した巣板11
枚の中から孔径1.5㎜の目皿を加工したと主張しているから,上
記の第1次判決の判断は,当事者の主張に基づかないものである。
(d) 第1次判決は,「さらに,被告(本訴の原告)は,本件審判事
件における証人尋問において,証人Aが,「巣板は,松田機械から
買った11枚以外は,ほかにはどこからも買ってない」(甲29[
本訴の甲104]の6頁)旨供述していることを指摘する。しかし
ながら,被告(本訴の原告)の指摘に係るAの供述内容は,本件目
皿の素材として,当初,松田機械から購入した孔の開いていない目
皿の枚数についてのものであると解することができるから,この点
の指摘も,…認定判断を左右するに足りるものではない。」と判断
している(26頁8行∼14行)。
ここでいう「当初」とは,昭和56年であると考えられるので,
「後者の製作時期が昭和62年であったとすれば」との前記仮定に
よる第1次判決の判断は,完全に矛盾し破綻している。
(e) さらに,第1次判決は,「イ 上記アの認定事実を総合すれ
ば,カネマタ食品は,本件考案1と同一の筋組織状こんにゃくの製
造方法及び本件考案2と同一の筋組織状こんにゃくの製造装置に係
る考案を,遅くとも,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を
本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施してい
たものと認めるのが相当である。」と判断している(24頁下9行
∼6行)。
しかし,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開
始したのは,孔径0.9㎜の目皿では詰まって自動包装機にかから
ないからとの理由で,孔径1.5㎜の目皿を作ってからである。孔
径1.5㎜の目皿を作った時期が昭和62年であったとすれば,昭
和58年11月ころまでに本格的に本件こんにゃくの製造販売を開
始したとの判断と矛盾する。
b 旧工場の事務室の位置に関する被告の主張が虚偽であること等
(a) 本件無効審判事件の審判請求書(甲103)において,被告
は,カネマタの「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」製造に関する公然実
施を次のように主張していた(11頁下4行∼12頁14行)。
「旧工場の入り口,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の製造設備,事
務所等の配置は,甲第5号証,甲第6号証のとおりである。事務所
はしゃぶしゃぶ用こんにゃく製造設備の奥にあり,事務所に通じる
通路は当該製造設備の横にあったため,事務所に行き来する人は…
誰もが自由にしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造現場を見ることがで
きた。」
(b) 第1次訴訟において,被告の代理人であった小林正治弁理士
は,宣誓供述書(甲153)にビデオテープを添付し,ビデオテー
プの撮影収録目的を,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」4個を発見し
たカネマタ食品の旧工場,同工場内の発見現場及び発見状況を明ら
かにすることである旨の説明をしている。このビデオテープからカ
ネマタ食品の旧工場内の状況を再現すると,道路側に最も近い位置
に事務室があり,その直近部分には両開きの出入口が存在するか
ら,外来者が事務所へ行く際にしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造現
場を見ることはなかった。被告が事務所であると主張していた部屋
は休憩室であって,事務所ではない。
(c) 本件考案が公然実施されたと認められるためには,製造現場
において実際に目皿から糸こんにゃくが押し出されて一体となって
いる状況を見たことの証拠がなければならない。なぜなら,第1次
判決は,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された
後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのた
め,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付い
てしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造
業者にとって周知の事項であった。」と認定している(22頁下9
行∼5行)が,これは,後記オ(ア)のとおり周知の事実ではなく,
当時,製品となったこんにゃくを見たとしても,「直径0.9㎜の
孔が0.4∼0.5㎜の間隔で開けられ,その孔の列が縦,横に数
列開けられた目皿の各孔(押し出しノズル)から,」,「太さ3㎜以
下に押し出された糸こんにゃく(0.9㎜の孔から押し出された糸
こんにゃくの直径は当然3㎜以下である)を,即,横方向へ接着さ
せて一体化して,」という構成を有することが分からないからであ
る。
しかし,カネマタ食品の工場において,こんにゃくの製造中に,
目皿からこんにゃくが吐出している状況を確認することはできなか
った。
c カネマタ食品の公然実施の事実が存しなかったことを示す事実
カネマタ食品の公然実施の事実が存しなかったことを示す次のよう
な事実がある。
(a) 同業者の特許及び実用新案登録の出願と異議申立ての不存在
α 原告は,「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製
造装置」とする発明について,平成7年3月9日,特許第191
2343号として設定登録を受けた(以下「本件特許」とい
う。)。
β 被告を含むこんにゃく機械業者らは,平成3年ころから,本件
特許に用いる目皿を全国的に販売した。
平成6,7年には,本件特許に係る発明により製造した本件実
用新案登録に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」を用いて商品化し
た「蒟蒻と海藻サラダ」が大ブームになった。
平成6年5月に,本件特許の公告がされた。また,平成7年2
月に,本件実用新案登録の公告がされた。
被告らこんにゃく機械業者は,本件特許及び本件実用新案登録
の侵害を免れるために,今までは独立孔であった押出孔を細幅の
スリットで連通した形状の押出孔の目皿を販売するとともに,ス
リットで連通した形状の押出孔の目皿,その目皿で製造したこん
にゃく等に関する,次の各特許,実用新案登録の出願をした。
① 出願人:被告
権利の種類:実用新案登録(甲178)
登録番号:第3015550号
名称:「多条蒟蒻」
出願日:平成7年3月7日
② 出願人:オリヒロ株式会社(甲179)
権利の種類:実用新案登録番号第3015566号
名称:「こんにゃく成形用目皿」
出願日:平成7年3月8日
③ 出願人:松田機械
権利の種類:特許(審査請求せず)(甲180)
名称:「帯状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる目皿」
出願日:平成7年9月25日
④ 出願人:有限会社園工作所
権利の種類:特許(審査請求せず)(甲184)
名称:「こんにゃく用押出成形板」
出願日:平成7年5月25日
なお,株式会社伏見屋は,原告が代表取締役である日本繊食有
限会社が,本件特許及び本件実用新案登録に係るこんにゃくを最
初に紹介したこんにゃく業者で,その後は,同種のこんにゃくを
自ら製造販売していた。同社は,平成3年7月25日に,「帯状
こんにゃくの製造方法及び絞り出しノズル並びに帯状こんにゃく
及び帯状こんにゃくを主成分とする低カロリー食品」との名称の
特許を出願している(甲183)。
γ 松田機械の関係者は,カネマタ食品の工場に入って作業をして
いたから,カネマタ食品が,昭和56年にしゃぶしゃぶ用こんに
ゃく製造用目皿を作って以来,4枚以上のしゃぶしゃぶ用こんに
ゃく用目皿を製作し,それを旧工場において誰でも見ることがで
きる状態で使用していたとすれば,松田機械の関係者も,この目
皿を見ていたものである。
また,松田機械は,本件特許に係る目皿を販売していた。
カネマタ食品も松田機械も共に特許に関する知識を有していた
から,両者のうちいずれか又は両者が共同して本件特許及び本件
実用新案登録につき公然実施を主張して異議申立てをするはずで
ある。
しかし,両者は異議申立てをしておらず,逆に,松田機械は,
被告と同様に,上記のとおり,侵害を回避するための目皿を販売
し,特許出願をしていた。
この事実は,松田機械が本件特許及び本件実用新案登録の出願
前には公然実施の事実が無かったことを知っていたことを如実に
物語るものである。
なお,上記β記載の松田機械以外の業者も,本件特許及び本件
実用新案登録について異議申立てをしていない。
(b) カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」が「全国製品収
集サンプルリスト」に掲載されていないこと
平成2年に兵庫県蒟蒻協同組合が作成した「全国製品収集サンプ
ルリスト」(甲185)には,各種こんにゃく製品が紹介されてい
るが,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」や被告の主張
によればそれと同種の製品である本件実用新案登録に係る製品は掲
載されていない。
こんにゃく粉を扱う業者は特定地域に偏在している傾向にあり,
これらの業者は全国のこんにゃく製造業者を相手に営業している。
そして,こんにゃく製造機械の製造販売業者は数社で,全国のこん
にゃく製造業者を相手に取引している。したがって,こんにゃく業
界の各種情報の伝播は速く広いものである。
それにもかかわらず,カネマタ食品が本格的に「しゃぶしゃぶ用
こんにゃく」を製造販売したという時期(昭和58年)から7年後
に作成された上記リストには,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こ
んにゃく」や本件実用新案登録に係る製品は掲載されていない。
このような経緯からすると,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こ
んにゃく」は,同業者がまねをする程に価値のあるものではなく,
従来品と大差のないもの,すなわち,本件実用新案登録に係るもの
ではなかったということがわかる。
オ 取消事由4(その他の第1次判決の認定の誤り)
カネマタ食品による公然実施の事実に関する被告の主張と証拠は,次の
とおり,「着想 → 巣板の購入 → 加工 → 試作・試行 → 製造 → 販
売」のいずれの過程においても,矛盾しており,カネマタ食品による公然
実施の事実を認めた第1次判決の認定は誤っている。
(ア) 着想
カネマタ食品のAの証明書(甲8)には,孔や溝から押し出されたこ
んにゃくのりは,膨張して,押し出された孔や溝よりも少し大きくな
る,直径1㎜の孔から押し出された糸こんにゃくのりは,押し出し直後
に膨張して1.5㎜程度の太さになる,3㎜の糸こんにゃくを作るとき
は,2∼2.5㎜の孔の目皿を使用していた旨の記載がある。ところ
が,Aは,本件無効審判請求事件において,「できるだけへっつけたい
と。」(甲104の20頁下11行など),「自分の手の指を見まし
た。だから指がですね,えー,このようにへっつくということで,これ
を応用したらいいんかと。」(甲104の2頁下13行∼12行)との
証言をしている。証明書(甲8)では,膨張を考慮して孔と孔を離す旨
の記載がされていたのに,証言(甲104)では,そのような発想はな
い。証明書(甲8)の記載は,目皿の孔あけに関する証言と結び付かな
い。
第1次判決(甲102)は,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔
から押し出された後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなる
こと,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが
引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく
製造業者にとって周知の事項であった。」と認定している(22頁下9
行∼5行)が,これは周知の事実ではない。なぜなら,通常,糸こんに
ゃく用目皿の押出孔の孔間隔は10㎜程度であり(甲162の写真
1),これは上記甲8の証明書記載の膨張程度から考えても,膨張で引
っ付くことはないからである。「誤って複数の糸こんにゃくが引っ付い
てしまう」のは,「そのため」(膨張のため)ではないのである。
(イ) 巣板の購入
a 「巣板」の用語等
本件無効審判事件において,被告は,「「巣板」という用語は,松
田機械工業が使い始めた用語であり,松田機械に関連する業者であれ
ば知っている筈である」(上申書(5)7頁)などと主張し,「巣板」
という用語が業界一般に使用されているかのような主張をしている。
また,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件(原告:日本繊食
有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)においては,カネマタ食品
は「業界では,孔の有無にかかわらず,通称「巣板」と称されてい
る 」 と 主 張 し て い る ( 準 備 書 面 (1)[ 甲 1 6 8 ] 8頁 9 行 ∼ 1 0
行)。しかし,その立証はない。
「巣板」を販売している松田機械自らが,公的に「目皿」との用語
を用いている(前記エ(イ)c(a)βの松田機械出願の特許の考案の名
称参照)。また,被告の製作図(甲106の判決書添付図面)及び納
品書(甲189)には,「目皿」という用語が使われているし,オリ
ヒロ株式会社の納品書(甲190)にも,「目皿」という用語が使わ
れている。
第1次訴訟において,被告は,「松田機械以外の他社製の目皿は甲
第41号証(本訴の甲187),甲第42号証(本訴の甲188)の
ように,松田機械が販売している巣板或いは目皿とは形状,厚さが異
なること等からすれば,無効検甲第1号証の目皿の素材であったムク
の巣板はカネマタが松田機械から購入したものであることが裏付けら
れる。」と主張している(準備書面(1)[甲111]32頁下8行∼
5行)。
しかし,被告が前橋地裁高崎支部平成7年(ワ)第487号事件で
提示した目皿図面(甲106の判決書添付図面)を見れば,被告は様
々な目皿を販売しており,この中には,厚さは異なるが松田機械がカ
ネマタへ販売したとする直径137㎜の目皿も含まれているから,上
記主張の虚偽は一目瞭然である。目皿はこんにゃく製造業者それぞれ
の要望により,製造設備,製造条件,製造品目に合わせて製造し納品
されるものであり,形状,厚さから購入先が裏付けられるはずがな
い。
b 巣板購入時期と孔あけ時期の関係
第1次判決は,「カネマタ食品は,昭和56年5月11日,松田機
械から孔の開いていない目皿を4枚購入し,そのころ,Aは,これを
素材として,上記孔間隔を狭くした目皿の製作を開始した。…ドリル
が曲がったり折れたりせず,かつ,隣り合う孔同士がつながらないよ
うにしながら孔を開けるのは大変な作業であり,1枚の目皿に300
個以上の孔を開け終わるのに数か月を要した。」と認定している(2
3頁8行∼18行)。
Aは松田機械から「巣板が着き次第」最初の1枚の孔あけを開始し
た(本件無効審判事件におけるAの証人調書[甲104]11頁28
行)のであり,孔あけを開始した時点で,作業に時間がかかることは
わかっていた。Aは,業務終了後に孔あけ作業を行っており,1枚目
の目皿の孔あけが完了した昭和56年11月ころまでに,他の目皿を
孔あけしたことは認められない。2枚目の目皿の孔あけ開始時期は5
6年11月以降,完了時期は昭和57年3月ころである (上記甲10
4の18頁下から8行)。
カネマタ食品は,最初に購入した巣板4枚のうち3枚残っているの
に,昭和56年9月2日に加工用のムクの巣板4枚を,さらに昭和5
6年10月30日に3枚を買い増したことになる。2枚目の目皿の孔
あけを開始する時点で,計10枚の未加工巣板が残っていたのであ
る。
また,カネマタ食品が昭和56年に購入した上記11枚の巣板から
加工したという目皿には,孔あけを途中で中止した失敗作がない。
以上の事実は,巣板を11枚購入したことについて,Aが「必要で
はなかったんですけども」,「失敗ということもありますと」,「何
かもっとほかの物が,あー,できないかっていう可能性を求めまし
て」,「随時ちょっと買い入れました」と証言していること(上記甲
104の6頁13行∼22行)と矛盾する。
(ウ) 目皿加工
a 被告は,第1次訴訟の準備書面(1)(甲111)において,「A氏
は陳述書(甲第19号証[本訴の甲191])で陳述しているように
…,ドリルをドリルスタンドにセットしてバンドで締め付け…ドリル
に取り付けたドリルの刃で目皿に孔をあけた。」と主張し(33頁1
2行∼16行),その証拠としてテーブルの写真(甲192)と木の
台の写真(甲193)を提出した。
しかしながら,Aは,平成16年4月12日付けの陳述書(甲19
1)において,被告が提示した証拠物について,「…この写真のスタ
ンドは古いため巣板を正規の位置にのせることができません…」と否
定している。それが,平成16年12月21日付けの陳述書(甲16
2)では,「この写真のスタンドは古くて錆付いて昇降できないた
め」と陳述を変えている。そして,同陳述書において,「参考までに
巣板をのせた写真のカラーコピー1を本書に添付します。このスタン
ドはこの写真撮影のために購入した新品です」と陳述している。
原告は,第1次取消訴訟において,「甲36(本訴の甲192)や
甲37(本訴の甲193)の道具では「目皿」の孔あけ作業はできな
い事実をA氏本人が認めているのである。」と主張していた(第2準
備書面[甲113]9頁下2行∼1行)。
b Aはボール盤を30度に傾斜させてその上へ巣板をセットして穴あ
けした旨を述べている(本件無効審判事件におけるAの証人調書[甲
104]9頁12行)が,原告は,第1次取消訴訟において,「テー
ブルに台を30度傾斜させてセットしようとすれば台がテーブルから
外れてしまうものである」(第2準備書面[甲113]10頁3行∼
4行)と主張していた。
甲191及び甲162の写真6でテーブルと木の台との関係を見れ
ば,木の台を30度傾斜させようとすれば木の台がバイス部から外れ
て保持できないことが明らかである。
c 被告が11枚の巣板から孔あけした目皿であるとして提示した写真
のうちの4枚の目皿の表裏面に朱肉を塗って転写したものを反転した
もの(甲194の1∼8)によれば,表裏いずれの面にも直径60㎜
の円弧の痕が見られるが,Aが説明している孔あけの方法(甲11の
証明書,甲104の証人調書,甲191の陳述書)では,保持具の痕
であると考えられるこのような円弧痕が付くことはない。したがっ
て,これらの目皿をAが孔あけしたものと認めることはできない。
(エ) 試行錯誤
a 第1次判決は,「Aが試験を行わなかった理由については,原告
(本訴の被告)が主張するとおり,目皿全体の孔開けを完成しないま
ま,通常の糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が
小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外
れてしまうおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとして
も,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなる
ことが予想されることによるものであるとすれば,格別,矛盾なく理
解することができるから,被告(本訴の原告)の上記指摘は,Aの供
述内容等の信用性を減殺するものではないというべきである。…しか
しながら,…Aが,本件目皿の作成に当たり,一定の試行錯誤をした
ことは,同人作成に係る様々な形態の目皿の存在(甲2の23の1∼
7[本訴の甲23の1∼7])によって推認することができるという
べきであるから,この点に関する被告の主張は,その前提を欠くとい
うべきである。」との判断をした(26頁下2行∼27頁下10
行)。
b しかし,甲23の1∼7は,本件目皿の製作に当たり製作されたも
のではなく,その後に製作されたものであり,甲23の1∼6は,使
用もされていないから,甲23の1∼7を試行錯誤の根拠とすること
はできない。そして,「Aが試験を行わなかった」との判断と「本件
目皿の作成に当たり,一定の試行錯誤をした」との判断は矛盾する。
c 上記の第1次判決の「目皿全体の孔開けを完成しないまま,通常の
糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいた
め,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしま
うおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,その
こんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予
想されることによるものである」との認定は,被告の主張に基づくも
のであるが,これは目皿製造業者である被告の独自主張にすぎない。
Aは「糸こんにゃくの製造装置をそのまま使い,目皿だけ換えた。
こんにゃくの硬さ,押出し圧,速度といった方法は何も変えていな
い」と証言しているのみである。カネマタ食品にはもともと設計値な
どない。その証拠にしゃぶしゃぶ用こんにゃく用に最初に孔あけした
と主張する0.9㎜径の目皿と,孔が詰まるからと理由で孔あけした
という1.5㎜径の目皿の,孔径,孔数,孔面積,押出速度の関係,
さらにスリットを設けた経緯が全く不明なのである。被告は,カネマ
タ食品のこんにゃくのりの吐出量さえ明らかにしていない。
d こんにゃく業界において,練機の吐出量が可変であることは常識で
ある。練機にはこんにゃくのりの押出用ポンプが装備されており,練
機の吐出量はこんにゃく製造業者自らが決めるものである。したがっ
て,少量押出しが可能であり,少量押出実験をすることができた。
下限吐出量が4㎏/分の練機が存するのであり,被告の「そのよう
な吐出量の練り機は通常は市販されておらず,特注しない限り入手で
きない。」との主張は虚偽である。
e 被告もカネマタ食品の関係者も,本件考案が利用関係にある本件特
許の本質である糸状こんにゃくのりの吐出膨張による一体化の試行錯
誤について全く述べていない。本件特許明細書(甲228)の第1表
には孔径と間隙について21の条件で押出試験を実施したことが示さ
れているが,カネマタ食品にはこのような試行錯誤は全くない。
(オ) カネマタ食品の製造方法,製造装置
a 押し出したこんにゃくのりを落下させる湯
被告は,本件無効審判事件及び第1次訴訟において,カネマタ食品
のしゃぶしゃぶ用こんにゃく製造方法について,「押出されたこんに
ゃくのりは,目皿の下の流し釜内を流れる湯中に落下させて炊き上げ
て作った。」と主張し,証拠として,Aの証明書 , 陳述書(甲20
8)に添付した写真を提出している。この写真には,目皿からこんに
ゃくのりが真下に押し出されている状況が撮影されている。
これに対し,大阪地裁平成16年(ワ)第7175事件(原告:日
本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)において,カネマタ
食品は,「被告こんにゃくの製法は,目皿から押出された糸状こんに
ゃくが,秒速2.7mの速度で流ている温水(65℃程度)中に投入
されるので,目皿から押出された糸状こんにゃくが温水の流れる方向
に引っ張られ,流水の力(外力)で糸状こんにゃく同士が接着するも
のとすれば,被告こんにゃくの製法は,この点において,本件特許の
構成とは異なり,…」と主張している(準備書面(1)[甲168]2
頁11行∼15行)。
また,無効2005−80151号事件(請求人:カネマタ食品ほ
か)は,カネマタ食品らが本件特許について無効審判請求をしたもの
であるが,同事件において,カネマタ食品らは,「押出されて接触し
たこんにゃくのりは,目皿の下の流し釜内を流れている湯(温度60
∼80℃,流速24m /min:通常の糸こんにゃくの製造と同じ条
件)中に落下させて炊き上げて作った」と主張している(審判請求書
[甲209]31頁14行∼16行)。流速24m /minは,秒速
0.4mである。
以上のとおり,カネマタ食品の製造方法における,押し出したこん
にゃくのりを落下させる湯に関する主張は,その時々で都合のよいよ
うに変わっており,主張に信憑性がない。特に,大阪地裁平成16年
(ワ)第7175事件においては,上記のとおり,カネマタ食品自身
が自らの製法が本件特許の構成とは異なることを主張している。
b 孔径1.5㎜の目皿
(a) 被告は,本件無効審判事件及び第1次訴訟において,カネマタ
食品は,最初に孔あけした孔径0.9㎜の目皿では詰まるので孔径
1.5㎜の目皿を製作したと主張している。
(b) Aは,大阪地裁平成11年(ワ)第12586号事件(原告:
日本繊食有限会社,被告:日本食研株式会社ほかにおいて,「昭和
61年ころからは,乙第30号証(本訴の甲197)に撮影されて
いる目皿の穴の大きくした乙第47号証(本訴の甲198)の目皿
を使用するようになり,現在に至っている。」,「前者では孔が小
さすぎて,こんにゃくのりが詰まるので,孔の大きさを少し大きく
したためであります。」と陳述していた(甲164)。ここでは,
連通孔目皿であることを述べていなかったが,原告に虚偽証拠を見
破られ,後に仕方なく連通孔目皿を提示した。
(c) 被告は,本件無効審判事件において,「前記1番目と2番目の
2枚の目皿は共に孔径0.9㎜,孔間隔(平均)1.35㎜であ
り,後の2枚の目皿はこんにゃくのりが目詰まりしないように孔径
1.5㎜とし,孔間隔は前の2枚と同じにした。」と主張し(平成
15年3月11日付け上申書[甲165]2頁10行∼12行),
さらに,その後,「1.5㎜の孔をあけた目皿は,孔の間隔が広す
ぎたため,その孔から押し出されるこんにゃくが帯状に繋がらずに
間隙の広い部分で切れてしまった。この目皿を使用して繋がった製
品ができるようにするために入れたのが切込みである。」との主張
をした。これらの主張は,「孔径1.5㎜とし孔間隔は前の2枚と
同じにした」にもかかわらず「孔の間隔が広すぎた」という,矛盾
した主張となっている。
(d) Aは,本件無効審判事件の証人尋問において,連通孔の目皿は
「1.5㎜の孔を0.5㎜間隔で開けたものである」旨証言した
(甲104の35頁下6行)。
(e) カネマタ食品は,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件
(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)におい
ては,「孔間を0.2㎜幅のスリットで連通した目皿を2枚手作業
で作った。目皿2枚を交換しながら使用し製造している。」と主張
している(準備書面(1)[甲168]9頁2行∼6行)。しかし,
0.2㎜幅のスリット加工は素人が自分で加工できない。
(f) 以上のとおり,孔径1.5㎜の目皿に関する被告及びカネマタ
食品の主張は支離滅裂で信用するに値しないものである。
(カ) 製造
a 製造日報の不提出
被告は,カネマタ食品が販売した「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」と
の商品名のこんにゃくについての伝票類の証拠を多数提出するにもか
かわらず,その製造を裏付ける証拠を提出しない。カネマタ食品は製
造者であるから必ず製造日報を記載して保存しているはずであり,通
常であれば,それを提出して,発見品の内容物・外観(日付を含む)
のものを定常的に製造していた事実を立証すべきである。製造日報に
は,製造年月日,製造品目,使用原料,組成,製造条件,充填条件,
製造数量,責任者名等が記載されているから,これを提出すれば,発
見品の日付押印日に,孔径0.9㎜の目皿を用いて特別に少量生産し
たことが明らかになる。
b 発見品の日付表示
(a) 第1次訴訟において,被告は,「カネマタがゴム印を押してい
たのは販売店からの要請による。ラベルの日付は剥がれ易いこと,
張り替えができることから,当時,大手販売店は包装袋に直接印を
押すよう要請してきた。カネマタはそれに従っただけである。」と
主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下11行∼8行)。しか
し,販売先の関係者は「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」を販売したこ
と及びこんにゃくの形状を陳述,証明しているが,誰もゴム印で押
印した製品を販売したこと,包装袋に直接印を押すよう要請したこ
とを述べていない。要請した大手販売店名も担当者名も不明であ
る。
(b) 昭和60年当時は,こんにゃくに製品に日付表示を義務付ける
法はなく,業者がそれぞれ自主的に対応していた。その時期におけ
るカネマタ食品の日付の表示状況は,表示の無いもの,ハンドラベ
ラーによるもの,プリンターによるものがあり,その中で,「しゃ
ぶしゃぶ用こんにゃく」のみにゴム印が押されていた(甲11
3)。
昭和63年当時の市販こんにゃく製品の日付表示の状況は,依然
として日付表示のない商品があるが,表示されたものでは,ハンド
ラベラーによるものよりも,プリンターによるものの方が多い。こ
の中には,表示欄全体をラベル表示し,それにゴム印を押したと見
られるものが1品あるが,包装袋にゴム印を直接手押したものはな
い(甲213)。
(c) 「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」にゴム印を押していたとの主張
に対する証拠は陳述のみであり,陳述人は,具体的なゴム印やスタ
ンプインキ,押していた具体的な方法を述べていない。押印日付当
日の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」を何個製造したのかの立証もな
い。
(d) 以上のとおり,製品にゴム印を直接手押しすることは特殊なも
のであるところ,これに対する証拠の提示はないから,信用できな
い。
(キ) カネマタ食品の製品
a 発見品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は「60.10.27製造」
と「60.11.1製造」の製造日の異なる4個のこんにゃくがすべて
同様にくっついており,押すと同様に容易につぶれるものである。同
じ場所で発見された「いび特産こんにゃく」等の他の製品の保存状態
が,液状であったり,半液状であったり,形状をとどめている中で,
この4個の中身だけはすべてが同じ程度に形をとどめている。目皿を
換えるだけで全く同じ製造装置・方法で製造した「mini mini糸こんに
ゃく」はくっつかない状態で残っていた様子がうかがえる(甲21
4)。
被告は,本件無効審判事件において,「本件実用新案出願前に製造
販売された製品を今日まで保存しておくことは腐敗等の面から通常は
不可能である」(口頭審理陳述要領書Ⅱ[甲174]17頁下5行∼
3行)と主張していたのであり,この主張と証拠の食違いを信用でき
るものと判断することはできない。
b 販売者は,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」につい
て,「糸こんにゃくの部分」又は「糸こんにゃくが繋がった」との,
こんにゃくの製造方法に係る証明をしている(甲215∼218)。
本件特許の製造方法及び製造装置が公開されておらず,本件実用新案
登録の「表面筋状薄肉こんにゃく」も公開されていない時点におい
て,こんにゃくを製造していない者が,こんにゃくの形状を見て,な
ぜ「糸」と判断できるのであろうか。昭和55年には既に実開昭55
−157896号「蒟蒻成形用簀板」(甲109)が公開となってい
た。この明細書には「蒟蒻の表裏両面にその長手方向に沿って複数条
の切込み条が形成された」ことが記載され,第4図にはそのこんにゃ
くの斜視図が記載されている。このようなこんにゃくが公になってい
た時期において,上記証明者らがどのようにして「糸こんにゃくが繋
がった」構造と判断したのかの記載はない。これを信用できるものと
判断することはできない。
(ク) 販売
a 第1次訴訟において,被告は三星セロファン株式会社のBの証明書
(甲138)を提出した。Bは「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」包装用
フィルムを,カネマタ食品の仕入れ台帳のコピー1−1∼1−5に記
載のとおり納品したと証明している。
しかし,この証拠には,次のとおり虚偽がある。
① 2回目納品のコピー2・写真2には「製法特許出願中」の表示が
ない。同じデザインである甲53の2には「製法特許出願中」が記
載されている。
② 4回目と5回目は同一デザインであるとして,写真3で示してい
るが,4回目と5回目とではデザインが異なる。4回目には「製法
特許出願中」の表示があったが,5回目にはなく,また,5回目に
は,プラマークを新たに記載し,原材料名表示欄の「こんにゃくい
も精粉」を「国産こんにゃくいも精粉」に変えた(甲53の4)。
上記コピー1−4に,平成7年9月25日「改版代」,数量
「1」,単価「20000」円,仕入金額「20000」円と記載
され,上記コピー1−5に,平成12年8月21日「改版代」,数
量「3」,単価「20000」円,仕入金額「60000」円と記
載されている。これは,5回目の印刷に際し,3色の版すべてをや
り変えたということを示している。
b 被告は,本件無効審判事件において,「昭和57年以降今日まで,
カネマタが販売した「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は,甲第1号証,
…甲15号証の写真のこんにゃくの形状と同一形状のものだけであ
り,カネマタにはそれ以外に「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」というも
のは存在しない」との主張をした(口頭審理陳述要領書Ⅱ[甲174
]8頁下10行∼7行)。
第1次訴訟で被告が提出したカネマタ食品の売上証拠中に,「カネ
マタシャブシ」とプリントされた納品関係があることを原告が指摘し
たところ,これは通常品ではないお徳用の内容量400 g入りの「し
ゃぶしゃぶ用こんにゃく」であると主張して,ニチイ羽島店の物品受
領書7枚を提示した(甲220)。伝票には「しゃぶしゃぶ」と記載
された品名に「400g」と添え書きがある。しかし,商品形態も包
装形態も全く不明である。同商品の商品コードは「春日生1枚」及び
「春日厚切」と同じであることから見ても,内容量の違いだけである
と推測できるものではない。
(ケ) 事実実験公正証書
a 被告は,第1次訴訟において,「検甲1の「しゃぶしゃぶ用こんに
ゃく」が本件特許で製造されるこんにゃくと同一形状,構造であるこ
とを立証する」として,平成16年8月25日作成の事実実験公正証
書(甲152)を提出した。
上記公正証書には,発見品の本件こんにゃく4包は未開封であっ
て,製造日が刻印され,刻印はゴム印を押したもののようであり,写
真14,写真16,写真18は,昭和60年10月27日,写真20
は,昭和60年11月1日の製造日の刻印があった旨の記載,4包の
本件こんにゃくのうち,公証人が任意に選び出した写真18のこんに
ゃくの包装フィルムを破り,中身を取り出してこんにゃくを見た旨の
記載がある。
上記「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」4個のうち,昭和60年10月
27日の日付のものが3個あるので,この3個を判別する方法とし
て,写真14,写真16,写真18において,押印日付の「60」の
「6」と,「品名」欄枠の縦線の位置関係を確認すると,写真14で
は,「6」と「0」の間に縦線があり(甲221),写真16では,
「6」の前端に縦線があり(甲222),写真18では,「6」の後
部に縦線(甲223)がある。
上記公正証書の実験で開封したのは,写真18のこんにゃくである
から,「6」の後部に縦線が位置しているものである。
b 被告は,第1次訴訟において,「カネマタ旧工場から発見のしゃぶ
しゃぶ用こんにゃくがその日付に押印されたことを立証する」とし
て,平成17年2月7日作成の事実実験公正証書(甲158)を提出
した。
上記公正証書には,本件包装袋が東京高裁において検証した際に担
当裁判官の面前で開封して空になった袋である旨の記載,この空の包
装袋は別添写真①・②のとおりである旨の記載がある。
写真①において,押印日付の「60」の「6」と「品名」欄枠の後
側縦線の位置関係を確認すると,「6」の後部に縦線が位置している
(甲224)。これは,前記甲152の事実実験公正証書に記載され
た写真18の袋と同じ位置関係であり,東京高裁で開封する前に既に
開封した袋と一致する。
c 以上の各事実実験公正証書の内容が事実であるならば,同一位置に
日付が押印された「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」が2個存在したこと
になる。そうすると,昭和60年10月27日の日付のものは4個と
なり,発見品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は4個ではなく,5個
でなければならないという矛盾が生じる。以上の各事実実験公正証書
は信用できない。
(コ) 証拠の提示方法及び証明願,陳述書の信用性
a 証拠の提示方法
本件無効審判請求において,被告は,カネマタ食品の巣板購入を立
証するとして松田機械の売上げ台帳のコピーを提示したが,それは昭
和56年の一部分をコピーしたものであった(甲22別紙1)。被告
は,第1次訴訟において,松田機械のその後の納品分を追加提示した
(甲181)。しかし,巣板の購入に関して,カネマタ食品の買掛台
帳も納品書も提示していない。
被告は,カネマタ食品がしゃぶしゃぶ用こんにゃくを販売した証拠
として,多数の納品伝票を提示した。しかし,伝票が残されているく
らいであれば,売上台帳,製造日報が残っているはずであるが,それ
を提示しない。
以上のとおり,被告の証拠の提示方法は,信用できないものであ
る。
b 証明願,陳述書
第1次判決理由中の判断の基となった証明願,陳述書は,相互で食
違いがあるもの,同一人において前後で違うもの,同じ年に証明依頼
人を変えて再度証明をさせたものがある。いずれも信用性に欠けるも
のであるが,第1次判決は後から提出した書面を判断の根拠としてい
る。
伝統的な採証法則の観点からみた場合,当事者と代理人が合作した
陳述書は,その証拠価値は,ほとんど「主張」のレベルを出ないとい
わざるをえないといわれている。裏付ける他の証拠がない限り,陳述
内容は弁論の全趣旨として斜酌される程度の証明力しかないものであ
るが,第1次判決は,裏付ける証拠がなくても,被告提出の陳述書を
認定事実に沿うものとして認めているのであり,公平性を欠いてい
る。
(サ) 推認における証拠の信用性
a 第1次判決は,次のとおり仮定による推認の論理で構成されてい
る。
(a) 発見品について
「発見品自体又は日付印部分がねつ造に係るものであることを疑わ
せる事情その他の特段の事情が認められない限り,」(17頁下2
行∼1行)
「製造量が少量の場合には,たまに孔径0.9㎜の目皿を使うこと
はあった旨,明確に供述しており (甲29[本訴の甲104]の4
5頁),そうとすれば,」(20頁下1行∼21頁2行)
(b) 公然実施について
「後者の製作時期が昭和62年であったとすれば,上記 「無地ス
イタ」販売の事実とも,格別,矛盾は生じないし,仮に,そうでな
いとしても,昭和62年9月ころに,カネマタ食品が,本件こんに
ゃく製造用の目皿を追加で製作した可能性も存するから,」(26
頁2行∼6行)
「仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過
剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されること
によるものであるとすれば,格別,矛盾なく理解することができる
から,」(27頁3行∼6行)
「その旨包装袋に表示したが,その後断念したとの事情 (甲28[
本訴の甲171])の14∼15頁,29∼30頁,甲29[本訴
の甲104])の37∼38頁)があるとすれば,その間の経緯自
体を,格別,不自然ないし不合理であるということまではできない
し,原告が主張するように,本件こんにゃくに係る包装袋に「製法
特許出願中」との記載をしたことは,真実,カネマタ食品が本件こ
んにゃく及びその製法を開発したためであると解することも可能で
あるから,」(28頁下6行∼29頁1行)
b このように,事実認定をせず,仮定した上になした推認は,証拠の
一方を採用し一方を排除する論理を説明したことにならない。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 本件審決にはカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考
案の認定を欠いている違法があるとの主張につき
原告は,前記1(4)イ(ア)(b)において,第1次審決について主張する
が,第1次審決については,それを取り消す判決が確定済みであるので,
この主張は論外である。
第1次訴訟において,被告は,発見品の内容物であるこんにゃくの形
状,構造は,長手方向に多数の凹状と凸とを表面に有し,凸状部分の肉厚
が3㎜以下であって,凹状部分の薄肉部分半透明の縞模様となっており,
本件考案に係る表面筋状薄肉こんにゃくと同一であると主張し,原告もこ
れを明らかに争わなかったから,第1次判決は,「発見品に係るこんにゃ
くの形状,構造は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一で
ある」との認定をしている(17頁12行∼22行)。本件審決は,この
認定に従ったものであって,違法となる事由はない。
イ 本件審決はカネマタ考案と本件考案が一致しないことを看過した違法が
あるとの主張につき
原告は,「0.9㎜の孔が0.4∼0.5㎜間隔であけられた」目皿を
用いるとの被告の主張につき,孔と孔の中心間の寸法が0.4∼0.5㎜
である目皿を用いると独自に解釈し,曲解して主張しているものである。
原告は,被告が本件目皿には「0.9㎜の孔が,0.4ないし0.5㎜
間隔で多数開けられている」との主張したのに対し,第1次判決が「本件
目皿の孔径は0.9㎜,孔の間隔は1㎜前後である」と認定したことが,
当事者の主張に基づかない認定であると主張するが,この事実認定は,民
事訴訟において認められている範囲のもので,取消事由になるものではな
い。
(2) 取消事由2に対し
ア 本件審決には発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範囲外の事項
について拘束力を受けるものと判断した違法があるとの主張につき
発見品の製造日については,発見品が公然実施されたかどうかの判断に
含めて一括判断する手法もあるし,公然実施とは別々に判断する手法もあ
る。必ず一括判断しなければ違法となるということはない。
原告は,第1次判決が「日付印部分」については全く審理していないと
主張する。しかし,第1次判決は,「発見品には,上記のとおり,「60
.10.27製造」「60.11.1製造」の日付印が押されていることか
ら,発見品自体又は日付部分がねつ造にかかるものであることを疑わせる
事情その他の特段の事情が認められない限り,上記日付印から,発見品が
昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであること
が推認されるというべきである。」(17頁下4行∼18頁2行)とした上
で,「日付印には,開封や改ざんされた痕跡は見当らなかった。」(18
頁14行∼15行)と,正しく認定判断している。また,第1次判決は,
発見品について,発見の経過,発見時の状況,その保管状態,発見品の内
容物,同時に保管されていた発見品以外の物品の種類等についての当事者
双方の主張立証を詳細に検討した上で,事実認定をしている。第1次判決
が「日付印部分」について全く審理していないということはない。
発見品の製造及び製造に至るまでの事実や発見品の「日付印部分」が拘
束力の範囲外であるということはない。
イ 発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件
審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法があるとの主張
につき
(ア) 原告は,第1次判決が発見品の「日付印部分」の真偽を審理しなか
ったというが,第1次判決は,日付印の真偽について当事者双方の主張
及び立証を整理判断しているのであって,原告が主張するような判断の
遺脱はない。
発見品の製造日の印字に使用したスタンプ台は,シャチハタ製の「不
滅インキ」であることは原告に指摘されるまでもなく,被告自ら説明し
ているところである。また,財団法人化学物質評価研究機構の試験報告
書の添付写真には,品名,メーカーが明示されたスタンプ台の写真が掲
示されている。上記機構にシャチハタの「不滅インキ」を持ち込めなか
ったのは,シャチハタに問い合わせたところ,昭和60年10月当時の
「不滅インキ」の製造が中止となり在庫もないといわれたので,「不滅
インキ」類似の「タートインキ」を入手して提供したためである。
原告は,発見品の製造日の押印に用いたインクが当時存在しなかった
「TATインキ」であると容易に推認されるというが,第1次判決は,
発見品の製造日について昭和60年10月27日及び同年11月1日で
ある旨判示し,同判決は確定しているのであるから,本件訴訟において
これに反する主張は,許されない。
(イ) ハンドラベラーは,粘着剤の粘着強度によって剥がれ易いか剥がれ
難いかの差はあるが,張ったものが剥がれないということは無い。カネ
マタ食品が大手販売店から直接印を押すよう要請されたことは事実であ
る。
「いび特産こんにゃく」は「板こんにゃく」であり,「しゃぶしゃぶ
用こんにゃく」は「板こんにゃく」ではない。そのため,両こんにゃく
の包装機は異なる。カネマタ食品には各種の包装機があり,それらをこ
んにゃくに合わせて使い分けている。
原告は「しゃぶしゃぶ用こんにゃくの初版デザインの包装用フィルム
も実際には残っていたと考えられる。」というが,被告は残っているこ
とも知らないし,残っているのを見たこともない。発見品はカネマタ食
品が事後的に復元実験で製造したこんにゃくでは断じてない。第1次判
決は,こんにゃく同士が一体となっていることだけで,発見品は製造日
付印の日に製造されたと判断したのではなく,発見品の他の状況を総合
的に勘案して製造日付印の日に製造されたとの判断をしている。
(3) 取消事由3に対し
ア 本件審決にはカネマタ食品による公然実施の事実について第1次判決の
拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法がある
との主張につき
原告は,当事者は「本件目皿を本格的製造に用いることが可能であ
る。」と主張していないというが,本件目皿は,最初に製作したので試作
目皿と表現しているだけであり,それは量産に使用できないものではな
く,カネマタ食品では量産に使用していた。
本件目皿については第1次判決で判断済みである。原告の主張は蒸し返
しにすぎない。
イ カネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず本件審決
は公然実施の事実があったものと認定した違法があるとの主張に対し
原告は,孔径0.9㎜の目皿は,試作段階のもので,本格的製造に該当
しないと主張する。しかし,カネマタ食品では,昭和56年末までに0.
9㎜の目皿を製作してしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造に成功し,同目皿
を更に1枚手作りして量産化に備え,それまできしめんこんにゃくの包装
に使用していた包装フィルムにしゃぶしゃぶ用こんにゃくを包装して販売
していたが,昭和58年11月にはしゃぶしゃぶ用こんにゃく専用の包装
フィルムを図案化して発注したものであって,カネマタ食品では,0.9
㎜の目皿を本格的製造に使用していた。
原告は,カネマタ食品の旧工場の事務所は,ボイラー室の道路側に位置
し,来客は工場中央を通行しなくても道路から直接出入りできたと主張す
る。しかし,カネマタ食品の旧工場には,原告指摘の箇所に事務所はな
い。事務所は,原告の指摘する休憩室である。
公然実施とは,実際に見たかどうかとは関係なく見得る状態に置かれて
いることをもって足りるのであり,目皿からこんにゃくが吐出している状
況をのぞき込めることまでは必要がない。
誰がいつ何を特許出願したか,どのような商品が紹介されていたか,サ
ラダこんにゃくがブームになったかなどは,本件の公然実施を判断する上
では全く関係のないことである。原告のこれらに関する主張は失当であ
る。
(4) 取消事由4に対し
原告は,第1次判決が「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出
された後,膨張して押し出された孔よりも大きくなること,そのため,糸こ
んにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあ
ることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項で
あった。」と認定したことに対し,これは周知の事実ではないと主張する。
しかし,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張
して押し出された孔よりも大きくなること」,「糸こんにゃくの製造中,誤
って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあること」は周知の事実
であった。
取消事由4は証拠の信用性に関する原告の主張である。これらの主張は証
拠の評価に対する原告の意見を披瀝して,第1次判決で判断済み事項につい
て蒸返しをするものであって,いずれも,第1審判決の拘束力に照らし審決
取消事由に該当しない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)
(本件審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 第1次判決の拘束力の範囲について
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決
が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件
について更に審理・審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を
受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取
消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるの
に必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決
の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4
月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。そして,その理は,
実用新案登録無効審判事件の審決取消訴訟においても変わりがないと解され
るところ,前記のとおり,平成16年1月28日になされた第1次審決は,
平成17年6月30日の第1次判決により取り消され,同判決は確定したの
であるから,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の有する拘束力の下
で認定判断しなければならないこととなる。
(2) ところで,第1次判決(甲102)は,本件考案が本件実用新案登録出
願前に日本国内において公然実施された考案であるかどうかについて,次の
ように認定判断した(17頁11行∼29頁8行)。
「(1) 発見品について
ア 原告(判決注,本訴の被告。以下同じ)は,①カネマタ食品が,本
件出願日前に製造販売していた「しゃぶしゃぶこんにゃく」について
は,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印
が押された発見品が存在すること,②発見品の内容物であるこんにゃ
くの形状,構造は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同
一であること,③発見品の製造時期は,その日付印のとおり,いずれ
も本件出願日前であることを主張する。
これに対し被告(判決注,本訴の原告。以下同じ)は,発見品が存
在すること及びそれに原告主張に係る日付印が押されていること,及
び,発見品に係るこんにゃくの形状,構造が,本件考案に係る「表面
筋状薄肉こんにゃく」と同一であることについては,明らかには争わ
ないから,この点に関する実質的な争点は,発見品の製造時期の点の
みであるということになる。
イ そこで,発見品の製造時期について検討する。そもそも,発見品に
は,上記のとおり,「60.10.27製造」又は「60.11.1
製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付印部分
がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が
認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月27
日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されるとい
うべきである。
加えて,証拠…及び弁論の全趣旨(釈明処分としての検証の結果を
含む。)によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア) 発見品は,平成16年2月29日,カネマタ食品の旧工場にお
いて,原告代理人弁理士小林正治がバケツの中から発見したもので
ある。
(イ) 発見品の包装袋には,塵芥又はバケツの錆と思われる汚れが付
着している上,フィルムが白濁し,古びた外観である。その汚れ方
は一様ではなく,部分的に錆と思われる汚れが濃く付着している部
分もある。また,発見品のうち,一つの袋は,他のものに比べ,包
装袋がやや膨張していた。なお,発見品及びその包装袋に押された
日付印には,開封や改ざんがされた痕跡は見当たらなかった。
(ウ) 発見品の内容物であるこんにゃくは,幅1cm,厚さ2mm弱
程度の帯状のこんにゃくであり,その1本ずつを子細に観察する
と,細かい糸状のこんにゃくが11本程度横に接着して帯状になっ
たものであり,白色の部分と半透明の部分とで縞模様を形成してい
た。
(エ) 発見品の内容物であるこんにゃくは,こんにゃく同士が一部く
っつき合った状態にあった上,全体的にもろく,親指と人差し指と
で挟み,すり合わせると,容易に潰れて,のり状になった。
これに対し,原告代理人弁護士五藤昭雄が平成16年9月17日
に購入した,カネマタ食品製造に係る本件こんにゃく(賞味期限平
成16年12月15日)は,同年10月22日の時点において,こ
んにゃく同士がくっつき合うこともなく,発見品の内容物であるこ
んにゃくに比べ,明らかに弾力を有していた。
(オ) 発見品が存在したバケツの中ないし発見場所の周囲からは,カ
ネマタ食品製及び他社製のこんにゃく,古新聞その他多数の物品が
発見された。これらの物品は,いずれも全体的に汚れが付着し,古
びた外観であり,また,製造日付等が確認できるものについては,
その日付は,いずれも,昭和61年以前である。
(カ) カネマタ食品は,昭和61年に新工場を建築し,以後,こんに
ゃくの製造は新工場で行うようになった。現在,旧工場は,物置と
して使用されている状態にある。
(キ) カネマタ食品の製造販売する「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包
材は,三星セロファン株式会社から,昭和58年11月24日を初
回として,これまでに5回納入されているが,その間に4回デザイ
ンを変更しており,初回の納品に係るデザインと2回目の納品(平
成2年10月17日及び同月19日)に係るデザインとは異なって
いる。発見品の包装袋のデザインは,初回に納入されたものと同一
である。
ウ 上記認定事実によれば,発見品は,その包装袋に押された日付印の
とおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたも
のであると認めるのが自然というべきであり,この認定を覆すに足り
る的確な証拠は見当たらない。
エ これに対し,被告は,発見品が昭和60年10月27日又は同年1
1月1日に製造されたものであるとは認められない旨主張するが,…
被告主張の事情は,いずれも,上記ウの認定判断を左右するには足り
ない。…
オ 以上によれば,発見品は,その日付印のとおり,昭和60年10月
27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが相当
である。
(2) 本件公然実施の事実について
以下,発見品は,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造
されたものであるとの上記(1)の認定を前提に,本件公然実施の事実の
有無について検討する。
ア 証拠…及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ
る。
(ア) 糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨
張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのため,糸
こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしま
うことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者に
とって周知の事項であった。
(イ) カネマタ食品の専務取締役であるAは,昭和55年秋ころ,株
式会社川口屋スーパーチェーン(以下「川口屋」という。)の従業
員であったCから,「タレの乗りやすいこんにゃくを開発してはど
うか」と言われたことをきっかけとして,糸こんにゃくを数本並べ
て,あえて引っ付かせたものを製品として製造することを思い付い
た。従来の糸こんにゃく用の目皿は,押し出される糸こんにゃく同
士が引っ付かないよう,孔間隔が広くなっており,糸こんにゃく同
士が引っ付くように孔間隔を狭くした目皿は販売されていなかった
ことから,Aは,従来カネマタ食品がこんにゃく製造機械を購入し
ていた松田機械から孔の開いていない目皿を購入した上,自ら孔開
けして,孔間隔を狭くした目皿を製作することとした。
(ウ) カネマタ食品は,昭和56年5月11日,松田機械から孔の開
いていない目皿を4枚購入し,そのころ,Aは,これを素材とし
て,上記孔間隔を狭くした目皿の製作を開始した。Aは,手で持つ
タイプのドリルをドリルスタンドにセットし,ドリルスタンドに金
属製のテーブルを取り付け,このテーブルに木の台を傾斜させて固
定し,その上に,孔の開いていない目皿を乗せて,その目皿を左手
で押さえながら,右手でスタンドにセットされたドリルを操作し
て,一つずつ孔を開けていった。ドリルは直径0.9mmのものを
用い,孔の間隔は1mm前後としたが,ドリルが曲がったり折れた
りせず,かつ,隣り合う孔同士がつながらないようにしながら孔を
開けるのは大変な作業であり,1枚の目皿に300個以上の孔を開
け終わるのに数か月を要した。その後,カネマタ食品は,松田機械
から,昭和56年9月2日に孔の開いていない目皿4枚を,さらに
昭和56年10月30日にも同様の目皿3枚を購入し,Aは,試行
錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。
(エ) こうして,遅くとも昭和58年7月ころまでには,カネマタ食
品は,旧工場において実際に本件こんにゃくの製造を開始した。
その製造方法は,従来,糸こんにゃくの製造に使用していた,こ
んにゃく練り機,流し釜及び目皿取付け治具等の既存の装置を用
い,糸こんにゃく用の目皿の代わりに,Aが製作した本件目皿(孔
間隔は1mm前後)を取り付けて行う方法であった。それによって
製造されたこんにゃくの構造,形状は,発見品に係るこんにゃくと
同様の特徴を有する表面筋状薄肉こんにゃくである。
(オ) カネマタ食品では,本件こんにゃくの製造開始当初は,川口屋
における試験販売であり本格的に販売されるかどうかも決まってい
なかったことから,無地の透明フィルムで包装した後,既存の「き
しめん風こんにゃく」のラベルを付して納品した。その後,カネマ
タ食品は,昭和58年10月26日ころ,三星セロファンに対し,
本件こんにゃく用の包材として,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名
称を記載した包材を発注し,当該包材が同年11月24日に納入さ
れた後は,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称で本件こんにゃくを
販売するようになった。
(カ) 以後,カネマタ食品は,今日に至るまで,本件こんにゃくに係
る「しゃぶしゃぶこんにゃく」を,多数の販売店に納入し続けてお
り,販売店では,同こんにゃくを販売している。上記川口屋のほか
にも,例えば,株式会社名鉄ストア,株式会社ニチイ,株式会社岐
阜高島屋,株式会社ヤナゲン等がその販売店となっている。
イ 上記アの認定事実を総合すれば,カネマタ食品は,本件考案に係る
「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅
くとも,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始し
た昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるの
が相当である。…
(3) 以上,本件訴訟において新たに提出された証拠を含む本件全証拠を
総合すると,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」は,カネマタ
食品が,遅くとも昭和58年11月ころには公然実施していた本件こん
にゃくと同一であると認めるのが相当であるから,本件公然実施の事実
を認めるに足りないとした審決の認定判断は,結果的に誤りであったと
いうほかはなく,原告の取消事由の主張は理由がある。」
(3) 以上の第1次判決の認定判断によれば,第1次判決は,カネマタ食品
は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の本件こんにゃく
を,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めることが
できるとの認定判断をしていることが認められる。
そうすると,この公然実施の事実を認めた認定判断に拘束力が生じ,本件
審決を担当する審判官は第1次判決の有する拘束力の下で認定判断しなけれ
ばならないこととなる。
そして,本件審決は,前記第3の1(3)のとおり,「第1次判決におい
て,「カネマタ食品…は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同
一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,昭和58年11月ころまでに
は,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判示された。この
判示事項は,審判合議体を拘束する。したがって,本件考案は本件実用新案
登録出願前に日本国内において公然実施された考案であるから,本件実用新
案登録は,実用新案法3条1項2号に違反してされたものであり,無効とす
べきものである。」と認定判断したものであるから,本件審決を担当した審
判官は,第1次判決の有する拘束力の下で認定判断したことが認められる。
そこで,以上の見解に立って,以下検討を進める。
3 取消事由1(本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施して
いた考案の認定を欠いている違法,及び本件審決が同考案と本件考案が一致し
ないことを看過した違法)について
(1) 原告は,本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施してい
た考案の認定を欠いており,同考案と本件考案との一致点及び相違点の認定
並びに相違点についての認定判断を欠いていると主張する。しかし,本件審
決は,前記2(3)のとおり,第1次判決の拘束力の下で,カネマタ食品が本
件実用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同一であると認定し
ており,本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた
考案の認定を欠いているということはない。そして,カネマタ食品が本件実
用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同一であると認定する以
上,さらに,これらの考案間における一致点及び相違点の認定並びに相違点
についての認定判断は必要がないことが明らかである。
また,原告は,第1次判決は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に
日本国内において実施していた考案も本件考案も認定することなく,構成要
件の対比もしていないものであって,カネマタ食品が本件実用新案登録出願
前に日本国内において実施していた考案の構成要件と本件考案の構成要件が
同一であると判断する法的根拠が示されていないから,主文が導き出される
のに必要な事実認定及び法律判断を欠いていると主張する。しかし,前記の
とおり,第1次判決は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内
において実施していた考案の構成要件と本件考案の構成要件が一致する旨の
判断をしており,その判断に欠けるところはない。第1次判決は,明示的
に,それらの考案間の構成要件の対比をしているわけではないが,そのよう
な対比をするまでもなく構成要件が一致する旨の判断をすることができる場
合には,明示的に対比する必要がないことは明らかである。したがって,原
告の主張は採用することができない。
(2) また,原告は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた
考案と本件考案は一致しないと主張するが,本件審決を担当する審判官は,
カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同
一であるとの第1次判決の認定と抵触する認定をすることは許されないので
あるから,原告が主張する上記の点は,本件審決を違法とするものではな
く,本件審決の取消事由となり得るものではない。
なお,原告は,第1次判決は,カネマタ考案に係る目皿について,「孔径
は0.9㎜,孔の間隔は1㎜前後」と認定しているところ,この認定は当事
者の主張に基づかない事実認定をしたものであるから,拘束力は生じないと
主張するが,認定事実が当事者の主張に基づかないという理由で拘束力が生
じないというべき根拠はなく,原告の主張は独自の見解に基づく主張で採用
することができない。
4 取消事由2(本件審決が発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範囲外
の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及び発見品は押されてい
る日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日に製造された
ものであるとの認定をした違法)について
(1) 原告は,①発見品の製造及び製造に至るまでの事実は,発見品がその日
付印の日に製造されたものであるとの認定に供されていないから,この認定
に関し第1次判決の拘束力の範囲外である,②発見品の「日付印部分」も第
1次判決で審理判断されていないから,第1次判決の拘束力の範囲外である
と主張する。しかし,前記のとおり,第1次判決は,発見品がその日付印の
日に製造されたものであると認定し,その認定に基づいて,カネマタ食品
は,本件考案と同一の考案を,昭和58年11月ころまでには,公然実施し
ていたものと判断しているから,これらの認定判断に拘束力が生じる。その
ことは,これらの認定判断の基礎となった事実関係によって左右されるもの
ではない。第1次判決において上記認定判断に供されていない事実を,第1
次判決確定後の本件無効審判事件において,当事者が主張立証したとして
も,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の上記認定判断に抵触する認
定判断をすることができない。したがって,原告の上記主張を採用すること
はできない。
(2) 原告は,発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわ
らず本件審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法があると
主張するが,本件審決を担当する審判官は,発見品がその日付印の日に製造
されたものであるとの第1次判決の認定に抵触する認定をすることはできな
いから,原告が主張する上記の点は,本件審決を違法とするものではなく,
本件審決の取消事由となり得るものではない。
5 取消事由3(本件審決がカネマタ食品による公然実施の事実について第1次
判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及
びカネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず本件審決が公
然実施の事実があったものと認定した違法)について
(1) 原告は,本件審決には,カネマタ食品による公然実施の事実について第
1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違
法があるとして,次の各主張をするが,次のとおり,いずれも採用すること
ができない。
ア 原告は,「本件目皿(Aが本件こんにゃく用として当初に作成した目
皿)を本格的製造に用いることが可能である。」との主張を当事者はして
おらず,第1次判決も「本件目皿を本格的製造に用いることが可能であ
る。」との認定をしていないから,「本件目皿を本格的製造に用いること
が可能である。」という点は,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張
する。
しかし,前記のとおり,第1次判決は,カネマタ食品では,昭和56年
5月11日に松田機械から購入した目皿に,Aが孔の間隔1mm前後の加
工をしたもの(本件目皿)を用いて,遅くとも昭和58年7月ころまでに
は,旧工場において実際に本件こんにゃくの製造を開始し,当初は試験販
売であったが,後に本格的に販売するようになった旨の認定をしているか
ら,本件目皿を本格的製造に用いることができた旨の認定がされており,
この認定には拘束力が生じるものというべきである。なお,この認定につ
き,当事者の主張に基づくかどうかで拘束力の有無が左右されることがな
いことは,前記のとおりである。
イ 原告は,第1次判決では,「Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく
用の目皿の製作作業を続けた。」との認定をしているが,本件目皿の製作
においてAは何の試行錯誤もしていないことが明らかであるから,試行錯
誤に関する第1次判決の上記認定は,第1次判決の拘束力の範囲外である
と主張するところ,前記のとおり,第1次判決は,「Aは,試行錯誤しな
がら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。」との認定をしてい
る。原告の上記主張は,この認定が誤りであると主張するものにすぎず,
この認定が拘束力の範囲外であるということはできない。
ウ 原告は,第1次判決は,本件目皿について「孔間隔は1㎜前後」との認
定は被告の主張に基づかないものであるから,第1次判決の拘束力の範囲
外であると主張する。しかし,認定事実が当事者の主張に基づくかどうか
で拘束力の有無が左右されることがないことは,前記のとおりである。
エ 原告は,第1次判決は,「昭和60年10月又は11月に製造された発
見品の存在が認められ,これがA作成の陳述書(甲80)を始めとする関
係証拠と符合することからすると,それらの証拠は相互にその信用性を高
め合うものであるということができる…」と判断しているところ,具体的
にどの認定事実をもって「関係証拠と符合する」と判断したのかを示して
おらず,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張する。しかし,原告の
上記主張は,この第1次判決の判断について十分な根拠が示されていない
ことを主張するにすぎず,そのような理由で拘束力の範囲外であるという
ことはできない。
(2) 原告は,本件審決には,カネマタ食品による公然実施の事実がなかった
にもかかわらず公然実施の事実があったものと認定した違法があると主張す
るが,前記2(3)のとおり,第1次判決は,カネマタ食品は,本件考案に係
る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の本件こんにゃくを,昭和58年11
月ころまでには,公然実施していたものと認めることができるとの認定判断
をしているから,本件審決を担当する審判官は,この認定判断に抵触する認
定判断をすることができない。したがって,原告が主張する上記の点は,本
件審決を違法とするものではなく,本件審決の取消事由となり得るものでは
ない。
6 取消事由4(その他の第1次判決の認定の誤り)について
原告は,カネマタ食品による公然実施の事実に関する被告の主張と証拠は,
「着想 → 巣板の購入 → 加工 → 試作・試行 → 製造 → 販売」のいずれの
過程においても,矛盾しており,カネマタ食品による公然実施の事実を認めた
第1次判決の認定は誤っていると主張するが,原告のこの主張は,第1次判決
の認定の誤りを指摘するものにすぎず,第1次判決の拘束力に従って認定判断
した本件審決を違法とするものではないから,本件審決の取消事由となり得る
ものではない。
7 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求
を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 田 中 孝 一
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