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平成17(行ケ)10676審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成18年9月12日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告エコラボインコーポレイテッド
対象物 飛行昆虫捕獲器
法令 特許権
特許法36条5項2号3回
特許法29条2項1回
キーワード 審決33回
刊行物21回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成6年4月12日,発明の名称を「飛行昆虫捕獲器」とする発 明につき,特許出願(平成6年特許願第73120号。以下「本願」とい う。)をし,平成13年10月23日付け手続補正書をもって,明細書の特 許請求の範囲等について補正をしたが,同年12月12日,特許庁から拒絶 査定を受けたので,これを不服として審判請求をした。

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判決文

平成17年(行ケ)第10676号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年8月29日
判 決
原 告 エコラボ インコーポレイテッド
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 大 塚 康 徳
同 高 柳 司 郎
同 大 塚 康 弘
同 木 村 秀 二
同 下 山 治
同 永 川 行 光
同 川 畑 洋 平
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 中 村 和 夫
同 川 島 陵 司
同 高 木 彰
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2002-4669号事件について平成17年4月18日に
した審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成6年4月12日,発明の名称を「飛行昆虫捕獲器」とする発
明につき,特許出願(平成6年特許願第73120号。以下「本願」とい
う。)をし,平成13年10月23日付け手続補正書をもって,明細書の特
許請求の範囲等について補正をしたが,同年12月12日,特許庁から拒絶
査定を受けたので,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2002-4669号事件として審理し,その
係属中,原告は,平成14年3月18日付け手続補正書をもって,明細書の
特許請求の範囲の補正をし,更に平成17年1月31日付け手続補正書をも
って,明細書の特許請求の範囲等について補正をした(以下,最後の補正後
の明細書及び図面を「本願補正明細書」という。)。
そして,特許庁は,審理の結果,平成17年4月18日,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,そ
の謄本は,同年5月9日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
平成17年1月31日付け手続補正書による補正後の本願の特許請求の範
囲の記載は次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」,
請求項2に係る発明を「本願発明2」という。)。
「【請求項1】 上面に開口した開口部を有するハウジング部(11,17,
22)を備え,垂直かつ平面の表面(20)の上に取り付ける取り付け
手段(10)を有し,昆虫誘引のための誘引光源(16)を前記ハウジ
ング内部に設け,さらに昆虫を不動状態にするために前記ハウジング部
の底面に設けられる接着面(12)とを備えた飛行昆虫捕獲器におい
て,
前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表
面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的に見ること
ができず,
かつ前記ハウジング部は水平な平面に対して80度以下の角度で傾斜
した面部(21)を有し,前記面部において前記誘引光源からの光を前
記垂直かつ平面の表面(20)に反射させることを特徴とする飛行昆虫
捕獲器。」
「【請求項2】 垂直の取付面(20)に昆虫誘引のための誘引光源を形成す
る飛行昆虫捕獲器であって,
(a)前記飛行昆虫捕獲器を前記垂直の取付面(20)上に据え付け
るための手段(10)と,
(b)昆虫誘引光源(16)と,
(c)前記昆虫誘引光源(16)を収納するハウジング部(11,1
7,22)であって,
(1)前記昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の取
付面(20)に対して指向されて,広く散乱する光パターンを形成する
ように水平面に対して角度が80度以下の角度で傾斜して位置された内
側の反射面(21)と,昆虫を不動状態にするために前記ハウジング部
の底面に設けられる粘着表面部(12)と,昆虫を内部に導入するため
に上方に向う上方開口部と,前記上方開口部の縁部より下方に位置され
る前記昆虫誘引光源とを備えることを特徴とする飛行昆虫捕獲器。」
3 審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明2
は,刊行物1(仏国特許出願公開第2609527号明細書。甲3),刊行
物2(特開平6-7067号公報。甲4)に記載された発明及び周知技術に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法
29条2項の規定により特許を受けることができず,また,本願発明1は,
明細書の特許請求の範囲の記載に不備があり,平成6年法律第116号によ
る改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項2号に適合しな
いから,本願は特許を受けることができないというものである。
審決は,本願発明2と刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)
「昆虫誘引光源と,前記昆虫誘引光源を収納するハウジング部であって,
傾斜して位置された内側の反射面と,昆虫を内部に導入するために上方に向
う上方開口部と,前記上方開口部の縁部より下方に位置される前記昆虫誘引
光源とを備える飛行昆虫捕獲器。」である点。
(相違点(1))
本願発明2は,「垂直の取付面(20)に昆虫誘引のための誘引光源を形
成する飛行昆虫捕獲器であって,(a)前記飛行昆虫捕獲器を前記垂直の取
付面(20)上に据え付けるための手段(10)」を備え,内側の反射面の
傾斜角度が,「昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが垂直の取付面(2
0)に対して指向されて,広く散乱する光パターンを形成するように水平面
に対して角度が80度以下の角度」であるのに対して,引用発明は,飛行昆
虫捕獲器をランプシェードの骨組みに固定するものであり,内側の反射面の
傾斜角度が不明である点。
(相違点(2))
本願発明2は,「昆虫を不動状態にするためにハウジング部の底面に設け
られる粘着表面部(12)」を備えるのに対して,引用発明は,粘着表面部
を備えていない点。
第3 当事者の主張
1 原告主張の審決の取消事由
審決は,本願発明1について,明細書の特許請求の範囲の記載が明確であ
るのに,これに不備があると誤った判断をし,本願発明2について,本願発
明2と引用発明との一致点の認定及び相違点(1)の判断を誤り,本願発明2の
顕著な効果を看過した結果,引用発明,刊行物2に記載された発明及び周知
技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をし
たものであるから,違法として取消しを免れない。
(1) 本願発明1関係(明細書の記載要件の判断の誤り)
ア 審決は,本願補正明細書の特許請求の範囲の請求項1(本願発明1)
の「前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の
表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的に見るこ
とができず」との構成について,「ハウジング部は上面に開口した開口
部を有しており,誘引光源(16)を上方から直接的に見ることができ
るから,依然として,どのような構成により誘引光源(16)を直接的
に見ることができないのか不明である。」として,請求項1の記載が不
備であるから,本願は旧特許法36条5項2号に適合しない(審決書7
頁23行~32行)と判断した。
しかし,本願発明1の「前記ハウジング部は,前記取り付け手段によ
り前記垂直かつ平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(1
6)を直接的に見ることができ」ないとの構成は,ハウジング部が誘引
光源を取り囲んだ壁を構成し,その壁が観察者の視点から誘引光源を遮
る構成を意味するものであり,観察者が上面に開口した開口部から誘引
光源を直接的に見ることができないという条件を満たす位置にハウジン
グ部を設けることを意味する。ハウジング部の取付位置は,請求項1
の「前記誘引光源(16)を直接的に見ることができず」との記載によ
って限定されている。
このような構成とするためには,飛行昆虫捕獲器を垂直かつ平面の表
面に設けたときに,誘引光源と観察者の視点との間に障壁が存在すれば
よい。そして,本願補正明細書の段落【0022】(甲1)には,「可
能であれば,この捕獲器は虫が最も集まってくる目の高さ,あるいはそ
れより高い位置に,発光源の装置が一番上になるように,またハウジン
グ部の内側が垂直面に隣接するように設置するのが望ましい。」との記
載があるところ,この記載のように捕獲器を取り付けた場合,捕獲器が
本願補正明細書の図1,2(甲1)に記載された構造を持つことで,誘
引光源を直接的に見ることができないようになる。
もっとも,上記記載は好ましい一例を示したものであって,取付けの
高さは目の高さ以上とは限らず,様々であろうが,どのような高さに取
り付けようとも,誘引光源と観察者の視点との間に障壁が存在すれば(
例えば,上端が視点より高いハウジングを備えれば),「前記取り付け
手段により前記垂直かつ平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引
光源(16)を直接的に見ることができ」ない構成となる。
イ したがって,本願発明1が上面に開口した開口部を有していることを
理由に,「前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直かつ
平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的に
見ることができ」ないとの構成が不明であり,請求項1の記載が不備で
あるとの審決の判断は誤りである。
(2) 本願発明2関係
ア 一致点の認定の誤りについて
(ア) 刊行物1(甲3)には,ハロゲン照明器具について,「(反射さ
れる)光は好みに応じて色付けされる。ユーザは,場所に応じて調光
器を使わずに光の色が簡単に調整できる。」(1頁30行~35行・
翻訳文1頁30行~31行),この色の調整は,「反射装置の中の反
射板はランプの両側に配置されており,金色または赤銅色に陽極処理
された取り外し可能な反射板」(1頁30行・翻訳文1頁29行~3
0行)によって行うことができると記載されている。
上記記載によれば,刊行物1の「ハロゲン照明器具」は,光により
飛行昆虫を誘引する効果について認識の程度が低く,飛行昆虫捕獲器
というより,通常の照明器具を指向するものであることを示してい
る。なぜなら,ユーザが,場所に応じて,調光器を使わずに光の色が
簡単に調整できるのは,捕虫効果というより,利用者の意向を反映し
て色を決定することを示すものだからである。
また,ある種の着色光は飛行昆虫を誘引する効果が低く,例えば黄
色の電球などは,点灯しても昆虫が群がりにくいものと考えられてお
り,屋外用として販売されている。
(イ) したがって,本願発明2と引用発明とはその属する技術分野が相
違し,引用発明の反射装置は「ハロゲン照明器具」であって,本願発
明2の「飛行昆虫捕獲器」に相当するものではないから,審決が本願
発明2と引用発明とが「飛行昆虫捕獲器」である点で一致するとして
一致点を認定したのは誤りである。
イ 相違点(1)の判断の誤り
(ア) 審決は,「垂直の取付面に昆虫誘引のための誘引光源を形成する
飛行昆虫捕獲器であって,前記飛行昆虫捕獲器を前記垂直の取付面上
に据え付けるための手段を備える飛行昆虫捕獲器は,周知技術(刊行
物3~5及び下記の周知例1参照。)である。そうすると,引用発明
において,飛行昆虫捕獲器を,ランプシェードの骨組みに固定するこ
とに代えて,垂直の取付面上に据え付けることは,当業者が容易に着
想することであり,当該据え付けに際して,引用発明を認定した刊行
物1には,据え付けるための手段に相当するクリップの付いた固定ア
ーム(K)(L)を,反射面と対向する側に備えている点が記載され
ている((1-m)参照。)から,垂直の取付面上に据え付けるため
の手段を反射面と対向する側の面に備える構成とすることは,当業者
が容易になし得る設計的事項であるということができる。」(審決書
6頁5行~15行)と判断している。
しかし,刊行物1(甲3)の図2記載のとおり,クリップの付いた
固定アーム(K),(L)は,ハロゲン照明器具を垂直の取付面に据
え付けるための手段ではなく,ランプシェードの骨組みに固定するた
めの手段として適当であるような構成を有しており(2~3頁・翻訳
文2頁1行~2行),引用発明においては,ハロゲン照明器具を垂直
の取付面に据え付けて使用することについての考慮は全くされておら
ず,ランプシェードの骨組みに据え付けることに特化した構造を有し
ている。
このことは,引用発明のハロゲン照明器具を垂直の取付面に据え付
けるという着想を阻害する要因であり,垂直の取付面に据え付ける手
段を備える飛行昆虫捕獲器が周知であったとしても,当業者は,引用
発明のハロゲン照明器具を垂直の取付面に据え付けることは容易に着
想することはない。
また,仮に引用発明のハロゲン照明器具を垂直の取付面に据え付け
ようとしたとしても,固定アーム(L)のクリップを用いてハロゲン
照明器具を垂直の取付面に据え付けようとすれば,据付けに用いる二
つのクリップが出ている側の面,すなわちコード(N)を通す孔が設
けられた面(図2の左手前側の面),あるいは,支持部(J)の底
面,あるいは反射装置(A)の開口部により形成される面のいずれか
が,垂直の取付面に向き合う面となるから,垂直の取付面上に据え付
けるための手段(クリップ)を反射面と対向する側の面に備える構成
とすることは当業者が容易になし得るものではない。
したがって,「垂直の取付面上に据え付けるための手段を反射面と
対向する側の面に備える構成とすることは,当業者が容易になし得る
設計的事項である」とした審決の判断は誤りである。
(イ) 審決は,「そして,このような構成とすることにより,反射面が
誘引光源からの光が上方に向かって反射するように傾斜して位置され
るから,飛行昆虫捕獲器を壁などの垂直の取付面上に据え付けると,
昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の取付面に対して指
向されて,広く散乱する光パターンを形成することは自明であ
る。」(審決書6頁15行~20行)と判断している。
しかし,飛行昆虫捕獲器の取付面に対して指向されて,広く散乱す
る光パターンの明るさや広さは内側の反射面(21)の取り付け方に
依存するので,刊行物1のハロゲン照明器具をランプシェードの骨組
みに固定することに代えて垂直の取付面上に据え付けたとしても,そ
れによって直ちに,光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の取付面
に対して指向されて,広く散乱する光パターンを形成することにはな
らないから,これが自明であるというのは,論理の飛躍である。
また,飛行昆虫捕獲器の取付面に広く散乱する光パターンを形成し
て,その光パターンにより飛行昆虫を誘引するという発想自体が,刊
行物1を初めとして,審決で引用された刊行物(刊行物3(国際公開
第92/20224号パンフレット。甲5),刊行物4(実願平4-
58538号(実開平6-17485号)のCD-ROM。甲6),
刊行物5(特開昭64-55137号公報。甲7),周知例1(米国
特許第4,876,822号明細書。甲8))には何ら記載されてお
らず,当業者がこれを着想すること自体に困難性がある。
したがって,「昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の
取付面に対して指向されて,広く散乱する光パターンを形成すること
は自明である。」との審決の判断は誤りである。
(ウ) 上記(ア),(イ)のとおり審決の判断に誤りがあるから,上記誤っ
た判断を前提として,相違点(1)に係る本願発明2の構成は,引用発明
に周知技術を適用して当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は
誤りである。
ウ 顕著な効果の看過
(ア) 本願発明2に係る飛行昆虫捕獲器は,その特徴である「前記昆虫
誘引光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の取付面(20)に対し
て指向されて,広く散乱する光パターンを形成するように水平面に対
して角度が80度以下の角度で傾斜して位置された内側の反射面(2
1)」により,取付面(20)を効果的に照らし出すことで,飛行昆
虫の捕獲率を向上させるという効果を奏するものである(本願補正明
細書の表2,3参照)。
そして,本願発明2の特徴的な構成要件である反射面(21)が備
わっていなければ,取付面(20)に広く散乱する光パターンを効果
的に形成することはできない。
一方,刊行物1~5及び周知例1に記載された発明は,いずれも本
願発明2の「(1)前記昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前記
垂直の取付面(20)に対して指向されて,広く散乱する光パターン
を形成するように水平面に対して角度が80度以下の角度で傾斜して
位置された内側の反射面(21)」との構成を有していない。
これは,刊行物1~5及び周知例1に記載された発明が,「水平面
に対して角度が80度以下の角度で傾斜して」位置された反射面を持
たないだけでなく,「前記昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前
記垂直の取付面(20)に対して指向されて,広く散乱する光パター
ンを形成するように」位置された反射面を持たないことを意味するも
のである。
加えて,前記イ(イ)のとおり,「昆虫誘引光源からの反射光と散乱
光とが前記垂直の取付面(20)に対して指向されて,広く散乱する
光パターンを形成」するように位置された反射面を捕虫器に備えて,
取付面の光パターンで飛行昆虫を誘引するという発想自体が従来なか
ったものである。
これらのことから,広く散乱する光パターンを形成して飛行昆虫の
捕獲率を向上させるという効果は,本願発明2に特有の格別顕著な効
果であるというべきである。
(イ) したがって,本願発明2によって奏せられる効果は,引用発明,
刊行物2に記載された発明及び周知技術によって奏せられる効果と比
較して,格別顕著なものであるということはできないとの審決の判
断(審決書7頁6行~9行)は誤りである。
2 被告の反論
(1) 本願発明1に関する主張に対し
本願発明1の「前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直
かつ平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的
に見ることができ」ないとの構成は,ハウジング部が誘引光源を取り囲ん
だ壁を構成し,その壁が観察者の視点から誘引光源を遮る構成を意味する
との原告の主張は,観察者が上面に開口した開口部から誘引光源を直接的
に見ることができない位置にハウジング部を取り付けた場合を前提とする
ものであるが,ハウジング部の取付位置は請求項1には記載されていない
から,本願補正明細書の記載に基づかないものとして失当である。
また,原告の他の主張も,本願補正明細書の「発明の詳細な説明」に記
載のない事項に基づいて,請求項1記載の事項を解釈するものであり,そ
の前提において失当である。
(2) 本願発明2に関する主張に対し
ア 一致点の認定の誤りに対し
刊行物1には,「死んだ昆虫類を排出するための換気用仕切り板」(
審決書3頁9行)及び「ハロゲン ランプの上で羽が燃えてしまった昆
虫類は,換気用仕切り板によって反射装置支持部の中へ落ちる」(審決
書3頁13行~14行)との昆虫の処理に関する記載があり,上記記載
が「飛行昆虫捕獲器」としての機能を述べていることは当業者にとって
自明な事項である。
そして,昆虫誘引光源をもって昆虫を捕獲する昆虫捕獲手段は周知の
事項であるから,刊行物1の上記記載事項を上記周知の事項を考慮して
解釈すれば,引用発明における「ハロゲン タングステン ランプ(
D)」が昆虫誘引光源であることは明らかである。
また,刊行物1には,「51 int CL4 :F21V7/00,21/0
0・・・A01M1/04」(1頁右上欄)との記載があり,この記載
は,国際特許分類表上,引用発明が「照明装置の反射器及び支持装
置」(「F21V7/00,21/00」)及び「照明を使用して昆虫
を誘引し捕獲する装置」(「A01M1/04」)に関するものである
ことを示すものであるから,引用発明は,「照明装置」だけでなく「照
明を使用して昆虫を誘引し捕獲する装置」,要するに「飛行昆虫捕獲
器」としての機能を備え,「照明装置」と「飛行昆虫捕獲器」の両方の
技術分野に属していることを示すものである。
したがって,審決が,照明器具としての機能と飛行昆虫捕獲器として
の機能の両方の機能を備えた引用発明において,その一方の機能に着目
し,「飛行昆虫捕獲器」に相当するとしたことに誤りはなく,この認定
に基づく一致点の認定にも誤りはない。
イ 相違点(1)の判断の誤りに対し
(ア) 引用発明は「飛行昆虫捕獲器」の技術分野に属するから,引用発
明に同じ技術分野に属する周知技術を適用することは,当業者が容易
に想到し得ることであり,引用発明において,「垂直の取付面上に据
え付けるための手段を反射面と対向する側の面に備える構成とするこ
とは,当業者が容易になし得る設計的事項である」とした相違点(1)に
ついての審決の判断に誤りはない。
(イ) 光源からの放射光に関して特別の限定がされていない以上,光源
から四方八方に放射光が生じるとともに,反射光及び散乱光も生じる
ことは周知の事項であるから,引用発明における飛行昆虫捕獲器を垂
直の取付面上に据え付けた場合,放射直接光,反射光及び散乱光によ
り垂直の取付面に明るさ等の光パターンが形成され,その明るさ等の
光パターンは,放射直接光,反射光及び散乱光の指向方向に依存する
ことも,周知の知見である。このことは,本願発明2においても同様
であり,垂直の取付面に形成される明るさ等の光パターンは,光源の
配設位置(例えば,ハウジングの底面からの位置及び反射面21から
の位置)により影響を受ける放射直接光,反射光及び散乱光に依存
し,また,上記配設位置が一定の場合には,反射面21の反射角度に
より影響を受ける反射光,散乱光に依存することとなることは明らか
である。
したがって,「昆虫誘引光源からの反射光と散乱光とが前記垂直の取
付面に対して指向されて,広く散乱する光パターンを形成することは自
明である。」との審決の認定に誤りはない。
ウ 顕著な効果の看過に対し
本願発明2においては,水平面に対しての内側の反射面(21)の傾
斜角度を80度以下と限定しているが,本願補正明細書を参酌しても,
80度以下という数値には臨界的意義が認められないから,本願発明2
によって奏せられる効果は,格別顕著なものであるということはできな
いとした審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 明細書の記載要件の判断の誤りの有無について(本願発明1関係)
(1) 本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記のとおり,
「上面に開口した開口部を有するハウジング部(11,17,22)を備
え,垂直かつ平面の表面(20)の上に取り付ける取り付け手段(10)
を有し,昆虫誘引のための誘引光源(16)を前記ハウジング内部に設
け,さらに昆虫を不動状態にするために前記ハウジング部の底面に設けら
れる接着面(12)とを備えた飛行昆虫捕獲器において,
前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表
面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的に見ることが
できず,
かつ前記ハウジング部は水平な平面に対して80度以下の角度で傾斜し
た面部(21)を有し,前記面部において前記誘引光源からの光を前記垂
直かつ平面の表面(20)に反射させることを特徴とする飛行昆虫捕獲
器。」である。
上記記載のうち,「前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記
垂直かつ平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直
接的に見ることができず」との記載部分は,「前記ハウジング部」につい
て,それが「前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表面(20)
に」設けられたときに,「前記誘引光源(16)を直接的に見ることがで
き」ないという作用を生じる構成を表現したものと解される。
しかし,請求項1には,「昆虫誘引のための誘引光源(16)」が「前
記ハウジング内部に設け」られるとともに,ハウジング部は「上面に開口
した開口部を有する」ことが記載されていることからすれば,ハウジング
部が「前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表面(20)に」設け
られた状態においても,上面に開口した開口部から誘引光源(16)を直
接的に見ることが可能であることは自明であるから,「前記誘引光源(1
6)を直接的に見ることができ」ないという作用を生じる構成とは,具体
的にいかなる構成を意味するのか不明であり,請求項1の記載を全体とし
てみても上記構成が明確であるとは言い難い。
したがって,請求項1の記載は,上記の点においてその構成が不明確で
あり,明細書の特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようとする
発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項に区分してあるこ
と。」を規定した旧特許法36条5項2号の要件を満たさないものという
べきである。
(2)ア これに対し原告は,本願発明1(請求項1)の「前記ハウジング部
は,前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表面(20)に設けた
ときに,前記誘引光源(16)を直接的に見ることができ」ないとの構
成は,ハウジング部が誘引光源を取り囲んだ壁を構成し,その壁が観察
者の視点から誘引光源を遮る構成を意味するものであり,観察者が上面
に開口した開口部から誘引光源を直接的に見ることができないという条
件を満たす位置にハウジング部を設けることを意味し,ハウジング部の
取付位置は,「前記誘引光源(16)を直接的に見ることができず」と
の記載によって限定されていると主張する。
しかし,「前記ハウジング部は,前記取り付け手段により前記垂直か
つ平面の表面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的
に見ることができず」との記載部分からは,ハウジング部が「前記垂直
かつ平面の表面(20)」に取り付けられることを理解することができ
るものの,「前記垂直かつ平面の表面(20)」上の具体的な取付位置
についてまで特定しているものと理解することはできない。
原告は,ハウジング部の取付位置は,「前記誘引光源(16)を直接
的に見ることができず」との記載から,「観察者が上面に開口した開口
部から誘引光源を直接的に見ることができないという条件を満たす位
置」に限定されているというが,その主張自体,「観察者」を具体的に
特定するものではなく,一般に,本願発明1のような飛行昆虫捕獲器が
使用される場所における観察者には様々な背丈の者が想定されるのみな
らず,観察者の背丈,観察位置等により,観察者が開口部から誘引光源
を直接的に見ることができない高さや位置も異なることになるから,結
局,原告の主張を前提としても,ハウジング部の取付位置が特定されて
いるということはできない。
したがって,上記記載部分が,「ハウジング部が誘引光源を取り囲ん
だ壁を構成し,その壁が観察者の視点から誘引光源を遮る構成」を意味
するものとして,あるいは,「観察者が上面に開口した開口部から誘引
光源を直接的に見ることができないという条件を満たす位置にハウジン
グ部を設けること」を意味するものとして,その構成が明確である旨の
原告の主張は採用することができない。
イ また,原告は,どのような高さに取り付けようとも,誘引光源と観察
者の視点との間に障壁が存在すれば(例えば,上端が視点より高いハウ
ジングを備えれば),「前記取り付け手段により前記垂直かつ平面の表
面(20)に設けたときに,前記誘引光源(16)を直接的に見ること
ができ」ない構成となる旨主張するが,先に説示したとおり,観察者の
視点の位置はその状態等に応じて異なるものであり,上端が視点より高
いハウジングを備えるとの意味も不明確であるから,原告の上記主張は
失当である。
(3) そうすると,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載が,どの
ような構成により「前記誘引光源(16)を直接的に見ることができ」な
いのか不明であり,旧特許法36条5項2号に適合しないとした審決の判
断に誤りはない。
2 結論
以上によれば,その余の原告主張の取消事由(本願発明2関係)について
判断するまでもなく,本願は特許を受けることができないから,本願を拒絶
すべきであるとした審決は相当である。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐 藤 久 夫
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀

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