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平成17(ワ)10907特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成18年9月8日
事件種別 民事
当事者 被告アナログ・デバイセズ株式会社
原告株式会社ワコー
法令 特許権
特許法123条1項2号12回
特許法134条の23回
特許法29条1項3号3回
特許法123条1項4号3回
特許法102条3項2回
特許法36条4項1号1回
特許法123条1項1号1回
特許法44条1項1回
特許法36条6項1号1回
特許法29条1項1回
特許法104条の31回
特許法29条2項1回
特許法17条の21回
特許法36条6項2号1回
キーワード 無効98回
特許権84回
新規性47回
無効審判18回
分割17回
進歩性16回
実施14回
侵害3回
ライセンス2回
差止2回
刊行物1回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,被告による被告製品の輸入,販売等が原告の特許権を侵害するとして, 原告が,被告に対し,当該特許権に基づく被告製品の輸入,製造等の差止め並びに 当該侵害により発生した損害の一部についての損害賠償及び民法所定の遅延損害金 の支払を求めたのに対し,被告が,構成要件の非充足及び新規性欠如等による特許 権の無効を主張して争った事案である。

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判決文

平成17年(ワ)第10907号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成18年2月14日
判 決
埼玉県上尾市<以下略>
原 告 株式会社ワコー
同訴訟代理人弁護士 内田公志
同 鮫島正洋
同 後藤正邦
同訴訟復代理人弁護士 玉井真理子
同 中原敏雄
同補佐人弁理士 志村浩
東京都港区<以下略>
被 告 アナログ・デバイセズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉利靖雄
同訴訟代理人弁理士 山本秀策
同補佐人弁理士 大塩竹志
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の物件を製造し,輸入し,販売し,又は販売の申
出をしてはならない。
2 被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成17年6月14
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告による被告製品の輸入,販売等が原告の特許権を侵害するとして,
原告が,被告に対し,当該特許権に基づく被告製品の輸入,製造等の差止め並びに
当該侵害により発生した損害の一部についての損害賠償及び民法所定の遅延損害金
の支払を求めたのに対し,被告が,構成要件の非充足及び新規性欠如等による特許
権の無効を主張して争った事案である。
1 前提事実
(1) 原特許権
原告は,以下の特許権を有する(以下,この特許権を「原特許権」といい,その出
願を「原出願」という。また,別紙特許公報1掲載の明細書及び図面を「原出願明細
書」という。)。
特許番号 特許第2841240号
発明の名称 力・加速度・磁気の検出装置
出願日 平成2年10月12日
出願番号 特願平2−274299号
公開日 平成4年5月21日
公開番号 特開平4−148833号
登録日 平成10年10月23日
特許請求の範囲 原出願明細書の特許請求の範囲記載のとおり
(争いのない事実)
(2) 本件特許権
ア 原告は,以下の特許権を有する(以下,この特許権のうち請求項1に係る
特許権を「本件特許権1」,請求項5に係る特許権を「本件特許権2」,請求項6に係
る特許権を「本件特許権3」といい,本件特許権1ないし3を併せて「本件特許権」と
いう。その出願を「本件出願」という。本件特許権1ないし3の発明を「本件特許
発明1」のようにいう。また,別紙特許公報2掲載の明細書及び図面を「本件明細
書」という。)。
特許番号 特許第3145979号
発明の名称 力・加速度・磁気の検出装置
分割の表示 特願平2−274299号(原出願)の分割
出願日 平成2年10月12日(ただし,分割による特許出願の提出日
は平成10年7月9日)
登録日 平成13年1月5日
特許請求の範囲 本件明細書の特許請求の範囲請求項1,同5及び同6記載のと
おり
(争いのない事実)
イ 構成要件の分説
(ア) 本件特許発明1
本件特許発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(Iは欠番とする 。
以下,各構成要件を「構成要件 A 」のように表記する。)。
A 互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に作用
した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をも
った力検出装置であって,
B 装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と,
C 前記固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用した前記第1の
軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて,前記可撓性部分が撓みを生じ
ることにより,前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向
に変位を生じる変位要素と,
D 前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上
に形成された第1の固定電極,第2の固定電極,第3の固定電極,第4の固定電極
と,
E 前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第
1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,第4の変位電極と,を備え,
F-1 前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成
され,
F-2 前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成
され,
F-3 前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成
され,
F-4 前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成
され,
G-1 かつ,前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合,前記第1の
容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加
し,前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子の
電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
G-2 前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,前
記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間
距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように,前記
各固定電極および前記各変位電極が配置されており,
H 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記第1の軸方向に作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4
の容量素子の容量値との差によって,前記第2の軸方向に作用した力を検出するよ
うに構成したこと
J を特徴とする力検出装置。
(イ) 本件特許発明2
K 請求項1∼4のいずれかに記載の力検出装置において,複数の変位電極また
は複数の固定電極のいずれか一方を,物理的に単一の共通電極によって形成したこ
とを特徴とする力検出装置。
(ウ) 本件特許発明3
L 請求項1∼5のいずれかに記載の検出装置において,変位要素に作用する加
速度に基いて発生する力を検出することにより,加速度の検出を行い得るようにし
たことを特徴とする加速度検出装置。
(争いのない事実)
(3) 訂正請求
原告は,無効2005−80224号特許無効審判事件において,平成17年1
0月20日,本件特許発明1の構成要件 H につき,以下のとおり訂正する旨の訂
正請求を行った(以下,この訂正請求を「本件訂正請求」という。また,訂正後の構
成要件を「構成要件 H'-1 」及び「構成要件 H'-2 」と分説する。)。
H'-1 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を,前
記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し,前記第3の容
量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向に作用
した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え,
H'-2 前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されていること
(争いのない事実)
(4) 被告製品
ア 被告は,業として,別紙物件目録記載の商品(以下「被告製品」という。)を
輸入し,日本国内において販売している。
(争いのない事実)
イ 本件特許発明1の構成要件充足性
被告製品は,本件特許発明1の構成要件 B 及び C を充足する。
(争いのない事実)
2 争点
(1) 被告製品の構成要件 A,D,E, F-1 ないし F-4,G-1,G-2,H 及び J の充足
の有無
(2) 被告製品の構成要件 K の充足の有無
(3) 被告製品の構成要件 L の充足の有無
(4) 無効の抗弁1の成否−分割出願の要件違反
(5) 無効の抗弁2の成否−補正要件違反
(6) 無効の抗弁3の成否−未完成発明
(7) 無効の抗弁4の成否−実施可能要件違反
(8) 無効の抗弁5の成否−発明の詳細な説明への記載の欠如
(9) 無効の抗弁6の成否−請求項の記載の明確性の欠如
(10) 無効の抗弁7の成否−新規性の欠如1
(11) 無効の抗弁8の成否−新規性の欠如2
(12) 無効の抗弁9の成否−新規性の欠如3
(13) 無効の抗弁10の成否−新規性の欠如4
(14) 無効の抗弁11の成否−進歩性の欠如1
(15) 無効の抗弁12の成否−進歩性の欠如2
(16) 訂正請求について
ア 訂正の可否
イ 被告製品の構成要件 H'-1 及び H'-2 の充足の有無
ウ 無効の抗弁1ないし6について
エ 無効の抗弁7ないし12について
(17) 損害(特許法102条3項)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 被告製品の構成要件 A,D,E, F-1 ないし F-4,G-1, G-2,H 及び J の充足
の有無
ア 原告の主張
(ア) 構成要件 A 及びJ
被告製品の動作原理に関する別紙模式図(以下「模式図」という。)の X 軸,Y 軸
が,それぞれ「第1の軸」,「第2の軸」に相当する。したがって,被告製品は,「第
1の軸方向に作用した力」,「第2の軸方向に作用した力」を「それぞれ独立して検出
する機能をもった力検出装置」であり,構成要件 A 及びJを充足する。
(イ) 構成要件 D
a 本件特許発明1の「第1の固定電極」,「第2の固定電極」,「第3の固定
電極」,「第4の固定電極」は,単一の固定電極のものも,複数の固定電極のものも
含む。
b 被告製品において,棒状固定電極(模式図の E2,E3,E5,E6)は基板に
接続されているから,「固定要素上に形成され」ており,このため「変位要素の変位
にかかわらず固定状態を維持する」から,それぞれ「第1の固定電極,第2の固定電
極,第3の固定電極,第4の固定電極」に該当する。したがって,被告製品は構成
要件 D を充足する。
(ウ) 構成要件 E
a 本件特許発明1は,変位電極の変位方向について特段の限定はしていな
いから,その変位がいずれの方向に起こるものも含む。
b 被告製品において棒状変位電極(模式図の E1, E4)は「変位要素」である
重錘体(模式図の20)と一体を成していることから,「前記変位要素の変位ととも
に変位する」ものである。また,これらの棒状変位電極 E1, E4 は,その両側の側
面部分が帯電する形態となっており,2つの棒状変位電極 E1,E4 は4つの電極を
構成することから,「変位要素上に形成された第1の変位電極,第2の変位電極,
第3の変位電極,第4の変位電極」に該当する。したがって,被告製品は,構成要
件 E を充足する。
(エ) 構成要件 F-1 ないし F-4
「第1の固定電極」を被告製品の電極 E2 の電極 E1 対向部分,「第1の変位電極」
を電極 E1 の電極 E2 対向部分とすると,「第1の固定電極と前記第1の変位電極と
は互いに対向する位置に配置され」ており,これらによって「第1の容量素子」(模式
図の C1)が形成されている。したがって,被告製品は構成要件 F-1 を充足する。
構成要件 F-2 ないし F-4 についても同様であり,「第2の容量素子」,「第3の容
量素子」,「第4の容量素子」はそれぞれ C2,C3,C4 である。したがって,被告製
品は,構成要件 F-2 ないし F-4 を充足する。
(オ) 構成要件 G-1 及び G-2
被告製品の重錘体20が X 軸の正方向に移動すると,電極 E1 と電極 E2 から構
成される第1の容量素子の電極間間隔が減少し,同時に,電極 E1 と電極 E3 から
構成される第2の容量素子の電極間間隔が増加するから,「前記変位要素が前記第
1の軸の正方向に変位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとと
もに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し」に該当する。重錘体20が X 軸の
負方向に移動すると,第1の容量素子の電極間間隔が増加し,同時に,第2の容量
素子の電極間間隔が減少するから,「前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位
した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素
子の電極間距離が減少し」に該当する。したがって,被告製品は構成要件 G-1 を充
足する。
構成要件 G-2 についても同様であり,被告製品は,構成要件 G-2 を充足する。
(カ) 構成要件 H
被告製品は, X 軸方向に力が加わった場合には,「前記第1の容量素子の容量値
と前記第2の容量素子の容量値との差によって,前記第1の軸方向に作用した力を
検出」するものである。Y 軸方向に力が加わった場合も同様である。
したがって,被告製品は,構成要件 H を充足する。
イ 被告の主張
(ア)a 原告の主張(ア)(構成要件 A 及びJ)は否認する。
b 被告製品は,加速度センサーであり,力を検出しない。
(イ)a 同(イ)(構成要件 D)は否認する。
b 本件特許発明1の「第1の固定電極」,「第2の固定電極」,「第3の固定
電極」,「第4の固定電極」は,単一の固定電極である。
(ウ)a 同(ウ)(構成要件 E)は否認する。
b 本件特許発明1の「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位
電極」,「第4の変位電極」とは,すべてが同一であるか,すべてが互いに異なるも
のをいうと解釈すべきである。これに対し,被告製品では,「第1の変位電極」と
「第2の変位電極」とが同一の電極であり,「第3の変位電極」と「第4の変位電極」と
が同一の電極である。
c 本件特許発明1の「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位
電極」,「第4の変位電極」は,第1の軸方向及び第2の軸方向に垂直な軸方向に変
位すると解釈すべきである。これに対し,被告製品では,変位電極は第1の軸方向
及び第2の軸方向に垂直な軸方向に変位しない。
d 本件特許発明1の「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位
電極」,「第4の変位電極」は,「前記変位要素上に形成され」ることを必要とするの
に対し,被告製品では,変位電極は,変位要素に対応するプルーフ・マス(別紙「被
告製品の構造と作動原理」の20)の側面からプルーフ・マス20の外側に向かって
延びており,プルーフ・マスの上には形成されていない。
e 本件特許発明1の「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位
電極」,「第4の変位電極」は「前記変位要素上に形成され」ることから,「第1の変位
電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」が「前記変位要
素」とは別々に形成されることを必要とする。これに対し,被告製品では,変位電
極は変位要素に対応するプルーフ・マスと一体的に形成されている。
(エ)a 同(エ)(構成要件 F-1 ないし F-4)は否認する。
b(a) 前記(イ)bのとおり,「前記第1の固定電極」と「前記第2の固定電極」
とは同一であると解釈されるべきところ,被告製品では,「前記第1の固定電極」に
対応する固定電極(「被告製品の構造と作動原理」の11)と「前記第2の固定電極」に
対応する固定電極(同12)とは互いに異なっている。
(b) 前記(ウ)bのとおり,本件特許発明1の構成要件 F-1 ないし F-4 におけ
る「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」は,
すべてが同一であるか,すべてが互いに異なるものをいうと解釈すべきところ,被
告製品では,「第1の変位電極」と「第2の変位電極」とが同一の電極である変位電極
(「被告製品の構造と作動原理」の20 a)として構成されており,「第3の変位電極」,
「第4の変位電極」とが同一の電極である変位電極(同20 b)として構成されており,
変位電極20 a と変位電極20 b とは異なっている。
(オ) 同(オ)(構成要件 G-1 及び G-2)は否認する。
(カ)a 同(カ)(構成要件 H)は否認する。
b 被告製品は,第1の軸方向に作用した加速度を検出し,また,第2の軸
方向に作用した加速度を検出するように構成されており,このような加速度を検出
するに当たり,力を検出することを必要としない。
(2) 被告製品の構成要件 K の充足の有無
ア 原告の主張
(ア)a 被告製品は,第1及び第2の変位電極が同一であり,第3及び第4の
変位電極が同一の電極である。
b したがって,被告製品は,構成要件 K の「複数の変位電極…を,物理的
に単一の共通電極によって形成した」に該当する。
(イ) したがって,被告製品は構成要件 K を充足する。
イ 被告の主張
(ア) 原告の主張(ア)aは認め,(ア)b及び(イ)は否認する。
(イ) 構成要件 K は,すべての変位電極を物理的に単一の共通電極によって形
成したことを必要とする。
「第1の変位電極」と「第2の変位電極」とが物理的に単一の第1の共通電極として
形成されており,「第3の変位電極」と「第4の変位電極」とが物理的に単一の第2の
共通電極として形成されている被告製品は,構成要件 K を充足しない。
(3) 被告製品の構成要件 L の充足の有無
ア 原告の主張
(ア) 被告製品は加速度センサー(加速度検出装置)であり,変位要素である重
錘体20に付加された力 F を検出することで,F=ma という式によって加速度 a の
検出ができる(mは重錘体の質量)。したがって,被告製品は,「変位要素に作用す
る加速度に基いて発生する力を検出することにより,加速度の検出を行い得る」こ
とになる。
(イ) したがって,被告製品は構成要件 L を充足する。
イ 被告の主張
(ア) 原告の主張は否認する。
(イ) 構成要件 L は,変位要素に作用する加速度に基づいて発生する「力」を
検出することを必要とするのに対し,被告製品は力を検出することを必要としない。
(4) 無効の抗弁1の成否(特許法104条の3)−分割出願の要件違反
ア 被告の主張
(ア) 分割出願の要件違反
a(a) 本件特許発明1に係る請求項記載の「変位要素」という用語は,原出
願の出願当初の明細書(乙2。以下「原出願当初明細書」という。)には記載されてお
らず,以下のとおり,本件出願時に追加されたものである(以下,本件出願時の明
細書及び図面(乙11)を「本件出願当初明細書」という。)。
① 原出願当初明細書の「を生じる基板となっている。」(17頁4行)の後に,
「結局,固定基板10は装置筐体40に固定された固定要素として機能するのに対
し,変位基板20はこの固定要素に対して可撓性部分を介して接続されており,変
位基板20の中央部分は作用体30とともに変位要素(固定要素に対して相対的な
変位を生じる要素)として機能することになる。」という記載が追加されている(本
件出願当初明細書【0017】参照。以下この記載を「記載①」という。)。
② 原出願当初明細書の「をそれぞれ定義する。」(17頁9行)の後に ,「すると ,
変位要素は, X, Y, Z の各軸方向に変位可能な状態で,固定要素に対して接続さ
れていることになる。」という記載が追加されている(本件出願当初明細書【001
7】参照。以下この記載を「記載②」という。)。
( b) 原出願当初明細書の全体にわたって使用されている「可撓基板」という
用語が,分割出願時に,「変位基板」という用語に置換されている。
( c) さらに,原出願当初明細書の「(3) 可撓基板は可撓性をもった材質か
らなること。」(24頁15 ~16行)が,分割出願時に,「(3) 変位基板が作用体
に作用した外力に基づいて変位しうること。」(本件出願当初明細書【0025】)
に置換されている。
b 「可撓」とは,「撓むことができる」ことを意味し,「撓み」とは,「たわむ
こと。外力によって板・棒などの軸方向が曲がる変形。」(乙17)をいう。これに
対し,「変位」とは,「物体がある位置から別の位置に動(くこと)」をいい,「方向と
大きさをもつベクトル量」として表されるものをいう(乙18)。
このように,「可撓」とは特定の軸方向に曲がることによって変形することができ
ることをいうのに対し,「変位」とは任意の方向に任意の大きさだけ移動することを
いう。基板が「撓む」ことによって基板が「変位」することになるが,逆に,基板が
「変位」したからといって必ずしも基板が「撓む」ことになるとは限らない。したがっ
て,「変位」という用語は,「可撓」という用語を上位概念化したものである。
c また,記載①中の「変位基板20はこの固定要素に対して可撓性部分を
介して接続されており」という記載の意味は,変位基板20と固定要素との間に「可
撓性部分」という部分が存在することを意味する。すなわち,この「可撓性部分」は ,
変位基板20とは別物であると理解される。
一方,「可撓性部分」とは,「可撓性という性質を有する構成要素の一部」を意味す
るところ,原出願当初明細書に記載の構成要素のうち可撓性を有するものは,「可
撓基板20」のみであり,その他に可撓性を有する構成要素は存在しないことから ,
この「可撓性部分」は「可撓基板20」の一部であるというべきである。
d このように,「可撓」が記載されている原出願当初明細書から,「変位」な
る上位概念を導出することは,原出願当初明細書の記載及び自明な事項を超え,明
細書及び図面の要旨を変更するものである。
よって,本件出願は,特許法44条1項所定の分割出願の要件を満たしていない
ことから,同条2項に規定される出願日の遡及の利益を受けることはできず,本件
出願の出願日は,現実の出願日である平成10年7月9日とされるべきである。
(イ) 新規性の欠如
a 特開平4−148833号公報(乙3。原出願の公開特許公報である。)
に記載の発明(以下「引用例1に記載された発明」という。)は,以下のとおりの構成
を有する。
a1 互いに直行する X 軸及び Y 軸を定義し,前記 X 軸方向に作用した力及び前
記 Y 軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能を持った力検出装置で
あって,
b1 装置筐体40に対して変位が生じないように固定された固定要素10と,
c1 前記固定要素10に可撓基板20を介して接続され,外部から作用した前記
X 軸方向の力又は前記 Y 軸方向の力に基づいて,前記可撓基板20が撓みを生じ
ることにより,前記固定要素10に対して前記 X 軸方向又は前記 Y 軸方向に変位
を生じる可撓基板20及び作用体30と,
d1 前記可撓基板20及び作用体30の変位にかかわらず固定状態を維持するよ
うに前記固定要素10上に形成された固定電極11と,
e1 前記可撓基板20及び作用体30の変位とともに変位するように前記可撓基
板20上に形成された変位電極21∼24と,を備え,
f1-1 前記固定電極11と前記変位電極21とは互いに対向する位置に配置され,
前記固定電極11と前記変位電極21とによって,第1の容量素子が形成され,
f1-2 前記固定電極11と前記変位電極23とは互いに対向する位置に配置され,
前記固定電極11と前記変位電極23とによって,第2の容量素子が形成され,
f1-3 前記固定電極11と前記変位電極22とは互いに対向する位置に配置され,
前記固定電極11と前記変位電極22とによって,第3の容量素子が形成され,
f1-4 前記固定電極11と前記変位電極24とは互いに対向する位置に配置され,
前記固定電極11と前記変位電極24とによって,第4の容量素子が形成され,
g1-1 かつ,前記可撓基板20及び作用体30が前記 X 軸の正方向に変位した場
合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電
極間距離が増加し,前記可撓基板20及び作用体30が前記 X 軸の負方向に変位
した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素
子の電極間距離が減少し,
g1-2 前記可撓基板20及び作用体30が前記 Y 軸の正方向に変位した場合,前
記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距
離が増加し,前記可撓基板20及び作用体30が前記 Y 軸の負方向に変位した場
合,前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電
極間距離が減少するように,前記固定電極11及び前記変位電極21∼24のそれ
ぞれが配置されており,
h1 前記第1の容量素子の静電容量と前記第2の容量素子の静電容量の差によっ
て,前記 X 軸方向に作用した力を検出し,前記第3の容量素子の静電容量と前記
第4の容量素子の静電容量との差によって,前記 Y 軸方向に作用した力を検出す
るように構成したことを特徴とする
j1 力検出装置。
l1 検出装置において,可撓基板20及び作用体30に作用する加速度に基づい
て発生する力を検出することにより,加速度の検出を行いうるようにした加速度検
出装置。
b 本件特許発明1と引用例1に記載された発明との対比
( a) 本件特許発明1の構成要素と引用例1に記載された発明の構成要素と
の対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明1の構成要素 引用例1に記載された発明の構成
要素
力検出装置(構成要件 A,J) 力検出装置(構成 a1,j1)
装置筐体(構成要件 B) 装置筐体40(構成 b1)
固定要素(同上) 固定要素10(同上)
可撓性部分(構成要件 C) 可撓基板20(構成 c1)
変位要素(同上) 可撓基板20及び作用体3 0 ( 同
上)
第1の固定電極(構成要件 D) 固定電極11(構成 d1)
第2の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第3の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第4の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) 変位電極21(構成 e1)
第2の変位電極(同上) 変位電極23(同上)
第3の変位電極(同上) 変位電極22(同上)
第4の変位電極(同上) 変位電極24(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -1 ) 固定電極11と変位電極21とに
よって形成された第1の容量素子
(構成 f1-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -2 ) 固定電極11と変位電極23とに
よって形成された第2の容量素子
(構成 f1-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -3 ) 固定電極11と変位電極22とに
よって形成された第3の容量素子
(構成 f1-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -4 ) 固定電極11と変位電極24とに
よって形成された第4の容量素子
(構成 f1-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変位 可撓基板20及び作用体30が X 軸
した場合,第1の容量素子の電極間 の正方向に変位した場合,第1の容量
距離が減少するとともに第2の容量 素子の電極間距離が減少するとともに
素子の電極間距離が増加し,変位要 第 2の容 量素子 の電極 間距離 が増加
素が第1の軸の負方向に変位した場 し,可撓基板20及び作用体30が X
合,第1の容量素子の電極間距離が 軸の負方向に変位した場合,第1の容
増加するとともに第2の容量素子の 量素子の電極間距離が増加するととも
電極間距離が減少するように,各固 に第2の容量素子の電極間距離が減少
定電極及び各変位電極を配置(構成 するように,固定電極11及び変位電
要件 G-1) 極21,23を配置(構成 g1-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した 可撓基板20及び作用体30が Y 軸の正方
場合,第3の容量素子の電極間距離が減 向に変位した場合,第3の容量素子の電極
少するとともに第4の容量素子の電極間 間距離が減少するとともに第4の容量素子
距離が増加し,変位要素が第2の軸の負 の電極間距離が増加し,可撓基板20及び
方向に変位した場合,第3の容量素子の 作用体30が Y 軸の負方向に変位した場
電極間距離が増加するとともに第4の容 合,第3の容量素子の電極間距離が増加す
量素子の電極間距離が減少するように, るとともに第4の容量素子の電極間距離が
各固定電極及び各変位電極を配置(構成要 減少するように,固定電極11及び変位電
件 G-2) 極22,24を配置(構成 g1-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容 第1の容量素子の静電容量と第2の容
量素子の容量値との差によって,第 量素子の静電容量の差によって, X 軸
1の軸方向に作用した力を検出し, 方向に作用した力を検出し,第3の容
第3の容量素子の容量値と第4の容 量素子の静電容量と第4の容量素子の
量素子の容量値との差によって,第 静電容量との差によって, Y 軸方向に
2の軸方向に作用した力を検出する 作用した力を検出するように構成(構
ように構成(構成要件 H) 成 h1)
(b) 引用例1に記載された発明の構成 a1 ないし j1 は,それぞれ本件特許
発明1の構成要件 A ないし J に相当し,両者は,すべての構成において一致し,
相違点は存しない。したがって,本件特許発明1は,引用例1に記載された発明に
対して新規性がない。
c 本件特許発明2と引用例1に記載された発明との対比
引用例1に記載された発明は,固定電極を物理的に単一の固定電極11によって
形成した力検出装置である(構成 k1)。この構成 k1 は,本件特許発明2の構成要件 K
に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しない。したがって,本件特許発明2
は,引用例1に記載された発明に対して新規性がない。
d 本件特許発明3と引用例1に記載された発明との対比
引用例1に記載された発明の構成 l1 は,本件特許発明3の構成要件 L に相当し,
両者の構成は一致し,相違点は存在しない。したがって,本件特許発明3は,引用
例1に記載された発明に対して新規性がない。
(ウ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(分割出願の要件違反)のうち,aは認め,その余は否認
する。
b 原出願当初明細書の記載には,「可撓基板20は可撓性をもち,力が加
わると撓みを生じる基板」であることが示されており,また,その第4図にも,可
撓基板20が撓みを生じた状態が示されている。したがって,外部からの力 Fx が
作用すると,少なくとも可撓基板20の周囲部分は撓みを生じることは明らかであ
り,この撓みを生じる部分を「可撓性部分」と呼ぶことに何ら不都合・不自然はない
から,「可撓性部分」は原出願当初明細書から当業者には自明な事項に該当する。
また,原出願当初明細書の記載によれば,「作用体30は…可撓基板20の下面
に,同軸接合されている」のであるから,「作用体30」と「作用体30が接合されて
いる可撓基板20の中央部分」とは,物理的には一塊の物体として機能することに
なる。そして,「可撓性部分」が撓むことにより,この一塊の物体は変位を生じるこ
とになるのであるから,この一塊の物体のことを「変位要素」と呼ぶことに何ら不都
合・不自然はなく,「変位要素」も原出願当初明細書から当業者に自明な事項に該当
する。
結局,「固定要素」,「変位要素」,「可撓性部分」という文言自体は,原出願当初明
細書には記載されていないが,固定基板10が「装置筐体に対して変位が生じない
ように固定された固定要素」であること,並びに,可撓基板20の中央部分及び作
用体30から成る一塊の物体が「固定要素に可撓性部分(可撓基板20の周囲部分)
を介して接続され,外部から作用した力に基づいて,可撓性部分が撓みを生じるこ
とにより,固定要素に対して変位を生じる変位要素」であることは,原出願当初明
細書から自明な事項である。したがって,「固定要素」,「変位要素」,「可撓性部分」
という文言は「当初の明細書及び図面に記載されている事項」に該当するのであり ,
これを追加することは要旨変更ではない。
(イ) 同(イ)(新規性の欠如)aないしdは,いずれも明らかに争わない。
(ウ)a 同(ウ)(まとめ)は否認する。
b 本件出願は適法な分割出願であるから,出願日の遡及の利益を受ける。
(5) 無効の抗弁2の成否−補正要件違反
ア 被告の主張
(ア)a 原告は,平成12年11月17日付け手続補正書(乙15)により,本
件出願の請求項1の補正を行った(以下「本件補正」という。)。
b 本件補正は,記載①(前記( 4)ア(ア)a( a))に基づいてされた。
c しかし,記載①は,本件出願時に初めて加えられ,原出願当初明細書に
は記載されていない。
d したがって,本件補正は,原出願当初明細書に記載した事項及び自明の
範囲を超えている。
e そうすると,本件特許権は,その特許が特許法17条の2第3項に規定
する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから,特
許法123条1項1号所定の無効理由を有し,特許無効審判により無効にされるべ
きものであり,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
(イ) 仮に本件出願が分割出願の要件を満たしていたとしても,本件補正は,
原出願当初明細書に記載した事項の範囲外のものであり,無効理由を有する。
イ 原告の主張
(ア) 被告の主張(ア)のうち,a及びbは認め,その余は否認し,(イ)は否認す
る。
(イ) 特許法17条の2第3項における補正の制限にいう「記載した事項の範囲
内」とは,一字一句同じ文言が記載されていることを要求するものではないところ ,
原出願当初明細書には「変位要素」や「変位基板」という用語自体は存在しないが,本
件補正で加えた事項が記載されている。
また,平成5年法律第26号による改正前の特許法の補正要件は,現行法よりも
極めて制限が緩かったから,その要件に反することもない。
(6) 無効の抗弁3の成否−未完成発明
ア 被告の主張
(ア) 本件明細書の図3には,作用点 P に X 軸方向の力が作用した場合に,変
位基板20にZ軸方向の変位が生じる様子が示され,作用点 P に X 軸方向の力が
作用した場合に,変位基板20を Z 軸方向に変位させることが固定電極11と変
位電極21∼24との電極間距離を増減させる原理であることが明示されている。
したがって,作用点 P に X 軸方向の力が作用した場合に,変位基板20を Z 軸方
向に変位させることが固定電極11と変位電極21∼24との電極間距離を増減さ
せるために必須である。
これに対し,本件特許権1に係る請求項には,変位要素が Z 軸方向に変位する
ことが規定されていない。
よって,本件特許発明1は,動作不能な未完成発明であるというべきである。
同様の理由から,本件特許発明2及び3も,動作不能な未完成発明であるという
ことができる。
(イ) そうすると,本件特許権は,特許法29条1項柱書の規定に違反して特
許されたものである。
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア) 被告の主張はいずれも否認する。
(イ) 本件特許権1の請求項に変位要素の Z 軸方向の変位に関する記述がない
のは,本件特許発明1が,変位要素が Z 軸方向に変位することを必須要件として
いないからである。本件特許発明1は,作用した力の X 軸方向成分及び Y 軸方向
成分を検出することが目的であり,変位要素が X 軸方向及び Y 軸方向に変位する
ことは必須であるが,この X 軸方向及び Y 軸方向への変位が Z 軸方向への変位を
伴っているか否かは問わない。
(7) 無効の抗弁4の成否−実施可能要件違反
ア 被告の主張
(ア) 本件明細書において,作用点 P に X 軸方向の力が作用した場合に変位基
板20に Z 軸方向の変位が生じることは,図3には示されているものの,発明の
詳細な説明には明示されていない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したもので
あるとはいえない。
(イ) そうすると,本件特許権1並びにこれに従属する本件特許権2及び3に
係る特許は,特許法36条4項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対
してされたものである。
したがって,本件特許権は,特許法123条1項4号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア) 被告の主張はいずれも否認する。
(イ) 本件特許発明1において, X 軸方向の力を検出する際に,変位要素に Z
軸方向の変位が生じることは必須ではなく,この点を発明の詳細な説明中で詳細に
述べる必要はない。本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1
の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされている。
(8) 無効の抗弁5の成否−発明の詳細な説明への記載の欠如
ア 被告の主張
(ア) 本件特許発明1においては,作用点 P に X 軸方向の力が作用した場合に,
「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」を Z
軸方向に変位させること,すなわち,変位要素を Z 軸方向に変位させることが,
固定電極と変位電極とによって形成される容量素子の電極間距離を増減させるため
に必須である。
これに対し,本件特許権1に係る請求項には,「第1の変位電極」,「第2の変位
電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」が Z 軸方向に変位することも,「変
位要素」が Z 軸方向に変位することも規定されていない。
よって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものではないという
べきである。
同様の理由から,本件特許発明2及び3も,発明の詳細な説明に記載されたもの
ではないというべきである。
(イ) そうすると,本件特許権に係る特許は,特許法36条6項1号の規定す
る要件を満たしていない特許出願に対してされたものというべきである。
したがって,本件特許権は,特許法123条1項4号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
被告の主張はいずれも否認する。
(9) 無効の抗弁6の成否−請求項の記載の明確性の欠如
ア 被告の主張
(ア) 本件特許発明1においては,「第1の変位電極」,「第2の変位電極 」,
「第3の変位電極」,「第4の変位電極」を Z 軸方向に変位させること,すなわち,
変位要素を Z 軸方向に変位させることが,固定電極と変位電極とによって形成さ
れる容量素子の電極間距離を増減させるために必須である。
これに対し,本件特許権1に係る請求項には,「第1の変位電極」,「第2の変位
電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」が Z 軸方向に変位することも,「変
位要素」が Z 軸方向に変位することも規定されていない。
よって,本件特許権1に係る請求項の記載は,発明を特定するために必要な事項
を欠くから,発明が明確であるとはいえない。
同様の理由から,本件特許権2及び3に係る請求項の記載も,発明を特定するた
めに必要な事項を欠くから,発明が明確でないというべきである。
(イ) また,本件特許発明1は,以下の記載不備があるため,明確であるとは
いえない。
① 構成要件 D について,「第1の固定電極」,「第2の固定電極」,「第3の固定
電極」,「第4の固定電極」とは,同一のものを指すのか,異なるものを指すのか不
明確である。
② 構成要件 E について,「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位
電極」,「第4の変位電極」とは,同一のものを指すのか,異なるものを指すのか不
明確である。
③ 構成要件 E について,「前記変位要素の変位とともに変位するように」とは,
「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位電極」がど
ちらの方向に変位するのか不明確である。仮に,本件特許発明1が動作可能として
も,本件明細書を参酌すると,「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変
位電極」,「第4の変位電極」は,第1の軸方向(X軸方向)及び第2の軸方向( Y 軸方
向)に垂直な軸方向(Z軸方向)に変位することが必須である。したがって,構成要
件 E は,「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電極」,「第4の変位
電極」が第1の軸方向及び第2の軸方向に垂直な軸方向に変位するという発明を特
定するために必要な事項を欠いている。
(ウ) そうすると,本件特許権に係る特許は,特許法36条6項2号の規定す
る要件を満たしていない特許出願に対してされたものというべきである。
したがって,本件特許権は,特許法123条1項4号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア) 被告の主張はいずれも否認する。
(イ)a 本件特許発明1において ,X 軸方向の力を検出する際に,変位要素に Z
軸方向の変位が生じることは必須ではない。
b 構成要件 D において,「第1の固定電極」,「第2の固定電極」,「第3の
固定電極」,「第4の固定電極」は,物理的に単一のものに限定されない。
c 構成要件 E は,「第1の変位電極」,「第2の変位電極」,「第3の変位電
極」,「第4の変位電極」が物理的に同一のものも,異なったものも含む。
(10) 無効の抗弁7の成否−新規性の欠如1
ア 被告の主張
(ア) 引用例2
a 米国特許第 4,941,354 号公報(1990年(平成2年)7月17日登録。乙
19。以下「引用例2」という。)は,以下の事項を記載している。
( a) 本発明によれば,3軸の加速度計が提供される。この加速度計は,ハ
ウジングと,加えられた力に応答して3つの測定軸に対して変位可能なようにその
ハウジング内に取り付けられたマグネットと,マグネットの変位を検知し,3つの
測定軸のそれぞれに沿って加えられた力の成分に比例する出力信号を提供する検知
手段とを含む(第1欄32行∼40行)。
( b) 図1を参照して,図示される加速度計1は,導電性のハウジング2を
含む。ハウジング2は,下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4とから構成
されており,ハウジング2とは電気的に絶縁されているケーシング5によって囲ま
れている。ケーシング5は,磁気的なスクリーニングを提供するために,ラジオメ
タルのような軟磁性アロイから作成されている。
サマリウムコバルトの永久マグネット6は,導電性の支持部材7内の円柱状のボ
ア50の中に受容されることによってハウジング2内に取り付けられている。支持
部材7は,中央孔8を介して下部ハウジング部分3の中を延びている。支持部材7
は,ネジ51によって導電性の円形の支持ダイヤフラム9の中央に接続されている。
ネジ51は,ダイヤフラム9を介して支持部材7の中をネジがきられたボア52に
延びている。支持部材7の軸方向のマグネット6の移動は, Z 測定軸に沿っており,
ダイヤフラム9の平面と垂直な方向にダイヤフラム9が変形することによって許容
される。さらに,支持部材7の軸に対して横方向のマグネット6の移動は,ダイヤ
フラム9に平行な平面内で直交する X 及び Y 測定軸に沿っており,ダイヤフラム
9の中心を軸として支持部材7を回転させるようにダイヤフラム9が撓むことによ
って許容される(第2欄14行∼39行)。
( c) 支持部材7の上部分には,ピックオフキャパシタ14の可動プレート
13を構成する環状のフランジが設けられている。キャパシタ14は,従来のプリ
ント回路プロセスによって回路板15の下側に形成された固定された円状のプレー
トをさらに含み,ネジ16によってハウジング固定されている。ネジ16はまた,
下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4とを接続する。図3に示されるよう
に,固定プレート17は,4つのプレート部分18,19,20,21を含む。こ
れらのプレート部分は,互いに電気的に絶縁されており,中央点22の周りにある
共通のプレートに配置されている(第2欄47行∼57行)。
( d) 図3を再び参照して,ピックオフキャパシタ14の4つのプレート部
分18∼21を YA, XA, YB, XB と表記し,これらのプレート部分のそれぞれ
と可動プレート13との間の静電容量を CYA, XA, YB, XB と表記すると , , ,
C C C X Y Z
軸に沿ってそれぞれΔ X,Δ Y,Δ Z 移動することにより,その変形に比例して
静電容量が変化する。
ΔX ∝ CXA − CXB
ΔY ∝ CYA − CYB
ΔZ ∝ CXA + CXB + CYA + CYB
このような軸方向のマグネット6の移動は,可動プレート13と固定プレート1
7との間の静電容量を変化させる。横方向のマグネット6の移動は,可動プレート
13とそれに対向するプレート部分19及び21(若しくは,18及び20)との間
の差動静電容量に変化を生じさせる(第3欄15行∼33行)。
( e) マグネット6が,可動プレート13とプレート部分19との間の間隔
が増加するように中立位置から移動すると, CXA は CREF より小さくなり, VXA は励
起電圧Φに対して180°位相がずれることになる。逆に,マグネット6が,その
間隔が減少するように中立位置から移動すると,CXA は CREF より大きくなり, VXA
はΦと同位相になる。出力電圧 VXB, VYA, VYB は,プレート部分21,18,2
0にそれぞれ関連する同様のピックオフ増幅回路によって供給される(第3欄54
行∼63行)。
( f) 増幅器49は,矩形波電圧 VXA と VXB との差に応じた直流出力を発生
させ,この直流出力は, X 軸フォースコイル30,32及び電流検出抵抗58を流
れる復帰電流を生じさせる。フォースコイル30,32を流れる電流の方向は,マ
グネット6を中立位置に戻す方向であり,ピックオフキャパシタ14の可動プレー
ト13がプレート部分19,21に関して左右対称に配置されるようにする方向で
ある(第4欄30行∼38行)。
( g) X 軸方向に作用した加速度は,図5の回路によって,電圧値 VX とし
て出力される(図5)。
b 引用例2に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例2に記載された発明は,以下の構成を有する。
a2 互いに直交する X 軸及び Y 軸を定義し,前記 X 軸方向に作用した力及び前
記 Y 軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった加速度計1で
あって,
b2 ハウジング2に対して変位が生じないように固定された回路板15と,
c2 前記回路板15にダイヤフラム9を介して接続され,外部から作用した前記
X 軸方向の力又は前記 Y 軸方向の力に基づいて,前記ダイヤフラム9が撓みを生
じることにより,前記回路板15に対して前記 X 軸方向又は前記 Y 軸方向に変位
を生じるマグネット6と,
d2 前記マグネット6の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記回路板
15上に形成された固定プレート17のプレート部18∼21と,
e2 前記マグネット6の変位とともに変位するように前記マグネット6を収容す
る支持部材7上に形成された可動プレート13と,を備え,
f2-1 前記プレート部19と前記可動プレート13とは互いに対向する位置に配
置され,前記プレート部19と前記可動プレート13とによって,静電容量 CXA を
有する第1の容量素子が形成され,
f2-2 前記プレート部21と前記可動プレート13とは互いに対向する位置に配
置され,前記プレート部21と前記可動プレート13とによって,静電容量 CXB を
有する第2の容量素子が形成され,
f2-3 前記プレート部18と前記可動プレート13とは互いに対向する位置に配
置され,前記プレート部18と前記可動プレート13とによって,静電容量 CYA を
有する第3の容量素子が形成され,
f2-4 前記プレート部20と前記可動プレート13とは互いに対向する位置に配
置され,前記プレート部20と前記可動プレート13とによって,静電容量 CYB を
有する第4の容量素子が形成され,
g2-1 かつ,前記マグネット6が前記 X 軸の正方向に変位した場合,前記第1の
容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加
し,前記マグネット6が前記 X 軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子
の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
g2-2 前記マグネット6が前記 Y 軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,前
記マグネット6が前記 Y 軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極
間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように,前
記プレート部18∼21のそれぞれ及び前記可動プレート13が配置されており,
h2 前記第1の容量素子の静電容量 CXA と前記第2の容量素子の静電容量 CXB と
の差によって,前記 X 軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の静電
容量 CYA と前記第4の容量素子の静電容量 CYB との差によって,前記 Y 軸方向の
作用した力を検出するように構成したことを特徴とする
j2 加速度計1。
l2 検出装置において,マグネット6に作用する加速度に基づいて発生する力を
検出することにより,加速度の検出を行い得るようにした加速度検出装置。
(イ) 本件特許発明1ないし3と引用例2に記載された発明との対比
a 本件特許発明1と引用例2に記載された発明との対比
( a) 本件特許発明1の構成要素と引用例2に記載された発明の構成要素と
の対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引用例2に記載された発明の構
成要素
力検出装置(構成要件 A,J) 加速度計1(構成 a2,j2)
装置筐体(構成要件 B) ハウジング2(構成 b2)
固定要素(同上) 回路板15(同上)
可撓性部分(構成要件 C) ダイヤフラム9(構成 c2)
変位要素(同上) マグネット6(同上)
第1の固定電極(構成要件 D) プレート部19(構成 d2)
第2の固定電極(同上) プレート部21(同上)
第3の固定電極(同上) プレート部18(同上)
第4の固定電極(同上) プレート部20(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) 可動プレート13(構成 e2)
第2の変位電極(同上) 可動プレート13(同上)
第3の変位電極(同上) 可動プレート13(同上)
第4の変位電極(同上) 可動プレート13(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 プレート部19と可動プレート
F -1 ) 13とによって形成された第1
の容量素子(構成 f2-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 プレート部21と可動プレート
F -2 ) 13とによって形成された第2
の容量素子(構成 f2-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 プレート部18と可動プレート
F -3 ) 13とによって形成された第3
の容量素子(構成 f2-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 プレート部20と可動プレート
F -4 ) 13とによって形成された第4
の容量素子(構成 f2-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変 マグネット6が X 軸の正方向に変
位した場合,第1の容量素子の電 位した場合,第1の容量素子の電極
極間距離が減少するとともに第2 間距離が減少するとともに第2の容
の容量素子の電極間距離が増加し , 量素子の電極間距離が増加し,マグ
変位要素が第1の軸の負方向に変 ネット6が X 軸の負方向に変位し
位した場合,第1の容量素子の電 た場合,第1の容量素子の電極間距
極間距離が増加するとともに第2 離が増加するとともに第2の容量素
の容量素子の電極間距離が減少す 子の電極間距離が減少するように,
るように,各固定電極及び各変位 プレート部19,21及び可動プレ
電極を配置(構成要件 G-1) ート13を配置(構成 g2-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変 マグネット6が Y 軸の正方向に変
位した場合,第3の容量素子の電 位した場合,第3の容量素子の電極
極間距離が減少するとともに第4 間距離が減少するとともに第4の容
の容量素子の電極間距離が増加し,量素子の電極間距離が増加し,マグ
変位要素が第2の軸の負方向に変 ネット6が Y 軸の負方向に変位し
位した場合,第3の容量素子の電 た場合,第3の容量素子の電極間距
極間距離が増加するとともに第4 離が増加するとともに第4の容量素
の容量素子の電極間距離が減少す 子の電極間距離が減少するように,
るように,各固定電極及び各変位 プレート部18,20及び可動プレ
電極を配置(構成要件 G-2) ート13を配置(構成 g2-2)
第1の容量素子の容量値と第2の 第1の容量素子の静電容量 CXA と
容量素子の容量値との差によって , 第2の容量素子の静電容量 CXB との
第1の軸方向に作用した力を検出 差によって,X 軸方向の作用した力
し,第3の容量素子の容量値と第 を検出し,第3の容量素子の静電容
4の容量素子の容量値との差によ 量 CYA と第4の容量素子の静電容
って,第2の軸方向に作用した力 量 CYB との差によって,Y 軸方向の
を 検出するように構成(構成要件 作用した力を検出するように構成
H) (構成 h2)
(b) 引用例2に記載された発明の構成 a2 ないし j2 は,本件特許発明1の
構成要件 A ないし J に相当し,両者は,すべての構成において一致し,相違点は
存しない。したがって,本件特許発明1は,引用例2に記載された発明に対して新
規性がない。
b 本件特許発明2と引用例2に記載された発明との対比
引用例2に記載された発明は,変位電極を物理的に単一の共通電極である可動プ
レート13によって形成した力検出装置である。この構成は,本件特許発明2の構
成要件 K に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しない。したがって,本件
特許発明2は,引用例2に記載された発明に対して新規性がない。
c 本件特許発明3と引用例2に記載された発明との対比
引用例2に記載された発明の構成 l2 は,本件特許発明3の構成要件 L に相当し,
両者の構成は一致し,相違点は存在しない。したがって,本件特許発明3は,引用
例2に記載された発明に対して新規性がない。
(ウ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例2)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例2に記載された発明が h2 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aのうち,(a)は,引用例2に記載された発明が h2 の構成
を有するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同a(b)は否認する。
( b) 本件特許発明1と引用例2に記載された発明とは,いずれも電極間距
離が可変となる容量素子を備えているものの,検出原理を全く異にするものである。
引用例2に記載された発明は,マグネット6を中立位置に戻すための制御に必要に
なった電力を所定軸方向に作用した力として検出しており,本件特許発明1のよう
に,静電容量の差を所定軸方向に作用した力として検出しているわけではない。
したがって,引用例2に記載された発明は,本件特許発明1の構成要件 H を具
備しない。
c 同b(本件特許発明2)及びc(本件特許発明3)は否認する。
(ウ) 同(ウ)(まとめ)は否認する。
(11) 無効の抗弁8の成否−新規性の欠如2
ア 被告の主張
(ア) 引用例3
a 米国特許第 3,270,260 号公報(1966年(昭和41)年8月30日登録。
乙20。以下「引用例3」という。)は,以下の事項を記載している。
( a) 本発明の更なる局面では,ブリッジ回路のためのピックアッププレー
トの複数の軸のいずれかに沿ったスティック上の力がそれらをアンバランスにし,
スティック上の力に比例した振幅を有し,かつ,その力の方向に応じて位相0°又
は位相180°を有する信号を生成する。2つの組のピックアッププレートの互い
に直交する軸の方向が, "x"軸及び "y"軸を表す場合には, "x"方向の力は, "x"ブリ
ッジのアンバランスを生成し, "y"方向の力は, "x"ブリッジのアンバランスを生成
し, "y"方向の力は, "y"ブリッジのアンバランスを生成する。
本発明の更に他の局面では,制御がベクトル的に作用する。力 F が角度θで "x"
軸方向にスティックにかかる場合には, "x"軸及び "y"軸に沿ったアンバランス信号
は,前者に対して Fcos θであり,後者に対して Fsin θである(第2欄7行∼24
行)。
( b) 図面を参照して,本発明の原理が,ハウジング10を含む手制御に適
用されるものとして示されている。実施の形態では,ハウジング10は,1つの開
放端を有する中空のシリンダ11として示されている。4つのピックアッププレー
ト13,14,15,16が適切な態様でハウジング10内の単一のプレートに取
り付けられている。これらのプレートは,導電性の材料から構成されていてもよい。
プレート13,15は, "x"軸と表記され得る1つの軸に沿って配列されており,
プレート14,16は, "y"軸と表記され得る "x"軸に直交するもう1つの軸に沿っ
て配列されている。
プレート13,15は,キャパシタンス又はインダクタンス(磁気)タイプのよう
な1つのインピーダンスブリッジ回路のブランチを形成することができ,プレート
14,16は,磁気ブリッジ回路上にもう1つの別のキャパシタンスのブランチを
形成する。その両方が,ハウジング10内に配置され,空気を遮断するようにシー
ルされ得る(第2欄40行∼56行)。
( c) 比較的剛性で,薄い,金属電極ダイヤフラム17は,ハウジング10
の開放端12を覆うことができ,ネジ18によってハウジング10の上面に剛性的
に固定され得る。ハンドル19が移動されると,ダイヤフラムは,破線19Aに示
されるように変形し,そのハンドルの動きが強調される(第2欄67行∼72行)。
( d) スティック又はハンドル19は,その中心においてダイヤフラムに一
体的に結合されていてもよい。 "x"軸方向の力がスティック19及びダイヤフラム
17を図1に示される破線の位置に変形させると,ダイヤフラムは,ピックアップ
プレート13に近い位置に移動し,プレート15から離れた位置に移動する。これ
により,プレート13,15を含むブリッジにおいてアンバランスな状態が発生す
る。逆に, "y"軸に沿ってスティック19にかかる力は,プレート14,16を含
むブリッジにおいてアンバランスを生成する(第3欄1行∼10行)。
b 引用例3に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例3に記載された発明は,以下の構成を有する。
a3 互いに直交するx軸及びy軸を定義し,前記x軸方向に作用した力及び前記
y軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であっ
て,
b3 ハウジング10に対して変位が生じないように固定されたハウジング10内
の単一のプレートと,
c3 前記ハウジング10内の単一のプレートにダイヤフラム17を介して接続さ
れ,外部から作用した前記x軸方向の力又は前記y軸方向の力に基づいて,前記ダ
イヤフラム17が撓みを生じることにより,前記ハウジング10内の単一のプレー
トに対して前記x軸方向又は前記y軸方向に変位を生じるダイヤフラム17及びハ
ンドル19と,
d3 前記ダイヤフラム17及びハンドル19の変位にかかわらず固定状態を維持
するように前記ハウジング10内の単一のプレート上に形成されたプレート13∼
16と,
e3 前記ダイヤフラム17及びハンドル19の変位とともに変位するように形成
されたダイヤフラム17と,を備え,
f3-1 前記プレート13と前記ダイヤフラム17とは互いに対向する位置に配置
され,前記プレート13と前記ダイヤフラム17とによって,第1の容量素子が形
成され,
f3-2 前記プレート15と前記ダイヤフラム17とは互いに対向する位置に配置
され,前記プレート15と前記ダイヤフラム17とによって,第2の容量素子が形
成され,
f3-3 前記プレート14と前記ダイヤフラム17とは互いに対向する位置に配置
され,前記プレート14と前記ダイヤフラム17とによって,第3の容量素子が形
成され,
f3-4 前記プレート16と前記ダイヤフラム17とは互いに対向する位置に配置
され,前記プレート16と前記ダイヤフラム17とによって,第4の容量素子が形
成され,
g3-1 かつ,前記ダイヤフラム17及びハンドル19が前記x軸の正方向に変位
した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素
子の電極間距離が増加し,前記ダイヤフラム17及びハンドル19が前記x軸の負
方向に変位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第
2の容量素子の電極間距離が減少し,
g3-2 前記ダイヤフラム17及びハンドル19が前記y軸の正方向に変位した場
合,前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電
極間距離が増加し,前記ダイヤフラム17及びハンドル19が前記y軸の負方向に
変位した場合,前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容
量素子の電極間距離が減少するように,前記プレート13∼16のそれぞれ及びダ
イヤフラム17が配置されており,
h3 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記 x 軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容
量素子の容量値との差によって,前記 y 軸方向の作用した力を検出するように構成
したことを特徴とする
j3 力検出装置。
(イ) 本件特許発明1ないし3と引用例3に記載された発明との対比
a 本件特許発明1と引用例3に記載された発明との対比
( a) 本件特許発明1の構成要素と引用例3に記載された発明の構成要素と
の対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引 用 例 3 に 記 載 さ れ た 発 明の 構 成
要素
力 検 出 装 置 ( 構 成 要 件 A ,J) 力 検 出 装 置 ( 構 成 a 3 ,j3)
装置筐体(構成要件 B) ハウジング10(構成 b3)
固定要素(同上) ハウジング10内の単一のプレー
ト(同上)
可撓性部分(構成要件 C) ダイヤフラム17(構成 c3)
変位要素(同上) ダイヤフラム17及びハンドル1
9(同上)
第1の固定電極(構成要件 D) プレート13(構成 d3)
第2の固定電極(同上) プレート15(同上)
第3の固定電極(同上) プレート14(同上)
第4の固定電極(同上) プレート16(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) ダイヤフラ ム 1 7 ( 構 成 e 3 )
第2の変位電極(同上) ダイヤフラム17(同上)
第3の変位電極(同上) ダイヤフラム17(同上)
第4の変位電極(同上) ダイヤフラム17(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -1 ) プレート13とダイヤフラム17
とによって形成された第1の容量
素子(構成 f3-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -2 ) プレート15とダイヤフラム17
とによって形成された第2の容量
素子(構成 f3-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -3 ) プレート14とダイヤフラム17
とによって形成された第3の容量
素子(構成 f3-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -4 ) プレート16とダイヤフラム17
とによって形成された第4の容量
素子(構成 f3-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変位 ダイヤフラム17及びハンドル19がx軸
した場合,第1の容量素子の電極間 の正方向に変位した場合,第1の容量素子
距離が減少するとともに第2の容量 の電極間距離が減少するとともに第2の容
素子の電極間距離が増加し,変位要 量素子の電極間距離が増加し,ダイヤフラ
素が第1の軸の負方向に変位した場 ム17及びハンドル19がx軸の負方向に
合,第1の容量素子の電極間距離が 変位した場合,第1の容量素子の電極間距
増加するとともに第2の容量素子の 離が増加するとともに第2の容量素子の電
電極間距離が減少するように,各固 極間距離が減少するように,プレート13,
定電極及び各変位電極を配置(構成 15及びダイヤフラム17を配置(g3-1)
要件 G-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した ダイヤフラム17及びハンドル19がy軸
場合,第3の容量素子の電極間距離が減 の正方向に変位した場合,第3の容量素子
少するとともに第4の容量素子の電極間 の電極間距離が減少するとともに第4の容
距離が増加し,変位要素が第2の軸の負 量素子の電極間距離が増加し,ダイヤフラ
方向に変位した場合,第3の容量素子の ム17及びハンドル19がy軸の負方向に
電極間距離が増加するとともに第4の容 変位した場合,第3の容量素子の電極間距
量素子の電極間距離が減少するように, 離が増加するとともに第4の容量素子の電
各固定電極及び各変位電極を配置(構成要 極間距離が減少するように,プレート14,
件 G-2) 16及びダイヤフラム17を配置(g3-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容 第1の容量素子の容量値と第2の容量素子
量素子の容量値との差によって,第 の容量値との差によって,x 軸方向の作用
1の軸方向に作用した力を検出し, した力を検出し,第3の容量素子の容量値
第3の容量素子の容量値と第4の容 と第4の容量素子の容量値との差によって,
量素子の容量値との差によって,第 y 軸方向の作用した力を検出するように構
2の軸方向に作用した力を検出する 成(h3)
ように構成(構成要件 H)
(b) 引用例3に記載された発明の構成 a3 ないし j3 は,本件特許発明1の
構成要件 A ないし J に相当し,両者は,すべての構成において一致し,相違点は
存しない。したがって,本件特許発明1は,引用例3に記載された発明に対して新
規性がない。
b 本件特許発明2と引用例3との対比
引用例3に記載された発明は,変位電極を物理的に単一の共通電極であるダイヤ
フラム17によって形成した力検出装置である。この構成は,本件特許発明2の構
成要件 K に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しない。したがって,本件
特許発明2は,引用例3に記載された発明に対して新規性がない。
c 本件特許発明3と引用例3との対比
( a) 本件特許発明3が「加速度検出装置」であるのに対し,引用例3が加速
度検出装置を明示していない点で,両者は一応相違する。
( b) しかし,加速度に基づいて発生する力を検出することにより,加速度
の検出を行いうるようにすることは周知である。
( c) したがって,引用例3は,本件特許発明3の構成要件 L を実質的に記
載しているというべきである。
( d) よって,本件特許発明3は,引用例3に記載された発明に対して新規
性がない。
(ウ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例3)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例3に記載された発明が h3 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aのうち,(a)は,引用例3に記載された発明が h3 の構成
を有するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同a(b)は否認する。
( b) 引用例3に記載された発明は,ラック20やラック37を駆動するた
めの操作入力を行うものであり,静電容量の差を所定軸方向に作用した力として検
出するという本件特許発明1の構成要件 H に相当する検出動作を行うものではな
い。
c 同b(本件特許発明2)及びc(本件特許発明3)は否認する。
(ウ) 同(ウ)(まとめ)は否認する。
(12) 無効の抗弁9の成否−新規性の欠如3
ア 被告の主張
(ア) 引用例4
a 国際公開公報 WO89/09927 号公報(1989年(平成元年)10月19日
国際公開。乙21。以下「引用例4」という。)は,以下の事項を記載している。
( a) 本発明の第2の局面は,次のような装置を提供することにある。すな
わち,少なくとも2軸の変位に感応し,2軸にそれぞれ容量形変位トランスジュー
サを有し,各トランスジューサは少なくとも2つの向かい合うコンデンサ電極を有
し,個々のトランスジューサの一つの電極は,他のトランスジューサ又は互いのト
ランスジューサの電極と共通である(2頁31行∼37行)。
( b) 好ましくは,共通でないトランスジューサのコンデンサ電極は,共通
のプリント配線板上に設けられる。好ましくは,このようなプリント配線板は共通
電極と対向するように設け,共通の中央電極をプリント配線板の2つの外側電極の
間で相対的に移動させて,各トランスジューサを差動させ得る(3頁1行∼7行)。
( c) 図1ないし図4を参照して,ジョイスティックはハウジング10を有
し,該ハウジング10からコントロールレバー12が突出している。コントロール
レバー12はスプリングダイヤフラム14により支持され,手動で X 軸及び Y 軸
方向に傾けられ,Z 軸に沿って移動させることができる(3頁30行∼34行)。
( d) ハウジング10内には,金属製の円板22が絶縁部材24を介してコ
ントロールレバー12の底部に固定されている。円板22をコントロールレバー1
2により,X,Y 方向に傾けることができ,Z 軸に沿って移動させることができる。
本装置は,プリント配線板26,28が一つずつ円板22の両側にあり,通常は円
板22に対して平行になっている。プリント配線板26,28はスペーサリング2
0により間隔が設けられ,スペーサリング20に固定されている(4頁10行∼1
9行)。
( e) 図に示すように,プリント配線板26,28は環状であるが,上側の
プリント配線板26のみはコントロールレバー12を収納するため環状にする必要
がある。
プリント配線板26,28上には電極パターンがプリントしてあり,電極パター
ンは円板22とともに可変コンデンサを構成している。簡単なパターンを図2及び
図3に示す。電極パターンの配置を図4に示す(4頁20行∼28行)。
( f) 下側のプリント配線基板28は,電極 E の内側に,4つの四分円形の
電極 A,B,C,D を有する。同様に,上側のプリント配線基板26は,4つの四
分円形の電極 A', B', C', D'を有する。電極 A',B',C',D'は電極 A,B,C,D と
正反対である。2つのプリント配線基板26,28は,電極 A と A'が電気的に接
続されるように ,図示しない手段により相互に接続されている 。同様に,電極 B, ,
C D
が電極 B',C',D'にそれぞれ接続されている。接続された電極対 A,A'と,接続さ
れた電極対 B,B'は円板と円板22と協働して差動コンデンサを構成している。こ
の差動コンデンサは,コントロールレバー12が X 軸方向に傾くときに変化する。
同様に,電極対 C,C'と電極対 D,D'は,円板22とともに差動コンデンサを構成
している。この差動コンデンサは,コントロールレバー12がY軸方向に傾くとき
に変化する(5頁6行∼21行)。
( g) 装置は,ジョイスティックとしてよりも,むしろ測定プローブとして
組み立てても良い(4頁5行∼6行)。
b 引用例4に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例4に記載された発明は,以下の構成を有する。
a4 互いに直交する X 軸及び Y 軸を定義し,前記 X 軸方向に作用した力及び前
記 Y 軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能を持ったジョイスティ
ックであって,
b4 リング16,18及びスペーサリング20に対して変位が生じないように固
定された基板26,28と,
c4 前記リング16,18にダイアフラム14を介して接続され,外部から作用
した前記 X 軸方向の力又は前記 Y 軸方向の力に基づいて,前記ダイヤフラム14
が撓みを生じることにより,前記リング16,18に対して前記 X 軸方向又は前
記 Y 軸方向に変位を生じる円板22及びコントロールレバー12と,
d4 前記円板22及びコントロールレバー12の変位にかかわらず固定状態を維
持するように前記基板26,28上に形成された電極 A,B,C,D と,
e4 前記円板22及びコントロールレバー12の変位とともに変位するように前
記円板22上に形成された第1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,第
4の変位電極と,を備え,
f4-1 前記電極 A と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前
記電極 A と前記第1の変位電極とによって,第1の容量素子が形成され,
f4-2 前記電極 B と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前
記電極 B と前記第2の変位電極とによって,第2の容量素子が形成され,
f4-3 前記電極 C と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前
記電極 C と前記第3の変位電極とによって,第3の容量素子が形成され,
f4-4 前記電極 D と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前
記電極 D と前記第4の変位電極とによって,第4の容量素子が形成され,
g4-1 かつ,前記円板22及びコントロールレバー12が前記 X 軸の正方向に変
位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量
素子の電極間距離が増加し,前記円板22及びコントロールレバー12が前記 X
軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに
前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
g4-2 前記円板22及びコントロールレバー12が前記 Y 軸の正方向に変位した
場合,前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の
電極間距離が増加し,前記円板22及びコントロールレバー12が前記 Y 軸の負
方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第
4の容量素子の電極間距離が減少するように,前記各電極 A ∼ D 及び前記各変位
電極が配置されており,
h4 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記 X 軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の
容量素子の容量値との差によって,前記 Y 軸方向の作用した力を検出するように
構成したことを特徴とする
j4 ジョイスティック。
(イ) 本件特許発明1ないし3と引用例4との対比
a 本件特許発明1と引用例4との対比
( a) 本件特許発明1の構成要素と引用例4に記載された発明の構成要素と
の対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引用例4に記載された発明の構成
要素
力検出装置(構成要件 A,J) ジョイスティック(構成 a4,j4)
装置筐体(構成要件 B) リング16,18及びスペーサリ
ング20(構成 b4)
固定要素(同上) 基板26,28(同上)
可撓性部分(構成要件 C) ダイヤフラム14(構成 c4)
変位要素(同上) 円板22及びコントロールレバー
12(同上)
第1の固定電極(構成要 件 D ) 電極 A(構成 d4)
第2の固定電極(同上) 電極 C(同上)
第3の固定電極(同上) 電極 B(同上)
第4の固定電極(同上) 電極 D(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) 円板22(構成 e4)
第2の変位電極(同上) 円板22(同上)
第3の変位電極(同上) 円板22(同上)
第4の変位電極(同上) 円板22(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -1 ) 電極 A と円板22とによって形成
された第1の容量素子(構成 f4-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -2 ) 電極 C と円板22とによって形成
さ れ た 第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成
f4-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -3 ) 電極 B と円板22とによって形成
された第3の容量素子(構成 f4-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -4 ) 電極 D と円板22とによって形成
された第4の容量素子(構成 f4-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変位し 円板22及びコントロールレバー12が X
た場合,第1の容量素子の電極間距離 軸の正方向に変位した場合,第1の容量素子
が減少するとともに第2の容量素子の の電極間距離が減少するとともに第2の容量
電極間距離が増加し,変位要素が第1 素子の電極間距離が増加し,円板22及びコ
の軸の負方向に変位した場合,第1の ントロールレバー12が X 軸の負方向に変
容量素子の電極間距離が増加するとと 位した場合,第1の容量素子の電極間距離が
もに第2の容量素子の電極間距離が減 増加するとともに第2の容量素子の電極間距
少するように,各固定電極及び各変位 離が減少するように,電極 A,C 及び第1,
電極を配置(構成要件 G-1) 第2変位電極を配置(g4-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した場 円板22及びコントロールレバー12が Y
合,第3の容量素子の電極間距離が減少す 軸の正方向に変位した場合,第3の容量素子
るとともに第4の容量素子の電極間距離が の電極間距離が減少するとともに第4の容量
増加し,変位要素が第2の軸の負方向に変 素子の電極間距離が増加し,円板22及びコ
位した場合,第3の容量素子の電極間距離 ントロールレバー12が Y 軸の負方向に変
が増加するとともに第4の容量素子の電極 位した場合,第3の容量素子の電極間距離が
間距離が減少するように,各固定電極及び 増加するとともに第4の容量素子の電極間距
各変位電極を配置(構成要件 G-2) 離が減少するように,電極 B,D 及び第3,
第4変位電極を配置(g4-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容量 第1の容量素子の容量値と第2の容量素子の
素子の容量値との差によって,第1の 容量値との差によって,X 軸方向の作用し
軸方向に作用した力を検出し,第3の た力を検出し,第3の容量素子の容量値と第
容量素子の容量値と第4の容量素子の 4の容量素子の容量値との差によって,Y
容量値との差によって,第2の軸方向 軸方向の作用した力を検出するように構成
に 作用し た力を 検出 するよ うに構成 (h4)
(構成要件 H)
(b) 引用例4に記載された発明の構成 a4 ないし j4 は,本件特許発明1の
構成要件 A ないし J に相当し,両者は,すべての構成において一致し,相違点は
存しない。したがって,本件特許発明1は,引用例4に記載された発明に対して新
規性がない。
b 本件特許発明2と引用例4に記載された発明との対比
引用例4に記載された発明は,変位電極を物理的に単一の共通電極である円板2
2によって形成した力検出装置である。この構成は,本件特許発明2の構成要件 K
に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しない。したがって,本件特許発明2
は,引用例4に記載された発明に対して新規性がない。
c 本件特許発明3と引用例4に記載された発明との対比
( a) 本件特許発明が「加速度検出装置」であるのに対し,引用例4に記載さ
れた発明が加速度検出装置を明示していない点で,両者は一応相違する。
( b) しかし,加速度に基づいて発生する力を検出することにより,加速度
の検出を行いうるようにすることは周知である。
( c) したがって,引用例4は,本件特許発明3の構成要件 L を実質的に記
載しているというべきであるから,上記相違点は実質的には相違点に当たらない。
( d) よって,本件特許発明3は,引用例4に記載された発明に対して新規
性がない。
(ウ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例4)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例4に記載された発明が h4 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aのうち,(a)は,引用例4に記載された発明が h4 の構成
を有するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同a(b)は否認する。
( b) 引用例4に係る装置のデジタル出力64は,差動キャパシタ30のア
ンバランスをゼロへと減少させるためのフィードバック電圧 VF である。結局,引
用例4に記載された発明では,差動キャパシタ30のアンバランスをゼロへ減少さ
せるための制御に必要なフィードバック電圧 VF を所定軸方向に作用した力として
検出しているのであり,本件特許発明1のように,静電容量の差を所定軸方向に作
用した力として検出しているわけではない。
c 同b(本件特許発明2)及びc(本件特許発明3)は否認する。
(ウ) 同(ウ)(まとめ)は否認する。
(13) 無効の抗弁10の成否−新規性の欠如4
ア 被告の主張
(ア) 引用例5
a 米国特許第 4,372,162 号公報(1983年(昭和58年)2月8日登録。乙
22。以下「引用例5」という。)は,以下の事項を記載している。
( a) 本発明は加速度計に関する(第1欄25行∼26行)。
( b) 本発明の他の目的は,温度変動によるバイアスの不確実さが非常に低
減された加速度計を提供することにある。さらに他の目的は,温度制御を必要とす
ることなく広範囲の周囲温度変動に対して使用され得る加速度計を提供することに
ある(第1欄60行∼68行)。
( c) さらなる目的は,カーティシアン座標系の3つの直交軸に沿った加速
度を同時に計測することが可能な加速度計を提供することにある。本発明のさらに
他の目的は,高い精度を有する加速度計を提供することにある。その他の目的は,
製造することが安価な加速度計を提供することにある(第2欄1行∼7行)。
( d) プルーフマス10は,プルーフマス10の長手方向軸38に実質的に
垂直な平面に配置されるフィラメント14のアレイによってハウジング12から懸
架されている。各フィラメント14の外側部分は,クランピングリング40の内側
表面とハウジングキャップ42との間にクランプされている。クランピングリング
40の他の表面は,ハウジング部材43に固定されている(第6欄35行∼41行)。
( e) プルーフマス10のディスク部分36は, X 軸, Y 軸周りの回転の変
形を検知し,プルーフマス10の長手軸(すなわち,Z 軸)に沿った変形を検知する
複数のキャパシタピックオフのための可動プレート又は電極として機能する(第7
欄58行∼62行)。
( f) センサキャパシタの固定のプレート,(すなわち,非移動のプレート)
を形成するピックオフ電極は,好ましくはめっきによって,クランピングリング4
0の表面及びプルーフマスディスク36に隣接するハウジング部材43上に配置さ
れる。これらは,図3よりも図4に明示されている(第7欄65行∼第8欄2行)。
( g) もう1対の電極50は,直径方向に互いに対向して,クランピングリ
ング40上に配置される。電極50は,図面の平面に垂直な軸(この場合では, Y
軸)周りの回転の変形を検知するキャパシタピックオフ要素の2つの固定電極であ
る(第8欄7行∼12行)。
( h) Y 軸周りの回転の変形を検知する一対のセクタ形状の電極50は,追
加の一対のセクタ形状の電極52の間に示されている。電極52は, X 軸周りの回
転の変形を検知するためのものである。電極48,50,52のそれぞれは,互い
に間隔をあけて配置されており,それ故に,互いに絶縁されている。電極48,5
0,52の各対は,それぞれの変形に比例する信号を生成するブリッジ回路に接続
されている(第8欄17行∼26行)。
b 引用例5に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例5に記載された発明は,以下の構成を有する。
a5 互いに直交する X 軸及び Y 軸を定義し,前記 X 軸方向に作用した力及び前
記 Y 軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった加速度計であ
って,
b5 ハウジング42に対して変位が生じないように固定されたリング40と,
c5 前記リング40にフィラメント14を介して接続され,外部から作用した前
記 X 軸方向の力又は前記 Y 軸方向の力に基づいて,前記フィラメント14が撓み
を生じることにより,前記リング40に対して前記 X 軸方向又は前記 Y 軸方向に
変位を生じるフィラメント14及びプルーフマス10と,
d5 前記フィラメント14及びプルーフマス10の変位にかかわらず固定状態を
維持するように前記リング40上に形成された電極50,52と,
e5 前記フィラメント14及びプルーフマス10の変位とともに変位するように
前記フィラメント14上に形成された第1∼第4の変位電極と,を備え,
f5-1 前記電極50と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,
前記電極50と前記第1の変位電極とによって,第1の容量素子が形成され,
f5-2 前記電極52と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,
前記電極52と前記第2の変位電極とによって,第2の容量素子が形成され,
f5-3 前記電極50と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,
前記電極50と前記第3の変位電極とによって,第3の容量素子が形成され,
f5-4 前記電極52と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,
前記電極52と前記第4の変位電極とによって,第4の容量素子が形成され,
g5-1 かつ,前記フィラメント14及びプルーフマス10が前記 X 軸の正方向に
変位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容
量素子の電極間距離が増加し,前記フィラメント14及びプルーフマス10が前記
X 軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するととも
に前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
g5-2 前記フィラメント14及びプルーフマス10が前記 Y 軸の正方向に変位し
た場合,前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子
の電極間距離が増加し,前記フィラメント14及びプルーフマス10が前記 Y 軸
の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前
記第4の容量素子の電極間距離が減少するように,前記各固定電極及び前記各変位
電極が配置され,
h5 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記 X 軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の
容量素子の容量値との差によって,前記 Y 軸方向の作用した力を検出するように
構成したことを特徴とする
j5 加速度計。
l5 検出装置において,フィラメント14及びプルーフマス10に作用する加速
度に基づいて発生する力を検出することにより,加速度の検出を行い得るようにし
た加速度検出装置。
(イ) 本件特許発明1ないし3と引用例5に記載された発明との対比
a 本件特許発明1と引用例5に記載された発明との対比
( a) 本件特許発明1の構成要素と引用例5に記載された発明の構成要素と
の対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引用例5に記載された発明の構成
要素
力検出装置(構成要件 A,J) 加速度計(構成 a5,j5)
装置筐体(構成要件 B) ハウジング42(構成 b5)
固定要素(同上) リング40(同上)
可撓性部分(構成 要 件 C ) フィラメント14(構成 c5)
変位要素(同上) フィラメント14及びプルーフマ
ス10(同上)
第1の固定電極(構成要件 D) 電極50(構成 d5)
第2の固定電極(同上) 電極52(同上)
第3の固定電極(同上) 電極50(同上)
第4の固定電極(同上) 電極52(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) フィラメント14(構成 e5)
第2の変位電極(同上) フィラメント14(同上)
第3の変位電極(同上) フィラメント14(同上)
第4の変位電極(同上) フィラメント14(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -1 ) 電極50とフィラメント14とに
よって形成された第1の容量素子
(構成 f5-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -2 ) 電極52とフィラメント14とに
よって形成された第2の容量素子
(構成 f5-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -3 ) 電極50とフィラメント14とに
よって形成された第3の容量素子
(構成 f5-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -4 ) 電極52とフィラメント14とに
よって形成された第4の容量素子
(構成 f5-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変位し フィラメント14及びプルーフマス10が
た場合,第1の容量素子の電極間距離 X 軸の正方向に変位した場合,第1の容量
が減少するとともに第2の容量素子の 素子の電極間距離が減少するとともに第2
電極間距離が増加し,変位要素が第1 の容量素子の電極間距離が増加し,フィラ
の軸の負方向に変位した場合,第1の メント14及びプルーフマス10が X 軸の
容量素子の電極間距離が増加するとと 負方向に変位した場合,第1の容量素子の
もに第2の容量素子の電極間距離が減 電極間距離が増加するとともに第2の容量
少するように,各固定電極及び各変位 素子の電極間距離が減少するように,各固
電極を配置(構成要件 G-1) 定電極及び各変位電極を配置(g5-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した場 フィラメント14及びプルーフマス10が
合,第3の容量素子の電極間距離が減少す Y 軸の正方向に変位した場合,第3の容量
るとともに第4の容量素子の電極間距離が 素子の電極間距離が減少するとともに第4
増加し,変位要素が第2の軸の負方向に変 の容量素子の電極間距離が増加し,フィラ
位した場合,第3の容量素子の電極間距離 メント14及びプルーフマス10が Y 軸の
が増加するとともに第4の容量素子の電極 負方向に変位した場合,第3の容量素子の
間距離が減少するように,各固定電極及び 電極間距離が増加するとともに第4の容量
各変位電極を配置(構成要件 G-2) 素子の電極間距離が減少するように,各固
定電極及び各変位電極を配置(g5-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容量素子 第1の容量素子の容量値と第2の容量素子
の容量値との差によって,第1の軸方 の容量値との差によって,X 軸方向の作用
向に作用した力を検出し,第3の容量 した力を検出し,第3の容量素子の容量値
素子の容量値と第4の容量素子の容量 と第4の容量素子の容量値との差によって,
値との差によって,第2の軸方向に作 Y 軸方向の作用した力を検出するように構
用した力を検出するように構成(構成 成(h5)
要件 H)
(b) 引用例5に記載された発明の構成 a5 ないし j5 は,本件特許発明1の
構成要件 A ないし J に相当し,両者は,すべての構成において一致し,相違点は
存しない。したがって,本件特許発明1は,引用例5に記載された発明に対して新
規性がない。
b 本件特許発明2と引用例5に記載された発明との対比
引用例5に記載された発明は,変位電極を物理的に単一の共通電極であるフィラ
メント14によって形成した加速度計である。この構成は,本件特許発明2の構成
要件 K に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しない。したがって,本件特
許発明2は,引用例5に記載された発明に対して新規性がない。
c 引用例5に記載された発明の構成 l5 は,本件特許発明3の構成要件 L
に相当し,両者は,すべての構成要件において一致し,相違点は存しない。したが
って,本件特許発明3は,引用例5に記載された発明に対して新規性がない。
(ウ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例5)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例5に記載された発明が h5 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aのうち,(a)は,引用例5に記載された発明が h5 の構成
を有するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同a(b)は否認する。
( b) 引用例5に記載された発明においては,コイル118,120による
電磁気力によって,プルーフマス10に対する変位を元に戻す方向への制御が行わ
れており,回路128からの出力信号130は,コイル118,120に供給され
る電流信号である。結局,引用例5に記載された発明では,プルーフマス10に対
する変位を元に戻す方向への制御を行うために,コイル118,120に供給した
電流信号を所定軸方向に作用した力として検出しているのであり,本件特許発明1
のように,静電容量の差を所定軸方向に作用した力として検出しているわけではな
い。
c 同b(本件特許発明2)及びc(本件特許発明3)は否認する。
(ウ) 同(ウ)(まとめ)は否認する。
(14) 無効の抗弁11の成否−進歩性の欠如1
ア 被告の主張
(ア) 引用例6
a 米国特許第 4,719,538 号公報(1988年(昭和63年)1月12日登録。
乙23。以下「引用例6」という。)は,以下の事項を記載している。
( a) 本発明は力−感応トランスジューサに関する(第1欄6行∼7行)。
( b) 例えば,電極19a及び19cは, X 軸に沿って作用する力成分を測
定するために使用されるコンデンサの一部を形成し,電極19b及び19dは, Y
軸に沿って作用する力成分を測定するために使用されるコンデンサの一部を形成す
る(第5欄38行∼43行)。
( c) 図4aは本発明の他の実施形態の断面図である。この実施形態では,
トランスジューサ40は,第2の電極層41を有する。電極層41は,複数の電極
41a∼41dを有し,それぞれは,独立して可撓性リード42を介して関連する
測定回路と独立した接続を有する(第5欄50行∼55行)。
( d) 第1の電極43a,43bは,ダイヤフラム11の可撓性領域を超え
て延び,第2の電極41a及び41dもダイヤフラム11の可撓性領域を超えて延
び,対応する種々のコンデンサのための大きい面積を提供し,トランスジューサの
インピーダンスを減少させる。ダイヤフラムの可撓性面積に関するこれらの特徴の
増大した寸法は,さらに,第2電極の周辺領域の傾きを増加させ,その結果与えら
れた適用モーメントの大きい容量変化となる。さらに,この実施形態では,第1の
電極層43は,複数の電極よりもむしろ,単一の電極領域を有することができる
(第5欄59行∼第6欄3行)。
( e) 図4bは,図4aのトランスジューサの下面からの要部分解図である 。
第2の電極41a∼41d及びプレート14の配置が詳細に示されている。図4b
は,電極層に関連する固いプレート14の平面図を示し,電極19a,19d及び
トランスジューサ回路の電気的な接続は,ダイヤフラム11に固定され得る。その
ような接続回路は,図4bから省略している(第6欄7行∼15行)。
( f) ダイヤフラム11の周囲部分がサポート16によって支持され,この
ダイヤフラム11の中心部分にシャフト13が取り付けられ,このシャフトの延長
部分であるボルト18にプレート14が取り付けられる(図4,第3欄40行∼5
5行)。
b 引用例6に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例6に記載された発明は,以下の構成を有する。
a6 互いに直交する X 軸及び Y 軸を定義し,前記 X 軸方向に作用した力及び前
記 Y 軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力−感応トラ
ンスジューサであって,
b6 リング16に対して固定されたダイヤフラム11と,
c6 前記リング16にダイヤフラム11を介して接続され,外部から作用した前
記 X 軸方向の力又は前記 Y 軸方向の力に基づいて,前記ダイヤフラム11が撓み
を生じることにより,前記リング16に対して前記 X 軸方向又は前記 Y 軸方向に
変位を生じるプレート14と,
d6 前記プレート14の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記ダイヤ
フラム11上に形成された電極43a∼43dと,
e6 前記プレート14の変位とともに変位するように前記プレート14上に形成
された電極41a∼41dと,を備え,
f6-1 前記電極43aと前記電極41aとは互いに対向する位置に配置され,前
記電極43aと前記電極41aとによって,第1の容量素子が形成され,
f6-2 前記電極43cと前記電極41cとは互いに対向する位置に配置され,前
記電極43cと前記電極41cとによって,第2の容量素子が形成され,
f6-3 前記電極43bと前記電極41bとは互いに対向する位置に配置され,前
記電極43bと前記電極41bとによって,第3の容量素子が形成され,
f6-4 前記電極43dと前記電極41dとは互いに対向する位置に配置され,前
記電極43dと前記電極41dとによって,第4の容量素子が形成され,
g6-1 かつ,前記プレート14が前記 X 軸の正方向に変位した場合,前記第1の
容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加
し,前記プレート14が前記 X 軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子
の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
g6-2 前記プレート14が前記 Y 軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,前
記プレート14が前記 Y 軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極
間距離が増加するとともに前記第4の容量素子間の電極間距離が減少するように,
前記各固定電極及び前記各変位電極が配置され,
h6 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記 X 軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の
容量素子の容量値との差によって,前記 Y 軸方向の作用した力を検出するように
構成したことを特徴とする
j6 力−感応トランスジューサ。
(イ) 本件特許発明1と引用例6に記載された発明との対比
a 本件特許発明1の構成要素と引用例6に記載された発明の構成要素との
対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引用例6に記載された発明の構成要素
力検出装置( 構 成 要 件 A , J ) 力−感応トランスジューサ( 構 成 a 6 , j 6 )
装置筐体( 構 成 要 件 B ) リング16( 構 成 b 6 )
固定要素( 同 上 ) ダイヤフラム11( 同 上 )
可撓性部分( 構 成 要 件 C ) ダイヤフラム11( 構 成 c 6 )
変位要素( 同 上 ) プレート14( 同 上 )
第1の固定電極( 構 成 要 件 D ) 電極43a( 構 成 d 6 )
第2の固定電極( 同 上 ) 電極43c( 同 上 )
第3の固定電極( 同 上 ) 電極43b( 同 上 )
第4の固定電極( 同 上 ) 電極43d( 同 上 )
第1の変位電極( 構 成 要 件 E ) 電極41a( 構 成 e 6 )
第2の変位電極( 同 上 ) 電極41c( 同 上 )
第3の変位電極( 同 上 ) 電極41b( 同 上 )
第4の変位電極( 同 上 ) 電極41d( 同 上 )
第1の容量素子( 構 成 要 件 F -1 ) 電極43aと電極41aとによって形成され
た第1の容量素子( 構 成 f 6 - 1 )
第2の容量素子( 構 成 要 件 F -2 ) 電極43cと電極41cとによって形成され
た第2の容量素子( 構 成 f 6 - 2 )
第3の容量素子( 構 成 要 件 F -3 ) 電極43bと電極41bとによって形成され
た第3の容量素子( 構 成 f 6 - 3 )
第4の容量素子( 構 成 要 件 F -4 ) 電極43dと電極41dとによって形成され
た第4の容量素子( 構 成 f 6 - 4 )
変位要素が第1の軸の正方向に変位した場 プレート14が X 軸の正方向に変位した場
合,第1の容量素子の電極間距離が減少す 合,第1の容量素子の電極間距離が減少する
るとともに第2の容量素子の電極間距離が とともに第2の容量素子の電極間距離が増加
増加し,変位要素が第1の軸の負方向に変 し,プレート14が X 軸の負方向に変位し
位した場合,第1の容量素子の電極間距離 た場合,第1の容量素子の電極間距離が増加
が増加するとともに第2の容量素子の電極 するとともに第2の容量素子の電極間距離が
間距離が減少するように,各固定電極及び 減少するように,電極43a,43c及び電
各変位電極を配置(構成要件 G-1) 極41a,41cを配置(g6-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した場 プレート14が Y 軸の正方向に変位した場
合,第3の容量素子の電極間距離が減少す 合,第3の容量素子の電極間距離が減少する
るとともに第4の容量素子の電極間距離が とともに第4の容量素子の電極間距離が増加
増加し,変位要素が第2の軸の負方向に変 し,プレート14が Y 軸の負方向に変位し
位した場合,第3の容量素子の電極間距離 た場合,第3の容量素子の電極間距離が増加
が増加するとともに第4の容量素子の電極 するとともに第4の容量素子間の電極間距離
間距離が減少するように,各固定電極及び が減少するように,電極43b,43d及び
各変位電極を配置(構成要件 G-2) 電極41b,41dを配置(g6-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容量素子 第1の容量素子の容量値と第2の容量素子の
の容量値との差によって,第1の軸方向に 容量値との差によって,X 軸方向の作用し
作用した力を検出し,第3の容量素子の容 た力を検出し,第3の容量素子の容量値と第
量値と第4の容量素子の容量値との差によ 4の容量素子の容量値との差によって,Y
って,第2の軸方向に作用した力を検出す 軸方向の作用した力を検出するように構成
るように構成(構成要件 H) (h6)
b 引用例6に記載された発明の構成 a6,c6 ないし j6 は,本件特許発明1
の構成要件 A,C ないし J に相当し,両者は,構成要件 B を除くすべての構成にお
いて一致し,構成要件 B において相違する。
c 相違点について
( a) 本件特許発明1は,構成要件 B として,「装置筐体に対して変位が生
じないように固定された固定要素」を有するのに対し,引用例6に記載された発明
においては,加えられる力に応じてダイヤフラム11が撓む点において,両者は相
違する。
(b) 引用例6に記載された発明は,「周囲が固定された可撓性部分と周囲が
自由端の変位部材との中心部を接続し,この中心部に力を作用させ,可撓性部材側
に形成した第1の電極と変位部材側に形成した第2の電極との静電容量の変化に基
づいて作用した力を検出する」という第1の技術思想と,「4組の容量素子を配置し,
このうちの一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第1の軸方向の力検出を
行い,別な一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第2の軸方向の力検出を
行う」という第2の技術思想とを組み合わせることにより到達できた発明というこ
とができる。
( c) これに対して,本件特許発明1の技術思想は,「装置本体に対して固定
された固定要素と,可撓性部分の撓みによって固定要素に対して変位する変位要素
と,を用意し,固定要素側に形成した固定電極と変位要素側に形成した変位電極と
の静電容量の変化に基づいて力を検出する」という第1の技術思想と,「4組の容量
素子を配置し,このうちの一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第1の軸
方向の力検出を行い,別な一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第2の軸
方向の力検出を行う」という第2の技術思想とを組み合わせることにより到達でき
た発明ということができる。
( d) したがって,第2の技術思想は,本件特許発明1と引用例6とに共通
する技術思想ということができる。
( e) 第1の技術思想については,例えば,引用例2に,「キャパシタ14は,
従来のプリント回路プロセスによって回路板15の下側に形成された固定された円
状のプレートをさらに含み,ネジ16によってハウジングに固定されている。」(乙
19第2欄49行∼52行)との記載があり,また引用例4に,「本装置は,プリン
ト配線板26,28が一つずつ円板22の両側にあり,通常は円板22に対して平
行になっている。プリント配線板26,28はスペーサリング20により間隔が設
けられ,スペーサリング20に固定されている。」(第4頁16行∼19行)との記
載があるように,技術的に採用し得るものであり,この第1の技術思想の採用を阻
害する阻害要因は存在しない。
( f) 以上のことから,当該相違点は単なる設計上の微差といえ,当業者で
あれば,引用例2又は引用例4を考慮すれば,引用例6に記載された発明に基づい
て本件特許発明1に容易に想到することができたというべきである。
(g) したがって,本件特許発明1は,引用例2又は引用例4を考慮すると ,
引用例6に記載された発明に対して進歩性がない。
(ウ) 本件特許発明2と引用例6に記載された発明との対比
a 引用例6は,その図3において,ダイヤフラム11上の第1の電極層1
9(19aないし19dより成る。)とプレート14上に第2の電極層110とを有
する装置を開示しているところ,そこでは,プレート14上の第2の電極層110
は物理的に一体のものとして形成されている。この構成は,本件特許発明2の構成
要件 K に相当する。
b したがって,本件特許発明2は,引用例6に記載された発明に対して進
歩性がない。
(エ) 本件特許発明3と引用例6に記載された発明との対比
a 本件特許発明3と引用例6に記載された発明とは,本件特許発明3が
「加速度検出装置」であるのに対し,引用例6に記載された発明が加速度検出装置を
明示していない点で相違する。
b しかし,加速度に基づいて発生する力を検出することにより,加速度の
検出を行いうるようにすることは周知である。
c したがって,引用例6に記載された発明は ,本件特許発明3の構成要件 L
を実質的に記載しているというべきである。
(オ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例6)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例6に記載された発明が h6 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aは,引用例6に記載された発明が h6 の構成を有すると
する点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同bのうち,本件特許発明1と引用例6に記載された発明とが構成
要件 H において一致するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
( b) 引用例6に記載された発明では,一対のキャパシタに接続された発振
器の周波数を示すデジタル信号の排他的論理和信号を,所定軸方向に作用した力を
示す信号として出力しているのであり,本件特許発明1のように,静電容量の差を
所定軸方向に作用した力として検出しているわけではない。
c 同c(a)ないし(f)は明らかに争わない。同(g)は否認する。
(ウ) 同(ウ)ないし(オ)はいずれも否認する。
(15) 無効の抗弁12の成否−進歩性の欠如2
ア 被告の主張
(ア) 引用例7
a 特開昭62−123361号公報(乙24。以下「引用例7」という。)は,
以下の事項を記載している。
( a) 本発明は,…加速度センサを用いた加速度計に関する(2頁右上欄8行
∼11行)。
(b) 本発明の目的は,特に上記と類似した態様の加速度センサよりなるが ,
組立の簡素化に対してより好ましい態様のモータ化とサーボコントロール方法を使
用した加速度計を提案することであり,該加速度計はより省スペースで,より廉価
であり,それによりより高度な小型化が可能である(2頁右下欄4行∼9行)。
( c) この目的のために,本発明の加速度計は,少なくとも1つの可動コン
デンサ板を有する可動部と,該可動部の両側面に配置された2つの固定コンデンサ
板を有する振子要素の固定部とにより構成される上記態様の加速度センサを含む
(2頁右下欄11行∼15行)。
(d) そして該可動コンデンサ板は電位 V0 に維持され,一方該固定コンデン
サ板は各々電位 V1, V2 に維持され,この電位によって前記可動コンデンサ板…の
形で表される静電復帰力を発生せしめる。…したがって,永久作動条件下では皮相
加速度に比例する電位差 V2 − V1 を測定するのである(2頁右下欄15行∼3頁左
上欄14行)。
( e) 第1図に示す様に,該加速度センサは…ウエーハ基板1により形成さ
れ,ウエーハ1内には切抜部2が設けられ,切抜部2は支持梁3により形成される
可動部を規定する形状を有し,支持梁3はウエーハ1の固定部から2つの薄条片4,
5により弾性力を持って懸垂せしめられ,薄条片4,5はウエーハ1と同じ厚さを
有し比較的幅狭である(3頁左上欄下から2行∼右上欄6行)。
( f) したがって,支持梁3は薄条片4,5に直角な感応軸 X'X に沿って並
進運動をすることができる。更に支持梁3は,その長手方向エッジ7,8から感応
軸 X'X に直角に延在する一連の可動櫛歯5aないし5f及び6aないし6d(注:
引用例7のこの部分の記載は「6aないし6f」とあるが,明白な誤記と認める。)
を有する。該可動櫛歯は基板の固定部に設けられたほぼ相補形形状の凹部と係合し,
該凹部は支持梁3に設けられた可動櫛歯5aないし5f及び6aないし6dの間に
挿通せしめられた一連の固定櫛歯9aないし9g及び10aないし10eを形成す
る(3頁右上欄7行∼16行)。
( g) 金属で被覆した可動櫛歯5aないし5f及び6aないし6dのエッジ
は,同様に金属で被覆した固定櫛歯9aないし9g及び10aないし10eのエッ
ジと共にコンデンサーを形成し,該コンデンサーの空隙は支持梁3の相対的動作に
直接応じて変化する(一方は増大しこれに対し他方は減少する)(3頁右上欄17行
∼左下欄3行)。
( h) 第2の電位と第1の電位との差及び第3の電位と第1の電位との差が
加速度に比例する(請求項2)。
( i) 同一基板37内に同時に2つの検知部35,36を加工することは,
コストと能率と省スペースの理由で有利である。そして基板面に2つの感応軸を角
度を付けて配置することは,特に温度に対して安定する。αクオーツの Z カット
の場合,2つの感応軸 XX’ YY’が互いに120°の角度をなす配置(第4図)が

使われる。そして各々の検知部の出力の加重値は,基板面に含まれる2つの直交軸
に沿った皮相速度を与える(4頁左下欄15行∼右下欄3行)。
( j) 更にαクオーツを使用する特別な場合として,同一基板上に互いに1
20°の角度をなす感応軸 XX'と YY'と ZZ'とを有する3つの検知部38,39,
40より成る典型的な構造(図5)において,各々単独の場合より多少コストは増加
するが,信頼性と検知機能を増すことができる(4頁右下欄4行∼9行)。
b 引用例7に記載された発明の構成
上記記載によれば,引用例7に記載された発明は,以下の構成を有する。
a7 互いに120°の角度を成す第1の軸及び第2の軸を定義し,前記第1の軸
方向に作用した力及び前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する
機能をもった加速度計であって,
b7 加速度計本体に対して変位が生じないように固定された基板1又は41と,
c7 前記基板1に薄条片4,5を介して接続され,外部から作用した前記第1の
軸方向の力又は前記第2の軸方向の力に基づいて,前記薄条片4,5が撓みを生じ
ることにより,前記基板1,41に対して前記第1の軸方向又は前記第2の軸方向
に変位を生じる可動部3と,
d7 前記可動部3の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記基板1,4
1上に形成された第1の固定電極,第2の固定電極,第3の固定電極,第4の固定
電極(電極9a−9g,10a−10e)と,
e7 前記可動部3の変位とともに変位するように前記可動部3上に形成された第
1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,第4の変位電極(電極5a−5
f,6a−6d)と,
f7-1 前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって,第1の容量素子が形
成され,
f7-2 前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって,第2の容量素子が形
成され,
f7-3 前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって,第3の容量素子が形
成され,
f7-4 前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって,第4の容量素子が形
成され,
g7-1 かつ,前記可動部3が前記第1の軸の正方向に変位した場合,前記第1の
容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加
し,前記可動部3が前記第1の軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量素子の
電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し,
g7-2 前記可動部3が前記第2の軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,前
記可動部3が前記第2の軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間
距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように,前記
各固定電極及び前記各変位電極が配置され,
h7 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記第1の軸方向の作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4
の容量素子の容量値との差によって,前記第2の軸方向の作用した力を検出するよ
うに構成したことを特徴とする
j7 加速度計。
l7 検出装置において,可動部3に作用する加速度に基づいて発生する力を検出
することにより,加速度の検出を行い得るようにした加速度検出装置。
(イ) 本件特許発明1と引用例7に記載された発明との対比
a 本件特許発明1の構成要素と引用例7に記載された発明の構成要素との
対応関係は,以下のとおりである。
本件特許発明の構成要素 引用例7に記載された発明の構成要素
力検出装置( 構 成 要 件 A , J ) 加速度計( 構 成 a 7 , j 7 )
装置筐体( 構 成 要 件 B ) 加速度計本体( 構 成 b 7 )
固定要素( 同 上 ) 基板1,41( 同 上 )
可撓性部分( 構 成 要 件 C ) 薄条片4,5( 構 成 c 7 )
変位要素( 同 上 ) 可動部3( 同 上 )
第1の固定電極( 構 成 要 件 D ) 電極9a−9g,10a−10e( 構
成 d7)
第2の固定電極( 同 上 ) 電極9a−9g,10a−10e( 同
上)
第3の固定電極( 同 上 ) 電極9a−9g,10a−10e( 同
上)
第4の固定電極( 同 上 ) 電極9a−9g,10a−10e( 同
上)
第1の変位電極( 構 成 要 件 E ) 電極5a−5f,6a−6d( 構 成 e 7 )
第2の変位電極( 同 上 ) 電極5a−5f,6a−6d( 同 上 )
第3の変位電極( 同 上 ) 電極5a−5f,6a−6d( 同 上 )
第4の変位電極( 同 上 ) 電極5a−5f,6a−6d( 同 上 )
第1の容量素子( 構 成 要 件 F -1 ) 電極9a−9g,10a−10eと電
極5a−5f,6a−6dによって形
成された第1の容量素子( 構 成 f 7 - 1 )
第2の容量素子( 構 成 要 件 F -2 ) 電極9a−9g,10a−10eと電
極5a−5f,6a−6dによって形
成された第2の容量素子( 構 成 f 7 - 2 )
第3の容量素子( 構 成 要 件 F -3 ) 電極9a−9g,10a−10eと電
極5a−5f,6a−6dによって形
成された第3の容量素子( 構 成 f 7 - 3 )
第4の容量素子( 構 成 要 件 F -4 ) 電極9a−9g,10a−10eと電
極5a−5f,6a−6dによって形
成された第4の容量素子( 構 成 f 7 - 4 )
変位要素が第1の軸の正方向に変位 可動部3が第1の軸の正方向に変位し
した場合,第1の容量素子の電極間 た場合,第1の容量素子の電極間距離
距離が減少するとともに第2の容量 が減少するとともに第2の容量素子の
素子の電極間距離が増加し,変位要 電極間距離が増加し,可動部3が第1
素が第1の軸の負方向に変位した場 の軸の負方向に変位した場合,第1の
合,第1の容量素子の電極間距離が 容量素子の電極間距離が増加するとと
増加するとともに第2の容量素子の もに第2の容量素子の電極間距離が減
電極間距離が減少するように,各固 少するように,各固定電極及び各変位
定電極及び各変位電極を配置(構成要 電極を配置(g7-1)
件 G-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位 可動部3が第2の軸の正方向に変位し
した場合,第3の容量素子の電極間 た場合,第3の容量素子の電極間距離
距離が減少するとともに第4の容量 が減少するとともに第4の容量素子の
素子の電極間距離が増加し,変位要 電極間距離が増加し,可動部3が第2
素が第2の軸の負方向に変位した場 の軸の負方向に変位した場合,第3の
合,第3の容量素子の電極間距離が 容量素子の電極間距離が増加するとと
増加するとともに第4の容量素子の もに第4の容量素子の電極間距離が減
電極間距離が減少するように,各固 少するように,各固定電極及び各変位
定電極及び各変位電極を配置(構成要 電極を配置(g7-2)
件 G-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容 第1の容量素子の容量値と第2の容量
量素子の容量値との差によって,第 素子の容量値との差によって,第1の
1の軸方向に作用した力を検出し, 軸方向の作用した力を検出し,第3の
第3の容量素子の容量値と第4の容 容量素子の容量値と第4の容量素子の
量素子の容量値との差によって,第 容量値との差によって,第2の軸方向
2の軸方向に作用した力を検出する の 作 用 し た 力 を 検 出 す る よ う に 構 成
ように構成(構成要件 H) (h7)
b 引用例7に記載された発明の構成 b7 ないし j7 は,本件特許発明1の構
成要件 B ないし J に相当し,両者は,構成要件 A を除くすべての構成において一
致し,構成要件 A において相違する。
c 相違点について
( a) 本件特許発明1においては,構成要件 A として,「互いに直交する第
1の軸および第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の
軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であ
(る)」とされているのに対し,引用例7に記載された発明においては,互いに12
0°の角度をなす第1の軸及び第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に作用した力
及び前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった加速
度計(a7)である点で,両者は相違する。
(b) しかし,「互いに120°の角度をなす第1の軸及び第2の軸」を「互い
に直交する第1の軸および第2の軸」にすることに格別の困難性はなく,設計事項
の範囲というべきである。
( c) したがって,本件特許発明1は,引用例7に記載された発明に対して
進歩性がない。
(ウ) 本件特許発明2と引用例7に記載された発明との対比
a 前記(2)(被告製品の構成要件 K の充足の有無)ア(原告の主張)に示され
た原告の解釈によれば,引用例7に記載された発明は,第1及び第2の変位電極が
物理的に同一であり,第3及び第4の変位電極が物理的に同一であるから,それぞ
れ物理的に単一の共通電極によって形成されているということができる。
b したがって,引用例7に記載された発明は,本件特許発明2の構成要件
Kを充足する。
(エ) 本件特許発明3と引用例7に記載された発明との対比
a 引用例7に記載された発明の構成 l7 は,本件特許発明3の構成要件 L
に相当する。
b したがって,引用例7に記載された発明は,本件特許発明3の構成要件
Lを充足する。
(オ) まとめ
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
イ 原告の主張
(ア)a 被告の主張(ア)(引用例7)aは明らかに争わない。
b 同bのうち,引用例7に記載された発明が h7 の構成を有するとする点
は否認し,その余は明らかに争わない。
(イ)a 同(イ)(対比)aは,引用例7に記載された発明が h7 の構成を有すると
する点は否認し,その余は明らかに争わない。
b(a) 同bのうち,本件特許発明1と引用例7に記載された発明とが構成
要件 H において一致するとする点は否認し,その余は明らかに争わない。
( b) 引用例7に記載された発明では,加速度に起因して可動部に変位が生
じようとした場合に,この変位を制御するためのサーボコントロールが行われる。
このため,引用例7に記載された発明では,本件特許発明1のように静電容量の差
を所定軸方向に作用した力として検出しているわけではなく,各電極が所定の電位
となるようにサーボコントロールし,このサーボコントロールの動作態様に基づい
て加速度を検出していることになる。
c 同cのうち,(a)及び( b)は明らかに争わず,(c)は否認する。
(ウ) 同(ウ)ないし(オ)はいずれも否認する。
(16) 本件訂正請求について
ア 訂正の可否
(ア) 原告の主張
a 訂正の目的
構成要件 H'-1 は,「容量値の差によって…力を検出する」という技術事項を,「容
量値の差を検出信号として出力する検出回路を備える」という技術事項に限定し,
構成要件 H'-2 は,「固定要素」及び「変位基板」の材質を「シリコン」に限定するもの
であり,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b(a) 後記被告の主張bはいずれも争う。
( b) 訂正請求書(甲20)において,原告が段落【0022】及び図6を示
したのは,変更の意図の第1点「『容量値の差によって…力を検出する』という技
術事項を『容量値の差を検出信号として出力する検出回路を備える』という技術事
項に限定する。」ことが願書に添付した明細書から可能であることを示すことにあ
り, Z 軸方向に関して請求項に記載するという意図は全くない。そもそも明細書に
記載した事項のどれを請求項に記載して出願するかは出願人の自由であって,明細
書に記載されている事項のすべてが特許請求の範囲に含まれるわけではない。それ
にもかかわらず,本件明細書に,ある方法による Z 軸方向成分を示す信号を生成
する態様が記載され,かつ訂正後の請求項1に何ら Z 軸方向成分を示す信号を生
成する対応が記載されていないからといって,本件特許権1に係る訂正後の請求項
1に黙示的に他のすべての方法による態様が包含されているという被告の主張は,
論理になっていない。
( c) 本件特許権に係る検出装置において,「ある軸方向に作用した力」と「あ
る軸方向に作用した力方向成分」とは全く同義であり,両者間に実質上特許請求の
範囲の変更に当たる差はない。
( d) 原告は,本件明細書の段落【0029】の記載から,「固定要素」及び
「変位要素」の材質を「シリコン」に減縮しただけである。このような材質限定は,特
許庁の実務において従来から,「特許請求の範囲の減縮」として適法な訂正と認めら
れてきたものである。
(イ) 被告の主張
a 原告の主張a(訂正の目的)は否認する。
b 構成要件 H'-1 について
( a) 原告は,訂正の根拠として本件明細書の段落【0022】及び図6を
挙げているが,そこに記載されているのは,作用点 P に作用した力の X 軸方向成
分を示す信号を出力し,かつ,作用点 P に作用した力の Y 軸方向成分を示す信号
を出力し,かつ,作用点 P に作用した力の Z 軸方向成分を示す信号を出力する回
路である 。さらに,本件明細書の段落【0022】及び図6には,電圧値 V1 ∼ V4
の和をとることによって(すなわち,静電容量 C1 ∼ C4 の和をとることによって) ,
作用点 P に作用した力の Z 軸方向成分を示す信号を生成することが記載されてい
る。
しかし,これ以外の方法に従って作用点 P に作用した力の Z 軸方向成分を示す
信号を生成することは記載されていない。
仮に本件訂正請求が認められたとすると,訂正後の請求項1は,作用点 P に作
用した力の Z 軸方向成分を示す信号を出力することも,どのようにして作用点 P
に作用した力の Z 軸方向成分を示す信号を生成するかも規定していないことから,
訂正後の請求項1の範囲は,本件明細書の段落【0022】及び図6に記載の方法
以外の方法に従って作用点 P に作用した力の Z 軸方向成分を示す信号を生成し,
その信号を出力するという態様をも包含することとなる。このように,本件特許権
1に係る訂正後の請求項1の範囲が,願書に添付した明細書又は図面に記載されて
いない態様をも包含することになることが不合理であることはいうまでもない。
したがって,このような訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項
の範囲を超えるものであり,特許法134条の2第5項及び126条3項に違反す
るものとして認められないというべきである。
(b)Ⅰ 訂正前の記載では,「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量
素子の容量値との差」は,前記第1の軸方向に作用した「力」を検出するために用い
られているのに対し,訂正後の記載では,「前記第1の容量素子の容量値と前記第
2の容量素子の容量値との差」は,前記第1の軸方向に作用した「力方向成分」を示
す検出信号として出力されるものとされている。
しかし,「力」と「力方向成分」とは別物であり,「力方向成分」を検出することが
「力」を検出することになるとは限らない。逆に,「力」を検出することが「力方向成
分」を検出することになるとは限らない。
したがって,検出の対象を「力」から「力方向成分」に変更する訂正が実質上特許請
求の範囲を変更するものであることは明らかである。
Ⅱ 構成要件 A には「前記第1の軸方向に作用した力を…検出する機能を
もった力検出装置」と記載されている。このように,構成要件 A では,検出の対象
が前記第1の軸方向に作用した「力」であるのに対し,訂正後の記載では,検出の対
象が前記第1の軸方向に作用した「力方向成分」となっている。
したがって,構成要件 A と訂正後の記載とは,検出の対象において矛盾してい
る。このような矛盾を生じることとなる訂正が実質上特許請求の範囲を変更するも
のであることは明らかである。
Ⅲ 訂正後の記載は,装置が「力」を検出するのか否かを問わない記載にな
っているのに加えて,装置が「力方向成分」をも検出することなく「力方向成分」を示
す検出信号を単に装置の外部に出力する態様をも包含する記載となっている。この
ように,「力検出装置」なる装置自身が「力」又は「力方向成分」を検出するのか否かを
あいまいなものとする訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明
らかである。
Ⅳ 「前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差」
によって第2の軸方向に作用した「力」の検出(訂正前の記載)又は「力方向成分」を示
す検出信号としての出力(訂正後の記載)についても,上記ⅠないしⅢと同様である。
Ⅴ 以上より,本件訂正請求は,実質上特許請求の範囲を変更するもので
あるから,特許法134条の2第5項及び126条4項に違反するものとして認め
られないというべきである。
c 構成要件 H'-2 について
( a) 原告が訂正の根拠とする記載①は,原出願当初明細書には存在しなか
った記載であり,本来,原出願当初明細書を補正することによっても導入すること
ができなかった記載である。このような記載①を訂正の根拠とすることができない
ことは当然のことである。
(b) 原告が訂正の根拠とする本件明細書の段落【0029】には,「図9に
示す実施形態は,固定基板10c,変位基板20c,作用体30c,のすべてにシ
リコンなどの半導体を使用した例である。」と記載されている。このことは,固定
基板10c,変位基板20c,作用体30cの全部がシリコンにより構成されるこ
とを意味する。さらに,本件明細書の段落【0017】には「変位基板20の中央
部分は作用体30とともに変位要素として機能する」と記載されている。このこと
は,「変位基板20の中央部分」と「作用体30」とが「変位要素」として機能すること
を意味する。
仮に本件訂正請求が認められたとすると,本件特許権1に係る訂正後の請求項1
は,「変位要素がシリコンにより構成されている」ことを規定していることから,本
件明細書の段落【0017】の記載から「変位基板20の中央部分」と「作用体30」
とが「シリコンにより構成されている」ことになる。しかし,本件特許権1に係る訂
正後の請求項1は,「変位要素」の定義から外れる部分(すなわち,変位基板20の
うち「変位基板20の中央部分」以外の部分)の材料を規定していないことから,同
訂正後の請求項1の範囲は,変位基板20のうち「変位基板20の中央部分」以外の
部分がシリコン以外の材料により構成されている態様をも包含することとなる。こ
のことは,変位基板20cの全部がシリコンにより構成されることを記載する本件
明細書の段落【0029】に矛盾する。
このように,訂正後の請求項1の範囲が,願書に添付した明細書又は図面に記載
されていない態様をも包含することになることが不合理であることはいうまでもな
い。
( c) したがって,本件訂正請求は,願書に添付した明細書又は図面に記載
した事項の範囲を超えるものであり,特許法134条の2第5項及び126条3項
に違反するものとして認められないというべきである。
イ 被告製品の構成要件 H'-1 及び H'-2 の充足の有無
(ア) 原告の主張
a 構成要件 H'-1 について
被告従業員作成に係る「マイクロマシン技術のすべて」(「トランジスタ技術」20
02年5月号(甲8)。以下「甲8論稿」という。)には,「外部からセンサに力が働く
と,それに応じてプルーフ・マスが移動し,」(204頁左欄),「…固定電極とくし
状電極の電極間距離が変動します。」(同),「 CS1 と CS2 の静電容量が変化すると,
働いた加速度の大きさに比例した電圧が出力されます」(同)との記載があり,被告
製品の動作原理が解説されている。
これによれば ,被告製品の固定電極とくし状電極との間には ,静電容量である CS1
と CS2 という2つの容量素子が存在する。この容量素子が,プルーフ・マスの変動
とともに変化し,その変化に応じた電圧が出力される。すなわち,被告製品は,固
定電極とくし状電極の電極間距離が変動し,電極間距離の変化により静電容量も変
化し,静電容量の変化に応じて加速度の大きさに比例した電圧が出力するというも
のであり,これは構成要件 H'-1 の「前記第 1 の容量素子の容量値と前記第 2 の容量
素子の容量値との差を,…検出信号として出力し,」を満たす。
また,被告製品は,外部からセンサに力が加わると,静電容量の変化に応じて加
速度の大きさに比例した電圧が出力するものであるところ,これは構成要件 H'-1
の「前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する」を満た
す。
さらに,被告製品における X 軸及び Y 軸方向の検出原理はいずれも同じである
から,Y 軸方向に係る構成要件 H'-1 の「前記第3の容量素子の容量値と前記第4の
容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信
号として出力する」を具備する。
したがって,被告製品は,構成要件 H'-1 を充足する。
b 構成要件 H'-2 について
甲8論稿には,「…表面マイクロマシニングによってポリシリコンのプルーフ・
マスが構築されています。…プルーフ・マスはポリシリコンのスプリングを通じて
空中に支えられており,X 軸や Y 軸方向に自由に動けるようになっています。さ
らに,プルーフ・マスの各辺には,くし状の電極が配置されており,シリコン基板
上の2枚の固定電極とともに,差動コンデンサを構成しています。」(204頁左
欄)と記載されている。
したがって,被告製品は,固定電極とくし状電極がシリコンにより構成されてい
るといえ,これは構成要件 H'-2 を満たす。
(イ) 被告の主張
a(a) 原告の主張(ア)a(構成要件 H'-1 について)は否認する。
(b) 被告製品は,第1の軸方向に作用した「加速度」を検出し,「検出された
加速度に比例する信号を出力」し,第2の軸方向に作用した「加速度」を検出し,「検
出された加速度に比例する信号を出力」するよう構成されており,プルーフ・マス
20に作用する力を検出しておらず,力方向成分を示す検出信号を検出することも
ない。したがって,被告製品は構成要件 H'-1 を充足しない。
b 同b(構成要件 H'-2 について)は明らかに争わない。
ウ 無効の抗弁1ないし6について
(ア) 被告の主張
a 被告は,本件訂正請求後の本件特許権に対しても,無効の抗弁1ないし
6の成否を主張する。
b これを無効の抗弁1についてふえんすると,以下のとおりである。
( a) 引用例1に記載された発明は,「第1の容量素子の容量値と第2の容量
素子の容量値との差を,第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として
出力し,第3の容量素子の容量値と第4の容量素子の容量値との差を,第2の軸方
向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え」とい
う構成(構成 h1'-1),及び「固定要素及び変位要素がシリコンにより構成されている
こと」という構成(構成 h1'-2)を有する。
(b) 引用例1に記載された発明の上記構成 h1'-1 及び h1'-2 は,それぞれ訂
正後の本件特許発明1の構成要件 H'-1 及び H'-2 に相当し,引用例1に記載された
発明の他の構成が訂正後の本件特許発明1の他の構成要件に相当することは前記の
とおりであるから,両者は,すべての構成において一致し,相違点は存しない。し
たがって,訂正後の本件特許発明1は,引用例1に記載された発明に対して新規性
がない。
( c) したがって,仮に本件訂正請求が認められたとしても,本件特許権は ,
特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特許無効審判により無効にされる
べきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
(イ) 原告の主張
原告の主張は,無効の抗弁1ないし6の成否に対する主張のとおりである。
エ 無効の抗弁7ないし12について
(ア) 被告の主張
a 引用例8
( a) 特開昭60−207066号公報(乙25。以下「引用例8」という。)
は,以下の事項を記載している。
Ⅰ 本発明は,振子構造が,例えば,シリコン又は石英からなる結晶性ウ
エハを微細機械加工して形成され,かつ平形試験体の面内の2つの可撓性平行ブレ
ードにより懸架された前記試験体より成る加速度計用センサに関する(3頁左上欄
下から1行∼右上欄4行)。
Ⅱ 横方向( tX)へ移動可能な試験体6が,一対の可撓性ブレード4,5間
に配置されている。試験体6の金属化されたエッジとブレード4,5の金属化され
たエッジとはそれぞれコンデンサ板を形成する(4頁左下欄下から2行∼5頁左上
欄16行,請求項7及び8)。
Ⅲ 加速度計用センサは,加速度を決定するために,試験体6の運動を検
出する(3頁左下欄9行∼11行)。
Ⅳ 試験体6がその測定軸線(tX)に沿って移動すると,その試験体6の運
動に対応するコンデンサ板の容量が変化する。この容量変化を測定することによっ
て,試験体6の運動の大きさが決定される。つまり,測定軸線 tX に沿う加速度成
分の大きさが決定される(5頁左上欄11行から16行)。
Ⅴ 一方のコンデンサの容量増加と他方のコンデンサの容量減少が生じる
ので,コンデンサ板の容量変化の測定は,これらのコンデンサ板を差信号検出/増
幅回路に接続することにより,実施される(6頁左下欄5行∼同頁右下欄16行)。
Ⅵ 試験体6の運動を検出する装置のほかに,センサは試験体に加えられ
る外部作用を相殺する復帰用モータを備える。復帰用モータは試験体用センサをサ
ーボ制御する(3頁右下欄18行∼20行,7頁左下欄11行∼13行)。
(b)Ⅰ 引用例8の上記記載内容から,本件特許発明1ないし3の当時,①
力検出装置に力 F が作用すると,力検出装置の変位要素が変位1から変位2へ変
位する,②変位1における変位要素の容量素子の静電容量値 C1 と,変位2におけ
る変位要素の容量素子の静電容量値 C2 とは異なるので,これらの静電容量値の差
(C2-C1)を検出回路によって検出し,力 F を示す検出信号として出力する,③これ
により,静電容量値の差(C2-C1)から力 F を検出できる,④次の力を検出するため,
力検出装置を復帰させる必要があるので,検出した静電容量値の差からの信号を変
位容量の復帰のために利用する,という静電容量の変化を利用した力検出装置の力
検出原理は,公知であったといえる。
Ⅱ さらに,引用例8は,以下の点をも開示する。
・ 静電容量の差を,所定軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出
力する検出回路を備えること(6頁左下欄5行∼同頁右下欄13行)
・ 力検出装置がシリコンにより構成されていること(3頁左上欄下から1行∼
右上欄4行)
b 引用例2ないし7との関係
( a) 引用例2ないし7に記載の装置は,いずれも,引用例8の装置と同様
に,以下のとおり,静電容量の変化を利用した力検出装置であり,公知の力検出装
置の力検出原理を採用している。これらの装置では,静電容量の差を所定軸方向に
作用した力として検出し,同時に,力検出装置を復原することにも利用している。
したがって,引用例2ないし7に記載の装置は,引用例8を考慮すれば,いずれも,
訂正後の構成要件 H'-1 及び H'-2 を備えており,本件特許権1に係る訂正後の請求
項1は,これらに対して新規性ないし進歩性がなく,特許法29条1項3号ないし
同法29条2項に規定する発明に該当するものというべきである。また,本件特許
発明1に従属する本件特許発明2及び3についても同様である。
よって,仮に訂正が認められたとしても,本件特許権は,特許法123条1項2
号所定の無効理由を有し,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,
原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
(b) 引用例2
Ⅰ 引用例2(乙19)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) 本発明は3軸の加速度計に関する。
3つの相互に直交する加速度又は加えられた力の成分(例えば,地球の重力場g
の成分)の測定として,3軸加速度計パッケージの使用が知られている。その3軸
加速度計パッケージは,3つの1軸加速度計の検出軸が相互に直交するように配置
された3つの1軸加速度計を備えたものである。各加速度計は,その検出軸に沿っ
た中立位置に関して変位し得る永久磁石と,そのような変位を検知し,検出軸に沿
って加えられた力の成分を示す出力信号を提供するための検出手段とを有する。
(Ⅱ) (10)(無効の抗弁の成否7−新規性の欠如1)ア(被告の主張)(ア)a
(a)に同じ。
(Ⅲ) 外力によってマグネット6が移動すると,可動プレート13と固定
プレート17との間の静電容量が変化する(第3欄15行∼33行)。
(Ⅳ) クレーム1.
ハウジングと,加えられた力に応答して,3つの相互に直交する測定軸に関して
変位し得るように,該ハウジング内に取り付けられたマグネットと,を有する3軸
移動マグネットの加速度計において,
該マグネットは支持部材上に取り付けられ,その支持部材は平面のダイヤフラム
によってハウジングに連結され,
ダイヤフラムの撓みによって該測定軸の2つの方向に該支持部材の回動を許容し,
かつダイヤフラムの平面に対して直交するダイヤフラムの変形によって該測定軸の
第3の方向へ支持部材の直線的変位を許容するようになっており,並びに
該マグネットの変位を検出し,及び該3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられ
た力の成分に比例した各出力信号を提供するための検出手段,を有する加速度計
(第5欄27行∼43行)。
(Ⅴ) クレーム2.
クレーム1に記載の加速度計において,
前記検出手段が,マグネットに連結された移動可能なプレートと,
前記ハウジングに固定された固定プレートと,を備えた可変コンデンサーを有し,
該プレートを横切る静電容量は,該3つの測定軸に関して,マグネットの変位に
依存して変わる,加速度計(第5欄44行∼50行)。
(Ⅵ) (10)(無効の抗弁7の成否−新規性の欠如1)ア(被告の主張)(ア)a
(d)及び( e)に同じ。
Ⅱ 以上の記載から,引用例2に記載された発明は,以下の構成を有して
いる。これらの構成は,訂正後の構成要件 H'-1 に相当する。
・ マグネットの変位を検出し,及び3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられ
た力の成分に比例した各出力信号を提供するための検出手段を有すること。
・ マグネットに連結された移動可能なプレートと,前記ハウジングに固定され
た固定プレートと,を備えた可変コンデンサーを有し,該プレートを横切る静電容
量は,該3つの測定軸に関して,マグネットの変位に依存して変わること。
・ 可変コンデンサーで生じた静電容量の差を,検出手段により3つの測定軸に
加えられた力として検出すること。
Ⅲ また,力検出装置がシリコンにより構成されていることは,引用例8
を考慮すると,本件特許発明1ないし3の出願時に当業者によって知られていたこ
とであり,設計事項である。
Ⅳ したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例2に記
載された発明に対して新規性及び進歩性を有しない。
( c) 引用例3
Ⅰ 引用例3(乙20)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) ピックアッププレートからダイヤフラムへの間隔は,該プレートか
らグラウンドへの静電容量を規定する(第1欄73行∼第2欄2行)。
(Ⅱ) (11)(無効の抗弁8の成否−新規性の欠如2)ア(被告の主張)(ア)a
(a)及び( d)に同じ。
(Ⅲ) クレーム1.
複数の変量を制御する手制御において,ハウジングは取付面を有し,該取付面上
の比較的硬質のダイヤフラムは実質的に平面の形状を有し,
信号生成の配置は,間隔をおいて対向する一対のピックアップ手段を有し,
ピックアップ手段は該ダイヤフラムに近接し,そして
スティックは,ピックアップ手段が沿って配置される軸の交差に近接してダイヤ
フラムに一点で固定されかつダイヤフラムによって単独で支持され,
スティックをその休止位置から移動すると,トルクをダイヤフラムの一部に適用
し移動し,ピックアップ手段の一方を近づけ,ピックアップ手段の他方を離し,そ
れらの間にアンバランスな信号を生成する(第3欄58行∼第4欄10行)。
Ⅱ 以上の記載から,引用例3に記載された発明は,以下の構成を有して
いる。これらの構成は,訂正後の構成要件 H'-1 に相当する。原告が原出願の審査
過程において「前記変位電極と前記固定電極との間に生じる静電容量の変化に基づ
いて,前記作用体に作用した力を検出することを特徴とする力検出装置。」を規定
した請求項1を削除した(乙8)のはこのためである。
・ 第1軸又は X 方向の力は,電極ダイヤフラム17(第1容量素子)に接続さ
れたピックアッププレート13の静電容量値と,電極ダイヤフラム17(第2容量
素子)に接続されたピックアッププレート15の静電容量値との差によって検出さ
れる。
・ 第2軸又は Y 方向の力は,電極ダイヤフラム17(第3容量素子)に接続さ
れたピックアッププレート14の静電容量値と,電極ダイヤフラム17(第4容量
素子)に接続されたピックアッププレート16の静電容量値との差によって検出さ
れる。
Ⅲ また,力検出装置がシリコンにより構成されていることは,引用例8
を考慮すると,本件特許発明1ないし3の出願時に当業者によって知られていたこ
とであり,設計事項である。
Ⅳ したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例3に記
載された発明に対して新規性及び進歩性を有しない。
(d) 引用例4
Ⅰ 引用例4(乙21)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) 本発明は,容量形トランスデューサ,例えば,変位感応装置に用い
られる容量形トランスデューサに関する(1頁4行∼5行)。
(Ⅱ) 背景技術
容量形変位トランスデューサは,変位感応に用いられることが知られている。変
位感応装置としては測定プローブ及びジョイスティックがあり,スタイラス又はレ
バーが直交装置の2以上の軸方向に移動可能である。通常は,各々の軸に関して1
以上の容量形トランスデューサを有する。このような容量形トランスデューサは,
相対的に移動する少なくとも 1 対のコンデンサプレートを有する(1頁7行∼14
行)。
(Ⅲ) 請求項7
請求項1ないし請求項6のいずれかの項において,少なくとも2軸の変位に感応
し,2軸のそれぞれの軸の変位に感応する容量形トランスデューサを有し,各軸の
変位を示す信号を出力するためにトランスデューサに接続されていることを特徴と
する回路(19頁10行∼16行)。
(Ⅳ) (12)(無効の抗弁9の成否−新規性の欠如3)ア(被告の主張)(ア)a
(a),(b)及び( f)に同じ。
Ⅱ 以上の記載から ,引用例4に記載された発明は,訂正後の構成要件 H'-1
に相当する構成を有している。
Ⅲ また,力検出装置がシリコンにより構成されていることは,引用例8
を考慮すると,本件特許発明1ないし3の出願時に当業者によって知られていたこ
とであり,設計事項である。
Ⅳ したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例4に記
載された発明に対して新規性及び進歩性を有しない。
( e) 引用例5
Ⅰ 引用例5(乙22)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) (13)(無効の抗弁10の成否−新規性の欠如4)ア(被告の主張)(ア)
a( c)に同じ。
(Ⅱ) 本発明によれば,上記及び他の目的が,3軸の交差する方向のそれ
ぞれに電磁気的に生成する力によって,加速度計ケース又はハウジングに関して支
持されかつ束縛されるプルーフマスを有する加速度計において達成される(第2欄
16行∼21行)。
(Ⅲ) (13)(無効の抗弁10の成否−新規性の欠如4)ア(被告の主張)(ア)
a( e),(g)及び( h)に同じ。
Ⅱ 以上の記載と,引用例8には「静電容量の差を,所定軸方向に作用し
た力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を備えること」及び「力検出装
置がシリコンにより構成されていること」が開示されており,これらの事項は本件
特許発明1ないし3の出願時に当業者によって知られていたことを考慮すると,引
用例5に記載された発明は,訂正後の構成要件 H'-1 及び H'-2 に相当する構成を有
している。
Ⅲ したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例5に記
載された発明に対して新規性及び進歩性を有しない。
( f) 引用例6
Ⅰ 引用例6(乙23)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) (14)(無効の抗弁11の成否−進歩性の欠如1)ア(被告の主張)(ア)
a( b)に同じ。
(Ⅱ) このようにして,本発明は,対向して配置されたコンデンサの静電
容量での差動変化によって表示される,プレート14の角度的変形を測定すること
により,シャフト13に加えられた力を測定する(第4欄58行∼61行)。
(Ⅲ) 図1bに示すように,プレート14が傾斜するので,第1電極と第
2電極の間隔は,コンデンサを差動的に変化する(このコンデンサは所定の測定軸
に対応しており,かつダイヤフラムの中心の対向する側に配置されている )。例え
ば,図1bでは,間隔d1及びd2は,ほぼ等しい最初の値から,それぞれ減少及
び増加する。所定の測定軸に対応する,対向して配置されたコンデンサ間の間隔の
大きさにおけるこの差動的な変化は,そのようなコンデンサのそれぞれの静電容量
に差動変化を生じさせる(第4欄34行∼44行)。
(Ⅳ) クレーム1.
力−感応容量性トランスジューサであって,
複数の電極領域を有する第1の電極手段,
該第1の電極手段から離れており,加えられたモーメントに応答して角度的に変
形可能である第2の電極手段であって,第1の電極手段とともに間隔に応じて静電
容量が可変な複数のコンデンサを規定し,そのような間隔は,該第2の電極手段の
角度の変化によって差動的に可変である第2の電極手段,
該第2の電極手段に接続され,外から加えられた力に応答するアクチュエータ手
段であって,該第2の電極手段にモーメントを適用し,第1の電極手段と第2の電
極手段との間隔を変え,それによって,静電容量を変えるアクチュエータ手段,及

該第2の電極手段に接続されたダイヤフラム手段であって,第2の電極手段に加
えられたモーメントに応答して弾性的に変形するダイヤフラム手段,を有する,力
−感応容量性トランスジューサ(第8欄32行∼52行)。
(Ⅴ) クレーム3.
クレーム1において,力の変化を表示する信号を生成するために,コンデンサト
ランスデューサ手段に,力の可変な静電容量に対応する信号生成手段をさらに有す
る(第8欄57行∼62行)。
Ⅱ 以上の記載から,引用例6の装置においては,シャフト13に加えら
れた力を測定することを目的として,第1静電容量素子(19a,110,図3)と
第2静電容量素子(19c,110,図3)との間の静電容量値の差は,第1の軸に
沿った力を検出するために使用されている。また第3静電容量素子(19b,11
0,図3)と第4静電容量素子(19d,110,図3)との間の静電容量値の差は ,
第2の軸に沿った力を検出するために使用され,そのための検出回路を備えている。
よって,引用例6は,原告が意見書(乙14)において述べたように,「4組の容
量素子を配置し,このうちの一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第1の
軸方向の力検出を行い,別な一対の容量素子の静電容量値の変化に基づいて第2の
軸方向の力検出を行うという検出原理」を開示している。これは,訂正後の構成要
件 H'-1 に相当する。
さらに,力検出装置がシリコンにより構成されていることは,引用例8から本件
特許発明1ないし3の出願時に当業者によって知られていたことであり,設計事項
である。
したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例6に対して新規性
及び進歩性を有しない。
(g) 引用例7
Ⅰ 引用例7(乙24)は,以下の事項を記載している。
(Ⅰ) 本発明は,引用例8に示したタイプのフラット型振子構造を有する
加速度センサを用いた加速度計に関する(2頁右上欄8行∼11行)。
(Ⅱ) ( 15)(無効の抗弁12の成否−進歩性の欠如2)ア(被告の主張)a
(i)に同じ。
(Ⅲ) 加速度センサは水晶のごときモノクリスタル等からなるウエーハ基
板1により形成される(3頁左上欄下から2行∼右上欄2行)。
Ⅱ これらの記載は,訂正された構成要件 H'-1 及び H'-2 に相当する。
したがって,本件特許権1に係る訂正後の請求項1は,引用例7に対して新規性
及び進歩性を有しない。
(イ) 原告の主張
a(a) 被告の主張a(引用例8)のうち,( a)は明らかに争わない。
(b)Ⅰ 同(b)はいずれも否認する。
Ⅱ 引用例8も,引用例2ないし7と同様に,変位要素を中立位置にとど
めておくために必要な「制御力」を発生させるために要したエネルギーに基づいて,
作用した力の検出を行うサーボ制御方式の検出装置を開示する資料にすぎない。
Ⅲ また,引用例8の開示事項は,加速度センサにおける「振子構造」(本
件特許発明1における「作用体30」に対応する部分)をシリコンによって構成する
という事項にすぎず,構成要件 H'-2 「固定要素および変位要素がシリコンにより構
成されていること」という技術思想は開示されていない。
b(a) 同b(引用例2ないし7との関係)はいずれも否認する。
( b) 被告主張に係る従来装置の検出原理にいう「静電容量値の差( C2-C1)」
とは,同一の容量素子の時間的な差であるのに対し,構成要件 H'-1 に示された検
出回路は,2つの異なる容量素子の同一時刻における容量値の差を検出するもので
ある。
( c) 引用例2ないし7には,構成要件 H'-2 「固定要素および変位要素がシ
リコンにより構成されていること」という技術思想は開示されていない。
( d) 原告が原出願の審査過程において請求項1を削除する補正を行ったの
は,単に請求項2以下の早期権利化という目的を遂行するための方便であり,削除
した請求項1の内容が引用例3に開示されていると判断したためではない。
( e) 原告は,意見書(乙14)において,引用例6との関係について,「容量
素子を用いて,その容量値の変化に基づいて検出を行う」という部分に関しては共
通の原理を用いている旨主張しているだけであり,「一対の容量素子の容量値の差
を,特定の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する」という検
出原理の部分まで両者で共通する旨主張しているわけではない。
(17) 損害(特許法102条3項)
ア 原告の主張
(ア) 損害
原告は,研究開発投資の成果に関して取得した特許権のライセンス収入を主要な
収入源として事業展開をしているところ,被告製品の販売(前提事実( 4)ア)によっ
て損害を受けた。
(イ) 被告製品の売上高
被告は,日本国内において,本件特許権の設定登録後,被告製品を少なくとも1
年当たり50万個,販売単価1000円で販売している。したがって,被告の過去
3年間の売上高は,15億円を下らない。
(ウ) 実施料率
本件のロイヤリティとしては,売上高の10 %が相当である。
(エ) 特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
したがって,被告による本件特許発明1ないし3の実施に対し原告が受けるべき
金銭の額は,1億5000万円を下らない。
原告は,本訴において,その一部請求として5000万円の支払を求める。
イ 被告の主張
(ア) 損害
原告の主張(ア)のうち,原告が研究開発投資の成果に関して取得した特許権のラ
イセンス収入を主要な収入源としていることは不知,その余は否認する。
(イ) 売上高等
同(イ)ないし(エ)は,いずれも否認する。
第3 当裁判所の判断
1 無効の抗弁1の成否(分割出願の要件違反)について
(1) 分割出願の要件違反の有無
ア 原出願当初明細書(乙2)には,本件特許権に係る各請求項及び本件明細書
に見られる「変位要素」及び「変位基板」という用語は記載されていないこと,このう
ち,「変位要素」という用語に関しては,本件出願当初明細書において,記載①及び
②を追加することにより追加されたこと,原出願当初明細書の全体にわたって使用
されている「可撓基板」という用語が,本件出願当初明細書において「変位基板」とい
う用語に置換されたこと,原出願当初明細書の「(3) 可撓基板は可撓性をもっ
た材質からなること。」との記載が,本件出願当初明細書において,「(3) 変位
基板が作用体に作用した外力に基づいて変位しうること 。」との記載に置換された
ことについては,いずれも当事者間に争いがない。
イ(ア) 「可撓」とは,撓むことが可能なことを意味するところ,「撓み」とは,
「たわむこと。外力によって板・棒などの軸方向が曲がる変形。」を意味し,また,
「撓む」とは,「おされてまがる。しなう。ゆがむ。」こと(乙17),「固い棒状・板
状のものが,加えられた強い力によってそり曲がった形になる。しなう。」こと(大
辞林第二版)を意味する。したがって,「可撓基板」とは,このような意味において
撓むことが可能な性質(可撓性)を有する基板を意味する。
(イ) 「変位」とは,「物体がある位置から別の位置に動(くこと)」(乙18),「質
点が運動することによって位置を変えること。また,位置の変化を表す量で,所要
時間や経路を考慮せずに,ある時刻における位置から他の時刻における位置に向か
うベクトル。」(大辞林第二版)を意味し,方向と大きさをもつベクトル量として表
されるものである。
(ウ) 以上によれば,「変位」は,撓むことに限定されるものではなく,物体が
撓むことなくある位置から別の位置に動くことをも意味する概念であり,撓むこと
との関係で,その上位概念である。したがって,「変位要素」又は「変位基板」という
概念は,可撓性を持たない要素又は基板をその範囲内に含むことになる。
ウ 証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,原出願当初明細書には,可撓性を
有する構成要素である「可撓基板20」についての説明はあるが,それ以外の可撓性
を有しない「変位要素」及び「変位基板」に該当し得るものについての記載はないこと
が認められる。
上記のような「可撓」及び「変位」の語義によれば,原出願当初明細書に記載された
「可撓基板」は,撓むことによって変位を生じるものであるということはできるが,
これは可撓基板が変位を生じることを意味するにとどまり,可撓基板以外の変位を
生じる要素を用いることを意味するものではない。
また ,「一般に,ゲージ抵抗やピエゾ抵抗係数には温度依存性があるため,上述
した検出装置では,使用する環境の温度に変動が生じると検出値が誤差を含むよう
になる。したがって,正確な温度補償を行う必要がある 。・・・そこで本発明は,
温度補償を行うことなく,力,加速度,磁気などの物理量を検出することができ,
しかも安価に供給しうる検出装置を提供することを目的とする 。」(原出願明細書
(乙2)7頁4行∼末行)ところ,そのような温度補償を要せず,安価な検出装置の
提供という目的を達成するためには,原出願当初明細書が明示的に開示する可撓基
板だけでなく,それ自体は可撓性を有しない「変位要素」及び「変位基板」であって
もよいことが,原出願当初明細書に接する当業者にとって明らかであることを認め
るに足りる技術常識等の主張立証はない。
よって,このような「変位要素」及び「変位基板」は,原出願当初明細書に記載がな
く,原出願当初明細書の記載から当業者に自明な事項でもないから,本件特許発明
1ないし3は原出願当初明細書に記載されていなかったものと認められる。
エ したがって,本件出願は,明細書又は図面の要旨を変更するものとして,
不適法な分割出願であり,出願日の遡及は認められず,その出願日は現実の出願日
である平成10年7月9日となる。
オ これに対し,原告は,「固定要素」,「変位要素」,「可撓性部分」という文言
自体の記載はなくとも,固定基板10が「装置筐体に対して変位が生じないように
固定された固定要素」であること,並びに,可撓基板20の中央部分及び作用体3
0から成る一塊の物体が「固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用
した力に基づいて,可撓性部分が撓みを生じることにより,固定要素に対して変位
を生じる変位要素」であることは,原出願当初明細書から自明な事項である旨主張
するけれども,上記のとおり,この点に関する原告の主張は採用し得ない。
(2) 新規性の欠如について
ア 本件特許発明1
平成4年に公開された引用例1に記載された発明は, a1 ないし l1 の構成を有す
ること,及び本件特許発明1と引用例1に記載された発明の各構成要素とを対比す
ると,以下のような対応関係にあることは,原告において明らかに争わないから,
これを自白したものとみなす。
本件特許発明1の構成要素 引用例1に記載された発明の構成
要素
力検出装置(構成要件 A,J) 力検出装置(構成 a1,j1)
装置筐体(構成要件 B) 装置筐体40(構成 b1)
固定要素(同上) 固定要素10(同上)
可撓性部分(構成要件 C) 可撓基板20(構成 c1)
変位要素(同上) 可撓基板20及び作用体3 0 ( 同
上)
第1の固定電極(構成要件 D) 固定電極11(構成 d1)
第2の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第3の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第4の固定電極(同上) 固定電極11(同上)
第1の変位電極(構成要件 E) 変位電極21(構成 e1)
第2の変位電極(同上) 変位電極23(同上)
第3の変位電極(同上) 変位電極22(同上)
第4の変位電極(同上) 変位電極24(同上)
第 1 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -1 ) 固定電極11と変位電極21とに
よって形成された第1の容量素子
(構成 f1-1)
第 2 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -2 ) 固定電極11と変位電極23とに
よって形成された第2の容量素子
(構成 f1-2)
第 3 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -3 ) 固定電極11と変位電極22とに
よって形成された第3の容量素子
(構成 f1-3)
第 4 の 容 量 素 子 ( 構 成 要 件 F -4 ) 固定電極11と変位電極24とに
よって形成された第4の容量素子
(構成 f1-4)
変位要素が第1の軸の正方向に変位 可撓基板20及び作用体30が X 軸
した場合,第1の容量素子の電極間 の正方向に変位した場合,第1の容量
距離が減少するとともに第2の容量 素子の電極間距離が減少するとともに
素子の電極間距離が増加し,変位要 第 2の容 量素子 の電極 間距離 が増加
素が第1の軸の負方向に変位した場 し,可撓基板20及び作用体30が X
合,第1の容量素子の電極間距離が 軸の負方向に変位した場合,第1の容
増加するとともに第2の容量素子の 量素子の電極間距離が増加するととも
電極間距離が減少するように,各固 に第2の容量素子の電極間距離が減少
定電極及び各変位電極を配置(構成 するように,固定電極11及び変位電
要件 G-1) 極21,23を配置(構成 g1-1)
変位要素が第2の軸の正方向に変位した 可撓基板20及び作用体30が Y 軸の正方
場合,第3の容量素子の電極間距離が減 向に変位した場合,第3の容量素子の電極
少するとともに第4の容量素子の電極間 間距離が減少するとともに第4の容量素子
距離が増加し,変位要素が第2の軸の負 の電極間距離が増加し,可撓基板20及び
方向に変位した場合,第3の容量素子の 作用体30が Y 軸の負方向に変位した場
電極間距離が増加するとともに第4の容 合,第3の容量素子の電極間距離が増加す
量素子の電極間距離が減少するように, るとともに第4の容量素子の電極間距離が
各固定電極及び各変位電極を配置(構成要 減少するように,固定電極11及び変位電
件 G-2) 極22,24を配置(構成 g1-2)
第1の容量素子の容量値と第2の容 第1の容量素子の静電容量と第2の容
量素子の容量値との差によって,第1の 量素子の静電容量との差によって,X 軸方
軸方向に作用した力を検出し,第3 向に作用した力を検出し,第3の容量
の容量素子の容量値と第4の容量素 素子の静電容量と第4の容量素子の静
子の容量値との差によって,第2の 電容量との差によって, Y 軸方向に作
軸方向に作用した力を検出するよう 用した力を検出するように構成(構成
に構成(構成要件 H) h1)
したがって,本件特許発明1と引用例1に記載された発明とは,すべての構成に
おいて一致し,相違点は存しないから,本件特許発明1は,引用例1との関係にお
いて新規性がない。
イ 本件特許発明2
引用例1に記載された発明は,固定電極を物理的に単一の固定電極11によって
形成した力検出装置であり(構成 k1),この構成 k1 は,本件特許発明2の構成要件 K
に相当し,両者の構成は一致し,相違点は存しないことは,原告において明らかに
争わないから,これを自白したものとみなす。
したがって,本件特許発明2は,引用例1に記載された発明に対して新規性がな
い。
ウ 本件特許発明3
引用例1に記載された発明の構成 l1 は,本件特許発明3の構成要件 L に相当し,
両者の構成は一致し,相違点は存在しないことは,原告において明らかに争わない
から,これを自白したものとみなす。
したがって,本件特許発明3は,引用例1に記載された発明に対して新規性がな
い。
エ まとめ
以上より,本件特許発明1ないし3は,いずれも引用例1に記載されており,特
許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明であるということ
ができるから,特許法29条1項3号に規定する発明に該当する。
したがって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特
許無効審判により無効とされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特
許権を行使することができない。
(3) 本件訂正請求について
次に,本件訂正請求が認められた場合に,本件特許権の上記無効理由が解消する
かについて,検討する。
ア 分割出願の要件違反の点について
本件訂正請求は,本件特許発明1の構成要件 H を構成要件 H'-1 及び H'-2 のよう
に訂正するというものであるが,「変位要素」及び「変位基板」という用語をその構成
要件に用いていることについては,訂正の前後を通じて変更はないから,前記( 1)
で述べたことは依然として妥当し,訂正後の本件特許発明1ないし3は原出願当初
明細書に記載されていなかったものということができる。
したがって,仮に本件訂正請求が認められたとしても,なお本件出願は不適法な
分割出願であり,出願日の遡及の効果は認められない。
イ 新規性欠如の点について
(ア) 引用例1に記載された発明が h1'-1 及び h1'-2 の構成を有することは,原
告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
これによれば,引用例1に記載された発明には,訂正後の本件特許発明1の構成
要件 H'-1 及び H'-2 が開示されているということができる。
また,本件特許発明1ないし3の他の構成要件については,訂正の前後を通じて
変更はないから,引用例1に記載された発明の他の構成がこれらの構成要件に相当
することは前記(2)のとおりである。
(イ) したがって,仮に本件訂正請求が認められたとしても,訂正後の本件特
許発明1ないし3は,いずれも特許法29条1項3号に規定する発明に該当し,本
件特許権は特許無効審判により無効とされるべきものであることに変わりはない。
(ウ) 仮に原告が引用例1に記載された発明が h1'-1 及び h1'-2 の構成を有する
ことを争ったとしても,証拠(乙3)によれば,引用例1には以下の記載があること
が認められ,これらの記載によっても,引用例1には,訂正後の本件特許発明1の
構成要件 H'-1 及び H'-2 が開示されているということができる。
a 「第7図に,作用した力を各軸方向成分ごとに検出する基本回路を示す 。
変換器51∼54は,各容量素子のもつ静電容量 C1 ∼ C4 を,電圧値 V1 ∼ V4 に
変換する回路で構成される。…差動増幅器55は電圧値 V1 と V3 との差をとり,
これを検出すべき力の X 軸方向成分± Fx として出力する回路である。… X 軸方向
成分± Fx は, C1 と C3 との差をとることによって求まる。また,差動増幅器56
は電圧値 V2 と V4 との差をとり,これを検出すべき力の Y 軸方向成分± Fy とし
て出力する回路である。… Y 軸方向成分± Fy は,C2 と C4 との差をとることによ
って求まる。更に,加算器57は電圧値 V1 ∼ V4 の和をとり,これを検出すべき
力の Z 軸方向成分± Fz として出力する回路である。… Z 軸方向成分± Fz は, C1
∼ C4 の和をとることによって求まる。」(6頁右下欄3行∼7頁左上欄7行)
b 「第10図に示す実施例は,固定基板10c,可撓基板20c,作用体
30c,のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。」(7頁右下欄14
行∼16行)
2 無効の抗弁7の成否(新規性の欠如1)について
(1) 本件特許発明1
ア 引用例2に第2,3( 10)ア(ア)a( a)ないし( g)の記載があることは,原告
において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
また,引用例2に記載された発明が,構成 h2 を除き,被告の主張に係る構成を
有すること,及び引用例2に記載された発明の構成が,構成要件 H を除く本件特
許発明1の構成要件と一致することは,原告において明らかに争わないから,これ
を自白したものとみなす。
イ(ア) 上記各記載によれば,引用例2に記載された発明においては,増幅器
49は矩形波電圧 VXA と VXB との差に応じた直流出力を発生させ,この直流出力
が, X 軸フォースコイル30,32及び電流検出抵抗58を流れる復帰電流を生じ
させ,これにより X 軸方向に作用した加速度の検出値として出力される電圧値 VX
が検出されるものといえる。ここで,引用例2の図4によれば,矩形波電圧 VXA
と VXB とは,それぞれ静電容量 CXA と CXB に対応していることから,上記矩形波電
圧 VXA と VXB との差に応じた直流出力,すなわち電圧値 VX は ,静電容量 CXA と CXB
との差に応じた出力であるということができる。また, Y 軸方向に作用した加速度
の検出値として出力される電圧値についても同様のことがいえるものと当業者には
理解されるものと認められる。そうすると,引用例2に記載された発明は,静電容
量の差を所定軸方向に作用した力として検出しているから,構成 h2 を備えている
ということができる。
この構成は,本件特許発明1の構成要件 H に相当するものであり,引用例2に
記載された発明の構成 h2 は構成要件 H と一致する。
(イ) この点につき,原告は,引用例2に記載された発明は,マグネット6
を中立位置に戻すための制御に必要になった電力を所定軸方向に作用した力として
検出しており,本件特許発明1のように,静電容量の差を所定軸方向に作用した力
として検出しているわけではないから,引用例2に記載された発明は,本件特許発
明1の構成要件 H を具備しない旨主張する。
確かに,引用例2に記載された発明は,矩形波電圧 VXA と VXB との差に応じて
発生した直流出力により,フォースコイル30,32及び電流検出抵抗58を流れ
る復帰電流を生じさせるものであるが,この直流出力は ,上記のとおり ,CXA と CXB
との差に応じた出力であって, X 軸方向に作用した加速度の検出値としても出力さ
れるものである。したがって,引用例2に記載された発明は,静電容量の差を所定
軸方向に作用した力として検出しているということができるものであるから,この
点に関する原告の主張は採用し得ない。
ウ 以上より,引用例2に記載された発明と本件特許発明1とは,すべての構
成において一致し,相違点は存しない。
したがって,本件特許発明1は,引用例2に記載された発明に対して新規性がな
い。
(2) 本件特許発明2
ア 引用例2に記載された発明の構成 e2 によれば,引用例2に記載された発
明は,変位電極を物理的に単一の共通電極である可動プレート13によって形成し
た力検出装置である。
イ この構成は,本件特許発明2の構成要件 K に相当し,両者の構成は一致
し,相違点は存しない。
したがって,本件特許発明2は,引用例2に記載された発明に対して新規性がな
い。
(3) 本件特許発明3
ア 引用例2に記載された発明は構成 l2 を有する(前記( 1)ア)。
イ この構成は,本件特許発明3の構成要件 L に相当し,両者の構成は一致
し,相違点は存在しない。
したがって,本件特許発明3は,引用例2に記載された発明に対して新規性がな
い。
(4) まとめ
よって,本件特許権は,特許法123条1項2号所定の無効理由を有し,特許無
効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権
を行使することができない。
(5) 本件訂正請求について
次に,本件訂正請求が認められた場合に,本件特許権の上記無効理由が解消する
かについて,検討する。
ア 構成要件 H'-1 について
(ア) 前記(1)イ(ア)のとおり,引用例2には,矩形波電圧 VXA と VXB との差に
応じた直流出力を発生して復帰電流を生じさせ,電圧 VX を得る回路が図5等に示
されているところ,この矩形波電圧 VXA 等は,静電容量 CXA 等に対応するもので
ある。
したがって,この回路は,訂正後の本件特許発明1の構成要件 H'-1 「前記第1の
容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を,前記第1の軸方向に作
用した力方向成分を示す検出信号として出力し,前記第3の容量素子の容量値と前
記第4の容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示
す検出信号として出力する検出回路を更に備え」に相当するということができる。
(イ) この点について,原告は,被告主張に係る従来装置の検出原理にいう「静
電容量値の差( C2-C1)」とは,同一の容量素子の時間的な差であるのに対し,構成
要件 H'-1 に示された検出回路は,2つの異なる容量素子の同一時刻における容量
値の差を検出するものである旨主張するけれども,引用例2に記載された発明は,
マグネット6の移動により生じる可動プレート13とそれに対向するプレート部分
19及び21(若しくは,18及び20)との間の差動静電容量の変化をもとに, X
軸方向又は Y 軸方向に作用した力の成分に比例する出力信号を提供する検知手段
を含むものであり,同一の容量素子の時間的な差を検出するものではなく,2つの
異なる容量素子の同一時刻における容量値の差を検出するものであるから,原告の
この点の主張は採用し得ない。
イ 構成要件 H'-2 について
(ア) 訂正後の本件特許発明1では,「前記固定要素および前記変位要素がシリ
コンにより構成されている」(構成要件 H'-2)のに対し,引用例2に記載された発明
は,このような構成を備えていないことから,両者はこの点において相違する。
(イ) 引用例8(特開昭60−207066号公報)に「本発明は,振子構造が,
例えば,シリコン或いは石英からなる結晶性ウエハを微細機械加工して形成され,
かつ平形試験体の面内の2つの可撓性平行ブレードにより懸架された前記試験体よ
り成る加速度計用センサに関する」(3頁左上欄下から1行∼右上欄4行)旨の記載
があることは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
また,証拠(乙25)によれば,引用例8には更に「第1図は本発明による振子構
造の基本的配置を示すものである。…この構造は平面状であり,結晶性シリコン或
いは石英ウエハの微細機械加工により単一片に形成され,これは更に集積電子回路
の基板として用いられる。」(4頁右上欄12行∼16行)との記載があることが認
められる。
引用例8の発行年及び上記記載によれば,センサにおいて基板にシリコンを用い
ることは,周知の技術手段であると認められる。
そうすると,引用例2に記載された発明にこのような周知の技術手段を適用し,
回路板15等の固定された部分及び可動プレート13を構成する環状のフランジ等
の変位する部分にシリコンを用い,訂正後の本件特許発明1の構成要件 H'-2 のよ
うに構成することは,当業者が容易に行うことができたことと認められる。
ウ まとめ
したがって,仮に本件訂正請求が認められたとしても,訂正後の本件特許発明1
ないし3は,当業者が引用例2及び周知の技術手段に基づいて容易に発明をするこ
とができたものであり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,
本件特許権は無効とされるべきものである。
3 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも
理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市 川 正 巳
裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
頼 晋 一
(別紙)
物件目録
一 商品名
ADXL 202
二 物件の説明
物件は,加速度検出装置である。
以 上
(別紙) 模式図

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3月11日(火) - 東京 港区

特許調査の第一歩

3月12日(水) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅰ)

3月12日(水) - 愛知 名古屋市中区

技術情報管理と秘密保持契約

3月13日(木) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

来週の知財セミナー (3月17日~3月23日)

3月18日(火) - 東京 港区

化学分野の特許調査

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イージスエイド特許事務所

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なむら特許技術士事務所

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