平成18(行ケ)10127審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年8月31日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アイエスイーイノモーティヴエムベーハー 原告X
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法令 |
商標権
商標法50条1回 商標法6条1回 商標法50条1項1回
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キーワード |
審決19回 商標権5回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,別添審決謄本写し別掲欄記載の構成からなり,指定商品を第12類
「船舶並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自
動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品」とする商
標登録第4042510号商標(平成8年1月31日商標登録出願,平成9年
8月15日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。 |
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判決文
平成18年(行ケ)第10127号 審決取消請求事件(平成18年7月6日口頭
弁論終結)
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁理士 河 野 登 夫
同 河 野 英 仁
同 岡 田 充 浩
被 告 アイエスイー イノモーティヴ
システムズ ヨーロッパ ゲー
エムベーハー
訴訟代理人弁理士 澤 野 勝 文
同 川 尻 明
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が取消2005-30423号事件について平成18年2月14日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,別添審決謄本写し別掲欄記載の構成からなり,指定商品を第12類
「船舶並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自
動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品」とする商
標登録第4042510号商標(平成8年1月31日商標登録出願,平成9年
8月15日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成17年4月14日,原告を被請求人として,本件商標の指定商
品中,「自動車並びにその部品及び附属品」について,その商標登録を取り消
すことについて審判を請求し,同年5月9日,その予告登録がされた(以下
「本件予告登録」という。)。
特許庁は,同請求を取消2005-30423号事件として審理した結果,
平成18年2月14日,「登録第4042510号商標の指定商品中,『自動
車並びにその部品及び附属品』については,その登録は取り消す。」との審決
をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。
2 審決の理由
審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,原告は,本件予告登録前3年以内
に,日本国内において,商標権者又は通常使用権者のいずれもが,請求に係る
指定商品について本件商標の使用をしたことの証明をしたものと認めることが
できず,また,本件商標を使用していないことについて正当な理由があること
を明らかにしていないので,本件商標の登録は,その指定商品中の「自動車並
びにその部品及び附属品」について,商標法50条の規定により取り消すべき
であるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
審決は,通常使用権者が本件商標を使用していた事実を誤認し(取消事由
1),また,不明な点があるにもかかわらず直ちに登録商標を取り消したのは,
審理を十分尽くしたとはいえず(取消事由2),違法として取り消されるべき
である。
1 取消事由1(使用の事実の誤認)
( 1) 審決は,使用品カタログ(甲1,審判乙1)及び商品パンフレット(甲2
の1,審判乙2の1)の証拠力を認めつつ,「これのみをもってしては,こ
れら印刷物の作成又は発行された日が,本件審判の請求の登録前であるか否
かは依然として不明であるといわざるを得ない。加えて,本件審判の請求の
登録前3年以内に日本国内において,乙第1号証(使用品カタログ),乙第
2号証の1(商品パンフレット)が頒布されたと認め得る証拠の提出もない
ものである。そして,ほかに,本件商標が,本件審判の請求の登録前3年以
内に日本国内において,使用商品について使用され,取引に資されたと認め
るに足りる具体的な証拠の提出もない。」(審決謄本6頁第4~第6段落)
として,直ちに,本件取消請求に係る指定商品について本件商標の登録を取
り消す旨の審決をしたが,誤りである
本件予告登録前3年内に日本国内において,本件商標の通常使用権者であ
る株式会社アイセによって,本件商標が付された商品が掲載されている使用
品カタログ(甲1),商品パンフレット(甲2の1)及びパンフレットに添
付された商品購入申込書(甲2の2)が頒布されていることは明らかである。
(2) 本件商標を付したミラクルコーンという名称の商品(以下「本件商品」と
いう。)は,本件取消請求に係る指定商品である商品及び役務の区分第12
類の「自動車並びにその部品及び附属品」である。
本件商品は,イオン効果を利用して自動車に滞留する静電気を除去するこ
とを本質的な機能とし(甲2の1),自動車の部品として自動車本体に装着
されている(甲4)。さらに,本件商品は,自動車に装着されて自動車の走
行性能に影響を及ぼすことを本質的な目的とするものであるから,自動車の
部品に該当する。
そして,例えば,株式会社トップフューエル営業課長A作成の陳述書(甲
14)において,「走行安定性が図れる当該商品」として本件商品の仕入れ
を検討している旨記載されているように,本件商品は,自動車取引界で自動
車の部品として認識され取引されているものである。
また,本件商品と同じくイオン効果及び静電気除去を利用する商品につい
て,「フューエルバンクは大量の金属イオンを発生させます。その作用によ
り,車の静電気を除去し帯電体に滞留する熱と電気の流れを効率化させます。
結果,通電効率の向上,熱交換率の向上により,内燃機関の燃焼効率が改善
されます。高速の巡航に最もその効果は現れ,平均で20%の燃焼消費が改
善されます。・・・19,800円(税込)」(甲25)として広告され
(以下,甲25記載の商品を「甲25商品」という。),自動車用の部品と
して取引業界で販売されている。
2 取消事由2(審理不尽)
審決は,上記1(1)のとおり,甲1(審判乙1)等の証拠力を認めつつ,不明
な点があるという理由により,直ちに,本件取消請求に係る指定商品について
本件商標の登録を取り消す旨の審決をした。しかし,職権探知主義を採用する
商標法50条1項による審判にあって(同法56条による特許法150条,1
53条の準用),提出した証拠の証拠力を認めつつも不明な点があると認定す
るのであれば,まず,不明な点について商標権者である被請求人(原告)に弁
明させ,その弁明いかんによって本件商標の使用の事実の存否を判断するのが
相当であるところ,このような措置をとることなく,直ちに使用の事実を否定
したのは,審理を十分尽くしたとはいえない審理不尽の違法がある。
第4 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(使用の事実の誤認)について
(1) 本件商品は,本件取消請求に係る指定商品である商品及び役務の区分第1
2類の「自動車並びにその部品及び附属品」ではなく,原告は,本件予告登
録前3年以内に,日本国内において,商標権者又は通常使用権者のいずれか
が,本件取消請求に係る指定商品についての本件商標の使用をしたことを証
明していない。
(2) 本件商品は,せいぜい単なる置き物か,おもちゃにすぎず,「自動車並び
にその部品及び附属品」に該当するものではない。また,本件商品は,「空
間のエネルギーアップ」とか,「イオン化した珪素を円錐状のガラスで包む
ことにより太陽エネルギーと同質のエネルギーを発生」とか,「5箇所に設
置すると,その空間は反重力となり,物が軽く感じられ,身体も軽く感じら
れる」というような科学的根拠のない超常現象的な効果効能をうたうもので
あり,商品区分を特定することもできない正体不明の商品,すなわち「得体
の知れない商品」であるから,本件取消請求に係る指定商品に該当しないこ
とは明らかである。
(3) 原告は,本件商品は,イオン効果を利用して自動車に滞留する静電気を除
去することを本質的な機能として,自動車の部品として自動車本体に取り付
けられている旨主張する。
静電気を除去することを本質的な機能とする商品は,① 円錐形のガラス
を容器とし,内容物のケイ素,ケイ砂,スラッジ,塩を静電気除去剤とする
ものならば,商品及び役務の区分第3類に属する商品(静電気除去剤)であ
り,また,② 円錐形のガラスと内容物との全体で静電気除去機能を奏する
ものならば,商品及び役務の区分第7類に属する商品(静電気除去装置,除
電器)であり,いずれにしても,自動車に滞留する静電気を除去するために
自動車本体に装着されるものであったとしても,商品及び役務の区分第12
類の「自動車並びにその部品及び附属品」ではない。
また,本件商品が,静電気を除去することを本質的な機能とするものであ
れば,その用途は自動車用のみに限定されるものではないから,自動車に滞
留する静電気を除去するために自動車本体に装着されるものであっても,商
品及び役務の区分第12類の「自動車並びにその部品及び附属品」ではない。
例えば,「自動車用のエンジン部品」,「自動車用アンテナ」,「自動車用
速度計」,「自動車用ナビゲーション装置」,「自動車用電子制御装置」,
「自動車用ヘッドライト」等は,自動車メーカーが自動車の製造工程でその
本体に取り付ける商品であるが,「エンジン部品」,「アンテナ」,「速度
計」,「ナビゲーション装置」,「電子制御装置」,「ヘッドライト」は,
その用途が自動車用のみに限定されるものではないから,商品及び役務の区
分第12類の「自動車並びにその部品及び附属品」に該当しない。
なお,原告は,甲4をもって,本件商品が,自動車の部品として自動車本
体に装着されている旨主張するが,甲4は,包装箱入りの本件商品と,本件
商品が原告の手によって自動車本体の複数箇所に取り付けられた状態を示す
にすぎず,本件商品が「自動車並びにその部品及び附属品」であることを証
するようなものではない。
(4) 原告は,本件商品が自動車取引界で自動車の部品として認識され取引され
ている旨主張する。
しかし,一個人が「走行安定性が図れる商品」として仕入れを検討してい
るという理由により,その商品が「自動車取引界で自動車の部品として認識
され取引されている」と認め得るものではないし,取引界において自動車の
部品と認識されれば,商品及び役務の区分第12類の自動車の部品に該当す
るものでもない。自動車に使用される「軸,軸受,軸継ぎ手,ベアリング,
動力伝導装置,緩衝器,ばね,制動装置」は,仮に,取引界で自動車の部品
として認識されていたとしても,商標法上は,商品及び役務の区分第12類
の自動車の部品ではなく,同類の「陸上の乗物用の機械要素」である。
(5) 原告は,本件商品は,自動車に装着されて自動車の走行性能に影響を及ぼ
すことを本質的な目的とするから,自動車の部品に該当する旨主張する。
しかし,本件商品の利用例として,「自動車の走行性の向上」,「船舶の
航行安定性の向上」,「ヘリコプターの燃費改善と飛行性能向上」,「航空
機の離陸・着陸距離の改善」,「快適な空間が簡単に作れます。」等が掲げ
られ,本件商品は,その用途が,「自動車」に限らず,「船舶」,「航空
機」等にも及び,その機能も,「走行性の向上」に限らず,「航行安定性の
向上」,「燃費改善」,「飛行性能向上」,「離陸・着陸距離の改善」等々
と多種多様であるから,商品及び役務の区分第12類の自動車の部品に該当
するものでないことは明白である。
しかも,本件商品の利用例においては,「自動車への応用」及び「生活空
間への応用」という見出しが付されており,この見出しによれば,本件商品
は,本来は,自動車用の商品ではなく,自動車に使用することもできるとい
うものにすぎず,「自動車の走行性能に影響を及ぼすことを本質的な目的と
する」商品ではないし,商品及び役務の区分第12類の自動車の部品でない
ことは明白である。
2 取消事由2(審理不尽)について
本件商品は,全く得体の知れない商品であり,商品及び役務の区分第12類
の「自動車並びにその部品及び附属品」に該当するものではないことは明らか
であるから,原告が審判で提出した証拠は,本件商標が本件取消請求に係る指
定商品について使用された事実を証明する証拠とはなり得ない。
したがって,それらの証拠の発行日や頒布日等について,原告に弁明の機会
を与えることなく,審決をしたとしても,それをもって審理不尽の違法がある
とはいえない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(使用の事実の誤認)について
(1) 本件商品について
ア 甲1は,株式会社アイセの使用品カタログであり,甲2の1は,同社の
商品パンフレットである。
これらのカタログ等によれば,本件商品は,ミラクルコーンという名称
であり,「イオン化したケイ素を円錐形のガラスで包んだ物」とされ,直
径10mm,高さ(長さ)10mm,13mm,15mm又は18mmの
円錐形をして閉じられたガラス容器の中に,黒っぽい色や白っぽい色等の
砂状の固形物が入っているものである(使用品カタログに掲載された写真
では,円錐形のガラス容器が円形の台座状のものの上に載せられてい
る。)。
使用品カタログ(甲1)には,ミラクルコーンの説明として,「■自動
車走行安定性の向上 ミラクルコーンを車内の四角と中央部に装着するこ
とにより反重力空間が生まれ,ワンランクアップの乗りごこちが体感でき,
燃費の削減にも有効です。」,「ミラクルコーンを5箇所に設置すると,
その空間は反重力となり,物が軽く感じられ,身体も軽く感じられる為,
仕事の能率が向上します。」 と記載されている。また,「イオン化した
珪素をガラスで包む事により太陽エネルギーと同質のエネルギーを発生し
ます。」として,「イオン棒」と「ミラクルコーン」が掲げられ,「自動
車の走行安定性向上」用として,直径10mm,高さ10mm,13mm,
15mm又は18mmの円錐のミラクルコーンがあること,「反重力空間
用」として直径10mm,高さ10mmの円錐のミラクルコーンがあるこ
とが記載されている。
また,商品パンフレット(甲2の1)には,ミラクルコーンの説明とし
て,「イオン化したケイ素を円錐形のガラスで包んだ物で,部屋の四隅と
その中央に置くことにより快適な居住空間を実現したものです。オフィス
ビル・マンションのようなイオン棒を埋設不能場所のために開発されたも
のであり,部屋用(10mm,30cm),車用(10mm)などがあり
ます。」と説明され,「自動車への応用」として「車の走行安定と快適空
間!! ①抜群の走行安定性 イ)コーナリング時,車の傾き及びタイヤ
の泣きの軽減。ロ)直線走行時の車のブレが少なくなる。ハ)高速走行安
定性が良くなり,緊張感や恐怖感が減る。②車内空間の快適性 イ)静電
気除去により,眠気及び感電の防止。ロ)車内臭の軽減。ハ)肩こり,イ
ライラの減少。」の効果があるとされ,その使用例として,500ccま
での乗用車にはその四隅と中央部に各1個の計5個設置すること,501
cc以上の乗用車にはその四隅に各1個と中央部に2個の計6個設置する
ことなどが記載されている。また,「生活空間への応用」として,「ミラ
クルコーンを四隅と中央に置いた空間の中では,物をいつもより楽に持ち
上げることが出来ます。」としている。
イ 証拠(甲1,2の1,2,甲7~20,26,27)によれば,本件商
標の通常使用権者である株式会社アイセが,本件予告登録前3年以内に,
使用品カタログ(甲1),商品パンフレット(甲2の1)及びパンフレッ
トに添付された商品購入申込書(甲2の2)を頒布していたこと,使用品
カタログ及び商品パンフレットの裏表紙に,本件商標の構成(甲26,2
7)と対比して,「I・S・E」の文字部分の配置及び文字の大きさ,小
さな欧文字による最下端の「International Silicon Enterprise」の付加など若
干構成を異にしているが,色彩等を含め,全体の外観において本件商標と
同一視し得る標章が付されていることが認められる。
(2) 原告は,本件商品が,本件取消請求に係る指定商品である商品及び役務の
区分第12類の「自動車並びにその部品及び附属品」に該当し,本件予告登
録前3年以内に,通常使用権者である株式会社アイセが本件商標を使用して
いた旨主張し,これに対して,被告は,本件商品は,「自動車並びにその部
品及び附属品」ではないから,上記指定商品について本件商標を使用してい
たとはいえない旨主張する。
ア 商標法6条は,「商標登録出願は,商標の使用をする一又は二以上の商
品又は役務を指定して,商標ごとにしなければならない。」(1項),
「前項の指定は,政令で定める商品及び役務の区分に従ってしなければな
らない。」(2項)と規定し,上記規定にいう政令である商標法施行令1
条は,「商標法第6条第2項の政令で定める商品及び役務の区分は,別表
のとおりとし,各区分に属する商品又は役務は,・・・経済産業省令で定
める。」と規定し,別表において,第12類に属するものとして,「乗物
その他移動用の装置」を掲げている。そして,商標法施行規則6条は,
「商標法施行令(昭和35年政令第19号)第1条の規定による商品及び
役務の区分(以下「商品及び役務の区分」という。)に属する商品又は役
務は,別表のとおりとする。」と規定し,同別表においては,第12類に
属する商品を「一 船舶並びにその部品及び附属品」,「二 航空機並び
にその部品及び附属品」,「三 鉄道車両並びにその部品及び附属品」,
「四 自動車並びにその部品及び附属品」,「五 二輪自動車並びにその
部品及び附属品」,「六 自転車並びにその部品及び附属品」,「七 乳
母車 車いす 人力車 そり 手押し車 荷車 馬車 リヤカー」,「八
荷役用索道」,「九 カーダンパー カープッシャー カープラー 牽
引車」,「十 陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。)」,「十一
陸上の乗物用の機械要素」等に区分し,「四 自動車並びにその部品及
び附属品」を,さらに,「(一)自動車」と「(二)自動車の部品及び附
属品」に区分し,「(二)自動車の部品及び附属品」に属する商品として,
「エアバッグ 風よけひさし 空気ポンプ クラッチ 警音器 座席 座
席カバー シャシー 車体 車体カバー 車輪 スポーク タイヤ チュ
ーブ とって 扉 泥よけ 荷物台 バックミラー ハンドル ハンドル
カバー バンパー 風防ガラス 方向指示器 ほろ ボンネット 窓カー
テン 予備車輪支持具 リム ルーフラック ワイパー」を列挙している。
一方,「自動車」に関連する商品であっても,例えば,「ガソリン機
関」は,第12類の「十 陸上の乗物用の動力機械(その部品を除
く。)」の「(一)内燃機関」に,「ばね油圧緩衝器」は,同類の「十一
陸上の乗物用の機械要素」の「(三)緩衝器」に,「円板ブレーキ」は,
同類の「十一 陸上の乗物用の機械要素」の「(五)制動装置」に,「自
動車用つや出し剤」は,第3類の「七 つや出し剤」に,「乗物用ナビゲ
ーション装置」は,第9類の「十三 電気通信機械器具」の「(六)無線
応用機械器具」に,「自動車用シガーライター」は,第9類の「二十七
磁心 自動車用シガーライター 抵抗線 電極 溶接マスク」に,「自動
車用時計」は,第14類の「九 時計」の「(一)時計」に,それぞれ区
分されている。
イ 上記区分の仕方によれば,商品及び役務の区分第12類の「自動車の部
品及び附属品」とは,自動車そのものを構成する部品,あるいは,自動車
に固着され,直接又は間接に移動用の装置の一つである自動車の走行に関
連した用途に供される商品であるが,自動車用のエンジン,緩衝器,制御
装置等の特定のものを除外し,また,自動車の走行とは無関係の「自動車
用つや出し剤」,「自動車用シガーライター」,「自動車用時計」等の商
品も除かれると解される。
ウ 本件商品は,上記(1)アのとおり,「イオン化したケイ素を円錐形のガ
ラスで包んだ物」とされ,直径10mm,高さ10mmないし18mmの
円錐形をして閉じられたガラス容器の中に,黒っぽい色や白っぽい色等の
砂状の固形物が入っているものであり,自動車内の四隅と中央部に装着す
ることにより反重力空間が生まれるというのであるから,その効果の真偽
はともかく,自動車そのものを構成する部品ではないし,また,自動車に
固着されて,直接又は間接に自動車の走行に関連した用途に供される商品
であるともいえないから,本件商品は,商品及び役務の区分第12類の
「自動車並びにその部品及び附属品」に該当する商品とはいえない。
(3) 原告は,本件商品は,イオン効果を利用して自動車に滞留する静電気を除
去することを本質的な機能とし,自動車の部品として自動車本体に装着され
ていて,自動車の部品に該当する旨主張する。
しかし,本件商品が,自動車に滞留する静電気を除去することを本質的な
機能とするとしても,上記のような本件商品の形態や装着方法,部屋用とし
て同種の製品があることに照らせば,本件商品は,自動車そのものを構成す
る部品ではないことはもとより,自動車に固着されて,直接又は間接に自動
車の走行に関連した用途に供される商品であるともいえない。
原告は,また,本件商品は,自動車に取り付けられて自動車の走行性能に
影響を及ぼすことを本質的な目的とするもので,自動車の部品に該当する旨
主張するが,その影響が静電気除去の効果であるとするならば,上記のとお
り,本件商品は,商品及び役務の区分第12類の「自動車並びにその部品及
び附属品」に該当する商品とはいえず,また,商品カタログ等にあるように,
反重力空間が発生することにより走行性能に影響を及ぼすことをいうものと
すれば,このような影響は,社会常識によれば自然法則に反することは明ら
かであり,同影響を前提とする主張は採用できない。
(4) 原告は,本件商品が,自動車取引界で自動車の部品として認識され取引さ
れている旨主張する。
しかし,原告が,本件商品が,自動車取引界で自動車の部品として認識さ
れ取引されていることの証拠とする陳述書(甲14)の記載をみても,本件
商品の性質,機能等は,上記認定したところと変わるところはなく,そのよ
うな本件商品の性質,機能等に照らせば,上記の記載をもって,本件商品は,
「自動車並びにその部品及び附属品」として取引されているということはで
きない。
また,原告は,本件商品と同じくイオン効果及び静電気除去を利用する商
品について,自動車用の部品として取引業界で販売されている旨主張するが,
そもそも原告が例に挙げる甲25商品は,本件商品ではなく,本件商品とは
性質,機能等を異にするものであり,甲25商品が自動車用の部品といえる
か否かは,本件商品が自動車の部品であるかの判断に影響するものではない。
(5) 以上によれば,本件商品は,商品及び役務の区分第12類の「自動車並び
にその部品及び附属品」に該当するということはできないから,本件商品が,
本件取消請求に係る指定商品である「自動車並びにその部品及び附属品」で
あることを前提として,本件商標が本件予告登録前3年以内に通常使用権者
により使用していたことをいう原告の主張は,その前提を欠くものである。
したがって,原告主張の取消事由1は採用の限りではない。
2 取消事由2(審理不尽)について
原告は,審決が,提出した証拠の証拠力を認めつつも不明な点があると認定
するのであれば,まず,不明な点について商標権者である被請求人(原告)に
弁明させ,その弁明いかんによって本件商標の使用の事実の存否を判断するの
が相当であるところ,このような措置をとることなく,直ちに使用の事実を否
定したのは,審理を十分尽くしたとはいえない審理不尽の違法がある旨主張す
る。
しかし,本件の審判手続において,原告には,本件商標の使用の事実を主張,
立証する機会があったと認められ,その審理に当たる審判体に原告主張のよう
な審理上の義務があったということはできないばかりでなく,商標登録の不使
用取消審決の取消訴訟における当該商標の使用の事実の主張,立証が事実審の
口頭弁論終結時に至るまで許されることにかんがみると,原告主張の取消事由
2は失当というほかない。
3 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 宍 戸 充
裁判官 柴 田 義 明
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