平成17(ワ)10821特許権侵害差止請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成18年7月20日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告日本コンベヤ株式会社
三電ビテノース式社
マリン興産株式会社 原告エム・ピー・イー株式会社
|
法令 |
特許権
特許法2条3項1号1回
|
キーワード |
特許権33回 実施13回 侵害6回 許諾4回 差止3回
|
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,被告らが保守管理している立体駐車場装置について,原告が特許権者
である本件特許発明を使用した本件台車固定装置が設置されており,その保守管
理をする行為は原告の特許権を侵害するとして,原告が,被告日本コンベヤに対
し,本件特許権の設定の登録がされた日からの実施料相当額の不当利得の返還を,
その余の被告らに対し,本件台車固定装置の点検,修理及び部品の交換の差止め
を求めた事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成18年7月20日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成17年(ワ)第10821号 特許権侵害差止請求事件
(口頭弁論終結の日:平成18年4月18日)
判 決
原 告 エム・ピー・イー株式会社
訴訟代理人弁護士 藤 巻 次 雄
被 告 日本コンベヤ株式会社
訴訟代理人弁護士 松 本 俊 正
被 告 三 電 ビ テ ノ ー ス 式 社
菱 機 ル ク サ ビ 株 会
訴訟代理人弁護士 千 代 田 博 明
同 中 島 龍 生
被 告 マ リ ン 興 産 株 式 会 社
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告日本コンベヤ株式会社(以下「被告日本コンベヤ」という。)は,原告に
対し,平成15年2月14日から毎月50万2500円の割合による金員を支払
え。
2 被告三菱電機ビルテクノサービス株式会社(以下「被告三菱電機ビルテクノサ
ービス」という。)は,福岡市<以下略>所在福岡パーキング(以下「福岡パー
キング」という。)の駐車場装置について,被告マリン興産株式会社(以下「被
告マリン興産」という。)は,東京都<以下略>所在YS健康センタービル地下
駐車場(以下「YS健康センタービル地下駐車場」という。)の駐車場装置につ
いて,それぞれ自ら又は第三者(被告日本コンベヤを含む。)をして特許第33
98222号(発明の名称:台車固定装置,設定の登録:平成15年2月14
日)の特許(以下「本件特許権」といい,その特許発明を「本件特許発明」とい
う。)に係る発明を使用した台車固定装置(以下「本件台車固定装置」とい
う。)の点検,修理及び部品の交換を行ってはならない。
第2 事案の概要
1 本件は,被告らが保守管理している立体駐車場装置について,原告が特許権者
である本件特許発明を使用した本件台車固定装置が設置されており,その保守管
理をする行為は原告の特許権を侵害するとして,原告が,被告日本コンベヤに対
し,本件特許権の設定の登録がされた日からの実施料相当額の不当利得の返還を,
その余の被告らに対し,本件台車固定装置の点検,修理及び部品の交換の差止め
を求めた事案である。
2 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争
いのない事実である。)
(1) 原告は,平成6年7月28日,台車固定装置に関する発明について特許出
願をし(出願番号:特願平6-176282号),同特許出願は,平成15年
2月14日,特許権の設定の登録がされた(本件特許権)。
(2) 原告は,平成7年6月16日,被告日本コンベヤとの間で,原告が有する
立体駐車装置に関する複数の特許権(ただし,本件特許権は含まない。)につ
いて,被告日本コンベヤに通常実施権を設定すること等を内容とする技術情報
基本契約を締結した(原告と被告三菱電機ビルテクノサービスとの間では甲1。
以下「本件技術情報基本契約」という。)。
(3) 多田林産株式会社は,被告三菱電機ビルテクノサービスに対し,福岡パー
キングの駐車場設置工事を発注し,被告三菱電機ビルテクノサービスは,被告
日本コンベヤに対し,上記の駐車場設置工事を発注した。被告日本コンベヤは,
平成10年3月31日,上記の駐車場設置工事を完成させた(工事完成日につ
いては乙1。)。
(4) プラネット株式会社は,被告マリン興産に対し,YS健康センタービル地
下駐車場の駐車場設置工事を発注し,被告マリン興産は,被告日本コンベヤに
対し,上記の駐車場設置工事を発注した。被告日本コンベヤは,平成9年10
月31日,上記の駐車場設置工事を完成させた(工事完成日については乙
2。)。
(5) 福岡パーキング,YS健康センタービル地下駐車場,横浜市<以下略>所
在横浜金港マンション駐車場,千葉県八千代市所在八千代緑ヶ丘シティー駐車
場(以下,これらの駐車場を併せて「本件各駐車場」という。)の立体駐車場
装置には,本件台車固定装置が設置されている(原告と被告日本コンベヤ及び
被告マリン興産との間においては,福岡パーキング,YS健康センタービル地
下駐車場以外の駐車場について,原告と被告三菱電機ビルテクノサービスとの
間では本件各駐車場全部についていずれも弁論の全趣旨。)。
(6) 原告と被告日本コンベヤは,平成14年7月23日,本件技術情報基本契
約の終了の確認及び原告が有する立体駐車装置に関する特許権に関し,被告日
本コンベヤは原告に対し,本件各駐車場の有償メンテナンスについて一定の実
施料を支払うこと等を内容とする裁判上の和解をした(原告と被告三菱電機ビ
ルテクノサービスとの間では甲2。以下「別件和解」という。本件特許権は別
件和解の和解調書に記載がない。)。
(7) 被告日本コンベヤは,被告三菱電機ビルテクノサービスから福岡パーキン
グの,被告マリン興産からYS健康センタービル地下駐車場の,各保守点検業
務を委託されている。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張
1 争点
本件各駐車場の本件台車固定装置について,被告らが点検,修理及び部品の交
換を行うことが,原告の本件特許権を侵害するか。また,その実施料相当額はい
くらか。
2 原告の主張
(1) 被告らは,本件特許権については何らの権利も有していないので,本件台
車固定装置の点検,修理及び部品の交換を行うことは,本件台車固定装置を
「使用」する行為に該当し,本件特許権を侵害する。すなわち被告日本コンベ
ヤは,本件特許権が成立したにもかかわらず,これに対する保守管理の実施権
を設定せず,対価を支払うことなく違法に保守管理を行っている。被告三菱電
機ビルテクノサービス及び被告マリン興産は,このような事情を知りながら被
告日本コンベヤに保守管理を委託して被告日本コンベヤの違法な行為を幇助し
ている。なお,別件和解が成立した当時,本件特許権は設定の登録前であるか
ら,別件和解における実施許諾及び許諾料の対象の中に本件特許権は含まれて
いない。
(2) 保守管理の場合の特許権実施料は,1パレットあたり月1500円が通常
である。被告日本コンベヤが保守管理をしている駐車場のうち,本件台車固定
装置の設置された駐車場は,被告三菱電機ビルテクノサービスから委託を受け
ている駐車場,被告マリン興産から委託を受けている駐車場,横浜金港マンシ
ョン駐車場,八千代緑ヶ丘シティー駐車場であり,その合計パレット数は33
5である。
(3) よって,原告は,被告日本コンベヤに対し,同被告が本件台車固定装置に
ついて保守管理を行うことにより不当に利得している本件特許権の実施料相当
額(本件特許権の設定の登録の日である平成15年2月14日から毎月50万
2500円)の支払を求める。また,原告は,被告三菱電機ビルテクノサービ
ス及び被告マリン興産に対し,本件特許権の侵害行為である本件台車固定装置
の点検,修理及び部品の交換の差止めを求める。
3 被告らの主張
被告日本コンベヤは,立体駐車装置に関する原告の特許について,本件技術情
報基本契約により実施許諾を得て,本件台車固定装置については,原告の承諾を
得た上で立体駐車場を設置していた。具体的にいえば,被告日本コンベヤは,本
件技術情報基本契約に基づき原告の設計図書等を買い取り,原告が当時製作して
いた本件台車固定装置等を購入し,これを立体駐車場の装置に設置して納品した。
別件和解成立後は,被告日本コンベヤは,原告に対し,同和解に基づいて実施許
諾料を支払ったうえで,本件各駐車場の保守点検を行っている。その後,本件特
許権の設定の登録がされたからといって,既に購入したものについて,被告らの
保守管理業務が突然,不法行為あるいは不当利得になる理由はない。なお,被告
日本コンベヤは,本件台車固定装置を交換したことはないし,新規の駐車場を建
設する際に,本件台車固定装置を用いるつもりもない。
第4 当裁判所の判断
1 本件特許発明は台車固定装置の発明であり(甲3),物の発明である。物の発
明における「実施」とは,「その物の生産,使用,譲渡等…若しくは輸入又は譲
渡等の申出…をする行為」をいう(特許法2条3項1号)。したがって,被告ら
が本件特許発明を実施しているといえるのは,被告らの行為が,「生産」,「使
用」,「譲渡等」,「輸入又は譲渡等の申出」のいずれかに該当する場合である。
2 この点,原告は,本件台車固定装置の点検,修理及び部品の交換は本件台車固
定装置の「使用」に該当すると主張する。
「使用」とは,発明の目的を達するような方法で当該発明に係る物を用いるこ
とをいうものと解するべきである。証拠(甲3【0001】,【0008】)に
よれば,本件特許発明の目的は,「例えば立体駐車装置において自動車を戴置さ
せる台車をリフター中央および定位置で固定する台車固定装置に関するもの」で
あって,「台車を正確,かつ,確実に停止固定して台車の停止精度を向上するこ
とを目的とする」ものであることが認められる。この目的は,自動車等を戴置し
た台車をリフター中央及び定位置に移動させて,台車固定装置を作動させて固定
するという方法で達することができるものであって,単に,台車固定装置の点検,
修理及び部品の交換をしただけでは,この目的を達することはできない。したが
って,単に台車固定装置の点検,修理及び部品の交換をするだけの行為は,発明
の目的を達するような方法で物を用いることには当たらないので,本件台車固定
装置の「使用」に該当しない。
3 しかも,別件和解成立以前に設置された本件各駐車場については,被告日本コ
ンベヤは,本件技術情報基本契約に基づき,原告の承諾を得て本件台車固定装置
を用いた駐車場設備の設置工事をし,具体的には,被告日本コンベヤは,本件技
術情報基本契約に基づき原告の設計図等の提供を受け,原告が当時製作していた
本件台車固定装置等を購入し,これを立体駐車場の装置に設置して納品していた
ことは,原告と被告日本コンベヤ及び被告マリン興産との間では争いがなく,原
告と被告三菱電機ビルテクノサービスについても証拠(甲1,2,乙3)により
認められる。
特許権者又は実施権者が特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品について
は特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該
特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきであ
るところ(最高裁判所平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号229
9頁),上記のとおり,被告日本コンベヤは,本件台車固定装置について後に特
許権者となる原告から適法に譲渡を受けたのであるから,当該本件台車固定装置
については,後に設定登録がされる本件特許権はその目的を達成したものとして
消尽しているものと解すべきであり,その後,被告らがこれを「使用」したとし
ても本件特許権の侵害とはならない。原告の主張は,この点でも失当である。
4 もっとも,当該特許製品が製品として本来の耐用期間を経過してその効用を終
えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),当該特許製品につき第
三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部に
つき加工又は交換がされた場合(第2類型)には,特許権は消尽せず,特許権者
は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと
解する余地もあるが,そのように解するとしても,原告の主張する「点検,修理
及び部品の交換」が上記のいずれかの類型に該当することの主張立証はない。
原告は,部品の取り替えはすでに何度か行われている,部品には当然耐用年数
があり,駐車場では安全性や故障がないことが要求されるので,部品の取り替え
が必要なのは当然のことと考えられる,ソノレイド(円筒コイル)は消耗品で取
り替えの必要があり,台車に使用しているゴムは経年変化による劣化が考えられ
定期的に取り替える必要がある,更に台車衝突時の衝撃と慣性を受け止めるので,
芯がずれると破損や変形のおそれがあり,常に綿密な保守,点検を必要とする,
本件各駐車場以外の原告が保守管理している駐車場の本件台車固定装置について
は故障が生じているのであり(甲6の1ないし11),本件台車固定装置には消
耗品が使われているから,部品の取り替えが必要であることはいうまでもないと
主張する。しかしながら,上記のいずれかの取り替えが前述の特許権に基づく権
利行使が許される余地のあるいずれかの類型にどういう理由で該当するのかとい
う点についても,そのような取り替えを被告らが実際に本件各駐車場で行ったと
いう点についても,具体的な主張立証はない。しかも,被告三菱ビルテクノサー
ビスは,保守点検の内容には消耗部品の交換が含まれ,消耗部品はヒューズ,各
表示灯用電球,油脂類の補給である,消耗部品以外の部品の交換の必要が生じた
場合は,別途の契約を締結することになっている,現在まで本件台車固定装置に
ついてはトラブルがなく部品の交換作業は行われていないと主張し,被告日本コ
ンベヤも,本件各駐車場について現在まで本件台車固定装置を交換したことはな
いとして,部品の交換を否認しているのに対し,原告は何ら反論も立証もしてい
ない。
したがって,原告の主張する「点検,修理及び部品の交換」について,本件特
許権は消尽せずこれに基づく権利行使をすることが許される場合に該当するとは
認められない。
5 結論
よって,原告の本件各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文
のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山 田 知 司
裁判官 西 理 香
裁判官 村 上 誠 子
最新の判決一覧に戻る