平成17(ワ)14066特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成18年4月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告共立工業株式会社 原告A
株式会社オカドラ
ら訴訟代理人弁護士木下洋平
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法令 |
特許権
特許法70条1項2回 特許法36条5項2号1回 特許法100条1項1回 特許法102条1項1回 特許法70条2項1回 特許法29条2項1回 特許法101条3号1回
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キーワード |
特許権47回 実施30回 侵害9回 損害賠償4回 差止2回 実用新案権1回 進歩性1回 抵触1回 分割1回 許諾1回 新規性1回
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主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
本件は 乾燥装置に関する特許権 後記1(1)ア 以下 本件特許権1 とい, ( , 「 」
う 回転巻上羽根を有する乾燥装置に関する特許権 後記1(1)イ 以下 本。), ( , 「
」 。) ( ,件特許権2 という 及び被乾燥物の乾燥方法に関する特許権 後記1(1)ウ
以下「本件特許権3」といい,これらの特許権を併せて「本件各特許権」とい
う )を有する原告A(以下「原告A」という )及び同人から本件各特許権に。 。
ついて独占的通常実施権の許諾を受けている原告株式会社オカドラ(以下「原
告オカドラ という が 被告に対し 被告が製造・販売している別紙物件目」 。) , ,
録記載2ないし5の乾燥装置(以下,同目録記載の各乾燥装置について,同目
録の記載に従い イ号物件 ロ号物件 ハ号物件 及び ニ号物件 とい,「 」,「 」,「 」 「 」
い これらを併せて 被告各物件 という が 本件特許権1及び2の特許請, 「 」 。) ,
求の範囲第1項の発明の技術的範囲に属し,また,被告各物件が,本件特許権
3の特許請求の範囲第1項の発明の使用にのみ用いるものであるとして,以下
の請求をしている事案である。 |
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判決文
平成17年(ワ)第14066号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成18年1月30日
判 決
原 告 A
原 告 株 式 会 社 オ カ ド ラ
原告ら訴訟代理人弁護士 木 下 洋 平
同 補 佐 人 弁 理 士 池 田 宏
被 告 共 立 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 山 崎 司 平
同 柴 田 未 来
同 柳 楽 久 司
同訴訟代理人弁理士 加 藤 雄 二
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載2ないし5の乾燥装置を製造し,販売し,又は譲
渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
2 被告は,別紙物件目録記載2ないし5の乾燥装置を廃棄せよ。
3 被告は,原告Aに対し,金1000万円及びこれに対する平成16年3月2
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告株式会社オカドラに対し,金6000万円及びこれに対する平
成16年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は ,乾燥装置に関する特許権( 後記1(1)ア ,以下「 本件特許権1 」とい
う 。 ,回転巻上羽根を有する乾燥装置に関する特許権( 後記1(1)イ ,以下「 本
)
件特許権2 」という 。 及び被乾燥物の乾燥方法に関する特許権 後記1(1)ウ ,
) (
以下「本件特許権3」といい,これらの特許権を併せて「本件各特許権」とい
う。)を有する原告A(以下「原告A」という 。)及び同人から本件各特許権に
ついて独占的通常実施権の許諾を受けている原告株式会社オカドラ(以下「原
告オカドラ 」という 。 が ,被告に対し ,被告が製造・販売している別紙物件目
)
録記載2ないし5の乾燥装置(以下,同目録記載の各乾燥装置について,同目
録の記載に従い , イ号物件 」「 ロ号物件 」「 ハ号物件 」及び「 ニ号物件 」とい
「 , ,
い ,これらを併せて「 被告各物件 」という 。 が ,本件特許権1及び2の特許請
)
求の範囲第1項の発明の技術的範囲に属し,また,被告各物件が,本件特許権
3の特許請求の範囲第1項の発明の使用にのみ用いるものであるとして,以下
の請求をしている事案である。
① 本件特許権1及び2の侵害として,特許法100条1項に基づき(原告オ
カドラについては ,同項の類推適用により ) 被告各物件の製造 ,販売又は譲渡
,
若しくは貸渡しのための展示の差止め(請求1)
② 同様に,特許法100条2項に基づき(原告オカドラについては,同項の
類推適用により ),被告各物件の廃棄(請求2)
③ 本件各特許権の侵害として,民法709条に基づき,原告Aは,損害賠償
金1000万円及びこれに対する遅延損害金(本訴状送達の日の翌日である
平成16年3月27日から支払済みに至るまで年5分の割合による 。 の支払
)
( 請求3 ) 原告オカドラは ,損害賠償金6000万円及びこれに対する遅延
,
損害金(前同)の支払(請求4)
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する 。)
(1) 原告Aの本件各特許権
原告Aは,以下の本件各特許権を有している(甲1ないし6 )。
ア 本件特許権1
特 許 番 号 第2840639号
発 明 の 名 称 乾燥装置
出 願 年 月 日 平成6年9月1日
登 録 年 月 日 平成10年10月23日
特許請求の範囲
請求項1「被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱
手段からの熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱
面2と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2に熱を伝える伝熱
手段と,上記乾燥槽4内に重力方向に沿って配設された回転軸に連結さ
れていることにより回転可能に配設されていて,それぞれが平面から見
て360度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aから成
る乾燥装置に於て,
上記各基羽根5aは上記伝熱面2に沿って細長形状に形成された平坦面
8を有し,この伝熱面2に沿って細長形状の平坦面8の外周端10aと
上記伝熱面2との間に,各基羽根5aの回転を許容する為のクリアラン
スUが形成されるように,上記伝熱面2に沿って細長形状の平坦面8の
外周端10aは上記伝熱面2の円筒形状に沿った弧状に形成されている
と共に,上記平坦面8は,その回転方向Rと逆方向に向ってその一端部
18から他端部19に向って斜め上方に伸びるように形成されて成り,
各基羽根5aの回転中,被乾燥物は,各基羽根5aの上記平坦面8によ
る一端部18側から他端部19側へ被乾燥物を移動せしめる作用と遠心
力による伝熱面2側への押し付け作用により各基羽根5aごとに上方へ
巻き上げられつつ伝熱面2へ押しつけられて乾燥せしめられることを特
徴とする乾燥装置 。」
( 以下 ,本件特許権1の請求項1に係る発明を「 本件発明A 」という 。)
イ 本件特許権2
特 許 番 号 第2958869号
発 明 の 名 称 回転巻上羽根を有する乾燥装置
出 願 年 月 日 平成6年9月1日
(本件特許権1に係る出願からの分割出願)
登 録 年 月 日 平成11年7月30日
特許請求の範囲
請求項1「被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱
手段からの熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱
面2と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2に熱を伝える伝熱
手段と,上記乾燥槽4内に於て重力方向に沿って配設された回転軸に取
付けられ回転可能に配設されていて,それぞれが平面から見て360度
の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aから成る回転巻上
羽根5とから成る乾燥装置に於て,上記回転巻上羽根5の各基羽根5a
は,上記被乾燥物3を上記各基羽根5aの一端部18から載せて他端部
19に移動させ,この他端部19から巻き上げることができるような長
さを有する平坦面8を有し,この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面
2との間に,各基羽根5aの回転を許容する為のクリアランスUが形成
されるように,上記外周端10aは上記伝熱面2に沿って形成されてい
ると共に,上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面8は,その回転
方向Rと逆方向に向って一端部18から他端部19に向って斜め上方に
伸びるように形成され,而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根
5aの他端部19の高さ位置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に
位置する他の基羽根5aの一端部18の高さ位置より高い位置に位置
し,上記被乾燥物3を複数枚の各基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,
遠心力Pによって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構成
されていることを特徴とする回転巻上羽根を有する乾燥装置 。」
( 以下 ,本件特許権2の請求項1に係る発明を「 本件発明B 」という 。)
ウ 本件特許権3
特 許 番 号 第3057544号
発 明 の 名 称 被乾燥物の乾燥方法
出 願 年 月 日 平成6年8月10日
登 録 年 月 日 平成12年4月21日
特許請求の範囲
請求項1「乾燥槽4の内部に被乾燥物3を投入し,上記乾燥槽4内に
配設された回転軸13によって回転せしめられる基羽根5aを回転させ
ることにより,上記被乾燥物3を乾燥槽4の内周の伝熱面2に接触させ
て乾燥させる被乾燥物の乾燥方法に於いて,
上記被乾燥物3は,平面から見て360度の円周範囲の中で複数枚配設
されている基羽根5aのそれぞれにより上方に巻き上げられると共に,
上記基羽根5aの回転に伴う遠心力Pにより上記伝熱面2に押し付けら
れることにより,上記被乾燥物3は薄膜状に上記伝熱面2に拡げられて
乾燥せしめられ,而も上記それぞれの基羽根5aによる上記被乾燥物3
の上方への巻き上げと,上記遠心力Pによる伝熱面2への押し付けによ
って上記被乾燥物3が薄膜状に拡げられる動作は,回転方向Rと逆方向
に向かって一端部10から他端部11に向かって斜め上方に伸びるよう
に形成されている基羽根5aの回転により,上記被乾燥物3が,上記基
羽根5aの一端部10から上端面12にのり,上記上端面12に沿って
他端部11へ移動し,上方へ向かわせしめられて巻き上げられつつ,上
記遠心力Pによって上記伝熱面2に押し付けられて薄膜状に拡げられる
動作であることを特徴とする被乾燥物の乾燥方法 。」
(以下,本件特許権3の請求項1に係る発明を「本件発明C」という。
また,本件発明AないしCを併せて「本件各発明」という 。)
(2) 原告オカドラの独占的通常実施権
原告オカドラは,原告Aとの間で,平成11年6月15日,原告Aが現に
所有し,又は将来所有するすべての日本国特許権及び実用新案権について,
独占的実施契約を締結した(甲7 )。
(3) 本件各発明の構成要件
ア 本件発明Aを構成要件に分説すると,次のとおりである。
A1 被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱手段から
の熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱面2
と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2に熱を伝える伝熱手
段と,上記乾燥槽4内に重力方向に沿って配設された回転軸に連結さ
れていることにより回転可能に配設されていて,それぞれが平面から
見て360度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aか
ら成る乾燥装置に於て,
A2 上記各基羽根5aは上記伝熱面2に沿って細長形状に形成された平
坦面8を有し,
A3 この伝熱面2に沿って細長形状の平坦面8の外周端10aと上記伝
熱面2との間に,各基羽根5aの回転を許容する為のクリアランスU
が形成されるように,上記伝熱面2に沿って細長形状の平坦面8の外
周端10aは上記伝熱面2の円筒形状に沿った弧状に形成されている
と共に,
A4 上記平坦面8は,その回転方向Rと逆方向に向ってその一端部18
から他端部19に向って斜め上方に伸びるように形成されて成り,
A5 各基羽根5aの回転中,被乾燥物は,各基羽根5aの上記平坦面8
による一端部18側から他端部19側へ被乾燥物を移動せしめる作用
と遠心力による伝熱面2側への押し付け作用により各基羽根5aごと
に上方へ巻き上げられつつ伝熱面2へ押しつけられて乾燥せしめられ
ることを特徴とする
A6 乾燥装置
イ 本件発明Bを構成要件に分説すると,次のとおりである。
B1 被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱手段から
の熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱面2
と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2に熱を伝える伝熱手
段と,上記乾燥槽4内に於て重力方向に沿って配設された回転軸に取
付けられ回転可能に配設されていて,それぞれが平面から見て360
度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aから成る回転
巻上羽根5とから成る乾燥装置に於て,
B2 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aは,上記被乾燥物3を上記各基
羽根5aの一端部18から載せて他端部19に移動させ,この他端部
19から巻き上げることができるような長さを有する平坦面8を有
し,
B3 この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面2との間に,各基羽根5
aの回転を許容する為のクリアランスUが形成されるように,上記外
周端10aは上記伝熱面2に沿って形成されていると共に,
B4 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面8は,その回転方向R
と逆方向に向って一端部18から他端部19に向って斜め上方に伸び
るように形成され,
B5 而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根5aの他端部19の
高さ位置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に位置する他の基羽
根5aの一端部18の高さ位置より高い位置に位置し,
B6 上記被乾燥物3を複数枚の各基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,
遠心力Pによって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構
成されていることを特徴とする
B7 回転巻上羽根を有する乾燥装置
ウ 本件発明Cを構成要件に分説すると,次のとおりである。
C1 乾燥槽4の内部に被乾燥物3を投入し,上記乾燥槽4内に配設され
た回転軸13によって回転せしめられる基羽根5aを回転させること
により,上記被乾燥物3を乾燥槽4の内周の伝熱面2に接触させて乾
燥させる被乾燥物の乾燥方法に於いて,
C2 上記被乾燥物3は,平面から見て360度の円周範囲の中で複数枚
配設されている基羽根5aのそれぞれにより上方に巻き上げられると
共に,
C3 上記基羽根5aの回転に伴う遠心力Pにより上記伝熱面2に押し付
けられることにより,上記被乾燥物3は薄膜状に上記伝熱面2に拡げ
られて乾燥せしめられ,
C4 而も上記それぞれの基羽根5aによる上記被乾燥物3の上方への巻
き上げと,上記遠心力Pによる伝熱面2への押し付けによって上記被
乾燥物3が薄膜状に拡げられる動作は,回転方向Rと逆方向に向かっ
て一端部10から他端部11に向かって斜め上方に伸びるように形成
されている基羽根5aの回転により,上記被乾燥物3が,上記基羽根
5aの一端部10から上端面12にのり,上記上端面12に沿って他
端部11へ移動し,上方へ向かわせしめられて巻き上げられつつ,上
記遠心力Pによって上記伝熱面2に押し付けられて薄膜状に拡げられ
る動作であることを特徴とする
C5 被乾燥物の乾燥方法
(4) 被告の行為
被告は,乾燥装置を製造し,販売している(その構成及び同装置において
使用されている乾燥方法については,当事者間に争いがある。以下,被告が
製造販売していると主張する乾燥装置を「被告装置」といい,被告装置にお
いて使用されていると被告が主張する乾燥方法を「被告方法」という 。 。
)
(5) 構成要件の充足性
被告装置は,本件発明Aの構成要件A2ないしA4及びA6を,本件発明
Bの構成要件B2ないしB5及びB7を充足する。また,被告方法は,本件
発明Cの構成要件C1,C5を充足する(弁論の全趣旨 )。
2 争点
(1) 被告装置は,本件発明A及びBの技術的範囲に,被告方法は,本件発明C
の技術的範囲に,それぞれ属するか。
ア 被告装置は,本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B1
を充足するか 。被告方法は ,本件発明Cの構成要件C2を充足するか 。 争
(
点1)
(ア) 本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成要件B1及び本件発
明
Cの構成要件C2の「複数枚」の意義 。(争点1a)
(イ) 本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B1の「複数
枚の基羽根」及び本件発明Cの構成要件C2の「複数枚配設されている
基羽根 」は「 同一水平面内 」に配置されていることを要するか 。 争点1
(
b)
イ 被告装置は,本件発明Aの構成要件A5及び本件発明Bの構成要件B6
を充足するか。また,被告方法は,本件発明Cの構成要件C3及びC4を
充足するか 。(争点2)
(2) 被告装置及び被告方法は,本件各発明と均等か 。(争点3)
(3) 原告らの損害額は,それぞれいくらか 。(争点4)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(被告装置は,本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要
件B1を充足するか。被告方法は,本件発明Cの構成要件C2を充足する
か 。 の1a( 本件発明Aの構成要件A1 ,本件発明Bの構成要件B1及び本
)
件発明Cの構成要件C2の「複数枚」の意義 。)について
(原告らの主張)
ア 被告装置の構成及び充足性
被告装置の構成は,別紙物件目録記載2ないし5の被告各物件のとおり
である。
本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B1の「複数枚」
は,乾燥槽底部の最下段の羽根に限定して複数枚要することを示すもので
はないから,乾燥槽において複数枚の羽根を有する被告各物件は,それぞ
れ(イ号物件の構成b1,ロ号物件の構成c1,ハ号物件の構成d1及び
ニ号物件の構成e1 ) 本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要
,
件B1の「複数枚」の要件を充足する。
被告方法の構成は,別紙物件目録記載1のイ号方法のとおり(以下「イ
号方法 」という 。 であり ,イ号方法の構成a2は ,本件発明Cの構成要件
)
C2の「複数枚」を充足する。
イ 「複数枚」の意義について
被告は ,「複数枚」は ,「乾燥槽底部の最下部に複数枚」と解釈される旨
主張するが,以下のとおり,同主張は失当である。
(ア) 特許請求の範囲の記載
まず ,本件各発明のいずれの特許請求の範囲にも , 底部の羽根を複数
「
枚にする 。」ということは記載されていない。
(イ) 本件各発明の解決すべき課題
本件特許権1に係る明細書(以下「本件明細書1」といい,本件特許
権2及び本件特許権3に係る明細書を「本件明細書2」及び「本件明細
書3」という 。)には,解決すべき課題として ,「③上記被乾燥物を上昇
させるには,たった一枚の垂直螺旋回転羽根によって上昇させる。この
為,上記乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被
乾燥物の量が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることが難し
いと共に,底部に被乾燥物が溜った状態が続き易く,乾燥効率を向上さ
せることが難しかった 。 【0008】と記載され,本件明細書2【00
」
08 】 本件明細書3【 0004 】にも同様の記載がされている( 以下 ,
,
この課題を「課題③」という 。 。
)
被告は,課題③の解決のために,最下段の羽根を複数枚にすることが
必要不可欠であると主張するが,以下のとおり理由がない。
確かに ,本件明細書1ないし3( 以下「 本件各明細書 」という 。 にお
)
いて,解決すべき課題を有するものとして,従来の一枚の垂直螺旋回転
羽根式乾燥装置が紹介されているが ,そこでの 課題 」 ,
「 は 要するに , 乾
「
燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量
が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることが難しいと共に,
底部に被乾燥物が溜った状態が続き易く,乾燥効率を向上させることが
難しかった 。 ということである 。この課題の解決策は ,単に底部の羽根
」
を複数枚にすることではない。なぜなら,底部の羽根を単に複数枚とし
ただけでは,羽根と羽根が干渉して全体的な乾燥効率が妨げられる場合
が生ずるからである。乾燥装置における乾燥効率の向上は,発明の有機
的,全体的構成によって達成されるのであって,単に,底部の羽根を複
数枚にするだけで達成されるのではない。
(ウ) 作用効果
本件明細書1には ,作用効果として , ③上記複数枚の基羽根5aによ
「
り,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物3を,複数枚の基羽根5a各
々ごとに巻上上昇させることができるから,上記乾燥槽4内底部に位置
する被乾燥物3の全量に比して上昇する被乾燥物3の量が多く,早期に
被乾燥物3を伝熱面2に接触させ易い 。 【0016】と記載され,本件
」
明細書2【 0017 】 本件明細書3【 0019 】にも同様の記載がされ
,
ている(以下,この作用効果を「作用効果③」という 。 。
)
被告は ,作用効果③について , 従来技術に比べて底部の被乾燥物を多
「
量に巻き上げることができる」と主張しているが,本件各明細書には,
「従来技術に比べて」なる語はなく,また,基羽根が1枚の場合より,
複数枚の方が,乾燥槽内底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇す
る被乾燥物の量が多くなるのは当然で ,本件各明細書においても , 最下
「
部(又は底部)の」複数箇所から巻き上げるとはいっていないから,こ
れは,基羽根が単に「複数枚」あることによる当然の作用効果を述べて
いるにすぎないといえる。
また,本件各発明は,実開平5-64692号公報(乙1)等に開示
された従来技術において,垂直螺旋回転羽根が1枚であることが問題を
惹起していたとして,その解決手段を想到したものであるところ,1枚
の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離せば,付随する問題の多くが解
決されるのであって,最下部の基羽根を複数枚にしたり,そのほかの段
においても同一高さにおける基羽根を複数枚にすることは,その次に出
てくることである。したがって,1枚の垂直螺旋回転羽根を切り離した
ことによる効果こそが,本件各発明特有の効果であり,最下部に複数枚
の基羽根がある場合の効果は,具体的実施形態の効果であるというべき
である。
以上から,本件各発明の作用効果③は,基羽根が複数枚あることによ
る当然の作用効果を述べているにすぎないものであり,そうでないとし
ても,発明特有の作用効果ではなく,具体的実施形態の作用効果にすぎ
ない。
(エ) 本件発明Cの審査経過
以下に述べる本件発明Cの審査経過から見ても,乾燥槽底部に複数枚
基羽根があることは,本件各発明の構成要件ではないことが明らかであ
る。
a 本件特許権3に係る出願( 以下「 本件3出願 」という 。 当初の明細
)
書( 甲14 ,以下「 当初明細書 」という 。 の特許請求の範囲の請求項
)
1は,次のとおりであった(甲14 )。
「遠心力Pによって伝熱面2に押し付けた被乾燥物3を伝熱面2か
らの熱によって乾燥せしめる被乾燥物3の乾燥方法に於て,上記被乾
燥物3を最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつつ,遠心力P
によって伝熱面2に押し付け,上記被乾燥物3の巻き上げ時に,上記
伝熱面2に接触して水分蒸発し,含水率の低くなった被乾燥物3を,
含水率の高い被乾燥物3と入れ換えるようにして上記巻き上げた被乾
燥物3を空間Aに面する蒸発面Fに移動させつつ,後から巻き上げる
被乾燥物3で先に巻き上げた被乾燥物3を上方へ押し,上記被乾燥物
3を伝熱面2に沿って連続して上昇させていくことを特徴とする被乾
燥物の乾燥方法 。」
上記請求項1に対して,審査官は,第1回目の拒絶理由通知書(乙
8,以下「第1回拒絶通知書」という 。)において ,「引用文献1(実
願平03-006127号(実開平04-131500号)のマイク
ロフィルム( 甲15 )を指す 。 には ,最下部の複数箇所から上方に向
)
けて巻き上げることの記載はない。しかるに,粉粒物(被乾燥物に相
当する)の乾燥のために,2つの螺旋状の部剤が一体となった撹拌羽
根を用いること( 最下部の複数箇所から上方に巻き上げる 」ことに相
「
当する)は例えば引用文献2(特開昭61-107082号公報(甲
16 )を指す 。 に記載されているように公知である 。してみれば ,被
)
乾燥物の乾燥のために,引用文献2記載の「最下部の複数箇所から上
方に巻き上げる」手段を用いることに当業者は容易に想到し得たとい
える 。」と記載している。
ここで , 実願平03-006127号( 実開平04-131500
(
号 )のマイクロフィルム( 以下「 引用文献1 」という 。 の乾燥装置に
)
は基羽根が1枚しかないが,特開昭61-107082号公報(以下
「 引用文献2 」という 。 の乾燥装置のうち ,複数枚の螺旋状回転羽根
)
を有するものについては,羽根最下部の下端が複数あることになる。
そこで,出願人である原告Aは,平成10年10月2日,出願当初の
請求項1における 最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつつ 」
「
の要件を撤回し ,請求項1を下記のように補正した 甲17 ,以下 本
( 「
件第1回補正」という 。 。
)
「乾燥槽4の内部に被乾燥物3を投入し,上記乾燥槽4内に配設さ
れた回転軸13によって回転せしめられる基羽根5aを回転させるこ
とにより,上記被乾燥物3を乾燥槽4の内周の伝熱面2に接触させて
乾燥させる被乾燥物の乾燥方法に於いて,
上記被乾燥物3は,平面から見て360度の円周範囲内の長さに形
成された複数の基羽根5aのそれぞれにより上方に巻き上げられると
共に,上記基羽根5aの回転に伴う遠心力Pにより上記伝熱面2に押
し付けられることにより,上記被乾燥物3は薄膜状に上記伝熱面2に
拡げられて乾燥せしめられ,而も上記それぞれの基羽根5aによる上
記被乾燥物3の上方への巻き上げと,上記遠心力Pによる伝熱面2へ
の押し付けによって上記被乾燥物3が薄膜状に拡げられる動作は,回
転方向Rと逆方向に向かって一端部10から他端部11に向かって斜
め上方に伸びるように形成されている基羽根5aの回転により,上記
被乾燥物3が,上記基羽根5aの一端部10から上端面12にのり,
上記上端面12に沿って他端部11へ移動し,上方へ向かわせしめら
れて巻き上げられつつ,上記遠心力Pによって上記伝熱面2に押し付
けられて薄膜状に拡げられる動作であることを特徴とする被乾燥物の
乾燥方法 。」
この補正に対しては , 円周範囲『 内の長さに形成された 』複数の基
「
羽根」との記載事項が,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内
のものではないとの拒絶理由通知がなされた 以下 本件再拒絶通知 」
( 「
という 。 ため 甲18 ) 更に補正をし 以下 本件再補正 」
) ( , ( 「 という 。 ,
)
最終的に,現在の本件発明Cとなったものである。
b 本件3出願当時の特許法によれば ,特許請求の範囲には , 発明の構
「
成に欠くことができない事項のみ」を記載すべきことと規定されてい
た 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号 )
( 。
したがって ,出願当初 , 最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ
「
つつ」は,発明の構成に欠くことができない事項とされていたが,補
正の結果,現在の請求項1のように,基羽根の欠くことができない構
成要件としては , 平面から見て360度の円周範囲の中 」であること
「
と,「複数枚」であることに変わったのである。
c なお,本件発明Cについては,上記のとおり請求項が補正されたに
もかかわらず , 発明の詳細な説明 」がこれと整合するように全面的に
「
補正されなかったために ,本件明細書3の【 0001 】【 0010 】
, ,
【0019】に,本件第1回補正前の「複数箇所から巻き上げる」趣
旨の表現が残っている。しかし,これは,審査段階の見落としの結果
にすぎない。本件特許権3より後に出願された本件特許権1及び2に
ついては ,出願当初から , 最下部の複数箇所から 」という記載は一切
「
なされていない。
d 被告は,本件第1回補正後の請求項1において「最下部の複数箇所
から上方に巻き上げつつ」という文言が使用されなかったのは,第1
回拒絶通知書において , 請求項1の記載は全体的に不明瞭である( 特
「
に 最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ 」
「 ・・・との記載が意
味する技術的事項を明瞭に把握できない ) 」と指摘され,別の文言に
。
置き換えざるを得なかっただけであって,最下部の複数枚の羽根を要
する装置で乾燥させるという要件は維持されている旨主張する。
しかし , 最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつつ 」なる文
「
言が不明瞭でないことはそれ自体明らかで,現に,審査官は,同通知
書の拒絶理由1では , 最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつ
「
つ」の意味を理解した上で,前記aのとおり判断しているのである。
(被告の主張)
ア 「複数枚」の意義について
本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成要件B1及び本件発明C
の構成要件C2の「 複数枚 」とは ,以下のとおり , 乾燥槽底部の最下部に
「
複数枚」と解釈されるものである。
(ア) 本件発明Aの構成要件A1
a 本件明細書1では,乙1等に開示された従来技術が有していた課題
として,課題③( 0008 】
【 )が挙げられるとともに,本件発明Aの
作用効果③( 0016 】 として ,課題③を解決する作用 ,すなわち ,
【 )
従来技術に比べて底部の被乾燥物を多量に巻き上げることができると
いう作用効果を有している旨記載されている。
ここで,課題③は,乾燥槽の底に溜まった被乾燥物をすくい上げる
最下段の羽根が1枚しかないことにより生じていたものであり,この
課題を解決しようとするのであれば,最下段の羽根を複数枚にするこ
とが必要不可欠である。
b 本件明細書1の効果欄では , 以上詳述した如く ,請求項1記載の発
「
明は」という書き出しで,請求項1の発明の作用効果が説明されてお
り ( 0041 】 ないし 【 0045 】 , さらに , 請求項2記載による
【 ) 「
と」という書き出しで,請求項2の発明の作用効果が説明されている
( 0046 】 。このように ,本件明細書1において ,請求項1記載の
【 )
発明によると乾燥槽内底部の被乾燥物を複数箇所から巻き上げること
ができると明確に示しているのであるから,請求項1の記載は,乾燥
槽内底部の被乾燥物を複数箇所から巻き上げ得る構成と解釈する以外
に解釈の余地はなく,請求項1に記載された「複数枚」という用語の
意義は , 乾燥槽底部の最下部に複数枚 」と解釈されることになる 。そ
「
して,この同一の高さに配置された複数枚の基羽根が一つの段を構成
し,これが間隔を置いて「多段に」配設されたのが本件特許権1の請
求項2及び本件特許権2の請求項3である。
本件明細書1には,本件発明Aが最下部に1枚しか羽根を有しない
装置をも含むという内容の説明は一切存在しない。むしろ逆に,最下
部に1枚しか羽根を有しない装置は,乾燥効率の悪い「従来の技術」
として,本件発明Aによって解決されるべき「課題」を有するものと
して紹介されているのである。
したがって,本件発明Aが,最下部に1枚しか羽根を有しない装置
をその権利範囲から除外していることは明白である。
c 本件発明Aは,乾燥槽内底部に位置する被乾燥物を「1枚の羽根」
で上昇させていたことによってもたらされる課題③を解決するとい
う,明確な目的に基づいて,底部の羽根を複数枚にしたものである。
したがって,作用効果③は,原告らが主張するような「基羽根が複
数枚あることによる当然の作用効果」などではなく,まさに本件発明
Aによって実現しようとした作用効果そのものである。
また,前記bのとおり,本件明細書1の効果欄では,請求項1の発
明の作用効果が説明されており , 0043 】にある「 上記複数枚の基
【
羽根により,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物を複数枚の基羽根
で上昇させることができ,上記乾燥槽内底部に位置する被乾燥物の全
量に比して上昇する被乾燥物の量が多くなり,早期に被乾燥物を伝熱
面に接触させ易く,以って乾燥効率を向上させ易い」という記載は,
具体的実施形態の作用効果を述べたものではなく,請求項1の発明そ
のものの作用効果を述べたものであることは明らかである。
(イ) 本件発明B及びCの技術的範囲
本件発明B及びCの技術的範囲の解釈についても,本件発明Aについ
て述べたところが当てはまる。
a 本件発明B及びCが解決しようとした課題も,課題を解決するため
に採用した構成も本件発明Aと全く同様である。
また,本件発明B及びCも,作用効果に関する本件明細書2及び3
の記載上,最下段に複数枚の基羽根を設置することが要求されている
( 本件明細書2【 0008 】【 0017 】【 0045 】 本件明細書3
, , ,
【0004 】 【0010 】 【0019 】 。
, , )
すなわち,本件発明B及びCも,同一の高さに複数枚の基羽根が存
在することが不可欠の構成要件となっているのである。
b 本件明細書2の効果欄には , 以上詳述した如く ,請求項1記載の発
「
明によると」という書き出しで,請求項1の発明の作用効果が説明さ
れており ( 0043 】 ないし 【 0046 】 , 0045 】 にある 「 上
【 )【
記複数枚の基羽根により,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物を複
数枚の基羽根で上昇させることができ,上記乾燥槽内底部に位置する
被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が多くなり,早期に被
乾燥物を伝熱面に接触させ易く,以って乾燥効率を向上させ易い」と
いう記載は,具体的実施形態の作用効果を述べたものではなく,請求
項1の発明そのものの作用効果を述べたものであることは明らかであ
る。
本件明細書3の効果欄には , 以上詳述した如く ,本発明は請求項1
「
記載によると」という書き出しで,請求項1の発明の作用効果が説明
されており 【 0019 】
( ないし 0023 】 , 0019 】
【 )【 にある (1)
「
被乾燥物を複数箇所から巻き上げることにより,常時上昇巻き上げら
れる被乾燥物の量が多く,上記被乾燥物が早期に伝熱面に接触すると
共に,最下部に被乾燥物が溜まりにくく,乾燥効率を向上させ易い」
という記載は,具体的実施形態の作用効果を述べたものではなく,請
求項1の発明そのものの作用効果を述べたものであることは明らかで
ある。
(ウ) 出願経過について
a 本件第1回補正後の請求項1に「最下部の複数箇所から上方に巻き
上げつつ」という文言が使用されなかったのは,第1回拒絶通知書の
第2項において , 請求項1の記載は全体的に不明瞭である( 特に「 最
「
下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ 」・・・との記載が意味する
技術的事項を明瞭に把握できない ) 」と指摘され,別の文言に置き換
。
えざるを得なかったからであり,乾燥槽底部の最下段に複数枚の羽根
を要する装置で被乾燥物を乾燥させるという要件そのものが撤回され
たものではない。
b このことは,本件明細書3の【発明の詳細な説明】の記載を見れば
明らかである。
すなわち ,当初明細書と本件明細書3とを比較すると , 発明の詳細
【
な説明】の【0001】は,本件発明Cの特徴を端的に要約したもの
であるが,この段落の「最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ
つつ」という記載には補正が加えられていない。
次に , 発明が解決しようとする課題 】に関する【 0004 】には ,
【
従来技術において , 被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まり箇所
「
は一箇所である。この為,上記被乾燥物の全量に比して上昇する量が
少な 」い ,という従来技術の課題が記載されている 。この文章中の 上
「
記被乾燥物」は,補正前は「上記最下部に位置する被乾燥物」であっ
たところ,補正で変更された部分があるにもかかわらず,この段落そ
のものが意味内容を変えずにそのまま残存している。そうすると,補
正の前後を問わず , 被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まりは一
「
箇所である」ことが従来技術の問題点であると主張されていると解さ
れるのである。
さらに , 作用 】に関する【 0011 】 補正後の【 0010 】 でも ,
【 ( )
上記と同様に , 被乾燥物3を複数箇所から巻き上げることにより ,被
「
乾燥物3が早期に伝熱面2に接触し,最下部に被乾燥物3が溜まりに
くい 。 という記載のうち , 最下部に被乾燥物3が溜まりにくい 。 と
」 「 」
の部分が「乾燥効率を上げる 。」と補正されながら ,「複数箇所から巻
き上げることにより」という記載は,手を加えずに維持されているの
である。
このほかにも,本件明細書3には,同一の段落の中で,記載内容が
補正されながらも,複数箇所から巻き上げる趣旨の記載は維持されて
いるところがあり,これらは,到底単なる消し忘れで説明し得るもの
ではない。
c また,仮に,明細書の記載中に「消し忘れ」等の不備が存在した場
合,このような明細書の不備による不利益は,その明細書を作成した
特許権者自身が被るべきものであって,第三者に転嫁すべきものでは
ない。
特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するための記述は,
第三者による権利解釈の根拠となるものであるが,特許出願人の自由
意思で作成され,特許出願人の責任において記載されるものである。
単なる消し忘れとして,発明の詳細な説明の記述で明確に除外した方
法にまで権利を及ぼそうとする主張は許されない。
イ 被告装置の構成及び充足性
被告装置の構成は,別紙被告主張被告製品目録記載のとおりであり,被
告装置の乾燥槽底部の最下部に設けられている羽根は1枚であるから,本
件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B1の「複数枚」が,
上記のとおり , 乾燥槽底部の最下部に複数枚 」と解釈されることからすれ
「
ば,被告装置は,本件発明Aの構成要件A1又は本件発明Bの構成要件B
1のいずれも充足しない。そして,被告装置において用いられる乾燥方法
についても,同様に,本件発明Cの構成要件C2を充足しない。
(2) 争点1(被告装置は,本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要
件B1を充足するか。被告方法は,本件発明Cの構成要件C2を充足する
か。)の1b(本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B1の
「複数枚の基羽根」及び本件発明Cの構成要件C2の「複数枚配設されてい
る基羽根 」は「 同一水平面内 」に配置されていることを要するか 。 について
)
(原告らの主張)
ア 被告装置の構成及び充足性
被告装置の構成は,別紙物件目録記載2ないし5の被告各物件のとおり
である。本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件B2の複数
枚の基羽根は,同一水平面内に配置されている必要はなく,複数枚配設さ
れていることで足りるものであるから,乾燥槽において複数枚の羽根を有
する被告各物件は ,それぞれ イ号物件の構成b1 ,ロ号物件の構成c1 ,
(
ハ号物件の構成d1及び二号物件の構成e1 ) 本件発明Aの構成要件A1
,
及び本件発明Bの構成要件B1の「複数枚の基羽根」の要件を充足する。
被告方法の構成は,別紙物件目録記載1のイ号方法のとおり(以下「イ
号方法 」という 。 であり ,イ号方法の構成a2は ,本件発明Cの構成要件
)
C2の「複数枚配設されている基羽根」を充足する。
イ 「複数枚の基羽根」及び「複数枚配設されている基羽根」の意義につい
て
被告は ,本件各発明の構成要件A1 ,B1及びC2の 複数枚の基羽根 」
「
は,「同一の水平面内」に設置されていなければならないと主張する。
しかし,以下に述べるとおり,本件各発明のいずれにおいても,複数枚
の基羽根が同一の水平面内に設置されることは必要でない。
(ア) 特許請求の範囲の記載
特許法70条1項は , 特許発明の技術的事項は ,願書に添付した特許
「
請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない 。 としている 。これ
」
は,①明細書に記載した発明の具体的実施形態や図面によって技術的範
囲を定めてはならない,②特許請求の範囲の文言どおりのものとして技
術的範囲を定めることを原則とする,ということである。
本件各明細書の特許請求の範囲には,複数枚の羽根が「同一高さ」に
配置されるという記載はない。複数枚の基羽根が同一高さに配置される
ことには図面にあるだけで,発明の詳細な説明にも ,「複数枚の基羽根
が,同一高さに配置される 」という限定的な記載は1箇所も存在しない 。
そして,図面に具体的に開示された装置は,本件各発明の具体的実施形
態を例示したものにすぎないから,これに依拠して特許発明の技術的範
囲を定めることは許されない。
被告がその主張の根拠とする特許法70条2項は,特許請求の範囲に
記載された用語の意義の「解釈」について規定したものであるが,本件
各発明の特許請求の範囲の記載は ,いずれも ,それ自体で明確であって ,
明細書の発明の詳細な説明や図面を考慮しなければ意義が明らかになら
ないような用語は一つもなく,本件各発明の技術的範囲は,請求項の字
義どおり解釈されるべきである。
(イ) 本件各発明の解決すべき課題
a 本件明細書1には ,解決すべき課題として , ①上記被乾燥物は ,一
「
枚で上から下まで連なっている垂直螺旋回転羽根上に載って伝熱面に
押し付けられながら上昇していく。所が,上記被乾燥物が粘性の強い
被乾燥物等であったりした場合,この被乾燥物がいったん一枚の垂直
螺旋回転羽根や伝熱面のある部分に付着したりすると,一枚の垂直螺
旋回転羽根以外に搬送路がないので,上記付着部分で渋滞が生じそこ
から団子状に拡大して上下の羽根の間が詰まる恐れがあった。このた
め,上記被乾燥物の上昇がせき止められ,循環が行われなくなり,以
って乾燥が良好に進まない危険性が大きかった 。 【0006】と記載
」
され ,本件明細書2【 0006 】 本件明細書3【 0005 】にも同様
,
の記載がされている(以下,この課題を「課題①」という 。 。
)
被告は ,課題①を解決するに当たっては , 1枚の垂直螺旋回転羽根
「
を分断して複数にするだけでは足りず,複数枚の羽根が全体として一
つの螺旋形を形成しないように配置されなければならない 」とするが ,
そのようなことはない。
これを本件発明Aについてみると,本件明細書1の【0032】な
いし【 0034 】にあるように ,被乾燥物の停滞が生じ難くなるのは ,
隣り合う基羽根と基羽根の間が切り離されていて,その間で乱流が生
じることによるのであって,螺旋状の上昇経路が一つしかないことと
は関係がない。このことは,現に,被告装置には,螺旋状の上昇経路
が一つしかないが,何ら問題なく,乾燥装置として機能しているとい
う事実が証明している。
b また ,本件明細書1には ,別の解決すべき課題として , ④上記垂直
「
螺旋回転羽根は,各上下の羽根の間に螺旋のピッチに応じた間隔を有
するものであるが,上記被乾燥物を遠心力によって伝熱面に押し付け
たときも,各上下の羽根の間の伝熱面の内使用されない伝熱面部分が
生じ易かった。この為,伝熱面の全面積に比して使用されない,つま
り被乾燥物が接触しない面積が比較的大きく,伝熱面全面を有効に活
用していなかった 。 【0009】と記載され,本件明細書2【000
」
9 】 本件明細書3【 0006 】にも同様の記載がされている( 以下 ,
,
この課題を「課題④」という 。 。
)
被告は,課題④の解決のために,複数枚の基羽根が同一水平面内に
配置されることが必要である旨主張するが ,以下のとおり理由がない 。
本件明細書1には ,効果として , また ,複数の基羽根により ,上記
「
被乾燥物を巻き上げつつ,伝熱面に押し付け,後から巻き上げる被乾
燥物で先に巻き上げた被乾燥物を上方へ押し,上記被乾燥物を連続し
て上昇させることによって,上記被乾燥物が伝熱面全面に渡って上昇
し,上記伝熱面全面を使用して被乾燥物を乾燥させることができ,以
って伝熱面全面を有効に活用することができる 。 ( 0044 】 と記
」【 )
載されているが ,この記載における , 伝熱面全面を有効に活用 」とい
「
うことの意味は,上下の羽根の間の伝熱面の有効活用のことであるか
ら,同一高さに複数枚の基羽根があることとは関係がない。むしろ,
「 後から巻き上げる被乾燥物で先に巻き上げた被乾燥物を上方へ押し ,
上記被乾燥物を連続して上昇させる」との表現は,同一高さに複数枚
の基羽根がない場合の方によく当てはまるから,この効果は,同一高
さに複数枚の基羽根があることの効果ではない。
(ウ) 作用効果
a 本件明細書1には ,作用効果として , ⑤上記基羽根5aを回転させ
「
ることで上記被乾燥物3を巻き上げつつ伝熱面2に押し付けて乾燥さ
せることにより,上記基羽根5aの回転速度を上げることで被乾燥物
3(原文では被乾燥物2)をより強く伝熱面2に押し付けることがで
きる 。これにより ,上記被乾燥物3が伝熱面に沿ってより巻き上がり ,
上記伝熱面2全面に渡って薄膜状に拡がり,被乾燥物3に熱が伝わり
易い 。 【0018】及び「複数の基羽根を回転させることで,上記被
」
乾燥物を巻き上げつつ,伝熱面に押し付けて乾燥させるので,基羽根
の回転速度を上げることで被乾燥物をより強く伝熱面に押し付けるこ
とができる 。これにより ,上記被乾燥物が伝熱面に沿ってより上昇し ,
上記伝熱面全面に渡って薄膜状に拡がり ,被乾燥物に熱が伝わり易く ,
乾燥効率も向上する 。 【0045】と記載され,本件明細書2及び本
」
件明細書3にも同様の記載がされている(以下,この作用効果を「作
用効果⑤」という 。 。
)
しかし,作用効果⑤については,単に回転速度を上げれば被乾燥物
をより強く伝熱面に押し付けることができるという当たり前のことを
いっているだけである。
b なお,前記(1)(原告らの主張)イ(ウ)のとおり,本件発明Aは,
従来技術において,垂直螺旋回転羽根が1枚であることが問題を惹起
していたとして,その解決手段を想到したのであるから,1枚の垂直
螺旋回転羽根を切り離したことによる効果こそが,本件発明A特有の
効果なのであって,同一高さにおける基羽根を複数枚にしたことによ
る効果は,具体的実施形態の効果である。
(エ) 以上の議論は,本件発明B及びCにも,同様に当てはまるものであ
る。
(オ)a 被告は,本件各明細書には,同一高さに基羽根が1枚であるもの
は全く開示されていないかのように主張するが,そのようなことはな
い。
本件発明Aについてみると,本件明細書1の図1ないし4に,同一
高さにおける基羽根が3枚の場合が,図6ないし7に同一高さにおけ
る基羽根が4枚の場合が,図8に同一高さにおける基羽根が2枚の場
合が ,それぞれ開示されている 。一方 ,請求項1においては , それぞ
「
れが平面から見て360度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の
基羽根」とあるから,1枚の基羽根の長さが平面から見てちょうど3
60度の場合もあることは明らかである。そして,図1ないし4の同
一高さにある基羽根が3枚の場合は,各基羽根が平面から見て占める
角度は120度強,図6ないし7の同一高さにおける基羽根が4枚の
場合は,各基羽根が平面から見て占める角度は90度強であるから,
平面図が示されていない図8の,同一高さにおける基羽根が2枚の場
合は,各基羽根が平面から見て占める角度は180度強であるものと
推測される。そして,1枚の基羽根の長さが平面から見てちょうど3
60度の場合は,基羽根を複数枚設ければ,基羽根同士が干渉を起こ
してしまうから,基羽根は,同一高さには1枚しか設けられないと考
えられる。
このように,本件発明Aの場合,同一高さにおける基羽根が1枚し
かない場合も想定されている以上 , 複数枚 」とは ,当然 ,上下方向に
「
見たときに「複数枚」という意味を含むのである。
b 上記解釈は,本件発明Aが発想された経過からも首肯される。すな
わち,従来技術では,垂直螺旋回転羽根が1枚であることが種々の問
題を惹起したというのであるから,最初に自然に思いつくことは,1
枚の垂直螺旋回転羽根を途中で切って断絶する形にすればよいという
ことであり,そうすれば,羽根は,上下方向に見て,当然複数枚にな
るからである。
原告Aは,1枚の垂直螺旋回転羽根を途中で切って断続する形にし
ただけのものを,本件明細書1と図面に,具体的実施例として開示す
ることはしていない。しかし,1枚の垂直螺旋回転羽根が360度を
超えて続いている従来技術を念頭において , ・・・それぞれが平面か
「
ら見て360度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5a
から成る乾燥装置に於て」と書かれていること自体から,1枚の垂直
螺旋回転羽根を途中で切って断続する形にしたようなものを含む記載
ということができるのである。
c 以上の議論は,本件発明B及びCにも,同様に当てはまる。
特に,本件発明Bの構成要件においては,1枚の垂直螺旋回転羽根
を途中で切って断続する形にしただけでは,被乾燥物が基羽根の後端
から ,隣の基羽根に乗り移り難くなることから , 複数枚の基羽根5a
「
の内の ,一つの基羽根5aの他端部19の高さ位置は , 上記 )回転方
(
向Rと逆方向に向かって隣に位置する他の基羽根5aの一端部18の
高さ位置より高い位置に位置し」と規定しているのである。この要件
は,隣り合う基羽根の高さが異なってこそ意味があるのであって,回
転方向と逆方向に向かって一端部から他端部に向かって斜め上方に伸
びる基羽根の高さが同じなら当たり前のことを記載した意味のないも
のになってしまうのである。
(カ) また ,被告は ,本件特許権1ないし2について , 多段 」であること
「
を要件とする請求項が,請求項1とは別に置かれていることから,本件
発明A及びBの乾燥装置が,複数枚の基羽根が一段に配設された装置を
意味していることは,構造上明らかであるとする。
しかし ,本件各発明には , 段 」
「 という要件はなく ,基羽根の大きさ 長
(
さ)と数について , 平面から見て360度の円周範囲内であること 」 ,
「 と
「複数枚」であることが要件になっているだけである。
そして,本件特許権1の請求項2は,請求項1の従属項であり,請求
項1を引用してこれを具体的に限定し , ・・・ことを特徴とする請求項
「
1記載の乾燥装置」というのであるから,請求項1が「一段」に限定さ
れるのであれば,請求項2でこれを「多段」に限定することは論理的に
不可能である。このことは,本件特許権2でも同様である。
(キ) さらに,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に基づいて定め
られるものであるが,公知技術を参酌することにより ,「複数枚の基羽
根」の意義は,より明確になる。
乙6ないし乙8に記載された引用文献及び先行技術文献のうち,発明
の名称が「乾燥装置」である文献は9件であり,これらのうち6件は,
乾燥槽内に設置された1枚の螺旋状の羽根を回転させ,被乾燥物を,こ
の羽根に載せて,下から上に移動させ,遠心力によって側壁の伝熱面に
接触させることにより乾燥させる構成を有し,残りの3件は本件各発明
とは全く異なる構成を有するものである 。また ,先行技術文献の中には ,
複数枚の羽根からなる構成を有する装置が開示されているが,これらの
装置は脱水装置及び造粒装置であって ,そもそも「 乾燥装置 」ではない 。
本件発明Aに対する拒絶理由通知書である乙6には,先行技術文献が
「 上記引用例以外には特に見当たらない 」と記載されている 。 上記引用
「
例」とは,甲12(実用新案登録第2533566号公報)及び甲13
(実公昭55-7824号公報)である。このうち,甲13は「脱水装
置」という技術分野の文献であるから,出願当時の「乾燥装置」の技術
分野においては,甲12のように1枚の螺旋回転羽根を有するものしか
見つからなかったことを意味する。このことは,1枚の螺旋回転羽根を
ばらばらに切り離すという着想だけでも発明の新規性・進歩性が認めら
れることを意味している。
以上から,本件各発明出願当時,羽根が同一高さにあるなしにかかわ
らず , 複数枚の羽根から成る乾燥装置 」が全く新しい技術思想であった
「
ことは明らかである。
(被告の反論)
ア 本件発明Aの技術的範囲
(ア) 以下に述べるとおり,本件発明Aの構成要件A1の「上記乾燥槽4
内に重力方向に沿って配設された回転軸に連結されていることにより回
転可能に配設されていて,それぞれが平面から見て360度の円周範囲
内の長さに定められた複数枚の基羽根5a 」は , 同一の水平面内に複数
「
枚の基羽根5aが配置されること」との意味に限定されるべきである。
(イ)a 本件明細書1では,従来技術が有していた課題として課題①が記
載されるとともに ,本件発明Aの装置は , ①・・・粘性の強い被乾燥
「
物3等であったりしても,基羽根5aや伝熱面2に付着しにくく,例
え付着しても上記被乾燥物3を複数の各基羽根5aによって伝熱面2
全面に渡って全体的に巻上上昇させるので,被乾燥物3が停滞するこ
とがない 。( 0014 】 同旨の記載として【 0041 】 として ,課
」【 , )
題①を解決する作用を有している旨記載されている。
ここで,課題①は,1枚の垂直螺旋回転羽根で被乾燥物を上昇させ
るときに,被乾燥物の上昇経路が一つしか存在しないことによりもた
らされていたものである。したがって,被乾燥物の上昇経路を一本の
螺旋状経路から複数の上昇経路に変更すれば,この課題は解決される
ことになる。ただし,1枚の垂直螺旋回転羽根で被乾燥物を分断して
複数枚の羽根を設けたとしても,複数枚の羽根が全体として断続的な
一つの螺旋形を形成していたのでは,被乾燥物の上昇経路は依然とし
て一つしか存在しない。複数枚の羽根が全体として断続的な一つの螺
旋を形成している場合,ある羽根に被乾燥物が付着したときには,次
に送られてくる被乾燥物が羽根に付着した被乾燥物にせき止められる
ことになり,その部分で被乾燥物の固まりが形成されて拡大していく
のである。したがって,課題①を解決するためには,1枚の垂直螺旋
回転羽根で被乾燥物を分断して複数にするだけでは足りず,複数枚の
羽根が全体として一つの螺旋形を形成しないように配置されなければ
ならない。
以上より,本件発明Aの構成要件A1の「上記乾燥槽4内に重力方
向に沿って配設された回転軸に連結されていることにより回転可能に
配設されていて,それぞれが平面から見て360度の円周範囲内の長
さに定められた複数枚の基羽根5a 」とは , 全体として断続的な一つ
「
の螺旋形を形成しないように配置されている複数枚の基羽根」という
限定を付加して解釈されるべきである。
b また,本件明細書1では,従来技術が有していた課題として,課題
④が挙げられるとともに , ④上記各基羽根5aにより ,上記被乾燥物
「
3を巻き上げつつ,伝熱面2に押し付け,後から巻き上げる被乾燥物
3で先に巻き上げた被乾燥物3を上方へ押し,上記被乾燥物3を連続
して上昇させることによって,上記被乾燥物3が伝熱面2全面に渡っ
て上昇し,上記伝熱面2全面を使用して被乾燥物3を乾燥させること
ができる 。( 0017 】 同様の記載として【 0044 】 として ,本
」【 。 )
件発明Aが課題④を解決する作用を有している旨記載されている。
ここで,課題④がもたらされていた原因は2つあり,一つは,伝熱
面のどの高さにおいても,被乾燥物を上昇させる働きを羽根そのもの
に担わせていたため,格段の羽根の上に載せられた被乾燥物の高さ分
しか被乾燥物を伝熱面に接触させることができなかった点である。も
う一つは,羽根の上に載せられた被乾燥物の高さが高くなりすぎて一
段上の羽根の下面にまで達してしまうと,被乾燥物が上下の羽根の間
に挟まって渋滞が生じてしまうため,常に被乾燥物の高さが上の羽根
に届かないようにしておく必要があった点である。このため,上下の
羽根の間に位置する伝熱面には,被乾燥物が接触していない空間が必
ず生じ,伝熱面全面を有効に活用することができなかった。
この課題を解決して伝熱面全面に間断なく被乾燥物を接触させるた
めには,いったん上昇した被乾燥物をさらに上昇させる役割を,羽根
ではなく,被乾燥物そのものに持たせる必要がある。すなわち,本件
明細書1の 0017 】
【 及び 0044 】
【 に記載されているように , 後
「
から巻き上げる被乾燥物で先に巻き上げた被乾燥物を上方へ押し 」 被
,
乾燥物を順次上方に送り出していくという構造を採用して初めて,伝
熱面全面に間断なく被乾燥物を接触させることが可能となるのであ
る 。そして , 後から巻き上げる被乾燥物で先に巻き上げた被乾燥物を
「
上方へ押」すという作用効果を実現するためには,いったん上昇した
被乾燥物が落下する前に直ちに次の被乾燥物を上昇させなければなら
ない。この効果を得るためには,同一の高さに複数枚の羽根が存在す
ることが必要となる。同一の高さに1枚の羽根しか存在しない場合,
羽根をよほど高速で回転させない限り,羽根が1周して次の被乾燥物
を上昇させる前に,先に上昇していた被乾燥物が落下してしまうから
である。
以上のとおり,複数枚の基羽根5aが同一水平面内に配置される構
成でなければ,本件発明Aのうち最も重要な「被乾燥物が,上方へ巻
き上げられつつ伝熱面2へ押し付けられて乾燥せしめられる」という
作用効果が得られないから,本件発明Aの構成要件A1の「複数枚の
基羽根 」は , 同一の高さに複数枚存在する基羽根 」という意味に解釈
「
せざるを得ない。
c さらに ,本件明細書1では ,従来技術が有していた課題として , ⑤
「
上記被乾燥物は,下から上へ順次螺旋状に上昇させて,最上部に達し
た後落下させ,再び上昇させる。この間に上記伝熱面から被乾燥物に
熱を与えて乾燥させる。そこで,上記被乾燥物を効率良く乾燥させる
為に,上記垂直螺旋回転羽根には種々の被乾燥物に合わせた最良の回
転速度がある。ここでもし,上記垂直螺旋回転羽根を被乾燥物の乾燥
効率が最も良い回転速度を超えて高速にすると,上記被乾燥物が良好
に螺旋に沿って上昇しなくなり,結果乾燥効率も悪くなる。即ち,上
記種々の被乾燥物を最も効率良く乾燥させようとした場合,上記垂直
螺旋回転羽根の回転速度の調節は欠かせないものであり,逆にこの調
節が面倒なものであった 。 ( 0010 】 という点が記載され ( 以下
」【 )
「課題⑤」という 。 ,本件発明Aの装置においては,作用効果⑤とし
)
て,本件発明Aが課題⑤を解決する作用を有している旨記載されてい
る。
課題⑤は,羽根に載せた被乾燥物の高さが高くなりすぎると,被乾
燥物が上下の羽根の間に挟まって渋滞が生じてしまうため,羽根の回
転速度が速すぎても被乾燥物の円滑な搬送が妨げられる,ということ
が原因である。
この課題を解決するための方法が,上記のとおり,被乾燥物を伝熱
面に「薄膜状」に拡げる方法である。この方法によれば,最下段の羽
根の上には羽根がなく,あるいは上段に位置する羽根との間に十分な
間隔が確保されているため,回転速度上げて被乾燥物が伝熱面に押し
広げられても,各段の羽根と羽根の間に被乾燥物が挟まって渋滞が生
じることはない。
そして,被乾燥物を伝熱面「薄膜状」に拡げる作用効果を得るため
には,上記bで述べた構造が必要となる。したがって ,「複数枚の基羽
根」という文言を,上記bで述べたとおり ,「同一の高さに複数枚存在
する基羽根」という意味に解釈することで,自動的に,課題⑤を解決
する作用を有する構成を意味することになるのである。
(ウ) また ,本件明細書1の図面には , 複数枚の基羽根5aが集合して一
「
つの回転巻上羽根5を構成する」形状の羽根を設けた実施例しか示され
ていない。かつ,図示された実施例以外に「同一の高さに1枚しか羽根
のない構造」を示唆する記載は,本件明細書1のどこにも存在しない。
そうすると,本件発明Aの技術的範囲が,実施例に図示された「基羽
根が同一の高さに複数枚存在する装置」にしか及ばないことは明らかと
いえる。
(エ) 本件特許権1は ,請求項1と2から成り立っているが ,請求項2は ,
「上記複数枚の基羽根5aが・・・多段に配設されていることを特徴と
する請求項1記載の乾燥装置」とあるとおり,請求項1を引用した従属
クレーム,すなわち,そこに引用された請求項の構成要件をすべて充足
し,それに従属クレーム固有の新たな構成要件を付加する請求項である 。
そして,請求項2によって請求項1の構成要件に新たに付加される構
成要件は,複数枚の基羽根を「間隔を置いて多段に配設」することだけ
である。
そうすると,本件特許権1は,全体を通じて「複数枚の基羽根」が一
つの「段」を構成することが前提となっており,その「段」が一段であ
る装置が請求項1であり ,多段となった装置が請求項2であるといえる 。
したがって,本件発明Aは,同一の高さに複数枚の基羽根が配設され
る装置を意味していることになる。
原告らは,請求項1は,一段の場合と多段の場合を含む包括的なクレ
ームであると主張しているが,そうだとすれば,従属クレームである請
求項2によって請求項1に付加される構成要件が何も存在しないことに
なり,請求項2がおかれた意味が全くないことになる。
仮に ,原告らの主張するように ,請求項1が「 一段 」のものと「 多段 」
のものを含むと解釈するにしても , 一段 」の装置の場合 ,その一段に複
「
数枚の基羽根が設置されなければならないことは請求項1の文言上明ら
かであるから,それが多段になった場合は当然に各段の基羽根は複数枚
なのであって,一段の場合に基羽根が複数枚でありながら,これが多段
になった場合に各段の基羽根が1枚でよいということにはならない。
いずれにしても,本件特許権1の請求項1及び2については,各段に
複数枚の基羽根が設置された装置以外に解釈する余地はない。
イ 本件発明B及びCの技術的範囲
本件発明B及びCの技術的範囲の解釈についても,本件発明Aについて
述べたところが当てはまる。
本件発明B及びCが解決しようとした課題も,課題を解決するために採
用した構成も本件発明Aと全く同様である。また,本件発明B及びCの出
願図面にも「同一の高さに複数枚の基羽根が設置されている装置」以外の
実施例は図示されておらず,かつ,本件明細書2及び本件明細書3にも,
「同一の高さに1枚しか羽根が存在しない構造」を示唆する記載は一切な
い。
すなわち,本件発明B及びCも,同一の高さに複数枚の基羽根が存在す
ることが不可欠の構成要件となっているのである。
なお,構成要件B1には ,「複数枚の基羽根5aから成る回転巻上羽根
5」との文言があり,同一の水平面内に配設された複数枚の基羽根5aか
らなる回転巻上羽根が存在することがより明確に示されている。
そうすると,本件発明Aの構成要件A1について述べたのと同様に,本
件発明Bの構成要件B1及び本件発明Cの構成要件C2も,同一の高さに
複数枚の基羽根が存在することが不可欠の構成要件となっていると解すべ
きである。
ウ 被告装置及び被告方法と本件各発明との対比
被告装置の構成は,別紙被告主張被告製品目録記載のとおりである。
被告装置では,羽根が各段に1枚ずつしか存在せず,本件各発明の作用
効果④及び⑤も有しない。
以上から,被告装置は,本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成
要件B1を充足せず,被告装置において用いられている被乾燥物の乾燥方
法は,本件発明Cの構成要件C2を充足しない。
(3) 争点2(被告装置についての,本件発明Aの構成要件A5及び本件発明B
の構成要件B6の充足性,被告方法についての,本件発明Cの構成要件C3
及びC4の充足性)について
(原告らの主張)
ア 被告装置と構成要件A5及びB6並びにC3及びC4との対比
(ア) イ号物件ないしニ号物件
被告装置のうち ,イ号物件の構成は ,別紙物件目録「 2 イ号物件 」,
ロ号物件の構成は ,同目録「 3 ロ号物件 」 ハ号物件の構成は ,同目録
,
「4 ハ号物件 」 ニ号物件の構成は ,同目録「 5
, ニ号物件 」記載のと
おりである。
イ号物件の構成b6,ロ号物件の構成c6,ハ号物件の構成d6及び
ニ号物件の構成e6は,いずれも本件発明Aの構成要件A5及び本件発
明Bの構成要件B6を充足している。
(イ) イ号方法
イ号物件ないしニ号物件において使用されている乾燥方法 被告方法 )
(
は,別紙物件目録「1 イ号方法」記載のとおりである。
イ号方法の構成a3及びa4は,それぞれ本件発明Cの構成要件C3
及びC4を充足している。
イ号物件ないしニ号物件の生産 ,譲渡又は譲渡等の申出をすることが ,
本件特許権3を侵害するものとみなされることは,前記の場合と同様で
ある。
イ 被告の反論に対する再反論
被告は,被告装置の羽根には,本件各発明の「押し付け作用」はないと
主張する 。しかし ,被告は ,被告装置の動作の説明において ,当初 , 泥の
「
ような状態 」である被乾燥物が ,次に , 粘土状の塊 」になり ,最後に「 細
「
粉化 」されることを自認しているところ , 粘土状の塊 」と「 細粉化 」状態
「
で羽根を回転させれば,結局,被告装置は,本件各発明と同じ作動をする
ことになると考えられる。
ウ 争点1a,1b及び2に係る充足性のまとめ
(ア) 被告装置
被告装置の構成は,別紙物件目録記載2ないし5の被告各物件のとお
りである。
このうち ,イ号物件の構成b1及びハ号物件の構成d1は ,前記(1)な
いし(3)において検討したとおり ,いずれも ,本件発明の構成要件A1及
び本件発明Bの構成要件B1を充足する。
ロ号物件及びニ号物件の乾燥槽は,内部の形状が上方に向かって径が
広くなっている円錐形状であり 構成c1及び構成e1 ) 乾燥槽の内部
( ,
の形状を円筒形状とする本件発明Aの構成要件A1又は本件発明Bの構
成要件B1を,文言上は充足しない。
しかし ,①乾燥槽の形状は ,本件発明A及びBの本質的部分ではなく ,
②乾燥槽の形状を円錐形状に置き換えても,本件発明A及びBの目的を
達することができ,同一の作用効果を奏するものであり,③このような
置換えは,当業者が容易に想到することができたものであるとともに,
④ロ号物件及びニ号物件の乾燥装置は,特許出願時における公知技術と
同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものでもな
く,かつ,⑤特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外さ
れたものでもないのであり,ロ号物件及びニ号物件と本件発明A及びB
は,実質的に同一である。
以上から,被告各物件は,本件発明A及びBの構成要件を充足する。
(イ) 被告方法
被告装置において使用されている乾燥方法は,別紙物件目録記載1の
イ号方法のとおりである。
前記(1)ないし(3)で見たとおり,イ号方法は,本件発明Cの構成要件
を充足する。
そうすると,被告各物件は,本件発明Cの実施にのみ使用されるもの
であるから,特許法101条3号により,被告各物件の生産,譲渡又は
譲渡等の申出をすることは ,本件特許権3を侵害するものとみなされる 。
(被告の反論)
ア 被告装置と本件発明Aの構成要件A5との対比
(ア) 本件発明Aの構成要件A5にある「押し付け作用 」 「押しつけられ
,
て」との文言は,ある物を別の物にある程度の時間継続して接触させる
外力を加える動作を意味する。ある物を別の物に瞬間的に接触させる動
作は「 ぶつける 」「 当てる 」等と表現され , 押し付ける 」という表現に
, 「
は含まれない。
そうすると,構成要件A5中の「遠心力による伝熱面2側への押し付
け作用」とは,被乾燥物を羽根の上に載せて回転させ,遠心力により内
壁に接触させ,この状態を一定時間意図的に維持する機能があることを
意味する。また,構成要件A5中の「各基羽根5aの上記平坦面8によ
る一端部18側から他端部19側へ被乾燥物を移動せしめる作用・・・
により各基羽根5aごとに上方へ巻き上げられつつ伝熱面2へ押しつけ
られ」るという作用は,形成された被乾燥物の膜を,各基羽根5aが次
にすくい上げる被乾燥物によって上方へ押し上げていく機能があること
を意味する。
(イ) 被告装置は,被乾燥物が,乾燥槽の内壁に付着しないように,羽根
で乾燥槽の内壁を掻き落としながら乾燥させるので,本件発明Aとは全
く逆の原理で動作する。
水分を含んだ被乾燥物が内壁に付着したときも,羽根が直ちにこれを
掻き落とし,被乾燥物が内壁に接触した状態が維持されることはない。
また,水分が少なくなった被乾燥物は,内壁に接触しても直ちに反射し
て内壁を離脱する。したがって,被告装置には上記「押し付け作用」は
全くない。
被告装置では,各羽根の間隔が広く離れており,いかなる動作条件を
与えても,被乾燥物の膜を形成して壁に押し付けながら上方へ押し上げ
てゆくという処理はできない。
したがって,被告装置は,本件発明Aの構成要件A5を充足しない。
イ 被告装置と本件発明Bの構成要件B6との対比
本件発明Bの構成要件B6は,本件発明Aの構成要件A5と記載は異な
るが,内容とすることは,被乾燥物を伝熱面に押し付ける作用と,各基羽
根5aがすくい上げる被乾燥物により,伝熱面に形成された被乾燥物の膜
が順次上方に送り出されていくという作用であって,全く同一である。
そうすると,本件発明Aの構成要件A5との比較で述べたとおり,被告
装置は , 押し付け作用 」を有さず ,被乾燥物の膜を上方に送り出していく
「
作用も有しないから,被告装置は,本件発明Bの構成要件B6を充足しな
い。
ウ 被告方法と本件発明Cの構成要件C3及びC4との対比
(ア) 本件発明Cの構成要件C3との対比
本件発明Cの構成要件C3には , 上記基羽根5aの回転に伴う遠心
「
力Pにより上記伝熱面2に押し付けられることにより,上記被乾燥物
3は薄膜状に上記伝熱面2に拡げられて乾燥せしめられ」とあるとお
り,遠心力により,被乾燥物が乾燥槽の内壁に「薄膜状に」拡げられ
ることが明記されている。
しかし,本件発明Aの構成要件A5との比較で述べたとおり,被告
装置は,乾燥槽の内壁に被乾燥物の膜が形成されないように構成され
ているから ,被告装置において用いられている被乾燥物の乾燥方法は ,
本件発明Cの構成要件C3を充足しない。
(イ) 本件発明Cの構成要件C4との比較
本件発明Cの構成要件C4は,被乾燥物を遠心力により乾燥槽の内
壁に「押し付け」て「薄膜」を形成し,この薄膜を,基羽根5aが次
にすくい上げる被乾燥物によって順次上方に送り出していく動作を意
味しており , 薄膜状 」という文言が用いられているように ,本件発明
「
Aの構成要件A5よりも,被乾燥物の状態が明確に記載されている。
しかし,本件発明Aの構成要件A5との比較で述べたとおり,被告
装置は , 押し付け作用 」を有さず ,被乾燥物の膜を上方に送り出して
「
いく作用も有しないから,被告装置において用いられている被乾燥物
の乾燥方法は,本件発明Cの構成要件C4を充足しない。
(ウ) 本件発明Cの原理との比較
本件発明Cは,本件発明A及びBの装置による処理方法の発明であ
るところ,被告装置は,乾燥槽の内面に付着しないように被乾燥物を
掻き落としながら乾燥させるので,本件発明Cとは全く異なる原理で
動作する。
したがって,被告装置において用いられている被乾燥物の乾燥方法
が本件発明Cに抵触しないことは明らかである。
(4) 争点4(被告装置及び被告方法は,本件各発明と均等か)について
(原告らの主張)
ア 仮に,本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成要件B1,本件発
明Cの構成要件C2において,同一高さに複数枚の基羽根が存在すること
が必要であるとされ,被告装置及び被告方法について,これら各構成要件
を充足しないとしても,以下に述べるとおり,被告装置及び被告方法は,
これら各構成要件と均等であるから,本件各発明の技術的範囲に属する。
すなわち,被告装置及び被告方法を均等の要件に当てはめると,①本件
各発明の本質的特徴は,従来1枚でつながっていた垂直螺旋回転羽根をば
らばらに切り離したことにあり,個々の基羽根の高さをどのように配置す
るかは本件各発明の本質的部分ではなく,②基羽根の高さを全部異なるよ
うに置き換えても本件各発明の目的を達することができ,本件各発明と同
一の作用効果を奏するものであり,③同一高さに複数枚の基羽根が存在す
る構成から,被告装置のように同一高さには1枚の基羽根しか配設しない
構成への置換は,当業者が容易に想到することができたものであるととも
に,④被告装置及び被告方法は,特許出願時における公知技術と同一又は
当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものでもなく,⑤特許出願
手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものでもない。
したがって,被告装置及び方法は,本件各発明と均等の範囲にある。
なお,②置換可能性について敷衍すると,本件各発明は,被乾燥物を遠
心力で伝熱面に押し付けることによって水分を効率良く乾燥させることを
目的としているが,遠心力で伝熱面に押し付けられるのは,結局,基羽根
に載って回転させられている被乾燥物なのであるから,乾燥効率に最も関
係があるのは基羽根の枚数である。したがって,基羽根の枚数が同じであ
る限り,高さが異なっても,乾燥効率に実質的に差は生じないのである。
イ また,仮に,本件各発明において,最下部に複数枚の基羽根があること
が必要であるとされ,被告装置及び被告方法について,本件各発明の技術
的範囲に属さないとしても,以下に述べるとおり,被告装置及び被告方法
は,本件各発明と均等であるから,本件各発明の技術的範囲に属する。
すなわち,課題③を解決するためには,被告が主張するように,最下段
の羽根を複数枚にしなくても,最下部の羽根を他の羽根に比して相対的に
長くすることによって( 角度を360度の範囲内で大きくすれば ) 乾燥槽
,
内底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量を多くす
ることができ,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることができる。
被告装置の最下部の基羽根は ,他の基羽根の約2倍の長さになっており ,
まさに,最下部の基羽根を他の基羽根より長くすることによって,被乾燥
物の底部からのすくい上げ機能を大きくしようとしたものといえる。
したがって,本件各発明について,最下部に複数枚の基羽根があること
が要件とされるとしても,基羽根を複数枚とする代わりに,最下部の基羽
根の長さを他の基羽根の長さの約2倍とした被告装置及び方法は,本件各
発明と均等である。
これを均等の要件に当てはめると ,①基羽根の長さについて , 平面から
「
見て360度の円周範囲」という以外は,本件各発明の本質的部分ではな
く,②最下部の基羽根を複数枚とすることに代えて,他の基羽根の約2倍
の長さのものに置き換えても本件各発明の目的を達することができ,同一
の作用効果を奏するものであり,③このような置換は,当業者が容易に想
到することができたものであるとともに,④被告装置の乾燥装置及び乾燥
方法は,特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願
時に容易に推考できたものでもなく,かつ,⑤特許出願手続において特許
請求の範囲から意識的に除外されたものでもない。
以上のとおり,被告装置及び方法は,本件各発明と均等である。
ウ 被告の反論に対する再反論
(ア) ①本件発明の本質的部分について
被告は,被乾燥物を複数枚の基羽根で上昇させることができるという
作用効果がまさに本件各発明の本質的部分であると主張するが,そもそ
も発明の構成要件ではない「 作用効果 」について ,発明の「 本質的部分 」
を問題にするのは失当である。本件各発明の「本質的部分」は,基羽根
について ,「平面から見て360度の円周範囲内」であることと ,「複数
枚」であることである。
(イ) ②置換可能性について
乾燥槽底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物を多
くし,これにより乾燥効率を向上させる手段は,最下部に複数枚の基羽
根を設けることに限定されない。なぜなら,乾燥槽底部に位置する被乾
燥物の全量に比して上昇する被乾燥物量は,結局,底部から最初の基羽
根に載せられる被乾燥物の量によって決まるのであるから,最下部の1
枚の基羽根の長さを他の基羽根の長さの約2倍とすることも,乾燥槽底
部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物量を多くし,こ
れにより乾燥効率を向上させるための技術的手段となり得るからであ
る。
また,被告は,最下部の羽根が1枚であれば,乾燥槽底部に位置する
被乾燥物を1周360度分すくい上げるためには回転軸を360度回転
させることが必要になるが,底部の羽根を2枚にすれば回転軸を180
度回転させるだけで360度分の被乾燥物をすくい上げることができる
などとして,原告らの主張は,本件各明細書の記載と明らかに矛盾する
と主張する。しかし,乾燥装置は,10度単位の回転が問題になるよう
な「精密機械」ではない。乾燥装置の乾燥槽の中心にある回転軸は,モ
ータによって連続的に回転させられるのであるから , 72度 」とか「 9
「
0度」とかの回転を問題にする技術的意味は全くない。
(ウ) ⑤意識的除外等の特段の事情について
本件各発明において,基羽根について「平面から見て360度の円周
範囲内 」であることと , 複数枚 」であることが要件とされている以上 ,
「
底部の羽根が1枚しかない装置をも含むことなのであり,これを除外し
ていないことは明らかである。
(被告の主張)
ア 最下段の羽根が1枚である限り,その羽根をいくら長くしても,被乾燥
物が上昇を開始する点は乾燥槽底部の円周上に1箇所しか存在せず,これ
では,乾燥槽内底部に位置する被乾燥物を1枚の垂直螺旋回転羽根で上昇
させていた従来技術の課題を解決することができないことは明らかであ
る。
仮に,最下段の羽根を長くすることで上記の作用効果が得られるという
のであれば,最下段の羽根を極限まで長くして1枚の垂直螺旋回転羽根と
した従来技術の方が,よりよく③の作用効果を実現できることになるので
あり,原告らの主張は明細書の記載と明らかに矛盾している。
したがって,最下段に1枚しか羽根を有しない装置が,最下段に複数枚
の羽根を有する装置と均等であるなどということあり得ず,原告らの均等
論の主張は,失当である。
イ 以下,均等の要件に沿って検討する。
(ア) 本件各発明の本質的部分について
本件各明細書は,従来技術では乾燥槽底部の被乾燥物を1枚の羽根で
一箇所から上昇させていたことを指摘して,これを「発明が解決しよう
とする課題」として紹介し,この「課題を解決する為の手段」として,
最下部の羽根を複数枚にする構成を採用した,と明記しており,最下部
の羽根が1枚であるか複数枚であるかは,まさに本件各発明が解決しよ
うとした課題そのものに関する差異である。
そして , 乾燥槽内底部に位置した被乾燥物を複数枚の基羽根で上昇さ
「
せることができる 」(本件発明A及びB)あるいは ,「被乾燥物を複数箇
所から巻き上げる 」 本件発明C )という作用効果は ,本件各発明に特有
(
の作用効果として本件各明細書に明記されており,本件各発明の本質的
部分をなしている。
したがって,最下部の羽根が1枚である装置が,均等論の第1要件を
満たさないことは明らかである。
(イ) また ,最下段に1枚の羽根しか有しない被告装置は , 乾燥槽内底部
「
に位置した被乾燥物を複数枚の基羽根で上昇させることができる 」 本件
(
発明A及びB )「 被乾燥物を複数箇所から巻き上げる 」 本件発明C )と
, (
いう作用効果を有しないのであるから ,被告装置は本件各発明と 同一 」
「
の作用効果を持ち得ない。したがって,均等論の第2要件も満たしてい
ない。
原告らは,最下部の1枚の基羽根の長さを他の基羽根の長さの約2倍
とすることも「③乾燥槽底部に位置する被乾燥物全量に比して上昇する
被乾燥物量を多くし,以って乾燥効率を向上させ」るための技術的手段
となり得ると主張する。
しかし,これは明細書の記載と明らかに矛盾する。最下部の羽根が1
枚であれば,乾燥槽底部に位置する被乾燥物を1周360度分すくい上
げるためには回転軸を360度回転させることが必要になるが,底部の
羽根を2枚にすれば回転軸を180度回転させるだけで360度分の被
乾燥物をすくい上げることができる。同様に,羽根を3枚にすれば12
0度,4枚にすれば90度,5枚にすれば72度回転させるだけで,1
周360度分の被乾燥物をすくい上げることができる。これこそが,本
件各発明が従来技術の課題を解決するために採用した手段なのであっ
て,最下部の羽根が1枚である限りこのような効果は絶対に得られない 。
(ウ) その他の要件について
複数枚必要な最下部の羽根を1枚とすることには,そもそも作用効果
上の置換可能性がないのであるから,均等論の第3要件や第4要件を論
ずることはできない。
なお,念のため,第5要件(意識的除外等の特段の事情)について言
及すると,原告Aは,本件各明細書において,底部の羽根が1枚しかい
ない装置を本件各発明より解決される「課題」を有する装置として紹介
しているのであるから,底部の羽根が1枚しかない装置が,本件各発明
の権利範囲から除外されていることは明白である。
(5) 争点4(原告らの損害額はそれぞれいくらか)について
(原告らの主張)
ア 原告A
被告が,平成14年1月ころから平成16年2月までの間に,製造・販
売したイ号ないしニ号物件の売上高は,少なくとも2億円である。
本件各発明の実施に対し,通常受けるべき金銭の額は,売上高の少なく
とも5%である。
したがって,原告Aは,被告に対して,2億円の5%に相当する100
0万円の損害賠償を請求することができる。
イ 原告オカドラ
原告オカドラは ,前記前提となる事実等(4)記載のとおり ,本件各発明に
ついて,独占的通常実施権を有しているが,被告が無断で本件各発明を実
施したことにより,これらの権利を侵害された。
このように独占的通常実施権が侵害された場合,専用実施権が侵害され
た場合の特許法102条1項,2項を類推適用すべきである。
したがって,原告オカドラは,被告に対し,被告が侵害行為によって得
た売上高に,原告オカドラ又は被告の利益率を乗じた額を,原告オカドラ
が被った損害の額として請求することができる。
被告による売上高は少なくとも2億円であり,原告オカドラ又は被告の
利益率は,売上高の少なくとも3割であるから,原告オカドラは,被告に
対して,6000万円の損害賠償を請求することができる。
(被告の反論)
原告らの主張は争う。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(被告装置は,本件発明Aの構成要件A1及び本件発明Bの構成要件
B1を充足するか 。被告方法は ,本件発明Cの構成要件C2を充足するか 。 の
)
1a(本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成要件B1及び本件発明C
の構成要件C2の「複数枚」の意義 。)について
(1) 本件各発明の特許請求の範囲に記載された「複数枚」という用語の技術的
意義について ,被告は , 乾燥槽底部の最下部に複数枚 」と解釈されるもので
「
あると主張し,他方,原告らは,羽根が複数枚配設されていることを示すに
すぎないものであり , 底部の羽根を複数枚にする 」というような文言は ,本
「
件各発明のいずれの特許請求の範囲にも記載されておらず,上記のような限
定を付すことは,本件各発明の技術的範囲を本件各明細書の発明の詳細な説
明や図面に具体的に開示されている実施例に限定して解釈することと等しく
なってしまう旨主張する。
この点,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範
囲の記載に基づいて定めなければならないが,特許請求の範囲の記載のみに
基づくのでは特許発明の技術的範囲が一義的に明らかにならないなどの場合
は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考
慮して,特許請求の範囲に記載された用語の技術的意義を解釈すべきである
(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条1項,2項 )。
本件各発明の特許請求の範囲に記載された「複数枚」の用語については,
1枚か否かという点での不明確さはないが,最下部の基羽根が複数枚である
ことの要否など羽根の設置場所及び具体的態様等については,特許請求の範
囲の記載からその内容が一義的に明らかであるとはいえないから,本件各明
細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参酌して,その技術的意
義を解釈すべきである。
そこで,以下,本件各明細書の記載について検討する。
(2) 本件各明細書における記載
ア 本件発明A
(ア) 本件明細書1においては,従来技術が有していた解決すべき課題の
1
つとして,
「③上記被乾燥物を上昇させるには,たった一枚の垂直螺旋回転羽根に
よって上昇させる。この為,上記乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の
全量に比して上昇する被乾燥物の量が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面
に接触させることが難しいと共に,底部に被乾燥物が溜った状態が続き
易く , 乾燥効率を向上させることが難しかった 。 ( 0008 】 前記課
」【 ,
題③)という点を指摘している。
(イ) 本件発明Aの目的について ,本件明細書1には , ③乾燥槽底部に位
「
置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物量を多くし,以って乾
燥効率を向上させ 」る技術を提供することにある旨記載されている( 0
【
011 】 。
)
(ウ) また,本件発明Aの作用効果について,本件明細書1においては,
以下のとおり記載されている(前記作用効果③ )。
「③上記複数枚の基羽根5aにより,上記乾燥槽4内底部に位置した
被乾燥物3を,複数枚の基羽根5a各々ごとに巻上上昇させることがで
きるから,上記乾燥槽4内底部に位置する被乾燥物3の全量に比して上
昇する被乾燥物3の量が多く,早期に被乾燥物3を伝熱面2に接触させ
易い 。 ( 0016 】
」【 )
「上記複数枚の基羽根により,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物
を複数枚の基羽根で上昇させることができ,上記乾燥槽内底部に位置す
る被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が多くなり,早期に被
乾燥物を伝熱面に接触させ易く ,以って乾燥効率を向上させ易い 。( 0
」【
043 】)
イ 本件発明B
(ア) 本件明細書2においては,従来技術が有していた解決すべき課題の
1
つとして,
「③上記被乾燥物を上昇させるには,一枚の垂直螺旋回転羽根によって
上昇させる。この為,上記乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量に
比して上昇する被乾燥物の量が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触
させることが難しいと共に,底部に被乾燥物が溜った状態が続き易く,
乾燥効率を向上させることが難しかった 」【 0008 】 という点が指摘
( )
されている。
(イ) 本件発明Bの目的について ,本件明細書2には , ③乾燥槽底部に位
「
置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物量を多くし,以って乾
燥効率を向上させ 」る技術を提供することにある旨記載されている( 0
【
011 】 。
)
(ウ) また,本件発明Bの作用効果について,本件明細書2においては,
以下のとおり記載されている。
「上記複数枚の基羽根5aにより,上記乾燥槽槽4内底部に位置した
被乾燥物3を,複数枚の基羽根5a各々ごとに巻上上昇させることがで
きるから,上記乾燥槽4内底部に位置する被乾燥物3の全量に比して上
昇する被乾燥物3の量が多く,早期に被乾燥物3を伝熱面2に接触させ
易い 。 ( 0017 】
」【 )
「上記複数枚の基羽根により,上記乾燥槽4内底部に位置した被乾燥
物を複数枚の基羽根で上昇させることができ,上記乾燥槽内底部に位置
する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が多くなり,早期に
被乾燥物を伝熱面に接触させ易く,以って乾燥効率を向上させ易い 。」
( 0045 】
【 )
ウ 本件発明C
(ア) 本件明細書3においては,従来技術が有していた解決すべき課題の
1
つとして,
「 上記従来技術によると ,次の点に於て幾つかの不具合を有する 。即ち ,
(1)上記被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まり箇所は一箇所であ
る。この為,上記被乾燥物の全量に比して上昇する量が少なく,早期に
被乾燥物を伝熱面に接触させることが難しいと共に,最下部に被乾燥物
が溜り易く , 乾燥効率を向上させることが難しかった 。 ( 0004 】
」【 )
という点が挙げられている。
(イ) そして,本件発明Cの目的について,本件明細書3には ,「(1)被乾
燥物を早期に伝熱面に接触させて乾燥効率を向上させ」る技術を提供す
ることにある旨記載されている( 0008 】 。
【 )
(ウ) また,本件発明Cの作用効果について,本件明細書3においては,
以下のとおり記載されている。
「 上記乾燥方法によると ,(1)被乾燥物3を複数箇所から巻き上げるこ
とにより ,被乾燥物3が早期に伝熱面2に接触し ,乾燥効率を上げる 。」
( 0010 】
【 )
「 以上詳述した如く ,本発明は請求項1記載によると ,(1)被乾燥物を
複数箇所から巻き上げることにより,常時上昇巻き上げられる被乾燥物
の量が多く,上記被乾燥物が早期に伝熱面に接触すると共に,最下部に
被乾燥物が溜りにくく,乾燥効率を向上させ易い 。 ( 0019 】
」【 )
(3) 本件各発明の「複数枚」の技術的意義についての検討
ア 本件発明A
(ア)a 前記のとおり,本件明細書1においては,従来技術が有していた
解
決すべき課題として課題③「上記被乾燥物を上昇させるには,たった
一枚の垂直螺旋回転羽根によって上昇させる。この為,上記乾燥槽内
の底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が少
なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることが難しいと共に,底
部に被乾燥物が溜った状態が続き易く,乾燥効率を向上させることが
難しかった 。 が挙げられている( 0008 】 とともに ,本件発明A
」 【 )
の作用効果として作用効果③「上記複数枚の基羽根により,上記乾燥
槽内底部に位置した被乾燥物を,複数枚の基羽根各々ごとに巻上上昇
させることができるから,上記乾燥槽内底部に位置する被乾燥物の全
量に比して上昇する被乾燥物量が多く,早期に被乾燥物を伝熱面に接
触させやすい」旨が記載されている( 0016 】 【0043 】 。
【 , )
これらの記載は,その内容を対比すれば明らかなように,本件発明
Aが,課題③を解決するものとして作用効果③を有することを示すも
のにほかならない。
ここで,課題③中に「たった一枚の垂直螺旋回転羽根によって上昇
させる。この為・・・ 」 「乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量
,
に比して」という記載( 0008 】
【 )からすれば,課題③は,従来技
術において,乾燥槽の底部に溜まった被乾燥物を上昇させる最下段の
羽根が1枚しかなかったために生ずるものと認識されていたことが明
らかである。そうすると,課題③を解決する手段としては,まず,最
下段の羽根を複数枚にする構成を採用することが,考えられるところ
である。
b そして ,本件明細書1の【 0016 】 作用効果③ )において ,本件
(
発明Aの乾燥装置に関して ,「乾燥槽4内底部に位置した被乾燥物3
を,複数枚の基羽根5a各々ごとに巻き上げ上昇させることができる
から,上記乾燥槽4内底部に位置する被乾燥物3の全量に比して上昇
する被乾燥物3の量が多く」と記載されており,これは,本件発明A
の装置が,乾燥槽内底部の被乾燥物を,複数枚の基羽根5aによって
複数箇所から巻き上げ得ることを示しているものといえる。
その一方で,本件発明Aの技術的範囲に,最下段に1枚しか羽根を
有しない装置が含まれていることをうかがわせる記載はない。また,
本件明細書1中には,本件発明Aとして,従来技術の1枚の垂直螺旋
回転羽根を途中で切断して複数枚とした構成の乾燥装置の開示はな
く,実施例においても,開示されているのはすべて最下段に複数枚の
基羽根が配設された乾燥装置のみであり,最下段に1枚しか羽根を有
しない装置は,課題③を有する従来技術として記載されている。そう
すると,本件発明Aの技術的範囲からは,最下段に1枚しか羽根を有
しない装置が除かれていると解すべきものである。
c これら本件明細書1の記載からすれば,課題③の解決策として,客
観的,技術的に底部の羽根を複数枚にする構成が不可欠であるか否か
はおくとしても,本件発明Aにおいては,課題③の解決策として,底
部の羽根を複数枚にする構成が採用されていることが明らかであると
いえる。
したがって,本件発明Aの構成要件A1の「複数枚」は,最下段に
複数枚の基羽根が配置されていることを意味すると解釈されるべきで
ある。
(イ) 以上に対し ,原告らは ,作用効果③は , 基羽根 」が「 複数枚 」ある
「
ことによる当然の作用効果,あるいは,具体的実施形態の効果にすぎな
いと主張する。
a (a) しかし ,本件発明Aの作用に関して , 上記乾燥槽4内底部に位置
「
した被乾燥物3を ,複数枚の基羽根5a各々ごとに巻上上昇させる 」
との記載があり( 0016 】 ,この記載によれば ,前記アbのとお
【 )
り,乾燥槽の「底部」に位置した被乾燥物を,複数の基羽根「各々
ごと」に巻上上昇させることが示されており,原告らの主張するよ
うな,装置全体としてみれば複数の基羽根が配設されているが,最
下部の基羽根が1枚しかない乾燥装置における作用効果を,当然の
作用効果として示したものと認めることは困難である。
(b) 本件発明Aは,乾燥槽内底部に位置する被乾燥物を「たった一枚
の」垂直螺旋回転羽根で上昇させていたことによって生じていた課
題③を解決する手段として,最下部の基羽根を複数枚にする構成を
採用したものであり,本件明細書1における作用効果③の記載は,
本件発明Aが課題③を解決する作用効果を有していることを明らか
にするものである。
このように,作用効果③の内容を検討するに当たって,課題③を
無視することはできないものであり,前記(ア)で検討したところか
ら
すれば,本件発明Aの作用効果③は,最下部の基羽根を複数枚にす
ることによって実現しようとした作用効果そのものであり , 基羽根
「
が複数枚あることによる当然の作用効果」とみることはできない。
b また ,本件明細書1の効果欄には , 以上詳述した如く ,請求項1記
「
載の発明は」という書き出しで,作用効果③を含む,請求項1の発明
の作用効果が説明されており ( 0041 】 ないし 【 0045 】 , 上
【 )「
記複数枚の基羽根により,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物を複
数枚の基羽根で上昇させることができ,上記乾燥槽内底部に位置する
被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が多くなり,早期に被
乾燥物を伝熱面に接触させ易く,以って乾燥効率を向上させ易い」と
いう記載 ( 0016 】 【 0043 】 は , いずれも本件発明Aの 【 作
【 , )
用 】 【効果】として記載されているものであって,本件明細書1に開
,
示された実施例の説明,あるいは,特定の実施形態の作用効果として
記載されているものではない。
したがって,作用効果③が,本件発明A自体の作用効果を述べたも
のであることは明らかであり,原告らが主張するような,具体的実施
形態の作用効果と解することはできない。
c 以上から,この点に関する原告らの主張は,採用できない。
イ 本件発明B及びC
本件発明B及びCの技術的範囲の解釈についても,本件発明Aについて
述べたところが当てはまる。
(ア) 本件発明B及びCが解決しようとした技術課題も,当該課題を解決
す
るための手段,作用効果も本件発明Aと全く同様である(本件明細書2
【 0008 】【 0011 】【 0017 】及び【 0045 】 本件明細書3
, , ,
【0004 】 【0008 】 【0010】及び【0019 】 。
, , )
(イ) また ,本件発明B及びCの作用効果( 本件明細書2の【 0017 】,
【 0045 】 本件明細書3の 【 0010 】 【 0019 】 についても ,
, , )
原告らが主張するように , 基羽根 」が「 複数枚 」あることによる当然の
「
作用効果とも,具体的実施形態の効果にすぎないとも解することはでき
ない。
したがって,本件発明B,本件発明Cの技術的範囲も,最下部に複数
枚の基羽根を配設した構成の装置又は方法に限定して解釈するべきであ
る。
ウ 本件発明Cの審査経過について
(ア) 以上検討したところから明らかなように,本件各発明の技術的範囲
は,最下部に複数枚の基羽根を配設した構成の装置又は方法に限定して
解釈すべきであるが ,原告らは ,本件発明Cの審査経過に照らし , 最下
「
部の複数箇所から」巻き上げることは,本件各発明の必須の構成要件で
はないと主張するので,この点について検討する。
(イ) 証拠( 認定事実の末尾に掲記した 。 によれば ,以下の事実が認めら
)
れる。
a 本件特許権3の当初明細書の記載
当初明細書の「 特許請求の範囲 」には ,以下の記載がされていた( 甲
14 )。
「 請求項1 】 遠心力Pによって伝熱面2に押し付けた被乾燥物3
【
を伝熱面2からの熱によって乾燥せしめる被乾燥物3の乾燥方法に於
て,上記被乾燥物3を最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつ
つ,遠心力Pによって伝熱面2に押し付け,上記被乾燥物3の巻き上
げ時に上記伝熱面2に接触して水分蒸発し,含水率の低くなった被乾
燥物3を,含水率の高い被乾燥物3と入れ換えるようにして上記巻き
上げた被乾燥物3を空間Aに面する蒸発面Fに移動させつつ,後から
巻き上げる被乾燥物3で先に巻き上げた被乾燥物3を上方へ押し,上
記被乾燥物3を伝熱面2に沿って連続して上昇させていくことを特徴
とする被乾燥物の乾燥方法 。」
b 拒絶理由通知
特許庁審査官は ,平成10年8月6日( 通知書起案日 ) 第1回拒絶
,
通知書により,本件3出願について,特許法29条2項,36条5項
2号及び6項により特許を受けることができないとの拒絶理由を通知
した(乙8。以下「本件第1回拒絶通知」という 。 。
)
本件第1回拒絶通知書においては,理由1として ,「引用文献1に
は,最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げることの記載はない 。
しかるに,粉粒物(被乾燥物に相当する)の乾燥のために,2つの螺
旋状の部剤が一体となった撹拌羽根を用いること 「 最下部の複数箇所
(
から上方に巻き上げる」ことに相当する)は例えば引用文献2に記載
されているように公知である 。してみれば ,被乾燥物の乾燥のために ,
引用文献2記載の「最下部の複数箇所から上方に巻き上げる」手段を
用いることに当業者は容易に想到し得たといえる」こと,理由2とし
て , 請求項1又は2に記載の『 最下部 』『 最上部 』『 最上段 』『 最下
「 , , ,
段 』 『最上段の工程』が意味する技術的事項が不明瞭である」こと,
,
及び,本件特許権3の「請求項1の記載は全体的に不明瞭である(特
に「最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ 」 「含水率の低くな
,
った被乾燥物3を,含水率の高い被乾燥物3と入れ換えるようにして
・・・空間に面する蒸発面に移動させ」との記載が意味する技術的事
項を明瞭に把握できない )」ことが指摘されていた。
同通知書に引用されている引用文献1(甲15)は,原告A考案に
係る垂直螺旋回転羽根を有する乾燥装置であるが,装置内に1枚の垂
直螺旋回転羽根を配設するものであって,被乾燥物を最下部の複数箇
所から上方に巻き上げることは開示されていない。一方,引用文献2
(甲16)は,竪型円錐形状の本体内部に,複数のリボン状撹拌羽根
を設けてなることを特徴とする乾燥装置であって,ポリエステル樹脂
ペレット等の被乾燥物を最下部の複数箇所から上方に巻き上げること
が開示されている。
c 拒絶理由通知に対する補正
本件第1回拒絶通知に対し,原告Aは,平成10年10月2日,本
件第1回補正により ,出願当初の請求項1を下記のように補正した 甲
(
17 )。
「乾燥槽4の内部に被乾燥物3を投入し,上記乾燥槽4内に配設さ
れた回転軸13によって回転せしめられる基羽根5aを回転させるこ
とにより,上記被乾燥物3を乾燥槽4の内周の伝熱面2に接触させて
乾燥させる被乾燥物の乾燥方法に於いて,
上記被乾燥物3は,平面から見て360度の円周範囲内の長さに形
成された複数の基羽根5aのそれぞれにより上方に巻き上げられると
共に,上記基羽根5aの回転に伴う遠心力Pにより上記伝熱面2に押
し付けられることにより,上記被乾燥物3は薄膜状に上記伝熱面2に
拡げられて乾燥せしめられ,而も上記それぞれの基羽根5aによる上
記被乾燥物3の上方への巻き上げと,上記遠心力Pによる伝熱面2へ
の押し付けによって上記被乾燥物3が薄膜状に拡げられる動作は,回
転方向Rと逆方向に向かって一端部10から他端部11に向かって斜
め上方に伸びるように形成されている基羽根5aの回転により,上記
被乾燥物3が,上記基羽根5aの一端部10から上端面12にのり,
上記上端面12に沿って他端部11へ移動し,上方へ向かわせしめら
れて巻き上げられつつ,上記遠心力Pによって上記伝熱面2に押し付
けられて薄膜状に拡げられる動作であることを特徴とする被乾燥物の
乾燥方法 。」
d 再度の拒絶理由通知
特許庁審査官は ,平成11年7月27日( 通知発送日 ) 本件第1回
,
補正に対し ,補正後の請求項1には , 円周範囲『 内の長さに形成され
「
た』複数の基羽根との記載」があるが,当初明細書には,基羽根の長
さに関する記述は存在せず,上記事項は,当初明細書又は図面の記載
から直接的かつ一義的には導き出せないことを拒絶理由として,本件
再拒絶通知をした(甲18 )。
e 再度の補正
本件再拒絶通知を受けた後,原告Aは,本件再補正により,本件特
許権3の請求項1を,現在の本件明細書3の記載と同一の記載に補正
した。
(ウ) 原告らは,本件発明Cについて,出願当初の「最下部の複数箇所か
ら上方に向けて巻き上げつつ」の要件を撤回し,基羽根についての要件
を「 平面から見て360度の円周範囲内 」であることと , 複数枚 」であ
「
ることに補正したという審査経過から見て , 最下部の複数箇所から上方
「
に向けて巻き上げつつ」は発明の必須の構成要件ではなくなったことが
明らかであると主張し,また,本件特許権3より後に出願された本件特
許権1及び2については ,請求項1において ,出願当初から , 最下部の
「
複数箇所から」というような記載は一切なされていないと主張する。
a (a) しかし,本件明細書3の【発明の詳細な説明】の【0001】に
は , 本発明は被乾燥物の乾燥方法に係わり ,更に詳しくは ,上記被
「
乾燥物を最下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げつつ,遠心力
によって伝熱面に押し付け乾燥させる乾燥方法に関する 。 と明記さ
」
れており,当初明細書(甲14)の【0001】にも,同一の記載
があり,本件第1回拒絶通知後も補正が加えられていない。
(b) また,本件明細書3の【発明が解決しようとする課題】に関する
【 0004 】には , 被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まり箇
「
所は一箇所である。この為,上記被乾燥物の全量に比して上昇する
量が少な」いという従来技術の課題が記載されているが,当初明細
書(甲14)でも ,【発明が解決しようとする課題】として ,「被乾
燥物を螺旋状に上昇させるときの始まり箇所は一箇所である。この
為,上記最下部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する量が少
なく」と記載されていた( 0004 】 。
【 )
この両記載を比較すると,当初明細書の「上記最下部に位置する
被乾燥物」という記載が,本件明細書3において「上記被乾燥物」
と補正されており,本件第1回拒絶通知の理由2を考慮したものと
思われる。しかし,同じ項において補正を行った部分があるにもか
かわらず , 被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まり箇所は一箇
「
所である 。この為 ,・・・ 」との記載は依然として補正されずに維持
されており,このことは,出願人である原告Aが,従来技術の課題
は,被乾燥物を螺旋状に上昇させるときの始まりが一箇所であるこ
とに起因すると考えていたことを示すものである。
(c) 本件明細書3の【 0010 】には , 被乾燥物3を複数箇所から巻
「
き上げることにより,被乾燥物3が早期に伝熱面2に接触し,乾燥
効率を上げる 。」との記載があるが,当初明細書にも ,「被乾燥物3
を複数箇所から巻き上げることにより,被乾燥物3が早期に伝熱面
2に接触し ,最下部に被乾燥物3が溜まりにくい 。 と記載されてい
」
た( 0011 】 。
【 )
この両記載の場合も,当初明細書の「最下部に被乾燥物3が溜ま
りにくい」という記載が,本件明細書3においては「乾燥効率を上
げる」とされており,本件第1回拒絶通知の理由2を考慮したもの
と思われるが,原告らの主張によれば,本来の補正すべき箇所であ
ると思われる「被乾燥物3を複数箇所から巻き上げることにより」
という記載自体は,同じ文章中であるにもかかわらず,何ら補正さ
れることなく維持されている
(d) さらに ,本件明細書3の , 以上詳述した如く ,本発明は請求項1
「
記載によると ,(1)被乾燥物を複数箇所から巻き上げることにより ,
常時上昇巻き上げられる被乾燥物の量が多く」との記載( 001
【
9 】 は ,当初明細書の「 以上詳述した如く ,本発明は請求項1記載
)
によると ,(1)被乾燥物を複数箇所から巻き上げることにより ,上記
最下部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が
多く」との記載( 0019 】
【 )を補正したものであるが,この補正
箇所においても , 最下部 」という文言は削られたものの ,原告らの
「
主張によれば補正されるべき「被乾燥物を複数箇所から巻き上げる
ことにより」との記載はそのまま維持されている。
(e) これら補正前後の明細書の記載からすれば,本件各特許権の出願
人である原告Aは,本件第1回補正及び本件再補正によって,乾燥
槽底部の最下段に複数枚の羽根を配設する被乾燥物の乾燥方法を撤
回したものではないと解するのが相当である。上記各補正後の請求
項1( 甲6 ,17 )において , 最下部の複数箇所から上方に巻き上
「
げつつ 」という文言を使用しなかったのは ,本件第1回拒絶通知 乙
(
8 )の理由2の 請求項1の記載は全体的に不明瞭である 特に 最
「 ( 「
下部の複数箇所から上方に向けて巻き上げ 」・・・との記載が意味す
る技術的事項を明瞭に把握できない ) 」との指摘を受けて,不明瞭
。
とされた文言を一部削除したことによるものと考えられる。
b 原告らは,本件明細書3に,これら「複数箇所から巻き上げる」趣
旨の表現が残っているのは,見落としであって,単なる消し忘れであ
ると主張するが,これほど端的に発明の技術的内容を具体的に説明し
ている記載が,補正を行った箇所と同じ項又は文章中にあるにもかか
わらず,何箇所にもわたって補正されずに維持されていることからす
れば,むしろ,原告Aは,乾燥物を「複数箇所から巻き上げる」構成
を,本件発明Cにおける従来課題を解決する手段として位置付けてい
たというべきである。
(エ) 以上検討したとおり,本件発明Cの審査経過に関する原告らの主張
は,採用できない。
エ 被告装置及び被告方法との比較
被告装置の構成については,原告ら・被告間で争いがあるが,いずれの
主張する構成においても,被告装置は,最下段に1枚の羽根しか有してい
ない乾燥装置とされるから,本件発明Aの構成要件A1又は本件発明Bの
構成要件B1を充足しないことが明らかである。
また,被告方法についても,上記のとおり,結局,最下部に1枚の羽根
しか有していない乾燥装置において用いられている乾燥方法であるから,
本件発明Cの構成要件C2を充足しないことは同様である。
2 争点4(被告装置及び被告方法は,本件各発明と均等か)について
(1) 原告らは,仮に,本件各発明において,最下部に複数枚の基羽根があるこ
とが必要であるとしても,被告装置及び被告方法は,本件各発明の構成と均
等である旨主張する。
(2) しかし,これまで検討したところによれば,本件各発明と被告製品及び被
告方法との異なる部分である「最下段に複数枚の基羽根を配設した」という
構成(方法)が,本件各発明の本質的部分であることは明らかであるから,
これを充足しない被告装置及び被告方法が,本件各発明の構成と均等である
ということはできない。
ア すなわち,特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載
された特許発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決のための手段を基
礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するものと解されると
ころ,前記1で検討したとおり,本件各発明は,被乾燥物を螺旋状に上昇
させるときの始まりが一箇所であったために課題③が生じていたという認
識のもと,同課題を解決するための手段として,最下部の羽根を複数枚に
する構成を採用することにより,作用効果③を有し,同課題を解決するに
至ったものであるから,最下部の羽根を複数枚とする構成は,まさに本件
各発明に特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をな
す特徴的部分に当たるというべきである。
イ これに対し,原告らは,本件各発明の「本質的部分」は,基羽根につい
て,「平面から見て360度の円周範囲内」であることと ,「複数枚」であ
ることであるとして,課題③を解決するためには,最下部の羽根を複数枚
にしなくても,最下部の羽根を他の羽根に比して相対的に長くすることに
よって 角度を360度の範囲内で大きくすれば ) 乾燥槽内底部に位置す
( ,
る被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量を多くすることができる
と主張する。
確かに,課題③を解決するための技術的手段は,客観的に検討すれば,
最下部の羽根を複数枚にする構成以外にあり得ないというものではないと
解される。しかし,前記1で述べたとおり,本件各明細書の記載に照らせ
ば,本件各発明においては,課題③を解決するための手段として,最下部
の羽根を複数枚にする構成を採用したことが認められるのであって,この
構成を採用したことが,まさに本件各発明特有の課題解決のための手段を
基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分というべきものである。
原告らは ,本件各発明の本質的部分は ,基羽根について , 平面から見て
「
360度の円周範囲内 」であることと , 複数枚 」であることであると主張
「
するが,これら原告らの主張する本質的部分が課題③の解決にどのように
役立つのか,本件各明細書の記載からは不明であるし,最下部の羽根を他
の羽根に比して相対的に長くするという構成は,本件各明細書において,
実施例として開示されてないだけでなく,その示唆もなされておらず,本
件各発明において,課題③を解決するための手段として,そのような構成
を採用しているとは到底認められない。
したがって,本件各発明の本質的部分に関する原告らの主張は,採用で
きない。
(3) 以上によれば,最下部に複数枚の基羽根を配設する部分は,本件各発明の
本質的部分に当たるというべきであるから,これを充足しない被告装置及び
被告方法が,本件各発明と均等であるということはできない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,均等についての原告ら
の主張は理由がない。
第4 結論
以上の次第で ,その余の争点について判断するまでもなく ,原告らの請求は ,
いずれも理由がないから ,これらを棄却することとし ,主文のとおり判決する 。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清 水 節
裁判官 山 田 真 紀
裁判官 片 山 信
(別紙)
物件目録
1 イ号方法
a1 乾燥槽4の内部に被乾燥物3を投入し,上記乾燥槽4内に配設された回転
軸13によって回転せしめられる基羽根5aを回転させることにより,上記
被乾燥物3を乾燥槽4の内周の伝熱面2に接触させて乾燥させる被乾燥物の
乾燥方法であって,
a2 上記被乾燥物3は,平面から見て360度の円周範囲の中で複数枚配設さ
れている基羽根5aのそれぞれにより上方に巻き上げられると共に,
a3 上記基羽根5aの回転に伴う遠心力により上記伝熱面2に押し付けられる
ことにより,上記被乾燥物3は薄膜状に上記伝熱面2に拡げられて乾燥せし
められ,
a4 而も上記それぞれの基羽根5aによる上記被乾燥物3の上方への巻き上げ
と,上記遠心力による伝熱面2への押し付けによって上記被乾燥物3が薄膜
状に拡げられる動作は,回転方向Rと逆方向に向かって一端部18から他端
部19に向かって斜め上方に伸びるように形成されている基羽根5aの回転
により,上記被乾燥物3が,上記基羽根5aの一端部18から上端面8にの
り,上記上端面8に沿って他端部19へ移動し,上方へ向かわせしめられて
巻き上げられつつ,上記遠心力によって上記伝熱面2に押し付けられて薄膜
状に拡げられる動作である,
a5 被乾燥物の乾燥方法。
(図面の説明)
図1の ( a ) ( b ) ( c ) ( d ) は , 乾燥層の形状と回転巻上羽根の構造がそれ
, , ,
ぞれ異なる,被告製品である乾燥装置の内部を透視して見た図。
図2は,図1の乾燥装置の使用時における被乾燥物の状態を示す断面図。
(符号の説明)
1 乾燥装置
2 伝熱面
3 被乾燥物
4 乾燥槽
5 回転巻上羽根
5a 基羽根
6 蒸気による伝熱手段
8 平坦面
10a 平坦面8の外周端
18 基羽根の一端部
19 基羽根の他端部
U クリアランス
R 基羽根の回転方向
2 イ号物件
b1 被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱手段からの熱を
被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱面2及び底面の伝熱
面2’と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2,2’に蒸気による
熱を伝える伝熱手段と,上記乾燥槽4内に於て重力方向に沿って配設された
回転軸に取付けられ回転可能に配設されていて,それぞれが平面から見て3
60度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aから成る回転巻
上羽根5とから成る乾燥装置であって,
b2 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aは,上記被乾燥物3を上記各基羽根5
aの一端部18から載せて他端部19に移動させ,この他端部19から巻き
上げることができるような長さを有する細長形状の平坦面8を有し,
b3 この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面2との間に,各基羽根5aの回
転を許容する為のクリアランスUが形成されるように,上記外周端10aは
上記伝熱面2に沿って弧状に形成されていると共に,
b4 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面は,その回転方向Rと逆方向
に向って斜め上方に伸びるように形成され,
b5 而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根5aの他端部19の高さ位
置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に位置する他の基羽根5aの一端
部18の高さ位置より高い位置に位置し,
b6 上記被乾燥物3を複数枚の基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,遠心力P
によって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構成されており,
b7 複数枚の基羽根5aは高さがすべて異なり,平面から見て三角形の頂点に
位置するように配置されているとともに,最下部の基羽根はその他の基羽根
の約2倍の長さを有している,
b8 回転巻上羽根を有する乾燥装置。
(図面の説明)
図3は,被告製品である乾燥装置の内部を透視して見た図。
図4は,図3の乾燥装置の使用時における被乾燥物の状態を示す断面図。
(符号の説明)
1 乾燥装置
2,2’ 伝熱面
3 被乾燥物
4 乾燥槽
5 回転巻上羽根
5a 基羽根
6 蒸気による伝熱手段
8 平坦面
10a 平坦面8の外周端
18 基羽根の一端部
19 基羽根の他端部
U クリアランス
R 基羽根の回転方向
図3
図4
3 ロ号物件
c1 被乾燥物3を投入する内部が上方に向って径が広くなっている円錐台形状
の乾燥槽4と,伝熱手段からの熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円錐台形
状の内壁面の伝熱面2及び底面の伝熱面2’と,上記乾燥槽4の周囲に位置
し,上記伝熱面2,2’に蒸気による熱を伝える伝熱手段と,上記乾燥槽4
内に於て重力方向に沿って配設された回転軸に取付けられ回転可能に配設さ
れていて,それぞれが平面から見て360度の円周範囲内の長さに定められ
た複数枚の基羽根5aから成る回転巻上羽根5とから成る乾燥装置であっ
て,
c2 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aは,上記被乾燥物3を上記各基羽根5
aの一端部18から載せて他端部19に移動させ,この他端部19から巻き
上げることができるような長さを有する細長形状の平坦面8を有し,
c3 この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面2との間に,各基羽根5aの回
転を許容する為のクリアランスUが形成されるように,上記外周端10aは
上記伝熱面2に沿って弧状に形成されていると共に,
c4 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面は,その回転方向Rと逆方向
に向って斜め上方に伸びるように形成され,
c5 而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根5aの他端部19の高さ位
置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に位置する他の基羽根5aの-端
部18の高さ位置より高い位置に位置し,
c6 上記被乾燥物3を複数枚の基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,遠心力P
によって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構成されており,
c7 複数枚の基羽根5aは高さがすべて異なり,平面から見て三角形の頂点に
位置するように配置されているとともに,最下部の基羽根はその他の基羽根
の約2倍の長さを有している,
c8 回転巻上羽根を有する乾燥装置。
(図面の説明)
図5は,被告製品である乾燥装置の内部を透視して見た図。
図6は,図5の乾燥装置の使用時における被乾燥物の状態を示す断面図。
(符号の説明)
1 乾燥装置
2,2’ 伝熱面
3 被乾燥物
4 乾燥槽
5 回転巻上羽根
5a 基羽根
6 蒸気による伝熱手段
8 平坦面
10a 平坦面8の外周端
18 基羽根の一端部
19 基羽根の他端部
U クリアランス
R 基羽根の回転方向
図5
図6
4 ハ号物件
d1 被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱手段からの熱を
被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円筒形状の内壁面の伝熱面2及び底面の伝熱
面2’と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2,2’に蒸気による
熱を伝える伝熱手段と,上記乾燥槽4内に於て重力方向に沿って配設された
回転軸に取付けられ回転可能に配設されていて,それぞれが平面から見て3
60度の円周範囲内の長さに定められた複数枚の基羽根5aから成る回転巻
上羽根5とから成る乾燥装置であって,
d2 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aは,上記被乾燥物3を上記各基羽根5
aの一端部18から載せて他端部19に移動させ,この他端部19から巻き
上げることができるような高さを有する細長形状の平坦面8を有し,
d3 この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面2との間に,各基羽根5aの回
転を許容する為のクリアランスUが形成されるように,上記外周端10aは
上記伝熱面2に沿って弧状に形成されていると共に,
d4 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面は,その回転方向Rと逆方向
に向って斜め上方に伸びるように形成され,
d5 而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根5aの他端部19の高さ位
置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に位置する他の基羽根5aの一端
部18の高さ位置より高い位置に位置し,
d6 上記被乾燥物3を複数枚の基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,遠心力P
によって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構成されており,
d7 上記各回転巻上羽根5は,全体としてほぼ螺旋形をなすように配置され,
最下部の基羽根はその他の基羽根の約2倍の長さを有している,
d8 回転巻上羽根を有する乾燥装置。
(図面の説明)
図7は,被告製品である乾燥装置の内部を透視して見た図。
図8は,図7の乾燥装置の使用時における被乾燥物の状態を示す断面図。
(符号の説明)
1 乾燥装置
2,2’ 伝熱面
3 被乾燥物
4 乾燥槽
5 回転巻上羽根
5a 基羽根
6 蒸気による伝熱手段
8 平坦面
10a 平坦面8の外周端
18 基羽根の一端部
19 基羽根の他端部
U クリアランス
R 基羽根の回転方向
図7
図8
5 ニ号物件
e1 被乾燥物3を投入する内部が上方に向って径が広くなっている円錐台形状
の乾燥槽4と,伝熱手段からの熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4の円錐台形
状の内壁面の伝熱面2及び底面の伝熱面2’と,上記乾燥槽4の周囲に位置
し,上記伝熱面2,2’に蒸気による熱を伝える伝熱手段と,上記乾燥槽4
内に於て重力方向に沿って配設された回転軸に取付けられ回転可能に配設さ
れていて,それぞれが平面から見て360度の円周範囲内の長さに定められ
た複数枚の基羽根5aから成る回転巻上羽根5とから成る乾燥装置であっ
て,
e2 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aは,上記被乾燥物3を上記各基羽根5
aの一端部18から載せて他端部19に移動させ,この他端部19から巻き
上げることができるような長さを有する細長形状の平坦面8を有し,
e3 この平坦面8の外周端10aと上記伝熱面2との間に,各基羽根5aの回
転を許容する為のクリアランスUが形成されるように,上記外周端10aは
上記伝熱面2に沿って弧状に形成されていると共に,
e4 上記回転巻上羽根5の各基羽根5aの平坦面は,その回転方向Rと逆方向
に向って斜め上方に伸びるように形成され,
e5 而も複数枚の基羽根5aの内の,一つの基羽根5aの他端部19の高さ位
置は,上記回転方向Rと逆方向に向って隣に位置する他の基羽根5aの一端
部18の高さ位置より高い位置に位置し,
e6 上記被乾燥物3を複数枚の基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,遠心力P
によって伝熱面2に押し付け,被乾燥物を乾燥させるよう構成されており,
e7 上記各回転巻上羽根5は,全体としてほぼ螺旋形をなすように配置され,
最下部の基羽根はその他の基羽根の約2倍の長さを有している,
e8 回転巻上羽根を有する乾燥装置。
(図面の説明)
図9は,被告製品である乾燥装置の内部を透視して見た図。
図10は,図9の乾燥装置の使用時における被乾燥物の状態を示す断面図。
(符号の説明)
1 乾燥装置
2,2’ 伝熱面
3 被乾燥物
4 乾燥槽
5 回転巻上羽根
5a 基羽根
6 蒸気による伝熱手段
8 平坦面
10a 平坦面8の外周端
18 基羽根の一端部
19 基羽根の他端部
U クリアランス
R 基羽根の回転方向
図9
図10
(別紙)
被告主張被告製品目録
1 縦型円筒状または円錐台形状をなし,被乾燥物の投入口1及び排出口10を
有する乾燥室4と,
2 前記乾燥室4内を加熱する蒸気ヒーター5と,
3 被乾燥物から発生し前記乾燥室4内に充満する蒸気を排出する蒸気排出口3
と
4 前記乾燥室4内の被乾燥物と蒸気が外部に飛散することを防止する蓋2と,
5 前記乾燥室4の中心に立設された回転軸7と,
6 前記回転軸7を回転駆動するモーター11と,
7 前記回転軸7に ,それぞれ互いに異なる高さに設けられた複数のアーム6と ,
8 前記アーム6に取り付けられ,回転方向に向かって下向きに傾斜する上面及
び前記回転軸7の回転により前記乾燥室4の内周面に付着した被乾燥物を掻き
落す掻き落し縁部を有する複数の撹拌羽根8と,
9 前記アーム6の最下部に取り付けられ,前記乾燥室1の底面に位置する被乾
燥物をすくい上げる最下段の1枚の撹拌羽根9とを備え,
10 前記撹拌羽根8及び9の各掻き落し縁部により前記乾燥室4の内周面に付着
した被乾燥物を掻き落とす上下方向の各範囲が,前記乾燥室4の内周面の上下
方向に亘って連続しており,かつ,前記撹拌羽根8及び9が同一の高さに複数
枚は存在しないことを特徴とする乾燥装置。
被告製品図面
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