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平成17(行ケ)10481審決取消請求承継参加事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成18年3月30日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
対象物 超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性負イオン空気発生装置
法令 特許権
特許法17条の24回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決16回
実施4回
主文 1 参加人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は参加人の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 参加人は,発明の名称を「超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性 負イオン空気発生装置」とする発明につき,平成11年2月2日に特許を出願 (特願平11-60580号。以下「本願」という。)した。本願について, 平成14年3月20日付けで拒絶理由通知がされ,参加人が同年5月13日付 けで手続補正をしたが,「平成14年5月13日付けでした手続補正は,特許 法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」旨を理由として, 同年6月13日付けで最後の拒絶理由通知がされ,これに対し,参加人が同年 7月10日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,本件補正 によっても拒絶の理由が依然として解消されていないとして,最後の拒絶理由 通知書で示した拒絶の理由により平成15年4月10日付けの拒絶査定がされ た。参加人は,この拒絶査定を不服として,同年5月15日,審判請求をした。

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判決文

平成17年(行ケ)第10481号 審決取消請求承継参加事件
平成18年3月14日口頭弁論終結
判 決
参加人(日本政策投資銀行承継人)
アイシーシー株式会社
同訴訟代理人弁護士 品 川 澄 雄
同訴訟代理人弁理士 宮 本 隆 司
脱退原告 日 本 政 策 投 資 銀 行
被 告 特許庁長官 中嶋 誠
同指定代理人 水 谷 万 司
同 高 木 彰
同 岡 本 昌 直
同 宮 下 正 之
主 文
1 参加人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は参加人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 参加人
(1) 特許庁が不服2003-8558号事件について平成17年1月5日にし
た審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
参加人は,発明の名称を「超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性
負イオン空気発生装置」とする発明につき,平成11年2月2日に特許を出願
(特願平11-60580号。以下「本願」という。)した。本願について,
平成14年3月20日付けで拒絶理由通知がされ,参加人が同年5月13日付
けで手続補正をしたが,「平成14年5月13日付けでした手続補正は,特許
法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」旨を理由として,
同年6月13日付けで最後の拒絶理由通知がされ,これに対し,参加人が同年
7月10日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,本件補正
によっても拒絶の理由が依然として解消されていないとして,最後の拒絶理由
通知書で示した拒絶の理由により平成15年4月10日付けの拒絶査定がされ
た。参加人は,この拒絶査定を不服として,同年5月15日,審判請求をした。
特許庁がこの審判請求を不服2003-8558号事件として審理中,参加
人は脱退原告との間で,平成16年1月16日付け譲渡担保権設定契約を締結
し,本願に係る特許を受ける権利を譲渡担保に供し,被告に対し権利移転の届
出をした。審理の結果,平成17年1月5日,脱退原告を請求人として「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決がされ,同月24日,審決の謄本が
脱退原告に送達された。脱退原告は,同年2月21日,東京高等裁判所にこの
審決の取消を求める訴えを提起した(平成17年(行ケ)第10258号審決取
消請求事件)。その後,平成17年3月17日,脱退原告は前記の譲渡担保契
約を解除し,参加人に本願に係る特許を受ける権利を譲渡し,そのころ,被告
に対しその旨の届出をした。そこで,平成17年5月18日,参加人は,権利
承継による参加を申し立てて(本件),前記審決取消請求訴訟に参加し,同年
7月11日,脱退原告は,被告の同意を得て同訴訟から脱退した。
2 特許請求の範囲
(1) 本願の願書に最初に添付した明細書(以下,図面を含めて「本願当初明細
書」という。)における特許請求の範囲(以下「本願当初発明」という。)
は,下記のとおりである。

【請求項1】 風化珊瑚粉を焼成する珊瑚焼成手段,該珊瑚焼成手段により
造成した珊瑚セラミックを水と反応させる脱着水容器,該脱着水容器内で上
記の珊瑚セラミックを水と反応させ作られたアルカリイオン水に超音波発振
器の振動力を与える超音波発振器,より構成されることを特徴とした超音波
振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性負イオン空気発生装置。
【請求項2】 風化珊瑚粉を焼成する珊瑚焼成手段,該珊瑚焼成手段により
造成した珊瑚セラミックを水と反応させる脱着水容器,該脱着水容器内で上
記の珊瑚セラミックを水と反応させ作られたアルカリイオン水に超音波発振
器の振動力を与える超音波発振器,該超音波発振器により放出された負イオ
ン空気(アルカリイオン化した水分子を含んだ空気)に風力を与えるファン,
より構成されることを特徴とした超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生
理活性負イオン空気発生装置。
【請求項3】 風化珊瑚粉を焼成して造成された珊瑚セラミックを水と反応
させる脱着水容器,該脱着水容器内で上記の珊瑚セラミックを水と反応させ
作られたアルカリイオン水に超音波発振器の振動力を与える超音波発振器,
より構成されることを特徴とした超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生
理活性負イオン空気発生装置。
(2) 本件補正は,平成14年6月13日付けの最後の拒絶理由通知で指摘され
た記載について,次のとおり補正したものである。
ア 「脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応する水につながっている水(すな
わち同一水域内の水,以下同じ)に上記の超音波発振器の振動力を与え」
(請求項1の記載中)
イ 「脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応する水につながっている水に上記
の超音波発振器の振動力を与え」(請求項2及び3の記載中)
ウ 「脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応する水につながっている水に超音
波振動器の振動力を与え」(段落0010の記載中)
エ 「この測定によるイオン発生のデーターは,以下に述べるごとくに格段に
良好なものである。これについては,この技術分野においての従来技術には
ない上記のごとくの技術的構成要件を強調する。まず,その第1にそのイオ
ン発生に使用した風化珊瑚粉を焼成して造成した珊瑚セラミック1aを使用
したことにある。そして,その第2には,その脱着水容器2内の珊瑚セラミ
ック1aに反応される水Wにつながっている水Wに上記の超音波発振器3の
振動力を与えるようになっていることである。」(段落0031の記載中)
(3) 本件補正後の本願に係る特許請求の範囲は,下記のとおりである。

【請求項1】 風化珊瑚粉を焼成して造成した珊瑚セラミック,該珊瑚セラ
ミックを水と反応させる脱着水容器,該脱着水容器内の珊瑚セラミックに反
応する水につながっている水(すなわち同一水域内の水,以下同じ)に上記
の超音波発振器の振動力を与え負イオンの霧を発生させる超音波発振器,よ
り構成させることを特徴とした超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理
活性負イオン空気発生装置。
【請求項2】 風化珊瑚粉を焼成して造成した珊瑚セラミック,該珊瑚セラ
ミックを水と反応させる脱着水容器,該脱着水容器内の珊瑚セラミックに反
応する水につながっている水に上記の超音波発振器の振動力を与え負イオン
の霧を発生させる超音波発振器,該超音波発振器により放出された負イオン
空気(アルカリイオン化した水分子を含んだ空気)に風力を与えるファン,
より構成させることを特徴とした超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生
理活性負イオン空気発生装置。
【請求項3】 風化珊瑚粉を焼成する珊瑚焼成手段,該珊瑚焼成手段により
造成した珊瑚セラミックを水と反応させる脱着水容器,該脱着水容器内の珊
瑚セラミックに反応する水につながっている水に上記の超音波発振器の振動
力を与え負イオンの霧を発生させる超音波発振器,より構成させることを特
徴とした超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性負イオン空気発生
装置。
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件補正は,本願当初明細書
に記載した事項の範囲内でなされた補正であるとは認められないので,特許法
17条の2第3項に規定する要件を満たしていない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件補正のうち,本願当初明細書に記載
した事項の範囲内でされていない補正として,以下の点を指摘した。
本件補正のうち,特にアの記載は,超音波発振器からの振動力が脱着水容器
内の水にも波及して該容器内において負イオンを発生させる場合を含める補正
であるところ,本願当初明細書には,脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応す
る水につながっている水,すなわち,脱着水容器内の水と同一水域内の水が記
載も示唆もされていないし(スプリング式水流入口を介する以上,水流通路内
の水を脱着水容器内の水と同一水域内の水とみることはできない。),超音波
発振器からの振動力が脱着水容器内の水にも波及して該容器内において負イオ
ンを発生させるような場合の記載も示唆もない。
第3 参加人主張の取消事由の要点
審決は,本件補正が特許法17条の2第3項の要件を満たしていないと誤っ
て判断したものであり,取り消されるべきである。
1 超音波発振器からの振動力の及ぶ範囲
本件補正は,超音波発振器6の働きが①「同発振器の真上の水」及び②「脱
着水容器2内の水」のいずれにも及ぶことを明確にするものであり,超音波振
動の働きが上記①,②のいずれにも及ぶことは,本願当初明細書に記載されて
おり,新規事項ではない。
すなわち,本願当初明細書の【0013】に「炭酸カルシウムを含む風化珊
瑚セラミックは水中で(式1)のように外力があればカルシウムイオンと炭酸
イオンに解離する」と記載され,【0017】には「外力として超音波振動力
によって」と記載されているから,風化珊瑚セラミックと超音波振動のかかっ
ている水とでイオン解離というイオン化の反応を起こすことが明記されている。
このように「超音波振動力」は,アルカリイオン水を霧滴化するだけでなく,
珊瑚セラミックとその水が反応し,その水をアルカリイオン水化するものであ
る。したがって,超音波振動が脱着水容器内の水にも働くことは,本願当初明
細書に明記されている。
そして,本願当初明細書の【0028】に「珊瑚セラミック1aを・・・水
Wと反応させ,その水Wをアルカリイオン化する」,【0029】に「脱着水
容器2内で上記の珊瑚セラミック1aを水Wと反応させ作られたアルカリイオ
ン水」とある「反応」は,【0013】,【0017】にあるように「超音波
の介在による反応」であり,このアルカリイオン水化の反応が脱着水容器2内
で生じていることが明示されている。さらに,本願当初明細書の【0032】
には「600℃で焼成した珊瑚セラミックを水の中に入れ(pH7.4~7.
8),超音波周波数が2.4MHzで振動させて」とあり,珊瑚セラミックの
入った水に超音波が働いていることを示しているし,【0033】では「外力
による負イオン数」と明記され,その超音波の働きで負イオンが発生している
ことを示している。
2 「同一水域内の水」
「同一水域」とは,「その超音波振動力が働く水域」のことを明瞭化したも
のであって,「水の機械的な結合」などを示すものではない。すなわち,この
超音波は,その空気流通路8のある水域の水Wを霧滴化するという働きばかり
ではなく,脱着水容器2内の水域の水Wにも働き,イオン解離する作用をして
いるということであって,このことは,前記1のとおり,本願当初明細書に明
確に記載されている。
水流通路内の水と脱着水容器内の水との間には,「開閉が可能であるスプリ
ング式水流入口」(本願当初明細書【0030】)があるが,この「スプリン
グ式水流入口」での弁は,水流調整弁であり,水を断続的に流すのであって,
水路は切離されておらず,超音波も遮断されることはない。超音波発振器から
の振動力が及ぶ以上,水流通路内の水と脱着水容器内の水とは,「つながって
いる水」すなわち「同一水域内の水」である。
第4 被告の反論の骨子
審決の認定判断は正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 超音波発振器からの振動力の及ぶ範囲について
本願当初明細書に,超音波発振器6の働きが①「同発振器の真上の水」及び
②「脱着水容器2内の水」のいずれにも及ぶことは記載されていない。
参加人は本願当初明細書の【0013】,【0017】の記載を挙げるが,
同明細書の【0013】~【0026】の記載は,本願当初発明の背景となる
原理を一般的に漠然と記載したにすぎないものである。
【0027】以下の記載,特に【0029】の記載及び図面,特に図2によ
れば,負イオン空気が発生する位置は,超音波発振器6とファン7が備えられ
たイオン空気室Hの内部であって,それ以外の場所で発生することは開示も示
唆もされていない。
本件補正は,「脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応する水につながってい
る水(すなわち同一水域内の水)に超音波発振器の振動力を与え負イオンの霧
を発生させる超音波発振器」(本件補正後の請求項1)と補正するものである
から,仮に参加人が主張するとおり,同一水域内の水が脱着水容器内の水とす
ると,脱着水容器内の水に超音波発振器の振動力を与え負イオンの霧を発生さ
せることになるが,このような場合の記載も示唆もないことは,本願当初明細
書の記載,特に図2が図示する構成からみて明らかである。
2 「同一水域内の水」について
「水域」とは「水面上の区域」を意味し,「同一」とは「①同じであること。
別物でないこと,②ひとしいこと。差のないこと。」を意味するものであるか
ら,「同一水域内の水」とは,水面上の区域が同じである水,水面上の区域に
差のない水を意味する。本願当初明細書には,「同一水域内の水」という記載
がないだけでなく,実質的にも水面上の区域を同じくする水が記載されていた
ものとみることはできない。
本願当初明細書の図2の水流通路5内の水及びイオン空気室Hの底部に貯ま
った水は,スプリング式水流入口を介した位置関係にあるから,脱着水容器2
内の水と水面を同じくするものでもないし,水面に差がないものでもない。し
たがって,これらは,いずれも,脱着水容器内の水と同一水域内の水ではない
というべきである。
第5 当裁判所の判断
1 本件補正の内容
(1) 本願当初明細書(甲第1号証)及び本件補正の手続補正書(甲第9号証)
によれば,本件補正のうち前記アは,本願当初明細書の請求項1の「該脱着
水容器内で上記の珊瑚セラミックを水と反応させ作られたアルカリイオン水
に超音波発振器の振動力を与える超音波発振器」との記載を,「該脱着水容
器内の珊瑚セラミックに反応する水につながっている水(すなわち同一水域
内の水,以下同じ)に上記の超音波発振器の振動力を与え負イオンの霧を発
生させる超音波発振器」との記載に補正するものである。
(2) 審決は,本件補正の「アの記載は,脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応
する水につながっている水,すなわち脱着水容器内の珊瑚セラミックに反応
する水と同一水域内の水に超音波発振器の振動力を与えるものであって,同
一水域内の水である以上,超音波発振器からの振動力は,脱着水容器内の水
にも波及して該容器内において負イオンを発生させる場合を含める補正であ
る。」と認定した上で,そのことは本願当初明細書に記載も示唆もされてい
ないとして,本件補正は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たして
いないと判断したものである。
これに対し,参加人は,本件補正は,超音波発振器6の働きが①「同発振
器の真上の水」及び②「脱着水容器2内の水」のいずれにも及ぶことを明確
にするものであるとした上で,超音波振動の働きが上記①,②のいずれにも
及ぶことは,本願当初明細書に記載されており,新規事項ではないと主張す
るものであって,本件補正のアの記載が,超音波発振器6の振動力が脱着水
容器2内の水に及ぶことを含めることを内容とする補正であることについて
は当事者間に争いがない。
そこで,上記補正が,本願当初明細書に記載した事項の範囲内でされたも
のであるかどうかについて検討する。
2 超音波発振器の振動力の及ぶ範囲
まず,脱着水容器内の水に超音波発振器の振動力を与えることが本願当初明
細書に記載されていたか否かを検討する。
(1) 本願当初明細書(甲第1号証)には,次の記載がある。
ア 「本発明は,広くは負イオン空気の発生装置に関するものであり,特に生
理機能活性の負イオン空気を発生させる装置に関するものである。就中,焼
成風化珊瑚粉でアルカリイオン化した水を超音波振動力で分裂し,機能生理
活性負イオン空気を発生させる装置に関するものである。」(【0001】)
イ 「以下に,本発明にかかる超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活
性負イオン空気発生装置の具体的な構成を詳細に記載する。最初に,本発明
の請求項1に記載した発明の構成を説明する。この発明は,まず,風化珊瑚
粉を焼成する珊瑚焼成手段がある。つぎに,脱着水容器がある。この脱着水
容器は,上記の珊瑚焼成手段により造成した珊瑚セラミックを水と反応させ
るものである。最後に,超音波発振器がある。この超音波発振器は,上記の
脱着水容器内で上記の珊瑚セラミックを水と反応させ作られたアルカリイオ
ン水に超音波発振器の振動力を与えるものである。」(【0010】)
ウ 「つぎに,本発明にかかる超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活
性負イオン空気発生装置の請求項2に記載した発明の構成を説明する。この
発明は,以下の点以外は上記の請求項1の発明の構成と同一である。それゆ
えに,上記の請求項1の発明の構成の説明の全文をここに援用して,以下の
構成の説明をこれに追加する。この発明と上記の請求項1の発明の構成との
差異は,ファンの存在である。このファンは,上記の超音波発振器により放
出された負イオン空気に風力を与えるものである。」(【0011】)
エ 「以下に,本発明にかかる超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活
性負イオン空気発生装置の作用とイオン発生作用機序を説明する。まず,炭
酸カルシウムを含む風化珊瑚セラミックは水中で(式1)のように外力があ
ればカルシウムイオンと炭酸イオンに解離する。」(【0013】)
オ 「外力として超音波振動力によって,水分子は水のクラスター構造,即ち
水の分子が複合的に付いたイオンクラスター複合体として次の(式3)で示
される。ここでOH - (H 2 O) n を水付き機能生理活性負イオンという。」
(【0017】)
カ 「【実施例】しかして,本発明にかかる超音波振動力利用珊瑚セラミック
の機能生理活性負イオン空気発生装置をその具体的な実施例を用いて添付の
図面と共に詳細に述べる。まず,図2には記載されていない風化珊瑚粉を焼
成する珊瑚焼成手段B(図1を参照)がある。つぎに,図2に示す断面図ご
とくに,珊瑚セラミックカートリッジ1と水を入れる脱着水容器2がある。
この脱着水容器2は,上記の珊瑚焼成手段により造成した珊瑚セラミック1
aを水流入口3からの水Wと反応させ,その水Wをアルカリイオン化するも
のである。すなわち,水分子クラスタが分裂すれば,H+とOH-に成るが,
その量がH+=OH-は中性で,H+>OH-は酸性で,H+<OH-はアルカリ
性となる。この装置で作られる水分子の酸塩基濃度は,約pH7.4である
(人間の血液のpHは7.4)。なお,この珊瑚セラミック1aは,予め風
化珊瑚粉が焼成されたものを使用してもよい。」(【0028】)
キ 「このアルカリイオン化した水Wは,除菌用銀膜珊瑚セラミックカートリ
ッジ4を有する水流通路5を通じてイオン空気室Hの底部に送られる。さら
に,超音波発振器6がある。この超音波発振器6は,上記の脱着水容器2内
で上記の珊瑚セラミッタ(判決注・「セラミック」の誤記と認められる。)
1aを水Wと反応させ作られたアルカリイオン水にその振動力を与えるもの
である。最後に,ファン7がある。このファン7は,上記の超音波発振器6
により放出された負イオン空気Aに風力を与えるものである。そこで,この
負イオン空気Aは,図2に示すごとくに,空気流通路8を螺旋状に回転しな
がら急速に通過し,空気排出口9から外部に放出される。」(【002
9】)
ク 「かようにして,この機能生理活性負イオン空気の発生装置は,珊瑚セラ
ミックカトリッジ1を装着した脱着式容器2と,開閉が可能であるスプリン
グ式水流入口3と,除菌性の銀膜珊瑚セラミックカートリッジ4と,振動力
を与える超音波発振器6(1.6~2.8MHz)と,超音波振動力により
分裂した水分子を回転送風するファン7から成る。」(【0030】)
ケ 図2には,珊瑚セラミックカートリッジ1を装着した脱着水容器2の下に
水流入口3を設けるとともに,底部において水流通路5と通じたイオン空気
室Hとその下に超音波発振器6が設けられた装置の断面図が記載されており,
その脱着水容器2内と水流通路5内とイオン空気室H底部に水が図示され,
イオン空気室H底部の水の直上部とイオン空気室H内の上方に負イオン空気
Aが示されている(なお,本願当初明細書【0028】及び【0029】の
記載に照らすと,【符号の説明】中,「3 超音波発振器」,「4 ファ
ン」とあるのは,「3 水流入口」,「4 除菌用銀膜珊瑚セラミックカー
トリッジ」,「6 超音波発振器」,「7 ファン」の誤記であると認めら
れる。)。
(2) 上記記載によれば,本願当初発明は,焼成風化珊瑚粉でアルカリイオン化
した水を超音波振動力で分裂し,機能生理活性負イオン空気を発生させる装
置に関するものであり(上記ア),本願当初発明における超音波発振器は,
脱着水容器内で珊瑚セラミックを水と反応させ作られたアルカリイオン水に
振動力を与え(上記イ,キ),この振動力により,水分子の分裂(上記ク),
「負イオン空気」の放出(上記ウ,キ)という機能を果たすものであることが
認められる。そして,「このアルカリイオン化した水Wは,除菌用銀膜珊瑚
セラミックカートリッジ4を有する水流通路5を通じてイオン空気室Hの底
部に送られる。さらに,超音波発振器6がある。この超音波発振器6は,上
記の脱着水容器2内で上記の珊瑚セラミッタ1aを水Wと反応させ作られた
アルカリイオン水にその振動力を与えるものである。」(上記キ)との記載
及び本願当初明細書の図2によれば,本願当初明細書に記載された実施例は,
脱着水容器2内で珊瑚セラミックと水とを反応させ作られたアルカリイオン
水が,水流通路5を通じてイオン空気室Hの底部に送られ,そこで,超音波
発振器6の振動力を受けて,負イオン空気Aが発生する構成であることが認
められる。したがって,上記キの記載及び図2からすれば,本願当初発明に
おける超音波発振器の前記機能は,図2の超音波発振器6の直上,すなわち
イオン空気室Hの底部にある水に振動力が及んで発生するものであり,本願
当初明細書には,超音波発振器の振動力の及ぶ対象に脱着水容器内の水も含
まれることは記載も示唆もされていないというべきである。
(3) 参加人は,本願当初明細書の【0013】に「風化珊瑚セラミックは水中
で(式1)のように外力があればカルシウムイオンと炭酸イオンに解離す
る」(上記エ)と記載され,【0017】に「外力として超音波振動力によ
って」(上記オ)と記載されているから,風化珊瑚セラミックと超音波振動
のかかっている水とでイオン解離というイオン化の反応を起こすことが明記
されている旨主張する。
しかし,上記エの「外力」が上記オに記載された「外力」と同じものである
かどうかは本願当初明細書の記載によっても明らかではなく,上記エの「外
力」が超音波発振器による振動力の付与を意味するものと速断することはで
きないし,そもそも,本願当初明細書の【0013】には,「以下に,本発
明にかかる超音波振動力利用珊瑚セラミックの機能生理活性負イオン空気発
生装置の作用とイオン発生作用機序を説明する。」(上記エ)とあるものの,
以下【0026】までの一連の記載には,参加人の援用する上記各記載を含
め,化学式や機能生理活性負イオンの説明などがあるのみで,本願当初発明
の目的物である「機能生理活性負イオン空気」をどのように得るのかといっ
た本願当初発明の構成については何ら記述されていない(甲第1号証)こと
からすると,参加人の援用する上記エの記載は,風化珊瑚セラミックが水中
でイオン解離するには外力が必要であるという一般的な原理を説明したもの
にすぎず,本願当初発明における超音波発振器の機能を説明したものとみる
ことはできない(なお,上記オの記載には,その「外力としての超音波振動
力」がどこで働くのかについての説明はない。)。したがって,参加人の援
用する上記エ及びオの記載部分を根拠に,本願当初明細書に超音波発振器の振
動力が脱着水容器内の水に及んでいることが開示されていると認めることは
できない。
また,参加人は,本願当初明細書の【0028】,【0029】に記載さ
れている「水と反応」は「超音波の介在による反応」であり,このアルカリ
イオン水化の反応が脱着水容器2内で生じていることが明示されている旨主
張するが,【0029】の「この超音波発振器6は,上記の脱着水容器2内
で上記の珊瑚セラミッタ1aを水Wと反応させ作られたアルカリイオン水に
その振動力を与えるものである。」(上記キ)との記載に照らせば,上記各
段落における「水Wと反応」が超音波発振器6の振動力が及ぶことによる反
応であることを記載ないし示唆したものと理解することはできず,参加人の
上記主張は採用できない。
なお,参加人は,【0032】,【0033】の記載を援用するが,同段
落の記載は,本願当初明細書に記載された前記実施例の装置(【0028】
~【0030】,図2)を用いて,電動ファンの回転数の変化によって発生
する「負イオン空気」と「正イオン空気」の変化を測定した実験例について
記述したものであり,参加人が主張するように,超音波発振器の振動力が脱
着水容器内の水に働いていることを示す根拠となるものでないことは明らか
である。
(4) 以上のとおり,超音波発振器の振動力が及ぶ対象として,脱着水容器内の
水も含まれることが本願当初明細書に開示されているということはできない
から,本件補正によって,超音波発振器の働きが脱着水容器内の水にも及ぶ
とすることは,本願当初明細書に記載した事項の範囲内でされた補正である
とはいえず,この点に関する審決の判断に誤りはない。
3 「同一水域内の水」について
参加人は,本件補正の「同一水域」とは,「その超音波振動力が働く水域」
のことを明瞭化したものであり,超音波発振器からの振動力が脱着水容器内の
水に及ぶ以上,水流通路内の水と脱着水容器内の水とは,「つながっている
水」すなわち「同一水域内の水」であって,振動力が脱着水容器内の水に及ぶ
ことは本願当初明細書に記載されている旨主張する。
しかし,超音波発振器の振動力が脱着水容器内の水に及ぶことが本願当初明
細書に開示されているといえないことは,前記のとおりであるから,参加人の
主張は,その前提を欠き失当である。のみならず,本願当初明細書の【003
0】の記載及び図2によれば,脱着水容器2と水流通路5との間には「開閉が
可能であるスプリング式水流入口」が設けられているのであり,その構造・機
能の詳細は不明であるが,少なくともスプリング式水流入口の閉止時には,脱
着水容器内の水と水流通路内の水とは遮断されることになるのであるから,こ
のような「スプリング式水流入口」の介在によって遮断されることがある脱着
水容器内の水と水流通路内の水を「つながっている水」あるいは「同一水域内
の水」と観念することはできないというべきである。参加人は,「スプリング
式水流入口」の弁は水流調整弁であり,水を断続的に流すから,水路は切離さ
れていないと主張するが,2つの領域内の水が断続的に連通するにすぎないも
のである以上,これを「つながっている水」あるいは「同一水域内の水」とみ
ることは,言葉の通常の用法に照らして無理があるといわざるを得ない。そう
すると,本願当初明細書には,本件補正に係る「脱着水容器内の珊瑚セラミッ
クに反応する水につながっている水(すなわち同一水域内の水,以下同じ)」
が記載されているとはいえず,この点でも,本件補正は,本願当初明細書に記
載した事項の範囲内でされた補正であるとはいえないというべきであり,この
点に関する審決の判断にも誤りはない。
4 結論
以上に検討したところによれば,本件補正は,本願当初明細書に記載した事
項の範囲内でされたものとはいえず,特許法17条の2第3項に規定する要件
を満たしていないというべきであって,参加人主張の取消事由は理由がない。
よって,参加人の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐 藤 久 夫
裁判官 三 村 量 一
裁判官 古 閑 裕 二

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