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平成17(行ケ)10624審決取消

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成18年3月22日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社オーエスケー
原告岩崎工業株式会社
法令 特許権
キーワード 刊行物54回
審決47回
実施19回
無効7回
進歩性4回
特許権1回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が特許権者である後記特許に関し,被告からの特許無効審判請求 に基づき,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを 求めた事案である。

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判決文

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平成17年(行ケ)第10624号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年3月15日
判 決
原 告 岩 崎 工 業 株 式 会 社
代表者代表取締役
被 告 株式会社オーエスケー
代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 大 西 孝 治
同 大 西 正 夫
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2004-35141号事件について平成17年7月1日にした審決を取り
消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が特許権者である後記特許に関し,被告からの特許無効審判請求
に基づき,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを
求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 原告は,平成11年9月17日,名称を「アルミ製2段型弁当箱」とする発
明について特許出願をした。特許庁は,同出願につき,特許すべき旨の査
定をし,平成15年4月11日,特許第3418141号として設定登録をした(請求項
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の数は1。以下「本件特許」という。)。
イ 本件特許については,平成16年3月16日付けで,被告から無効の申立て
がされ,同申立ては無効2004-35141号として特許庁に係属した。特許庁は,
上記事件について審理を遂げ,平成17年7月1日,「本件特許第3418141号
の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,平
成17年7月13日,その謄本は原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件特許に係る発明の内容は,下記のとおりである (以下「本件発明」とい
う。)。

【請求項1】 上下に重ね合わされる二つの容器と,重ね合わせた容器の上
から被される蓋を備え,上段の容器をプラスチック製とし,下段の容器と
蓋をアルミ製にした2段型の弁当箱であって,上段の容器は,底部から適
宜の高さ離れた外周に,2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に
掛止されるフランジ部を突出させるとともに,前記蓋とは別に,該容器の
上縁に嵌着する密封蓋を備え,前記蓋は,使用状態に2段に重ねた下段の
容器の上部を外周から嵌合する深さを具え,弁当箱の使用後には,前記密
封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せ
るとともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるよう
に構成したことを特徴とするアルミ製2段型弁当箱。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別紙のとおりである。その理由の要点は,本件発明は,
その出願前に頒布された特許第2612813号公報(審判甲1,本訴甲2。以下「刊行
物1」という。)及び従来より周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法123条1項2号,29条2項により無
効とすべきものである,としたものである。
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イ 上記判断をするに当たり,審決は,本件発明と刊行物1に記載された発
明(以下「引用発明」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認
定している。
(一致点)
「上下に重ね合わされる二つの容器と,重ね合わせた容器の上から被さ
れる蓋を備えた2段型の弁当箱であって,上段の容器は,底部から適
宜の高さ離れた外周に,2段重ねの使用状態において下段の容器の上
縁に掛止されるフランジ部を突出させるとともに,前記蓋とは別に,
該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え,弁当箱の使用後には,前記密
封蓋を被せた上段の容器を空になった下段の容器内に収容し,この上
下の容器を上記蓋の中に収容できるように構成した2段型弁当箱。」
である点
(相違点1)
2段型弁当箱を構成する素材に関して,本件発明が「上段の容器をプ
ラスチック製とし,下段の容器と蓋をアルミ製にした」のに対して,
引用発明は,全て合成樹脂としている点。
(相違点2)
蓋の嵌合深さに関して,本件発明が,「蓋は,使用状態に2段に重ね
た下段の容器の上部を外周から嵌合する深さを具え」ているのに対し
て,引用発明は,このような嵌合深さを備えているかが明らかでない
点。
(相違点3)
弁当箱の使用後の収容態様に関して,本件発明が「弁当箱の使用後に
は,前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を
逆さにして被せるとともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の
中に収容できるように構成し」ているのに対して,引用発明は,この
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ような仰向けにした蓋の中に収容できるという構成を備えているかが
明らかでない点。
(4) 審決の取消事由
審決は,引用発明の認定を誤ったために本件発明と引用発明との一致点の
認定を誤り(取消事由1),また,相違点1~3の判断を誤り(取消事由2
~4),さらに,本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由5)もの
であり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,
違法なものとして取り消されるべきである。
ア 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)
(ア) 引用発明の認定の誤り
a 密封蓋について
審決は,刊行物1の「この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に
位置することになる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によ
って覆蓋するようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設
けて実施してもよい』(段落【0030】)との記載に基づき,「引用発明における
『中蓋36』の『嵌合』による密封の程度は『パッキング』に依るのと同等程度である,
いいかえれば,気密・水密などが期待できる程度の密封であると解するのが相当であ
る」(審決6頁下から第2段落)とし,これを根拠に,一致点の認定に当た
って「上段の容器は,……該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え」(審決7頁第2
段落)ていることを含めて認定しているが,かかる認定は以下のとおり
誤りである。
(a) 刊行物1の容器は,名称こそ「多段式弁当容器」とされている
が,図5に示される従来からの入子式重箱容器が,積み重ねにくく,
崩れやすく,また,使用後の入子状収納の解除がしにくいという欠
点を有していたことから,これを改良し (本件明細書の段落【0006】~
【0008】参照),使用後の容積を小とし,洗浄容易な単純な形状とし,
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入子の解除を容易としたものであって(同段落【0009】),学童などが
日常用いる,いわゆる弁当箱ではない。
したがって,汁気の漏出等は,もともと問題とされず,容器に密
封蓋は必要ないから,中蓋36は,最上段容器の内容物を単に覆蓋す
るにすぎず(同段落【0015】),「密封」機能などは求められていない。
当然のことながら,中蓋36の「密封」機能について言及はされてい
ない。
また,刊行物1の容器においては,最上段に位置する中容器以外
に中蓋は一切予定されておらず,図1,図2によれば,第一中容器
については第二中容器の底がその役割を果たしていると解される。
中蓋36のみを「密封」蓋にしてみたところで,中の汁気についての
水密・気密という要請には対応できないから,中蓋36は,第二中容
器の底と同様の役割しか期待されていないものであり,「密封蓋」
ではない。[準書1の8頁~9頁下4行]
(b) なるほど,刊行物1には,「中蓋に代えて蓋体40の内面にパッキングを
設けて実施してもよい」(段落【0030】)と記載されているが,この記載は,
弁当箱に食物を収納した際に,最上段に位置することになる第二中
容器の開口部を軟質合成樹脂によって形成された中蓋36で覆蓋する
こと,又はこの中蓋36の代りに,蓋体40の内面にパッキングを設け
ても良いこと,の2点に尽きるのであり,「蓋体40の内面に設けら
れたパッキング」については,どの位置に,どのような「パッキン
グ」を設けるのか,それがどのような作用効果をもたらすのかにつ
いては,全く示されていないから,「パッキング」なる一つの文言
を根拠に,中蓋が「密封蓋」の機能を当然に有するものと解するこ
とはできない。[準書1の9頁下3行~10頁6行,12頁~13頁の(2)]
仮に,刊行物1の「中蓋36」が,「パッキング」と同程度の気密
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性・水密性を有するのであれば,「中蓋36の内面にパッキングを施
して気密・水密にしても良い」と記載すれば足りるところ,このよ
うな表現がなされていないことは,刊行物1の容器がそのような思
想を含んでいないことを雄弁に物語っている。[準書2の2頁下6行~3頁2行]
(c) 刊行物1において,「中蓋36」又は「蓋体40の内面パッキン
グ」を設けるものとされている理由は,蓋体40が主容器11を更に外
から嵌合する(段落【0031】参照)ため,最上段の中容器30との間のが
たつきを防止する必要があるからである,と解される。
したがって,中蓋36は,がたつきを防ぐ覆蓋にすぎず,気密・水
密などの「密封」機能を有しないから,「パッキング」なる用語が
気密・水密の効果を有することを示すことがあるとしても,刊行
物1の記載を「中蓋36の内面にパッキングが施されている」ごとく
に勝手に読み込むことは許されない。[準書2の3頁12行~下2行]
(d) 審決が引用発明として想定するのは,刊行物1記載の発明にお
いて,1個の中容器20を備える場合であり,中蓋はなく「蓋体40の
内面にパッキングを設ける」態様のものであると解されるが,この
態様において,パッキングが,どのようなものであれ,また,どこ
に設けられたものであれ,「該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備
え」ることにはなり得ない。なぜなら,図3によれば,蓋体40の内
側は,この中容器20の底面外側又は主容器の外側にしか接し得ず,
「中容器20の上縁に嵌着するか,又は,嵌着の状態となること」及
び「それが密封状となること」は不可能だからである。したがって,
「弁当箱の使用後には,前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空
になった下段の容器を逆さにして被せる」ことはあり得ず,「弁当
使用後の上段容器を密封状態に保つ」ということは不可能である。
かかる理由からも,刊行物1は,「密封蓋」を開示していないこと
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は明らかである。[準書2の4頁~5頁の「4」]
(e) 以上のとおり,刊行物1(本訴甲2)に記載された弁当容器は,
入子式重箱容器の改良に係るものであって,汁気などの漏出防止を
目的とする密封蓋を有していない。
b 2段型について
また,審決は,引用発明を「主容器10と,中蓋36が嵌合される一つの中容器
と,主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた,主容器10と一つの中容器とを2段に
積み重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100」(5頁最終段落),すなわ
ち,2段式の容器であると認定しているが,この認定も誤りである。
「多段」とは論理的には2段をも含むが,刊行物1には「2段」のも
のは一切記載されていない。このように,審決は,刊行物1が本来予
定していない2段構成のものを独自に作出して引用発明を認定してお
り,かかる認定は誤りである。[準書1の下7~2行]
c 一致点認定の誤り
上記a,bのとおり,審決は引用発明の認定を誤っており,かかる
誤りの結果,審決の一致点の認定もまた誤りである。
(a) 上述したとおり,引用発明は,多人数用かつ非日常的な重箱的
用途に用いられる運搬用食品容器であるのに対し,本件発明は,学
童用弁当箱などの個食用日常用を主用途として予定されたものであ
り,両者は,用途と当業者において微妙に異なる。[準書1の14頁1~7行]
(b) 引用発明は,使用後の容積を小さくすること,使用後入子式収
納の解除を容易にすること,簡単な構造として洗浄を容易にするこ
とを主目的とし(刊行物1の段落【0008】,【0009】,図5),従来の入子
式重箱の重ねにくさ,ずれ,入子にした後の外しにくさを解消しよ
うとして開発された技術である(同段落【0006】)。[準書1の14頁8~14行]
これに対し,本件発明は,上段容器を,密封蓋を伴うプラスチッ
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ク製とし,下段容器と蓋とをアルミ製とし,使用後には,密封蓋を
被せた上段容器を逆さにして下段容器に収め,その上から蓋を被せ
て全体をコンパクトに収納することができる2段型の弁当箱である。
この弁当箱は,上段容器がプラスチック製である結果,密封蓋の密
封効果は一層大きく,そのため,しずく等の水分の器外への漏出を
完全に防止でき,また,上段容器はプラスチック製であるため,電
子レンジ適応可能に設計できる。更に,弁当使用後は,密封蓋を被
せた上段容器を逆さにして下段容器に収納可能なことから,弁当箱
全体の外形容積が使用前の約2分の1となるコンパクト収納が可能
である。加えて,アルミニウム及びプラスチックという2種類の材
料を用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているにもかかわ
らず,形状を極めてシンプルに形成することができる結果,成型容
易であってかつ洗浄に便である。[準書1の7~8頁の(1),14頁15~下6行]
両発明の目的の差異からすると,引用発明における中蓋36は重箱
の上蓋を覆うのであれば足りるのに対し,本件発明の密封蓋は,そ
の名のとおり密封でなければならず,引用発明の「多段式弁当容
器」と本件発明の「弁当箱」とは,目的,用途を異にするとともに,
密封蓋の有無において異なるものである。また,刊行物1の容器は,
2段式ではないから,刊行物1の「多段式弁当容器」と本件発明の
「弁当箱」とは,積み重ね構造においても異なる。 [準書 1の 14頁下 6~ 1行]
イ 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
審決は,テイネン工業株式会社製「メンズアルミ(2段L)DB-5H」(以
下「メンズアルミ」という。)の存在を根拠に,「上段の容器をプラスチック製
とし,下段の容器と蓋をアルミ製とした」ことは本件出願前周知の技術で
あると認定し,相違点1に係る本件発明の構成は想到容易であると判断し
たが,かかる判断は以下のとおり誤りである。[準書1の6頁下10~7行]
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(ア) メンズアルミが紹介された刊行物(平成7年11月11日付「家庭用品新聞」。
本訴甲3)が出願前公知であったことは認めるが,同刊行物には,本体・
フタがアルミ製であること,2段式でありコンパクト収納が可能である
こと以外は開示されていない。また,メンズアルミは,当時市場にほと
んど出ておらず,その技術内容は当業者に周知ではないから,上記の点
が周知であるとはいえない。したがって,相違点1について,「引用発明
の容器素材として,2段型弁当箱において従来より周知の技術であった素材の組合せを
単に適用することにより,当業者が容易に想到し得た設計上の変更である」とした審
決の判断は誤っている。[準書1の10頁7~11行]
また,上述したとおり,引用発明は,いわゆる重箱に関する技術であ
るのに対し,本件発明は,弁当箱に関する発明であるから,両者の技術
分野は近いものの異なっている。弁当箱の技術分野において周知といえ
るほどのものでなければ,重箱の技術分野において周知又は公知である
と認定することはできず,適用容易とはいえない。[準書2の5頁「第2」]
(イ) 仮に,メンズアルミが,現在「タウンスポーツ」なる商品名をもっ
て市販されているテイネン工業株式会社製のアルミ製の2段型弁当箱(以
下「タウンスポーツ」という。)と同一の構造を有しているとすると,その構
造は本件発明の構造とは全く異なる。
すなわち,本件発明の2段型弁当箱においては,上段の容器に密封蓋
を施した上で下段の容器内に入子式に収納できるが,タウンスポーツに
おいては,上段の容器に密封蓋を施して下段の容器に入子式に収納する
ことはできない。その結果,本件発明においては,上段容器中の残物の
洩れが完全に防止されるのに対し,タウンスポーツにおいては,弁当箱
外に洩れだすという,作用効果における決定的な差異を生ずる。[準書1の10
頁12行~11頁下3行]
ウ 取消事由3(相違点2の判断の誤り)
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審決は,相違点2について,「引用発明における蓋体40の深さを,単に刊行物1
の図2に示されたのと同様のものと設定することにより,当業者が適宜採用し得た設計的
事項である」 と判断したが,この判断は誤りである。本件発明と引用発明と
は,本来,用途の異なる技術であり,現にその形状も全く異なるから,相
違点2が設計的事項であるとはいえない。[準書1の6頁下2~7頁3行]
エ 取消事由4(相違点3の判断の誤り)
審決は,相違点3について,「相違点2につき適宜採用し得たと説示したところ
の蓋体の構成を採用した引用発明が実質的に備えるものであるといえるから,上記相違点
2で説示したとおり,当業者が適宜採用し得た設計的事項である」と判断したが,こ
の判断は誤りである。[準書1の7頁4~6行]
上記のとおり,本件発明は,上段容器に密封蓋を具備するものである結
果,相違点3に示される構成によって,弁当使用後に,食品残骸の臭気,
汁気を外部に漏出することなく,かつ,コンパクトに収納することができ
るのである(甲1の図1(b)参照)。これに対し,引用発明の中蓋36が密
封蓋でないことは上記のとおりであるから,汁気や臭気は外部に漏出する
ことが当然にありうる。
また,本件出願時にメンズアルミが周知又は公知であり,その構造が現
在販売されているタウンスポーツと同一であったとしても,これらの弁当
箱は相違点3に示される本件発明の構成を具備していない。すなわち,メ
ンズアルミないしタウンスポーツは,「弁当箱の使用後には,前記密封蓋
を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せると
ともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるように構
成した」ものではなく,この点において本件発明と根本的に異なり,その
結果,弁当使用後の食品残骸の汁気・臭気を遮断することができない。[準書
1の15頁(2)]
オ 取消事由5(顕著な作用効果の看過)
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審決は,本件発明の作用効果について,「本件発明が奏する作用効果も引用発
明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものと
いうことができない。」と判断したが,この判断は,本件発明の顕著な作用効
果を看過したものであって,以下のとおり誤りである。[準書1の7頁のd]
(ア) 上述したとおり,専ら学童等が日常使用する本件発明の弁当箱は,
上段容器がプラスチック製であることもあって,密封蓋の密封効果は一
層大きく,そのため,しずく等の水分の器外への漏出を完全に防止でき
(本件明細書の段落【0008】),また,上段容器はプラスチック製であるため,
電子レンジに適応可能である。さらに,弁当使用後は,密封蓋を被せた
上段容器を逆さにして下段容器に収納可能なことから,弁当箱全体の外
形容積が使用前の約2分の1となるコンパクト収納が可能である(同段落
【0001】【0009】)。加えて,アルミニウム,プラスチックという2材料を
用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているに拘らず,形状を極
めてシンプルに形成することができる結果,成型容易であってかつ洗浄
に便である(同段落【0003】参照)という顕著な作用効果を奏する。[準書1の7~
8頁の(1)]
(イ) 現在市場を占拠しているアルミ製2段型弁当は,100%近くが本件発
明の実施品である。この事実は,本件発明が,その先行技術から容易に
想到しえず,かつこのアルミ製2段型弁当としては商品としての完成度
が極めて高くすなわちその進歩性が高いことを物語っている。
先行技術であるメンズアルミの商品現物自体は市場にほとんど出てい
なかったこと,また,仮に,タウンスポーツが当時のメンズアルミと同
一構造であったとしても本件発明と根本的に異なることは,上述のとお
りである。そして,タウンスポーツが4年前から市販されていたにもか
かわらずほとんど市場で見られなかったのは,密封性を有さず,不潔性
を免れなかった点が市場の要求と合致せず,すなわち技術としての完成
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度,進歩性,有用性を欠いていたためであると考えられる。
このように,本件発明はこれらのアルミ製2段型弁当箱に比して,技
術としての格段の進歩性を有するから,本件出願前にこれらのアルミ製
2段型弁当が存在したからといって,これらから本件発明技術に想到す
ることは決して容易とはいえない。[準書1の19~20頁の(4)]
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
原告が,本件審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれ
も失当である。
(1) 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)に対し
原告は,刊行物1では,第一中容器については第二中容器の底が中蓋の役
割を果たしており,「密封」効果をもたらすことはできないから,最上段に
位置する中蓋36も当然これと同様の役割を期待されているにすぎず,密封
効果がない旨を主張する。
しかし,この種の弁当箱において,汁気を気にするものを密封される部分
に入れることは一般的に行なわれているから,ある一部分が密封効果をもっ
ていないからといって,他の部分も密封効果を有していないとは限らない。
原告の主張は,弁当箱に要求される性能,一般的構造を無視したものにすぎ
ない。原告は,重箱的用途に用いられるものは,汁気が外部に漏れ出ること
など意に介さないため,密封蓋は存在しないと主張するが,この種の弁当箱
において,「密閉」は要求されるから,かかる主張は誤りである。
また,刊行物1には,「中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設け
て実施してもよい」(段落【0023】)と記載されており,「パッキング」に
は,「管の接目などに気密・水密などの目的で入れられる材料。ゴム・麻糸
屑・石綿・鋼板・鉛・プラスチックなども用いる。」という意味合いがある
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から,上記記載において,「パッキング」が,「気密・水密」の効果を有す
ることが当然である。
(2) 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対し
原告は,メンズアルミが本件出願前,市場にほとんど出ていないと主張す
るが,これを裏付ける証拠は何ら提出されていない。万が一,かかる主張が
正しいとしても,本件出願当時に,上記商品が,すでに販売されて公知にな
っていることは,原告も認めているのであるから,その出荷量の多少は,本
件発明の進歩性判断に全く無関係である。
(3) 取消事由3(相違点2の判断の誤り)に対し
審決の判断は正当である。
(4) 取消事由4(相違点3の判断の誤り)に対し
審決の判断は正当である。
(5) 取消事由5(顕著な作用効果の看過)に対し
原告は,本件発明の実施品の市場における占有率がほぼ100%である旨を主
張するが,これを裏付ける証拠は何ら提出されていない。また,一般的に商
品の人気は,価格や製造会社の販売者に対する支配力等,発明の構成や効果
とは無関係の商業的事項に左右され,また,弁当箱のごときキャラクターが
付されることが多い商品においては,キャラクター自身の人気によっても左
右されるのであって,原告の主張する商業的成功が,本件発明の顕著な作用
効果に基づくものであることにはならない。
第4 当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告の主張する審決の取消事由について順次判断する。
2 取消事由1について
原告は,審決が引用発明の認定を誤った結果,一致点の認定を誤ったと主張
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するので,以下検討する。
(1) 密封蓋について
原告は,審決が「引用発明における『中蓋36』の『嵌合』による密封の程度は『パッキ
ング』に依るのと同等程度である,いいかえれば,気密・水密などが期待できる程度の密封
であると解するのが相当である」(審決6頁下から第2段落) とし,これを根拠に,
「上段の容器は,……該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え」(審決7頁第2段落)ている
点を一致点の認定に含めたことは誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
ア 原告は,上記主張の理由として,まず,刊行物1(本訴甲2)の多段型
弁当容器は,「重箱」であっていわゆる「弁当箱」ではなく,「重箱」に
おいては気密性・水密性は求められていないから,中容器に「密封蓋」を
有するとは考えられない,ということを挙げる。
確かに,刊行物1は,【従来の技術】として「入れ込重箱」の考案に言
及しており(段落【0005】~【0006】),その不具合を解消することが課題の一
つであったものと認められる。
しかし,刊行物1の【従来の技術】の項には,下記の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】弁当容器は,一回分の食べ物を収納して運ぶものであるから,例えば
主食と副食とを分離して収納できるものでなければならないが,一般には,一つの容
器内を仕切板によって区画したり,容器を複数に分けたりすることが行われている。
仕切板によって区画することは,仕切板が容器に対して自由に動くものであると煮汁
等が他に移動するという欠点があり,一方容器に対して仕切板を固定的に設けると収
納の自由がなく,また洗いにくいという欠点があって,いずれにしても採用されなく
なってきている。その点,収納容器を複数に分ければ,上述した問題を解決すること
はできるが,各容器は個々に分離されているから,これを運搬に便利なように一体化
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できる構造にしなければならないという必要性がでてくるものである。」
「【0007】そこで,本発明者は,以上のような種々な不具合を解決しながら,空に
なった容器を収納して全体を小さな容積のものとすることができるようにするにはど
うしたらよいかについて種々検討を重ねてきた結果,この種の弁当容器はそのままで
持ち運ばれることはなくてハンカチ等の別のものによって包まれること,使い終った
ものを洗う作業が簡単に行えるものであることが要求されていること等に気付き,本
発明を完成したのである。」
刊行物1の上記記載からすると,刊行物1の「多段型弁当容器」は,従
来の技術として,いわゆる「重箱」に限定することなく「弁当容器」一般
を念頭におき,その欠点を改良することに主眼をおいて開発されたもので
あることは明らかである。すなわち,従来の「弁当容器」についての,「一
回分の食べ物を収納して運ぶものであるから,例えば主食と副食とを分離して収納できる
ものでなければならない」(上記段落【0002】),「ハンカチ等の別のものによって包ま
れる」(上記段落【0007】) ,等の記載によれば,ここでいう従来の「弁当容
器」が,学童等が日常用いる弁当箱を含むものであり,かかる従来技術を
改良した刊行物1の「多段型弁当容器」も,いわゆる弁当箱として適した
ものであることも明らかというべきである。
また,そもそも,「重箱」とは,箱(容器)の重ね合わせ機能に着目し
た呼称であり,「弁当箱」とは,箱(容器)の用途に着目した呼称である
ところ,刊行物1の上記記載のとおり,刊行物1の「多段型弁当容器」は
「入れ込重箱」を一例とする従来の「弁当容器」を改良したものである以
上,「重箱」としての機能を備え,「弁当箱」としての用途にも適するも
のであると認められる。
したがって,刊行物1の多段型弁当容器が「重箱」であって「弁当箱」
ではないことを前提とする原告の主張は,採用することができない。
イ 原告は,また,刊行物1(本訴甲2)において,第一中容器20について
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は第二中容器30の底が中蓋の役割を果たしており,第二中容器30の底は密
封効果を発揮できないのであるから,中蓋36だけに密封効果を持たせるこ
とに意味はなく,中蓋36が「密封蓋」に当たるとはいえない,と主張する。
しかし,刊行物1には,解決すべき課題として,仕切板付きの弁当容器
に主食と副食とを分離して収納すると副食に含まれる煮汁等(一般的には
副食に含まれるものである。)が移動してしまうということが挙げられて
おり(上記段落【0002】),引用発明は,かかる課題を解決するために,主食
と副食とを複数段に分けた容器に分離して収納することとしたものである。
そして,収納容器を複数段に分けた場合,主食(一般には米飯である。)
の収納容器をことさら密封する必要はないし,副食の中でも煮汁等を含ま
ないものは密封する必要がないのに対し,煮汁等を含む副食については密
封する方が望ましいことは明らかである。そうすると,刊行物1の図3の
ように3段式の構成とした例において,第二中容器20のみを密封できるよ
うにしておき,これに煮汁等を含む副食を収納することには十分な合理性
がある。
したがって,引用発明において,第二中容器20のみが密封されることに
は意味がないことを前提として,中蓋36が「密封蓋」に当たるとした審決
の認定は誤りであるとする原告の主張も,採用することができない。
ウ 原告は,刊行物1(本訴甲2)に「中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを
設けて実施してもよい」との記載があることは,中蓋36が「密封蓋」であると
認定するための根拠とならない,と主張する。
(ア) 中蓋36と第二中容器30との係合態様について,刊行物1(本訴甲
2)には,下記の記載がある。

「【0030】なお,この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に位置するこ
とになる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によって覆蓋
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するようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実
施してもよいものである。………」
「【0031】蓋体40は,各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から
覆蓋するものであるとともに,図3に示したように,各容器内に他の容器を収納し
て全体の容積を小さくした多段式弁当容器100の全体を覆蓋するものでもあるから,
その側壁41の外形は主容器10の側壁11に対して外側から嵌合できる,つまり外嵌合
できるものとしたものである。」
「【0032】なお,本実施例の多段式弁当容器100においては,その主容器10,第一中
容器20,第二中容器30及び蓋体40を硬質合成樹脂により一体的に形成するとともに,
第二中容器30の側壁31に嵌合される中蓋36を軟質合成樹脂によって一体的に形成し
たものである。」
また,刊行物1の図2(多段式弁当容器の各容器を積み上げた状態の一部破断正
面図),図3(多段式弁当容器の各容器を互いに収納して全体の容積を小さくした状
態の一部破断正面図)には,中蓋36の外縁部において,外縁36aを溝の外壁と
する断面逆U字状の溝が形成され,この溝が,第二中容器30の側壁31の
上縁に隙間なく係合していることが図示されている。
刊行物1の上記記載および図示内容からすると,中蓋36は,軟質合成
樹脂から形成されており,断面逆U字状の溝が,第二中容器30の側壁31
の上縁に隙間なく係合することで,中蓋36による第二中容器30の覆蓋が
なされると認められるところ,軟質合成樹脂で形成された断面逆U字状
の溝は,弾力によりその開口幅を広狭に変化させ得ることが明らかであ
り,覆蓋時においては,この弾力の作用により,断面逆U字状の溝が,
側壁31の上縁と隙間なく係合するようになると解するのが自然であるか
ら,中蓋36が,第二中容器30を密封しているものと認めれる。
(イ) また,上記段落【0030】には,「中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキング
を設けて実施してもよい」 と記載されており,中蓋36は,蓋体40の内面にパ
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ッキングを設けたものと同じ機能を有すると解すべきところ,「パッキ
ング」とは,「管の接目などに気密・水密などの目的で挟む材料」(広
辞苑第5版)のことであり,「中蓋36」は,気密性・水密性を有し容器
を密封するものであると解するのが自然である。
ちなみに,刊行物1には,下記記載がある。

「【0004】実公平4-17499号公報に示された組合せ密閉容器においては,図4に示
したように,・・・下容器(3)及び上容器(15)内に内容物を収納して積み上げようとし
た場合には,上容器(15)について,カバー(9)との密閉を確実にするためのシール(
6)をカバー(9)側に絶対に設けなければならないものである。」
上記記載からすると,刊行物1の多段式弁当容器が開発される以前か
ら,カバー(蓋体)に,容器の側壁上縁に当接する「シール」を設けて,
上容器の密封を実現することが知られていたものと認められる。このこ
とをも参酌すれば,刊行物1の多段式弁当容器において,上記「パッキ
ング」は,第二中容器30を密閉する目的で採用されているものであると
解するのが妥当である。そして,刊行物1に,「中蓋36に代えて蓋体40の内面
にパッキングを設けて実施してもよい」(上記段落【0030】)と記載されている以
上,中蓋36が「密閉蓋」であることは当業者(その発明の属する技術の
分野における通常の知識を有する者)容易に理解できる事項であるとい
うべきである。
(ウ) 以上のとおり,刊行物1(本訴甲2)には,中蓋36が「密封蓋」であ
ることは明記されていないものの,刊行物1の発明の詳細な説明の記載
等からすれば,上記(ア),(イ)のとおり「密封蓋」であると解するのが
妥当である。
(2) 2段式であることについて
原告は,刊行物1には2段式のものは一切記載されていないにもかかわら
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ず,審決が引用発明として2段式のものを認定したのは誤りであり,また,
仮に刊行物1から2段式のものを認定するとすれば,上段容器が密封蓋を備
えることはあり得ない,と主張する。
しかし,原告の上記主張も採用できない。その理由は以下のとおりである。
ア 刊行物1には,下記の記載がある。

「【0013】
【作用】以上のように構成した多段式弁当容器100は,各容器内に内容物を入れて,
図1及び図2に示すように積み上げて使用されるものであるが,第一中容器20はその
嵌合底部25を主容器10の中に嵌合するとともにその係合部24を主容器10の側壁11上端
に係合し,第二中容器30はその嵌合底部35を第一中容器20の中に嵌合するとともにそ
の係合部34を第一中容器20の側壁21上端に係合するものである。」
「【0015】そして,最上段の第二中容器30を中蓋36によって覆蓋して,その全体を蓋体
40によって覆うのである。従って,第一中容器20については,第二中容器30の底面32
が言わば蓋体の役割を果たすことになるから,この第一中容器20について第二中容器
30の中蓋36のような中蓋を必要とはしないのである。勿論,主容器10,第一中容器20
及び第二中容器30は,この順で小さくなる外形を有しているものであるから,その積
み上げが安定したものとなっているのである。」
「【0018】食事が終れば,多段式弁当容器100を構成している各容器等は,図3に示す
ように,互いに収納し合うことにより,図面で示した実施例では約1/3の容積のもの
となるのである。これは,主容器10の側壁11,第一中容器20の側壁21,第二中容器30
の側壁31,及び蓋体40の側壁41をそれぞれの底面から垂直に立ち上がるものとしてあ
るから行えるのであり,前述したような積み上げも行えるのである。しかも,第一中
容器20の係合部24及び第二中容器30の係合部34は,それぞれ主容器10の側壁11また
第一中容器20の側壁21から突出しない同径のものとしてあるから,それぞれの収納及
び蓋体40の嵌合が可能となっているのである。」
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「【0022】さらに,中蓋36が嵌合される中容器30について,嵌合底部35の直上であって
側壁31と係合部34とによって形成されるコーナー部に,中蓋36の外縁部36aの厚さ程
度の厚さを有する離隔段部37を形成したから,中容器30を他の中容器20または主容器
10内に収納したとき,図3に示したように,この離隔段部37が他の中容器20または主
容器10の開口部における位置決めを果たすから,中容器30は,他の中容器20または主
容器10内にてガタつくことはなく,小さくまとめた中容器30は,当該多段式弁当容器
100の運搬時等において異音を生ずることはない。なお,この中容器30の他の中容器2
0または主容器10に対する位置決めは,離隔段部37の内方にある中蓋36の外縁部36aに
よっても果たされているものである。」
「【0023】なお,以上の作用は,実施例に示した多段式弁当容器100のように,三つの
収納部を構成する場合だけではなく,中容器の数を減らしたり,あるいは増加したり
する場合も言えるものである。換言すれば,例えば中容器の数を増加させた多段式弁
当容器100を一個の製品としておくことにより,中容器の数を適宜選定することによ
って,当該多段式弁当容器100の収納時における全容積の増減を,前述した作用を損
なうことなく行えるのである。」
「【0030】なお,この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に位置すること
になる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によって覆蓋する
ようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実施して
もよいものである。勿論,この中蓋36は,第一中容器20あるいは更に他の中容器につ
いても付属させておき,最上段になる中容器以外には使用しないように実施してもよ
いものである。」
これらの記載からすると,刊行物1の多段式弁当容器は,主容器と,蓋
体と,上に重なる順に外径を小さくした複数段の中容器から成り(上記段落
【0015】),それぞれの中容器には,その下の主容器または中容器と同径の
係合部を設けることにより(上記段落【0018】),任意の段数を重ね,また,
互いに収納し合えるようにした(上記段落【0013】,【0018】)ものと認められ
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る。
そして,段数については,実施例及び各図に示されているのは3段式
(中容器の数は2)のものであるが,中容器の数を増減することができる
ことが記載されており(上記段落【0023】),中容器の数を減らした場合には
その数が1,すなわち2段式の弁当容器となることは当然である。したが
って,審決が,刊行物1から2段式の弁当容器を引用発明として認定した
ことに,誤りはない。そして,刊行物1において,段数を2(中容器の数
は1)とした場合の弁当容器は,主容器及び中容器から成り,中容器は中
蓋36によって覆蓋され,さらに,全体が蓋体40によって覆われたものにな
ることも,当業者にとって明らかであるというべきである。
イ なお,原告は,審決は,引用発明として,1箇の中容器20の場合であっ
て,中蓋はなく「蓋体40の内面にパッキングを設ける」態様を認定してい
る旨を主張するが,審決は,引用発明を,「主容器10と,中蓋36が嵌合される一
つの中容器と,主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた,主容器10と一つの中容器とを2
段に積み重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100……」(5頁最終段落)と認定
しているから,上記原告の主張は,審決を正解しないものである。
(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1には理由がない。
3 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,メンズアルミの存在を根拠に,「上段の容器をプラスチ
ック製とし,下段の容器と蓋をアルミ製とした」点が,本件出願前周知の技
術であると認定した上で,相違点1を,容易想到と判断したのは誤りである
旨を主張する。
しかし,審決は,メンズアルミの存在のみを根拠としたのではなく,同様
の素材の選択による製品が刊行物に記載され,また現に販売されていたこと
を認定しているのであり(8頁第4段落),上記原告の主張は,審決を正解
しないものであって,失当である。また,原告は,メンズアルミが市場にほ
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とんど出ていなかったことを理由に,その素材の選択は周知ではなかったと
主張するが,公知であったことは争わないのであるから,仮に,本件発明に
おける素材の選択が周知でないとしても,公知技術から容易想到というべき
であるから,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(2) また,原告は,メンズアルミ及びタウンスポーツは,本件発明と異なり,
上段容器に密閉蓋を施したまま下段容器に入れ子式に収納することはできな
いことを,相違点1判断の誤りの根拠として主張するが,相違点1は,上段
容器をプラスチック製とし,下段容器と蓋をアルミ製にするという素材の選
択に係るものであるから,上記原告の主張は,審決を正解しないものである。
(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由2には理由がない。
4 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について
原告は,審決が,相違点2について,「引用発明における蓋体40の深さを,単に刊行
物1の図2に示されたのと同様のものと設定することにより,当業者が適宜採用し得た設計的
事項である」(9頁下から第3段落)と判断したのに対し,本件発明と引用発明とは,
本来,用途の異なる技術であり,現に,その形状も全く異なるから,相違点2
が設計的事項であるとはいえず,審決の上記判断は誤りである旨を主張する。
しかし,本件発明と引用発明とは,用途が弁当箱である点においても,2段
式の構造である点においても,異ならないことは,上記のとおりである。そし
て,刊行物には,蓋体40に関し,下記の記載がある。

「【0031】蓋体40は,各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から覆蓋する
ものであるとともに,図3に示したように,各容器内に他の容器を収納して全体の容積を
小さくした多段式弁当容器100の全体を覆蓋するものでもあるから,その側壁41の外形は主
容器10の側壁11に対して外側から嵌合できる,つまり外嵌合できるものとしたものであ
る。」
上記記載からすると,蓋体40は,容器を積み上げた状態においても,入子式
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に収納した状態においても,全体を覆蓋するものであることが認められるし,
図2に,蓋体40は,第一中容器の上部に至る深さであることが示されている。
そうすると,刊行物1において,容器を,主容器と中容器とから成る二段式の
ものとした引用発明の蓋体40の深さは,中容器のみならず主容器の上部までを
も外周から覆う程度の深さとなるように設定されることは当然である。
したがって,本件発明が,「蓋は,使用状態に2段に重ねた下段の容器の上
部を外周から嵌合する深さを備え」ていることは,引用発明も実質的に具備し
ている構成であるということができるのであり,審決がこれを当業者が適宜採
用し得た設計的事項であると判断したことに誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由3も採用することはできない。
5 取消事由4(相違点3の判断の誤り)について
原告は,本件発明と引用発明とは,用途,目的において異なり,「密封蓋」
の有無についても異なることを前提に,審決の相違点3の判断は誤りである旨
主張する。
しかし,本件発明と引用発明が,上段容器に密封蓋を備えた2段式の弁当箱
である点において一致することは上記2で述べたとおりであり,原告の主張は
前提において理由がない。そして,刊行物1(本訴甲2)において,上段の容
器(中容器)は,逆さにして下段の容器(主容器)内に収納され(図3等),
また,蓋(蓋体)は,主容器に外嵌合される(段落【0031】)ものであるから,こ
れを2段式にした引用発明においても,本件発明の相違点3のような収納態様
が可能であることは当業者に明らかである。
したがって,原告主張の取消事由4も採用することはできない。
6 取消事由5(顕著な作用効果の看過)について
(1) 原告は,本件発明の弁当箱は,上段容器がプラスチック製であることもあ
って,密封蓋の密封効果は一層大きく,ためにしずく等水分の器外への漏出
を完全に防止でき,また,上段容器はプラスチック製であるため,電子レン
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ジ適応可能に設計でき,更に,弁当使用後は,密封蓋を被せた上容器を逆さ
にして下容器に収納可能なことから,弁当箱全体の外形容積が使用前の約2
分の1となるコンパクト収納が可能であり,加えて,アルミニウム,プラス
チックという2材料を用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているに
拘らず,形状を極めてシンプルに形成することができる結果,成型容易であ
ってかつ洗浄に便であるという顕著な作用効果を奏するところ,審決は,こ
れらの顕著な作用効果を看過している旨を主張する。
しかし,引用発明も,「密封蓋」を有し,コンパクトに収納できる2段式
弁当箱であることは,それぞれ上記2,5で述べたとおりであり,また,ア
ルミニウムとプラスチックという2種類の素材を用いることが周知技術の適
用にすぎないことは,上記3で述べたとおりである。同一の構成から同一の
作用効果が得られることは技術常識であるから,原告が主張する本件発明の
作用効果は,引用発明に周知技術を適用したものにおいても奏されることは
明らかであって,当業者にとって予測不能な顕著なものとはいえない。。
(2) また,原告は,本件発明実施品の商業的成功を主張するが,商業的成功は,
製品価格,意匠,宣伝効果など,発明の構成以外の要素によっても左右され
るものであるところ,原告の主張する商業的成功が,本件発明の構成のみに
よってもたらされていると認めるに足る証拠はない。
(3) したがって,原告主張の取消事由5も採用の限りでない。
7 結語
以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。よって,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとして,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
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裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 岡 本 岳
裁判官 上 田 卓 哉

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