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平成17(行ケ)10699行政訴訟 実用新案権

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成18年1月25日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法41条3回
実用新案法39条4項2回
特許法125条1回
キーワード 審決24回
訂正審判19回
無効19回
実用新案権6回
侵害3回
無効審判1回
主文
事件の概要

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判決文

平成17年(行ケ)第10699号 審決取消請求事件
平成18年1月25日判決言渡,平成17年12月15日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 村角工業株式会社
 訴訟代理人弁護士 村林隆一,井上裕史
 被 告 特許庁長官 中嶋誠
 指定代理人 岡田孝博,青木博文,宮下正之
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が訂正2005-39044号事件について平成17年8月30日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,実用新案権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,不適法な審
判の請求であって,その補正をすることができないものであるとして,審判請求を
却下する旨の審決があったため,その取消しを求めた事案である。
 1 特許庁等における手続の経緯(当事者間に争いのない事実)
 (1) 原告は,平成2年11月8日,発明の名称を「医療検査用カセット」とする
実用新案登録出願をし,平成9年5月23日,その設定登録(実用新案登録第25
47410号。以下「本件実用新案」という。)を受けた。
 (2) 本件実用新案について無効審判請求がされ(無効2003-35440号事
件として係属),特許庁は,平成16年5月11日,本件実用新案登録を無効とす
る旨の審決をした。
 (3) 原告は,上記無効審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し(平
成16年(行ケ)第266号事件として係属),同裁判所は,同年12月27日,
原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。原告は,同判決について上告受理の
申立てを最高裁判所にしたが,同裁判所は,平成17年4月19日,原告の上告受
理の申立てを受理しない旨の決定をし,上記無効審決は確定した。
 (4) 原告は,上記無効審決の確定前である平成17年3月8日,願書に添付した
明細書を訂正することについて訂正審判を請求したところ(訂正2005-390
44号事件として係属),特許庁審判長は,上記無効審決の確定後である平成17
年4月26日,「本件審判の請求書を却下する。」との決定をした。
 (5) 原告は,平成17年5月26日,上記決定の取消しを求める訴訟を知的財産
高等裁判所に提起したところ(同年(行ケ)第10497号事件として係属),同
裁判所は,同年6月29日,審判長が審判の請求書を却下することができる場合に
は当たらないとして,上記決定を取り消す旨の決定を言い渡し,同判決は確定し
た。
 (6) 特許庁は,上記審判請求事件について更に審理し,平成17年8月30日,
「本件審判の請求を却下する。」との審決をし,同年9月9日,その謄本を原告に
送達した。
 2 審決の理由
 審決が本件審判の請求を却下した理由は,次のとおりである。
 「実用新案登録第2547410号の実用新案登録を無効とする審決の確定によ
り,本件実用新案権は,旧実用新案法41条(平成5年法律第26号による改正前
の実用新案法41条(平成15年法律第47号による改正後の平成5年改正法附則
4条2項の規定により読み替えられたもの))で準用する特許法125条の規定に
よって,初めから存在しなかったものとみなされるから,本件訂正審判請求は,そ
の対象物を失った(目的を失った)不適法な審判請求であって,その補正をするこ
とのできないものである。
 以上のとおりであるから,本件訂正審判請求は,前記旧実用新案法41条で準用
する特許法135条の規定により,却下すべきものである。」
第3 原告主張の審決取消事由の要旨
 審決は,「本件訂正審判請求は,その対象物を失った(目的を失った)不適法な
審判請求であって,その補正をすることのできないものである。」と認定判断し
て,審判請求を却下すべきものとした。
 1 旧実用新案法39条4項は,訂正の審判について,「第1項の審判は,実用
新案権の消滅後においても,請求することができる。ただし,第37条第1項の審
判により無効とされた後は,この限りでない。」と規定しているところ,原告は,
実用新案登録無効の審判により無効とされる前に本件訂正審判の請求をした。
 したがって,本件訂正審判請求は適法なものであったから,審決が,「本件訂正
審判請求は,・・・不適法な審判請求であ」ると判断したのは,誤りである。
 2 仮に本件訂正審判請求が不適法な審判請求であったとしても,これを却下す
ることは,原告に対する不利益処分であって,原告は,憲法上,告知と聴聞の権利
を有するから,被告は,却下に先立ち,本件が「不適法な審判請求であって,その
補正をすることができないもの」であるかどうかについて,原告に意見を申し立て
る機会を与えなければならないものである。
 被告は,原告に意見を申し立てる機会を与えないで,審判請求却下の審決をした
から,審判手続には憲法上認められた原告の権利を侵害した瑕疵がある。
第4 当裁判所の判断
 1 上記第2の1のとおり,原告の請求した訂正審判の係属中に本件実用新案登
録を無効とする旨の審決が確定したものであるところ,実用新案法(平成5年法律
第26号による改正前のもの。以下同じ。)41条によって準用される特許法12
5条の規定によれば,同条ただし書に当たるときでない限り,実用新案権は初めか
ら存在しなかったものとみなされ,もはや願書に添付した明細書等を訂正する余地
はないから,訂正審判の請求はその目的を失い不適法になるといわなければならな
い。本件において,同条ただし書に当たる事情はないから,本件訂正審判請求は不
適法になり,かつ,その不備を補正することはできないものである。
 したがって,審決の認定判断に誤りはない。
 2 原告は,実用新案登録無効の審判により無効とされる前に本件訂正審判の請
求をしたから,本件訂正審判請求は適法なものであったと主張する。
 実用新案法39条4項の規定は,その本文において,実用新案権の消滅後におけ
る訂正審判の請求を許し,ただし書において,審判により実用新案登録が無効にさ
れた後は,訂正審判の請求を許さないものとしているが,このただし書の規定は,
無効審決が確定した後に新たに訂正審判の請求をする場合にその適用があるのはも
とより,実用新案権者の請求した訂正審判の係属中に無効審決が確定した場合であ
ってもその適用がある(最高裁昭和57年(行ツ)第27号同59年4月24日第
三小法廷判決・民集38巻6号653頁参照)。
 したがって,原告が実用新案登録無効の審判により無効とされる前に本件訂正審
判の請求をしていても,上記請求は不適法になる。原告の上記主張は,独自の見解
に立つものであって,採用の限りでない。
 3 また,原告は,本件が「不適法な審判請求であって,その補正をすることが
できないもの」であるかどうかについて,原告に意見を申し立てる機会を与えなけ
ればならないのに,被告は,その機会を与えることなく,審判請求却下の審決をし
たから,審判手続には憲法上認められた原告の権利を侵害した瑕疵があると主張す
る。
 実用新案法41条によって準用される特許法135条の規定は,「不適法な審判
の請求であって,その補正をすることができないものについては,被請求人に答弁
書を提出する機会を与えないで,審決をもってこれを却下することができる。」と
規定しているが,この規定により審判の請求を却下しようとするときに,請求人に
意見を申し立てる機会を与えなければならない旨の規定はない。そして,上記規定
により審判の請求を却下しようとするときに,補正をすることができないものにつ
いてまでも,必ず請求人に意見申立ての機会を与えなければならないものと解する
ことは,実益に乏しい上,上記規定が,「被請求人に答弁書を提出する機会を与え
ないで,」と簡易迅速に審判請求を却下することができるようにした趣旨に照らし
て,相当でない。また,審判請求を却下した審決に不服がある請求人は訴えを提起
することができるのであるから,補正をすることができないものについて,意見申
立ての機会を与えることなく却下しても,請求人に実質的な不利益は生じないとい
うことができる。
 そうであれば,不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないも
のについては,請求人に意見を申し立てる機会を与えないで,これを却下すること
ができると解される。
 したがって,本件において,原告に意見申立ての機会を与えなかったとしても,
手続保障に欠けるところはなく,憲法上認められた原告の権利を侵害するものとは
いえないのであって,審判手続には瑕疵がない。原告の上記主張も,採用すること
ができない。
第5 結論
 以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,原告の請求
は棄却されるべきである。
    知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官                     
                   塚   原   朋   一
           裁判官                     
                   髙   野   輝   久
           裁判官                     
                   佐   藤   達   文

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