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平成16(ワ)14438民事訴訟 実用新案権

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成17年12月1日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法3条1項3号4回
実用新案法3条2項3回
特許法104条の31回
キーワード 刊行物74回
無効10回
進歩性9回
実用新案権8回
新規性5回
差止2回
無効審判2回
侵害2回
実施2回
分割1回
損害賠償1回
主文
事件の概要

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判決文

平成17年12月1日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成16年(ワ)第14438号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年9月8日
判       決
原      告   株式会社オーエス
訴訟代理人弁護士   宇佐美 貴 史
訴訟代理人弁理士   柳 野 隆 生 
森 岡 則 夫
    
被      告   株式会社シネマ工房
訴訟代理人弁護士   井 原 紀 昭
主       文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載のテレビハンガー及びビデオケースを製造し,輸
入し,販売し,販売のために広告もしくは展示をしてはならない。
2 被告は,占有する別紙物件目録記載のテレビハンガー及びビデオケースを廃
棄せよ。
3 被告は原告に対し,1500万円及びこれに対する平成17年1月15日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用
第2 事案の概要
 本件は,「テレビハンガー」に係る後記考案の実用新案権者である原告が,
被告の製造販売するテレビハンガー及びビデオケースは同考案の技術的範囲に属す
ると主張して,被告に対し,被告装置の製造,輸入,販売の差止め等と損害賠償を
求めた事案である(附帯請求は,訴状送達の日の翌日以降の民法所定年5分の割合
による遅延損害金支払請求である。)。
1 当事者に争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は,各種スクリーン,テレビ会議システム,視聴覚教材及び関連商
品の販売,各種スクリーン及び黒板,電動装置や関連設備のオートメーション装
置,AVシステム会議室,視聴覚室,舞台,室内インテリアの企画・設計・施工等
を業とする株式会社である。
   イ 被告は,各種スクリーン,テレビハンガー,AVラック,AVテーブル
を製造販売することを業とする株式会社である。
(2) 原告の実用新案権
 原告は,下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その請求項
1の考案を「本件考案1」と,請求項2の考案を「本件考案2」と,その願書に添
付した明細書を「本件明細書」という。)を有している。
実用新案登録番号 第2559570号
考案の名称 テレビハンガー
出願日 平成4年10月28日(実願平6-12683号〔実願平4-8
0988号の分割出願〕)
公開日 平成7年6月2日(実開平7-29967号)
登録日 平成9年9月19日
実用新案登録請求の範囲 【請求項1】天井等からテレビを吊り下げ状態
に設置するテレビハンガーであって,テレビを
載置するハンガー本体下方に,ビデオデッキを載置するための箱体状のビデオデッ
キ用ハンガーを併設し,ビデオデッキ用ハンガーの両側板に,内方に突出させた上
押さえ片を有するビデオデッキ固定金具を,上下にスライド自在に取り付け,載置
したビデオ デッキを上面から押圧して固定可能としたことを特徴とするテレビハ
ンガー。
            【請求項2】上押さえ片と側片とよりなるL型
のビデオデッキ固定金具の側片を,ビデオデッキ用ハンガーの側板の内面に当接
し,ビデオデッキ用ハンガーの側板の外側から上下に開口した長孔を通って取付ネ
ジの先端を挿入してビデオデッキ固定金具に螺合させて取り付けることにより,ビ
デオデッキ固定金具を上下にスライド自在とした請求項1記載のテレビハンガー。
(3) 本件考案1及び2を構成要件に分説すると次のとおりである。
ア 本件考案1
    A 天井等からテレビを吊り下げ状態に設置するテレビハンガーであっ
て,
    B テレビを載置するハンガー本体下方に,ビデオデッキを載置するため
の箱体状のビデオデッキ用ハンガーを併設し,
    C ビデオデッキ用ハンガーの両側板に,内方に突出させた上押さえ片を
有するビデオデッキ固定金具を,上下にスライド自在に取り付け,
    D 載置したビデオデッキを上面から押圧して固定可能としたことを特徴
とする
    E テレビハンガー。
   イ 本件考案2
    F 上押さえ片と側片とよりなるL型のビデオデッキ固定金具の側片を,
ビデオデッキ用ハンガーの側板の内面に当接し,
    G ビデオデッキ用ハンガーの側板の外側から上下に開口した長孔を通っ
て取付ネジの先端を挿入してビデオデッキ固定金具に螺合させて取り付けることに
より,ビデオデッキ固定金具を上下にスライド自在とした
    H 請求項1記載のテレビハンガー。
  (4) 被告は,平成12年ころから,別紙物件目録記載のテレビハンガー及びビ
デオケース(以下「被告製品」という。)をカタログに記載して,製造販売を開始
し,原告からの警告を受けて一旦製造販売を中止したものの,現在は製造販売を再
開している。
(5) 被告製品の構成は,次のとおりである。
   a 天井等からテレビを吊り下げた状態に設置するテレビハンガーである。
  b テレビを載置するテレビハンガーの下方に,ビデオケースを併設する。
 c ビデオケースの両側板に,内方に突出させた上押さえ片を有するビデオ
デッキ固定金具を,上下にスライド自在に取り付ける。
   d 載置したビデオデッキを上面から押圧して固定可能としている。
   e テレビハンガーである。
    さらに,被告製品は,
   f 上押さえ片と側片とよりなるL型のビデオデッキ固定金具の側片が,ビ
デオケースの側板の内面に当接している。
   g ビデオケースの側板の外側から上下に開口した長孔を通って取付ネジの
先端を挿入してビデオデッキ固定金具を螺合させて取り付けることにより,ビデオ
デッキ固定金具を上下にスライド自在としている。
   h 上記aないしeの構成を備えたテレビハンガーである。
(6) 被告製品における「テレビハンガー」は,本件考案1及び2における「ハ
ンガー本体」に相当する。また,被告製品における「ビデオケース」は,本件考案
1及び2における「ビデオデッキ用ハンガー」に相当し,被告製品は構成要件Aな
いしHを充足する。したがって,被告製品は本件考案1及び2の技術的範囲に属す
る。
2 争点
(1) 本件考案1及び2に係る実用新案登録(以下「本件実用新案登録」とい
う。)は登録無効審判により無効とされるべきものか。
 ア  本件考案1及び2はその出願前に頒布された刊行物である乙第1号
証に 記載されたものであるか。(争点1)
 イ 本件考案1及び2は,その出願前に頒布された刊行物である乙第2号証
及び同第4号証に記載された考案に基づいて容易に考案することができたものであ
るか。(争点2)
 ウ 本件考案1及び2は,その出願前に頒布された刊行物である乙第1号
証,乙第4号証及び乙第5号証に記載された考案に基づいて容易に考案することが
できたものであるか。(争点3)
(2) 原告の損害(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件考案1及び2は,本件実用新案登録出願前に頒布された刊行物
である乙第1号証に記載されたものであるか。)について
【被告の主張】
 本件考案1は,すべて本件実用新案登録出願前に米国において頒布された刊
行物である乙第22号証(乙第1号証はその抜粋。以下「本件カタログ」とい
う。)に記載されているので,実用新案法3条1項3号の考案に該当し,新規性を
欠如しているから,同法37条1項2号の無効事由を有する。
(1) 本件カタログは,1988年(昭和63年)にアメリカのスクリーンメー
カーの最大手会社であるブレッドフォード社が1年に1回開催する商品の展示会用
に作成し,同展示会で頒布した商品カタログであって,テレビとビデオデッキ両方
を同時に載置できるテレビ及びビデオ用ハンガー(兼用ハンガー)「TVM4VC
R」(以下「乙1製品」という。)を掲載している。
 本件カタログ及び後記乙第5,6号証によれば,乙1製品の構成は,以下
のとおりである。
A’ 壁面から延びるアームの上部にテレビ設置マウントを設けているテレ
ビハンガーであって,
B’ テレビを載置するテレビハンガー本体下方にビデオデッキを載置する
ための長方形状の底板,三角形状の両側板,長方形状の上面から成るビデオデッキ
用ハンガーを併設し,
C’ ビデオデッキ用ハンガーの両側板に,内方に突出させた上押さえ片を
有するビデオデッキ固定金具を上下にスライド自在に取り付け,
D’ 載置したビデオデッキを固定金具により上面から押圧して固定可能と
したこと
 を特徴としているテレビハンガーである(E’)。また,以下の構成を採
用している。
F’ 上押さえ片と側片からなるL型のビデオデッキ固定金具の側片をビデ
オデッキ用ハンガーの側板の内面に当接し,
G’ ビデオデッキ用ハンガーの側板の外側から上下に開口した長孔を通っ
て取付ネジの先端を挿入して,ビデオデッキ固定金具に螺合して取り付けることに
より,ビデオデッキ固定金具を上下にスライド自在とした
H’ テレビハンガー。
(2) 乙1製品は,以下のとおり,本件考案1と同一の構成を有する。
ア 乙1製品の構成A’との対比
 乙1製品は「壁面から延びるアームの上部にテレビ設置マウントを設け
た」ものであって,「天井等からテレビを吊り下げ状態に設置する」本件考案1と
異なることは争わない。しかし,テレビ用ハンガーをパイプで天井から吊り下げる
構成は,乙第4号証の公開実用新案公報や乙第9号証の1及び2のカタログの記載
から明らかなように,本件実用新案登録出願前に公知となっていた。また,テレビ
及びビデオ用ハンガーを,天井から吊り下げるか壁に吊り下げるかは,テレビ及び
ビデオ用ハンガーの使用目的(学校等の視聴覚教育用,病院の待合室等での使用)
にとって何ら差異を生じない。したがって,テレビ及びビデオ用ハンガーを「天
井」から吊り下げるか「壁」から吊り下げるかは,本件考案1にとって非本質的事
項である。現に本件考案1の実用新案登録請求の範囲にも「天井等からテレビを吊
り下げ状態」と記載されており,「天井」から吊されるものだけに限定されていな
い。よって,乙1製品は,本件考案1の構成要件Aを具備している。
イ 乙1製品の構成B’との対比
 ビデオデッキを載置するものとして,乙1製品は「長方形状の底板,三
角形状の両側板,長方形状の上面から成るビデオデッキ用ハンガー」を設けている
のに対し,本件考案1では「箱体状のビデオデッキ用ハンガー」を設けている。し
かし,本件考案の目的,作用効果との関係では,ビデオデッキ用ハンガーの形状が
箱体状であるか,長方形状の2枚に分かれた底板,略三角形状の両側板,長方形状
の上面板から形成されたものであるかは,単なる形状の相違であって,非本質的事
項についての差異であるにすぎない。よって,乙1製品は,本件考案の構成要件B
を具備している。
ウ 乙1製品の構成C’との対比
(ア) 本件カタログ中の乙1製品の図面及び乙第5号証(米国プレミア・
マウンツ社の商品カタログ。以下「乙5カタログ」という。)56頁下段の図面,
乙第6号証(ブレッドフォード社のホームページの掲載内容。以下「乙6ホームペ
ージ」という。)のSTEP4及び5の図面によれば,乙1製品は,上押さえ片を
有する固定金具を長孔及び取付ネジを使用して上下にスライド自在に取り付けるこ
とができる構成になっていることは明らかであり,本件考案1の構成要件Cを具備
している。
(イ) なお,原告は,乙1製品の構成を認定するのに,乙5カタログ及び
乙6ホームページの内容を参酌することは不当であると主張するが,乙5カタログ
は,プレミア・マウンツ社が乙1製品を買い受け,他へ販売するために作成し,バ
イヤーに頒布していた商品カタログであり,本件カタログ掲載の乙1製品と,乙5
カタログの55ないし58頁のテレビ及びビデオ用ハンガーは同一の製品である。
また,乙5カタログ自体の作成,頒布時期は平成10年であるが,その相当以前の
プレミア・マウンツ社のカタログにも掲載されていた。さらに,乙6ホームページ
自体は,2002年から2005年のホームページの掲載内容であるが,その内容
によれば,テレビ及びビデオ用ハンガーVCR4,すなわち,テレビマウント機器
を1986年(昭和61年)に発表していると記載されており,乙6ホームページ
掲載の形状及び構造よりすると,乙1製品と同一の形状,構造である。したがっ
て,本件考案の技術的範囲の認定に際し,乙5カタログ及び乙6ホームページの内
容を斟酌することは不当ではない。
エ 乙1製品の構成D’との対比
乙5カタログ56頁及び乙6ホームページのSTEP4及び5の各図面
によれば,乙1製品は,ビデオハンガーに載置したビデオデッキを上押さえ片を有
する固定金具を使用して上面から押圧して固定可能とする構成を採用していること
は明らかである。よって,乙1製品の構成要件D’は,本件考案1の構成要件Dを
具備している。
(3) また,乙1製品は,本件考案2の構成とも同一のものである。
 すなわち,ウ(ア)の事実に加えて,本件カタログ49頁の上段図面の左側
の側面図及び乙5カタログ56頁の図面,乙6ホームページのSTEP4及び5の
図面を見ると,ビデオデッキ用ハンガーの側板の外側に上下に開口した長孔が設け
られていること,本件カタログの49頁上段図面の右側の正面図及び乙5カタログ
56頁の図面,乙6ホームページのSTEP4及び5の図面を見ると,前記長孔を
通って取付ネジの先端を挿入して,L型のビデオデッキ固定金具に螺合して取り付
けることにより,ビデオデッキ固定金具が上下にスライド自在となっていることが
開示されている。よって,乙1製品は,本件考案の構成要件F,Gを具備する。
(4) 原告は,本件カタログの図面や写真は実用新案法第3条1項3号の「頒布
された刊行物に記載された考案」に該当せず,本件考案1及び2の新規性は否定さ
れないと主張する。しかし,ブレッドフォード社は,米国最大手の世界的なスクリ
ーンメーカーであり,その展示会には日本のスクリーンメーカーも毎年多数参加し
ていた。そして,本件カタログは,同展示会場に行けば誰でも頒布を受けることが
可能なものであった。
【原告の主張】
 以下のとおり,本件カタログの図面や写真は,実用新案法第3条1項3号に
いう「実用新案登録出願前に…外国において,頒布された刊行物に記載された考
案」に該当せず,本件考案1及び2の新規性は否定されない。
 (1) 本件カタログの2頁には,「<C>Copyright Bretford
Manufacturing 1988」と記載されているが,発行者等の記載はな
く,本件カタログが本当に1988年に発行されていたのか疑わしく,ブレッドフ
ォード社のプライベート資料であるといわざるを得ない。また,実用新案法3条1
項3号の「考案」として引用するためには,当該考案が記載された刊行物が,具体
的に頒布されることが必要であるところ,本件カタログは,本件実用新案登録出願
前に,具体的に頒布されていたのかどうか不明である。
(2) さらに,本件カタログ49頁には,テレビハンガーの写真と図面が掲載さ
れているところ,双方の構造は,左右の側板間の底板の存否や,これら側板の側面
視の形状,側板の長孔やボルトの有無の点で相違しているから,同図面が果たして
同写真の製品の説明図であるのか明確ではないし,カタログ自体の内容が改変され
ている可能性もある。加えて,実用新案法3条1項3号において刊行物に考案が記
載されているというためには,当業者がその刊行物を見れば,特別の思考を要する
ことなく実施し得る程度にその内容が開示されている必要があるところ,本件カタ
ログの図面には矛盾が多く,同図面を見ても,全く構造が不明であり,当業者はそ
の構造を容易には理解できず,乙1製品が前記【被告の主張】(1)のA’ないしD’
の構成を有することが開示されているとは到底いえない。
(3) また,乙1製品は,以下の点において,本件考案1とは異なることが明ら
かである。
ア 構成要件Aについて
 乙1製品は,壁面から延びるアームの上部にテレビ設置マウントを設け
たものであり,「テレビを吊り下げ状態に設置する」ものではなく,本件考案1の
構成要件Aを具備しない。
  イ 構成要件Bについて
 被告は,本件考案1の構成要件Bと,乙1製品の構成要件B’との相違
は単なる形状の相違であり,作用効果は同一であると主張する。
 しかしながら,本件考案1は,ビデオデッキ用ハンガーを箱体状として
テレビを載置するハンガーに併設することにより,優れた強度を維持し,ビデオデ
ッキを安定して保持することができるのであり,これに押さえ片を設けることで,
テレビハンガー本体と一体的に傾けることによって,ボタン操作やビデオテープの
出し入れなどの操作性を向上させることも可能になるといった格別顕著な作用効果
を有する。したがって,乙1製品は,本件考案1の構成要件Bを具備しない。
ウ 構成要件C,Dについて
 被告は,乙5カタログ及び乙6ホームページを根拠として,乙1製品が
本件考案1の構成要件C,Dを具備すると主張している。
 しかしながら,乙5カタログの頒布時期は,被告の主張によると平成1
0年であり,乙6ホームページも,被告の主張によると2002年から2005年
のブレッドフォード社のホームページであり,いずれも本件実用新案登録出願前に
頒布された刊行物ではないから,これらの刊行物の内容を参酌して乙1製品の構成
を認定することは許されない。
(4) 以上のとおり,本件カタログは,頒布の事実や内容等が不明であって,乙
5カタログ,乙6ホームページを参酌することも許されず,実用新案法第3条1項
3号の頒布された刊行物に該当しない。また,仮に該当したとしても,本件考案1
とは明らかに構造及び作用効果が異なる。よって本件考案1の新規性は否定され
ず,そうである以上,さらにその構造を限定した本件考案2も,新規性が否定され
ることはない。
 2 争点2(本件考案1及び2は本件実用新案登録出願前に頒布された刊行物で
ある乙第2号証及び乙第4号証に記載された考案に基づいて容易に考案することが
できたものであるか。)について   
【被告の主張】
 以下のとおり,本件考案1及び2は,本件実用新案登録出願前に頒布された
刊行物である乙第2号証(後記の引用刊行物1)及び乙第4号証(後記の引用刊行
物2)に記載された考案に基づいて容易に考案することができたものであって(実
用新案法3条2項,1項3号),同法37条1項2号の無効事由を有する。
(1) 本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物である特許番号
第4993676号米国特許公報(1991年(平成3年)2月19日発行,乙
2。以下「引用刊行物1」という。)には,テレビ本体用のハンガーの下にビデオ
デッキ用のハンガーを設けたという本件考案1の構成要件A,B及びEが開示され
ている。また,乙第3号証(備品購入証明書)によると,本件考案1の構成要件
A,B及びEを具備した形状,構造のテレビハンガーは,本件実用新案登録出願前
の平成元年には,訴外南高黒板製作所が公然と販売していた。それゆえ,本件考案
1の構成要件A,B及びEは,出願前に既に公知であった。
  そして,本件実用新案登録出願前に頒布された刊行物である実願昭62-
32356号(実開昭63-140781号)公開実用新案公報のマイクロフィル
ム(公開日昭和63年9月16日,乙4。以下「引用刊行物2」という。)には,
本件考案1及び2と同じテレビハンガーにおいて,テレビの上面を押圧して固定す
るL字形テレビ固定具17が開示されており,この構成は,L形の固定具を上下に
位置調整自在に固定可能としてこの固定具により対象物を上から押圧して固定する
という点で,本件考案1の構成要件C,D,本件考案2の構成要件F,Gと同様の
作用効果を奏する構成が開示されている。
  しかも,ケース(ハンガー)内の収容物を固定金具,ボルト,ケース自体
に設けられた長孔を利用して摺動自在に固定することは,以前より広く一般に知ら
れた方法であり(乙20,乙21参照),地震大国の日本において,当業者が,地
震等の際にビデオデッキがビデオ用ハンガーから落下することを防止するため,引
用刊行物2のテレビ用の固定金具をビデオデッキ固定金具に転用することは想到す
ることがきわめて容易であった。
  よって,引用刊行物1と同2を組み合わせた時,当業者であれば,引用刊
行物1のテレビハンガーの下部のビデオデッキ用ハンガー部に,引用刊行物2で開
示される「L字形テレビ固定具17」をそのまま適用して,ビデオデッキ用固定金
具とすることに何ら困難を生じないものであり,当業者にとって引用刊行物1と同
2に基づいて本件考案1及び2を想到するのはきわめて容易であった。
  以上によると,本件考案1及び2の構成要件AないしHは,前記各公知技
術を寄せ集めたものにすぎず,しかも,公知技術を寄せ集めたことにより各公知技
術の総和以上の新たな作用効果を生み出したものではないので,本件考案1及び2
はいずれも進歩性が欠如している。
(2)  原告は,構成要件B,C,Dによりビデオデッキを安定して保持させ
ることができ,テレビハンガー全体を傾け,テレビとともにビデオデッキも一緒に
傾けることで操作性を向上させることが可能となるといった作用効果を奏すると主
張するが,テレビとともにビデオデッキを傾ける何らの必要性はなく,むしろビデ
オデッキにとって有害であり,上記構成要件はテレビハンガーの操作性の向上に何
ら役立たない。
  しかも,原告の上記主張は,本件考案1及び2の実用新案登録請求の範囲
や本件明細書の考案の詳細な説明のいずれにも記載されていない。したがって,原
告の上記主張は,本件考案1及び2に進歩性があることを根拠づけるものではな
い。
また,原告は,引用刊行物1は「箱体状のビデオデッキ用ハンガーを併設
し」たものではなく,「箱体」はあくまで全体であり,ビデオハンガーの部分は,
仕切り板を設けることによって画設されているにすぎないと主張するが,たとえ全
体が1個の箱体であるとしても,テレビ用ハンガーの下部にビデオデッキ用ハンガ
ーを近接して設けるとの点では,本件考案1及び2とその技術的思想が全く同一で
あり,当業者が引用刊行物1からテレビ用ハンガーとビデオデッキ用ハンガーを別
々の箱体とし,この2つを近接して併設することは極めて容易に考案できた。
  【原告の主張】
  (1) 本件考案1の特徴について
  本件考案1は,その構成から明らかであるように,特に構成要件B,C,
Dにより,ビデオデッキを安定して保持させることができ,テレビハンガー全体を
傾け,テレビとともにビデオデッキも一緒に傾けることで操作性を向上させること
が可能となるといった顕著な作用効果を奏するものである。
(2) 引用刊行物1の開示内容について
引用刊行物1は「箱体状のビデオデッキ用ハンガーを併設し」たものでは
なく,「箱体」はあくまで全体であり,ビデオハンガーの部分は仕切り板を設ける
ことによって画設されているにすぎない。これに対し本件考案のビデオデッキ用ハ
ンガーは,テレビ用ハンガー本体とは別の箱体状のものであって,ハンガー本体に
対して下方に併設されるものであることは,構成要件Bの「テレビを載置するハン
ガー本体下方に,ビデオデッキを載置するための箱体状のビデオデッキ用ハンガー
を併設し,」との記載より明らかである。
  また,引用刊行物1は,テレビハンガーの内部に△形の詰め木54を設け
ることによりテレビのみ傾けるものであり,同刊行物からはテレビハンガー全体を
傾けること,ビデオデッキを傾ける意義は示唆されない。
(3) 引用刊行物2との組合せについて
  一般に,テレビは重心が高く,箱体状のハンガー内においても不安定であ
る。その一方,テレビハンガーによりテレビを天井等から吊り下げる場合,テレビ
画面を見やすくするために,テレビを下向きに傾斜させることに意義があること
は,引用刊行物1及び同2にも開示されているように本件実用新案登録出願当時か
ら明らかであった。
 これに対し,ビデオデッキは重心が低く,箱体状のハンガー内では安定し
ている。また,操作のために通常はテレビよりも下側に設けられる上,テレビのよ
うに画面を見るためのものでないため,引用刊行物1からも分かるように,ビデオ
デッキを下向きに傾斜させる意義は,本件実用新案登録出願当時,容易には見出せ
なかった。
 このように,テレビとともにビデオも傾けることができることの意義が見
出せなかったのであるから,ビデオデッキを傾けるものではない引用刊行物1のビ
デオハンガー部分にテレビの転倒を防止するために設けられた引用刊行物2のテレ
ビ固定具を転用することは,明らかに動機を欠いており,その意義も何ら認められ
ず,上記転用の論理付けができない。
  (4) 結論
 以上のように,引用刊行物1のビデオハンガー部分に引用刊行物2のテレ
ビ固定具を転用するといった論理付けは否定され,さらに本件考案1は,引用刊行
物1と同2の各構成からは予想できない顕著な作用効果を奏している。したがっ
て,本件考案1は,引用刊行物1及び同2に基づいて当業者がきわめて容易に考案
できたものとはいえず,本件考案1の進歩性は否定されない。
 そして,本件考案1の進歩性が否定されない以上,本件考案2について
も,同じく進歩性は否定されない。
 3 争点3(本件考案1及び2は,その出願前に頒布された刊行物である乙第1
号証,乙第4号証及び乙第5号証に記載された考案に基づいて容易に考案すること
ができたものであるか。)について。
  【被告の主張】
   本件実用新案登録出願前に,当業者であれば,誰もが入手容易な本件カタロ
グや乙5カタログには,ビデオハンガーの両側板の外側に設けられた長孔を通って
取付ネジの先端を挿入して,両側板の内方に突出させた上押さえ片を有するビデオ
デッキ固定金具を螺合して,同金具を上下にスライド自在とする構成が開示されて
いる。
したがって,当業者である原告が,本件カタログ及び乙5カタログによって
開示された前記公知技術に基づき,本件考案1の構成要件C及びDを考案すること
は,きわめて容易であったことは明らかである。
さらに,本件考案2は,本件考案1における「ビデオデッキ固定金具」の構
造を具体的にしたものであるところ,引用刊行物2の構成は,本件考案2の構成要
件F及びGと同等の作用効果を奏することは,2において主張したとおりである。
そうすると,本件考案1は,本件カタログと乙5カタログの組合せにより,
本件考案2は,さらに引用刊行物2を組み合せることにより,当業者が容易に考案
できたものであり,進歩性が欠如している。 
  【原告の主張】
本件カタログ及び乙5カタログが実用新案法3条1項3号の刊行物に該当し
ないことは,既に主張したとおりである。したがって,これらは進歩性を否定する
ための引用例にはならず,本件考案1及び2の進歩性は否定されない。
 4 争点4(原告の損害)について
【原告の主張】
 被告は,被告製品を製造販売することが本件実用新案権を侵害することを知
りながら,平成12年1月以降現在に至るまで少なくとも850台の被告製品を製
造販売したものであり,被告の上記違法行為により原告の被った損害は,下記のと
おりとなり,弁護士費用・弁理士費用合計300万円を含めて1500万円を下ら
ない。
  (計算式)
  850台×5万円(原告製品の販売価格)×0.3(利益率)=1275万円
【被告の主張】
 争う。
第4 本件実用新案登録の無効事由の存否に関する当裁判所の判断
 本件の主要な争点は,本件実用新案登録が登録無効審判により無効とされる
べきものであるか否かであり(実用新案法30条,特許法104条の3),被告
は,その無効事由の1つとして,本件考案1及び2が,その出願前に頒布された刊
行物である乙第2号証(引用刊行物1)及び乙第4号証(引用刊行物2)に記載さ
れた考案に基づいて容易に考案することができたものであって(実用新案法3条2
項,1項3号),同法37条1項2号の無効事由があると主張する(争点2)の
で,まず,この点について判断する。
1 本件考案1及び2の技術内容等について
 そこで,本件考案1及び2の技術内容等についてみるに,本件明細書(甲1
の1)には,次の記載がある。
(1) 【産業上の利用分野】,【従来の技術】の部分
  本件考案は,天井等からテレビ及びビデオデッキを吊り下げ状態に設置す
るためのテレビハンガーに関するものである。
  従来,テレビハンガーを用いた場合,天井から吊り下げたテレビハンガー
内にテレビを設置し,ビデオデッキは別のテーブル等の上に設置し,このように距
離をあけて設置したテレビとビデオデッキを接続ケーブルを用いて接続して使用し
ている。
(2) 【考案が解決しようとする課題】の部分
  しかし,従来の方法であると,このように離れて設置したテレビとビデオ
デッキとを接続ケーブルを用いて接続する必要があるので,接続ケーブルが邪魔と
なり,また長い接続ケーブルが必要となるので不経済であるという問題点があっ
た。更に,テレビとビデオデッキを離れて別の場所に設置しているので,例えばテ
レビとビデオデッキの電源スイッチを入れたり,ビデオデッキにビデオカセットの
出し入れを行ったり,加えてテレビとビデオデッキのリモコンスイッチの操作等に
おいても面倒であるという問題点もあった。そこで,本件考案は,テレビとビデオ
デッキを近接して吊り下げることにより,接続ケーブルが邪魔にならず,しかもテ
レビやビデオデッキの操作が簡単になり,更にビデオデッキの大きさに応じて調整
して設置することができるテレビハンガーを提供することを目的とする。
(3) 【課題を解決するための手段】の部分
   上記目的を達成するために,請求項1のテレビハンガーは,天井等からテ
レビを吊り下げ状態に設置するテレビハンガーであって,テレビを載置するハンガ
ー本体下方に,ビデオデッキを載置するための箱体状のビデオデッキ用ハンガーを
併設し,ビデオデッキ用ハンガーの両側板に,内方に突出させた上押さえ片を有す
るビデオデッキ固定金具を,上下にスライド自在に取り付け,載置したビデオデッ
キを上面から押圧して固定可能としたことを特徴とする。
   また,請求項2のテレビハンガーは,上押さえ片と側片とよりなるL型の
ビデオデッキ固定金具の側片を,ビデオデッキ用ハンガーの側板の内面に当接し,
ビデオデッキ用ハンガーの側板の外側から上下に開口した長孔を通って取付ネジの
先端を挿入してビデオデッキ固定金具に螺合させて取り付けることにより,ビデオ
デッキ固定金具を上下にスライド自在としたものである。
(4) 【考案の効果】の部分
   請求項1のテレビハンガーによれば,ハンガー本体にはテレビを載置する
とともに,ビデオデッキ用ハンガーにはビデオデッキを載置することにより,テレ
ビ及びビデオデッキを吊り下げ状態で,しかもテレビの下方にビデオデッキを近接
して設置することができるので,テレビとビデオデッキを接続する接続ケーブルが
邪魔にならず,その上接続ケーブルが短くて済み,しかも,テレビとビデオデッキ
の操作が行い易くなる。しかも,ビデオデッキ固定金具をビデオデッキ用のハンガ
ーの側板内面に上下に移動させ,ビデオデッキ用ハンガーに載置したビデオデッキ
の上面をビデオデッキ固定金具の上押さえ片で押圧することができるので,さまざ
まな大きさのビデオデッキを設置して固定することができる。
   請求項2のテレビハンガーによれば,取付ネジを緩めてビデオデッキ固定
金具を,上下に開口した長孔に沿ってスライドさせ,ビデオデッキの上面を該ビデ
オデッキ固定金具の上押さえ片で押圧した後,取付ネジを側板の外側から長孔を通
ってビデオデッキ固定金具に螺合することにより,簡単に且つ強固に固定すること
ができる。
2 引用刊行物1の内容
 これに対し,引用刊行物1は,乙第2号証の図面によれば,天井から吊り下
げられたテレビセットを支える装置に係る考案であって,その第3欄23行目ない
し38行目には,次の記載があることが認められる。
 「キャビネット12は長方形の箱体のような形状で,テレビセット44を支
え,保護するに適した上部42とビデオカセットレコーダー48を支え,保護する
ための下部46を伴っている。棚50はテレビセットを支えるためのキャビネット
部とビデオカセットレコーダーを支える底部52の間に配置されている。セットの
後方を下支えするよう配置された滑らせることが可能な詰め木54によって垂直か
ら下方へのテレビセットスクリーン角位置の調節を行うことができる。詰め木は見
るのに最適な位置にスクリーンの角度を調節するために動かすことが可能である。
キャビネットの前方縁の出っ張り55は標題のテレビセットがすべり落ちないよう
に保護する。キャビネットはまた位置を調節するため座金36に対するシャフト軸
の周りを回転し,それによりキャビネットの前方は見るのに最適な位置に向くこと
ができる。」
  これらの記載及び図面1及び3によれば,引用刊行物1には,天井からテレ
ビセットを吊り下げた状態に載置するテレビハンガーであって,テレビを棚50に
載置する上部とビデオデッキを底部52に載置する下部を備えた箱体状キャビネッ
ト12から成るテレビハンガーの構成が示されているということができる。
3 本件考案1及び2と引用刊行物1の発明とを対比すれば,両者は後記(1)の点
で一致し,後記(2)ないし(4)の点で相違する。
 (1) 一致点
   天井からテレビ及びビデオデッキを吊り下げた状態に設置するテレビハン
ガーであること。
 (2) 相違点①
   本件考案1及び2が,テレビハンガー本体下方に箱体状のビデオデッキ用
ハンガーを併設しているのに対し,引用刊行物1では,キャビネット全体が1つの
箱体状であり,その中に上下を仕切る棚を設けて,その上部をテレビハンガーと
し,その下部をビデオデッキ用ハンガーとしている。
 (3) 相違点②
   ビデオデッキを固定するための構成は,本件考案1及び2が,ビデオデッ
キ用ハンガーの両側板に,内方に突出させた,上押さえ片22aを有するビデオデ
ッキ固定金具22を,上下にスライド自在に取り付け,載置したビデオデッキを上
面から押圧して固定可能とするものであるのに対し,引用刊行物1におけるビデオ
デッキを固定するための構成は,特に設けられていない。
(4) 相違点③
 ビデオデッキを固定するための固定金具を上下にスライド自在に取り付け
るための構成は,本件考案2が,上押さえ片22aと側片22bとよりなるL型の
ビデオデッキ固定金具の側片22bを,ビデオデッキ用ハンガーの側板5aの内面
に当接し,ビデオデッキ用ハンガーの側板5aの外側から上下に開口した長孔24
を通って取付ネジ25の先端を挿入してビデオデッキ固定金具22に螺合させて取
り付けることにより,ビデオデッキ固定金具22を上下にスライド自在としたもの
であるのに対し,引用刊行物1におけるビデオデッキを固定するための構成は,特
に設けられていない。
4(1) 相違点①についての検討
   引用刊行物1のように1つの箱体であるキャビネットのテレビを載置する
上部とビデオデッキを載置する下部とを,本件考案1及び2のように別々の箱体と
し,この2つの箱体を併設することは,テレビとビデオデッキを近接して吊り下げ
ることを可能とする点で,何ら技術思想を異にするものではなく,単なる設計事項
であることは明らかである。
   よって,引用刊行物1記載の発明から,引用刊行物1の箱体であるキャビ
ネットを載置する上部とビデオデッキを載置する下部とを,別々の箱体とし,この
2つを併設することは,当業者であれば容易に推考し得ることである。
 (2) 相違点②についての検討
ア 本件考案1について
 (ア) 引用刊行物2は,乙第4号証によれば,天井等からテレビを吊り下
げ状態に設置するテレビハンガーに関する考案(考案の名称「組立式テレビフー
ド」)についての公開実用新案公報である。
 そして,乙第4号証の第7頁第11行目ないし第14行目には,「ま
たサイドアーム12の上方に形成した長孔22にはL字形テレビ固定具17の垂直
部に固定したボルト23を通し,該テレビ固定具17を位置調節自在に固定す
る。」と記載されており,同記載に対応する図面第2図も参酌すると,L字形の固
定具を上下に位置調整自在に固定可能として,この固定具の内方に突出した水平の
片によりテレビを上から押圧して固定する考案であると認められる。また,引用刊
行物2の上記記載内容によれば,「サイドアーム」「L字形テレビ固定具17」
は,本件考案1の「両側板」「ビデオデッキ固定金具」に相当することが明らかで
ある。よって,引用刊行物2に記載された考案は,テレビハンガーの両側板に,内
方を突出させた上押さえ片を有するテレビ固定金具を,上下にスライド自在に取り
付け,載置したテレビ上面から押圧して固定可能としたというものであると認めら
れる。
 (イ) ところで,テレビハンガーは,天井,壁等から吊り下げて人の頭上
に設置するものであり,地震等に際し,テレビやビデオデッキがハンガー内から外
部に落下することを防止する固定機能を具備していることが必要不可欠であること
は自明の課題である。
 そうすると,引用刊行物2に接した当業者が,同刊行物に記載された
テレビハンガーにおける前記テレビの固定構造を引用刊行物1のビデオデッキに適
用して,相違点②に係る本件考案1の構成を想到することは,極めて容易であった
というべきである。
(ウ) これに対し,原告は,本件考案1は,構成要件B,C,Dにより,
ビデオデッキを安定して保持させることができ,テレビハンガー全体を傾け,テレ
ビとともにビデオデッキも一緒に傾けることで操作性を向上させることが可能とな
るといった顕著な作用効果を奏するものである点に特徴があると主張する。
 しかしながら,本件考案1の構成要件には,原告が主張するような
「テレビハンガー全体を傾け,テレビとともにビデオデッキも一緒に傾ける」とい
う作用効果を得るための構成は何ら示されておらず,本件明細書の作用の欄にも効
果の欄にもその旨の記載は全くないから,原告主張の作用効果を本件考案1の作用
効果であると認めることはできない。
  もっとも,本件明細書の段落【0013】及び図10には,テレビハ
ンガー本体とビデオデッキ用ハンガーが一体的に傾けられることが記載されてはい
るが,実施例についての記載にすぎない上,本件考案1がテレビとともにビデオデ
ッキも一緒に傾けることが特徴であるとの記載はない。また,テレビとともにビデ
オデッキも一緒に傾けることによって操作性を向上させることが可能となることを
示唆する記載もない。
 また,本件明細書の記載内容はひとまず措くとしても,テレビととも
にビデオデッキも一体として傾けることによって操作性が向上するとは認め難い。
すなわち,本件明細書段落【0003】【0005】【0016】には,テレビと
ビデオデッキの電源スイッチを入れる場合や,ビデオデッキにビデオカセットの出
し入れを行う場合やテレビとビデオデッキのリモコンスイッチの操作等において,
従来の技術では難点があったとの記載があり,それを解決するためにテレビとビデ
オを近接して設置させることで,それらの操作が行い易くなることが記載されてい
るところ,それらに関して,ビデオデッキとテレビとが近接していることに加え,
両者が一体となって傾いていることに何らかの特別な作用が生じると認めるに足り
る事情は見当たらないからである。
 さらに,原告は,ビデオデッキを下向きに傾ける必要性がなかったの
で,引用刊行物2のテレビの固定金具をビデオデッキの固定金具に転用することは
想到が容易ではなかったと主張するが,地震等の場合に,テレビ及びビデオデッキ
の落下を防止する必要性があることが当然のことであることは,前記説示のとおり
である。
 よって,原告の主張はいずれも採用できない。
  (エ) 以上によれば,本件考案1は,引用刊行物1及び2から当業者が想
到することが容易であり,進歩性が否定されるべきである。
イ 本件考案2について
(ア) 相違点①及び②について
 これらの相違点に関する判断は,先に本件考案1について説示したと
ころと同じである。
(イ) 相違点③について
a 引用刊行物2に示されている構成は,アにおいて認定説示したとお
りであり,L字形テレビ固定具17の固定方法は,ハンガーの側面の板に上下に開
口した長孔に締付具(ボルト,ネジ)を通してLの形をした固定部材を上下にスラ
イドさせて任意の位置で固定可能とし,この固定部材により対象物を押圧する点
で,本件考案2と同一である。
 さらに,乙第20号証の公開実用新案公報(昭60-92288)
には,任意の長さに調節可能とした後方金具や,後方金具の垂直部分に摺動可能に
保持され,CRT本体を背面より固着する締付金具の技術が開示されており,乙第
21号証の公開実用新案公報(平1-95157)では,長孔を摺動自在として,
支持部材を押圧する技術が開示されている。これらの刊行物によれば,ケース内の
収容物を固定金具等の部材,ボルト等の締付部材,ケース自体に設けられた長孔を
利用して摺動自在に固定することは,本件実用新案登録出願前より広く一般に知ら
れた方法であることが認められる。
b このような引用刊行物2の記載に,aに記載した周知技術も考慮す
れば,当業者であれば,引用刊行物1に同2を組み合わせた場合に,引用刊行物1
のキャビネット下部のビデオデッキ設置部に,引用刊行物2のテレビ用の「L字形
テレビ固定具17」を転用して,相違点③に係る本件考案2のビデオデッキ用固定
金具の取付構造とすることに,何ら障害はなく,当業者にとって,引用刊行物1及
び同2に基づいて,本件考案2の考案を想到することはきわめて容易である。
 よって,本件考案2は,引用刊行物1及び同2並びに周知技術
により,当業者であれば,きわめて容易に想到することができたというべきであ
る。
 5 以上によれば,本件考案1及び2は,実用新案法3条2項,1項3号の規定
により,実用新案登録を受けることができないものであり,本件考案1及び2は,
同法37条1項2号の無効事由を有することになる。そうすると,実用新案法30
条,特許法104条の3により,実用新案権者である原告は,被告に対し本件実用
新案権に基づく権利を行使することができない。
第5 結論
   以上によれば,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもな
く,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官    田   中   俊   次
裁判官    髙   松   宏   之
裁判官    西   森 み ゆ き

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