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平成17(行ケ)10480行政訴訟 特許権

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成17年11月29日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 審決35回
刊行物12回
進歩性2回
実施1回
分割1回
拒絶査定不服審判1回
主文
事件の概要

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判決文

平成17年(行ケ)第10480号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年11月15日
            判        決
 
    原      告  X
    訴訟代理人弁理士  役 昌明
    同         役  学
    被      告  特許庁長官
              中嶋 誠
    指定代理人     杉野裕幸
    同         後藤時男
    同         高木 彰
    同         伊藤三男
            主        文
     1 原告の請求を棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2004-21216号事件について平成17年4月4日にした審決を取り
消す。
第2 事案の概要
 本件は,後記特許出願の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたの
で,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が同請求不成立の審決をした
ため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告は,名称を「メジャーカップ」とする発明につき,平成11年10月8日
に特許出願(特願平11-323077号,以下「本件出願」という。甲2)をした。
 その後原告は,平成16年1月26日に手続補正(甲3)をし,明細書の特許請求の
範囲等の記載を変更した。
 特許庁は,本件出願に対し,平成16年9月14日付けで拒絶査定をし
た。
 そこで原告は,同年10月14日に拒絶査定不服審判を請求し,同請求は不服2004-
21216号事件として特許庁に係属した。
 特許庁は,同事件について審理したうえ,平成17年4月4日付けで「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月19日原告に送達され
た。
(2) 発明の内容
 平成16年1月26日付け手続補正書により変更された明細書(甲3。以下,
添付の図面と併せて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された発明
は,【請求項1】のみから成り,その内容は下記のとおりである(以下「本願発
明」という。)。
               記
  開口部を有し,傾斜した底面部を一体に形成した容器本体と,該傾斜し
た底面部に設けた上記開口部より読み取る目盛りとを具備することを特徴とするメ
ジャーカップ。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決謄本のとおりである。その理由の要旨は,本願
発明は,その出願前に頒布された実公昭32-14894号公報(甲4。以下「引用刊行
物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に
より特許を受けることができない,としたものである。
イ 上記判断をするに当たり,審決は,本願発明と引用発明との一致点及び
相違点について,次のとおり認定している。
(一致点)
「開口部を有し,傾斜した底面部を有する容器本体と,該傾斜した底面
部に設けた上記開口部より読み取る目盛りとを具備するメジャーカップ」である
点。
(相違点)
 傾斜した底面部を有する容器本体について,本願発明では,傾斜し
た底面部を一体に形成した容器本体であるのに対し,引用発明では,斜向遮版3
(「傾斜した底面部」に相当)は周壁1(「容器本体」に相当)と別体である点。
(4) 審決の取消事由
 審決は,以下の理由により,本願発明の進歩性の判断を誤った違法なもの
として取消しを免れない。
ア 取消事由1(一致点の認定誤り,相違点の看過)
(ア) 審決が,「引用発明の『斜向遮版3』が,本願発明の『傾斜した底面部』に相
当する。」(2頁27~28行)と認定したことは,以下のとおり誤りである。
 すなわち,引用刊行物の第1図に示されるとおり,引用発明は,底2を備えた扁
平な容器であって,斜向遮板3は,当該容器を上下2室に区分するように容器に挿
入するものであり,しかも,挿入角度を変化させ得るものであるから,容器に液体
を入れた場合には,上下2室間で液体が漏洩することは明らかであり,本願発明の
「傾斜した底面部」には当たらない。
(イ) 審決は,「引用刊行物の図面の第3図には,斜向遮版3に目盛りされた座票4
が周壁1に囲まれて描かれており,しかも第3図が平面図であることから,引用発明の『座票4』
は,『周口』より読み取ることができることは明らかである。」(2頁29~32行)と認定した
が,以下のとおり誤りである。
a 本願発明のメジャーカップにおいては,図(A)に示すように,容器に
入れた液体の液面と「傾斜した底面部」の表面の交線aは,目盛りと対応させて開
口部より明りょうに読み取ることができる。
 これに対し,引用発明の蚕繭の粒数を計数する容器においては,図(B)に示すよう
に,容器に入れた最上列の蚕繭の頂部を結ぶ線の延長線と斜向遮版3との交差位置
bを視認できないので,斜向遮版3の座票4を延長線と対応させて読み取ることは
できない。
b 引用発明の斜向遮版3は,計数する蚕繭の多少によって角度を変えて挿
入するものであり,垂直に近づくと座票4を「周口」より読み取ることが困難であ
る。
 したがって,斜向遮版3の座票4は,これを真上から読み取ることは全く意図さ
れていない。
 このように,引用刊行物には,座票4が「上から読み取るものである点」につい
ては何も記載されていないし,これを示唆する記載も見当たらない。平面図(第3
図)に示されているという理由だけで,座票4上の目盛りを「周口」から読み取る
ことができることは明らかであるとした審決の認定は,引用刊行物に開示された技
術内容からかけ離れた独断である。
(ウ) 上記(ア),(イ)のとおりであるから,審決が「両者は,『開口部を有し,
傾斜した底面部を有する容器本体と,該傾斜した底面部に設けた上記開口部より読み取る目盛りと
を具備するメジャーカップ』である点」(2頁33~35行)を一致点として認定したことは誤
りである。
 そして,引用発明の容器においては平坦な底2を備えているが,本願発明の容器
本体のような「傾斜した底面部」を具備していないこと(上記(ア)),引用発明の
容器における斜向遮版3の座票4は開口部より読み取るものではないこと(上記
(イ))は,いずれも本願発明と引用発明との相違点として認定されるべきものであ
る。このように,審決は,一致点の認定を誤った結果,相違点を看過している。
イ 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
 審決は,「容器本体に傾斜した底面部を一体に形成することは周知(例えば,実
願昭53-139181号(実開昭55-56175号)のマイクロフィルム(『隔壁4』参照),実願昭57-
57480号(実開昭58-159977号)のマイクロフィルム(『斜めの仕切り3』参照)参照)であるか
ら,その際に引用発明の斜向遮版3を周壁1と一体に形成して本願発明のごとく構成することは当
業者が容易になし得たものである。」(3頁12~18行)と判断したが,誤りである。
 審決の援用する実願昭53-139181号(実開昭55-56175号)のマイクロフィルム
(甲5。以下「周知例1」という。)及び実願昭57-57480号(実開昭58-
159977号)のマイクロフィルム(甲6。以下「周知例2」という。)における傾斜
した隔壁は,容器を同容量に二分する単なる仕切であり,計量用の目盛りを設ける
ものではなく,上から覗き込むためのものでもない。したがって,周知例1,2が
あるからといって,本願発明における「傾斜した底面部に設けた開口部より読み取
る目盛り」という構成要件までも当業者が容易になし得たものであるとはいえな
い。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)~(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
 原告が,本願発明の進歩性についての審決の認定判断が誤りであるとして主張す
るところは,次のとおりいずれも失当である。
(1) 取消事由1に対し
ア 審決の行った引用発明の認定によれば,上下2室に区分された上側の室
の底面は斜向遮版3のみによって構成されており,底2は関与していないから,引
用刊行物に記載された容器が底2を有することは,一致点・相違点の認定に影響を
与えるものではない。
イ 斜向遮版3が着脱・移動可能であって液体を保持できないとしても,本
願発明は計量対象物を限定しておらず,液体のみならず粒体等を対象とする場合も
包含する。そして,粒体を対象とする場合には,本願発明の「傾斜した底面部」と
引用発明の「斜向遮版3」は,計量対象物を保持するという機能の点でも一致する
ということができる。
ウ 原告は,引用発明のものでは計量対象物の量を真上から確認することは
できないと主張する。しかし,まず,上記1(4)ア(イ)の図(A)に基く主張は本願発
明の計量対象物を液体に限定している点において本件明細書の記載に基くものとは
いえず,失当である。また,斜向遮版3が垂直に近づいた場合に座票4の目盛りを
真上から視認できなくなるとの主張は,引用刊行物の第1図に示されたとおり斜向
遮版3の傾きが中程度の場合には当てはまらないのであるから,審決の一致点の認
定を左右するものとはいえない。
(2) 取消事由2に対し
 審決が周知例1,2を援用したのは,審決が認定した相違点の容易想到性
を説示する根拠として,傾斜した底面部を容器本体と一体に形成する構成が周知の
ものであることを示すためである。原告が指摘する点(周知例1,2の隔壁に目盛
りが設けられておらず,真上から覗き込むことも予定されていないこと)は,審決
の論理付けの中で周知技術が果たす役割とは無関係であり,審決の判断の当否を左
右するものではない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審
決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
 そこで,以下においては,原告主張の取消事由ごとに審決の適否について判断す
る。
2 取消事由1について
(1) 原告は,審決が,引用発明の斜向遮版3が本願発明の「傾斜した底面部」
に相当すると認定し,これを一致点の認定に含めたことは誤りであると主張する。
 しかし,前記第3の1(4)ア(ア)に示した引用刊行物(甲4)の第1図によれば,
斜向遮版3は容器本体内に傾斜して配置されており,この斜向遮版3によって容器
は上下2室に分割され,計量対象物である蚕繭は上側の室に収容されることが認め
られる。そうすると,斜向遮版3は,上側の室の構成要件としてみれば,上側の室
の「傾斜した底面部」を形成しているものということができる。
 したがって,引用発明の「斜向遮版3」が本願発明の『傾斜した底面部』に相当
するとした審決の認定に,原告主張の誤りはない。
(2) 上記の点につき,原告は,引用発明の扁平な容器は底2を備えており,斜
向遮版3は,上下2室に区分するように容器に挿入するものであり,しかも,挿入
角度を変化させ得るものであるから,容器に液体を入れた場合には,上下2室間で
液体が漏洩することは明らかであり,本願発明の「傾斜した底面部」には当たらな
いと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおりいずれも採用できない。
ア 引用発明の容器において,底2は平坦であること,斜向遮版3が容器に
挿入する別個の部材として構成されていること,その挿入角度を変化させ得るもの
であることは,原告主張のとおりである。しかしながら,斜向遮版3を上記第1図
のように挿入した状態において,斜向遮版3によって上下2室に区分された容器の
上側の室を取り出して観察すれば,斜向遮版3は,底面部に当たり,計量対象物を
保持するものであるから,引用発明の容器自体に底2が別途存在することや,斜向
遮版3が着脱・移動自在であることは,審決の上記認定を否定するものではない。
イ 原告は,引用発明の斜向遮版3は液体状の計量対象物を保持し得ない点
で,本願発明の傾斜した底面部とは相違すると主張する。
 しかし,本件明細書(甲3)の請求項1には,本願発明の構成要件として,「開口
部を有し,傾斜した底面部を一体に形成した容器本体と,該傾斜した底面部に設けた上記開口部よ
り読み取る目盛りとを具備することを特徴とするメジャーカップ。」と記載されているだけ
で,メジャーカップの計量対象が液体であることは特段規定されていない。むし
ろ,本件明細書の【発明の実施の形態】には,「液体ばかりでなく,粉体や粒体などの計
量にも適用することができる。」(段落【0008】)と記載されていることからすれば,本願
発明に係るメジャーカップは,引用発明に係る蚕繭の粒数識別容器同様,粉体や粒
体などをも計量対象とするものであって,計量対象を液体に限定して解釈すべきも
のではない。
 したがって,計量対象物が粒体である場合には,引用発明の斜向遮版3と本願発
明の傾斜した底面部は,計量対象物を保持する構成において差異はなく,計量対象
物(蚕繭)を収容する容器(室)の傾斜した底面部を形成する点に関する限り,引
用発明の斜向遮板3は,本願発明の「傾斜した底面部」と一致するといえるから,
引用発明に係る蚕繭の粒数識別容器に液体を入れた場合に上下2室間で液体が漏洩
するとしても,そのことによって審決の上記認定が誤りであるということにはなら
ない。
(3) また,原告は,本願発明の「傾斜した底面部」に設けられた目盛りは,真
上から視認されるものであるのに対し,引用発明の斜向遮版3上に設けられた目盛
り(「座票4」)は,このような視認の仕方を予定していない点で相違すると主張
する。しかし,以下のとおり,原告の上記主張も採用できない。
ア 引用刊行物には,前記第3の1(4)ア(イ)bのとおり,第3図が平面図と
して示されている。「平面図」は「物体を真上から見た図。」(広辞苑第5版)を
意味するとともに,第3図では斜向遮版3に座票4が目盛られて描かれていること
からすれば,斜向遮版3を第1図のように挿入した場合においても,引用発明に係
る容器を真上(周口)から見れば,斜向遮版3に目盛られた座標4を視認できるも
のと認められる。
 したがって,審決が「………第3図が平面図であることから,引用発明の『座票
4』は,『周口』より読み取ることができることは明らかである。」(2頁31~
32行)と認定したことに,誤りはない。
イ この点につき原告は,前記第3の1(4)ア(イ)aの図(A)と(B)とを対比さ
せて,本願発明のメジャーカップにおいては,容器に入れた液体の液面と「傾斜し
た底面部」の表面の交線は,目盛りと対応させて開口部より明りょうに読み取るこ
とができるのに対して,引用発明の蚕繭の粒数を計数する容器においては,容器に
入れた最上列の蚕繭の頂部を結ぶ線の延長線と「斜向遮版3」との交差位置を視認
できないので,「斜向遮版3」の「座票4」を延長線と対応させて読み取ることは
できないと主張する。
 しかしながら,本件明細書の記載によれば,本願発明に係るメジャーカップの計
量対象物が液体に限定されていないことは上述のとおりであるから,本願発明に係
るメジャーカップを液体を計量するものに限定して解釈した原告の主張は,その前
提において理由を欠くものである。すなわち,原告は,本願発明に係るメジャーカ
ップについて,図(A)を根拠にして計量を正確に行うことができると主張するが,粒
体を計量する場合にはそのようにいうことはできないから,本願発明と引用発明と
の間に原告主張の相違があるということはできない。
ウ さらに原告は,斜向遮版3は計数する蚕繭の多少によって角度を変えて
挿入するものであり,垂直に近づくと座票4を真上から読み取るのは困難になるこ
とや,引用刊行物には座票4を真上から読み取る点については何も記載されていな
いことからすれば,引用発明において斜向遮版3上の目盛りを真上から読み取るこ
とは全く意図されていない等と主張する。
 しかし,仮に引用発明において,計量する繭の粒数が多く斜向遮版3の挿入角度
が垂直に近づく結果,座票4の目盛りを真上から読み取ることが困難な場合がある
としても,逆に繭の粒数が多くない場合は斜向遮版3の傾斜が緩やかであって座票
4上の目盛りを真上から読み取ることができることは明らかである。また,引用刊
行物には座票4を真上から読み取ることについて記載も示唆もないとしても,その
ことは,引用刊行物(特に第1図及び第3図)に接した当業者が,斜向遮版3の座
票4上の目盛りが真上から読み取り可能であると理解することを何ら妨げるもので
はない。
(4) 以上のとおりであるから,審決の一致点の認定に原告主張の誤りはない。
また,一致点の認定に誤りがない以上,その誤りを前提とする相違点の看過の主張
も,理由がないことは明らかである。
3 取消事由2について
 原告は,周知例1,2における傾斜した隔壁は,容器を同容量に二分する単
なる仕切であり,計量用の目盛りを設けるものではなく,上から覗き込むためのも
のでもないから,このような仕切りを設けた容器が周知であるからといって,傾斜
した底面部に目盛りを設けて容器の周口から読み取れるようにする,という本願発
明の構成までも当業者が容易になし得たものであるとはいえない,と主張する。
 しかし,審決は,傾斜した底面部に目盛りを設けて容器の周口(真上)から読み
取れるようにするという構成は,本願発明と引用発明との一致点として認定してい
る(この認定に誤りがないことは上記2のとおりである。)。そして,周知例1,
2は,傾斜した底面部を,引用発明の斜向遮版3のように容器と別体として構成す
るのではなく,容器と一体として構成することが周知の技術であることを示すため
に援用されているものである。
 したがって,周知例1,2の隔壁に目盛りがないことや,これを上から覗き込む
ことが予定されていないことは,審決が相違点にかかる本願発明の構成が想到容易
であることを論理付けるに当たり,周知例1,2から認定される周知技術を用いた
ことを何ら不当とするものではない。
 よって,原告の取消事由2の主張も,採用することはできない。
4 結語
 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
  知的財産高等裁判所 第2部
   裁判長裁判官   岡本 岳
        裁判官 上田卓哉
        裁判官   長谷川 浩 二

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