平成17(行ケ)10455行政訴訟 特許権
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裁判所 |
知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成17年11月25日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
審決56回 刊行物52回 実施1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成17年(行ケ)第10455号 審決取消請求事件(平成17年11月16日
口頭弁論終結)
判決
原告 サミー株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 米 山 淑 幸
同 竹 山 宏 明
被告 特許庁長官 中 嶋 誠
指定代理人 鉄 豊 郎
同 二 宮 千 久
同 高 木 彰
同 宮 下 正 之
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2000-19155号事件について平成17年3月25日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成5年8月10日,発明の名称を「スロットマシン」とする発
明につき特許出願(平成5年特許願第198127号。以下「本件出願」とい
う。)をした。これに対し,特許庁は,平成12年10月25日,拒絶査定をし
た。
(2) 原告は,平成12年12月4日,上記拒絶査定を不服として,本件審判の
請求をするとともに,同日付け手続補正書を提出して,本件出願の願書に添付した
明細書(甲7)を補正した。同請求は,不服2000-19155号事件として特
許庁に係属し,その審理の過程において,原告は,平成16年11月25日付け手
続補正書(甲8)を提出して,上記明細書を補正した。
特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成17年3月25日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」とする審決をし,その謄本は,同年4月7日に原
告に送達された。
2 平成16年11月25日付け手続補正書により補正された明細書(甲8,以
下,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以
下「本願発明」という。)の要旨
【請求項1】 外周に複数種類の図柄の表示された複数の回転リールの回転
を,ゲーム中に発生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御するようにしたス
ロットマシンにおいて,
上記スロットマシンには,ボーナスフラグが発生されているにもかかわら
ず,全ての回転リールが停止した状態で,ボーナス図柄を出現させる代わりに出現
させる特定種類の図柄の組合せを予め記憶したリーチ目記憶手段と,ストップスイ
ッチからのストップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させ図柄を停止
表示させるリール駆動制御手段と,前記リール駆動制御手段からのリール位置情報
にもとづいて回転リールの停止位置を判定し,停止表示された図柄の組み合わせが
前記リーチ目記憶手段に記憶された特定種類の図柄の組み合わせと一致したことを
条件に,前記ボーナスフラグの発生の如何に関わらず,リーチ目出現信号を出力す
るリーチ目判定手段と,このリーチ目判定手段からのリーチ目判定信号にもとづい
て,遊技者にリーチ目が出現したことを報知するリーチ目報知手段と,を備え,
前記リール駆動制御手段は,回転リールの回転の開始から予め定めた一定時
間の経過を条件に,回転リールの回転を停止させるとともに,ボーナスフラグが発
生した場合に,ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対応
するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわら
ず,ストップスイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合
に,リーチ目記憶手段に予め記憶された特定種類の図柄の組み合わせを停止制御
し,ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストップスイッチの操作にもとづ
いて,リーチ目記憶手段に予め記憶された特定種類の図柄の組み合わせを停止制御
するようにした
ことを特徴とするスロットマシン。
3 審決の理由
(1) 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりである。その要旨は,本願
発明は,「パチスロ必勝本 漫画ローレンス12月号増刊」株式会社綜合図書・平
成3年12月25日発行(甲1,以下「引用例1」という。)に記載された発明
(以下「引用発明」という。),「パチスロ攻略マガジンNO.1 増刊12月2
1日号」株式会社双葉社・1990年(平成2年)12月21日発行(甲5,以下
「引用例5」という。)及び「パチスロ必勝ガイド3・2巻2号(通巻4号)」白
夜書房・平成3年3月1日発行(甲6,以下「引用例6」という。)並びに各周知
技術,すなわち,スロットマシンにおいて,回転リールで「リーチ」もしくは「入
賞を構成する絵柄の組み合わせの一部」がそろい,入賞の可能性がある場合に,当
該リーチ等の表示を見逃して入賞のチャンスを逸することがないように,リールが
前記リーチ等の表示であることを判定して,遊技者へリーチが発生したことを報知
するという周知技術(審決謄本10頁第1段落),スロットマシンにおいて,ボー
ナス等の役が成立するための図柄を記憶しておき,停止された図柄が記憶された図
柄に一致するかどうかを判定するという周知技術(同頁最終段落),回
転リールの回転の開始から予め定めた一定時間の経過を条件に,回転リールの回転
を停止させるようにするという周知技術(同11頁第2段落)に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができない,というものである。
(2) なお,審決が認定した,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,そ
れぞれ次のとおりである。
ア 一致点
「外周に複数種類の図柄の表示された複数の回転リールの回転を,ゲーム
中に発生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御するようにしたスロットマシ
ンにおいて,上記スロットマシンは,ボーナスフラグが発生されているにもかかわ
らず,全ての回転リールが停止した状態で,ボーナス図柄を出現させる代わりに予
め定められた特定種類の図柄の組合せ(リーチ目)を出現し得,ストップスイッチ
からのストップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させる(注,「停止
させ」の誤記と認める。)図柄を停止表示させるリール駆動制御手段を備え,前記
ボーナスフラグの発生の如何に関わらず,前記特定種類の図柄の組み合わせが出現
し,前記リール駆動制御手段は,ボーナスフラグが発生した場合に,ストップスイ
ッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対応するボーナス図柄を停止制御
し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ストップスイッチの操作に
もとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,予め定められた特定種類の図
柄の組み合わせを出現させ得,ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストッ
プスイッチの操作にもとづいて,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを停
止するようにしたスロットマシン。」(審決謄本8頁最終段落)
イ 相違点
(ア) 相違点1
「ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ストップスイッ
チの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,本願発明では,ボ
ーナス図柄を出現させる代わりに特定種類の図柄の組合せを出現させるように停止
制御するのに対し,引用発明では,ボーナス図柄を出現させる代わりに特定種類の
図柄の組合せを出現させやすくしているにすぎず,必ず前記組合せが出現するか否
か不明である点。」(審決謄本9頁第2段落)
(イ) 相違点2
「本願発明は,リール駆動制御手段からのリール位置情報にもとづい
て回転リールの停止位置を判定し,停止表示された図柄の組み合わせが前記リーチ
目記憶手段に記憶された特定種類の図柄の組み合わせと一致したことを条件に,ボ
ーナスフラグの発生の如何に関わらず,リーチ目出現信号を出力するリーチ目判定
手段と,このリーチ目判定手段からのリーチ目判定信号にもとづいて,遊技者にリ
ーチ目が出現したことを報知するリーチ目報知手段とを備えるのに対し,引用発明
は,ボーナスフラグの発生の如何に関わらず,リーチ目(予め定められた特定種類
の図柄の組み合わせ)が出現するものの,リーチ目を記憶するリーチ目記憶手段
と,リーチ目が出現したことを判定するリーチ目判定手段と,リーチ目が出現した
ことを遊技者へ報知するリーチ目報知手段と備えていない点。」(同9頁第3段
落)
(ウ) 相違点3
「リール駆動制御手段は,本願発明では,回転リールの回転の開始か
ら予め定めた一定時間の経過を条件に,回転リールの回転を停止させるのに対し,
引用発明では,そのような構成が明らかでない点。」(同9頁第4段落)
第3 原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤り(取消事由
1),相違点1ないし3及び本願発明の作用効果についての判断を誤った(取消事
由2ないし4)ものであり,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかで
あるから,審決は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)
(1) 審決は,本願発明と引用発明とは,「上記スロットマシンは,・・・スト
ップスイッチからのストップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させる
(注,「停止させ」の誤記と認める。)図柄を停止表示させるリール駆動制御手段
を備え,前記ボーナスフラグの発生の如何に関わらず,前記特定種類の図柄の組み
合わせが出現し,前記リール駆動制御手段は,ボーナスフラグが発生した場合に,
ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対応するボーナス図
柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ストップスイ
ッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,予め定められた
特定種類の図柄の組み合わせを出現させ得,ボーナスフラグが発生していない場合
にも,ストップスイッチの操作にもとづいて,予め定められた特定種類の図柄の組
み合わせを停止するようにしたスロットマシン」(審決謄本8頁最終段落)である
点で一致するとし,他方,「ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ス
トップスイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,本願
発明では,ボーナス図柄を出現させる代わりに特定種類の図柄の組合せを出現させ
るように停止制御するのに対し,引用発明では,ボーナス図柄を出現させる代わり
に特定種類の図柄の組合せを出現させやすくしているにすぎず,必ず前記組合せが
出現するか否か不明である点。」(相違点1,審決謄本9頁第2段落)で相違する
と認定しているが,いずれも,引用発明についての誤った認定を前提とするもので
あり,誤りである。
すなわち,上記一致点及び相違点の認定は,以下の認定を前提とするもの
である。
① 「引用発明の『ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナスが入
る』ことが,本願発明の『ボーナスフラグが発生』することに相当する」(審決謄
本7頁第1段落)
② 「引用発明の『3つの回転リールと,該回転リールに対応した3つのス
トップスイッチを有するスロットマシン』は,・・・本願発明の・・・『ストップ
スイッチからのストップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させる
(注,「停止させ」の誤記と認める。)図柄を停止表示させるリール駆動制御手段
を備え』ることに相当する。」(同頁第2段落)
③ 「引用発明の『ビッグボーナスが入ると「MUSASHI」が揃うリー
チ目が,レギュラーボーナスが入ると「単チェリー」のリーチ目が出やすく』な
る・・・構成と,本願発明の『ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,
全ての回転リールが停止した状態で,ボーナス図柄を出現させる代わりに出現させ
る特定種類の図柄の組合せを予め記憶したリーチ目記憶手段』を備え,リール駆動
制御手段が『ボーナスフラグが発生した場合に,ストップスイッチの操作にもとづ
いて,当該ボーナスフラグに対応するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグ
が発生されているにもかかわらず,ストップスイッチの操作にもとづいてボーナス
図柄を停止制御できない場合に,リーチ目記憶手段に予め記憶された特定種類の図
柄の組み合わせを停止制御』したこととは,『ボーナスフラグが発生されているに
もかかわらず,全ての回転リールが停止した状態で,ボーナス図柄を出現させる代
わりに予め定められた特定種類の図柄の組合せ(リーチ目)を出現し得』,リール
駆動制御手段が『ボーナスフラグが発生した場合に,ストップスイッチの操作にも
とづいて,当該ボーナスフラグに対応するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフ
ラグが発生されているにもかかわらず,ストップスイッチの操作にもとづいてボー
ナス図柄を停止制御できない場合に,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせ
を出現させ得』ることで共通する」(同頁下から第2段落~下から第3段落)
④「引用発明の『これらのリーチ目は通常時にも出る』・・・構成と,本願
発明の『リール駆動制御手段からのリール位置情報にもとづいて回転リールの停止
位置を判定し,停止表示された図柄の組み合わせがリーチ目記憶手段に記憶された
特定種類の図柄の組み合わせと一致したことを条件に,ボーナスフラグの発生の如
何に関わらず,リーチ目出現信号を出力するリーチ目判定手段』を備え,リール駆
動制御手段が『ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストップスイッチの操
作にもとづいて,リーチ目記憶手段に予め記憶された特定種類の図柄の組み合わせ
を停止制御するようにしたこと』とは,・・・『ボーナスフラグの発生の如何に関
わらず,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせが出現し』,リール駆動制御
手段が『ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストップスイッチの操作にも
とづいて,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを停止するようにした』こ
とで共通する」(審決謄本7頁最終段落~8頁第2段落)との認定を前提とするも
のである。
しかし,引用例1は,遊技を楽しく,あるいは,有意義に行うことができ
るように遊技者側の立場に立って製品を紹介した雑誌にすぎず,スロットマシンを
遊技者の側から外部的に観察した単なる「様子」を説明しているにすぎず,引用例
1には,CPU(コンピュータの中央演算処理装置)の内部的な処理が技術的事項
として記載されていない。したがって,以下に述べるとおり,本願発明と引用発明
との間に上記①ないし④の対応関係があるとする根拠はない。
ア 上記①について
引用例1(甲1)の「ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナ
スが入る」(100頁)との記載部分は,同引用例の筆者が,特定のスロットマシ
ンから得た,客観的,かつ,技術的な事項との関係が不明な何らかの「感覚らしき
もの」を独自の表現で説明したものにすぎないから,それらの「感覚らしきもの」
が,本願発明の「ボーナスフラグが発生」に相当するものということはできず,両
者の関連性は明らかでないというべきである。
イ 上記②について
引用例1には,ストップスイッチの操作と,「MUSASHI」がそろ
ったり,あるいは,「単チェリー」が出ることとの間の関連性が全く記載されてい
ない。したがって,引用例1には,本願発明の「前記ストップスイッチからのスト
ップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させるリール駆動制御手段」に
相当する構成は記載されていないといわざるを得ない。
ウ 上記③について
引用例1には,「MUSASHI」がそろったり,「単チェリー」が出
やすくなることについて,それが,本願発明におけるように,「ボーナスフラグが
発生した場合に,ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対
応するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわら
ず,ストップスイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合
に,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを出現させ」(審決謄本7頁下か
ら第2段落)るようにした結果として実現されたものであるということは,全く記
載されていない。
審決は,「ストップスイッチからのストップ信号に基づいて各回転リー
ルの回転を停止させるリール駆動制御手段を備え,所定図柄を出現させるフラグが
発生されているにもかかわらず,前記所定図柄を停止できない場合に,前記所定図
柄以外の図柄を出現させるという構成は,特開昭59-40883号公報(甲9,
2頁右上欄19行目~同頁左下欄9行目,2頁右下欄19行目~3頁左上欄6行
目,及び3頁左下欄第1行目~14行目参照。以下「甲9刊行物」という。),及
び特開昭59-186580号公報(甲10,1頁左欄5行目~2頁左上欄5行
目,3頁左下欄2行目~右下欄1行目,及び6頁左下欄11行目~右下欄10行目
参照。以下「甲10刊行物」という。)等に記載されているように,スロットマシ
ンにおいて一般的に行われている内部的な処理である。」(審決謄本11頁下から
第2段落)と認定,判断する。
しかし,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載されているものは,審決の
上記引用部分に記載されているように,いずれも,各回転リールを決定された図柄
で止めることができないときに,別の何らかの図柄で停止させるとこと,すなわ
ち,各回転リールを決定された図柄で必ず止めることはできない旨を明らかにして
いるものにすぎない。これに対して,本願発明は,ボーナスフラグが発生している
にもかかわらず,すべての回転リールが停止した状態で,ボーナス図柄を出現させ
る代わりに出現させる特定種類の図柄の組合せである「リーチ目」を出現させるも
のであり,審決が技術常識と称するものとは異なるものである。
エ 上記④について
引用例1には,リール駆動制御手段が,「ボーナスフラグが発生してい
ない場合にも,ストップスイッチの操作にもとづいて,予め定められた特定種類の
図柄の組み合わせを停止するようにした」点は記載されていない。
(2) 審決は,本願発明と引用発明とは,「回転リールの回転を,ゲーム中に発
生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御するようにしたスロットマシン」
(審決謄本8頁最終段落)である点で一致すると認定しているが,以下に述べると
おり,引用発明についての誤った認定を前提とするものであり,誤りである。
すなわち,引用例1には,「3つの回転リールと,該回転リールに対応し
た3つのストップスイッチを有するスロットマシンにおいて,ビッグボーナスが入
ると『MUSASHI』が揃うリーチ目が,レギュラーボーナスが入ると『単チェ
リー』のリーチ目が出やすくなり,これらのリーチ目は通常時にも出ることがある
スロットマシン」(審決謄本3頁第4段落)の発明が記載されているところ,上記
一致点の認定は,「『ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナスが入る』
ことが,本願発明の『ボーナスフラグが発生』することに相当する」(同7頁第1
段落)との認定を前提とするものである。
しかし,引用発明に係るスロットマシンでは,「ビッグボーナスが入る,
及び,レギュラーボーナスが入る」という,同引用例の筆者が得た,客観的,か
つ,技術的な事項との関係が不明な何らかの「感覚らしきもの」で停止制御がされ
ているということはできても,上記(1)アのとおり,上記「感覚らしきもの」が,本
願発明の「ボーナスフラグが発生」に相当するものということはできないから,上
記一致点の認定は誤りであり,本願発明と引用発明とは,本願発明が,「回転リー
ルの回転を,ゲーム中に発生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御する」の
に対して,引用発明では,その点の構成が不明である点で相違するとすべきもので
ある。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
(1) 特開平3-114482号公報(甲2,以下「引用例2」という。)及び
実願平2-81073号(実開平3-29178号)のマイクロフィルム(甲3,
以下「引用例3」という。)に,「スロットマシンにおいて,回転リールで『リー
チ』もしくは『入賞を構成する絵柄の組み合わせの一部』が揃い,入賞の可能性が
ある場合に,当該リーチ等の表示を見逃して入賞のチャンスを逸することがないよ
うに,リールが前記リーチ等であることを判定して,遊技者へリーチが発生したこ
とを報知する」(審決謄本10頁第1段落)点が記載されていることは認められる
が,当該技術的事項は,引用例2及び3の2件の公報に単に記載されているにすぎ
ず,周知技術に該当しない。
したがって,上記技術的事項が周知技術であることを前提とする相違点2
についての審決の判断は,その前提を欠き,失当である。
(2) 審決は,「引用発明と前記周知技術とが,当回遊技及び次回以降遊技にか
かわらず,遊技者が入賞のチャンスを見逃す不利益を未然に防止するという課題で
共通するとともに,前記周知技術の報知手段が入賞の可能性が高いことを報知する
ものである限り,報知対象の図柄表示態様が周知技術の『リーチ表示』であるか引
用発明の『リーチ目表示』であるかについては格別相違するものではないので,引
用発明において,リールが,特定種類の図柄の組合せ,すなわちリーチ目で停止し
ている場合に,当該リーチ目を見落としてボーナス図柄を出現させるチャンスを逸
することがないように,遊技者にリーチ目が出現したことを報知する報知手段を備
える構成とすることは,当業者にとって格別困難なことではない。」(審決謄本1
0頁第2段落)と判断しているが,以下に述べるとおり,誤りである。
ア 引用例1(甲1)には,「単チェリー」の「リーチ目」(100頁)が
記載され,引用例2には,スロットマシンにおいて,「停止した2つの回転リール
10の絵柄が入賞の可能性がある組合せとなっている」場合に点灯し,「停止して
いない残りのひとつの回転リール10の絵柄さえ合えば入賞となる旨をプレーヤー
に伝える」装置である「リーチランプ70」(4頁左下欄1行目~8行目,第1~
2図)が記載されている。このため,引用発明と,引用例2に記載の発明とを組み
合わせると,引用発明において,「単チェリー」の「リーチ目」が出現した場合
に,引用例2に記載の「リーチランプ70」を点灯することとなる。しかし,引用
発明に,引用例2及び3に記載の技術的事項を適用することには,阻害要因があ
る。
すなわち,引用発明の「リーチ目」である「MUSASHI」や「単チ
ェリー」は,小役であるので,それらのリーチ目が出た場合にはメダルが払い出さ
れる。また,小役の入賞は,一般的に入賞ランプを点灯,あるいは,点滅して入賞
の報知がされる。このため,小役の入賞を,入賞ランプで報知しているのに,引用
例2に記載の「リーチランプ70」を点灯させて「リーチ目」であることを報知し
ても,二重の報知となって,遊技者は何が報知されたのかを理解することができ
ず,報知自体に意味がないことになる。
イ また,審決は,「報知対象の図柄表示態様が周知技術の『リーチ表示』
であるか引用発明の『リーチ目表示』であるかについては格別相違するものではな
い」と判断する。
しかし,「2つの回転リールを止めた時点で,残りのひとつの回転リー
ルの絵柄さえ合えば入賞するというチャンス」〔引用例2(甲2)の2頁左下欄1
行目~3行目〕である「リーチ」は,停止している回転リールの絵柄について見れ
ば,入賞の図柄の組合せと相違点がないという特徴点を有することは当業者に周知
の事項である。他方,いわゆる「リーチ目」は,停止した回転リールの図柄が入賞
の図柄の組合せとの関係は問題とされない点において,「リーチ」とは相違する。
そして,メダルの払出しが行われる入賞図柄を認定判断することは,当
該遊技の結果として遊技者に対してメダルを払い出すか否かを決定する重要な,か
つ,唯一の条件であり,これを報知することに大きな必然があり,また,「リー
チ」は,停止している回転リールの絵柄について見れば,入賞の図柄の組合せと相
違点がないという特徴点から,同じく,これを報知することに必然性があると理解
される。これに対して,スロットマシンにおいて,メダルの払出しが行われること
がなく,入賞の図柄の組合せとの関係は問題とされない「リーチ目」を報知するこ
とは,全く必然性のないことである。また,スロットマシンにおいて,メダルを払
い出すか否かにかかわる情報である「リーチ」と,審決が認めるように「次回以降
のゲーム」にかかわる情報である「リーチ目」とは,その用いられる場面を全く異
にするものである。
上記のとおり,引用発明において「リーチ目」を報知することに,必然
性はなく,引用発明に引用例2及び3に記載の上記技術的事項を適用することには
困難性があるというべきである。
なお,本願発明のように,「リーチ目」に「リーチ」を構成する図柄の
組合せ以外の図柄の組合せを含む場合,「リーチ」の場合と異なり,一見しても
「リーチ目」であることが分かりにくいことから,本件出願時,遊技者は「リーチ
目」を記憶しておく必要があったが,比較的遊技経験の浅い遊技者は,「リーチ
目」を記憶していないことが多く,遊技を楽しむことを困難にしていた事実も存在
していた。このことは,上記組合せの困難性を裏付けるものである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)
特開平2-31778号公報(甲4,以下「甲4刊行物」という。)には,
「回転リールの回転の開始から予め定めた一定時間の経過を条件に,回転リールの
回転を停止させるようにする」ことが記載されてはいるが,当該技術的事項は,甲
4刊行物の公開特許公報に単に記載されているにすぎず,周知技術に該当しない。
したがって,上記技術事項が周知技術であることを前提とする相違点3につい
ての審決の判断は,その前提を欠き,失当である。
4 取消事由4(作用効果についての判断の誤り)
本願発明は,「ボーナスフラグの発生の如何にかかわらず,遊技者にリーチ
目が出現したことを報知する」手段を備えるものであり,以下に述べるとおり,ボ
ーナスフラグが成立した場合を前提とする引用例1並びに引用例2,3,5及び6
に記載のスロットマシンの構成,作用効果からは予測することができない顕著な作
用効果を奏するものである。
すなわち,既に述べたとおり,引用発明に係るスロットマシンにおいては,
小役の場合には,メダルが払い出され,また,小役の入賞時には,一般的に入賞ラ
ンプが点灯,あるいは,点滅して,遊技者にその旨の報知がされるので,改めて
「リーチ目」を報知する必要性がない。また,引用例2び3に記載のスロットマシ
ンの場合には,「リーチ目」でなく,当該ゲームで問題となる「リーチ」を報知し
ている。当該ゲームにおける「リーチ」は,引用例2(甲2)に記載されているよ
うに,「2つの回転リールを止めた時点で,残りのひとつの回転リールの絵柄さえ
合えば入賞するというチャンス」(2頁左下欄1行目~3行目)をいうものであ
り,遊技者が一見して理解し得るものであるから,その報知は,遊技者の単なる見
落としを防止している補助的なものにすぎない。
他方,「リーチ目」は,本件明細書(甲8)に記載されているように,「例
えば『7』『7』『チェリー』」(段落【0024】)の絵柄のような「リーチ」
を構成する図柄の組合せ以外の図柄の組合せ,「例えば『7』『チェリー』『チェ
リー』」(同段落)をも含む概念であるから,「リーチ」の場合と異なり,遊技者
から一見しても,「リーチ目」であることが分かりにくく,遊技者は「リーチ目」
を記憶しておく必要がある。しかし,比較的遊技経験の浅い遊技者は,「リーチ
目」を記憶していないことが多く,遊技を楽しむことを困難にしていた。
これに対し,本願発明は,本件明細書(甲8)に記載のとおり,「遊技者は
ゲームに集中することができるとともに,リーチ目を見逃す不利益が未然に防止で
きる。」(段落【0031】)という効果に加え,「ボーナス図柄が出現する可能
性が極めて高いという期待感を得ながらも,遊技者は,回転リールの停止操作に格
別の注意を払う必要があることから,極めてスリルに富み,興趣溢れたスロットマ
シンを提供することができる」(段落【0032】)という,引用発明と比較して
顕著な作用効果を奏するものである。
第4 被告の反論
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について
(1) 引用例1には,CPU(コンピュータの中央処理装置)の内部的処理の明
示的な記載はないが,ストップスイッチからのストップ信号に基づいて各回転リー
ルの回転を停止させるリール駆動制御手段を備え,所定図柄を出現させるフラグが
発生されているにもかかわらず,前記所定図柄を停止できない場合に,前記所定図
柄以外の図柄を出現させるという構成は,スロットマシンにおいて一般的に行われ
ている内部的な処理である。
すなわち,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載されているような一般的な
スロットマシンのリールの停止制御に関する技術からみて,ボーナス図柄等の所定
の図柄を出現させるフラグが発生している状態で,ストップスイッチが操作され,
該フラグが発生しているにもかかわらず,上記所定図柄を停止できない場合に,停
止図柄の組合せとして,上記所定の図柄以外の図柄を出現させ得るように停止制御
するということは,本件出願時,当業者の技術常識であったということができる。
また,引用例5(甲5)及び引用例6(甲6)の記載からみて,ボーナス
フラグが発生している状態でストップスイッチが操作され,該ボーナスフラグが発
生しているにもかかわらず,ボーナス図柄を停止できない場合に,停止図柄の組合
せとして,特定種類の停止図柄の組合せ(リーチ目)を出現させるように,各回転
リールを停止制御する構成とすることは,甲9刊行物及び甲10号刊行物に記載さ
れているように,所定の図柄を出現させるためにリールを停止制御することが技術
常識であることを考慮すれば,本件出願時,周知技術であったということができ
る。
原告は,甲9刊行物及び甲10刊行物は,いずれも,決定された図柄で止
めることができないときに,別の何らかの図柄でリールを停止させることを明らか
にしているにすぎないと主張するが,甲9刊行物には,「・・・もし所定コマ数内
に目的とする絵柄がないときは所定のリール停止位置情報をダウンカウンタ(25)
に出力する。」(3頁左下欄11行目~14行目)と記載されており,同刊行物や
甲10刊行物に記載のスロットマシンにおいては,決定された図柄で止めることが
できないときに,別の予め定められた図柄で停止させるようになっていると解する
のが妥当である。
そして,当業者が,上記の周知技術を踏まえて,引用例1の記載を見れ
ば,同引用例には,原告の取消事由1(1)の①ないし④の点に関し,以下のとおりの
開示があるものと容易に理解できるというべきである。
ア 原告の取消事由1(1)の①について
本願発明の「ボーナスフラグが発生」に相当する状態は,各刊行物によ
って,「ヒットリクエスト信号の発生」(甲10刊行物),「ボーナスフラッグが
成立」〔引用例5(甲5)〕等と表現されており,これらの刊行物には,「ボーナ
スが入る」という文言自体の記載は見当たらないが,文言の相違は,上記状態を各
刊行物の筆者が読者にわかりやすく説明するために生じた表現上の相違にすぎず,
「ボーナスフラグが発生」という文言が唯一存在するわけでもないので,引用例1
記載の「ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナスが入る」(100頁)
が,本願発明の「ボーナスフラグが発生」に相当するものであることは明らかであ
る。
イ 原告の取消事由1(1)の②及び③について
引用例1には,「リーチ目は単刀直入でわかりやすく,ビッグボーナス
が入ると『MUSASHI』が,レギュラーボーナスが入ると『単チェリー』が出
やすくなる。MUSASHIはどのラインに揃ってもリーチ目だが,上段で揃うの
は信用度が低いのではずしてある・・・。また,『MUSASHI』は通常時でも
揃うことがあるので,短い間隔で2~3回揃ってはじめて確実なリーチ目といえ
る。・・・レギュラーのリーチ目となる単チェリー・・・も通常時に出ることがあ
るので,やはり短時間に2~3回揃って確実といえる。」(100頁)と記載され
ており,回転リールの停止制御に関する上記周知技術を踏まえてこの記載を見れ
ば,引用例1には,構成についての具体的な記載はないものの,スロットマシンに
おいて,ボーナスフラグが発生した場合に,ストップスイッチの操作に基づいて,
当該ボーナスフラグに対応するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生
しているにもかかわらず,ストップスイッチの操作に基づいてボーナス図柄を停止
制御できない場合に,予め定められた特定種類の図柄の組合せ(「MUSASH
I」又は「単チェリー」)を出現させ得るリール駆動制御手段を備える技術が開示
されているということができる。
したがって,引用発明は,ボーナスフラグが発生した状態でストップス
イッチを操作して,ボーナス図柄を停止できない場合には,リーチ目を出現させ得
るようにしているものであるから,当該リーチ目を出現させるために各回転リール
を停止制御するものであるということができる。
そうすると,本願発明と引用発明は,いずれも,ボーナスフラグが発生
し,該ボーナスフラグが発生した状態でストップスイッチが操作され,該ボーナス
フラグが発生しているにもかかわらず,ボーナス図柄を停止できない場合に,停止
図柄の組合せとして,特定種類の停止図柄の組合せを出現させ得るように各回転リ
ールを停止制御することを含む,リール駆動制御手段を有するものであるというこ
とができる。
ウ 原告の取消事由1(1)の④について
上記イで述べたように,引用発明は,リール駆動制御手段が,ストップ
スイッチの操作に基づいて,予め定められた特定種類の図柄の組合せとなるように
回転リールを停止するようにしたものであり,リーチ目が,ビッグボーナスが入ら
ない「通常時でも出ることがある」ものであることから,リール駆動制御手段は,
ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストップスイッチの操作に基づいて,
予め定められた特定種類の図柄の組合せとなるように回転リールを停止するように
したものであるということができる。
(2) 引用発明の「ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナスが入る」
が本願発明の「ボーナスフラグが発生」に相当するものであること,引用発明が
「ビッグボーナス」,「レギュラーボーナス」という「ボーナスフラグ」に相当す
るものによって制御されているといえることは,上記(1)ア及びイで述べたとおりで
あるから,本願発明と引用発明とは,「外周に複数種類の図柄の表示された複数の
回転リールの回転を,ゲーム中に発生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御
するようにしたスロットマシン」(審決謄本8頁最終段落)である点で一致すると
した審決の認定に誤りはなく,審決に原告主張の相違点を看過した違法はない。
(3) 以上のとおりであるから,審決の一致点及び相違点の認定に原告主張の誤
りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) スロットマシンにおいて,リーチ等の入賞の可能性がある場合に報知する
手段を備えることは,引用例2及び3に加えて,実願昭58-128412号(実
開昭60-37379号)のマイクロフィルム(乙1,5頁4行目~8行目参照。
以下「乙1刊行物」という。)や,特開平4-364872号公報(乙2,図2
8,段落【0067】参照。以下「乙2刊行物」という。)及び実願平3-665
01号(実開平5-11981号)のCD-ROM(乙3,図5,段落【002
5】参照。以下「乙3刊行物」という。)にも記載されており,本件出願時,周知
技術であったということができる。
これと異なる原告の主張は理由がない。
(2) 原告は,引用発明に引用例2及び3に記載の上記技術的事項を適用するこ
とには阻害要因があるとし,リーチ目である「MUSASHI」や「単チェリー」
は,小役であるところ,小役の入賞は,一般的に入賞ランプを点灯,あるいは,点
滅して遊技者に報知されるから,改めて報知する必要性がない点をその理由として
挙げる。
しかし,小役の入賞は,一般的に入賞ランプを点灯,あるいは,点滅して
報知されるとの点は,引用例1(甲1)の記載に基づくものではない。
仮に,引用発明に係るスロットマシンが,原告の主張するように,小役の
入賞を遊技者に報知する入賞ランプを備える仕様になっているとしても,「MUS
ASHI」がそろう図柄又は「単チェリー」の図柄以外にも小役の図柄が存在する
ことが一般的であって,この場合には,小役の図柄のうち一部(「MUSASH
I」がそろう図柄又は「単チェリー」の図柄)のみがリーチ目を兼ねているものと
するのが自然である。そして,小役の図柄のうち一部のみがリーチ目を兼ねている
スロットマシンにおいて,小役の図柄のうちリーチ目を兼ねない図柄が出現したと
きには,遊技者に対し,入賞の報知のみを行い,小役図柄のうちリーチ目を兼ねる
図柄が出現したときには,遊技者に対し,入賞の報知とともにリーチ目の出現の報
知をも併せて行うように引用発明を構成することは,当業者であれば,十分想定し
得ることである。
そうすると,小役の図柄の出現の際に,遊技者に対し,入賞ランプのみで
の報知と,入賞ランプ及びリーチ目の出現ランプの双方での報知を行うことによ
り,小役の図柄の種類を報知することに技術的意義がないとはいえないから,引用
例2及び3等に記載の上記技術的事項を引用発明に適用することに阻害要因がある
ということはできない。
(3) 引用例2及び3等に記載の「リーチ」(入賞の可能性がある所定の図柄で
回転リールが停止したこと)を報知するという技術的事項は,遊技者から一見して
分かる「リーチ」を報知することにより,遊技者に対し,遊技に対する注意を喚起
して,入賞を逸することがないようにすることを目的とするものである。
ところで,引用発明と引用例2及び3等に記載の発明は,いずれも,スロ
ットマシンという同一技術分野に属するものであり,当該技術分野において,遊技
者に対し遊技への注意力を喚起して,入賞を逸することを防止するという課題は常
に存在するものであり,その課題は,報知対象の図柄表示態様が引用例2及び3等
に記載のリーチ表示であるか,引用発明のリーチ目表示であるかによって,格別相
違するものではない。むしろ,スロットマシンにおいて,遊技者が,漫然と長時間
にわたって遊技をしていれば,その遊技経験の多少にかかわらず,一見して判別で
きる「リーチ」でさえも見落とす可能性があるというのであり,そうであれば,
「リーチ目」のように入賞の可能性があることが一見してわかりにくいものについ
ては,これを見逃す可能性はより大きいと考えられるから,その出現を報知する必
要性があることは,当業者が当然予測し得ることである。
したがって,「リーチ目の出現」という入賞の可能性に対して,引用例2
及び3等に記載の技術的事項であるところの,「リーチ」を報知する報知手段を適
用することは,格別困難なことではないというべきである。
原告は,本願発明のように,「リーチ目」に「リーチ」を構成する図柄の
組合せ以外の図柄の組合せを含む場合,「リーチ」の場合と異なり,一見しても
「リーチ目」であることが分かりにくいことから,本件出願時,遊技者は「リーチ
目」を記憶しておく必要があったが,比較的遊技経験の浅い遊技者は,「リーチ
目」を記憶していないことが多く,遊技を楽しむことを困難にしていた事実も存在
していたとし,そのことが引用発明に引用例2及び3に記載の技術的事項を適用す
ることの困難性を裏付けるものであるかのように主張する。しかし,本件明細書
(甲8)には,本願発明の実施例として,「リーチ目」には,少なくとも左のリー
ルで「7」が停止したものが含まれる具体例しか記載しておらず,当該具体例に関
して見れば,必ずリーチ目に図柄「7」が含まれているので,遊技者にとって「リ
ーチ目」を記憶することは格別困難なことではないとともに,本願発明に係る「リ
ーチ目」が,遊技者が記憶できないほどの多数種であると特定することもできな
い。したがって,この点に関する原告の主張には理由がない。
(4) 以上のとおり,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
スロットマシンにおいて,「回転リールの回転の開始から予め定めた一定時
間の経過を条件に,回転リールの回転を停止させるようにする」ことについては,
引用例4の他に,例えば,特開平2-31778号公報(乙4,以下「乙4刊行
物」という。3頁左上欄9行目~右上欄14行目参照)及び甲9刊行物(2頁左上
欄20行目~右上欄5行目及び3頁左上欄7行目~14行目)に記載されているか
ら,その技術的事項は,本件出願時,周知技術であったということができる。
相違点3についての審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(作用効果についての判断の誤り)について
引用例2及び3(甲2,3),乙1刊行物,乙2刊行物及び乙3刊行物に
は,「リーチ」を報知するという周知技術が記載されているところ,引用発明にこ
の周知技術を適用して,「リーチ目」を報知する手段を備える構成とすることは,
当業者において容易に想到し得ることであり,この点に関する審決の判断に誤りが
ないことは,上記2に述べたとおりである。そして,上記構成を採用した場合に,
本願発明の奏する「リーチ目の存在やリーチ目を記憶していない遊技者に対して
も,リーチ目を見逃す不利益を未然に防止する」という作用効果を奏することは,
引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が当然予測できるものと認められる。
したがって,作用効果についての審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について
(1) 引用例1(甲1)の記載事項
ア 引用例1には,100頁上段のムサシ(パイオニア)の説明欄に, 以下
の記載がある。
(ア) 「リーチ目は単刀直入でわかりやすく,ビッグボーナスが入ると
『MUSASHI』が,レギュラーボーナスが入ると『単チェリー』が出やすくな
る。MUSASHIはどのラインに揃ってもリーチ目だが,上段で揃うのは信用度
が低いのではずしてある・・・。また,『MUSASHI』は通常時でも揃うこと
があるので,短い間隔で2~3回揃ってはじめて確実なリーチ目といえる。・・・
レギュラーのリーチ目となる単チェリー・・・も通常時に出ることがあるので,や
はり短時間に2~3度揃って確実といえる。」
(イ) 白抜きのマル5,6の図に,単チェリーのリーチ目の例が記載され
ており,左列にはチェリーの図柄が出ているが,その図の中列及び右列には図柄が
出ていない。
(ウ) 本体の写真には,その本体が,3つの回転リールと,該回転リール
に対応した3つのストップスイッチを有する典型的なスロットマシンであることが
図示されている。
イ 引用例1の上記アの記載によれば,引用例1には,3つの回転リールと,
該回転リールに対応した3つのストップスイッチを有するスロットマシンが示さ
れ,そのスロットマシンにおいては,ビッグボーナスが入ると「MUSASHI」
が揃うリーチ目が,レギュラーボーナスが入ると「単チェリー」のリーチ目が出や
すくなり,これらのリーチ目が通常時にも出るという内部処理がされることが認め
られる。
(2) 一致点及び相違点の認定の誤りの有無
ア 原告は,本願発明と引用発明とは,「上記スロットマシンは,・・・ス
トップスイッチからのストップ信号にもとづいて,各回転リールの回転を停止させ
る(注,「停止させ」の誤記と認める。)図柄を停止表示させるリール駆動制御手
段を備え,前記ボーナスフラグの発生の如何に関わらず,前記特定種類の図柄の組
み合わせが出現し,前記リール駆動制御手段は,ボーナスフラグが発生した場合
に,ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対応するボーナ
ス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ストップ
スイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,予め定めら
れた特定種類の図柄の組み合わせを出現させ得,ボーナスフラグが発生していない
場合にも,ストップスイッチの操作にもとづいて,予め定められた特定種類の図柄
の組み合わせを停止するようにしたスロットマシン」(審決謄本8頁最終段落)で
ある点で一致するとした審決の認定は,誤りであるとし,その根拠として,①引用
例1に記載の「ビッグボーナスが入る,及び,レギュラーボーナスが入る」こと
と,本願発明の「ボーナスフラグが発生」することとの関係が明らかでない,②引
用例1には,本願発明の「前記ストップスイッチからのストップ信号にもとづい
て,各回転リールの回転を停止させるリール駆動制御手段」に相当する構成が記載
されていない,③引用発明において,「MUSASHI」又は「単チェリー」が出
やすくなることについて,引用例1には,それが,「ボーナスフラグが発生した場
合に,ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに対応するボー
ナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわらず,ストッ
プスイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合に,予め定め
られた特定種類の図柄の組み合わせを出現させ」るようにした結果として実現され
たものであるということが全く記載されていない,④引用例1には,リール駆動制
御手段が,「ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストップスイッチの操作
にもとづいて,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを停止するようにし
た」点は記載されていないと主張するので,以下判断する。
イ スロットマシーンに関する従来技術に関し,各刊行物には以下の記載が
る。
(ア) 本件明細書(甲8)
a 「【従来の技術】 従来,この種のスロットマシンにおいては,外
周に複数種類の図柄の表示された回転リールを横3列に並列し,各回転リールを回
転することで,その表面に表示された図柄が表示部に移動表示される。そして,ス
トップスイッチを操作すると各回転リールが停止し,停止した回転リールに表示さ
れた図柄の組み合わせにより,遊技者に所定枚数のメダルを払い出している。ま
た,表示部に停止表示された図柄の組合せが,予め定めた一定の図柄の組み合わせ
であるボーナス図柄であった場合には,遊技者にとって通常遊技よりもさらに有利
なボーナスゲームを行わせている。そして,このスロットマシンは,ボーナス図柄
を平均して出現させるため,ボーナスフラグを発生したときに,ボーナス図柄が出
現するように形成されている。そして,このボーナスフラグが発生した場合には,
遊技者によって操作されるストップスイッチの操作タイミングが多少ずれていたと
しても,これが所定の許容範囲内にあるときには,ボーナス図柄を出現させるよう
回転リールを停止制御するものが知られている。・・・また,このスロットマシン
は,ボーナスフラグが出力されて,表示部にボーナス図柄が出現する状況にあるこ
とを遊技者に対して報知するようにしている。」(段落【0002】,【000
3】)
b 「【発明が解決しようとする課題】 しかし,上記した従来のスロ
ットマシンにおいては,ボーナスフラグが発生してボーナス図柄が出現することを
報知するものであるから,この報知が行われた場合には,必ずボーナス図柄が出現
することとなる。このため,ボーナスフラグの出力が報知された時点で,表示部に
ボーナス図柄が出現することが一目瞭然に判ってしまう。したがって,遊技者は,
回転リールを停止させる操作に格別の注意を払うことなしに,ボーナス図柄を出現
させることができるため,スリル感が薄れ,逆にゲームの興趣をそぐ結果となると
いった問題点があった。」(段落【0004】)
c 「上記したスロットマシンは,遊技者のストップスイッチの操作タ
イミングが所定の許容範囲を越え,ボーナス図柄を出現させることができない場合
には,ボーナス図柄を出現させる代わりに,予め定められている特定種類の図柄の
組合せを出現させるようにしている。この特定種類の図柄の組合せは,一般に『リ
ーチ目』と呼ばれており,停止図柄の組合せが『リーチ目』となった場合には,遊
技者は,ボーナス図柄が出現する可能性が極めて高い状態であることを認識するこ
とができる。ただ,この『リーチ目』といわれる停止図柄の組合せが出現するの
は,上記したように入賞リクエスト信号が出力された場合に必ずしも限られない。
すなわち,ボーナスフラグを出力していない状態であっても,回転リールの停止制
御の都合上,偶然に『リーチ目』といわれる停止図柄の組合せとなってしまう場合
がある。」(段落【0005】)
d 「上記したようにボーナスフラグの出力と,『リーチ目』の出現と
は確実に関連してはいないが,遊技者は,特別の賞態様が出現する可能性が高い状
態であることを知るためには,予め「リーチ目」といわれる図柄の組合せを記憶し
ておくか又はホールに掲示された図柄の組合せが表してある『リーチ目』の表示と
照合しながら,ゲームを行うことが多い。しかしながら,この『リーチ目』といわ
れる停止図柄の組み合わせは,多数にのぼることが多く,記憶しておくことは困難
であり,また,ホールに掲示された『リーチ目』の表示と照合することも,煩雑で
あることから,ゲームへの集中を妨げる原因となっているとともに,遊技者が『リ
ーチ目』の出現を見逃すことが多いといった問題点があった。」(段落【000
6】)
e 「本発明は,上記した従来の技術の有する問題点を解決するために
なされたものであり,その目的とするところは,ボーナス図柄が出現する可能性を
有する『リーチ目』が停止表示されたことを遊技者に報知することにより,遊技者
は,『リーチ目』を見逃すことがなくなるとともに,大きな期待感を持ちながら
も,スリル溢れるゲームを集中して行うことができるスロットマシンを提供するこ
とにある。」(段落【0007】)
(イ) 甲9刊行物
a 「スロットマシンは通常第1図に示すような外観を有しており,ハ
ンドル(1)を引き3個のリール(2a),(2b),(2c)を回転せしめ,自
動的または停止ボタン(3a),(3b),(3c)の押圧により3個のリールを
順次停止せしめて絵柄の組合せにより所定の数のメダルを排出する。」(2頁左上
欄末行~右上欄5行目)
b 「このようにフリーランの状態のデータが常に入力されているラッ
チ(9)に前記タイマ(6)からのハンドル信号が入力すると,ハンドル信号の入
力時のデータに基づく乱数情報(配当テーブルメモリ(13)のアドレス情報)が
ラッチ(9)から比較演算部(12)に送られる。比較演算部(12)は,絵柄の
組合せおよびそれに対応する配当のテーブルがストアされている配当テーブルメモ
リ(13)から,乱数情報に基づくアドレスにストアされている絵柄の組合せおよ
び配当を読み取る。」(2頁右上欄下から2行目~左下欄9行目)
c 「比較演算部(12)では前記乱数によりランダムに決定された絵
柄の組合せ情報と絵柄位置検出部(20)からの現在位置情報とを比較演算し,リ
ール停止位置情報をリール停止部(24)のダウンカウンタ(25)に出力する。
リール停止位置情報は,リールを所定回数回転させたのち絵柄表示位置から所定の
コマ数以内に目的とする絵柄が入ったときに出力される。」(2頁右下欄下から2
行目~3頁左上欄6行目)
d 「ダウンカウンタ(25)では入力されたリール停止位置情報をフ
ォトセンサ(15b)でえられる1コマごとのカウント信号によりカウントダウン
する。カウントダウンされた信号はコンパレータ(27)に送られ,コンパレータ
(27)はその内容が零になったときタイマ(28)を介してソレノイド(29)
に停止信号を送り,リールを目的とする絵柄が表示される位置で停止せしめる。」
(3頁左上欄7行目~下から7行目)
e 「また,リールの停止をリール停止ボタン(3a),(3b),
(3c)の押圧によって行なうこともできる。そのばあい,停止ボタンの押圧によ
り生じた信号を停止信号部(34)の波形成形部(35)で波形を成形したのち比
較演算部(12)に停止信号を送る。停止信号が入力されると比較演算部(12)
では前記と異なり,停止信号入力時現在の絵柄から所定コマ数内に前記乱数によっ
て決定された絵柄があるか否かを比較し,もしその絵柄があるならその位置でリー
ルを停止させるためのリール停止位置情報をダウンカウンタ(25)に出力し,も
し所定コマ数内に目的とする絵柄がないときは所定のリール停止位置情報をダウン
カウンタ(25)に出力する。したがって停止ボタンを採用するときは遊戯者の意
思をも加えることができ,さらにゲーム性を高めることができる。」(3頁左下欄
1行目~下から3行目)
(ウ) 甲10刊行物
a「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと,これ
らのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて,
前記リールの回転駆動後に,順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサン
プリング手段と,前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを
比較照合する手段と,前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として
出力するリクエスト発生手段と,前記リクエスト信号を評価し,前記リールのスト
ップ位置を設定すると共に,前記リールストップ手段を制御するリールストップ制
御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(1頁左下欄の「特許請求
の範囲」第1項)
b 「前記リールを停止させるべく操作されるストップボタンを設け,
前記リールストップ制御手段がこのストップボタンの操作信号によって起動される
特許請求の範囲第1項に記載のスロットマシン。」(1頁左下欄~右下欄の同第2
項)
c 「スタートレバー操作により,3つのリールが回転され,所定時間
の経過後,後述するヒットリクエストの設定(入賞の有無を照合)を行なってリー
ルストップのためのストップボタンの操作の有効化およびその表示のためのストッ
プランプ(第1図中27に対応)を点灯させる。・・・ストップボタンに対応した
リールが回転中,かつストップボタンが操作された場合に,そのリールをストップ
させることになる。・・・すべてのリールが停止した判断が得られるとゲーム終了
となり,・・・入賞判定処理,入賞の場合メダル払い出し処理がなされる。」(3
頁左下欄4行目~右下欄1行目)
d 「ゲーム開始後例えばスタートレバーの操作後の所定のタイミング
信号(この時点で各リールは定常回転されることが好ましい。)により,その時点
で乱数値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定
する。こうして決定された乱数値は・・・入賞確率テーブルと照合され,大ヒット
に該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生,また中ヒットに該当する
数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断,処
理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエスト
なしかがチェックされることになる。」(5頁左上欄下から5行目~右上欄9行
目)
e「大,中,小の各ヒットの例としては,大ヒットが15枚のメダル支
払いの後ボーナスゲームができるようになるもの,中ヒットが10~15枚のメダ
ル支払い,小ヒットが2~5枚程度のメダル支払など適宜設定される。ボーナスゲ
ームとしては,例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲームを実行し,
その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのまま15枚のメダ
ル支払いがなされ,このような手順で数回のゲームができるようにすることなどが
考えられる。」(5頁右下欄8行目~下から3行目)
f 「ストップボタンが操作された時点から限られた時間内にリールを
停止させ,しかも可能な限り得られたヒットリクエストに応じたシンボルマークの
組み合わせでリールを停止させるようにするものである。・・・このようにシンボ
ルマークをチェックして,すでにセットアップされたヒットリクエストに対応する
シンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがその5個のチェッ
ク範囲内にあればそこでリールを停止させることになる。なお,このような処理は
3個のリールそれぞれについて行われることは言うまでもない。」(6頁左下欄1
2行目~右下欄10行目)
g「各ラインでのシンボルコードの組み合わせを,入賞のシンボルコー
ドの組み合わせと共にこれに対応した支払メダル数,またボーナスゲームの有無が
メモリされている入賞シンボルテーブルと照合される。・・・さらにRAM5には
得られたヒットに応じたエリア,すなわち大ヒットエリア5a,中ヒットエリア5
b,小ヒットエリア5c,ヒットなしのエリア5dにフラグがセットされる。」
(7頁左下欄3行目~右下欄2行目)
(エ) 引用例5(甲5)
a 「今度は,ボーナスフラッグが成立したときについて話そう。ボー
ナスフラッグが成立しないと,その絵柄はそろわない。これは当たり前。しかし,
ボーナス絵柄は,小役と違って絵柄の数が少ない。だから,ボーナスフラッグが成
立しても,すぐにそろってくれるわけじゃないんだ。そこで活躍するのが,ストッ
プボタンだ。フラッグが成立したボーナス絵柄を,ストップボタンを使って狙うワ
ケ。これが目押しというヤツだ。」(18頁第4段の第3段落~最終段落)
b 「では早速,ボーナスフラッグを判断する,いくつかの方法につい
て話をしよう。最も代表的なものが,ボーナス絵柄のテンパイ形である。ユニバー
サル系の機種は,特定の有効ラインに7がテンパイ(つまり,2つ並ぶ)すれば,
ボーナスフラッグが成立したと判断できる。」(19頁第2段の第1段落~第2段
落)
c 「次に代表的なものが,リーチ目によるフラッグ判断方法である。
前述の『ボーナスフラッグのテンパイ形』も,この仲間といえる。このリーチ目と
いうのは,大きく2種類に分けることができる。1つは,ボーナスフラッグが成立
したことで,特定の小役が頻繁に出てくるもの。・・・もう1つは,7と7の代役
絵柄が,有効ラインに並ぶものである。」(同頁第3段の第2段落~4段の第2段
落)
d 「そして,3番めのボーナスフラッグ判断方法は,リールのスベリ
に注意することだ。パチスロは機種に関係なく,フラッグが成立した絵柄をそろえ
たがるという特徴を持っている。そして,ストップボタンを押した瞬間にリールが
止まらずに,その絵柄を出そうと,リールがすべるのだ。リールのスベリ幅は,最
大で4コマというのも,頭にいれておこう。」(同頁第4段の第3段落~最終段
落)
e 「この機種は,いずれかのボーナスフラッグが成立すると,単チェ
リーの抽選確率が引き上げられ,高い確率で出現するようになる。つまり,単チェ
リーがこの機種のリーチ目となるわけだ。・・・チェリーが中段に出てきた場合
は,ほぼ間違いなくどちらかのボーナスフラッグが成立している。」(23頁「比
較4」の第1段~24頁第1段の第2段落)
f 「3番めに考えられるのは,ボーナスフラッグが成立し,左リール
にボーナス絵柄が出たにもかかわらず,中リールを止めたタイミングが悪く,ボー
ナス絵柄のテンパイ形ができなかった場合である。⑨~⑮はその代表的な例で,左
リール中段のチェリー同様に,高確率のリーチ目となる。」(25頁第3段第1段
落)
(オ) 引用例6(甲6)
a 「スベリとは一体,何ですか!? スベリとは,機械側が決めた役
を揃いやすくするために,ボタンを押したタイミングのズレを修正してくれる為に
発生する現象だ。とはいっても,最大スベリは約4コマなので,それ以上はスベっ
てくれない。つまり,早い分には4コマ以内でボタンを押せば揃えてくれるという
ことだ。反対に機械側が決めていない役が揃わないように,ハズそうとするスベリ
もある。実戦で,確かめよう。」(61頁左中欄)
b 「フラグが立った状態になって,やっと7を揃えることが可能にな
りました。目押しの主な用途はここから重要になります。左の図にあるように,ス
トップを押してから,リールが止まるまでの時間差(コマの動き)をスベリと呼び
ます。このスベリは最大約4コマの範囲で動き,フラグが立っている時は,その絵
柄を引き込んだり,立っていない時はハズしたりするのです。つまりフラグが立っ
ていれば,4コマ手前で押しても,スベって揃ってくれます。もしそれより大きな
範囲でボタンを押してしまった場合,前述のリーチ目は出るのですが,なかなか揃
わないために,結果的にコインを損する場合が出てくるのです。」(同頁最下欄
「目押しは何故必要なのか?全ては損得が基準である!」の第3段落~最終段落)
ウ 本件明細書の上記イ(ア)の記載によれば,スロットマシンにおいて,ス
トップスイッチを操作すると各回転リールが停止し,停止した回転リールに表示さ
れた図柄の組合せにより,遊技者に所定枚数のメダルが払い出され,ボーナスフラ
グが発生したときには,ストップスイッチの操作により,ボーナス図柄が出現する
ように形成され,その場合には,ストップスイッチの操作タイミングが多少ずれて
いたとしても,そのずれが所定の許容範囲内にあるときには,ボーナス図柄を出現
させるよう回転リールを停止制御するという内部的処理が行われることは,本件出
願時,従来技術として当業者に周知であったことが認められる。また,甲9刊行物
及び甲10刊行物には,上記のとおり,スロットマシンのCPUにおける上記内部
的処理の内容が詳しく記載されており,そのようなCPUにおける内部的処理につ
いても,本件出願時,当業者に周知であったと認められる。
さらに,ボーナスフラグにより回転リールの停止制御が行われる上記の
ようなスロットマシンにおける具体的な遊技態様についてみると,引用例5(甲
5)及び引用例6(甲6)には,フラッグが成立した場合に,ストップボタンを使
用してボーナス絵柄をねらうこと,ボーナスフラッグが成立しないと,その絵柄は
そろわないこと(上記イ(エ)のa),ボーナスフラッグが成立したことを判断する
方法の一例として,特定の小役(リーチ目)が頻繁に出てくること(上記イ(エ)の
eでは「単チェリー」が出やすくなる。)が挙げられること(上記イ(エ)のc),
ストップボタンを押した瞬間にリールが止まらずに,フラッグが成立した絵柄を出
そうとして,リールがすべること(上記イ(エ)のf,上記イ(オ)のa,b),スベ
リの範囲(最大約4コマ)より大きな範囲でボタンを押してしまった場合にリーチ
目が出ること(上記イ(オ)のb)が記載されているということができる。
そして,上記記載によれば,一般的なスロットマシンにおいては,ボー
ナスフラッグが成立した状態で,ストップボタンを使用してボーナス絵柄をねらう
ことにより,ボーナス絵柄がそろうか,そろわないことになるところ,ボーナス絵
柄がそろわない場合でも,ボーナスフラッグが成立していれば,特定の小役(リー
チ目)が頻繁に出てくるようになっており,そのような状況の出現によりボーナス
フラッグが成立したことを判断することができるようになっていること,ボーナス
フラグが立った状態では,スベリの範囲でボタンを押せば,ボーナスフラグが立っ
た役がそろうが,スベリの範囲を越えてボタンを押した場合には,リーチ目が出る
ことが認められ,これらの事項は,本件出願時,当業者に周知の技術であったと認
めることができる。
原告は,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載されているものは,いずれ
も決定された図柄で止めることができないときに,別の何らかの図柄でリールを停
止させること,すなわち,決定された図柄で必ず止めることはできない旨を明らか
にしているものにすぎない旨主張する。
しかしながら,甲9刊行物には,上記イ(イ)eのとおり,スロットマシ
ンにおいて,「もしその絵柄があるならその位置でリールを停止させるためのリー
ル停止位置情報をダウンカウンタ(25)に出力し,もし所定コマ数内に目的とす
る絵柄がないときは所定のリール停止位置情報をダウンカウンタ(25)に出力す
る」との記載があり,この記載は,スロットマシンにおいて,決定された図柄でリ
ールを停止させることができないときには,別の予め定められた図柄でリール停止
させるようにリールの停止制御が行われることを意味するものと解される。スロッ
トマシンにおいて,このようなリールの停止制御が行われることは,引用例5及び
引用例6の上記記載からも明らかである。原告の上記主張は採用することができな
い。
エ 上記ウの認定に基づいて,上記アの①ないし④の原告主張について検討
すると,以下のとおりである。
(ア) 上記ア①について
本件明細書の上記イ(ア)の記載によれば,本願発明において,「ボー
ナスフラグが発生」とは,ボーナス図柄が出現するように回転リールの停止制御が
され,その場合に,遊技者によって操作されるストップスイッチの操作タイミング
が多少ずれていたとしても,これが所定の許容範囲内にあるときには,ボーナス図
柄を出現させるようにその制御がされ,また,遊技者のストップスイッチの操作タ
イミングが所定の許容範囲を越え,ボーナス図柄を出現させることができない場合
には,ボーナス図柄を出現させる代わりに,予め定められている特定種類の図柄の
組合せであるリーチ目を出現させるように回転リールの停止制御がされる状態をい
うものであること,ボーナスフラグを出力していない状態であっても,回転リール
の停止制御の都合上,偶然に「リーチ目」といわれる停止図柄の組合せとなってし
まう場合があることが認められる。
一方,引用発明に係るスロットマシンにおいて,ビッグボーナスが入
ると「MUSASHI」が揃うリーチ目が,レギュラーボーナスが入ると「単チェ
リー」のリーチ目が出やすくなり,これらのリーチ目が通常時にも出るという内部
的処理がされるものであることは,上記(1)イに認定したとおりである。そして,上
記ウに認定した本件出願時のスロットマシンに関する周知技術を参酌して,引用発
明におけるこのような回転リールの停止に関する内部処理を見れば,引用例1に記
載の「ビッグボーナスが入る」,あるいは,「レギュラーボーナスが入る」は,本
願発明における「ボーナスフラグが発生」に相当するものと認めることができる。
(イ) 上記ア②について
上記ウに認定したとおり,スロットマシンにおいて,ボーナスフラッ
グが発生した状態での回転リールの停止制御に関するCPUの内部処理は,本件出
願当時,周知であったと認められるから,引用例1(甲1)にはCPUの内部処理
について明示の記載がないけれども,当業者であれば,上記周知技術を参酌して,
引用発明における「3つの回転リールと,該回転リールに対応した3つのストップ
スイッチを有するスロットマシン」(上記(1))においては,「前記ストップスイッ
チからのストップ信号に基づいて,各回転リールの回転を停止させるリール駆動制
御手段」(審決認定の一致点)により回転リールの停止制御が行われるものと容易
に把握することができるものと認められる。
(ウ) 上記ア③について
上記(1)のとおり,引用例1には,「リーチ目は単刀直入で分かりやす
く,ビッグボーナスが入ると,『MUSASHI』が,レギュラーボーナスが入る
と,『単チェリー』が出やすくなる」との記載があるところ,引用例1の「MUS
ASHI」や「単チェリー」というリーチ目が,本願発明の「特定種類の停止図柄
の組合せ」に相当することは明らかであるから,引用例1の上記記載に接した当業
者は,本件出願時のスロットマシンにおけるボーナスフラグが発生した状態での内
部的処理に関する本件明細書並びに甲9刊行物及び甲10刊行物に記載の上記ウの
周知技術,及び,ボーナスフラグにより回転リールの停止制御が行われるスロット
マシンにおける具体的な遊技態様に関する引用例5及び6に記載の上記ウの周知技
術を参酌することにより,引用発明に係るスロットマシンにおいて,「MUSAS
HI」や「単チェリー」が出やすくなることについて,それは,「ボーナスフラグ
が発生した場合に,ストップスイッチの操作にもとづいて,当該ボーナスフラグに
対応するボーナス図柄を停止制御し,ボーナスフラグが発生されているにもかかわ
らず,ストップスイッチの操作にもとづいてボーナス図柄を停止制御できない場合
に,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを出現させ」る(審決認定の一致
点)ようにした結果として実現されるものであることを容易に把握することができ
るものと認められる。
(エ) 上記④について
上記(イ)及び(ウ)で説示したとおり,引用発明は,リール駆動制御手
段が,ストップスイッチの操作に基づいてボーナス図柄を停止制御できない場合
に,予め定められた特定種類の図柄の組合せを停止するようにしたものであると認
められるところ,上記(1)のとおり,引用例1には,リーチ目が,ビッグボーナスが
入らない「通常時でも出ることがある」ものであると記載されているから,引用例
1に係るスロットマシンは,「ボーナスフラグが発生していない場合にも,ストッ
プスイッチの操作にもとづいて,予め定められた特定種類の図柄の組み合わせを停
止するようにした」(審決認定の一致点)ものであるということができる。
オ 以上のとおり,原告主張の取消事由1の(1)の①ないし④に記載の審決認
定の事項は,上記認定の各周知技術を参酌すれば,引用例1の記載から容易に把握
することができるものである。審決の引用発明の認定に原告主張の誤りはなく,そ
の認定に誤りがあることを前提として,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の取
消事由1は,その前提を欠き理由がない。
(3) 原告は,本願発明と引用発明とは,「回転リールの回転を,ゲーム中に発
生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御するようにしたスロットマシン」
(審決謄本8頁最終段落)である点で一致するとした審決の認定は,引用発明につ
いての誤った認定を前提とするものであるから,誤りであり,引用発明は,「回転
リールの回転を,ゲーム中に発生されたボーナスフラグにもとづいて停止制御す
る」点の構成が不明である点で本願発明と相違するのに,その点を看過したもので
あると主張する。
しかしながら,上記(2)のウ,エに説示したところからすれば,引用例1に
は,ボーナスフラグにより停止制御がされるスロットマシンが開示されていると認
めることができる。
審決の上記一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もないから,原告の
上記主張は採用の限りでない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用例2,3(甲2,3)には,スロットマシンにおいて,回転
リールで「リーチ」,あるいは,「入賞を構成する絵柄の組み合わせの一部」がそ
ろい,入賞の可能性がある場合に,当該リーチ等の表示を見逃して入賞のチャンス
を逸することがないように,リールが前記リーチ等であることを判定して,遊技者
へ報知する点が記載されているが,その技術は周知技術ではないから,それが周知
技術であることを前提とする相違点2についての審決の判断は,その前提を欠き,
失当である旨主張する。
しかしながら,スロットマシンの発明に関し,乙1刊行物には,「第1及
び第2リール3,4が停止された際,その絵柄の組み合わせが,入賞を構成し得る
ものである場合にはチャイム,ランプなどにより遊技者に報知させるようにすれ
ば,さらに興趣を高めることができる。」(5頁4行目~8行目)と,乙2刊行物
には,「可変表示ゲーム中,有効ライン上の表示が2つ停止してリーチ状態となっ
たときに,ビッグチャンス及びシングルボーナス等の大役が発生し得るライン上の
3つの窓要素・・・のいずれかの透明発光素子11Fが点滅発光されてどのライン
上にリーチ状態が生じたかが知らされる。」(段落【0067】)と,乙3刊行物
には,「この種のスロットマシンでは,遊戯者が複数のリールを停止ボタンの押操
作で順次停止していく際に,入賞にかかわる図柄の組み合わせが停止ライン上に出
現する可能性があることに気付かず,最後の停止ボタンを不用意に押してしまうこ
とがある。・・・この考案は,上記問題に着目してなされたもので,停止ライン上
に入賞にかかわる図柄の組み合わせが出現する可能性があるとき,遊戯者にこれを
知らせて注意を喚起し,入賞に対する期待感を高めることができるスロットマシン
を提供することを目的とする。」,「図5は,停止ボタンスイッチ8a,8bの操
作により2個のリール3A,3Bが停止した時点を示しており,有効化された停止
ラインL1,上にはリール3A,3Bの入賞にかかわる図柄Cが2個並んでいる。
このとき入賞にかかわる図柄の組み合わせが出現する可能性があると判定され,効
果音が発生される。」(段落【0003】,【0004】,【0025】)とそれ
ぞれ記載されている。
引用例2,3に原告の自認する上記開示があるほか,乙1刊行物,乙2刊
行物及び乙3刊行物に上記認定の開示があることからすれば,入賞を構成する絵柄
の組合せの一部がそろい,入賞の可能性がある場合に,当該リーチ等の表示を見逃
して入賞のチャンスを逸することがないように,リールが前記リーチ等であること
を判定して,遊技者へ報知することは,本件出願時,当業者に周知の技術であった
と認めることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,引用発明に,引用例2,3(甲2,3)に記載の「リーチ」(入
賞の可能性がある所定の図柄で回転リールが停止したこと)を報知するという上
記(1)に認定の周知技術を適用することには,阻害要因ないし困難性があるとし,そ
の理由として,①引用発明の「リーチ目」である「MUSASHI」や「単チェリ
ー」は小役であり,小役の入賞は一般的に入賞ランプを点灯,あるいは,点滅して
報知されるから,小役の入賞について,引用例2(甲2)の「リーチランプ」を点
灯させて「リーチ目」であることを報知しても,二重の報知となって,遊技者は何
が報知されたのか理解することができないこと,②「リーチ」は,その状態で入賞
の図柄の組合せと相違点がなく,また,メダルの払い出しにかかわる情報であると
いう特徴点を有するのに対し,いわゆる「リーチ目」は,入賞の図柄の組合せとの
関係は問題とされず,メダルの払い戻しとは直接関係がなく,次回以降のゲームに
かかわる情報であるという点において相違しているところ,「リーチ」は入賞の図
柄の組合せと相違点がないという特徴点から,これを報知することに必然性がある
が,メダルの払出しが行われることがなく,入賞の図柄の組合せとの関係は問題と
されない「リーチ目」を報知することは,引用発明において,全く必然性がないこ
と,を挙げる。
ア 上記①について
引用発明に係るスロットマシンが,小役の入賞を報知する手段を備えて
いるとしても,スロットマシンの一般の技術常識(引用例5の上記1(2)のイ(エ)の
記載)からすれば,小役は,「MUSASHI」と「単チェリー」に限定されるも
のではなく,他にも存在し,それら小役の中には,「MUSASHI」と「単チェ
リー」のようにリーチ目を兼ねるものと,小役がリーチ目を兼ねないものとがある
と認められる。そして,小役がリーチ目を兼ねない場合には,入賞の報知のみを
し,小役がリーチ目を兼ねる場合には,入賞の報知とともにリーチ目が出たことの
報知を併せて行う構成を採用することは,遊技者に,当該小役がリーチ目を兼ねる
ものであることを認識させ得るのであって,遊技者が何を報知されたか理解できな
いという事態は生じないものと考えられる。
したがって,引用発明に引用例2及び3等に記載の上記周知技術を適用
することに阻害要因があるとする原告の上記主張①は,採用することができない。
イ 上記②について
上記周知技術と引用発明とは,いずれもスロットマシンに係るものとし
て技術分野を共通にするばかりでなく,前者が当回の遊技にかかわるものであり,
後者が次回以降の遊技にかかわるものである点で相違するものの,スロットマシン
の遊技において入賞のチャンスが到来した場合に,遊技者の注意力を喚起して,入
賞の機会を逸することを防止する要請があるという点で課題を共通にするから,引
用発明に引用例2,3等に記載の上記周知技術を適用して,引用発明において,回
転リールが特定種類の図柄であるリーチ目で停止している場合に,遊技者にリーチ
目が出現したことを報知する構成を採用することは,当業者が容易に想到し得るこ
とというべきである。
上記②において原告が主張する「リーチ」と「リーチ目」との相違点
は,引用発明に上記(1)の技術的事項を適用することを困難とする事情には当たらな
い。
原告は,本願発明のように,「リーチ目」に「リーチ」を構成する図柄
の組合せ以外の図柄の組合せを含む場合,遊技者は,一見してもリーチ目であるこ
とが分かりにくく,リーチ目を記憶しておく必要があるが,比較的遊技経験の浅い
遊技者は,リーチ目を記憶していないことが多く,遊技を楽しむことを困難にして
いた事実も存在していたとし,このことが,上記適用の困難性を裏付けるものであ
るかのように主張するが,上記事実が存在していたとの一事をもって,上記適用の
困難性を裏付けるものということはできない。
したがって,引用発明に引用例2及び3等に記載の上記周知技術を適用
することを困難にする事情があるとする原告の上記主張①は,採用することができ
ない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用例4には,「回転リールの回転の開始から予め定めた一定時
間の経過を条件に,回転リールの回転を停止させるようにする」ことが記載されて
はいるが,その技術は周知技術ではなく,それが周知技術であることを前提とする
相違点3についての審決の判断は,その前提を欠き,失当である旨主張する。
(2) しかしながら, 甲9刊行物には,上記1(2)イ(イ)のとおりの記載があ
り,乙4刊行物には,「14は各リール1~3を回転開始させたあと,所定時間経
過後に自動停止させるリール自動停止指令部で,この指令部には図示しないがスタ
ート信号形成部8からの信号を受けて起動するセット時間任意設定タイプのタイマ
ーと,このタイマーが起動して設定時間が経つと各モータ4~6に対するストップ
信号TP1~TP3を出力する自動ストップ信号出力部とから成る。ここでは一例と
して,自動ストップ信号TP1~TP3はタイマーが4秒計時してから出力されるよ
うにしているが,この時間は予め任意に設定可能である。15はストップボタン1
1~13の操作により生じたマニュアルストップ信号SP1~SP3と,タイマーの
作動による自動ストップ信号TP1~TP3との優先順位を,先に供給されたものを
優先するように,夫々対応する信号ごと・・・に判別し,優先したストップ信号を
駆動制御部9に供給するストップ信号の判別部である。この構成により,本発明で
は回転している各リール1~3は,ストップボタン11~13の操作によるストッ
プ信号SP1~SP3か,又は,自動停止指令部からのストップ信号TP1~TP3
のいずれかにより,停止されるようにした手動停止機構と自動停止機構を結合した
絵柄変更の停止機構の例を形成することとなる。」(3頁左上欄9行目~右上欄下
から7行目)と記載されている。
上記各刊行物の記載によれば,甲9刊行物及び乙4刊行物記載のスロット
マシンにおいて,各回転リールを回転開始後に所定の時間経過後,又は所定回数回
転後に自動停止させる停止制御が行われることが開示されていると認められる。
引用例4に原告の自認する上記(1)の開示があるほか,甲9刊行物及び乙4
刊行物に上記認定の開示があることからすれば,「回転リールの回転の開始から予
め定めた一定時間の経過を条件に,回転リールの回転を停止させるようにする」こ
とは,本件出願時,当業者に周知であったと認めることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由4(作用効果についての判断の誤り)について
(1) 原告は,本願発明のようなボーナスフラグで回転リールの停止制御がさ
れるスロットマシンにおいて,比較的遊技経験の浅い遊技者は,「リーチ目」を記
憶していないことが多く,遊技を楽しむことを困難にしていたところ,本願発明
は,本件明細書(甲8)に記載のとおり,「遊技者はゲームに集中することができ
るとともに,リーチ目を見逃す不利益が未然に防止できる。」(段落【003
1】)という効果に加え,「ボーナス図柄が出現する可能性が極めて高いという期
待感を得ながらも,遊技者は,回転リールの停止操作に格別の注意を払う必要があ
ることから,極めてスリルに富み,興趣溢れたスロットマシンを提供することがで
きる」(段落【0032】)という作用効果を奏するものであり,引用発明と比較
して顕著な効果を奏するものである旨主張する。
(2) しかしながら,本願発明の奏する上記効果は,引用発明に引用例2及び3
等に記載の周知技術を適用した結果,奏されるものである。
そして,乙3刊行物には上記2(1)に認定した記載があるほか,引用例2及
び3には,スロットマシンにおいて,リーチを遊技者に報知する構成を採用するこ
とにより奏される効果として,以下の記載がある。
ア 引用例2(甲2)
「本発明によれば,以下のような効果がある。即ち,全ての回転リール
のうちのひとつを残して全ての回転リールを止めた時点で,残るひとつの回転リー
ルの絵柄が特定のものであれば入賞となる,という場合に,プレーヤーに入賞のチ
ャンスである旨をリーチランプの点灯によって伝えることができるように形成する
ことによって,入賞チャンスの増大を図ったスロットマシンを提供することができ
た。」(5頁左欄10行目~末行)
イ 引用例3(甲3)
「本考案のスロットマシンによれば,停止されたリールによって入賞に
該当する絵柄の組み合わせの一部が構成されているときに報知手段が作動し,遊技
者に入賞が得やすい状態になったことを報知するから,遊技者は残りのリールがど
のように位置(注,「どのような位置」の誤記と認める。)で停止されるかという
ことに大きな期待感をもつようになり,単調化しやすいスロットマシンゲームにこ
れまでにはない新たな興趣を盛り込むことができる。」(10頁14行目~11頁
2行目)
上記2(1)に認定した乙刊行物3の記載並びに引用例2及び3の上記記載に
よれば,スロットマシンにおいて,リーチを報知する構成を採用することにより,
遊技者がリーチを見落とし,入賞のチャンスを逸することを防止するとともに,入
賞に対する期待感を高め,単調化しやすいゲームに新たな興趣を盛り込むことがで
きるという効果を奏することが明らかであるところ,本願発明のリーチ目も,次回
以降の遊技に関し,入賞の可能性が高くなる状態の特定の図柄の組合せをいうもの
であるから,本願発明において,リーチ目を報知する構成を採用することにより奏
される上記の効果は,リーチを報知することにより奏される上記効果に照らし,当
業者であれば予測し得る範囲内のものであると認められる。
5 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 青 栁 馨
裁判官 宍 戸 充
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