平成16(ワ)8657民事訴訟 意匠権
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成17年11月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ら訴訟代理人弁護士 小 野 昌 延
ニプロ株式会社(以下「
ニプロ」という。)は,医薬品,医薬部
ニプロファーマ株式会社(旧商号:菱山製薬株式会社。以下「
ニ
らは,共同して別紙イ号図面記載の輸液バッグ(商品名「フルマリン 原告は,医薬品,医薬部外品等の製造販売等を業とする株式会社である。
は,別紙意匠目録記載の意匠権を有している(以下,同目録記載の意
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法令 |
意匠権
意匠法3条1項3号1回 意匠法29条1回 意匠法29条の21回
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キーワード |
実施13回 意匠権8回 侵害2回 損害賠償2回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成17年11月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成16年(ワ)第8657号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成17年9月1日
判 決
原 告 株式会社大塚製薬工場
訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司
西 迫 文 夫
井 上 周 一
補佐人弁理士 藤 本 昇
松 井 宏 記
被 告 ニプロ株式会社
被 告 ニプロファーマ株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 小 野 昌 延
滝 井 朋 子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは,原告に対し,連帯して3億6915万円及びこれに対する平成1
6年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,輸液バッグに関する後記意匠権を有する原告が,被告らが製造販売
する輸液バッグの意匠が原告の前記意匠権に係る登録意匠に類似し,その製造販売
は前記意匠権を侵害するとして,被告らに対し,意匠権侵害に係る共同不法行為に
基づき,連帯して平成13年3月から平成16年6月までに原告が被った3億69
15万円の損害賠償及びこれに対する平成16年8月13日(本件訴状送達の日の
翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し
た事案である。
1 前提事実(争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
原告は,医薬品,医薬部外品等の製造販売等を業とする株式会社である。
被告ニプロ株式会社(以下「被告ニプロ」という。)は,医薬品,医薬部
外品等の製造,販売及び輸出入等を業とする株式会社である。
被告ニプロファーマ株式会社(旧商号:菱山製薬株式会社。以下「被告ニ
プロファーマ」という。)は,医薬品,試薬,医薬部外品等の製造販売及び輸出入
等を業とする株式会社である。
(2) 原告の意匠権
原告は,別紙意匠目録記載の意匠権を有している(以下,同目録記載の意
匠権を「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という。)。
(3) 被告らによる輸液バッグの製造販売
被告らは,共同して別紙イ号図面記載の輸液バッグ(商品名「フルマリン
キット静注用1g」。以下,別紙イ号図面記載の輸液バッグを「イ号製品」とい
い,その意匠を「イ号意匠」という。)を製造販売していた。
(4) イ号意匠と本件登録意匠の類似性
本件登録意匠の要部は,製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部
の中央の帯状の部分とその両側に連続する溶解液収納側の袋体の上部両側に形成さ
れた下すぼまりのシール部分及び製剤収納側の袋体下部両側に形成された上すぼま
りのシール部分(いわゆるダンベル形状のシール部)であり,イ号意匠は本件登録
意匠に類似する。
2 争点
(1) 先使用等による通常実施権の成否
ア 先使用による通常実施権(意匠法29条)
イ 先出願による通常実施権(意匠法29条の2)
(2) 損害額
これらのうち,主たる争点は,先使用による通常実施権の成否である。
第3 主たる争点に関する当事者の主張
【被告らの主張】
被告らは,本件登録意匠を知らないで,遅くとも平成11年5月10日まで
に,検乙第7号証の製品を事業として441個製造し,同日,これを有用性試験用
に塩野義製薬株式会社(以下「塩野義」という。)に譲渡した。その後,被告ら
は,平成12年5月からはイ号製品を事業として製造し,平成13年1月以降,こ
れを販売している。
上記検乙第7号証に係る意匠はイ号意匠と酷似しており,類似の範囲に属す
る。
したがって,被告らは,イ号意匠について,先使用による通常実施権を有す
る。
【原告の主張】
被告らの主張は争う。
被告らが先使用の証拠として本件で提出するものは,①本件登録意匠の要部で
あるいわゆるダンベル形状のシール部が示されていないものである,②同形状が示
されている場合には,その作成過程が不自然であったり,提出経過が不自然である
などの問題があり,被告ら主張の事実を証するものではない。
第4 当裁判所の判断
1 事実経過
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告ニプロは,分離型のダブルバッグタイプの輸液バッグ(同被告の社内
では,「PLWキット」と呼んでいる。以下,これを「PLW」等ということもあ
る。)について,平成7年に日本,アメリカ,欧州等に特許出願をした。(甲4
6,47)
(2) 被告ニプロは,平成8年3月ころ,塩野義に対し,粉末抗生物質の収納部
を有する袋体と溶解液の収納部を有する袋体を弱シール部で接続したダブルバッグ
タイプの輸液バッグの提案を行い,その後,塩野義が製造販売していた抗生剤フル
マリン静注用1gと生理食塩水100mlを一体化したフルマリンキット静注用1
gを共同開発することとした。
(3) 被告ニプロは,平成8年4月24日,分離型のダブルバッグタイプの輸液
バッグの意匠について意匠登録出願をし,その後(平成10年5月22日)に意匠
登録を受けた。(乙29)
(4) 平成11年の4月22日及び5月2日に,被告ニプロファーマからPLW
溶解液(生理食塩水)及びフルマリンキット静注用1gの試製指図がなされ(乙3
0の1,2),これを受けて被告ニプロの草津医薬研究所(以下「被告研究所」と
いう。)において,平成11年5月6日から同月8日の間に有用性試験用の輸液バ
ッグが製造され,不良品を含めて441バッグが完成した(乙4,26の8)。
(5) 被告ニプロは,平成11年5月10日,関連会社である被告ニプロファー
マを通じて,フルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグを
塩野義に納入した(乙31)。
(6) 平成11年6月1日,被告ら及び塩野義は,フルマリンキット静注用1g
について共同開発契約を締結した(共同開発契約書は乙57)。
(7) 塩野義は,納入された有用性試験用サンプルに包装作業を行い,平成11
年6月15日ころ,そのうち250バッグを医薬開発部に入庫した(乙58ないし
60,61の1及び2)。
(8) 塩野義は,A大学病院薬剤部のB外1名にフルマリンキット静注用1gの
有用性試験の実施を委託し,上記Bらにより,平成11年6月26日から同年7月
13日までの間,前記サンプルを用いた有用性試験が行われた(乙32)。
(9) 被告ニプロからタックラベラーを受注していた株式会社岩田レーベル(以
下「岩田レーベル」という。)は,平成12年3月8日と9日の両日にわたって,
被告ニプロから提供を受けたフルマリンキット静注用1gのサンプルを用いてタッ
クラベラー等の検収運転を実施した(乙17の1ないし3,18の1ないし6)。
(10) 被告ニプロは,平成12年3月30日,検乙第7号証と同一の分離型の
ダブルバッグタイプの輸液バッグに係る意匠を出願意匠として意匠登録出願をした
が,前記(3)の意匠と類似する(意匠法3条1項3号該当)として平成13年1月3
0日に拒絶され,その後,拒絶査定が確定した(乙6)。
(11) 平成12年9月の27日と28日の両日にわたって,三重テレビエンタ
ープライズによって,被告ニプロファーマ伊勢工場におけるPLW製造ラインの稼
働状況等の撮影が行われた(検乙5及び6)。
(12) 塩野義は,平成13年1月末に,イ号製品であるフルマリンキット静注
用1gの販売を開始した。
2 意匠法29条によるいわゆる先使用による通常実施権が認められるために
は,意匠登録出願の際に,出願に係る意匠と同一又は類似の意匠を完成し,又は少
なくともそのような意匠が完成に近い状態にあり,それについて意匠の実施である
事業をし,又は事業の準備をしている必要があるところ,検乙第7号証に係る意匠
はイ号意匠と実質的に同一といって差支えないものであることが認められる。
3 そこで,検乙第7号証が,前記認定にかかる事実経過において,塩野義に納
入されたフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグのう
ち,塩野義の医薬開発部に入庫された250バッグの一つと認められるか否かにつ
いて検討する。
(1) 被告らが先使用に関連して提出した証拠のうち,本件登録意匠の出願前に
作成されたとされる図面で,本件登録意匠の要部と認められるいわゆるダンベル形
状のシール部を備える意匠に係るものは,乙第8号証(平成8年2月8日付けの三
菱重工〔名古屋機器製作所〕の押印のある製品外形図)のみである。
この図面には,幅5㎜の弱シール部と思われる帯状の部分とその両側に幅
広で略四角形状の強シール部と思われる部分が表現されている。そして,甲第13
号証及び弁論の全趣旨によれば,上記図面は,ダブルバッグタイプの輸液バッグの
製造機械に関し,機械メーカーである三菱重工との間の見積もり段階で作成された
ものであること,上記図面は,上記押印等からみて,三菱重工によって作成された
ものであることがうかがわれるが,原告と三菱重工との取引自体は,価格面等の折
り合いが付かなかったために成立せず,したがって,現実に,同図面に基づく製品
が製造されることはなかったことが認められる。
(2) 乙第64号証の3(作成日平成11年4月5日。なお,同号証は,同年3
月22日作成の乙第64号証の2を修正したものである。)は,検乙第7号証と同
一の輸液バッグに係る印刷見本図面である。
上記印刷見本図面には,意匠の要部となるダンベル形状のシール部は図示
されていないが,その余の形状等は,細部の形状を除けば,検乙第7号証ともおお
むね符合するといえる。そして,甲第14号証に対する乙第41号証の記載に照ら
せば,上記図面に係る作成日等の信憑性も肯定することができる。
(3) 乙第9号証(作成日平成9年5月22日)は,検乙第7号証の製作に使用
した金型の図面である。
そして,乙第9号証に図示された金型は,その凸部の形状が検乙第7号証
のシール部の形状とほぼ一致すると認められるものであって,現実に金型代金も原
告から有限会社中川製作所に支払われ,原告の総合研究所内に設置されたものであ
ることが認められる(乙10及び11)。
(4) 乙第1号証の1及び2,乙第2号証は,検乙第7号証と同一のサンプルを
被告研究所において平成11年5月6日から同月8日にかけて製造した際に,これ
をデジタルカメラで撮影し,その後,被告ニプロのコンピュータ内に保管されてい
た写真である。
デジタルデータは改変することが容易であるが,上記写真との関係で被告
らの提出した証拠(乙3ないし5,乙26の1ないし9,乙27の1ないし5,乙
28の1ないし3)を総合すれば,上記写真から認められる輸液バッグの形状,色
彩等と他の各写真に撮影された輸液バッグのそれとは酷似しているということがで
きるから,上記各証拠が撮影日時等を改変したものと認めることはできない。
(5) 乙第18号証の1ないし6は,岩田レーベルにおける平成12年3月9日
実施のタックラベラーの試運転状況を撮影した写真であり,乙第18号証の7は,
その試運転用にその際提供されたサンプルの写真であり,そのときの実物が検乙第
18号証(フルマリンキット静注用1g 実生産試運転2000.3.9by岩田
レーベル フジキカイ)である。
同サンプルの製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部には,ダン
ベル形状のシール部が形成されていることが認められる。
(6) 検乙第5号証は,被告ニプロファーマ伊勢工場PLW製造ラインのビデオ
テープであり,証拠説明書によると,その撮影年月日は平成12年9月の27日及
び28日とされている。そして,上記テープ中でダンベル形状の部分の写っている
画像を抽出したとする証拠が検乙第6号証であるが,これによると,製造中の「フ
ルマリンキット静注用1g」のキットの境界部分にダンベル形状が明瞭に写ってい
ることが認められる。
以上の各証拠及び前記認定の経緯によれば,検乙第7号証は,塩野義に納入
されたフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグのうち,
塩野義の医薬開発部に入庫された250バッグの一つであると認めるのが相当であ
る。
4 以上によれば,検乙第7号証に係る意匠は,有用性試験が行われた平成11
年7月当時までに創作され,本件登録意匠に係る意匠登録出願当時,完成され若し
くは完成に近い状態にあったものと認められる。
そうすると,被告らは,本件登録意匠に係る意匠を知らないで,自らこれに
類似する検乙第7号証に係る意匠を創作し,本件登録意匠に係る意匠登録出願の
際,現に日本国内において,本件登録意匠に類似する検乙第7号証に係る意匠の実
施である事業をし,ないしその準備をしていたと認められるから,その実施ないし
準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において,本件登録意匠について通常
実施権を有するというべきである。
したがって,検乙第7号証に係る意匠と実質的に同一であるイ号意匠に関す
る被告らの先使用の主張は理由がある。
5 よって,原告の本件請求はいずれも理由がないから,これを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田 中 俊 次
裁判官 高 松 宏 之
裁判官 西 森 み ゆ き
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