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平成16(ワ)3265民事訴訟 特許権

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成17年10月11日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
特許法102条2項1回
特許法103条1回
キーワード 特許権9回
無効6回
実施3回
侵害3回
無効審判3回
損害賠償2回
差止2回
刊行物1回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(ワ)第3265号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年7月11日
判    決
   原      告    佐原化学工業株式会社
  訴訟代理人弁護士    芹田幸子
  補佐人弁理士    河崎眞樹
  被      告    大東産業株式会社
訴訟代理人弁護士    田嶋好博
             木村文子
 訴訟代理人弁理士    山本文夫
主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙被告方法目録(原告案)記載の方法で,別紙被告製品目録記載
の製品を製造し,販売してはならない。
2 被告は,別紙被告方法目録(原告案)記載の方法によって製造した別紙被告
製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,別紙被告製品目録記載の製品の製造に供した金型機械を廃棄せよ。
4 被告は,原告に対し,6000万円及びこれに対する平成16年4月1日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,発明の名称を「炭酸飲料用ボトルの製造方法」とする後記特許権を
有する原告が,被告の用いる炭酸飲料用ボトルの製造方法は原告の有する同特許権
に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,同方法による被告
製品の製造・販売の差止等を求めるとともに,損害賠償(訴状送達の日の翌日以降
の民法所定の割合による遅延損害金請求を含む。)を請求している事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特
許」と,その請求項1の特許発明を「本件発明」と,本件発明の願書に添付した明
細書を「本件明細書」という。)を有している。
特許番号      第3409300号
発明の名称     炭酸飲料用ボトルの製造方法
出願日       平成11年3月3日
公開日       平成12年9月12日
登録日       平成15年3月20日
特許請求の範囲   別紙特許公報(甲2。以下「本件公報」という。)
該当欄記載のとおり
(2) 本件発明は,次の構成要件に分説することができる。
A 上端に形成された開口部から所定寸法の位置に狭窄部が形成され,その
狭窄部を介してボトル上部と下部とが相互に連通しているとともに,その狭窄部の
内面寸法は,ボトル上部内に収容されて当該ボトル内部の圧力により開口部を施栓
するための球状栓部材を落下させない方法で,かつ,その材質がポリエチレンテレ
フタレート(以下「PET」という。)である炭酸飲料用ボトルの製造方法であっ
て,
B 上記狭窄部の位置に対応して,金型本体部内部へと向けて前進・後退可
能な互いに対向する一対の移動金型を有するブロー成形金型を用い,
C その各移動金型を後退させた状態で,所要温度に加熱されたパリソンを
当該ブロー成形金型内で延伸ロッドにより延伸させた後,所定の圧力のもとにエア
を吹き込む1次ブロー工程と,
D その1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進させた状態で,1次ブロ
ー工程よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む2次ブロー工程を含むこと
E を特徴とする炭酸飲料用ボトルの製造方法。
(3) 被告の炭酸飲料用ボトルの製造方法は,本件発明の構成要件A,B及びE
を充足する。
 なお,構成要件C,Dに関して当事者双方の主張する被告の炭酸飲料用ボ
トルの製造方法(以下「被告方法」という。)は,それぞれ別紙被告方法目録(原
告案)及び同(被告案)の各該当欄記載のとおりである。ただし,被告方法が同
(被告案)の構成(C)の「延伸ロッド4により延伸開始から,0.05秒後に各
移動金型2を前進させる」及び構成(D)の「延伸ロッド4の上昇開始から,0.
10秒後に1次ブローを開始する」との構成を有することは,原告も認めるところ
であり,当事者間に争いがない。 
2 争点
(1) 被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか。
ア 被告方法は本件発明の構成要件Cを充足するか(被告方法における1次
ブロー工程は,延伸ロッドによりパリソンを「延伸させた後」に,「各移動金型を
後退させた状態で」なされるものであるか)。
イ 被告方法は本件発明の構成要件Dを充足するか(被告方法における2次
ブロー工程は,「1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進させた状態で,」「1
次ブロー工程よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む」ものであるか)。
(2) 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものであるか(予備的主
張)。
(3) 原告の損害
第3 争点に関する当事者の主張の概要
 1 争点(1)ア(構成要件C充足性)について
【原告の主張】
(1) 本件発明の構成要件Cにいう「パリソンを…延伸させた後,所定の圧力の
もとにエアを吹き込む1次ブロー工程」とは,1次ブロー工程が,パリソンを延伸
させた後に行われればよく,パリソンの延伸を完了させた後に行われることに限定
されるものではない。このことは,本件明細書の段落【0025】に「…延伸ロッ
ド81を挿入してパリソンを軸方向に延伸させるとともに,その内部に所定の圧力
のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程を行った後,…」と記載されていることか
らも裏付けられる。また,「課題を解決するための手段」【0011】【001
5】,「発明の実施の形態」【0026】,「発明の効果」の各欄にもその旨の記
載があり,このことを明確にしている。
(2) また,本件発明の構成要件Cにいう「その各移動金型を後退させた状態
で,…所定の圧力のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程」とは,1次ブロー工程
の開始時点において各移動金型を後退させた状態,すなわち,各移動金型が前進端
に到達していない状態にあれば足りるものであって, 特許請求の範囲にはい
つ移動金型を移動させるかについて規定していない。いつ移動金型の移動を開始さ
せるかは,製造上の問題,たとえばパリソンの温度等によって定められたり,ある
いは製造時の試運転時に金型機械の状態によって適宜定められるべき問題である。
したがって,本件発明においては,1次ブロー工程において各移動金型を隔離させ
ておく(後退させた状態におく)のはその開始時点においてであり,各移動金型が
隔離されているとは,要するに,各移動金型が前進端に到達していないことを意味
するのである。
(3) 被告は,別紙被告方法目録(被告案)記載のとおり,被告方法は「延
伸ロッド4により延伸開始から,0.05秒後に各移動金型2を前進させる。延伸
ロッド4が上端に達した時に」(C),「延伸ロッド4の上昇開始から,0.10
秒後に1次ブローを開始する」(D)との構成を有すると主張しているが,この点
は原告も認めるものであり,本件発明の構成要件Cの「その各移動金型を後退させ
た状態で,…パリソンを…延伸ロッドにより延伸させた後,…1次ブロー」を行う
ことは,上記被告方法の構成と完全に一致する。そして,原告及び被告立会いの下
で行った実験の結果,各移動金型が前進を開始してから前進端に到達するまでの所
要時間は,延伸ロッドが延伸を開始した時点(以下「基準点」という。)から0.
14ないし0.15秒であること,及び2次ブローの開始時点は,1次ブローの開
始から0.15秒後であることが確認された。
(4) したがって,被告方法では,1次ブローの開始時点において各移動金型が
前進端に到達していないから,被告の製造方法は,構成要件Cを充足する。
【被告の主張】
(1) 原告は,構成要件Cの1次ブロー工程がパリソンを延伸させた後に行
われればよく,延伸完了後でなくてもよいと主張する。
 しかしながら,特許請求の範囲の記載によれば,1次ブロー工程は「延伸
させた」「後」に行われるものであり「延伸を開始した後」でも「延伸の途中」で
もないことが明らかである。
    (2) また,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明は,「各移動金型を
後退させた状態で,…パリソンを…延伸ロッドにより延伸させた後,所定の圧力の
もとにエアを吹き込む1次ブロー工程」と「その1次ブロー工程後に各移動金型を
前進させた状態で,…2次ブロー工程」を含むものとされている。そして,本件明
細書の発明の詳細な説明によれば,「互いに接近・離隔可能な一対の移動金型を設
けて,延伸ロッドによる延伸工程および1次ブロー工程においては移動金型を離隔
させておくことにより…2次ブロー工程では移動金型を接近させ」(段落【001
1】),「ブロー成形に際しては,各移動金型6a,6bを後退(離隔)させたま
ま,…パリソンを軸方向に延伸させるとともに,その内部に所定の圧力のもとにエ
アを吹き込む1次ブロー工程を行った後,…各移動金型6a,6bを前進(接近)
させ,…2次ブロー工程を行う」(段落【0025】)としている。
 したがって,本件発明の1次ブロー工程は,各移動金型を後退させた状態
で,パリソンを延伸させた後に開始するものである。
 原告は,本件発明の構成要件Cの「その各移動金型を後退させた状態で,
…パリソンを…延伸ロッドにより延伸させた後,…1次ブロー」を行うことは,被
告方法の「延伸開始から,0.05秒後に各移動金型2を前進させ」,「0.10
秒後に1次ブローを開始する」ことと完全に一致すると主張するが,1次ブローの
際に各移動金型が後退している本件発明の方法と,1次ブローの際に各移動金型が
前進している被告方法とが完全に一致するはずがない。
 また,被告は,本件特許に対する無効審判請求事件の答弁書において「本
件特許発明では,…その移動金型を,本件特許発明の請求項1に記載の手順のもと
に延伸ロッド並びに1次および2次ブロー工程との関連において前進させる。この
ような本件発明の技術思想については,請求人が提示している甲第1~甲第5号証
のいずれにも全く記載がないばかりでなく,示唆さえされていない。」と述べて,
各移動金型の前進タイミングに本件発明の特徴があると強調しているのであるか
ら,この点を無視して上記結論を導くことは,禁反言の法理に反し失当である。
(3) 原告及び被告立会いの下で行った実験の結果,基準点から各移動金型の前
進開始までの平均時間は,0.0407秒,基準点から1次ブロー開始までの平均
時間は,0.1135秒であった。基準点から延伸ロッドが上端に達するまでの時
間は,0.10秒未満であり,延伸ロッドが上端に達した後に1次ブローが開始さ
れている。
したがって,少なくとも,被告方法における1次ブロー工程は,「各移動
金型を後退させた状態で」行われるものではない。
仮に,被告方法が原告主張のように各移動金型の前進完了前に1次ブロー
がスタートするものであったとしても,被告方法では各移動金型の前進の大部分が
1次ブロー開始に先行するのであり,「1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進
させ」との本件発明の請求項とは明確に相違し,その技術的範囲に属しない。
 よって,被告方法は,構成要件Cを充足しない。
2 争点(1)イ(構成要件D充足性)について
【原告の主張】
(1) 本件発明の構成要件Dにいう「1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進
させた状態で」とは,2次ブロー工程によるエアの吹き込み時点において各移動金
型を前進端に到達させた状態であることを意味する。
(2) 原告及び被告立会いの下で行った実験の結果,被告方法において各移動金
型が前進を開始してから前進端に到達するまでの所要時間は,基準点から0.14
ないし0.15秒であること,及び2次ブローの開始時点は,1次ブローの開始か
ら0.15秒後であることが確認された。
 被告方法においては,各移動金型の前進開始が基準点から0.05秒後
で,前進終了が基準点から0.14ないし0.15秒後であって,1次ブロー開始
が基準点から0.10秒後であり,2次ブローは1次ブローから0.15秒後に開
始することによれば,被告方法は,2次ブロー工程によるエアの吹き込み時点にお
いて各移動金型が前進した状態で行われるのである。
 したがって,各移動金型の前進するタイミングに関しては,被告方法は構
成要件Dを充足する。
  (3) また,上記実験の結果,2次ブロー圧は平均で1.55MPa,1次ブロ
ー圧は0.6475MPaであり,2次ブロー圧は1次ブロー圧の略2倍強である
ことが明らかとなった。
    被告は,圧力計の指示値に基づいて,2次ブロー圧は1次ブロー圧と同等
もしくはそれ以下であると主張する。しかし,圧力計の指示値はあくまでも設定値
にすぎず,1次ブロー圧設定用の圧力計の指示値は,当該圧力計が装着されている
部位における配管内の空気圧を示すものであり,1次ブロー時に成形体に実際に作
用する圧力を示すものではない。圧力計装着部位と,成形体近傍の配管内の圧力
は,これらの部位をつなぐ配管中に流量制御弁もしくは固定絞りを制限することで
容易に相違させることができる。また,被告が使用する成型機においては,1次ブ
ロー用の配管中に流量制御弁が設けられているのである。したがって,被告が1次
ブロー圧設定用の圧力計の指示値と,成形体に実際に作用する圧力とを相違させて
いることは明らかである。実際に,上記実験により,2次ブロー開始後に成形体に
実際に作用する圧力が,約0.035秒で設定圧力である約1.55MPaに到達
して定常状態となるのに対し,1次ブローにおいては,その開始後,0.15秒が
経過して終了するまでに同じ設定圧力である1.55MPaに到達せず,最大でも
約1.00MPaに止まっていることにより裏付けることができる。被告が主張す
る,被告側立会人の説明があったことは否認する。
なお,別紙被告方法目録(被告案)の構成(E)は,物理的に不可能なあ
り得ない構成である。 なぜなら,1次ブローは,パリソンをブロー金型内面
に極力接触させない程度に膨らませるものであり,その後に行われる高圧の2次ブ
ローは,中程度に膨らんだパリソンをブロー金型内面に強く圧着させ,完全に賦形
させるために行うのである。その結果,2次ブローの圧力が1次ブローの圧力と同
等又はそれ以下であると,いわゆるシャンペン底の賦形が鮮明とならず,また,ボ
トルの全高が約1㎜低くなってしまう。
また,半完成品のラムネボトルの内圧がP1のところに同等の圧力P2を
ブローしても[P1=P2]であれば,空気は半完成品のラムネボトルの中に入っ
て行くことはない。
被告は,半完成品のラムネボトルの内圧がP1のところにこれより圧力の
低いP2の2次ブローを吹き込む,とも主張している。しかし,[P1>P2]な
ら,ラムネボトルの内圧がP1のところにこれより圧力の低いP2の2次ブローを
ボトル内に吹き込むことは物理的に不可能であり,逆にラムネボトル内の空気は出
て行くのである。したがって,被告の主張する冷却効果を得ることは不可能であ
る。しかも,被告は「1次ブローを継続したまま2次ブローを行う。」とまで主張
しているが,これも物理的にあり得ない不可能な主張である。
(4) したがって,被告の製造方法は,構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
(1) 本件発明の構成要件Dは,「1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進さ
せた状態で,1次ブロー工程よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む2次ブロー工
程」としており,1次ブロー工程を終了させた後に各移動金型を前進させて同工程
よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む2次ブロー工程を開始するものである。こ
れに対し,原告は,2次ブロー開始と同時に1次ブローは終了するとみるべきであ
り,1次ブローエアの供給が継続しているか否かを問わないと主張するが,特許請
求の範囲の記載からして原告の同主張は失当である。
(2) 被告方法における構成(E)は,「延伸ロッド4を下降させ,1次ブロー
を継続したまま2次ブローを行う。2次ブローは延伸ロッド4の上昇開始から,
0.25秒後にスタートする。2次ブローのエア圧力は1次ブローのエア圧力を超
えないように設定されている」である。
 このように,被告方法は,1次ブローを継続したまま,これと同圧又はそ
れ以下の圧力のもとに2次ブローが行われるのであり,2次ブローの圧力が1次ブ
ローの圧力と同等又はそれ以下である点,及び1次ブローを継続したまま2次ブロ
ーが行われる点で,両者は明確に相違するものである。
(3) 原告及び被告立会いの下で行った実験の結果,1次ブロー圧は,1.6M
Pa,2次ブロー圧は1.57MPaないし1.6MPaであった。
原告は,1次ブロー圧を流量制御弁等で設定圧よりも落としていると主張
しているが,被告側の立会人は,原告側立会人に流量制御弁が全開であること,及
び1次ブロー用配管系統中にその他の絞り弁等が存在しないことを説明して,原告
側も確認済みである。
実際に成形体に作用する圧力を測定するべきであるとする原告の主張は,
本件明細書の請求項の記載との関係において失当である。同明細書の請求項には
「所定の圧力のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程と,その1次ブロー工程後に
上記各移動金型を前進させた状態で,1次ブロー工程よりも高い圧力のもとにエア
を吹き込む2次ブロー工程」と記載されているが,「所定」とは「定めてあるこ
と」を意味するから,設定圧を意味すると解すべきであり,本件発明のクレームも
1次ブローの設定圧よりも2次ブローの設定圧を高くした工程を意味すると解すべ
きである。
(4) したがって,被告方法は構成要件Dを充足しない。
 3 争点(2)(本件特許の無効事由の存否)について
【被告の主張】
 本件発明は,その出願前に頒布されていた乙第2号証ないし乙第9号証の刊
行物に記載された公然知られた発明に基づいて,当業者が容易に発明できたもので
あり(特許法29条2項),明らかな無効理由がある。
【原告の主張】
 争う。
 4 争点(3)(原告の損害)について
【原告の主張】
被告は,業として被告方法により被告製品を製造販売をすることが原告の有
する本件特許権を侵害する違法な行為であることを知りながら,これを行ったもの
である。少なくとも,特許法103条により,被告の過失は推定される。
 被告は,平成13年4月以降,現在までの間に,被告方法により被告製品を
少なくとも600万本製造販売し,その間の売上高は合計2億1000万円を下ら
ない。そして,被告が被告製品を製造販売することにより,その間に被告の得た利
益は,少なくとも6000万円を下らない(年間利益は2000万円)。
 したがって,原告は,本件特許権の設定登録日(平成15年3月20日)以
降現在までに,被告による本件特許権の侵害行為により,少なくとも2000万円
の損害を被ったものと推定でき(特許法102条2項),被告に対し,民法709
条及び特許法102条2項に基づき2000万円の損害賠償請求権を有するもので
ある。
【被告の主張】
 争う。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)ア(構成要件C充足性)及びイ(構成要件D充足性)について
(1) まず,被告方法が本件発明の構成要件Cの「延伸ロッドにより延伸させた
後」の点を充足するか否かについて検討する。原告及び被告立会いの下で行った実
験における被告測定結果(乙28)では,基準点から各移動金型の前進開始までの
平均時間は,0.0407秒,基準点から1次ブロー開始までの平均時間は,0.
1135秒であった。そして,基準点から延伸ロッドが上端に達するまでの時間
は,0.10秒未満であって,延伸ロッドが上端に達した後に1次ブローが開始さ
れることになるから, 別紙被告方法目録(被告案)の構成(C)及び(D)
にあるとおり,被告方法において延伸ロッドによる延伸開始後に1次ブローが開始
することになる。したがって,原告及び被告のいずれの解釈によっても,被告方法
は本要件を充足する。
(2) 次に,本件発明の構成要件Cの「各移動金型を後退させた状態」の意義,
構成要件Dの「各移動金型を前進させた状態」の意義及びこれらの状態と1次ブロ
ー工程及び2次ブロー工程の時期との関係について検討する。
 この点について,まず特許請求の範囲の記載を検討すると,構成要件Bに
おいて,「上記狭窄部の位置に対応して金型本体部内部へと向けて前進・後退可能
な互いに対向する一対の移動金型」とあることからして,構成要件Cの「各移動金
型を後退させた状態」とは各移動金型が金型本体内部から遠い位置にある状態,構
成要件Dの「各移動金型を前進させた状態」とは各移動金型が金型本体内部から近
い位置にある状態を意味するという程度のことは理解できるが,それ以上の具体的
な意味は,これらの文言のみからは明らかでない。
 そして,構成要件Cにおいて,「各移動金型を後退させた状態で,…所定
の圧力のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程」とあることから,1次ブロー工程
は各移動金型を「後退させた状態」で行われるものと理解することができ,また,
構成要件Dにおいて,「1次ブロー工程後に上記各移動金型を前進させた状態で,
1次ブロー工程よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む2次ブロー工程」とあるこ
とから,各移動金型が「1次ブロー工程後」に「前進した状態」となり,その状態
で2次ブロー工程が行われるものと理解することができるが,「後退させた状態」
及び「前進した状態」の意義が上記のとおり明らかでないため,やはり文言のみか
らはこれらの構成要件の意義も明らかでない。
(3) そこで,本件明細書の記載を参酌して,これらの意義を検討する。
ア 本件公報(甲2)によれば,本件明細書に以下の記載があることが認め
られる。
(ア) 「発明の属する技術分野」の項
 本発明は炭酸飲料用ボトルの製造方法に関し,更に詳しくは,施栓の
ための部材としてボトル内部に収容されるガラス玉等の球状栓部材を用いる,いわ
ゆるラムネ用ボトルの製造方法に関する。(段落【0001】)
(イ) 「従来の技術」の項
a 炭酸飲料用のうち,ラムネと称されるものについては,旧来より独
特の構造のボトルが用いられることが多い。そのボトル構造は,ボトル上部と下部
とが狭窄部を介して連通し,ボトル上部内にはガラス玉からなる球状の栓部材が収
容されるとともに,その栓部材のボトル下部への落下を狭窄部によって阻止する構
造となっている。(段落【0002】)
b 以上のような構造を持つラムネ用のボトルは,従来,ガラス製のも
のが用いられていたが,コストや取扱い等の点から,近年は主として塩化ビニル樹
脂製のものが用いられている。塩化ビニル樹脂により上記のような狭窄部を有する
ラムネ用のボトルを成形する方法としては,通常,ダイレクトブロー成形法が採用
されている。(段落【0003】)
(ウ) 「発明が解決しようとする課題」の項
a ところで,塩化ビニル樹脂は安価で強度面などで優れた性質を示す
が,焼却すると塩化水素ガスを発生するため,廃棄物となったときの処理や処分が
問題となる。そのため,最近においては,塩化ビニル樹脂は飲料水用のボトル等の
用途には次第に使われなくなってきており,このような用途にはポリエチレンテレ
フタレート(PET)樹脂が多用されている。(段落【0004】)
b しかしながら,ボトル上部と下部との間に狭窄部を有するラムネ用
のボトルについては,従来技術ではPETによって成形することができない。すな
わち,PET樹脂は,その可塑状態に加熱した状態での強度をはじめとする材料上
の特性に起因して,ボトル状に成形する際にダイレクトブロー成形法を採用すると
割れてしまうため,一般に2軸延伸ブロー成形法が採用される。ここで,2軸延伸
ブロー成形法においては,成形品の形状や寸法,あるいは肉厚等に応じてパリソン
の形状および寸法が最適に設定されるのであるが,ラムネ用のボトルのようにボト
ルの中間部分に狭窄部を有する場合,その狭窄部の寸法がパリソンの外径寸法より
も小さい場合には,パリソンが成形前に金型の狭窄部に対応する部分により押しつ
ぶされるため,実質的に成形不能となる。ここで,内容量が200~250cc程
度の通常に市販されているラムネ用ボトルを成形する場合,そのパリソンの外径寸
法は,概ね25mm弱程度とされ,ラムネ用ボトルに使用されるガラス玉等の球状
栓部材の外径寸法は一般に16.5mm程度であるため,ボトルの狭窄部の内径寸
法はそれ以下とする必要がある。従って,2軸延伸ブロー成形法を用いてPETで
ラムネ用ボトルを成形することはできない。(段落【0005】)
c そこで,パリソンの外径寸法を狭窄部の寸法よりも小さくすること
が考えられるが,その場合,パリソンの肉厚は最適なブロー成形を行うためにはさ
ほど変更することはできずに制約がある関係上,所要の樹脂量を確保するためには
パリソン長さを長くせざるを得ないことになる。パリソン長さを長くすると,延伸
ロッドによりパリソンを延伸する際の伸び率が小さくなり,所要の強度を得ること
ができず,結局,このような対策によってもPET樹脂を用いてラムネ用ボトルを
成形することはできない。(段落【0006】)
d 以上のことから,従来,樹脂製のラムネ用ボトルは,ボトル中間に
狭窄部を有してなる伝統的な構造を有する塩化ビニル樹脂製のものか,あるいは,
塩化ビニル樹脂が忌避される場合には,その材質をPETとし,ラムネ用ボトルと
してガラス玉等の球状栓部材を用いるものの,その底部への落下を阻止するための
狭窄部を持たない構造のボトルが用いられている。しかし,狭窄部を有さないボト
ルとガラス玉等の球状栓部材との組み合わせは,ボトル内に内容物を収容した後に
施栓のために球状栓部材を上端開口部にまで移動させるべくボトルを倒立させる
際,球状栓部材がボトル底面から開口部にまで移動するのに要する時間が,それが
狭窄部に位置している伝統的な構造のものに比して長くなる分だけ,内容物の流出
が多くなるという問題がある。(段落【0007】)
e 本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので,塩化ビニル樹脂
を用いずに狭窄部を有する伝統的なラムネ用ボトルと同等の構造を持つ炭酸飲料用
ボトルを安定して得ることのできる製造方法の提供を目的としている。(段落【0
008】)
(エ) 「課題を解決するための手段」の項
a 本発明方法においては,2軸延伸ブロー成形法によって狭窄部を有
するボトルの成形を可能とすべく,狭窄部に対応する位置に互いに対向して金型本
体内部に向けて前進・後退可能な,つまり互いに接近・離隔可能な一対の移動金型
を設けて,延伸ロッドによる延伸工程および1次ブロー工程においては移動金型を
離隔させておくことにより,得ようとするボトルの成形に最適な形状・寸法のパリ
ソンを用いても金型によって押しつぶされることを防止するとともに,その軸方向
への延伸率を最適化することを可能としている。そして,2次ブロー工程では移動
金型を接近させ,1次ブロー工程よりも高いブロー圧力を用いることにより,所要
寸法の狭窄部を得る。(段落【0011】)
b このような製造方法の採用により,ボトルの高さ方向並びに直径方
向への伸び率をいずれも2以上として,なおかつ,ラムネ用ボトルとして常用され
ている内容量200~250cc程度,直径16.5mm程度の球状栓部材を落下
させない狭窄部を有するボトルをPET樹脂により製造することが可能となる。
(段落【0012】)
(オ) 「発明の実施の形態」の項
 ブロー成形に際しては,各移動金型6a,6bを後退(離隔)させた
まま,パリソンの開口部11から延伸ロッド81を挿入してパリソンを軸方向に延
伸させるとともに,その内部に所定の圧力のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程
を行った後,各斜面カム73a,73bを下降指せる(「下降させる」の誤記と認
められる。)ことにより各移動金型6a,6bを前進(接近)させ,その状態でよ
り高圧のエアを吹き込む2次ブロー工程を行う。このような工程の採用により,ボ
トル本体1の狭窄部14における最小寸法Wがパリソンの外径Dよりも小さくて
も,成形に支障を来すことなく,再現性よく良質な成形品を得ることができる。
(段落【0025】)
(カ) 「発明の効果」の項
 以上のように,本発明によれば,2軸延伸ブロー成形法における金型
本体に互いに接近・離隔する向きに移動可能な移動金型を設け,その移動金型を離
隔させた状態で延伸ロッドによりパリソンを軸方向に延伸させるとともにエアを吹
き込んで1次ブローを行い,その後,移動金型を接近させてエアを吹き込んで2次
ブローを行うという成形方法により,ボトルの中間部に球状栓部材を通過させない
狭窄部を有した構造のいわゆるラムネ用のボトルを,ポリエチレンテレフタレート
樹脂によって成形することが可能となった。(段落【0030】)
イ また,証拠(乙22)によれば,原告は,本件特許の無効審判手続の審
判事件答弁書において,「本件特許発明は,ボトルの上部と下部とが球状栓部材を
通過させない狭窄部を介して連通した,いわゆるラムネ用のボトルをポリエチレン
テレフタレート樹脂を用いた2軸延伸ブロー成形法により製造するに当たり,要求
されるボトルの形状や寸法,肉厚,更には延伸ロッドによる延伸率などを勘案して
パリソンないしはプリフォームの形状および寸法を最適なものとしたとき,その外
形寸法が,ボトル上部と下部との間に形成すべき狭窄部の寸法よりも大きくなって
しまい,通常の2軸延伸ブロー成型法ではパリソンないしはプリフォームとブロー
成形用金型とが干渉してこれを採用できず,そのためにポリエチレンテレフタレー
ト製のラムネ用ボトルが実現されていないという事実に鑑み,これを実現すること
を課題としている。この課題を解決するために,本件特許発明では,最適な形状・
寸法のパリソンないしはプリフォームを用いながらも,狭窄部に対応する位置に一
対の移動金型を設けてパリソンないしはプリフォームとの干渉を回避し,その移動
金型を,本件特許発明の請求項1に記載の手順のもとに延伸ロッド並びに1次およ
び2次ブロー工程との関連において前進させる。」と主張していたことが認められ
る。
ウ 上記のような本件明細書の記載(特に【0011】)及び審判事件答弁
書の記載からすると,本件発明は,ラムネ用のボトルをPET樹脂で製造する場
合,その材料上の特性から一般に2軸延伸ブロー成形法が採用されるが,ラムネ用
のボトルはボトル上部と下部との間に狭窄部を有しており,その狭窄部の寸法が最
適のパリソンの外径寸法よりも小さいことから,前記成型法による場合には,パリ
ソンが成形前に金型の狭窄部に対応する部分により押しつぶされるため,実質的に
成形不能となるという問題を解決するためになされたもので,2軸延伸ブロー成形
法によって狭窄部を有するボトルの成形を可能とするために,狭窄部に対応する位
置に互いに対向して互いに接近・離隔可能な一対の移動金型を設けた上で,①延伸
ロッドによる延伸工程及び1次ブロー工程においては各移動金型を離隔させておく
ことにより,各移動金型とパリソンとの干渉を回避し,得ようとするボトルの成形
に最適な形状・寸法のパリソンを用いても金型によって押しつぶされることを防止
するとともに,その軸方向への延伸率を最適化することを可能とし,②2次ブロー
工程では各移動金型を接近させ,1次ブロー工程よりも高いブロー圧力を用いるこ
とにより,所要寸法の狭窄部を得るようにしたものであると認められる。
 本件発明のこのような技術的意義からすると,構成要件Cにおける「各
移動金型を後退させた状態」とは,ボトルの狭窄部を成形するための各移動金型が
パリソンよりも外側に離隔され,両者が互いに干渉することを回避する状態となっ
ていることを意味し,構成要件Dにおける「各移動金型を前進させた状態」とは,
ボトルの狭窄部を成形するための各移動金型が所定寸法どおりの狭窄部を得るため
に前進端まで到達した状態を意味するものと解するのが相当である。
 そして,構成要件Cは,延伸ロッドによる延伸工程と1次ブロー工程
が,各移動金型とパリソンとの干渉が生じない状態で行われ(したがってこの段階
ではボトルの狭窄部は成形されない),これによってパリソンが狭窄部を成形する
金型によって押しつぶされることを防止する効果を有するものであり,構成要件D
は,1次ブロー工程の終了後に各移動金型が所定寸法どおりの狭窄部を得るために
前進端まで到達し,その状態下で2次ブロー工程が行われて所定寸法の狭窄部が成
形されることを意味するものであると解される。
 このような理解からすると,確かに各移動金型が後退端の位置から前進
を開始する時期は,原告が主張するように1次ブロー工程中であっても差し支えな
いが,各移動金型が前進端に到達すること(より厳密には,各移動金型がパリソン
の外径より内部まで前進し,両者の干渉が生じること)は1次ブロー工程中にあっ
てはならず,各移動金型の前進端への到達は1次ブロー工程の終了後・2次ブロー
工程の開始前でなければならないと解するのが相当である。
 これに対し原告は,1次ブロー工程完了前に各移動金型が前進を完了し
た場合でも,その上で2次ブロー工程が開始されれば,構成要件Dの「その1次ブ
ロー工程後に上記各移動金型を前進させた状態で,1次ブロー工程よりも高い圧力
の下にエアを吹き込む2次ブロー工程」に該当すると主張する。しかしまず,構成
要件Dのこの文言は,「各移動金型を前進させた状態」が「1次ブロー工程後」に
生じると明記しているところ,「工程」とは,通常,生産過程を多くの段階に分け
て分業を行う際の,それぞれの加工段階をいう(「広辞苑」第5版)から,「1次
ブロー工程後」とは,1次ブロー工程の終了後のことであると理解するのが自然で
ある。また,前記認定に係る本件明細書の記載(特に【0011】)からすると,
前記のとおり,本件発明においては,1次ブロー工程と2次ブロー工程は役割が異
なり,ボトルの狭窄部は2次ブロー工程によって成形するものとされており,1次
ブロー工程の段階では成形されないものとされていると解されるから,1次ブロー
工程の完了前に各移動金型が前進を完了した場合には,構成要件C及びDを充足し
ないことになるというべきである。
(4) 被告方法の内容
ア そこで,被告方法の内容を検討すると,別紙被告方法目録(被告案)の
うち,構成(C)の「延伸ロッド4により延伸開始から,0.05秒後に各移動金
型2を前進させる」こと,及び構成(D)の「延伸ロッド4の上昇開始から,0.
10秒後に1次ブローを開始する」ことは当事者間に争いがない(第2,1(3))。
 そして,被告の主張(別紙被告方法目録(被告案))によれば,「延伸
ロッド4が上端に達した時には各移動金型2の前進は完了している。各移動金型2
の先端は延伸されたパリソンPに接する。延伸ロッド4の上昇開始から0.10秒
後に1次ブローを開始する。1次ブローの開始時には各移動金型2の前進は既に完
了し,延伸されたパリソンPは各移動金型2に沿った形状に1次ブローされる。」
(構成(C)(D))というのであるから,これによれば,1次ブローの段階で既
に各移動金型とパリソンが干渉し,ボトルの狭窄部が成形されることになるから,
被告方法は構成要件C及びDを充足しないことになる。
 他方,原告は,被告方法の具体的内容について,各移動金型の前進開始
が基準点から0.05秒後,各移動金型の前進終了が基準点から0.14ないし
0.15秒後であって,1次ブロー開始が基準点から0.10秒後,2次ブローは
1次ブローから0.15秒後に開始するから,被告方法は,2次ブロー工程による
エアの吹き込み時点において各移動金型が前進した状態で行われると主張する。こ
の原告の主張に基づくと,被告方法においては,1次ブロー工程の完了前に各移動
金型の前進が終了することになるから,上記(3)ウの説示に照らし,別紙被告方法目
録(原告案)のc及びdの構成を具備せず,本件発明の構成要件C及びDを充足し
ないというべきである。
イ 以上によれば,原告及び被告のいずれの主張によっても,被告方法は本
件発明の構成要件C及びDを充足しないが,なお事案に鑑み,被告方法における各
移動金型の前進完了時点と1次ブロー工程終了・2次ブロー開始時点との関係につ
いて,原告及び被告立会いの下で行った実験の結果に基づいて検討する。
(ア) 原告及び被告立会いの下で行った実験の結果は,証拠(甲65の1
及び2)によれば以下のとおりと認められる。
a 原告及び被告は,被告社屋内において,当事者双方の立会いの下
で,被告の使用する成形機を用いて実際にラムネボトルを製造した。
 まず,当該成形機に予めセットしてあったセンサと,キーエンス社
製のブロー成型機の検査機及び圧力センサを用いて,基準点(ここでは,延伸ロッ
ドの固定部材が上昇端に到達した時点として設定する。)から各移動金型の前進開
始までの時間,基準点から1次ブロー開始(圧力センサの出力が0.8MPaに達
した時点として設定する。)までの時間,基準点から延伸ロッドが上端に達するま
での時間を測定し,次に圧力計を交換して1次ブロー圧と2次ブロー圧を測定し
た。
 次に,キーエンス社製のブロー成型機の検査機と圧力センサをエア
配管中,被成形体に連通し,かつエアの吹き込み側のエア通路上の位置に取り付
け,その圧力センサの出力を成形機の検査機に0.005秒の間隔で取り込んで1
次ブロー圧と2次ブロー圧を測定し,甲第65号証の1の添付グラフ2-1ないし
31(グラフ2-31は,グラフ2-1ないし30の平均)にまとめた。
 次に,圧力センサを,油圧配管中,移動金型駆動用シリンダに連通
する位置で,かつ,各移動金型の前進時に作動油が流入する油圧通路上の位置に取
り付け,その圧力センサの出力を成形機の検査機に0.005秒の間隔で取り込
み,甲第65号証の1の添付グラフ3-1ないし7(グラフ3-7は,グラフ3-
1ないし6の平均)にまとめた。
b 同グラフ2-31によれば,ブロー圧は,グラフ原点から0.03
秒ないし0.04秒付近で急激に上昇した後,いったん上昇傾向が緩和するが,再
び0.18秒ないし0.19秒付近で急激に上昇した後に1.55MPa付近で定
常状態に入っているから,前者の急上昇時点が1次ブローの開始時,後者の急上昇
時点が2次ブローの開始時であると考えられる。この点については原告も,甲第6
5号証の1において同様の考察を行っているところである。
c 原告は,この考察を前提に,同グラフ3-7に基づいて,被告の実
施方法においては,1次ブローの開始時には,各移動金型は前進端に到達しておら
ず,2次ブローの開始時には,移動を終了している旨主張しており,その根拠は,
原告代理人作成の実験報告書(甲65の1)によれば,上記作動油の圧力は,「一
般に,ピストンを前進させるべく作動油がシリンダ内に流入を開始してから,ピス
トンが移動してその前進端に達するまでの間においては,作動油のシリンダ内への
流入により次第に増大するものの,ピストンが移動しているが故に設定圧よりも低
い圧力であって,かつ,安定せずに変動を続け,ピストンが前進端に到達すること
によって変動が収まり,その後,圧力は滑らかに上昇する」という点にあるようで
ある。そして,この考え方に基づいて,原告は,グラフ3-7において,グラフ原
点から0.08秒ないし0.09秒付近にある傾斜の緩やかな部分が,各移動金型
が前進端に到達した時点であると主張している。
 しかし,弁論の全趣旨によれば,移動金型の作動油圧は,各移動金
型が前進端に到達して移動を停止し,各移動金型を駆動させているピストンも停止
するのであるから,その時点において,サージ圧力(乙30参照)が発生し,その
後低くなるものであると認められるから,上記グラフ3-7における0.03秒の
時点で,各移動金型が前進端に到達したと認めることができる。そうすると,原告
の測定結果における2次ブロー工程の開始(すなわち1次ブロー工程の終了)はグ
ラフ2-31における原点から0.18秒ないし0.19秒の時点であるから,原
告の測定結果によっても,各移動金型は,1次ブロー工程が終了する前にその前進
端に到達していると認められ,構成要件C及びDを充足しないことになる。
(イ) なお,被告は,前記実験後にキーエンス社の担当者の協力
を得て単独で行った実験の結果として,被告が1次ブロー用配管に取り付けた圧力
センサを用いて測定した被告方法における1次ブロー圧力の測定結果(被告準備書
面(10)添付のグラフ)を提出している。
 同測定結果をみると,同測定結果の基点から0.025秒付近まで圧
力が高くなっており,同測定においては,通常の成形とは異なり,1次ブロー圧を
加えるより前にパリソンにいったん高い圧力が加えられたことが認められる。そう
すると,パリソンは1次ブローのエアが吹き込まれる前にある程度膨張していたも
のと推認される。
 そして,同測定結果によれば,1次ブロー圧が同測定結果の基点から
0.07ないし0.075秒付近から加わり始め,0.095秒付近でピークに達
しており,その後も継続してブロー圧が加わっていることが認められる。このよう
に1次ブロー圧がピークに達したのは,金型が移動を終了し,膨張していたパリソ
ンに金型が押し込まれたことを示すものと推認されるから,同グラフによれば,1
次ブロー開始から0.02ないし0.025秒後には,金型の移動が完了していた
と認められる(なお,この測定は1次ブロー配管に設けられたセンサーにより行わ
れているので,1次ブロー圧が観測されてから実際にパリソンにブロー圧が加わる
のと,膨張したパリソンが金型に押し込まれて発生した圧がセンサーに伝わるの
に,それぞれ多少の時間がかかるのであるから,金型の移動完了時期はさらに前で
あったということができる。)。
 そうすると,前記認定のとおり,2次ブローの開始時点は,甲第65
号証の1添付のグラフ2-31によれば,1次ブロー開始後,約0.15秒後に2
次ブローが開始していることが認められるから,1次ブロー開始後,同ブローによ
る圧力が継続してかかっている間に各移動金型の前進が完了し,その後,2次ブロ
ーが開始することが認められることになるので,被告の単独実験の結果によって
も,構成要件C及びDを充足しない。
(5) なお,原告は,原告及び被告立会いの下での実験を行うまでは,被告方法
では,満足なラムネボトルを製造することはできない旨主張していた。しかし,上
記実験において,特に商品化できないほどの瑕疵のあるラムネボトルが製造されて
いると認めることはできない(甲65の1及び2,乙28,検乙9ないし11参
照)。
そして,証拠(検甲1,検乙9ないし11)及び弁論の全趣旨によれば,
被告は,遅くとも本件特許権の設定登録日(平成15年3月20日)以降現在ま
で,被告製品の製造方法を変更したことはないものと認められる。
 2 以上によれば,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属しない。
 したがって,その余の争点について検討するまでもなく,原告の請求は理由
がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
  大阪地方裁判所第21民事部
   裁判長裁判官    田  中  俊   次
           裁判官      髙  松  宏   之
裁判官      西  森  み ゆ き
(別紙①)
被告方法目録(原告案)
  
a 上端に形成された開口部11から所定寸法の位置に狭窄部14が形成され,
その狭窄部14を介してボトル上部1aと下部1bとが相互に連通しているととも
に,その狭窄部14の内面寸法は,ボトル上部1a内に収容されて当該ボトル内部
の圧力により開口部11を施栓するための球状栓部材を落下させない寸法で,か
つ,その材質がポリエチレンテレフタレートである炭酸飲料用ボトルの製造方法で
あること。
b 上記狭窄部14の位置に対応して金型本体5(5a,5b,5c)部内部へ
と向けて前進・後退可能な互いに対向する一対の移動金型(6a,6b)を有する
ブロー成形金型を用いていること。
c その各移動金型(6a,6b)を後退させた状態で,所要温度に加熱された
パリソン(第4図に示す物体)を当該ブロー成形金型内で延伸ロッド81により延
伸させた後,所定の圧力のもとにエアを吹き込む1次ブロー工程があること。
d その1次ブロー工程後に上記各移動金型(6a,6b)を前進させた状態
で,1次ブロー工程よりも高い圧力のもとにエアを吹き込む2次ブロー工程を含む
こと。
e を特徴とする炭酸飲料用ボトルの製造方法。
第1図は,被告製品の正面図,第2図は被告製品の側面図,第3図は被告方法に
使用するブロー成形金型の構造を示す縦断面図,第4図は被告製品を作る前のパリ
ソンの部分断面図である。
                                     
                 以 上
(別紙②)
被告製品目録
  別紙被告方法目録(原告案)記載の方法により製造された炭酸飲料用ボトル。
                 
                                     
                 以 上
(別紙③)
被告方法目録(被告案)
(A)上端に形成された開口部5から所定寸法の位置に狭窄部6が形成され,その
狭窄部6を介してボトル上部と下部とが相互に連通しているとともに,その狭窄部
6の内面寸法は,ボトル上部内に収容されて当該ボトル内部の圧力により開口部を
施栓するため球状栓部材を落下させない寸法で,かつその材質がポリエチレンテレ
フタレートであるラムネ用飲料用ボトルの製造方法である。
(B)上部狭窄部6の位置に対応して金型本体部内部へと向けて前進・後退可能な
互いに対向する一対の移動金型2を有するブロー成形金型1を用いている。
(C)所要温度に加熱されたパリソンPを当該ブロー成形金型1内にセットし,延
伸ロッド4により延伸開始から,0.05秒後に各移動金型2を前進させる。
延伸ロッド4が上端に達した時には移動金型2の前進は完了している。移動
金型2の先端は延伸されたパリソンPに接する。
(D)延伸ロッド4の上昇開始から,0.10秒後に1次ブローを開始する。1次
ブローの開始時には移動金型2の前進は既に完了し,延伸されたパリソンPは移動
金型2に沿った形状に1次ブローされる。
(E)延伸ロッド4を下降させ,1次ブローを継続したまま2次ブローを行う。2
次ブローは延伸ロッド4の上昇開始から,0.25秒後にスタートする。2次ブロ
ーのエア圧力は1次ブローのエア圧力を超えないように設定されている。
(F)金型本体1を開き成形されたラムネ瓶を取り出す。
(G)以上を特徴とするラムネ瓶の製造方法である。
 尚。部材番号は被告製品図,被告パリソン図,被告金型図の通り。
                                     
                 以 上

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