平成16(ネ)3137特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
大阪高等裁判所
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裁判年月日 |
平成17年2月24日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法36条5項1回
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キーワード |
特許権8回 実施3回 侵害2回 差止2回 損害賠償1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成16年(ネ)第3137号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成15年(ワ)第10882号)
判 決
控訴人(1審原告) 株式会社日新
訴訟代理人弁護士 藤本徹
同 近藤幸夫
訴訟代理人弁理士 東尾正博
同 鳥居和久
同 田川孝由
同 北川政徳
被控訴人(1審被告) 株式会社ジャストコーポレーション
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
補佐人弁理士 平崎彦治
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録(1)記載の物件を製造し、販売し、又は販売
の申し出をしてはならない。
3 被控訴人は、その占有に係る原判決別紙物件目録(1)記載の物件を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、2100万円及びこれに対する平成15年10
月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
5 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」といい、引用に係る原判決中に
「別紙」とあるのを、いずれも「原判決別紙」と読み替える。)
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「ケース」とする後記(前提となる事実(2)ア)の特許
権を有する原告が、被告による後記被告製品の製造販売等が上記特許権の明細書の
【特許請求の範囲】請求項4記載の発明(以下「本件発明」という。)に係る特許
権を侵害すると主張して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
原審は、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないとして、原告の請求を
いずれも棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 前提となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加等
するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1及び2に記載の
とおりであるから、これを引用する。
(1) 2頁16行目冒頭の「(2)」を「(2)ア」と、同17行目から18行目にか
けての「といい、その特許請求の範囲の請求項4記載の発明を「本件発明」とい
う」までを「という」と、同末行冒頭から3頁1行目末尾までを次のとおり、各改
める。
「イ 本件発明(別紙特許公報の【特許請求の範囲】請求項4)の構成要件
は、以下のとおり分説される。」
(2) 5頁8行目の「用いる。」の次に「また、原告は、当審において、原判決
別紙物件目録(1)の添付図面における「係止部28」に係る指示部分を、本判決添付
図面の朱記部分等のとおり変更するとともに、上記「係止部28」相当部分の上面
の一部を、新たに同朱記部分のとおり「壁面28A」と指示した上、それを前提と
する付加主張をしているが、その点については、後記(7)〔原告の主張〕の箇所で後
述する。」を加える。
(3) 17頁7行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「(7) 当審における当事者の付加主張
〔原告の主張〕
ア 本件発明の構成要件Cにいう「係止手段を設けた」「上記スライダ
と上記ケース或いは係合溝」の「面」は、被告製品でいうと、ロック板10におけ
るガイド端部背面14と、蓋2の壁面112に平行な「壁面28A」(本判決添付
図面の朱記部分参照)がそれに当たる。
すなわち、被告製品におけるケース側の「係止部28」は、蓋2の
壁面112に平行な「壁面28A」の上面に上方に突き出して形成された部分(こ
の部分に、ロック板10のロックツメ18が係止されるようになっている。本判決
添付図面の朱記部分参照)であるところ、これは、ロック板10におけるガイド端
部背面14と対向する「壁面28A」に設けられているのであるから、被告製品
は、この点でも本件発明の構成要件を充足している。
イ 後記被告の主張ア、イは争う。
〔被告の主張〕
ア 本件特許権の明細書には、「店側の解除具によってスライダとケー
スとの係止手段の係合関係を解除して、引き抜いたスライダを店側に残すため、ケ
ースを販売或いは貸出しケースとして使用することができる。」【0056】と記
載されており、「スライダ」と「ケース」に加え、店側の「解除具」によっても作
用効果を得られるとされているから、上記「解除具」は、本件発明の作用効果を生
ずるために必須の構成要素であるにもかかわらず、請求項4には何ら記載されてい
ないから、本件発明は、特許請求の範囲記載の構成によっては、発明の効果を生じ
ることのできない発明未完成あるいは記載不備のものである。
なお、このような場合に、発明の詳細な説明に記載されているにす
ぎない「解除具」に係る事項を考慮して判断することは、特許請求の範囲に何ら記
載のない必須の構成要件を付加して解釈することにほかならず、特許請求の範囲の
解釈として許されない。
イ 本件発明にいう「箱体」及び「蓋体」は、商品の収納部分を構成す
る側壁に加え、それに垂直な4面の周壁の合計5面で構成される箱型形状を有する
ものと解すべきである。
この点は、「箱体」及び「蓋体」なる用語の通常の意味もそうであ
るし、本件特許権の明細書の「上記の箱体2は、図示の場合側壁5と、この側壁5
の各辺縁から連なって側壁5の裏面側に突出する周壁6とで構成され、蓋体4は、
図示の場合側壁7と、この側壁7の下辺以外の辺縁から連なって側壁7の裏面方向
に突出すると共に、周壁8とで構成され」【0013】なる記載及び同明細書中に
はこれらの形状に関してそれ以外の記載がないことからも明らかというべきであ
る。
なお、被告製品において「蓋体」に相当する蓋2側に設けられたリ
ブ116は、ケースの強度を維持するためのものであって、商品の収納部分を画す
るためのものではないし、「箱体」に相当する本体1側に至っては、リブ116と
組み合わされるべき部材すら存在しない。
ウ 原告の主張アは争う。
原告は、被告製品のうち、その主張するところの「壁面28A」が
本件発明の構成要件Cの「係止手段を設けた」「面」に該当する旨主張するもので
あるが、同主張は、「壁面28A」という「係止手段に存在する面」をもって、
「係止手段が設けられた面」であると主張するものであって、失当である。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さず、原告の請求はいず
れも棄却されるべきものと判断する。
その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の
「第3 当裁判所の判断」1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 20頁16行目の「壁面120」の次に「並びにガイド片108aイ、1
08bイ」を加える。
(2) 21頁6行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、この点に関して、被告は、本件発明にいう「箱体」及び「蓋体」
は、その側壁の四周に周壁を有するものに限られるとも主張している。
しかしながら、「箱体」及び「蓋体」には、上記周壁のうち一つでも欠
けるものを含まないと解することが通常の用語の意味といえるかは疑問である上、
原告が指摘する本件特許権の明細書の記載にしても、一実施例に関する記載にすぎ
ないことが明らかであるし、また、本件発明にいう「箱体」及び「蓋体」の上縁
部、換言すれば、「箱体」及び「蓋体」の「側壁の上縁」は、当該「側壁」部分と
これに連なって設けられる「屈曲壁」とを画する部分であるところ、これを画する
必要があるのは、「屈曲壁」にはスライダが挿入されるものとされていることか
ら、その部分が商品収納部分と重なってはならない点にあると解され、そのために
は、当該部分に必ず周壁が存在するまでの必要性はないと考えられることからし
て、この点に関する被告の主張も、にわかに採用することができない。」
(3) 24頁18行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 被告は、以上のような理解をすることは、特許請求の範囲に何ら記載の
ない必須の構成要件を新たに付加することにほかならず、許されないとも主張して
いる。
しかしながら、特許請求の範囲には、当該発明を特定するために必要と
認められる事項のすべてが記載されていれば足りるのであり(特許法36条5
項)、当該発明を実施するために一定の前提が存在したとしても、かかる前提がす
べて明記されるまでの必要はなく、その発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者において、特許請求の範囲の記載から、当該発明が当然一定の前提を
有するものであることを理解することができ、かつ、その点が、発明の詳細な説明
の項に発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていれば足り
る(同条4項)ものと解されるし、また、被告が、本件発明においては、「解除
具」の存在が、本件特許権の明細書に記載された発明の効果を生じるために不可欠
であるから、これに関する事項は必須の構成要件であると主張している点について
も、その記載を欠くことから当該明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の効
果の一部が否定されることはあり得るとしても、被告主張のような点から、直ち
に、当該事項をもって当該発明の必須の構成要件としなければならないことになる
ものとも解されない。
そうすると、特許請求の範囲の記載を解釈する上で「解除具」が使用さ
れることを考慮に入れたとしても、当該発明に必須の構成要件を付加して解釈した
ことにはならず、この点に関する被告の主張も採用することができない。」
(4) 27頁13行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 また、原告は、当審において、原判決別紙物件目録(1)の添付図面の「係
止部28」に係る指示部分を、壁面120から一体成形により突出して設けられた
部材のうち、その一部である上部突出部のみを指すように変更するとともに、同部
材の上面の一部平坦面を新たに「壁面28A」として指示した上、同「壁面28
A」が、被告製品におけるケース側の「面」である旨の主張を追加している。
しかしながら、本件発明の構成要件Cにおいて、「対向面」に設けられ
るべきものは、「係止部」ではなく、「係止手段」と表現されているのであるか
ら、被告製品においてこれに相当するのは、上記「壁面120から一体成形により
突出して設けられた部材」全体を指すものと理解するのが自然であるし(現に、上
記のように主張を変更するまでは、原告自身もそのような理解の下に主張をしてい
たことがうかがわれるところである。)、また、原告が新たに指摘するところの
「壁面28A」なる部位に何らかの技術的意味が存するとの主張、立証も全くなさ
れていないことからすると(仮に当該部分が切除されたとしても、被告製品の機能
が損なわれることはないものとも考えられる。)、当審における原告の主張は、上
記当初の主張と実質的に異なるものではなく、したがって、上記したところと同様
の理由により採用することができないものといわざるを得ない。」
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照ら
し、原審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含
め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。
第4 結論
以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の
請求は理由がないから、いずれもこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は
相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(平成16年12月22日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 竹 原 俊 一
裁判官 小 野 洋 一
裁判官 長 井 浩 一
(別紙)
図1図2図3図4図5図6、7図8
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