平成16(行ケ)442審決取消請求事件
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成17年2月24日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
刊行物30回 審決29回 訂正審判3回 無効3回 特許権1回 無効審判1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成16年(行ケ)第442号 審決取消請求事件(平成17年2月10日口頭弁
論終結)
判 決
原 告 栄豊物産株式会社
訴訟代理人弁護士 小林政明
同 弁理士 荒崎勝美
被 告 特許庁長官 小川洋
指定代理人 鈴木孝幸
同 西川惠雄
同 岡田孝博
同 伊藤三男
被告補助参加人 株式会社スノウチ
訴訟代理人弁理士 川崎仁
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が訂正2004-39069号事件について平成16年9月1日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,名称を「溶接用セラミックエンドタブ」とする特許第27645
01号発明(平成4年5月28日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平
成10年4月3日設定登録,以下この特許を「本件特許」という。)の特許権者で
ある。被告補助参加人は,平成15年7月15日,本件特許の請求項1及び2に係
る発明についての特許につき,無効審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2
003-35291号事件として審理し,平成16年2月3日,「特許第2764
501号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決を
し,その謄本は,同月14日,原告に送達された。
(2) 原告は,上記審決に対する審決取消訴訟を提起した後,平成16年4月7
日に本件特許について訂正審判の請求(以下「本件訂正審判請求」といい,その請
求書に添付した明細書を「本件訂正明細書」という。)をした。特許庁は,同請求
を訂正2004-39069号事件として審理し,同年9月1日に「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本
は,同月11日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の
特許請求の範囲の記載
【請求項1】表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおい
て,平坦面の少なくとも下部にガス抜き用切欠きを設けたことを特徴とする溶接用
セラミックエンドタブ。
【請求項2】表面に平坦面と該平坦面の両側若しくは片側のみに堰を有する形状
のエンドタブである請求項1に記載の溶接用セラミックエンドタブ。
(2) 本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載(訂正箇所に下線付加)
【請求項1】表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおい
て,平坦面の少なくとも下部に寸法が幅4mm前後,高さ4mm前後の初層溶接の
溶融メタル内に残留するガス抜き用切欠きを設けたことを特徴とする溶接用セラミ
ックエンドタブ。
(以下,この請求項の発明を「訂正発明1」という。)
【請求項2】(上記(1)の【請求項2】と同文)
3 本件審決の理由
本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,訂正発明1は,「鉄構技術
(STRUTEC)」1989年(平成元年)2月号(甲4,以下「刊行物1」と
いう。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。),実願平1-132
153号(実開平3-70889号)のマイクロフィルム(甲5,以下「刊行物
2」という。)に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立し
て特許を受けることができるものではないから,本件訂正審判請求は,平成6年法
改正前の特許法126条3項の規定に適合しないと判断した。
第3 原告主張の審決取消事由
本件審決は,訂正発明1と刊行物1発明との相違点の判断を誤り(取消事由
1,2),訂正発明1の奏する効果についての判断を誤り(取消事由3),その結
果,訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと
の誤った判断に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点3の判断の誤り)
本件審決は,訂正発明1と刊行物1発明との相違点3として認定した,「ガ
ス抜き部で抜くガスが,前者(注,訂正発明1)では,初層溶接の溶融メタル内に
残留するガスであるのに対して,後者(注,刊行物1発明)では,どのようなガス
であるのか不明である点」(審決謄本3頁第4段落)について,「相違点3に係る
訂正発明1の構成は,刊行物1記載の発明(注,刊行物1発明)及び刊行物2記載
の事項から当業者であれば容易に想到し得たことである」(同頁最終段落~4頁第
1段落)と判断したが,誤りである。
刊行物1発明におけるエンドタブのガス抜き穴は,溶接時に使用するシール
ドガスを抜くためのものである(甲7,8-1,2)。そうすると,相違点3に係
る訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得るというためには,エンドタブにガ
ス抜き穴を設ければ,初層溶接の溶融メタル内に残留するガスを抜くことができる
ことが,刊行物1及び2のいずれかに記載ないし示唆されていなければならないと
ころ,そのような記載や示唆はない。溶融金属内のガス残留防止のメカニズムが明
らかにされ始めたのは,甲10(平成6年10月15日発行「溶接だより技術がい
ど」通巻294号,以下「甲10文献」という。)が発行された平成6年10月こ
ろのことである。
2 取消事由2(相違点4の判断の誤り)
本件審決は,訂正発明1と刊行物1発明との相違点4として認定した,「ガ
ス抜き部の寸法が,前者(注,訂正発明1)では,幅4mm前後,高さ4mm前後
であるのに対して,後者(注,刊行物1発明)では不明である点」(審決謄本3頁
第5段落)について,「溶融メタルの漏れ防止というエンドタブ本来の機能を考慮
すると,ガス抜き部をあまり大きくできないことは,当業者にとって明らかであ
る。そうすると,上記エンドタブとしての本来の機能を維持しつつ,ガスを抜くと
の機能を発揮するために適切なガス抜き部の寸法を定めることは当業者が当然に行
うこと」(同4頁第2段落)であるとして,相違点4に係る構成が容易想到である
と判断したが,誤りである。
エンドタブのガス抜き穴の大きさは,エンドタブの種類及び抜くガスの種類
によって異なる。訂正発明1のような,セラミック製エンドタブのガス抜き穴の大
きさは,セラミック製エンドタブを使用後に取り外すときに,溶融メタルがガス抜
き穴から漏れない大きさにする必要がある。また,シールドガスを抜くためのガス
抜き穴の大きさは,溶融メタルが少々漏れても,刊行物1記載のゲージタブに設け
たガス抜き穴のように開先底部の幅と同じような幅にして,隅部にシールドガスが
残らないようにする必要がある。刊行物1発明に係るゲージタブのガス抜き穴の幅
は,開先底部の幅以上であるところ,開先底部の幅は,溶接母材の厚さが25mm
であることから,甲9の記号GC-BL-B1(551頁)及び同GC-TL-B
1(552頁)などの記載に照らし,9mmと推定され,そうとすれば,ガス抜き
穴の幅は9mm以上である。
一方,溶融メタル内に残留するガスを抜くためのガス抜き穴の大きさは,初
層溶接の溶融メタルの最先端部及び最後端部がガス抜き穴の中に入り,エンドタブ
の外に漏れない程度の大きさにすれば効果がある。
このように,エンドタブのガス抜き穴の大きさは,エンドタブの種類及び抜
くガスの種類によって異なるから,訂正発明1におけるガス抜き穴の大きさを幅4
mm前後,高さ4mm前後にすることは,シールドガスを抜くためのスチール製の
ゲージタブのガス抜き穴と異なる意味がある。
したがって,エンドタブにガス抜き孔を設ければ初層溶接の溶融メタル内に
残存するガスを抜くことができることが,本件特許出願前に知られていない以上,
相違点4に係る訂正発明1の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
3 取消事由3(訂正発明1の効果についての判断の誤り)
本件審決は,訂正発明1の効果は,刊行物1発明,刊行物2に記載された事
項及び周知技術の奏する効果から容易に予測される程度のものであって,格別のも
のではないと判断(審決謄本5頁第3段落)したが,誤りである。
溶接部の破壊は溶接端部から生じる場合が多いので,溶接端部の残留ガスを
特に少なくして溶接欠陥を少なくし,破壊強度を高くすることができるという訂正
発明1の効果は格別の効果というべきである。
第4 被告及び被告補助参加人の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点3の判断の誤り)について
刊行物2(甲5)には,「・・・セラミック製タブが多用されている。いず
れも,初層溶接におけるアークスタート部位とし,溶融金属の漏れ防止,融合不
良,ブローホール等の溶接欠陥の発生防止等々の目的に用いられており,特に初層
溶接部の溶接欠陥防止のためにはエンドタブの使用は不可欠であるとされている」
(2頁「(従来の技術及び解決しようとする課題)」の項の第1段落目)として,
エンドタブが初層溶接におけるアークスタート部位として,ブローホール等の溶接
欠陥発生防止等々の目的に用いられることが記載されている。そして,本件審決が
周知例として引用した甲6(昭和55年1月23日産報出版発行「現代溶接技術大
系《第7巻》」28,29頁)の「溶接金属は高温の溶融状態でガスを溶解し,そ
の凝固過程で・・・過飽和のガスを急激に放出し,溶融金属内に気泡を形成する。
この気泡は,・・・そのまま残留し,ブローホール(気孔)となる」との記載に照
らして,刊行物2に記載された「初層溶接部」のブローホールが訂正発明1でいう
「初層溶接の溶融メタル内に残留するガス」であるというべきである。したがっ
て,初層溶接の溶融メタル内に残留するガスを抜くことが刊行物1,2に示されて
いないという原告の主張は失当である。また,初層溶接の際にブローホール発生を
予防することについては,乙1(昭和63年9月1日日本建築学会発行「学術講演
梗概集 C分冊」871~874頁,以下,「乙1文献」という。)にも示されて
おり,甲10文献の発行された平成6年10月ころに至って溶融金属内のガス残留
防止のメカニズムが初めて明らかにされた旨の原告の主張は失当である。
したがって,相違点3についての本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点4の判断の誤り)について
本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(訂正発明1に効果についての判断の誤り)について
本件審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点3の判断の誤り)について
訂正発明1と刊行物1発明とが,「表面に平坦面と堰を有する形状のエンド
タブにおいて,ガス抜き部を設けた溶接用エンドタブ」である点で一致しているこ
とについては当事者間に争いがなく,本件審決が認定した訂正発明1と本件発明と
の相違点3は,「ガス抜き部で抜くガスが,前者(注,訂正発明1)では,初層溶
接の溶接メタル内に残留するガスであるのに対して,後者(注,刊行物1発明)で
は,どのようなガスであるのか不明である点」(審決謄本3頁第4段落)というも
のであるところ,刊行物2(甲5)には,「溶接線の端部に取付けるエンドタブに
は,スチールタブとセラミック製タブとに大別されるが,溶接後の取外しなどの使
い易さの点から,後者のセラミック製タブが多用されている。いずれも,初層溶接
におけるアークスタート部位とし,溶融金属の漏れ防止,融合不良,ブローホール
等の溶接欠陥の発生防止等々の目的に用いられており,特に初層溶接部の溶接欠陥
防止のためにはエンドタブの使用は不可欠であるとされている」(2頁「(従来の
技術及び解決しようとする課題)」の項の第1段落目)として,エンドタブを初層
溶接におけるアークスタート部位とし,ブローホール等の溶接欠陥発生防止等々の
目的に用いることが記載されている。刊行物2の上記記載にいう「ブローホール」
は,甲6の「溶接金属は高温の溶融状態でガスを溶解し,その凝固過程で・・・過
飽和のガスを急激に放出し,溶融金属内に気泡を形成する。この気泡は,・・・そ
のまま残留し,ブローホール(気孔)となる」(28頁最終段落~29頁第1段
落)との記載に照らして,訂正発明1における「初層溶接の溶融メタル内に残留す
るガス」によるものであることは明らかである。また,初層溶接の際にブローホー
ルの発生を予防することについては,乙1文献にも示されている。したがって,初
層溶接の溶融メタル内に残留するガスを抜くことは刊行物1,2には示されておら
ず,溶融金属内のガス残留防止のメカニズムは平成6年ころに至って明らかにされ
始めたという原告の主張は失当であり,これを前提として相違点3に係る訂正発明
1の構成が容易想到でないとする原告の主張も採用の限りではない。
したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点4の判断の誤り)について
原告は,本件審決が訂正発明1と刊行物1発明との相違点4として認定し
た,「ガス抜き部の寸法が,前者(注,訂正発明1)では,幅4mm前後,高さ4
mm前後であるのに対して,後者(注,刊行物1発明)では不明である点」(審決
謄本3頁第5段落)について,ガス抜き部の寸法を,訂正発明1のように幅4mm
前後,高さ4mm前後とすることは,当業者が容易に想到し得たことではないと主
張する。
しかしながら,溶融メタルの漏れ防止というエンドタブ本来の機能を考慮す
ると,ガス抜き部があまり大きなものであってはならないことは,当業者に自明の
ことであり,また,エンドタブとしての本来の機能を維持しつつ,ガスを抜くとい
う機能を発揮するために適切なガス抜き部の寸法を定めることは当業者が当然に行
うことであると考えられる。そうすると,刊行物1発明において,ガス抜き穴の寸
法を,幅4mm前後,高さ4mm前後とすることは,当業者が格別の思考を要する
ことなく,容易に想到し得たことというべきである。原告がるる主張する点を考慮
しても,上記判断は左右されない。
したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(訂正発明1の効果についての判断の誤り)について
原告の主張する訂正発明1の効果は,刊行物1発明,刊行物2に記載された
事項及び周知技術がそれぞれ奏する効果から予測される程度のものと認められ,こ
れと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所知的財産第2部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 古 城 春 実
裁判官 岡 本 岳
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