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平成16(行ケ)175審決取消請求事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成17年1月31日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法5条4項2号7回
実用新案法5条4項5回
実用新案法5条3項3回
実用新案法39条3項2回
特許法36条4項1回
キーワード 審決26回
実施16回
無効9回
無効審判2回
実用新案権2回
訂正審判1回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(行ケ)第175号 審決取消請求事件(平成17年1月18日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   植平コンクリート工業株式会社
       訴訟代理人弁護士   岩坪哲
       同          田上洋平
同    弁理士   小谷悦司
同          小谷昌崇
       被      告   A
       訴訟代理人弁理士   藤本昇
       同          薬丸誠一
同          岩田徳哉
          主           文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2003-35453号事件について平成16年3月18日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,名称を「地表埋設用蓋付枠」とする実用新案登録第209941
1号考案(平成元年11月22日登録出願,平成8年1月26日設定登録,以下
「本件考案」といい,その実用新案登録を「本件実用新案登録」という。)の実用
新案権者である。
(2) 原告は,平成12年12月11日,本件実用新案登録を無効とすることに
つき無効審判の請求をし,同請求は,無効2000-35666号事件(以下「別
件審判請求事件」という。),として特許庁に係属したところ,被告は,平成13
年4月20日,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案
登録請求の範囲の記載等の訂正請求をした。特許庁は,別件審判請求事件につき審
理した上,同年9月26日,「訂正を認める。実用新案登録第2099411号の
請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決(以下「別
件第1次審決」という。)をした。
 被告は,別件第1次審決の取消しを求める訴え(当庁平成13年(行ケ)
第497号)を提起する一方,平成14年4月17日,本件明細書の実用新案登録
請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る本件明細書
を「訂正明細書」という。)をする旨の訂正審判請求をし,特許庁は,同請求を訂
正2002-39095号事件として審理した上,同年6月13日,本件訂正を認
める旨の審決をした。その結果,同年8月9日に,別件第1次審決を取り消す旨の
判決が言い渡され,同判決は確定した。
 これを受けて,特許庁は,別件審判請求事件について更に審理した上,平
成15年2月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「別件
第2次審決」という。)をした。
 原告は,別件第2次審決の取消しを求める訴え(当庁平成15年(行ケ)
第89号)を提起したところ,平成16年1月28日,「原告の請求を棄却する」
との判決(以下「別件判決」という。)が言い渡され,これに対する原告の上告が
同年6月10日に棄却され,別件判決は確定した。
(3) 原告は,別件審判請求事件とは別に,平成15年10月30日,本件実用
新案登録を無効とすることにつき無効審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2
003-35453号事件(以下「本件審判請求事件」という。)として審理した
結果,平成16年3月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達され
た。
2 訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】の記載(以下,この記
載に係る考案を「本件訂正考案」という。)
 蓋本体2が蓋受枠6上にその上面が略面一に嵌合され,蓋本体2の下端外周
縁に逃げ空所5を形成すべく切り欠き部4が刻設された地表埋設用蓋付枠におい
て,蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8
に合致するテーパー面7が形成されてなり,且つ前記切り欠き部4の少なくとも一
箇所以上には突起体10が外周方向に突設されてなり蓋受枠6の少なくとも一箇所
以上には,前記突起体10を係入するための凹部11が形成され,しかも前記蓋受
枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部 9が形成され,且つ前記蓋本
体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられ
てなることを特徴とする地表埋設用蓋付枠。
3 本件審決の理由
本件審決は,別添審決謄本写しのとおり,訂正明細書(審判甲1,本訴甲2
-2)においては,「考案の効果」として,本件訂正考案に係る蓋付枠は,「蓋受
枠の受部に溝が周設され,且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付さ
れてなるために,蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても,
該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止す
る」との効果(以下「効果(イ)」といい,当該記載事項を「本件記載事項」とい
う。)を奏すると記載され,そこでは,蓋受枠の受部に「溝」が周設されること及
び凹部の底部に「傾斜」が付されていることの2点が,当該効果を奏するために欠
くべからざる構成であるとされているにもかかわらず,それらの構成は,訂正明細
書の実用新案登録請求の範囲には記載されていないから,訂正明細書の実用新案登
録請求の範囲の記載は,旧実用新案法(注,平成5年法律第26号による改正前の
実用新案法を指す。以下同じ。)5条4項2号(注,平成5年法律第26号附則4
条1項の規定により,「なおその効力を有する」ものとされる,平成2年法律第3
0号による改正前の旧実用新案法5条4項2号を指す。以下同じ。)に規定する要
件を満たしておらず,本件訂正は,旧実用新案法39条3項の規定に違反してされ
たものであって,本件実用新案登録は,同法37条1項2号の2(注,平成11年
法律第41号の附則14条による改正後の平成5年法律第26号の附則4条2項の
規定による読み替え後の規定を指す。以下同じ。)の規定に基づき無効とされるべ
きである旨の請求人(注,原告)の主張に対し,訂正明細書の実用新案登録請求の
範囲には,「蓋受枠の受部に溝が周設され」た構成や,「凹部の底部には蓋受枠の
内周方向へ下る傾斜が付されてなる」構成は記載されていないから,効果(イ)
は,本件訂正考案の効果ということはできず,本件記載事項は,本件訂正考案の効
果の記載としては不適切ということができるものの,訂正明細書において,実用新
案登録請求の範囲に記載された考案は考案の詳細な説明に記載されており,記載さ
れた考案の作用効果も記載されているから,効果(イ)に関する本件記載事項のみ
を根拠に,蓋受枠の受部に「溝」が周設されることや,凹部の底部に傾斜が付され
ていることを,必須の構成要件としなければならないとすることはできず,そうす
ると,実用新案登録請求の範囲には,実用新案登録を受けようとする考案の構成に
欠くことができない事項のみが記載されているということができるから,訂正明細
書の実用新案登録請求の範囲の記載は,旧実用新案法5条4項2号に規定する要件
を満たすということができ,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件訂正が同
法39条3項に違反してされたものであるとすることはできないとした。
第3 原告主張の本件審決取消事由
1 本件審決は,旧実用新案法5条4項2号に規定する訂正明細書の記載要件に
関する認定判断を誤った(取消事由)結果,本件訂正が同法39条3項に違反して
されたものであるとすることはできないとの誤った結論に至ったものであるから,
違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(訂正明細書の記載要件に関する認定判断の誤り)
(1) 本件審判請求事件において,請求人である原告は,訂正明細書においては,
効果(イ)に関する本件記載事項があるにもかかわらず,その実用新案登録請求の
範囲には,当該効果を奏するための必須の構成が記載されていないから,訂正明細
書の実用新案登録請求の範囲の記載は,旧実用新案法5条4項2号に規定する「実
用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載した
項・・・に区分してあること」との要件を満たしていない旨主張した。
 これに対し,本件審決は,訂正明細書には,「考案の効果」として,効果
(イ)を含む,効果(ア)~(オ)が記載されていることを認定した(審決謄本4
頁下から第2段落~5頁第4段落)上,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に
は,「『蓋受枠の受部に溝が周設され』た構成や,『凹部の底部には蓋受枠の内周
方向へ下る傾斜が付されてなる』構成は記載されていないのであるから,上記明細
書(注,訂正明細書)記載の効果(イ)は,本件訂正考案の効果ということはでき
ず,実施例における効果であるといえるから,本件訂正考案の効果の記載としては
不適切ということができる」(同5頁下から第5段落)が,他方,訂正明細書にお
いて,「実用新案登録請求の範囲に記載された考案は,考案の詳細な説明に記載さ
れており,記載された考案の作用効果も上記効果(ア),(ウ),(エ),(オ)
として記載されている」(同頁下から第4段落)から,効果(イ)に関する本件記
載事項のみを根拠に,「蓋受枠の受部に『溝』が周設されることや,凹部の底部
(隙間の底部)に傾斜が付されていることを,必須の構成要件としなければならな
いとすることはできず,実用新案登録請求の範囲には,実用新案登録を受けようと
する考案の構成に欠くことができない事項のみが記載されているということができ
る」(同頁下から第3段落)と認定判断した。
(2) しかしながら,本件審決の上記認定判断は,実用新案登録請求の範囲の記載
要件に関する旧実用新案法5条4項2号の規定が,考案の詳細な説明の記載要件に
関する同条3項の「前項第3号の考案の詳細な説明には・・・その考案の目的,構
成及び効果を記載しなければならない」との規定に対応する規定であることを看過
したものであって,誤りである。
 旧実用新案法は,現行法とは異なり,考案の詳細な説明においては,「そ
の考案の目的,構成及び効果」を記載することが義務付けられており,かつ,実用
新案登録請求の範囲には,考案の詳細な説明に記載された考案の目的,構成及び効
果に照らし,「考案の構成に欠くことができない事項のみ」が記載されるべきもの
とされていたから,「実用新案登録請求の範囲」には,「考案の詳細な説明」に記
載されている「考案の効果」を奏する上で必要不可欠な構成要件が記載されること
が求められていたのである。
 したがって,訂正明細書の「考案の効果」の欄(決して「実施例」の欄で
はない。)に,効果(イ)に関する本件記載事項を明記した以上,効果(イ)を奏
する上で必要な構成要件である,「蓋受枠の受部に周設された溝12」及び「凹部
11の底部11aに付された蓋受枠の内周方向へ下る傾斜」という二つの構成要件
をも,本件考案の構成に欠くことができない事項として,実用新案登録請求の範囲
に記載しなければならなかったものである。
(3) この点に関し,東京高裁昭和63年8月16日判決・同庁昭和61年(行
ケ)第243号(以下「昭和63年東京高裁判決」という。)は,昭和62年法律
第27号による改正前の特許法(「昭和62年改正前特許法」という。)36条3
項と同条4項との関係について,「特許を受けようとする者が特許庁長官に提出す
べき願書には,発明の名称,図面の簡単な説明,発明の詳細な説明,特許請求の範
囲を記載した明細書及び必要な図面を添附しなければならない(特許法〔注,昭和
62年改正前特許法,以下,この項において同じ。〕第36第1項,第2項)が,
発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者(いわゆる当業者)が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目
的,構成及び効果を記載することを要し(同条第3項)かつ,特許請求の範囲には
発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載する
ことを要する(同条第4項)。したがって,明細書の発明の詳細な説明に,当該発
明を実施するための具体的な例,すなわち,実施例を願書添付の図面に基づいて説
明する方式で記載する場合には,その記載内容は,特許請求の範囲に記載された発
明と構成要件のすべてについて正確に対応するものであることを必要とし,これが
正確に対応するものでないときは,その明細書の記載は特許法第36条第3項及び
第4項の規定する要件を満たしていないというべきである」旨判示している。この
ように,旧実用新案法5条3項及び4項並びに昭和62年改正前特許法36条3項
及び4項においては,実用新案登録請求の範囲ないし特許請求の範囲の記載と,考
案の詳細な説明ないし発明の詳細な説明における実施例の記載との正確な対応関係
が要求され,実施例において具体的に開示されていない技術まで含むような実用新
案登録請求の範囲ないし特許請求の範囲の記載は認められていなかったものであ
る。
 ところが,本件審決は,実用新案登録請求の範囲の記載要件の判断基準
を,訂正明細書の実施例や図面の具体的な開示内容に置くことなく,逆に,実用新
案登録請求の範囲に記載された考案に基づき,訂正明細書において考案の効果とし
て明示されている効果を実施例上の効果にすぎないとして排斥した結果,訂正明細
書に記載されていない技術内容をも含む実用新案登録請求の範囲の記載を容認する
違法を犯しているものである。
第4 被告の反論
1 本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(訂正明細書の記載要件に関する認定判断の誤り)について
(1) 原告は,訂正明細書の考案の効果の欄に,効果(イ)に関する本件記載事項
が記載されていることを根拠に,蓋受枠の受部に「溝」が周設されること及び凹部
の底部に「傾斜」が付されていることの2点が,必須不可欠な構成要件として,訂
正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されなければならない旨主張する。しか
しながら,効果(イ)に関する本件記載事項は,実施例における効果を記載したも
のにすぎないから,本件訂正考案の効果の記載としては不適切ではあるものの,こ
のことのみを根拠に,上記「溝」や「傾斜」が必須不可欠な構成要件であるという
ことはできず,他の効果を奏するための必須構成要件が実用新案登録請求の範囲に
記載されている以上,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は,旧実用新案
法5条4項2号の要件に違反するものではない。
(2) 原告は,旧実用新案法5条4項は,同条3項に対応する規定であり,「実用
新案登録請求の範囲」には,「考案の詳細な説明」に記載されている「考案の効
果」を奏する上で必要不可欠な構成要件が記載されることが求められていた旨主張
する。
 しかしながら,旧実用新案法5条3項は,考案の詳細な説明は,考案の内
容を正確に第三者に公開することによって,第三者がその実施を容易にすることが
できるように解説した技術文献としての使命を果たす部分であることから,当業者
が容易に実施をすることができる程度に,その考案の目的,構成及び効果を記載し
なければならない旨規定したものである。他方,同条4項は,実用新案登録請求の
範囲は,主として権利書としての使命を果たすべきものであるため,考案の詳細な
説明中に記載された考案の構成のみで,しかも,そのうち,「考案の構成に欠くこ
とができない事項のみ」でなければならない旨規定したものである。以上のよう
に,両者は,関連する規定ではあっても,規定の趣旨が明らかに異なり,原告主張
のように,「実用新案登録請求の範囲」には,「考案の詳細な説明」に記載されて
いる「考案の効果」を奏する上で必要不可欠な構成要件が記載されなければならな
いとは規定されていない。
(3) 本件訂正考案の構成要件によって,原告も自認するとおり,本件審決が認定
した効果(ア),(ウ),(エ)及び(オ)が奏される以上,本件訂正明細書の記
載は,旧実用新案法5条4項に違反するものではない。特に,上記効果(ウ)につ
いては,本件訂正考案に特有の効果であり,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲
に記載された構成要件により奏されるものであることが,別件判決において認めら
れている。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(訂正明細書の記載要件に関する認定判断の誤り)について
(1) 旧実用新案法5条4項は,「第2項第4号の実用新案登録請求の範囲の記載
は,次の各号に適合するものでなければならない。
一 実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したもの
であること。
二 実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項の
みを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。
三 (略)」と規定する。
 この規定から明らかなとおり,実用新案登録請求の範囲の記載について
は,実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載されたものであ
ること(1号),実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない
事項のみを記載したものであること(2号)の二つの要件が求められるものの,反
面,そこで記載されるべき考案は,飽くまで,出願人が「登録を受けようとする考
案」であるから,その構成は,実用新案権としての保護を求める範囲として,出願
人自らが任意に定め得るものと解するのが相当である。したがって,実用新案登録
請求の範囲には,出願人自らが「実用新案登録を受けようとする考案」と定めた考
案につき,その構成に欠くことができない事項のみを記載し,かつ,その考案が,
考案の詳細な説明に記載されている限り,同法5条4項に定める記載要件を充足す
るのであり,その際,たとえ,出願人が登録を受けることを欲しない考案が考案の
詳細な説明に記載されているとしても,出願人は,公開するにもかかわらず権利の
請求をしない当該考案を実用新案登録請求の範囲に記載すべき義務はないから,考
案の詳細な説明の記載に基づいて,実用新案登録請求の範囲に記載されている考案
とは異なる考案が把握されるとしても,そのことを理由に,当該実用新案登録請求
の範囲の記載が,上記規定に違反するものとされることはないというべきである。
(2) これに対し,原告は,旧実用新案法は,現行法とは異なり,考案の詳細な説
明においては,「その考案の目的,構成及び効果」を記載することが義務付けられ
ており,かつ,実用新案登録請求の範囲には,考案の詳細な説明に記載された考案
の目的,構成及び効果に照らし,「考案の構成に欠くことができない事項のみ」が
記載されるべきものとされていたから,「実用新案登録請求の範囲」には,「考案
の詳細な説明」に記載されている「考案の効果」を奏する上で必要不可欠な構成要
件が記載されることが求められていたとした上,そうとすれば,訂正明細書の「考
案の効果」の欄に,効果(イ)に関する本件記載事項を明記した以上,効果(イ)
を奏する上で必要な構成要件をも,本件考案の構成に欠くことができない事項とし
て,実用新案登録請求の範囲に記載しなければならなかったものである旨主張す
る。
 そこで検討すると,旧実用新案法5条3項は,「前項第3号の考案の詳細
な説明には,その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に
その実施をすることができる程度に,その考案の目的,構成及び効果を記載しなけ
ればならない」と規定しており,これによれば,考案の詳細な説明においては,
「実用新案登録を受けようとする考案」に対応する目的,構成及び効果が記載され
ていなければならないことは明らかである。しかしながら,上記のとおり,同条4
項は,実用新案登録請求の範囲の記載について,実用新案登録を受けようとする考
案が考案の詳細な説明に記載されたものであること(1号),実用新案登録を受け
ようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであること
(2号)を要件として規定するのみであって,原告主張のように,「考案の詳細な
説明に記載された考案の目的,構成,及び効果に照らし」,その考案の構成に欠く
ことができない事項のみを実用新案登録請求の範囲に記載すべきものと規定してい
るわけではない。原告の上記主張は,法律の規定の文言に基づかない独自の見解と
いうほかはなく,採用の限りではない。
 なお,原告は,昭和63年東京高裁判決を援用するが,そもそも,同判決
が前提とする昭和62年改正前特許法36条4項は,「第2項第4号の特許請求の
範囲には,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみ
を規定しなければならない。ただし,その発明の実施態様項を併せて記載すること
を妨げない」(下線付加)と規定しており,旧実用新案法5条4項(平成2年法律
第30号による改正前の特許法36条4項に相当)とは規定振りが大幅に異なって
いる。また,同判決の「実施例を願書添付の図面に基づいて説明する方式で記載す
る場合には,その記載内容は,特許請求の範囲に記載された発明と構成要件のすべ
てについて正確に対応するものであることを必要とし,これが正確に対応するもの
でないときは,その明細書の記載は特許法第36条第3項及び第4項の規定する要
件を満たしていないというべきである」との判示は,旧実用新案法5条4項でいえ
ば,同項1号に相当する規律に関するものであると理解され,もとより,同項2号
に相当する規律について,実施例に記載した発明は,すべて特許請求の範囲に記載
しなければならない旨を判示しているものではないと解されるから,いずれにして
も,上記の判断を左右するものではない。
(3) 進んで,本件審決の認定判断について検討する。
 確かに,訂正明細書の考案の詳細な説明には,「考案の効果」として,効
果(イ)が記載されており,かつ,本件記載事項によれば,効果(イ)は,「蓋受
枠の受部に溝が周設され」た構成及び「凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾
斜が付されてなる」構成によって奏されるものであるとも理解し得るところ,訂正
明細書の実用新案登録請求の範囲には,上記各構成が記載されていないことが認め
られる。しかしながら,上記(1)のとおり,実用新案登録請求の範囲に,「実用新案
登録を受けようとする考案」として何を記載するかは,出願人が任意に定め得るも
のと解されるから,仮に,考案の詳細な説明中に記載された効果(イ)を奏するた
めに必要不可欠な上記各構成が,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載され
ていないとしても,そのこと自体は,旧実用新案法5条4項2号の規定に違反する
ものではなく,単に,当該効果が本件訂正考案の効果ではないことを意味するにす
ぎない。
 そして,本件においては,本件訂正考案として訂正明細書の実用新案登録
請求の範囲に記載された考案が,考案の詳細な説明に記載されており,記載された
考案の作用効果も考案の詳細な説明に記載されていることにつき,当事者間に争い
はないから,以上を前提に,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は,同号
に規定する要件を満たすということができるとした上,請求人である原告の主張及
び証拠方法によっては,本件訂正が旧実用新案法39条3項に違反してされたもの
とすることはできないとした本件審決の認定判断に誤りはないというべきである。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所知的財産第2部
          裁判長裁判官    篠  原  勝  美
        裁判官   古  城  春  実
     裁判官   早  田  尚  貴

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