平成16(ネ)745不正競争行為差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成16年12月21日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項1号4回 商標法4条1項7号1回 民事訴訟法67条2項1回 商標法51条1項1回 不正競争防止法12条1項3号1回
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キーワード |
ライセンス35回 商標権14回 審決12回 無効10回 差止4回 侵害3回 無効審判2回 損害賠償2回
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主文 |
1 原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消す。2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
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判決文
平成16年(ネ)第745号 不正競争行為差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成10年(ワ)第16262号)
平成16年10月14日 口頭弁論終結
判 決
控訴人 東洋エンタープライズ株式会社
訴訟代理人弁護士 伊藤真
補佐人弁理士 野原利雄
被控訴人 株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャ
パン
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
主 文
1 原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文同旨
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
本件は,1950年代以前に米国で人気を博したオートバイのメーカーに由
来する,「Indian」又は「Indian Motocycle」などのブランドの使用を巡る紛争で
ある。被控訴人は,遅くとも平成6年5月には,被控訴人とそのライセンシーが衣
類その他の商品に付して使用している別紙原告表示目録1ないし3記載の各表示
(原告各表示)が,その取引者・需要者の間に周知であり,控訴人が別紙被告標章
目録1ないし17記載の各標章(被告各標章)を付した衣類等の商品を製造販売す
るなどした行為が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして,
控訴人に対し,同行為の差止め及び損害賠償を請求している。
原判決は,被控訴人の原告各表示は,平成6年5月ころ,平成7年6月ない
しは10月ころ,あるいは平成8年においても,被控訴人(原告)の商品等表示と
して周知であったとは認められないものの,平成12年10月ころには,若年男性
向けのいわゆるアメリカンカジュアル系のブランドファッション市場において,被
控訴人の商品等表示として,需要者の間に広く認識されたものと認められ,被告各
標章は原告各表示に類似するから,控訴人の被告各標章を使用する行為は被控訴人
の商品と混同を生じさせる行為に該当するとして,不正競争防止法2条1項1号の
不正競争行為に当たるものと認め,また,控訴人が主張した先使用の抗弁について
は,控訴人が被告各標章を「不正の目的でなく使用し」(同法12条1項3号)た
とは認められないと判断し,控訴人に対し,不正競争行為の差止めと損害賠償(請
求の一部)を命じたものである。控訴人は,これを不服として,控訴を提起した。
当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の
「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」欄記載のとおりであ
るから,これを引用する。
当裁判所も,上記の「原告各表示」,「被告各標章」のほか,「原告表示
1,2,3」,「被告標章1,2・・・17」,「原告商標」,「被告商標」,
「オリジナル・インディアン社」,「訴外ザンギ」,「訴外カジヤ」,「訴外サン
ライズ」,「訴外マルヨシ」,「訴外西澤」などの語を,原判決の用法に従って用
いる。ただし,原判決が「米国インディアン社」と略称した,訴外ザンギが設立し
た米国法人「Indian Motocycle Co.,Inc.」は「ザンギ・インディアン社」という。
なお,その余の会社名については,株式会社,有限会社を含む正式名称ではなく,
略称を用いる。
1 控訴人の当審における主張の要点
(1) 被控訴人の商品等表示としての原告各表示の周知性について
(ア) 原判決は,「原告各表示は,平成12年10月ころには,原告の商品等
表示として周知性を獲得した。」と判断した。しかし,原告各表示と被告各標章中
の「Indian Motorcycle」とは,平成7年当時から併存状態にあり,双方ともに周知
性を獲得していない。被控訴人の被服等についてのライセンシーであった訴外西
澤,プランニングジャパン,ギャロップは,平成12年10月ころ,いずれもライ
センシー事業から撤退しており(倒産を含む),各商品分野における被控訴人らの
販売実績は僅かなものにすぎないのである。
(イ) オリジナル・インディアン社は,1901(明治34)年創業の米国オ
ートバイメーカー「INDIAN MOTO(R)CYCLE CO.,INC.」であり,原告各表示と同一な
いし類似の表示を使用して操業し,同表示(以下,オリジナル・インディアン社が
使用していた商品表示を「米国インディアンブランド」という。)が米国及び日本
などにおいて周知となっていたものの,1953(昭和28)年に操業を停止し,
その後解散し,以後,その関係者を含めていかなる事業活動もしていない。
訴外ザンギが設立したザンギ・インディアン社は,社名,本店所在地及
び社章のいずれも消滅したオリジナル・インディアン社と全く同一であるものの,
同社とはいかなる関係もない会社である。ザンギ・インディアン社は,オートバイ
の製造も,その開発準備行為もしないまま,設立後まもなく倒産している。ザン
ギ・インディアン社は,投資家から資金を集めてこれを詐取するため,オリジナ
ル・インディアン社と同一の会社であるかのように装い,あるいは,同社と何らか
の関係又は継続性があるかのように装った,営業活動の実体のない会社であった。
訴外ザンギは,オリジナル・インディアン社及び同社商標に関連して国内外200
人にも及ぶ人々から金員を詐取したとして,平成8年6月5日に逮捕され,米国マ
サチューセッツ地区連邦地方裁判所により「投獄90か月,百万ドルを超える詐取
金等の返還支払を命ずる」旨の判決を受けたものである。
(ウ) 被控訴人は,訴外カジヤが,ザンギ・インディアン社から日本をテリト
リーとする米国インディアンブランドを使用し商標登録する権利を譲り受け,被控
訴人が,訴外カジヤから,日本において同ブランドを使用し,商標登録する権利及
び原告商標に係る商標権を譲り受けた,と主張する。しかし,オリジナル・インデ
ィアン社とザンギ・インディアン社とは何の関係もないことは上記のとおりである
から,仮に,訴外カジヤがザンギ・インディアン社から日本をテリトリーとする米
国インディアンブランドを使用し,商標登録する権利を有効に譲り受けたとして
も,オリジナル・インディアン社の周知著名であった米国インディアンブランドを
使用し,商標登録する権限を有するということはできない。控訴人も被控訴人も,
オリジナル・インディアン社とは無関係の法人であり,この点に関しては,両社は
同等であって,オリジナル・インディアン社が存続時に使用していた米国インディ
アンブランド又はそれを原型・起源とする商標を,被服等の商標として採択使用す
ることについて,どちらか一方が正当な使用者で,他方が不正な使用者であると
か,一方が他方を冒用したとかといった関係にたつものではない。双方の商標の採
択動機やその原型・起源が同じであったということにすぎない。
(2) 被告各標章と原告各表示との類否について
被告各標章中,少なくとも,一連の英文字「Indian Motorcycle」を要部と
する被告標章4,6,8,10,14ないし17は,原告表示1及び2とは類似し
ない。
(3) 商品又は営業の混同のおそれ
控訴人が使用している被告標章4,6,8,10,14ないし17及
び「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」商標と,原告表示1及び2と
は類似しないのであるから,少なくとも,控訴人の上記各標章の使用と原告表示1
及び2との関係においては,商品又は営業の混同のおそれはない。そして,控訴人
が被告商標及び「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」商標を長年使用
してきた結果,現在では,これらは控訴人の商品等表示として周知となっており,
被控訴人らが被告商標に類似する商標を被服等について使用する行為は,被告商標
に係る商標権(登録第2634277号,指定商品第17類(被服,その他本類に
属する商品)。以下「被告商標権」という。)の侵害行為であるとともに,不正競
争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するのであるから,仮に,控訴人
によるこれらの商標の使用が,被控訴人との間で出所の混同を生じさせるおそれが
あったとしても,これにつき,控訴人が非難されなければならない理由はない。
(4) 商標権行使の抗弁(予備的主張)
控訴人が有する被告商標権は,平成3年11月5日に出願され,平成6年
3月31日に設定登録されているのであり,この被告商標及びこれと同一性があ
る「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」商標の使用は,商標法上の商
標権の専用使用権の正当な権利行使であって,違法性はない。
(5) 先使用の抗弁(予備的主張)
原判決は,控訴人による被告各標章の使用は,原告各表示の周知性に便乗
(フリーライド)することを目的とした不正な使用であるから,不正競争防止法1
2条1項3号で規定する先使用には該当しない,と判断した。
しかし,控訴人が被告各標章の使用を開始する前に,フリーライドの対象
となる周知ないし著名な商標そのものが存在しないのであるから,特別な事情がな
い限り,控訴人による被告各標章の使用が,不正の目的で使用されたと認定される
余地はないはずである。また,被控訴人らがオリジナル・インディアン社と何らか
の関係や継続性があったとする事情もないことからすれば,控訴人が被告各標章を
「不正の目的でなく使用した」(同法12条1項3号)ものであることは明らかで
ある。
控訴人は,昭和40年に設立された株式会社であり,その前身となる「テ
ーラー東洋」及び「港商社」の時代から数えると,60年近くの歴史を持つ老舗ア
パレルメーカーである。控訴人は,アメリカンカジュアル衣料専門業者としては日
本でも有名であり,原判決がいうような「ブランドビジネスの専門業者」ではな
い。
原判決は,控訴人が,米国の代表的な一般紙「The Daily News」及
び「U.S.A. TODAY」において,「インディアン」ブランド復活の動きが報じられた
時から約4か月が経過した平成3年(1991年)11月5日に,被告商標を出願
していることを「不正の目的でなく使用した」ことを否定する根拠に挙げる。
これは,原判決が,上記米国一般紙の記事を読んだ控訴人が,被控訴人ら
に買い取らせることを目的に被告商標を日本で出願したものと判断したことにほか
ならない。しかしながら,著名なファッション情報誌あるいはアメリカンカジュア
ル衣料の専門誌であるならばまだしも,日本人が購入する手段さえ明らかではない
米国で発行された一般英字紙を,控訴人が日々購読しているのは当たり前であるか
のような原判決の判断は,あまりにも実際とかけ離れたものといわざるを得ない。
控訴人は,平成2年の終わりころに,控訴人の評判を知った数百人からな
る米国のヴィンテージバイクの愛好家団体から,彼らのバイクジャケットを作るよ
う依頼されたのが被告商標を採択するきっかけとなったのである。
(6) 権利の濫用(予備的主張)
被控訴人による原告各表示の使用は,控訴人の被告商標権を侵害するもの
である。
このような不法行為によって形成された事実状態を根拠にした不正競争防
止法に基づく被控訴人の各請求は,権利の濫用に当たるものであり,法の基本原理
からして許されるべきではない。
2 被控訴人の当審における主張の要点
(1) 被控訴人らの商品等表示としての原告各表示の周知性について
(ア) 原告各表示は,訴外マルヨシが被控訴人のライセンシーである訴外サン
ライズから原告各表示のライセンスを受けた平成6年5月,あるいは,訴外西澤が
被控訴人から同様に革製ジャケット等について,原告各表示のサブライセンスを受
け,また,控訴人が被告各標章の使用を開始した平成7年前半,あるいは,被控訴
人から同様に原告各表示のサブライセンスを受けたのが訴外西澤のほかに,兼松日
産農林(マッチ),元林(ライター),三竹産業(皮革製財布)に拡大し,控訴人
が被告各標章を使用した革製ジャケット等の販売を開始した平成8年中ころには,
被控訴人(及びそのライセンシーグループ)の商品等表示として,取引者・需要者
に広く認識され周知であった。
(イ) ザンギ・インディアン社は,米国インディアンブランドにブランドとし
ての新たな価値を付与した。訴外カジヤは,ザンギ・インディアン社から,日本に
おける米国インディアンブランドを用いたライセンス事業をする権利を対価を支払
って取得した。被控訴人は,訴外カジヤからそのライセンス事業をする権利の譲渡
を受けたものである。なお,被控訴人は,ライセンス事業のほかに,ザンギ・イン
ディアン社から米国インディアンブランドのジャケット,Tシャツ,帽子等を輸入
してその販売もしていた。
(2) 被告各標章と原告各表示との類否について
控訴人の主張は争う。
(3) 商品又は営業の混同のおそれについて
控訴人は,米国でオリジナル・インディアン社の復活が報じられるや,す
かさず被告商標を出願し,その登録を得,被控訴人により,米国インディアンブラ
ンドのライセンス事業が開始されるや,すかさず被告各標章を使用したジャケッ
ト,Tシャツ,帽子,革製ジャケット等の輸入販売を開始したものであり,被控訴
人とそのライセンシーグループの業務との混同が生じることは明らかである。
(4) 商標権行使の抗弁(予備的主張)について
控訴人の主張は争う。
(5) 先使用の抗弁(予備的主張)について
控訴人の主張は争う。
(6) 権利の濫用(予備的主張)について
控訴人は,被控訴人による米国インディアンブランドを用いたライセンス
事業を妨害する目的で被告商標を出願し,その登録を得たものである。被告商標の
登録は,公正な競業秩序を害するものであり,公序良俗に反するものであるから,
無効とすべきものである。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人の請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきもの
であると判断する。その理由は,次のとおりである。
1 被控訴人の商品等表示としての原告各表示の周知性について
(1) 以下の各項の括弧内に記載した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事
実が認められる。
(ア) オリジナル・インディアン社は,1901年(明治34年),ジョー
ジ・エム・ヘンディーが,設計者のオスカー・ヘドストロムを迎えて,マサチュー
セッツ州スプリングフィールドに設立したオートバイのメーカーである。オリジナ
ル・インディアン社は,1911年のイギリスのマン島のレースや,1937年の
第1回デイトナビーチでのレースで優勝するなどして,その品質とデザインによ
り,米国はもとよりヨーロッパや日本でも,ハーレー・ダヴィッドソンと並んで有
名なオートバイのメーカーとなった。オリジナル・インディアン社の商号は,当初
は,「ヘンディー・マニュファクチュアリング・カンパニー」であったが,192
3年(大正12年)に「インディアン・モトサイクル・カンパニー」に変更され
た。
オリジナル・インディアン社のオートバイには,主に,特徴ある書体の
筆記体の「Indian」(インディアンロゴ・原告表示1と同じである。),羽根飾り
を冠した右向きのインディアンの酋長の図形(「右向きのインディアンの図形」)
に「インディアンロゴ」を配したもの(ヘッドドレスロゴ・原告表示2と同じであ
る。)が商標として使用され(その他に「左向きのインディアンの図形」や活字体
の欧文字「INDIAN」や「インディアンロゴ」と類似した筆記体の「Indian」等も使
用された。これらの商標が「米国インディアンブランド」である。),これらの米
国インディアンブランドは,オリジナル・インディアン社の製造販売するオートバ
イの商標として米国はもとよりヨーロッパや日本でも周知であった。
また,「Indian Motocycle」,「インディアンモトサイクル」は,オリ
ジナル・インディアン社の略称として,米国はもとより,ヨーロッパや日本におい
ても広く知られ,周知性を獲得していた。
しかし,オリジナル・インディアン社は,経営不振のため,1953年
(昭和28年)に操業を停止し,後に解散した。もっとも,オリジナルインディア
ン社の中古のオートバイは,同社が解散した後も,一部の愛好者には人気があり,
ジェームズ・ディーン,マーロン・ブランドなどが愛用し,また,スティーブ・マ
ックウィーンがそのビンテージバイクを収集していたことでも知られている。
(甲4,5,146,乙68ないし70。訳文がないものについては,写
真や図柄部分を証拠とした。以下同じ。)
(イ) 訴外ザンギは,1990年(平成2年)6月4日,指定商品を「米国1
9類二輪自動車(U.S.019Motorcycles)」とする米国の登録商標「INDIAN」(登録
番号0921459,出願1970年3月25日,以下「インディアン米国登録商
標」という。)について,当時,2分の1の共有持分権を有していた訴外Aとの間
で,その設立する新会社によりオリジナル・インディアン社のオートバイを復活さ
せ,これを製造販売する,との共同事業を行うことを約束して,同商標について4
分の1の持分権の譲渡を受け(対価は1ドルであった。),1992年(平成4
年)1月ころには,同商標について,訴外Aともう一人の共有者である訴外Bから
残余の持分も取得することになり,これをザンギ・インディアン社の単独名義で登
録した。ただし,インディアン米国登録商標の最初の登録者であるインディアン
モトサイクル インク(Indian Motorcycles, Inc)(1424 Tanager Way Los
Angels,CA 90069)とオリジナル・インディアン社とが何らかの関係がある会社であ
ることを認めるに足りる証拠はない。すなわち,上記商標の出願日は,オリジナ
ル・インディアン社が解散してから10数年が経過した後のものであり,上記登録
者の本店所在地がロスアンジェルスであることからすれば,上記登録者とオリジナ
ル・インディアン社との関係は全く不明なものといわざるを得ない。(乙22,2
3)
(ウ) 訴外ザンギは,1990年(平成2年)6月ころには,解散消滅したオ
リジナル・インディアン社と同一の商号「Indian Motocycle Co.,Inc.」で,所在地
をオリジナル・インディアン社と同じくマサチューセッツ州のスプリングフィール
ドとして,ザンギ・インディアン社(Indian Motocycle Company Inc.)を設立し
た。(乙22)
(エ) ザンギ・インディアン社は,オリジナル・インディアン社とは全く関係
のない別法人であったものの,訴外ザンギによるザンギ・インディアン社の設立
は,「「インディアン」の復活」として米国の一般紙「The Daily News」1991
年(平成3年)7月1日号及び「U.S.A. TODAY」同年7月5日号により報じられ
た。(甲6,7)
(オ) 訴外ザンギは,オリジナル・インディアン社のオートバイを復活させる
ため,多数の投資家から資金を集め,1992年(平成4年)6月ころ,コネチカ
ット州において,被服や装身具の製造販売のためのIndian Motocycle Apparel and
Accessories Co.,Inc.と,オリジナル・インディアン社のオートバイを復活させる
ためのIndian Motocycle Manufacturing Co.,Inc.の二つの会社を設立した。(乙2
2)
(カ) 訴外カジヤは,米国インディアンブランドのブランドとしての将来性に
着目し,平成3年(1991年)12月,ザンギ・インディアン社との間で,米国
インディアンブランドに関する日本におけるすべての権利(日本において出願し,
商標登録を得る権利及び第三者に同商標をライセンスする権利)を譲り受ける旨の
契約を締結した。
訴外カジヤは,上記権利の譲渡を受け,平成4年(1992年)2月,
特許庁に対し,旧施行令別表17類等を指定商品として原告表示3に係る商標(原
告商標)について商標登録出願をした。
(甲10,11)
(キ) 訴外ザンギが,オリジナル・インディアン社を復活させ,1993年
(平成5年)7月4日には,第1号車を発表するとのニュースは,日本でも,平成
5年1月29日付けの二輪車新聞に発表された。(甲257)
(ク) 雑誌「BRUTUS」の平成5年1月1日/15日合併号から平成5年
11月15日号まで,21回にわたり,オリジナル・インディアン社に関する紹介
と,同社が訴外ザンギが設立したザンギ・インディアン社により復活し,1993
年(平成5年)7月4日には,その新車が発表されること,ザンギに関する詳しい
紹介記事,及び,同年7月4日を過ぎても新車が発表されなかったこと,さらに,
その後発表されたものは,アメリカ・ヴァージニア州レストンという町にあるレン
ジャー・インターナショナル社製のオフロード用のバイクで最高時速が僅か64キ
ロというものであり(平成5年10月1日号),当時から既に訴外ザンギについて
よからぬ噂が流れていたこと(同年11月15日号)などが,訴外C(設立当時の
被控訴人の取締役である。)により報告されている。(甲13,245)
(ケ) 訴外カジヤは,平成5年6月3日,広告宣伝等の業を営む訴外サンライ
ズとの合弁により,被控訴人を設立し,その代表取締役に就任した。訴外カジヤ
は,原告表示3について商標登録を受け,その後,同商標に係る商標権(以下「原
告商標権」という。)を被控訴人に譲渡した。(甲10,11,13)
平成5年7月24日付けの繊研新聞及び日経流通新聞には,被控訴人
が,オリジナル・インディアン社のライセンス供与を行っている会社として紹介さ
れ,衣料品,雑貨についてそのライセンス事業を行うこと,オリジナル・インディ
アン社が訴外ザンギにより再建されたことなどが報じられた。(甲16,17)
(コ) 雑誌「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号に,「1
940年代,アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカ
ーがインディアン・モトサイクル社」であり,そのロゴグッズは,「アメリカを象
徴するトレードマークのひとつとして,‥‥‥未だに根強いインディアン・マニア
を持つほどの存在」であること,「そのインディアン社が,実に40年の歳月を経
て・・・フィリップ・ザンギの手によって復活した」ことなどが記載された記事が
掲載された。(甲18)
(サ) 被控訴人のライセンシーである訴外サンライズは,平成6年初め,訴外
マルヨシとの間で,バッグについて,原告各表示(米国インディアンブランド)の
サブライセンス契約を締結した。訴外マルヨシは,平成6年5月中旬展示会を行
い,原告各表示のバッグへの使用を開始した。
訴外サンライズは,平成7年,訴外西澤と,革製ジャケット及び革製ズ
ボン(パンツ)について,原告各表示(米国インディアンブランド)のサブライセ
ンス契約を締結した。訴外西澤は,平成7年10月から平成8年1月にかけて,原
告各表示を使用して「GETON!」,「Massimo」,「Hot.Dog PRESS」,「FINEBOYS」
などの若者向け服飾雑誌に宣伝広告をし,革製ジャケット及び革製ズボンを販売し
た。
平成6年,7年,8年に発行された上記のような若者向けの雑誌や「旬
刊ファンシー」,「繊研新聞」などの業界紙における被控訴人,訴外マルヨシある
いは訴外西澤の宣伝広告及び米国インディアンブランドに関する紹介記事を見る
と,オリジナル・インディアン社がアメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を
二分したバイクメーカーであること,そのオリジナル・インディアン社が40年の
歳月を経て復活したこと,あるいは,Indian商標が伝説的なアメリカンバイクブラ
ンドとして知られていることなどが記載されている。
被控訴人とそのライセンシーグループによる上記の各宣伝広告及び業界
紙における被控訴人のライセンス事業の紹介記事は,被控訴人が,ザンギ・インデ
ィアン社からオリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドのライセン
スを受けて,日本国内における原告各表示のライセンス事業を行い,衣類,雑貨な
どの販売を開始したと理解される内容のものであり,被控訴人独自のブランドとし
ての原告各表示を宣伝広告しているものと理解し得るものではない。
(甲21,26,27,33ないし43)
(シ) 一方,控訴人は,被控訴人が平成5年6月3日に設立される前の平成3
年11月5日に,被告商標の登録出願をし,平成6年(1994年)3月31日そ
の設定登録を受けた。(甲8,9)
控訴人は,その後,カナダ国の「INDIAN MOTORCYCLE」の商標権者である
INDIAN MANUFACTURING LTD.(以下「カナダインディアン社」という。)と提携
し,平成7年(1995年)5月ころから,同社の商品であり,「Indian」
と「Motorcycle」あるいは「Indian」と「MOTORCYCLE」の文字を2段書きにしたも
の,あるいはこれにインディアンの絵や様々な図柄などを組合せた被告各標章が付
された革製ジャケット,Tシャツ,帽子等を輸入して,その販売を開始し,同時
に,「POPEYE」,「FINEBOYS」,「monoコレクション」,「Boon」などの若者向け
服飾雑誌などにおいて,その宣伝広告を開始した。なお,控訴人の同宣伝広告にお
いても,被告各標章がオリジナル・インディアン社にちなんだブランドであること
が強調されている。(甲28ないし31,52ないし54,56,乙4,6ないし
9,11ないし14,51,58,66(枝番は省略する。以下同じ。),67)
(ス) 訴外ザンギは,多数の投資家から資金を集めたものの,オートバイの開
発製造などの本来の事業活動をほとんど行わず,これらの資金を高級車や高級時計
の購入,自宅の賃料,自分や家族のための個人的な生活費に費やしており,その結
果,ザンギ・インディアン社は,オリジナル・インディアン社のオートバイを復活
させることなく倒産した。
訴外ザンギは,ザンギ・インディアン社及び米国インディアン登録商標
に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとの詐欺行為等の容
疑で,1996年(平成8年)6月5日ころ逮捕され,拘禁された。そして,訴外
ザンギは,1997年(平成9年)12月19日,米国マサチューセッツ地区連邦
地方裁判所により,同詐欺罪により有罪とされ,投獄90か月(7年6月)に処せ
られるとともに,百万ドルを超える弁償金等の支払を命ずる旨の判決を受けた。
(乙20ないし22,37ないし39)
(セ) 被控訴人及びそのライセンシーは,訴外ザンギが詐欺容疑で逮捕された
後の平成8年12月以降平成10年ころまでの,「繊研新聞」,「日本袋物鞄情
報」などの業界紙や「Begin」,「LEGFASHION」などの若者向け雑誌における原告各
表示の宣伝広告においても,オリジナル・インディアン社のオートバイの写真を掲
載したり,ビンテージバイクブランドであることを強調したりして,相変わらずオ
リジナル・インディアン社との関連性を強調する宣伝広告を継続している。もっと
も,被控訴人が,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドのライ
センスを受けて,日本国内における原告各表示のライセンス事業を行っていると理
解される従前の広告と異なり,オリジナル・インディアン社と被控訴人との関係に
ついては,やや抽象的な記載となっているものもある。ただし,訴外ザンギが,前
記のとおり,詐欺罪で有罪の判決を受け,ザンギ・インディアン社がオリジナル・
インディアン社を承継する会社ではないことが明らかになったにもかかわらず,被
控訴人が米国インディアンブランドのライセンスを受けていることを前提とした記
載がなされているものもあり,被控訴人がオリジナル・インディアン社の正当な承
継者からのライセンシーであるかのような従前の宣伝広告の内容を訂正する趣旨の
ものはなく,全体として従前の宣伝広告を継続する内容となっている。(甲70な
いし83,93)
(ソ) 被控訴人及び訴外サンライズのライセンシーは,平成9年ころ,訴外西
澤(レザーウエア),三竹産業(バック・ベルト),ギャロップ(皮革グローブ
等),元林(ライター),兼松日産農林(マッチ),プランニングジャパン(ニッ
ト・カットソー)であり,平成10年にはこれに丸石自転車(自転車),福井めが
ね工業(眼鏡フレーム),ライフギアコーポレーション(シューズ)も加わり,平
成12年には,オーエイチプラン(ジャンパー,パンツ等)が加わったものの,訴
外西澤は平成11年4月ころに,ギャロップは平成11年3月ころに,それぞれラ
イセンシーではなくなっている。また,平成14年においては,レジスト(ジュエ
リー),エンポリオ(皮革バッグ)が加わったものの,丸石自転車がライセンシー
ではなくなっている。ライセンシーについては,その後も変動があり,平成16年
においては,上記ライフギアコーポレーション(シューズ),元林(ライター),
兼松日産農林(マッチ)が残り,他はライセンシーではなくなり,新たに,ジック
(自転車),アートハウス(ドッグ・ウエア),ヤング産業(カバン,袋物,衣
料)がライセンシーとなっている。(甲80,84,86,89~92,94,9
8ないし101,103ないし106,147,乙71)
(タ) 被控訴人は,その直営店を,平成10年には東京に開設し,その後,福
岡と久留米にも開設し,さらに平成14年9月には神戸に開店し,また,その後仙
台にも開設している。(甲95,96,105,106,166,244,259)
(チ) 被控訴人とそのライセンシーは,平成12年には,「雑誌東京ストリー
トニュース!」,「Lightning」,「BOYS RUSH」,「men's egg」などの若者向けの
雑誌に,「インディアン モトサイクル」との表示や原告各表示の宣伝広告を継続
し,従前より宣伝広告を掲載する雑誌の数や宣伝広告の回数は増えているものの,
比較的小さなほとんど目立たない広告の数も多くなっている(1頁の中に,小さな
スペースの宣伝広告が多数掲載され,他のショップや他のブランドの広告と混在し
ているものも多く,これらについては,消費者に対する宣伝効果はあまり期待でき
ないものが多い。)。(甲148~227)
(ツ) 被控訴人とそのライセンシーグループの売上金額については,これを認
めるに足りる的確な証拠はない。すなわち,平成14年5月に被控訴人の取締役に
就任したDの同年7月31日付けの陳述書において「小売値ベースで15億円であ
る」と記載され,同人の平成16年10月4日付けの陳述書において「小売値ベー
スで20数億円」と記載されている(甲232,259)ものの,売上金額につい
て客観的な証拠を提出しこれを立証することは困難なことではないにもかかわら
ず,売上に関する客観的な証拠の提出がないこと,及び,原告各表示を使用した商
品としては,革ジャンパー等の衣類が重要な商品の一つであると考えられるとこ
ろ,その主力商品である衣類についてライセンシーがたびたび交替していること
(訴外西澤やギャロップが平成11年にはライセンシーではなくなり,プランニン
グジャパンやオーエイチプランと交替するなどし,また,平成16年にはプランニ
ングジャパンやオーエイチプランもライセンシーではなくなっている。)からすれ
ば,上記陳述書の記載のみをもって,その売上げ金額と認定することはできない。
(テ) なお,被控訴人らは,原告表示3に係る原告商標権に基づき東京地方裁
判所に商標権侵害差止の仮処分命令の申請をし(平成8年(ヨ)第22126号事
件),同裁判所は,平成8年12月16日,控訴人に対し,被告各標章の使用の中
止を命ずる仮処分決定を発したものの,特許庁は,平成14年2月28日,原告商
標の登録を無効とする旨の審決をし,東京高等裁判所が,その審決取消訴訟におい
て,審決の結論を維持し,同判決が,最高裁判所の平成15年6月12日付けの上
告不受理決定により確定したことにより,同商標の登録の無効が確定したため,同
仮処分決定はその根拠を失った。(甲48,乙71)
また,被控訴人は,原告表示1に係る登録商標(登録番号第40229
87号,指定商品第25類「被服,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バン
ド,ベルト」)を有していたところ,控訴人から同商標登録を無効とする旨の審判
請求がなされ(無効2002-35289),平成15年8月8日,同審判請求が
成り立たないとの審決がなされたものの,同審決に対する取消訴訟が東京高等裁判
所に提起され(平成15年(行ケ)第422号),同裁判所は,平成16年5月1
1日,同審決を取り消す,との判決を言い渡したため,現在,同無効審判請求事件
が特許庁に係属中である。(乙63)
さらに,被控訴人は,原告表示2中のインディアン図形に係る登録商標
(登録第4116047号,)を有していたが,特許庁は,平成16年7月27
日,同商標の指定商標品中「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き
類,下着,水泳着」についての登録を無効とするとの審決(無効2003-350
64号)をした(乙76)。
なお,被告商標の登録を商標法51条1項の規定に基づき取り消すとの
審決(取消2000-31423)に対する審決取消訴訟(平成15年(行ケ)第
181号)において,東京高等裁判所は,平成15年11月28日,同審決を取り
消すとの判決をし,同判決確定後の平成16年8月31日,被告商標の登録を取り
消すとの審判請求が成り立たないとの審決がなされた。また,被告商標権について
は,商標法4条1項7号,8号,15号等を理由とした無効審判請求が数件提起さ
れているが,いずれも無効不成立との審決が確定している。(乙26,53,5
4,56)
(2) 以上に認定した事実によれば,被控訴人(及びそのライセンシーグルー
プ)の商品等表示として,原告各表示が周知であると認めることはできない。その
理由は次のとおりである。
(ア) オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドは,1953
年(昭和28年)当時,「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」がオリ
ジナル・インディアン社の略称として,「Indian」又はインディアン図形商標がオ
リジナル・インディアン社の製造販売に係るオートバイ等を表示するものとして,
米国のみならず我が国やヨーロッパにおいても周知であったと認められるものの,
同社は,1953年に操業を停止し,後に解散しており,同社がその後現在に至る
まで営業活動を行ったことをうかがわせる証拠は存在しない。したがって,オリジ
ナル・インディアン社の米国インディアンブランドは,少なくとも平成2年(19
90年)ころにおいては,衣類・被服の需要者である一般消費者間においては周知
であったと認めることはできない(ただし,オリジナル・インディアン社のオート
バイの中古品は,同社が解散した後も,長期間,オートバイ愛好者間で人気を維持
していたこと,ザンギ・インディアン社によるオリジナル・インディアン社の復活
には,マスコミが注目するほどであり,そのため,ザンギ・インディアン社に投資
をし,被害を受けた者も少なからずいたことからすれば,米国インディアンブラン
ドは,オリジナル・インディアン社解散後も,長期間にわたり,オートバイの愛好
者間においては,依然として忘れられてはおらず,周知性のあるブランドであった
といってもよく,このことからすれば,革ジャンパーなどのオートバイ愛好者が身
につける衣類などの分野においても,仮に同社が復活し,その活動を開始すれば,
たちまちその周知性を獲得し得るという意味における潜在的な周知性があることは
否定できないところである。)。
米国の一般紙「The Daily News」1991年(平成3年)7月1日号及
び「U.S.A TODAY」同年7月5日号に,ザンギ・インディアン社が設立され,それが
「オリジナル・インディアン社の復活」として報じられたものの,その設立者であ
る訴外ザンギは,多数の投資家との間で新たにオリジナル・インディアン社のオー
トバイを復活させ,これを製造販売することを約束し,多額の資金を集め,訴外A
らから米国インディアン登録商標も譲り受けながら,オートバイ等の製造などの本
来の事業活動をほとんど行わず,集めた資金を私的目的に浪費し,米国マサチュー
セッツ地区連邦地方裁判所において,詐欺罪により有罪に処せられ,投獄されたも
のである。これらの経緯からすれば,ザンギ・インディアン社は,投資家から資金
を集めてこれを詐取するため,オリジナル・インディアン社と同一会社であるかの
ように,あるいは,同社と何らかの関係又は継続性があるかのように装ったにすぎ
ない会社であり,これがオリジナル・インディアン社の周知著名であった米国イン
ディアンブランドの正当な承継者とは到底いえない。
したがって,訴外カジヤがザンギ・インディアン社から日本をテリトリ
ーとする米国インディアンブランドに関する権利を有効に譲り受けたものとして
も,ザンギ・インディアン社がオリジナル・インディアン社の周知著名であった米
国インディアンブランドの使用権限を有するということはできないのであるから,
訴外カジヤから原告各表示に係る権利を譲り受けた被控訴人及びそのマスターライ
センシーの訴外サンライズからライセンスを受けた訴外西澤,訴外マルヨシその他
のライセンシーがオリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドの使用
権限を有しないことも明らかである。
(イ) 被控訴人とそのライセンシーは,平成5年ころから,原告各表示を使用
してその宣伝広告を開始したものの,その宣伝広告の内容は,ハーレー・ダヴィッ
ドソンと人気を2分したオートバイメーカーであるオリジナル・インディアン社
が,訴外ザンギの手により40年の歳月を経て復活したこと,すなわち,被控訴人
とそのライセンシーらが,オリジナル・インディアン社の正当な承継者であるザン
ギ・インディアン社からライセンスを受けて,米国インディアンブランドである原
告各表示を使用した事業を開始した,というものである。そして,被控訴人とその
ライセンシーらは,訴外ザンギが詐欺罪で逮捕された1996年(平成8年)12
月以降も,オリジナル・インディアン社のオートバイの写真を掲載したり,ビンテ
ージバイクブランドであることを強調したりして,オリジナル・インディアン社と
の関連性を強調しており,訴外ザンギが,詐欺罪で有罪の判決を受け,ザンギ・イ
ンディアン社がオリジナル・インディアン社を承継する会社ではないことが明らか
になった後も,被控訴人がオリジナル・インディアン社の米国インディアンブラン
ドのライセンスを受けていることを前提とした従前の広告の内容を訂正
することもなく,いわゆるビンテージバイクブランドであることを強調する内容の
宣伝広告を継続している。
(ウ) 被控訴人とそのライセンシーグループ全体の売上が証拠上明らかではな
いことは前記のとおりである。そして,被控訴人のライセンシー事業の主力商品の
一つは,革製のジャンパー,ブーツ,バックなどの衣服,身の回り品であるが,そ
れらのライセンシーである訴外マルヨシ,訴外西澤,ギャロップあるいはオーエイ
チプランが比較的短期間のうちにライセンス事業から撤退していることは,被控訴
人と訴外サンライズによるライセンス事業が,その主力商品においても必ずしも順
調に進んでいたわけではなく,その販売実績がさしたるものではなかったことを推
認させるものである。
(エ) 以上によれば,被控訴人は,オリジナル・インディアン社の承継者であ
るとされていたザンギ・インディアン社から米国インディアンブランドのライセン
スを受け,日本においてその旨宣伝広告し,ライセンス事業を開始したものの,そ
のライセンス事業の途中で,訴外ザンギが逮捕され,詐欺罪で投獄90か月の有罪
判決を受け,ザンギ・インディアン社がオリジナル・インディアン社を正当に承継
する会社ではないことが明らかとなった後も,そのままライセンス事業を継続し,
従来からの宣伝広告を訂正することもなく継続したものであり,結局,被控訴人と
そのライセンシーは,もともとオリジナル・インディアン社からその米国インディ
アンブランドを使用する権利のライセンスを受けていないにもかかわらず,そのよ
うな宣伝広告をしていたものであるから,そのライセンス事業における信用の形成
は,オリジナル・インディアン社の商品等表示である米国インディアンブランドに
よるものであって,被控訴人が,不正競争防止法における周知商品主体としての保
護を受け得ることになるということはできない(このことは,仮に,オリジナル・
インディアン社が復活して,その事業を開始し,日本における周知性を回復すれば
(オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドが衣服等の分野におい
ても潜在的な周知性を有していることからすれば,このことが困難なことではな
い。),控訴人の事業活動も,被控訴人の事業活動も,いずれもオリジナル・イン
ディアン社との関係では,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する
ものとなることからも明らかである。)。すなわち,被控訴人のライセンス事業に
おいて,原告各表示は,あくまでも復活したオリジナル・インディアン社のライセ
ンス商品であることを表示するものとして用いられているものであって,オリジナ
ル・インディアン社を離れて,被控訴人独自の商品等表示として用いられるもので
はないから,そのライセンスがオリジナル・インディアン社に由来する正当なもの
でない以上,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを用いた原
告各表示をもって,被控訴人の商品等表示を示すものということはできないのであ
り,被控訴人の商品等表示として周知性を取得し得るものではないというべきであ
る。
したがって,被控訴人(及びそのライセンスグループ)が使用する原告
各表示は,被控訴人(及びそのライセンスグループ)の商品等表示として,取引
者・需要者間に広く認識されているものと認めることはできない。
2 結論
以上によれば,被控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでも
なく理由がないことが明らかである。そこで,被控訴人の本訴請求を一部認めた原
判決を取り消し,被控訴人らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につ
いて,民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
裁判長裁判官 佐 藤 久 夫
裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 若 林 辰 繁
(別紙)
原告表示目録被告標章目録
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