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平成16(行ケ)103審決取消請求事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成16年12月20日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
特許法29条1項3号1回
キーワード 実施46回
審決25回
進歩性3回
刊行物2回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(行ケ)第103号 審決取消請求事件(平成16年12月6日口頭弁
論終結)
          判           決
     原 告     ウエキハウス株式会社
       訴訟代理人弁理士     吉井剛
       同           吉井雅栄
        被      告    特許庁長官 小川洋
       指定代理人    山田忠夫
       同           新井夕起子
       同           高木進
       同           岡田孝博
       同           伊藤三男
          主           文
 原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が不服2003-6号事件について平成16年2月10日にした審決
を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,平成9年12月26日,発明の名称を「家屋構築用パネル及び家屋
構築用パネルの製造方法並びに家屋構築用パネルを用いた家屋」(平成12年7月
24日付け手続補正書により「家屋構築用パネル,家屋構築用パネルの製造方法及
び家屋構築用パネルを用いた家屋」に補正)とする特許出願(特願平9-3611
77号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,平成14年12月5日に拒絶
の査定を受けたので,平成15年1月6日,これに対する不服の審判の請求をし,
同年2月5日付け手続補正書により本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請
求の範囲の記載等について補正をした。
 特許庁は,同請求を不服2003-6号事件として審理した上,平成16年
2月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,
同月19日,原告に送達された。
2 願書に添付した明細書(平成15年2月5日付け手続補正書による補正後の
もの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明
(以下「本願発明1」という。)の要旨
 家屋の柱,土台,鴨居,梁,束,垂木等の骨材に囲まれた空間部に嵌合して
該空間部を閉塞する家屋構築用パネルであって,該空間部に合わせた形状にして骨
材に当接する少なくとも一対の枠部材を有し,この一対の枠部材の内面にして該枠
部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝に
端部が嵌着されることで該溝間に一枚の平板が張設され,平板と枠部材とで形成さ
れる空間部に断熱材を設けたことを特徴とする家屋構築用パネル。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明1は,本件特許出願前に
日本国内において頒布された刊行物である登録実用新案第3025069号公報
(甲3,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許出願
は,拒絶すべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,引用発明の認定を誤った(取消事由1)結果,本願発明1と引用発
明との一致点の認定を誤り,かつ,本願発明1と引用発明との相違点を看過し,ま
た,本願発明1と引用発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2)もの
であるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
(1) 審決は,引用発明として,「家屋の柱,桁等の軸組材で形成される壁枠内
に嵌合して該壁枠内を閉塞する建築用パネルであって,該壁枠内に合わせた形状で
ある矩形形状の枠体を形成し軸組材に当接する二対の枠柱を有し,この二対の枠柱
の内面にして該枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設け
られ,この溝内に端部が嵌着されることで該溝間に一枚の構造用合板が張設され,
構造用合板と枠部材とで囲繞された範囲に断熱部材を設けた建築用パネル」(審決
謄本2頁第1段落)を認定した上,本願発明1と引用発明との一致点として,「家
屋の柱,土台,鴨居,梁,束,垂木等の骨材に囲まれた空間部に嵌合して該空間部
を閉塞する家屋構築用パネルであって,該空間部に合わせた形状にして骨材に当接
する枠部材を有し,この枠部材の内面にして該枠部材の表裏端縁双方から所定の距
離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝に端部が嵌着されることで該溝間に
一枚の平板が張設され,平板と枠部材とで形成される空間部に断熱材を設けた家屋
構築用パネル」(同3頁第1段落)を認定したが,誤りである。
(2) 引用発明は,正しくは,「一対の縦枠柱と一対の横枠柱とからなり,枠柱
の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に2枚の構造用合板が間柱により
分断された状態で張設されたパネル」と認定されるべきである。引用例(甲3)に
は,【図1】~【図4】に図示された実施例(以下「実施例1」という。)と,
【図5】及び【図6】に図示された別の実施例(以下「実施例2」という。)の二
つの実施例が開示され,審決が引用発明を認定する際に引用した段落【001
2】,【0013】は,実施例1に関する記載であり,実施例1は,【図4】から
明らかなとおり,構造用合板13が,縦枠柱11の表裏端縁双方から奥まった位置
にはなく,本願発明1「平板が枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった
位置にある」との構成を有しない。一方,実施例2は,実施例1と異なり,【図
6】から明らかなとおり,構造用合板13が,縦枠柱11の表裏端縁双方から奥ま
った位置にあり,この点において,本願発明1と一致し,審決は,実施例2から間
柱16を除いたものを,引用発明と認定したが,実施例2において,間柱16を除
くことはできない。すなわち,実施例2は,構造用合板13が,間柱16により分
断され,縦枠柱11間において,2枚設けられているものであり,強度上,間柱1
6を必須の構成としている。さらに,実施例2は,構造用合板と間柱とは単なる当
接であり,嵌着構造ではないため,横枠柱がないと強度的にパネルとならず,横枠
柱12を必須の構成とするものである。確かに,実施例2の【図6】のみを見て,
実施例2の技術的思想を考慮しなければ,間柱16を除くことは可能であり,これ
を除けば,本願発明1と同一のものとなるが,発明の進歩性判断においては,図面
上において,ある部材を除くことが可能であるとの理由で,その部材を除くことが
自明であるとすることは許されず,発明の技術的思想を考慮した上で,当該部材を
除くことが発明の技術的思想から逸脱しないか否かを検討して判断しなければなら
ない。これまで,当業界においては,一対の枠部材と該枠部材間に嵌着された一枚
の平板とからなる家屋構築用のパネルは存在しておらず,このような構造では強度
が発揮されないというのが当業者の共通認識であったのであるから,実施例2から
間柱16を除くことはできないというべきである。しかも,実施例2の間柱16を
除くと,構造用合板13は1枚となり,横枠柱12は必須ではなくなってしまい,
全く異なるパネルとなってしまう。したがって,実施例2において,間柱16を除
くことは,実施例2の技術的思想を逸脱し,許されない。さらに,実施例1と実施
例2とは,構造用合板の配設位置が異なるとともに,構造用合板と間柱の接合構造
も異なる別のパネルであり,上記段落【0012】,【0013】は,上記のとお
り実施例1に関しての記載であって,この記載を実施例2に及ぼし,実施例2から
間柱16を除くことは,許されないというべきである。
(3) 進歩性の判断において,特許公報から引用発明を認定する場合には,当該
特許公報の記載全体から具体的技術(実施例を中心に,まれには従来技術の項か
ら)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報の請求項に記載された内容を
引用発明とすることはできないというべきである。昭和56年6月1日建設省告示
第1100号(以下「建設省告示」という。)は,構造用合板を2枚を継ぎ合わせ
て使用する場合には,柱,間柱等が必須であることを規定している。したがって,
当業者は,構造用合板2枚を用いる場合には,当然「間柱」を設けることとなり,
建設省告示が存在する以上,これを取り除くことを想到することはない。
 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り)
(1) 審決は,本願発明1と引用発明との相違点として認定した,「本願発明1
では,少なくとも一対の枠部材を有しているのに対し,引用例記載の発明では,矩
形形状の枠体を形成する二対の枠柱を有している点」(審決謄本3頁第2段落,以
下「相違点」という。)について,「引用例記載の発明における枠柱を,本願発明
1のように少なくとも一対有するようにすることは,当業者が適宜なしうる程度の
ことにすぎない。そして,本願発明1によってもたらされる効果も,引用例記載の
発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別なものと
はいえない」(同第3段落~第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) 従来,一対の枠部材と該一対の枠部材間に嵌着された一枚の平板からなる
家屋構築用のパネルが存在していなかったことを考慮すると,相違点は,当業者が
適宜し得る程度のものではないことは明らかである。すなわち,本件特許出願前
は,枠部材が二対ないとパネルにはならないと考えられていたところ,本願発明1
は,一枚の構造用合板を,一対の枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まっ
た位置に,該枠部材の内面に設けた溝に嵌合して成るパネルは強度的に十分である
ことを確認してされたものであり,強度的に優れ,量産性にも優れたパネルとな
り,顕著な作用効果を奏するものである。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1) 引用例(甲3)の【請求項5】(【請求項1】を引用する【請求項4】を
引用している。)を,いわゆる独立項形式で記載すると,「柱,桁等の軸組材を組
んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さ
と一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形
形状に形成した枠体の内側面に溝を形成し,当該溝内に構造用合板を差し込んでパ
ネルを形成し,構造用合板の表裏いずれかの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さ
の断熱部材を装着してなることを特徴とする建築用パネル」となり,これは,審決
が認定した引用発明と実質的に同一である。
(2) 原告は,引用発明は,「間柱」を必須の構成としていると主張するが,引
用例(甲3)の各請求項は,「間柱」について何ら言及していない上,実施例1に
関して,「必要に応じて間柱16を設けたり・・・してなるものである」(段落
【0012】)と記載され,「間柱」は,あくまで付加的なものとして記載されて
いる以上,実施例2に関しても,直接的記載はないものの,「間柱」が必要に応じ
て設けられる付加的なものであることは,当業者に明らかな事項である。
 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り)につ
いて
 本願発明1は,「少なくとも一対の枠部材を有」するものであり,枠部材が
一対だけのパネル及び枠部材を二対有するパネルの2態様を含むものであって,枠
部材を二対有するパネルは,引用発明のパネルと何ら実質的な差異を有しない。ま
た,一対の枠柱だけから成るパネルが,強度的にパネルとはならないとはいえず,
当業者にそのような共通認識があったということもできない。仮に,一対の枠柱だ
けから成るパネルが,強度を有していないとすれば,本願発明1の2態様のうち,
枠部材が一対だけのパネルは,強度を有していないことになり,発明として成り立
たないことになる。本願発明1が発明として成立するのであれば,一対の枠部材だ
けから成る態様のものは,二対の枠部材を有する態様のものより強度的に劣ること
が自明であり,この場合,強度を向上させる何らの工夫もされていない本願発明1
は,その程度の強度で十分であるとした発明にすぎない。一方,引用発明で使用さ
れている「構造用合板」は,柱,梁等の木造建築物の軸組に取り付けたときに,軸
組と協働して,家屋に加わる外力に対抗する要素となることは,建築分野において
古くから知られた技術常識である。したがって,枠部材が一対だけしか存在しなく
ても,すなわち,引用発明のパネルから一対の枠材を取り除いても,所定の強度を
有するようにし得ることは,当業者に明らかな事項であるから,「(注,枠部材
を)少なくとも一対有するようにすることは,当業者が適宜なしうる程度のことに
すぎない」(審決謄本3頁第3段落)とした,審決の相違点の判断に,何らの誤り
もない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1) 原告は,引用例(甲3)には,【図1】~【図4】に図示された実施例1
と,【図5】及び【図6】に図示された実施例2の二つの実施例が開示されてお
り,審決は,実施例2から間柱16を除いたものを,引用発明と認定したが,実施
例2において,間柱16を除くことはできないから,引用発明は,正しくは,「一
対の縦枠柱と一対の横枠柱とからなり,枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥
まった位置に2枚の構造用合板が間柱により分断された状態で張設されたパネル」
と認定されるべきであると主張する。
(2) そこで,引用例(甲3)をみると,【従来の技術】について,(ア)「枠
状部分に嵌合するパネル体を予め工場内で製作しておき,このパネル体を構築現場
に持ち込み,所定の箇所に組み込む工法が採用されてきた(実開平7-00461
3号公報)」(段落【0004】)との記載が,【考案が解決しようとする課題】
について,(イ)「木造軸組工法において,パネルを使用する場合には,最初に軸
組となる土台,柱,梁,胴差し等を連結し,そして予め製作していたパネル体を組
み込むものである。このパネル体は,木柱を以て矩形枠とし,その矩形枠に構造用
合板を釘で固定しているもので,後の外壁の構築並びに内壁の構築等からパネル体
の厚みは,軸組材の太さと一致しているのが好ましい。このため,矩形枠の一面側
に構造用合板を張着してなるパネル体に於いては,当然構造用合板の厚み分だけ幅
の狭い木材を使用する必要がある。しかし通常の木材料は,軸組材の柱の太さを基
準にして,規格化されている。そうすると,従前のパネル体は,その矩形枠の形成
に際して,構造用合板の厚み分だけ除去する必要があり,またその除去分は他への
転用が難しい薄さ及び幅の木材となる。そこで本考案(注,引用発明)は,多用さ
れる木材をそのまま使用して木材の無駄をなくした新規な建築用パネルを提案した
ものである」(段落【0005】~【0007】)との記載が,【課題を解決する
ための手段】について,(ウ)「本考案に係る建築用パネルは,柱,桁等の軸組材
を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の
太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される
矩形形状に形成した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化し
てなることを特徴とするものである。また前記のパネルに於いて構造用合板の張着
構造を,枠柱の内側角縁に凹部を形成したり,枠柱の内面側に溝を形成し,当該凹
部内や溝内に構造用合板を配置したり,更に構造用合板表裏面の枠柱で囲繞された
範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴とするものである。従って前
記の建築用パネルは,枠柱に軸組材の太さと同一の幅のものを使用することがで
き,材料の無駄が少なくてすむことになる」(段落【0008】~【0010】)
との記載が,【考案の効果】として,(エ)「以上のように本考案は,木造軸組建
築に於いて,柱等の軸組構造体で形成される矩形枠部分内に嵌合装着する建築用パ
ネルを,特にパネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内
に,構造用合板を表裏に突出させず張着したもので,枠柱に軸組材と同一の規格材
を使用することで,その製造の効率化と材料の無駄を少なくしたものである」(段
落【0016】)との記載が,【考案の実施形態】として,(オ)「枠体を形成し
た後に前記凹部14,15に構造用合板13を嵌め込み,釘着によって一体化する
ものである。また必要に応じて間柱16を設けたり,構造用合板13の裏面の枠体
で囲繞された箇所に,断熱部材17を装着してなるものである」(段落【001
2】),(カ)「軸組材2,3を用いて木造家屋の軸組を構築した後,従前の間柱
や筋交いを不要とし,建築パネル1を軸組材で形成される矩形枠状部分Aに嵌合し
て釘着し,当該箇所を耐力壁等とするものである」(段落【0013】),(キ)
「本考案は,枠柱11,12に軸組材2,3と同様の規格のものを採用すれば良い
ものであるから,図5,6に例示するように,凹部14,15の代わりに枠柱1
1,12の内側面に,構造用合板13が嵌合可能な溝18を形成し,枠体の組み立
てと同時に構造用合板13を組み込む必要がある」(段落【0015】)との記載
がある。また,【図1】~【図4】には,縦枠柱11,横枠柱12の凹部に,構造
用合板13をはめ込んだ実施形態である実施例1が,【図5】及び【図6】には,
縦枠柱11,横枠柱12の内側面に溝18を形成して構造用合板13を組み込んだ
別の実施形態である実施例2が図示されている。
(3) 引用例(甲3)の上記記載(ア)~(エ)によれば,引用例記載のパネル
は,パネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内に,構造
用合板を表裏に突出させないように張着することによって,製造の効率化と材料の
無駄を省くようにすることを技術的思想としたものであり,また,上記記載(キ)
によれば,構造用合板13を表裏に突出させないように張着するための具体的態様
として,枠体の凹部14,15に構造用合板13をはめ込むこと,枠体11,12
の内側面に溝18を形成して構造用合板13を組み込むことが,任意に選択して採
用されるものであることが認められる。他方,上記記載(オ)によれば,間柱16
や断熱部材17は,必要に応じて設けられるものであって,構造用合板13を表裏
に突出させないように張着するために必要不可欠のものではないことが明らかであ
り,これらを設けるか設けないかは,任意に決定されるものである。原告は,審決
が引用発明を認定する際に引用した段落【0012】,【0013】(上記記載
(オ),(カ))は,実施例1に関する記載であると主張するが,引用例には,上
記記載(オ),(カ)が,実施例1のみに妥当するとの説明はないし,上記した,
パネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内に,構造用合
板を表裏に突出させないように張着することによって,製造の効率化と材料の無駄
を省くようにするとの引用例の技術的思想に照らし,いずれの実施例においても,
間柱16は,必須の構成要素ではないというべきである。そうすると,上記引用例
の記載全体から,構造用合板を表裏に突出させないように張着するものとして,枠
体11,12の内側面に溝18を形成して一枚の構造用合板13を組み込むととも
に,断熱部材17を設けたものが想定され,これを,一つの独立した技術的思想と
して把握することができる。
(4) また,引用例の【請求項5】は,「請求項4記載の建築用パネルに於い
て,構造用合板の表裏いずれかの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材
を装着してなることを特徴とする建築用パネル」(2頁左欄),その引用する【請
求項4】は,「請求項1の建築用パネルに於いて,枠柱の内側面に溝を形成し,当
該溝内に構造用合板を差し込んでパネルを形成してなることを特徴とする建築用パ
ネル」(同),その引用する【請求項1】は,「柱,桁等の軸組材を組んで家屋を
建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さと一致する
厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形形状に形成
した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化してなることを特
徴とする建築用パネル」(同)であるから,【請求項5】には,「柱,桁等の軸組
材を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材
の太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合され
る矩形形状に形成した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化
してなり,枠柱の内側面に溝を形成し,当該溝内に構造用合板を差し込んでパネル
を形成してなることを特徴とする建築用パネルに於いて,構造用合板の表裏いずれ
かの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴と
する建築用パネル」との構成が記載されていることとなる。そして,上記技術的思
想に従い,上記【請求項5】を読めば,同請求項には,審決が認定した引用発明
「家屋の柱,桁等の軸組材で形成される壁枠内に嵌合して該壁枠内を閉塞する建築
用パネルであって,該壁枠内に合わせた形状である矩形形状の枠体を形成し軸組材
に当接する二対の枠柱を有し,この二対の枠柱の内面にして該枠柱の表裏端縁双方
から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝内に端部が嵌着される
ことで該溝間に一枚の構造用合板が張設され,構造用合板と枠部材とで囲繞された
範囲に断熱部材を設けた建築用パネル」(審決謄本2頁第1段落)の構成が,実質
的にすべて記載されていると認められる。
(5) これに対し,原告は,進歩性の判断において,特許公報から引用発明を認
定する場合には,当該特許公報の記載全体から具体的技術(実施例を中心に,まれ
には従来技術の項から)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報の請求項
に記載された内容を引用発明とすることはできないと主張する。しかしながら,特
許法29条1項3号の「刊行物」が特許公報である場合において,当該特許公報か
ら引用発明を認定するに当たって,「特許請求の範囲」の記載だけでなく,「発明
の詳細な説明」の記載及び「図面」の図示を含む全記載から一つの独立した技術的
思想を抽出し,それを具体的な構成で表現したものとして当該発明を認定すること
ができることは当然のことであり,原告主張のように,具体的技術(実施例を中心
に,まれには従来技術の項から)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報
の請求項に記載された内容を引用発明とすることはできないと解さなければならな
い理由はない。また,原告は,当業者は,構造用合板2枚を用いる場合には,当然
「間柱」を設けることとなり,建設省告示が存在する以上,これを取り除くことを
想到することはないとも主張するが,引用例(甲3)の記載によれば,間柱16は
必要に応じて設けられるものであって,これを設けるか設けないかは,任意に決定
されるものであることは上記のとおりである。原告の上記主張は,引用発明が,実
施例2の記載どおりに認定されることを前提とし,これから間柱16をとり除く
と,建築用合板が2枚となる不都合が生じるというものであるが,引用例の記載か
らは,もともと間柱16を有していない上記引用発明が認定できるのであるから,
その前提において誤りであり,採用することができない。
(6) 以上検討したところによれば,審決の引用発明の認定に原告主張の誤りは
なく,原告主張の取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り)につ
いて
(1) 原告は,本件特許出願前は,枠部材が二対ないとパネルにはならないと考
えられていたところ,本願発明1は,一枚の構造用合板を,一対の枠部材の表裏端
縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に,該枠部材の内面に設けた溝に嵌合して
成るパネルは強度的に十分であることを確認してされたものであり,強度的に優
れ,量産性にも優れたパネルとなり,顕著な作用効果を奏するものであると主張す
る。
(2) しかしながら,本願発明1は,「空間部に合わせた形状にして骨材に当接
する少なくとも一対の枠部材を有」するものであるから,枠部材は一対とは限ら
ず,二対の枠部材を有することを排除するものではなく,原告の上記主張は,本願
発明1の要旨に基づかないものであり,失当というほかない。
  なお,特開平9-279761号公報(甲5)には,「図9は本発明に係
る構造用パネルの第2実施形態を示す斜視図である。この実施形態に示された構造
用パネル10Bは屋根パネル13に適したパネルであるが,床パネル14や壁パネ
ル12としても適用できる。この構造用パネル10Bは矩形形状の面材24に同じ
く矩形形状の断熱補強体25を接合し,一体化したものである」(段落【007
4】~【0075】),「構造用パネル10Bは機械的・物理的強度を増大させ,
剛性を高めるために,断熱補強体25に3本の補強材28が補強桟として用いられ
る」(段落【0076】),「構造用パネル10Bを壁パネル12として用いたと
き,壁パネル12は図13に示すように柱(管柱)17に突き合せて設けても,ま
た図14に示すように柱17の係合溝30に壁パネル12の凸側係合段部35aを
挿入して嵌合させ,凹凸嵌合させることにより固定させてもよい」(段落【008
5】),「なお,本発明の各実施形態においては,パネル本体を構成する断熱補強
体を矩形形状に構成し,1本ないし3本の細長い補強材を長手方向に平行に設置し
た例を示したが,補強材の設置本数は1本ないし3本に限定されず,種々の応用が
考えられる」(段落【0159】)と記載され,また,【図9】,【図13】及び
【図14】には,補強材28及び発泡体29から成る断熱補強体25と面材24と
から成る構造用パネル10Bが図示されている。これらの記載及び図示によれば,
一対の枠部材(二本の補強材28)と一枚の平板(面材24)とから成る家屋建築
用パネルは,本件特許出願前に公知のものであったことが認められ,上記公知のパ
ネルは,一対の枠部材間に嵌着された一枚の平板とから成るものではないが,一対
の枠部材と一枚の平板とで,家屋建築用パネルを形成するものであるから,本件特
許出願前,当業者は,一対の枠部材と一枚の平板とで,パネルとしての必要な強度
が発揮され得ることは,十分認識していたものと認められる。そうであれば,引用
発明において,枠柱を一対有するようにすることも,当業者が適宜設計変更し得る
ことということができ,また,これによりもたらされる効果も,当業者が予測する
ことができる程度のものである。
(3) したがって,審決の相違点の判断に,原告主張の誤りはなく,原告主張の
取消事由2も理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官    篠  原  勝  美
      裁判官    岡  本     岳
       裁判官     早  田  尚  貴

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