平成15(ワ)14683損害賠償請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成16年11月29日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
|
キーワード |
侵害29回 特許権13回 損害賠償6回 審決1回
|
主文 |
|
事件の概要 |
|
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成15年(ワ)第14683号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成16年8月26日
判 決
原 告 A
訴訟代理人弁護士 岡林俊夫
被 告 B
被 告 C
被告ら訴訟代理人弁護士 野間自子
同 江端重信
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して金2000万円及びこれに対する平成13
年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告は,被告らが無断で原告の有する著作物の複製物を作成し,これを第三
者に提供したこと,原告のMTテープを窃取したこと及び特許権を騙取しようと企
てたことにより損害を被ったとして,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償を
求めた。
2 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 当事者
原告は,平成8年6月3日,コンピュータ及びネットワーク上のセキュリ
ティ技術を商品化することなどを業とする町田技研株式会社(以下「町田技研」と
いう。)を設立し,同社の代表取締役を務め,かつ,技術部門の業務を担当してい
た。
被告Bは,平成9年5月30日以降,町田技研の代表取締役を務め,か
つ,営業部門の業務を担当していた(甲23,24,乙1)。
被告Cは,町田技研の従業員として技術部門の業務を担当していた。
(2) 本件各プログラム
以下の①ないし⑤の各プログラム(以下,順次「本件プログラム①」,
「本件プログラム②」などといい,併せて「本件各プログラム」という。)は,コ
ンピュータ及びネットワーク上の暗号化セキュリティソフトウェアに関するソース
プログラムである。
① Justice-1 SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:MACHIDA.H
② Justice-1 SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:JST_KAC.H
③ KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:INTFC8.H
④ KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:AUTOSUB.C
⑤ KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:SEQRTY.CPP
平成13年4月から同年7月ころの間,町田技研の渋谷営業所には,パソ
コン(DELL社製 PowerEdge2400 S/N:XRSWZ 86502 以下「パソコン<86502
>」という。)が設置されており,本件各プログラムは,パソコン<86502>
内に保存されていた。
第3 争点(不法行為の成否及び損害額)に関する当事者の主張
(原告の主張)
原告の要件事実に関する主張は,かならずしも明らかでないが,おおむね,以
下のとおり,整理できる。
1 本件プログラムについての原告の著作権等の取得
原告は,平成4年1月1日に本件プログラム①を,平成5年1月7日に本件
プログラム②を,平成6年12月1日に本件プログラム③を,平成11年4月12
日に本件プログラム④を,平成11年11月3日に本件プログラム⑤を作成し,本
件各プログラムの著作権を取得した(なお,同プログラム②については平成7年3
月10日に,同プログラム③については平成9年5月25日に,それぞれ,アップ
デートされている。)。
2 被告らの不法行為
(1) 著作権及び著作者人格権侵害
ア 複製権侵害
(ア) 原告は,平成13年7月5日ころ,被告Cに,MTテープ1本にパ
ソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取るよう指示し
た。ところが,被告Cは,被告Bと共謀して,更にもう1本のMTテープにパソコ
ン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取り,そのMTテープ
を自ら保管し続けている(以下「本件MTテープ」という。)。被告らのバックア
ップ行為は,本件各プログラムについて原告の有する複製権の侵害に当たる。
(イ) 被告らは,共謀の上,平成13年7月5日から同月31日までの間
に,被告らが本件MTテープにバックアップを取った本件各プログラム等を,原告
らによってデータ等の消去されたパソコン<86502>にインストールした。被
告らのインストール行為は,本件各プログラムについて原告の有する複製権の侵害
に当たる。
(ウ) 被告らは,共謀の上,平成13年7月31日から同年11月23日
までの間に,町田技研渋谷営業所において,パソコン<86502>の代わりにサ
ーバーとして設置していたパソコン(DELL社製 PowerEdge2400S/N:XRSWZ 85882
以下「パソコン<85882>」という。)に本件MTテープにバックアップを取
った本件各プログラム等をインストールした。被告らのインストール行為は,本件
各プログラムについて原告の有する複製権の侵害に当たる。
イ 著作者人格権侵害
(ア) 公表権侵害
a 被告らは,原告の承諾を得ずに,本件プログラム①及び⑤を複製した
パソコン<86502>を株式会社シールズ(以下「シールズ」という。)に引き
渡した。シールズは,本件各プログラムにわずかな変形を加えて「skdk.dll」とい
うプログラムを作成し,「Safety Key 21 Personal for Windows」というソフトウ
ェア製品の製造・販売を始めた。
被告らが,シールズと共謀して,上記ソフトウェア製品を製造・販売
した行為は,本件プログラム①及び⑤について原告が有する公表権の侵害に当た
る。
b 被告Bは,原告の承諾を得ずに,技研商事インターナショナル株式会
社(以下「技研商事」という。)に対し,本件MTテープを引き渡すことによって
本件プログラム④を提供し,その見返りとして同社の顧問となった。技研商事は,
同被告と共謀の上,原告の承諾を得ずに,本件プログラム④に若干の変形を加
え,「aaaabc.txt.exe」というプログラムを作成し,「秘文」というソフトウェア
製品の製造・販売を始めた。
同被告が,技研商事と共謀して,上記ソフトウェア製品を製造・販売
した行為は,本件プログラム④について原告の有する公表権の侵害に当たる。
(イ) 氏名表示権侵害
被告らは,シールズと共謀の上,「Safety Key 21 Personal for
Windows」というソフトウェア製品を販売した際,著作権者である原告の氏名を表示
しなかった。被告らの上記行為は,原告の有する氏名表示権の侵害に当たる。
また,被告Bは,技研商事と共謀の上,「秘文」を販売した際,著作権
者である原告の氏名を表示しなかった。同被告の上記行為は,原告の氏名表示権の
侵害に当たる。
(ウ) 同一性保持権侵害
前記(ア)aのとおり,被告らは,シールズと共謀の上,原告の承諾を得
ずに,本件プログラム①及び⑤に改変を加えた。被告らの行為は,原告の有する同
一性保持権の侵害に当たる。
また,前記(ア)bのとおり,被告Bは,技研商事と共謀の上,原告の承
諾を得ずに,本件プログラム④に改変を加えた。同被告の行為は,原告の有する同
一性保持権の侵害に当たる。
(2) MTテープの窃取
原告は,自ら費用を出して,被告Cに対して,MTテープ(FUJIFILM社
DDS Data Cartridge DG4-150 1本5000円)を14本購入させ,パソコン<8
6502>内の各種データ及び本件各プログラムを含むソースプログラム等(以下
「本件各プログラム等」という。)のバックアップを取るように指示した。原告
は,バックアップを取ったMTテープ9本については,同被告から受け取って保管
している。しかし,被告Cは,残りの5本のMTテープについては,被告Bと共謀
して保管している。被告らの行為は,MTテープ5本の窃取に当たる。
(3) 特許権騙取の企て
原告は,「セキュリティ構築方法」(特願平7-044515)及び「電
子認証方式」(特願平11-324712)の2件の特許を出願した。被告Bは,
平成13年8月ころ,特許権を騙取しようと企て,原告名義の譲渡証書を偽造して
弁理士Dに提出し,上記特許出願の出願名義人を町田技研に変更しようとした。
また,被告Bは,この企てが原告に知られることをおそれ,弁理士からの
町田技研あての郵便物が株式会社テイクファイブ(以下「テイクファイブ」とい
う。)に転送されるように,虚偽の転送届を渋谷郵便局に提出した。
3 原告の損害
(1) 本件プログラム①及び⑤の複製権侵害による損害額
シールズは,被告らから,本件プログラム等をインストールしたパソコン
<86502>の引渡しを受けることにより,本件プログラム①及び⑤の提供を受
け,被告らと共謀の上,ソフトウェア「Safety Key 21 Personal for Windows」を
製造・販売し,多額の利益を得た。その金額は,1億円を下らない。
したがって,同金額は,本件プログラム①及び⑤の複製権侵害によって原
告が被った損害であると推定される。
(2) 本件プログラム④の複製権侵害による損害額
ア 被告Bは,技研商事に対し,本件MTテープを引き渡すことによって本
件プログラム④を提供し,その見返りとして同社の顧問となった。被告Bが平成1
3年10月以降,技研商事から受け取る顧問料は,年間1200万円を下らない。
したがって,平成13年10月以降,被告Bが技研商事から受け取って
いる年間1200万円を下らない顧問料が,本件プログラム④の複製権侵害によっ
て被告Bが得た利益である。よって,同金額が本件プログラム④の複製権侵害によ
り原告が被った損害と推定される。
イ また,被告Cは,本件プログラム④を本件MTテープに複製し,これを
被告Bに渡したことの見返りとして,同被告から就職口を斡旋され,平成13年8
月,株式会社ジンテック(以下「ジンテック」という。)に就職した。被告Cがジ
ンテックから受け取る賃金は,年間700万円を下らない。
したがって,被告Cが平成13年8月以降,ジンテックから受け取って
いる年間700万円を下らない賃金が,本件プログラム④の複製権侵害行為によっ
て得た利益である。よって,この金額は,原告の被った損害であると推定される。
ウ さらに,技研商事は,被告Bから本件プログラム④の複製された本件M
Tテープの提供を受け,被告らと共謀の上,「秘文」等のソフトウェアを製造・販
売し,多額の利益を得た。その金額は1億円を下らない。
したがって,この金額は,原告の被った損害であると推定される。
(3) MTテープの窃取による損害額
前記のとおり,被告Cは,原告のMTテープ5本を窃取した。これによ
り,原告は,合計2万5000円の損害を被った。
(4) 特許権騙取による損害額
被告Bの前記2(3)の行為により,特許庁からの書類が原告の下に送達され
ず,原告は「セキュリティ構築方法」の特許権を取得することができなかった。こ
の特許権の評価は,少なくとも1億円を下らない。また,この特許出願のために,
200万円の費用がかかった。さらに,被告Bの上記行為により,原告は,「電子
認証方式」の特許権を取得するのに1年程度の遅れを生じ,これにより,原告に
は,追加の弁理士費用及び精神的な慰謝料として,100万円の損害が生じた。被
告Bの不法行為により,原告は,合計1億300万円の損害を被った。
(被告らの認否・反論)
1 本件各プログラムについての原告著作権等の取得
本件各プログラムの著作権者が原告であることは否認する。本件各プログラ
ムは,被告C,原告及び訴外Eが,町田技研の技術担当者として,その職務上作成
した著作物である。したがって,町田技研が,本件各プログラムの著作権を取得し
た。
2 不法行為の不存在
(1) 本件各プログラムのバックアップについて
被告Cが,パソコン<86502>内の本件各プログラム等について,M
Tテープにバックアップを取ったことは認める。パソコン内のデータやプログラム
等は,突如失われる危険性があることから,バックアップは,そのような事態に備
えて業務上不可欠な行為として,通常行われ,また行われるべきものであり,被告
Cも業務遂行上の当然の義務としてバックアップを取ったにすぎない。
被告Cが本件各プログラム等のバックアップを取ったMTテープは,町田
技研の所有するものであり,被告Cは,バックアップを取った後,そのMTテープ
を町田技研に返却した。
被告らが本件プログラム①及び⑤をシールズに提供した事実はない。ま
た,被告Bが本件プログラム④を技研商事に提供した事実はない。
原告の有する複製権侵害,公表権侵害,氏名表示権侵害,同一性保持権侵
害に関する主張はすべて争う。
シールズが製造・販売する「Safety Key 21 Personal for Windows」は,
本件各プログラムを使用した「鍵太郎」とは全く異なるソフトウェア製品であり,
本件プログラム①及び⑤を改変したものではない。また,技研商事が製造・販売す
る「秘文」は,技研商事が独自に開発したものであり,本件プログラム④を改変し
たものではない。
(2) MTテープの窃取について
被告Cが原告のMTテープ5本を窃取したことは否認する。
(3) 特許権騙取の企てについて
争う。
3 原告の損害
争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件各プログラムの著作権の帰属及び各不法行為の成否
(1) 原告は,本件各プログラムの著作権を原告が取得したこと,被告らが共謀
してパソコン<86502>内の本件各プログラム等をMTテープに複製し,この
MTテープから本件各プログラム等を再びパソコン<86502>に複製し,さら
に,このMTテープから本件各プログラム等をパソコン<85882>に複製した
行為が,本件各プログラムについて原告が有する複製権を侵害することを主張す
る。この点について,判断する。
(2) 事実認定
前記争いのない事実,証拠(乙5ないし8,12,20。なお,枝番号の
記載は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,町田技研は,コンピュータ及びネ
ットワーク上の暗号化セキュリティソフトウェア製品である「鍵太郎」シリーズを
製作し,販売することを主な業務とする会社であること,本件各プログラムは,
「鍵太郎」シリーズのソースプログラムの一部であること,町田技研における技術
担当者は,原告,被告C及び訴外Eの3名であり,これら3名の者が「鍵太郎」シ
リーズの開発に従事していたこと,平成13年4月から同年7月ころ,町田技研渋
谷営業所にはパソコン<86502>が設置されており,同パソコン内に本件各プ
ログラム等が保存されていたこと,被告Cは,同年7月5日ころ,MTテープにパ
ソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取ったこと,以上
の事実が認められる。
(3) 判断
上記(2)の事実を基礎に判断する。
ア まず,原告は本件各プログラムの著作権を有する旨主張するが,本件各
プログラムは,原告,被告C及びEが,町田技研の技術担当者として,その職務上
作成した著作物である可能性を否定できないから,原告が本件各プログラムについ
て著作権を取得したとは認められない。したがって,被告らの複製行為が適法にさ
れたか否かにかかわらず,原告の主張は失当である。
イ 次に,被告Cは,平成13年7月5日ころ,パソコン<86502>内
の本件各プログラムをMTテープに複製したことが認められる。
しかし,被告Cは町田技研の技術担当者であり,自らが開発担当をして
いた「鍵太郎」シリーズのソースプログラムの一部である本件各プログラムのバッ
クアップを取るために上記MTテープへの複製行為を行ったものであること,パソ
コン内に保存された重要なデータやプログラム等について,不慮の事故に備えるた
め,バックアップを取ることは広く一般に行われていることであり,町田技研のよ
うなソフトウェア製品の開発会社であれば,重要なデータやプログラム等のバック
アップを取ることは当然に行われるべき業務行為であるといえること,原告は,原
告が被告Cに対し,パソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアッ
プを依頼した旨主張していること等の事実に照らすならば,被告Cが本件各プログ
ラムをMTテープに複製した行為は,同被告の町田技研における担当業務の一環と
して行われた適法な行為であると認められるから,不法行為を構成しない。また,
被告Cが上記MTテープへの複製行為を行った他に,被告らが本件各プログラムの
複製行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告の主張に対する付加判断
ア 上記(3)イの判断に関して,原告は,以下のとおり主張する。すなわち,
① 技研商事の製造・販売する「秘文」の中のプログラ
ム「aaaabc.txt.exe」の一部(甲25)と本件プログラム④の中
の「kagidec.skg2.exe」の一部(甲26)とが全く同一であることから,被告らが
本件プログラム④のバックアップを作成して技研商事に提供したことが推認され
る。
② シールズの製造・販売する「Safety Key 21 Personal for Windows」
の中のプログラム「skdk.dll」の一部と本件プログラム①又は⑤の中
の「newlib2.dll」の一部とが全く同一である(甲31の1ないし24)ことから,
被告らが本件プログラム①及び⑤をインストールしたパソコン<86502>をシ
ールズに提供したことが推認される。
イ しかし,原告の上記各主張は,以下のとおり失当である。
(ア) まず,原告は,本件プログラム④として甲39を提出するところ,
原告の主張によっても本件プログラム④とこれに含まれるとする上
記「kagidec.skg2.exe」との関係が明らかでなく,上記「kagidec.skg2.exe」が本
件プログラム④の中にあるのかどうか不明というほかない。また,「秘文」は暗号
技術を用いた日立ソフト社のものであり(甲19),原告ないし技研商事が開発し
たものではなく,同社は「秘文」を販売しているだけであるか
ら,「aaaabc.txt.exe」と「kagidec.skg2.exe」とで一致する部分があるとして
も,それが,被告らが本件プログラム④を技研商事に提供したことによるものとは
考えられない。
以上によれば,原告の上記①の主張は採用できない。
(イ) また,甲6及び弁論の全趣旨によれば,シールズが平成13年7月
31日ころ,町田技研渋谷営業所から約6台のパソコンを借り出したことが認めら
れるが,この中にパソコン<86502>が含まれていたことを認めるに足りる証
拠はない。
また,原告は,本件プログラム①及び⑤として,甲36及び甲40を
提出するが,原告の主張によっても,本件プログラム①又は⑤とこれに含まれると
する上記「newlib2.dll」との関係が明らかでなく,上記「newlib2.dll」が本件プ
ログラム①又は⑤の中にあるのかどうかも不明というほかない。さらに,原告が甲
31の一部すると主張する部分も,プログラムの著作物といえる部分かどうかも不
明である。
以上によれば,原告の上記②の主張も採用できない。
(5) 以上のとおりであるから,原告が本件各プログラムの著作権を有するとは
認められず,また,被告らの行為が,本件各プログラムを違法に複製したことを理
由とする不法行為を構成するとは認められない。したがって,原告の複製権侵害を
理由とする損害賠償請求は失当である。
また,原告は,被告らが本件各プログラムについての公表権,氏名表示権
及び同一性保持権を侵害したとも主張する。しかし,原告の請求は,被告らの本件
各プログラムのバックアップ行為等が違法であることを前提とするものであるか
ら,上記判断したとおり,原告の公表権,氏名表示権及び同一性保持権の侵害を理
由とする損害賠償請求は失当である。
2 その他の不法行為の有無について
(1) MTテープの窃取について
原告は,被告Cが原告のMTテープ5本を窃取した旨主張するが,これを
認めるに足りる証拠はないから,被告CがMTテープを窃取したことを理由とする
原告の損害賠償請求は理由がない。
(2) 特許権の騙取について
原告は,被告Bが原告の特許出願に係る特許権を騙取しようと企て,これ
により原告は損害を被ったと主張する。
ア 事実認定
証拠(甲20ないし22,46ないし49,52,54ないし57)及
び弁論の全趣旨によれば,被告Bは,町田技研の代表取締役社長として,平成13
年8月8日,出願番号平11-324712に係る特許出願について,同日付の原
告から町田技研に対する出願人名義変更届及び原告名義の譲渡証書を弁理士Dあて
に送付し,出願人の名義変更を依頼したこと,町田技研は,同年8月ころより事業
の継続が困難となり,事業活動を停止していたこと,そのため,被告Bは,同年1
0月から技研商事及びテイクファイブの顧問などの業務を行うようになったこと,
被告Bは,渋谷郵便局に対し,平成13年12月10日,町田技研宛の郵便物を港
区(以下省略)のテイクファイブに転送する旨の転送届を提出したこと,特許庁審
査官は,特願平7-044515に係る特許出願について拒絶査定をし,これに対
して原告は審判請求をしたが,特許庁審判官は,審判請求が成り立たない旨の審決
をし,これが確定したこと,以上の事実が認められる。
イ 判断
上記のとおり,被告Bは,特願平11-324712に係る特許出願に
ついて,出願人名義変更届等を弁理士に送付して出願名義人の変更を依頼したこと
が認められるが,これにより原告に何らかの損害が生じたことを認めるに足りる証
拠はない。
また,被告Bは,渋谷郵便局に対し,町田技研あての郵便物をテイクフ
ァイブに転送する旨の転送届を提出したが,町田技研は,平成13年8月ころより
事業活動を停止しており,同被告は町田技研の代表取締役社長ではあったが,同年
10月よりテイクファイブの顧問等の業務をしていたのであるから,町田技研あて
の郵便物を顧問先であるテイクファイブに転送するようにしたとしても,これが不
法行為を構成するとは認められない。さらに,上記のとおり,特願平7-0445
15に係る特許出願は拒絶査定され,これが確定したことにより,原告は同特許出
願について特許権を取得できなかったのであるから,被告Bが郵便物の転送届を提
出したことと上記特許出願について原告が特許権を取得することができなかったこ
との間には何らの因果関係も存在しないというべきである。
以上のとおりであるから,被告Bが特許権を騙取しようとしたことを理
由とする原告の損害賠償請求は,理由がない。
3 結語
以上の次第で,原告の請求は,いずれも理由がない。よって,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 榎 戸 道 也
裁判官山田真紀は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
最新の判決一覧に戻る