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平成15(行ケ)435審決取消請求事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成16年9月29日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決12回
分割3回
優先権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(行ケ)第435号 審決取消請求事件
平成16年9月29日判決言渡,平成16年9月15日口頭弁論終結
     判    決
 原      告  エルジー フィリップス エルシーディー カンパニー リミ
テッド
 訴訟代理人弁理士  岡部正夫,加藤伸晃,朝日伸光
 被      告  特許庁長官 小川洋
 指定代理人     東森秀朋,下野和行,内田正和,高橋泰史,大橋信彦,井
出英一郎
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が不服2001-6543号事件について平成15年5月20日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 本件は,平成10年特許願第247944号「バス圧縮装置,バス伸張装置,デ
ータ中継装置及び液晶表示装置」拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審
決の取消訴訟である。
 特許出願人はエルジー電子株式会社であり,1998年2月25日大韓民国にお
いてした特許出願に基づく優先権を主張して平成10年9月2日に出願したが(平
成10年特許願第247944号),原告が特許を受ける権利を譲り受け,平成1
1年9月30日,本件につき出願人名義変更届出をした。
 平成13年1月16日拒絶査定があったので,原告は同年4月24日拒絶査定不
服の審判請求をしたが(不服2001-6543号),平成15年5月20日に審
判請求不成立の審決があり,その謄本は同年6月2日原告に送達された。
 2 本願発明(請求項1に係る発明)の要旨
【請求項1】 ビデオデータを液晶表示装置に伝送するためのデータ中継装置であ
って,
 入力されるビデオデータのビットデータストリームラインなどにそれぞれ連結さ
れると共に,互いに1/2n(nは正数)の抵抗値の差を有する抵抗などを具備して
それぞれのビットデータストリームライン上のビットデータの値をアナログ信号値
に変換して,これらアナログ信号値をワイヤード加算して前記ビデオデータに対応
するアナログビデオ信号を出力するデータ圧縮手段と,
 前記アナログビデオ信号を入力に受けて前記アナログビデオ信号の電圧レベルに
対応するビデオデータに変換して前記液晶表示装置に供給するデータ伸張手段と,
 を備えるデータ中継装置。
 3 審決の理由の要点
 (1) 引用文献
 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開昭64-14631号公報。本
訴甲第4号証)には,次の事項が記載されている。
「情報転送のためのバス接続方式において,転送すべきnビットの2進情報をm組
に分け(m<n),それぞれの組のl(l≧2)ビットの情報を2l通りのレベルを
もつ多値レベルのアナログ信号に変換し,該アナログ信号を各組毎に対応する1本
の信号線を介して転送し,再びlビットの情報に逆変換することを特徴とするアナ
ログバス接続方式。」(1頁左下欄5行~12行)
「[問題点を解決するための手段]
 本発明によれば,前記目的は,データ処理装置やメモリ装置内に,DA(ディジ
タル-アナログ)変換器及びAD(アナログ-ディジタル)変換器を備え,相互間
を接続するバスの信号線上に多値レベルのアナログ信号を伝送することによって達
成される。
 [作用]
 データ処理装置,入出力装置,メモリ装置相互間で情報伝送を行う場合,転送す
べきnビットのディジタル情報を,m組に分け,各組のlビットのデータをDA変
換器により多値レベルの信号であるアナログ信号に変換し,このアナログ信号をバ
スを介して転送し,受信側装置内のAD変換器により,このアナログ信号がもとの
ディジタル情報に復元される。これにより,例えば,32ビットのディジタルデー
タの4ビットづつを多値レベルのアナログ信号に変換して転送すると,バスの接続
線は,ディジタルデータのままの転送の場合32本必要であったものが,アナログ
データに変換して転送する場合8本でよいことになる。」(2頁右上欄4行~同頁
左下欄4行)
 (2) 本願発明と引用文献に記載の発明との対比
 引用文献に記載の「アナログバス接続方式」,「転送すべきnビットのディジタ
ル情報を,m組に分け,各組のlビットのデータを多値レベルの信号であるアナロ
グ信号に変換するDA変換器」,「このアナログ信号をもとのディジタル情報に復
元するAD変換器」,「転送すべきnビットのディジタル情報」は,それぞれ本願
発明の「データ中継装置」,「データ圧縮手段」,「データ伸張手段」,「ビット
データ」に相当することは明らかである。
 そして,引用文献に記載の「アナログバス接続方式」は,その「DA変換器」に
「転送すべきnビットのディジタル情報」を入力しているから,本願発明の「ビッ
トデータストリームライン」に相当する「転送すべきnビットのディジタル情報」
の入力ラインを備えていることは明らかである。
 そこで,本願発明と引用文献に記載の発明とを対比すると,両者は,
「データ中継装置であって,ビットデータストリームラインなどにそれぞれ連結さ
れると共に,それぞれのビットデータストリームライン上のビットデータの値をア
ナログ信号値に変換して,これらアナログ信号値を出力するデータ圧縮手段と,ア
ナログ信号値をビットデータの値に変換するデータ伸張手段と,を備えるデータ中
継装置」であるという点で一致し,次の2点(以下,相違点1及び2という。)で
相違している。
 相違点1:本願発明の「データ圧縮手段」は「互いに1/2n(nは正数)の抵抗
値の差を有する抵抗によりワイヤード加算してビットデータに対応するアナログ信
号に変換する」のに対して,引用文献に記載の発明の「DA変換器」はビットデー
タをどのようにアナログ信号に変換しているか不明である点。
 相違点2:本願発明の「ビットデータ」は「液晶表示装置に伝送されるビデオデ
ータ」であるのに対して,引用文献に記載の発明の「転送すべきnビットのディジ
タル情報」(「ビットデータ」)は何に伝送されるかは特定されていない点。
 (3) 相違点に関する審決の判断
 そこで,上記相違点1及び2について以下検討する。
 相違点1について
 「互いに1/2n(nは正数)の抵抗値の差を有する抵抗によりワイヤード加算し
てビットデータに対応するアナログ信号に変換する」ことは当業者に周知の慣用技
術(特開平9-191252号公報,特開平9-8661号公報等参照。)であ
る。
 してみると,この相違点1は格別の相違ではない。
 相違点2ついて
 「液晶表示装置に伝送されるビデオデータ」を「ビットデータ」とすることは例
示するまでもなく当業者に周知の慣用技術である。
 してみると,引用文献に記載の発明において,「転送すべきnビットのディジタ
ル情報」(「ビットデータ」)を「液晶表示装置に伝送されるビデオデータ」とす
ることは当業者であれば適宜になし得ることである。
 したがって,この相違点2は格別の相違ではない。
 (4) 審決のむすび
 以上のとおり,本願発明は,引用文献に記載の発明及び周知の慣用技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決は,相違点2の判断において,本願発明にあってディジタル情報の伝送
先が液晶表示装置であるとすることに格別の特許性は見いだせないとしている。引
用文献は,マイクロプロセッサ応用システム(典型的にはコンピュータ)を始めと
するディジタルデータ処理システムにおけるバス接続方式に向けられたものであ
る。その第1図に示すようにCPU11からのディジタル情報がアナログ・システ
ム・バス1,2を介してメモリ21やI/O(入出力制御装置)31に伝送されて
いる。ここで,例えばI/O31を液晶表示装置に置き換えたものが本願発明であ
って,その置換えに格別の発明力は見いだされないと審決は判断したものと理解さ
れる。
 2 引用文献において2値レベルの信号のバス接続方式ではなく,「多値レベル
のアナログ信号のためのアナログバス接続方式」を用いている目的は,単にバス内
のライン数を減らすことにある(引用文献2頁右上欄1~3行)。しかしながら,
本願発明では,データバスのように伝送線路でのEMI(電磁干
渉:Electromagnetic Interference)を抑制することに向けられていて,単にバス
内のライン数を減少させるためではない。液晶表示装置へデータ情報を伝送する際
に問題となっていたEMIは,従来は整合器(LM)を用いて除去していたもの
を,多値レベルアナログ信号の伝送によって防止できることと見いだしたのが,本
願発明である。引用文献の単にバスのライン数を減少させるという教示だけでは,
液晶表示装置へのビデオ情報の伝送において直ちにEMIが実用的に除去され,整
合器(LM)の必要性がなくなるということまでは示唆され得ない。これは,特に
液晶表示装置にディジタル情報を伝送するシステムにおいて,顕著な作用効果を呈
することになっている。この点を審決は看過し,引用文献の例えばI/O装置を単
に液晶表示装置と置き換えただけであるとしているが,その作用効果において異な
っている以上,置換することはできない。
 3 被告は,本願発明にあっても信号線の本数が増えればEMIが大きくなるな
ら,信号線の本数を減らせばEMIは必然的に減るのは明らかであり,その信号線
の数を減らすのに引用文献の発明の教示に従ったものが本願発明にすぎないと主張
する。
 しかしながら,信号線の本数を減らせばEMIは必然的に減るというのは,誤解
である。確かに,単純に信号線の本数を減らすということならそうであろう。しか
し,一定の信号の量を伝送するという前提があれば,そうとはいえない。つまり,
一定の信号の伝送量を維持しながら信号線の本数を減らすために,本願発明では,
例えば2本の2レベルデジタル信号(図9のDn,Dn+1)を1本の4レベルア
ナログ信号(図9のAMS)にした上で,2本の信号線を1本にしているのであ
る。信号線の本数を減らすために,4レベル信号にするという対価を払うのである
から,単純に2つのレベル信号線を1つの2レベル信号線にしたのではない。
 4レベル信号(図9のAMS)それ自体は信号の振幅が大きくなるのだから,必
ずしも2レベル信号(図9のDn,Dn+1)に比べて信号間の干渉に係るEMI
が有利なものではない。したがって,信号線の本数を減らしたからといっても,直
ちにはEMIが相対的に減少し実用上抑制できたとはいえないのである。しかしな
がら,本願発明の教示によれば,4レベル信号にしたとしても(そのこと自体はE
MI抑制に不利であるにしても),信号線間隔を広くとれることのメリットが大き
く,結果としてEMIの影響を実用上満足すべきレベルに抑制できたというもので
あり,その結果従来技術で用いていた整合器(図1のLM1~LM5)が不必要に
なったのである。
 4 本願発明のビデオデータを液晶表示装置に伝送するためのデータ中継装置
は,極めて高密度の実装が要求されるから,本願発明の作用効果は顕著である。
 引用文献は,バス上の信号線の本数を減少させるために,デジタル信号をアナロ
グ信号(正しくは信号振幅の大きい多レベルデジタル信号)に変換しているのであ
るが,信号振幅の大きい多レベル信号を用いるから信号線の本数は減ってもEMI
の減少があるとはいえない。引用文献の2頁左上欄1~7行で,信号線の本数を減
らすのに,時分割方式とアナログ方式があることを述べている。信号線本数を減ら
すだけなら,時分割方式でもよいであろうが,時分割方式でもEMIの問題の解決
になるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
 1 本願明細書(甲第3号証)には,次の記載がある。
「バス圧縮器及びバス伸張器を用いる本発明による中継装置でも少なくとも2ビッ
ト以上の並列データが一つのアナログ信号の形態で伝送されることでデータを伝送
するための伝送線路のライン数が減少するようになり,これに併せて消耗電力が小
さくなる。これによって,本発明による中継器により伝送されるデータはEMIの
影響をほとんど受けなくなる。」(【0013】及び【0024】)
「このように,2ビットづつのデータがバス圧縮セルにより一つのアナログ信号に
圧縮されることでビデオデータを伝送するようになるFPCケーブルのライン数が
1/2に減少するようになり,これに併せてビデオデータの伝送に所要される電力
が減少されるようになる。この結果,ビデオデータが伝送させられるFPCケーブ
ルでのEMIが減少するようになる。」(【0017】)
 これらの記載によれば,本願発明においても,液晶表示装置へのビデオ情報(デ
ィジタル情報)の伝送におけるEMIの除去は,専ら伝送線路のライン数が減少す
ることに伴う作用効果といえる。また,コンピュータ本体内のビデオカードから液
晶表示装置にビデオデータを伝送することは,例えば,特開平9-244572号
公報、特開平9-81081号公報、特開平9-168147号公報及び特開平6
-95618号公報(乙第1~4号証)に記載されているように通常行われている
ことである。
 したがって,引用文献記載の発明を液晶表示装置へのビデオデータの伝送に適用
すれば,本願発明と同じ構成要件となるのであり,伝送線路のライン数が減少する
ことになるのであるから,原告が主張する本願発明の作用効果は,引用文献記載の
発明に基づいて予測することができるものであって,顕著なものではないというべ
きである。
 2 原告は,本願発明の教示によれば,4レベル信号にしたとしても(そのこと
自体はEMI抑制に不利であるにしても),信号線間隔を広くとれることのメリッ
トが大きく,結果としてEMIの影響を実用上満足すべきレベルに抑制できたとい
うものであり,その結果従来技術で用いていた整合器が不必要になったのであると
主張する。
 しかしながら,信号線間隔を広くとれるということについては,本願明細書に記
載がないし,そこに示唆されていると認めることもできない。そうすると,原告の
上記主張は,本願明細書の記載に基づかないものであって,理由がない。
 3 以上のとおりであり,相違点2についての判断の誤りをいう原告主張の審決
取消事由は理由がない。
第5 結論
 以上のとおりであり,原告の請求は棄却されるべきである。
     東京高等裁判所知的財産第4部
             裁判長裁判官  塚  原  朋  一
                裁判官  塩  月  秀  平
      裁判官 髙  野  輝  久

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