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平成15(ネ)3656特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 大阪高等裁判所
裁判年月日 平成16年7月30日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法102条2項1回
キーワード 特許権3回
実施2回
侵害2回
損害賠償1回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(ネ)第3656号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成15年(ワ)第3179号)
             判      決
    控訴人(1審原告)      タキロン株式会社
    訴訟代理人弁護士       滝 井 朋 子
同              小 野 昌 延
    補佐人弁理士         森     治
被控訴人(1審被告)     株式会社興永テクノス
訴訟代理人弁護士       竹 田   稔
同              川 田   篤
補佐人弁理士         友 松 英 爾
同              小 栗 久 典
主      文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、273万6409円及びこれに対する平成15
年4月9日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
3 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
 (以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。また、原判決引用部分
に「別紙」とあるのを、いずれも「原判決別紙」と読み替える。)
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「階段構造」とする特許権(特許番号第319114
3号)を有する原告が、被告による原判決別紙物件目録記載の階段構造の構築工事
の施工が上記特許権を侵害するものであるとして、被告に対し、民法709条、特
許法102条2項に基づく損害賠償を請求した事案である。
 原審は、上記階段構造は上記特許発明の技術的範囲に属しないとして、原告
の請求を棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 本件の基本的事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付
加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のうち
2頁4行目から15頁10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 3頁16行目の「被告構造のc」の次に「(原判決別紙物件目録記載の
(原告の主張)、(階段構造の構成)c)」を、5頁8行目の「先行技術文献①」
の次に「〔実開昭59-78432号のマイクロフィルム、乙7の2〕」を、同行目
の「②」の次に「〔特開昭61-113952号公開特許公報、乙7の3〕」を、同
22行目の「先行技術文献」の前に「前記の」を各加え、同行目の「(実開」から
同23行目の「乙7の2)」まで及び同行目の「(特開」から同24行目の「乙7の
3)」までをいずれも削る。
(2) 7頁20行目の「痛めにくく」を「傷めにくく、」と改め、8頁19行目
の「被告構造のc’」の次に「(別紙物件目録記載の(被告の主張)、(階段構造
の構成)c’)」を加え、10頁17行目の「相違する。」として」を「相違す
る」旨述べて」と改める。
(3) 13頁18行目の「セメントTHは、」の次に「チクソトロピー性を高
め、平場への塗布性を高めるとともにダレ性を改善して垂直面やコーナー部にも使
用可能な接着剤としたものであり、」を加える。
(4) 15頁3行目末尾に「被告が引用する文献等には、本件発明におけるよう
な階段下地のコーナー部と床シート裏面との間に生じる隙間を充填するという技術
思想は全く開示されておらず、これらと本件発明とが実質的に同一であるとか、こ
れらから本件発明が容易に推考し得たということはできない。」を加える。
(5) 15頁10行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「4 争点1に係る当審における付加主張
(原告の主張)
(1)ア 本件発明の「接着剤」は、階段用床シートの踏み面の位置ずれを
完全に防止するが、もともと合成樹脂製の階段用床シートはかなり柔軟性が低いた
め、階段下地のコーナー部に対して階段用床シートを隙間なく完全密着させること
が困難であるとともに、本件発明のように、階段用床シートを階段下地の踏み面に
接着剤で接着するときは、コーナー部との間の完全密着が一層困難となる。階段の
コーナー部は、階段の昇降に際して、正逆双方向の頻繁かつ最も過酷な圧力・衝撃
力を受ける部分であり、同部分において階段用床シートが階段下地から浮いて階段
下地との間に隙間を残置しているということは致命的な欠陥となる。
 本件発明は、階段用床シートと階段下地との間に不可避的に生じ
るこのコーナー部の隙間を除去解消するために、この部分に「シーリング剤」を用
い、もって、階段用床シートとコーナー部との間の隙間を塞ぎつつ床シートと階段
下地を接合するという技術を確立したものである。
 したがって、本件発明の「接着剤」と「シーリング剤」とは、そ
の果たすべき技術的役割とこれに求められる性質・機能が異なるのはもちろんであ
るが、そのことから直ちに、両者が別成分の物質でなければならないということに
はならない。たまたま同一の物質が、両者の性質と機能を併有していれば、それ
は、本件発明の「接着剤」であると同時に本件発明の「シーリング剤」でもあると
いうことになるだけである。
イ そして、本件明細書には、「接着剤」と「シーリング剤」の目
的・用途及び機能について言及がなされているが、本件明細書においても、早期審
査に関する事情説明書(乙7の1)においても、両者の成分の違いについては何ら
言及されていない。
(2)ア 原告は、平成16年3月に市場より入手したタジマのセメントT
Hの500gパック入り及び9kg缶入りについて、その粘度と固形分(「不揮発
分」とも呼ばれる。以下「固形分」という。)について実験(甲40)をしたが、
その結果は、次のとおりである。
(ア) 粘度については、500gパック入りは3万6500mPa・sで
あり、9kg缶入りは2万4000mPa・sであった。その差は1万2500mPa・sにも
なり、500gパック入りは、9kg缶入りに比べて約52%も粘度が高い。
(イ) 固形分については、500gパック入りが72.5%であ
り、9kg缶入りは67.5%であった。500gパック入りの方が5.0%も固形
分が多い。
 このように粘度・固形分が異なれば、両者が同一のものであると
は到底いえず、また、上記結果は、本件明細書の【0019】欄に記載された好ま
しい「シーリング剤」の態様である「接着剤よりも固形分が多く粘度が高い」との
記載と合致する。
イ また、セメントTHに関するタジマのカタログ等の内容(甲39
参照)、殊に、タジマ技術資料(甲3の2)は、カタログに添付されるため、形式
的に踏み面も折り曲げ部もオープンタイムについては同一の記載がなされている
が、実際に業者が施工において従うところの「アクサンスかいだん施工要領書」
(甲6)では、施工上の問題発生の可能性からオープンタイムを同一の記載とする
ことはできず、折り曲げ部には20~60分のオープンタイムを要し、踏み面部で
は指触で指につかない程度と記載して、これら二つの部位で異なるオープンタイム
を指示していることは、ことさら名称を同じくしているセメントTHには異なるグ
レードのセメントTHが存在することを疑わさせるものである。
(3) 「オープンタイム」とは、その用語のとおり、容器に収納されてい
る被収納物を容器から出して空気にさらしておく(オープン)時間の意である。接
着剤などには、時に、接着最適の濃度よりも多量の揮発性溶剤が用いられているこ
とがあるところ、接着施工後には、接着剤は2以上の被着物質間に閉鎖される状態
になるため、このような接着剤接着にあたっては、予め余分な溶剤を放出させるこ
とが適当である。したがって、接着剤には、オープンタイムということが頻繁に登
場する(甲35の1)が、シーリング剤(材)についても、2以上の物質間の隙間
を塞ぐ結果、シーリング剤(材)の溶剤の放出が困難となるような事情や、その他
にもシーリング剤(材)中の溶剤を予め放出させた後に本来の作業をすることが便
宜であるような事情があれば、オープンタイムという概念が生じ得ることは当然の
事理である(JISなどで、シーリング剤〔材〕については、ことさらにオープン
タイムが論じられないのは、シーリング剤〔材〕の場合は、例えば目地を塞ぐ等、
2以上の物質間に閉ざされないオープンな状態で使用される場合も多いことによる
と思われる。)。
(被告の主張)
(1)ア 原告は、本件発明の「シーリング剤」に代えて接着剤を用いた場
合でも、それが本件発明の「シーリング剤」としての性質・機能を有していれば、
その接着剤は本件発明の「シーリング剤」にも該当する旨の主張をしているが、か
かる主張は、本件明細書の記載及び本件特許出願の経過に明らかに反し、失当であ
る。当業者が、本件明細書の記載から原告主張のように理解することはあり得な
い。
イ また、原告は、本件明細書等には「接着剤」と「シーリング剤」
との成分の違いについては言及されていない旨主張しているが、実際には、接着剤
とシーリング剤(材)とでは、その粘度は桁違いに異なる。例えば、原告のシーリ
ング剤(材)である「タキボンド♯650」の粘度は、25℃かつ1rpmの条件にお
いて2500~7000Pa・s、25℃かつ100rpmの条件において70~200
Pa・sであるが(乙19の2)、シーリング剤(材)における粘度の単位(Pa・s)
は、接着剤における粘度の単位(mPa・s)と比べて1000倍大きいので、これを接
着剤における粘度の単位(mPa・s)に換算すると250万~700万mPa・s及び7万
~20万mPa・sとなり、いずれの測定条件においても、原告の接着剤である「タキボ
ンド♯607」の粘度(乙19の1)より桁違いに大きい。タジマのシーリング剤
(材)である「EKシール」においても、接着剤の単位に換算すると90万~13
0万mPa・s(乙20)と、同様である。
 また、シーリング剤(材)は、ほとんど固形分から成っており、
例えば、上記原告のシーリング剤(材)における固形分の含有量は「95±2」
%、上記タジマのシーリング剤(材)においても99%以上(乙20)と、その固
形分の含有量は、原告及びタジマの接着剤の固形分(乙19の1、27)を大きく
上回る。
(2) 原告による実験結果(甲40)におけるタジマのセメントTHの5
00gパック入り及び9kg缶入りの粘度は、いずれもタジマの「セメントTH 
性状性能表」(乙3の1。「使用時の粘度」として「2万~6万mPa・s(20℃)」
なる記載がある。)の範囲内である。
 また、粘度や固形分については、同一の接着剤においても、計測誤
差や製造時の温度及び湿度等の影響により、ある範囲内でばらつきが生じることは
周知の事項であって、原告の実験結果における粘度及び固形分の差異も、製造年月
日が異なるために多少ばらつきが生じたにすぎないと考えられるから、上記実験結
果程度のばらつきは、接着剤としての同一性に影響を及ぼすものではない。
 以上のことは、タジマの依頼に係る株式会社島津総合分析試験セン
ターの平成15年3月31日付け分析結果報告(乙26)によれば、被告構造に使
用したセメントTHと同一ロット(乙25)の製品の固形分は、セメントTHの5
00gパック入りについては71.6%、9kg缶入りについては75.0%(い
ずれも、上記報告書の「表1」から固形分である「ウレタン樹脂分」及び「無機充
填剤」を合計した数値)と、9kg缶入りの方が500gパック入りよりも固形分
が3.4%多いという原告による実験結果とは逆の結果を示していることや、タジ
マにおいて、製造年月日(平成16年1月23日)が同一であるセメントTHの5
00gパック入りと9kg缶入りについて粘度及び固形分を測定したところ(乙2
7)、粘度は、500gパック入りが3万5600mPa・s(20℃・10rpm)、9
kg缶入りが3万9000mPa・s(20℃・10rpm。その差は9.6%)、固形分
は、500gパック入りが67.3%、9kg缶入りが66.9%(その差は0.
4%)と、ほぼ同一の値を示したことによっても裏付けられる。
(3) 原告は、シーリング剤(材)についても、オープンタイムという概
念があり得る旨主張するが、本件発明が、接合材料として、階段用床シートと踏み
面との重なり部分を「接着剤」、階段用床シートとコーナー部との重なり部分を
「シーリング剤」とそれぞれ特定した階段構造という「物の発明」であることから
すると、その技術的範囲は、オープンタイムというような接着剤の塗布方法に関す
る概念とは何の関係もないというべきであるし、オープンタイムが不可欠であるも
のでもシーリング剤(材)たり得る旨の原告の主張は、原告自身の製品でも、接着
剤である「タキボンド♯607」の品質証明書には、オープンタイムを10分~6
0分設けることを前提とした記載がある(乙19の1)が、シーリング(剤)材で
ある「タキボンド♯650」の品質証明書には、その点の記載がない(乙19の
2)事実とも矛盾し、原告自身を含む当業者の技術的常識に反する。」
第3 争点に対する判断
1 当裁判所も、被告構造は本件発明の技術的範囲に属しないものであり、その
余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」
中の「第3 争点1(本件発明の構成要件C「シーリング剤」の充足性等)に対す
る当裁判所の判断」1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 18頁3行目の「しかし、」から同15行目の「相違するというべきであ
る」までを、改行の上、次のとおり改める。
 「 しかし、本件明細書の特許請求の範囲の記載においては、「接着剤」な
る用語と「シーリング剤」なる用語が、わざわざ区別して用いられており、これに
接した当業者は、明細書中の他の部分に、両者が同一のものであってもよいなどの
格別の記載や示唆がない限り、両者を異なるものと認識するのが通常であると解さ
れるし、また、そのような理解が、後記する当業界の技術用語の通常の意味とも合
致するものといい得る。
 ところが、本件明細書中の発明の詳細な説明等においても、上記格別の
記載や示唆は何ら見出せないばかりか、かえって、実施例に係るが、「接着剤」と
「シーリング剤」を対比しての記載の中には、「シーリング剤4としては、接着剤
より固形分が多く粘性が高いシリコン樹脂系シーリング剤、ウレタン樹脂系シーリ
ング剤、ポリサルファイド系シーリング剤等が好適に使用される。」(0019。
ただし、下線は当裁判所が付したものである、以下同じ。)、「コーナー部12に
垂れにくいシーリング剤4を付着する。」(0022)、「接着剤3、シーリング
剤4、粘着剤5等の…接合剤の粘度、接着力、粘着力などは、階段下地1と床シー
ト2との接合強度や貼り合わせ作業等を考慮して適宜選択すればよい。」(002
5)等の、両者の物性が異なるものであることを示唆する記載がみられるし、ま
た、本件明細書の全体の記載に徴し、本件発明の「接着剤」は、床シートと階段下
地の踏み面との重なり部分を全体的により強固に接合することにより、踏圧による
床シートのズレをなくすという点で、結合力の強さが要求されるものであるのに対
し、本件発明の「シーリング剤」は、床シートと階段下地のコーナー部との重なり
部分の接合に際し、コーナー部に生じる隙間を塞ぎ、昇降時の踏圧による床シート
のコーナー部でのヘコミやズレも激減させるという点で、密閉性や弾性力の高さが
要求されるものであることが明らかである。
 そうである以上、これらの記載に接した当業者としては、両者の成分等
も異なるものと認識するのが自然であるということができる(なお、原告は、前記
1(2)の(0019)の記載をもって単なる実施例の記載にすぎない旨主張している
が、「接着剤」におけるウレタン樹脂系一液型接着剤やエポキシ樹脂系二液型接着
剤、「シーリング剤」におけるシリコン樹脂系シーリング剤、ウレタン樹脂系シー
リング剤等が例示として掲げられていることは明らかとしても、「接着剤より固形
分が多く粘性が高い」なる部分は、単なる例示というより、両者の物性の違いを示
唆するものと理解することができるから、原告の上記主張は採用することができな
い。)。
 そうすると、本件発明の「接着剤」と「シーリング剤」とは、成分を異
にする異なる物質であると解するのが相当であり、また、このことは、証拠(乙1
9の1、2、20、27)及び弁論の全趣旨から、実際の接着剤とシーリング剤
(材)では、その粘度や固形分に大差があることがうかがわれること(例えば、原
告のシーリング剤〔材〕である「タキボンド♯650」の粘度は、250万~70
0万mPa・s〔25℃・1rpm〕及び7万~20万mPa・s〔25℃・100rpm〕であり
〔乙19の2。ただし、mPa・sに換算〕、原告の接着剤である「タキボンド♯60
7」の粘度1万~3万mPa・s〔25℃・20rpm。乙19の1〕よりはるかに大きい
し、固形分の点でも、例えば、上記原告のシーリング剤〔材〕の固形分の含有量
「95±2」%〔乙19の2〕は、上記原告の接着剤の66~76%〔乙19の
1〕を大きく上回っている。)からも裏付けられるところである」
(2) 18頁19行目及び21頁4行目の各「「接着剤」」の前にいずれも「本
件発明における」を加える。
(3) 22頁9行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 また、原告は、たまたま同一の物質が、本件発明の「シーリング剤」と
「接着剤」の性質・機能を併有する場合は、そのいずれにも該当するというだけで
あって、本件発明の「シーリング剤」と「接着剤」とが別成分の物質でなければな
らないとする理由はない旨主張する(原告の付加主張(1)ア)が、原告主張のように
いうことができないことは、既にみたところから明らかというべきであり、さら
に、原告は、本件明細書においては、「接着剤」と「シーリング剤」の目的・用途
及び機能についての言及がされているだけで、両者の成分の違いには何ら言及され
ていないとも主張している(原告の付加主張(1)イ)が、本件明細書(甲2)におい
て「接着剤」と「シーリング剤」なる用語を格別の注記もなく用いているものであ
る以上、既にみた当業界における技術用語の通常の意味に照らしても、原告主張の
ように、これらの用語を、目的・用途及び機能によって区別される、単なる機能的
表現としてのみ用いるものと解することはできない。」
(4) 23頁17行目の「同じ成分の」を削り、24頁12行目末尾の次に改行
の上、次のとおり加える。
「 また、原告は、上記事情説明書には、本件発明の「接着剤」と「シーリ
ング剤」との成分の違いには何ら言及されていないとも主張しているが(原告の付
加主張(1)イ)、前記(1)の事情説明書の記載(殊に、「本願請求項1の発明は、階
段用床シートと踏み面との重なり部分を接着剤により、階段用床シートとコーナー
部の重なり部分をシーリング剤により、それぞれ区別して接合する点において構成
が相違する。」、「上記のように、本願請求項1、2の発明は、接着剤とシーリン
グ剤と粘着剤とを使い分け、階段用床シートと踏み面、コーナー部、蹴上げとのそ
れぞれの重なり部分を区別して接合した」)に照らし、原告自身が、本件発明の
「接着剤」と「シーリング剤」とを、構成自体において相違する異なる物質として
認識していたことは明らかというべきである。」
(5) 24頁13行目の「被告構造のb」の次に「(原判決別紙物件目録記載の
(原告の主張)、(階段構造の構成)b)、b’(上記目録記載の(被告の主
張)、(階段構造の構成)b’)」を、同15行目の「被告構造のc」の次に「、
c’」を各加える。
(6) 26頁7行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 これに対し、原告は、セメントTHの500gパック入りと9kg缶入
りについてした実験結果(甲40)に基づき、粘度については、500gパック入
り(3万6500mPa・s)が9kg缶入り(2万4000mPa・s)よりも約52%も粘
度が高く、固形分についても、500gパック入り(72.5%)が9kg缶入り
(67.5%)よりも5%も固形分が多く、このように粘度・固形分が異なれば、
両者が同一のものであるとは到底いえないなどと主張する(原告の付加主張(2)
(ア))。
 しかし、原告による実験結果(甲40)におけるタジマのセメントTH
(500gパック入り及び9kg缶入り)の粘度は、いずれもタジマの「セメント
TH 性状性能表」の範囲内であること(乙3の1)、粘度や固形分については、
計測誤差や製造時の温度及び湿度等の影響により、同一の接着剤でも、ある範囲内
でばらつきが生じること(乙21~23、24の1、2)、甲40の実験で用いら
れた製品(セメントTHの500gパック入り及び9kg缶入り)のロット番号は
異なっており、実験結果の粘度及び固形分の差異も、製造年月日が異なるために生
じたばらつきとも考えられること、他方、株式会社島津総合分析試験センターの平
成15年3月31日付け分析結果報告によれば、被告構造で使用されたセメントT
Hと同一ロット(乙25)の製品の固形分は、セメントTHの500gパック入り
については71.6%、9kg缶入りについては75.0%(いずれも、上記報告
書の「表1」から固形分である「ウレタン樹脂分」及び「無機充填剤」を合計した
数値)と、上記原告の実験結果とは逆に、9kg缶入りの方が500gパック入り
よりも固形分が多い結果を示していること(乙26)、タジマにおいて、製造年月
日(平成16年1月23日)が同一であるセメントTHの500gパック入りと9
kg缶入りについて粘度及び固形分を測定したところ、粘度は、500gパック入
りが3万5600mPa・s(20℃・10rpm)、9kg缶入りが3万9000mPa・s
(20℃・10rpm。その差は9.6%)、固形分は、500gパック入りが67.
3%、9kg缶入りが66.9%(その差は0.4%)と、ほぼ同一の値を示した
こと(乙27)に照らすと、むしろ、原告主張の程度の差異をもって、セメントT
Hの500gパック入りと9kg缶入りとの同一性を否定することはできないもの
というべきであるから、上記原告の主張は採用することができない。
 また、原告は、セメントTHに関するタジマのカタログ等の内容の検討
(甲39参照)を基に、セメントTHには異なるグレードのものが存在することを
疑わさせる旨主張する(原告の付加主張(2)イ)が、憶測の域を出ないものといわざ
るを得ず、採用の限りでない。」
(7) 26頁8行目の「これに対し」を「さらに」と、同16行目の「痛めにく
く」を「傷めにくく」と、27頁7行目の「塗布して」を「塗布してから」と各改
める。
(8) 28頁24行目から25行目にかけての「明らかである。」の次に「な
お、原告は、シーリング剤(材)についても、2以上の物質間の隙間を塞ぐ結果、
シーリング剤(材)の溶剤の放出が困難となるような事情があれば、オープンタイ
ムという概念が生じ得る旨主張する(原告の付加主張(3))が、上記原告の主張は、
純理論的にはともかく、実際には、原告自身の製品でも、接着剤である「タキボン
ド♯607」の品質証明書には、オープンタイムを10分~60分設けることを前
提とした記載がある(乙19の1)が、シーリング剤(材)である「タキボンド♯
650」の品質証明書には、その点の記載がない(乙19の2)ことや、既にみた
オープンタイムに関する技術的常識等にもそぐわないものといわざるを得ず、にわ
かに賛成できない。」を加え、29頁12行目の「属さない」を「属しないもので
ある」と改める。
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照ら
し、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判
決を含め、当審の認定、判断を左右するほどのものはない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由
がないから、原告の請求はこれを 棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相
当であって、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
  (平成16年4月28日口頭弁論終結)
  大阪高等裁判所第8民事部
            裁判長裁判官  竹  原  俊  一
                 
               裁判官  小  野  洋  一
               
              裁判官  中  村     心

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