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平成15(ネ)1118特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成16年5月31日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決14回
無効5回
特許権4回
進歩性3回
差止3回
訂正審判2回
侵害1回
無効審判1回
損害賠償1回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(ネ)第1118号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成16年5月31日判決言渡,平成16年5月17日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成13年(ワ)第26513号,平成15年1月30日
判決)
     判    決
  控訴人(原告)        環境工学株式会社
  訴訟代理人弁護士       中島敏,補佐人弁理士 村田実,佐野邦廣
  被控訴人(被告)       日本ゼオン株式会社
  被控訴人(被告)       東洋興産株式会社
  被控訴人ら訴訟代理人弁護士  水谷直樹,岩原将文,補佐人弁理士 西川繁

     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 控訴人は,原判決を取り消すとの判決とともに,原判決事実及び理由欄の「第1
 原告の請求」に記載のとおりの差止めと金銭支払命令の判決並びに仮執行宣言を
求めた。
第2 事案の概要
 1 控訴人は,本件特許権(特許番号・第2840061号,発明の名称「生態
系保護用自然石金網」)に基づき,被告製品(原判決別紙目録記載の製品)を製造
販売している被控訴人東洋興産株式会社と,(争いがあるが)被告製品を販売して
いる被控訴人日本ゼオン株式会社に対し,その製造販売の差止め及び損害賠償金の
支払を請求したのに対し,原判決は,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属す
るが,本件特許発明は進歩性を欠如することが明らかであるとして,本件特許権に
基づく控訴人の本訴請求は権利の濫用に当たり許されない,と判断して,控訴人の
請求を棄却した。
 2 事案の概要の詳細は,原判決事実及び理由欄の「第2 事案の概要」に示さ
れているとおりである。
 3 当審係属後,被控訴人日本ゼオン株式会社が請求していた本件特許について
の無効審判請求(無効2002-35331)において,平成15年3月25日,
本件特許を無効とするとの審決があり,控訴人は,その取消訴訟(当庁平成15年
(行ケ)第175号)の係属中である平成15年5月23日,本件特許につき特許請
求の範囲の減縮を目的とする訂正審判の請求をしたが(訂正2003-3910
9),平成15年9月25日,この審判請求を成り立たないとする審決があり,こ
の審決に対する取消訴訟が当庁平成15年(行ケ)第489号として係属中であ
る。
第3 当裁判所の判断
 1 上記無効審決の理由は,本件特許発明は,実公昭51-9135号公報(引
用例。乙7)に記載された発明(引用発明)と,「吸い出し防止用シートの上面に
重合した金網上に複数の塊状表面部材を敷き並べるとともに,同各塊状表面部材の
下部に接着材を層着し,同接着材を介して,前記各塊状表面部材と金網と吸い出し
防止用シートを一体成形してなる,塊状表面部材を具備した生態系保護用金網。」
である点で一致し,「塊状表面部材」が,本件特許発明では「自然石」であるのに
対し,引用発明では「コンクリート等をあらかじめ成形して成るブロック」である
点で相違するが,以下の理由により,この相違点も容易に想到することができると
判断した。すなわち,地表や水中において,その表面の侵食を防止する等のために
塊状表面部材として自然石を敷き並べることは,古来から広く一般に行われてきた
周知技術にすぎず,また,特開平4-166507号公報(乙34),特開平3-
194011号公報(乙35),特開平3-144009号公報(乙8)にも,河
床や護岸の侵食を防止する部材の一部に自然石を用いることが記載されており,引
用発明のブロックに代えて自然石を採用して本件特許発明を当業者がなす点には,
何らの困難性も認められず,奏する効果も予期し得る程度のものであって格別のも
のではない,というものである。
 上記審決は,したがって,本件特許発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条
2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効
とすべきものである,と判断した。
 2 この審決について,控訴人が主張するところは,大要,次のとおりである。
 引用発明には,上側よりブロックB,金属の網又はメッシュ,可撓性支持シート
の順に配置し,接着剤を層着することによりこれらを一体整形する技術的思想は開
示されていない。
 審決が周知技術を示すものとして引用する特開平4-166507号公報等は,
コンクリート中に自然石を埋め込むものにすぎず,生態系保護製品である本件特許
発明が容易推考であることの根拠とはならない。
 3 しかしながら,乙7により認められる引用例の11欄43行~12欄2行の
記載からすると,引用発明において,フィルターシートが比較的弱い場合にあって
は,このシートをブロックと強いシートとの間に配置することが有利であると解さ
れる一方,引用例の11欄27~42行の記載,すなわち「シート44及び46の
いずれか一方・・・・・・の網目は・・・・・・フィルターシートとして働くような寸法とする
ことができる。・・・・・・。これらのシートの任意の一者・・・・・・の強度をブロックを機
械的に支持するのに十分なものとすれば足り,同時にそのいずれかのシートの網目
をフィルタシートとして作用するに十分なほど小さくすればよい。」からすると,
引用発明において,シート44又は46のうちいずれのシートを上方に配置するか
については,格別の技術的制約があるわけではなく,任意の配置が可能であると理
解することができる。
 そうであれば,「強度をブロックを機械的に支持するのに十分なもの」として金
属網を選択し,金属網とフィルターシート(吸い出し防止用シートとして機能する
ものであることは,引用例の7欄8~34行の記載から明らかである。)とを重ね
合わせたものを支持シートとして,ブロックを支持シートに接着する場合におい
て,金属網をフィルターシートの上方に配置することも任意選択的に行い得ること
は明白であり,引用例には,各塊状表面部材(ブロックB),金網,吸い出し防止
用シートの順に配置する点が実質的に開示されているということができる。
 自然石が,従来より,護岸工事に広く用いられていることは,特開平4-166
507号公報,特開平3-194011号公報及び特開平3-144009号公報
(乙34,35及び8)にみられるように,周知のことと認められる。そして,自
然石を並べれば,ブロックに求められている,液体が上下に通過できること,重量
を有すること,隣接するもの同士は相対的に多少変位し得るものであることという
条件を満たすことになることは明らかであるから,引用発明において,ブロックに
代え,自然石を用いることは当業者ならば容易に想到し得ることというべきであ
る。本件特許発明の効果も,上記のところからみて,格別顕著なものと認めること
はできない。
 以上のとおり,審決について控訴人が主張する点は理由がない。他に,審決の前
記認定判断を左右するに足りる事情も認められないので,本件特許発明に進歩性が
ないとした審決の判断は支持し得るものである。
 4 なお,この審決に対する取消訴訟(当庁平成15年(行ケ)第175号)は,
本控訴審と同一の裁判体で審理し,同一の期日で弁論を終結し,本件の判決言渡し
と同一の期日に,上記審決に誤りは認められないと判断し,控訴人の審決取消請求
は理由がないとの判決を言い渡すものである。なお,前記訂正審判請求を成り立た
ないとした審決に対する控訴人の取消訴訟(当庁平成15年(行ケ)第489号)
も,同一の裁判体で審理し同一の期日で弁論を終結し,これを理由がないとする判
決を,本件と同一の期日に言い渡すものである。
 5 してみれば,本件特許発明は進歩性を欠如することが明らかであり,本件特
許権に基づく控訴人の本訴請求は権利の濫用に当たり許されない。
第4 結論
 よって,控訴人の本訴請求は理由がないので,本件控訴は棄却されるべきであ
る。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官    塚  原  朋  一
            裁判官    塩  月  秀  平
裁判官    髙  野  輝  久

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