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平成16(ネ)628意匠権侵害禁止請求控訴事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成16年5月11日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法3条2項5回
キーワード 意匠権10回
無効5回
実施4回
侵害2回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(ネ)第628号 意匠権侵害禁止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
平成15年(ワ)第7936号)
口頭弁論終結日 平成16年4月8日
    判       決
      控訴人(原審原告)      株式会社コージン
 同訴訟代理人弁護士     渡部敏雄
      同             檜垣直人
   被控訴人(原審被告)     エム・ケー・パビック株式会社
同訴訟代理人弁護士     中村智廣
同             三原研自
同補佐人弁理士       佐々木功
同             川村恭子
同             久保健
           主       文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
 (2) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを製造
し、販売し、又は販売の申し出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
 (3) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを廃棄
せよ。
 (4) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
  主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は、意匠権を有する控訴人が、被控訴人の行為が当該意匠権を侵害する
ものであると主張して、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケース(以
下「被控訴人製品」といい、その意匠を「被控訴人意匠」という。)の製造、販売
等の差止め及び廃棄を請求する事案である。
   原判決は、被控訴人意匠は控訴人が有する意匠権の意匠に類似するものであ
るが、被控訴人は、当該意匠権につき、先使用による通常実施権を有する(意匠法
29条)とともに、当該意匠は、意匠法3条2項に違反して登録されたものであ
り、当該意匠権は、無効事由(同法48条1項1号)を有することが明らかである
から、同意匠権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり許されないとして、控訴
人の請求をいずれも棄却した。
   これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて、本件控訴を提起した。
 2 争いのない事実等、本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとお
り当審における控訴人の控訴の理由の要点及び被控訴人の反論の要点を付加するほ
か、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、3」及び「第3 争
点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、
原判決12頁3行目の「盗難用CD」を「盗難防止用CD」と改める。)。
 3 控訴人の控訴の理由の要点
 (1) 先使用の抗弁について
  ア 原判決が、被控訴人に先使用による通常実施権を認める旨の判断根拠と
した書証は、乙10~31であるところ、これらに基づいて立証された事実は、大
別すれば、第1に、被控訴人が上海中崎電子との間で設計図面を基に金型製作を進
めていたこと、第2に、被控訴人が平成13年5月に高千穂交易株式会社(以下
「高千穂交易」という。)から被控訴人製品300個の注文を受けたこと、の2点
に要約し得る。 
    ところが、上海中崎電子は、資本関係、人的関係及び日常の業務関係の
いずれにおいても、被控訴人と極めて緊密な関係を有する企業であり(甲9~1
1)、本件訴訟について第三者性が希薄であって、同社が被控訴人との間で交換し
たという文書の信用性は、厳密に検討されなければならない。また、同社と被控訴
人間では、被控訴人製品に限らず、金型製作等多数の取引業務関係が反覆継続され
ているのであるから、平成12年9月から12月にかけての時期に両社間で金型に
関する文書が交換されていたとしても、それが直ちに被控訴人製品と関連性を有す
るわけではない。
    一方、高千穂交易も、被控訴人製品の販売者として、また、同社の10
0パーセント出資子会社であるクボタセキュリティーを介して、被控訴人と密接な
関係を有していたし、原審訴訟については、その実質的な当事者として訴訟対応し
ていたことが明らかに窺われる(甲9、12)。したがって、同社が被控訴人に対
して被控訴人製品を注文したという事実は、第三者の関与した取引とは評価し得な
いし、クボタセキュリティーの関与文書についても、同様である。
    上記のような利害関係を考慮に入れて、乙10~31を吟味すると、乙
10~12や乙17~23の図面及び乙13、14の書面などは、単にこのような
図面及び書類が存在することを証するだけで、その作成時期や作成趣旨についての
証明にはならない。また、乙24、26~28は、被控訴人製品との関連性が明ら
かでない。同様に、乙29の1~10も、品名欄に「サンプル」あるいは「DVD
サンプル」という記入があるとはいえ、それのみで被控訴人製品との関連性が認め
られるものではない。さらに、乙30、31も、作成者の利害関係を考慮すれば、
その信用性・客観性は疑わしい。
    そうすると、作成時期の証明を含む書証は、乙15の1~4、乙16、
25程度であるが、前記のような利害関係にある上海中崎電子との間のFAX文書
について、その印字日付けの信用性は疑問であるし、乙27、28の印字日付けの
混乱を考え合わせれば、一層信用性を欠く。この程度の証拠によって被控訴人の抗
弁を認定した原判決は、証拠の評価を誤り、なすべき審理を尽くさなかったもので
ある。
  イ また、被控訴人が先に製造・販売していたCD用盗難防止ケースは、透
孔部の形状が単純な楕円形である(乙1~4)にもかかわらず、DVD用の被控訴
人製品に限って、本件意匠と酷似した形状の図面が作成されたことには、訝しさを
感じざるを得ない。
  ウ さらに、控訴審においては、下記の点に関して、被控訴人に客観性を有
する立証を促すべきであり、被控訴人においてそれをなし得ない場合には、乙10
~31の信用性は、否定的に判断されるべきである。
   ① 被控訴人が作成した製品価格表(甲13、以下「改定価格表」とい
う。)によれば、被控訴人製品が新製品として発売されたことに伴う価格表改訂日
は、平成13年8月1日とされている。そうすると、被控訴人製品の発売開始時期
は、平成13年8月1日であって、まだ価格も決まっていないのに、同年5月24
日に高千穂交易から300個の注文を受けたとか、同年7月以降各社から大量注文
が始まったなどという事実は、あり得ないことになる。
   ② 被控訴人は、他の商品について、パンフレット類で新製品として紹介
しているのに(甲14、乙3)、被控訴人製品についてだけは、同様の新製品販売
促進資料が証拠提出されていないのは極めて不自然である。
   ③ 被控訴人と高千穂交易との関係を考えれば、乙30の信用性判断は慎
重を要する。ところが、単価等は企業秘密であるという証拠説明のもとに、乙30
は、重要部分が塗りつぶされた形で証拠とされており、これでは商品の同一性や文
書の真正について検証することができない。
 (2) 意匠法3条2項違反(創作容易)による無効主張について
  ア クボタセキュリティーが、平成12年2月17日に乙32の「外形寸法
図」を作成し、同年3月の内覧会でそのサンプル品を展示したとの事実認定は、余
りに乱暴な認定である(乙32の作成者も取り違えている。)。
    すなわち、乙32は、単なる外形寸法の検討図面にすぎず、2月中旬に
この程度の図面しか作られていなかったとしたら、その後に成形量産図面の作成や
金型材料の手配、金型の製造加工や成形加工テストを経て金型の修正・完成に至る
まで、優に3か月程度の期間を要することは、業界の常識といえ、平成12年3月
の内覧会にサンプル品を展示することなど絶対に不可能である。
  イ 同様に、平成12年5月9日にクボタ製品800個が控訴人に販売され
ることも考えられないにもかかわらず、原判決は、乙34~37と、クボタセキュ
リティーの取締役が作成した証明書(乙41)に依拠して、クボタ意匠が、本件意
匠登録出願日(平成13年4月18日)よりも前に国内で公知だったと認定してい
る。
    しかし、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」は、これら
の製品が、いずれも2001年(平成13年)の製造であることを示しており、乙
34~37は、逆に、被控訴人の主張が事実に反することを証明するものである
(甲15の1、2)。
  ウ さらに、以下の点も、審理が不十分である。
   ① クボタセキュリティーがDVD用盗難防止ケースを商品化していたこ
とは事実だが、商品パンフレット(乙7)からは、肝腎の透孔部の形状を確認する
ことはできず、同社のCD用ケースの意匠から推定しても、透孔部の形状が最初か
ら左右反転L字型だったと認めるべき根拠はない。
   ② 同社がDVD用ケースの商品化を完了した時期についても、平成13
年4月の内覧会案内(乙38)には、DVD用という記述があるものの、平成12
年の招待状(乙33)には何の表示もないから、平成12年3月の内覧会に展示さ
れたとは認定できないはずである。
   ③ したがって、クボタ意匠によるDVD用ケースが、いつの時点で商品
化されたかは、乙32の図面以外の資料、具体的には、前記の成形量産図面や製造
年月日を記載した金型の完成写真等によって、改めて立証されなければならない。
2 被控訴人の反論の要点
 (1) 先使用の抗弁について
  ア 控訴人は、被控訴人と上海中崎電子とが密接な関係にあるとして、被控
訴人提出の関係証拠に信用性がないと反論するが、先使用を立証する以上、当時の
下請け、取引関係者等とのやり取りに関する書証等が提出されること自体、むしろ
当然である。また、控訴人は、高千穂交易に対しても、第三者とはいえないなどと
主張しているが、これも同様である。
  イ 被控訴人が、DVD用の被控訴人製品をCD用のように透孔部を楕円状
としなかった理由は、CD用より寸法の大きいDVD用盗難防止ケースでは、楕円
状の透孔部とすると、デザイン上、間延びした地味な感じとなり好ましくなく、材
料節約上も不都合であったためである(乙46)。
  ウ また、シリーズ商品全体の価格表作成前に、新商品をサンプル品による
営業を経て販売開始することは、ままあることであり、改訂価格表(甲13)の改
訂日(平成13年8月1日)が新商品販売開始日であるとの控訴人の主張は、取引
界の実情を無視したものである。むしろ、当該価格表が存在するということは、そ
こに記載されている商品が、それより相当前に設計製造されて、商品化されるまで
に至っていた事実を裏づけている。
  エ さらに、DVD用の被控訴人製品についてパンフレットが作成されてい
ない理由は、スーパーマルチセルシリーズの先駆けであったCD用製品の場合に
は、パンフレット等の宣伝に力を入れたが、DVD用の被控訴人製品の場合には、
スーパーマルチセルシリーズの商品追加でもあり、費用のかかるパンフレット作成
は行わず、サンプル品による営業等を中心に行ったためである(乙46~48)。
  オ なお、被控訴人は、原審において、販売当初の単価が営業秘密であるた
め乙30の注文書の単価・金額欄を墨塗りして提出していたが、控訴人が、墨塗りを
理由に同書証の信用性も争うことから、墨塗りのないものを提出する(乙44)。
    また、平成13年5月24日に、高千穂交易から送信された同注文書の
FAX自体も、提出する(乙45)。
 (2) 意匠法3条2項違反の無効主張について
  ア 控訴人は、平成12年3月のクボタセキュリティの内覧会にサンプル品が
展示されていたはずがないと主張するが、乙32以外にも当時の図面が存在する
(乙49の1、2)。また、被控訴人がクボタセキュリティより入手した平成12
年2月当時のプライベートショーに関する社内文書(乙50)によれば、DVD用
マルチセーファーの記載もあり、クボタセキュリティ及び株式会社クボタの社内製
品仕様書(乙51)でも、平成12年3月7日付けで「MS-DVD」が追加され
ている。これらの事実からしても、同年3月初めの内覧会に、DVD用マルチセー
ファーであるクボタ製品が展示されていたことが裏づけられるものである。
  イ また、控訴人は、Aなる人物の陳述書(甲15の1、以下「A陳述書」と
いう。)を根拠に、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」が、200
1年の製造であると主張し、乙37の信用性を争うが、同陳述書の内容は、明らか
に虚偽であり、乙37の「LOT No.」から、2000年の商品であることは明
白である(乙52)。
    すなわち、クボタ製品のロット番号の6桁の意味は、左から「タイプ」、
「機種」、「レビジョン(改訂)」、「製造年(西暦の下1桁)」、「製造月」、
「製造日」であり、「製造月」について、1~9月までは、1~9の数字をそのま
ま用いるが、10月、11月、12月は、それぞれX、Y、Zで表示する。そし
て、「製造日」について、1~9日までは、1~9の数字を用い、10~12は、X
~Zを用い、13~31までは、A~W(ただし、アルファベットのI、O、Q、
Vは、誤読の恐れがあるので除かれているとのことである。)を用いている。
    したがって、乙37に記載される5月8日に出荷されたクボタ製品の「L
OT No.」「2D1051」は、「22kHz」タイプの「DVD用」マルチセー
ファーで、改訂番号が「量産タイプ1」、製造年月日が、「2000年」、「5
月」、「1日」を意味しているのである。
    この点、A陳述書によれば、上記ロット番号中の「05」とは、5月を示
すとされるが、一方で同陳述書では、日付けの方は、10日~31日までは1文字
で示せるようにアルファベットを使用しているとされる。しかし、文字数を可能な
限り減らす工夫が通常なされるロット番号表示において、日付けを全て1文字で表
示しておきながら、月のみを二桁使用して表示することは、それ自体が極めて不自
然、不合理である。
    そもそも控訴人は、原審終結間際において、検甲1を提出し、それが控訴
人がクボタセキュリィティから購入した乙35、36の「セーファータグ」である
かのような主張をしたが、これが完全な虚偽であることは、乙42、43から明白
である。
  ウ 以上の事実からしても、平成12年3月の内覧会にクボタ製品のサンプル
が展示され、その後同製品が販売され、同年5月には、控訴人自身がこれを購入し
ていた事実は間違いなく、当該クボタ製品からは、本件意匠の創作が極めて容易と
いえるのである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由がないものと判断する
が、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の
「第4 当裁判所の判断」の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決の訂正
 (1) 原判決13頁13行目、14頁22行目の「左面」を「右面」と改める。
 (2) 同16頁22行目の「乙10ないし31」の次に、「,44ないし48」
を加え、同17頁14行目の「金型比」を「金型費」と改める。
 (3) 同19頁16行目の「高千穂交易株式会社」の次に、「,株式会社ハゴロ
モ,シグマ株式会社」を、同頁18行目の「乙29ないし31」の次に、「,4
4,45,47,48」を、それぞれ加える。
 (4) 同20頁16行目の「32ないし41」の次に、「,42,43,49な
いし52。乙49は,枝番を含む。」を加え、同18行目の「クボタセキュリティ
ーは」から同20行目の「送付した。」までを、「クボタセキュリティーの製造委
託先である日本システムハウス株式会社(以下「日本システムハウス」という。)
は、平成12年1月7日、クボタ製品(型式MS-DVD。乙7)のボトムハウジ
ング(黒色の下部部分)図面(乙49の1)及びトップハウジング(透明な上部部
分)図面(乙49の2)を作成し、その後若干の変更を加え、同年2月17日に、
同製品の外形寸法図(乙32)を作成した。」と改める。
 (5) 同21頁4行目の「(乙41)」を、「(乙41,52)並びにクボタセ
キュリティーのパンフレット(乙42)及び製品カタログ(乙43)」と改める。
2 当審における控訴人の主張
 (1) 先使用の抗弁について
  ア 控訴人は、原判決が被控訴人に先使用による通常実施権を認める旨の判
断の根拠とした乙10~31について、これらの作成者のうち上海中崎電子は、資
本関係、人的関係及び日常の業務関係において、被控訴人と極めて緊密な関係を有
する企業であり(甲9~11)、高千穂交易も、被控訴人製品の販売者として、ま
た、同社の100パーセント出資子会社であるクボタセキュリティーを介して、被
控訴人と密接な関係を有しており(甲9、12)、いずれも本件訴訟において第三
者性が希薄であるから、これらの書証は信用性を欠くと主張する。
    しかしながら、原判決認定(16頁24行目ないし19頁18行目)の
とおり、被控訴人と上海中崎電子との間では、頻繁な設計図面と見積書等のやり取
りを経て、被控訴人が金型の代金を送金し、上海中崎電子から被控訴人製品の送付
を受けたことが明らかであり、また、高千穂交易についても、被控訴人が、他の6
社の取引先と同様に、サンプル品として被控訴人製品を送付し、高千穂交易が同製
品300個の発注を行ったことは明らかであるから、いずれについても各々の企業
間において正常な取引行為が行われたものであって、特定の緊密な相互関係を有す
るような事情は認められない。以上のような正常な取引関係が存するにもかかわら
ず、わずかな人的関係等を理由に、上記の乙号証がすべて被控訴人側の内部文書で
あるとする控訴人会社代表者の陳述書(甲9)は、客観的な根拠の薄い憶測に基づ
くものであって、措信することができず、他に控訴人の上記主張を認めるに足りる
的確な証拠はないから、これを採用することはできない。
  イ また、控訴人は、被控訴人が先に製造・販売していたCD用盗難防止ケ
ースの透孔部の形状が単純な楕円形である(乙1~4)にもかかわらず、DVD用
の被控訴人製品に限って、本件意匠と酷似した形状の図面が作成されたことに訝し
さがあると主張する。
    しかしながら、被控訴人会社の従業員Bの陳述書(乙31、46、以下
乙46を「B陳述書(3)」という。)によれば、CD用より寸法の大きいDVD用盗
難防止ケースでは、材料代の削減及び重量軽減のために、従前より大きく孔部を確
保する必要があり、また、デザイン的にも、透孔部を単なる楕円形状とすると間延
びがした感じがすることから、L字型透孔部を採用したものと認められ、この陳述
内容に不合理な点は存しないから、控訴人の上記主張は、採用することができな
い。
  ウ さらに、控訴人は、被控訴人の改訂価格表(甲13)によれば、被控訴
人製品が新製品として発売されたことに伴う価格表改訂日は、平成13年8月1日
とされるから、被控訴人製品の発売開始時期は、平成13年8月1日であって、同
年5月24日の高千穂交易からの300個の受注や、同年7月以降の各社から大量
注文という事実はあり得ないと主張する。
    しかしながら、被控訴人が高千穂交易を含む取引先7社へ被控訴人製品
のサンプル品を送付し、高千穂交易から同製品300個の注文を受けた事実が認定
できることは、前示のとおりである上、B陳述書(3)(乙46)によれば、被控訴人
では、平成13年5月ころ、スーパーマルチセルシリーズの追加製品として、DV
D用盗難防止ケースである被控訴人製品につき個別に価格交渉をして販売を開始
し、同年8月以降、顧客全般に対して価格改定表を配布して、上記シリーズ全体の
販売を開始したものと認められ、同シリーズの販売製品すべてについての価格表が
作成される前に、その中の新製品の一部が個別に顧客にサンプル品として送付・販
売されることが不自然とはいえないことを考慮すれば、この陳述内容についても、
不合理な点は認められず、控訴人の上記主張も、採用することができない。
  エ 控訴人は、被控訴人の他の商品について、パンフレット類で新製品とし
て紹介されているのに(甲14、乙3)、被控訴人製品についてだけ同様の新製品
販売促進資料が証拠提出されていないのは、極めて不自然であると主張する。
    しかしながら、B陳述書(3)(乙46)によれば、被控訴人では、スーパ
ーマルチセルシリーズの先駆けであったCD用製品の場合には、パンフレット等を
作成してその宣伝活動を行ったが、DVD用の被控訴人製品の場合には、スーパー
マルチセルシリーズの追加商品であったことなどから、費用のかかるパンフレット
作成は行わず、サンプル品を送付して営業活動を行ったものと認められ、実際に、
被控訴人の取引先であるシグマ株式会社や株式会社ハゴロモがサンプル品の送付を
受けていること(乙47、48)を考慮すれば、この点に関する同陳述書(3)の内容
も信用性が高いものといえ、控訴人の主張を採用する余地はない。
  オ なお、控訴人は、乙30の一部が被控訴人の営業上の必要性から墨塗り
されていたことから、その証拠としての信用性が低い旨を主張していたが、新たに
墨塗りのなされていない同一の書証(乙44)と、高千穂交易から送信された同注
文書のFAX自体(乙45)が提出された以上、原判決認定(19頁15行目ない
し18行目)のとおり、被控訴人からサンプル品の送付を受けた高千穂交易が、被
控訴人製品300個の発注をしたことは明らかといわなければならない。
 (2) 意匠法3条2項違反による無効主張について
  ア 控訴人は、乙32の「外形寸法図」が、単なる外形寸法の検討図面にす
ぎないから、平成12年2月中旬にこの程度の図面しか作られていなかったとした
ら、その後に3か月程度の期間を要することは、業界の常識といえ、平成12年3
月の内覧会にサンプル品を展示することが不可能であると主張する。
    しかしながら、前記認定のとおり、クボタセキュリティーの製造委託先
である日本システムハウスは、平成12年2月17日に、クボタ製品(型式MS-
DVD。乙7)の外形寸法図(乙32)を作成する以前、同年1月7日には、既に
同製品のボトムハウジング(黒色の下部部分)図面(乙49の1)及びトップハウ
ジング(透明な上部部分)図面(乙49の2)を作成しており、その後、上記外形
寸法図の完成に至ったものと認められる。また、クボタセキュリティの平成12年
2月25日付けの「2000年プライベートショー開催」のための社内文書(乙5
0)では、東京及び大阪会場でのプライベートショーにおいて、DVD用マルチセ
ーファーが、「展示の目玉商品」「近日発売:4月1日」として記載されており、
さらに、平成12年3月7日付けのクボタセキュリティ及び株式会社クボタの「製
品仕様書」(乙51)でも、同日付けで「MS-DVD」が出荷のための製品とし
て追加されている。
    以上の事実からも、原判決認定(20頁21行目ないし22行目)のと
おり、クボタセキュリティーが、平成12年3月の東京及び大阪での内覧会に、ク
ボタ製品のサンプル品を展示したことは明らかであり、これに反する控訴人の前記
主張は、到底、採用することができない。
  イ また、控訴人は、平成12年5月にクボタ製品800個が控訴人に販売
されていない根拠として、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」が、
いずれも2001年(平成13年)の製造であることを示している(甲15の1、
2)と主張する。
    しかしながら、クボタセキュリティーの取締役の証明書(乙52)によ
れば、クボタ製品の6桁のロット番号は、左から「タイプ」、「機種」、「レビジ
ョン(改訂)」、「製造年(西暦の下1桁)」、「製造月」、「製造日」を意味し、
「製造月」について、1~9月までは、1~9の数字をそのまま用い、10月、1
1月、12月は、それぞれX、Y、Zで表示し、「製造日」について、1~9日ま
では、1~9の数字を用い、10~12は、X~Zを用い、13~31までは、A~
W(ただし、アルファベットのI、O、Q、Vは、誤読の恐れがあるので除かれ
る。)を用いるものと認められる。そうすると、乙37に記載される5月8日に出
荷されたクボタ製品「MS-DVD」の「LOT No.」「2D1051」につい
て、「2」はタイプが「22kHz」、「D」は「DVD用」、「1」は改訂番号が
「量産タイプ1」、「0」は製造年が「2000年」、「5」は製造月が「5
月」、「1」は製造日が「1日」を、それぞれ意味することとなるから、当該ロッ
ト番号から、2000年5月1日に製造された、22kHzタイプのDVD用、改訂番
号が量産タイプ1のマルチセーファーであるものと認められる。
    上記認定に照らして、A陳述書(甲15の1)は、信用することができ
ず、他に控訴人の上記主張を認めるに足る証拠はないから、これを採用することは
できない。
    したがって、原判決認定(20頁23行目ないし21頁5行目)のとお
り、控訴人に対して、クボタセキュリティーの製造委託先である日本システムハウ
スから、クボタ製品800個が送付されたことは明らかといわなければならない。
  ウ さらに、控訴人は、クボタセキュリティーの商品パンフレット(乙7)
からは、透孔部の形状を確認することはできず、同社のCD用ケースの意匠から推
定しても、透孔部の形状が最初から左右反転L字型だったと認める根拠はないと主
張する。
    しかしながら、前示のとおり、クボタセキュリティーの製造委託先であ
る日本システムハウスが平成12年1月7日に作成したクボタ製品のトップハウジ
ング(透明な上部部分)図面(乙49の2)及び同年2月17日に作成した外形寸
法図(乙32)並びにクボタセキュリティーの代表者の証明書(乙8)などによれ
ば、クボタ製品の透孔部の形状が左右反転L字型であることは明らかであるから、
控訴人の上記主張も、これを採用する余地はない。
 3 以上のとおり、原判決が、被控訴人は、本件意匠権につき先使用による通常
実施権を有する(意匠法29条)と認め、また、本件意匠が、意匠法3条2項に違
反して登録されたものであり、当該意匠権は、無効事由(同法48条1項1号)を
有することが明らかであるから、同意匠権に基づく権利行使が権利の濫用に当たり
許されないと判断したことは、いずれも正当なことといわなければならない。
第4 結論
   よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する
こととして、主文のとおり判決する。
    東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官   北  山  元  章
裁判官   清  水     節
           
           裁判官   上  田  卓  哉

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