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平成15(ワ)7936民事訴訟 意匠権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成15年12月26日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法3条2項3回
意匠法3条1項3号3回
意匠法29条2回
意匠法48条1項1号1回
キーワード 意匠権14回
無効6回
実施4回
侵害3回
新規性1回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(ワ)第7936号 意匠権侵害禁止請求事件
口頭弁論終結日 平成15年11月18日
    判       決
      原       告     株式会社コージン
      同訴訟代理人弁護士     加 藤 貞 晴
      被       告     エム・ケー・パビック株式会社
同訴訟代理人弁護士     中 村 智 廣
同             三 原 研 自
同補佐人弁理士       佐々木   功
同             川 村 恭 子
同             久 保   健
           主       文
     1 原告の請求をいずれも棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを製造し,販売し,
又は販売の申し出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
 2 被告は,別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを廃棄せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
原告及び被告は,いずれもセキュリティアラームシステムに関する電気部
品の製造,販売等を業として行っている法人である。
(2) 原告は,以下の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本
件意匠」という。)を有している。
登録番号    第1138441号
出願年月日   平成13年4月18日
登録年月日   平成14年2月22日
意匠に係る物品 盗難防止用商品収納ケース
登録意匠    別紙意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)記載の
とおり
(3) 被告は,別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケース(以下「被告製
品」といい,その意匠を「被告意匠」という。)を業として製造し,販売し,販売
の申し出をしている。
2 事案の概要
本件は,本件意匠権を有する原告が,被告の行為が本件意匠権を侵害するも
のであると主張して,被告製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を請求する事案で
ある。
3 本件の争点
(1) 被告意匠と本件意匠との類否
(2) 先使用の抗弁
(3) 本件意匠が意匠法3条1項3号に違反して登録され(新規性欠如),本件
意匠権に基づく権利行使が権利濫用に該当するか。
(4) 本件意匠が意匠法3条2項に違反して登録され(創作容易),本件意匠権
に基づく権利行使が権利濫用に該当するか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告意匠と本件意匠との類否)について
〔原告の主張〕
被告意匠は,以下に述べるように,本件意匠と類似する。
(1) 本件意匠の構成態様
ア 基本的構成態様
全体の基本形状を厚みの薄い縦長直方体の箱状とし,DVDをケースご
と入れるための容器部と,その下方に盗難警報器を収納するための警報器収納部か
らなるものである。容器部は,左右及び上方の周側面を残して正面及び底面は略全
体が開放され,背面側の面は,周囲に余地部を残して中央に大きなL字型の透孔部
を形成したものであり,警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横
長帯状の枠体である。
イ 具体的構成態様
(ア) 全体の構成比率
高さ,幅及び厚みの比は,約11:8:1である。
(イ) 容器部
a 正面側上端左右の隅部に,上辺に沿って一対の横長四角形の小突出
片が形成されている。
b 背面側上端には,正面側上辺に沿った一対の小突出片に対応する位
置に,略横長四角形の透孔部が形成されている。
c L字型透孔部の直角の凹んだ部分と一方の上辺側透孔部に囲まれた
面は,肉厚が他の部分より僅かに薄く形成された結果,L字型透孔部分のやや内側
にL字状の段差が形成されている。
d L字型透孔は,各隅を略同様の小さなアール状に形成し,それ以外
の部分は直線的態様としている。
e 上方周側面の左寄り上面が,細かい波状を形成している。
(ウ) 警報器収納部
a 背面側の下方略3分の1全体が,上方部分より一段奥まって全体が
浅い奥行きを形成している。
b 警報器収納部分の底面中央には,幅約5分の3にわたって警報器が
挿入される空洞部分が形成されており,左右の余地部は,周囲の枠体と面一状の底
部分が形成されたものである。
c 容器部との背面側接合部は,直線状である。
(エ) その他
警報器底部分及び警報器収納部の上方略3分の2の帯状部分を除く全
ての部分が透明である。
(2) 被告意匠の構成態様
ア 基本的構成態様
全体の基本形状を厚みの薄い縦長直方体の箱状とし,DVDをケースご
と入れるための容器部と,その下方に盗難警報器を収納するための警報器収納部か
らなるものである。容器部は,左右及び上方の周側面を残して正面及び底面は略全
体が開放され,背面側の面は,周囲に余地部を残して中央に大きなL字型の透孔部
を形成したものであり,警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横
長帯状の枠体である。 
イ 具体的構成態様
(ア) 全体の構成比率
高さ,幅及び厚みの比は,約11:8:1である。
(イ) 容器部
a 正面側上端左右の隅部に,上辺に沿って一対の横長四角形の小突出
片が形成されている。
b 背面側上端には,正面側上辺に沿った一対の小突出片に対応する位
置に,略横長四角形の透孔部が形成されている。
c L字型透孔部の直角の凹んだ部分と一方の上辺側透孔部に囲まれた
面は,肉厚が他の部分より僅かに薄く形成された結果,L字型透孔部分のやや内側
にL字状の段差が形成されている。
d L字型透孔は,下辺の両隅をやや大きいアールとし,外側上方の隅
部は大きなアール,その他の隅部は小アールとした丸みのあるL字型としている。
e 上方周側面は,平坦である。
(ウ) 警報器収納部
a 背面側の下方略3分の1全体が,上方部分より一段奥まって全体が
浅い奥行きを形成している。
b 警報器収納部分の底面中央には,幅約5分の3にわたって警報器が
挿入される空洞部分が形成されており,左右の余地部は,周囲の枠体と面一状の底
部分が形成されたものである。
c 容器部との背面側接合部は,凸凹線である。
(エ) その他
警報器底部分及び警報器収納部の上方略3分の2の帯状部分を除く全
ての部分が透明である。
(3) 本件意匠の要部は,以下の3点である。
ア 容器部の背面側の面に周囲に余地部を残して中央に大きなL字型の透孔
部を形成した点。
イ 容器部の背面側上端左右の隅部に,上辺に沿って一対の横長四角形の小
突出片を形成した点。
ウ 容器部の背面側上端には,正面側上辺に沿った一対の小突出片に対応す
る位置に,略横長四角形の透孔部を形成した点。
(4) そうすると,被告意匠の前記構成は,本件意匠の要部を備えているから,
本件意匠と類似する。
本件意匠と被告意匠は,① 容器部の上方周側面が細かい波状を形成して
いるか平坦であるか,② 容器部と警報器収納部との背面側接合部が直線状である
か凸凹線であるか,の相違があるが,容器部の上方周側面にしても容器部と警報器
収納部との背面側接合部にしても,本件意匠において看る者の注意を惹かない部分
であるから,本件意匠と被告意匠が類似しているという判断に何ら消長を来たすも
のではない。
また,容器部背面側のL字型透孔部の形状について,被告意匠は本件意匠
に比して,L字外側上部のアールを大きく形成して丸みを強くしている点も,本件
意匠の透孔部より丸みを強くしたという印象は生じても,いまだL字型の印象から
脱しているものとは到底いえないので,本件意匠と被告意匠が類似しているという
判断を左右しない。
〔被告の主張〕
  被告意匠は,本件意匠と類似しない。
(1) 原告の主張(1)(本件意匠の構成態様)については,イ(ア)(全体の構成比
率)について否認し,その余は認める。本件意匠の全体の構成比率は,高さ,幅及
び厚みの比は,約10:7:1である。
(2) 原告の主張(2)(被告意匠の構成態様)については,透孔部の形状を「L
字型」とする箇所は全て否認し,その余は認める。被告意匠の透孔部の形状は,
「横長長方形と変形の扇形を組み合わせた特殊な形状」である。
(3) 本件意匠は,本件意匠登録出願前の公知意匠に類似する意匠あるいは公知
意匠から容易に創作できる意匠にすぎないのであり,本件意匠のみに認められる特
徴といえるような要部自体看取しえない。あえて要部というならば,L字型の透孔
部である。
そこで,本件意匠の背面側に形成された透孔部と被告意匠の背面側に形成
された透孔部とを対比すると,本件意匠の透孔部は,分厚い大きなL字型であり,
特段,特徴的な部分を看て取ることはできない形状である。これに対して,被告意
匠の透孔部の形状は,横長長方形と変形の扇形を組み合わせた特殊な形状であっ
て,下方の両隅をやや大きなアールに形成していることにあわせ,透孔部全体が丸
みを帯びた柔らかい印象を与えるものである。
このように,単なるL字型の透孔部の形状と横長長方形と変形の扇形を組
み合わせ全体が丸みを帯びた特殊な形状からなる透孔部とは,看者をして全く別異
の形状であると認識せしめることは明らかである。そして,両意匠における透孔部
の形状の差異は,意匠全体に与える影響が大きく,意匠全体を対比するも,被告意
匠は本件意匠に類似するものではない。
2 争点(2)(先使用の抗弁)について
〔被告の主張〕
被告は,以下のとおり,被告製品の日本国内での販売事業の準備を本件意匠
登録出願(平成13年4月18日)前に行っていたものであるから,仮に,被告意
匠が本件意匠に類似しているとしても,意匠法29条に基づき,先使用による通常
実施権を有している。
(1) 被告製品の設計及び製造について
被告は,被告製品に関して,本件意匠登録出願前である平成12年9月こ
ろから,日本国内にて基本設計に着手し,その見積りを中国の訴外上海中崎電子有
限公司(以下「上海中崎電子」という。)に依頼した。被告は,その後設計図に一
部手を加えたり,上海中崎電子と打合せを繰り返し,同年12月14日付けで作成
された変更図面等をFAXにて上海中崎電子へ送り,完成に向けての指示を行っ
た。そして,同月21日までに日本国内にて金型等作成用の設計図が一式完成し
た。
被告は,上海中崎電子を通じて慈渓市新界塑料五金厂に上記設計図に基づ
く金型の製造を委託し,平成13年1月12日,上海 南対外経済有限公司を通じ
てその代金を支払った。そして,同年2月下旬,上記金型が完成した。
被告は,被告製品の試作品を,同年3月6日から9日に東京ビックサイト
で開かれるセキュリティーショーに間に合わせるよう,同年2月22日,FAXに
て上海中崎電子に製造依頼したが,結局発送までは間に合わず,同年3月7日,被
告担当者Aが上海から直接日本へサンプル6個を持ち込んだ。
その後,同年4月16日には,同サンプル100個が上海中崎電子から発
送され,同月19日ころに被告に到達した。
(2) 被告製品の配布及び販売について
被告は,上記サンプル100個のうちの一部を,売り込みを予定していた
数社に宅配便にて配布した。その後,上記数社のうち高千穂交易株式会社から,平
成13年5月22日に300個の注文が正式に入った。そして,同年7月以降,各
社からの大量注文が始まり,被告製品が本格的に販売され始めた。
〔原告の主張〕
被告は,被告製品の日本国内での販売事業の準備を本件意匠登録出願前に行
っていたということはできない。
被告の主張(1)及び(2)の事実は,いずれも否認する。なお,先使用を裏付け
る乙10,11,15ないし23,25,27,28は,いずれも,被告が作成日
付を遡らせて作成した虚偽の文書である。また,乙14は全く別の商品について作
成された見積書であり,乙13はそれに対応するかのごとく被告が勝手に作成した
文書である。
3 争点(3)(意匠法3条1項3号違反の無効理由)について
〔被告の主張〕
本件意匠は,本件意匠登録出願前である平成12年10月に公然知られてい
た盗難防止用DVD収納ケース(検乙4。以下「クボタ製品」という。)の意匠と
極めて類似しており,意匠法3条1項3号に違反して登録されたものであり,同法
48条1項1号の無効理由が存在することが明らかであるから,本件意匠権に基づ
く権利行使は,権利の濫用である。
(1) 公知性
クボタセキュリティー株式会社(以下「クボタセキュリティー」という。
なお,現在の商号は株式会社エスキューブである。)は,平成12年2月中旬に
は,クボタ製品の商品設計及び製造準備を略完了しており,同年3月初めの内覧会
でクボタ製品のサンプルを最初に公開,発表し,その直後に顧客から注文を受け,
クボタ製品の製造,販売を開始した。原告自身も,同年5月にクボタ製品を800
個購入している。したがって,クボタ製品は,平成12年には既に公知であった。
なお,原告が主張するところの平成13年4月にクボタセキュリティーが
開いた内覧会の正確な日付は,東京会場が同月5日及び6日であり,大阪会場が同
月11日及び12日であった。つまり,平成13年4月の内覧会でクボタ製品が初
めて展示されたとの原告の主張を前提としたとしても,本件意匠登録出願前にクボ
タ製品の内覧会が開かれていたことに間違いない。
また,原告は,あたかも内覧会での展示は公知事実に該当しないというよ
うな主張もしているが,関係取引先各社が内覧会においてクボタ製品の現物を見て
おり,かつ関係者には何らの守秘義務も課されていなかった以上,これは公知事実
に該当する。
(2) 類似性
クボタ製品の意匠(以下「クボタ意匠」という。)の構成は,別紙クボタ
製品目録のとおりであり,これを文言で表すと,次のとおりである。
基本的構成は,全体形状を厚みの薄い縦長直方体の箱状とし,DVDをケ
ースごと入れる容器部と,容器部の下方に盗難警報器を収納した警報器収納部から
なり,容器部は,左右及び上方の周側面を残して正面及び底面は略全体が解放さ
れ,背面側の面は,周囲に余地部を残して中央に大きな左右反転L字型の透孔部が
形成され,警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横長帯状の枠体
である。
具体的構成は,全体の構成比率が約10:7:1であり,容器部は,正面
側上端左右の隅部に,上辺に沿って一対の横長四角形の小突出片が形成され,背面
側上端には,正面側上辺に沿った一対の小突出片に対応する位置に,略横長四角形
の透孔部が形成され,左右反転L字型透孔部の直角の凹んだ部分と一方の上辺側透
孔部に囲まれた面は,肉厚が他の部分より僅かに薄く形成された結果,左右反転L
字型透孔部分のやや内側にコ字状の段差が形成されており,左右反転L字型透孔
は,各隅を略同様の小さなアール状に形成し,その他の部分は直線的に形成されて
いる。警報器収納部は,正面側の下方略3分の1全体が,上方部分より一段奥まっ
て,全体が浅い奥行きを形成し,容器部と背面側接合部は,右側3分の1が僅かな
段差をもって形成してある。
とすれば,原告が前記1の原告の主張(3)において本件意匠の要部として主
張する3点を,クボタ製品はすべて備えている。
〔原告の主張〕
クボタセキュリティーが平成12年10月ころに本件意匠と極めて類似した
クボタ製品を製造販売していたとの点は,全面的に否認する。
(1) クボタセキュリティーがクボタ製品の内覧会用サンプルを作成したのは,
平成12年6月であった。平成12年の内覧会は平成12年2月29日に行われて
いるから,クボタ製品を内覧会で紹介したのは,平成13年4月11日に行われた
内覧会においてであった。しかも,内覧会はあくまで代理店向けに内々に行ったも
のであり,一般の展示会とは明確に区別されたプライベートショーである。そし
て,特約店とクボタセキュリティーとの間の特約店契約では取引に関連して取得し
た情報についても当然守秘義務が課されているものである。本件意匠の出願は,平
成13年4月18日であるが,内覧会からわずか1週間で公知になってしまうとい
うことは業界の常識としてあり得ない。
(2) 被告は,原告自身も,平成12年5月にクボタ製品を800個購入したと
主張するが,これは,「セーファータグ MS-DVD」という貼り付け式自鳴式
タグを購入したものであり,クボタ製品とは異なる。
4 争点(4)(意匠法3条2項違反の無効理由)について
〔被告の主張〕
本件意匠は,意匠法3条2項に違反して登録されたものであり,同法48条
1項1号の無効理由が存在することが明らかであるから,本件意匠権に基づく権利
行使は,権利の濫用である。
(1) 本件意匠は,原告代表者が被告の代表取締役であった当時から被告が製
造,販売していた盗難防止用CD収納ケース(検乙2)の寸法をDVD用サイズと
し,その透孔部の形状をI型からL型に変えただけのものであり,それ以外の部分
(容器部上端左右の小突出片及びそれに対応する略横長四角形の透孔部)は同じで
ある。
そして,かかる変更は容易である。なぜなら,まずCD用サイズからDV
D用サイズにケース寸法自体を変更することは,DVD自体がCD商品用ケースよ
りも大きい薄い縦長直方体の略統一規格のケースに入った状態で販売されているも
のである以上(かかる事実は周知である),かかるDVD商品ケースの寸法より一
回り大きいケース寸法及び形状を採用することは当然であるからである。したがっ
て,DVD用盗難防止ケースを作成する場合,DVD用の縦長サイズになることは
当然なのである。
また,透孔部の形状については,透孔部自体を大きく取ることは,材料代
の節約及び重量軽減につながるものである一方,被告の盗難防止用CD収納ケース
において見られるように,その背面上端片側には長方形状の部位(正面側が僅かに
凹んでいる箇所)が確保されており,これはセキュリティゲート(通常店舗入り口
に設置される)に反応する,盗難防止用のラベル状タグを添付するための必要なス
ペースなのである。つまり,かかるスペースを残したまま透孔部をできるだけ大き
く取ろうとした場合(すなわち,上記スペース以外の部位のほとんどを透孔部とし
た場合)には,必然的にL字状の透孔部を形成するのである。したがって,L字状
の透孔部自体も当業者であれば容易に考えつくものである。
このように,本件意匠は,被告が製造販売していた盗難用CD収納ケース
の形状からも当業者が容易に創作しうるものであることは明白である。
(2) また,盗難防止用CD収納ケースの意匠とともに,本件意匠出願前に既に
公知であったクボタ意匠をも基礎にすると,本件意匠は,当業者が容易に創作し得
るものである。
〔原告の主張〕
被告が製造販売していた盗難防止用CD収納ケースの透孔部の形状からは,
小判型をした長円形の透孔部を製作することは容易であっても,L字型にすること
は決して容易ではない。被告の盗難防止用CD収納ケースにおいては,その背面上
端片側に長方形状の部位が確保されている。そして,これが盗難防止用のラベルタ
グを貼付するために必要なスペースであることも異論はない。しかし,かかるスペ
ースを残したまま透孔部をできるだけ大きく取ろうとして被告はI字型の透孔部に
たどりついたのであり,決して必然的にL字状の透孔部にたどりつくわけではな
い。したがって,L字型の透孔部が当業者であれば容易に創作し得るものとは到底
いえない。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(1)(被告意匠と本件意匠との類否)について
(1) 本件意匠の構成
本件意匠の構成態様は,本件意匠公報添付の図面のとおりであり,前記争
いのない事実及び甲2によれば,以下のとおり表される。
ア 基本的構成態様
全体の形状は,厚みの薄い縦長直方体の箱状であり,DVDケースを収
納するための容器部と,その下方に盗難警報器を収納するための警報器収納部から
なるものである。容器部は,正面側の面の略全体が開放され,背面側の面の中央に
大きな略L字型の透孔部(以下「L字型透孔部」という。)が形成されたものであ
り,警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横長帯状の枠体であ
る。
イ 具体的構成態様
(ア) 全体の構成比率
高さ,幅及び厚みの比は,約10.7:7.3:1である。
(イ) 容器部
a 正面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした小突出片が形成されている。
b 背面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした透孔部が形成されている。
c 背面視では,L字型透孔部(正面視では左右反転L字型となる。)
の直角の凹んだ部分と上面及び左面に囲まれた部分は,肉厚が他の部分より僅かに
薄く形成された結果,背面の裏側にL字型透孔部のやや内側に逆L字状の段差が形
成されている。
d L字型透孔部は,各隅を略同様の小さなアール状に形成し,それ以
外の部分は直線的態様としている。
e 上面の左寄り約7分の1部分が,細かい波状を形成している。
f 全体が透明である。
(ウ) 警報器収納部
a 背面側の下方略3分の1全体が,上方部分より一段奥まっており,
段差を形成している。
b 底面中央には,全体の幅の約3分の2にわたって空洞部分が形成さ
れており,左右の余地部は,周囲の枠体と面一状の底部分が形成されたものであ
る。
c 容器部との背面側接合部は,直線状である。
d 底面の左右の余地部及び警報器収納部の上方略3分の2の帯状部分
を除く全ての部分が透明である。
(2) 被告意匠の構成
被告製品の形態は,別紙物件目録添付の図面のとおりであり,前記争いの
ない事実及び検乙1によれば,被告意匠の構成は,以下のとおり表される。
ア 基本的構成態様
全体の形状は,厚みの薄い縦長直方体の箱状であり,DVDケースを収
納するための容器部と,その下方に盗難警報器を収納するための警報器収納部から
なるものである。容器部は,正面側の面の略全体が開放され,背面側の面の中央に
大きな丸みを帯びた変形のL字型の形状の透孔部を形成したものであり,警報器収
納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横長帯状の枠体である。
イ 具体的構成態様
(ア) 全体の構成比率
高さ,幅及び厚みの比は,約10.7:7.5:1である。
(イ) 容器部
a 正面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした小突出片が形成されている。
b 背面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした透孔部が形成されている。
c 背面視では,変形したL字型透孔部(正面視では左右反転L字型と
なる。)の直角の凹んだ部分と上面及び左面に囲まれた部分は,肉厚が他の部分よ
り僅かに薄く形成された結果,背面の裏側に変形したL字型透孔部のやや内側に逆
L字状の段差が形成されている。
d 変形したL字型透孔部は,大きな横長長方形とその左上に角度90
度の扇形が組み合わされ,左上隅を大きなアール状に,左右下隅を小さなアール状
に,その他の隅をより小さなアール状に形成し,それ以外の部分は直線的態様とし
ている。
e 上面は,平坦である。
f 全体が透明である。
(ウ) 警報器収納部
a 背面側の下方略3分の1全体が,上方部分より一段奥まっており,
段差を形成している。
b 底面中央には,全体の幅の約3分の2にわたって空洞部分が形成さ
れており,左右の余地部は,周囲の枠体と面一状の底部分が形成されたものであ
る。
c 容器部との背面側接合部は,凸凹線である。
d 底面の左右の余地部及び警報器収納部の上方略3分の2の帯状部分
を除く全ての部分が透明である。
(3) 本件意匠と被告意匠との対比
ア 上記認定によれば,本件意匠と被告意匠とは,① 透孔部の形状が本件
意匠ではL字型であるのに対し,被告意匠では上記のとおり変形したL字型である
という点,② 全体の構成比率,③ 容器部の上面の一部が波状であるか平坦であ
るか,④ 容器部と警報器収納部との背面側接合部が直線状であるか凸凹線である
かという点で相違し,その余の点は,基本的構成態様及び具体的構成態様において
共通している。
イ 上記相違点②(全体の構成比率の差異)については,10.7:7.
3:1と10.7:7.5:1という微細な差であり,有意の相違点とはいえな
い。さらに,上記相違点③(容器部の上面の一部の形状の差異)については,意匠
全体の面積に占める割合が極めて小さい部分であるし,DVDのパッケージには正
面及び背面に写真及び説明等が付されており(乙7参照),看者は主として容器部
の正面及び背面を見ることが多いというDVD収納ケースの性質に鑑みると,容器
部の上面の一部が看者の目を惹く部分であるとはいえない。また,上記相違点④
(容器部と警報器収納部との背面側接合部の形状)についても,意匠全体の面積に
占める割合が極めて小さい部分であり,容器部の背面側の最下端の部分であること
から,看者の目を惹く部分であるとはいえない。
ウ 本件意匠と被告意匠の上記相違点①(透孔部の形状の相違)についてみ
るに,透孔部は容器部の背面側の面の中央に大きく形成されており,正面視からも
背面視からも視認できることから,透孔部の形状は看者の目を惹く部分ということ
ができるが,本件意匠及び被告意匠の透孔部の形状は,隅部のアールの大きさにお
いて違いがあるものの略L字型という同一の美感を看者に与えるものであり,その
差異は微細なものである。
エ 上記のとおり,本件意匠と被告意匠との相違点はいずれも微細なもので
あり,その余の点は全て共通するのであるから,全体として同一の美感を与えるも
のであり,両意匠は類似するものといわざるを得ない。
(4) 以上のとおり,被告意匠は本件意匠に類似する。
 2 争点(2)(先使用の抗弁)について
(1) 被告が本件意匠権について先使用による通常実施権を有するか否か,すな
わち,被告が本件意匠を知らないで被告意匠の創作をし,又は被告意匠の創作をし
た者から知得して,本件意匠登録出願の際(平成13年4月18日),現に日本国
内において被告意匠の事業またはその準備をしていたといえるか否かについて検討
する。
(2) 証拠(乙10ないし31。乙15及び29は,枝番を含む。以下同じ。)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。
ア 被告は,平成12年9月18日,万引き防止機(SMS2)のクリアケ
ース2(DVD)の図面(図番001041001-01)を作成した(乙10,
11。原告は,乙10及び11について,いずれも被告が作成日付を遡らせて作成
した虚偽の文書である旨主張するが,それを窺わせる事情はない。)。
上記図面に記載された万引き防止機の形状は,背面の透孔部の形状が被
告製品のものよりも小さく,また,透孔部左上角の部分のアール部分が小さい点等
において,被告製品と相違点が認められる。
イ 被告は,同月26日,上海中崎電子に対し,上記図面,万引き防止機
(CD用)のロックスプリングの図面(図番001011004-01)及びソコ
ブタ2の図面(図番001041003)を添付して,DVD万引き防止機の金型
費,部品価格,組立費並びに金型償却及び運送費込みでの納入単価の見積りを依頼
した。これを受けて上海中崎電子は,同年10月11日,各見積りをFAXにて被
告に送付した(乙12ないし14。原告は,乙14は全く別の商品について作成さ
れた見積書であり,乙13はそれに対応するかのごとく被告が勝手に作成した文書
である旨主張するが,乙14で金型比及び部品価格の見積りが示されている「クリ
アケース2(DVD)」や「ロックスプリング」は,被告製品の試作品の図面であ
る乙10ないし12の図面の図名と一致しており,被告製品について作成された見
積書であることは明らかである。さらに,乙13の各記載は乙14の記載に対応し
ているから,乙13は,乙14の前提となる見積依頼書であり,被告が勝手に作成
した文書であることを窺わせる事情はない。)。
ウ 被告は,上記クリアケース2(DVD)の図面(図番00104100
1-01)に5ヶ所の変更を加え,同年12月14日,上海中崎電子に対し,当該
図面を添付して,金型費及び部品費の再見積を依頼した(乙15,16。原告は,
乙15及び16について,いずれも被告が作成日付を遡らせて作成した虚偽の文書
である旨主張するが,乙15及び16は,いずれも上海中崎電子が受信したFAX
文書であるところ,それらにはFAX受信日時が示されており,被告が作成日付を
遡らせることは不可能である。)。
上記図面に記載された万引き防止機の形状は,変更前の図面のものより
も裏面の透孔部の形状が大きくなるなど被告製品の透孔部の形状に近似したもの
の,いまだその大きさが被告製品のものよりも小さい点において,被告製品と相違
点が認められる。
エ 被告は,上記クリアケース2(DVD)の図面(図番00104100
1-01)に再度変更を加え,同月21日,金型手配用の新規手配図面を作成し
た。同様に,被告は,同年11月ないし12月ころ,万引き防止機(SMS2)の
SMS2ウラブタ2及びソコブタ2並びに万引き防止機(CD用)のロックスプリ
ングの金型手配用の新規手配図面を作成し,さらに,ソコブタ(DVD)とロック
スプリングを組み合わせた万引き防止機(SMS2)のSMS2ソコブタU/Tの
組立検討用の検討用参考図,SMS2クリアケース(DVD用),SMS2ウラブ
タ2及びSMS2ソコブタU/Tを組み合わせた万引き防止機(SMS2)のクリ
アケースU/T(DVD)の組立検討用の新規手配図面を作成した(乙17ないし
23,31。原告は,乙17ないし23について,いずれも被告が作成日付を遡ら
せて勝手に作成した虚偽の文書である旨主張するが,それを窺わせる事情はな
い。)。
  上記各図面記載の製品の形状は,被告製品の形状と同一のものと認めら
れる。
オ 被告は,被告意匠を創作した上記エの当時,本件意匠を知らなかった。
カ 被告は,上海中崎電子の取引先である慈渓市新開塑料五金厂に金型の製
作を依頼し,平成13年1月12日,上記金型の代金3467USドルを上海 南
対外経済有限公司を通じて送金した(乙24,31)。
キ 被告は,平成13年2月22日,上海中崎電子に対し,同年3月6日か
ら9日まで開催されるセキュリティーショーに被告製品のサンプルを出品するた
め,同月6ないし7日ころ被告に到着するように金型制作をしてほしい旨FAXで
依頼したが間に合わなかったため,被告担当者Aは,同月5日から7日まで上海へ
出張し,上海中崎電子からサンプル6個を日本へ持ち込んだ。なお,被告は,上記
セキュリティーショーにおいて上記サンプルを出品することはできなかったが,関
係者に配布した(乙25,26,31。原告は,乙25について,作成日付を遡ら
せて作成したものと主張するが,これは上海中崎電子が受信したFAX文書である
ところ,そこにはFAX受信日時が示されており,被告が作成日付を遡らせること
は不可能である。)。
ク 上海中崎電子は,同年4月16日,被告に対し,被告製品100個(ク
リアケース100個,裏蓋100個及び底蓋200個)を航空便で送付し,同月1
9日,被告は,これを受領した(乙27,28,31。原告は,乙27及び28に
ついて,被告が作成日付を勝手に修正したものであると主張するが,それを窺わせ
る事情はない。)。
ケ 被告は,同月24日あるいは25日ころ,株式会社店舗プランニング,
高千穂交易株式会社等取引先7社に対して,被告製品のサンプルを送付し,同年5
月24日,そのうちの1つである高千穂交易株式会社から被告製品300個の注文
を初めて受けた(乙29ないし31)。
(3) 上記認定事実によれば,被告は,本件意匠を知らずに,被告製品の設計図
面を作成し,修正を重ねることにより(上記(2)アないしエ),被告意匠の創作を行
ったものである。
そして,本件意匠登録出願日である平成13年4月18日までに,設計図
面を作成したほか,上海中崎電子に金型費,部品価格,組立費並びに金型償却及び
運送費込みでの納入単価の見積りを依頼し(上記(2)イ及びウ),上海中崎電子の取
引先である慈渓市新開塑料五金厂に依頼して金型を製作し(上記(2)カ),被告製品
のサンプル6個及び100個の発送を受けたものであり(上記(2)キ及びク),これ
ら各行為に鑑みると,被告は,その後正式な注文が入り次第即時に被告製品の製造
販売を開始するという意図を有するとともに,その意図が客観的に認識される態
様,程度において表明されていると認めることができる。よって,被告は,本件意
匠登録出願当時,現に日本国内において被告製品の意匠の実施である事業の準備を
していたものということができ(最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日第
二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照),かつ,現在まで,その準備をし
ていた事業の目的の範囲内において被告製品の製造販売を行っているものと認めら
れる。
(4) よって,被告は,本件意匠権につき先使用による通常実施権を有し(意匠
法29条),適法に被告製品を製造販売しているのであって,本件意匠権を侵害し
ているとはいえない。
3 争点(4)(意匠法3条2項違反の無効理由)について
上記2のとおり,先使用の抗弁が認められるから,原告の請求は理由がない
が,念のため,争点(4)についても判断する。
(1) クボタ意匠の公知性
証拠(乙7,8,9,32ないし41)によれば,クボタ製品の製作,販
売の経過につき,以下の事実が認められる。
ア クボタセキュリティーは,平成12年2月17日,クボタ製品(型式M
S-DVD。乙7)の外形寸法図(乙32)を作成し,同日,製造委託先である日
本システムハウス株式会社に対し,上記外形寸法図を送付した。
イ クボタセキュリティーは,同年3月に東京及び大阪で開催した内覧会
で,クボタ製品のサンプル品を展示した。
ウ クボタセキュリティーは,同年3月ころからクボタ製品の市販を開始
し,原告に対しても同年5月ころクボタ製品800個を販売し,同年5月9日,製
造委託先である日本システムハウス株式会社から原告に対し,クボタ製品800個
を送付した。なお,原告は,原告がこのころクボタセキュリティーから購入したも
のは,「セーファータグ MS-DVD」という貼り付け式自鳴式タグであり,ク
ボタ製品とは異なる旨主張し,これに沿う原告社員の陳述書(甲8)を提出する
が,クボタセキュリティーの取締役の証明書(乙41)によれば,これがクボタ製
品と同一であることが認められ,原告の上記主張は採用できない。
上記認定事実によれば,クボタ製品は,平成12年3月ころから市販され
るに至っていたものであるから,クボタ意匠は,本件意匠登録出願日の平成13年
4月18日よりも前に日本国内において公然知られていたものと認められる。
(2) クボタ意匠の構成
クボタ製品の形態は,別紙クボタ製品目録添付の図面のとおりであり,検
乙4によれば,クボタ意匠の構成は,以下のとおり表される。
ア 基本的構成態様
全体の形状は,厚みの薄い縦長直方体の箱状であり,DVDケースを収
納するための容器部と,その下方に盗難警報器を収納した警報器収納部からなるも
のである。容器部は,正面側の面の略全体が解放され,背面側の面の中央に大きな
左右反転L字型の透孔部(以下「左右反転L字型透孔部」という。)を形成したも
のであり,警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横長帯状の枠体
である。
イ 具体的構成態様
(ア) 容器部
a 正面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした小突出片が形成されている。
b 背面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状
にした透孔部が形成されている。
c 背面視では,左右反転L字型透孔部(正面視ではL字型となる。)
の直角の凹んだ部分と上端左の隅部の透孔部に囲まれた部分は,肉厚が他の部分よ
り僅かに薄く形成された結果,背面の裏側に左右反転L字型透孔部のやや内側にコ
の字型の段差が形成されている。
d 左右反転L字型透孔部は,各隅を略同様の小さなアール状に形成
し,それ以外の部分は直線的態様としている。
e 上面は,平坦である。
f 全体が透明である。
(イ) 警報器収納部
a 正面側,背面側及び左右側面側部分が上方にせり出し,その背面側
部分及び左右側面側部分において,容器部と接合している。正面側のせり出し部分
よりも下の部分は,せり出し部分より一段奥まっており,段差を形成している。
b 底面は,平坦であり,その中央には,盗難警報器が挿入される空洞
部分が形成されていない。
c 容器部との背面側接合部は,右側約3分の1が僅かな段差をもって
形成してある。
d 内側に形成された突起部を除き,全ての部分が黒色である。
(3) クボタ意匠と本件意匠の対比
ア 上記(2)のとおり認められるクボタ意匠の構成と前記1(1)で認定した本
件意匠の構成とは,基本的構成態様においては,① 全体の形状が厚みの薄い縦長
直方体の箱状であり,DVDケースを収納するための容器部と,その下方に盗難警
報器を収納するための警報器収納部からなるものである点,② 容器部の正面側の
面の略全体が開放され,背面側の面の中央に背面視大きな透孔部が形成されている
点,③ 警報器収納部は,容器部の底面に沿って形成された細い横長帯状の枠体で
ある点において共通している。また,具体的構成態様においては,① 容器部の正
面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール状にした小突出片が
形成されており,背面上端左右の隅部に,略横長四角形で内側の隅を小さなアール
状にした透孔部が形成されている点,② 容器部の背面に,肉厚が他の部分より僅
かに薄い部分が存在し,段差が形成されている点,③ 容器部の透孔部は,各隅を
略同様の小さなアール状に形成し,それ以外の部分は直線的態様としている点,④
 容器部全体が透明である点において共通している。
イ 他方,両意匠の構成は,基本的構成態様において,① 容器部の透孔部
の形状が,L字型(本件意匠)と左右反転L字型(クボタ意匠)とで相違してお
り,具体的構成態様において,② 容器部背面の裏側に存在する段差の形状,③ 
容器部の上面における波状部分の存否,④ 警報器収納部の形状において相違して
いる。
(4) 創作容易性について
上記(3)イのうち,本件意匠とクボタ意匠との相違点①については,本件意
匠の透孔部の形状はクボタ意匠の透孔部の形状を左右反転させただけであるから,
それを創作することは容易である。
また,相違点②ないし④については,以下に述べるとおり,被告が本件意
匠登録出願前に製造販売していた盗難防止用CD収納ケース(検乙2。以下「被告
CD製品」という。)において,すでにすべて開示されていたものである。
すなわち,被告CD製品には,CDを収納する容器部背面に,左上側に逆
L字状の段差が形成されており(上記相違点②),容器部上面の左寄り部分に波状
部分を形成し(上記相違点③),さらに,底面中央に全体の幅の約3分の2にわた
って盗難警報器が挿入される空洞部分が形成されており,本件意匠と同様外部から
盗難警報器を挿入する構造が存在する(上記相違点④)。
以上によれば,本件意匠登録出願前に公知であったクボタ意匠及び被告C
D製品の形状に基づき,当業者は,本件意匠を容易に創作することができたものと
いうべきである。
(5) したがって,本件意匠は,意匠法3条2項に違反して登録されたものであ
り,本件意匠権には無効理由(意匠法48条1項1号)が存在することが明らかで
あるから,原告の本件意匠権に基づく権利行使は,権利の濫用に当たり許されない
(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻
4号1368頁参照)。
4 結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第47部
  裁判長裁判官   高 部 眞規子
  裁判官   上 田 洋 幸
           裁判官   宮 崎 拓 也
(別紙)
物件目録斜視図正面図背面図平面図底面図右側面図左側面図透明部分を斜線であら
わした参考背面図透明部分を斜線であらわした参考正面図クボタ製品目録 斜視図
正面図背面図右側面図左側面図平面図底面図

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