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平成13(ワ)3851民事訴訟 著作権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成15年12月19日
事件種別 民事
法令 著作権
著作権法114条の41回
キーワード 侵害130回
許諾51回
損害賠償22回
抵触3回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(ワ)第3851号 損害賠償請求事件 
口頭弁論終結日 平成15年9月30日
判決
   当事者の表示   別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して金524万3111円及び内金505
万2540円に対する平成11年1月1日から,内金18万7806円に対する平
成11年4月1日から,内金2765円に対する平成15年1月1日から各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社フジパシフィック音楽出版は,原告に対し,金1376万
2425円及び内金525万8134円に対する平成11年1月1日から,内金8
50万4291円に対する平成15年1月1日から各支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の1及び被告株式会社ポニーキ
ャニオンに生じた費用を被告株式会社ポニーキャニオンの負担とし,原告に生じた
費用の10分の1及び被告株式会社フジパシフィック音楽出版に生じた費用を被告
株式会社フジパシフィック音楽出版の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   被告らは連帯して,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成11年1月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により認定される事実を含む。)
(1) 当事者
  原告(旧商号金井音楽出版株式会社)は,音楽出版社の事業を主たる目的
として設立された株式会社であり,その後有限会社に組織変更されたものである。
音楽出版社とは著作権者として音楽著作物を出版し,録音し,その著作物の利用の
開発を図ることを業とする事業者である。
  原告補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,多数のヒット曲を作
詞作曲している作詞作曲家である。
  被告株式会社ポニーキャニオン(以下「被告ポニーキャニオン」とい
う。)は,ニッポン放送系列下のレコード会社であり,録音,録画ディスク,テー
プ,フィルム,放送番組等の企画制作,製造及び販売等を目的とする株式会社であ
る。
  被告株式会社フジパシフィック音楽出版(以下「被告フジパシフィック」
という。)は,株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)系列下
の音楽出版社であり,音楽著作物の管理及び利用開発を主な目的とする株式会社で
ある。
(2) 原告の権利
  補助参加人は,昭和41年,別紙1記載の歌曲「どこまでも行こう」を作
詞作曲して,その歌詞及び楽曲(以下,その楽曲を「甲曲」という。)の各著作物
について著作権及び著作者人格権を取得した。この歌曲は,同年,株式会社ブリヂ
ストン(当時の商号は,ブリヂストンタイヤ株式会社)のテレビコマーシャルとし
て,民放各社により放送され公表された(甲3,弁論の全趣旨)。
  補助参加人は,昭和42年2月27日,原告に対し,甲曲について著作権
法(以下「法」という。)27条及び28条の権利を含む著作権を,その歌詞に係
る著作権とともに信託譲渡した。甲曲の著作者人格権は,補助参加人に留保されて
いる(甲2の1)。
  原告は,同月28日,社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRA
C」という。)に対し,著作権信託契約約款(乙34の1及び2。以下「本件信託
契約約款」という。)に従い,甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託した(甲
3。ただし,譲渡した支分権の範囲については争いがある。)。
(3) 被告らの行為
  被告らは,共同でフジテレビ及びその系列下の地方テレビ放送局(以下
「系列局」という。)で放送するテレビ番組「あっぱれさんま大先生」(以下「本
件番組」という。)のCDアルバム「キャンパスソング集」を制作することを企画
した。実際の制作作業は,被告ポニーキャニオン担当者Aの指揮の下に行われ,A
は,アルバム中の「記念樹」につきその作曲を作曲家であるCに依頼した。Cは,
平成4年,別紙2記載の歌曲「記念樹」に係る楽曲(以下「乙曲」という。)を創
作した(甲17,A証人)。
  被告らは,平成4年9月半ば過ぎに,原盤を完成し,被告ポニーキャニオ
ンは,同年12月2日,Bを作詞者,Eを編曲者,被告ポニーキャニオンをレコー
ド製作者(原盤制作者),「あっぱれ学園生徒一同」を歌手とする曲として,乙曲
を収録した「『あっぱれさんま大先生』キャンパスソング集」との題号のCDアル
バム(以下「本件アルバム」という。)を製作・販売した(甲15の1,甲2
0)。
  アルバム企画当初は,被告らの間で,キャンパスソング集の原盤制作費は
半分ずつ負担し,その割合で原盤権を共有するということが決められていたが,同
年12月2日付けで,被告らは,キャンパスソング集に関する原盤契約書を取り交
わし,被告フジパシフィックがレコード原盤を被告ポニーキャニオンに引き渡すと
同時に,その所有権,複製権,レコード製作者の二次使用料請求権その他一切の権
利を譲渡すること,対価として,被告ポニーキャニオンは,被告フジパシフィック
に所定の原盤印税を支払うことを合意した。
  Cは乙曲についての著作権を,Bはその歌詞についての著作権を,それぞ
れ被告フジパシフィックに対して譲渡した。同被告は,平成4年12月21日,J
ASRACに乙曲の作品届を提出し,同月1日付けでJASRACに乙曲及びその
歌詞についての著作権を信託譲渡して管理を委託した(甲16)。JASRAC
は,利用者に対し,乙曲を利用許諾して,これを利用させた。
(4) フジテレビによる放送
  フジテレビは,平成4年12月31日の本件番組の年末スペシャルにおい
て,また,平成5年3月14日以降平成14年9月1日まで毎週1回,本件番組の
エンディング・テーマ曲等として乙曲を放送した。また,フジテレビは,乙曲を放
送用に録音し,系列局に乙曲の録音物を販売し,同系列局をして乙曲を放送させた
(甲67)。
(5) 別件訴訟
  原告及び補助参加人は,平成10年7月28日,乙曲を創作したCに対
し,乙曲が甲曲を複製したものであり,原告の著作権(複製権)及び補助参加人の
著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するなどと主張して,損害賠
償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成10年(ワ)第17119号。以下「別件
訴訟」という。)。東京地方裁判所は,平成12年2月18日,乙曲は甲曲を複製
したものではないとして,原告及び補助参加人の請求を棄却する旨の第1審判決を
言い渡した(乙1)。
  そこで,原告及び補助参加人は,控訴し,控訴審において,乙曲が甲曲の
二次的著作物であるとして,法27条の権利(編曲権)侵害の主張を追加した(東
京高等裁判所平成12年(ネ)第1516号)。なお,原告及び補助参加人は,別件
訴訟の控訴審において,被告フジパシフィックに対しては平成12年6月6日,被
告ポニーキャニオンに対しては同年7月12日付けで,それぞれ民訴法53条に基
づく訴訟告知をした(甲79の1及び2)。東京高等裁判所は,平成14年9月6
日,Cによる乙曲の創作が甲曲に係る編曲権を侵害するとして,第1審判決を取り
消し,原告及び補助参加人の請求を一部認容する旨の控訴審判決を言い渡した(甲
74)。
  Cは,上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所第三小法廷は,平
成15年3月11日,Cの上告を棄却し,かつ上告審として受理しない旨の決定を
した(甲75)。  
  原告及び補助参加人は,平成14年3月29日,乙曲を放送したフジテレ
ビに対し,編曲権侵害等を理由として損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判
所平成14年(ワ)第6709号)。さらに,原告は,平成15年4月16日,乙曲の
利用者に対する利用許諾をしていたJASRACに対し,損害賠償請求訴訟を提起
した(東京地方裁判所平成15年(ワ)第8356号)。
(6) 別件訴訟後の各社の対応等
  フジテレビは,別件訴訟の控訴審判決を受けて,平成14年9月1日放送
分を最後に,同月8日以降は,本件番組において,乙曲を放送しないことを決定
し,乙曲の放送を中止した。
  JASRACは,別件訴訟の最高裁決定を受けて,平成15年3月13日
に至り,乙曲の利用許諾を中止した。
2 本件は,原告が,被告らに対し,乙曲は甲曲に係る編曲権を侵害する曲であ
るところ,被告らが乙曲の創作を依頼し,乙曲を収録した本件アルバムの原盤を制
作し,被告ポニーキャニオンが本件アルバムを製作・販売し,被告フジパシフィッ
クが乙曲をJASRACに管理委託して利用者に対し利用許諾させた前記1(3)記載
の行為が甲曲の著作権(法27条の権利又は法28条の権利)を侵害すると主張し
て,不法行為に基づく損害(放送及び放送用録音については平成11年3月末日ま
での使用による損害,その余については平成14年12月期の分配期に対応する期
間の使用による損害)の賠償を請求する事案である。
3 争点
(1) 本件訴訟は二重起訴禁止に抵触するか。(本案前の抗弁)
(2) 乙曲は甲曲に係る編曲権を侵害する曲といえるか。
(3) 被告らの行為により原告の著作権が侵害されたか。
(4) 被告らに過失があるか。
(5) 損害の発生の有無及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本案前の抗弁)について
〔被告らの主張〕
 原告は,補助参加人とともに,乙曲を創作したCに対して別件訴訟を提起し
たが,その訴訟物は,本件訴訟と同様に編曲権侵害に基づく損害賠償請求権であ
り,その主要な争点は,本件訴訟と同様に乙曲が甲曲の編曲権を侵害するかどうか
である。両訴訟の当事者は形式的には異なるものの,被告フジパシフィックは,C
から乙曲の著作権の譲渡を受けており,利害は基本的には共通するから,実質的に
当事者は同一である。両訴訟がそれぞれ別個に同じ争点を審理判断されることは,
訴訟経済に反し,また両訴訟で矛盾が生じるおそれもある。原告は,専ら被告らを
困惑させる目的でいたずらに同一訴訟を蒸し返すものである。
 したがって,本件訴訟は,別件訴訟と重複する訴え又は訴権の濫用であり,
民訴法2条及び142条に反するから,不適法であり,却下されるべきである。
〔原告の主張〕
 別件訴訟における被告はCであり,本件における被告らと当事者は同一では
ないし,本件では編曲権侵害の成否以上に被告らの業務上の過失及び侵害の規模と
使用曲数が主要な争点となるから,二重起訴には当たらない。また,原告は,編曲
権侵害を発生させた乙曲を依頼した注文者として,乙曲の作曲,編曲,発表などの
過程で決定的な影響力を有している被告らに対する損害賠償請求権の消滅時効を中
断させる必要もあり,訴権の濫用には当たらない。
2 争点(2)(編曲権を侵害する曲といえるか)について
〔原告の主張〕 
(1) 法27条所定の編曲権侵害における類似性の判断において,一般人が被疑
曲から原曲の創作的部分である本質的特徴を感じ取ることができる場合には,編曲
権の保護を及ぼす必要があると解される。楽曲は,旋律,和音,リズム,テンポ,
拍子及び様式等の各要素で構成されているから,これらの要素を総合的に比較する
必要があるが,楽曲の同一性に対して最も影響力の大きいのは旋律である。
  甲曲の8小節全体としての旋律ライン,特に各フレーズで採用されている
旋律の起承転結は,他に存在しない極めてユニークな旋律であり,甲曲の本質的特
徴たる高度に創作的な表現である。
  乙曲は甲曲と各フレーズの旋律が極めて類似し,また楽曲の展開である起
承転結はデッドコピーであり,乙曲の中間部分の1小節以外は旋律の音が属する和
声も同一である。リズム,テンポ,拍子及び形式は,甲曲と乙曲の類似性を否定す
るほどには異ならず,聴いた印象も類似している。したがって,乙曲は,甲曲を編
曲したものとして酷似しており,乙曲からは甲曲の創作性の本質的特徴を直接かつ
明白に感得することができる。
(2) 甲曲は,昭和41年以降,テレビコマーシャルとして大量に放送され,ヒ
ット曲として人気を博し,当時の有名歌手であるHの歌唱によるレコードや出版物
が大量に販売され,小・中学生の音楽教科書にも掲載されるなど,国民に広く知ら
れる愛唱歌である。Cは,昭和41年以前から日本に居住し,音楽関係者であり,
昭和59年ころには株式会社ブリヂストンの社歌を作曲し,Hの歌唱曲を多数編
曲・作曲し,海外公演にも同行するなど株式会社ブリヂストン及びHと親しい関係
にあったのであるから,同社のコマーシャルソングとして大ヒットし,Hがレコー
ド化した甲曲を知らないはずがない。これらの事情に,乙曲のフレーズの構成が甲
曲のデッドコピーであるほど類似していることを考慮すれば,Cが甲曲に依拠して
乙曲を創作したことは明らかである。
(3) したがって,乙曲は,原告に無断で甲曲を編曲して創作されたものであ
る。
〔被告らの主張〕 
(1) 楽曲の同一性は,旋律の類似性のみをもって決定されるのではなく,曲の
全体的雰囲気,形式,和声,拍子,リズム,テンポ等を総合的に考慮して決定され
るべきものである。甲曲が2分の2拍子で比較的速いテンポで軽く弾んだリズムで
明るく前向きな雰囲気であるのに対し,乙曲は4分の4拍子でゆるやかなテンポで
静かなリズムでウェットな雰囲気である。和声は,甲曲がシンプルなスリーコード
(基本三和音)であるが,乙曲には多彩な和音がきめ細かく付けられている。両曲
の盛り上がりの位置にある旋律とこれによって聞き手にもたらされるイメージも全
く異なる。旋律自体についても,冒頭部分の音階上の山の有無,導音の有無,第2
フレーズの音階上の山の位置,第3フレーズの細かい八分音符の動き,乙曲の後半
部分が甲曲には存在しないこと等,両曲の違いは判然としており,全体的印象の相
違に照らし,乙曲は,全く独自の著作物であって,甲曲を編曲したものではない。
(2) また,Cは,甲曲に依拠して乙曲を創作したのではないから,依拠性も認
められない。そもそも甲曲は,慣用句的音型の連続にすぎず,珍しいものではない
から,偶然の一致の可能性が高い楽句であり,乙曲は甲曲に依拠しなければ創作で
きないものではない。
(3) したがって,乙曲は,甲曲に係る編曲権を侵害するものではない。
3 争点(3)(原告の著作権が侵害されたか)について
〔原告の主張〕
(1) 法27条の権利の侵害
   原告は,甲曲の著作権者であり,JASRACに対し,甲曲の著作権を信
託譲渡して管理を委託したものであるところ,その際,原告とJASRAC間で交
わされた本件信託契約約款には,法27条の権利が特掲されていないから,法61
条2項により,法27条の権利は譲渡しておらず,原告がこれを専有している。
 法27条は,編曲する権利を保護する規定であり,法28条は,適法に創
作された編曲著作物すなわち二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を保護す
る規定である。したがって,無断で編曲された二次的著作物を放送,演奏,録音等
に利用する行為に対しては,法27条が法28条と一体として機能し,適用され
る。ただし,適用対象となる利用行為は,法28条に定める行為に限定される。
 その理由は,① 違法に編曲された二次的著作物を放送,録音すること
は,著作権者の放送権や複製権により保護される利益を侵害するのではなく,著作
権者の編曲権により保護している利益を侵害していること,② 編曲権は,第三者
が無断で編曲する行為だけでなく,第三者が無断で編曲した二次的著作物を放送,
録音する行為によっても侵害可能であること,③ 法49条2項が二次的著作物の
複製物を頒布する行為や二次的著作物を公衆に提示する行為につき編曲を行ったも
のとみなしていること,④ 法49条2項との関係で,違法に編曲された二次的著
作物を放送,録音する行為を編曲権侵害とならないとすることは,法益保護上均衡
を失した法令解釈となること,⑤ 法113条1項が違法著作物の頒布及び所持を
著作権侵害行為としていることとの関係で,違法に編曲された二次的著作物を放
送,録音する行為を編曲権侵害とならないとすることは,法益保護上均衡を失した
法令解釈となること,⑥ 法28条が違法著作物と適法著作物を同一に処理すべく
規定しているとはいえないこと,⑦ 法28条は編曲に関する権利を定めているも
のではないから,法28条だけでは,原著作物の著作権者の編曲に関する権利によ
り保護されている利益を守ることはできないこと,⑧ 放送,録音が編曲権を侵害
すると解しても,適用範囲の解釈としては一般的であり,罪刑法定主義には反しな
いこと,⑨ このように解しても一般人の予期に反しないこと等である。
 したがって,法27条の権利を専有する原告は,編曲権を侵害する乙曲を
利用した被告らに対し,損害賠償請求権を有する。
(2) 法28条の権利の侵害(予備的主張)
  本件信託契約約款には,法28条の権利は特掲されていないから,原告
は,JASRACに対して,包括的には法28条の権利を信託譲渡していない。す
なわち,本件信託契約約款には,法27条及び法28条の権利についての記載はな
いから,すべての支分権について信託譲渡されたものとはいえない。深刻な利害対
立のあるJASRACに法28条の権利を譲渡すると自らの編曲権を無にされてし
まうから,原告が事前に法28条の権利を譲渡するはずがない。著作権者は,編曲
権を侵害する二次的著作物についてJASRACに法28条の権利を譲渡し,放送
等の利用を認めることはあり得ない。JASRACが,原著作物の著作権者の承認
のない違法な二次的著作物をも管理しているとすると,原著作物の著作権者にとっ
てあたかも適法な二次的著作物と同様に管理されることになり,二次的著作物の使
用料の分配問題等においてJASRACの業務に支障が生じる。
  したがって,原著作物の著作者が創作した二次的著作物に関する権利は,
法28条の権利ではないし,第三者が創作した二次的著作物については,第三者が
提出する編曲届に記載される原権利者の承認により初めて個別に管理委託されるの
である。このように,JASRACは,原著作物の著作権者の承認のない違法な二
次的著作物を管理していない。
  そうすると,原告は,法28条の権利を有するから,甲曲を無断で編曲し
た乙曲を使用して本件アルバムの原盤を制作等した被告らの行為は,法27条の定
める編曲権を侵害するといえないとしても,法28条の権利を侵害するものであ
り,被告らに対し,損害賠償請求権を有する。
〔被告らの主張〕
(1) 法27条の権利の侵害について
  法27条は,二次的著作物を創作する権利であって,二次的著作物を利用
する権利を定める法28条とは別個の権利である。すなわち,法27条は編曲され
た著作物の利用行為を直接に規制する権利ではない。被告らは乙曲を創作したので
はないから,仮に乙曲が甲曲を無断で編曲したものであったとしても,乙曲を本件
アルバムの原盤に録音して複製したにすぎない被告らには,編曲権侵害が成立する
余地がない。
(2) 法28条の権利の侵害について  
  甲曲の著作権者である原告の有していた法28条の権利は,以下の理由
で,明示又は黙示の合意により,JASRACに移転している。
 ア 本件信託契約約款1条本文の文理解釈からして,編曲者が第三者かどう
かによって信託譲渡の有無を区別することはできず,原告とJASRAC間の著作
権信託契約は,法61条2項の推定を及ぼす余地がないものである。
 イ 著作権集中管理団体に対する信託譲渡の実態からして,法28条の権利
の譲渡に一定の留保がなされるという解釈を採る余地はない。
 ウ 平成12年法律第131号による廃止前の著作権ニ関スル仲介業務ニ関
スル法律(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)の下において
は,翻案された作品の複製や放送等の利用を許諾する権利はJASRACに信託譲
渡されていたから,著作権を信託譲渡した音楽出版者が自ら著作権を行使すること
は,同法に抵触すると考えられており,原告は,その有する法28条の権利のすべ
てをJASRACに移転していたと解するほかない。
 エ 原告が編曲権(法27条の権利)を留保していることと第三者が編曲し
た二次的著作物に関する法28条の権利をJASRACに信託譲渡することとは矛
盾しないし,編曲権の留保を無意味にすることはない。
 オ JASRACが編曲届の提出に際し「原権利者の承認を証明する文書」
の添付を要求しているのは,ある音楽著作物を編曲著作物として管理し,編曲者に
所定の分配率に従った使用料取り分を認めることが,原著作物の著作権者(作詞
者・作曲者)の使用料取り分が減少することを意味するものであるから,かかる書
面を要するものとしたにすぎない。
 カ 原告は,平成10年9月,JASRACに対して,乙曲について「管理
除外」ではなく「分配保留」の措置を求め,JASRACがこれに対して同措置を
執ったことについて,「適切な措置をとってくれました」と感謝の意を表していた
ことからすれば,原告は,乙曲に関する法28条の権利をJASRACに信託譲渡
したことを認めていたものである。
 キ 仮に,JASRACが翻案権者の許諾のない二次的著作物について管理
しておらず,利用する権限を有しないとすると,JASRACには許諾権がない以
上訴権もないのであるから,違法な演奏使用を行っている悪質なカラオケ店等に対
しても,歌詞やメロディーが勝手に変えられて歌われていた場合は,それらの無断
改変を伴う演奏使用についてのJASRACの訴権は消滅し,委託者が自己負担で
訴訟を提起することを求められることになる。かかる事態は,JASRACの業務
の遂行に大変な混乱をもたらすばかりでなく,JASRACの訟務部のような組織
を有しない一般の委託者にも重い負担を課すことになるのであるから,信託契約の
実態のみならず,当事者の合理的意思からしても,違法利用者に対する訴権の行使
がJASRACに託されていると解されるのである。
  以上のとおり,法28条の権利は,原告からJASRACに移転し,原告
は,法28条の権利を有していないから,原告が自ら損害賠償請求権を行使するこ
とは許されない。
4 争点(4)(過失の有無)について
〔原告の主張〕 
(1) 被告らの違法行為
  被告らは,平成4年ころ,共同してフジテレビ及びその系列局において放
送している本件番組のテーマ曲を作ることを計画し,作曲をCに依頼し,甲曲の編
曲権を侵害する乙曲を創作させ,本件番組のエンディングテーマとして使用する目
的で,甲曲に類似した乙曲を採用し,共同で原盤を制作した。被告ポニーキャニオ
ンは,レコード製作会社として,本件アルバムを製作し販売するとともに,本件番
組において乙曲を放送させた。他方,被告フジパシフィックは,音楽出版社として
Cから乙曲の著作権の譲渡を受け,JASRACに乙曲の著作権を信託譲渡して乙
曲の利用許諾による著作権使用料の徴収を図るとともに,乙曲が多方面で利用され
るようプロモートし,被告ポニーキャニオンと協力して乙曲を本件番組に使用させ
るなど,放送,録音,演奏等の利用許諾をさせ続けた。
(2) 被告らの過失
  被告ポニーキャニオンは,日本における大手レコード会社として,主とし
てレコード原盤の企画・制作及び販売をしているものであるところ,常時大量の音
楽を市場に供給しているのであるから,もし著作権侵害曲を市場に供給するなら,
大規模な大量の著作権侵害を発生させる立場にある。そして,音楽専門家の集団と
して,著作権侵害を発見する最も高い能力を有し,かつ,その経済力から見ても,
著作権侵害を発生させないためのシステムを維持することは容易である。また,被
告ポニーキャニオンのレコード製作などの社会的価値が著作権侵害に勝る価値を有
するはずもない。したがって,被告ポニーキャニオンは,著作権侵害を予見するこ
とは容易であるし,かつ,著作権侵害を防止することも容易であり,著作権侵害の
結果の重大性から見て,一般人として相当程度高度の予見義務及び結果回避義務を
負担していると評価すべきである。
  また,被告フジパシフィックは,日本における大手の音楽出版社であり,
音楽著作物の譲渡を受けて,その音楽著作物の普及宣伝,利用開発を図ることに最
大限の努力をしている会社である。したがって,被告フジパシフィックは音楽出版
社の中でも最も多くの音楽著作物の宣伝普及,利用開発に最大限の努力をしている
音楽出版社であり,この立場は被告ポニーキャニオンと同じである。
  このように,被告らは,音楽及び音楽著作物を専門に扱うことをビジネス
とする企業であり,資金力及び人的能力において,乙曲が甲曲の著作権を侵害する
ことについて,一般人より高い予見義務を有し,かつ予見能力を有していた。そし
て,被告らは,作曲段階から密接に乙曲の制作に関わっているのであるから,乙曲
が放送開始される遥か以前から乙曲の編曲権侵害を発見できる立場にあった。ま
た,乙曲は,エンディング・テーマ曲として企画され,採用されたならば長い年月
放送され続けられる性質のものであり,1回きりの放送楽曲以上に慎重な審査を必
要とする楽曲であったのであり,被告らが通常の審査をしていたなら,乙曲が編曲
権を侵害する曲であることを容易に知り得たにもかかわらず,被告らはこれを怠っ
た。また,被告らは,乙曲が多方面において利用されることにより膨大な甲曲の著
作権侵害が発生することを回避すべき義務があり,かつ回避することができたにも
かかわらず,その回避措置を採らなかったために,膨大な著作権侵害を必然的に発
生させたものである。
  したがって,被告らには,過失はもちろん,故意又は重過失さえある。
(3) 被告らの主張に対する反論
  JASRACが乙曲の利用許諾を継続していたことは事実であるが,JA
SRACは,法27条の編曲権を管理していないし,編曲届においても,原権利者
の承認がない限り,二次的著作物として管理しないのであるから,原著作権者の編
曲権を侵害するか否かについては判断しないものである。したがって,被告らがJ
ASRACの誤った利用許諾を信頼しても,故意や過失を阻却できるものではな
い。
  また,別件訴訟の第1審判決は,複製権侵害の主張について判断しただけ
であり,編曲権侵害の成否については判断していないから,被告らの故意過失を否
定する根拠とはならない。
〔被告ポニーキャニオンの主張〕
(1) 音楽の著作権侵害の成否については,判例も少なく確立された判断基準が
なく,判断は困難を極める。したがって,被告らが音楽及び音楽著作物を専門に扱
うことをビジネスとする企業であるからといって,直ちに著作権侵害の有無を予見
する能力を有していると言うことはできない。その取り扱う全ての楽曲について,
これと類似する可能性を有する楽曲の有無を広く一般に調査し,同一性ないし類似
性の検証をすることは,極めて困難であり,音楽出版社やレコード製作会社におい
て,このような高度な一般的注意義務を認めることはできない。
(2) 被告ポニーキャニオンは,著作権法の専門家を講師に招いて社員対象に行
う社内セミナーを開催したり,著作権・著作隣接権管理団体等が開催する各種研修
セミナーへの参加を奨励し,参加料を負担するなどして,企画段階から制作・流通
の段階まで全過程の社員に著作権を遵守する素養と能力を備えさせて,著作権等の
侵害を未然に防止する方策を採っている。その結果,同被告は,年間1000曲を
遥かに超える新曲のレコード製作を行っているが,これまで盗作を扱ったことは一
度もない。
(3) 乙曲の選曲に関与したAは,被告ポニーキャニオンでレコード会社のプロ
デューサーとしてCD製作の企画・立案を専門とし,自らフォークグループIのメン
バーであった者として,音楽業界における専門家である。また,乙曲の選曲に関与
したBも,音楽プロデューサーであるとともに,上記Iのメンバーであった者で,か
つ,その後も作詞作曲活動を続けており,音楽業界の専門家である。Cとの仲介者
であるDは,アポロン音工,ワーナー・ミュージック・ジャパン,テイチクエンタ
ーテイメントに約30年以上勤め,自ら音楽活動やプロデュース活動を行う音楽業
界の専門家である。編曲を担当したEも,有名なミュージシャンであり,かつ作
曲・編曲家として数々のヒット曲を残している音楽業界の専門家である。
  乙曲に関わった音楽業界の専門家である上記4名は,甲曲を含めて既に発
表された楽曲に似ているという感じを抱いたことは全くなかったし,レコード製作
の全工程において関わった多数の者からも,乙曲が甲曲に似ているという話は一度
も出なかった。また,平成4年12月のレコード発売以来,別件訴訟が提起される
まで約6年以上の間,乙曲が甲曲に似ているという話は一切出ず,テレビ放送後
も,視聴者から乙曲が甲曲に似ているという意見は一切出なかった。
  以上の経緯は,甲曲と乙曲が類似していないことを示すものであり,か
つ,被告ポニーキャニオン関係者が,本件アルバムの企画・製作及び販売の全過程
において,甲曲が乙曲に類似する又は依拠しているなどという認識を一切有してい
なかったことを示すものである。
  さらに別件訴訟第1審においても著作権侵害ではないと判示されたにもか
かわらず,乙曲の使用を中止しなければならないとすることは,期待可能性の存し
ないものであるから,被告ポニーキャニオンに注意義務違反は存在せず,過失はな
い。
〔被告フジパシフィックの主張〕
 被告フジパシフィックは,乙曲の創作行為に関与したことは全くないし,乙
曲をJASRACに信託譲渡し,管理を委託し続けた行為についても,次のとおり
の事情に鑑みれば,過失はない。
(1) 被告フジパシフィックは,普段からその管理することになる楽曲が他の楽
曲の著作権を侵害しないかどうかには,細心の注意を払っており,各社員の著作権
セミナー等への出席を奨励し,参加料を負担しているし,社団法人音楽出版社協会
主催の音楽著作権管理者養成講座には多数の社員が受講し,受講修了者の認定を受
けている。原盤の制作過程においては,既存の楽曲に類似しているという声があが
れば,直ちに調査・確認・検証等を行い,許諾を得るか,あるいはそれが得られな
いときには原盤制作を中止するなどの適切な処置をとっている。また,楽曲の著作
者から権利を譲り受けるにあたって,その楽曲が著作者の創作による完全な著作物
であること,著作権に関して第三者から何ら要求が起こらないことの保証を受けて
いる。
(2) 甲曲と乙曲とでは,聴く者に与える全体的な印象が大きく異なっており,
少なくとも,乙曲が原告の編曲権を侵害していることが一見して明らかであるとは
到底いえない。原盤制作の過程においても,乙曲の著作権を譲り受けるにあたって
も,被告フジパシフィックは,乙曲が甲曲の著作権を侵害するものであるとは認識
しておらず,レコーディング等の作業において関わった多数の音楽業界の関係者も
誰1人として乙曲と他の楽曲の類似性に疑問を呈した者はいなかった。テレビ放送
を開始した後も,視聴者等から乙曲が甲曲に似ているとの指摘を受けたことはなか
った。別件訴訟でも,作曲家ら音楽専門家が音楽的見地に基づいて全く類似しない
との意見を述べ,両楽曲の類似性を否定し,第1審では,Cの完全勝訴の判決がさ
れている。
 乙曲は,Cという高名な作曲家が作曲したものであり,Cが同じく高名な
音楽家である補助参加人の著作権を侵害して作曲することは,通常では考えられな
い事態であり,C自身も記者会見において,甲曲への依拠を明確に否定し,その後
の訴訟においても同様の主張をしていた。
(3) 別件訴訟提起を知り,日本における音楽著作権管理の専門団体であって,
編曲権侵害か否かを判断する能力を有するJASRACにおいても,十分な検討が
なされた結果,乙曲の許諾を継続していたのであるから,乙曲が甲曲の編曲権を侵
害するものではないか,少なくともJASRACが乙曲を管理する正当な権限を有
することについて疑義が残存していないと積極的に判断した上で,乙曲の管理を継
続したということができる。また,仮に,被告フジパシフィックがJASRACに
乙曲を信託譲渡しなかったとしても,JASRACはCから信託譲渡を受け,管理
委託し続けていたはずであるから,そもそも被告フジパシフィックの過失を問うこ
とはできない。
5 争点(5)(損害の発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
(1) 損害の範囲
  被告らが,共同で乙曲を制作して原盤を制作し,被告ポニーキャニオンが
本件アルバムを製作・販売し,被告フジパシフィックがJASRACに乙曲の利用
許諾を管理委託したことの必然的な結果として,放送,録音,演奏等による甲曲の
著作権侵害が大量に発生するのであり,現実に発生した。したがって,被告らの乙
曲の制作行為と後述する損害の発生には相当因果関係がある。
 また,音楽ビジネスの構造として,作曲者,音楽出版社,レコード製作会
社,放送局,JASRAC,カラオケ業者,飲食店などが密接に絡み合って音楽著
作物が利用されているのであり,これら関係者は客観的関連性があり,共同不法行
為関係にあるともいえる。したがって,「記念樹」の作曲をCに依頼するなど創作
段階から密接に関わり,乙曲を本件番組のテーマ曲として制作した被告らは,全損
害に対して連帯して賠償する義務がある。
(2) 損害算定の基準
 ア 法114条2項に規定する相当対価額を定めるための基準としては,日
本音楽著作権協会著作物使用料規程(甲56。以下「本件使用料規程」という。)
により定められた著作物使用料に準じるのが合理的である。
 本件使用料規程には,1曲1回ごとの曲別使用料と包括的利用許諾契約
による月額又は年額の使用料の規定(以下「包括使用料方式」という。)が併記し
て定められているが,包括使用料方式による使用料の規定は,管理業務の効率化と
著作物使用契約締結の誘引のために低額に定められているものであり,無許諾で音
楽著作物を使用した著作権侵害の場合には適用がなく,曲別使用料の規定が適用さ
れる。仮に,包括使用料方式による月額又は年額使用料を損害額とするなら,あえ
て著作物利用許諾契約を締結する必要はなく,無断使用を指摘された後に著作物使
用料を払えばよいということになり,許諾権の機能が失われ,無力化する結果,円
滑な音楽著作物の管理が不可能になるからである。
 被告らは,損害額の上限はJASRACによる分配額であると主張する
が,著作権侵害に基づく損害賠償請求額が適法利用の場合の優遇使用料の限度であ
るとするのは,事前に包括的利用許諾契約を締結して著作物使用料を支払っている
者との間で不公平であるから,この分配額を損害額とすることは何らの合理性もな
い。
 イ 乙曲は甲曲の編曲権を侵害する侵害態様にすぎないから,使用料相当額
を考慮する場合にも,基本的には被侵害楽曲である甲曲が放送された場合の使用料
相当額を考慮すべきである。また,甲曲の歌詞の著作権は,原告が専有しており,
編曲権はJASRACに管理委託していない。編曲権を侵害している乙曲に歌詞を
付けたり編曲したりして,乙曲を放送等に利用させている作詞者及び編曲者等の使
用料相当額の分配分を控除するのは,違法行為の加担者の分配分を認めることにな
り,妥当でない。したがって,JASRACが定める著作物使用料から,編曲権侵
害曲について編曲した編曲者及び歌詞を付けた作詞者の分配分,JASRACの手
数料,Cの原著作物の編曲者としての分配分,著作権を譲り受けてプロモートした
被告フジパシフィックの音楽出版者としての分配分を控除すべきではない。
(3) 損害額
  以上によれば,原告の損害は,次のとおり総計4913万2879円であ
る。
ア 放送による使用料相当額          1140万4400円
 乙曲が,フジテレビ及びその系列局において,本件番組のエンディン
グ・テーマ曲として放送されることにより,原著作物である甲曲の編曲権及び放送
権が侵害された。
 本件使用料規程第2章第3節2によれば,1曲1回当たり著作物使用料
最低額は,第1類8000円,第2類5600円,第3類4800円,第4類32
00円,第5類2400円,第6類2000円である。これに,フジテレビに対し
て請求したものを控除した平成11年3月末日までの間に,フジテレビ及びその系
列局において乙曲が放送された回数を乗じて算出した使用料相当額は,別表1「放
送による使用料相当額一覧表」の「原告の主張」欄記載のとおり,合計1140万
4400円である。
イ 放送用録音による使用料相当額        118万2720円
 放送用録音は,テレビ放送に使用するためになされるものであるから,
その録音回数は放送回数と同数である。上記32局における合計放送回数は492
8回であるから,1回当たりの使用料240円を乗じると,放送用録音による使用
料相当額は,118万2720円である。
 240円×4928=118万2720円
ウ 録音による使用料相当額            31万8309円
 JASRACの利用許諾を受けて,被告ポニーキャニオン等のレコード
製作会社がCDを製作し,第一興商株式会社等の通信カラオケ事業者がカラオケ用
データベースへの蓄積及び電話回線を利用した送信先店舗における蓄積を行うこと
により,乙曲が録音され複製されたので,原著作物である甲曲の編曲権及び複製権
が侵害された。
 JASRACは,録音に関しては,曲別に徴収しているので,JASR
ACが徴収した使用料総額が原告の損害額と同額になる。既に別件訴訟においてC
に対して請求した平成12年12月期分までの使用料を控除した平成13年3月期
から平成14年12月期までの被告フジパシフィックに対する分配又は分配保留額
は31万8309円(消費税を含まず,JASRACの手数料は控除せず,分配率
は8分の8である。)であるから,これが録音による使用料相当額である。
エ 出版による使用料相当額            48万0143円
 JASRACの利用許諾を受けて,乙曲がCDジャケット等に掲載され
て出版されており,原著作物である甲曲の編曲権及び複製権が侵害された。
 JASRACは,出版に関しては,曲別に徴収しているので,JASR
ACが徴収した使用料総額が原告の損害額と同額になる。既にCに対して請求した
平成12年12月期分までの使用料を控除した平成13年3月期から平成14年1
2月期までの被告フジパシフィックに対する分配又は分配保留額は48万0143
円(消費税を含まず,JASRACの手数料は控除せず,分配率は8分の8であ
る。)であるから,これが出版による使用料相当額である。
オ 演奏による使用料相当額
 (ア) 主位的請求                2842万0740円
 JASRACの利用許諾を受けて,演奏会,催物,カラオケ施設,社
交場(キャバレー,バー,スナック,音楽喫茶店,ダンスホール,旅館等)等の店
舗において,乙曲が生演奏及びカラオケ伴奏により演奏(歌唱)され,原著作物で
ある甲曲の編曲権及び演奏権が侵害された。
 各分配期ごとの1回当たりの平均単価は,JASRACの各分配期の
カラオケ基金総額を91日,43曲,総カラオケ室数で除することにより,算出で
きる。その平均単価は,平成8年1.148円,平成9年1.181円,平成10
年1.618円,平成11年1.953円,平成12年2.086円,平成13年
2.172円,平成14年2.3円と算出することができる(別表3のア)。乙曲
の各分配期の総使用曲数(別表3のウ)は,各分配期ごとの乙曲のカラオケ分の分
配対象使用料額(別表3のイ)を上記1回当たりの平均単価で除して算出すること
ができ,平成8年12月期ないし平成14年12月期の総使用曲数は,合計31万
5786曲である。
 著作物使用料規程第2章第2節5(1)②別表16によれば,1曲当たり
の使用料最低額は90円である。
 総使用曲数31万5786曲に90円を乗じると,演奏による使用料
相当額は,2842万0740円となる。
  90円×31万5786=2842万0740円
(イ) 予備的請求1 345万1435円
 JASRACの包括的利用許諾契約による徴収額と違法行為の場合の
損害賠償請求の際の1曲1回ごとの曲別使用料との差額は,通常5ないし6倍であ
るので,乙曲の演奏に関するカラオケ分の分配対象使用料額合計69万0287円
(別表3のイの合計額)を5倍した345万1435円が,違法行為の場合の最低
の損害賠償請求相当額である。
(ウ) 予備的請求2  2800万円
 法114条の4の相当な損害額の認定による原告の損害は,後記カの
通信カラオケ送信と併せ,2800万円となる。すなわち,演奏及び通信カラオケ
送信の使用料相当額は,損害が発生していることは認められるも,事柄の性質上使
用回数を正確に立証することが極めて困難であるので,裁判所において相当額を認
定することを求める。被告らが別件訴訟の提起を知りつつ,故意に著作権侵害を継
続し,損害の発生を増大させた悪質な事情を考慮すれば,相当額は2800万円で
あると思料する。
カ 通信カラオケ送信(インタラクティブ配信送信を含む。)による使用料
相当額                     258万2932円
 これは,通信カラオケにおいて,通信カラオケ業者が電話回線を使用し
て利用者(店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信した
ことについての著作物使用料である。これは,著作物使用料規程上,録音に該当す
る。
 平成12年12月期の乙曲の送信回数(録音回数)は,1万3906回
であり,同期の分配額は2万3990円であるから,1回当たりの録音単価は1.
725円となる。したがって,平成10年3月期から平成14年12月期までの乙
曲の録音回数は,分配又は分配保留金額合計55万0069円を1.725で除し
た31万8880回である。
 著作物使用料規程によれば,録音の1回当たりの単価は8円10銭と定
められている。
 録音回数31万8880回に8円10銭を乗じると,通信カラオケ送信
による使用料相当額は,258万2932円となる。
  8.1円×31万8880回=258万2932円
キ 通信カラオケ蓄積(インタラクティブ複製を含む。)による使用料相当
額                        27万7010円
 これは,通信カラオケの各店舗に送信するための通信カラオケ事業者の
営業所に設置されたサーバーについての録音である。
 JASRACは,録音に関しては曲別に徴収しているので,JASRA
Cが徴収した使用料総額が原告の損害額と同額になる。平成10年3月期から平成
14年12月期までの被告フジパシフィックに対する分配又は分配保留額は27万
7010円(消費税を含まず,JASRACの手数料は控除せず,分配率は8分の
8である。)であるから,これが通信カラオケ蓄積による使用料相当額である。
ク 弁護士費用                 446万6625円
 音楽著作権の編曲権侵害事件は前例がなく,弁護士が法律構成を形成す
るためには多大な時間と労力を要するので,弁護士費用は上記アないしキの合計額
の1割が相当である。演奏等について主位的請求によった場合(上記オ(ア))には,
4466万6254円の1割である446万6625円が相当である。
〔被告らの主張〕 
(1) 損害算定の基準について
 ア 原告損害額の上限
  法114条2項の許諾料相当額は,JASRACから包括使用料方式で
定められた乙曲に関する分配金相当額を超えることはあり得ないから包括使用料方
式によって算定すべきである。
  原告は,別件訴訟提起後も,JASRACに対し,分配留保を申し入れ
たに止まり,JASRACが乙曲の利用を第三者に対して許諾することを容認して
いたのであり,これは,JASRACが利用者から本件使用料規程に従った使用料
を徴収することを適切なものとして容認していたことを意味する。それにもかかわ
らず,本件において,JASRACが徴収した使用料以上の金額を損害として被告
らに請求するのは,禁反言の法理,権利濫用の法理に照らして許されない。したが
って,原告は,JASRACが分配対象とする額(JASRACの管理手数料を控
除した額)以上の金額を損害として請求することはできない。
 イ JASRACの管理手数料控除
  JASRACの本件使用料規程と本件管理手数料規程は一体の関係にあ
り,JASRACに権利を委託している者が,原権利者として法114条2項の著
作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額というのは,音楽著作物の場
合,JASRACが分配対象とする額,すなわちJASRACの管理手数料を控除
した金額である。
  著作者から著作権の譲渡を受けた音楽出版社である原告は,仲介業務法
の施行下にあった乙曲の作曲当時,そもそも自らが権利を行使することは許されな
かったのであり,現在もなおJASRACとの間でその有するすべての著作権を信
託する契約を締結したままである原告が,乙曲の原著作物とされた甲曲の権利を有
しているにせよ,その権利をJASRACに委託しなくともよいと解する余地はな
い。したがって,音楽著作権の管理をJASRACに委託するかどうかは自由であ
るとはいえず,管理手数料は常に控除されるべきである。
 ウ 作詞者及び編曲者への分配分控除
  歌詞についての著作権は,乙曲という楽曲についての著作権とは別個独
立に存在すること,二次的著作物として保護を受けるための要件として,当該二次
的著作物の創作の適法性は要求されていないこと,編曲によって付加された創作性
ゆえに二次的著作物の市場価値が増し,当該二次的著作物の相当使用料が高額とな
る場合もあることから,作詞者及び原著作物の編曲者である二次的著作物の著作者
への分配分を損害額から控除すべきである。
(2) 損害額について
 ア 放送用録音による使用料相当額 
  フジテレビがJASRACとの包括的利用許諾契約に基づいて支払って
いる著作権使用料には,放送用録音の対価も含まれており,本件において原告が受
けるべき使用料相当額は,原告がJASRACから乙曲に関する分配金として受け
たであろう金銭の額を超えることはないのであるから,本件において,放送用録音
による別個の損害額を算定することは,そもそも誤っている。
  また,フジテレビの系列局が本件番組を放送するために使用するテープ
は,各系列局ごとに1本ずつ存在するわけではなく,何本かの限られたテープが,
各系列局間で使い回されているというのが実態であり,合計放送回数イコール放送
用録音の回数という関係にはない。フジテレビの調査によると,平成4年10月期
(10月1日から翌年3月31日)から平成10年10月期(10月1日から翌年
3月31日)までに作成されたテープの正確な本数は,別表2「系列局用テープ本
数一覧表」のとおり,合計1106本である(フジテレビのマスターテープ分は対
象にしていない)。
  もっとも,このうち別件訴訟において,系列局の1つである関西テレビ
放送株式会社分として,平成5年1月23日から平成13年10月21日までの合
計274回分の放送用録音の賠償が認められ,既にCから原告に対して支払がなさ
れている。したがって,上記期間のうち,本件訴訟の請求の対象となっている期間
のうちで関西テレビ放送株式会社で放送された205回分(平成5年度9本,平成
6年度43本,平成7年度36本,平成8年度37本,平成9年度42本,平成1
0年度38本)については,既に損害が填補されているから,1106本から20
5本を控除した合計901本が本件訴訟において対象とすべき放送用録音の回数で
ある。
 イ 演奏による使用料相当額
(ア) 主位的請求について
 演奏の分配対象使用料額は,演奏会,カラオケ調査基準,カラオケ出
庫基準及びカラオケ再ブランケット分の4つの分配基金ごとに算定された分配対象
使用料額の総額である。各分配基金ごとの分配対象使用料額は,それぞれ別の計算
方法によって算出されている。各分配基金ごとの分配対象使用料額は,単に演奏回
数に比例して算出されるものではない。
 したがって,JASRACから回答された各分配期の各分配基金の分
配対象使用料額の総額を計算上の分配単価で除しても,実際の演奏回数を算出する
ことはできない。例えば,平成12年12月期の演奏会分を控除したカラオケ分の
分配対象使用料額は,その全額に近い98%が実際の演奏回数とは無関係のカラオ
ケ出庫基準及びカラオケ再ブランケット分の合計金額である。したがって,カラオ
ケ分の分配対象使用料額を原告が算出した1曲1回当たりの平均単価で除しても,
実際の演奏回数を算出することは不可能であり,原告の請求額は理由がない。 
(イ) 予備的請求1について
  原告は,演奏による使用料相当額として,演奏に関する分配額の5倍
であると主張するが,これは,JASRACの実務において,いわゆる無許諾カラ
オケスナック等に対する損害賠償請求の場合に算出される使用料相当額が,結果的
に包括的利用許諾契約による場合の5ないし6倍になっているというだけであっ
て,本件において,損害額は分配額の5倍であるとする合理的根拠は存在しない。
上記(4)で主張したとおり,実際の演奏回数とは関係無しに分配分が付与される分配
基金があるため,実際の演奏回数により算定される使用料額よりも大きな金額が分
配対象使用料額となっているから,実際の演奏回数を基にして算出される使用料相
当額が,包括的利用許諾契約による使用料額の5倍以上になるということはいえな
い。
(ウ) 予備的請求2(法114条の4の相当な損害額)について
  本件で法114条の4を適用するのは相当でなく,仮に相当な損害額
を裁判所の認定に委ねることがあるとしても,演奏につき2800万円という金額
は全く合理性のない金額である。原告は,出版,録音等については,JASRAC
が回答した分配対象使用料額を使用料相当額として主張しているから,「損害額を
立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難である」
ことには当たらない。また,平成12年12月期の実際の演奏回数は1回のみであ
ったと算出されることからすると,2800万円という金額は,著しく合理性や相
当性を欠くものである。
 ウ 通信カラオケ送信による使用料相当額
 通信カラオケ送信についての分配方法も,演奏と同様に,利用回数基準
分配基金及び端末台数基準分配基金の各基金ごとに計算されることになっており,
端末台数基準は実際の送信回数とは関連がない。したがって,原告の計算方法によ
る録音回数は,全く根拠がなく,原告の請求額は理由がない。
 エ 通信カラオケ蓄積による使用料相当額
  原告は,通信カラオケ蓄積による使用料相当額を27万7010円であ
ると主張するが,平成10年9月期までの分配額1万8827円が二重計上されて
いるので,この分を控除すると25万8183円が正確である。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本案前の抗弁)について
 民訴法142条は,裁判所に係属する事件については,当事者は,更に訴え
を提起することができない旨定めているところ,これは,同一の事件について更に
訴訟を提起すると,訴訟経済に反するばかりでなく,判決の矛盾抵触を生ずるおそ
れがあるからである。そして,この二重起訴が禁止される事件の同一性とは,当事
者が同一であり,かつ,訴訟物が同一であることをいうものと解される。
 本件についてこれをみるに,別件訴訟が乙曲を創作したCに対して提起され
たものであるのに対し,本件訴訟は乙曲を収録した本件アルバムないしその原盤を
制作したレコード会社及び音楽出版社である被告らに対して提起されたものであっ
て,当事者が同一であるとはいえない。また,別件訴訟は,乙曲を創作したCに対
し,乙曲が甲曲を編曲したものであり,原告の著作権(編曲権)及び補助参加人の
著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害することを理由とする損害賠
償請求訴訟であるのに対し,本件は,被告フジパシフィック及び被告ポニーキャニ
オンが本件アルバムの原盤を制作して乙曲を複製した行為,被告ポニーキャニオン
が本件アルバムを製作・販売した行為並びに被告フジパシフィックがJASRAC
に乙曲の著作権を管理委託した行為が,原告の法27条の権利(編曲権)又は法2
8条の権利を侵害すること等を理由として損害賠償を請求する訴訟であり,訴訟物
も同一であるとはいえない。
 被告らは,被告フジパシフィックがCから乙曲の著作権の譲渡を受けている
ことから,実質的には当事者は同一である旨主張するが,被告らが本件訴訟におい
て,被告らには過失がないなどと主張して争っているとおり,乙曲を創作したC
と,その乙曲を利用した被告らとは,立場も利害関係も異なり,実質的に同一であ
るとはいえない。そして,両訴訟における被告らの主張が異なる以上,両訴訟で審
理の対象となる争点も異なるから,あながち訴訟経済に反するともいい得ず,原告
がいたずらに同一訴訟を蒸し返すものであるということはできない。
 したがって,本件訴訟の提起は,二重起訴又は訴権の濫用であるとはいえな
いから,被告らの上記主張は理由がない。
2 争点(2)(編曲権を侵害する曲といえるか)について
(1) 法27条にいう編曲とは,既存の著作物である楽曲に依拠し,かつ,その
表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を
加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既
存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である
楽曲を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28
日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
(2) 依拠性
ア 甲曲は,昭和41年,株式会社ブリヂストンのテレビコマーシャルとし
て,民放各社により放送され公表された。原告は,昭和42年,歌手Hの吹き込み
による甲曲のレコード化を企画し,キングレコード株式会社により,同レコードが
製作・販売された。また,株式会社ブリヂストンは,甲曲を同社の愛唱歌としてレ
コード化し,補助参加人に甲曲の変奏又は編曲を依頼して,平成4年ころまで27
年間にわたり,甲曲をさまざまなバリエーションでテレビコマーシャルとして放送
した。甲曲は,その後,有名な曲を編集したさまざまな歌集に掲載され,小・中学
生の音楽教科書にも掲載された(甲1,9,41,45ないし53,弁論の全趣
旨)。
  したがって,甲曲は,昭和41年に公表されたコマーシャルソングとし
てばかりではなく,その後も,乙曲が創作される平成4年ころまで,長く歌い継が
れる大衆歌謡ないし唱歌として著名な楽曲であることが認められる。
イ Cは,甲曲の公表前ではあるが,昭和35年と昭和37年の2回にわた
り歌手Hが旧ソ連へ公演旅行した際に,伴奏者としてこれに同行し,Hの歌う曲の
作編曲を多数手がけている(乙18)。また,Cは,昭和59年ころ,ブリヂスト
ンの社歌を作曲している(甲18,乙18)。
  このように,Cは,甲曲を歌唱した歌手やコマーシャルソングとした会
社と関係が深かったのであるから,甲曲に接触する機会があったということができ
る。また,Cが記者会見やインタビューの際に甲曲を聴いたことがあることを認め
ていたことや(甲43,44の1及び2),甲曲の著名性及びC自身が音楽家であ
ることに照らせば,Cが乙曲の創作以前に甲曲を知っていたものということができ
る。
ウ これらの事情に加えて,後記(3)に認定するとおり,甲曲と乙曲の旋律が
類似していることに鑑みれば,乙曲は,甲曲に依拠して創作されたものということ
ができる。
(3) 表現上の本質的特徴の同一性
ア 一般に,楽曲に欠くことのできない要素は,旋律(メロディー),和声
(ハーモニー)及びリズムの3要素であり,これら3要素の外にテンポや形式等に
より一体として楽曲が表現されるものであるから,それら楽曲の諸要素を総合して
表現上の本質的特徴の同一性を判断すべきである。
  もっとも,これらの諸要素のうち,旋律は,単独でも楽曲とすることが
できるのに対し,これと比較して,和声,リズム,テンポ及び形式等が,一般に
は,それ単独で楽曲として認識され難く,著作物性を基礎づける要素としての創作
性が乏しく,旋律が同一であるのに和声を付したり,リズム,テンポや形式等を変
えたりしただけで,原著作物の表現上の本質的な特徴の同一性が失われるとは通常
考え難いこととされている(甲23,26,28の1)。
  そして,甲曲は,歌詞を付され,旋律に沿って歌唱されることを想定し
た歌曲を構成する楽曲である。甲曲の構成は,全16小節を1コーラスとする,比
較的短い楽曲であり,後記のとおり,4小節を1フレーズとすると,4フレーズを
A-B-C-Aと定式化することができる簡素な形式が採用されている。また,和
声も基本3和音による3コードで進行する常とう的な和声が付けられているにとど
まる。さらに,甲曲の旋律と類似する楽曲としても,せいぜい1フレーズ程度の旋
律しか発見されず,4フレーズの旋律全体の構成が類似する楽曲が発見されていな
いことからすれば(乙10,15,17,23,24,検乙1,5,11),甲曲
の楽曲としての表現上の本質的な特徴は,和声や形式といった要素よりは,主とし
てその簡素で親しみやすい旋律にあり,特に4フレーズからなる起承転結の組立て
という全体的な構成が重要視されるべきである(甲23)。
  よって,甲曲のように,旋律を有する楽曲に関する編曲権侵害の成否の
判断において最も重視されるべき要素は,旋律であると解するのが相当であるか
ら,まず,旋律について検討し,その後に楽曲を構成するその余の諸要素について
総合的に判断することとする。
イ そこで,甲曲と乙曲の旋律を対比する。
  甲曲を2回繰り返し,その2小節分を1小節として乙曲の1小節と対応
させ,いずれもハ長調に移調して上下に並べると,別紙3のとおりとなる。
  甲曲は,4小節(別紙3では2小節)を1フレーズとすると,第1フレ
ーズと第4フレーズが同一であるから,4フレーズをA-B-C-Aと定式化する
ことができる。乙曲は,2小節を1フレーズとすると,第1フレーズと第5フレー
ズ及び第8フレーズがほぼ同一であり,第4フレーズは後半部分においてそれらと
わずかに異なっており,第2フレーズと第6フレーズ,第3フレーズと第7フレー
ズがそれぞれ同一であるから,[a-b-c-a’]-[a-b-c-a]と表す
ことができ,ほぼ同一の4フレーズを反復する二部形式となっている(甲26)。
  乙曲の全128音中92音(約72%)は,これに対応する甲曲の旋律
と同じ高さの音が使用されている(甲63)。また,甲曲と乙曲は,各フレーズの
最初の3音以上と最後の音が第4フレーズを除く全フレーズにおいて,すべて一致
している(甲26,27,28の1)。しかも,両曲は,ともに弱拍で始まる楽曲
であり,各小節の最初の音に強拍部が位置するが,その強拍部の音は第4フレーズ
を除いてすべて一致する(甲27,28の1,乙11)。
  したがって,両曲の旋律は,起承転結の構成においてほぼ同一であり,
そのことが各フレーズの連結の仕方に顕著に現れているということができる(甲2
3,24,26)。唯一相違する乙曲における第4フレーズa’は,二部形式の前
半部分を後半部分へとつなぐ役割を果たしている部分であり,一部形式の原曲を2
回繰り返したものを1コーラスの反復二部形式としてその限度で必要な改変を加え
ること自体は,編曲の範囲内にとどまる常とう的な改変にすぎないことを考慮する
と,このフレーズにおける相違点をもって,両曲の表現上の同一性を否定すること
はできない。
  両曲の各フレーズごとの旋律を比較すると,甲曲の第1フレーズAには
主音の半音下にあって次の主音を導く導音シが使用されているが,乙曲には使用さ
れていない点(乙10,17,23,24),甲曲の第2フレーズBは音の高さが
上がっていくのに対し,乙曲の第2フレーズbは音の高さが下がっていく点(乙2
3)が相違するが,その他の旋律は,単に譜割りを細かくした程度の違いしかな
い。特に,甲曲の第3フレーズCから第4フレーズAへかけてと乙曲の第3フレー
ズcから第4フレーズa’へかけての部分は,ほとんど同一ともいうべき旋律が2
2音にわたって(全体の3分の1以上)連続して存在するのであり,旋律を全体と
して聴き較べた場合には,少なくとも,よく似ている旋律が相当部分を占めるとい
う印象を抱かせるものであり,第1フレーズAとa,第2フレーズBとbの相違点
も,この印象を覆すには足りない(検甲3,6,7)。
  したがって,両曲の旋律は,表現上の本質的な特徴の同一性を有するも
のと認められる。
ウ 甲曲の和声は,基本3和音によるいわゆる3コードの曲であり,明るく
前向きな印象をもたらしているのに対し,乙曲の和声は,きめ細かな経過和音と分
数コードを多用して複雑に進行し,感傷的な雰囲気をもたらしており,この点で両
曲には曲想の差異が生じている(乙10,11,15,23,24)。しかし,両
曲のような大衆的な唱歌に用いられる楽曲の場合は,アカペラ(無伴奏)で歌唱さ
れることもあるとおり,これに接する一般人の受け止め方として,歌唱される旋律
が主,伴奏される和声は従という位置づけになることは否定し難いから(甲3
0),和声の差異が旋律における両曲の表現上の本質的な特徴の同一性を損なうも
のとはいえない。
  甲曲が2分の2拍子で,4分の4拍子による楽譜もあるのに対し,乙曲
が4分の4拍子であるが,メロディーを比較する場合,2分の2拍子と4分の4拍
子はさしたる違いとはいえない(甲24,63)。甲曲の付点二分音符が乙曲では
八分音符3個になったりするなど甲曲と乙曲で譜割が一部同一でない部分もある
が,同一の音の長さとしては同じで歌詞の字数との関係にすぎない。その程度の差
異は,演奏上のバリエーションの範囲内というべきもので,両曲のリズムはほとん
ど同一といってよい。
  また,楽譜上テンポの指定はないが,仮に差異があったとしても,演奏
上のバリエーションの範囲内というべき差異にすぎず,上記両曲の表現上の本質的
な特徴の同一性に影響を与えるものではない(検甲6,7)。
  形式については,前記のとおり,甲曲が4フレーズ1コーラスをA-B
-C-Aの起承転結で構成するものであるのに対し,乙曲が,おおむね[a-b-
c-a’]-[a-b-c-a]という反復二部形式を採るものであるところ,両
者は,むしろ4フレーズの起承転結に係る構成の共通性にこそ顕著な類似性が認め
られるものであって,これを繰り返して反復二部形式とすることは,編曲又は複製
の範囲内にとどまる常とう的な改変にすぎないというべきである。その他,両曲の
楽曲としての表現上の本質的な特徴の同一性を損なう要因は見当たらない。
(4) したがって,乙曲は,甲曲に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の
同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は
感情を創作的に表現することにより,これに接する者が甲曲の表現上の本質的な特
徴を直接感得することができるものということができる。よって,乙曲は,原告の
甲曲に係る法27条の権利(編曲権)を侵害して創作されたものである。
3 争点(3)(原告の著作権が侵害されたか)について
(1) 法27条について
  法27条は,「著作権者は,その著作物を翻訳し,編曲し,若しくは変形
し,又は脚色し,映画化し,その他翻案する権利を専有する。」と規定し,法28
条は,「二次的著作物の原著作物の著作者は,当該二次的著作物の利用に関し,こ
の款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利
を専有する。」と規定する。このように,法27条は,文言上,「著作物を編曲す
る権利を専有する」旨定めており,「編曲する」という用語に「編曲した著作物を
複製する」とか「編曲した著作物を放送する」という意味が含まれると解すること
は困難である。そして,法27条とは別個に,法28条が,編曲した結果作成され
た二次的著作物の利用行為に関して,原著作物の著作権者に法21条から27条ま
での二次的著作物の経済的利用行為に対する権利を定めていることに照らせば,法
27条は,著作物の経済的利用に関する権利とは別個に,二次的著作物を創作する
ための原著作物の転用行為自体,すなわち編曲行為自体を規制する権利として規定
されたものと解される。
  原告は,二次的著作物を複製等利用する行為に対しても,法27条の権利
侵害が成立すると主張するが,そのように解すると,「編曲」の意味を法27条に
例示された形態以上に極めて広く解することになるし,著作権法が法27条とは別
個に法28条の規定を置いた意味を無にするものとなるから,法27条を理由とす
る原告の主張は,採用することができない。
(2) 法28条について
  本件において,甲曲について法27条の権利を専有する原告の許諾を受け
ずに創作された二次的著作物である乙曲に関して,原著作物である甲曲の著作権者
は,法28条に基づき,法21条ないし法26条の3の権利を有するから,原告の
許諾を得ずに乙曲を複製等利用した者に対しては,法27条に基づくのではなく,
法28条に基づいて権利行使をすることができると解すべきである。
  被告らは,原告が法28条の権利を有しない旨主張するので,この点につ
いて検討する。
ア JASRACは,昭和40年9月1日,原告から,同年10月15日か
ら著作権の全存続期間を信託期間として,本件信託契約約款により,原告の有する
総ての著作権並びに将来取得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約
を締結した。本件信託契約約款1条本文において,委託者は「その有する総ての著
作権並びに将来取得することあるべき総ての著作権」を信託財産として受託者に移
転する旨規定されている(甲34の1及び2)。そして,原告は,昭和42年2月
28日,JASRACに対し,甲曲及びその歌詞につき,著作権を信託する旨の作
品届を提出した(甲3)。
  法61条2項は,「著作権を譲渡する契約において,法27条又は28
条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,
譲渡した者に留保されたものと推定する。」旨規定している。原告がJASRAC
に甲曲の著作権を信託譲渡した昭和40年当時の旧著作権法(明治32年法律第3
9号)においては,2条に「著作権ハ其ノ全部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規
定されているだけであったが,現行著作権法(昭和45年法律第48号)が施行さ
れる際,附則9条によって,旧法の著作権の譲渡その他の処分は,附則15条1項
の規定に該当する場合を除き,これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分と
みなす旨定められたため,法61条2項の推定規定は,旧法時代に行われた著作権
譲渡契約にも適用される。
  法61条2項は,通常著作権を譲渡する場合,著作物を原作のままの形
態において利用することは予定されていても,どのような付加価値を生み出すか予
想のつかない二次的著作物の創作及び利用は,譲渡時に予定されていない利用態様
であって,著作権者に明白な譲渡意思があったとはいい難いために規定されたもの
である。そうすると,単に「将来取得することあるべき総ての著作権」という文言
によって,法27条の権利や二次的著作物に関する法28条の権利が譲渡の目的と
して特掲されているものと解することはできない。この点につき,法28条の権利
が,結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とするものであるとして,単
なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは,法61条2項が,法28
条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反する。
  また,現行の著作権信託契約約款(甲69。平成13年10月2日届
出)によれば,委託者は,その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著
作権を信託財産として受託者に移転する旨の条項(3条)のほか,委託者が別表に
掲げる支分権又は利用形態の区分に従い,一部の著作権を管理委託の範囲から除外
することができ,この場合,除外された区分に係る著作権は,受託者に移転しない
ものとする旨の条項がある(4条)。そして,この「別表に掲げる支分権及び利用
形態」とは,① 演奏権,上演権,上映権,公衆送信権,伝達権及び口述権,② 
録音権,頒布権及び録音物に係る譲渡権,③ 貸与権,④ 出版権及び出版物に係
る譲渡権,⑤ 映画への録音,⑥ ビデオグラム等への録音,⑦ ゲームソフトへ
の録音,⑧ コマーシャル放送用録音,⑨ 放送・有線放送,⑩ インタラクティ
ブ配信,⑪ 業務用通信カラオケであり,二次的著作物に関する法28条の権利に
ついては明記されていない。このことは,昭和55年3月21日変更許可された著
作権信託契約約款及び平成10年3月6日許可された著作権信託契約約款において
も同様であった(甲5)。
  他方,JASRACは,法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれ
ば,著作権信託契約約款に,例えば,社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款
のように,「委託者は,その有する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定め
る利用方法で管理委託契約申込書において指定したものに関する管理を委任し,受
託者はこれを引き受けるものとする。(1) 著作物又は当該著作物を原著作物とする
二次的著作物の出版,録音,録画その他の複製並びに当該複製物の頒布,貸与及び
譲渡 (2) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆送信,伝
達,上映,上演及び口述 (3) 著作物の翻訳及び映画化等の翻案」という条項によ
って,明確に「特掲」することが可能である(弁論の全趣旨)。
  以上によれば,原告の有する法28条の権利が,明示の合意により,J
ASRACに譲渡されたことを認めるに足りない。
イ 被告らは,原告及び補助参加人が別件訴訟提起時に,JASRACに対
し,乙曲の著作物使用料の分配保留を求めたこと(乙36)をもって,JASRA
Cへの信託譲渡を容認している旨主張する。しかしながら,もともと乙曲の管理を
委託したのは原告ではなく,著作物使用料も原告に支払われていたわけではないか
ら,上記の事実をもって,原告が許諾することなく編曲された二次的著作物の利用
に関する権利をもJASRACに信託譲渡したと認めることはできない。
  また,原告が,編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までも
JASRACに容認していたと認めるに足りる証拠はない。
  他に原告の有する法28条の権利が黙示の合意によりJASRACに譲
渡されたことをうかがわせる事実はない。
ウ かえって,① JASRACにおいて,編曲著作物の届出方法が定めら
れ,原著作物の著作権がある作品については,原著作物の著作権者の承認を証明す
る文書が必要とされ,JASRACにおいて,編曲審査委員会及び理事会に諮っ
て,当該編曲著作物がJASRACの管理する二次的著作物として妥当なものであ
るかどうかを決定すること(甲97,乙35),② JASRAC発行の「日本音
楽著作権協会の組織と業務」と題する説明書において,「編曲や翻訳等を認める権
利はJASRACに譲渡されていないので,著作権法第61条により,これらの権
利は当然著作者なり,著作権者なりに留保されていることに気を付ける必要があ
る。」と記載されていること(甲97)等の事実によれば,少なくとも,原著作物
の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されていない二次的著作
物に関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は,原告のみならず,JA
SRACにもなかったものと認められる。
  このように解しても,著作権集中管理団体に対する信託譲渡の実態や仲
介業務法に反するものではない。
  逆に,原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関
する権利が信託契約の対象となり,JASRACに譲渡されたものであるとする
と,編曲権を侵害する二次的著作物が複製や放送等により利用された場合に,JA
SRACが編曲権を侵害する二次的著作物に当たらないと判断したときには,これ
と異なる見解を有する原著作物の著作権者が,何らの権利も行使することができな
いこととなる。現に,本件において,JASRACは,フジテレビや被告ポニーキ
ャニオン等の利用者に対し乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたの
であるから,JASRACがこれらの利用者に対し法28条の権利を行使して利用
差止めや損害賠償等の請求をすることは期待し難く,原著作物の著作権者の保護に
欠ける不当な結果となりかねない。
エ したがって,少なくとも,法27条の権利(編曲権)を侵害して創作さ
れた乙曲を二次的著作物とする法28条の権利は,JASRACに譲渡されること
なく原告に留保されているということができる。そうすると,原告は,法28条に
基づき,法21条ないし26条の3の権利を専有するから,原告の許諾を得ること
なく乙曲を複製・放送等により利用した者は,原告の有する法28条の権利を侵害
したことになる。
4 争点(4)(過失の有無)について
(1) 証拠(甲17,64,乙12,13,19,20,32,証人A,証人
F,弁論の全趣旨)によれば,次の事実が認められる。
ア 平成4年ころ,被告ポニーキャニオンにおいてディレクターをしていた
Aは,フジテレビで放送されている本件番組のキャンパスソング集という形で本件
アルバムを制作することを企画し,Bに作詞を依頼した。そして,Bが作詞した中
の「記念樹」について,スタッフ一同で検討した結果,作曲をCに依頼することに
なり,AとBで依頼しに行った。AはCと仕事をするのは初めてであった。Aは,
Cに対し,キャンパスソング集という企画の内容を説明し,「記念樹」は,このア
ルバムの最後に入るものであり,できれば卒業式で歌われる「仰げば尊し」のよう
なバラードを書いて欲しいと依頼した。
イ Cは,「記念樹」の作曲を引き受け,乙曲を含む2曲を創作して,Aと
Bに対し聞かせたところ,Aはもう1つの曲を気に入ったが,Bが乙曲を推し,後
日,フジテレビのプロデューサーとも検討した結果,乙曲が採用された。AもB
も,甲曲の存在は知っていたが,乙曲を聞いて甲曲を思い起こしたことは一切なか
った。被告フジパシフィックの制作部の副部長をしていたJも,仮歌がレコーディ
ングされた乙曲の「記念樹」を聞いたが,甲曲を思い浮かべることはなかった。
  Aは,本件アルバム製作責任者として,レコーディング等にすべて立ち
会っている。レコーディング中に,乙曲が甲曲に似ていると言った者はいなかっ
た。被告ポニーキャニオンは,平成4年12月に本件アルバムを発売したが,その
後,乙曲が甲曲に似ているという意見が寄せられたことはなく,その後,フジテレ
ビにより乙曲が放送されたが,乙曲が甲曲に似ているという意見が寄せられたこと
はなかった。同被告は,平成8年には,乙曲を新たにミニアルバムにレコーディン
グし直して,「『あっぱれさんま大先生』キャンパスソング集~笑顔の季節~」を
製作したが,そのときも乙曲が甲曲に似ているという声が出たことはなかった。
ウ 被告ポニーキャニオンでは,平成4年ころ,毎月30ないし40タイト
ル,年間400タイトル以上のアルバムが発売されており,1タイトル10曲ない
し12曲,合計年間約4000曲以上の曲が制作されていたが,同被告は,これま
で著作権侵害の曲の入ったアルバムを製作発売したことはなかった。被告ポニーキ
ャニオンでは,著作権に関するセミナーや研修も定期的に行っていた。
  被告ポニーキャニオンにおいては,著作権侵害か否かを判定する審査機
関はないが,月に1回,社長以下,制作,宣伝,営業本部及び法務部等50人前後
が参加する編成会議がある。編成会議において,発売予定のアルバムの曲を実際に
聞いているが,Aが知る限りは,この会議で著作権侵害が問題になったことはな
い。Aは,編成会議で乙曲を聞かせたが,甲曲に似ているという声は一切出なかっ
た。
  被告ポニーキャニオンでは,基本的には制作現場の者が著作権侵害か否
かについて注意しており,そこで問題にならなければ,編成会議や法務部に相談す
ることもない。制作現場においては,過去に,他の曲と似ているのではないかとい
う話が出たことはある。
 今回の「記念樹」制作においては,制作現場に携わったのは,プロデュ
ーサーであるAの外に宣伝とアシスタント3,4名である。Aは,Cが高名な作曲
家であることから,著作権侵害の楽曲を創作するとは考えもしなかったため,Cに
対し,特にこの点について確認することもしなかった。Aは,編成会議や現場にお
いて,著作権侵害回避のために,特にコマーシャルソングに詳しい社員等を参入さ
せるということは意識してはやらなかった。
エ 被告フジパシフィックは,音楽著作物の譲渡を受けて,その音楽著作物
の普及宣伝,利用開発を図る大手音楽出版社の中でも,平成3年度の売上高64億
円という,トップクラスの会社である。被告フジパシフィックも,社員に各種団体
が開催する管理者養成講座や著作権セミナー等への参加を奨励している。
  被告フジパシフィックでは,原盤制作に際して,他の楽曲に似ているか
どうかを事前に判定するような会議は行っていない。その制作過程にある曲が他の
曲と似ていると思われることがあった場合は,まず個人で,次に制作現場の15人
程度の制作会議で聞いて判断して,似ているということになれば,制作部の部長の
責任において,作家に問い合わせ,書き直す等の改善がされなければ,その曲は採
用しないという手順を取っている。Jが制作部にいた約15年間に10回程度,あ
る曲が他の曲に似ていると指摘され検討をしたことがある。しかし,乙曲の場合
は,Jを含め,誰も甲曲に似ていると思う者はいなかった。
オ 別件訴訟が提訴されたため,被告らは,あらためて甲曲と乙曲を聴き較
べたが,別の曲であると判断し,また,Cが著作権侵害の事実を否認し,裁判で争
うと主張したため,被告らは,それ以上の調査・検討をすることなくこれまでどお
りの取扱いを続けた。別件訴訟の最高裁決定後,被告ポニーキャニオンは,本件ア
ルバムの出荷を停止し,被告フジパシフィックは,JASRACに対する乙曲の管
理委託を取り下げる措置を執った。
(2) 前記(1)認定のとおり,被告ポニーキャニオンは,年間約4000曲以上
の曲を制作し,400タイトル以上のアルバムを発売している大手レコード会社で
あり,また,被告フジパシフィックは,大手音楽出版社の中でもトップクラスの会
社であって,いずれもその社員に著作権に関する研修等を多く行っている。このよ
うに,被告らは,音楽を市場に供給することを業とする会社であり,その社員も含
め音楽業界の専門の団体であるということができ,音楽の著作物について,著作権
侵害か否かを調査する能力も経済力も有しているというべきである。したがって,
被告らは,本件アルバムないしその原盤の制作にあたり,アルバム内の楽曲が他人
の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し,確認すべき注意義務がある。
  前記2(2)認定のとおり,甲曲は,昭和41年から,コマーシャルソングと
してばかりではなく,長く歌い継がれてきた大衆歌謡ないし唱歌として著名な楽曲
であり,被告らの担当者らも,甲曲のことはよく認識していた(J証人,A証
人)。しかし,被告らの担当者は,制作過程において,誰も乙曲と甲曲の類似性に
思い至らず,その結果,乙曲と甲曲の比較検討はされず,被告ポニーキャニオンの
編成会議や法務部,被告フジパシフィックの制作会議で問題にされることもなく,
乙曲の著作権侵害については,何の検討もされず,何ら事前の対策もとることな
く,本件アルバムの原盤の制作に至ったものである。すなわち,被告らは,本件ア
ルバムの原盤の制作にあたり,乙曲の著作権侵害の有無について,調査確認の義務
があったにもかかわらず,具体的な調査も確認も行っておらず,これを尽くせば侵
害行為を回避することが可能であったのであるから,前記注意義務を怠ったものと
いうべきである。
  また,被告フジパシフィックは,JASRACに乙曲の著作権を信託譲渡
して管理を委託すれば,第三者に広く乙曲を利用されるようになるのであるから,
他人の楽曲の著作権を侵害する曲を管理委託することのないようにすべき注意義務
があるにもかかわらず,同被告は,これを怠り,漫然とJASRACに管理を委託
した。
  さらに,別件訴訟が提起された後は,これが大きく報道され,また被告ら
は原告及び補助参加人から訴訟告知を受けていたのであるから(甲79の1及び
2),乙曲が甲曲の編曲権を侵害するか否かについて更に慎重に検討し,被告ポニ
ーキャニオンは,本件アルバムの販売を停止し,被告フジパシフィックは,JAS
RACに対する乙曲の管理委託を取り下げ,第三者による利用がされないようにす
る措置を執るなど,損害が拡大しないような対策をとることが可能であったのにも
かかわらず,これを怠った。
  以上のとおり,被告らには過失がある。
(3) 被告らは,多数の音楽業界の関係者も一般視聴者も誰一人として乙曲と他
の楽曲の類似性に疑問を呈した者はいなかったこと,乙曲が原告の権利を侵害して
いることが一見して明らかとはいえないこと,Cが甲曲と乙曲との同一性を否定し
ていたこと,高名な音楽家であるCが著作権を侵害して作曲するとは通常では考え
られないこと,別件訴訟第1審では乙曲による甲曲の著作権侵害を否定する判決が
言い渡されたこと等の事実をもって,被告らには原盤制作等につき過失がない旨主
張する。
  しかしながら,上記事実は,いずれも,被告らにおいて乙曲が甲曲に係る
編曲権を侵害するものであることについての判断が充分でなかったことを示すもの
にすぎず,法28条の権利を有する原告との関係で,音楽を市場に供給することを
業とする被告らに過失があるとした前記の判断を覆すに足りない。したがって,被
告らの上記主張は,採用することができない。
(4) 被告フジパシフィックは,別件訴訟提起後も,日本における音楽著作権管
理の専門団体であるJASRACにおいて,乙曲が甲曲の編曲権を侵害するもので
はないと積極的に判断した上で乙曲の管理を継続していたことをもって,同被告に
は管理委託をし続けたことにつき過失がない旨主張する。
  JASRACは,現行の著作権信託契約約款7条において,委託者に管理
を委託する著作物について自らが著作権を有していること,かつ,それが他人の著
作権を侵害していないことを保証させ,29条では,著作権の侵害又は著作権の帰
属等について,告訴,訴訟の提起又は異議の申立てがあったときは,著作物の利用
許諾,著作物使用料等の徴収を必要な期間行わないことができる旨定めている(甲
69)。したがって,JASRACは,楽曲の管理の委託を受けるに際して,他人
の著作権を侵害する楽曲の委託を受けないようにしているものということができ
る。しかるに,本件において,JASRACは,別件訴訟提起後も,なお乙曲を管
理除外とすることなく,何の制限も付することなく第三者に乙曲の利用を許諾して
いたのである。
  しかしながら,このようにJASRACとの関係では,むしろ管理を委託
する被告フジパシフィックにおいて乙曲が他人の著作権を侵害していないことを保
証する立場にあり,JASRACが乙曲を管理除外とすることなく第三者に乙曲の
利用を許諾し続けていたからといって,JASRACに管理を委託した被告フジパ
シフィックに,法28条の権利を有する原告との関係で過失がないということはで
きない。したがって,同被告の上記主張は,採用することができない。
5 責任論のまとめ
(1) 被告ポニーキャニオン
  被告ポニーキャニオンは,甲曲に係る編曲権を侵害する乙曲を収録した本
件アルバムの原盤を制作し,自ら本件アルバムを製作・販売することによって,法
28条の権利を有する原告の複製権(法21条)及び譲渡権(法26条の2)を侵
害した。また,同被告は,フジテレビ及びその系列局が本件番組において本件アル
バムに収録された乙曲を放送したことにより,法28条の権利を有する原告の複製
権(法21条)及び放送権(法23条)の侵害を惹起したものである。
  そして,被告ポニーキャニオンは,本件アルバム及びその原盤の制作にあ
たり,乙曲が他人の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し,確認すべき
注意義務に違反した過失がある。
(2) 被告フジパシフィック
  被告フジパシフィックは,甲曲に係る編曲権を侵害する乙曲を収録した本
件アルバムの原盤を制作することによって,法28条の権利を有する原告の複製権
(法21条)を侵害した。
  また,被告フジパシフィックは,Cから乙曲の著作権の譲渡を受けてJA
SRACに対しこれを信託譲渡した上管理委託したものであり,JASRACの利
用許諾を受けた利用者(被告ポニーキャニオン,フジテレビ及びその系列局を含
む。)が乙曲を複製し,複製物を頒布し,演奏ないし公衆送信等利用したことによ
り,法28条の権利を有する原告の複製権(法21条),演奏権(法22条),公
衆送信権(法23条)及び譲渡権(法26条の2)等の侵害を惹起したものであ
る。
  被告フジパシフィックは,本件アルバムの原盤の制作にあたり,乙曲が他
人の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し,確認すべき注意義務に違反
した過失があり,また,JASRACに乙曲の管理を委託するにあたり,他人の楽
曲の著作権を侵害する曲を管理委託することのないようにすべき注意義務に違反し
た過失がある。
6 争点(5)(損害の発生の有無及び額)について
(1) 損害の範囲
ア 被告ポニーキャニオン
  被告ポニーキャニオンは,甲曲に係る編曲権を侵害する乙曲を収録した
本件アルバム及びその原盤を制作した上本件アルバムを販売したこと並びにフジテ
レビ及びその系列局をして本件番組において本件アルバムに収録された乙曲を放送
させたことにより原告に生じた損害を賠償すべきである。
  原告は,被告ポニーキャニオンが「記念樹」の作曲をCに依頼するなど
創作段階から密接に関わっており,乙曲の利用者と客観的関連性があるなどとし
て,同被告に対し,第三者の利用行為による損害をも請求する。しかしながら,同
被告が「記念樹」の作曲を依頼したこと自体に過失があるとはいえず,また,同被
告の行為と,本件アルバムに収録された乙曲を放送したフジテレビ及びその系列局
以外の利用者の行為により生じた損害との相当因果関係を認めることはできない。
よって,被告ポニーキャニオンは,本件アルバム及びその原盤の制作行為と相当因
果関係のない損害について,これを賠償すべき責任はない。
イ 被告フジパシフィック
  被告フジパシフィックは,甲曲に係る編曲権を侵害する乙曲を収録した
本件アルバムの原盤を制作したこと,被告ポニーキャニオンが本件アルバムを製
作・販売し,フジテレビ及びその系列局が乙曲を放送したことにより原告に生じた
損害を,被告ポニーキャニオンとともに(不真正連帯債務),賠償すべきである。
  また,被告フジパシフィックは,前記のとおり,過失によりJASRA
Cに対し編曲権を侵害する乙曲を管理委託したものであり,JASRACの利用許
諾を受けた利用者が乙曲を利用したことにより,原告の有する複製権(法21
条),演奏権(法22条),公衆送信権(法23条)及び譲渡権(法26条の2)
等の侵害を惹起したものであるから,これにより原告に生じた損害を賠償すべきで
ある。すなわち,同被告は,JASRACの利用許諾を受けた第三者が乙曲を利用
したことにより生じた全損害を賠償すべきである。なお,原告は,同被告が「記念
樹」の作曲をCに依頼するなど創作段階から密接に関わっており,乙曲の利用者と
客観的関連性があるなどとして,同被告に対し,第三者の利用行為による損害をも
請求するが,第三者の利用による損害は,創作段階から密接に関わったことを理由
とするのではなく,甲曲の編曲権を侵害する乙曲を第三者に利用させることを目的
としてJASRACに管理を委託した過失と相当因果関係があることを理由とする
ものである。
(2) 損害額の算定基準
ア 甲曲及び乙曲を含む音楽著作権の管理が,実際上は大多数の場合におい
て,JASRACに対する信託を通じてされていること,当該管理はJASRAC
の本件使用料規程(甲56)及び著作物使用料分配規程(甲57。以下「本件分配
規程」という。)に準拠して行われていること,本件使用料規程については,仲介
業務法3条の規定により文化庁長官の認可を受けていたものであることから,JA
SRACの本件使用料規程及び本件分配規程に基づく著作物使用料の徴収及び分配
の実務は,音楽の著作物の利用の対価額の事実上の基準として機能するものであ
り,法114条2項の相当対価額を定めるに当たり,これを一応の基準とすること
には合理性があると解される。
イ 被告らは,原告の主張する法114条2項の許諾料相当額は,JASR
ACから包括使用料方式で定められた乙曲に関する分配金相当額を超えることはあ
り得ないと主張する。
  JASRACの本件使用料規程及び本件分配規程によれば,包括使用料
方式及び1曲1回当たりの曲別使用料を積算する算定方法が定められている種目が
ある。包括使用料方式は,全体として低廉な使用料を設定することにより,著作物
の利用許諾を受けるインセンティブを与えることに意味があるから,違法な著作物
の利用を行った著作権侵害訴訟における損害額の算定において,包括使用料方式を
採用することはできない。
  本件において,原告は,本件分配規程に基づく分配の種目に分けて損害
賠償を請求しており,1回当たりの曲別使用料に使用回数を乗じた損害を請求する
種目と分配額又は分配保留額を請求する種目があるが,少なくとも,1回当たりの
曲別使用料を積算する算定方式により請求している種目に関しては,まず曲別使用
料を積算する算定方式を基準とするのが相当である。
ウ 被告らは,相当対価額の算定上,JASRACの管理手数料を控除すべ
きである旨主張する。
  しかしながら,音楽著作物の著作権の管理をJASRACに委託するか
否かは自由であり,しかも,前記のとおり,二次的著作物の利用に関する権利は当
然にはJASRACに移転していないと解するから,JASRACの管理手数料は
当然に発生するものであるとはいえない。また,本件は,使用料請求ではなく損害
賠償請求であり,現行法114条2項において,「通常」の文言が削除された趣旨
からすれば,被告らの上記主張は,採用できない。
エ 原告は,編曲権を侵害する曲について歌詞を付けた作詞者の行為は,す
べて編曲権侵害行為であるから,作詞者に対する分配分はこれを控除すべきではな
い旨主張する。
  しかしながら,歌詞と楽曲は別個の著作物として独立に保護し得るもの
であり,しかも,本件においては歌詞が先に作詞され,それにCが曲を付けたので
あるから(A証人),作詞者Bの行為が編曲権を侵害する行為であるということは
できない。
  そして,歌曲「記念樹」は,作詞者Bと作曲者Cのいわゆる結合著作物
であり,その楽曲(乙曲)についての著作権とは別個に,歌詞についての著作権が
存在している。他方,JASRACによる著作物使用料の分配額は,歌曲「記念
樹」の使用料として分配されている種目及び歌詞と楽曲を分けてそれぞれに適用さ
れる種目がある。歌詞と楽曲を併せて算定される使用料については,楽曲としての
乙曲の相当対価額の算定上は,歌詞の著作物の利用の対価額を控除するのが相当で
ある。
オ 原告は,編曲権を侵害する曲について編曲した編曲者の行為は編曲権侵
害行為であるから,編曲者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張す
る。
  しかしながら,このような解釈は,編曲権侵害の範囲を不当に拡大する
ものであるし,法2条1項11号は,二次的著作物に著作権法上の保護を与える要
件として,当該二次的著作物の創作過程の適法性を要求していないと解されるか
ら,原告の上記主張は,採用できない。
  そして,乙曲は甲曲を原曲としつつ,Cにより創作的な表現が加えられ
た二次的著作物であるから,Cは,二次的著作物として新たに付与された創作的な
部分について著作権を取得し(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第
一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照),これを被告フジパシフィックに
譲渡したものである。また,歌曲「記念樹」は,Eにより編曲されたものとして公
表されているところ,Eの編曲についても同様である。
  そうすると,甲曲を原曲とする二次的著作物である乙曲の利用の対価額
中には,原曲の著作権者に分配されるべき部分と二次的著作物の著作権者及びその
編曲者に分配される部分とを観念することができる。したがって,甲曲の相当対価
額を定めるに当たっては,二次的著作物の著作権者及びその編曲者の分配分を控除
すべきであり,その控除されるべき割合は,原曲の編曲者への分配率に準じて定め
るのが相当である。
カ 以上を前提にして,以下,原告の請求する種目ごとに各損害額を算定す
る。
(3) 放送に係る相当対価額
ア 被告らは,共同で乙曲を含む本件アルバムの原盤を制作して,乙曲を公
表したのであり,フジテレビ及びその系列局による乙曲の放送(法23条)は,本
件アルバムの中から乙曲が選曲されて行われたものであるから,被告らの行為と相
当因果関係が認められる。
イ 本件使用料規程第2章第3節2(2)(甲56)によれば,1曲1回当たり
著作物使用料最低額は,第1類8000円,第2類5600円,第3類4800
円,第4類3200円,第5類2400円,第6類2000円である。
  証拠(甲67,68,弁論の全趣旨)によれば,放送開始から平成11
年3月末日までの間,フジテレビ及びその系列局で乙曲が放送された回数及びそれ
らの回数に上記使用料最低額を乗じて算出した使用料相当額は,別表1「放送によ
る使用料相当額一覧表」の「当裁判所の判断」欄記載のとおり,合計1098万7
600円となる。なお,原告は,平成11年3月末日までの分を請求するため,平
成11年度分の回数を全体の12分の3の割合としたものを加えていたが(甲6
7),甲第67号証の各年度は,毎年4月1日ないし3月31日までを指している
から,平成10年度分までの回数を加えれば平成11年3月末日分までの回数にな
るのであり,平成11年度分の回数を加える必要はない。
  そして,本件分配規程8条(甲57)によれば,放送に係る使用料の分
配率は,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,作曲者5/12,作詞者
5/12,編曲者2/12とされているから,作詞者及び編曲者への分配分として
7/12を控除する。
ウ よって,放送による相当対価額は,以下の計算式のとおり,457万8
166円と認めるのが相当であり,被告らは,原告に対し,損害として,上記金額
を賠償すべきである。
 1098万7600円×5/12=457万8166円
(4) 放送用録音による使用料相当額
ア 放送用録音は,上記のフジテレビ及びその系列局による乙曲の放送のた
めになされる複製(法21条)であるから,放送と同様に,被告らの行為と相当因
果関係が認められる。
イ 本件使用料規程第2章第4節1(甲56)によれば,「普通映画」に主
題歌又は挿入歌曲として著作物を使用する場合,「文化映画,5分未満」として1
曲の使用料は1200円であるところ,「テレビジョン映画」は,その20/10
0とされているから,基準となる1曲の使用料単価は240円(1200円×20
/100=240円)である。この単価は,歌詞,楽曲それぞれに適用されること
が明示されているから,作詞者に対する分配分を控除する必要はないが,楽曲分に
ついては編曲者に対する分配分を控除するのが相当であるところ,本件分配規程2
9条(甲55,57)によれば,録音に係る使用料の分配率は,関係権利者が作曲
者及び編曲者の場合,作曲者6/8,編曲者2/8とされているから,これに準拠
することとする。
  被告らは,フジテレビが利用許諾契約に基づいて著作権使用料をJAS
RACに支払っていることを根拠に,放送用録音による別個の損害額を算定するこ
とは誤りである旨主張する。しかしながら,違法な著作物の利用を行った著作権侵
害訴訟において,包括使用料方式を採用することができないことは,前記(2)イに述
べたとおりであるから,被告らの上記主張は,採用できない。
ウ 平成10年10月期以前にフジテレビが行った放送用録音の回数,すな
わち平成10年10月期以前に作成されたテープの本数は,別表2「系列局用テー
プ本数一覧表」のとおり,合計1106本である(乙40)。
 次に,フジテレビの系列局の1つである関西テレビ放送株式会社におけ
る平成5年1月23日から平成13年10月21日までの放送分は,別件訴訟にお
いて請求が認容され,これをCが支払い,損害が填補されているため,除外すべき
である(甲74)。すなわち,平成5年1月23日から平成11年3月31日の間
に関西テレビ放送株式会社で放送された回数は,平成5年度9回,平成6年度43
回,平成7年度36回,平成8年度37回,平成9年度42回,平成10年度38
回,合計205回である(乙40)。これらについては,1回当たり1本の放送用
録音が行われたとして,既に損害が填補されている。したがって,上記1106本
から205本を控除した901本が本件訴訟における放送用録音の回数となる。
エ よって,放送用録音による相当対価額は,1回当たりの使用料240円
に放送用録音の回数901本を乗じて,編曲者への分配分2/8を控除すると,以
下の計算式のとおり,16万2180円と認めるのが相当であり,被告らは,原告
に対し,損害として,上記金額を賠償すべきである。
 240円×901本×6/8=16万2180円
(5) 録音による使用料相当額
ア 被告フジパシフィック
(ア) 被告フジパシフィックは,乙曲をJASRACに管理委託した結果J
ASRACの許諾を受けた第三者による録音を惹起したものであり,それによる原
告の損害は,同被告の行為と相当因果関係がある。
(イ) 原告は,平成13年3月期から平成14年12月期までの分配期に対
応するJASRACの被告フジパシフィックに対する録音による使用料相当額の分
配保留額を損害と主張するところ,その分配保留額は,31万8309円(調査嘱
託の結果)である。本件分配規程29条(甲57)によれば,録音に係る使用料の
分配率は,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,作曲者3/8,作詞者
4/8,編曲者1/8とされている。
  よって,録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の計算
式のとおり,31万8309円から5/8を控除した11万9365円と認めるの
が相当であり,被告フジパシフィックは,原告に対し,損害として,上記金額を賠
償すべきである。
   31万8309円×3/8=11万9365円
イ 被告ポニーキャニオン
(ア) これに対し,被告ポニーキャニオンは,本件アルバムの原盤制作行為
と相当因果関係が認められる範囲で責任を負うべきであり,録音については,本件
アルバムの複製について損害賠償責任を負う。
(イ) 上記期間中に被告ポニーキャニオンが販売した本件アルバムの複製に
よる録音と認められるCDの枚数は,次のとおりである(丙1)。
① 「あっぱれさんま大先生」キャンパスソング集PCCA-0042
0(1992年12月2日発売。甲15の1)
  収録曲 10曲
  販売数 114枚
  価 格 2427円(消費税抜き)
② 「あっぱれさんま大先生」キャンパスソング集~笑顔の季節~PC
CA-00876(1996年2月21日発売。甲15の2)
  収録曲 6曲
  販売数 121枚
  価 格 1748円(消費税抜き)
(ウ) 本件使用料規程(甲56)によれば,レコードに著作物を使用する場
合のレコード1枚著作物1曲(歌詞等を含む。)の使用料は,著作物1曲につき当
該レコードの定価(消費税額を含まないもの)の6/100をそのレコードに含ま
れている著作物数で除して得た額又は8円10銭のいずれか多い額以内である。
  上記①の使用料については,14.562円(2427円×6/10
0÷10曲)であるから,これに販売数114枚を乗ずると,1660円である。
上記②の使用料については,17.48円(1748円×6/100÷6曲)であ
るから,これに販売数121枚を乗ずると,2115円である。①と②の合計は,
3775円である。
  本件分配規程29条(甲57)によれば,録音に係る使用料の分配率
は,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,作曲者3/8,作詞者4/
8,編曲者1/8とされている。
  よって,録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の計算
式のとおり,①と②の使用料合計3775円から5/8を控除した1415円であ
り,被告ポニーキャニオンは,原告に対し,被告フジパシフィックとともに(不真
正連帯債務),損害として,上記金額を賠償すべきである。
   (1660円+2115円)×3/8=1415円
(6) 出版による使用料相当額
ア 被告フジパシフィック
(ア) 被告フジパシフィックは,乙曲をJASRACに管理委託した結果J
ASRACの許諾を受けた第三者による出版を惹起したものであり,それによる原
告の損害は,同被告の行為と相当因果関係がある。
(イ) 原告は,平成13年3月期から平成14年12月期までの分配期に対
応するJASRACの被告フジパシフィックに対する出版による使用料相当額の分
配保留額を損害と主張するところ,その分配保留額は,48万0143円(調査嘱
託の結果)である。本件分配規程29条(甲57)によれば,出版に係る使用料の
分配率は,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,作曲者3/8,作詞者
4/8,編曲者1/8とされている。
  よって,出版に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の計算
式のとおり,48万0143円から5/8を控除した18万0053円であり,被
告フジパシフィックは,原告に対し,損害として,上記金額を賠償すべきである。
   48万0143円×3/8=18万0053円
イ 被告ポニーキャニオン
(ア) これに対し,被告ポニーキャニオンは,本件アルバムの原盤制作行為
と相当因果関係が認められる範囲で責任を負うべきであり,出版については,本件
アルバム等に添付されたCDジャケットに記載された楽譜による出版である(甲2
0)。
(イ) 上記期間中に被告ポニーキャニオンが販売した楽譜に記載されたCD
ジャケットの枚数は,上記(5)イのCD販売枚数と同一であり,235部である。
  本件使用料規程第5節3(2)(甲56)によれば,本件アルバム等に添
付されたCDジャケットは,書籍,雑誌,新聞以外の出版物であり,出版物に定価
がないので,その発行部数又は製作部数により1曲につき,歌詞,楽曲それぞれ1
800円(2500部まで)となる。
  上記単価は,歌詞,楽曲それぞれに適用されることが明示されている
から,作詞者に対する分配分を控除する必要はないが,楽曲分については編曲者に
対する分配分を控除するのが相当であるところ,本件分配規程29条(甲57)に
よれば,出版に係る使用料の分配率は,関係権利者が作曲者及び編曲者の場合,作
曲者6/8,編曲者2/8とされている。
  出版に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の計算式のとお
り,1800円から2/8を控除した1350円であり,被告ポニーキャニオン
は,原告に対し,被告フジパシフィックとともに(不真正連帯債務),損害とし
て,上記金額を賠償すべきである。
   1800円×6/8=1350円
(7) 演奏による使用料相当額
ア 被告フジパシフィック
 (ア) 主位的請求について
  原告は,JASRACの各分配期のカラオケ基金総額を91日,1日
1室当たりの平均利用楽曲数43曲及び総カラオケ室数で除すると,各分配期ごと
の1曲1回当たりの平均単価が算出でき,各分配期ごとの乙曲のカラオケ分の分配
対象使用料額を上記の平均単価で除すると,乙曲の各分配期の総使用曲数が算出で
きると主張する。
  乙第25ないし第28号証によれば,演奏の分配対象使用料額は,演
奏会,カラオケ調査基準,カラオケ出庫基準,カラオケ再ブランケット分の4つの
分配基金ごとに算定された分配対象使用料額の総額である。
  演奏会による分配は,個々の演奏会でJASRACが徴収した使用料
の合計額に計算係数を掛けて算出された分配点数に応じて配分するものである。カ
ラオケ調査基準による分配とは,分配対象期までの1年間のサンプリング調査にお
いて捕捉された社交場とカラオケボックスにおける演奏回数をもとに算出されるも
のである。カラオケ出庫基準による分配とは,サンプリング調査により捕捉されな
いほど使用頻度の低い著作物をカバーするために,カラオケ調査基準による分配と
組み合わせて行っているもので,適用し得る最新の期までの3年間の当該著作物を
収録したカラオケソフトの出庫数に比例する分配点数に基づいて配分されるもので
ある。カラオケ再ブランケット分とは,使用頻度の低い著作物をカバーする目的の
カラオケ出庫基準による分配が,当初の目的を外れてカラオケ調査基準による分配
の最低額を上回った場合に,当該上回った分を当期のカラオケ分配対象となった全
著作物に取分率比に応じて均等配分するものである。
  以上のとおり,カラオケ出庫基準による分配基金は,分配点数に基づ
いて配分されるが演奏回数とは関連がなく,カラオケ再ブランケット分も演奏回数
とは関連がない。したがって,原告が演奏回数の算定の基礎としている各分配期ご
との乙曲のカラオケ分の分配対象使用料額とは,演奏回数とは関連なく計算される
カラオケ出庫基準及びカラオケ再ブランケット分の額を含んでおり,どのような単
価で除しても,乙曲の各分配期の総使用曲数を算出することはできない。
  したがって,原告主張のとおりの算定方法では,実際の演奏回数を算
出することはできないから,主位的請求に係る損害額の算定を採用することはでき
ない。
(イ) 予備的請求1について
  原告は,曲別使用料が包括使用料の5倍である旨主張するが,これを
認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 予備的請求2について
  平成8年12月期から平成14年12月期までの分配期に対応する期
間,JASRACにより乙曲の利用許諾がなされていたことは,前記のとおりであ
るから,乙曲が演奏され,原告に損害が生じたことが認められる。被告フジパシフ
ィックは,乙曲をJASRACに管理委託した結果JASRACの許諾を受けた第
三者による演奏を惹起したものであり,それによる原告の損害は,同被告の行為と
相当因果関係がある。
  しかしながら,本件において,平成8年12月期から平成14年12
月期までの分配期に対応する期間の演奏回数を立証することは,性質上極めて困難
である。平成7年9月期から平成14年12月期までの「記念樹」の演奏に係る分
配額及び分配保留額の合計は,73万8752円(甲54,調査嘱託の結果。分配
額1万9183円,分配保留額71万9569円)であること,後記(8)アのとお
り,カラオケ演奏に付随する通信カラオケ送信(インタラクティブ配信送信を含
む。)の回数が平成10年3月期から平成14年12月期の分配期において31万
6810回であることその他口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合して,著
作権法114条の4を適用し,平成8年12月期から平成14年12月期までの分
配期に対応する演奏回数を30万回と認める。
  本件使用料規程では,演奏の1回当たりの単価を90円と定めている
から,演奏に係る使用料相当額は,上記単価に30万回を乗じた2700万円とな
る。
  そして,本件分配規程8条(甲57)によれば,演奏に係る使用料の
分配率は,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,作曲者5/12,作詞
者5/12,編曲者2/12とされている。
  よって,演奏に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の計算
式のとおり,2700万円から作詞者及び編曲者への分配分7/12を控除した1
125万円と認めるのが相当であり,被告フジパシフィックは,原告に対し,損害
として,上記金額を賠償すべきである。
  2700万円×5/12=1125万円
イ 被告ポニーキャニオン
  演奏会等における乙曲の演奏においては,本件アルバム及びその原盤が
使用されたことを認めるに足りる証拠はないから,被告ポニーキャニオンの原盤等
制作行為と演奏会等における演奏には相当因果関係が認められない。また,社交場
やカラオケボックスにおける演奏は,乙曲に子供らの合唱による歌が付いた本件ア
ルバムに収録された「記念樹」とは明らかに異なるカラオケソフトであると考えら
れるから,被告ポニーキャニオンの上記行為と社交場及びカラオケボックスにおけ
る演奏による損害には相当因果関係が認められない。
  したがって,原告は,同被告に対し,演奏による損害の賠償を請求する
ことはできない。
(8) 通信カラオケ送信(インタラクティブ配信送信を含む。)
ア 被告フジパシフィック
  被告フジパシフィックは,乙曲をJASRACに管理委託した結果JA
SRACの許諾を受けた第三者による通信カラオケ送信を惹起したものであり,そ
れによる原告の損害は,同被告の行為と相当因果関係がある。
  通信カラオケ送信についての分配方法は,利用回数基準分配基金90
%,端末台数基準分配基金10%の割合で各基金ごとに計算されることになってい
る。利用回数基準分配基金は,使用者からのアクセスコードごとの利用回数報告に
基づく各著作物の利用回数を点数として分配するものであり,端末台数基準分配基
金は,各著作物が利用可能の状態にある端末装置の全台数を点数として分配するも
のであり,これは実際の送信回数とは関連がない(甲55)。
  原告が損害として請求する平成10年3月期から平成14年12月期ま
での分配期に対応する期間の送信回数を的確に証する証拠はないが,JASRAC
が,平成12年12月期の乙曲の送信回数は,1万3906回と回答していること
(甲55),上記のとおり,利用回数基準分配基金が90%を占めていることから
すれば,端末台数基準分配基金によって生じる回数の差はそれほど多くはないと推
認される。よって,平成12年12月期の分配保留額2万3990円を同期の送信
回数1万3906回で除した1.725円を送信単価とし,分配額及び分配保留額
の総額を1.725円で除したものを総送信回数としても,実際の送信回数とさほ
ど差は生じないと解される。
  平成10年3月期から平成14年12月期までの「記念樹」についての
分配額及び分配保留額総額は,54万6498円(甲54,調査嘱託の結果。分配
額3571円,分配保留額45万9553円,インタラクティブ配信送信8万33
74円)である。原告は,55万0069円であると主張するが,上記分配額35
71円を二重に計上しているため,不正確である。そして,分配額及び分配保留額
総額54万6498円を1.725で除した31万6810回が総送信回数とな
る。
  通信カラオケ送信とは,通信カラオケ業者が電話回線を使用して利用者
(店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信したことにつ
いての著作物使用料である。平成12年3月6日認可の本件使用料規程(甲56)
上には,通信カラオケに関する使用料が規定されておらず,録音に該当する。本件
使用料規程第6節又は第8節(甲56)では,原告の主張どおり録音の1回当たり
の単価が8円10銭と定められているから,通信カラオケ送信に係る使用料相当額
は,上記単価に31万6810回を乗じた256万6161円となる。
  そして,現行分配規程8条,29条及び43条(弁論の全趣旨)によれ
ば,関係権利者が作曲者,作詞者及び編曲者の場合,通信カラオケ送信に係る使用
料の分配率は,作曲者5/12,作詞者5/12,編曲者2/12とされており,
通信カラオケ蓄積に係る使用料の分配率は,作曲者3/8,作詞者4/8,編曲者
1/8とされていることに鑑み,作詞者及び編曲者の分配率を29/48と認め
る。よって,通信カラオケ送信に係る甲曲の利用についての相当対価額は,以下の
計算式のとおり,101万5772円と認めるのが相当である。
   256万6161円×19/48=101万5772円 
イ 被告ポニーキャニオン
  通信カラオケ送信とは,通信カラオケ業者が電話回線を使用して利用者
(店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信したことにつ
いての著作物使用料である。したがって,上記(7)と同様,カラオケで使用されるソ
フトと被告らが原盤を制作した本件アルバムに収録された「記念樹」とは異なるか
ら,被告ポニーキャニオンの原盤等制作行為と通信カラオケ蓄積による損害とは相
当因果関係が認められない。
 したがって,原告は,同被告に対し,通信カラオケ送信による損害の賠
償を請求することはできない。
(9) 通信カラオケ蓄積(インタラクティブ配信複製を含む。)
 原告は,通信カラオケ蓄積による使用料相当額の分配保留額を損害として
主張するところ,通信カラオケ蓄積と同送信とは表裏一体であり,通信カラオケ送
信に係る使用料として,録音のために送信した1曲1回当たりの著作物使用料とし
て算出した以上,これと別個に通信カラオケ蓄積による使用料相当額を請求するこ
とはできない。
(10) 弁護士費用
ア 被告フジパシフィック
  以上のとおり,被告フジパシフィックが負担すべき原告の損害額は,上
記(3)ないし(8)の合計額である1730万5536円((3)457万8166円
+(4)16万2180円+(5)11万9365円+(6)18万0053円+(7)112
5万円+(8)101万5772円)であるから,弁護士費用としては,その約1割で
ある170万円を被告フジパシフィックに負担させるのが相当である。
イ 被告ポニーキャニオン
  以上のとおり,被告ポニーキャニオンが負担すべき原告の損害額は,上
記(3)ないし(6)の合計額である474万3111円((3)457万8166円+(4)
16万2180円+(5)1415円+(6)1350円=474万3111円)である
から,弁護士費用としては,その約1割である50万円を被告ポニーキャニオンに
負担させるのが相当である。
(11) 合計
ア 被告フジパシフィック
  被告フジパシフィックが負担すべき原告の損害額は,上記(3)ないし(8)
及び(10)の合計額である1900万5536円となり,下記イの524万3111
円の限度で被告ポニーキャニオンと連帯して責任を負う。
  1730万5536円+170万円=1900万5536円
イ 被告ポニーキャニオン
  被告ポニーキャニオンが負担すべき原告の損害額は,上記(3)ないし(6)
及び(10)の合計額である524万3111円となり,被告フジパシフィックと連帯
して責任を負う。
  474万3111円+50万円=524万3111円
(12) 遅延損害金の起算日
ア 不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を待たず,損害発生と同時に遅
滞に陥る。そのうち,弁護士費用の損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,遅滞
に陥る。
  原告は,本件の損害賠償額全部について,平成11年1月1日からの遅
延損害金を請求しているが,同日以降に発生した損害については,発生時以降の遅
延損害金のみが認められる。したがって,原則としては,同日以降に発生した損害
の遅延損害金は,個々の損害の発生の原因になる不法行為,すなわち個々の放送,
放送用録音,録音,出版,演奏等の行為時から発生することになる。しかし,本件
において,原告は,放送及び放送用録音を除き,JASRACの各著作物使用料の
分配期に対応する使用料ないし分配額及び分配保留額を基礎に損害を請求してお
り,当裁判所もこれらの額を基礎に損害を算定したことは前記のとおりであるとこ
ろ,JASRACの分配期と不法行為の損害発生時は,必ずしも一致せず,原告も
これを主張立証していないから,損害発生時を正確に認定することは不可能であ
る。したがって,平成11年1月1日以降に発生したと認められる損害について
は,最新の分配期末日の翌日からの遅延損害金のみを認めることとする。
イ 放送
 平成10年12月31日までの放送分については,遅くとも原告の主張
する平成11年1月1日に遅滞に陥り,平成11年1月1日から同年3月31日ま
での放送分については,遅くとも平成11年4月1日に遅滞に陥る。
 平成11年1月1日から同年3月31日までの間,フジテレビ及びその
系列局で乙曲が放送された回数は,甲第67号証の平成10年度分(同年4月1日
から平成11年3月31日)の回数を3/12の割合としたものとする(小数点以
下切り捨て)。これらの回数に各局に応じた使用料最低額を乗じて算出した使用料
相当額は,別表4記載のとおり,合計43万円となり,編曲者及び作詞者に対する
分配分を控除すると合計は次のとおり,17万9166円となる。
  43万円×5/12=17万9166円
 したがって,放送に係る損害額457万8166円のうち,17万91
66円に対しては平成11年4月1日から,残り439万9000円に対しては同
年1月1日から支払済みまでの遅延損害金が認められる。
ウ 放送用録音
 平成10年12月31日までの録音分については,遅くとも原告の主張
する平成11年1月1日に遅滞に陥り,平成11年1月1日から同年3月31日ま
での録音分については,遅くとも平成11年4月1日に遅滞に陥る。
 平成11年1月1日から同年3月31日までの間に録音された回数は,
別表2の平成10年10月期(同年10月1日から平成11年3月31日)に作成
されたテープの本数を3/6の割合としたものとする。更に関西テレビ放送株式会
社で平成10年度(同年4月1日から平成11年3月31日)に放送された38本
を3/12の割合としたもの(小数点以下切り捨て)については,既に損害が填補
されているから控除すべきである。これらの本数に使用料単価240円を乗じて,
編曲者に対する分配分を控除すると,合計は次のとおり,8640円となる。
 (114本×3/6-38本×3/12)×240円×6/8=864
0円
 したがって,放送用録音に係る損害額16万2180円のうち,864
0円に対しては平成11年4月1日から,残り15万3540円に対しては同年1
月1日から支払済みまでの遅延損害金が認められる。
エ 録音
 録音に係る損害については,前記のとおり,被告フジパシフィックに対
しては,平成13年3月期から平成14年12月期の分配保留額に基づき算定して
おり,被告ポニーキャニオンに対しても,同期間中に販売されたCDの枚数に基づ
き算定しているから,全部につき,遅くとも平成15年1月1日に遅滞に陥る。
オ 出版
 出版に係る損害については,前記のとおり,被告フジパシフィックに対
しては,平成13年3月期から平成14年12月期の分配保留額に基づき算定して
おり,被告ポニーキャニオンに対しても,同期間中に販売されたCDに添付された
楽譜の枚数に基づき算定しているから,全部につき,遅くとも平成15年1月1日
に遅滞に陥る。
カ 演奏
 平成10年12月期までの演奏分については,遅くとも原告の主張する
平成11年1月1日に遅滞に陥り,平成11年3月期から平成14年12月期まで
の演奏分については,遅くとも平成15年1月1日に遅滞に陥る。
 演奏に係る損害については,前記のとおり,平成8年12月期から平成
14年12月期までの合計25期分について,演奏回数を合計30万回と認めた。
したがって,1期あたりの演奏回数は,1万2000回として算定する。
 平成8年12月期から平成10年12月期までの合計9期分の損害額
は,1125万円に9/25を乗じた405万円であり,平成11年1月1日以降
の遅延損害金が認められる。残りの平成11年3月期から平成14年12月期まで
の損害額720万円については,平成15年1月1日から支払済みまでの遅延損害
金が認められる。
キ 通信カラオケ送信
 通信カラオケ送信に係る損害については,前記のとおり,平成10年3
月期から平成14年12月期までの分配額及び分配保留額に基づき送信回数を算出
して損害額を算定しているところ,平成10年12月期までの通信カラオケ送信分
については,遅くとも原告の主張する平成11年1月1日に遅滞に陥り,平成11
年3月期から平成14年12月期までの分については,遅くとも平成15年1月1
日に遅滞に陥る。
 平成10年3月期から同年12月期までの通信カラオケ送信に係る分配
額及び分配保留額は,4378円である(甲54)。そして,これを送信単価1.
725で除した2537回が送信回数である。これに録音1回あたりの単価8円1
0銭を乗じて,編曲者及び作詞者に対する分配分を控除すると次のとおり,813
4円となる。
  2537回×8円10銭×19/48=8134円
 したがって,通信カラオケ送信に係る損害額101万5772円のう
ち,8134円に対しては平成11年1月1日から,残り100万7638円に対
しては平成15年1月1日から支払済みまでの遅延損害金が認められる。
ク 弁護士費用
 弁護士費用については,原告の請求どおり平成11年1月1日以降の遅
延損害金が認められる。
ケ まとめ
(ア) 放送に係る損害について
 被告らは連帯して,457万8166円及び内金439万9000円
に対する平成11年1月1日から,内金17万9166円に対する平成11年4月
1日から各支払済みまでの遅延損害金を支払うべきである。
(イ) 放送用録音に係る損害について
 被告らは連帯して,16万2180円及び内金15万3540円に対
する平成11年1月1日から,内金8640円に対する平成11年4月1日から各
支払済みまでの遅延損害金を支払うべきである。
(ウ) 録音に係る損害について
 被告らは連帯して,1415円及び平成15年1月1日から支払済み
までの遅延損害金を支払うべきである。
 被告フジパシフィックは,上記金額に加え,11万7950円(合計
11万9365円)及び平成15年1月1日から支払済みまでの遅延損害金を支払
うべきである。
(エ) 出版に係る損害について
 被告らは連帯して,1350円及び平成15年1月1日から支払済み
までの遅延損害金を支払うべきである。
 被告フジパシフィックは,上記金額に加え,17万8703円(合計
18万0053円)及び平成15年1月1日から支払済みまでの遅延損害金を支払
うべきである。
(オ) 演奏に係る損害について
 被告フジパシフィックは,1125万円及び内金405万円に対する
平成11年1月1日から,内金720万円に対する平成15年1月1日から各支払
済みまでの遅延損害金を支払うべきである。
(カ) カラオケ送信に係る損害について
 被告フジパシフィックは,101万5772円及び内金8134円に
対する平成11年1月1日から,内金100万7638円及び平成15年1月1日
から各支払済みまでの遅延損害金を支払うべきである。
(キ) 弁護士費用に係る損害について
 被告らは連帯して,50万円及び平成11年1月1日から支払済みま
での遅延損害金を支払うべきである。
 被告フジパシフィックは,上記金額に加え,120万円(合計170
万円)及び平成11年1月1日から支払済みまでの遅延損害金を支払うべきであ
る。
7 結論
  よって,原告の被告らに対する請求は,524万3111円及び内金505
万2540円(前記6(12)ケ(ア)439万9000円+(イ)15万3540円+(キ)5
0万円)に対する平成11年1月1日から,内金18万7806円((ア)17万91
66円+(イ)8640円)に対する平成11年4月1日から,内金2765円((ウ)
1415円+(エ)1350円)に対する平成15年1月1日から各支払済みまでの遅
延損害金の支払を求める限度で理由がある。また,原告の被告フジパシフィックに
対する請求は,上記金額に加え,1376万2425円(合計1900万5536
円)及び内金525万8134円(前記6(12)ケ(オ)405万円+(カ)8134円+
(キ)120万円)に対する平成11年1月1日から,内金850万4291円((ウ)
11万7950円+(エ)17万8703円+(オ)720万円+(カ)100万7638
円)に対する平成15年1月1日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める
限度において理由がある。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 髙   部   眞 規 子
裁判官 東 海 林       保
           裁判官   瀬   戸   さ や か
当 事 者 目 録
原    告        有限会社金井音楽出版
原告補助参加人       G
上記2名訴訟代理人弁護士  井 上 準一郎
同             佐 藤 隆 男
同訴訟復代理人弁護士    新 井 裕 幸
被    告        株式会社ポニーキャニオン
同訴訟代理人弁護士    遠 山 友 寛
同             石 原   修
同             升 本 喜 郎
同訴訟復代理人弁護士    下 野   健
       被    告        株式会社フジパシフィック音楽出版
同訴訟代理人弁護士     本 橋 光一郎
同             小 川 昌 宏
同             下 田 俊 夫
(別紙)
別紙1別紙2別紙3別表1別表2
別表3別表4

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