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平成14(行ケ)26行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年12月3日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物63回
審決36回
実施4回
優先権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(行ケ)第26号 審決取消請求事件(平成15年11月19日口頭弁
論終結)
          判    決
       原   告      シーゲイト テクノロジー エルエルシー
       訴訟代理人弁理士   浅 村   皓
       同          浅 村   肇
       同          小 池 恒 明
       同          岩 井 秀 生
       同          山 本 貴 和
       同          岩 本 行 夫
       被   告      特許庁長官 今井康夫
       指定代理人      岩 本 正 義
       同          大 野 克 人
       同          大 野 覚 美
       同          宮 川 久 成
       同          伊 藤 三 男
          主    文
 原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が平成10年審判第20116号事件について平成13年8月29日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,発明の名称を「アンダーハブ型ディスクドライブスピンモータ」と
する特許出願(特願平2-500330号,パリ条約による優先権主張日1989
年〔平成元年〕1月25日〔以下「本件優先日」という。〕・アメリカ合衆国,同
年10月27日を国際出願日とする出願,以下「本件特許出願」という。)をした
が,平成10年8月26日に拒絶の査定を受けたので,これに対する不服の審判の
請求をした。
 特許庁は,同請求を平成10年審判第20116号事件として審理した上,
平成13年8月29日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ
の謄本は,同年9月17日,原告に送達された。
 2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成8年7月9日付け,平成9年1
2月17日付け,平成11年1月20日付け及び平成12年8月21日付け各手続
補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請
求項1,6の記載
【請求項1】ベースプレートを備えたディスクドライブにおいて,所定の直径
を有する取付け孔をもっているディスクを回転させるためのアンダーハブ型スピン
モータにして,
 第1の部分と,第2の部分と,軸線とを有する軸であって,前記軸の前記第
1の部分が第1の直径を有し,前記第1の部分が前記ベースプレートによって片持
ち支持され,そして,前記軸の前記第2の部分が前記第1の直径よりも小さい第2
の直径を有することからなる軸,
 前記軸の前記第2の部分の第1の端部および第2の端部において前記軸線に
相対するそれぞれの第1および第2の位置に設けられた第1および第2の軸受であ
って,前記第1の軸受および第2の軸受は,前記軸線に対して前記第1の位置と第
2の位置との間に第3の位置を占める第3の部分によって間隔を隔てられている第
1および第2の軸受,
 前記第1の軸受および前記第2の軸受によって前記軸に回転可能に支持され
たハブであって,前記ディスクを支持するために前記軸の前記軸線と実質的に直交
するディスク支持面を有するハブ,
 前記ベースプレートに支持されるとともに,前記軸の第1の部分に支持され
て設けられかつ前記第1の位置と,第2の位置と,第3の位置とを含む軸線方向領
域の外側の前記軸の軸線に対して相対的な位置に位置決めされた固定子組立体であ
って,前記固定子組立体を位置決めした位置が前記軸線と実質的に直交する前記ベ
ースプレートによって画成される平面より下にあり,前記固定子が前記ベースプレ
ートの凹部にあることからなる固定子組立体,および
 前記固定子と同心であるように前記ハブに取り付けられたロータであって,
前記固定子と前記ロータがそれらの間に隙間を画成し,前記隙間の位置が前記ディ
スクの前記取付け孔の前記所定の直径より大きい直径を画成することからなるロー
タ,
 を含有することを特徴とするアンダーハブ型スピンモータ。
(以下「本願発明1」という。)
【請求項6】上部および底部を有するベースプレートを備えたディスクドライ
ブにおいて,第1の直径を有する取付け孔をもっているディスクを回転させるため
のスピンモータにして,
 第1の部分と第2の部分と,軸線を有する軸であって,前記軸の前記第1の
部分が前記ベースプレートの一部分の中に直接取付けられて片持ち支持され,か
つ,第1の直径を有し,前記軸の前記第2の部分が,軸線方向の第1の端部および
第2の端部を有し,かつ,前記第1の直径より小さい直径(注,「直形」とあるの
は誤記と認める。)を有することからなる軸,
 前記軸の前記第2の部分の第1の位置および第2の位置にそれぞれ設けられ
た第1の軸受および第2の軸受,
 前記第1の軸受および第2の軸受によって前記軸に回転可能に支持されたハ
ブであって,前記第1の軸受の位置と前記第2の軸受の位置との間で前記軸の前記
軸線上の箇所に位置する質量中心と,第2の直径を有する円筒形の支持接触面と,
前記軸の前記軸線と実質的に直交する,前記ディスクを支持するためのディスク支
持面とを備えたハブ,
 一部分が前記軸の前記第1の部分と同心であるように前記ベースプレートに
支持されるとともに,前記軸の第1の部分に支持されて設けられた固定子であっ
て,前記軸線と垂直でありかつ前記ベースプレートの上部で定められる平面より下
で,前記ベースプレートの凹部に位置決めされており,前記第1の直径より大きい
第3の直径を有する電動子用軟鉄板を含むことからなる固定子,および
 前記ハブに取付けられたロータであって,前記ロータの一部分が,前記第1
の軸受および前記第2の軸受に対して片持ちされており,(「かつ,前記軸の前記
第1の軸受および前記第2の軸受に対して片持ちされており,」とあるのは,誤記
による重複と認める。)かつ,前記軸の前記第1の部分と同心であることからなる
ロータ,
 を含有することを特徴とするスピンモータ。
(以下「本願発明2」という。)
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明1,2は,それぞれ特開
昭63-257955公報(甲9,審判刊行物1,審判引用例,以下「引用例」と
いう。)記載の発明(以下「引用例発明」という。)並びに特開昭63-859号
公報(甲10,審判刊行物2,以下「刊行物2」という。),特開昭62-180
563号公報(甲11,審判刊行物3,以下「刊行物3」という。)及び特開昭6
1-269282号公報(甲12,審判刊行物4,以下「刊行物4」という。)に
開示されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本願発明1,2と引用例発明との相違点2,1についての判断を誤
り(取消事由1,2),本願発明1,2と引用例発明との相違点を看過し(取消事
由3),本願発明2と引用例発明との相違点3についての判断を誤った(取消事由
4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本願発明1,2と引用例発明との相違点2についての判断の誤
り)
(1) 審決は,①本願発明1と引用例発明との相違点2として認定した「軸の構
成及びそれに関連した固定子組立体を支持する構成について,本願発明1では軸の
第2の部分が前記第1の(部分の)直径よりも小さい第2の(部分の)直径を有
し,その固定子組立体はベースプレートに支持されるとともに,前記軸の第1の部
分に支持されて設けられるのに対し,引用例の発明では支持軸6(軸)の第2の部
分がその第1の部分の直径と等しい直径を有し,そのステータ8(固定子組立体)
はベース9の支持軸6の軸線方向に平行な円筒外面とともに,同じベース9の支持
軸6の軸線方向と実質的に直交する環状平面において該ベース9(ベースプレー
ト)に支持されて設けられる点」(審決謄本7頁相違点2)について,「本願発明
1や引用例の発明のようなディスクドライブにおけるスピンモータにおいて,少な
くとも第1の部分と,第2の部分と,軸線とを有する(固定)軸であって,少なく
とも前記軸の第1の部分が前記ベースプレートによって支持され,前記軸の前記第
2の部分が前記第1の(部分の)直径よりも小さい第2の直径を有するように構成
すること自体は,例えば上記刊行物3又は4に示されているように出願前周知の技
術であり,該周知技術によれば,スピンモータのより安定度の大きい作動速度が得
られることは,当業者であれば自明のこととして認識できる」(同8頁下から第2
段落)とした上,「本願発明1の上記相違点2の構成とすることは,そのように構
成することに格別の困難性は認められず,当業者が適宜容易になし得た設計的事項
にすぎないものというべきである。そして,その構成により当業者の予測できない
格別の効果を奏するものとも認められない」(同9頁第1段落)と判断し,また,
②本願発明2と引用例発明との相違点2として認定した「軸の構成及びそれに関連
した固定子を支持する構成について,本願発明2では軸の第2の部分が該軸の第1
の(部分の)直径よりも小さい直径を有し,固定子はその一部分が前記軸の第1の
部分と同心であるようにベースプレートに支持されるとともに,前記軸の第1の部
分に支持されて設けられるのに対し,引用例の発明では支持軸6(軸)の第2の部
分がその第1の(部分の)直径と等しい直径を有し,ステータ8(固定子)はその
全部が前記支持軸6の第1の部分と同心であるようにベース9の支持軸6の軸線方
向に平行な円筒外面とともに,同じベース9の支持軸6の軸線方向と実質的に直交
する環状平面において該ベース9(ベースプレート)に支持されて設けられる点」
(同11頁相違点2)について,「本願発明2や引用例の発明のような,ディスク
ドライブにおけるスピンモータにおいて,少なくとも第1の部分と,第2の部分
と,軸線とを有する(固定)軸であって,少なくとも前記軸の第1の部分が前記ベ
ースプレートの一部分の中に直接取付けられて支持され,前記軸の前記第2の部分
が前記第1の(部分の)直径よりも小さい直径を有するように構成すること自体
は,例えば上記刊行物3又は4に示されているように出願前周知の技術であり,該
周知技術によれば,スピンモータのより安定度の大きい作動速度が得られること
は,当業者であれば自明のこととして認識できる」(同12頁下から第2段落)と
した上,「本願発明2の上記相違点2の構成とすることは,そのように構成するこ
とに格別の困難性は認められず,当業者が適宜容易になし得た設計的事項にすぎな
いものというべきである。そして,その構成により当業者の予測できない格別の効
果を奏するものとも認められない」(同12頁最終段落~13頁第1段落)と判断
したが,いずれも誤りである。
(2) 刊行物3,4(甲11,12)には,本願発明1,2の「第1の部分」,
「第2の部分」という概念自体が存在せず,また,いずれも異径の軸を採用してい
るが,その目的は,審決が上記に認定した「より安定度の大きい作動速度」を得る
ためではない。
 刊行物3において,下部のより大きい直径の軸は,その「中空」となって
いる当該境界部分の強度を補強するために設けられたものであり,また,本願発明
1,2のように,より直径の大きい軸の部分に固定子,すなわちコア9を設けてい
ない。
 刊行物4のものは,本願発明1,2と同様にいわゆるアンダーハブ型に属
するが,それが異径の軸を採用しているのは,その第1図より明らかなとおり,軸
23に段差を設け,この段差部分に軸受(ベアリング)26を支持するためであっ
て,「より安定度の大きい作動速度」を得ようとするものではないことは明白であ
る。このように,ベアリング26を設ける位置で軸の直径を異にしていることか
ら,第1,第2の直径のみならず,軸の最上端部に第3の直径を有する軸までもが
図示されている。
  刊行物3,4は,上記のとおり,いずれも「より安定度の大きい作動速
度」を得ようとするために異径の軸を開示しているものではないのであるから,そ
もそも「引用例の駆動モータに適用」しようとする動機付け自体が存在しない。刊
行物3のものは,その第2図に示されているように下方の軸受7はより大きな直径
を有する軸12の部分に支持されており,このような周知技術を引用例の駆動モー
タに適用しても,本願発明1,2の構成は実現されない。また,引用例(甲9)の
ものにおいては,当該下方の軸受5の下端が支持軸6よりも一層安定度の大きいベ
ース9に支持されているのであるから,そこに刊行物4の上記構成を適用すること
により,このベース9に代わるより不安定な支持軸6だけで当該軸受を支持しよう
とすることは,「ハブを支持する軸受の配置をスピンドルの剛性が高くできるよう
に」(甲9の2頁右下欄)する引用例発明の目的に反する結果となる。
(3) 本願発明1,2において異径の軸の構成を採用した意義は,単に「より安
定度の大きい作動速度を得」るためだけにあるのではない。本願発明1,2の第2
実施例に係るスピンモータ9は,その高さの点において第1実施例に係るスピンモ
ータ8と異なるにもかかわらず,第1実施例のものと同様に大きなトルクを発生さ
せ得ることから,そのトルクの増大に耐え得るように軸の第1部分の直径を大きく
してより一層の安定度を得るように構成し,また,その軸の第1の部分112aの直
径が大きくなっても,トルクの増大に支障を来さないように固定子組立体(ステー
タ)116を,軸の第1の部分112aに取り付け,ベースプレート100の凹部の
スペースを十分に確保し得るように構成したものである。なぜなら,固定子116
をより一層安定した部材に取り付けることだけを考慮するのであれば,引用例(甲
9)のようにベースプレートに取り付ければよいのであるが,そのように構成する
と今度はその凹部においてトルクの増大のために十分なスペースを確保することが
できなくなるからである。このように,トルクを増大させることと異径の軸を採用
したこととは相互の相関関係があるのに,審決は,このような相関関係を無視し
て,単に「より安定度の大きい作動速度を得」ることだけを異径の軸の構成を採用
した理由としているが,全く技術的な説得力を欠いているといわざるを得ない。
(4) 本願発明1,2においては,その目的である安定した作動速度を提供する
のに十分なトルクを作り出すディスクドライブ用の高さの低いスピンモータを提供
するため,また,電機子の巻線に大径のワイヤをたくさん巻くことができるように
内部に十分な空隙を有するスピンモータを提供するため,固定子組立体はベースプ
レートに支持されるとともに,直径の大きな軸の第1の部分に支持されて設けられ
ているが,本願発明1に係る相違点2の「固定子組立体はベースプレートに支持さ
れるとともに,前記軸の第1の部分に支持されて設けられる点」(審決謄本7頁相
違点2)及び本願発明2に係る相違点2の「固定子はその一部分が前記軸の第1の
部分と同心であるようにベースプレートに支持されるとともに,前記軸の第1の部
分に支持されて設けられる点」(同11頁相違点2)については,引用例及びいず
れの刊行物にも記載されていない。
(5) 本願発明1,2は,軸の第1の部分112aをより大きい直径を有する部分
とすることによりベースプレート100とほぼ同程度の「大きな安定度を提供」
(甲2の7頁第1段落)し,このような「大きな安定度」を有する軸の第1の部分
112aに固定子116を支持させ,軸の第1の部分112aをより大きな直径とし
たことによる「ベースプレート凹部」におけるスペースの減少をカバーしたもので
あって,これらの構成により,①巻数が同じインハブ型モータよりも大きなトルク
を発生でき,②同じ寸法の巻数を有し,かつ,より小さな電流を使用する同じ型式
の磁石を有するインハブ型モータと同じトルクを作り出すことができ,③電流の減
少は,モータによって作り出される熱を減少させ,引用例におけるような「通気口
11」を必要とせず,④モータ8,9を,普通の作動電圧の12ボルトではなく,
例えば5ボルトの低電圧で作動させることができ,その結果,低出力で高さの低い
スピンモータを実現し得たのであり,顕著な作用効果を奏する。
2 取消事由2(本願発明1,2と引用例発明との相違点1についての判断の誤
り)
(1) 審決は,①本願発明1と引用例発明との相違点1として認定した「軸を支
持する構成について,本願発明1では軸の第1の部分がベースプレートによって片
持ち支持されるのに対し,引用例の発明では軸の第1の部分がベースプレート(ベ
ース9)によって支持されると共に,その最上端の部分がカバー12によって支持
される,即ち,両端支持される点」(審決謄本7頁相違点1)について,「磁気デ
ィスクの枚数が少ないディスク(ハブ)を駆動する型式のものは,例えば上記刊行
物2又は3にも開示されているように出願前周知のものであって,このように磁気
ディスクの枚数の少ないディスクを駆動する場合には,固定軸も比較的短くでき,
(十分な剛性を保ち,共振等を防止するために)該固定軸を片持ち支持して足りる
ことは,当業者が容易に認識できる」(同8頁第1段落)とした上,「当業者であ
れば,引用例の発明に対してそのハブに装着される磁気ディスクの枚数が少ないも
のを着想することは,その必要に応じて適宜容易になし得ることと認められ,その
際に支持軸6を片持ち支持して足りることは明らかなことというべきである。した
がって,本願発明1の上記相違点1は何ら格別のものでなく,当業者が容易に想到
できた」(同)と判断し,また,②本願発明2と引用例発明との相違点1として認
定した「軸を支持する構成について,本願発明2では軸の第1の部分がベースプレ
ートの一部分の中に直接取付けられて片持ち支持されるのに対し,引用例の発明で
は該軸(支持軸6)の第1の部分がベースプレート(ベース9)の一部分の中に直
接取り付けられて支持されると共にその最上端の部分がカバー12によって支持さ
れる,即ち,両端支持される点」(同11頁相違点1)について,「磁気ディスク
の枚数が少ないディスク(ハブ)を駆動する型式のものは,例えば上記刊行物2又
は3にも開示されているように出願前周知のものであって,このように磁気ディス
クの枚数の少ないディスクを駆動する場合には,固定軸も比較的短くでき,(十分
な剛性を保ち,共振等を防止するために)該固定軸を片持ち支持して足りること
は,当業者が容易に認識できる」(同頁最終段落~12頁第1段落)とした上,
「当業者であれば,引用例の発明に対して例えばそのハブに装着される磁気ディス
クの枚数が少ないものを着想することは,その必要に応じて適宜容易になし得るこ
とと認められ,その際に支持軸6を片持ち支持して足りるこ
とは明らかなことというべきである。したがって,本願発明2の上記相違点1は何
ら格別のものでなく,当業者が容易に想到できた」(同12頁第1段落)と判断し
たが,いずれも誤りである。
(2) 刊行物2,3(甲10,11)は,いずれもインハブ型に属するものであ
り,このようなインハブ型のものにあっては,アンダーハブ型のものが両端支持構
成を採用しているのに対して,片持ち支持構成を採用している点にその特徴があ
る。すなわち,インハブ型とアンダーハブ型とでは,固定子及び固定子を含む駆動
モータの配置が異なり,このため支持軸に作用する各力の程度も両形式間で異なる
ことから,インハブ型のものにあっては,この片持ち支持構成の採用が可能となっ
ているのである。インハブ型のものに属する刊行物2,3に開示されている片持支
持構成をもって,アンダーハブ型のものに属する本願発明1,2の片持支持構成を
理由付けることはできない。
(3) 刊行物2(甲10)に記載された磁気ディスク装置は,そのシャフトの自
由端近くの膨出部にDCモータを設けるものであって,ベースに取り付けられたシ
ャフトの部分は小径の部分であり,DCモータの回転作動時には片持ち支持された
軸において振れ回りを生じさせて,振動を生じさせることが予測できることは明ら
かであるから,この刊行物2に記載された磁気デイスク装置の構成である,シャフ
ト11の径の小さい部分をベース16に固定し,自由端側の膨出部にDCモータ1
3のコイル13a(固定子)を取り付けていることを考慮すると,引用例(甲9)
に記載された磁気ディスク装置において,磁気ディスクの枚数を少なくすることが
考慮された場合に,第1図に示す直径の同じ支持軸とハブとの関係から,軸を片持
ち支持することを想起させることは困難である。
  また,刊行物3(甲11)に開示された磁気ディスク装置によって,磁気
ディスクの枚数が少ないディスクを駆動するものが本件優先日前周知のものである
とするには,根拠が明らかでなく,枚数が少ないものにおいて軸を片持ち支持する
ことが明確に示されていないのであるから,引用例発明において,支持軸を片持ち
支持にすることが容易に認識され,また,容易に想到されるとするのは,その根拠
が明らかでない。
3 取消事由3(本願発明1,2と引用例発明との相違点の看過)
 審決は,本願発明1,2の軸受について規定する「前記軸線Zに対し,前記
第1(軸受1261,1301)と,前記第2(軸受1262,1302)の位置と
の間に第3の位置を占める第3の部分によって間隔132を隔てられている」との
構成について,引用例発明との対比において,相違点として認定しなかった誤りが
ある。
 本願発明1,2における「間隔」は,発明の目的及び構造上の特徴から「軸
受が互いに隣接」(甲2の3頁第4段落)しているのに対し,引用例(甲9)にお
いては「軸受の間隔を長くとる」(2頁右下欄第3段落)ものである。本願発明
1,2は,アンダーハブ型に属するスピンモータであるが,このような型式に属す
るもののうち,更に「高さの低い」スピンモータに関するものであり,しかも,当
該第1,第2の軸受のいずれもが「軸112の第2の部分112b」に設けられてい
るのに対し,引用例のものは,アンダーハブ型に属するものではあるが,高さの高
いスピンモータに関するものであり,しかも,その支持軸について第1,第2の部
分という概念を予定しないものであるので,第1,第2の軸受に相当する軸受5,
特に下部の軸受5が,本願発明2で規定する「軸112の第2の部分112b」に相
当する引用例の支持軸6の部分に設けられているか否かは定かではない。しかしな
がら,各モーメントは軸6の支持部に作用するのであり,引用例における支持部
は,当該軸6の上端及び下端の両端部にあるから,当該軸受も軸6の両端部に設け
られていると理解するのが技術常識であり,その第1図も軸受の配置につき,この
技術常識に従った図示がされている。したがって,本願発明1,2のような高さの
低いスピンモータにおいて,当該第1,第2の軸受が「軸112の第2の部分11
2b」に設けられている場合の「第3の部分によって間隔132」と,引用例におけ
るような高さの高いスピンモータにおいて当該軸6の両端部に設けられている第
1,第2の軸受の場合の「間隔」とは,おのずと差異が認められるものであり,両
者の図面から見ても,明らかにその「間隔」に広狭の違いが示されている。
4 取消事由4(本願発明2と引用例発明との相違点3についての判断の誤り)
(1) 審決は,本願発明2と引用例発明との相違点3として認定した「ハブが備
える構成について,本願発明2では第1の軸受の位置と前記第2の軸受の位置との
間で軸の軸線上の箇所に位置する質量中心を備えるのに対し,引用例の発明ではそ
の構成につき記載がない点」(審決謄本11頁相違点3)について,「引用例の発
明のようにそのハブが第1の軸受と第2の軸受によって支持軸に回転可能に支持さ
れる場合には,ハブの質量中心を第1の軸受の位置と第2の軸受の位置との間で支
持軸の軸線上の箇所に位置するよう構成すること,即ち本願発明2の上記相違点2
(注,「相違点3」の誤記と認める)の構成とすることは,当業者が当然に採るべ
き設計的手段にすぎない」(同13頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2) 本願発明1における上記「間隔132」について,これをより実質的な面
から規定したのが本願発明2における「ハブの質量中心の位置」に関する相違点3
に係る構成である。この「ハブの質量中心」位置は,「第1の軸受の位置と第2の
軸受の位置との間」にあると規定しているのが本願発明2であるのに対し,引用例
では「ハブの質量中心」という概念とは別の各モーメントの作用する軸の支持部を
補強するという概念に基づいて当該支持軸の両端部に当該軸受が設けられており,
本願発明2における「間隔」,すなわち「ハブの質量中心の位置」と引用例におけ
る当該支持軸における軸受の設けられている両端部の間とでは,技術的思想におい
て違いがあり,審決は,両者の技術的思想の違いを看過した誤りがある。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(本願発明1,2と引用例発明との相違点2についての判断の誤
り)について
(1) 審決は,刊行物3,4(甲11,12)について,「上記刊行物3及び4
には,磁気ディスク装置において『第1の部分と,第2の部分と,軸線を有する固
定軸(シャフト)であって,前記軸の前記第1の部分が第1の直径を有し,(少な
くとも前記第1の部分がベースプレートによって支持され)そして,前記軸の前記
第2の部分が前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有するようにした』技術が
開示されているものと認める」(審決謄本5頁下から第2段落)として,単に刊行
物3,4における図面上の構成に係る記載事項を周知技術として認定したにとどま
る。そして,本願発明1,2の目的,すなわち「安定した作動速度を提供するのに
十分なトルクを作り出すディスクドライブ用の高さの低いスピンモータを提供す
る」(甲2の3頁第2段落)との目的(技術的意義)に係る記載が,刊行物3,4
に存在しないからといって,図面上の記載事項までもなくなるわけではないから,
刊行物3,4に本願発明1,2の目的ないし技術的意義に係る記載が存在しないこ
とは,審決の上記認定を否定する根拠とはならない。
  また,審決は,刊行物3の「下方の軸受はより大きな直径を有する軸12の
部分に支持され」ている構成や,刊行物4の「(不安定な)支持軸6だけで当該軸
受(下方の軸受26)を支持」する構成までも周知技術として認定したものではな
い。
(2) 本願発明1,2が「トルクを増大させる」ことができるのは,固定子を軸
の(直径のより大きな)第1の部分に取り付けることにより,ロータと軸との間に
十分なスペースを確保できるためであって,固定軸として異径の軸を採用したこと
自体に基づくものでないことは明らかである。すなわち,本願発明1,2が上記の
ような異径の軸を採用したことの意義が,基本的に「より安定度の大きな作動速度
を得る」点にあることは明らかであって,本願発明1,2は,この課題(意義)を
達成することを前提に,更に,このような課題とは技術的には相反する「トルクを
増大させる」という課題をも併せて達成しようとしたものにほかならない。しか
し,本願発明1,2や引用例発明のようなアンダーハブ型スピンモータにおいて,
より安定度の大きな作動速度を得るために異径の軸,すなわち,ベースプレートで
支持される直径のより大きい第1の部分を有する軸を採用すれば,固定子を収容す
るためのロータと軸との間の空間スペースの大きさ(広さ)が当該軸の第1の部分
の直径の大きさ及び該軸の第1の部分を支持するベース部分の直径の大きさに応じ
て変化し(第1の部分の直径が大きくなれば前記スペースは小さくなる
),また,そのスペースの大きさに応じて固定子が発生すべきトルクの大きさも変
化できる(スペースが大きくなればトルクも大きくできる)ことは,当業者に自明
のことであって,固定子が発生すべきトルクを最大限大きくするために,軸を必要
な強度でベースに支持することを前提に,固定子を,ベースではなく,軸の第1の
部分に直接取り付けることにより,ロータと軸との間に十分なスペースを確保する
程度のことは,当業者がその必要に応じてごく容易に想到し得ることである。
(3) 引用例(甲9)の発明は,ベースプレートに支持される固定軸の第1の部
分が大きなこと(が必要であること)を開示するものでないとしても,第1図に,
その固定子組立体(ステータ8)が固定軸(支持軸6)の直径よりも大きな直径の
ベースプレート(ベース9)の部分に支持されている構成,すなわち,「前記ベー
ス9の支持軸6の軸線方向に平行な円筒外面(に支持される)とともに,同じベー
ス9の支持軸6の軸線方向と実質的に直交する環状平面において該ベース9に支持
されて設けられてかつ前記第1の位置と,第2の位置と,第3の位置とを含む軸線
方向領域の外側の前記支持軸6の軸線に対して相対的な位置に位置決めされたステ
ータ」の構成は明記されている。この構成によれば,当然に固定子組立体そのもの
の直径を大きくして固定子組立体の性能を高くするとともに,ベースプレートを放
熱子として作用させることができるものであり,その点では本願発明1,2とその
奏する作用効果は同じであるといえる。そして,引用例の磁気ディスク装置は,ス
ピンドルの高剛性化を目的として,支持軸を両端支持したものであり,その際,軸
受の間隔を長くして,多数の磁気ディスクに対処しようとしたもので
あると解され,その高さでいえば,高さの高いスピンドルモータの範ちゅうに属す
るものと解される。しかし,そのモータが作り出すトルクの観点からいえば,磁気
ディスク装置のスピンドルモータの設計に関わる当業者は,例えば,そのモータの
固定子組立体を構成するに当たり,その装置全体の高さの高いものであれ低いもの
であれ,安定した作動速度を提供するのに十分なトルクを作り出すようにその構造
を設計することは当然のことというべきであって,引用例の磁気ディスク装置も,
上記のとおり固定子組立体そのものの直径を大きくして固定子組立体の性能を高く
するものであるといえるのであるから,固定軸が第1の部分(直径の大きな部分)
で支持される構成は記載されていないとしても,当然に安定した作動速度を提供す
るのに十分なトルクを作り出すディスクドライブ用の高さの高いスピンドルモータ
を提供するものであるということができる。そして,引用例のような高さの高いス
ピンドルモータにおける固定子組立体と固定軸の支持部の構成は,高さの低いスピ
ンモータの固定子組立体と固定軸の支持部の構成としても十分利用できることは当
業者が容易に理解できるところであり,このような利用を阻害する特
段の事情も格別存在しない。したがって,引用例発明が備える上記のような「固定
子組立体が固定軸の直径よりも大きな直径のベースプレートの部分に支持されてい
る」という構成は,基本的に,それ自体として原告が本願発明1,2の目的とする
「安定した作動速度を提供するのに十分なトルクを作り出すディスクドライブ用の
高さの低いスピンモータを提供する」ための構成要件を形成しているというべきで
ある。
(4) 原告主張に係る本願発明1,2のスピンモータの特徴とする,「低出力で
高さの低い」という事項は,本願発明1,2に係る特許請求の範囲に何ら記載され
ていないから,原告の上記主張は,本願発明1,2の構成に基づかないものであ
り,失当である。もっとも,「低出力で高さの低い」という事項は,本願発明1,
2の「前記第1の部分が・・・片持ち支持され」という構成要件により間接的に表
現されているものと解されるが,引用例(甲9)の発明は,低出力で高さの低いス
ピンモータに関するものではないとしても,引用例のスピンモータを低出力で高さ
の低い,すなわち片持ち支持されるスピンモータの構造とすることは,当業者が容
易に想到できたものというべきである。
2 取消事由2(本願発明1,2と引用例発明との相違点1についての判断の誤
り)について
(1) 審決は,相違点1についての容易想到性の判断を行うに当たり,磁気ディ
スク装置の従来技術として存在する引用例(甲9),刊行物2(甲10)及び刊行
物3(甲11)につき,中心固定軸(支持軸)の支持態様と磁気ディスクの搭載枚
数との関連性から,「片持ち支持」して足りる枚数を「少ない」と表現し,「両端
支持」しなければならない枚数を「多い」と表現しているのであって,このような
観点から刊行物2を見れば,刊行物2は「片持ち支持」して足りる磁気ディスクの
枚数として4枚を実施例において示し,同様に刊行物3は4枚を示しており,他
方,引用例は「両端支持」しなければならない枚数として少なくとも5枚を示して
いると解される。
(2) 原告の主張は,アンダーハブ型のものが両端支持構成を採り,インハブ型
のものが片持ち支持構成を採る具体的理由,根拠を何ら明らかにしていない。刊行
物4(甲12)には,従来技術として,「このような従来の磁気ディスク装置にお
けるディスク回転機構の回転スピンドルは,連結された回転駆動モータ側で支持さ
れた,所謂片端支持方式の構成が多く用いられており」(2頁右上欄第2段落)と
記載されており,この場合の従来の磁気ディスク装置がアンダーハブ型であること
は自明であって,その軸は回転スピンドルであるから固定軸ではないものの,本願
発明1,2や引用例発明が対象とする固定軸を採用するものにおいても,片端支持
方式の構成を採り得ることを十分に示唆するものといえる。さらに,引用例(甲
9)には,その第3図にインハブ型のものにおいて両端支持の構成を採るものが明
確に開示されている。中心固定軸がどちらの支持態様を採るかは,ある特定部材の
配置態様の採用指針として,その特定部材の配置の仕方によって奏する機能,効
果,他の構成部材との関連性,機械装置が達成すべき課題等を考慮すべきことは当
然で,その上で,最適な機械装置を得ようとするのが当業者の通常の設計手法とい
うことができる。この設計手法は磁気ディスク装置において,中心固定軸(支持
軸)の支持の仕方として前示の「片持ち支持」,「両端支持」のいずれを採用すべき
かについても変わるところはなく,そして,中心固定軸(支持軸)は,磁気ディス
クを搭載したハブの高速回転を支持する機能を果たすものであるから,ハブに搭載
する磁気ディスクの枚数も中心固定軸(支持軸)の「片持ち」,「両端持ち」のいず
れを採用するかの採用指針となることは明らかである。
3 取消事由3(本願発明1,2と引用例発明との相違点の看過)について
 原告が主張する「間隔」について,「軸受が互いに隣接している」という構
成は,何ら本願発明1,2に係る特許請求の範囲には記載されていない。また,
「隣接している」とはどの程度の長さの間隔を意味するのかも不明確である。した
がって,原告の取消事由3の主張は,本願発明1,2の構成に基づかないものであ
り,失当である。
4 取消事由4(本願発明2と引用例発明との相違点3についての判断の誤り)
について
 引用例(甲9)及び刊行物4(甲12)の磁気ディスク装置について,これ
らのものがその中心固定軸を両端支持したものであるとしても,その両端支持した
こと(手段)によりハブの回転による振動の発生を生じさせないことと,ハブ組立
体の質量中心を第1と第2の軸受との間に芯出しすることによりハブの回転による
振動の発生を生じさせないこととは,ハブの回転による振動を生じさせないための
相互に独立した二つの手段である。すなわち,両端支持によるハブの回転による振
動の抑制は,要するに,振動の発生そのものではなく,発生した振動を強制的に拘
束することに基づくものである一方,ハブ組立体の質量中心の位置の設定による振
動の抑制は,振動の発生そのものを抑制することに基づくものであって,両者の振
動抑制の作動原理は全く異なる。したがって,引用例及び刊行物4の磁気ディスク
装置において,その中心固定軸は両端支持されているが,そのように両端支持され
ていても,仮に,ハブ組立体の質量中心が適切に第1と第2の軸受との間に芯出し
して設けられていなければ(第1の軸受の位置と前記第2の軸受の位置との間で軸
の軸線上の箇所に位置する質量中心を備えるものでなければ),片持ち支持の場合
よりもその振動は抑えられるとしても,そのような不適切なハブ組立体の質量中心
の位置の設定に基づくハブの回転による振動が必然的に発生するものと解される。
また,刊行物2(甲10)及び刊行物3(甲11)に記載された磁気ディスク装置
は,その二つの軸受が駆動モータを間に位置させるように設けられていて,確か
に,原告の主張するとおり駆動モータも考慮したハブ組立体の質量中心の設定が必
要であるが,駆動モータ自身の質量中心が第1と第2の軸受の間に設定されている
ことは自明である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本願発明1,2と引用例発明との相違点2についての判断の誤
り)について
(1) 原告は,刊行物3,4(甲11,12)には,本願発明1,2の「第1の
部分」,「第2の部分」という概念自体が存在せず,また,いずれも異径の軸を採
用しているが,その目的は,審決が上記に認定した「より安定度の大きい作動速
度」を得るためではないと主張する。しかしながら,刊行物3の第2図及び刊行物
4の第1図によれば,それぞれに記載されたモータの軸は第1の部分と第2の部分
を有し,第1の部分はベースプレートに取り付けられ,第2の部分の直径を第1の
部分のそれよりも「小さい第2の直径」を有するように構成されていることが認め
られる。そして,昭和50年2月25日共立出版初版10刷発行,津村利光外著
「材料力学-応用力学講座2-」33頁~36頁(乙1)及び昭和54年1月30
日産業図書第7刷発行,中沢一外著「(最新機械工学講座)材料力学」45頁~4
9頁,77頁~85頁(乙2)によれば,ねじりモーメントや曲げモーメントに対
する支持部の剛性は,その支持部における固定軸の直径が大きいほど大きくなるこ
とは,材料力学上の技術常識であることが認められるから,刊行物3,4に記載さ
れた異径の軸は,「より安定度の大きい作動速度」を得るものであるとい
うことができ,原告の上記主張は理由がない。
  原告は,また,刊行物3,4(甲11,12)は,いずれも「より安定度
の大きい作動速度」を得ようとするために異径の軸を開示しているものではないの
であるから,そもそも「引用例の駆動モータに適用」しようとする動機付け自体が
存在しないと主張するが,刊行物3,4は,「より安定度の大きい作動速度」を得
る異径の軸を開示していることは上記のとおりであるから,採用できない。
(2) 原告は,トルクを増大させることと異径の軸を採用したこととは相互の相
関関係があるのに,審決は,このような相関関係を無視して,単に「より安定度の
大きい作動速度を得」ることだけを異径の軸の構成を採用した理由としているが,
技術的な説得力を欠くと主張する。しかしながら,引用例発明は,アンダーハブ型
であり,トルクを増大させる構成であって,固定子(ステータ8)は,支持軸に支
持されていないが,支持軸6下部のベース9部分に支持されていることは明らかで
あり,また,固定子(コイル13a)を支持軸(シャフト11)の膨出部に支持す
ることも,刊行物2(甲10)の第1図に記載されているように,インハブ型では
常用されていることであるから,固定子を固定軸で支持することは,当業者が容易
に想到し得るところである。また,これにより,より安定度の大きい作動速度を得
ることに支障があるとは認められない。そうすると,引用例発明で,片持ち支持構
造とするために,支持軸6の剛性を高め,より安定度の大きい作動速度を得ること
の必要が生じ,このため支持軸の下部の外径を大きくするに際し,トルクの増大を
損なうことなく固定子(ステータ8)を支持軸6下部のベース9部分と外径を大き
くした支持軸6で支持することは,当業者が容易に想到できるということができ,
また,審決がトルクを増大させることと異径の軸を採用したこととは相互の相関関
係があることを無視したものということはできないから,原告の上記主張も,採用
することができない。
(3) 原告は,本願発明1に係る相違点2の「固定子組立体はベースプレートに
支持されるとともに,前記軸の第1の部分に支持されて設けられる・・・点」(審
決謄本7頁相違点2)及び本願発明2に係る相違点2の「固定子はその一部分が前
記軸の第1の部分と同心であるようにベースプレートに支持されるとともに,前記
軸の第1の部分に支持されて設けられる・・・点」(同11頁相違点2)について
は,引用例及びいずれの刊行物にも記載されていないと主張し,確かに,「固定子
組立体はベースプレートに支持されるとともに,前記軸の第1の部分に支持されて
設けられる点」が記載されている刊行物は,審決で示されていない。しかしなが
ら,引用例発明で,支持軸6の剛性を高め,より安定度の大きい作動速度を得るこ
とのため支持軸の下部の外径を大きくするに際し,トルクの増大を損なうことなく
固定子(ステータ8)を支持軸6下部のベース9部分と外径を大きくした支持軸6
で支持することは,当業者が容易に想到し得ることは上記のとおりであるから,原
告の主張する刊行物が存在しない点は,上記の判断を何ら左右しない。
(4) 原告は,本願発明1,2は,顕著な作用効果を奏すると主張する。しかし
ながら,原告主張に係る効果のうち,①巻数が同じインハブ型モータよりも大きな
トルクを発生できる点,②同じ寸法の巻数を有し,かつ,より小さな電流を使用す
る同じ型式の磁石を有するインハブ型モータと同じトルクを作り出すことができる
点は,いずれも,引用例発明がアンダーハブ型であることから,当業者が当然予測
し得る効果である。また,③電流の減少は,モータによって作り出される熱を減少
させ,引用例におけるような「通気口11」を必要としない点,④モータ8,9
を,普通の作動電圧の12ボルトではなく,例えば5ボルトの低電圧で作動させる
ことができる点は,巻線の巻数,使用電流及び作動電圧については,本願発明1,
2に係る特許請求の範囲に,何ら記載がないから,特許請求の範囲の記載に基づか
ない主張にすぎない。そうすると,原告の主張する本願発明1,2の効果は,特許
請求の範囲の記載に基づかないか,又は当業者が予測可能な効果にすぎないという
べきである。
(5) 以上検討したところによれば,審決のした相違点2の判断に誤りはなく,
原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(本願発明1,2と引用例発明との相違点1についての判断の誤
り)について
(1) 原告は,刊行物2,3(甲10,11)は,いずれもインハブ型に属する
ものであり,このようなインハブ型のものに属する刊行物2,3に開示されている
片持支持構成をもって,アンダーハブ型のものに属する本願発明1,2の片持支持
構成を理由付けることはできないと主張する。しかしながら,引用例(甲9)の第
3図に,インハブ型であって,その磁気ディスクの枚数は5枚以上で,両端支持構
成を採用した磁気ディスク装置が従来例として記載されており,これと刊行物2,
3に記載されたインハブ型は,磁気ディスクの枚数が少ない,すなわち軸の長さが
短いことにより,片持ち支持構成のものは,インハブ型でも,磁気ディスクの枚数
が少ないものに採用されていると認めることができる。そして,一般に,インハブ
型とアンダーハブ型とでは,固定子及び固定子を含む駆動モータの配置が異なり,
このため支持軸に作用する各力の程度も両形式間で異なるが,アンダーハブ型の方
が,ハブに囲まれる軸の部分に固定子を設けない構造であるため,軸にかかる力が
より小さくなる構造ということができる。そうすると,当業者は,アンダーハブ型
であっても,インハブ型と同様に,磁気ディスクの枚数が少ない,す
なわち軸の長さが短い場合,片持ち支持構成を採ることは,容易に想到することが
できるというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,刊行物2(甲10)に記載された磁気ディスク装置は,そのシャ
フトの自由端近くの膨出部にDCモータを設けるものであって,ベースに取り付け
られたシャフトの部分は小径の部分であり,DCモータの回転作動時には片持ち支
持された軸において振れ回りを生じさせて,振動を生じさせることが予測できるか
ら,軸を片持ち支持することを想起させることは困難であると主張する。しかしな
がら,刊行物2の第1図によれば,刊行物2に記載された磁気ディスク装置のシャ
フトの膨出部は,コイル13aを取り付けるためにシャフトに比べ大径としたのも
のであると認められるが,ベースに取り付けられたシャフトの部分は小径としたも
のであるとは認められず,また,一般に,シャフトの径は,十分剛性に配慮して設
計するのが技術常識であるから,当業者が刊行物2に記載されたDCモータを見て
も,回転作動時には片持ち支持された軸において振れ回りを生じさせて振動を生じ
させることを予測するということはできず,原告の上記主張は採用できない。
  さらに,原告は,刊行物3(甲11)に開示された磁気ディスク装置によ
って,磁気ディスクの枚数が少ないディスクを駆動するものが本件優先日前周知の
ものであるとするには,根拠が明らかでなく,枚数が少ないものにおいて軸を片持
ち支持することが明確に示されていないと主張する。しかしながら,刊行物3の第
1図には,磁気ディスクの枚数が4枚と,引用例(甲9)のディスク枚数5枚以上
に比べて,少なく,シャフト(軸)に片持ち支持するものが記載されており,刊行
物3には,磁気ディスクの枚数が少ないものにおいて軸を片持ち支持することが開
示されていると認めることができるから,原告の上記主張も採用できない。
(3) 以上検討したところによれば,審決のした相違点1の判断に誤りはなく,
原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(本願発明1,2と引用例発明との相違点の看過)について
 原告は,本願発明1,2における「間隔」は,発明の目的及び構造上の特徴
から「軸受が互いに隣接」(甲2の3頁第4段落)しているのに対し,引用例(甲
9)においては「軸受の間隔を長くとる」(2頁右下欄第3段落)ものであり,審
決は,本願発明1,2の軸受について規定する「前記軸線Zに対し,前記第1(軸
受1261,1301)と,前記第2(軸受1262,1302)の位置との間に第
3の位置を占める第3の部分によって間隔132を隔てられている」との構成につ
いて,引用例発明との対比において,相違点として認定しなかった誤りがあると主
張する。
 本願発明1,2の軸受について検討すると,本願発明1に係る請求項1にお
いて,「前記軸の前記第2の部分の第1の端部および第2の端部において前記軸線
に相対するそれぞれ第1および第2の位置に設けられた第1および第2の軸受であ
って,前記第1の軸受および第2の軸受は,前記軸線に対して前記第1の位置と第
2の位置との間に第3の位置を占める第3の部分によって間隔を隔てられている第
1および第2の軸受」と記載され,その「間隔」の語は,「物と物との距離。へだ
たり」(広辞苑第5版)を意味するものとして一義的に明確であって,これを理解
するに当たり,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も認められないか
ら,本件明細書の上記各記載に基づき,高さの低いスピンモータにおける間隔であ
ると限定的に解釈すべき理由はない。
 したがって,原告の取消事由3の主張は,本願発明1,2の構成に基づかな
いものであり,失当である。
4 取消事由4(本願発明2と引用例発明との相違点3についての判断の誤り)
について
(1) 原告は,本願発明2における「間隔」,すなわち「ハブの質量中心の位
置」と引用例における当該支持軸における軸受の設けられている両端部の間とで
は,技術的思想において違いがあり,審決は,両者の技術的思想の違いを看過した
誤りがあると主張する。
(2) 本願発明2の「ハブの質量中心の位置」は,ハブの構成として,「前記第
1の軸受および第2の軸受によって前記軸に回転可能に支持されたハブであって,
前記第1の軸受の位置と前記第2の軸受の位置との間で前記軸の前記軸線上の箇所
に位置する質量中心と,第2の直径を有する円筒形の支持接触面と,前記軸の前記
軸線と実質的に直交する,前記ディスクを支持するためのディスク支持面とを備え
たハブ」と記載されているが,引用例(甲9)には,「ハブの質量中心の位置」に
ついて,記載がないものの,その第1図には,回転軸(対称軸)に対し回転対称
で,上下略対称(対称面に対し対称)な形状をしており,1対の軸受が上下端に位
置するハブの構成が図示されており,一般に,ハブは均質の材料でできているもの
であり,質量中心は対称軸と対称面の交点にあるものと認められるから,そのハブ
の質量中心の位置は,ロータの質量を加味しても,1対の軸受の位置の間で軸線上
の位置にあるものと認められる。また,両端支持構造をしている引用例発明と同様
にアンダーハブ型をしている刊行物4(甲12)記載の磁気ディスク装置のハブの
質量中心の位置も,その第1図に図示された構成から,1対の軸受の位置の間で軸
線上の位置にあるものと認められる。片持ち構造を採用している刊行物2(甲1
0)及び刊行物3(甲11)記載の磁気ディスク装置のハブの質量中心の位置は,
前者の第1図,後者の第2図に図示された構成から,駆動モータを加味しても,1
対の軸受の位置の間で軸線上の位置にあるものと認められる。このように,ハブの
質量中心の位置が,1対の軸受の位置の間で軸線上の位置にある構成とするのが一
般的であり,このハブの質量中心の位置により,ハブの回転による振動の発生を生
じさせず,安定した回転をさせる構造となっていることは明らかであるから,引用
例発明で,固定軸の支持構造を両端支持構造から,片持ち支持構造に代える際に,
ハブの質量中心の位置が,1対の軸受の位置の間で軸線上の位置にあるように構成
することは,当業者が当然に採用し得る設計手段にすぎないことが明らかであり,
原告の上記主張は採用することができない。
(3) したがって,審決のした相違点3の判断を誤りということはできず,原告
の取消事由4の主張も理由がない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官  篠  原  勝  美
    裁判官  岡  本     岳
    裁判官  早  田  尚  貴

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