平成14(行ケ)606行政訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成15年11月13日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
刊行物56回 特許権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第606号 特許取消決定取消請求事件
平成15年10月30日口頭弁論終結
判 決
原 告 東北リコー株式会社
訴訟代理人弁理士 樺 山 亨
同 本 多 章 悟
被 告 特許庁長官 今井康夫
指定代理人 番 場 得 造
同 佐 田 洋一郎
同 小 澤 和 英
同 大 野 克 人
同 涌 井 幸 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が異議2002-70120号事件について平成14年10月17
日にした決定を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「感熱孔板印刷装置」とする特許第3188599号
の特許(平成6年11月11日特許出願(以下「本件出願」という。),平成13
年5月11日設定登録,以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は6であ
る。)の特許権者である。
本件特許に対し,請求項1ないし6のすべてにつき,特許異議の申立てがあ
り,特許庁は,この申立てを,異議2002-70120号事件として審理した。
原告は,この審理の過程で,平成14年7月23日付けで,本件出願に係る願書に
添付された明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。本件
訂正後の請求項の数は4である。)。特許庁は,審理の結果,平成14年10月1
7日,「訂正を認める。特許第3188599号の請求項1乃至4に係る特許を取
り消す。」との決定をし,同年11月5日にその謄本を原告に送達した。
2 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(以下,請求項1ないし4記載の発
明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」などといい,本件発明1ないし本件
発明4をまとめて「本件各発明」という。)
【請求項1】少なくとも熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱性孔版マスタにグ
レーズ層を備えたサーマルヘッドを接触させ,画像信号に応じて上記サーマルヘッ
ドの微小な発熱体部を発熱させて上記熱可塑性樹脂フィルムを位置選択的に溶融穿
孔して上記画像信号に応じた穿孔パターンを得,この感熱性孔版マスタを印刷ドラ
ムの外周面に巻装し,上記印刷ドラムの内周側からインキを供給し,上記穿孔パタ
ーンを介して滲み出たインキにより上記画像信号に応じたインキ画像を印刷用紙上
に形成する感熱孔版印刷装置において,
上記グレーズ層の厚さが,60μm以下であり,上記発熱体部における主走
査方向の寸法が,主走査方向における相隣る上記発熱体部間ピッチの30~95%
の範囲にあり,かつ,上記発熱体部における副走査方向の寸法が,相隣る上記発熱
体部間ピッチの30~95%の範囲にあり,印字周期が,2.5ms/line以
下であり,上記サーマルヘッドの温度を検出するサーマルヘッド温度検出手段と,
上記サーマルヘッドの個々の発熱体部に供給する穿孔用エネルギーを,上記
サーマルヘッド温度検出手段で検出されたサーマルヘッド温度に応じて所定のエネ
ルギーに調整する穿孔エネルギー調整手段とを有し,溶融穿孔された上記感熱性孔
版マスタの各穿孔が,互いに独立していることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項2】少なくとも熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱性孔版マスタにグ
レーズ層を備えたサーマルヘッドを接触させ,画像信号に応じて上記サーマルヘッ
ドの微小な発熱体部を発熱させて上記熱可塑性樹脂フィルムを位置選択的に溶融穿
孔して上記画像信号に応じた穿孔パターンを得,この感熱性孔版マスタを印刷ドラ
ムの外周面に巻装し,上記印刷ドラムの内周側からインキを供給し,上記穿孔パタ
ーンを介して滲み出たインキにより上記画像信号に応じたインキ画像を印刷用紙上
に形成する感熱孔版印刷装置において,
上記グレーズ層の厚さが,60μm以下であり,上記発熱体部における主走
査方向の寸法が,主走査方向における相隣る上記発熱体部間ピッチの30~95%
の範囲にあり,かつ,上記発熱体部における副走査方向の寸法が,相隣る上記発熱
体部間ピッチの30~95%の範囲にあり,印字周期が,2.5ms/line以
下であり,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を熱履歴制御するための熱履歴制
御手段と,
上記熱履歴制御手段により上記サーマルヘッドの個々の発熱体部が熱履歴制
御を伴って駆動されるとき,熱履歴制御用の少なくとも第2パルスが,第1パルス
の40~95%の印加エネルギーを持って上記サーマルヘッドの個々の発熱体部に
供給されるように,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を制御するエネルギー調
整手段とを有し,溶融穿孔された上記感熱性孔版マスタの各穿孔が,互いに独立し
ていることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項3】請求項1記載の感熱孔版印刷装置において,
上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を熱履歴制御するための熱履歴制御手
段と,
上記熱履歴制御手段により上記サーマルヘッドの個々の発熱体部が熱履歴制
御を伴って駆動されるとき,熱履歴制御用の少なくとも第2パルスが,第1パルス
の40~95%の印加エネルギーを持って上記サーマルヘッドの個々の発熱体部に
供給されるように,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を制御するエネルギー調
整手段と,を有することを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項4】請求項1,2又は3記載の感熱孔版印刷装置において,
上記感熱性孔版マスタが,実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみから成ること
を特徴とする感熱孔版印刷装置。
3 決定の理由
別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件各発明は,いずれも,特
開平5-309932号公報(本訴甲第3号証,審判甲第1号証。以下,審判と同
様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),
特開平6-191003号公報(本訴甲第4号証,審判甲第2号証。以下,審判と
同様に「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」とい
う。),特開昭63-118270号公報(本訴甲第5号証,審判甲第3号証。以
下,審判と同様に「刊行物3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」
という。),「電子通信学会論文誌,Vol.J65-C,No.10」1982
年10月発行,第733頁から第740頁(本訴甲第6号証,審判甲第4号証。以
下,審判と同様に「刊行物4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」
という。),特開平6-115042号公報(本訴甲第7号証,審判甲第5号証。
以下,審判と同様に「刊行物5」という。)に記載された発明,及び,特開昭62
-82053号公報(本訴甲第8号証,審判甲第6号証。以下,審判と同様に「刊
行物6」という。)に記載された発明(以下「引用発明6」という。)に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
に該当する,と判断した。
決定が,上記結論を導くに当たり,本件各発明と引用発明1との一致点及び
相違点として認定したところは,次のとおりである。
【本件発明1と引用発明1との一致点,相違点】
(一致点)
「少なくとも熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱性孔版マスタにサーマルヘッ
ドを接触させ,画像信号に応じて上記サーマルヘッドの微小な発熱体部を発熱させ
て上記熱可塑性樹脂フィルムを位置選択的に溶融穿孔して上記画像信号に応じた穿
孔パターンを得,この感熱性孔版マスタを印刷ドラムの外周面に巻装し,上記印刷
ドラムの内周側からインキを供給し,上記穿孔パターンを介して滲み出たインキに
より上記画像信号に応じたインキ画像を印刷用紙上に形成する感熱孔版印刷装置」
(相違点)
A.サーマルヘッドが,前者ではグレーズ層を備えると共にそのグレーズ層の
厚さが60μm以下であるとしているのに対して,後者では定かでない点(以下
「相違点A」という。),
B.発熱体部における主走査方向と副走査方向の寸法について,前者では,
「上記発熱体部における主走査方向の寸法が,主走査方向における相隣る上記発熱
体部間ピッチの30~95%の範囲にあり,かつ,上記発熱体部における副走査方
向の寸法が,相隣る上記発熱体部間ピッチの30~95%の範囲にあり」としてい
るのに対して,後者では定かでない点(以下「相違点B」という。),
C.印字周期が,前者では2.5ms/line以下でありとしているのに対
して,後者では定かでない点(以下「相違点C」という。),
D1.前者では,サーマルヘッドの温度を検出するサーマルヘッド温度検出手
段と,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部に供給する穿孔用エネルギーを,上記
サーマルヘッド温度検出手段で検出されたサーマルヘッド温度に応じて所定のエネ
ルギーに調整する穿孔エネルギー調整手段とを有しているのに対して,後者では有
していない点(以下「相違点D1」という。),
E.溶融穿孔された感熱性孔版マスタの穿孔態様について,前者では,互いに
独立しているのに対して後者では定かでない点(以下「相違点E」という。)。
【本件発明2と引用発明1との一致点,相違点】
(一致点)
本件発明1と引用発明1との一致点と同じである。
(相違点)
A.上記相違点Aと同じである。
B.上記相違点Bと同じである。
C.上記相違点Cと同じである。
D2.前者では,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を熱履歴制御するため
の熱履歴制御手段と,上記熱履歴制御手段により上記サーマルヘッドの個々の発熱
体部が熱履歴制御を伴って駆動されるとき,熱履歴制御用の少なくとも第2パルス
が,第1パルスの40~95%の印加エネルギーを持って上記サーマルヘッドの個
々の発熱体部に供給されるように,上記サーマルヘッドの個々の発熱体部を制御す
るエネルギー調整手段とを有しているとしているのに対して,後者では有していな
い点(以下「相違点D2」という。),
E.上記相違点Eと同じである。
【本件発明3と引用発明1との一致点,相違点】
(一致点)
本件発明1と引用発明1との一致点と同じである。
(相違点)
A.上記相違点Aと同じである。
B.上記相違点Bと同じである。
C.上記相違点Cと同じである。
D1.上記相違点D1と同じである。
D2.上記相違点D2と同じである。
E.上記相違点Eと同じである。
【本件発明4と引用発明1との一致点,相違点】
本件発明4と引用発明1との一致点,相違点は,感熱性孔版マスタが,実質的
に熱可塑性樹脂フィルムのみから成ることが一致点に加わる点を除き,本件発明1
ないし3と引用発明1との一致点,相違点と同じである。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件各発明と引用発明1との相違点A及びC並びに相違点Eについ
ての判断を誤り(すべての請求項に共通する取消事由1,2),本件発明1,3及
び4と引用発明1との相違点D1についての判断を誤り(請求項1,3及び4に共
通する取消事由),本件発明2ないし4と引用発明1との相違点D2についての判
断を誤り(請求項2ないし4に共通する取消事由),並びに,引用発明1ないし引
用発明6の組み合わせについての判断を誤った(すべての請求項に共通する取消事
由3)ものであり,これらの誤りが,それぞれ,上記各請求項についての決定の結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから,すべての請求項につき,違法として取
り消されるべきである。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(相違点A及びCについての判断の誤
り)
(1) 感熱孔版印刷装置における溶融穿孔と,感熱発色あるいは感熱転写による
プリンター等(以下,単に「感熱プリンター」という。)における感熱発色あるい
は感熱転写とは,サーマルヘッドを用いる点では共通するものの,物理的あるいは
化学的には全く異なる現象である。また,感熱プリンターにおけるサーマルヘッド
の発熱体部の副走査方向の長さは,主走査方向における発熱体部ピッチよりも大き
いため,感熱プリンターにおけるサーマルヘッドを,感熱孔版印刷装置に転用する
ことはできない。したがって,たとい,感熱プリンターと感熱孔版印刷装置とにお
いて,サーマルヘッドの各発熱素子が適用される部分(画素)の大きさに格別の差
異がないとしても,当業者が,感熱プリンターにおけるサーマルヘッドのグレーズ
層の厚さ(相違点Aに係る構成)と記録周期(相違点Cに係る構成)とを,感熱孔
版印刷装置に採用することを容易に想到することはできない。
(2) 引用発明3におけるグレーズ層の厚さは,尾曳きや滲みのない発色印字を
得るために10~50μmと定められており,また,引用発明6におけるグレーズ
層の厚さは,滲みの生じない発色による記録ドットを得るために10~20μmと
定められたものである。これに対し,本件各発明におけるグレーズ層の厚さは,サ
ーマルヘッドの発熱体部の寸法をあまり小さくすることなく,微細で独立した溶融
穿孔を得るために,60μm以下と定められたものであって,グレーズ層の厚さを
設定する目的が引用発明3及び6におけるのとは異なるのである。
(3) 決定は,サーマルヘッドの適用分野,及び,グレーズ層の厚さを設定する
目的を何ら考慮することなく,感熱孔版印刷装置において,高速化と印加エネルギ
ーの最適化を図る際に,刊行物3及び刊行物6に記載された各感熱プリンターにお
けるサーマルヘッドの記録周期とグレーズ層の厚さを採用することに格別阻害要因
はなく,当業者が容易に想起できる,と誤って判断したものである。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(相違点Eについての判断の誤り)
(1) 刊行物2には,感熱孔板整版方法に関し,互いに独立した溶融穿孔を得る
ことについて記載されているものの,この互いに独立した溶融穿孔が,本件各発明
における「厚さが60μm以下」のグレーズ層を有するサーマルヘッドで得られる
ものであるかどうかについては何も記載されていない。
(2) 引用発明3と引用発明6は,いずれも感熱プリンターのサーマルヘッドに
関する発明であるから,これと感熱孔板印刷製版方法に関する引用発明2とを組み
合わせても,感熱プリンターのサーマルヘッドとその制御技術に関する構成が成立
するだけであって,感熱性孔版マスタの製版用サーマルヘッドのグレーズ層と穿孔
態様との組み合わせの構成は成立しない。
3 請求項1,3及び4に共通する取消事由(相違点D1についての判断の誤
り)
引用発明4は,ファクシミリに関する技術であり,刊行物4に記載されたサ
ーミスタと記録パルス幅調整手段を,感熱孔版印刷装置における互いに独立する溶
融穿孔の形成手段に採用することは,当業者にとって容易ではない。
4 請求項2ないし4に共通する取消事由(相違点D2についての判断の誤り)
引用発明4は,ファクシミリに関する技術であり,引用発明4の熱履歴制御
手段を,感熱孔版印刷装置における互いに独立する溶融穿孔の形成手段に採用する
ことは,当業者にとって容易なことではない。
5 すべての請求項に共通する取消事由3(引用発明1ないし引用発明6の組み
合わせについての判断の誤り)
(1) 引用発明3,引用発明4及び引用発明6は,感熱プリンターの感熱発色に
関するものであるから,引用発明1に,引用発明3,引用発明4及び引用発明6の
サーマルヘッドの各構成を単に組み合わせただけでは,感熱性孔版マスタに溶融穿
孔を形成するためのサーマルヘッドの構成を特定した感熱孔版印刷装置である本件
各発明には想到し得ないし,本件各発明の作用効果に思い至ることもない。
決定の判断は,感熱性孔版マスタを用いる感熱孔版印刷装置と,記録紙を
発色させる感熱プリンターとの技術上の基本的な違いを看過し,溶融穿孔について
の作用効果と感熱記録についての作用効果とを混同するものである。
(2) 本件各発明の各請求項においては,熱可塑性樹脂フィルムの穿孔作用に影
響する感熱性孔版マスタ自体の材料特性等を特定していない。しかし,一つの感熱
孔版印刷装置において,性質の異なる多種類の感熱性孔版マスタを使用すること
は,通常考えられないことである。特定の感熱孔版印刷装置に使用される所定の感
熱性孔版マスタに対して好ましい構造を有するサーマルヘッドを用い,最適の制御
を実行すれば,異なった穿孔態様を生じることはないのであり,本件各発明の所期
の目的及び作用効果が達成されるのである。
第4 被告の反論の骨子
決定の認定判断は,いずれも正当である。決定を取り消すべき理由はない。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(相違点A及びCについての判断の誤
り)について
(1) 感熱プリンターでも感熱性孔版マスタの製版でも,サーマルヘッドの発熱
素子により発生された熱をシート状の物(感熱プリンターの場合は感熱発色紙,感
熱転写インクシート)に印加して熱により該シート状の物に変化を起こさせること
により文字,画像等の情報を表現する点で作動原理は共通のものである。シート状
の物の性質等により,サーマルヘッドの具体的な設計に際して,サーマルヘッドの
各部の寸法あるいはサーマルヘッドの制御に関して所定の調整を行うことは当然と
しても,両者は,基本的に作動原理を同じくするものであり,サーマルヘッドの技
術を感熱プリンターと感熱性孔版マスタの製版の間で相互に転用することを阻害す
る要因はない。
(2) 感熱発色又は感熱転写に使用される感熱プリンターやファクシミリ等にお
けるサーマルヘッド構造のグレーズ層の厚さ(相違点Aに係る技術)あるいはサー
マルヘッドの制御技術に係る印字周期(相違点Cに係る技術)は,感熱孔版印刷装
置の感熱孔版を溶融穿孔させるためのサーマルヘッドの構造あるいはサーマルヘッ
ドの制御技術とは,いずれも,発熱体部の熱の発生,熱の蓄熱や熱の応答性に係わ
るものである点で共通するものである(例えば,グレーズ層の厚さは,印字速度,
電力効率あるいは熱の応答性との関連において,発熱体部の蓄熱量を決めるもので
ある。)。したがって,引用発明1の感熱孔版印刷装置において,感熱性孔版マス
タにより良い穿孔をするために,当業者が,印字精度(画像を構成するドット等が
決められた位置に決められた大きさになること)や印字の高速化を図るために用い
られているサーマルヘッドとその制御技術である引用発明3あるいは引用発明6を
採用しようとすることは,当業者が容易に想起できることである。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(相違点Eについての判断の誤り)に
ついて
原告は,刊行物2記載の互いに独立した溶融穿孔は,厚さ60μmのグレー
ズ層を有するサーマルヘッドにより得られるものではない,と主張する。しかし,
グレーズ層の厚さを60μm以下にすることが,当業者に容易に想到できることで
あることは,決定で判断したとおりであり,グレーズ層の厚さを60μm以下にす
ること(相違点A)と溶融穿孔された感熱性孔版マスタの穿孔態様を互いに独立し
たものとすること(相違点E)との組み合わせは,当業者が適宜なし得ることにす
ぎない。
3 請求項1,3及び4に共通する取消事由(相違点D1についての判断の誤
り)について
感熱発色又は感熱転写に使用されるプリンタやファクシミリ等におけるサー
マルヘッドの温度に応じた印加エネルギーの調整のための技術(相違点Dlに係る
技術)と,感熱孔版印刷装置の感熱孔版を溶融穿孔させるためのサーマルヘッドの
制御技術とは,いずれも,発熱体部の熱の発生,熱の蓄熱や熱の応答性にかかわる
ものである点で共通するものであるから,引用発明1の感熱孔版印刷装置におい
て,感熱性孔版マスタにより良い穿孔をするために,引用発明4のサーマルヘッド
の制御技術(サーマルヘッドの温度に応じ印加エネルギーを調整する技術)を採用
しようとすることは,当業者が容易に想起できることである。
4 請求項2ないし4に共通する取消事由(相違点D2についての判断の誤り)
について
感熱発色又は感熱転写に使用される感熱プリンターやファクシミリ等におけ
るサーマルヘッドの熱履歴制御技術(相違点D2に係る技術)は,感熱孔版印刷装
置の感熱孔版を溶融穿孔させるためのサーマルヘッドの制御技術とは,いずれも,
発熱体部の熱の発生,熱の蓄熱や熱の応答性にかかわるものである点で共通するも
のであるから,引用発明1の感熱孔版印刷装置において,感熱性孔版マスタにより
良い穿孔をするために,引用発明4のサーマルヘッドの熱履歴制御技術を採用しよ
うとすることは,当業者が容易に想起できることである。
5 すべての請求項に共通する取消事由3(引用発明1ないし引用発明6の組み
合わせについての判断の誤り)について
(1) サーマルヘッドの技術を感熱プリンターと感熱性孔版マスタの製版の間で
相互に転用することを,阻害する要因はない。したがって,引用発明1の感熱孔版
印刷装置において,感熱性孔版マスタにより良い穿孔をするために,当業者が,印
字精度や印字の高速化を図るために用いられているサーマルヘッドとその制御技術
である引用発明3,引用発明4及び引用発明6を採用しようとすることは,当業者
が容易に想起できることである。
(2) 本件各発明は,プリンタやファクシミリ等の分野,あるいは,感熱孔版印
刷装置の分野で知られたサーマルヘッドに関する発明を単に寄せ集めた発明にとど
まるものであって,それらを有機的に結合したものとも巧みに組み合わせたものと
もいえず,それらを組み合わせることによってそれぞれの技術要素がもつ作用効果
の総和以上の作用効果が奏されるわけでもない。
第5 当裁判所の判断
1 すべての請求項に共通する取消事由1(相違点A及びCについての判断の誤
り)について
決定は,相違点A及びCについて,次のとおり判断した。
「感熱孔版製版方法(装置)において,感熱発色あるいは感熱転写により記
録を行うプリンターで使用されるグレーズ層を備えたサーマルヘッドを,そのまま
用いないまでも,印加エネルギー等を調節させることなどすることにより穿孔画像
の独立性を確保するようにして,流用することは,例えば,刊行物2に記載されて
いる(記載事項イ.a.c.参照)ように周知である。
また,プリンターにおいて,記録周期を2ms/line以下で高速の
記録を行い,その際,サーマルヘッドグレーズ層の厚さを,10~20μmとし
て,電力効率や熱応答性を調節して画質良好にすることが刊行物6に記載され,ま
た,同じく,プリンターにおいてサーマルヘッドのグレーズ層の厚さを10~50
μmとして画品質劣化を防止して高速記録を行うことが刊行物3に記載されてい
る。
してみると,後者の感熱孔版印刷装置と刊行物6あるいは刊行物3記載
のプリンターでは,そのサーマルヘッドの働きが溶融穿孔と感熱発色や感熱転写と
違いがあったとしても,サーマルヘッドの各発熱素子が適用される部分(画素)の
大きさに格別の差異がないのが普通であるから,後者において,高速化と印加エネ
ルギーの最適化を図る際に,刊行物6記載の記録周期とグレーズ層の厚さを採用す
ることに格別阻害要因があるものとは認められなく,当業者が容易に想起できるこ
と認める。
そして,上記採用を行えば,上記相違点A及びCに係る前者の条件を満
たすことになるから,上記相違点A及びCは,格別のものとはいえないから,当業
者が容易になし得た構成の変更と認められる。」(決定書13頁2段~5段)
(1) 相違点A(サーマルヘッドのグレーズ層の厚みを60μm以下とするこ
と)についての判断について
(ア) 感熱プリンター用のサーマルヘッドの感熱孔版印刷装置への転用可能性
について
(a) 刊行物2には,①「感熱孔版製版方法で使用されるサーマルヘッドは
感熱発色記録用あるいは感熱転写記録用サーマルヘッドが流用されていた。これら
感熱記録用サーマルヘッドは記録画像である画素一つ一つが連続するように設計さ
れており,このサーマルヘッドをそのまま感熱孔版製版用として用いた場合,穿孔
画像が連続してしまい,その結果裏移りが増加したり,耐刷性が劣っていたりし
た。一方,サーマルヘッドへの印加エネルギーを調節する事により穿孔画像の穿孔
径を変化させる事ができる。つまり,印加エネルギーを増加させれば穿孔径は広が
り,逆に,減少させれば穿孔径は挟くなる。そうすることによって,穿孔画像の独
立性を確保する方法はある。」(甲第4号証【0003】),②「本発明で使用す
るサーマルヘッドとしては,サーマルプリンターに用いることができる薄膜型と同
様の構造のものである。これは,図2に示すように絶縁性基盤上6に,ガラスから
なる熱抵抗層7が形成され,この熱抵抗層7の上面には真空蒸着法等によりNiC
r,Ta等の金属材料からなる電極層9が発熱抵抗体層8を介して真空蒸着等によ
り形成されていると共に,発熱部部分においては発熱抵抗体層8上に耐酸化層10
が直接接合してなり,発熱部12が凹状に形成されている。ここで薄膜型のサーマ
ルヘッドとしては図2の全面グレーズ型或いは,部分グレーズ型(特に図示しな
い)がある」(同【0012】)と記載されている。
(b) 刊行物5には,「サーマルヘッドはアルミナ基板上に蓄熱層を持ち,
その上に発熱素子及びそれに通電する電極層が形成されているのが一般的であり,
発熱素子には一般に耐摩耗性保護層が形成されている。従って,サーマルヘッドの
発熱パターンは発熱素子形状だけでは規定できず,蓄熱層の厚さを変える等の方法
でも大きく変る。また,通常の孔版印刷用原紙を使用した場合の製版に要するエネ
ルギーは,熱転写印字や感熱発色印字の場合に要するエネルギーより大きく,その
ため孔版印刷用原紙の製版にサーマルヘッドを使用するとサーマルヘッド寿命が極
端に短くなる欠点があり,これを解決するため特開昭62-282983号公報に
はフィルムを低温で収縮させて製版時のエネルギー量を減少させる方法が提案され
ているが,この方法では熱感度を増加させると同時に孔の拡大性も増加し,従来の
原紙を使用する場合より孔が拡大する傾向を持っている。」(甲第7号証【000
5】)と記載されている。
(c) 上記各刊行物のこれらの記載からすると,感熱発色あるいは感熱転写
により記録を行う感熱プリンターに使用される,グレーズ層を備えたサーマルヘッ
ドを,感熱孔版製版方法(装置)に流用することは,「サーマルヘッドをそのまま
感熱孔版製版用として用いた場合,穿孔画像が連続してしまい,その結果裏移りが
増加したり,耐刷性が劣っていたり」するため,流用に当たって,「印加エネルギ
ー等を調節させること」(上記(a))などの調整を必要に応じて行うことを前提とす
るものではあるものの,本件出願前において当業者によく知られていたことであっ
たと認められる。
(d) 原告は,感熱孔版印刷装置における溶融穿孔と,感熱プリンターにお
ける感熱発色あるいは感熱転写とは,物理的あるいは化学的には全く異なる現象で
あり,また,感熱プリンターにおけるサーマルヘッドの発熱体部の副走査方向の長
さは,主走査方向における発熱体部ピッチよりも大きいため,感熱プリンターにお
けるサーマルヘッドを,感熱孔版印刷装置に採用することに容易に想到することは
できない,と主張する。
しかし,たとい,溶融穿孔と感熱発色あるいは感熱転写とが物理的あ
るいは化学的に異なる現象であるとしても,上述したとおり,感熱プリンターのサ
ーマルヘッドを感熱孔版印刷装置に転用することは,本件出願前において当業者に
よく知られていたことである。「サーマルヘッドをそのまま感熱孔版製版用として
用いた場合,穿孔画像が連続してしまい,その結果裏移りが増加したり,耐刷性が
劣っていたり」(上記(a))するなどの問題が生じるとしても,サーマルヘッドの各
発熱素子が適用される部分(画素)の大きさを格別変更することなく感熱孔版印刷
装置に転用し得ることは上記のとおりであるから,原告の主張は理由がないことが
明らかである。
(イ) 感熱プリンター用サーマルヘッドのグレーズ層の厚みを感熱孔版印刷装
置のサーマルヘッドに適用することの容易性について
(a) 感熱プリンターのサーマルヘッドを,感熱孔版印刷装置に転用するに
当たっては,穿孔の独立性を確保する必要があり,この独立性を確保することがで
きるかどうかは,サーマルヘッドへの印加エネルギーの調節,すなわち,サーマル
ヘッドの発熱パターンにも依存することは,刊行物2の上記(a)の記載,刊行物5の
上記(b)の記載から容易に理解することができる。サーマルヘッドの発熱パターン
は,「蓄熱層(判決注・本件各発明における「グレーズ層」である。)の厚さを変
える等の方法でも大きく変る」(刊行物5の上記(b))のであるから,感熱プリンタ
ーのサーマルヘッドを感熱孔版印刷装置に転用しようとするに当たっては,当業者
は,穿孔の独立性を確保するために,まずグレーズ層の厚みについて検討を加える
であろう,と考えるのが自然である。
(b) 刊行物6には,ファクシミリ等に用いるサーマルヘッドについて,次
の記載がある。
①「一方,グレーズ層も画質に影響を与える。グレーズ層が厚過ぎると
蓄熱が激しく発熱抵抗体の熱応答性が低下し,尾引き,にじみ等の画質低下を招
く。しかし,逆にグレーズ層は薄くなるほど発色時の電力効率が悪化する傾向にあ
る。現在ファクシミリでは,記録時間が5ms/line程度であり,グレーズ層
厚として60~80μmが用いられていた。
発明が解決しようとする課題
しかし,上述のサーマルヘッドは,2ms/lineでの記録若し
くはより高速な記録を行うと,画質劣化が著しいという問題のあることが判明し
た。
本発明者は上述の問題点の生じる理由を種々検討した結果,以下の
事項を見出した。即ち,記録速度を速くすると発熱抵抗体への印加パルス周期が速
くなり,グレーズ層厚60~80μmのサーマルヘッドで2ms/line記録を
行うと,発熱体の熱応答が印加パルス周期に追従できなくなり,記録ドットがにじ
んでしまう。また,蓄熱も激しくなり,過去の記録状態を参照し印加電力の制御を
行う,いわゆる熱履歴制御も複雑になる。」(甲第8号証2頁左上欄15行~右上
欄15行)
②「グレーズ層の厚みを10μmより薄くすると,熱絶縁性が不足し発
色時の電力効率が著しく低下し,発色しにくくなり,例えばグレーズ層厚0μmの
場合にはほとんど発色しなくなる。・・・逆にグレーズ層の厚みを20μmよりも
大きくするとグレーズ層の熱容量が大きくなり過ぎ発熱抵抗体の熱応答性が悪くな
り,記録ドットににじみが生じ画質が劣化する。このため,本発明ではグレーズ層
厚を10~20μmに選定している。」(同3頁左下欄13行~右下欄3行)
③「以上の説明から明らかなように,本発明はサーマルヘッドのグレー
ズ層を10μm以上,20μm以下とし,発熱抵抗体の発熱部の副走査方向の長さ
を・・・とすることにより,副走査方向の解像度が7.7本/mmで記録時間が2
ms/line以下で記録を行う場合でも良好な画質が得られるという効果を有す
る」(同3頁右下欄13行~19行)
(c) 刊行物3には,プリンタ等ヘッド用のサーマルヘッド基板について,
次の記載がある。
①「グレーズ層を使用する場合には,発熱抵抗体を所要の温度に昇温さ
せるのに,60~100μmという比較的厚膜とすることが必要となる上に,発熱
抵抗体周辺の熱容量が増大し,蓄熱現象を生じる結果,印字に際し,残留熱による
尾曳きや滲みのような品質上好ましくない状態を招来することが多かった。」(甲
第5号証1頁右下欄7行~13行)
②「本発明は,熱伝導率の小さい薄膜型のグレーズ層を有し,低い電力
消費量で高速印字が可能なサーマルヘツドを与えるための基板を得ることを目的と
してなされたものである。」(同2頁左上欄6行~9行)
③「本発明においては,このような組成のグレーズ層を,セラミツクス
基板上に10~50μmの厚さに形成させる。従来のサーマルヘツド基板用グレー
ズ層の場合は,60~100μmの厚さとしなければならない・・・このようにし
て得られたサーマルヘツド用基板は,従来のものと同様に,高速プリンタ用サーマ
ルヘツドの製造用として使用することができる。」(同2頁左下欄11行~末行)
④「発明の効果
本発明のサーマルヘツド用基板は,従来のものに比べて,次に示す
ような利点をもたらす。(1)熱伝導率が小さいため,発熱抵抗体の電熱変換の際の応
答性が向上する。・・・(3)グレーズ層の厚さが薄いので,塗布工程を減少で
き・・・。(4)蓄熱現象を防止しうるので,印字に際しての尾曳きや滲みを著しく減
少させることができる。」(同2頁右下欄1行~13行)
(d) 刊行物6及び刊行物3のこれらの記載からすると,高速印字を行う際
には,グレーズ層の厚みを厚くすると,蓄熱現象を引き起こし,残留熱による尾曳
きや滲みのような好ましくない状態が生じるため,グレーズ層の厚みを薄くする必
要があることが理解できる。
(e) 当業者が,感熱プリンターのサーマルヘッドを感熱孔版印刷装置に転
用するに当たり,グレーズ層の厚みについても当然に検討することは,上述したと
おりである。刊行物6及び刊行物3の上記記載は,高速印字を行う際に,蓄熱現象
による残留熱が発熱パターンに影響を与えないようにするため,グレース層の厚み
を薄くすることを示すものということができる。感熱孔版印刷装置のサーマルヘッ
ドにおいて必要とされる穿孔の独立性が,前記のとおり発熱パターンに依存するも
のであることからすると,蓄熱現象による残留熱が,発熱パターンを変化させ,穿
孔径を広げてしまう結果,穿孔の独立性が確保できなくなることは,当業者ならば
容易に予測できることである。そうだとすると,高速印字を行う際に残留熱を減少
させることができるとする刊行物6及び刊行物3記載のサーマルヘッドにおいて採
用されているグレーズ層の厚みを感熱孔版印刷装置におけるサーマルヘッドにも適
用すること,すなわち,グレーズ層の厚さを,引用発明6における10~20μ
m,引用発明3における10~50μmと同程度の60μm以下とすることは,当
業者ならば,容易に行い得ることというべきである。
(f) 原告は,引用発明6及び引用発明3において,グレーズ層の厚みを薄
くする目的は,滲みの生じない発色による記録ドットを得ること,また,尾曳きや
滲みのない発色印字を得ることにあり,サーマルヘッドの発熱体部の寸法をあまり
小さくすることなく,微細で独立した溶融穿孔を得ることにあるのではないから,
感熱プリンターのサーマルヘッドに関する引用発明6及び引用発明3の技術を,感
熱孔版印刷装置のサーマルヘッドへ転用することは困難である,と主張する。しか
し,刊行物6及び刊行物3において解決すべき技術的課題は,いずれも,サーマル
ヘッドの蓄熱現象による残留熱を除去する点で,本件各発明における技術的課題と
異なるところはないから,上記転用は容易に想到し得ることというべきである。
(ウ) 本件各発明において,グレーズ層の厚みを60μm以下と数値限定した
意義について
本件訂正後の本件各発明の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)
には,「その発熱体部10に設けられたグレーズ層8の厚さtgが,60μmを超
えるサーマルヘッドにおいては,連続印字時の蓄熱作用がより大きいので,発熱体
部10のピーク温度が蓄熱しない場合のピーク温度よりもかなり高くなり,発熱体
部10の単位面積当たりの印加エネルギーがオーバー気味になって熱応力等がかか
ると共に,発熱体部10の酸化等が促進されて電気抵抗値変化が生じやすくなるた
め,サーマルヘッド91の発熱体部10の寿命が短くなってしまう問題点がある。
また,溶融穿孔・製版された感熱性孔版マスタにおいて,独立穿孔したものが得ら
れなくなってしまう問題点もある。」(甲第9号証【0008】),「一方,グレ
ーズ層8の厚さtgが60μmのもので確認したところ,若干の上記各効果はあっ
たがまだ若干不十分であり,5μm未満のものでも前述のような効果としては大き
いと推測されるが,現時点における製造技術水準での困難性,及びグレーズ層8を
介在して抵抗体層7を形成する基材9の平滑性を確保する点からその下限値を考慮
し,また連続印字時において感熱性孔版マスタ61に形成される各穿孔が独立分離
した実験結果が得られたことからその上限値を考慮すると,グレーズ層8の厚さt
gが5~50μmの範囲であるものが,特に好ましい。」(同【0061】)と記
載されている。これらの記載からすれば,本件各発明におけるグレーズ層の厚さ
「60μm以下」という数値は,実験により求められたものであると認められる。
しかし,グレーズ層の厚さが独立した穿孔の形成に影響を与えるとの知見が既に得
られていることからすれば,このような実験によってこのような数値を得ることは
当業者ならば適宜行い得ることというべきである。
しかも,刊行物5には,「この方法では熱感度を増加させると同時に孔
の拡大性も増加し,従来の原紙を使用する場合より孔が拡大する傾向を持ってい
る。」(甲第7号証【0005】)と記載されており,この記載から,サーマルヘ
ッドが同じであっても,用いる原紙により,感熱性孔版マスタに形成される穿孔の
大きさも変化すること,すなわち,グレーズ層の厚さの好適範囲は,用いる原紙に
よっても異なるものであることを理解することは,当業者にとって極めて容易なこ
とである。
以上からすれば,グレーズ層の厚さを60μm以下と数値限定すること
は,刊行物6及び刊行物3記載の感熱プリンター用のサーマルヘッドを感熱孔版印
刷装置に適用するに当たり,当業者が適宜行い得ることであることが明らかであ
る。
上記数値限定に格別の技術的意義を認めることはできない。
(2) 相違点C(印字周期を,2.5ms/line以下とすること)について
の判断の誤りについて
刊行物6には,「記録速度を速くすると発熱抵抗体への印加パルス周期が
速くなり,グレーズ層厚60~80μmのサーマルヘッドで2ms/line記録
を行うと,発熱体の熱応答が印加パルス周期に追従できなくなり」(甲第8号証2
頁右上欄8行~12行),「グレーズ層の厚みを10μmより薄くすると,熱絶縁
性が不足し発色時の電力効率が著しく低下し,発色しにくくなり,例えばグレーズ
層厚0μmの場合にはほとんど発色しなくなる。・・・逆にグレーズ層の厚みを2
0μmよりも大きくするとグレーズ層の熱容量が大きくなり過ぎ発熱抵抗体の熱応
答性が悪くなり,記録ドットににじみが生じ画質が劣化する。このため,本発明で
はグレーズ層厚10~20μmに選定している。」(同3頁左下欄13行~右下欄
3行),「副走査方向の解像度が7.7本/mmで記録時間が2ms/line以
下で記録を行う場合でも良好な画質が得られる」(同3頁右下欄17行~19行)
との記載がある。また,刊行物3にも,前記のとおり,「本発明は,熱伝導率の小
さい薄膜型のグレーズ層を有し,低い電力消費量で高速印字が可能なサーマルヘツ
ドを与えるための基板を得ることを目的としてなされたものである。
」(甲第5号証2頁左上欄6行~9行),「本発明においては,このような組成の
グレーズ層を,セラミツクス基板上に10~50μmの厚さに形成させる。従来の
サーマルヘツド基板用グレーズ層の場合は,60~100μmの厚さとしなければ
ならない・・・このようにして得られたサーマルヘツド用基板は,従来のものと同
様に,高速プリンタ用サーマルヘツドの製造用として使用することができる。」
(同2頁左下欄11行~末行)との記載があり,グレーズ層の厚さを薄くすること
により熱応答性が改善され高速化が達成できることが示されている。
感熱プリンターのサーマルヘッドを感熱孔版印刷装置に転用することが可
能なこと,高速印字を行う場合にはグレーズ層の厚さを60μm以下とすること
が,当業者が容易に想到できることであることは,いずれも前示のとおりである。
このように,サーマルヘッドのグレーズ層の厚さを60μm以下とすれば,印字の
高速化を図ることができることは,刊行物6及び刊行物3の前記記載から当業者が
容易に予測し得ることである。また,本件訂正明細書を見ても,刊行物1及び刊行
物5の記載を見ても,感熱プリンターと感熱孔版印刷装置との間にサーマルヘッド
の操作速度において大きく異なるというような事情が存在すると認めることはでき
ない。
以上からすれば,刊行物6で実現されている2ms/line以下という
操作速度を参考に,感熱孔版印刷装置におけるサーマルヘッドによる印字周期を,
2.5ms/line以下とすることは,当業者ならば適宜設定し得ることという
べきである。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(相違点Eについての判断の誤り)に
ついて
刊行物2には,感熱孔版印刷装置においては,「サーマルヘッドへの印加エ
ネルギーを調節する事により穿孔画像の穿孔径を変化させる事ができる。つまり,
印加エネルギーを増加させれば穿孔径は広がり,逆に,減少させれば穿孔径は挟く
なる。そうすることによって,穿孔画像の独立性を確保する方法はある。」(甲第
4号証【0003】)と記載されている。溶融穿孔された感熱孔版マスタの穿孔態
様が互いに独立しているようにすることは,当業者が当然に考慮することである。
決定の「相違点Eのように,溶融穿孔された感熱孔版マスタの穿孔態様が互いに独
立しているようにすることも,刊行物2の記載(記載事項イ.b.)から当業者が
容易に考えることと認められる。」(決定書13頁末段~14頁1段)との判断に
誤りはない。
原告は,刊行物2には,感熱孔板整版方法に関し,互いに独立した溶融穿孔
を得ることについて記載されているものの,この互いに独立した溶融穿孔が,本件
各発明における「厚さが60μm以下」のグレーズ層を有するサーマルヘッドで得
られるものであるかどうかについては何も記載されていない,引用発明3と引用発
明6は,いずれも感熱プリンターのサーマルヘッドに関する発明であるから,これ
と感熱孔板印刷製版方法に関する引用発明2とを組み合わせても,感熱プリンター
のサーマルヘッドとその制御技術に関する構成が成立するだけであって,感熱性孔
版マスタの製版用サーマルヘッドのグレーズ層と穿孔態様との組み合わせの構成は
成立しない,と主張する。しかし,相違点A及び相違点Eについては,それぞれ,
当業者が容易に想到し得るものであることは上述のとおりである。当業者にとっ
て,相違点Aに係る引用発明6及び引用発明3の構成を感熱孔版印刷装置へ適用す
ることが容易である以上,引用発明1に,相違点Aに係る引用発明6及び引用発明
3の構成と,相違点Eに係る引用発明2の構成を組み合わせることにより,感熱孔
版印刷装置における製版用サーマルヘッドのグレーズ層と穿孔態様とを組み合わせ
た構成が成立するのである。原告の上記主張に理由がないことは明らかである。
3 請求項1,3及び4に共通する取消事由(相違点D1についての判断の誤
り)について
決定は,「刊行物4には,ファクシミリ(プリンター)の感熱記録ヘッド
(サーマルヘッド)の記録パルス幅(印加エネルギー)を調節するに当たり,ヘッ
ドマウント(サーマルヘッド)の温度を検出するサーミスタ(サーマルヘッド温度
検出手段)と感熱記録ヘッド(サーマルヘッド)の個々の発熱体に印加する記録パ
ルス幅(エネルギー)を上記サーミスタ(サーマル検出手段)で検出されたヘッド
マウント(サーマルヘッド)温度に応じて所定の記録パルス幅(エネルギー)に調
整する手段(印加エネルギー調整手段)とを有するようにすることが記載されてい
る(記載事項エ.a.b.d.e.参照)から,これを,感熱孔版印刷装置である
後者に採用して上記相違点D1にかかる構成とすることも当業者が容易に想起でき
ることと認められる。」(決定書14頁2段)と判断した。
原告は,引用発明4は,ファクシミリに関する技術であり,刊行物4に記載
されたサーミスタと記録パルス幅調整手段を,感熱孔版印刷装置における互いに独
立する溶融穿孔の形成手段に採用することは,当業者にとって容易ではない,と主
張する。
しかし,刊行物4には,①「感熱記録を高速ファクシミリに適用する
際,・・・熱履歴効果及びヘッドマウント蓄熱による,にじみ,尾引き,かぶり等
の画品質劣化に対する対処,・・・等の検討が必要である.本報告では・・・熱履
歴効果及びマウント蓄熱温度に対して記録パルス幅を制御することにより,画品質
劣化を防止できることを示し・・・ている.」(甲第6号証733頁あらまし
欄),②「感熱記録方式は,発熱体の記録直前の温度によって,記録特性が大きく
変化する.発熱体に記録パルスを印加する直前の温度は,次の2つの要因に依存す
る.(ⅰ)記録周期Tが短かく,前回記録した時の加熱パルスが充分立下らない場合
(熱履歴モード).(ⅱ)全発熱体の発生する熱量の一部が,放熱基板に残留蓄積
されて,マウント全体の温度が上昇する場合(マウント蓄熱モード).」(同73
5頁左欄18行~右欄下から16行),③「図10は連続動作時間tに対するマウ
ント蓄熱温度θHの・・・特性を示している.θHはヘッドマウント裏面の温度で,
サーミスタを取付けて測定した.」(同736頁右欄20行~22行)及び④「図
12はθHに応じてパルス幅γを制御した時としない時の,濃度Dとマウント温度
θHの時間的特性を示している.」(同737頁右欄14行~16行)と記載され
ている。
このように,引用発明4は,サーマルヘッド(ヘッドマウント)における蓄
熱を制御するため,サーマルヘッドへの印加エネルギー(記録パルス幅)を調節す
る手段,具体的には,サーマルヘッドの温度を検出するサーマルヘッド温度検出手
段(サーミスタ)とサーマルヘッドの個々の発熱体に印加するエネルギーを上記サ
ーマル検出手段で検出されたサーマルヘッド温度に応じて調整する印加エネルギー
調整手段とを有することを開示するものである。このことからすれば,引用発明4
は,直接にはファクシミリ用のプリンタ等に関する技術であるものの,これを蓄熱
の制御が必要なことが明らかな感熱孔版印刷装置のサーマルヘッドに採用すること
は,当業者にとって何らの困難もなく容易に想到することができることというべき
である。決定の上記判断に誤りはない。
4 請求項2ないし4に共通する取消事由(相違点D2についての判断の誤り)
について
(1) 決定は,相違点D2について,次のとおり判断した。
「前者の「第1のパルス」とは,「熱履歴用の第2パルス」と対比されて使
われている請求項2の文脈,明細書の「前のラインで印字せず発熱していない際に
は,第1パルス幅tpの印加エネルギーを有する第1パルス」(段落【0058】
参照)の記載及び図面の図8(a)の記載からみて,前のラインで発熱していない
発熱体部に印加されるときのエネルギーを有するパルス幅を持つパルスであると解
される。
さて,上述したように,感熱孔版製版方法(装置)において,感熱発色
あるいは感熱転写により記録を行うプリンターで使用されるサーマルヘッドを,そ
のまま用いないまでも,印加エネルギー等を調節させることなどすることにより流
用することは,周知である。
刊行物4には,ファクシミリ(プリンター)の感熱記録ヘッド(サーマ
ルヘッド)の印加エネルギーを制御するに当たり,感熱記録ヘッド(サーマルヘッ
ド)の個々の発熱体を,前ラインの白黒情報と変動する記録周期に応じて記録パル
ス幅を熱履歴制御することが記載されている(エ.記載事項a乃至c.参照。)。
すなわち,刊行物4には,前ラインの時白情報となったすなわち印字せ
ず発熱しない発熱体部に印加するパルス(前者の「第1パルス」に相当。)の記録
パルス幅(印加エネルギー)と,前ラインの時黒情報となったすなわち印字して発
熱した発熱体部に印加するパルス(前者の「熱履歴用の第2パルス」に相当。)の
記録パルス幅(印加エネルギー)とは異なることが示されている。
そして,前ラインの時黒情報すなわち印字して発熱した発熱体部に印加
するパルス(前者の熱履歴用の第2パルスに相当。)の記録パルス幅(印加エネル
ギー)の方が,前ラインの時白情報すなわち印字せず発熱しない発熱体部に印加す
るパルス(前者の第1パルスに相当。)の記録パルス幅(印加エネルギー)よりも
小さいことは,当業者にとって自明なことである。
また,このことは,特開昭57-80078号公報にも記載されてい
る。
ゆえに,これを,後者の感熱孔版印刷装置に採用することは,格別困難
なことでなく,また,その際,熱履歴制御用の第2パルスのエネルギーが,第1パ
ルスのそれの40~95%と数値範囲を特定することも,当該数値範囲が当業者が
行う通常の範囲を含まない程のものでないから格別のものでない。
したがって,上記相違点D2は,当業者が容易になす構成の変更と認め
られる。」(決定書15頁下から2段~16頁7段)
(2) 原告は,引用発明4は,ファクシミリに関する技術であり,刊行物4に記
載された熱履歴制御手段を,感熱孔版印刷装置における互いに独立する溶融穿孔の
形成手段に採用することは,当業者にとって容易なことではない,と主張する。
しかし,プリンターで使用するサーマルヘッドを,印加エネルギー等を調
節するなどして,感熱孔版印刷装置のサーマルヘッドに転用することは,前述のと
おり,当業者ならば容易に想到し得ることである。
刊行物4には,前記3において引用した記載事項のほか,次の記載があ
る。「3.1 熱履歴モードに対するパルス幅制御
(1)一般的な熱履歴制御法
図6は記録周期Tに対する記録濃度Dと発熱体温度θの関係を示して
おり,Tが短かくなるにしたがって,θ,Dが上昇するのがわかる。このためTが
40ms以下の高速動作時,個々の発熱体に印加するエネルギーを記録周期に応じて制
御(熱履歴制御)して,濃度むら,尾引きを抑える必要がある.・・・前ラインの
白黒情報と変動する記録周期に応じて,発熱体個々の記録パルス幅を制御する」
(甲第6号証735頁右欄下から14行~736頁左欄下から16行)。
この記載からすれば,刊行物4には,サーマルヘッドの個々の発熱体部へ
の印加エネルギーを制御するに当たり,前ラインの白黒情報と変動する記録周期に
応じた記録パルス幅の熱履歴制御を行うことが示されていると認められる。すなわ
ち,引用発明4においては,記録周期Tが短くなると,θが上昇するのであるか
ら,前ラインのとき,白情報となった発熱体部(印字せず発熱しない発熱体部)に
印加するパルス(第1パルス)の記録パルス幅(印加エネルギー)よりも,前ライ
ンのとき黒情報となった発熱体部(印字して発熱した発熱体部)に印加するパルス
(熱履歴用の第2パルス)の記録パルス幅(印加エネルギー)の方が小さくされて
いることは,当業者にとって自明なことである。このように,刊行物4は,サーマ
ルヘッドの個々の発熱体部を熱履歴制御するための熱履歴制御手段と,上記熱履歴
制御手段により上記サーマルヘッドの個々の発熱体部が熱履歴制御を伴って駆動さ
れるとき,熱履歴制御用の少なくとも第2パルスが,第1パルスより小さい印加エ
ネルギーを持ってサーマルヘッドの個々の発熱体部に供給されるように,サーマル
ヘッドの個々の発熱体部を制御するエネルギー調整手段を開示するものである。
感熱プリンターで使用するサーマルヘッドを,感熱孔版印刷装置のサーマ
ルヘッドに転用することが,当業者が容易に想到し得ることであることは前述のと
おりであり,感熱孔版印刷装置においても,サーマルヘッドにおける蓄熱の制御が
必要なことは明らかであるから,引用発明6を,感熱孔版印刷装置のサーマルヘッ
ドの熱履歴制御に採用することは,格別困難なことではないというべきである。ま
た,その際,熱履歴制御用の第2パルスのエネルギーを,第1パルスのそれの40
~95%と特定することも,実験により当業者が適宜定めうる程度のものである。
決定の上記判断に誤りはない。
5 すべての請求項に共通する取消事由3(引用発明1ないし引用発明6の組み
合わせについての判断の誤り)について
決定は,本件発明1について,「刊行物1乃至6に記載された事項を単に寄
せ集めることにより当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,その
作用効果もそれらの単なる総和以上の格別のものでない。」(決定書14頁4段)
と判断し,本件発明2ないし4についても同様の判断をしている(決定書16頁下
から2段,18頁2段,3段参照)。
原告は,引用発明3,引用発明4及び引用発明6は,感熱プリンターのサー
マルヘッドに関する制御技術であるから,引用発明1に,引用発明3,引用発明4
及び引用発明6のサーマルヘッドの各構成を単に組み合わせただけでは,感熱性孔
版マスタに溶融穿孔を形成するためのサーマルヘッドの構成を特定した感熱孔版印
刷装置である本件各発明には想到し得ないし,本件各発明の作用効果に思い至るこ
ともない,と主張する。
しかし,感熱プリンターにおけるサーマルヘッドを,感熱孔版印刷装置のサ
ーマルヘッドに転用することが可能なこと,及び,本件各発明と引用発明1との各
相違点に係る構成については,いずれも,引用発明2ないし引用発明6から,当業
者が容易に想到できるものであることは前述のとおりである。また,これまでに述
べたところによれば,引用発明1にこれらの相違点に係る構成をすべて組み合わせ
ることについても,当業者にとってこれを困難にする特段の阻害要因はないという
ことができる。
本件各発明において奏される効果(本件発明1については,本件訂正明細書
に「サーマルヘッドの発熱体部寸法を無理に小さくせずに,使用するサーマルヘッ
ドの発熱体部の高寿命化を成し遂げることができ,溶融穿孔・製版された感熱性孔
版マスタの穿孔が微細で互いに独立したものが得られ,主走査方向及び副走査方向
の解像度に応じた好適な穿孔画像を形成して,如何なる原稿画像に対しても忠実な
印刷画像を形成することができ,かつ,印刷用紙の裏面に発生する裏移り現象を防
止することができて,なおかつ,印字周期が2.5ms/line以下であるとい
う製版時間の高速化においても,上記各効果を奏する。加えて,穿孔エネルギー調
整手段による上記作用によって,上記各効果をより大きく奏する。」(甲第9号証
【0068】)と記載されており,本件発明2ないし4についても,各請求項に対
応して一部が異なるものの,全体としてほぼ同趣旨の効果が記載されている(同
【0069】ないし【0071】参照)。)についても,引用発明1ないし引用発
明6から当業者が容易に予測し得るものであって格別のものではないことは明らか
である。
決定の上記判断に誤りはない。
6 結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由が
なく,その他,決定には,いずれの請求項についても,これを取り消すべき誤りは
見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につ
いて,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 阿 部 正 幸
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