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平成15(行ケ)213行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年11月6日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法50条2回
キーワード 審決8回
許諾6回
商標権3回
実施1回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(行ケ)第213号 審決取消請求事件
平成15年11月6日判決言渡、平成15年10月23日口頭弁論終結
          判    決
    原   告     有限会社アイ・ビー・イー           
    訴訟代理人弁理士  佐藤英昭、斎藤栄一
    被   告     Y
 訴訟代理人弁護士  奥野滋
主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が取消2001-31035号事件について平成15年4月15日にした
審決を取り消す、との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 登録第2549288号商標(以下「本件商標」という。)は、「πウォータ
ー」と横書きしてなり、第32類「食肉、その他本類に属する商品」を指定商品と
して、昭和62年5月29日登録出願、平成5年6月30日に設定登録されたもの
である。 被告は、原告(商標権者)を被請求人として、本件商標について、その
指定商品中「豆腐、及びその類似商品」につき商標法50条の規定に基づく取消し
の審判(本件審判)を請求し、特許庁は、これを取消2001-31035号事件
として審理し、平成15年4月15日、「登録2549288号商標の指定商品中
「豆腐、及びその類似商品」については、その登録を取り消す。」との審決をし、
その謄本を平成15年4月25日原告に送達した。
2 審決の理由の要点
 審決の理由の要点は、以下のとおりである。 
 (1) 原告(被請求人)及びその関連会社であるIBEグループは、浄水器「BC
Sπウォーターシステム」の製造、販売を行う会社であり、「πウォーター」は、
原告他が取り扱う浄水器について使用される商標であって、アイ・ビー・イー販売
の代理店であるAを通じてB(薫風亭)等本件商標の通常使用権者に上記浄水器を
販売したと認めることができる。
 そして、各「商標の使用許諾に関する契約書」の内容からみると、原告は、原告
他が取り扱う浄水器を購入した顧客に対し、これら顧客が取り扱う「豆腐」、「飲
食物の提供」、「宿泊施設の提供」などに、上記「πウォーター」商標の浄水器を
利用して得た水を、生産物若しくは提供する飲食物又は提供の用に供する物等に使
用したことを表示するために、本件商標を無償で使用許諾したと推認することがで
きる。
 (2) ところで、商標は、自他商品を識別することをその本質的機能としているか
ら、現実の使用においても、自他商品の識別標識としての機能が発揮される態様で
使用されるべきであり、登録商標と形式的に同一の表示が商品に使用されていて
も、当該表示が、その商品について自他商品の識別標識として機能していると認め
られない場合、すなわち、商品の品質表示あるいは商品の原材料表示等として認識
されるような場合には、当該登録商標を使用しているものということはできない。
 しかるところ、審判請求に係る商品に属する「豆腐」の包装用容器には、「πウ
ォーター」の文字が表示されているが、該「πウォーター」の表示は、Cが営業す
る豆腐店である佐野商店では、豆腐を製造する際に「πウォーター」商標の浄水器
から得た水を使用しているということを示したものであり、豆腐についての商標と
いうより、「πウォーター」なる商標を使用した浄水器から得た水を原材料に使用
した商品を意味するものということができ、豆腐について自他商品の識別標識とし
ての機能を発揮する態様で使用されるということはできない。
 また、飲食物の提供(薫風亭)、宿泊施設の提供(三河湾リゾート・リンクス)
は、役務区分第42類に属する役務であって、審判請求に係る商品「豆腐、及びそ
の類似商品には属しないものである。
 加えて、「πウォーター」ないし「πウォーターシステム」に関し、「いい水飲
んでいますか!?/当店では『水』にこだわりをもち環境と体に優しいπウォータ
ーシステムを利用しています。」、「調理に・・生け簀に・・お風呂に・・“π”
びある風景 三河湾リゾートリンクス」、「やっぱりパイウォーターというみずは
ずごい!・・」(審判乙7及び15)などと記載して宣伝している事実からして
も、「πウォーター」なる語は、需要者の間でも、通常の水道水より健康によい水
を指称するものと理解される場合が多いというのが相当であって、これを商品「豆
腐」、「豆腐料理の提供」等について使用しても、自他商品又は自他役務の識別機
能を有するものであると認識し得ないものといえる。
 (3) 以上のとおりであるから、原告(商標権者)は、その通常使用権者が審判請
求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を審判請求に係る商品「豆腐、
及びその類似商品」のいずれについても使用していたことを証明したものというこ
とができない。また、原告は、使用していないことについて正当な理由があること
も明らかにしていない。
 したがって、本件商標は、その指定商品中の「豆腐、及びその類似商品」につい
ての登録は、商標法50条の規定により取り消すべきものとする。
第3 原告の主張の要点
 1 本件商標につきCは原告から通常使用権の許諾を受けており、同人が営む豆
腐店である佐野商店が取り扱う商品「豆腐」の写真(甲3、4)をみると、プラス
チック製包装容器に入った豆腐の上面に「おいしい 手作り/ソフトとうふ」、
「πウォーター」、「佐野商店」などの文字が表示されている。この商品「豆腐」
の上面にある表示において、自他商品の識別力があるのは、「πウォーター」、
「佐野商店」の部分である。この「πウォーター」なる本件商標が表示されている
商品「豆腐」に接した一般の需要者・取引者が、本件商標を使用した浄水器から得
た水を原材料に使用した商品を意味するものと即座に認識するか否かははなはだ疑
問であり、そのように認識するという合理性もない。
 したがって、上記の「豆腐」について、一般の需要者・取引者は、「πウォータ
ー」という商標が使われている「佐野商店」の「豆腐」として理解、認識するとい
うのが最も妥当であり、そのような意味において、本件商標は豆腐について自他商
品の識別標識としての機能を十分に発揮する態様で使用されているということがで
きる。
 2 本件商標は、「豆腐」を含む指定商品(第32類)「食肉、その他本類に属
する商品」について自他商品の識別機能を有するものとして登録が認められたので
あるから、「πウォーター」を「豆腐、及びその類似商品」について使用しても自
他商品識別機能を有するものとして認識し得ないとの審決の認定判断は、自家撞着
である。
 3 手作り豆腐の店「薫風亭」は、原告から本件商標について通常使用権の許諾
を受けたBが営んでいるものであるが、同店では豆腐料理の提供のほかに、客の要
望によっては持ち帰り用として「手作り豆腐」の販売も行っている。したがって、
「薫風亭」は商品「豆腐」について本件商標を使用しているということができる。
 4 以上のとおりであるから、本件商標を「豆腐、及びその類似商品」について
使用した事実が認められないとした審決は、誤りである。
第4 当裁判所の判断
 1 証拠(甲1ないし5)によれば、本件審判は、平成13年9月20日に請求
され、同年10月17日にその予告登録がされたこと、本件商標の登録原簿には本
件審判請求の予告登録がされた後である平成14年11月29日受付けで、C、株
式会社三河湾リゾート・リンクス、Bをそれぞれ通常使用権者とする通常使用権の
設定登録(登録日平成14年12月18日。使用権の範囲は、C及びBについては
「豆腐」、株式会社三河湾リゾート・リンクスについては「全部」である。)がさ
れていること、佐野商店で販売されている包装容器入り豆腐を撮影したものと認め
られる甲第3、第4号証の各写真(甲3は撮影年月日不詳、甲4は写真中に撮影日
付けと思われる「03’2 10」の文字が表示されている。)には、豆腐容器の
表面(透明フィルム)の表面に、「ソフトとうふ」、「おいしい手作りとうふ」、
「佐野商店」などの文字が印刷され、「πウォーター」と印刷したシールが貼付さ
れたものが写っていること、以上の事実が認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、Cは豆腐店「佐野商店」を営み、Bは手作り豆腐
等の飲食物を提供する「薫風亭」を営んでいること、本件審判請求の予告登録がさ
れる前に、Cは商品「豆腐」につき、Bは「豆腐等飲食物の提供」につき、原告か
らそれぞれ本件商標の通常使用権を許諾されていたことを認めることができる。
 2 ところで、佐野商店で販売されている豆腐を撮影した甲第4号証の写真は、
その写真に入った「03’2 10」の文字から撮影日が2003年(平成15
年)2月10日と推認されるものであるから、本件審判請求の予告登録がされる前
の本件商標の使用状況を示すものではない。また、甲第3号証の写真も、撮影年月
日が不明であるから、本件審判請求の予告登録がされるより前に佐野商店が「πウ
ォーター」のシールを貼付した豆腐を販売していたか否かどうかは、上記写真から
は不明といわざるを得ない。
 仮に、甲第3号証の写真が本件審判請求の予告登録前に佐野商店で販売されてい
た容器入り豆腐を撮影したものであるとしても、この豆腐容器に貼付されたシール
に表示された「πウォーター」の文字は、商品である「豆腐」について特定の出所
を認識させる機能を有するものではなく、むしろ、この豆腐が「πウォーター」と
いう名で知られる特別の水を使って作られたものであると消費者・取引者に受け取
られるとみることが相当である。 
 3 また、Bが営む薫楓亭については、本件審判請求の予告登録前に原告から許
諾された通常実施権の範囲に商品「豆腐」が含まれるか否かが証拠上明らかでない
上、同店が「πウォーター」を生成する浄水器を使用して豆腐を製造していること
は弁論の全趣旨により推認されるものの、同店がその「手作り豆腐」に自他商品の
識別標識としての機能を発揮する態様で「πウォーター」の標章を使用していると
認めるべき的確な証拠は存在しない。
 4 以上認定したところによれば、原告(商標権者)は、その通常使用権者が審
判請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を審判請求に係る商品「豆
腐、及びその類似商品」にいずれについても使用していたことを証明したものとい
うことができない。また、原告は、使用していないことについて正当な理由がある
ことも明らかにしていない。
 したがって、これと同旨の認定判断をした審決に誤りは認められないから、原告
の請求は棄却されるべきである。
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   塚  原  朋  一
裁判官   古  城  春  実
        裁判官   田  中  昌  利

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