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平成14(ワ)12752民事訴訟 特許権

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成15年11月6日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項3回
特許法102条2項2回
特許法29条1項3号1回
キーワード 特許権12回
侵害6回
刊行物4回
実施4回
無効4回
損害賠償1回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(ワ)第12752号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年8月25日
判    決
         原   告        タキロン株式会社
         訴訟代理人弁護士     芹 田 幸 子
同            小 野 昌 延
補佐人弁理士       森     治
被   告        田島ルーフィング株式会社
被   告        株式会社タジマ
被告ら訴訟代理人弁護士  竹 田   稔
同            川 田   篤
補佐人弁理士       友 松 英 爾
同            小 栗 久 典
主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して金273万6409円及びこれに対する平
成14年12月19日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
2 被告株式会社タジマは、原告に対し、金235万7317円及びこれに対す
る平成13年12月1日(不法行為のあった日の後)から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、「階段構造」の特許発明について特許権を有する原告が、別紙物件
目録1、2記載の階段構造の工事の施工が同特許権を侵害するものであり、被告ら
は、その共同不法行為者か、又はこれを教唆幇助したものであるとして、被告らに
対し、損害賠償を請求した事案である。
(基本的事実)
1(1) 原告は、合成樹脂製品の製造販売等を主たる業務とする株式会社である。
(2) 被告田島ルーフィング株式会社(以下「被告田島ルーフィング」とい
う。)は、屋根葺材及び防水材料の製造販売、防水工事、内装工事等を業務とする
株式会社である。
(3) 被告株式会社タジマ(以下「被告タジマ」という。)は、床材料及びこれ
らの施工に要する附属材料の製造・販売並びに工事請負等を業務とする株式会社で
ある。
2 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請
求項1記載の発明を「本件発明」、本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」と
いう。)を有している。
特許番号    第3191143号
発明の名称   階段構造
出願年月日   平成7年10月31日(特願平7-308365)
登録年月日   平成13年5月25日
特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のと
おり。
3 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A 踏み面が平面でなる階段下地において、その踏み面と、その踏み面に連接
するコーナー部及び蹴上げとに亘って合成樹脂製の階段用床シートが重ね合わされ
た階段構造において、
B 階段用床シートと踏み面との重なり部分は接着剤により、
C 階段用床シートとコーナー部との重なり部分はシーリング剤により、
D それぞれ接合されていることを特徴とする階段構造。
4(1) 被告タジマは、階段工事の材料・副資材である「アクサンスかいだんST
(又はLT)」と「セメントTH」を製造し、施工手順を記載したカタログととも
に、被告田島ルーフィングにこれを販売している。
(2) 被告田島ルーフィングは、後記(3)の工事の施工業者に対し、その材料と
関連副資材(セメントTH)を販売した。
(3) 株式会社興永テクノスは、平成14年12月(弁論の全趣旨)、別紙物件
目録1記載の階段構造(以下「イ号構造」という。)を、南海工業株式会社、株式
会社太平エンジニアリング及び日本リフォーム株式会社は、平成13年11月、別
紙物件目録2記載の階段構造(以下「ロ号構造」という)を、それぞれ構築してこ
れを生産した(以下、イ号構造とロ号構造を一括して「被告構造」という。)。
5 被告構造は、本件発明の構成要件A及びBをいずれも充足する。
(争点)
 1 本件発明の構成要件C「シーリング剤」の充足性等
(原告の主張)
 被告構造のcに用いられるセメントTH(ウレタン樹脂系溶剤タイプ、50
0gパック入り)は本件発明の構成要件Cの「シーリング剤」に該当し、被告構造
は上記構成要件を充足するというべきである。
(1) 本件明細書の記載等
ア 「接着剤」と「シーリング剤」とは材料・成分等の差異により区別される
ものではなく、その目的・用途により区別されるものである。すなわち、「接着
剤」が物体の間に介在することによって物体を結合することができる物質(面接着
用)であり、「シーリング剤」が構造体の目地・間隙部分に充填して防水性・気密
性などの機能を発揮させる材料(封又は充填用)であることは、技術的意義として
確立している。このような区別を裏付けるものとして、株式会社日本実業出版社発
行「接着技術のはなし」(甲19の1、2)、住友スリーエム株式会社のHP「接
着・接合テクノロジー」(甲23)、岩波書店発行「広辞苑(第5版)」1133
頁(甲25の1、2)があり、材料物質により区別される概念とはされていない。原
告が本件発明を実施した階段構造のカタログ等(甲11、甲12~18の各1~3)
においても、シーリング剤の用途としての「タキボンド#650」を、「カートリ
ッジ入り接着剤」、「段鼻隙間充填用接着剤」、「段鼻充填用接着剤」と、(床材
の面接着剤とは)用途により区別して記載している。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明欄【0010】によれば、「接着剤」とは
床シートと階段下地の踏み面との重なり部分を強固に接合する機能を有するもので
あり、「シーリング剤」とは床シートと階段下地のコーナー部との重なり部分に生
じる隙間を塞ぐように接合する機能を有するものをいうことが明らかである。被告
らの主張する同【0019】の記載は、単なる実施例の記載であり、本件発明の
「シーリング剤」として、接着剤より固形分が多く粘性が高いウレタン樹脂系材料
が好適であるとしているにすぎず、これに限定する趣旨ではない(むしろ被告構造
に用いられるセメントTHと同じウレタン樹脂系材料を「シーリング剤」の1つと
して示唆するものである。)。本件特許請求の範囲において「接着剤」と「シーリ
ング剤」という異なる用語を用いていることも、両者が異なる成分の材料を用いる
ことを意味することにはならない。このことは、他の多くの特許出願において、同
じ成分からなる組成物を「接着剤」及び「シーリング剤」の各用途に用いることが
記載されている(甲34の1~6)ことからも明らかである。
ウ したがって、「接着剤」と「シーリング剤」とは、目的・用途により区別
されるものであり、上記の機能を有する(作用を奏する)ものである限り、その材
料・成分等について何ら限定されるものではない。
エ 「接合」と「接着」の区別に関する被告らの主張について反論すれば、
「接合」は「接着」を包含するより広い概念であり(セメダインのHP「接着基礎
知識」(甲24)による。岩波書店発行「広辞苑(第4版)」1446頁でも、
「接着剤」は「接合剤」ともいうとされている。)、互いに相容れないというもの
ではないから、「接合」の用語をもって「接着剤」と「シーリング剤」とは材料・
成分等を異にすると主張するのは誤りである。
(2) 公知技術の参酌
 被告らの主張する公知技術(原告の平成13年1月31日付け「早期審査
に関する事情説明書」(乙7の1)に記載された先行技術文献①、②)には、段鼻部
と床材表面角部との間に生じる隙間を充填するという技術思想は明示されていない
から、これをもって、本件発明の構成要件Cの「シーリング剤」を限定解釈するこ
とはできない。
(3) 出願経過の参酌
 被告らの主張する原告の平成13年1月31日付け「早期審査に関する事
情説明書」(乙7の1)の記載は、先行技術と比較してその特徴を強調し明確にする
ものにすぎないのであって、権利範囲についての限定的記載ではない。すなわち、
早期審査に関する事情説明で公知技術の開示と対比説明が求められているのは、本
来、審査請求順に審査する通常の出願への影響を配慮し、審査処理能力の一定部分
を早期審査に振り向けるためのものであるから、早期審査請求の対象出願が拒絶す
べき理由のないことの確度の高いものであることを説明すべく、公知技術の開示と
対比説明を要することとしたにすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。
 原告の上記事情説明書は、そこに記載された先行技術文献①(実開昭59
-78432号のマイクロフィルム、乙7の2)、②(特開昭61-113952号
公開特許公報、乙7の3)には、いずれも段鼻部と床材裏面角部との間に生じる隙間
を充填するという技術思想が開示されていない(つまり、上記先行技術文献①、②
は、いずれも床シートと階段下地の踏み面との重なり部分を強固に接合する機能を
有する「接着剤」の適用については記載されているが、床シートと階段下地のコー
ナー部との重なり部分に生じる隙間を塞ぐように接合する機能を有する「シーリン
グ剤」については何ら記載されていない)点において本件特許権と相違することを
説明したものにすぎず、本件発明の特許請求の範囲を限定しようとしたものではな
い。
 したがって、被告構造が本件発明の技術的範囲に属すると原告が本件訴訟
において主張することは、何ら信義則に反するものではない。
(4) 被告構造へのあてはめ
ア 朝倉書店発行「接着大百科」(甲5の1、2)によれば、「シーリング材」
は、使用対象や使用目的に照らし、チューブ又はカートリッジを容器とすることが
適当であるところ、被告構造の構成cにおける「セメントTH」は500gパック
詰めにしたチューブ状容器に入っており、被告タジマの技術資料(甲3の2)25
頁、27頁記載の施工手順6の説明文及び絵でも、段鼻部にセメントTHを塗布す
るのに、チューブ状容器からノズルを介して、8~10㎜φの太さでビード状に充
填せしめることが示されている。これに対し、被告タジマの「アクサンスかいだん
施工要領書」(甲6)6枚目には、階段「折り曲げ部」(段鼻部)に塗布する材料
物質を「接着剤」と記載しているが、被告タジマがユーザー説明用の用語としてこ
とさら採用したことによるにすぎない。
イ 被告タジマの技術資料(甲3の2)25頁、27頁記載の施工手順6の説
明文及び絵によれば、階段「折り曲げ部」(段鼻部)にシートを貼り付ける作業
に、20~50分のオープンタイムを設けることが指示されている。このような長
時間のオープンタイムの設定は、階段構造を実際に施工する作業者にとって不便で
あるにもかかわらず、これを行う技術的意味は、ダレ落ちを防止するために、オー
プンタイムの間にセメントTHの成分の一つである溶剤分を飛ばして粘度を高める
ことにある。これにより、階段段鼻部にシートを貼り付ける時点では、セメントT
Hが段鼻部に滞留して本件明細書【0019】にいう粘度の高いウレタン樹脂系材
料である「シーリング剤」として好適な所期の機能を果たすことになる。日本規格
協会発行「JISハンドブック 接着(1996年版)」(甲4の1、2)でも、
「ポリウレタンを主成分とするシーリング材」が「建築用シーリング材」の一つと
されている。
ウ セメントTHの500gパック入りと9㎏缶入りの用途が同一である旨の
被告らの主張について反論すれば、その単価(500gパック入りは5本7500
円で1g当たり3円、9㎏缶入りは1万3900円で1g当たり1.5円)の差に
照らすと、1本で1~1.5㎡しか使用できない500gパック入りのものを面接
着に使用することは経済的に合理性がない。セメントTHの500gパック入りの
ラベル(乙2の1、2)には、9㎏缶入りのラベル(乙1)と同じく、「待ち時間1
5分」が記載されているが、その技術資料の施工手順(甲3の2)にはオープンタイ
ムが20~50分であることが明記されている(面接着用のセメントTH9㎏缶入
りと区別された、充填接着用に供するものとして指示されている)のであるから、
上記ラベルの表示は、被告タジマが故意に本件特許権の技術的範囲を潜脱しようと
したにすぎない。被告田島ルーフィングの説明会資料(甲21)においても、セメ
ントTHが増粘タイプであることや、段鼻部へ充填することで、段鼻部を痛めにく
く段鼻部でアクサンスかいだんのずれが生じにくくなるという本件発明の作用効果
を奏することを認めている。
エ セメントTHはダレにくい性質とともにチクソトロピー性を有する旨の被
告らの主張について反論すれば、確かに、セメントTHにはチクソトロピー剤成分
としてシリカが配合されているが、日刊工業新聞社発行「接着ハンドブック(第2
版)」(乙18)456頁によれば、シリカには増粘の機能もあり、補強及びチク
ソトロピー性を付与し、増粘するために、「シーリング剤」でもシリカが成分とな
っているから、チクソトロピー性があるからといって、「シーリング剤」でないと
いうことはない。レオロジー等に関するHP(甲31、32)によれば、チクソト
ロピー性とは粘度の時間依存性があり、せん断をかけ続ければ粘度が減少し続け、
静置しておくと長時間粘度が回復していく性質をいうところ、被告らはこの性質を
利用し、セメントTH500gパック入りの方は、ビード状に絞り出し、そのまま
オープンタイムを取って階段の段鼻部と床材の隙間を充填接着をするのに対し、面
接着用の接着剤セメントTH9㎏缶入りの方は、床面にクシ目ゴテで塗布する、す
なわち、せん断をかけ続けることで粘度が減少し、多数段の床面を塗布する上での
作業性に支障がないようにしている。このように、被告らはセメントTHの適用方
法を用途により使い分け、段鼻部には充填接着剤として用い、床面にはクシ目ゴテ
でせん断をかけて粘度を減少させて面接着剤として使用している。
オ したがって、被告構造のcに用いられるセメントTH(ウレタン樹脂系溶
剤タイプ、500gパック入り)は「シーリング剤」に該当するから、構成要件C
を充足する(同時に、構成要件Dの「接合」も充足する。)。
(被告らの主張)
 被告構造のc’に用いられるセメントTH(ウレタン樹脂系溶剤タイプ、5
00gパック入り)は、「接着剤」であって、本件発明の構成要件C「シーリング
剤」には該当しないから、被告構造は上記構成要件を充足しないというべきであ
る。すなわち、
(1) 本件明細書の記載等
ア 日本規格協会発行「高分子系張り床材用接着剤 JIS A 5536」
(乙4)2頁によれば、高分子系張り床材用接着剤には、その主成分により、ま
た、用途(平場用・垂直面用)等により種々のものがある一方、日本規格協会発行
「JISハンドブック 接着(1998年版)」(乙5)490頁によれば、「建
築用シーリング材」にも、主成分により、また、特性、製品形態、耐久性により種
々のものがあり、各用語自体から直ちに本件発明に用いられる「接着剤」、「シー
リング剤」を一義的に確定することはできない。
イ そこで、本件明細書の特許請求の範囲の記載(本件発明の構成要件B、
C)のほか、発明の詳細な説明欄【0001】~【0007】及び【0010】の
記載によれば、本件発明は、階段用床シートと踏み面との重なり部分は「接着剤」
により、階段用床シートとコーナー部との重なり部分は「シーリング剤」により、
それぞれ接合されている階段構造を特徴とするものである。そして、本件発明の構
成要件Bの「接着剤」及び同Cの「シーリング剤」とは、本件明細書の発明の詳細
な説明欄【0010】及び【0019】によれば、両者は性能を異にし、別個の目
的で使用されるものであり、具体的には、ウレタン樹脂系一液型接着剤は「接着
剤」としては好適に用いられるが、「シーリング剤」はこのウレタン樹脂系一液型
接着剤より固形分が多く粘性が高いものが用いられることが明らかである。一般的
にも、「接着剤」が低粘度又は高粘度であるのに対し、「シーリング剤」が高粘度
又は超高粘度であり、その塗布方法も用いる器具を異にするものである(日本接着
剤工業会発行「接着剤読本」(乙13))から、当業者であれば、特許請求の範囲
に「接着剤」と「シーリング剤」とを区別して記載していれば、両者は異なる成分
のものと認識するのが通常であり、本件明細書の発明の詳細な説明の上記記載も、
このことを説明するものである(目的・用途の別により「接着剤」と「シーリング
剤」が区別されるという原告の主張は、本件明細書の記載に基づかないばかりか、
物の発明である本件発明を用途発明であることを前提として主張するものであり、
本件発明の本質を根本的に誤解している。)。
ウ 本件発明の構成要件Dにおいても、本件発明上、階段用床シートと踏み面
との重なり部分は「接着剤」、階段用床シートとコーナー部との重なり部分は「シ
ーリング剤」という異なる材料により両部材を継ぎ合わせていることから、「接
着」(日刊工業新聞社発行「特許技術用語集」(乙6)によれば、接着とは接着剤
を媒介にして2面を化学的、物理的な力などによって接合することをいう。)では
なく「接合」と表現されており、「接着」と「接合」とが区別して用いられている
ことは明らかである(日本接着剤工業会発行「接着剤読本」(乙13)も両者を区
別する。)。原告も、本件特許出願手続において、平成13年1月31日付け「早
期審査に関する事情説明書」(乙7の1)2頁で、「先行技術文献①(実開昭59-
78432号のマイクロフィルム、乙7の2)、②(特開昭61-113952号公
開特許公報、乙7の3)はいずれも階段用すべり止めシートと階段下地の踏み面、コ
ーナー部、蹴上げとの重なり部分をすべて接着剤で接着するのに対し、本願請求項
1の発明は、階段用床シートと踏み面との重なり部分を接着剤により、階段用床シ
ートとコーナー部との重なり部分をシーリング剤により、それぞれ区別して接合す
る点において構成が相違する。」として、「接着」と「接合」を区別して表現して
いた。このように、本件発明の構成要件Dで「接着」ではなく「接合」という用語
が用いられているのは、「接着剤」と「シーリング剤」とが異なる成分のものと区
別されているからにほかならない。
(2) 公知技術の参酌
 本件特許出願前の公知文献である①実開昭59-78432号のマイクロ
フィルム(乙7の2)、②特開昭61-113952号公開特許公報(乙7の3)及
び③実開平6-20705号のCD-ROM(乙10の1、2)によれば、階段用床
シートと踏み面との重なり部分、階段用床シートとコーナー部との重なり部分のい
ずれにも「接着剤」を用いるものは、本件特許出願時に既に公知の技術であった。
したがって、この公知技術を参酌すれば、本件発明の構成要件Cの「シーリング
剤」が同Bの「接着剤」と同一のものであるとは解されない。
(3) 出願経過の参酌
 原告も、本件特許出願手続において、本件発明が上記(2)①、②の公知技術
を含まないことを認めていた。すなわち、原告は、平成13年1月31日付け「早
期審査に関する事情説明書」(乙7の1)1~2頁で、本件発明と上記(2)①、②の
公知技術とを対比した上、合成樹脂製の階段用床シート(階段用すべり止めシー
ト)を、階段下地の踏み面とコーナー部と蹴上げとにわたって重ね合わせる点で、
両者は共通する、しかし、上記(2)①、②の公知技術は、いずれも階段用すべり止め
シートと階段下地の踏み面、コーナー部、蹴上げとの重なり部分をすべて接着剤で
接着するのに対し、本件発明は、階段用床シートと踏み面との重なり部分を接着剤
により、階段用床シートとコーナー部との重なり部分をシーリング剤により、それ
ぞれ区別して接合する点で相違することを認めていた。さらに、原告は、本件発明
が接着剤とシーリング剤と粘着剤とを使い分け、階段用床シートと踏み面、コーナ
ー部、蹴上げとのそれぞれの重なり部分を区別して接合したため、本件明細書の
【0010】、【0011】記載の作用効果が得られたものであり、このような技
術的思想を開示する先行技術文献は全く見出すことができなかった旨を説明してい
た。特許庁審査官は、原告のこのような説明を相当と認め、本件特許出願について
特許査定したものである。つまり、原告は、本件特許出願手続において、階段用床
シートと踏み面との重なり部分にも、階段用床シートとコーナー部との重なり部分
にも接着剤を用いるものは本件発明と異なることを主張した結果、本件特許発明に
ついて、特許査定を受けることができたものであるから、本件訴訟において、階段
用床シートと踏み面との重なり部分、階段用床シートとコーナー部との重なり部分
のいずれにも「接着剤」を用いる被告構造が本件発明の技術的範囲に属すると主張
することは、信義誠実の原則に反し、包袋禁反言の適用により許されない。
(4) 被告構造へのあてはめ
ア セメントTH500gパック入りとセメントTH9㎏缶入りの適用床材、
適用下地、使い方及び用途に関する表示(乙1、乙2の1、2、甲3の2)が同一であ
ることに照らし、両者の中身が同一であることは明らかである(原告主張の両者の
単価の差につき反論すれば、階段の補修等で数段のみの施工をする等、9㎏缶入り
のセメントTHを使用すると余りすぎてしまうような場合、9㎏缶入りはいったん
開封するとセメントTHを長期間保存できないため、500gパック入りのものが
使用される。)。
イ 被告構造は、階段用床シートと踏み面との重なり部分も、階段用床シート
とコーナー部との重なり部分も、共にウレタン樹脂系一液型接着剤である商品名セ
メントTHという同一の「接着剤」(粘度も同じ)を用いて接着するものにすぎな
い(同一の接着剤を用いて二面をつけているものであり、文字通り「接着」である
から、本件発明の構成要件Dの「接合」も充足しない。)。
ウ チューブ状容器の使用に関する原告の主張について反論すれば、被
告構造において階段用床シートとコーナー部との重なり部分にセメントTHを適用
するに当り、チューブ状容器を使用するのは、被告タジマの技術資料(甲3の2)2
5、27頁に図示されたとおり、折り曲げ部に接着剤を適用するのに便利だからに
すぎない(これに対し、階段用床シートと踏み面との重なり部分に接着剤を使用す
るのにクシ目ゴテを使用するのは、この方が塗布作業性がよく、能率的で仕上りも
よいからである。)。チューブ状容器に充填された接着剤は、文房具店などで一般
に市販されており、接着剤を入れるためのチューブ状容器は実開昭54-2104
9号のマイクロフィルム(乙12の1、2)にも既にみられるところである。したが
って、セメントTH500gパック入りがチューブ状容器に充填されていることを
もって、これが「シーリング剤」に該当するということはできない。
エ オープンタイムに関する原告の主張について反論すれば、溶剤等の揮発分
を含有する接着剤の場合は、オープンタイムを必要とするのが常識である(日本規
格協会発行「高分子張り床材用接着剤」(乙4)7頁、日装連発行「床仕上げ施工
科テキスト プラスチック床材編」96頁(乙11)による。)のに対し、シーリ
ング剤の場合に、このようなオープンタイムを必要とすることはない。そして、セ
メントTH9㎏缶入りと500gパック入りは同じ接着剤であり、粘度の差はな
い。仮に原告の主張するように、「接着剤」と「シーリング剤」の差異がほとんど
粘度の差に帰するとしても、被告タジマの技術資料(甲3の2)には、セメントTH
を「階段用床シートと踏み面」に適用する場合にも「階段用床シートとコーナー
部」に適用する場合にも、共に20~50分程度のオープンタイムをとる旨が指示
され、実際の施工もこの指示どおりに行われており、同じ粘度であることは明らか
であるから、実際の施工の際の粘度の差もない。なお、原告主張のダレ性、すなわ
ち流動特性は、粘度のみに依存するものではない。粘度が高くてもダレやすい接着
剤もあるし、その反対に、粘度が低くてもダレにくい性質のものもある。セメント
THは、ダレるおそれが実質的になくなる程度の流動特性に最初から設定されてお
り、被告タジマの技術資料(甲3の2)25頁にも、蹴上げ面(垂直面)にセメント
THが使用されることが記載されている。
オ したがって、被告構造のc’に用いられるセメントTH500gパック入
りは本件発明の構成要件Cの「シーリング剤」に該当しないから、上記構成要件を
充足しない(同時に、構成要件Dの「接合」も充足しない。)。
2 被告らの共同不法行為
(原告の主張)
(1) イ号構造の工事につき、被告田島ルーフィングは、その材料や関連副資材
を施工業者に販売するにとどまらず、工事受注を斡旋する等、主体的に行動してい
るから、株式会社興永テクノスとの共同不法行為が成立するというべきである。
 その材料や関連副資材の製造業者である被告タジマも、被告田島ルーフィ
ング(被告タジマと代表者が同一であり、株式を持ち合う等、両者は密接な関連を
有する。)や株式会社興永テクノスの本件特許権侵害行為を容認し利用するもので
あるから、被告田島ルーフィングと同様に共同不法行為が成立するというべきであ
る。仮にそうでないとしても、被告タジマは、被告田島ルーフィングの本件特許権
侵害行為を教唆又は幇助するものである。
(2) ロ号構造の工事についても、同工事は被告タジマの指示どおりに施工され
たものであるから、被告タジマにはその施工業者との共同不法行為が成立するとい
うべきである。仮にそうでないとしても、被告タジマは、同施工業者の本件特許権
侵害行為を教唆又は幇助するものである。
(被告らの主張)
 原告の主張(1)、(2)はいずれも争う。
3 本件特許の明白な無効理由(仮定抗弁)
(被告らの主張)
 仮に本件発明の構成要件Cにいう「シーリング剤」が同Bにいう「接着剤」
と同じ成分の接着剤からなるものを含むとすれば、本件特許には次の各無効理由が
存することが明らかであるから、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用であっ
て許されないというべきである。
(1) 本件発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である
特開昭61-113952号公開特許公報(乙7の3)、実開平6-20705号の
CD-ROM(乙10の1、2)及び特公昭55-14223号特許公報(乙17)
に記載された発明と実質的に同一であり、特許法29条1項3号の規定に該当す
る。
(2) 本件発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である
前掲特開昭61-113952号公開特許公報(乙7の3)に記載された発明と日刊
工業新聞社発行「接着ハンドブック(第2版)」(乙18。特に447~449
頁)のシーラントに関する記載に基づき、当業者であれば容易に発明することがで
きたものであり、特許法29条2項の規定に該当する。
(3) 本件発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である
前掲実開平6-20705号のCD-ROM(乙10の1、2)に記載された発明と
前掲「接着ハンドブック(第2版)」(乙18)の記載に基づき、当業者であれば
容易に発明することができたものであり、特許法29条2項の規定に該当する。
(4) 本件発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である
前掲実開昭59-78432号のマイクロフィルム(乙7の2)に記載された発明
と前掲「接着ハンドブック(第2版)」(乙18)の記載に基づき、当業者であれ
ば容易に発明することができたものであり、特許法29条2項の規定に該当する。
(原告の主張)
 本件特許に無効理由は何ら存しないから、被告らの主張(1)ないし(4)の各無
効理由はいずれも争う。
4 原告の損害
(原告の主張)
(1) イ号構造の工事に関し、被告田島ルーフィングによる材料と関連副資材の
販売額は、合計776万1160円であり、このうち同被告の得た利益額は、27
3万6409円である。特許法102条2項により、上記金額が原告の受けた損害
の額と推定される。
(2) ロ号構造の工事に関し、被告タジマによる材料と関連副資材の販売額は、
合計439万3990円であり、このうち同被告の得た利益額は、235万731
7円である。特許法102条2項により、上記金額が原告の受けた損害の額と推定
される。
(被告らの主張)
 原告の主張(1)及び(2)はいずれも否認する。
第3 争点1(本件発明の構成要件C「シーリング剤」の充足性等)に対する当裁
判所の判断
1 本件発明の構成要件Cにいう「シーリング剤」の意義を検討するに当たって
は、同Bにいう「接着剤」の意義と対比しつつ、その内容を検討する必要がある
が、本件特許請求の範囲の記載上、両者の意味は必ずしも一義的ではないから、本
件明細書の発明の詳細な説明欄の記載や図面を考慮する必要がある。
 証拠(甲2)によれば、本件明細書には次の記載があることが認められる
(以下、括弧内の記載は本件明細書の発明の詳細な説明欄の該当段落番号を指
す。)。
(1) 本件発明は、階段構造、特に階段の踏み面から蹴上げにわたって階段用床
シートを設けて防滑性や遮音性を高めるようにした階段構造に関するものである
(0001)。従来より、平面の踏み面から蹴上げの一部に、昇降時の騒音を軽減
したり防滑性を高めたりするために、合成ゴム製の床シートを貼り付けることがあ
った(0002)。しかし、合成ゴム製の階段用床シートは、表面が平滑な階段下
地の踏み面に対する接合強度をそれほど高くすることができないため、剥離したり
位置ずれしたりするという心配や、剥離したり位置ずれしたりした床シートに歩行
者がつまずくといった危険があった。また、合成ゴム製の階段用床シートは耐候性
に乏しいので、屋外に設けた階段に使用すると、比較的短期間のうちに劣化してし
まうという問題があった(0003)。そこで、本件特許出願人は、先に、軟質塩
化ビニル樹脂製シートの裏面全体にブチルゴム系粘着剤を積層した構造の階段用床
シートを提案した。この階段用床シートを鉄骨製階段の踏み面に貼り付けた階段
は、上述した合成ゴム製の階段用床シートを貼り付けた階段に比べて耐剥離性や耐
候性が向上し、同時に合成ゴム製の階段用シートを貼り付けた階段に比べ
て遜色のない防滑性や遮音性が得られた(0004)。しかし、上記の軟質塩化ビ
ニル樹脂製シートの裏面全体にブチルゴム系粘着剤を積層した構造の階段用床シー
トを踏み面に貼り付けた階段にあっても、踏み面に貼り付いているブチルゴム系粘
着剤が軟化すると位置ずれの起こる可能性を否定できないことが判明した。特に、
気温の高い夏場の屋外では、踏板に使われている鋼板の温度が上がってブチルゴム
系粘着剤が軟化しやすい状況になるため、歩行が頻繁に行われると当該床シートが
位置ずれする可能性を否定できないことが判明した(0005)。そこで、本件発
明は、従来の合成ゴム製床シートを貼り付けた階段構造や、裏面全体にブチルゴム
系粘着剤を積層した合成樹脂製の床シートを貼り付けた階段構造に比べて、遜色の
ない防滑性や防音性を発揮しつつ、位置ずれの危険性の少ない階段構造を提供する
との目的を達成するため、本件特許請求の範囲所定の構成としたものである(00
06、0007)。本件発明によれば、床シートと階段下地の踏み面との重なり部
分が全体的に接着剤により強固に接合されているので、踏圧による床シートのズレ
は皆無に近くなる。また、床シートと階段下地のコーナー部との重なり部分はシー
リング剤で接合され、コーナー部に生じる隙間が該シーリング剤で塞がれているこ
とから、昇降時の踏圧による床シートのコーナー部でのヘコミやズレも激減すると
いう作用効果を奏する(0010、0026)。
(2) 本件発明の実施例として、「図1及び図2に示すように、この階段用床シ
ート2は階段下地1の踏み面11から蹴上げ13の上部に亘って重ねられ、床シー
ト2の踏み面被覆部22と階段下地1の踏み面11との重なり部分が接着剤3によ
って全体的に強固に接合されている。そのため、昇降時の踏圧による床シート2の
ズレを生じる心配は皆無に等しい。そして、図1、図2、図4に示すように、床シ
ート2のアールを付けたコーナー被覆部23と階段下地1のコーナー部12との重
なり部分はシーリング剤4によって隙間なく接合され、(中略)踏圧により床シー
ト2のコーナー被覆部23にヘコミやズレが生じることは殆どなく、」(001
7)、「前記の接着剤3としては、例えばウレタン樹脂系一液型接着剤やエポキシ
樹脂系二液型接着剤が好適に使用される。また、前記のシーリング剤4としては、
接着剤より固形分が多く粘性が高いシリコン樹脂系シーリング剤、ウレタン樹脂系
シーリング剤、ポリサルファイド系シーリング剤等が好適に使用される。」(00
19)、「階段下地1の踏み面11のほぼ全面に接着剤3を付着し、コーナー部1
2に垂れにくいシーリング剤4を付着する。」(0022)、「接着剤3、シーリ
ング剤4、粘着剤5等の接合剤は、貼り合わせ前に階段下地1又は床シート2のど
ちらかに付着させればよく、更に、これらの接合剤の粘度、接着力、粘着力など
は、階段下地1と床シート2との接合強度や貼り合わせ作業等を考慮して適宜選択
すればよい。」(0025)ことがそれぞれ記載されている。
2(1) 上記1認定の事実によれば、本件発明における「接着剤」、「シーリング
剤」とは、いずれも2つの材料をつなぎ合わせるものである点で「接合剤」という
上位概念に包摂されるものではある(日刊工業新聞社発行「特許技術用語集」(乙
6)89、90頁に、「接合」とは「二つの部材を継ぎ合わせること」をいい、
「接着」とは「接着剤を媒介にして2面を化学的、物理的な力などによって接合す
ること」をいうとされていることとも整合する。)。しかし、本件明細書の特許請
求の範囲の記載上、わざわざ「接着剤」と「シーリング剤」を区別して用いている
ほか、その実施例中にも両者を対比した記載がある(0019、0022、002
5)ことに照らせば、本件発明において、「接着剤」と「シーリング剤」が全く同
一成分の接合剤であることは予定されていないというべきである。そして、本件明
細書の記載によれば、「接着剤」は、床シートと階段下地の踏み面との重なり部分
を全体的により強固に接合することにより、踏圧による床シートのズレをなくすと
いう点で、結合力の強さが要求されるものである。これに対し、「シーリング剤」
は、床シートと階段下地のコーナー部との重なり部分の接合に際し、コーナー部に
生じる隙間を塞ぎ、昇降時の踏圧による床シートのコーナー部でのヘコミやズレも
激減させるという点で、密閉性や弾性力の高さが要求されるものである。この点
で、「シーリング剤」は「接着剤」とは内容的に相違するというべきである(な
お、原告は、他の多くの特許出願において、同じ成分からなる組成物を「接着剤」
及び「シーリング剤」の各用途に用いることが記載されている旨を主張するが、本
件明細書の記載に基づくものではなく、失当である。)。
(2) 「接着剤」と「シーリング剤」の意義をこのように解することは、当業界
の技術用語の通常の意味とも合致する。すなわち、
ア 日本接着剤工業会発行「接着剤読本」(乙13)1頁「1.接着、接着剤
とは」によれば、「広辞苑で、接合と引いてみた。つなぎ合わせることと書いてあ
った。すなわち物と物とをつなぎ合わせることを接合という。接合の方法には、釘
止め、ねじ止め、溶接、縫い合わせ、はめ込みなど、多くの方法がある。接着剤を
使用してつなぎ合わせることを接着という。接着も接合の一方法である。ここで、
接着および接着剤の定義づけをしておく。国際標準化機構であるISO(The
International Organization for Standardizationの略称)の接着用語説明を引用
するならば、接着(Adhesion)とは、二つの面が化学的なあるいは物理的な力か
ら、あるいはその両者によって一体化された状態であり、接着剤(Adhesive,Bond
Agent)とは、接着によって2個以上の材料を一体化することができる物質、という
ことができる。」と記載されている。さらに、上記文献(乙13)122頁「表5
‐1 接着剤の塗布方法」には、接着剤が低粘度又は高粘度であるのに対し、シー
リング剤は高粘度又は超高粘度であることや、その塗布方法も、塗布する形状が同
じ場合でも、接着剤とは用いる器具を異にする(接着剤の塗布に用いられる器具の
うち「はけ、注射器、タンク付きローラ、ロールコーター、加圧タンク式のフロー
ブラシ及びスプレーガン」等は、シーリング剤の塗布に用いることができない)こ
とが記載されている。
イ 日本実業出版社発行「接着技術のはなし」(甲19の1、2)41頁によれ
ば、「接着剤もシーリング材も、二つの材料をつなぎ合わせるものということには
違いありません。両者とも、あるレベルの結合力は必要とされるのですが、JIS
の定義では接着剤を『物体の間に介在することによって物体を結合することのでき
る物質』としています。一方のシーリング材については、『構造体の目地・間隙部
分に充てんして、防水性・気密性などの機能を発揮させる材料』としています。接
着剤では、一般に接着強さ(結合力)の大小と耐久性の良否が問題となり、接合部
に変形が生じることは好ましくありません。このため、(中略)凝集力の大きなポ
リマーを接着剤として用い、接着層の厚さも薄くするようにします。(中略)シー
リング材では、間隙の大小があっても特性に変動があってはならないので、柔軟性
があり硬化時の体積収縮の少ない材料が主に用いられています。(中略)使用時の
『ダレ』を防止するために、接着剤よりもシーリング材のほうが高粘度であるのが
一般的です。」と記載されている。実際、日本規格協会発行「JISハンドブック
29接着(2003年版)」(甲35の1、2)19頁、20頁には、これに沿う定義
の記載がある。
ウ 日刊工業新聞社発行「接着ハンドブック(第2版)」(乙18)447頁
によれば、「シーラント(Sealant)は接着剤と機能的にオーバーラップすることが
往々にしてある。しかし、シーラントは物体間を結合するという接着剤としての機
能を持つが、一般には接合構造体の構造強度にかかわることは必要としない。すな
わち、接着剤の第一の機能は、一方の被着物体から他方に接合継手を介してロード
を伝達するように二つ以上の物体を結合させることにあるが、シーラントの基本的
な機能は物体間を結合すると同時に、その結合継手部分で各被結合物体間のストレ
スや熱、振動などの伝達を遮断または減少すると共に、被結合物体が形成する内外
部の空間とを、熱、音、液体、気体、ほこりなどをいずれかの空間に封じ込めて絶
縁することである。また、物体間の継手だけではなく、穴やすき間などの空間をふ
さいで上記のような絶縁を行うものである。」と記載されている。
エ 朝倉書店発行「接着大百科」(甲5の1、2)445、446頁によれば、
「シーリング材とコーキング材(同446頁によれば、特に高性能のシーリング材
をいう。)は、同種または異種の被着材が取り合う目地、隙間、空隙を埋めるため
に使われる。」、「シーリング材は接着性能をもつ弾性材料である。シーリング材
/接着剤とは接着性能をもつ弾性材料で、接着したときに構造強さを発揮できるもの
をいう。」と記載されている。日本規格協会発行「JISハンドブック 接着(1
998年版)」(乙5)によれば、その目次上、「粘着テープ類」や「主要被着
材」と同レベルで、「接着剤」と「シーリング材・コーキング材」とが相違するも
のとして体系づけられているほか、同485~489頁でも、シーリング
材(sealant)とは「不定形の状態で用い、目地の適切な面に接着させることによっ
てシールする材料」と定義され、特に建築用シーリング材については、その性能の
試験項目の一つに弾性復元性が挙げられている。
(3) これに対し、原告は、「接着剤」と「シーリング剤」とは、目的・用途に
より区別される旨を主張する。
 確かに、セメダインのHPの「接着基礎知識」(甲24)によれば、「接
着剤をどのような目的、用途で使用するのか。強力な構造接着か、一時的な仮止め
接着か、充填接着か、あるいはコーティング材として使用するのかで選ぶ接着剤の
種類も変わってきます。」という記載があることが認められる。しかし、同HPは
「接着剤は本来、物と物とを接合するのが基本機能です。しかし最近では(中略)
いろいろな働きがもとめられるようになりました。(中略)接着機能以外の特性を
強調した接着剤を総称して機能性接着剤と呼びます。」と定義づけるものであるこ
とや、本件明細書上は「接着剤」及び「シーリング剤」とは別概念であることが明
らかな「粘着剤」(本件明細書の特許請求の範囲請求項2及び発明の詳細な説明0
025)まで「感圧形接着剤」と呼称していること等に照らすと、本件発明におけ
る「接合剤」に相当するものを同HP上では接着剤と総称したにすぎないとも解さ
れる。Chem-StationのHP(甲26の1~3)にも、「シール材」として「物をくっ
つけるというもの以外の用途にも接着剤は使われている。それがシール材(シーリ
ング材)としての接着剤の利用である。」という記載はあるが、同HPにおける
「接着」の意味の一つとして「2つの表面が何らかの界面力により結合している状
態」が挙げられ、「私たちが使っているもの以外にもたくさん接着剤はある。しか
しどれも身近な製品の中で接合という不可欠な部分でこれらは大いに役に立ってい
る。」とも記載されているから、セメダインのHPと同様に、本件発明における
「接合剤」に相当するものを接着剤と総称したにすぎないとも解される(むしろ、
シーリング材については「もちろん接着としての意味もあるのだが、それ以上に気
密性を上げるという効果がある。」(甲26の3)と記載されており、接着よりも気
密性を重視した部材である趣旨が窺われる。)。面接着用が「接着剤」、充填用が
「シーリング剤」である旨のシーリング剤関係会社従業員の陳述書(甲22)もあ
るが、同陳述書も、両者の相違が粘度の差にあること自体は認めるものであり、
「ウレタン樹脂系シーリング剤の場合、接着剤としてのウレタンポリマーにフィラ
ー(充填剤・ダレ防止剤)をその用途に応じ付加する」ことに言及していることに
照らせば、成分による相違を否定し去る趣旨のものとはいえない。
 したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
3(1) さらに、本件発明における「接着剤」と「シーリング剤」とを上記2のよ
うに相違するものと解することは、本件特許出願の経過とも合致する。すなわち、
本件特許出願手続における原告の平成13年1月31日付け早期審査に関する事情
説明書(乙7の1)の「2.先行技術の開示及び対比説明」には、次の記載があるこ
とが認められる。
「発見された先行技術文献は以下の通りである。
① 実開昭59-78432号(実願昭57-172966号マイクロフイ
ルム)(乙7の2)
 この文献には、先端部をL字状に折曲した合成樹脂製シート本体の該L字
状先端部にすべり止め部を形成した階段用すべり止めシートを使用し、この階段用
すべり止めシートを階段の隅角部、踏み面、蹴上げ部に亘って全体を接着剤で接着
して被覆した階段の構造が記載されている。
② 特開昭61-113952号公報(乙7の3)
 この文献には、階段の踏み面を覆うすべり止め本体の前端から、階段の蹴
込み面を覆う前方固定舌を下方へ延設した合成樹脂製又はゴム製の階段用すべり止
めシートを使用し、すべり止め本体の下面及び前方固定舌の裏面に接着剤を塗布
し、すべり止め本体を階段の踏み面に、前方固定舌を階段の蹴込み面に貼付けて被
覆した階段の構造が記載されている。」
「本願の請求項1、2の発明と先行技術文献①、②を対比すれば、合成樹脂
製の階段用床シート(階段用すべり止めシート)を、階段下地の踏み面とコーナー
部と蹴上げとに亘って重ね合わせる点で、両者は共通する。
 しかしながら、先行技術文献①、②はいずれも、階段用すべり止めシート
と階段下地の踏み面、コーナー部、蹴上げとの重なり部分をすべて接着剤で接着す
るのに対し、本願請求項1の発明は、階段用床シートと踏み面との重なり部分を接
着剤により、階段用床シートとコーナー部との重なり部分をシーリング剤により、
それぞれ区別して接合する点において構成が相違する。(中略)
 上記のように、本願請求項1、2の発明は、接着剤とシーリング剤と粘着
剤とを使い分け、階段用床シートと踏み面、コーナー部、蹴上げとのそれぞれの重
なり部分を区別して接合したため、本願明細書(中略)の段落番号[0010]、
[0011]に記載の如き作用効果が得られたものであり、このような技術的思想
を開示する先行技術文献は全く見出すことができなかった。」
(2) 原告の上記事情説明書(乙7の1)では、階段用床シートと踏み面との重
なり部分も階段用床シートとコーナー部との重なり部分も、同じ成分の接着剤を用
いるものは本件発明とは異なること、階段用床シートとコーナー部との重なり部分
に従来技術で使用されていた接着剤に代えてシーリング剤を使用した点が本件発明
の特徴である旨が主張されているのであって、本件特許出願を担当した特許庁審査
官が、原告のこの主張を相当と認めて早期審査の対象とし(乙8)、本件特許査定
(乙9)に至ったことは明らかである。このように、特許出願手続において、特許
出願人が早期審査に関する事情説明書を提出し、その中で先行技術文献と対比して
当該発明との相違点や当該発明の特徴を説明するなどし、これが特許庁審査官に受
け入れられて早期審査の対象とされ特許査定に至った場合には、特許出願人が同事
情説明書で述べた内容は、当該特許発明の技術的範囲の確定に当たって参酌される
べきであり、また、侵害訴訟において同事情説明書で述べた内容と異なる主張をす
ることは、信義誠実の原則ないし禁反言の法理に照らして許されないものというべ
きである。
 これに対し、原告は、上記事情説明書では、上記先行技術文献①、②に
は、いずれも段鼻部と床材裏面角部との間に生じる隙間を充填するという技術思想
が開示されていない点で本件特許権と相違することを説明したものにすぎず、本件
発明の特許請求の範囲を限定したものではない旨を主張し、上記事情説明書の作成
を担当したという原告補佐人弁理士の陳述書(甲28)にも同様の認識であった旨
が記載されている。しかし、上記事情説明書(乙7の1)の記載からは、原告主張の
ような内容の説明にとどまるものと解することはできないから、原告の上記主張は
採用することができない。
4 以上の本件発明の構成要件の解釈を基に、被告構造のbに用いられるセメン
トTH9㎏缶入りが本件発明の構成要件Bにいう「接着剤」に該当する(当事者間
に争いがない。)ことを前提としつつ、被告構造のcに用いられるセメントTH5
00gパック入りが本件発明の構成要件Cにいう「シーリング剤」に該当するかを
検討する(被告主張の被告構造c’は、図面4の説明を斟酌すれば、原告主張の被
告構造cと同一であり、表現上の相違にとどまるから、以下では、単に被告構造の
cのみを記載するにとどめる。なお、イ号構造とロ号構造とは、シート部分がけこ
みシート(蹴上げ用床材)と踏面シート(階段用床シート)とに分かれているか、
両シートが一体となっているかの差にすぎず(当事者間に争いがない。)、この構
成の相違が上記争点に対する判断に影響するものではないから、イ号構造及びロ号
構造を区別することなく、一括して検討すれば足りる。)。
(1)ア セメントTH500gパック入りのラベル(乙2の1、2)には、ウレタ
ン樹脂系溶剤タイプであり、その特長として、一液性の反応硬化型接着剤(湿気硬
化タイプ)であり、ウレタン下地への接着性が良好である旨が、適用床材として、
アクサンスかいだん、蹴込みシート、踊り場シートなどが、塗布後の経過時間(室
温20℃)として最初の0~15分が待ち時間、次の15~50分が張付け可能時
間である旨がそれぞれ表示されている。標準塗布面積の点を別とすれば、その余の
記載についても、セメントTH9㎏缶入りのラベル表示(乙1)と異なるところは
ない。
イ 被告タジマの技術資料(甲3の2)25、27頁の関連副資材の説明にお
いて、セメントTH500gパック入りは、同9㎏缶入りのものと区別することな
く、いずれもウレタン樹脂系溶剤形のタイプであり、踏み面、アクサンスかいだん
裏面折り曲げ部、踊り場、蹴上げ用接着剤の用途がある旨が記載されており、内容
量の点を別とすれば、両者の間に相違があるものとは記載されていない。被告タジ
マの「アクサンスかいだん施工要領書」(甲6)の使用材料一覧表には、踏み面を
使用部位とする際に使用されるセメントTHとして、9㎏缶入りのもののほか、5
00gパック入りのものも記載されている。
ウ 被告タジマの技術資料(甲3の2)25~28頁のアクサンスかいだんの
施工手順の説明において、セメントTH500gパック入りにつき、「アクサンス
かいだんST(又はLT)の裏面の折り曲げ部に、セメントTH(500gパック
を使用して)を8~10㎜φ(タバコの太さ)の太さでビード状に両端より約20
㎜内側に塗布してください。アクサンスかいだんST(又はLT)を貼り付けた
時、アクサンスかいだんST(又はLT)の折り曲げ部から蹴上げ部に接着剤がゆ
き渡り強固に接着出来ます。※貼り付けまでのオープンタイムは20~50分程度
とします。」との指示がある一方、セメントTH9㎏缶入りについても、「セメン
トTH(9㎏缶)を踏み面部全面に、クシ目ゴテで塗布してください。※貼り付け
までのオープンタイムは20~50分程度とします。」という同様の記載があるほ
か、蹴上げ部(垂直部)への接着剤の塗布に際し、セメントTH9㎏缶入りを使用
することも指示されている。接着面全面に広がるようにクシ目ゴテを用いるか、折
り曲げ部にビード状に塗布するかという点を別とすれば、両者の間に相違があるも
のとは記載されていない。
エ セメントTHを用いた経験のある施工業者作成の陳述書(乙15の1~
7)によれば、実際の施工に当たり、500gパック入りを用いる場合も9㎏缶入り
を用いる場合も、上記ウの施工手順で指示された範囲内のオープンタイムをとって
おり、500gパック入りのものだけ特別に長いオープンタイムを設けることはし
ていないことが認められる。
(2) 上記(1)認定の事実によれば、セメントTH500gパック入りは、セメ
ントTH9㎏缶入りのものと同一成分のものということができる。
 これに対し、原告は、①セメントTH500gパック入りが「シーリング
剤」の使用対象や使用目的に適したチューブ状容器に入れられている、②単価の高
いセメントTH500gパック入りを9㎏缶入りと同一の用途である面接着に使用
することは経済的に合理性がない、③被告タジマの施工手順に長時間のオープンタ
イムを設けることが指示されているのは、オープンタイムの間に、ダレ落ち防止の
ために、セメントTHの成分の一つである溶剤分を飛ばして粘度を高めることにあ
る、④被告田島ルーフィングの説明会資料(甲21)においても、セメントTHが
増粘タイプであることや、段鼻部へ充填することで、段鼻部を痛めにくく、段鼻部
でアクサンスかいだんのずれが生じにくくなるという本件発明の作用効果を奏する
ことが記載されている、⑤セメントTHはウレタン樹脂系溶剤形であり、ポリウレ
タンを主成分とするシーリング材は建築用シーリング材の一つとされているなどと
主張する。
 しかし、①に対しては、チューブ状容器それ自体は接着剤の容器としても
用いられることは公知の事実であるほか、セメントTH500gパック入りに使用
されるチューブ状容器(甲3の2)が専らシーリング材に用いられるような特殊な形
状を有しているとも認められないから、チューブ状容器の使用をもって「シーリン
グ剤」に該当するということはできない。②に対しては、被告らの主張するよう
に、階段の補修等の数段のみの施工をする等、若干量のセメントTHを使用すれば
足りる場合にも、いったん開封すれば長期間の保存が利かない9㎏缶入りを使用す
れば、残量(たとえば、セメントTHの必要な使用量が1㎏のみにとどまれば、残
8㎏)を廃棄せざるを得ないことになるから、500gパック入りのものを使用す
ることに経済的合理性がないとはいえない。③に対しては、そもそもオープンタイ
ムとは、日本規格協会発行「JISハンドブック29接着(2003年版)」(甲3
5の1、2)16頁によれば「接着剤を被着材に塗布して張り合わせるまでの張り合
せ可能時間」と、日装連発行「床仕上げ施工科テキスト プラスチック床材編」
(乙11)96頁によれば「接着剤を塗布してから床材を張り付けるまで解放して
おく時間のことを言うが、接着剤を塗布後最適の粘着性を示すようになるまでの経
過時間をオープンタイムと呼ぶ。」とされているとおり、接着剤に関する概念であ
り、シーリング剤(シーリング材)に関する概念ではない。また、被告タジマの技
術資料(甲3の2)26、28頁では、セメントTHは、500gパック入りのもの
だけではなく、9㎏缶入りのものについても、オープンタイムを設けることが指示
されているから、仮に原告主張のようにオープンタイムを設けたことによりセメン
トTHが「シーリング剤」に該当するとすれば、9㎏缶入りのものも「シーリング
剤」となり、本件発明の構成要件Bにいう「接着剤」に該当しないことになってし
まう。さらに、被告タジマの開発部員が作成した実験報告書(乙14)によれば、
セメントTHは垂直な壁面に塗布しても、ダレるおそれのない程度の流動特性を最
初から有していることが認められる(これに対し、原告の技術課員作成の実験報告
書(甲29)によれば、被告タジマのセメントTHについてダレを確認する実験を
行ったところ、セメントTH9㎏缶入りの一部(Lot番号011217)にダレが生
ずる結果になったことは認められるが、同時に実験対象に
した入手時期の新しいセメントTH9㎏缶入り(Lot番号03.04.04-N1)にはダレが
みられないという結果になっているから、前者は改良前の製品ではないかという疑
問(甲21によれば、被告タジマは、アクサンスかいだんに使用するセメントTH
は増粘タイプのものであるとしており、改良されていることが窺われる。)がある
ほか、被告タジマの技術資料(甲3の2)には、階段蹴上げ部という垂直面に9㎏缶
入りのものを塗布する旨が指示されている点でも、被告タジマの実験報告書(乙1
4)の実験結果を覆すには足りない。)から、原告主張のダレ落ち防止という目的
があるとはいえない。なお、原告は、セメントTHの粘度の時間依存性(チクソト
ロピー性。せん断をかけ続ければ粘度が減少し続け、静置しておくと長時間粘度が
回復していく性質をいう(甲31、32)。)があることを利用して、被告らがセ
メントTHの適用方法を用途により使い分け、段鼻部には充填接着剤として用い、
床面にはクシ目ゴテでせん断をかけて粘度を減少させて面接着剤として使用するに
すぎない旨を反論する。しかし、セメントTHは、500gパック入りのものも9
㎏缶入りのものもオープンタイムを設けることとされているのであるから、この間
に粘度が回復すると考える余地がある(原告主張のように、オープンタイムの間に
せん断をかけ続けることは、被告タジマの技術資料(甲3の2)上も、全く予定され
ていない。)ほか、クシ目ゴテで塗り拡げられることにより、その表面積がより広
くなる9㎏缶入りの方が、ビード状に塗布されるにとどまる500gパック入りの
ものより、溶剤の揮発性が促進される(原告の主張を前提とすれば、かえって9㎏
缶入りの方が粘度が高くなる。)というべきである。④に対しては、その説明会資
料(甲21)の記載内容を全体的に考察すれば、増粘タイプというのも、従来のア
クサンスかいだんと比較したものであって、セメントTH500gパック入りのも
のが同9㎏缶入りのものと比較してより増粘性を有することを自認する趣旨でない
ことは明らかである。また、本件発明の作用効果と同一の作用効果を奏することが
記載されているとしても、直ちに本件発明の構成要件をすべて充足することにはな
らないことも明らかである。⑤に対しても、セメントTHはウレタン樹脂系溶剤形
であり(甲3の2)、ポリウレタンを主成分とするシーリング材が建築用シーリング
材の一つとされている(甲4の1、2)ことは認められるが、ポリウレタンを主成分
とするものは、建築用シーリング材に限られず、接着剤にも存する(乙11)か
ら、その主成分を根拠として、セメントTHが建築用シーリング材に該当するとい
うことはできない。この点に関する原告の主張はいずれも採用することができない
(原告は、セメントTH500gパック入りが本件発明の構成要件Cにいう「シー
リング剤」に該当する旨の見解を述べる意見書(甲20)を提出するが、既に判示
した点に照らし、採用の限りではない。)。
(3) したがって、被告構造のcに用いられるセメントTH500gパック入り
は本件発明の構成要件Cにいう「シーリング剤」に該当しないというべきである。
 よって、被告構造は、本件発明の技術的範囲に属さない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、い
ずれも理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
    裁判長裁判官   小  松  一  雄
       裁判官 田  中  秀  幸
  裁判官 守  山  修  生
(別紙)
物件目録1図面1ウエストコート5番街「階段配置図」図面2イ号構造断面図図面
3使用状態を示す斜視図図面4イ号構造断面図物件目録2図面1板橋前野町ハイツ
「階段配置図」図面2ロ号構造断面図図面3使用状態を示す斜視図図面4ロ号構造
断面図

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