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平成15(ネ)1829民事訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年10月30日
事件種別 民事
法令 商標権
不正競争防止法2条1項1号3回
不正競争防止法2条1項13号3回
キーワード 侵害8回
商標権8回
損害賠償2回
差止2回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(ネ)第1829号 商標権侵害排除請求控訴事件
平成15年10月30日判決言渡、平成15年9月30日口頭弁論終結
(原審・甲府地方裁判所平成13年(ワ)第510号、平成15年2月25日判
決)
         判    決
   控訴人(原告)  X  
   訴訟代理人弁護士   中込博、堀内寿人、石川恵
   補佐人弁理士     土橋博司
   被控訴人(被告)   株式会社オギノ 
              (「被控訴人オギノ」と表示)
   訴訟代理人弁護士   酒井昌男、埴原一也
   被控訴人(被告)   株式会社米福
              (「被控訴人米福」と表示)
   訴訟代理人弁護士   反田一富
         主    文
  本件控訴を棄却する。
  控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴人の請求
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人オギノは、米穀類その他の食品を販売するにつき、その包装袋、広
告及び看板に原判決添付別紙第1目録記載の標章(以下「第1標章」という。)並
びに「武川米こしひかり」、「こしひかり武川米」及びこれに類する標章を使用し
てはならない。
 3 被控訴人オギノは、その本店、支店、営業所、販売所及び倉庫に存する第1
標章を付した包装袋、広告及び看板を廃棄せよ。
 4 被控訴人米福は、米穀類その他の食品を販売するにつき、その包装袋、広告
及び看板に原判決添付別紙第2目録記載の標章(以下「第2標章」という。)並び
に「武川米こしひかり」、「こしひかり武川米」及びこれに類する標章を使用して
はならない。
 5 被控訴人米福は、その本店、支店、営業所、販売所及び倉庫に存する第2標
章を付した包装袋、広告及び看板を廃棄せよ。
 6 被控訴人オギノは、控訴人に対し、582万4898円を支払え。
 7 被控訴人米福は、控訴人に対し、105万3511円を支払え。
第2 事案の概要
 1 控訴人は、(1)被控訴人オギノに対し、同被控訴人による第1標章の使用行為
が控訴人の有する商標権(商標登録第4190897号。以下「本件商標権」とい
い、その登録商標を「本件商標」という。)の侵害又は不正競争行為(不正競争防
止法2条1項1号)に当たるとして、第1標章の使用行為の差止め、侵害行為を組
成した物の廃棄及び損害賠償金の支払いを、(2)被控訴人米福に対し、同被控訴人に
よる第2標章の使用行為が控訴人の有する本件商標権の侵害又は不正競争行為に当
たるとして、第2標章の使用行為の差止め、侵害行為を組成した物の廃棄及び損害
賠償金の支払いを、それぞれ求めた。原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却し、
これに対し、控訴がされたものである。
 2 本件において争いのない事実、争点及び当事者の主張は、次の3のとおり、
当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決事実及び理由欄の「第2 事
案の概要」のとおりである。
 3 控訴人の主張の要点
  (1) 原判決は、本件商標中の「武川米こしひかり」の部分は、単に産地名と米
の品種名を想起させるにすぎないから、自他識別力がないと判示し、本件商標は、
その他の特徴的な図柄等からなる全体の構成が一体となって自他識別力を有するに
至っていると認定した。しかし、「武川米こしひかり」は極めて限定された地域の
ものであり、その地域ならではの特産品としてブランド化し、そこに商品としての
自他識別力が認められるものであるから、原判決の上記認定は誤りである。現に、
地方における限定された地域が産地である場合には、産地名と米の品種名を組み合
わせた商標が自他識別力のあるものとして、多数、商標登録がされている。
 「武川米こしひかり」の語は、山梨県内で有数の精米販売業者である控訴人が昭
和54年ころから使用し始め、同県内及び長野県内においても「武川米こしひか
り」の語を使用して精米を販売したことにより、取引者又は需要者が控訴人の商品
表示として認識し又は認識し得る取引状況下において、控訴人により「武川米こし
ひかり」の商標が使用されていたものである。控訴人からの警告により多くの業者
が「武川米こしひかり」の商標使用を中止し、また控訴人の会社と商標使用権設定
契約を締結している事実は、「武川米こしひかり」が控訴人の商品表示として認識
されていたことを示すものであり、これらの実態からすれば、「武川米こしひか
り」には自他識別力があるというべきである。これを無視ないし軽視した原判決は
誤りである。
  (2) 「武川米」と称される米の産地は、本来、山梨県北巨摩郡釜無川西岸とい
う狭い限定された地域である。被控訴人らは、これ以外の地域から産出された米に
ついても「武川米こしひかり村」との商標を使用して販売している。これは、商品
の「原産地、品質、内容」について誤認させるような表示をし、その商品を譲渡し
ているものであるから、不正競争防止法2条1項13号に該当するというべきであ
る。
第3 当裁判所の判断
 1 商標権侵害及び不正競争防止法2条1項1号該当性について
 当裁判所も、第1標章及び第2標章は、本件商標と類似するものではないから、
控訴人の商標権侵害に基づく請求は理由がなく、また、被控訴人らによる第1標章
及び第2標章の使用行為は不正競争防止法2条1項1号に該当するものではないか
ら、同法条に基づく請求は理由がないと判断するものである。
 その理由は、原判決事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」の1、2の項に
示されるとおりであるから、これを引用する。なお、控訴人の主張にかんがみ、次
のとおり補足する。
  (1) 控訴人は、「武川米こしひかり」は極めて限定された地域のものであり、
その地域ならではの特産品としてブランド化し、そこに商品としての自他識別力が
認められると主張する。しかし、原判決摘示の証拠によれば、「武川米」との称呼
は、山梨県北巨摩郡武川村及びその周辺を中心とする地域を産地とする米を指す通
称として、本件商標登録出願前から、控訴人以外の者によっても広く用いられてい
たことが認められるから、「武川米」に「こしひかり」を結合した「武川米こしひ
かり」という語は、これを普通に用いられる方法で表示している限りでは、控訴人
又は同人が代表者である株式会社丸山商店(以下「丸山商店」という。)の商品で
あることを示すものとしての自他識別力を有するものではないというべきである。
控訴人は、産地名と米の品種とを結合した標章が自他識別力を有するものして商標
登録されている例があると指摘するが、控訴人の指摘する事実は、産地名と米の品
種名とを結合した標章であっても、特定の者だけが長年にわたり使用してきた等の
事情によって、自他識別力を有するに至ったと判断され、登録されることもあり得
るということを示すものにすぎない。本件商標が、上記のような事情により自他識
別力を有するに至った標章であるとは、本件全証拠によっても認めることができな
い。
 なお、控訴人は、控訴人からの警告により多くの業者が「武川米こしひかり」の
標章使用を中止し、また控訴人の会社と商標使用権設定契約を締結している事実を
指摘するが、警告を受けた者が、本件商標権の範囲を的確に判断することができな
いときに、紛争を回避したいとの意図の下に、「武川米こしひかり」の標章使用を
中止したり商標使用権の設定を受けることは、ある意味では自然な行動とも考えら
れるから、控訴人の指摘する事実は、「武川米こしひかり」が控訴人又は丸山商店
の商品表示として認識されてきたことを直ちに推認させるものではない。
  (2) したがって、本件商標の構成中「武川米こしひかり」の部分は、それだけ
では自他識別力のある要部とは認められず、本件商標は、「武川米こしひかり」の
文字のほか、それ自体特徴的な図形等からなる原判決添付別紙第3目録記載の全体
の構成が一体として自他識別力を有するに至っているというべきである。
 第1標章及び第2標章は、「武川米」「こしひかり」の文字部分以外には本件商
標と共通する部分を何ら有しないものであるから、本件商標に類似するとはいえな
い。
  (3) また、上に説示したところから、被控訴人らが第1標章又は第2標章を付
して商品を販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号にいう「類似の表示を使
用」したとも、「他人の商品と混同を生じさせ」たともいえないことが明らかであ
る。
 2 不正競争防止法2条1項13号該当性について
 「武川米」が、控訴人の主張するような狭い限定された地域を産地とする米を指
すかどうかはともかく、「武川米」と「こしひかり」を結合した「武川米こしひか
り」の語は、先に判示したとおり、それ自体では自他識別力を有するとはいえない
ものであるから、控訴人主張の狭い限定された地域以外の地域で産出する米につい
て「武川米こしひかり」の標章が使用されても、そのことによって、控訴人が不正
競争防止法3条1項、2項及び同法4条にいう「営業上」の利益を害されるという
ことはできない。
 したがって、被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項13号に該当するとの
控訴人の主張は採用することができない。
 3 結論
 よって、商標権侵害に基づく請求及び不正競争防止法に基づく控訴人の請求はい
ずれも理由がないから、本件控訴は棄却されるべきである。
 なお、口頭弁論終結後に控訴人から新たな証拠の提出を目的とする弁論再開の申
立てがあり、検討したが、弁論再開の必要を認めない。
 東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官   塚  原  朋  一
裁判官   古  城  春  実
          裁判官   田  中  昌  利

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