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平成15(ワ)11388民事訴訟 商標権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成15年10月29日
事件種別 民事
法令 商標権
キーワード 商標権6回
許諾2回
侵害2回
差止2回
主文
事件の概要

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判決文

平成15年(ワ)第11388号商標使用差止請求事件
口頭弁論終結日 平成15年8月25日
判    決
原    告      有限会社ニューイングランド
同訴訟代理人弁護士   稲 元 富 保
同           丸 山 裕 司
被    告      株式会社ラブラドールリトリーバー
同訴訟代理人弁護士   藤 本 知 哉
同 岡 田   淳
同           飯 塚 卓 也
同           宮 谷   隆
主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,被服(毛皮製を除く。)又は被服(毛皮製を除く。)の包装に,別
紙被告標章目録(1)ないし(12)記載の各標章を付して,譲渡し,引き渡し,譲渡若し
くは引渡しのために展示若しくは所持し,被服(毛皮製を除く。)に関する広告に
同標章を付して展示し若しくは頒布し,同広告を内容とする情報に同標章を付して
電磁的方法により提供してはならない。
 2 被告は,その所有し,占有する別紙被告標章目録(1)ないし(12)記載の各標章
を付した被服(毛皮製を除く。),その包装,広告用パンフレット及び取引書類そ
の他同標章を使用した物品を廃棄せよ。
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が,被告に対し,被告による別紙被告標章目録(1)ないし(12)記
載の各標章(以下,順次「被告標章(1)」,「被告標章(2)」などといい,これらを
併せて「被告標章」と総称する。)の使用は原告の有する商標権の侵害に当たると
して,商標権に基づき被告の上記行為の差止め等を求めている事案である。
(なお,原告の代表者と被告との間では,平成12年3月31日,東京高裁に
おいて,同人の有する登録番号2202445号登録商標(後記の併用商標)につ
いての使用許諾契約を内容とする和解が成立したが,現在の使用許諾契約の効力の
有無について争いが生じ,別件訴訟が係属している。)
 2 争いがない事実
  (1) 原告の有する商標権
    原告は,次の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件
商標」という。)を有する。
    登録番号      第4452988号
    出願日       平成11年12月17日
    商品及び役務の区分 第25類
    指定商品      被服(毛皮製を除く)
    登録商標      Labrador(標準文字)
  (2) 被告の行為
    被告は,平成14年秋ころから,被告標章(2)及び同(4)ないし(12)をTシ
ャツ等の被服(以下「被告製品」という。)に付して販売し,又は販売のために展
示若しくは所持し,また,被告標章(1)ないし(3)を被服についての広告に付して展
示し若しくは頒布している。
第3 争点に関する当事者の主張
   被告標章は,本件商標に類似するか。
 (原告の主張)
   被告標章と本件商標とは,次のとおり,外観,称呼及び観念のいずれの点に
おいても類似している。
 1 外観の類似性
   本件商標は,「Labrador」の英文字を横書した構成であるのに対
し,被告標章は,「LABDOR」,「Labdor」,「labdor」の英文
字を別紙被告標章目録記載の各書体で,1段又は2段に横書した構成である。被告
標章は,本件商標「Labrador」の構成文字中の「ra」の文字を欠く点に
おいて本件商標と異なるが,被告標章の構成文字は,すべて本件商標の構成文字に
含まれ,しかも,各文字の順序は同じであるから,両者は外観上類似する。
   なお,被告標章は,別紙併用商標目録記載の「Labrador Retr
iever」の英文字と犬のシルエット図形を組み合わせた登録商標(以下「併用
商標」という。)と併せて使用されているが,被告標章は,その使用態様から明ら
かなように,上記の英文字,及び犬の図柄,文字から独立しており,「LABDO
R」,「Labdor」,「labdor」という一つのまとまりのある英文字と
して認識することが可能であるから,被告標章と本件商標との類似性を判断するに
当たっては,被告標章と本件商標とを対比すべきである。
 2 称呼の類似性
   本件商標は,ラブラドル地方あるいは半島を意味すると理解されていること
から,「ラブラドール」,「ラブラドル」などの称呼が生ずる。これに対し,被告
標章は,本件商標の構成文字中の「ra」を除いただけであること,被告標章が使
用されている商品には併用商標が使用されていること等から,「ラブドール」,
「ラブドル」などの称呼が生ずるものといえ,需要者の一般的な注意力からすれ
ば,場合によっては「ラブラドール」あるいは「ラブラドル」と称呼されることさ
えあり得る。
   そして,被告標章は,本件商標と対比すると,商標の重要要素である構成文
字中の接頭語「lab」(ラブ)及び接尾語「dor」(ドール,ドル)の部分が
共通であり,中間部の「ra」を欠いているが,「ra」の発音の有無は両者の称
呼上の違いを決定づけるほどのものではない。
   したがって,被告標章と本件商標とは,称呼において類似する。
 3 観念の類似性
   本件商標からは,ラブラドル半島及びラブラドール・リトリバー犬の観念が
生ずる。これに対し,被告標章は造語であり,特定の観念を意味する用語ではない
が,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として「labdor」と一般に表記され
ること,被告標章を使用している商品には併用商標が使用されていること等から,
被告標章からも,ラブラドル半島あるいはラブラドール・リトリバー犬の観念が連
想される。
   したがって,被告標章と本件商標とは,観念において類似する。
 (被告の反論)
   被告標章と本件商標とは,次のとおり,外観,称呼及び観念のいずれの点に
おいても類似しない。
 1 外観の類似性
   被告は,被告標章を単独で使用することはなく,他の文字や図柄と複合して
使用するなど,Tシャツ等の胸部又は背面全面にプリントされたデザインの一部分
に英文字の「Labdor」を使用しているにすぎない。したがって,被告標章と
本件商標との外観の類似性を判断するに当たっては,被告標章を含んだデザイン全
体と本件商標とを比較する必要がある。ところで,被告標章は,別紙被告デザイン
一覧表記載のとおり,いずれも他の英文字,図柄又は飾り文字と組み合わされ,種
々の色彩が施され,ゴシック調,ポップ調,斜体,太字又は白抜きなどの各種字体
が使用され,文字列を2段組みに配置されたものがあるなど,独創性に富んだデザ
インが用いられている。したがって,被告標章を含んだデザインと本件商標とは,
その外観において相違する。
   また,仮に,被告標章と本件商標とを対比したとしても,被告標章は本件商
標の構成文字中の「ra」を含まない英文字6文字によって構成されているのに対
して,本件商標は,英文字8文字によって構成されており,文字列の長さや欠字部
分の存否の点で相違するので,両者は,外観において類似しない。
 2 称呼の類似性
   被告標章は,造語であって,需要者等の一般の取引者には全く知られていな
い語である。それゆえ,被告標章に対する取引者の称呼は一定しないと考えられ,
「ラブドール」、「ラブドル」,「ラブダー」、「ラブドー」,「ラブドア」等種
々の称呼が生じ得る。
   被告標章は,「ラブダー」、「ラブドー」、「ラブドア」と称呼された場
合,本件商標と称呼において類似しないことは明らかである。また,被告標章は,
「ラブドール」「ラブドル」と称呼された場合であっても,本件商標の称呼である
「ラブラドール」又は「ラブラドル」が5音節と少数音であること,2番目の
「ラ」の音が極めて明快かつ強い発音を有する聴覚上響きの強い音であることか
ら,被告標章と本件商標とは,一般の取引者に与える称呼上の全体的印象が明確に
異なるので,両者は,称呼において類似しない。
 3 観念の類似性
   本件商標からは,カナダ東部ニューファンドランド州の地名であるラブラド
ル地方,又はその地方が存するラブラドル半島が観念される。また,「Labra
dor」は,ラブラドール・リトリバー犬の発祥地の名称にすぎないことから,同
語からラブラドール・リトリバー犬を観念するのは,一部の愛犬家に限られ,本件
商標からラブラドール・リトリバー犬の観念が生ずることはない。これに対し,被
告標章は,前記のとおり,造語であり,その観念は,需要者等の一般の取引者には
全く知られていない。
   したがって,被告標章と本件商標とは,観念において,類似しない。
第3 争点に対する判断
 1 被告標章は,本件商標に類似するとは認められない。その理由は,以下のと
おりである。
  (1) 称呼の類似性
    本件商標は,「Labrador」の英文字8文字を一連に横書きした構
成であり,「ラブラドール」の称呼を生ずるものと認められる。これに対し,被告
標章は,「LABDOR」,「Labdor」,「labdor」の英文字6文字
を別紙被告標章目録(1)ないし(8)記載の書体で,1段又は2段に横書きした構成で
あり,造語であることから,これに接する需要者は被告標章を未知の英単語として
認識するものと解される。そうすると,被告標章からは,英語的に発音された場合
の「ラブドー」との称呼を生ずるものと認めるのが相当である。
    そうすると,本件商標と被告標章とは,語頭の「ラブ」の音が共通する
が,他方,音節数の差異,発声上,比較的強く響く中間の「ラ」の音の有無,語尾
の音の差異等の相違点があり,これらの点に照らせば,本件商標と被告標章とは,
称呼において明らかに相違するものと認められる。
    なお,証拠(甲34ないし40)によれば,ラブラドール・リトリバー犬
を愛好する一部の愛犬家の間では,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として「L
abdor」との表記や「ラブドル」との称呼が用いられていることも窺われる
が,このことから,直ちに,一般需要者の間において、被告標章から「ラブドル」
の称呼が生じているとの事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証
拠はない。
  (2) 観念の類似性
    証拠(甲13,14,19)及び弁論の全趣旨によれば,本件商標から
は,カナダ東部ニューファンドランド州の地名であるラブラドル地方及びその地方
があるラブラドル半島並びに同地方を発祥の地とする犬種であるラブラドール・リ
トリバー犬との観念が生ずるものと認められる。これに対し,被告標章は,造語で
あるから,特定の観念は生じない。
    したがって,本件商標と被告標章は,観念において,明らかに相違する。
    なお,前記のとおり,ラブラドール・リトリバー犬を愛好する一部の愛犬
家の間では,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として「Labdor」との表記
が使用されることがあるが,このことから直ちに,被告標章に接する一般の需要者
が,被告標章からラブラドール・リトリバー犬を連想するとは認められず,他にこ
れを認めるに足りる証拠はない。
  (3) 外観の類似性
 証拠(甲3ないし7)によれば,被告は,被告標章を他の文字や図柄と併
せて使用していると認められるが,文字の大きさや書体,他の部分との位置関係な
どから,被告標章は,併用している他の文字や図柄から独立した商標として認識し
得るものと認められる。したがって,本件商標と被告標章との外観の類似性は,本
件商標と被告標章とを対比して判断するのが相当である。
    本件商標は,前記のとおり,「Labrador」の英文字8文字を一連
に横書きした構成であるのに対し,被告標章は,「LABDOR」,「Labdo
r」,「labdor」の英文字6文字を,別紙被告標章目録(1)ないし(12)記載の
各書体で,1段又は2段に横書した構成である。そこで,本件商標と被告標章とを
対比すると,語頭の「Lab」と語尾の「dor」が共通しているが,被告標章は
中間の「ra」の文字を欠くこと,被告標章は文字数が全体の8文字の中の6文字
であり異なること等に照らせば,両者は,外観において,類似しないと解される。
  (4) 類似性についての結論
    以上に検討したところにより,本件商標と被告標章の類似性の有無につい
て判断する。 商標の類似性の有無は,外観,称呼及び観念を総合し,需要者
において両者が相紛らわしいといえるほどに類似しているといえるかどうかによっ
て判断すべきところ,前示のとおり,本件商標と被告標章とは,称呼及び観念の点
において,大きく異なるものであり,外観上も類似しないと解されるので,
両者が相紛らわしいほどに類似していると認めることはできない。
    したがって,被告標章は本件商標に類似するとは認められない。
 2 結論
   以上によれば,被告が被告標章を使用することは,本件商標権の侵害である
とはいえず,原告の請求はいずれも理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第29部
       裁判長裁判官   飯  村  敏  明
         裁判官 榎  戸  道  也
      裁判官武智克典は退官のため署名押印ができない。
     裁判長裁判官    飯  村  敏  明
(別紙)
被告標章目録(1)被告標章目録(2)被告標章目録(3)
被告標章目録(4)被告標章目録(5)被告標章目録(6)
被告標章目録(7)被告標章目録(8)被告標章目録(9)
被告標章目録(10)被告標章目録(11)被告標章目録(12)
併用商標目録被告デザイン一覧表

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