知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成14(ワ)26837 民事訴訟 特許権

この記事をはてなブックマークに追加

平成14(ワ)26837民事訴訟 特許権

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成15年8月29日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 損害賠償5回
進歩性2回
職務発明2回
新規性2回
特許権1回
実施1回
実用新案権1回
主文
事件の概要

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成14年(ワ)第26837号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成15年6月17日 
           判      決
        原       告    A 
       被       告     アトー株式会社
        同訴訟代理人弁護士     沼 田 安 弘 
        同             宮之原 陽 一
        同             川 西 秀 樹
        同             長 田   敦
        同             上 田 美 帆
        同             針 谷 陽 子     
           主      文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
     事 実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
 (1) 被告は,原告に対し,金4350万円を支払え。
 (2) 被告は,原告に対し,別紙書類目録記載の各書類を引き渡せ。
 (3) 訴訟費用は被告の負担とする。
 (4) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
   主文同旨 
第2 当事者の主張
1 請求原因 
(1) 被告は,電気泳動装置等の製造及び販売を業とする会社であり,原告は,
昭和58年被告に入社し,昭和61年5月退職した。
(2) 原告は,被告に在職中,電気泳動装置であるAE-3230型(レゾルマ
ックス-IEF。以下「本件製品1」という。)及びAE-3210型(レゾルマック
ス-SLAB。以下「本件製品2」といい,本件製品1と併せて「本件各製品」とい
う。)の開発に関わり,次のとおり,発明ないし考案をした。
 ア 本件製品1について
(ア) 全体の構造上色の識別を加えた。
(イ) 縦横の寸法を1:√3の黄金比とした。
(ウ) 冷却用ノズルと帯状電極を支持するものとして石英ガラスを使用し
た。
(エ) セラミックを板状に仕上げた。
(オ) プラスチック材の板厚と構造については,泳動中,容器内を密閉する
必要があったため,常識である上下2体構造ではなく,3体構造を採用した。
(カ) 中枠電極付帯の枠体は,下部体とは脱着が容易にできることと泳動中
に泳動器を移動することもあって,電極が動いて電場の状態が変わることが考えら
れたので,下方に引っ張ることで固定した。
(キ) 電極は上げ下げが容易で円滑であり,また,自由に任意の位置で静止
できなければならず,さらに,自重で動かず,泳動準備時に最下降させた時点で金
属環の圧縮の戻りの力が働くため,最下降時にはラッチさせる必要があったので,
V字の溝を付けてプランジャーのボールの頭が溝に入るようにした。
(ク) 2極の電極は自由に平行に円滑に移動しなければならないところ,金
属レールは材料の表面から高圧電気が伝導する危険があるため使用できなかったの
で,プラスチックとプラスチックを合わせて確実に安定的に移動するようにした。
(ケ) ゲルの形状は最小でも50㎜を必要としたので,最大寸法を採り,横
方向はガイドのプラスチックを組立時に当てて調整し,同時に抜けないようにし
た。
(コ) 上ケースに突出した2極外部電源接続用プラグは目の不自由な人のこ
とも考えて,目を合わせなくても適当な位置で押し込めば容易に接続できるように
自由に動かせるようにした。
(サ) 下体と上体は密閉とし錠はドイツ製を使用した。
 イ 本件製品2について
(ア) 絶縁ゴムに発泡材(シリコン)を使用した。
(イ) 耐高圧電線として,耐圧1万ボルトの線材を特別製造させて使用し
た。
(ウ) 泳動器を冷却する水槽内では泳動電流が漏れて危険なため直接循環さ
せることはやめ,水槽の中をガラスで仕切り,仕切の中に冷却された水を送ること
にした。
(エ) その場合,水圧でガラスが破損するため,出口の口径を変える必要が
あったところ,手法としては内圧を下げればよいだけであって入り口を絞れば解決
できるが,内圧と流量の関係をベルヌーイの定理を使用して計算した結果と実測流
量を測定した結果とを比較したところ,出口の口径を大きくした場合は理論値と実
測値がほとんど一致し,出口の口径を小さくした場合は内圧以上の流量を測定し,
計算値より10%流量を増加することが可能となった。
(3) 以上のとおり,本件製品1及び2には,原告の発明ないし考案が実施され
ているのであるから,被告はこの発明ないし考案について特許及び実用新案登録の
出願義務があった。それにもかかわらず,被告はこれを怠り,その結果,原告の発
明ないし考案を搾取した。
(4) 原告は,被告の上記義務違反により,次のとおりの損害を被った。
 被告は,本件製品1(単価25万円)を235台,本件製品2(単価25
万円)を210台,AE-3210型(ゲル作成器。単価5万円)を210台製造
販売し,合計1億2175万円の売上げを上げた。この金額から,製造原価合計5
807万8530円及び原告が受領した給与合計1100万円を控除した残額に7
5%を乗じた3950万3602円が原告が被告に対して請求しうる損害賠償請求
金額である。
(121,750,000- 58,078,530-11,000,000)×75(%)=
39,503,602(円) 原告は,そのうち3950万円を請求する。
(5) 被告は,以下の行為により,原告の名誉を毀損した。
ア 被告は,原告の業績に反して一般的慣例を著しく阻害して,原告の発明
ないし考案を無視し,登録出願をさせなかった。
イ 出願されている被告製品の中には原告が関与した製品もあり,出願すれ
ば,原告は社会的評価を受けられたにもかかわらず,特許公報等には原告の名前す
ら記載されていなかった。
ウ 被告代表者は,原告の業績を認めず,昇格も昇級も与えなかった。
エ 原告の製造部の従業員であったB某が株式会社コパルでOCR開発に従
事し,原告に対して精神的暴力を行った者と直接又は間接に関わりを持ち,仕事へ
の不満からC次長へ当てこすりを行った。
オ 製造部のD社員は会社のものと思い込んでいた。
カ 開発部のC次長はより優れた会社へ行くよう勧奨した。
キ 経理課のE社員は保険還付金を請求すると怒り,地方出身者の社員を
「田舎者」といっていじめた。
ク 被告代表者は,退職して独立した者を追って仕入れ先を脅し,その者を
疎外した。
ケ 被告代表者は,仕入れ先の有限会社白鴎プラスチックを占有した。
コ 学術部のF社員がやめた後,原告も同じことになった。
サ 被告の身勝手で,思い通りあしらわれて食い物にされた。
(6) 原告は,前記(5)の被告による名誉毀損により,精神的損害を被った。そ
れを慰謝するには400万円が相当である。
(7) よって,原告は,被告に対し,被告が原告の発明ないし考案の出願を怠っ
たことによる損害賠償として3950万円,名誉毀損に基づく慰謝料として400
万円の支払を請求するとともに,それらの製品に関する別紙書類目録記載の各書類
(以下「本件書類」という。)の引渡しを請求する。 
2 請求原因に対する認否及び反論
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は,否認する。本件各製品には,高度な技術的思想の創作と
いえるようなものはなく,発明ないし考案に当たるものではない。また,本件各製
品には,原告の発明ないし考案など全く使用されておらず,原告にはそのような能
力も機会もなかったものである。すなわち,原告は,被告に中途入社し,開発部研
究開発課に配属され,副主事として,本件各製品の開発設計に従事していたが,原
告は技術系の職歴を有してはいたものの,過去の職歴において電気泳動とは何ら接
点がなく,電気泳動には無知であった。したがって,被告は,原告に対し発明や考
案をするような業務に従事する機会を与えておらず,本件各製品に関していえば,
原告は,研究開発課の他の従業員や学術研究課の従業員から細かい指導を受けなが
ら,社内において既に決定されていた概念設計に基づき,単に装置のパーツ部分の
設計図面の起案をしていたにすぎない。
(3) 同(3)は,否認ないし争う。被告には,原告との関係において,特許ない
し実用新案の出願手続を行うべき義務はない。現に,原告が入社する以前から存在
する被告の発明考案規定(乙1)にも被告が特許権あるいは実用新案権取得の出願
手続を行うことを義務づけるような規定はない。
(4) 同(4)ないし(6)は,争う。
     理 由
1 請求原因(1)の事実は,当事者間に争いがない。
2 発明ないし考案の出願義務違反による損害賠償請求について
 (1) 証拠(甲21,28,29,35,36,乙1,証人G,原告本人)及び弁
論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,昭和58年11月21日,被告に入社し,昭和61年5月19
日,退職した。
  原告は,被告に入社後,被告の開発部研究開発課に配属され,副主事とし
て本件各製品の開発設計に関する業務に従事していた。
  その後,被告の開発部研究開発課が解散したため,原告は,製造部(その
後技術開発部へ名称を変更)生産技術課に配属された。
イ 本件各製品は,等電点電気泳動の原理的特徴を有するタンパク質分析装置
であり,荷電状態の差異により物質が陰極や陽極に移動する性質(電気泳動)を利
用して,タンパク質等を分離・精製する装置である。
  被告は,昭和42年ころから,電気泳動装置の開発,販売を行っていた
が,従来の電気泳動装置には,通電すると,導体の抵抗のために発生するジュール
熱の影響により試料が変性し,泳動パターンに乱れが生じて再現性が低くなるとい
う問題があった。また,従来の電気泳動装置では,単に本体に試料を乗せるだけの
仕様であったため,大気の影響により試料がずれてしまうという危険があった。
  本件製品1は,昭和59年ころ,これらの問題を克服するため,まず,ジ
ュール熱の影響を抑制し,より恒温化を図るために,熱伝導体の素材をガラスから
アルミナセラミックスに変更し,また,大気の影響による再現性の低下を防止する
ため,装置のカバーユニットに密閉シールロックを使用し,さらに,電極幅の調整
を自在かつ簡単に行えるように操作部分を改良し,ネジ式で固定することをやめ,
ワンタッチで着脱,調整ができるように工夫した点に特徴があった。
  また,本件製品2は,昭和60年に開発されたPAG(ポリアクリルアミ
ドゲル)電気泳動装置であり,ジュール熱の影響を抑制するために,試料が泳動す
るプレート部分に直接水冷方式を採用した点に特徴があった。
  上記特徴は,いずれも従来技術の組み合わせによるものであり,新規性や
進歩性のあるものではない。なお,原告の主張する請求原因(2)ア及びイ記載の各事
項は,上記特徴にも当たらず,技術的思想の創作と認めるに足りない。
ウ 被告は,職務発明等に関し発明考案規定(乙1)を定めており,同規定の
第2条には,「従業員がその性質上,会社の業務に関連した業務発明及び業務発明
をなすに至った行為が従業員の職務に属するものは,当該発明に基づく特許,実用
新案登録および意匠登録(以下特許等という)を受ける権利は会社が承継する。」
と規定され,また,第6条には,「特許管理者は特許等の届出があったときは当該
発明者が業務発明であるか否かの認定及び,権利承継の要否の決定を行うものとす
る。但し,重要な業務発明については審査委員会を設定して,その設定及び決定を
行うものとする。2.特許管理者は前項の規定により当該発明が業務発明に属し,
かつ,その権利を会社の承継する必要があると決定したときは,発明者と協議す
る。3.特許管理者は前項の規定により,協議した結果,当該発明につき出願の要
否及び特許,実用新案登録,意匠登録のいずれかにより,出願するかを決定の上,
原則としてただちに出願を行うものとする。4.特許管理者は社長がこれを任命す
る。」と規定されている。
エ 被告は,本件各製品に用いた技術については,それらを発明あるいは考案
として特許出願ないし実用登録出願をしておらず,又は出願したものについても審
査請求をしていない。
(2) 前記(1)認定のとおり,本件各製品は,いずれも従来技術の組み合わせに
よるものであり,新規性や進歩性のある発明ないし考案に値するものということは
できず,請求原因(2)ア及びイ記載の各事項は,技術的思想の創作ということができ
ない。また,仮に,前記各事項が発明ないし考案に値するもので,原告がその発明
ないし考案をしたものであるとしても,企業が,従業員の職務発明等に基づく特許
等を受ける権利を譲り受けた場合,それらの権利をどのように行使するかは,従業
員との間に特約が存するなど特段の事情のない限り,本来企業の自由であり,本件
において,原告と被告との間に特許等を受ける権利に関し被告に出願義務を課すよ
うな特段の事情を認めるに足りる証拠はない。そして,前記(1)に認定したとおり,
上記発明考案規定(乙1)には,被告が譲り受けた権利を出願するか否かは,被告
の社長が任命する特許管理者が決定するものと明記されているのであるから,被告
は,従業員である発明者ないし考案者との関係において,譲り受けたそれらの権利
に基づき特許出願しあるいは実用新案登録出願をする義務を負うものということは
できない。したがって,そのような義務を被告が負担することを前
提とする原告の主張は,失当である。
(3) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対
する発明ないし考案の出願義務違反による損害賠償請求は,理由がない。
3 名誉毀損による慰謝料請求について
 本件全証拠を精査しても,請求原因(5)の各事実を認めるに足りない。
 なお,仮にそれらの事実が存在したとしても,そもそも原告の主張する上記
各事実は,いずれも被告の原告に対する名誉毀損行為を基礎づける事実ということ
はできないから,いずれにしても,その余の点について判断するまでもなく,名誉
毀損に関する原告の主張は理由がない。
4 書類引渡請求について
  原告は,本件書類の引渡しを求める請求原因を何ら主張せず,本件全証拠に
照らしても,本件書類の引渡しの根拠となる事実の存在を認めることはできない。
したがって,本件書類の引渡請求は,理由がない。
5 結論
  以上のとおり,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,
主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第47部
      裁判長裁判官    高  部  眞規子
    
         裁判官  東海林     保
         裁判官  瀬  戸  さやか
          書  類  目  録
(1) AE-3230型(レゾルマックス-IEF)の設計図面一式及び部品表,
底板冷却板,セラミック,弾性環バネ,上蓋,発泡ゴム,電極取付ツマミ,その他
の自作図面全部
(2) AE-3210型(レゾルマックス-SLAB)の設計図面一式及び部品表本
体,冷却液槽,ゲル作成器,サンプルコウム,上蓋,電極,発泡ゴム,その他の自
作図面全部
(3) AE-3230型(レゾルマックス-IEF)及びAE-3210型(レゾ
ルマックス-SLAB)の出願用斜視図,取説用斜視図及び文書等作成図面全部,製造
組立仕様書全部,外作及び購入部品先一覧表,検査仕様書全部,技術報告書全部,
取説用絵図全部
(4) 自作の図面及び仕様書,報告書等の自筆文書すべて及び部品別原価計算書

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

来週の知財セミナー (7月28日~8月3日)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

あみ知的財産事務所

大阪市北区豊崎3-20-9 三栄ビル7階 特許・実用新案 意匠 商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

中山特許事務所

〒500-8842 岐阜県岐阜市金町六丁目21 岐阜ステーションビル304 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 訴訟 鑑定 コンサルティング 

藤田特許商標事務所

〒104-0061 東京都中央区銀座1-8-2 銀座プルミエビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング