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平成14(行ケ)483行政訴訟 実用新案権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年7月1日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法3条2項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 実施1回
分割1回
審決1回
進歩性1回
実用新案権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(行ケ)第483号 実用新案登録取消決定取消請求事件
平成15年6月17日口頭弁論終結
判       決
原    告     九州日立マクセル株式会社
訴訟代理人弁理士   松 尾 憲一郎
同          内 野 美 洋
被    告     特許庁長官 太田信一郎
指定代理人      沼 澤 幸 雄
同          野 田 直 人
同          一 色 由美子
同          小 曳 満 昭
同          涌 井 幸 一
主       文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が異議2000-73864号事件について平成14年8月6日にし
た決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,考案の名称を「整水器」とする登録番号第2604052号の登録
実用新案(平成4年12月28日に出願された実願平4-89421号の分割出願
として,平成8年12月27日に出願(以下「本件出願」という。)。平成12年
2月4日登録。以下「本件登録実用新案」という。請求項の数は5である。)の実
用新案権者である。
本件登録実用新案の請求項1ないし5のすべてについて,登録異議の申立て
がなされ,その申立ては,異議2000-73864号事件として審理された。原
告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂
正」といい,訂正後の全文訂正明細書を,願書に添付した図面と併せて「訂正明細
書」という。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成14年8月6日に,「訂
正を認める。登録第2604052号の請求項1ないし5に係る実用新案登録を取
り消す。」との決定をし,同年8月29日にその謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(本件訂正後)
「【請求項1】一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ
水表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプ
を配設し、該両表示ランプの間に、浄水が、選択された状態を示す浄水表示ランプ
を配設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表
示する整水器において、上記アルカリ水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示
部は浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなる
ことを示すようにアルカリ水表示ランプを配列し、しかも、切替スイッチの状態
を、上記表示ランプのいずれかの点灯により表示したことを特徴とする整水器。」
(以下「本件訂正考案1」という。)
「【請求項2】一端側にアルカリ性生成水が選択された状態を示すアルカリ水
表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを
配設し、該両表示ランプの間に、浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを配
設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表示す
る整水器において、上記酸性水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示部は浄水
表示ランプ側から他端側にかけて酸性の度合いが徐々に大きくなることを示すよう
に酸性表示ランプを配列し、しかも切替スイッチの状態を、上記表示ランプのいず
れかの点灯により表示したことを特徴とする整水器。」(以下「本件訂正考案2」
という。)
「【請求項3】一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ
水表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプ
を配設し、該両表示ランプの間に、浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを
配設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表示
する整水器において、上記アルカリ水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示部
は浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなるこ
とを示すようにアルカリ水表示ランプを配列し、また上記酸性水表示ランプも複数
個隣接してなり、上記表示部は浄水表示ランプ側から他端側にかけて酸性の度合い
が徐々に大きくなることを示すように酸性水表示ランプを配列し、しかも、切替ス
イッチの状態を、上記表示ランプのいずれかの点灯により表示したことを特徴とす
る整水器。」(以下「本件訂正考案3」という。)
「【請求項4】上記表示部の表示ランプは単一の切替スイッチにより切り替え
可能としたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の整水器。」(以
下「本件訂正考案4」という。)
「【請求項5】上記表示部の表示ランプにはそれぞれに対応した押しボタンが
配設されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の整水器。」
(以下「本件訂正考案5」という。本件訂正考案1ないし5をまとめて「本件訂正
考案」ということがある。)
3 決定の理由
別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正考案1ないし5
は,いずれも,「三洋電機株式会社製のアルカリイオン成水器「アルカリ生活HL
-AL1」の商品カタログ(1992年6月現在の商品)」(異議手続における引
用例1。本訴甲第2号証。以下「引用例」という。)記載の考案(以下「引用考
案」という。)と周知・慣用手段とに基づいて当業者がきわめて容易に考案をする
ことができるから,実用新案法3条2項に該当し,実用新案登録を受けることがで
きない,というものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件訂正考案1と引用考案との一致
点・相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「「一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ水表示ラ
ンプを,他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを配設
し,該両表示ランプの間に,浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを配設し
た表示部を本体の一面上に備え,該表示部により切替スイッチの状態を表示する整
水器」という点」
(相違点)
「本件訂正考案1では,「表示部」の複数のアルカリ水表示ランプを「浄水
表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示
すように配列し,しかも,切替スイッチの状態を,上記表示ランプのいずれかの点
灯により表示した」のに対し,公知考案(判決注・引用考案)では,複数のアルカ
リ水濃度表示ランプを「一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなるこ
とを示すように配列し,しかも,調節スイッチの状態を,上記表示ランプの点灯に
より表示した」点
すなわち,上記相違点は,要するところ,本件訂正考案1では,アルカリ
水濃度を表示する「複数のアルカリ水表示ランプ」を,切替スイッチで表示切替え
が可能な「表示部」に設けたのに対し,上記公知考案(判決注・引用考案)では,
該「複数のアルカリ水濃度表示ランプ」を,調節スイッチで表示切替え可能な「ア
ルカリ水濃度表示部」として別個に設けた点と言い換えることができる。」
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件訂正考案1と引用考案との相違点についての判断を二つの点で
誤ったものであり(取消事由1,2),これらの判断の誤りが,それぞれ,本件訂
正考案1ないし5のいずれについても結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら,上記各請求項のすべてにつき,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について
(1) 決定は,「本件訂正考案1の上記相違点は,アルカリ水や浄水等その水質
の把握の容易化やその水質の濃度(アルカリ水のpH濃度)の把握の容易化のため
に,酸性水,浄水,アルカリ水の度合い(濃度レベル)を示す各表示ランプを一つ
の「表示部」にまとめるに際し,その表示部を「浄水表示ランプ側から一端側にか
けてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように配列し」たいわゆる
「レイアウト」がその特徴の一つであると云えるから,この表示部の「レイアウ
ト」の観点から上記相違点を検討すると,pH濃度により,「酸性水,浄水,アル
カリ水」を表示する場合,そのアルカリ水の度合いを「浄水側から一端側にかけて
アルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように表示を配列」する「レイ
アウト」は,例えば上記引用例2(判決注・実公昭63-10868号公報。本訴
甲第3号証。以下「周知例1」という。)にもみられるとおり,周知・慣用手段で
あり,またこの表示部の「レイアウト」が上記公知考案(判決注・引用考案)の
「アルカリ水濃度表示部」でも採用されていることは前示したとおりである。して
みると,本件訂正考案1の上記相違点のうち表示部の「レイアウト」の点は,pH
濃度表示のいわば常套手段を採用して当業者が極めて容易に設計することができた
程度のことと云うべきである。」(決定書8頁27行~9頁3行)とするが,誤り
である。
(2) 周知例1に示されている考案は,生成された水を採取して,採取した水に
指示薬を滴下し,その発色状態を操作パネルに表示した比色パネルと比較して,該
当する比色によってペーハー値を判断するものである。
周知例1に記載されているのは,単なる印刷物としての色見帯である。こ
の色見帯の使用方法は,上記のとおり,あらかじめリトマス試験紙などを用いて試
みたペーハー変色の度合いを色見帯の各種色彩と色合せして変色のペーハー度を照
合確認するというものであり,そこには,「ランプ表示」及び「そのランプのいず
れかの点灯による表示」という技術思想は含まれていない。このような色見帯の技
術から,「表示ランプの配列」が周知・慣用であるということはできない。
もともと,色合せのために用いられる色見帯は,本件訂正考案1のように
極性と濃度との双方を一個の点灯で知らせるランプ表示配列とは,技術分野も技術
思想も全く異なる。
引用考案の2種類のランプ表示(極性用ランプ表示と濃度用ランプ表示)
の技術に,ランプ表示とは全く無関係で,かつ潜在的にもランプ表示技術を包含し
ていない周知例1の技術を適用して,本件訂正考案1の「いずれかが点灯するよう
な表示ランプ配列」を考案することを,きわめて容易なことであるとすることはで
きない。
(3) 周知例1には,「中性」と記載されているのであって,「浄水」とは記載
されていない(甲第3号証の第1図参照)。周知例1のように水のpH濃度を酸
性,中性,アルカリ性の順に表示するレイアウトが周知・慣用手段であるとして
も,本件訂正考案1におけるもののように,整水器で生成を行う水の種類である
「酸性」「浄水」「アルカリ」と生成された水のPH濃度である「アルカリ1」~
「アルカリ4」とを一連に表示したレイアウトが,周知・慣用手段である,という
ことにはならない。
(4) 引用考案の各スイッチは,それぞれ,極性と濃度という2種類の異なった
ものを表すための切替えスイッチであるから,引用考案からは,各切替えスイッチ
のそれぞれの表示ランプの点灯によりそれぞれの切替えスイッチの状態を表示す
る,という思想しか出てこない。周知例1に示されるペーハー配置表示を引用考案
に転用することは困難である。
(5) 被告は,本件訂正考案1は,引用考案において,表題部1のアルカリの箇
所に表示部2をそのまま配列して表示部を1か所にまとめただけのものであり,要
するに,引用考案において二つある構成を一つにまとめただけである,と主張す
る。
しかし,表示部1と表示部2とを1か所にまとめること自体に困難性があ
るというべきである。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り)
決定は,本件訂正考案1について,「本件訂正考案1の上記相違点の他の特
徴である「単一の切替スイッチ」について検討すると,この点のねらいは,本件明
細書の「単一の切替スイッチにより切替可能とすると,操作性が向上するととも
に,構成が簡略化されコスト的に有利である。」(本件公報段落【0037】)と
いう記載によれば,その操作性の向上や構成の簡略化等にあると云えるところ,例
えば上記引用例3(判決注・特開平4-3384192号公報。以下「周知例2」
という。)及び8(判決注・特公平4-31754号公報。以下「周知例3」とい
う。)にもみられるとおり,段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1
個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器に限らず各種分野で必要に応じて汎
用されている周知・慣用手段であり,そしてこのような工夫をすれば操作性の向上
や構成の簡略化等という効果を奏することも当業者に自明な事項である。以上の観
点から,改めて上記公知考案(判決注・引用考案)の「切替スイッチ」や「調節ス
イッチ」についてみると,これら両スイッチも,その機能面や技術面からみれば共
に段階的なレベルを表示する複数の表示ランプを切り替える「切替スイッチ」であ
ることに変わりはないから,これら両スイッチをまとめて1個の切替スイッチとす
る技術上の障害はないと云うべきであり,本件明細書にも単一の切替えスイッチと
するに際し技術上の障害があったとか等の記載又は示唆はない。そうすると,その
操作性の向上や構成の簡略化等の観点から切替スイッチを1個とすることは前示し
たとおり汎用されている周知・慣用手段であるから,上記公知考案(判決注・引用
考案)の「切替スイッチ」と「調節スイッチ」をまとめて1個の切替スイッチとす
る程度のことも例えば上記引用例3及び8(判決注・周知例2及び3)にもみられ
る周知・慣用手段を参考にすれば必要に応じて当業者が極めて容易に設計すること
ができたことと云うべきである。」(決定書9頁4行~26行),とするが,誤り
である。
(1) 訂正明細書の段落【0013】,【0014】,【0029】,【003
0】等に記載されている技術を見るならば,本件訂正考案1の表示形態の技術は,
切替えスイッチ操作によりそれに対応した極性と濃度の電解処理水を得るというこ
とが前提とされているのであり,同考案が表示形態の改良に工夫を凝らしているこ
とを理解することができる。例えば,段落【0029】には,「たとえば表示ラン
プL6を選択した場合は,吐出される水が中程度のアルカリ水になるように電解槽
13に電圧が印加され電解作用を開始する。」と記載されており,【0034】に
は,「例えば表示ランプL1を選択した場合は,吐出しされる水が強い酸性水にな
るように電解槽13に電圧が印加される。具体的には電解方向が上記アルカリ水生
成特の場合と反転し電解の強さも大きくする,」と記載されており,両スイッチを
一つにまとめることにおける技術上の障害を解決するための具体的な構成が記載さ
れているから,決定が「技術上の障害はないというべきであり」と判断したのは誤
りである。
(2) 周知例2(甲第4号証)及び周知例3(甲第40号証)には,引用考案に
おける調整スイッチに相当するスイッチが開示されているだけで,切替えスイッチ
に相当するものは開示されていない。
(3) そうすると,決定が「上記公知考案(判決注・引用考案)の「切替スイッ
チ」と「調整スイッチ」をまとめて1個の切替スイッチとする程度のことも例えば
上記引用例3,8(判決注・周知例1,2)にもみられる周知・慣用手段を参考に
すれば必要に応じて当業者が極めて容易に設計することができたことと云うべきで
ある。」としたのは,誤りという以外にないことである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について
(1) 本件訂正考案1の「表示部」は,引用考案の表示部1に表示部2をそのレ
イアウトのまま配列して二つの表示部を一つにまとめただけの設計的な変更にすぎ
ないものである。本件訂正考案1は,表示する情報の内容自体は,引用考案のもの
と同一であって既に知られているものであり,その表示のレイアウトも,通常では
考えられないようなものでも予想外の効果が得られるようなものでもない。本件訂
正考案1は,「酸性水か浄水かアルカリ水か」といった水の性質の情報と,「アル
カリ水のpH値がどの程度か」といったアルカリ濃度の情報とを表示するものであ
るから,引用考案の情報とその内容が共通するものである。また,前者の情報(水
の性質の情報)は,後者の情報(アルカリ濃度の情報)と極めて強く関連してお
り,後者の情報は前者の情報をpH値でより細分化して表示しただけであるといい
得る程度に類似したものであるから,後者の情報を表示すれば,前者の情報を表示
する必要がないことも当業者にとって自明のことである。水の性質の情報とアルカ
リ濃度の情報とを一体として表示するようなレイアウトを採用することは,およ
そ,格別の工夫を要するようなことではない。
(2) 周知例1は,水のpH濃度の度合いを段階的に表示する場合に,「酸
性」,「浄水」及び「アルカリ」の順序で配列するようなレイアウトが周知・慣用
手段であることを示すためのものであり,色見帯の具体的な内容を示すためのもの
ではない。
決定は,本件訂正考案1の進歩性の判断において,周知例1の色見帯それ
自体の技術を適用しているわけではない。周知例1の色見帯でも採用されているよ
うに,水質に関する「情報」(酸性水・浄水・アルカリ1・アルカリ2・アルカリ
3,又はpH値の情報)を配列する「レイアウト」が周知・慣用手段であることを
理由に,本件訂正考案1の「表示部」の考案性を否定したのである。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り)
について
(1) 原告が指摘する訂正明細書の各段落には,二つのスイッチを一つにまとめ
る上での技術上の障害については,何ら記載されていない。
(2) 決定は,周知例1,2に引用考案の「切替スイッチ」に相当するスイッチ
が開示されていると認定しているわけではない。これらの周知例にみられる「段階
的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を操作釦の操作で切り替えるように工
夫した」周知の慣用技術を引用考案に適用して,「切替スイッチ」と「調節スイッ
チ」をまとめて1個の切替えスイッチとすることがきわめて容易なことであったと
判断したのである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について
(1) 周知例1(甲第3号証)には,その第1図に,pH値測定用の指示薬の変
色色調に対応する色見帯と,この色見帯に対応するpH値を付記した比色パネルを
設けたアルカリ水製造装置の容器本体が記載されており,同図について,「11は
容器本体1の前面中央部の操作パネル12上に設けた比色パネルであり,使用する
指示薬のpH値に対する変色色調に対応して,例えばリトマス液の場合は赤,黄,
黄緑,緑,青,紫の順に色見帯13,13a・・・・を円周上に配列せしめ,色見
帯13,13a・・・・の外周位置には各色見帯13,13a・・・・に対応する
pH値を付記せしめている。」(2欄16行~23行)との記載がある。周知例1
は,本件出願の原出願の日である平成4年12月28日より4年以上前である昭和
63年3月に公開された実用新案公報であることから,アルカリ水製造装置におい
てpHを段階的に表示する方法として,酸性から中性を経てアルカリ性までの各段
階を連続的に一つの配列として表示するレイアウトは,周知の事項であったという
ことができる。
引用例(甲第2号証)に示された整水器(引用考案)においては,アルカ
リ,浄水,酸性の順に並ぶ水質の種類の表示部(表示部1)と,アルカリ濃度の強
弱の表示部(表示部2)とが,互いに独立して設けられている。しかし,後者の表
示は,前者の表示の中の「アルカリ」の程度をより詳細に表すものであることが明
らかである。そうである以上,引用例に示された整水器(引用考案)において,水
のpHの段階的表示方法として,周知例1にも記載されている,酸性からアルカリ
性までの各段階を連続的に一つの配列として表示する周知のレイアウトに倣って,
アルカリ,浄水,酸性の順に並ぶ水質の種類の表示部における「アルカリ」の部分
に,アルカリ濃度の強弱の表示部を組み込むことによって2種類の表示部を一つに
まとめ,「浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大き
くなることを示すように配列する」ようにすることは,当業者がきわめて容易にな
し得たことである,というべきである。
(2) 原告は,周知例1に記載されているのは色合せのための単なる印刷物とし
ての色見帯であり,本件訂正考案1のように極性と濃度の双方を一個の点灯で知ら
せるランプ表示の技術とは技術分野も技術思想も全く異なるから,これを引用考案
に適用して本件訂正考案1を考案することを,きわめて容易なことであるとするこ
とはできない,と主張する。
しかしながら,決定は,周知例1に記載されている技術そのものを引用考
案に適用する場合のことを問題にしているのではない。決定が周知例1を挙げたの
は,上記「レイアウト」自体が周知・慣用の手段であるというための1例としての
ことであり,この周知・慣用の手段を主引用例に記載された考案(引用考案)に適
用することにより,本件訂正考案1の「レイアウト」にきわめて容易に到達できる
ことを述べたものである(このことは,決定の説示自体から明らかである。)。周
知例1に記載されたレイアウトが周知の事項であると認められることは,上記のと
おりである。引用考案と上記周知のレイアウトとは,技術分野や技術思想において
異なるところがあるとしても,水質に関する表示という機能の点では共通するもの
であるから,周知例1にも示されている周知の手段を引用考案に適用する動機付け
は十分に存在するということができる。
原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は,周知例1のレイアウトには,「中性」と記載されており,「浄
水」とは記載されていないから,本件訂正考案1のように整水器で生成を行う水の
種類である「酸性」「浄水」「アルカリ」と,生成された水のPH濃度である「ア
ルカリ1」~「アルカリ4」とを一連に表示したレイアウトは,周知・慣用手段と
はいえない,と主張する。
しかしながら,引用考案の水質の種類の表示部において,「浄水」は,
「アルカリ」と「酸性」の中間に配置されており,その水質は,「アルカリ」と
「酸性」の中間にあるもの,すなわち「中性」であると解することができる。引用
考案における水質の種類の表示は,周知例1にも記載されている周知のレイアウト
である,酸性から中性を経てアルカリ性に至るpHの段階的な表示と,酸性から中
性を経てアルカリ性に至る状態が表示されているという限度では同じものであるこ
とが,明らかである。そうである以上,当業者は,周知例1にも記載されている周
知のレイアウトに倣って引用考案の2種類の表示部を一つにまとめることにより,
本件訂正考案1の構成にきわめて容易に到達することができた,というべきであ
る。
原告の主張は,採用することができない。
(4) 原告は,引用考案の各スイッチは,それぞれ極性切替えと濃度切替えの2
種類の異なった表示を表す切替えスイッチであるから,そこからは,各切替えスイ
ッチのそれぞれの表示ランプの点灯によりそれぞれの切替えスイッチの状態を表示
する,という思想しか出てこない,と主張する。
しかしながら,引用考案1に記載された各スイッチが2種類の異なった表
示を表す切替スイッチであるとしても,そのことが,直ちに2種類の表示部を一つ
にまとめることに想到することができないとする根拠になるものではないことは,
いうまでもないところである。
引用考案に周知例1にも記載されている周知の事項を適用することによっ
て,2種類の表示部を一つにまとめるという思想に至ることはきわめて容易であ
る,と解すべきであることは,上に説示したとおりである。
原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り)
について
(1) 原告は,決定が,引用考案の切替えスイッチと調節スイッチをまとめて1
個の切替えスイッチとする技術上の障害はないというべきであると判断したのは,
誤りであり,訂正明細書には技術上の障害を解決するための具体的な構成が記載さ
れている,と主張する。
しかしながら,本件訂正考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載は前記
(第2の2)のとおりであり,そこには,単一の切替えスイッチを採用すること自
体は記載されているものの(請求項4),その採用に関して他には何らの記載もな
い。すなわち,仮に,単一の切替えスイッチを採用することに技術上の障害が伴う
としても,本件訂正考案は,その障害の克服の手段を提供するものではない。そう
である以上,上記技術上の障害は,仮に存在するとしても,その存在のゆえに,切
替えスイッチを単一にするという発想を持つこと自体が困難になる,ということに
結び付かない限り,何ら,本件訂正考案に想到することの容易性に影響を及ぼすも
のではない。したがって,決定が,「例えば,上記引用例3及び8(判決注・周知
例2及び3)にもみられるとおり,段階的なレベルを表示する複数の「表示ラン
プ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器に限らず各種分野で必要に
応じて汎用されている周知・慣用手段であり,そしてこのような工夫をすれば操作
性の向上や構成の簡略化等という効果を奏することも当業者に自明な事項であ
る。」(審決書9頁8行~13行)と認定判断しながら,上記技術上の障害の有無
を問題にしたのは,本来,行う必要のないことであった,というべきである。決定
の述べる周知・慣用手段及び当業者に自明な事項の下では,上記発想を持つこと自
体はきわめて容易であることが明らかである,ということができるからである。
のみならず,上記の点を離れて,原告の上記主張自体に着目しても,原告
の主張は失当である。原告が具体的に指摘する本件訂正明細書の箇所の,「たとえ
ば表示ランプL6を選択した場合は,吐出される水が中程度のアルカリ水になるよ
うに電解槽13に電圧が印加され電解作用を開始する。」(段落【0029】),
「例えば表示ランプL1を選択した場合は,吐出される水が強い酸性水になるよう
に電解槽13に電圧が印加される。具体的には電解方向が上記アルカリ水生成時の
場合と反転し電解の強さも大きくする,」(段落【0034】)との記載は,特定
の表示ランプを選択した場合の作用ないし機能を記載したにすぎないものであり,
単一の切替えスイッチとするための技術上の障害を解決するための具体的な構成が
記載されているとは認められない。訂正明細書中には,他にも,切替スイッチの具
体的な構成についての記載は見当たらない。
結局のところ,訂正明細書は,切替えスイッチと調節スイッチをまとめて
1個の切替スイッチとすること自体には格別の技術上の障害はないこと,すなわ
ち,このことは,具体的な構成を記載するまでもなく当業者が容易に実施をするこ
とができるものであることを当然の前提として記載されていると解するのが相当で
ある。決定の上記判断に誤りはない。
(2) 原告は,周知例2,3には,本件訂正考案1の切替えスイッチに相当する
ものは開示されていない,と主張する。
しかしながら,決定は,周知例2,3に本件訂正考案1の切替スイッチに
相当するものが開示されている,とはしていない。
決定は,この点につき,「本件訂正考案1の上記相違点の他の特徴である
「単一の切替スイッチ」について検討すると,この点のねらいは,本件明細書の
「単一の切替スイッチにより切替可能とすると,操作性が向上するとともに,構成
が簡略化されコスト的に有利である」(本件公報段落【0037】)という記載に
よれば,その操作性の向上や構成の簡略化等にあると云えるところ,例えば上記引
用例3及び8(判決注・周知例2及び3)にもみられるとおり,段階的なレベルを
表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器
に限らず,各種分野で必要に応じて汎用されている周知・慣用手段であり,そして
このような工夫をすれば操作性の向上や構成の簡略化等という効果を奏することも
当業者に自明な事項である。」(決定書9頁4行~13行)と述べている。これに
よれば,決定は,周知例2,3に本件訂正考案1の「切替スイッチ」に相当するも
のが開示されていると認定したものではなく,決定が周知例2,3を挙げているの
は,「段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切
り替える工夫」が周知・慣用の手段であることの例としてであることが明らかであ
り,このような周知・慣用の手段の存在を前提として,引用考案の「切替スイッ
チ」と「調節スイッチ」という複数のスイッチを,操作性の向上や構成の簡略化を
図るため,まとめて1個の切替スイッチとすることは必要に応じて当業者がきわめ
て容易に設計することができた,と判断したものである,と理解することができ
る。
原告の主張は,決定の正しい理解に立ったものではなく,採用することが
できない。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,
その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  山  下  和  明
裁判官  設  樂  隆  一
裁判官  阿  部  正  幸
 

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