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平成14(ネ)5726民事訴訟 不正競争

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年5月29日
事件種別 民事
法令 不正競争
キーワード 差止5回
損害賠償4回
無効4回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(ネ)第5726号 競業差止等請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所
平成12年(ワ)第1535号)
平成15年5月29日判決言渡,平成15年2月27日口頭弁論終結
     判    決
 控訴人(被告)   池田興産株式会社
 控訴人(被告)    A
 両名訴訟代理人弁護士 月本善也
 被控訴人(原告)   三菱マテリアルエネルギー株式会社
           (原審口頭弁論終結時の原告は「相模イケダ株式会社」)
 訴訟代理人弁護士   本間豊,竹森裕子,吾妻英樹
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人らの求めた裁判
 「原判決を取り消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。」との判決。
第2 事案の概要
(本判決においては,原判決と同様の意味において「承継前原告」,「旧池田興
産」,「本件営業譲渡契約」,「本件和解」,「三光産業」との略称を用いる。ま
た,本判決では,原判決で原告と表示された横浜市戸塚区小雀町1959番地1に
本店所在の相模イケダ株式会社を「合併前被控訴人」と,控訴人(被告)Aを「控
訴人A」,控訴人(被告)池田興産株式会社を「控訴人会社」と称する。)
 1 本件は,被控訴人が控訴人らに対し,競業行為の差止め及び損害賠償を,控
訴人会社に対し,商号使用の差止めを求めている事案である。
 なお,承継前原告が旧池田興産から本件営業譲渡契約(譲渡人が競業避止義務を
負う旨の条項を含む。)によって石油事業等の営業譲渡を受け,原審口頭弁論終結
前に,合併前被控訴人が承継前原告からその営業譲渡を受けて訴訟を引き受け,原
審口頭弁論終結後に,被控訴人が合併前被控訴人を吸収合併した(合併の登記は平
成14年9月2日に経由)というものである。そして,本訴請求は,控訴人A(旧
池田興産の代表取締役)に対しては,本件営業譲渡契約における旧池田興産の債務
(競業避止義務を含む。)を連帯保証したことなどを理由とし,控訴人会社に対し
ては,法人格の否認により控訴人Aと同様の競業避止義務を有すること,控訴人会
社が不正の目的をもって被控訴人の営業であると誤認させるような商号を使用して
いること(商法21条)を理由とするものである。
 原判決は,本件営業譲渡契約が有効に成立し,控訴人Aが連帯保証により競業避
止義務を負担したこと,控訴人会社が法人格を否認されて控訴人Aと同じく競業避
止義務を負うこと,控訴人らは競業避止義務に違反したこと,控訴人会社の商号使
用は商法21条1項に該当することなどを判示して,被控訴人の請求を全部認容し
た。そこで,控訴人らから本件控訴が提起された。
 2 「事案の概要」,「基礎となる事実等」,「争点」,「争点に対する当事者
の主張」については,次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原
判決2頁10行目から12頁5行目までに記載のとおりであるから,これを引用す
る。
 3 当審における控訴人らの主張の要点(控訴理由の要点)
 原判決には以下のような事実誤認がある。
 (1) 控訴人Aの競業避止義務を肯定した誤り
 三光産業が旧池田興産に直接融資することに難色を示して,第三者としての承継
前原告を介在させた迂回融資の形式をとることとして,本件営業譲渡契約がされた
ものであり,これは担保権設定の意思表示である。本件営業譲渡契約の当時,旧池
田興産及び承継前原告には,ともに控訴人Aの支配が及んでおり,両社の意思決定
は,実質的に控訴人Aが行ったものであるところ,両社は,6億3000万円の対
価をもって営業権を譲渡する意思がないのにあるかのように仮装することを合意し
たものであり,本件営業譲渡契約は,通謀虚偽表示により無効である。
 本件和解の条項を本件営業譲渡契約が有効であることの根拠として援用する原判
決は,和解の本質を見誤ったものである。
 本件営業譲渡についての旧池田興産の株主総会の特別決議による承認はされてお
らず,平成5年5月24日付けの株主総会決議議事録は偽造されたものである。
 仮に,当事者の合理的経済的目的に即し,担保権の実行として営業権を支配下に
収められたとしても,本件営業権は,当時,20億円とも評価されていたのであ
り,清算義務が履行されておれば,控訴人Aは,株主総会決議の瑕疵を主張するこ
とはなかったであろう。
 本件営業譲渡契約が担保目的のもとに締結されたものである以上,弁済ができな
ければ営業権が承継前原告に確定的に移転し,取戻しができなくなることは当然で
あるが,営業権が承継前原告に確定的に移転したとしても,ここで財産権の移転を
規律する規範は,6億3000万円を対価とした営業権の売買を装った本件営業譲
渡契約書なのではなく,当事者間において企図された背後の実質関係である担保権
設定の意思表示なのである。したがって,本件営業譲渡に伴い,旧池田興産が競業
避止義務を負うとしても,商法25条1項によるものであり,本件営業譲渡契約書
に特約として規定された控訴人Aの連帯保証条項も何ら当事者間に拘束力を及ぼす
ものではない。
 以上のように,本件営業譲渡契約が無効である以上,同契約書に規定された控訴
人Aの連帯保証契約も無効であるから,控訴人Aは承継前原告に対し,競業避止義
務を負わない。
 (2) 控訴人会社の競業避止義務を肯定した誤り
 控訴人Aに競業避止義務のあることを前提とした法人格否認の法理も,その適用
の前提を欠く。よって,被控訴人から控訴人会社に対する競業差止請求権も発生し
ない。
 (3) 商号使用禁止請求を肯定した誤り
 被控訴人の商号は,「三菱マテリアルエネルギー株式会社」であるところ,控訴
人会社の商号である「池田興産株式会社」とは字句の上でも全く異なり,控訴人会
社の商号は,「他人の営業なりと誤認せしむべき商号」には当たらない。よって,
被控訴人の商号使用禁止請求は,不正の目的の有無を問わず,退けられるべきであ
る。
 (4) 権利濫用を否定した誤り
 旧池田興産の顧客数は1万2139件であったが,平成5年6月8日に同業他社
が申し出た1件当たりの買受希望金額20万円を参考にすれば,本件営業権は,2
4億2780万円となり,担保権の実行に際しては,この金額から,融資金額6億
3000万円及びその利息分を控除した金員が清算されなければならない。しか
し,三光産業は,これを履行することなく,本件営業譲渡契約書が作成されている
ことを奇貨として,営業権売買を主張し,承継前原告を丸ごとその支配下に収めて
しまったのであり,不当な乗っ取りである。よって,被控訴人の本訴請求は権利の
濫用に当たるものである。
 (5) 損害賠償義務を肯定した誤り
 控訴人らは,競業避止義務を負わないのであるから,控訴人会社による720円
での灯油販売は,正当な自由競争の範囲内の経済活動であって,違法性を欠き,控
訴人らは損害賠償義務を負わない。
 4 当審における被控訴人の主張の要点
 (1) 原判決の認定判断に控訴人ら主張の誤りはない。
 (2) 控訴人らは,これまでの旧池田興産の和議手続,旧池田興産の破産手続及び
本件訴訟を通じて,本件営業譲渡の清算義務,その必要性,内容などについて全く
主張してこなかった。また,本件営業権の対価として6億3000万円が相当であ
るか否かにつき,主張立証を行ってこなかった。清算義務に関する控訴人らの主張
は,全く根拠がない。
 (3) 合併前被控訴人は,平成14年9月までに被控訴人に吸収合併された。合併
前被控訴人は,もともと被控訴人の100%子会社であるが,被控訴人は,経費節
減,経営合理化のために,合併前被控訴人を含む子会社3社を吸収合併したもので
ある。従前,合併前被控訴人「相模イケダ」として現実に営業活動をしていた事務
所は,被控訴人の神奈川事業所として,全く同様の営業を継続している。例えば,
被控訴人の灯油を運搬するタンクローリーの車体に表示された名称は「いけだ」と
されており,灯油販売巡回車の販売活動時に流すコマーシャルソングでも従来どお
り,「いけだ」を主眼において歌詞を使用している。その他,営業活動の実態は,
合併後も従前と全く同じである。
 ちなみに,同年9月2日,既存の別会社の商号及び目的を変更して,被控訴人が
100%株式を所有する「相模イケダ株式会社」を成立させている。そして,同社
の本店は合併前被控訴人と同一の事務所におき,役員は被控訴人の関係者が就任
し,従業員も被控訴人神奈川事業所と兼務するなどしている。そして,表看板にお
いても,被控訴人とともに両社の商号を併記している。
 以上のとおり,被控訴人は,従来から顧客に浸透している「いけだ」のブランド
を利用して灯油販売を継続しており,経営合理化のためにやむなく社名が変わって
も,長年続いてきたのれんのように,「いけだ」のブランドを利用して販売を継続
しなければならない営業形態である。
 被控訴人に対しても商法21条2項の保護が与えられるべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,被控訴人の請求は全部認容されるべきものと判断するが,その
理由は,以下のとおり付加するほかは,原判決が「第6 争点に対する判断」とし
て原判決12頁6行目から26頁6行目までに判示するとおりであるから,これを
引用する。
 2 前記第2の3(1),(2)のとおり,控訴人らは,本件営業譲渡契約が無効であ
り,競業避止義務を負わないと主張する。
 しかし,この点に関する原判決の理由は,既に引用したとおりであり,その認定
判断は,相当として是認し得るものであって,誤りはない。
 3 前記第2の3(3)のとおり,控訴人会社は,原審口頭弁論終結後に被控訴人が
当事者となり,その商号が「三菱マテリアルエネルギー株式会社」であるので,控
訴人会社の商号である「池田興産株式会社」とは全く異なり,「他人の営業なりと
誤認せしむべき商号」には当たらないと主張するので,以下検討する。
 (1) 証拠(甲45~49)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
 被控訴人は,合併前被控訴人を吸収合併し,平成14年9月2日付けでその旨登
記された。合併前被控訴人は上記合併により解散した。従前,合併前被控訴人が現
実に営業活動をしていた事務所は,被控訴人の神奈川事業所とされ,合併前と同じ
営業が継続されている。被控訴人が合併後に使用している各タンクローリー車に
は,「相模イケダ(株)」,「IKEDA」,「サービスだいいちイケダの灯油」
と表示されており,営業用とみられる軽自動車にも「IKEDA」と比較的大きい
文字で表示されている。また,プロパンガスのボンベにも「IKEDA」の表示が
ある。また,被控訴人は,灯油販売巡回車の販売活動時に流す「明るい街」と題す
るコマーシャルソングを従来どおり使っており,その歌詞には,「来た来た来まし
たイケダの灯油」,「サービス第1イケダの灯油」などという部分がある。
 なお,上記合併の登記と同日付けで北王コンクリート株式会社が「相模イケダ株
式会社」(合併前被控訴人と同一)と商号変更されるとともに,合併前被控訴人と
同じ住所に本店が移転された。そして,被控訴人神奈川事業所と上記新しい相模イ
ケダ株式会社は,同一の事務所を使用し,事務所外壁及び表看板にも「三菱マテリ
アルエネルギー(株)」,「相模イケダ(株)」と併記されている。
 (2) 以上によれば,吸収合併により,合併前被控訴人である「相模イケダ株式会
社」は,被控訴人である「三菱マテリアルエネルギー株式会社」に商号は変わった
ものの,営業実態は,従前と変わっておらず,被控訴人は,その神奈川事業所及び
各営業所が商圏とする地域の消費者に従前から知られている「イケダ」という表示
を,他者の営業から自らの営業を識別する標識として使用し続けているものであ
る。これに,既に引用した原判決の判示(23頁15行目~26行目)をも考慮す
れば,控訴人会社の「池田興産株式会社」との商号は,被控訴人の営業であると誤
認せしむべき商号であると認められる。なお,上記「イケダ」又は「IKEDA」
が登記された商号ではないこと,被控訴人の商号が「イケダ」の文字を含むもので
ないことは,上記認定の妨げとなるものではない。
 (3) そして,控訴人会社に商法21条1項の「不正の目的」があるものと認めら
れることは,上記認定の事実及び原判決の判示(24頁1行目~9行目)するとこ
ろに照らせば,明らかである。
 (4) よって,上記吸収合併があっても,被控訴人は,控訴人会社に対して,商法
21条2項に基づき,その商号の使用の差止めを求めることができるものというべ
きである。控訴人会社の上記主張は採用することができない。
 4 前記第2の3(4)のとおり,控訴人らは,被控訴人の本訴請求はいずれも権利
濫用に当たると主張する。
 しかし,この点に関する原判決の理由は,既に引用したとおりであり,その認定
判断は,相当として是認し得るものであって,誤りはない。
 なお,控訴人らが清算金の支払いに関して主張する点につき,付言しておく。
 控訴人らは,本件営業権の価値を示す証拠として,乙62-1,2を援用し,平
成5年6月8日に株式会社トーエルから旧池田興産に対し「500件程を1戸20
万」で譲り受けることの申し出があったこと,本件営業譲渡契約では旧池田興産の
顧客数を1万2139件として契約されていること,カマタエナジー株式会社のB
が平成5年当時の旧池田興産の燃料事業を売買するとすれば20億円位したと思う
旨陳述していることを根拠とするものである。
 しかし,上記株式会社トーエルからの申出の書面及びBの陳述書を検討しても,
いずれも具体的な算出根拠は不明であるし,営業譲渡に伴う各種条件のうちどの範
囲のものが上記各算出に際して考慮されたのかなども不明であって,本件で対象と
された旧池田興産の営業の価値が控訴人らが主張するような価格であったことを認
めるには足りない。その他,被控訴人の本訴請求が権利の濫用であると断ずべき事
情を見いだすことはできない。控訴人らの上記主張は採用することはできない。
 5 前記第2の3(5)のとおり,控訴人らは,控訴人らが競業避止義務を負わない
ことを前提に損害賠償義務を負わないと主張するが,既に判示したところに照らせ
ば,その前提を欠くことは明らかである。
 6 結論
 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第18民事部
      裁判長裁判官   塚  原  朋  一
           裁判官   塩  月  秀  平
           裁判官   田  中  昌  利

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