平成15(行ケ)14行政訴訟 商標権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成15年5月20日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法50条2回 商標法2条3項2号1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
審決20回 商標権3回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成15年(行ケ)第14号 審決取消請求事件
平成15年4月10日口頭弁論終結
判 決
原 告 A
被 告 B
訴訟代理人弁護士 喜田村 洋 一
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が取消2001-31023号事件について平成14年12月4日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
訴外C(以下「C」という。)は,別紙審決書写しの別掲に表示したとおり
の構成から成り,平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の第2
6類「印刷物」を指定商品とする,登録第2683901号商標(平成3年8月1
4日商標登録出願,平成6年7月29日設定登録(以下「本件商標登録」とい
う。)。以下,同登録により発生した権利を「本件商標権」といい,その商標を
「本件商標」という。)の商標権者であった。
原告は,平成13年9月19日,Cを被請求人として,商標法50条の規定
に基づき,本件商標登録を取り消すことについて審判を請求し,この請求は,平成
13年10月17日に登録された。特許庁は,同請求を取消2001-31023
号事件として審理した。Cは,その後,本件商標権を被告に譲渡し,被告が審判の
被請求人の地位を承継した。特許庁は,審理の結果,平成14年12月4日,「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月14日にその謄本を
原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,Cは,その通常使用権者であっ
た被告により,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,「天道礼
儀」と題する冊子(発行所天道彌羅山白陽寺,発行人B,初版平成6年6月6日,
改訂平成10年8月1日,本訴甲第2号証・審判乙第3号証。以下「天道礼儀」と
いう。)及び「講道師のしるべ」と題する冊子(発行所天道彌羅山白陽寺,発行人
B,発行平成11年7月1日,本訴甲第3号証の1・審判乙第14号証。以下「講
道師のしるべ」という。)並びに「壇主のすすめ」と題する冊子(発行所天道彌羅
山白陽寺,発行人B,発行平成11年7月1日,本訴甲第3号証の2・審判乙第1
5号証。以下「壇主のすすめ」といい,天道礼儀,講道師のしるべ及び壇主のすす
めをまとめて「本件各冊子」という。)に,本件商標と社会通念上同一と認められ
る商標を使用していた,と認め,本件商標の登録を商標法50条の規定に従って取
り消すことはできない,とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件各冊子はいずれも商標法上の商品とは認められないのに,誤って
これらを商標法上の商品であると認定し(取消事由1),本件各冊子についての本
件商標の使用態様は商標としての使用とは言い難いものであるのに,誤ってこれを
商標としての使用と認定し(取消事由2),仮に,「天道礼儀」についてのみは上
記のようにいうことができないとしても,これは本件審判の請求の登録前3年以内
に発行されたものではないのに,誤ってこれを3年以内に発行されたものと認定し
たものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは
明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件各冊子の商品性)
審決は,本件各冊子を「いずれも商標法上の商品であると認められるもので
あって,本件商標の指定商品である「印刷物」の範疇に属するものといわざるを得
ない。」(審決書3頁第6段落)と認定した。
しかし,「天道礼儀」の内容は,特定の宗教団体の「儀式」や「祭り」を行
うときの「意義」,「概要」,「用語の注釈」,「行動様式」及び「祭壇の作り
方」等を独特な文字や文章で説明したものであり,専ら特定の宗教団体の信者を対
象とする解説書ないし教材にすぎず,一般の書店において販売されるものではな
く,独立の商品として取引市場で取引されるものではないから,商標法上の商品に
は該当しない。
「講道師のしるべ」及び「壇主のすすめ」も,特定の宗教の講話や発表記事
及び体験談等を独特な文字や文章で解説し,説明したものを掲載したものであり,
「天道礼儀」と同様に,専ら特定の宗教団体の信者を対象とする教材にすぎず,一
般の書店において販売されるものではなく,独立の商品として取引市場で取引され
るものではないから,商標法上の商品には該当しない。
2 取消事由2(本件商標の使用態様)
審決は,本件各冊子の「裏表紙に本件商標と社会通念上同一と認められる商
標が印刷されており,いずれも通常使用権者により発行されたものとみることがで
きる。」(審決書3頁第6段落)と認定した。
しかし,冊子やパンフレット等の発行者は,その表紙や背表紙等にその商標
を表示するのが通常の使用態様である。本件各冊子のように,その裏表紙にのみ本
件商標を付したものは,通常の使用態様のものということはできず,このような商
標の使用態様によっては,取引市場において,当該商標が自他商品を識別する標識
としての機能を発揮することができない。取引者・需要者は,このような態様で使
用されている本件商標を自他商品識別標識として認識することはできない。
3 取消事由3(「天道礼儀」の発行)
審決は,「「天道礼儀」・・・は,平成10年8月1日に改訂版が発行され
たものであって,本件審判請求の予告登録日である平成13年10月17日前3年
以内の発行とは認められないものであるが,該冊子の初版発行は平成6年6月6日
であり,改訂版まで4年の歳月を要していることを考慮すれば,平成10年に発行
された該冊子の改訂版は,発行後数年に亘って売価700円で販売されていたもの
と推認される。」(審決書3頁第6段落)と認定した。
しかし,「天道礼儀」の改訂版発行日は,本件審判の請求の登録前3年以内
のものではないから,「天道礼儀」における本件商標の使用は,当該期間内におけ
る本件商標の使用にはならない。
第4 被告の反論の骨子
審決の認定・判断は,正当であり,審決に原告主張のような違法はない。
Cは,本件審判の請求の登録前3年以内に,宗教団体である天道彌羅山白陽
寺の代表者である被告に,本件商標を使用させていた。被告は,本件商標の指定商
品である「印刷物」に含まれる本件各冊子の裏表紙に本件商標を付し,上記宗教団
体の各支部の求めに応じて,本件各冊子を販売した。これは,商標法2条3項2号
にいう「商品・・・に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,・・・する行為」に
該当し,被告は,これによって,本件商標を使用したものである。取消事由1ない
し3はいずれも理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件各冊子の商品性)について
原告は,本件各冊子は,専ら特定の宗教団体の信者を対象とする解説書ない
し教材にすぎず,一般の書店において販売されるものではなく,独立の商品として
取引市場で取引されるものではないから,商標法上の商品には該当しない,と主張
する。
しかし,商標法上の商品とは,商標制度の目的に照らすと,流通性があり市
場で取引の対象となり得るもののことであると解するのが相当である。これを「印
刷物」についていえば,一般の書店において販売されるものでなくとも,インター
ネット等の通信販売,その他何らかの販売経路を通じて,不特定多数の需要者に対
し,譲渡する対象となり得るものであれば,これを商標法上の商品ということがで
きると解すべきである。
「講道師のしるべ」及び「壇主のすすめ」は,いずれも平成11年7月1日
に,本件商標の通常使用権者であった被告により発行され(甲第3号証の1・
2),いずれも,本件審判の請求の登録前3年以内に,宗教団体である天道彌羅山
白陽寺の関東,東海あるいは九州の各支部の求めに応じてその販売が継続されたも
のであり(乙第2号証の6,第3号証の3,第4号証の9),「天道礼儀」も同様
であることは,後記認定のとおりである。本件各冊子が,原告が主張するとおり,
宗教団体である天道彌羅山白陽寺の各信者を対象とする解説書ないし教材であると
しても,このように,上記宗教団体の関東,東海あるいは九州の各支部の求めに応
じて全国的な規模で販売されていたこと,及び,その需要者は,各支部において新
たに信者となった者のみならず,その宗教に興味を持った不特定多数の者にまで拡
大されるであろうことは,容易に推認することができるところである。
本件各冊子は,このように,一般の書店等において販売されるものではない
ものの,上記認定の販売経路を通じて,全国的な規模で,特定の宗教において新た
に信者となった者あるいはその宗教に興味を持った不特定多数の需要者に対し,譲
渡され得たものであるから,これを,何らかの販売経路を通じて,不特定多数の需
要者に対し,譲渡する対象となり得るもの,すなわち,商標法上の商品に当たると
いうべきである。原告の上記主張は採用することができない。
2 取消事由2(本件商標の使用態様)について
原告は,本件各冊子のように,その裏表紙にのみ本件商標を付したものは,
通常の使用態様のものということはできず,このような使用態様によっては,取引
市場において,自他商品を識別する標識としての機能を発揮することができない,
と主張する。
しかし,本件各冊子においては,本件商標がその裏表紙の中央に明りょうに
表示されており,その表示態様からして,本件商標が印刷物である本件各冊子を発
行する者の自他商品識別標識として表示されているものであることは明らかであ
る。原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由3(「天道礼儀」の発行)について
上記1,2によれば,取消事由3について検討するまでもなく,原告の本訴
請求は理由のないことが明らかである。念のために検討してみると,次のとおりで
ある。
「天道礼儀」は,平成6年6月6日に初版が発行され,平成10年8月1日
にその改訂版が発行され,その定価は700円である(甲第2号証)。「天道礼
儀」の改訂版は,本件審判の請求の登録日である平成13年10月17日の前3年
以内の期間内に,宗教団体である天道彌羅山白陽寺の関東,東海あるいは九州の各
支部の求めに応じてその販売が継続され(乙第2号証の1,第4号証の1・2),
その後,「天道礼儀」の再改訂版である「天道礼儀」が,平成14年6月に300
冊印刷・製本され,発行されるに至っている(乙第5,第6号証)。したがって,
「天道礼儀」の改訂版の発行日が本件審判請求の登録前3年以内ではないとして
も,その3年以内の期間中に,「天道礼儀」の改訂版の販売が継続されていたこと
は明らかであるから,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
4 以上のとおりであるから,被告は,本件商標と社会通念上同一と認められる
標章をその指定商品に含まれる本件各冊子に使用している,と認定した審決は,相
当であり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,こ
れを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,原告の本訴請求を棄却することと
し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 阿 部 正 幸
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