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平成14(行ケ)375行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年4月8日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物2回
特許権2回
実施1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(行ケ)第375号 特許取消決定取消請求事件
平成15年4月8日判決言渡,平成15年3月18日口頭弁論終結
      判    決
  原  告 A
 訴訟代理人弁理士 佐藤辰彦,鷺健志
      被    告   特許庁長官 太田信一郎
      指定代理人    千壽哲郎,高木進,林栄二
          主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
 以下において,「何れ」は「いずれ」に統一して表記した。その他,引用箇所に
おいても公用文の表記に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が異議2001-72938号事件について平成14年5月9日にした
決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告が特許権者であり名称を「還流式及び吸込式掃除機」とする本件特許第31
59690号の請求項1に係る発明(本件発明)についての出願は,平成7年4月
7日に特許出願した特願平7-82799号の一部を平成11年12月22日に新
たな出願としたものである。本件発明については,平成13年2月16日に特許権
の設定登録がなされた後,特許異議の申立てがあり,異議2001-72938号
事件として係属した。その間の平成14年3月26日に訂正請求があったところ
(本件訂正。発明の名称も「還流式又は吸込式掃除機」と訂正),平成14年5月
9日,「訂正を認める。特許第3159690号の請求項1に係る特許を取り消
す。」との決定があり,その謄本は同年6月26日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(本件訂正後のもの)
 フィルタとファンモータとを有する主体に上下傾動可能にハンドルが結合され,
ファンモータがフィルタを通過した気流を吸込む電気掃除機において,吸引するゴ
ミを集積するフィルタ室に集積したゴミを除去するための前記フィルタ室の略全体
を覆う開閉又は取外し可能な蓋が前記主体の外筐上面に設けられ,次のいずれかの
構成を有することを特徴とする還流式又は吸込式掃除機。
 a.前記蓋が透明,半透明,又はハーフミラーのいずれかとされている。
 b.前記蓋が透明,半透明,又はハーフミラーのいずれかとされており,フィル
タ室に照明が設けられている。
 3 決定の理由の要点
 本件訂正は適法である。訂正後の本件発明(以下において「本件発明」というと
きは,訂正後のものを指す。)は,下記の対比,判断のとおり,刊行物2(特開平
1-207025号公報)に記載された発明(引用発明1)及び刊行物11(実願
昭62-145451号(実開昭64-50757号)のマイクロフィルム)に記
載された発明(引用発明2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも
のであるから,本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされ
たものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
 ◇ 決定のした対比,判断
 引用発明1の「電動送風機」,「吸込口本体」,「収塵部」,「スイーパー形の
電気掃除機」,「開閉蓋」は,それぞれ本件発明の「ファンモータ」,「主体」,
「フィルタ室」,「吸込式掃除機」,「開閉可能な蓋」に相当する。
 したがって両者は,「フィルタとファンモータとを有する主体に上下傾動可能に
ハンドルが結合され,ファンモータがフィルタを通過した気流を吸込む電気掃除機
において,吸引するゴミを集積するフィルタ室に集積したゴミを除去するための開
閉可能な蓋が前記主体の外筐上面に設けられた吸込式掃除機」である点で一致し,
以下の点で相違する。
 (a)本件発明の「蓋」は「フィルタ室の略全体を覆う」のに対し,引用発明1
ではかかる構成が明らかではない点,
 (b)本件発明では,「蓋」が透明,半透明,又はハーフミラーのいずれかとさ
れているか,フィルタ室に照明が設けられた上で,蓋が透明,半透明,又はハーフ
ミラーのいずれかとされているのに対し,引用発明1ではかかる構成が明らかでは
ない点。
 相違点(a)についての判断
 引用発明1では,フィルタ室において,紙袋25内に集積されたごみを除去する
ためにそのフィルタ室の上部に開閉蓋を設けたのであるから,その蓋の大きさは,
紙袋25の脱着を考慮するとフィルタ室の略全体を覆うものとみるのが妥当である
し,そもそも蓋の大きさは,ごみを除去する際の便宜やデザイン等を考慮して,当
業者であれば適宜選択し得る設計事項にすぎない。したがって,「蓋」をフィルタ
室の略全体を覆うようにすることは,当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎず,
また,この構成を採用することに格別の困難性を見いだせない。
 相違点(b)についての判断
 引用発明2は,「吸風口から塵埃を吸引する吸風機の吐出口に連通する収塵容
器」であることから,「吸込式掃除機」に相当する。さらに,「布等の通気性材
料」で形成された「側壁25」は「フィルター」に相当し,「上面壁27」は,上
記「側壁25」からなる「室21」の上面に設けられると共に,透明体で構成され
ている。したがって,引用発明2は,相違点(b)のうち,蓋を「透明」とした構
成を具備するものと認められる。
 そして,引用発明1と引用発明2は,同一の吸込式掃除機を技術分野とするもの
であるから,引用発明1の「蓋」を,引用発明2のように「透明」とすることは,
当業者であれば容易になし得たことである。
 さらに,相違点(a)及び(b)の両者を加味しても,引用発明1の「吸込式掃
除機」に引用発明2の「透明な蓋」を組み合わせて,本件発明のように構成するこ
とは,当業者であれば,容易になし得ることであり,本件発明が奏する作用及び効
果も,引用発明1,2から当業者であれば当然想到し得る程度であって,格別なも
のとは認めることができない。
第3 原告主張の決定取消事由
 1 技術分野の相違
 引用発明2は,本件発明及び引用発明1のような「フィルタとファンモータとを
有する主体」を備えておらず,また「電気掃除機」でもない。
 引用発明2は,本件発明及び引用発明1の掃除機のような「ファンモータがフィ
ルタを通過した気流を吸込む」構成も備えていない。
 引用発明2は,本件発明及び引用発明1の「ファンモータがフィルタを通過した
気流を吸込む」掃除機とは,機能ないし作用効果においても明らかな相違がある。
 引用発明2は,屋外で使用される清掃業務用のエンジン駆動式吸風機ないし掃除
機であって,本件発明及び引用発明1のような主として屋内で使用される家庭用の
電気掃除機とは,用途において異なっている。
 2 引用発明1と引用発明2との組合せによる容易想到性判断の誤り
 引用発明1は,表示器(ゴミサイン)を使用せずに,作業中常時ゴミ集積度を正
確に知ることができるようにするために,フィルタのゴミ集積度を目視できるよう
にするとの着想,目的ないし課題がなく,これを達成するための構成である,塵埃
を集積するフィルタ室の略全体を覆う蓋を掃除機主体の外筐上面に設けるととも
に,当該蓋を透明等にするとの構成がなく,したがって,その構成による作用効果
も奏しない。
 引用発明2には,収塵容器15の室21の上面壁27(フィルタ室の蓋)を透明
にする点が開示されているものの,これは引用発明2に特有の理由で採用されたも
のである。これに対し,引用発明1にはかかる特有の理由が存在しない。引用発明
1と引用発明2とは同一の技術分野に属するものでもない。
 本件発明の属する技術分野の電気掃除機においては,本件発明の出願前,塵埃は
汚物であるから常時には作業者の目から隠すことが技術常識であって,本件発明の
前記着想,目的ないし課題,これを達成するための構成,及びその作用効果は知ら
れておらず,当業者の周知慣用事項でもなかった。
 したがって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせて本件発明のように構成す
ることは当業者が容易に得られないものであり,また構成が得られない以上,本件
発明の作用効果も当業者が容易に想到し得るものではない。
 3 顕著な作用効果
 本件発明を使用した掃除機が実際に販売されており,その構成及び作用効果がカ
タログなどで宣伝されていることからみても,本件発明は商業的な成功をなし得る
ような顕著な効果を奏するものである。
第4 当裁判所の判断
 1 技術分野について
 本件発明及び引用発明1は掃除機に関するものであり,引用発明2は収塵容器に
関するものである(甲2~5)。しかし,収塵容器も広い意味での掃除機に属する
ところ,掃除機は必要に応じて家庭用,清掃業務用あるいは屋内用,屋外用とな
り,それに応じてその構造も変更され得るものである。フィルタとファンの駆動源
とを主体に備えるか否か,さらには,ファンの駆動源の種類,流路配列等の構成,
ファン,駆動源の損傷のおそれ,屋内,屋外,家庭用,清掃業務用等の用途などの
相違はあり得るとしても,引用発明1と引用発明2が同一の吸込式掃除機を技術分
野とするものであるとした決定の認定に誤りがあるということはできない。
 2 引用発明1と引用発明2との組合せによる容易想到性判断の誤りの主張につ
いて
 (1) 引用発明1には表示器(ゴミサイン)を使用せずに,フィルタのゴミ集積度
を目視できるようにするとの着想,目的ないし課題がなく,塵埃を集積するフィル
タ室の略全体を覆う蓋を掃除機主体の外筐上面に設けるとともに,当該蓋を透明等
にするとの構成がないとしても,引用発明1と引用発明2は,同一の吸込式掃除機
を技術分野とするから,吸込式掃除機に係る構成に関する限り,同一の技術分野に
属する発明として引用発明1と引用発明2の組合せを妨げる要因はない。フィルタ
室を覆う蓋を透明にする点が引用発明1にないことも,引用発明1と引用発明2の
組合せに係る本件発明の構成についての容易想到性を妨げるものではない。
 (2) 甲6~11の公報には,電気掃除機において,透明な集塵ケースが本体の前
方下部に設けられているもの,フィルタ室を覆う蓋が透明にされていないもの,集
塵量の表示装置を設けるものなどが示されているが,これらの構成のものがあった
ことから,原告主張のように,塵埃が汚物であることから常時には作業者の目から
隠すことが当業者の技術常識であったことを裏付けることはできない。美観上の理
由からゴミを集積するフィルタ室を外部から見えないようにするとの原告指摘の点
の間に関係があるものと認めることはできない。
 (3) 結局,決定が相違点(b)について,「引用発明1と引用発明2は,同一の
吸込式掃除機を技術分野とするものであるから,引用発明1の「蓋」を,引用発明
2のように「透明」とすることは,当業者であれば容易になし得たことである」と
し,相違点(a)も含めて検討した結果,「引用発明1の「吸込式掃除機」に引用
発明2の「透明な蓋」を組み合わせて,本件発明のように構成することは,当業者
であれば,容易になし得ることである」とした決定の判断に,原告主張の誤りはな
い。
 3 作用効果の主張について
 本件発明の構成が容易に想到可能であった以上,そこから奏される作用効果も,
当業者であれば当然予測し得る程度のものである。原告が主張するように本件発明
に係る掃除機が実施されて商業的な成功を得たとしても,本件発明の作用効果の予
測容易性を左右するものではない。作用効果に関する原告の主張も理由がない。
第5 結論
 以上のとおり,決定の認定判断の誤りをいう原告の主張は理由がなく,原告の請
求は棄却されるべきである。
  東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官 塚  原  朋  一
            裁判官 塩  月  秀  平
裁判官 田  中  昌  利

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