平成14(行ケ)613行政訴訟 意匠権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成15年3月26日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
意匠権
意匠法3条2項1回
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キーワード |
審決20回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第613号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年3月5日
判 決
原 告 A
被 告 特許庁長官 太 田 信一郎
同指定代理人 藤 木 和 雄
同 藤 正 明
同 涌 井 幸 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2000-11865号事件について平成14年10月21日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,特許庁から受けた意匠登録出願の拒絶査定について,不服
があるとして,特許庁に対し,上記拒絶査定に対する審判を請求したところ,特許
庁が,審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,
同審決の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,平成11年6月30日,意匠に係る物品を「織物地」とし,その
形態を別紙に示すとおりとした意匠(以下「本願意匠」という)の登録出願(以下
「本件出願」という)をしたところ,特許庁は,本願意匠につき,従来より極めて
普通に見られる紬織り風色無地布の表面に,他の色(ピンク色)の糸を格子状にし
て表したまでのものにすぎないから,当業者であれば,容易に創作ができたものと
認められるとの拒絶の理由を通知し,同12年5月16日,同理由により拒絶すべ
き旨の査定を行い,同査定謄本は,同月27日,原告に送達された。
(2) 原告は,平成12年6月26日,上記拒絶査定に対する審判を請求したと
ころ,特許庁は,同14年10月21日,次の理由により,本願意匠については,
その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,日本国内において広く知
られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をす
ることができたものと認められるから,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録
を受けることができないとして,審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「本件
審決」という)を行い,本件審決謄本は,同年11月13日,原告に送達された。
ア 本願意匠は,(ア) 紬織り風色無地布の表面を明るいグレーに,裏面を
黒色とし,ピンク色の撚糸を用いて長方形の格子模様を表裏に形成し(以下「本件
態様(ア)」という),(イ) 撚糸が,織り込まれることなく表面に露出している態
様(以下「本件態様(イ)」という)としたものである。
イ 本件態様(ア)のうち,紬織り風色無地布及び格子模様の織物地は,本件
出願前から公然知られたものであり,また,表面を明るいグレーに,裏面を黒色と
すること及びピンク色の撚糸を使用することも当業者であれば容易に考えつく僅か
な改変にすぎないから,そこに格別の創作を認めることはできない。本件態様(イ)
については,織物地の模様としては余り見受けられないものの,しつけのためにし
つけ糸を生地表面に露出させることは,織物地の分野ではごくありふれた手法であ
り,この周知の手法を用いて格子模様を形成することも当業者であれば容易になし
得る変更にすぎないから,この態様を格別の創作力を要する程のものと認めること
はできない。
ウ そして,本件態様(ア)(イ)を組み合わせることにも格別の創作性は認め
られない。
エ 原告は,本願意匠には,立体感のある美しさが発現され,独創性がある
旨主張するが,撚糸の厚み自体ごく僅かのものであって,殊更その立体感が際立っ
たものとも認められないから,本願意匠は,公知の態様に基づいて当業者が容易に
なし得る僅かな改変により「織物地」としたまでのものにすぎない。
(3) そこで,原告は,当庁に対し,平成14年12月10日,本件審決につい
て不服があるとして,本件訴訟を提起した。
2 争点
本件審決に関し,原告の主張する次の各取消事由の当否
(1) 原告の主張
ア 本件態様(ア)のうち,ピンク色または真紅(以下,単に「ピンク色」と
いう)の撚糸を使用することは,静けさの中に強さを調和させるという本願意匠特
有の着想がなければ考えつかない,明らかな飛躍のある創作であるにもかかわら
ず,本件審決は,誤って,当業者であれば容易に考えつく僅かな改変にすぎないと
判断した。
イ 本件態様(イ)は,織物地の模様として見受けられるものではないにもか
かわらず,本件審決は,誤って,織物地の態様として,ある程度は見受けられるも
のと判断した。
ウ 上記アイのとおりである以上,本件態様(ア)(イ)を組み合わせることも
容易とはいえないにもかかわらず,本件審決は,誤って,上記組合せには格別の創
作性は認められないと判断した。
エ 本願意匠において用いられている表地布は,厚みが0.2から0.3㎜
の薄い織物地であるから,通常は,細い撚糸を使用した方が調和するものであり,
太すぎる撚糸を使用すればバランスが崩れるところ,撚糸の直径を0.4㎜の円柱
状と特定し,また,織物地と撚糸との面積比を50対1とすることによって,色彩
や模様のバランスが最高のものとなり,きりっとした立体的直線美を発現し,格子
模様の究極の美を呈するものとなり,また,撚糸本来の用途・役割を180度転換
して,織物地の格子模様形成の主役とすることによって,今まで全く見られなかっ
たものを創作したにもかかわらず,本件審決は,誤って,撚糸の厚み自体ごく僅か
なものであって,殊更その立体感が際立ったものとも認められず,本願意匠は,公
知の態様に基づいて当業者が容易になし得る僅かな改変により「織物地」としたま
でのものにすぎないと判断した。
(2) 被告の反論
ア ピンク色の撚糸については,本件出願前に既に公知であった撚糸の中か
ら,光沢のあるピンク色の撚糸を選択したまでのことであり,当業者であれば容易
になし得ることである。ピンク色の撚糸を使用することについて,格別の創作があ
るとは認められない。
イ 本件態様(イ)は,布地表面に糸を露出させるという周知の方法を用い
て,最も単純な方法で,布地表面に縦糸と横糸とを直交させて,周知の格子模様を
作っただけのものであって,当業者において容易に創作できたものである。
なお,本件態様(イ)が織物地の模様として実際上余り見受けられないの
は,露出した糸が引っ掛かり易かったり,洗濯が困難である等のむしろ実用的な理
由によるところが大きいと考えられるから,このことをもって,直ちに,本願意匠
の創作性が裏付けられるものではない。
ウ 原告は,上記(1)エのとおり主張するが,布地表面に僅かに突出部を形成
して模様を表すことはごく普通のことであり,また,本願意匠と同様の格子模様も
ごくありふれたものである。
第3 争点に対する判断
1 原告の主張アについて
原告は,本件態様(ア)のうち,ピンク色の撚糸を使用することは,静けさの
中に強さを調和させるという本願意匠特有の着想がなければ考えつかない,明らか
な飛躍のある創作であると主張する。
しかしながら,ピンク色の撚糸が,本件出願前に,既に周知のものであった
ことは明らかであるから(公知の事実),撚糸として,ピンク色のものを選択する
ことは,当業者であれば容易になし得るものというべきであり,この点をもって,
上記原告主張のとおり,静けさの中に強さを調和させるという本願意匠特有の着想
がなければ考えつかない,明らかな飛躍のある創作であるということは到底できな
い。
以上によれば,原告の主張アは,採用することができず,また,ピンク色の
撚糸を使用することについて,当業者であれば容易に考えつく僅かな改変にすぎ
ず,そこに格別の創作を認めることはできないとした本件審決の判断には,誤りは
ないというべきである。
2 原告の主張イについて
(1) 原告は,本件態様(イ)につき,織物地の模様として見受けられるものでは
ないと主張するところ,確かに,一件記録を精査しても,織物地そのものの模様と
して本件態様(イ)やこれに類似するものが存在していると認めるに足りる証拠は存
在しない。
(2) しかしながら,本件審決は,その文意に照らせば,本件態様(イ)につい
て,織物地そのものの模様としては,余り見受けられないとしつつ,織物地の分野
においては,ごくありふれた手法であることから,このような周知の方法を,織物
地そのものに用いることも,当業者であれば容易になし得る変更にすぎないと判断
しているものと理解すべきものであり,本件態様(イ)について,織物地そのものの
模様として,ある程度は存在していると認定しているなどと理解すべきものではな
い。
(3) そうすると,たとえ,織物地そのものの模様として本件態様(イ)やこれに
類似するものが存在していると認めるに足りる証拠が存在しないとしても,このこ
とをもって,直ちに,本件審決の結論に影響を及ぼすべき瑕疵があるということは
できないのであり,この点において,原告の主張イは,失当というべきである。
(4) かえって,証拠(乙1から4)によれば,織物地にしつけを行う場合に,
しつけ糸を織物地の表面に露出させることは,ごく一般的に行われている手法であ
り,また,織物地の加工品である上着の襟際,ポケット,裾等を強調するために,
布地表面に撚糸を露出させることは,実際のデザイン例として存在するところであ
り,特に目新しいという類の手法ではなく,さらに,織物地の表面に糸を露出させ
る場合に,一本の糸を模様通りに置き,その上から別糸で同一間隔に刺して,しっ
かりとめることは,コーチングステッチという名称で,ごく一般的に行われている
ステッチの手法であることが認められるから,本件態様(イ)は,織物地を取り扱う
分野においては,ごくありふれた手法ということができる。なお,実際のデザイン
例として,布地表面に撚糸を露出させることが余り見受けられないことについて
は,被告も否定しないところであるが,このようなデザインとした場合に,露出し
た撚糸が引っ掛かり易く,取扱いの点において不便が生ずることは明らかというべ
きであるから,上記のとおり,実際のデザイン例として,布地表面に撚糸を露出さ
せることが余り見受けられないとしても,それは,上記のような実用面での不便性
に寄与するところが多いと強く推認されるというべきである。
また,一件記録を精査しても,織物地の意匠を構成するにあたって,本件
態様(イ)の適用を妨げるような事情は認められないところ,意匠の構成にあたっ
て,近接分野における周知意匠の適用を試みることは,当業者であれば,当然にな
し得べき事項というべきである。
上記各事情に照らせば,本件態様(イ)の手法を織物地そのものに用いるこ
とについては,当業者であれば容易になし得たものというべきである。
以上によれば,本件態様(イ)を用いて格子模様を形成することについて,
当業者であれば容易になし得る変更にすぎず,この態様を格別の創作力を要する程
のものと認めることはできないとした本件審決の判断には,誤りはないというべき
である。
3 原告の主張ウについて
上記のとおり,原告の主張アイは,いずれも採用することができないから,
これらの主張が採用されることを前提とする原告の主張ウも,失当というべきであ
る。
そして,一件記録を精査しても,本件態様(ア)(イ)の組合せを妨げるような
事情は認められないところ,上記組合せは,当業者であれば当然になし得べき事項
というべきであるから,本件態様(ア)(イ)を組み合わせることについて,格別の創
作性は認められないとした本件審決の判断には,誤りはないというべきである。
4 原告の主張エについて
原告は,撚糸の直径を0.4㎜の円柱状と特定し,また,織物地と撚糸との
面積比を50対1とすることによって,色彩や模様のバランスが最高のものとな
り,きりっとした立体的直線美を発現し,格子模様の究極の美を呈するものとな
り,また,撚糸本来の用途・役割を180度転換して,織物地の格子模様形成の主
役とすることによって,今まで全く見られなかったものを創作したと主張する。
しかしながら,仮に,原告主張のとおり,本願意匠において,撚糸の直径が
0.4㎜の円柱状と特定され,また,織物地と撚糸との面積比が50対1と構成さ
れているとしても,本願意匠が,色彩や模様のバランスが最高のものであるとか,
格別にきりっとした立体的直線美を発現したものであるとか,格子模様の究極の美
を呈するものであるなどということはできない。けだし,本願意匠を公知の格子模
様の織物地(乙5,6)等と比較しても,色彩等のバランスの点で独創性が認めら
れるものではないし,また,撚糸の厚み自体からみて殊更に立体感が際立ったもの
でもなく,さらに,格子模様の縦・横の比の点でも格別の創作も認められないから
である。むしろ,本願意匠は,当業者であれば上記公知の意匠等に基づいて容易に
創作をすることができたものといわざるを得ない。
また,上記2(4)のとおり,本件態様(イ)の手法を織物地に用いることについ
ても,当業者であれば容易になし得たものというべきである。
以上によれば,原告の主張エも,採用することができず,また,本願意匠に
ついて,公知の態様に基づいて当業者が容易になし得る僅かな改変により「織物
地」としたまでのものにすぎないとした本件審決の判断には,誤りはないというべ
きである。
5 結論
以上のとおり,原告主張に係る各取消事由はいずれも理由がなく,また,本
件審決の判断には,誤りはないというべきである。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 北 山 元 章
裁判官 青 柳 馨
裁判官 絹 川 泰 毅
(別紙)
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