平成25(ワ)14825債務不存在確認請求事件
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裁判所 |
確認 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成25年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社コムスクエア 原告ITホールディングス株式会社ITホールディングス
TIS株式会社TIS」という
株式会社インテックインテック」
ら訴訟代理人弁護士升永英俊
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法令 |
特許権
特許法104条の31回
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キーワード |
特許権35回 実施32回 新規性17回 進歩性14回 侵害13回 損害賠償4回 差止4回 無効3回 無効審判1回
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主文 |
1 被告が,原告らに対し,別紙製品目録記載の架電接続装置の生産,使用,譲渡,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出について,特許第4077866号の特許権のうち請求項1に基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する。
2 被告が,原告らに対し,別紙方法目録記載の架電接続方法の使用について,特許第4077866号の特許権のうち請求項15に基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,被告から特許権侵害を主張された原告らが,被告に対し,特許権に
基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の不存在確認を求
める事案である。 |
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判決文
平成25年12月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成25年(ワ)第14825号 債務不存在確認請求事件
口頭弁論終結日 平成25年9月30日
判 決
東京都新宿区<以下略>
原 告 ITホールディングス株式会社
以下「 原告IT ホールディングス」 という。)
ITホールディングス
( 以下 「 原告 IT ホールディングス 」 という 。)
東京都新宿区<以下略>
原 告 T I S 株 式 会 社
以下「原告TIS」 という。)
TIS」という
( 以下 「 原告 TIS」 という 。)
富山市<以下略>
原 告 株 式 会 社 イ ン テ ッ ク
以下「原告インテック という。)
インテック」
( 以下 「 原告 インテック 」 という 。)
原告ら訴訟代理人弁護士 升 永 英 俊
同 江 口 雄 一 郎
同 補 佐 人 弁 理 士 佐 藤 睦
同 大 石 幸 雄
東京都江東区<以下略>
被 告 株 式 会 社 コ ム ス ク エ ア
同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
同 髙 見 憲
同 溝 田 宗 司
主 文
1 被告が,原告らに対し,別紙製品目録記載の架電接続装置の生産,使用,
譲渡,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出に ついて,特許第4077866号 の
特許権のうち請求項1に基づく差止請求 権,損害賠償請求権及び不当利得 返
還請求権を有しないことを確認する。
2 被告が,原告らに対し,別紙方法目録記載の架電接続方法の使用について,
特許第4077866号の特許権のうち 請求項15に基づく差止請求権, 損
害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,被告から特許権侵害を主張された原告らが,被告に対し,特許権に
基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の不存在確認を求
める事案である。
2 前提となる事実
末尾に証拠等を付した以外の事実は争いがない。
(1) 当事者
ア 原告ITホールディングスは,原告TIS及び原告インテックの完全親
会社であり,傘下子会社及びグループの経営管理並びにそれに付帯する業
務を行っている。
原告TISは,コンピュータハードウェア・ソフトウェアの開発・賃貸
借及び売買等を目的とする株式会社である。
原告インテックは,コンピュータによる情報の処理等を目的とする株式
会社である。
イ 被告は,コンピュータの ハードウェ ア ,ソフトウェア並 びに周辺機 器
の設計・開発・製 造・販売・ 運用・保守 並びに輸出入等を 目的とする 株
式会社である。
(2) 本件仮処分
被告は,原告らに対し,平成24年11月26日,原告らが提供する別紙
製品目録記載の架電接続装置 ( 以下 「 イ 号製 品 」 とい う 。) ,原告らが提
供する別紙方法目録記載の架電接続方法 ( 以 下 「 イ 号 方法 」 と いう 。) ,
イ号製品又はイ号方法を 用いた着信管理 システム「Callノー ト」 ( 以
下 「 イ 号 シス テム 」 と いう 。) が,被告の有する特許権(特許第4077
866号。以下「本件特許権」といい, 本件特許権に係る特許公報(甲
1)を末尾に添付する。)の請求項1,8ないし11,15,20ないし2
3の発明の技術的範囲に属し本件特許権を侵害すると主張して,イ号製品の
生産,使用,譲渡,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出の禁止,イ号製品の執行
官への引渡し,及び,イ号方法の使用禁止を求める仮処分命令を申し立てた
(当庁平成24年(ヨ)第22096号 。 以 下 「 本件 仮処分 」 という 。 甲
2の1,弁論の全趣旨)。
被告は,その後,本件仮処分において,侵害を主張する発明を本件特許権
の請求項1の発明 ( 以下 「 本件発明 1 」 とい う 。) に限定した(当裁判所
に顕著な事実)。
(3) 本件特許権
ア 本件特許権
被告は,以下の特許権(本件特許権)を有している。
発明の名称 架電接続装置,架電接続方法,架電接続プログラム,及
び架電受付サーバ
特許番号 第4077866号
出願日 平成18年8月2日
出願番号 特願2007-529516
優先日 平成17年8月3日
登録日 平成20年2月8日
イ 本件発明1
本件特許権の請求項1に係る発明(本件発明1)の特許請求の範囲の記
載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベースと,
該データベースを内部に保持する記憶装置と,
第1の電話機から前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受
付けるとともに該電話番号の中から前記識別番号を抽出する架電受付部と,
該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番
号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出部と,
該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該
連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続する接続処理部と,を有する
架電接続装置。」
本件発明1の構成要件を分説すると,以下のとおりである。
1-A 識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベースと,
1-B 該データベースを内部に保持する記憶装置と,
1-C 第1の電話機から前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架
電を受付けるとともに該電話番号の中から前記識別番号を抽出する架電
受付部と,
1-D 該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該
識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出部と,
1-E 該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架
電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続する接続処理部と,
1-F を有する架電接続装置。
ウ 本件発明6
本件特許権の請求項 15に係る発明 ( 以 下 , 本件 仮処分 におけ る 番 号
に 従 い ,「 本件発 明 6 」 と いう 。 ) の特許請求の範囲の記載は,以下 の
とおりである。
「【請求項15】
データベース内に連絡先番号と関連付けられて格納された識別番号を含
む電話番号宛に第1の電話機から架けられた架電を受付けるステップと,
該電話番号の中から前記識別番号を抽出するステップと,
該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番
号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出するステップと,
該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該
連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続するステップと,を有する架
電接続方法。」
本件発明6の構成要件を分説すると,以下のとおりである。
6-A データベース内に連絡先番号と関連付けられて格納された識別番
号を含む電話 番号宛に 第1の電 話機から 架けられた架 電を受付 けるス
テップと,
6-B 該電話番号の中から前記識別番号を抽出するステップと,
6-C 該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該
識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出するステップと,
6-D 該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架
電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続するステップと,
6-E を有する架電接続方法。
3 争点
(1) イ号製品及びイ号方法が「識別番号」を「抽出」しているか(争点1)
(2) 本件発明1,6が甲7から新規性,進歩性を有するか(争点2)
(3) 本件発明1,6が甲8から新規性,進歩性を有するか(争点3)
(4) 本件発明1,6が甲9から新規性,進歩性を有するか(争点4)
(5) 本件発明1,6が甲10から新規性,進歩性を有するか(争点5)
(6) 本件発明1,6が甲11から新規性,進歩性を有するか(争点6)
(7) 本件発明1,6が甲12から新規性,進歩性を有するか(争点7)
(8) 原告ITホールディングスが侵害の主体であるか(争点8)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(イ号製品及びイ号方法が「識別番号」を「抽出」しているか)につ
いて
(被告の主張)
(1) イ号製品と本件発明1の対比
ア 構成要件1-A
イ号製品は,着信管理システム「Callノート」に用いる架電接続装
置であるが,「仮想電話番号」と「転送先電話番号」を紐づけてCall
ノートのデータベース内に記憶しているから,「仮想電話番号と転送先電
話番号とを関連情報として有するデータベース」を備えている。
イ号製品の「転送先電話番号」は最終的に接続される広告クライアント
等の電話機(「 第2の電話機 」に相当) の電話番号を指 し,「連絡先 番
号」に相当する。
また,後記のとおり,「仮想電話番号」は「識別番号」に該当する。
よって,イ号製品は構成要件1-Aを充足する。
イ 構成要件1-B
イ号製品は,「識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータ
ベース」に該当するCallノート「データベース」を備え,当該Cal
lノート「データベース」を「内部に保持する記憶装置」も備えている。
よって,イ号製品は構成要件1-Bを充足する。
ウ 構成要件1-C
(ア) イ号製品は,「第1の電話機から……電話番号宛てに架けられた架電
を受付ける……架電受付部」を充足すること
イ号製品は,一般顧客又は消費者が自身の有する電話機から広告媒体
に表記された「仮想電話番号」宛てに架けられた電話を受け付けている。
したがって,イ号製品は,「第1の電話機から……電話番号宛てに架
けられた架電を受付ける……架電受付部」を充足する。
(イ) イ号製品は,「……前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電
を受け付ける とともに 該電話番 号の中か ら前記識別番 号を抽出 する…
…」を充足すること
a 構成要件1-Cにいう「抽出」とは「認識」という意味であること
本件発明の技術的思想は,転送電話を用いた広告システムにおける
利用者(ユーザ)の操作性が簡便な架電接続装置等の提供及び転送電
話を用いた広告システムにおいて広告主が広告効果を広告情報ないし
は広告媒体ごとに管理・把握することができる架電接続装置等の提供
という課題を解決するために,予め識別番号と連絡先番号が関連づけ
られたデータベースを用意し(構成要件1-A),ユーザが架電した
電話番号に含まれる識別番号を認識して(同1-C),該識別番号に
関連づけられた連絡先番号にユーザからの架電を接続する(同1-D,
1-E)という構成を採用したものである。つまり,構成要件1-C
の「抽出」については,その後に続く連絡先番号の抽出(構成要件1
-D)のために必要な識別番号を認識することであると解釈すること
が素直である。
したがって,当該技術的思想に鑑みれば,「抽出」とは「認識」と
解釈するべきである。
この点について,原告らは,「抽出」とは「抽出元である複数の物
の中から目的にかなうもの(すなわち「一部」)を取り出すこと」と
主張する。
しかし,そもそも,構成要件1-Cの「該電話番号の中から前記識
別番号を抽出」という要素においては,もともと,「該電話番号」と
いう一つの物しか存在しないから,「複数の物」にかかる抽出元の存
在を前提とした上記「抽出」の定義を持ち出すことは,その前提を欠
くものである。
構成要件1-Cに対応する「抽出」という用語は,本件特許権に係
る明細書(甲1。 以 下 , 本件特 許権 に 係 る 特許請 求 の 範 囲 , 明細 書
及 び 図面 を 合 わせて 「 本件 明細 書 」 と いう 。 )中では使用されてい
ないが,これに対応する本件明細書【0152】には,以下のような
記載がある。
「CTI演算部623は,架電受付部623Aで取得した広告電話番
号710に含まれる識別番号を認識し,データベース610内の広告
関連情報記録領域611から識別番号に関連づけられた広告主400
の広告特定情報611Aを検索し,広告特定情報611Aの連絡先番
号情報611A2Bを取得し,応答検知部623Cへ出力する。」
すなわち,ここでは,構成要件1-Cの「抽出」に対応する概念と
して,「認識」と表現されているのであって,要するに識別番号が認
識できれば,その後の所与のステップである連絡先番号の抽出は可能
であるのであるから,構成要件1-Cにいう「抽出」は,その辞書的
な意味にこだわるのではなく,その後に続く連絡先番号の抽出のため
に必要な識別番号を認識することであると解釈することが素直である。
また,仮に構成要件1-Cにいう「抽出」という用語を辞書的意義
に解釈するとしても,原告らが「(即ち「一部」)」という主張をし
ている部分は,「抽出元である複数の物の中から目的にかなうもの」
が全部である場合のことを無視した,証拠に基づかない独自の解釈で
あって,失当である。
b 「識別番号」の意義
「識別番号」は,本件明細書【0073】によると,「ユーザがい
ずれの広 告情報に 基づい て架電 してき た かを識別 するため の番号 で
あって,広告情報ごとに割り当てられている」番号であれば必要にし
て十分であり,このことは,「識別番号」は「電話番号」の全部/一
部を問うものではない。
原告らは,本件発明の特許請求の範囲において「該電話番号の中か
ら前記識別番号を抽出する」という文言を捉えて,「抽出」=識別番
号が仮想電話番号の一部,という主張をしているが,上述のとおり,
原告らが前提としている辞書的な意味での「抽出」は構成要件1-C
には妥当し得ないのであるから,かかる主張はその前提において誤り
である。むしろ,上述のとおり,構成要件1-Cの「抽出」に相当す
る明細書の記載を斟酌すれば,「抽出」=「認識」と解釈すべきであ
るので,「識別番号」が「電話番号」の全部の場合も一部の場合も両
方とも含むということになる。
c 小括
以上のとおり,「該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」の
「抽出」は「認識」という意味であり,「識別番号」は「電話番号」
の全部であっても一部であってもどちらでもよい。
そうすると,「識別番号」が「電話番号」の全部である場合,「前
記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受け付けるとともに
該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」とは,単に「電話番号
宛に架けられた架電を受け付けるとともに該電話番号を前記識別番号
として認識する」という意味になる。
d イ号製品における「仮想電話番号」は「識別番号」であること
イ号製品における仮想電話番号は,広告媒体又は広告情報と関連付
けられており,「一般顧客/消費者」(ユーザ)がどの媒体の情報か
ら電話をかけてきたのかを把握するために用いられており,媒体に掲
載される電話番号であるとともに,ユーザがどの媒体の情報から電話
をかけてきたのかを把握する機能又は用途を有している。よって,仮
想電話番号は,「識別番号」に相当する。
e イ号製品が「前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受
け付けるとともに該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」を充
足すること
イ号システムはIP電話サービスシステムである。IP電話サービ
スシステムでは,パケットデータを受信した後に識別番号を認識しな
ければ,架電受付サーバはその後連絡先番号へと架電を転送できない。
よって,IP電話サービスシステムであるイ号システムは,「電話
番号宛に架けられた架電を受け付けるとともに該電話番号を前記識別
番号として認識」しているから,「前記識別番号を含む電話番号宛に
架けられた架電を受け付けるとともに該電話番号の中から前記識別番
号を抽出する」を充足する。
(ウ) よって,イ号製品は構成要件1-Cを充足する。
エ 構成要件1-D
イ号製品は,認識された仮想電話番号に基づいて,データベースから当
該仮想電話番号に関連付けられた転送先電話番号を抽出している。
よって,イ号 製品は, 「該抽出 された前 記識別番号に 基づいて ,前記
データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する
連絡先抽出部」を充足し,構成要件1-Dを充足する。
オ 構成要件1-E
イ号製品は,「一般顧客/消費者」からの架電を転送先電話番号の電話
機に接続する。
したがって,イ号製品では,「該抽出された連絡先番号に基づいて,前
記第1の電話機からの架電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接
続する接続処理部」を備えており,構成要件1-Dを充足する。
カ 構成要件1-F
イ号製品は「架電接続装置」にあたるから,構成要件1-Fを充足する。
(2) イ号方法は本件発明6を充足すること
本件発明6は,本件発明1を方法の発明として表現したものである。した
がって,イ号製品が本件発明1を充足する以上,イ号方法も特許発明6を充
足する。
(原告らの主張)
(1) 本件発明における「識別番号」及び「抽出」の意義
ア 「抽出」の意味
本件発明1の 構成要件 1-C及 び本件発 明6の構成要 件6-B には,
「該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」とある。すなわち,本件
発明において,「識別番号」は,「電話番号」から「抽出」されたもので
なければならない。
ここで,特許請求の範囲の用語は,原則としてその有する普通の意味で
使用しなければならないところ,「抽出」とは,「①ぬき出すこと。ひき
出すこと。特に,推測統計で母集団から標本をぬき出すこと。」(広辞苑
第6版・甲6)という意味であり,「ぬき出す」とは,「②選び出す。選
抜する。」(甲6)という意味であり,「選び出す」とは,「複数の物の
中から目的にかなう物を取り出す。」(甲6)という意味である。
以上の次第であるから,結局,「抽出」とは,抽出元である複数の物の
中から目的にかなう物(すなわち「一部」)を取り出すことを意味するも
のである。
したがって,本件発明における「識別番号」は,「抽出」が有する普通
の意味からすれば,「電話番号」の全部ではなく一部であると解すべきで
ある。
イ 本件明細書の記載
本件明細書の段落【0006】には,従来技術として,「公開番号(転
送元の電話番号)と契約番号(転送先の電話番号)とを対応付けておくこ
とにより,公開番号宛に架けられた電話を契約番号宛に転送する」という
発明(甲10)を記載している。
仮に,本件発明における「識別番号」を「電話番号の全部」であると解
すると,本件発明1は,単に,「電話番号」(転送元の電話番号)と「連
絡先番号」(転送先の電話番号)とを対応付けた電話転送サービスと解さ
ざるを得ず,上記従来技術と同一となってしまう。
また,本件明細書には,実施の形態として,21桁の広告電話番号71
0(【0103】)の一部(14桁)を識別番号(【0105】)とする
例が示されているのみであり(【図7】),広告電話番号の全部を識別番
号とすることについては,開示はおろか,示唆すらされていない。
本件明細書の従来技術の記載からすれば,当然である。
したがって,本件明細書の記載によっても,本件発明における「識別番
号」は,「電話番号」の全部ではなく一部である,と解すべきことは明ら
かである。
ウ 被告の主張に対する反論
(ア) 被告は,本件明細書の段落【0073】に基づき,「識別番号」とは,
「ユーザがいずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するため
の番号であって,広告情報ごとに割り当てられている」ものであればよ
く,「電話番号」の全部であってもよい,と主張する。
(イ) 特許請求の範囲の記載
しかし,被告の主張は,特許請求の範囲の「識別番号」との用語を,
他の構成要件の記載,技術常識,明細書の記載等,特許発明の技術的範
囲を定める上で考慮しなければならない事項を完全に無視して解釈する
ものであり,失当である。
本件発明1の構成要件1-Cには,「第1の電話機から前記識別番号
を含む電話番号宛に架けられた架電を受付けるとともに該電話番号の中
から前記識別番号を抽出する架電受付部と,」と記載されており,「識
別番号」は,「電話番号」の中から「抽出」される番号であることが,
請求項において明確に規定されている。
したがって,本件発明における「識別番号」の意義を解釈するにあた
り,本件明細書の段落【0073】の記載を考慮するとしても,特許請
求の範囲に記載されているように,「識別番号」が,「電話番号」の中
から「抽出」されるものであることは明白である。
(ウ) 当業者による,日本語として意味の分かる解釈
仮に被告の主張のとおり,識別番号が電話番号の全部(すなわち,識
別番号と電話番号が同一)であるとすると,構成要件1-Cは,「第1
の電話機から前記電話番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受付け
るとともに該電話番号の中から前記電話番号を抽出する架電受付部と」
(「識別番号」を「電話番号」に置き換え。引用者注)の意味になる。
しかしながら,上記下線部は,日本語として意味不明である。当業者
が,構成要件1-Cを読んだ場合に,このような日本語として意味不明
な解釈を含むものと理解することは,到底あり得ない。
(エ) 本件明細書の記載
本件明細書の段落【0008】には,従来技術が有する課題として,
「1つの契約番号を転送先として複数の広告会社による同様のサービス
の提供を受ける場合,電話局では広告会社を識別できず,広告会社ごと
の広告効果を区別できない。」との記載がある。
本件発明は,このような課題を解決するために,電気通信事業者(電
話局)から割り振られた電話番号とは別に,広告を識別するための識別
番号を独自に生成し,「電気通信事業者から割り振られた電話番号」に,
「独自に生成 された識 別番号」 を付加し たものを,「 広告電話 番号」
(本件発明における「電話番号」に相当する。)として用いるものであ
る。
したがって,本件発明における上記課題を考慮すれば,本件発明にお
ける「識別番号」は,電話番号(「広告電話番号」)の全部ではなく一
部(独自に生成された部分)である,と解される。
(オ) 「抽出」の意味について
被告は,本件明細書の段落【0152】の記載から,本件発明におけ
る「抽出」とは,(電話番号の中から識別番号を)認識するという程度
に解するべきである,と主張する。
しかし,特許請求の範囲に記載された用語の意味は,特定の意味が定
義された場合を除き,「普通の意味」で解釈されなければならない。
請求項において,「抽出」という,専門用語でもない,通常の日本語
の文言を使用しながら,段落【0152】の記載程度の内容で,請求項
の「抽出」との文言が,日本語として意味の異なる「認識」の意味に置
き換わると解釈することは,当業者が想定しうる解釈を遥かに超えた議
論であり,認められる余地はない。
(2) 本件発明1とイ号製品の対比
ア 上記のとおり,本件発明における「識別番号」とは,「電話番号」の一
部を意味するものであり,全部を意味するものではない。
イ号システムは,電話転送に用いられる転送データベースにおいて,各
「仮想電話番号」の全部を「転送先電話番号」と対応付けてはいるものの,
各「仮想電話番号」の一部を「転送先電話番号」と対応付けることは行っ
ていない。よって,イ号システムにおける「仮想電話番号」は,その全部
又は一部のいずれも,本件発明における「識別番号」に相当し得ない。
したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件のうち,「識別番号」
を含む構成要件1-A,1-C,1-Dを充足しない。
イ また,本件発明1は,構 成要件1- C で,「該電話番号 の中から前 記
識別番号を抽出」する。
イ号システムは,仮想電話番号宛の架電を受け付けると,該仮想電話番
号の全部に対応付けられた転送先電話番号を転送データベースから取得し,
該転送先電話番号宛に該架電を転送している。よって,イ号システムは,
「該仮想電話番号の中から番号を抽出すること」など行っていない。
仮に,仮想電話番号が「識別番号」に該当すると仮定しても,イ号シス
テムでは,仮想電話番号に架けられた架電を受付ける際,仮想電話番号か
ら仮想電話番号を「抽出」することは行っていない。
したがって,この点においても,イ号製品は,本件発明1の構成要件1
-C,1-Dを充足しない。
(3) 本件発明6とイ号方法の対比
ア 上記のとおり,本件発明における「識別番号」とは,「電話番号」の一
部を意味するものであり,全部を意味するものではない。
イ号システムは,電話転送に用いられる転送データベースにおいて,各
「仮想電話番号」の全部を「転送先電話番号」と対応付けてはいるものの,
各「仮想電話番号」の一部を「転送先電話番号」と対応付けることは行っ
ていない。よって,イ号システムにおける「仮想電話番号」は,その全部
又は一部のいずれも,本件発明における「識別番号」に相当し得ない。
したがって,イ号方法は,本件発明6の構成要件のうち,「識別番号」
を含む構成要件6-A,6-B,6-Cを充足しない。
イ また,本件発明6は,構 成要件6- B で,「該電話番号 の中から前 記
識別番号を抽出」する。
イ号システムは,仮想電話番号宛の架電を受け付けると,該仮想電話番
号の全部に対応付けられた転送先電話番号を転送データベースから取得し,
該転送先電話番号宛に該架電を転送している。よって,イ号システムは,
「該仮想電話番号の中から番号を抽出すること」など行っていない。
したがって,この点においても,イ号方法は,本件発明6の構成要件6
-B,6-Cを充足しない。
2 争点2(本件発明1,6が甲7から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲7には,以下の甲7A発明及び甲7B発明が記載されている。
ア 甲7A発明
7A1-a 拡張番号と広告主の実際の電話番号とのマッピング情報を記
憶するマッピングデータベースと,
7A1-b 該マッピングデータベースを保持する記憶装置と,
7A1-c サーチ者の電話機から拡張番号を含む一義的な電話番号宛に
架けられた架電を受け付けるとともに該一義的な電話番号の中から拡張
番号を抽出する架電受付部と,
7A1-d 該抽出された拡張番号に基づいて,マッピングデータベース
から,拡張番号にマッピングされた,広告主の実際の電話番号を抽出す
る電話番号抽出部と,
7A1-e 該抽出された広告主の実際の電話番号に基づいて,サーチ者
の電話機からの架電を該広告主の実際の電話番号に対応する広告主の電
話機へと接続する接続処理部と,
7A1-f を有する架電接続装置。
イ 甲7B発明
7B6-a マッピングデータベース内に広告主の実際の電話番号とマッ
ピングされて格納された拡張番号を含む一義的な電話番号宛にサーチ者
の電話機から架けられた架電を受け付けるステップと,
7B6-b 該一義的な電話番号の中から拡張番号を抽出するステップと,
7B6-c 該抽出された拡張番号に基づいて,マッピングデータベース
から,拡張番号にマッピングされた,広告主の実際の電話番号を抽出す
るステップと,
7B6-d 該抽出された広告主の実際の電話番号に基づいて,サーチ者
の電話機からの架電を該広告主の実際の電話番号に対応する広告主の電
話機へと接続するステップと,
7B6-e を有する架電接続方法。
(2) 甲7A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明1は,甲7A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(3) 甲7B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明6は,甲7B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲7A発明の対比
ア 相違点7A-1:「識別番号」
転送電話を用いた広告システムにおける利用者(ユーザ)の操作性が簡
便な架電接続装置等の提供及び転送電話を用いた広告システムにおいて広
告主が広告効果を広告情報ないしは広告媒体ごとに管理・把握することが
できる架電接続装置等の提供という課題に対して,架電接続装置等におい
て自動転送電話番号機能及び識別機能を有する「識別番号」という構成を
設けることによ り解決する本 件発明の技 術的思想からす ると,「識別 番
号」は,当該「電話番号」に対する架電を自動的に「連絡先番号」に転送
する電話番号としての機能 ( 以 下 「 自動転 送電話番 号機能 」 という 。 )
及びユーザがいずれの広告情報ないしは広告媒体に基づき架電してきたか
を広告主側で識別するための用途又は機能(以下「識別機能」とい
。)を有することが明らかである。
う 。)
翻れば,かかる2つの機能を有さない番号については,本件発明にかか
る「識別番号」に相当する番号とはいえないということになる。
甲7A発明は,ウェブ・ページを持たない等の広告主の要望に応じた成
果ベースの広告を提供することを課題とし,そのような広告主に対して独
自の拡張に係る番号を含む一義的な電話番号を用意し,この一義的な電話
番号への発呼を監視して配置入札などにより予め定められた請求モデルに
よって課金することで課題解決するという技術的思想からして,「識別番
号」という構成を備えていない点において本件発明1と相違する。
この点について,原告らは,甲7に記載されている「独自の拡張」に係
る番号が,「識別番号」に相当する旨主張する。
しかしながら,上記両発明の技術的思想の相違に鑑みれば,「独自の拡
張」にかかる番号は,ユーザがいずれの広告情報ないしは広告媒体に基づ
き架電してきたかを広告主側で識別するための用途又は機能を有さず,故
に自動転送電話番号機能及び識別機能を有する「識別番号」に相当する構
成ではない。すなわち,甲7【0016】には,
「……その一義的な番号がダイヤルされるとBurtの電話が鳴るように,
その一義的な電話番号をBurtの実際の電話番号にマッピングし,……
たとえば,一実施形態では,番号は,「1-800-YEL-PAGES
-1234」番となることができる。800番の1234の部分は,Bu
rtの電話番号にマッピングされる独自の拡張であり,……」
との記載があり,一義的な電話番号のうち「独自の拡張」に係る番号は,
Burtの電話番号にマッピングされている番号に過ぎず,ユーザがいず
れの広告情報ないしは広告媒体に基づき架電してきたかを広告主側で識別
するための用途又は機能を有さないから,自動転送電話番号機能及び識別
機能を有する「識別番号」に相当する構成ではない。
以上から,甲7A発明は,少なくとも「識別番号」という構成を備えて
いない点において本件発明1と相違する(相違点7A-1)。
イ 相違点7A-2:「該データベースを内部に保持する記憶装置」
原告ら は, 甲7 に構 成「該 マッ ピン グデ ータベ ース を保 持する 記憶 装
置」が開示されており,当該構成が本件発明1の構成要件1-B「該マッ
ピングデータベースを保持する記憶装置」に相当するから,甲7A発明が
構成を備えている旨主張する。
しかし,甲7には,単に「独自の拡張」に相当する電話番号の一部が広
告主の実際の電話番号(一義的な電話番号)に「マッピング」されると記
載されているのみであって,実際にどのようなシステムを用いて「マッピ
ング」されるのかという点,「マッピングデータベース」及び「マッピン
グデー タベー スを保 持す る記憶 装置 」に ついて 一切記 載され てお らず ,
「該マッピングデータベースを保持する記憶装置」につき当業者が実施し
得る程度に,その技術的思想が開示されているとはいえない。
したがって,甲7は,引用発明たり得るだけの「7A1-b 該マッピ
ングデータベースを保持する記憶装置と,」という構成が記載されている
ものではない。
よって,本件発明1と甲7A発明とは,甲7A発明がかかる構成を備え
ていない点で相違する(相違点7A-2)。
ウ 以上のとおり,本件発明 1と甲7A 発 明とでは,少なく とも上記相 違
点7A-1及び7 A-2の点 で異なる。 また,これらの相 違点は設計 事
項にも当たらない。
(2) 本件発明6と甲7B発明の対比
本件発明6は,本件発明1を方法の発明として表現したものである。した
がって,甲7B発明には,相違点7A-1に対応して「識別番号」が開示さ
れておらず(相違点7B-1),相違点7A-2に対応して,「データベー
ス内に連絡先番号と関連付けられて格納された識別番号を含む電話番号宛に
第1の電話機から架けられた架電を受付けるステップ」が開示されていない
点(相違点7B-2)で相違する。
3 争点3(本件発明1,6が甲8から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲8には,以下の甲8A発明及び甲8B発明が記載されている。
ア 甲8A発明
8A1-a 契約電話番号と転送先電話番号とを関連情報として有する電
話番号対応テーブルと,
8A1-b 該電話番号対応テーブルを内部に保持する記憶手段と,
8A1-c 発呼側電話機から契約電話番号宛に架けられた架電を受け付
けるとともに該契約電話番号の中から該契約電話番号の全部を抽出する
架電受付部と,
8A1-d 該抽出された契約電話番号に基づいて,電話番号対応テーブ
ルから該契約電話番号に関連付けられた転送先電話番号を選択する転送
先選択部と,
8A1-e 該選択された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機から
の架電を該転送先電話番号に対応する転送先電話機へと接続する接続処
理部と,
8A1-f を有する電話転送装置。
イ 甲8B発明
8B6-a 電話番号対応テーブル内に転送先電話番号と関連付けられて
格納された契約電話番号宛に発呼側電話機から架けられた架電を受け付
けるステップと,
8B6-b 該契約電話番号の中から該契約電話番号の全部を抽出するス
テップと,
8B6-c 該契約電話番号に基づいて,電話番号対応テーブルから該契
約電話番号に関連付けられた転送先電話番号を選択するステップと,
8B6-d 該選択された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機から
の架電を該転送先電話番号に対応する転送先電話機へと接続するステッ
プと,
8B6-e を有する電話転送方法。
(2) 甲8A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明1は,甲8A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(3) 甲8B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明6は,甲8B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲8A発明の対比
甲8A発明は,通信事業者に対する電話利用の申込み及び転送電話サービ
スの利用をせずとも実現可能な転送電話システムを提供するという課題に対
して,公衆電話回路網に接続された回線接続装置において,利用者に付与さ
れた契約電話番号とこれに関連付けられた利用者の指定した転送先電話番号
をテーブル11に記憶することで当該課題の解決を図るという技術的思想か
らして,本件発明とは技術的思想を異にし,ユーザがいかなる広告情報ない
しは広告媒体に基づき架電してきたかを識別する必要がないから,ユーザが
いずれの広告情報ないしは広告媒体に基づき架電してきたかを広告主側で識
別するための用途又は機能を有する構成を必要としない。
よって,甲8A発明には,自動電話転送機能及び識別機能を有する「識別
番号」に相当する構成が開示されていないことは明らかである。
この点について ,原告らは, 甲8に記載 されている「契 約電話番号」 が
「識別番号」に相当する旨主張する。
しかしながら,甲8【図3】等に示されているとおり,「契約電話番号」
は,転送先電話番号に関連付けられて電話番号対応テーブル11に記憶され
ている番号に過ぎず,識別機能を有さないから,自動転送電話番号機能及び
識別機能を有する「識別番号」に相当する構成ではない。
以上から,甲8A発明は,少なくとも「識別番号」という構成を備えてい
ない点において本件発明1と相違する(相違点8A-1)。また,当該相違
点に係る構成は設計事項にも当たらない。
(2) 本件発明6と甲8B発明の対比
甲8には「識別番号」が開示されていないため,本件発明6と甲8B発明
とでは,少なくとも相違点8A-1と同様の相違点8B-1を有する。また,
相違点8B-1は設計事項にも当たらない。
4 争点4(本件発明1,6が甲9から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲9には,以下の甲9A発明及び甲9B発明が記載されている。
ア 甲9A発明
9A1-a 着電話番号と転送先電話番号とを関連情報として有する自動
電話転送サービス用データベースと,
9A1-b 該自動電話転送サービス用データベースを内部に保持する記
憶装置と,
9A1-c 発呼側電話機から着電話番号宛に架けられた架電を受け付け
るとともに該着電話番号の中から該着電話番号の全部を抽出する架電受
付部と,
9A1-d 該抽出された着電話番号に基づいて,自動電話転送サービス
用データベースから該着電話番号に関連付けられた転送先電話番号を選
択する転送先選択部と,
9A1-e 該選択された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機から
の架電を該転送先電話番号に対応する転送先電話機へと接続する接続処
理部と,
9A1-f を有する自動電話転送装置。
イ 甲9B発明
9B6-a 自動電話転送サービス用データベース内に転送先電話番号と
関連付けられて格納された着電話番号宛に発呼側電話機から架けられた
架電を受け付けるステップと,
9B6-b 該着電話番号の中から該着電話番号の全部を抽出するステッ
プと,
9B6-c 該 着電話番号に 基づいて, 自動電話転送サ ービス用デー タ
ベースから該着電話番号に関連付けられた転送先電話番号を選択するス
テップと,
9B6-d 該選択された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機から
の架電を該転送先電話番号に対応する転送先電話機へと接続するステッ
プと,
9B6-e を有する自動電話転送方法。
(2) 甲9A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明1は,甲9A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(3) 甲9B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するから,
本件発明6は,甲9B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲9A発明の対比
甲9A発明は,PSTNの交換機にMGの機能を持たせたIP電話網及び
PSTNの複合網において,着信端末及び転送端末の属性に応じて発呼信号
の適用プロトコルを適宜切り換え,従来なし得なかったIP電話機宛の着信
をPSTN電話機に転送することを可能にするという点に着眼したその技術
的思想からして,そのシステムを構成するプレーヤとして広告代理店等の広
告情報提供者を全く想定していないばかりか,広告情報ないし広告媒体の効
果の識別という課題とは異質の課題を解決しようとするものである。よって,
甲9A発明は,本件発明とその技術的思想を異にし,ユーザがいずれの広告
情報ないしは広告媒体に基づき架電してきたかを広告主側で識別するための
用途又は機能を有する構成を必要としない。
以上より,甲9A発明には,自動電話転送機能及び識別機能を有する「識
別番号」に相当する構成が開示されていないことは明らかである。
この点について,原告らは,甲9に記載されている「着電話番号」が「識
別番号」に相当する旨主張する。
しかしながら,甲9【図4】等に示されているとおり,甲9A発明におけ
る「着電話番号」は,転送先電話番号に関連付けられて自動電話転送サービ
ス用データベース7に記憶されている番号に過ぎず,識別機能を有するもの
ではなく,自動転送電話番号機能及び識別機能を有する「識別番号」に相当
する構成ではない。
以上から,甲9A発明は,少なくとも「識別番号」という構成を備えてい
ない点において本件発明1と相違する(相違点9A-1)。また,当該相違
点に係る構成は設計事項にも当たらない。
(2) 本件発明6と甲9B発明の対比
甲9には「識別番号」が開示されていないため,本件発明6と甲9B発明
とでは,少なくとも相違点9A-1と同様の相違点9B-1を有する。また,
相違点9B-1は設計事項にも当たらない。
5 争点5(本件発明1,6が甲10から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲10には,以下の甲10A発明及び甲10B発明が記載されている。
ア 甲10A発明
10A1-a 公開番号と契約番号とを対応付けた登録情報を記憶する登
録情報データベースと,
10A1-b 該登録情報データベースを内部に保持する記憶装置と,
10A1-c 求職者の電話機から公開番号宛に架けられた架電を受け付
けるとともに該公開番号の中から該公開番号の全部を抽出する架電受付
部と,
10A1-d 該抽出された公開番号に基づいて,登録情報データベース
から該公開番号に対応付けられた契約番号を取得する契約番号取得部と,
10A1-e 該取得された契約番号に基づいて,求職者の電話機からの
架電を該契約番号に対応する求人企業の電話機へと接続する接続処理部
と,
10A1-f を有する電話転送装置。
イ 甲10B発明
10B6-a 登録情報データベース内に契約番号と対応付けられて格納
された公開番号宛に求職者の電話機から架けられた架電を受け付けるス
テップと,
10B6-b 該公開番号の中から該公開番号の全部を抽出するステップ
と,
10B6-c 該公開番号に基づいて,登録情報データベースから該公開
番号に対応付けられた契約番号を取得するステップと,
10B6-d 該取得された契約番号に基づいて,求職者の電話機からの
架電を該契約番号に対応する求人企業の電話機へと接続するステップと,
10B6-e を有する電話転送方法。
(2) 甲10A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明1は,甲10A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(3) 甲10B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明6は,甲10B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲10A発明の対比
甲10A発明は,実際の応募・問合せ件数といった利用実績に応じた課金
方法等を実現するために,求職者が転送元電話番号に電話を架けたとき当該
電話を転送先電話番号に転送する転送装置と当該電話が転送されてその後通
話が成立したときに通話回数をカウントするカウント装置とを有する交換機
と,前記通話回数に応じて一通話あたり所定の情報利用料金を課金する請求
管理装置とを備えている電話局を設けたという技術的思想からして,複数の
広告情報及び複数の広告媒体並びにこれらを提供する複数の広告情報提供者
を前提としておらず,かつ,広告主側では電話局から課金されるだけである
から,広告主が複数の広告情報提供者により提供された広告情報ないしは広
告媒体の効果を管理・把握することができず,それゆえ,ユーザがいずれの
広告情報ないしは広告媒体に基づき架電してきたかを広告主側で識別するた
めの用途又は機能を有する構成を必要としない。
よって,甲10A発明には,自動転送電話番号機能及び識別機能を有する
「識別番号」が開示されていない。
この点について,原告らは,甲10に記載されている「公開番号 」が,
「識別番号」に相当する旨主張する。
しかしながら,「公開番号」は,連絡先番号と関連付けられた番号として
の機能しか有さず,識別機能を有さないから,「識別番号」に相当する構成
とはいえない(相違点10A-1)。また,当該相違点に係る構成は設計事
項にも当たらない。
(2) 本件発明6と甲10B発明の対比
甲10には「識別番号」が開示されていないため,本件発明6と甲10B
発明とでは,少なくとも相違点10A-1と同様の相違点10B-1を有す
る。また,相違点10B-1は設計事項にも当たらない。
6 争点6(本件発明1,6が甲11から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲11には,以下の甲11A発明及び甲11B発明が記載されている。
ア 甲11A発明
11A1-a 転送元電話番号と転送先電話番号とを対応付けた電話デー
タを記憶する電話データベースと,
11A1-b 該電話データベースを内部に保持する記憶装置と,
11A1-c 発呼側電話機から転送元電話番号宛に架けられた架電を受
け付けるとともに該転送元電話番号の中から該転送元電話番号の全部を
抽出する架電受付部と,
11A1-d 該抽出された転送元電話番号に基づいて,電話データベー
スから該転送元電話番号に対応付けられた転送先電話番号を取得する転
送先電話番号取得部と,
11A1-e 該取得された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機か
らの架電を該転送先電話番号に対応する転送先電話機へと接続する接続
処理部と,
11A1-f を有する電話交換処理装置。
イ 甲11B発明
11B6-a 電話データベース内に転送先電話番号と対応付けられて格
納された転送元電話番号宛に発呼側電話機から架けられた架電を受け付
けるステップと,
11B6-b 該転送元電話番号の中から該転送元電話番号の全部を抽出
するステップと,
11B6-c 該転送元電話番号に基づいて,電話データベースから該転
送元電話番号に対応付けられた転送先電話番号を取得するステップと,
11B6-d 該取得された転送先電話番号に基づいて,発呼側電話機か
らの架電を該 転送先電 話番号に 対応する 転送先電話機 へと接続 するス
テップと,
11B6-e を有する電話交換処理方法。
(2) 甲11A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明1は,甲11A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(3) 甲11B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明6は,甲11B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲11A発明の対比
甲11A発明は,着信処理部22内の記憶部に格納された電話端末毎の電
話データ中に,転送モードが設定されていることを示す転送中状態データa
と転送先電話番号を示す転送先データbを登録しておき,着信処理部22に
おいて,着信した電話端末に対応する電話データを読み出し,該電話データ
内部に格納された転送 中状態データaの 分析を行ない,分析の 結果,転送
モードが設定されていなければ通常の着信処理を行ない,転送モードが設定
されていれば転送先データbに登録されている転送先電話番号へ転送処理を
行うというものである。
したがって,甲11発明は,単なる転送電話に関する発明であって,甲1
1A発明のシステムを構成するプレーヤとして広告代理店等の広告情報提供
者を全く想定していない。
よって,本件発明1とは自動転送電話番号機能及び識別機能を有する構成
を必要とするか否かという点で技術的思想を異にするものである。
以上より,甲1 1A発明には ,自動電話 転送機能及び識 別機能を有す る
「識別番号」に相当する構成が開示されていないことは明らかである。
この点について,原告らは,甲11に「転送元電話番号」が開示されてお
り,かかる「転送元電話番号」が,「識別番号」に相当する旨主張する。
しかしながら,甲11には,「転送元電話番号」という用語は用いられて
いないため,いかなる記載をもって「転送元電話番号」と認定しているのか
不明である。したがって,「識別番号」に相当する構成について開示されて
いないことは明らかである。仮に「転送元電話番号」について実質的に記載
されているとしても, 「転送元電話番号 」は,識別機能を有さ ないから,
「識別番号」に相当する構成とはいえない(相違点11A-1)。また,当
該相違点に係る構成は設計事項にも当たらない。
(2) 本件発明6と甲11B発明の対比
甲11には「識別番号」が開示されていないため,本件発明6と甲11B
発明とでは,少なくとも相違点11A-1と同様の相違点11B-1を有す
る。また,相違点11B-1は設計事項にも当たらない。
7 争点7(本件発明1,6が甲12から新規性,進歩性を有するか)について
(原告らの主張)
(1) 甲12には,以下の甲12A発明及び甲12B発明が記載されている。
ア 甲12A発明
12A1-a 各広告に割り当てられた広告種別情報とアクセス先電話番
号とを対応付けて記憶する解釈テーブルと,
12A1-b 該解釈テーブルを保持する記憶部と,
12A1-c 広告視聴者の電話から広告種別情報を含む問い合わせ先の
電話番号宛に架けられた架電を受け付けるとともに該問い合わせ先の電
話番号の中から広告種別情報を抽出する架電受付部と,
12A1-d 該抽出された広告種別情報に基づいて,解釈テーブルから,
広告種別情報に対応付けられたアクセス先電話番号を抽出する電話番号
抽出部と,
12A1-e 該抽出されたアクセス先電話番号に基づいて,広告視聴者
の電話からの架電を該アクセス先電話番号の電話へ接続する接続処理部
と,
12A1-f を有する架電接続サーバ。
イ 甲12B発明
12B6-a 解釈テーブル内に,アクセス先電話番号と対応付けられて
記憶された広告種別情報を含む問い合わせ先の電話番号宛に広告視聴者
の電話から架けられた架電を受け付けるステップと,
12B6-b 該問い合わせ先の電話番号の中から広告種別情報を抽出す
るステップと,
12B6-c 該抽出された広告種別情報に基づいて,解釈テーブルから,
広告種別情報にマッピングされたアクセス先電話番号を抽出するステッ
プと,
12B6-d 該抽出されたアクセス先電話番号に基づいて,広告視聴者
の電話からの架電を該アクセス先電話番号の電話へ接続するステップと,
12B6-e を有する架電接続方法。
(2) 甲12A発明は,本件発明1の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明1は,甲12A発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(3) 甲12B発明は,本件発明6の全ての構成要件に相当する構成を有するか
ら,本件発明6は,甲12B発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(被告の主張)
(1) 本件発明1と甲12A発明の対比
ア 相違点12A-1:「識別番号」
(ア) 「広告種別情報」は「識別番号」に相当しないこと
甲12には,以下の3つの番号が開示されている。
①問い合わせ先の電話番号:0120-xxx-xxxx-01-1
1-31-41-77-33
「②広告種別情報」:01-11-31-41-77-33
③アクセス先情報:0120-xxx-xxxx-01
このうち,①及び③が「識別番号」に相当しないことは,論じるまで
もなく明らかである。
甲12A発明の「②広告種別情報」を構成する数字列のうち,
a 符号「01」の部分は,広告の掲載内容を表わすだけで(「新型T
V○○」など。 以 下 「 広告 掲載 内容符 号 」 とい う 。 ),X新聞広告
社(甲12【0025】に例示)であっても,Y新聞広告社であって
も,「新型TV○○」の広告であることに相違なく,同一の符号 と
なり,広告情報が違えども同一の符号となる。したがって,広告掲載
内容符号は,「ユーザがいずれの広告情報に基づいて架電してきたか
を識別するための番号」ではなく,「広告情報ごとに割り当てられて
いない」から,識別機能を有さない。
b 符号「3 1」の部 分は広告 請負業者 ,符号「41 」「77 」「3
3」は広告掲 載状態を それぞれ 示すとこ ろ ( 以 下 まと めて 「 広 告掲
載 状態 等符 号 」 と いう 。) ,広告掲載状態等符号は「 ①問い合 わせ
先の電話番号」がいかなる広告請負業者が提供している広告に掲載さ
れているのかを示す符号であるから,「前記データベースから該識別
番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出」するための番号ではな
く自動転送電話番号機能を有さない。
c 符号「11」も「広告依頼者」(広告主)を示す符号に過ぎないか
ら,識別機能も自動転送電話番号機能も備えていない。
そして,広告掲載内容符号が識別機能を有さず,広告掲載状態等符号
が自動転送電話番号機能を有さないということは,仮に広告掲載内容符
号が自動転送電話番号機能を有し,広告掲載状態等符号が識別機能を有
するとしても,「②広告種別情報」においては自動転送電話番号機能を
備える番号と識別機能を備える数字列が異なるということである。これ
に対して,本件発明における「識別番号」においては自動転送電話番号
機能及び識別機能を同一の数字列で実現している。
したがって,甲12には,「識別番号」に相当する構成が開示されて
いない(相違点12A-1)。
(イ) 「識別番号」と広告種別情報の相違点は設計事項でもないこと
上述のとおり,甲12には,本件発明にいう「識別番号」に相当する
構成が開示されていない。もっとも,「広告種別情報」と「識別番号」
は,自動転送電話番号機能と識別機能が同一/別の数字列によって実現
されているという点のみにおいて相違するという反論も考えられるが,
以下に述べるように,上記相違点に係る構成は,本件発明が甲12A発
明に内在する課題を解決したことにより生じたものであって,設計事項
に当たるものではない。
甲12では,ユーザは,①問い合わせ先の電話番号:0120-xx
x-xxxx-01-11-31-41-77-33に電話することが
求められているところ,広告掲載状態等符号(31-41-77-33
の部分)は,アクセス先情報を抽出するのに用いられないことから,本
来,ユーザは,新型TVの電話番号へアクセスするためには,「③アク
セス先情報」である「0120-xxx-xxxx-01」に架電すれ
ば足りるので あって, 広告掲載 状態等符 号の「31- 41-7 7-3
3」をダイヤルするのは,ユーザにとって本来必要がない作業である。
つまり,甲12のように自動転送電話番号機能を有する番号と識別機
能を有する番号を別々に設ける構成にしてしまうと,ユーザは不必要な
番号(「31-41-77-33」)をプッシュしなければならないこ
とになるが, これは操 作が煩わ しく(本 件明細書【0 007】 参照)
ユーザに負担をかけるという意味でサービスの質としては本件発明に劣
るし,ユーザによってはこれを忌避する者も出てくることから,正確な
広告効果を算出することができない。
また,甲12を,①問い合わせ先番号「0120-xxx-xxxx
-01-11-31-41-77-33」をダイヤルしなければアクセ
ス先に架電を接続できない構成であると捉えた場合,一定の範囲内で定
められた電話番号の桁数を超えた桁数の電話番号を用いることになり交
換機の設定変更などを伴うから,現実性のない構成となる。
以上のように,甲12発明には広告種別情報では解決できない課題が
内在している。
これらの甲12に内在する課題は,まさに本件発明が解決しようとす
る課題であるとするところであり,本件発明ではこれらの課題を解決す
るために,識別機能と自動転送電話番号機能を同一の数字列で実現する
「識別番号」を設けたのである。
したがって,かかる相違点は,一定の技術的意義を有するものである
から,設計事項ではない。
イ 相違点12A-2:「識 別番号と連 絡 先番号とを関連情 報として有 す
るデータベース」
甲12【0021】には,
「上述の解釈テーブルは8a~8dは広告種別情報が表す符号と,広告の
種別やアクセス先情報を対応付けて記憶しているテーブルである。」
との記載があるものの,解釈テーブルにおいて,「②広告種別情報」のう
ちどの符号とアクセス先情報が関連付けられて記憶されているか不明であ
り,また【図1】を見ても判然としない。
広告掲載状態等符号は,「①問い合わせ先の電話番号」がいかなる広告
請負業者が提供している広告に掲載されているのかを示す符号であって,
「③アクセス先情報」を抽出するのに用いられないことから,サーバ7の
解釈テーブル8c内においては,少なくとも,広告掲載状態等符号とアク
セス先情報は関連付けられている必要がないことが示唆されている。
そうだとする と,仮に 広告掲載 状態等符 号が「識別番 号」に相 当し,
「③アクセス先情報」が「連絡先番号」に相当するとしても,「識別番号
と連絡先番号とを関連情報として有するデータベース」に相当する構成を
備えておらず,相違点を構成するといえる(相違点12A-2)。
この相違点も,結局のところ,甲12A発明では,識別機能と自動転送
電話番号機能の両方を同一の数字列によって担保する構成となっていない
ことに起因する。
(2) 本件発明6と甲12B発明の対比
甲12には「識別番号」が開示されていないため,本件発明6と甲12B
発明とでは,少なくとも相違点12A-1と同様の相違点12B-1を有す
る。また,甲12には,「識別番号と連絡先番号とを関連情報として有する
データベース」が開示されていないため,同様の理由で「データベース内に
連絡先番号と関連付けられて格納された識別番号」も開示されていないこと
が明らかである(相違点12B-2)。これらの相違点は設計事項にも当た
らない。
8 争点8(原告ITホールディングスが侵害の主体であるか)について
(被告の主張)
(1) 原告ITホールディングスは,イ号システム,イ号製品及びイ号方法の実
施主体であること
原告らは,原告ITホールディングスが単なる持株会社にすぎず,実施主
体になり得ない旨主張する。
しかし,イ号システ ムの資料を公表し た名義人が「ITホー ルディング
ス」となっており,原告ITホールディングスがイ号システムに関する問合
せも受け付けていることからすると,原告ITホールディングスは,本件発
明の実施主体であることが明らかである。また,原告ITホールディングス
は,「原告ITホールディングスが2009年(平成21年)2月に,英国
の電話事業者である訴外ブリティッシュ・テレコムとの間でビジネス協業の
検討を開始した」(乙7)と主張している。そして,この協業の検討がきっ
かけとなって,イ号システム,イ号製品及びイ号方法が開発された。仮に,
この主張が事実であれば,原告ITホールディングスは,イ号システム,イ
号製品及びイ号方法の開発を主導しており,純粋な持ち株会社ではなく,イ
号システムに係る事業の実施主体であることが明らかである。
(2) 仮に原告ITホールディングスがイ号システム,イ号製品及びイ号方法の
実施主体でないとしても,本件特許権侵害の責任を負うこと
特許発明の技術的範囲に属する製品又は方法について直接の実施主体でな
い者が,背後者となり,第三者を手足として用いて当該製品等を製造又は販
売させているときは,自ら当該製品等を実施しているとして評価でき,特許
権侵害の責任を負うべきである。なぜならば,かかる場合に背後者を特許権
侵害の責任に問えず直接の実施主体である第三者だけが責任を負うのであれ
ば,当該背後者は当該第三者が実施を中止した後に再び他の手足となる者を
介して侵害行為を行わせることが可能となり,特許権者の救済は図られずひ
いては産業発達に寄与するとする特許法の趣旨(特許法第1条)にもとるこ
とになるからである。
したがって,①直接の実施主体による実施により特許権侵害が成立するこ
と,②直接の実施主体が背後者の手足といえるほど支配されていることの2
つの要件が認められる場合には,当該背後者による特許権侵害が成立する。
本件についてみると,①イ号製品・イ号方法が本件発明の技術的範囲に属
することから,少なくとも原告TIS及び原告インテックによる特許権侵害
が成立する。②原告ITホールディングスは,原告TIS及び原告インテッ
クの完全親会社であるから,直接の実施主体である原告TIS及び原告イン
テックを手足のごとく 支配している。ま た,関連する事情とし て原告IT
ホールディングスが2009年(平成21年)2月に,英国の電話事業者で
ある訴外ブリティッシュ・テレコムとの間でビジネス協業の検討を開始し,
そのことがきっかけでイ号システムに係るサービスが開始されたのであれば,
背後者である原告ITホールディングスの主導により,直接の実施主体であ
る原告TIS及び原告インテックによるイ号製品及びイ号方法の実施がなさ
れたといえる。
さらに,原告T IS及び原告 インテック がイ号システム に係るサービ ス
(Callノート)の提供を中止したとしても,原告ITホールディングス
が別の子会社に同一のサービスを提供させることができ,特許権者である被
告の保護は図られない。
以上からすると,原告ITホールディングスは,イ号製品及びイ号方法の
直接の実施主体でないとしても,原告TIS及び原告インテックを手足とし
て用いてイ号製品・イ号方法を実施していると評価でき,その責任を負う。
(原告らの主張)
原告ITホールディングスは,純粋持株会社であり,システム開発やシステ
ム運用,製品販売等の事業活動を自ら行ってはいない。原告ITホールディン
グスは,原告TIS及び原告インテ ック が提供するイ号システムの「実施 主
体」ではない。
よって,原告ITホールディングスが本件特許権侵害の責任を負うことはあ
り得ない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(イ号製品及びイ号方法が「識別番号」を「抽出」しているか)につ
いて
(1) 「識別番号」の意義
ア 特許請求の範囲に用いる用語は,明細書及び特許請求の範囲を通じて統
一して使用し,特許請求の範囲又は明細書においてその意味が特に定義さ
れているときは,これに従うべきである。
また,「識別番号」という語は学術用語ではなく,本件発明1,6に係
る【特許請求の範囲】の記載によっても当業者においてその意義を一義的
に明確に理解することはできないというべきであるから,明細書の【発明
の詳細な説明】を参酌してその意義を確定する必要がある。
イ 本件明細書の記載におけ る,本件発 明 が解決しようとす る課題との 関
係についてみると ,本件発明 1,6は, 広告主が代理主( 例えば,広 告
代理店)を通じて 行う広告に おいて,利 用者が広告主へ電 話を架ける 頻
度に応じて,代理主が広告主に料金を請求できる,いわゆるペイ・
パー・コール方式と呼ばれる広告方式に関する技術である(【000
2】【0003】)。
このようなペイ・パー・コール方式における従来技術においては,①利
用者がプッシュボタン操作により広告主を特定するという煩わしい操作が
必要であったり,②広告主が複数の代理主に広告を依頼した場合や,日時
を変えて複数の広告を行った場合に,いずれの広告に効果があったかを識
別することができない,という問題があった(【0007】【000
8】)。
本件発明1,6においては,従来技術における上記①,②の課題を解決
すべく,広告電話番号中に識別番号を含ませ,この識別番号を連絡先番号
と関連付けることにより,上記課題を解決しようとするものである。
そこで,上記課題を解決するために本件発明1,6が用いた技術的手段
が「識別信号」であり,識別番号と連絡先番号の関連付け(本件発明1の
構成要件1-A,本件発明6の構成要件6-A)により,①提供された広
告情報に接した利用者が,面倒な操作に煩わされることなく広告主と通話
することができ,かつ,②複数の広告情報の提供を行った場合に,識別番
号によって,それらが発揮する広告効果を広告情報ごとに管理・把握する
ことができる(【0035】)とするものである。
ウ 本件明細書の実施例に関する段落【0073】には,「識別番号とは,
ユーザがいずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための番
号であって,広告情報ごとに割り当てられている。複数の広告情報からの
架電をとりまとめる場合は,複数の広告情報に1の識別番号が割り当てら
れてももちろんよい。」との記載がある(下線部は強調のため裁判所で付
した。以下同じ。)。
また,広告電話番号710「00XX-111-0010101」に含
まれる「0010101」の部分が「識別番号」であり,データベース6
10の広告特定情報611Aにおいて,識別番号情報611A1は,広告
主情報611A2,広告事業者情報611A3,広告媒体情報611A4
等と関連付けられている。広告主情報611A2は,例えば店名情報61
1A2A,広告主400の連絡先番号情報611A2Bを有している。連
絡先番号情報611A2Bは,広告主400の広告主電話機又はその回線
に割り当てられた電話番号(連絡先番号)に関する情報である。広告事業
者情報611A3は,複数ある広告事業者を識別するための情報であり,
広告媒体情報611A4はウェブサイト,雑誌,新聞,TV,ラジオ,ダ
イレクトメール等の広告媒体を識別する情報であるとの記載がある。
(【0077】【0078】【0080】【0081】【0085】【図
3】【図6】)
さらに,【図7】の実施例では,21桁の広告電話番号のうち,4桁の
電気通信事業者特定番号,3桁のサーバ特定番号を除いた下14桁が「識
別番号」であり,広告主を特定するために広告主ごとに割り振られた広告
主番号(3桁),広告事業者を特定するために広告事業者ごとに割り振ら
れた広告事業者番号(2桁),広告情報700を特定するために広告情報
700ごとに割り振られた広告特定番号(9桁)を含んでいる(【010
3】~【0105】【図7】)。
エ 上記イの本件発明1,6 における課 題 とその解決手段及 び上記ウの 実
施例についての記 載からする と,本件発 明1,6における 「識別番号 」
の技術的意義は, 「ユーザが いずれの広 告情報に基づいて 架電してき た
かを識別するための番号であって,広告情報ごとに割り当てられてい
る」機能(識別機 能)を有す るとともに ,「前記データベ ースから該 識
別番号に関連付け られた前記 連絡先番号 を抽出」する機能 (自動転送 電
話番号機能)を有することにあると解するのが相当である。
このような識別番号の技術的意義からすれば,「識別番号」は,識別機
能及び自動転送電話番号機能を備えている限り,広告に記載され利用者か
ら架電される電話番号 ( 以 下 「 広 告電話 番 号 」 とい う 。) の全部であっ
ても差し支えなく,広告電話番号の一部に限定する必要はない。
(2) 「抽出」の意義
ア 「抽出」という用語につき,本件発明1,6の属する技術分野において,
学術用語として確定した定義があると認めるに足りる証拠はない。
また,本件明細書にも,「抽出」につき定義した箇所はない。
「抽出」とい う用語の 一般的な 意味は, 「ぬき出すこ と。ひき 出すこ
と。」(広辞苑 第6版・甲6)である。「ぬき出す」とは,「選び出す。
選抜する。」(甲6)という意味であり,「選び出す」とは,「複数の物
の中から目的にかなう物を取り出す。」(甲6)という意味であるから,
「抽出」も,一般に,「複数の物の中から目的にかなう物を取り出す。」
という意味ということになる。しかし,これらの説明も,抽出元である複
数の物の中で,「目的にかなう物」がその全部であった場合に,その全部
を取り出すことを排除するまでの趣旨か否かは,必ずしも明らかでない。
そうすると,本件発明1,6に係る【特許請求の範囲】の記載だけでは,
当業者において「抽出」の意義を一義的に明確に理解することはできない
というべきであるから,明細書の【発明の詳細な説明】を参酌してその意
義を確定する必要がある。
イ 本件明細書における識別番号の「抽出」の説明について
(ア) 本件明細書には,電話番号からの識別番号の「抽出」について,具体
的方法を限定して説明した部分は見当たらない。本件明細書の実施例に
おいては,架電受付部623Aが構成要件1-Cにいう「該電話番号の
中から前記識別番号を抽出する架電受付部」に相当するが,この架電受
付部623A が,広告 電話番号 710の 中から識別番 号をどの ように
「抽出」するかについては,「広告電話番号710宛ての架電は……架
電受付部623Aによって受付けられる。そして,識別番号の情報61
1A1に基づいて,データベース610から識別番号に関連付けられた
連絡先番号の 情報61 1A2B が特定さ れるのである 。」(【 010
6】),「連絡先抽出部623Bは,架電受付部623Aにて呼出信号
を認識すると,広告電話番号710に基づいて広告主電話機の電話番号
である連絡先番号を抽出する。具体的には,連絡先抽出部623Bは,
架電受付部623Aで取得した広告電話番号710の中に含まれる識別
番号に基づいて,データベース610の広告関連情報記録領域611か
ら接続要求先の広告主400に対応する広告特定情報611Aを検索し,
この広告特定情報611Aの連絡先番号情報611A2Bを取得す
る。」(【0109】【0110】),「CTI演算部623は,架電
受付部623Aで取得した広告電話番号710に含まれる識別番号を認
識し,データべース610内の広告関連情報記録領域611から識別番
号に関連付けられた広告主400の広告特定情報611Aを検索し,広
告特定情報611Aの連絡先番号情報611A2Bを取得し,応答検知
部623Cヘ出力する。」(【0152】)などとあるのみで,識別番
号の「抽出」の具体的方法は全く明らかにされていない(明細書におい
て具体的方法を明らかにしなくても,当業者において適宜設計して実施
可能な事項であるからと考えられる。)。
(イ) ところで,本件発明1,6においては,電話番号の中から識別番号を
「抽出」する構成ないしステップ(構成要件1-C,6-B)の他に,
データベースから識別番号に関連付けられた連絡先番号を「抽出」する
構成ないしステップ(構成要件1-D,6-C)が設けられている。
本件明細書の実施例においては,連絡先抽出部623Bが構成要件1
-Dにいう「該抽出された前記識別番号に基づいて、前記データベース
から該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出
部」に相当するが,この連絡先抽出部623Bが,データベース610
から,識別番号に関連付けられた連絡先番号をどのように「抽出」する
かについては,「具体的には、連絡先抽出部623Bは、架電受付部6
23Aで取得した広告電話番号710の中に含まれる識別番号に基づい
て、データベース610の広告関連情報記録領域611から接続要求先
の広告主400に対応する広告特定情報611Aを検索し、この広告特
定情報611Aの連絡先番号情報611A2Bを取得する。」(【01
10】),「CTI演算部623は,架電受付部623Aで取得した広
告電話番号710に含まれる識別番号を認識し,データべース610内
の広告関連情報記録領域611から識別番号に関連付けられた広告主4
00の広告特定情報611Aを検索し,広告特定情報611Aの連絡先
番号情報61 1A2B を取得し ,応答検 知部623C ヘ出力す る。」
(【0152】)と記載され,データベース610の有する広告関連情
報記録領域611を図示した【図3】(【0077】)と併せてみると,
要するに,識別番号情報611A1(「0010101」)を検索キー
としてデータベースの一部である広告関連情報記録領域611を検索し,
これと一致する識別番号情報611A1(「0010101」)を有す
る広告特定情報611Aのレコード(データベースを構成する一かたま
りのデータ。【図3】の一番上の行)で,当該識別番号情報611A1
に関連付けられた連絡先番号情報611A2B(「031234567
8」)を取得する,という処理を意味している。
(ウ) 電話番号からの識別番号の「抽出」は,上記連絡先番号の「抽出」の
前段階の処理であるから,ユーザから架電されて架電受付部623Aに
受け付けられた広告電話番号710の中から,連絡先番号の「抽出」に
おいて検索キーとして用いる部分(識別番号情報611A1)を特定す
る,という処理が想定されているものと考えられる(そのような処理が
なければ,連絡先抽出部623Bが広告関連情報記録領域611を検索
するに当たり,何を検索キーとすべきかが決定されない。)。
連絡先番号の「抽出」において検索キーとして用いる部分というのは,
広告特定情報611Aのレコードにおいて連絡先番号情報611A2B
に関連付けられている識別番号情報611A1と同一であるから,結局,
電話番号からの識別番号の「抽出」とは,広告電話番号の中から,連絡
先番号に関連付けられた部分を特定する,という処理を意味する。
(エ) ここで,仮に,データベース上のレコードにおいて連絡先番号に関連
付けられているのが広告電話番号の全部であった場合には,連絡先番号
の「抽出」において検索キーとして用いるのは広告電話番号の全部であ
り,架電受付部623Aは広告電話番号の全部を検索キーとして用いる
よう連絡先抽出部623Bに指示するものと考えられる(乙1,乙3の
1・2によれば,被告の「ペイパーコールシステム」においては,被告
の割り当てる広告電話番号としては「0037」で始まる番号が標準で
あるが,「0120」「0800」「050」「0570」「03」で
始める番号もカスタマイズとして選択可能であり,「0120」「05
0」で始まる番号の場合には,データベース内番号情報テーブル(A)
には,着信側電話番号(被告が割り当てた広告電話番号)の全部と連絡
先番号を関連付けて格納しており,着信時には,着信側電話回線の電話
番号をキーに番号情報テーブル(A)及び媒体情報テーブル(B)を検
索していると認められる。)。
そのような構成も,広告電話番号の中から,連絡先番号に関連付けら
れた部分を(広告電話番号の全部と)特定しているのであるから,電話
番号から識別番号を「抽出」しているものといってよく,「抽出」とい
う用語の一般的な意味も,このような処理を「抽出」からあえて排除す
るものではないと解される。
ウ 以上によれば,本件発明1の構成要件1-C,本件発明6の構成要件6
-Bにいう「該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」とは,本件明
細書の記載を参酌し,「電話番号の中から,その全部であると一部である
とを問わず,連絡先番号に関連付けられた部分を特定する」という意味に
解するのが相当である。
(3) イ号製品と本件発明1との対比
ア 構成要件1-Aについて
甲3,14及び弁論の全趣旨によれば,イ号製品は,広告媒体・Web
サイトなどに掲載されている電話番号(以下「仮想電話番号」とい
う 。) と転送先電話番号とを関連情 報と して有するデータ ベースを有 し
ていることが認められる。
そこで,イ号製品における「仮想電話番号」が,構成要件1-Aにいう
「識別番号」に該当するか,検討する。
前記のとおり,本件発明1にいう「識別番号」とは,「ユーザがいずれ
の広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための番号であって,広
告情報ごとに割り当てられている」機能(識別機能)を有するとともに,
「前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽
出」する機能(自動転送電話番号機能)を有するものであると解される。
原告らの作成したイ号システムのプレスリリース(甲14・2頁)によ
れば,「「Callノート」は,サービスや商品のキャンペーン,問い合
わせなどで利用する電話番号をWEBサイトや紙媒体など,媒体ごとに個
別設定することで,お客様がどの媒体の情報から電話をかけてきたのかを
把握することができ,その着信情報からお客様ごとの電話対応を可能にす
るSaaS型着信管理サービスです。」というのであるから,イ号製品に
おける仮想電話番号は,「ユーザがいずれの広告情報に基づいて架電して
きたかを識別するための番号であって,広告情報ごとに割り当てられてい
る」機能(識別機能)を有している。
また,上記のとおり,イ号製品における仮想電話番号は転送先電話番号
と関連付けられているのであるから,「前記データベースから該識別番号
に関連付けられた前記連絡先番号を抽出」する機能(自動転送電話番号機
能)を有している。
原告らは,仮想電話番号は本件発明1にいう「電話番号」の全部である
ところ,本件発明1にいう「識別番号」は「電話番号」の一部でなければ
ならないから,仮想電話番号は「識別番号」に当たらない,と主張する。
しかし,本件発明1にいう「識別番号」は「電話番号」の全部であって
もよいことは前記のとおりであるから,原告らの主張は採用できない。
以上によれば,イ号製品における「仮想電話番号」は構成要件1-Aに
いう「識別番号」に該当し,連絡先電話番号は「連絡先番号」に該当し,
データベースは「データベース」に該当するから,イ号製品は構成要件1
-Aを充足する。
イ 構成要件1-Bについて
イ号製品は構成要件1-Aのデータベースを有しているところ,甲14
及び弁論の全趣旨によれば,該データベースを内部に保持する記憶装置を
有していると認められる。
したがって,被告製品は構成要件1-Bを充足する。
ウ 構成要件1-Cについて
甲14・3頁のイメージ図によれば,イ号製品は,一般顧客の電話機か
ら仮想電話番号宛てに架けられた架電を受け付けて,これを転送先電話番
号に転送する構成を備えていることが認められる。
一般顧客の電話機は,構成要件1-Cにいう「第1の電話機」に該当す
る。
識別番号は広告電話番号の全部であってもよいことは前記のとおりであ
るから,仮想電話番号は,「前記識別番号を含む電話番号」に該当する。
イ号製品は, 仮想電話番号 宛てに架け られた架電を受 け付けるから ,
「電話番号宛に架けられた架電を受付ける」を充足する。
前記のとおり,構成要件1-Cにいう「該電話番号の中から前記識別番
号を抽出する」とは,「電話番号の中から,その全部であると一部である
とを問わず,連絡先番号に関連付けられた部分を特定する」という意味に
解される。
甲3,14及び弁論の全趣旨によれば,イ号製品において転送先電話番
号と関連付けられているのは仮想電話番号の全部であると認められるとこ
ろ,イ号製品において仮想電話番号宛ての電話を転送先電話番号に転送す
るためには,受け付けた仮想電話番号の中から,データベースを検索する
に当たり検索キーとして用いる部分を仮想電話番号の全部と特定した上で,
仮想電話番号の全部を検索キーとして用いて連絡先電話番号を抽出する必
要があると考えられるところであり,その「受け付けた仮想電話番号の中
から,データベースを検索するに当たり検索キーとして用いる部分を仮想
電話番号の全部と特定する」処理が,「該電話番号の中から前記識別番号
を抽出する」処理に該当する。
イ号製品のうち,上記の処理を行う部分が「架電受付部」に該当する。
以上によれば,イ号製品は構成要件1-Cを充足する。
エ 構成要件1-Dについて
前記のとおり,イ号製品は,一般顧客の電話機から仮想電話番号宛てに
架けられた架電を受け付けて,これを転送先電話番号に転送する構成を備
えていることが認められる。
そのような処理を行うためには,イ号製品は,前記のとおり検索キーに
用いるものとして特定された仮想電話番号の全部を検索キーとして用いて,
上記データベースから仮想電話番号に関連付けられた連絡先電話番号を抽
出する処理を行っているものと認められる。
「検索キーに用いるものとして特定された仮想電話番号」は「該抽出さ
れた前記識別番号」に,「上記データベースから仮想電話番号に関連付け
られた連絡先電話番号を抽出する」は「前記データベースから該識別番号
に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する」に該当する。
イ号製品のうち,上記の処理を行う部分が「連絡先抽出部」に該当する。
以上によれば,イ号製品は構成要件1-Dを充足する。
オ 構成要件1-Eについて
前記のとおり,イ号製品は,一般顧客の電話機から仮想電話番号宛てに
架けられた架電を受け付けて,これを転送先電話番号に転送する構成を備
えていることが認められる。
そのような処理を行うためには,イ号製品は,抽出された連絡先電話番
号に基づいて,一般顧客の電話機からの架電を連絡先電話番号に対応する
広告クライアントの電話機に接続する処理を行っているものと認められる。
「抽出された連絡先電話番号」は「該抽出された連絡先番号」に,「一
般顧客の電話機からの架電」は「第1の電話機からの架電」に,「連絡先
電話番号に対応する広告クライアントの電話機」は「該連絡先番号に対応
する第2の電話機」に,それぞれ該当する。
イ号製品のうち,上記の処理を行う部分が「接続処理部」に該当する。
以上によれば,イ号製品は構成要件1-Eを充足する。
カ 構成要件1-Fについて
イ号製品は,架電接続装置であるから,構成要件1-Fを充足する。
キ 以上によれば,イ号装置は,本件発明1の構成要件を全て充足するから,
本件発明1の技術的範囲に属する。
(4) イ号方法と本件発明6との対比
ア 構成要件6-Aについて
前記(3)アないしウのとおり,イ号製品は,データベース内に連絡先電
話番号と関連付けられて格納された仮想電話番号宛てに一般顧客の電話機
から架けられた架電を受け付ける架電受付部を有しているのであるから,
これを使用したイ号方法は,「データベース内に連絡先番号と関連付けら
れて格納された識別番号を含む電話番号宛に第1の電話機から架けられた
架電を受付けるステップ」を有している。
したがって,イ号方法は構成要件6-Aを充足する。
イ 構成要件6-Bについて
前記(3)ウのとおり,イ号製品において仮想電話番号宛ての電話を転送
先電話番号に転送するためには,受け付けた仮想電話番号の中から,デー
タベースを検索するに当たり検索キーとして用いる部分を仮想電話番号の
全部と特定した上で,仮想電話番号の全部を検索キーとして用いて連絡先
電話番号を抽出する必要があると考えられるところであり,その「受け付
けた仮想電話番号の中から,データベースを検索するに当たり検索キーと
して用いる部分を仮想電話番号の全部と特定」する処理は,「該電話番号
の中から前記識別番号を抽出するステップ」に該当する。
したがって,イ号方法は構成要件6-Bを充足する。
ウ 構成要件6-Cについて
前記(3)エのとおり,イ号製品は,検索キーに用いるものとして特定さ
れた仮想電話番号の全部を検索キーとして用いて,上記データベースから
仮想電話番号に関連付けられた連絡先電話番号を抽出する処理を行ってい
るものと認められるのであるから,これを使用するイ号方法は,「該抽出
された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に関連
付けられた前記連絡先番号を抽出するステップ」を有している。
したがって,イ号方法は構成要件6-Cを充足する。
エ 構成要件6-Dについて
前記(3)オのとおり,イ号製品は,抽出された連絡先電話番号に基づい
て,一般顧客の電話機からの架電を連絡先電話番号に対応する広告クライ
アントの電話機に接続する処理を行っているものと認められ,その処理は,
「該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該
連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続するステップ」に該当する。
したがって,イ号方法は構成要件6-Dを充足する。
オ 構成要件6-Eについて
イ号方法は「架電接続方法」であるから,構成要件6-Eを充足する。
カ 以上によれば,イ号方法は,本件発明6の構成要件を全て充足するから,
本件発明6の技術的範囲に属する。
2 争点7(本件発明1,6が甲12から新規性,進歩性を有するか)について
(1) 甲12の内容
無効論に関する他の争点に対する判断に先立ち,争点7(本件発明1,6
が甲12から新規性,進歩性を有するか)について判断する。
甲12は,本件特許権の優先日(平成17年8月3日)より前である平成
16年6月17日に日本国内で頒布された,発明の名称を「広告効果解析方
法及び広告システム」とする特許の公開特許公報(特開2004-1711
05)である。
甲12には,以下の記載がある。
「【0021】
また,サーバ7は記憶部に解釈テーブル8a~8dを記憶しており,当該
解釈テーブル8a~8dを用いて,入力端末5から送信された広告種別情報
を受信して,当該広告種別情報の表す符号に対応する広告の種別(広告の掲
載内容,広告依頼者,広告請負業者,広告提供状態等)や,当該広告種別情
報が表す広告の詳細情報にアクセスできるURLアドレス,電話番号,FA
X番号などのアクセス先情報を抽出する機能を有している。そして,サーバ
7は入力端末5から受信した広告種別情報の符号が表す各種別の受付回数を
記録していく。尚,上述の解釈テーブルは8a~8dは広告種別情報が表す
符号と,広告の種別やアクセス先情報を対応付けて記憶しているテーブルで
ある。」
「【0025】
また,例えばある広告視聴者がB新聞に掲載された新型TV(Telev
ision)○○のチラシ広告を見て問い合わせ先の電話番号(0120-
xxx-xxxx-01-11-31-41-77-33)を入手し,携帯
情報端末1あるいは電話3を用いて電話をかけた場合,携帯情報端末1ある
いは電話3は当該電話 番号の問い合わせ 先となるサーバ7に接 続される。
サーバ7では,電話番号の解釈テーブル8cを用いて広告種別情報「01-
11-31-41-77-33」の「01」からこのアクセスが本来は「新
型TV○○」の電話番号(0120-xxx-xxxx-01)へのアクセ
スであると認識し,この電話番号との接続の仲介を行い,広告視聴者に新型
TVに関する情報が提供される。さらに,電話番号に付加された広告種別情
報「01-11-31-41-77-33」から「広告の掲載内容」として
「01:新型TV○○」,「広告の依頼者」として「11:×電器」,「広
告請負業者」とし て「31:×新 聞広告 社」,「広告の提 供状態」とし て
「41:媒体(B新聞),77:掲載場所(7面),33:掲載期日(7月
3日~9日)」と解釈され,これら広告種別情報の符号が表す各種別の受付
け回数がカウントされ てサーバ7に記録 される。このとき,広 告視聴者が
「新型TV○○」の「製品照会」を行った場合には,オペレータ9に接続さ
れ,また「製品紹介」を行った際のアクセス情報がサーバ7に記録される。
またサーバ7は携帯情報端末1あるいは電話3からの入力により受付けた広
告種別情報をサーバ7に記録する。」
(2) 甲12A発明
上記記載によれば,甲12には,以下の発明(甲12A発明)が記載され
ている。
12A1-a 広告種別情報とアクセス先電話番号とを対応付けて記憶する
解釈テーブルと,
12A1-b 該解釈テーブルを保持する記憶部と,
12A1-c 広告視聴者の電話から広告種別情報を含む問い合わせ先の電
話番号宛に架けられた架電を受け付けるとともに該問い合わせ先の電話番
号の中から広告種別情報を抽出する架電受付部と,
12A1-d 該抽出された広告種別情報に基づいて,解釈テーブルから,
広告種別情報に対応付けられたアクセス先電話番号を抽出する電話番号抽
出部と,
12A1-e 該抽出されたアクセス先電話番号に基づいて,広告視聴者の
電話からの架電を該アクセス先電話番号の電話へ接続する接続処理部と,
12A1-f を有する架電接続サーバ。
(3) 甲12A発明と本件発明1との対比
ア 構成要件1-Aについて
(ア) 甲12A発明における「広告種別情報」が識別機能と自動転送電話番
号機能を有していること
前記のとおり,本件発明1にいう「識別番号」とは,「ユーザがいず
れの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための番号であって,
広告情報ごとに割り当てられている」機能(識別機能)を有するととも
に,「前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番
号を抽出」する機能(自動転送電話番号機能)を有するものであると解
される。
甲12A発明の12A1-aにおける「広告種別情報」は,甲12の
明細書の【0025】の実施例では「01-11-31-41-77-
33」という番号であり,「広告の掲載内容」として「01:新型TV
○○」,「広告の依頼者」として「11:×電器」,「広告請負業者」
として「31:×新聞広告社」,「広告の提供状態」として「41:媒
体(B新聞),77:掲載場所(7面),33:掲載期日(7月3日~
9日)」を示している。すなわち,「広告種別情報」は,広告の掲載内
容,広告の依頼者,広告請負業者,広告の提供状態(媒体,掲載場所,
掲載期日)が異なれば異なる番号が割り当てられるのであるから,広告
情報ごとに割り当てられた番号であり,ユーザがいずれの広告情報に基
づいて架電してきたかを識別することができる番号である(識別機能)。
また,甲12A発明の解釈テーブルは,広告種別情報が表す符号と,
広告の種別やアクセス先電話番号とを対応付けて記憶しているテーブル
なのであるから(甲12の【0021】),「広告種別情報」は,アク
セス先電話番号に関連付けられている(自動転送電話番号機能)。
したがって,甲12A発明における「広告種別情報」は,本件発明1
における「識別番号」に相当する。
(イ) この点,被告は,本件発明1の「識別番号」においては自動転送電話
番号機能と識別機能を同一の数字列で実現しているところ,甲12A発
明の「広告種別情報」を構成する数字列のうち,広告掲載内容符号「0
1」の部分は広告情報が違っても同一の符号となり,識別機能を有さな
い,広告掲載状態等符号「31」「41」「77」「33」の部分は自
動転送電話番号機能を有さない,符号「11」は識別機能も自動転送電
話番号機能も有さない,したがって,仮に広告掲載内容符号が自動転送
電話番号機能を有し,広告掲載状態等符号が識別機能を有するとしても,
自動転送電話番号機能を備える番号と識別機能を備える文字列が異なる
のであるから,「識別番号」に相当する構成は開示されていない,など
と主張する。
しかし,第1に,本件発明1の「識別番号」は,「自動転送電話番号
機能と識別機能を同一の数字列で実現」したものに限定されるとはいえ
ない。
本件明細書の【0105】【図7】の実施例において,14桁の識別
番号には,広告事業者ごとに割り振られ,広告情報が違っても同一の符
号となる広告事業者番号を含み,また,広告主ごとに割り振られ,広告
情報が違っても同一の符号となる広告主番号を含んでもよく,これらの
番号は識別機能を有さないが,これらの番号を含めた14桁の番号全体
が「識別番号」とされ,全体として連絡先番号と関連付けられている。
【0105】【図7】の実施例においては明言されていないが,「広
告主番号」のみを連絡先番号と関連付ける構成も本件発明の実施例とし
て考えられるところ,その場合,識別機能を備える文字列(広告特定番
号)と自動転送電話番号機能を備える文字列(広告主番号)は異なるこ
とになる。
第2に,甲12A発明において,「広告の種別を符号化して表した広
告種別情報」(甲12の【請求項1】【0005】)が全体として識別
機能及び自動転送電話番号機能を備え,本件発明1の「識別番号」に対
応するのであって,甲12A発明は,「広告種別情報」を,被告のいう
「広告掲載内容符号」と「広告掲載状態等符号」に区別して,前者のみ
が自動転送電話番号機能を備え,後者のみが識別機能を備えるといった
技術的思想を含んだものとして構成されているものではない。
したがって,被告の主張は失当である。
(ウ) 甲12A発明の12A1-aにおける「アクセス先電話番号」は,甲
12の明細書の【0025】の実施例でいう「「新型TV○○」の電話
番号(0120-xxx-xxxx-01)」であり,本件発明1の構
成要件1-Aにいう「連絡先番号」に相当する。
(エ) 甲12A発明の12A1-aにおける「解釈テーブル」は,広告種別
情報とアクセス先電話番号とを対応付けて記憶するものであり,本件発
明1の構成要件1-Aにいう「識別番号と連絡先番号とを関連情報とし
て有するデータベース」に相当する。
この点,被告は,解釈テーブルにおいて,「広告種別情報」のうちど
の符号とアクセス先情報が関連付けられて記憶されているか不明であり,
サーバ7の解釈テーブル8c内においては,少なくとも,広告掲載状態
等符号とアクセス先情報は関連付けられている必要がないことが示唆さ
れているのであるから,仮に広告掲載状態等符号が「識別番号」に相当
し,「アクセス先情報」が「連絡先番号」に相当するとしても,「識別
番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベース」に相当する
構成を備えていない,と主張する。
しかし,甲12A発明が「広告種別情報」を「広告掲載内容符号」と
「広告掲載状態等符号」に区別して,前者のみが自動転送電話番号機能
を備え,後者のみが識別機能を備えるといった技術的思想を含んだもの
として構成されているものでないことは前記のとおりであり,甲12A
発明において,「広告種別情報」と,アクセス先電話番号を含む「アク
セス先情報」とが解釈テーブルにおいて関連付けられていることは,甲
12の【0021】【0022】【図2】等の記載に接した当業者にお
いて容易に理解することができる事項であるから,被告の主張は失当で
ある。
イ 構成要件1-Bについて
甲12A発明の構成12A1-bにいう「該解釈テーブルを保持する記
憶部」は,本件発明1の構成要件1-Bにいう「該データベースを内部に
保持する記憶装置」に相当する。
ウ 構成要件1-Cについて
甲12A発明の構成12A1-cにいう「広告視聴者の電話」は本件発
明の構成要件1-Cにいう「第1の電話機」に,「広告種別情報を含む問
い合わせ先の電話番号」は「前記識別番号を含む電話番号」に,「架電を
受け付けるとともに該問い合わせ先の電話番号の中から広告種別情報を抽
出する架電受付部」は「架電を受付けるとともに該電話番号の中から前記
識別番号を抽出する架電受付部」に,それぞれ相当する。
エ 構成要件1-Dについて
甲12A発明の構成12A1-dにいう「該抽出された広告種別情報に
基づいて,解釈テーブルから,広告種別情報に対応付けられたアクセス先
電話番号を抽出する電話番号抽出部」は,本件発明1の構成要件1-Dに
いう「該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識
別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出部」に相当
する。
オ 構成要件1-Eについて
甲12A発明の構成12A1-eにいう「該抽出されたアクセス先電話
番号に基づいて,広告視聴者の電話からの架電を該アクセス先電話番号の
電話へ接続する接続処理部」は,本件発明1の構成要件1-Eにいう「該
抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該連絡
先番号に対応する第2の電話機へと接続する接続処理部」に相当する。
カ 構成要件1-Fについて
甲12A発明の構成12A1-fにいう「架電接続サーバ」は,本件発
明1の構成要件1-Fにいう「架電接続装置」に相当する。
(4) 以上によれば,甲12A発明には,本件発明1の全ての構成要件が開示さ
れているから,本件発明1は新規性を有しない。
(5) 甲12B発明
また,甲12には,以下の発明(甲12B発明)が記載されている。
12B6-a 解釈テーブル内に,アクセス先電話番号と対応付けられて記
憶された広告種別情報を含む問い合わせ先の電話番号宛に広告視聴者の電
話から架けられた架電を受け付けるステップと,
12B6-b 該問い合わせ先の電話番号の中から広告種別情報を抽出する
ステップと,
12B6-c 該抽出された広告種別情報に基づいて,解釈テーブルから,
広告種別情報にマッピングされたアクセス先電話番号を抽出するステップ
と,
12B6-d 該抽出されたアクセス先電話番号に基づいて,広告視聴者の
電話からの架電を該アクセス先電話番号の電話へ接続するステップと,
12B6-e を有する架電接続方法。
(6) 甲12B発明と本件発明6との対比
ア 構成要件6-Aについて
甲12B発明の構成12B6-aにいう「解釈テーブル」は本件発明6
の構成要件6-Aにいう「データベース」に相当し,「アクセス先電話番
号と対応付けられて記憶された広告種別情報を含む問い合わせ先の電話番
号」は「連絡先 番号と関連付 けられて格 納された識別番 号を含む電話 番
号」に,「広告視聴者の電話から架けられた架電を受け付けるステップ」
は「第1の電話機から架けられた架電を受付けるステップ」に,それぞれ
相当する。
イ 構成要件6-Bについて
甲12B発明の構成12B6-bにいう「該問い合わせ先の電話番号の
中から広告種別情報を抽出するステップ」は,本件発明6の構成要件6-
Bの「該電話番号の中から前記識別番号を抽出するステップ」に相当する。
ウ 構成要件6-Cについて
甲12B発明の構成12B6-cにいう「該抽出された広告種別情報に
基づいて,解釈テーブルから,広告種別情報にマッピングされたアクセス
先電話番号を抽出するステップ」は,本件発明6の構成要件6-Cの「該
抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に
関連付けられた前記連絡先番号を抽出するステップ」に相当する。
エ 構成要件6-Dについて
甲12B発明の構成12B6-dにいう「該抽出されたアクセス先電話
番号に基づいて,広告視聴者の電話からの架電を該アクセス先電話番号の
電話へ接続するステップ」は,本件発明6の構成要件6-Dの「該抽出さ
れた連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該連絡先番号
に対応する第2の電話機へと接続するステップ」に相当する。
オ 構成要件6-Eについて
甲12B発明の構成12B6-eにいう「架電接続方法」は,本件発明
6の構成要件6-Eの「架電接続方法」に相当する。
(7) 以上によれば,甲12B発明には,本件発明6の全ての構成要件が開示さ
れているから,本件発明6は新規性を有しない。
3 以上によれば,イ号製品及びイ号方法は,それぞれ本件発明1,6の技術的
範囲に属するものであるが,本件発明1,6はいずれも甲12から新規性がな
く特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条の3
により,被告は特許権を行使することができない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,イ号製品及びイ号方
法に関し,本件特許権のうち請求項1及び15に基づく差止請求権,損害賠償
請求権及び不当利得返還請求権の不存在確認を求める原告らの請求は理由があ
る。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大 須 賀 滋
裁判官 小 川 雅 敏
裁判官 西 村 康 夫
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