平成24(ワ)268損害賠償等請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成25年12月20日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社毎日オークション 原告グラフィックアート及び(以下「
協会」という。)
X1,X2,X3,X5,X6(以下「
X1」という。)
|
法令 |
著作権
著作権法47条の212回 著作権法114条3項7回 著作権法47条7回 著作権法32条1項5回 著作権法114条4回 民法1873条の63回 著作権法21条1回 著作権法117条1回 民法1873条の11回 著作権法25条1回 民法709条1回
|
キーワード |
侵害71回 許諾39回 損害賠償37回 分割26回 実施2回 抵触1回
|
主文 |
1 被告は,原告協会に対し,金4094万4350円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X1に対し,金441万7000円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。
5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,①フランス共和国法人である原告協会が,その会員(著作者又は著
作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受
け,著作権者として著作権を管理し,②原告X1が,亡P(以下単に「P」と
いう。)の美術作品(以下「P作品」という。)の著作権について,フランス
民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者と
して裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告ら
が,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオー
クション(以下「本件オークション」という。)のために被告が作成したオー
クション用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許
諾を得ることなく,会員作品及びP作品の写真を掲載しているから,原告らの
著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償
請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として,㋐原告協会につき1億
5564万1860円の一部請求として8650万円(附帯請求として最終の
侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金)の支払,㋑原告X1につき1696万1560 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成25年12月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ワ)第268号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成25年9月9日
判 決
フランス共和国パリ市<以下略>
原 告 グラフィックアート及び
造 形 芸 術 作 家 協 会
(以下「原告協会」という。)
スイス連邦フォイターゾーエイ町<以下略>
原 告 X1,X2,X3,X5,X6
上記5名代表者X1
(以下「原告X1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 市 村 直 也
東京都江東区<以下略>
被 告 株式会社毎日オークション
同訴訟代理人弁護士 井 奈 波 朋 子
主 文
1 被告は,原告協会に対し,金4094万4350円及びこれに対する平成2
2年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X1に対し,金441万7000円及びこれに対する平成22
年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負
担とする。
5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告協会に対し,金8650万円及びこれに対する平成22年12
月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X1に対し,金850万円及びこれに対する平成22年6月1
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,①フランス共和国法人である原告協会が,その会員(著作者又は著
作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受
け,著作権者として著作権を管理し,②原告X1が,亡P(以下単に「P」と
いう。)の美術作品(以下「P作品」という。)の著作権について,フランス
民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者と
して裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告ら
が,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオー
クション(以下「本件オークション」という。)のために被告が作成したオー
クション用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許
諾を得ることなく,会員作品及びP作品の写真を掲載しているから,原告らの
著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償
請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として,㋐原告協会につき1億
5564万1860円の一部請求として8650万円(附帯請求として最終の
侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金)の支払,㋑原告X1につき1696万1560
円の一部請求として850万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後であ
る同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)
の支払を求めた事案である。
1 前提事実(下記(8)を除いて証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いが
ない。)
(1) 原告ら
ア 原告協会
原告協会は,フランス共和国において,1986年11月7日,「19
85年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家,レコード製作者
及び放送事業者の権利に関する法律」38条の規定(当該規定は「知的所
有権法典に関する1992年7月1日の法律」321の1条1項に引き継
がれている。)に基づき,グラフィックアート及び造形芸術の作家の著作
権使用料に関する使用料徴収分配を目的として設立された法人である。
原告協会は,その定款に賛同して加入した会員(美術作品の著作者又は
著作権承継者)から著作権管理の委託を受け,その著作権管理(利用許諾,
使用料徴収,訴訟提起等)を行っている。
(以上につき甲1の1及び2,甲2,4)
イ 原告X1
原告X1は,Pの相続人の一人である。Pが1973年4月8日に死亡
したことにより,その子である原告X1,X2,X3及びX4の4名がP
作品の著作権を相続した。そして,X4が1975年6月5日死亡したこ
とにより,その子であるX5及びX6がX4の有していたP作品の著作権
持分を相続した。
原告X1,X2,X3,X5及びX6は,P作品の著作権をフランス民
法1873条の1以下に規定する不分割共同財産にとどめる旨を合意した。
原告X1は,パリ大審裁判所の1989年3月24日付け急速審理命令
により,不分割共同財産であるPの著作権の管理者(代表者)に指名され
た。
(以上につき甲5,6,弁論の全趣旨)
ウ 原告らの日本国内における著作権管理
原告協会は,日本国内における著作権管理に関し,著作権等管理事業法
に基づく著作権等管理事業者として登録された一般社団法人美術著作権協
会(以下「SPDA」という。)に対し,著作権管理(利用許諾及び使用
料徴収)を委託していた。また,原告X1も,SPDAに対し,P作品の
著作権管理を委託していた。
その後,日本国内における美術の著作物の著作権管理を一本化する目的
で,一般社団法人日本美術著作権協会(以下「JASPAR」という。)
が平成24年1月に設立された。JASPARは,同年2月1日,著作権
等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録され,同年3月23
日,その使用料規程を文化庁長官に届け出,同年4月23日より著作権管
理業務を開始した。現在,原告協会は,JASPARに対し,著作権管理
を委託している。
(以上につき甲301~304,弁論の全趣旨)
(2) 被告
被告は,平成13年10月1日,株式会社毎日コミュニケーションズから
の会社分割により設立されたオークション,展覧会の企画,立案,実施等を
目的とする株式会社である。
(3) 本件オークション
本件オークションは,①絵画・版画・彫刻,②西洋装飾美術,③ジュエリ
ー&ウォッチ,④日本陶芸・茶道具・古美術の4つのジャンルに分けられ,
そのジャンルごとに公開入札方式でオークションが開催される(オークショ
ン開催日の2~3日前に下見会が開催される。)。被告は,平成14年1月
から平成21年12月までの8年間に少なくとも83回(86冊のオークシ
ョンカタログを発行),平成22年には少なくとも16回(17冊のオーク
ションカタログを発行)の絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションを開催
した(別紙本件カタログ一覧表参照)。
(4) 本件カタログ
本件カタログ(A4版型)は,オークションの開催期日ごとに作成され,
被告の会員に配布される(本件カタログにはオークションの回数が号番号と
して付される。)。被告は,本件カタログの作成に際し,掲載写真の撮影,
掲載する内容,掲載方法等を決定し,本件カタログには,作品の写真,題号,
作者,内容の説明,予想落札価格等が掲載される。
(5) 原告協会と被告との和解
原告協会と被告とは,平成22年9月21日,当庁平成21年(ワ)第23
2号事件について,①被告は,原告協会に対し,A,B及びCの美術作品を
平成21年12月31日までの間本件カタログに無断複製した著作権侵害に
つき,SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金として33
06万4000円を支払う,②原告協会と被告は,上記①以外の会員作品を
本件カタログに無断複製した著作権侵害につき,SPDAの使用料規程に基
づき算定した使用料相当損害金を基礎として清算処理の協議を行うことを合
意する,③被告は,原告協会に対し,上記②の清算処理が完了するまでは,
会員作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに
複製しないことを確約 することなどを内 容とする和解を成立さ せた(以下
「前件和解」という。)。しかし,原告協会と被告との間では,清算処理の
協議が完了することはなかった。
(6) SPDAの使用料規程
SPDAの使用料規程のうち,本件に関連するものは,以下のとおりであ
る。
「3,出版等
印刷,写真・複写,その他の方法により著作物を可視的に複製する場合の
使用料は,一著作物に対し下記料率を適用する。但し委託者の同意がある場
合は,利用許諾契約において,下記使用料を下廻る金額を定めることができ
る。
(1) 書籍(モノグラフィーを除く)(源泉税10%を含む)
イ,単行本(教科書を含む)/(単位:円)
5,000部以下
複製サイズ
白黒 カラー
表1及びカバー 34,500 59,500
表4 14,000 27,500
1ページ大 10,500 20,500
3/4ページ大以下 8,500 16,500
1/2ページ大以下 7,500 15,000
1/4ページ大以下 6,000 12,000
1/8ページ大以下 5,000 9,500
(5001部以上は略)」
(甲9)
(7) JASPARの使用料規程
JASPARの使用料規程のうち,本件に関連するものは,以下のとおり
である。
「第1 総則
1 一般社団法人日本美術著作権協会(以下「本協会」という。)が実
施する著作権等管理事業において適用する著作物使用料は,下記の区
分に応じて,第2の(1)ないし(4)に定める額とする。
使用料の区分
国際標準図書番号(ISBNコード)が
1 書籍への複製及び譲渡 付され書籍の形式で刊行する印刷物又は
これに準ずる印刷物への複製及びその譲
渡。ただし,書籍の表紙(表1・表4)
若しくはカバーに複製する場合,モノグ
ラフィー若しくはその大部分が特定の作
家の作品により構成される書籍に複製す
る場合,又は解題付き類別目録(カタロ
グ・レゾネ)を作成する場合を除く。
(以下略)」
「第2 著作物使用料
1 書籍
(1) 単行本{(2)に含まれるものを除く}
ア 基準料金
1頁以下 3/4頁以下 1/2頁以下
白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー
部数
~3000 \26,000 \46,000 \22,000 \37,000 \19,000 \34,000
1/4頁以下 1/8頁以下
白黒 カラー 白黒 カラー
\15,000 \27,000 \12,000 \21,000
(3001部以上は略)
イ 事前に利用許諾手続きを完了する場合の優遇料金(以下「優遇料金」
という。)
1頁以下 3/4頁以下 1/2頁以下
白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー
部数
~3000 \13,000 \23,000 \11,000 \18,500 \9,500 \17,000
1/4頁以下 1/8頁以下
白黒 カラー 白黒 カラー
\7,500 \13,500 \6,000 \10,500
(3001部以上は略)
(2) 文庫版,新書版又はそれに準じる版型のもの。
基準料金・優遇料金ともに,上記(1)の料金の80%とする。」
(甲304)
(8) 著作権法の改正
著作権法は,平成21年法律第53号による改正がされ,47条の2が新
設された(平成22年1月1日施行)。同条及び本件に関連する規定は以下
のとおりである。
著作権法47条の2
「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれ
らの譲渡又は貸与の権原を有する者が,第二十六条の二第一項又は第二十六
条の三に規定する権利を害することなく,その原作品又は複製物を譲渡し,
又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた
者は,その申出の用に供するため,これらの著作物について,複製又は公衆
送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。)(当該複製に
より作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信
を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し,又は抑止するための措置そ
の他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置
を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」
著作権法施行令7条の2第1項1号
「法第四十七条の二の政令で定める措置は,次の各号に掲げる区分に応じ,
当該各号に定める措置とする。
一 法第四十七条の二に規定する複製 当該複製により作成される複製物
に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適
合するものとなるようにすること。」
著作権法施行規則4条の2第1項1号
「令第七条の二第一項第一号の文部科学省令で定める基準は,次に掲げるも
ののいずれかとする。
一 図画として法第四十七条の二に規定する複製を行う場合において,当
該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが五十平方
センチメートル以下であること。」
2 争点
(1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1)
(2) 著作権移転の有無(争点2)
(3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)
(4) 利用許諾の有無(争点4)
(5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点
5)
(6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法3
2条1項)に当たるか(争点6)
(7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1)
(原告X1の主張)
ア 原告X1は,パリ大審裁判所の急速審理命令により,フランス民法上の
不分割共同財産であるPの著作権につき同法1873条の5から1873
条の9までに規定された諸権能を有する不分割財産の代表者に指名された。
しかるところ,同法1873条の6第1項は「管理者は,あるいは民事生
活上の行為について,あるいは原告又は被告として裁判上で,その権限の
範囲内で不分割権利者を代表する」と規定しており(甲6),原告X1は
この権限に基づき本件訴訟を提起したものである。したがって,本件にお
いて原告X1につき問題になるのは,第三者の訴訟担当のうち法定訴訟担
当(担当者のための法定訴訟担当)としての当事者適格である。
イ 渉外的要素を含む法定訴訟担当の当事者適格に関し,理論的な説明方法
の違いはともかく,「訴訟担当権限が被担当者と担当者間の実体的な法律
関係から派生するものとは認められない場合には,その訴訟担当は純粋の
訴訟上の制度で あるから『手 続は法廷地 法による』の原 則の適用があ る
(法廷地法が準拠法となる)」が「訴訟担当権限が被担当者と担当者の実
体的な法律関係から派生する場合には,被担当者と担当者の実体的法律関
係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判断される」という結
論には学説上ほぼ異論がない。
上記アのとおり,本件における原告X1の訴訟担当権限は「被担当者と
担当者の実体的な法律関係から派生する場合」に当たるから,当事者適格
は,被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法,すなわちフ
ランス民法の定めにより判断されることになる。
ウ 本件請求における被担当者と担当者の実体的法律関係はフランス民法の
規定に基づく不分割共同財産制度に関するものであり,その不分割共同財
産に係る共同権利者及び代表者は原告X1らフランス人である。そして,
原告X1はフランスの裁判所の命令によりフランス民法に基づく不分割共
同財産の代表者に指名され,フランス民法が定める不分割共同財産に関し
て訴訟上及び訴訟外の実体的な代表権が認められることになった。そして,
同命令により他の共同権利者らにおいてはPの著作権に関する何らかの管
理行為や措置をとることが禁止されたのである(甲5)。このような事情
の下で,訴訟担当者である原告X1と被担当者である他の共同権利者との
間の実体的法律関係に適用される準拠法がフランス法になるのは当然のこ
とである。
これを法の適用に関する通則法の規定に即していうと,不分割共同財産
制度がそもそもは当事者間の合意を基礎とする制度である点に着目し,法
律行為の成立及び効力の問題とみて,当該法律行為の当時において当該法
律行為に最も密接な関係がある地の法(通則法8条1項)たるフランス法
が準拠法であるということもできるし,原告X1らがいずれも親族である
点に着目して,親族関係及びこれによって生ずる権利義務(通則法33条)
の問題であるとみて,当事者の本国法たるフランス法が準拠法になるとい
うこともできよう。また,通則法には不分割共同財産制度に関する直接の
定めがないから,抵触規定の欠缺とみて,条理により最密接関連地法たる
フランス法になると解することも可能である。いずれにしても,本件にお
いて,被担当者 と担当者の実 体的法律関 係を定める準拠 法がフランス 法
(フランス民法)となることに全く疑いはない。
(被告の主張)
ア 当事者適格の準拠法については,概ね,手続法の問題として法廷地法に
よるとの考え方と,実体準拠法の問題であるとする考え方に分かれる。こ
れらいずれの考えによるべきかを判断する基準として,訴訟担当権限が,
被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生するものとは認められな
い場合には,手続は法廷地法によるとの原則に従い,逆に,訴訟担当権限
が,被担当者間の実体的な法律関係から派生する場合には,被担当者と担
当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判
断されるとの考え方が提唱されている。
イ 当事者適格を手続法の問題として捉え,法廷地法を準拠法にするのであ
れば,日本法が適用され,我が国の民事訴訟法及び著作権法いずれにも,
共同著作権者のうちの一人に訴訟上,損害賠償請求権を行使させる訴訟担
当制度はなく,原告X1が,他の共同著作権者の持分に相当する損害賠償
請求権を行使するにつき,当事者適格は認められない。
実体準拠法の問題であるとすると,我が国の著作権法が適用されること
になり,著作権法117条により,原告X1には,他の共同著作権者の持
分に相当する損害賠償請求権を行使するにつき,当事者適格は認められな
い。
ウ 本件においては,共有著作物に対する損害賠償請求権を行使する者の資
格を定める準拠法が問題となるが,これは,著作権の直接的利用から派生
する権利を誰が行使できるかという著作権の効力に関する問題であり,法
の適用に関する通則法13条が物権の得喪について所在地法の適用を定め
ていることと同様の理由により,保護国法が適用される。
したがって,原告X1は,我が国の著作権法により,自己の持分に関す
る損害賠償請求権を超える他の共有者の損害賠償請求権を行使する資格は
ない。
加えて,我が国の著作権法及び民法には,フランス民法が定める不分割
財産という制度も存在せず,保護国法である我が国の著作権法及び民法に
よれば,著作権は相続人の間で共有され,相続によって著作権を承継した
者は,持分の範囲内でしか権利行使はできない。
(2) 著作権移転の有無(争点2)
(原告協会の主張)
ア 原告協会は,その定款に賛同して加入をした美術の著作物の著作権者
(著作者又はその著作権承継者)である会員から著作権の移転を受け,著
作権者としてフランス共和国内及び外国においてその著作権の管理を行っ
ており(甲3),法律上,管理する著作権の擁護のために裁判所に出廷す
る資格を有するものとされている(「知的所有権法典に関する1992年
7月1日の法律」321の1条2項)。
イ(ア) 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たって
は,移転の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物
権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個
に準拠法を決定すべきである(東京高判平成13年5月30日判時17
97号111頁)。
著作権移転の原因行為である移転契約の成立及び効力について適用さ
れるべき準拠法に関し,法の適用に関する通則法7条は,「法律行為の
成立及び効力は,当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法律によ
る。」として第一次的には当事者自治の原則が適用されることを明らか
にした上で,同法8条1項において「前条の規定による選択がないとき
は,法律行為の成立及び効力は,当該法律行為の当時において当該法律
行為に最も密接な関係がある地の法による。」と規定し,契約中に準拠
法に関する合意がない場合は最密接関連地法を適用するものとしている。
本件において,委託者から原告に対する著作権の移転の合意に係る原告
の一般規約(甲3)及び個々の入会申込書にはいずれも準拠法の定めは
存在しないから,通則法8条1項により最密接関連地法が準拠法となる。
本件の著作権移転に係る契約は,フランス法人である原告協会と,フ
ランス人を中心とする美術の著作物の著作者又はその著作権承継者との
間で,フランスのパリにおいて,フランスを含む全世界の著作権を原告
に移転する旨が合意されたものである。そして,著作権移転の反対給付
である使用料の支払地もフランスであるから,著作権移転の原因関係で
ある債権契約の最密接関連地法はフランス法と解される。
そして,フランス民法は,①義務を負う当事者の同意,②その者の契
約を締結する能力,③約務の内容を形成する確定した目的,④債務にお
ける適法な原因により,当事者の合意は有効である旨を規定した上(1
108条),適法に形成された合意はそれを行った者に対しては法律に
代わる(1134条)と規定している(甲298の1及び2)。本件に
おいては,行為能力を有する原告及び委託者らが,著作権の管理という
確定した目的のために,原告の一般規則等に同意した上で全世界におけ
る著作権を原告に移転する旨が明記された入会申込書に署名するという
方法で著作権の原告への移転を合意しているのであるから,著作権移転
の原因行為である債権行為が有効に成立していることは明らかである。
なお,通則法7条及び8条の解釈において,当事者に明示の合意がな
い場合においても,まず当事者の黙示の意思を探求すべきであるという
立場をとった場合においても,上記の各事情に照らすならば,本件の著
作権移転における当事者の黙示の意思はフランス法を準拠法とするもの
と解すべきである。
(イ) 次に,著作権の物権類似の支配関係の準拠法につき検討すると,一
般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準
拠法とすべきものとされている。そして,通則法13条1項は,「動産
又は不動産に関する物権及びその他の登記すべき権利は,その目的物の
所有地法による。」と規定した上で,同条2項において「前項の規定に
かかわらず,同項に規定する権利の得喪は,その原因となる事実が完成
した当時におけるその目的物の所在地法による。」と規定する。
著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によっ
て定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を
有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由
により,著作権という物権類似の支配関係の変動については保護国の法
令が準拠法となるものと解するのが相当である。
したがって,本件における著作権の物権類似の支配関係の変動につい
ては保護国である我が国の法令が準拠法となる。しかるところ,著作権
の移転の効力が原因となる移転契約の成立により直ちに生ずるとされて
いる我が国の法令(著作権法)においては,本件の著作権移転に関する
合意が有効に成立したことにより,著作権は各委託者から原告協会に移
転したものというべきである。
(ウ) 原告協会の一般規約(甲3の25頁以下)は,原告協会の著作権管
理に関する基本的事項を定めた約款である。原告協会に著作権管理を委
託しようとする者は,原告協会の定款(甲3の5頁以下)及び一般規約
に同意した上で原告協会の会員となる(入会申込書〔甲15~甲17〕
の訳文(抄)等を参照のこと。)。
しかるところ,原告協会の一般規約14条は「作品は,その著作者,
その作品の権利承継者,相続人,受遺者又は譲受人が当協会に加入した
事実のみをもって,当協会の管理著作物として承認される。当協会への
加入により,この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他
のすべての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸
権利は当協会に移転(apport)する。ただし,外国地域に限り,当協会
を外国で代表する使用料徴収協会の規約の定めに従うものとする。」と
規定する。そして,この規定に対応して,原告協会への入会申込書には
「私が入会することを条件として,定款及び一般規約に同意し,独占的
に,そして私が入会するという事実それ自体により,以下に定義する諸
権利をADAGP協会に移転(apport)します。」「この移転は全ての
国を対象とし,貴協会の存続する全期間にわたるものであり,定款にあ
らかじめ規定された条件に基づいて撤回される場合を除き,期間延長の
可能性も含まれます。」と記載されている。会員が有する著作権(補償
金請求権等を含む。)は,これらの規定に基づき,原告協会への入会の
事実により当然に原告協会に移転し,原告協会は著作権者となるのであ
る。
(エ) 以上のとおり,会員の著作権は,入会の事実によってその管理のた
めに原告協会に移転する。そして,原告協会は,会員個々の権利及び会
員一般の権利の擁護を目的として,著作権者の立場で,自らの判断及び
責任において訴訟を提起することができるのである。
(オ) 被告は,原告協会の一般規約その他では,「譲渡」とは記載されず,
すべて団体とその会員間の関係を示す「apport」の語が用いられている
などと主張する。
「apport」の語は,古くは「action apporter」(持っていく行為)
一般を意味する動詞派生名詞(déverbal)であったが,現在では「出資」
や「著作権の管理」など一定の目的をもって財産権を移転する行為を意
味する法律用語として主に用いられている。1851年に創立されたフ
ランスの音楽著作権に係る使用料徴収分配協会であり,著作権管理団体
の国際組織CISACの主要な理事団体でもあるSACEM(Société
des Auteurs, Compositeurs et Editeurs de musique)の定款において
も,会員からその管理のために著作権の移転を受ける行為につき
「apport」の語が用いられている(甲299)。
(カ) 被告の主張イ(イ)は,弁論準備手続の終結が予定された期日にされ
たものであり,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきもので
ある。
念のため,現時点で判明している限りで主張すると,フランス破毀院
2013年5月16日の判決は,実演家の権利団体であるSPEDID
AMという特定の団体のフランス国内における権利行使に関するものに
すぎないから,美術の著作物の著作権の管理団体である原告協会の,し
かも日本における権利行使に同判決の射程が及ぶのかどうかは全く明ら
かでない。
少なくとも,我が国における著作権侵害訴訟においては,原告が著作
権を有していること及び被告がその著作権の範囲に属する行為を行って
いることにより著作権侵害は肯定され,損害賠償請求が認容されるもの
とされているから,原告協会が会員から著作権を移転(apport)された
著作権者である以上,本件損害賠償請求が否定される理由は全くない。
ウ 被告は,①原告協会会員になっている者の外にも作家の法定相続人とし
て権利承継者となり得る立場の者がいるのに,それらの者が原告協会の会
員になっていないから,原告協会が全請求権を行使しうる地位にあるのか
疑義がある,②作家が既に死亡しているのに,その権利承継者の入会届が
提出されていない,③作家の法定相続人でない(かも知れない)者が権利
承継者として原告協会の会員になっていると主張する。
上記①については,原告協会は,著作権管理を引き受ける作品(作家)
の全ての権利者が会員となることを原則としており,権利承継者が入会を
希望するときは,その者が単独の権利承継者か,それとも他の者と共同の
権利承継者なのか等を公知証書等により確認し,共同承継者である場合に
は,他の共同承継者の入会も促すこととしているから,Dのような特殊な
例外を除き,原則として原告協会は管理著作物に関する100%の権利者
である(本件において,原告協会が著作権の共有持分に基づき損害賠償を
請求しているのは,D作品の利用以外にはない。)。しかし,この点をひ
とまず措いて,本件で原告協会が損害賠償の請求対象としている作品につ
き原告協会の外にも権利者が存在すると仮定して考えてみた場合でも,被
告の主張には理由がない。原告協会が本件において使用料相当損害金の算
定根拠としているSPDAの使用料規程(甲7)は,SPDAに管理委託
されている権利を許諾する対価を定めたものであり,当該作品に権利を有
する著作権者全員に対して利用者が支払う使用料の合計額を定めるような
ものではないからである。
上記②については,原告協会は会員から著作権の移転を受け,自らが著
作権者として著作権の管理を行っているのである。そして,会員が死亡し
たからといって著作権が突然消滅してしまうわけではない。原告協会とし
ては,著作権の承継者(正確には委託者たる地位の承継者)から管理委託
を終了する旨の申し出がなされるなどの特段の事情がない限り,会員の死
亡後も,移転を受けた著作権を行使して,権利承継者のためにその管理を
継続する。相続人等からあらためて入会申込書を徴求するという取扱いは,
法的にみれば,権利承継者を確定し,その者に対して使用料の分配を開始
するための手続ということになる。
上記③については,原告協会は相続人や受遺者から入会の申込を受ける
ときは,公知証書等によりその者が正当な権利承継者であることを確認し
た上で,その者の入会を認めることとしている。
(被告の主張)
ア 原告協会は,物権の変動については保護国法が準拠法であると考えつつ,
原因行為である債権行為により著作権は当然に原告協会に移転していると
し,著作権移転の原因関係である債権契約については最密接関連地法であ
るフランス法が適用されると主張する。
債権的側面については最密接関連地法による場合があるとしても(通則
法8条),本件では,原告協会と美術家ないし承継人との間における契約
の成立や契約の効力が問題ではなく,著作権の得喪ないし変動が問題とな
っているのであるから,原告協会の著作権の取得については,保護国法で
ある我が国の法が適用される。
イ(ア) 原告協会による,一般規約14条の説明によれば,「当協会への加
入により,・・・諸権利は当協会に移転する」(L'adhésion à la Société
entraîne l'apport des droits attachés … ) と あ る 。 し か し ,
「l'apport」との用語は,一般に,団体とその会員との間における「出
資」を意味するものである。したがって,正確にいえば,「移転」では
なく,「出資」であり,「出資」の内容は,「管理の委託」であるとも
理解できる。著作権の譲渡という場合,一般には,「céder」や「faire
cession」(譲渡する),「cession」(譲渡)の後が用いられるが,一
般規約その他では,「譲渡」とは記載されず,すべて団体とその会員間
の関係を示す「apport」の語が用いられている。しかし,何が「出資」
の対象であるのかは明らかでなく,管理権が出資の対象であるという理
解が可能である。加えて,各美術家が提出しているのは,入会届であっ
て,譲渡証書ではない。
したがって,原告協会と会員との間における出資として,著作権の譲
渡がされているか否かは,明確ではない。
(イ) フランス破毀院第1民事部2013年5月16日判決(乙40)は,
フランスの著作権集中管理団体であるSPEDIDAMが,死亡した実
演家の権利が侵害されたことに対し,実演家がその権利を加盟時に出資
したことにより訴訟追行権があると主張し,実演を複製した者に対し訴
えを提起したのであるが,死亡した実演家に関する損害賠償請求につい
て,SPEDIDAMの訴えを不受理とした。上記判決は,SPEDI
DAMに関するものであるが,この理は,原告協会にも該当する。すな
わち,美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会
に加盟し著作権の管理を委託したとしても,その死後において,原告協
会は当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使
できるものではない。美術家が死亡した場合,損害賠償請求権は包括承
継人が行使すべき相続財産となる。したがって,集中管理団体がその損
害賠償請求権を行使するには,包括承継人による委任が必要である。つ
まり,フランスにおいて集中管理団体は,加盟している著作者が死亡し
て相続が発生した場合,包括承継人による明確な委任がないかぎり,包
括承継人によってしか,損害賠償請求権は行使できない。
ウ(ア) 別紙被告主張相続関係等一覧表記載のとおり,原告協会が美術家の
権利を全部行使できることについて主張・立証が不十分な美術家が存在
する。
(イ) E(番号9)
Eは,最初の結婚でe1と結婚し,e2とe3という2人の娘と,e4という
一人の息子をもうけ,その後,e5と結婚し,e6とe7をもうけ,さらに,
e8との間に6人目の子供で最後の息子であるe9をもうけた(乙20)。
原告協会に対する入会届は,最初の結婚から生まれた二人の娘(e3と
e2),2番目の妻(e5)及び息子(e4又はe9のいずれか)と考えられる
人物から提出されている(甲28の1~5)。
しかし,2番目の妻との結婚から生まれた子であるe6とe7,もう一人
のe4又はe9のいずれかについては,入会届が提出されていない。また,
e11(甲28の2)が,いかなる関係にある人物か,不明である。
(ウ) F(番号11)
入会届を提出しているのは,後妻との結婚で生まれた子と考えられる
が,Fは前妻との間に息子が存在する(乙21)。息子も相続人となる
はずであるが,息子から原告協会への入会届は提出されていない。
(エ) G(番号18)
Gは,2005年10月28日に死亡しているが(乙22),相続人
又は権利承継者からの入会届は提出されていない。原告協会は,相続が
発生した美術家については相続人の入会届を提出させている。したがっ
て,原告協会は,当然に,死亡した美術家の権利を承継する者とはいえ
ず,原告協会の原告適格は消滅している。
(オ) H(番号22)
h1氏は,Hの相続人とされている(甲33)。しかし,同氏の入会届
は,Hとの記載はなく,同人との関係も,どの美術家の著作権に関する
ものかも不明である。なお,h1氏は,Hをはじめ,各種作家を取り扱う
ギャラリー共同経営者にすぎず(乙23),真実,Hの著作権を承継し
ているか疑義がある。
(カ) I(番号27)
i1は,i2の相続人とされているが,入会届(甲281)にIの相続人
であるとの記載はない。したがって,当該美術家に対する入会届である
かどうか,不明である。
(キ) J(番号41)
j1は,J作品の共同相続人と記載されているので,他の共同相続人が
存在するはずであるが,j1 1名の入会届しか提出されていない(甲1
7の8)。
(ク) K(番号42)
Kは,2008年に死亡しているが(乙24),相続人からの入会届
は提出されていない。
(ケ) L(番号44)
Lは,2012年に死亡しているが(乙25),相続人からの入会届
は提出されていない。
(コ) M(番号47)
Mの相続人としては,妻のm1(甲282)の他,息子のm2が存在する
はずであるが(乙26),息子のm2については,入会届が提出されてい
ない。
(サ) N(番号51)
入会届を提出しているn1(甲17の2)は,Nとは,姪の関係にある
ものである(乙27)。しかし,Nに妻子など他の相続人が存在しない
のか不明である。また,Nの鑑定委員会に所属する者が相続人ないし受
遺者でないのかも不明である。
(シ) O(番号58)とP(番号59)
OとPは,兄弟である。Oについては,姪(甲60の1),兄弟のo1
の相続人(甲60の3)により入会届が提出されている。しかし,Oは
11人兄弟であり,他の兄弟ないしその相続人も権利者ではないかとい
う疑義がある(乙28,乙29)。
(ス) Q(番号60)
Qは,4人の女性(q1,q2,q3,q4)と結婚した経歴があり,最初の
妻であるq1との間にq5と称する息子をもうけている(乙30)。少なく
とも息子であるq5は,Qの相続人となると考えられるが,入会届(甲6
1の1ないし3)を提出している者との繋がりは不明である。
(セ) R(番号83)
Rには,r1,r2,r3,r4,r5の5人の子が存在する(乙31)。しかし,
入会届は,r1,r4,r3,r5の4名分しか提出されておらず,r2の入会届
が提出されていない(甲77の1ないし4)。
(ソ) S(番号86)
Sはs1と結婚し,その間にはs2という女の子供がいる(乙32)。本
来,これら妻子が相続人になると考えられるが,入会届を提出している
s3(甲19の4)及びs4(甲19の5)との関係性は不明である。
(タ) T(番号87)
Tについては,相続人ないし受遺者からの入会届が提出されている
(甲80の1~5)。他方,Tの公式ホームページには,弟子であるt1
が権利を防御している旨の記載がある(乙33)。しかし,同人と相続
人ないし受遺者との関係性は明らかでない。
(チ) U(番号90)
Uは,2012年6月に死亡しているが(乙34),相続人からの入
会届は提出されていない。
(ツ) V(番号95)
Vには,v1とv2の二人の息子が存在する(乙35)。入会届は,これ
らの者ではなく,v3(甲15の3),v4(甲18の8),v5(甲18の
9)から提出されている。しかし,後二者とVとの関係は明らかでない。
(テ) W(番号120)
Wには,少なくとも,w1,w2という息子と娘のw3が存在する(乙3
7)。しかし ,入会届 が提出さ れている のは,w1(甲 17の4 ),w3
(甲17の5)およびw4(甲18の7)であり,w2の入会届は提出され
ていない。
(ト) Y(番号121)
Yには,y1,y2,y3の息子が存在するが(乙38),y1とy2の入会届
は提出されていない(甲104の1~5)。
(ナ) Z(番号123)
Zには,z1という娘がいるが(乙39),入会届は提出されていない。
また,入会届が提出されている者ら(甲16の9及び10,甲17の2
1)が当該美術家とどのような関係に立つのか明らかではない。
(3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)
(原告らの主張)
ア 被告の複製権侵害
(ア) 被告は,平成14年1月から平成21年12月までの8年間に,絵
画・版画・彫刻ジャンルのオークションについて,少なくとも86冊の
本件カタログを発行した。これらのうち,原告らが入手した44冊のカ
タログ(別紙本件カタログ一覧表の「カタログ有無」欄に「有」の記載
のあるもの)には,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表及び別紙原告
X1主張SPDA基準一覧表記載のサイズ,色,枚数の写真が掲載され
ていた。
そして,被告 が平 成2 2年に 発行し た1 7冊の 本件 カタ ログに は,
表 示 の 大き さ が 50 平 方 cmを 超え る ものと し て , 別紙原告協会主張S
PDA基準一覧表及び別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のサイ
ズ,色,枚数の写真が掲載されていた。
被告は,原告らの利用許諾を得ていないので,上記の掲載は原告らの
複製権を侵害する行為に該当する。
(イ) 被告は,単色刷りの版画はカラー(c)でなく,白黒(bw)と評価
される旨主張する。おそらくはカタログに複製されている原作品が1種
類の絵の具やインクを用いて刷り上げられた版画である場合には,それ
が何色の作品であって,カタログに何色をもって複製されていても,損
害額の算定において「白黒」と評価されるべきと主張するようである。
しかし,「白黒」か「カラー」かによって使用料額を定めることとし
ているSPDAの使用料規程(甲9)の定めに明白に反するものである
上,SPDAの実務における使用料規程の適用の実際とも全く異なるも
のである。SPDAの使用料規程は,書籍に著作物が複製される場合の
使用料につき,その複製サイズ,複製部数とともに「白黒」「カラー」
の別をその算定要素としている(甲9の2頁)。これは,絵画作品が白
黒印刷等の方法で複製される場合には,同じ作品がカラー印刷の方法で
複製される場合に比してその著作物利用の経済的効果が劣ると認められ
ることから,その複製(印刷)が「白黒」で行われる場合には,カラー
(白黒以外の色を用いる方法)で複製される場合よりも低額の使用料が
適用されるよ うにした ものであ る。した がって,カラ ー「c」 と白黒
「bw」を区別する基準となるのは,その複製(印刷)が白色及び黒色だ
けで行われているのか,それとも白色又は黒色以外の色をも用いた複製
(カラー印刷)がされているのかであって,複製対象である作品が単色
刷りか否かによって区別されるわけではない。そして,被告が「bw」に
当たると主張しているのは,すべて白色又は黒色以外の色を用いて複製
されているものであって,白色及び黒色だけで複製(印刷)されている
ものはひとつもない。これらはすべて使用料規程の適用上,カラー「c」
に分類されるのである。
被告は,株式会社DNPアートコミュニケーションズ(以下「DNP
アート」という。)がホームページ上に掲載している料金表(乙15)
を根拠にして,SPDAの使用料規程における「白黒」は「モノクロ」
(単色)を意味するものと解釈されるなどと主張する。
しかし,SPDAが著作権等管理事業法に基づき文化庁長官に届け出
た使用料規程が甲9号証のとおりであることは,文化庁のホームページ
に公示されているから,乙15号証は単に記載を誤っているにすぎない。
DNPアートは,その業務に付随して,画像の借受人に対して著作権手
続の説明や,SPDAに対する利用許諾申請手続の代行をしており,そ
の関係でSPDAの使用料規程をホームページに掲載していたが,その
記載の一部に誤りがあったものである(SPDAは,DNPアートに対
して修正を依頼し,DNPアートは既にホームページからこれを削除し
ている。)。
(ウ) 被告は,写真の余白や額縁部分は除外して判断すべきであるから,
作品自体のサイズは原告の認定とは異なる旨主張するが,現にSPDA
の長年にわたる著作権管理業務において通常の利用者に対して著作物の
複製を利用許諾するときは,すべて著作物が複製された写真の大きさ及
びその掲載場所を基準に使用料額を算出して徴収している。著作権法1
14条3項は,著作権者が著作物の利用を許諾する場合に受ける通常の
使用料額を著作権侵害の被害者が受ける最低限の損害賠償額としたもの
である。そうである以上,同項に基づく損害賠償額の算定においては,
利用許諾を得て適法に著作物を利用する一般の利用者が著作権者に対し
て実際にどのような額の使用料を支払っているのかが基準になる。した
がって,本件の損害賠償額の算定においてもこれと同様の取扱いがされ
るのは当然である。
(エ) 被告は,127AAの本件カタログ318号の絵画は,50平方cm以
下のものであり,著作権法47条の2により適法である旨主張する。
しかし,被告の主張に従って絵画部分のみの複製サイズをもって計算
するとしても,上記作品の複製サイズは6.05cm×8.3cm=50.
215平方cmであり,著作権法施行規則の定める50平方cmを超えるか
ら,上記複製は違法なものである。
イ 原告らの損害額(JASPAR基準)(主位的主張)
(ア) JASPARの使用料規程では,本件カタログへの写真掲載は第1
の「1 書籍への複製及び譲渡」に含まれる。そして,第2の「1 書
籍への複製及び譲渡」の規定は,「(1)単行本」及び「(2)文庫版,新書
版又はそれに準じる版型のもの」に分かれており,それぞれ「ア 基準
料金」及び「イ 事前に利用許諾手続を完了する場合の優遇料金」の二
種類の使用料が定められている。本件カタログのような大型版書籍への
管理著作物の複製に関し,事後的にJASPARに対して利用許諾申請
があった場合には,「(1)単行本」の「ア 基準料金」に定められた使
用料が適用される。
(イ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行
した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ103冊のうち,
原告らが入手した61冊のカタログへの作品の複製(3868点)に関
し,JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると,
8379万6600円となる(以上は,訴え変更申立書における主張で
あり,その後の主張の変更を反映すると別紙原告協会主張JASPAR
基準一覧表記載のとおりである。)。
したがって,被告が上記10年間に発行した103冊の本件カタログ
に無断複製された会員作品に係る使用料相当損害金の額は,少なくとも
1億4149万2600円(≒8379万6600円×103冊/61
冊)を下らない。
(ウ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行
した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ103冊のうち,
原告らが入手した61冊のカタログへのP作品の複製(448点)に関
し,JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると,
合計913万2000円となる(別紙原告X1主張JASPAR基準一
覧表記載のとおりである。)。
したがって,被告が上記10年間に発行した103冊の本件カタログ
に無断複製されたP作品に係る使用料相当損害金の額は,少なくとも1
541万9600円(≒913万2000円×103冊/61冊)を下
らない。
(エ) 原告らは,著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士
に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は少なくとも被告に
対して請求する損害額の10%を下らないから,原告協会に対しては1
億4149万2600円の10%である1414万9260円,原告X
1に対しては1541万9600円の10%である154万1960円
を下らない。
(オ) よって,原告らは,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求又
は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として,原告協会につき1
億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対す
る最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金,原告X1につき1696
万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終の侵害
行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
(カ) 被告は,侵害との間に因果関係のある損害とは,当然に,侵害時の
基準により算定される逸失利益であるなどと主張する。これは,著作権
侵害につき認められる使用料相当損害金とは,当該行為に対して利用許
諾が行われた場合に適用されていた使用料規程に基づき算出される使用
料額に限定されるという趣旨の主張であろう。
しかし,使用料規程は,著作権等管理事業者がその管理著作物の利用
許諾に伴い請求する使用料の上限額を定めるものにすぎず(著作権等管
理事業法13条4項),著作権者が著作権侵害者に対して請求する損害
金額の上限を画するようなものではない。そして,もし著作権侵害によ
る使用料相当損害金が当該行為に対して利用許諾が行われた場合に適用
された使用料規程に基づく使用料額に限られるのだとするなら,著作権
法114条3項は無意味な規定となる。
著作権法114条3項の規定は,「著作権…の行使につき受けるべき
金銭の額に相当する額」を著作権侵害の被害者の最低限の賠償額として
保障する規定である。そして,ここで問題になる「著作権…の行使につ
き受けるべき金銭の額に相当する額」とは,将来の著作物利用につき許
諾を求める誠実な利用者に対して請求する使用料額ではなく,現に行わ
れた過去の著作権侵害行為に対して適用される「受けるべき金銭の額」
である。
しかるところ,現在,日本における原告協会の会員等の著作権管理は
SPDAからJASPARに移転し,JASPARの使用料規程が日本
における美術の著作物の使用料額を定める事実上のスタンダードになっ
ている。過去に無断で著作物の複製等を行った者であっても,現時点に
おいてその利用行為を適法化するには,JASPARを経由して原告協
会の事後的な利用許諾を得るほかない。そして,その場合に適用される
使用料規程は,当然のことながら,JASPARの使用料規程となる。
ウ 原告らの損害額(SPDA基準)(予備的主張)
(ア) 原告らは,いずれも日本国内における著作権の管理(利用許諾及び
使用料徴収)をSPDAに委託していた。SPDAは,その使用料を使
用料規程(甲9)に定め,文化庁長官に届け出ており,本件カタログへ
の複製利用に対しては,使用料規程の3(1)イに規定されている「単行
本」の使用料が適用される。同規定には複製されたサイズ,発行部数,
白黒・カラーの別に応じて,適用される使用料の額が一覧表にして定め
られている。
(イ) 原告らが入手した本件カタログ61冊に会員作品を無断複製した著
作権侵害行為につき,SPDAの使用料規程を適用して使用料相当額を
算定すると,平成14年から平成21年までの間に発行された本件カタ
ログ(44冊)につき3941万2100円,平成22年に発行された
本件カタログ (17冊 )につき 114万 2500円( 前件和解 〔甲1
0〕の成立日である平成22年9月21日後に行われた侵害行為につい
ては,和解条項に基づき,SPDAの使用料相当額と同額の違約罰を加
算済み)となる(以上は,訴状における主張であり,その後の主張の変
更を反映すると別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであ
る。)。
被告は,平成14年1月から平成21年12月までに少なくとも86
冊の本件カタログを発行しているから,上記期間における会員作品の無
断複製の著作権侵害行為により原告協会が被った使用料相当損害金の額
は,少なくとも7703万2740円(=3941万2100円×86
冊/44冊)に上るものと推認することができる。そして,平成22年
1月から同年12月までの間に被告が行った著作権侵害行為に対する使
用料相当額は,114万2500円であるから,平成14年1月から平
成22年12月までの間に被告が行った会員作品の著作権侵害による使
用料相当損害金の額は,7817万5240円(=7703万2740
円+114万2500円)となる。
(ウ) 原告らが入手した本件カタログ61冊にP作品を無断複製した著作
権侵害行為につき,平成14年1月から平成21年12月までの間に発
行された本件カタログ(44冊)につき378万6000円,平成22
年1月から同年12月までの間に発行された本件カタログ(17冊)に
つき26万4500円となる(以上は,訴状における主張であり,その
後の主張の変更を反映すると別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載
のとおりである。)。
被告は平成14年1月から平成21年12月までに少なくとも86冊
の本件カタログを発行しているから,上記期間におけるP作品の無断複
製の著作権侵害行為により原告X1が被った使用料相当損害金の額は,
少なくとも739万9909円(=378万6000円×86冊/44
冊)に上るものと推認することができる。そして,平成22年1月から
同年12月までの間に行った被告の著作権侵害行為に対する使用料相当
額は,26万4500円であるから,平成14年1月から平成22年1
2月までの間に被告が行ったP作品の著作権侵害による使用料相当損害
金の額は,766万4409円(=739万9909円+26万450
0円)となる。
(エ) 原告らは,著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士
に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は少なくとも被告に
対して請求する損害額の10%を下らないから,原告協会につき781
7万5240円の10%である781万7524円,原告X1につき7
66万4409円の10%である76万6440円を下らない。
(オ) よって,原告らは,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求又
は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として,原告協会につき8
599万2764円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である平
成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金,原告X1つき843万0849円及びこれに対する最終の侵
害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(カ) 被告は,原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料
及び利益が加算されている使用料相当額という名目のもとに,原告らが
被る損害を超える金額を請求することは,損害賠償請求の趣旨を逸脱す
るなどと主張する。
しかし,管理手数料は,原告らの委託に基づき管理著作物の著作権管
理業務を行ったSPDAに対し,原告らが支払う著作権管理委託の対価
であり,「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」とは無関係のも
のである。したがって,被告に対する損害賠償請求額からこれを控除す
る理由はない。
(被告の主張)
ア 被告の複製権侵害について
(ア) 被告の認否及び反論は,別紙被告認否一覧表のとおりである。
(イ) DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は,「モノクロ」
(単色)か「カラー」かによる峻別を行い,「白黒」かどうかを基準に
しているわけではない(乙15)。同規程に「モノクロ」とある以上,
「白黒」でなく「モノクロ」(単色)かどうかにより区別すべきである。
したがって,SPDAの使用料規程(甲9)における「白黒」は,「モ
ノクロ」(単色)を意味するものと解釈される。
(ウ) SPDAの使用料規程によれば,サイズを算定要素としているが,
著作物でなく「著作物を複製した写真の大きさ」を基準とするかは明確
ではないし, SPDA の日常的 な著作権 管理業務にお いて,一 般的に
「著作物を複製した写真の大きさ」を基準にしているかどうかも明確で
はない。
使用料規程は,著作物の使用に対する料金であるから,著作物とは無
関係な写真の余白部分や額縁を含めたサイズではなく,あくまで著作物
(絵画・版面・オブジェ)を基準としたサイズとすべきである。
(エ) 127AAの本件カタログ318号の絵画は,額縁を含めて撮影され
た絵画であるが,額縁は著作物でないから,50平方cm以下の複製か否
かを判断するに当たって,額縁部分は除外して判断すべきである。著作
権施行規則4条の2第1項1号は,「図画として法第47条の2に規定
する複製を行う場合において,当該複製により作成される複製物に係る
著作物の表示の大きさが50平方センチメートル以下であること」と定
められ,「著作物」そのものの表示の大きさを基準としている。
上記絵画の複製サイズは,6cm×8.3cm=49.8平方cmであり,
50平方cmの範囲に収まる(乙19)。
イ 原告らの損害額について
(ア) 原告らの損害立証について
著作権法114条は,損害額立証の困難性を救済するための規定で
あるが,それは損害の発生の主張・立証を前提として損害額立証の負
担を軽減するものであって,損害の発生をも推定するものではない。
原告らは,一部の本件カタログを提出せず,被告がいかなる侵害行
為を行い,その結果どのような損害が発生したかを具体的に主張・立
証しない。しかし,原告らは,提出しない本件カタログについても,
提出している本件カタログにおける作品掲載数から侵害ないし損害を
推測する方法によって,損害が発生したことを推定し,損害額を算定
している。しかし,そのような主張は,著作権法114条及び同条が
前提とする不法行為論にも反し,認められない。
(イ) JASPAR基準について
著作権法114条の法的性質について,通説は,民法709条の適
用を前提として,損害額立証の困難を救済するための規定であると解
釈する。著作権法114条が,民法709条の適用を前提としている
のであれば,損害の発生と侵害との間において,因果関係の存在が必
要となる。侵害との間に因果関係のある損害とは,当然に,侵害時の
基準により算定される逸失利益である。侵害後に新たに設けられかつ
高額化した基準により算定される逸失利益の主張は,侵害との間に因
果関係が認められない金額を主張するものであるか,侵害時の逸失利
益を逸脱する金額を主張するものである。したがって,このような基
準により使用料相当額を算定することは,民法709条に基づく損害
賠償請求として適法とはいえない。
原告らは,本件カタログ掲載時(直近で平成22年12月)には存
在していないJASPAR(設立は平成24年1月)が設立後に一方
的に定めた使用料規程に基づき,使用料相当額を請求する。しかし,
このような請求は,明らかに侵害との間の因果関係ないし逸失利益を
逸脱する金額を主張するものである。
(ウ) SPDA基準について
SPDAの使用料規程は,著作権法114条3項の「著作権者が,
著作権または著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」ではなく,
著作権者との相互管理契約に基づく著作権の管理者が,著作権の行使
について受ける金銭の額である。
SPDAの使用料規程で計算した金額には,当然,原告協会との相
互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されている
のであって,著作権者であると主張する原告協会に支払われる額では
ない。もとより,損害賠償請求は,損害を回復するために行われるも
のであるから,請求額は発生したとされる損害と同等の額を金銭に換
算したものである必要があり,使用料相当額という名目のもとに,原
告らが被る損害を超える金額を請求することは,損害賠償請求の趣旨
を逸脱するといわざるを得ない。
(4) 利用許諾の有無(争点4)
(被告の主張)
被告は,AB(以下「AB」という。)の作品の著作権管理を行う株式会社ギ
ャルリーためなが(以下「ギャルリーためなが」という。)から許諾を受け,
AB作品を本件カタログに複製していた。
ABは,ギャルリーためながとの間において委託契約を締結し,ギャルリー
ためながは,これに基づき,「真作と認められない作品図版の掲載や,作家
の意図としない出版物への使用を管理」している(乙13)。
ギャルリーためながは,15年程前から,本件オークションへの出品又は
落札を通じて被告と取引関係にあり,被告の会員でもある。本件カタログは,
毎回,ギャルリーためながに送付されているが,AB作品に関する本件カタロ
グへの複製については,ギャルリーためながから許諾されていた(乙14)。
(原告らの主張)
被告は,ギャルリーためながに対し,AB作品の利用許諾申請をしたことは
一度もないし,ABがギャルリーためながを通じてAB作品の複製を被告に許諾
したことはない。
ギャルリーためながは,ABから日本国内における著作権管理の委託を受け
たことがある(甲289の1及び2)。しかし,それは平成22年1月以降
のAB作品の利用についての委託であった。それゆえ,ギャルリーためながは,
本件訴訟において損害賠償の対象としている平成14年1月から平成21年
12月までのAB作品の利用につき,そもそも利用許諾をする権限を有してい
ない。
この点につき,ギャルリーためながの代表取締役は,原告ら代理人からの
照会に対して,①ギャルリーためなががABから著作権管理の委託を受けたの
は平成22年1月からであり,ギャルリーためながはそれ以前の時期におけ
るAB作品の利用を許諾する立場にないこと,②平成21年12月以前の時期
に日本におけるAB作品の著作権管理を行っていたのは原告協会(及びその日
本における代理人であるSPDA)であること,③ギャルリーためながは被
告からAB作品のオークションカタログへの複製につき利用許諾申請を受けた
ことはなく,本件カタログへの複製につき利用許諾をしたこともないことを
回答している(甲290の1及び2)。
なお,ABからギャルリーためながに対する著作権管理の委託は終了し,現
在,AB作品の著作権管理は再び原告協会に戻っている。
(5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点
5)
(被告の主張)
ア 鑑賞用の展示だけでなく,作品の所有者の同意を得て,購買を目的とし
た原作品の展示に伴い著作物を複製することも,著作権法47条の適用対
象となる。
イ 東京地裁平成10年2月20日判決(バーンズコレクション事件)によ
れば,小冊子に該当するか否かは,展示された原作品と解説又は紹介との
対応関係を明らかにする程度のものかどうか,鑑賞用の書籍として市場に
おいて取引される価値を有するものとみられるかどうかを基準として判断
される。
本件カタログにおいては,取引対象となる絵画を示しているが,それと
ともに,絵画の情報として,①作者名,②題号,③レゾネ番号,④サイズ,
⑤サイン,⑥エディションナンバー(版画の限定刷り部数),⑦特記事項,
画廊シール,鑑定書の有無など,その作品に関する特記事項,⑧作品の状
態,⑨額の有無,⑩予想落札価格を示している(乙17)。つまり,本件
カタログ掲載の情報は,オークションの対象となる作品及び当該作品の落
札価格に影響を与える情報のみであり,本件カタログは,オークションに
出品された原作品と出品作品の基本的情報との対応関係を明らかにする商
品目録にほかならない。
本件カタログは,市場において取引される価値はない。本件カタログは,
被告の会員及びオークションへの来場者限定で頒布されるものであり,一
般には流通しない。
オークションで取引される絵画の点数により,カタログ自体の体裁は書
籍のような体裁をとらざるを得ないが,装丁自体は,鑑賞用図書のように
表紙にカバーが掛けられていたり,ハードカバーを用いられることもなく,
一般のパンフレットが厚くなった状態にすぎない。絵画自体も,出品作品
との同一性と落札希望者が落札するかどうか,幾らで落札するかを決定す
るために必要な最低限のサイズである。また,絵画には,ロット番号が付
され,ロット番号に従って掲載されているが,ロット番号はオークション
の出品順を示すものである。したがって,鑑賞用の芸術書にみられるよう
な絵画のジャンルや作家名による分類など,系統だった編集はされていな
い。また,紙面の構成も系統だった構成ではない。したがって,オークシ
ョン終了後にカタログを保存する価値も市場で取引される価値もなく,実
際に一般書籍として販売されることもない。
以上のとおり,本件カタログは,オークションにおける展示に伴い取引
の対象となる作品と買主の判断材料となる最低限の情報を示した商品目録
としての小冊子にすぎない。
ウ 著作権法25条に規定する展示権を害することなく展示することができ
る場合のひとつとして,同法45条1項の規定によって作品の所有者の同
意を得た場合がある。オークションでは,作品の所有者がオークションの
ために原作品を公に展示することを同意している。
エ 以上により,被告は,オークションにおける公の展示において,観覧者
のために著作物の紹介をすることを目的として,小冊子である本件カタロ
グに著作物を掲載したのであり,著作権47条により,その複製は適法で
ある。
(原告らの主張)
ア 著作権法47条は「…観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介を
することを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」
と規定している。「観覧者のため」という要件は「解説又は紹介をするこ
とを目的とする小冊子」にかかるものであって,「展示」にかかるもので
も,「複製」にかかるものでもない。上記の要件は,同条により著作権の
制限を受ける小冊子は,それが実際に作品を観覧する者のために作成され
たものでなければならないことを明らかにするものであり,オークション
やその下見会に参加して展示された著作物を観覧する者であるか否かにか
かわらず,広く全会員に配布されている本件カタログのような複製物には
同条の権利制限が適用されないことを定めた要件である。
イ バーンズコレクション事件(甲7)は,「(著作権法47条の小冊子は)
掲載される作品の複製の質が複製自体の鑑賞を目的とするものではなく,
展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のもの
であることを前提としている」と判示している。同判決が「展示された原
作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のもの」であること
を要求しているのは,「掲載される作品の複製の質」についてであって,
そこに記載された作品の情報のことではない。
被告は,本件カタログに記載している情報が作者名,題号,レゾネ番号
等にすぎないことなどを述べて,それが「小冊子」該当性を肯定する事情
であるかのように主張するが,バーンズコレクション事件の判旨の誤読に
基づく誤りである。
それどころか,バーンズコレクション事件判決は,観覧者のための小冊
子に該当するためには,そこに作品をより深く鑑賞するために有用な詳し
い解説や紹介がされていることを当然の前提としている。ところが,本件
カタログには作者名,題号,レゾネ番号などの落札価格等に影響する情報
が記載されているだけで,作品を鑑賞するための解説・紹介はどこにもな
い。被告が主張する事情は,本件カタログに著作権法47条が適用される
余地のないことを明らかにするものである。
ウ バーンズコレクション事件判決が判示するとおり,「小冊子」というた
めには,「紙質,判型,作品の複製態様等を総合して,複製された作品の
鑑賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するもの」であ
ってはならない。すなわち,「小冊子」(小型で薄い本:大辞林)という
以上,大型判や大部のものであってはならないし,その複製の態様はまさ
に解説・紹介との対応関係を視覚的に明らかにする程度のものでなければ
ならない。つまり,写真の大きさ・鮮明さや,書籍としての態様が市販の
図録に準ずるようなものであってはならないのである。
ところが,本件カタログは,縦297mm,横210mmという大型版の書
籍であり,全頁に上質紙が用いられている。総頁数は各号により異なるが,
概ね100頁から300頁に及ぶ大部のものであり,その大部分の頁に美
術作品の極めて鮮明かつ大きなカラー写真が掲載されている。
本件カタログが「小冊子」の域をはるかに超えるものであることは明白
である。
(6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法3
2条1項)に当たるか(争点6)
(被告の主張)
ア 著作権法32条1項は,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当
な範囲内」での引用を認めている。したがって,正当な範囲内と認められ
る引用の目的は,報道,批評,研究に限られるものではない。
絵画の所有者は,売買によってその処分権を行使することができるが,
そのために,オークションを利用することも一つの処分方法として認めら
れる。オークションに出品するためには,取引の目的物である絵画を特定
することが不可欠である。オークションカタログにおける絵画の掲載は,
オークションにおいて取引の対象となる絵画を特定するためのものである。
著作者名及び絵画の題号等の文字情報だけでは取引の目的物の特定は困難
であり,作品によっては,極めて類似した複数の作品も存在するから,売
買を円滑に進めるためには,作品そのものをできるだけ忠実に表示するこ
とが必要不可欠である。
加えて,単に取引の目的物を特定するというだけでなく,オークション
においては,取引者が取引の目的物となる絵画の真贋を見極め,落札価格
としてふさわしい値段を付ける必要がある。そのためには,文字情報だけ
では不十分である。売買を円滑に進めるためには,取引対象となる作品を
表示することが確実であり,表示の必要性・有用性も認められる。
このように,オークションカタログへの掲載は,オークションによって
贋作が取り引きされることを防止し,絵画を適正な値段によって取引し,
ひいては,取引の対象となる絵画の著作物の価値を高めることはもちろん,
当該著作物だけでなく当該著作者の一連の作品の価値を高めることにもな
り,著作者の地位の向上,美術品取引市場の活性化による美術文化の発展
にも資する。
したがって,本件カタログに,オークションの対象となる絵画を表示す
ることは,著作権法の定める引用の目的として正当と認められる。
イ 本件カタログは,本件オークションの出品作品のみを掲載したカタログ
である。本件カタログには,A4判に絵画1枚から数枚が作者,題号等の
取引に必要な情報とともに掲載されている。本件カタログは,被告の会員
及び当日オークションに臨場する者に限定して配布され,オークションの
参加者及び参加見込者以外に配布されることはなく,オークションカタロ
グであるからそれ自体として流通させる価値も流通の予定もない。
したがって,本件カタログに絵画を表示することは,その方法ないし態
様においても,社会通念上,合理的な範囲内にとどまる。
ウ 美術の著作物に関していえば,著作者は美術作品の所有権を手放してし
まえば,その後,有体物である絵画の取引からは何の利益も得られない。
本件でも,著作者は,絵画の所有権を手放しており,有体物である絵画の
取引から得られる利益はなく,売買に付随して,売買の目的物を特定する
ために絵画が複製されたからといって,著作権者が経済的利益を得る機会
損失になることはない。
他方,オークションは,絵画所有者の所有権の処分として行われるもの
で,オークションカタログへの複製は所有権処分のために不可避である。
美術品の所有者に所有権の自由な処分が認められているにもかかわらず,
オークションカタログへの複製を著作者の許諾にかからしめることによっ
て,著作権者がオークションを妨げることができるとすれば,絵画所有者
は,絵画に投下した資本を回収することができず,著作者ないし著作権者
の意向によって絵画取引を萎縮させることになり,文化の発展に寄与する
どころか,後退させることになる。
したがって,オークションカタログへの複製は,著作権者の利益となる
ことはあっても,経済的損失をもたらすものではなく,所有権の譲渡のた
めの取引に求められる公正な慣行に合致したものということができ,かつ,
その引用の目的上でも,正当な範囲内のものであるということができる。
エ 引用の要件の一つと主張される主従関係についていえば,オークション
カタログにおける主たる部分は,取引対象となる絵画の著作者,題号,サ
イズなどの基本的な情報および落札価格に影響を与えるサインや傷などの
状態,予想落札価格等に関する情報である。これらの情報を視覚的に示し
て取引の目的物を特定し,絵画の価値を判断させるため,オークションカ
タログに絵画を掲載しているが,絵画は文字による情報を補充するにとど
まり,文字による情報を実際に確認できるような文字に取って代わるサイ
ズではない。また,絵画と被告の記載部分とは明瞭に区別することができ
る。
したがって,主従関係と明瞭区別性という要件に照らしても,本件カタ
ログへの複製は引用として認められる。
(原告らの主張)
ア 最高裁判決(最三小判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)
は,「引用とは,紹介,参照,論評その他の目的で自己の著作物中に他人
の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当である
から,右引用にあたるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,
引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明
瞭に区別して認識することができ,かつ,右両著作物の間に前者が主,後
者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示する。
ところが,本件カタログの作品紹介部分は,作品名,題号,レゾネ番号,
サイズ,サイン,エディションナンバー,予想落札価格等が記載されてい
るにすぎないところ,これらの記載は作品の資料的事項にすぎないから著
作物ではない。また,このような本件カタログの体裁からすれば,これら
のカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見
る者に伝えるためのものであり,作品の画像のほかに記載されている文字
的部分は作品の資料的な事項にすぎず,その表現も単に事実のみを順に記
載したものであることからすれば,これらのカタログの主たる部分は作品
の画像であることは明らかである。したがって,上記最高裁判決に照らし,
本件カタログへの作品の複製が適法引用に当たるものでないことは明らか
である。
イ 被告が主張するように,「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範
囲内」といった著作権法32条1項の文言だけを基準にして本件を検討し
てみても,本件カタログについての諸事情(①引用する側が単なる資料的
文言にすぎず著作物ではないこと,②客観的な体裁からして作品の複製部
分が明らかに主であり,資料的文言は従たる存在にすぎないこと,③美術
品の図録に比肩するような上質紙による大型版の書籍に極めて鮮明な美術
品の写真を掲載していること,④公開入札方式のオークションにおいて,
このような詳細かつ鮮明な作品の写真が必須のものでないこと,⑤本件カ
タログが,オークションに参加するか否かにかかわらず大量に頒布される
ものであること,⑥本件カタログへの美術品の複製が著作権者には何らの
利益をもたらすものでないこと,⑦公開入札方式によるオークションを行
う他のオークション業者においては,現に原告らの利用許諾を得て適法に
管理著作物をカタログに利用していること等)に鑑みれば,本件カタログ
への美術作品の複製が「公正な慣行に合致」するものでも,「引用の目的
上正当な範囲内」のものでもないことは明らかである。
(7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
(被告の主張)
平成22年1月施行の改正著作権法により,著作権法47条の2が新設さ
れ,美術の著作物の所有者その他譲渡の権限を有する者が,原作品を譲渡す
る場合,その委託を受けた者は,著作物を複製できることとなった。
著作権法改正前,譲渡の申し出に伴う複製は,「複製権や公衆送信権の侵
害に当たる可能性がある」と指摘されていたことがあるというだけで,明確
に侵害であるとは捉えられていない。むしろ,侵害に該当するとはいえない
からこそ,それを確認する趣旨で,47条の2が新設されたのである。47
条の2が新設された後に適法であることが明確化された行為について,行為
態様が同じでありながら,新設前は違法であるとは考え難い。つまり,取引
対象となる商品情報の提供として行われる画像の複製は,47条の2新設前
においても,実質的に違法な複製とはいえない。
さらに,絵画等の譲渡等は著作権侵害でないにもかかわらず画像掲載に関
する著作権の問題を理由に事実上譲渡等が困難となるのは適当ではない。し
たがって,47条の2新設前においても,画像掲載に対して著作権侵害であ
ると主張して,事実上絵画等の譲渡を困難ならしめることは,絵画の処分権
を有する者に対する,適法な権利行使の名を借りた著作権の濫用である。
以上のとおり,本件訴訟における原告の著作権の行使は,著作権法改正前
にオークションのために行われた複製について,法律が明確でなかったこと
を幸いとして,譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認さ
れた今に至って損害賠償を請求するもので,47条の2が新設された趣旨か
らすると,著作権の濫用に該当する。
(原告らの主張)
著作権法は,その支分権(著作権法21条~28条)として定める行為に
対して著作権者の権利が及ぶことを原則とした上で,様々な理由で著作権が
制限される場合を30条以下に限定列挙する方法で規定している。したがっ
て,列挙された権利制限規定に該当しない支分権該当行為に対する著作権の
権利行使が権利の濫用になるようなことは原則としてない。また,行為時点
において違法な著作権侵害により発生済みの損害賠償請求権の行使がその後
に立法された著作権制限規定によって消滅することもない。しかも,被告と
同様の美術品オークションを行う他のオークション業者においては,従前か
ら原告らの利用許諾を得て適法に管理著作物をそのオークションカタログに
複製しているのであり,本件の権利行使は全く正当なものである。本件請求
に権利の濫用に当たるような事情は全く見当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 原告X1の当事者適格の有無(争点1)について
(1) 原告X1は,パリ大審裁判所の急速審理命令により,フランス民法上の
不分割共同財産であるPの著作権につき管理者(代表者)に指名され,フラ
ンス民法1873条の6第1項に基づき,本件訴訟を提起したものである。
これに対し,被告は,原告X1の当事者適格(法定訴訟担当)を争うもので
ある。
(2) そこで検討するに,渉外的要素を含む法定訴訟担当については,訴訟担
当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には,被担
当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有
無を判断するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告X1の権限は,Pの相続人(再転相続人
を含む。)間において,Pの著作権を不分割共同財産にとどめる旨を合意し
たことに派生するから,実体的な法律関係から派生したものと解される。そ
して,フランス民法の不分割共同財産の制度は,同法1873条の2第1項
(「共同不分割権利者は,そのすべての者が同意する場合には,不分割にと
どまる合意をすることができる。」〔甲6。以下,不分割共同財産の規定に
つき同じ証拠である。〕),同法1873条の4第1項(「不分割の維持を
目的とする合意については,能力又は不分割財産を処分する権限〔があるこ
と〕を必要とする。」)等の規定に照らすと,法律行為に基づくものである
と解される。
法の適用に関する通則法7条は,法律行為の成立及び効力は,当事者が当
該法律行為の当時に選択した地の法によると規定するが,Pの相続人は,フ
ランス民法の不分割共同財産の制度を利用するのであるから,フランス法を
選択する意思であったと解され,フランス法により原告X1の訴訟担当権限
の有無を判断するのが相当である。
そして,フランス民法1873条の6第1項は,(不分割共同財産の)
「管理者は,あるいは民事生活上の行為について,あるいは原告又は被告と
して裁判上で,その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。」と規定し,
原告X1は,不分割共同財産であるPの著作権の管理者(代表者)であるか
ら,訴訟上の当事者として,本件訴訟について当事者適格を有する。
(3) これに対し,被告は,実体準拠法の問題であるとすると,我が国の著作
権法が適用されることになるなどと主張するが,その根拠は定かでないから,
被告の主張は理由がない。
2 著作権移転の有無(争点2)について
(1) 準拠法について
著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,移
転の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支
配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定
すべきである。
まず,著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法につい
て判断するに,法の適用に関する通則法7条により,第一次的には当事者の
選択に従ってその準拠法が定められるべきである。そして,フランス法人で
ある原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契
約については,フランス法を選択する意思であったと解される。
次に,著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法
について判断するに,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物
の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ,法の適用に関する通則法13
条は,その趣旨に基づくものである。著作権は,その権利の内容及び効力が
これを保護する国の法令によって定められ,また,著作物の利用について第
三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用
されるのと同様に,著作権という物権類似の支配関係の変動については,保
護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。このように,著作
権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準
拠法となるが,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ち
に生ずるとされている我が国の法令の下においては,原告協会と会員との間
の著作権移転に関する契約が締結されたことにより,著作権は会員から原告
協会に移転することになる。
さらに,争いはないと解されるが,念のため付言するに,本件は,著作権
侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であり,不法行為によって
生ずる債権の成立及び効力は,法の適用に関する通則法17条により準拠法
が定められるが,「加害行為の結果が発生した地」は我が国であるから,我
が国の法令(民法,著作権法)が適用される(同法施行前は法例11条1項
により「其原因タル事実ノ発生シタル地」を準拠法とするが,その地が我が
国であることに変わりはない。)。
(2) そこで,原告協会と会員との著作権移転に関する契約について検討する。
証拠(枝番号を含めて甲3,15~53〔ただし,甲17の23を除
く。〕,55~88,90~138,140~147,281,282,2
84~288,293,294,305)によれば,原告協会の一般規約1
4条は,「作品は,その著作者,その作品の権利承継者,相続人,受遺者又
は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって,当協会の管理著作物として
承認される。当協会への加入により,この一般規約第1条に規定された作品
及び当該著作者の他のすべての作品(それがいかなる性質のものであるかを
問わない)の諸権利は当協会に移転(apport)する。」と規定し,他方で,
原告協会への入会申込書には,上記の規定に対応した記載があることが認め
られる。
そうすると,原告協会の会員は,原告協会に加入することにより,その著
作権が移転することを同意していたものと認められるから,原告協会に対す
る著作権の移転があったと認められ,その他著作権の移転を否定する事情は
見当たらない。なお, 157Dについて は,原告協会は著作権 の共有持分
(50%)の移転を受けている(甲297,乙9)。
これに対し,被告は,「apport」の意義について疑問を呈するが,例えば
著作権管理団体SACEMでも同様に「apport」の用語が使用されているこ
と(甲299)などに照らすと,「apport」を移転の意義に解することに特
段の支障はないというべきである。
(3) また,被告は,フランス破毀院の判決を引用して,美術家が集中管理団
体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託し
たとしても,当然に,その死後において,原告協会は当然に死亡した著作権
者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない旨主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,本件は,不法行為に基づく損害賠償請
求であり,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については,我が国
の法令(民法,著作権法)が適用される。そして,我が国の法令では,著作
権侵害があれば不法行為が成立するのであり,著作権の移転後に譲渡人が死
亡したとしても,不法行為の成否が左右されることはないから,被告の主張
は理由がない。
この点につき,原告は,時機に後れた攻撃防御方法である旨主張するが,
上記のとおり判断できるので,却下することはしない。
(4) さらに,被告は,著作者ではない会員の相続関係等が不明であるなどと
主張する。
しかしながら,証拠(甲305)及び弁論の全趣旨によれば,原告協会は,
加入の諾否に際し,加入希望者が権利承継者である場合には,著作者の芸術
活動を示す資料に加え,相続又は受遺による権利の帰属を証明する公証人証
書(一定の証人の証言に基づき公証人が発行する証書)等の提出を求めてい
ることが認められ,原告協会における加入希望者の審査手続に特段の不備は
ないことに照らすと,被告の主張は理由がない(作家が死亡しているのに相
続 人 の 入 会 届 が 提 出 さ れ て い な い 旨 の 主 張 は 上 記 (3) の と お り 理 由 が な
い。)。
この点につき,被告は,27 Iの相続関係の証拠として,乙41号証を
提出するが,これはIの追及権(ベルヌ条約14条の3に規定する美術の著
作物の原作品等について著作者が転売ごとに売買の利益にあずかることがで
きる制度)に関する文献(フランスにおける立法経緯)にすぎないから,こ
れを採用することはできない。
また,被告は,原告協会所持に係る公証人証書等について,文書提出命令
を申し立てるが,その必要性があるとは認められないから却下する。なお,
当該申立ては,当裁判所が第9回弁論準備手続期日(平成25年5月29日)
において次回期日での弁論準備手続の終結を予告した後にされたものであっ
て,時機に後れたものといわれてもやむを得ないものである。
(5) 以上のとおり,原告協会の会員から原告協会に対する著作権の移転が認
められる。
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)について
(1) 被告の複製権侵害の態様について
ア 複製権侵害の態様の判断基準について
本件において,被告は,原告らが主張する本件カタログにおける会員作
品及びP作品の複製については争っていないものと認められる。そして,
複製権侵害が認められる限り,美術作品の売買を取り扱う被告には,複製
権侵害についての故意又は過失が認められる。
被告が争うのは複製の態様であるが,後記127AAの本件カタログ31
8号の作品を除けば,複製の態様は,複製権侵害の程度を示すものではあ
っても,違法性の有無の判断に関わるものではなく,損害額の算定と結び
付くものであるから,ここでは,複製の態様と損害論を併せて検討する。
そして,当裁判所は,後記のとおり,著作権法114条3項の損害額を
算定するについては,SPDAの使用料規程に基づくのが相当であると判
断するものであり,上記のとおり,複製の態様の判断が損害額の算定と結
び付くものであることに鑑みれば,複製の態様の認定においても,SPD
Aの基準に基づいて複製の態様を認定するのが相当である。
被告は,この点について,SPDAの色及びサイズの判断基準の内容に
ついて,原告らの主張を争うので,以下,まず,色及びサイズの判断基準
について検討する。
(ア) 色について
被告は,損害額算定の前提となる複製の態様(色)について,「モノ
クロ」(単色)かカラーによって区別すべきであるとし,その根拠とし
て,DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は,モノクロ(単色)
かカラーかによって区別していること(乙15)を挙げる。すなわち,
被告は,DNPアートが記載するSPDAの使用料規程がSPDAの使
用料規程であると主張するものである。
しかし,SPDAが平成15年1月6日に作成したSPDAの使用料
規程(甲9)においては,白黒かカラーかによって区別されているのであ
り,その後,この判断基準が変更されたことを示すに足りる証拠はない。
SPDAの基準を転載したとみられる,DNPアートの記載には,誤
記又は誤解の可能性があるのであって,当該記載をもってSPDAの基
準であると認めるのは相当でない。
そうすると,損害額の検討の前提となる複製の態様の検討に当たって
は,白黒写真かカラー写真かで区別すべきであるから,カラー写真につ
いてはモノクロ写真か否かを検討する必要はないことになる。
もっとも,被告が別紙被告認否一覧表において,bw(白黒)写真であ
ると主張する写真については,その趣旨が,カラーのモノクロ写真であ
るがbw写真として取り扱われるべきでものとするものか,それとも,真
実に白黒写真であると主張するものか,必ずしも明らかではない。そこ
で,以下の個々の作家の検討においては,被告がbw写真であると主張し
ているものについては,カラー写真(モノクロ写真を含む)ではなく,
白黒写真として主張している可能性もあるものとして検討する(そのた
め,以下では,便宜上,被告がbw写真であると主張しているものは,白
黒写真であると主張しているものとして掲記する。)。
(イ) サイズについて
被告は,SPDAの使用料規程は,著作物ではなく「著作物を複製し
た写真の大きさ」を基準とするかは明確でないとし,使用料は著作物の
使用に対する料金であるから,著作物とは無関係な写真の余白部分や額
縁を含めたサイズではなく,あくまで著作物を基準としたサイズとすべ
きであると主張する。
しかし,美術の著作物を書籍に複製する場合には,通常は作品を撮影
した写真を使用するものであり,その場合,背景や額縁の大きさ等は写
真の撮影態様によって様々であるから,画一的な判断基準として写真の
大きさが基準とされているとみるのが相当であり,SPDAの使用規程
においても写真の大きさが基準とされていると判断するのが相当である。
すなわち,著作物自体のサイズではなく,写真の余白部分や写真に撮影
された背景,額縁を含めた写真のサイズとして判断するのが相当である。
なお,後記のとおり,127AAの本件カタログ318号の作品につい
ての著作権侵害の有無を判断するに当たっては,著作権法施行規則4条
の2第1項1号の「著作物の表示の大きさ」の解釈として著作物自体の
大きさを検討するのが相当であるが,ここでの問題は,著作権侵害の有
無の問題ではなく,SPDAの使用料規程における使用料額算定の基礎
となる写真のサイズの問題であるから,両者は観点を異にし,異なる判
断基準により判断されるべきものである。
(ウ) 127AAの本件カタログ318号の作品について
被告は,127AAの本件カタログ318号の作品について,著作権法
47条の2の適用を主張するので,別途検討する。
イ 会員作品について
(ア) 12 ACについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲151)によれば,本件カタログ271号は,ACの作品の写真を
カラー印刷の方法(白黒以外の色を使用する印刷の方法。以下同じ。)
により複製していることが認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(イ) 17 ADについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲152~154,155の1及び2,甲156~159)によれ
ば,本件 カタログ 164 号,2 46号 , 258号 (ロット 104 5
番),2 61号( ロット 120 9・1 2 10・1 213・ 121 4
番),273号(ロット1015・1017番),275号(ロット
1086番),281号(ロット1318・1319番),289号
(ロット962・963番)は,ADの作品の写真をカラー印刷の方法
により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ウ) 27 Iについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲161)によれば,本件カタログ226Ⅰ号(ロット425番)
は,Iの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認めら
れる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(エ) 28 AEについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲162~165)によれば,本件カタログ183号(ロット44
番の写真のうち最も左に位置する写真1枚),206号(ロット20
8番の写真のうち下に位置する写真),213号(ロット562番の
写真のうち最も右に位置する写真),215号(ロット876番の写
真のうち最も左上に位置する写真)は,AEの作品の写真をカラー印刷
の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数について,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のと
おりであることに当事者間に争いがない。
(オ) 40 AFについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲166,167)によれば,本件カタログ258号(写真2枚),
273号は,AFの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したもの
と認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(カ) 59 Pについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲168)によれば,本件カタログ263号は,Pの作品の写真を
カラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(キ) 65 AGについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲169)によれば,本件カタログ186号は,AGの作品の写真を
カラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ク) 66 AHについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲170,171)によれば,本件カタログ231Ⅰ号,248号
は,AHの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認めら
れる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ケ) 69 AIについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲173,176~178,179の1及び2,甲180,181
の1,甲182,183,184の1,甲185の1及び2,甲18
6の2,甲187~189,191)によれば,本件カタログ183
号(ロット387番),220号(ロット19番),229号(ロッ
ト31番),242号(ロット369・370番),246号(ロッ
ト201・202・698番),261号(ロット837番),26
3号(ロット422番),265号(ロット99番),271号(ロ
ット69 番),2 78号 (ロッ ト18 番 ),28 1号(ロ ット4 0
5・407番),283号(ロット635番),289号(ロット1
62番),292号(ロット250番),297号(ロット557・
558番),300号(ロット17番)は,AIの作品の写真をカラー
印刷の方法により複製したものと認められる。
b 枚数について
また,被告は,本件カタログ206号(ロット43番)について,
美術の著作物の有形的再製とはいえない旨を主張し,複製サイズ1/
8頁以下の大きさのカラー写真の複製枚数を争う。これは,45頁の
上4枚の写真(甲174の2)では,作品を並べた光景が写真撮影さ
れたものにすぎない旨を主張するものと解される。しかしながら,証
拠(甲174の2)によれば,上記4枚の写真はAIの作品を認識でき
るものと認められるから,被告の主張は理由がない。
そうすると,本件カタログ206号(ロット43番)のうち,AIの
作品を1/8頁大以下の大きさによりカラー印刷の方法で複製したも
のは25枚であると認められる(44頁〔甲174の1〕の左上の写
真を除く21枚と45頁の上4枚の写真)。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製サイズ及
び色並びに上記a及びb以外の作品の複製サイズ,色及び枚数につい
て,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに
当事者間に争いがない。
(コ) 73 AJについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲192)によれば,本件カタログ231Ⅰ号(ロット299・3
00番)は,AJの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したもの
と認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(サ) 78 AKについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲194~196)によれば,本件カタログ217号,251Ⅱ号,
265号は,AKの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したもの
と認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(シ) 86 Sについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲198)によれば,本件カタログ221号(ロット463番)は,
Sの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ス) 96 ALについて
a サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/8頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,外枠を含めた写真そのもののサ
イズではなく,写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとするも
のと解されるが,前記のとおり,原告協会の損害額を算定するについ
ては,SPDAの基準に基づくのが適切であるから,外枠を含めた写
真そのもののサイズで判断するのが相当である。
上記の基準により判断するに,証拠(甲207)によれば,本件カ
タログ278号は,ALの作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより
複製したものと認められる。
b 上記作品の複製の色及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(セ) 103 AMについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲208)によれば,本件カタログ273号は,AMの作品の写真を
カラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ソ) 118 ANについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲209)によれば,本件カタログ231Ⅰ号は,ANの作品の写真
をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数については,別紙原告協会主張SP
DA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(タ) 120 Wについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲210)によれば,本件カタログ239号は,Wの作品その写真
をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(チ) 123 Zについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲211,213,214の1及び2)によれば,本件カタログ2
17号(ロット846番),258号(ロット1063番),268
号(ロット468~470番)は,Zの作品の写真をカラー印刷の方
法により複製したものと認められる。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/4頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,外枠を含めた写真そのもののサ
イズではなく,写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨
と解されるが,外枠を含めた写真そのもののサイズを基準とすべきで
あることは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲212)によれば,本件カ
タログ239号(ロット708番)は,Zの作品の写真を1/2頁大
以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の色及び枚数並
びに上記以外の作品の複製サイズ,色及び枚数については,別紙原告
協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争
いがない。
(ツ) 142 AOについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲217,218の1及び2,甲219,220,222,224,
225の1及び2,甲226の1,甲227~230,231の1及
び2,甲232の1及び2,233,234)によれば,本件カタロ
グ217号(ロット812~814番),221号(ロット595~
597・599番),223号(ロット324番),235Ⅱ&Ⅲ号
(ロット931~935番),242号(ロット952番),258
号(ロット1231番),261号(ロット1134~1140番),
263号(ロット834・835番),265号(ロット743~7
45番),269号(ロット950・951番),275号(ロット
1077番),278号(ロット322番の下2つの写真),281
号(ロット1330~1332・1496番),283号(ロット1
041・1042・1044・1045番),289号(ロット10
45・1046番),307号(ロット274番)は,AOの作品の写
真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(テ) 164 APについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲235,236)によれば,本件カタログ226Ⅰ号,273号
は,APの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認めら
れる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ト) 168 AQについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲238,239,244~246)によれば,本件カタログ21
5号(ロット966番),221号(ロット622番の右の写真),
265号(ロット908番),275号(ロット1292番),28
1号(1405番)は,AQの作品の写真をカラー印刷の方法により複
製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ナ) 169 ARについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲248)によれば,本件カタログ283号(ロット1012番)
は,ARの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認めら
れる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,
色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載の
とおりであることに当事者間に争いがない。
(ニ) 170 ASについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲250)によれば,本件カタログ300号(ロット335番24
0頁の写真)は,ASの写真はカラー印刷の方法により複製したものと
認められる。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/4頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,背景を含めた写真そのもののサ
イズではなく,写真中の作品(ブロンズ像及び木製台座)のサイズを
基準とすべきであるとの趣旨と解されるが,背景を含めた写真そのも
ののサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲250)によれば,本件カ
タログ300号(ロット335番240頁の写真)は,ASの作品の写
真を3/4頁大以下の大きさでカラー印刷の方法により複製したもの
と認められる。
c 上記作品の枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,色及び枚数に
ついては,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりである
ことに当事者間に争いがない。
(ヌ) 171 ATについて
a サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/4頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,背景や写真の外枠を含めた写真
そのもののサイズではなく,写真中の複数の作品のサイズを合計した
ものを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが,背景や写真の外枠
を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおり
である。
上記の基準により判断するに,証拠(甲251)によれば,本件カ
タログ268号は,ATの作品の写真を1/2頁大以下の大きさにより
複製したものと認められる。
b 上記作品の色及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ,色及び
枚数については,別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおり
であることに当事者間に争いがない。
(ネ) その他の作家の作品について
その他の作家(127AAについてはカタログ318号以外の作品)の
作品の複製サイズ,色及び枚数については,別紙原告協会主張SPDA
基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
ウ P作品について
(ア) 平成14年(2002年)から平成18年(2006年)までの本
件カタログについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲252,254)によれば,本件カタログ122号(ロット52
7番),206号(ロット230番)は,P作品の写真をカラー印刷
の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは1/8頁大以下の大きさであ
ると主張するが,証拠(甲253)によれば,本件カタログ164号
(ロット303番)は,P作品の写真を1/4頁大以下の大きさによ
り複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製の色及び
枚数並びにその他のP作品の複製サイズ,色及び枚数については,別
紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者
間に争いがない。
(イ) 平成19年(2007年)の本件カタログについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲255の2,甲256の1及び4,甲258の1~4,甲259
の1及び2,甲261の1~5,甲262の1及び2)によれば,本
件カタロ グ213 号(ロ ット6 39番 ) ,215 号(ロッ ト10 0
7・1151番),220号(ロット257~260番),221号
(ロット617・620番),229号(ロット276・277・2
79~281番),231Ⅰ号(ロット285~287・289番)
は,P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められ
る。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/8頁大以下又は1/4
頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は,おおむね背
景や外枠を含めた写真そのもののサイズではなく,写真中の作品のサ
イズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが,背景や外枠を含め
た写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲255の1及び2,甲25
6の2及び3,甲257,260,263の1及び2)によれば,本
件カタログ213号(ロット636・639番),215号(ロット
1012番の左の写真・1013番),217号(ロット番号858
番),226号Ⅱ&Ⅲ(ロット1378番),235号Ⅱ&Ⅲ(ロッ
ト995~997番)は,順にP作品の写真を1/4頁大以下の大き
さ,1/2頁大以下の大きさ,1/4頁大以下の大きさ,1/2頁大
以下の大きさ,1/2頁大以下の大きさ,1/4頁大以下の大きさ,
1/4頁大以下の大きさ,1/4頁大以下の大きさ,1/4頁大以下
の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製の色及び
枚数並びにその他のP作品の複製サイズ,色及び枚数については,別
紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者
間に争いがない(ただし,本件カタログ213号〔ロット639番〕
は枚数のみが当事者間に争いがない。)。
(ウ) 平成20年(2008年)の本件カタログについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲266の1及び2,甲267の2~5,甲268)によれば,本
件カタロ グ246 号(ロ ット1 096 ・ 1097 番),2 51Ⅱ 号
(ロット381・386~388番),258号(ロット1028番)
は,P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められ
る。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/8頁大以下又は1/4
頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は,おおむね背
景や外枠を含めた写真そのもののサイズではなく,写真中の作品のサ
イズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが,背景や外枠を含め
た写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲264,265の1及び2,
甲267の1)によれば,本件カタログ239号(ロット750番),
242号(ロット1001~1003番),251Ⅱ号(ロット番号
379・380番)は,順にP作品の写真を1/2頁大以下の大きさ,
1/4頁大以下の大きさ,1/4頁大以下の大きさ,1/4頁大以下
の大きさ,1/4頁大以下の大きさ,1/4頁大以下の大きさにより
複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製の色及び
枚数並びにその他のP作品の複製サイズ,色及び枚数については,別
紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者
間に争いがない。
(エ) 平成21年(2009年)の本件カタログについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲270,271の1及び2,甲273の1及び3,甲274の1
~4,甲275の1及び2)によれば,本件カタログ269号(ロッ
ト979・980番),278号(ロット326・331番),28
3号(ロット1027・1233番),286号(ロット318・3
20~3 22番) ,28 9号( ロット 1 082・ 1084 ・10 8
5・1087番)は,P作品の写真をカラー印刷の方法により複製し
たものと認められる。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/8頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,おおむね背景や額縁を含めた写
真そのもののサイズではなく,写真中の作品のサイズを基準とすべき
であるとの趣旨と解されるが,背景や額縁を含めた写真全体のサイズ
を基準とすべきであることは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲269,271の3及び4,
甲272,273の2,甲274の1,甲275の3)によれば,本
件カタロ グ265 号(ロ ット7 71番 ) ,278 号(ロッ ト33 4
番・335番の左の写真),281号(ロット番号1340番),2
83号(ロット番号1030番),286号(ロット番号319番の
右の写真),289号(ロット番号1089番)は,いずれもP作品
の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製の色及び
枚数並びにその他のP作品の複製サイズ,色及び枚数については,別
紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者
間に争いがない。
(オ) 平成22年(2010年)の本件カタログについて
a 色について
被告は,以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが,証拠
(甲277,279の1~4)によれば,本件カタログ297号(ロ
ット770番),300号(ロット300・301・303・306
番)は,P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認め
られる。
b サイズについて
被告は,以下の作品の写真のサイズは,1/8頁大以下の大きさで
あると主張する。その主張の趣旨は,外枠を含めた写真そのもののサ
イズではなく,写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨
と解されるが,外枠を含めた写真全体のサイズを基準とすべきである
ことは前記のとおりである。
上記の基準により判断するに,証拠(甲277,278)によれば,
本件カタログ297号(ロット770番),298号(ロット648
番)は,P作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したもの
と認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数,上記bの作品の複製の色及び
枚数並びにその他のP作品の複製サイズ,色及び枚数については,別
紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者
間に争いがない(本件カタログ297号〔ロット770番〕について
は,枚数のみが争いがない。)。
ウ 小括
以上のとおり,会員作品(127AAについては本件カタログ318号以
外の作品)及びP作品については,いずれも複製権侵害が認められ,その
態様も別紙原告協会主張SPDA基準及び別紙原告X1主張SPDA基準
記載のとおりであると認められる。
エ 127AAの本件カタログ318号の作品について
被告は,本件カタログ318号に係る複製について,著作権法47条
の2の適用がある旨主張する。
そこで検討するに,被告は,本件オークションを主催する者であるか
ら,著作権法47条の2の施行日である平成22年1月1日以降,同条
所定の複製を行うことができたものと認められる。また,同条施行令7
条の2第1項第1号及び同施行規則4条の2第1項第1号により,著作
権法47条の2が適用されるためには,当該複製により作成される複製
物に係る著作物の表示の大きさが50平方cm以下であることが必要であ
る。
弁論の全趣旨によれば,本件カタログ318号は平成22年後半に発
行されたものであることが認められるから,同号に係る複製は著作権法
47条の2の適用の対象であると認められる。そして,証拠(甲216,
乙19)によれば,同号に係る複製は,額縁部分を除く作品部分につい
て,縦約6cm×横8.3cmの写真を印刷したものであることが認められ
るから,その表示の大きさは約49.8平方cmである。
以上によれば,本件カタログ318号に係る複製は,著作権法47条
の2の適用があると認められるから,複製権侵害に当たらない。
(2) 原告らの損害額について
ア 原告らは,著作権法114条3項による使用料相当損害額として,主位
的に,JASPARの使用料規程に基づいて算定すべきである旨主張する。
しかしながら,JASPARの使用料規程は,本件の複製権侵害行為の後
の平成24年に定められたものであって,本件においては,JASPAR
の使用料規程を算定に使用することが相当であるとはいい難いし,その他
相当であることを肯定できる事情は見当たらないから,原告らの主張は理
由がない。
イ 原告らは,著作権法114条3項に基づいて損害賠償を請求するもので
あり,被告の複製権侵害について受けるべき金銭の額としては,原告らが
SPDAに対して著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していた
ことに照らすと,その算定においては,SPDAの使用料規程に従うのが
相当である。そして,弁論の全趣旨によれば,本件カタログは,SPDA
の使用料規程3(1)イの単行本(5000部以下)に当たるものと認めら
れるから,当該規定に基づいて,原告らの使用料相当損害額を算定するの
が相当である。また,証拠(甲10)によれば,前件和解において,「被
告が前項の確約に違反して,第3項又は第4項の清算処理の完了前に原告
が著作権を管理する美術家の美術作品を50平方センチメートルを超える
表示の大きさで本件カタログに複製したときは,被告は,原告に対し,当
該複製利用につき,SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の
違約金を加算した損害金を直ちに支払う。」(6項)と定められているか
ら,前件和解が成立した平成22年9月21日以降,本件カタログに会員
作品を50平方cmを超える表示の大きさで複製したときは,被告は,原告
協会に対し,SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の違約金
を加算した損害金を支払う義務がある(加算の対象は,本件カタログ31
5号〔16 AU,37 AV〕,318号〔51 N,142 AO〕,32
1号〔123 Z〕に係る複製である。)。もっとも,157Dについて
は,原告協会は50%の共有持分を有するにすぎないから,その使用料相
当損害額は半額となる。
以上に照らし,原告協会の使用料相当損害額を算定すると,127AAの
本件カタログ318号に係る複製及び157Dに係る複製を除いて,別紙
原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりとなる。そして,127AA
に係る損害額は178万6500円,157Dに係る損害額は半額の21
万4750円となるから,別紙原告協会認定損害額一覧表記載のとおり,
原告協会の使用料相当損害額は,合計3724万4350円となる。また,
原告X1の使用料相当損害額を算定すると,別紙原告X1主張SPDA基
準一覧表記載のとおりとなるから,合計401万7000円となる。
そして,被告らが負担すべき弁護士費用相当額については,本件の内容,
経過等に照らすと,原告協会につき370万円,原告X1につき40万円
を認めるのが相当である。
したがって,原告協会の損害額は合計4094万4350円であり,原
告X1の損害額は合計441万7000円である。
ウ 原告らの主張について
原告らは,自らが入手していない本件カタログについても同様に複製権
侵害があったことを前提として,入手した本件カタログに係る損害額から
入手していない本件カタログを含めた本件カタログ全体の損害額を推認す
ることができる旨を主張する。しかしながら,入手していない本件カタロ
グについて,その内容,態様等は明らかでなく,複製権侵害があったこと
は立証されていないのであるから,原告らの主張は理由がない。
また,原告協会は,SPDAの使用料規程は,SPDAに管理委託され
ている権利を許諾する対価を定めたものであり,当該作品に権利を有する
著作権者全員に対して利用者が支払う使用料の合計額を定めるようなもの
ではないとして,共有持分であってもSPDAの使用料規程に定める全額
が使用料相当損害額である旨主張する。しかしながら,SPDAの使用料
規程には,共有持分であってもSPDAの使用料規程に定める全額が対価
である旨を定めた規定はないし,そのように解する根拠もないのであるか
ら,共有持分の場合にはその割合に応じた額を使用料相当損害額と認める
のが相当である。
エ 被告の主張について
被告は,SPDAの使用料規程で計算した金額には,当然,原告協会と
の相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されている
のであって,著作権者であると主張する原告協会に支払われる額ではない
などと主張する。しかしながら,著作権侵害に係る原告協会の使用料相当
の損害賠償の額と原告協会とSPDAの内部関係における著作権の管理手
数料等とは本来無関係であるから,被告の主張は理由がない。
(3) まとめ
以上のとおり,原告らの請求は,不法行為に基づく請求として,被告に対
し,原告協会につき4094万4350円及びこれに対する最終の侵害行為
の日である本件カタログ321号の発行の後である平成22年12月4日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,原告X1つき4
41万7000円及びこれに対する最終の侵害行為の日である本件カタログ
305号の発行の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4 利用許諾の有無(争点4)について
被告は,AB作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受け,AB
作品を本件カタログに複製していた旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲17の7,甲289の1及び2,甲290の1
及び2,甲291,乙13)及び弁論の全趣旨によれば,原告協会は,平成2
1年12月まで,AB作品の著作権管理を行っていたこと,ギャルリーためなが
は,平成22年1月,ABから我が国における著作権管理の委託を受けたこと,
被告は,ギャルリーためながに対し,本件カタログに係るAB作品の利用につい
て許諾を求めたことはなく,ギャルリーためながは,被告に対し,本件カタロ
グに係るAB作品の利用を許諾したことがないこと,現在,原告協会は,再びAB
作品の著作権管理を行っていることが認められる。
以上に照らすと,被告が本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を受
けたとは認められないし,その他これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の主張は理由がない。
5 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)
について
被告は,オークションにおける公の展示において,観覧者のために著作物の
紹介をすることを目的として,小冊子である本件カタログに著作物を掲載した
のであり,著作権47条により,その複製は適法である旨主張する。
そこで検討するに,著作権法47条は,「美術の著作物又は写真の著作物の
原作品により,第二十五条に規定する権利を害することなく,これらの著作物
を公に展示する者は,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をするこ
とを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と規定す
る。このように「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介
をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば,観覧する
者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは,「小冊子」に当たら
ないと解するのが相当である。
しかしながら,本件カタログは,本件オークションや下見会の参加にかかわ
らず,被告の会員に配布されるものであるから(前提事実(3)及び(4)),著作
権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められない。
したがって,その余について判断するまでもなく,被告の主張は理由がない。
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条
1項)に当たるか(争点6)について
被告は,本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権
法32条1項)に当たる旨主張するが,その主張の趣旨は,本件カタログにお
ける美術作品の作者,題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり,美
術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。
そこで検討するに,著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用し
て利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致
するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内
で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引
用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報
道,批評,研究等の引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合
理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致
することが必要である。
本件カタログにおいて美術作品を複製する目的は,本件オークションにおけ
る売買であることは明らかである。他方,本件カタログには,美術作品の写真
に合わせて,ロット番号,作家名,作品名,予想落札価格,作品の情報等が掲
載されるが(乙17),実際の本件カタログ(枝番号を含めて甲148~27
9,乙19)をみても,写真の大きさの方が上記情報等の記載の大きさを上回
るものが多く,上記の情報等に眼目が置かれているとは解し難い。また,本件
カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われて
いることなどに照らすと,上記の情報等と合わせて,美術作品の写真を掲載す
る必然性は見出せない。
そうすると,本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や
態様が,本件オークションにおける売買という目的との関係で,社会通念に照
らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また,公正な慣行に合
致することを肯定できる事情も認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)について
被告は,本件訴訟における原告の著作権の行使は,著作権法改正前にオーク
ションのために行われた複製について,法律が明確でなかったことを幸いとし
て,譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至っ
て損害賠償を請求するもので,47条の2が新設された趣旨からすると,著作
権の濫用に該当するなどと主張する。
しかしながら,著作権法47条の2は,美術の著作物又は写真の著作物の原
作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において,原作品等を譲渡
又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者
は,その申出の用に供するため,一定の措置を講じることを条件に,当該著作
物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように,著作権法
47条の2は,一定の措置を講じることを条件に,複製権又は公衆送信権を制
限するものであるから,そのような措置が講じられなければ,複製権又は公衆
送信権の侵害であることに変わりはないし,同規定が遡及適用されるものでも
ない(平成21年法律第53号附則1条)。
そうすると,著作権法47条の2の新設により,同規定の施行前にオークシ
ョンのために行われた複製について損害賠償を請求することや,同規定の施行
後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使することが
権利濫用であるとはいい難いし,その他権利濫用であることを肯定できる事情
は認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。
8 結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大 須 賀 滋
裁判官 小 川 雅 敏
裁判官 西 村 康 夫
最新の判決一覧に戻る