平成23(ワ)12716損害賠償等請求事件
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裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成25年12月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社KBC 原告ネオケミア株式会社
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法令 |
特許権
特許法65条1項3回 特許法102条3項2回 特許法102条1項2回 特許法102条2項2回
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キーワード |
特許権21回 実施18回 侵害12回 損害賠償6回 優先権1回 分割1回 抵触1回 ライセンス1回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,80万3800円及びこれに対する平成23年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを60分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,被告の製造販売する製品が原告の特許権を侵害するとして,特許
法65条1項の補償金及び特許登録後の損害賠償,並びに訴状送達による請求の日の
翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案である(一部請求)。 |
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判決文
平成25年12月19日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成23年(ワ)第12716号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成25年10月24日
判 決
原 告 ネオケミア株式会社
訴訟代理人弁護士 森本 宏
同 児玉 実史
同 生沼 寿彦
同 飯島 歩
同 中森 亘
同 敷地 健康
同 米倉 裕樹
同 荒川 雄二郎
同 吉田 広明
同 木曽 裕
同 岡田 徹
訴訟代理人弁理士 伊藤 晃
補佐人弁理士 新田 昌宏
被 告 株式会社KBC
(旧商号株式会社カルゥ)
訴訟代理人弁護士 村岡 友一
同 原田 裕康
主 文
1 被告は,原告に対し,80万3800円及びこれに対する平成23年10月19
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを60分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成23年10月19日から
支払済みまで年5分に割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告の製造販売する製品が原告の特許権を侵害するとして,特許
法65条1項の補償金及び特許登録後の損害賠償,並びに訴状送達による請求の日の
翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案である(一部請求)。
1 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,医薬品,医薬部外品,化粧品,健康食品,医療用具,美容機器,健
康器具の開発,製造,販売及びこれらのコンサルティング業務等を目的とする
株式会社である。
イ 被告は,健康器具,健康食品,健康医療品の卸,小売及び輸出入業等を目的
とする株式会社である。被告は,本件訴訟提起当時はその商号を「株式会社カ
ルゥ」としていたが,平成24年11月27日に,現在の商号に変更し,更に,
平成25年3月3日,本店所在地を,大阪市西区北堀江一丁目2番19号から,
肩書地に移転した。
(2) 原告の特許権(甲1,2)
原告は,次の特許(以下請求項1の特許を「本件特許1」,同2を「本件特許
2」と,同3を「本件特許3」といい,「本件特許」と総称する。本件特許にか
かる発明を「本件特許発明」と総称し,個別には「本件特許発明1」等という。
本件特許についての明細書及び図面を「本件明細書」といい,登録に係る権利を
「本件特許権」と総称する。)の特許権者である。
特許番号 特許第4589432号
出願日 平成20年11月21日
原出願 特願2002-578980の分割
原出願日 平成14年4月5日
優先権主張番号 特願2001-108816
優先日 平成13年4月6日
登録日 平成22年9月17日
発明の名称 二酸化炭素外用剤調整用組成物
特許請求の範囲(段落冒頭のAなどの記号は,争いのない構成要件分説のため
に付した符号であり,原文には含まれない。以下,各構成要件を「構成要件A」
などという。)
【請求項1】
A 水溶性酸,増粘剤として加工澱粉,デキストリン,馬鈴薯澱粉,トウモロコ
シ澱粉,キサンタンガム及びヒドロキシプロピルセルロースから選択される1
種又は2種以上,この増粘剤とは別の物質である水溶性分散剤として乳糖,白
糖,D-マンニトール,及び尿素から選択される1種又は2種以上を必須成分
とし,前記増粘剤が前記水溶性酸及び前記水溶性分散剤と混合されている粒状
物と,
B 炭酸塩,水,増粘剤を必須成分とし,使用時に前記粒状物と混合する粘性組
成物とを含み,
C 前記粒状物全体に対して前記水溶性酸が2~50重量パーセント,前記増粘
剤が10~40重量パーセント,前記水溶性分散剤が30~85重量パーセン
トであり,
D 前記粘性組成物全体に対して炭酸塩が0.1~10重量パーセント,水が7
0~97.5重量パーセント,前記粘性組成物の増粘剤が0.5~20重量パ
ーセントであり,
E 前記粒状物と粘性組成物との重量比が1:10~40である
F ことを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物。
【請求項2】
G 粘性組成物の増粘剤がアルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコ
ールエステル,カルボキシメチルセルロースナトリウム,カルボキシメチルス
ターチナトリウム及びキサンタンガムから選択される1種又は2種以上であ
る,
H 請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物。
【請求項3】
I 水溶性酸が,シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピ
メリン酸,フマル酸,マレイン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,
グルタミン酸,アスパラギン酸,グリコール酸,リンゴ酸,酒石酸,イタ酒石
酸,クエン酸,イソクエン酸,乳酸,ヒドロキシアクリル酸,α-オキシ酪酸,
グリセリン酸,タルトロン酸,サリチル酸,没食子酸,トロパ酸,アスコルビ
ン酸,グルコン酸,リン酸,リン酸二水素カリウム,リン酸二水素ナトリウム,
亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウム,ピロ亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸カリ
ウム,酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム,酸性ヘキサメタリン酸カリウム,酸
性ピロリン酸ナトリウム,酸性ピロリン酸カリウム,スルファミン酸から選ば
れる1種又は2種以上である
J 請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物。
(3) 本件特許発明の作用効果
本件明細書上,本件特許発明の作用効果として,調製が短時間で容易に行え,
衣服等を汚すことがなく,より強い美容及び医療効果が,より短時間で得られる
二酸化炭素外用剤を調整することができることとされている。
(4) 被告製品(弁論の全趣旨)
被告は,業として,別紙被告製品目録記載イ号からリ号の製品(以下総称して
「被告製品」,個別製品をいうときは「被告製品イ」などという。
)を製造,販売
し,又はしていた。
被告製品は,いずれも,それぞれ別々に密閉包装された「1剤:顆粒」又は「1
剤:パウダー」と,「2剤:ジェル」より構成されるキット製品であり,顆粒と
ゲル状のものを混合して炭酸ガスを発生させたものを皮膚等に塗布して使用す
るものである。
(5) 訴訟進行の経緯(当裁判所に顕著)
ア 原告は,平成23年10月11日,本件訴訟を提起したが,この時点では,
対象とする被告製品を,被告製品イ,ロ,ハ,ニ及びホとしていた。
本件は弁論準備手続に付され,被告は,平成24年1月20日付け準備書面
において,被告製品イ,ロ,ハ,ニ及びホが,本件特許発明の技術的範囲に属
しないと主張し,その後の原告の主張立証にも一貫して争うと主張したが,被
告において具体的な反証をすることはなかった。
イ 平成25年3月26日の弁論準備手続期日において,次回期日に被告は,そ
の当時の被告製品イ,ロ,ハ,ニ及びホの売上額,利益額を明らかにする旨陳
述し,続く同年4月23日の同期日において,これを明らかにした(被告製品
ハについては,平成22年3月15日以降の販売がないとした。。
)
ウ 原告は,アの約1年9か月後である平成25年7月9日,同月1日付け訴え
変更申立書を陳述し,被告製品に被告製品ヘないしヌを追加する旨の申立てを
した。しかし,これらの製品について,従前から侵害品であると主張していた
被告製品イないしホと同様の立証をすることはしなかった。
エ 当裁判所は,平成25年9月12日の本件弁論準備手続期日において,次回
に弁論を終結する旨予告したところ,原告は,その口頭弁論終結が予定された
同年10月24日の期日において,原告の被った損害につき,訴状提出段階に
おける被告の利益率の主張である20パーセントを49パーセントに変更し,
また同じく実施料率を5パーセントから10パーセントに変更したが,その根
拠としては,当事者を異にする同種の二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物に
ついての別件の裁判の認定を引用するのみであった。
2 争点
(1) 各被告製品が,本件特許の技術的範囲に属するか(以下,製品ごとに「争点(1)
イ」などという。)
(2) 原告の被った損害額等
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)イ(被告製品イが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
(1) 被告製品イの構成
被告製品イの包装(甲3)及び試験報告書(甲4)によれば,被告製品イの構
成は次のとおりである。
a 乳糖,バレイショデンプン,コハク酸,デキストリン,及びステアリン酸マ
グネシウムとからなる「1剤:顆粒」と,
b 水,BG(1,3-ブチレングリコール),ペンチレングリコール,セルロース
ガム,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エ
キス,カフェイン,褐藻エキス,緑藻エキス及びフェノキシエタノールとから
なる「2剤:ジェル」とを含み,
c 「1剤:顆粒」全体に対して,乳糖が58.1重量パーセント,コハク酸が
13.7重量パーセント,ステアリン酸マグネシウムが1.0重量パーセント
であり,
d 「2剤:ジェル」全体に対して,水分が75.2重量パーセント, 1,3-ブ
チレングリコールが17.1重量パーセント,ペンチレングリコールが3.1
重量パーセント,フェノキシエタノールが0.5重量パーセント,塩基性炭酸
亜鉛が0.10重量パーセント,炭酸水素ナトリウムが1.2重量パーセント
であり,
e 一包の重量が「1剤:顆粒」は1.6g,「2剤:ジェル」は30gである
f ことを特徴とする炭酸ジェルパック
(2) 本件特許発明1の構成要件充足
次のとおり,被告製品イは,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Aについて
「1剤:顆粒」において,コハク酸は水溶性酸であり,バレイショデンプン
とデキストリンは増粘剤であり,乳糖は水溶性分散剤である。また,「1剤:
顆粒」は,前記増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンが前記水溶性
酸であるコハク酸及び前記水溶性分散剤である乳糖と混合されている粒状物
である。
したがって,被告製品イは,構成要件Aを充足する。
イ 構成要件Bについて
「2剤:ジェル」において,炭酸水素ナトリウムと塩基性炭酸亜鉛は炭酸塩
であり,水は水であり,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは増粘剤であ
る。また,「2剤:ジェル」は,使用時に粒状物である「1剤:顆粒」と混合
する粘性組成物である。
したがって,被告製品イは,構成要件Bを充足する。
ウ 構成要件Cについて
粒状物である「1剤:顆粒」全体に対して,前記水溶性酸であるコハク酸は
13.7重量パーセントであって,2~50重量パーセントの範囲内にある。
また,増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンについては,測定値が
出ていないものの,乳糖等の重量比から算出すると,27.2重量パーセント
であるから,10~40重量パーセントの範囲内にある。更に,前記水溶性分
散剤である乳糖は58.1重量パーセントであって,30~85重量パーセン
トの範囲内にある。
したがって,被告製品イは,構成要件Cを充足する。
エ 構成要件Dについて
粘性組成物である「2剤:ジェル」全体に対して,炭酸塩である炭酸水素ナ
トリウムと塩基性炭酸亜鉛は,それぞれ,1.2重量パーセント,0.10重
量パーセントであり,その合計は,1.3重量パーセントであるから,0.1
~10重量パーセントの範囲内にある。また,水である水分が75.2重量パ
ーセントであるから,70~97.5重量パーセントの範囲内にある。さらに,
粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘剤であるセルロースガムとアルギン
酸ナトリウムについては測定値が出ていないものの,化粧品の場合,厚生労働
省の通達によって全成分名を分量の多い順に記載すべきことが定められてい
る(甲9)。
この点,「2剤:ジェル」の成分について被告製品イのパッケージには,「成
分:水,BG(1,3-ブチレングリコール),ペンチレングリコール,セルロー
スガム,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻
エキス,カフェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノール」と記
載されている。
そうすると,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,ペンチレングリコ
ールと炭酸水素Naとの間の数値となるはずであり,ペンチレングリコールは
3.1重量パーセント,炭酸水素ナトリウムは1.2重量パーセントであるか
ら,結局,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,それぞれ,1.2~3.
1重量パーセントである。よって,粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘
剤であるセルロースガムとアルギン酸ナトリウムの合計は,2.4~6.2重
量パーセントとなるから,0.5~20重量パーセントの範囲内にある。
したがって,被告製品イは,構成要件Dを充足する。
オ 構成要件Eについて
「1剤:顆粒」は一包当たり1.6g,「2剤:ジェル」は同30gである
から,「2剤:ジェル」の比率「1剤:顆粒」は18.75である。そうする
と,粒状物である「1剤:顆粒」と粘性組成物である「2剤:ジェル」との重
量比は,1:10~40の範囲内にある。
したがって,被告製品イは,構成要件Eを充足する。
カ 構成要件Fについて
被告製品イは,粒状物である「1剤:顆粒」と粘性組成物である「2剤:ジ
ェル」を混合して,二酸化炭素を発生させる炭酸ジェルパックという外用剤を
調製するためのキットであるから,二酸化炭素外用剤調製用組成物である。
したがって,被告製品イは,構成要件Fを充足する。
(3) 本件特許発明2の構成要件充足
次のとおり,被告製品イは,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Gについて
上記のように,被告製品イでは,粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘
剤が,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムである。この点,セルロースガ
ムとは,カルボキシメチルセルロースナトリウムのことである(甲11)。そ
うすると,被告製品イでは,粘性組成物の増粘剤として,構成要件Gに列記さ
れたアルギン酸ナトリウム等の中から,アルギン酸ナトリウムとカルボキシメ
チルセルロースナトリウムの2種が選択されていることになる。
したがって,被告製品イは構成要件Gを充足する。
イ 構成要件Hについて
被告製品イが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(4) 本件特許発明3の構成要件充足
次のとおり,被告製品イは,本件特許発明3の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Iについて
上記のように,被告製品イでは,粒状物である「1剤:顆粒」の水溶性酸は,
コハク酸である。そうすると,被告製品イでは,粒状物の水溶性酸として,構
成要件Iに列記されたシュウ酸等の酸の中から,コハク酸が選択されているこ
とになる。
したがって,被告製品イは構成要件Iを充足する。
イ 構成要件Jについて
被告製品イが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(被告の主張)
原告の主張を否認し,争うが,積極的な主張はしない。
2 争点(1)ロ(被告製品ロが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
(1) 被告製品ロの構成
被告製品ロの包装(甲5)及び試験報告書(甲6)によれば,被告製品ロは,
次のとおりの構成である。
a 乳糖,バレイショデンプン,コハク酸,デキストリン,およびステアリン酸
Mg(ステアリン酸マグネシウム)とからなる「1剤:顆粒」と,
b 水,1,3-ブチレングリコール,ペンチレングリコール,セルロースガム,
アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エキス,
カフェイン,褐藻エキス,緑藻エキスおよびフェノキシエタノールとからなる
「2剤:ジェル」とを含み,
c 「1剤:顆粒」全体に対して,乳糖が59.3重量パーセント,コハク酸が
13.8重量パーセント,ステアリン酸マグネシウムが1.2重量パーセント
であり,
d 「2剤:ジェル」全体に対して,水分が71.3重量パーセント,1,3-ブ
チレングリコールが18.9重量パーセント,ペンチレングリコールが3.0
重量パーセント,フェノキシエタノールが0.5重量パーセント,塩基性炭酸
亜鉛が0.10重量パーセント,炭酸水素ナトリウムが1.3重量パーセント
であり,
e 一包の重量は「1剤:顆粒」は1.6g,「2剤:ジェル」は30gである
f ことを特徴とする炭酸ジェルパックである。
(2) 本件特許発明1の構成要件充足
次のとおり,被告製品ロは,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Aについて
「1剤:顆粒」において,コハク酸は水溶性酸であり,バレイショデンプン
とデキストリンは増粘剤であり,乳糖は水溶性分散剤である。また,「1剤:
顆粒」は,前記増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンが前記水溶性
酸であるコハク酸及び前記水溶性分散剤である乳糖と混合されている粒状物
である。
したがって,被告製品ロは,構成要件Aを充足する。
イ 構成要件Bについて
「2剤:ジェル」において,炭酸水素ナトリウムと塩基性炭酸亜鉛は炭酸塩
であり,水は水であり,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは増粘剤であ
る。また,「2剤:ジェル」は,使用時に粒状物である「1剤:顆粒」と混合
する粘性組成物である。
したがって,被告製品ロは,構成要件Bを充足する。
ウ 構成要件Cについて
粒状物である「1剤:顆粒」全体に対して,前記水溶性酸であるコハク酸は
13.8重量パーセントであって,2~50重量パーセントの範囲内にある。
また,増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンについては,測定値が
出ていないものの,乳糖等の重量比から算出すると,25.7重量パーセント
であるから,10~40重量パーセントの範囲内にある。さらに,前記水溶性
分散剤である乳糖は59.3重量パーセントであって,30~85重量パーセ
ントの範囲内にある。
したがって,被告製品ロは,構成要件Cを充足する。
エ 構成要件Dについて
粘性組成物である「2剤:ジェル」全体に対して,炭酸塩である炭酸水素ナ
トリウムと塩基性炭酸亜鉛は,それぞれ,1.3重量パーセント,0.10重
量パーセントであり,その合計は1.4重量パーセントであるから,0.1~
10重量パーセントの範囲内にある。また,水である水分が71.3重量パー
セントであるから,70~97.5重量パーセントの範囲内にある。さらに,
粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘剤であるセルロースガムとアルギン
酸ナトリウムについては測定値が出ていないものの,化粧品の場合,上記のと
おり,厚生労働省の通達によって全成分名を分量の多い順に記載すべきことが
定められている(甲9)。
この点,「2剤:ジェル」の成分について被告製品ロのパッケージには,成
分:水,BG(1,3-ブチレングリコール)
,ペンチレングリコール,セルロー
スガム,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻
エキス,カフェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノールと記載
されている。
そうすると,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,ペンチレングリコ
ールと炭酸水素ナトリウムとの間の数値となるはずであり,ペンチレングリコ
ールは3.0重量パーセント,炭酸水素ナトリウムは1.3重量パーセントで
あるから,結局,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,それぞれ,1.
3~3.0重量パーセントである。よって,粘性組成物である「2剤:ジェル」
の増粘剤であるセルロースガムとアルギン酸ナトリウムの合計は, 6~6.
2.
0重量パーセントとなるから,0.5~20重量パーセントの範囲内にある。
したがって,被告製品ロは,構成要件Dを充足する。
オ 構成要件Eについて
一包当たり重量は,「1剤:顆粒」は1.6g,「2剤:ジェル」は30gで
あるから,「2剤:ジェル」と「1剤:顆粒」の重量比は18.75で,1:
10~40の範囲内にある。
したがって,被告製品ロは,構成要件Eを充足する。
カ 構成要件Fについて
被告製品ロは,粒状物である「1剤:顆粒」と粘性組成物である「2剤:ジ
ェル」を混合して,二酸化炭素を発生させる炭酸ジェルパックという外用剤を
調製するキットであるから,二酸化炭素外用剤調製用組成物である。
したがって,被告製品ロは,構成要件Fを充足する。
(3) 本件特許発明2の構成要件充足
次のとおり,被告製品ロは,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Gについて
上記のように,被告製品ロでは,粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘
剤が,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムである。この点,セルロースガ
ムとは,カルボキシメチルセルロースナトリウムのことである(甲11)。そ
うすると,被告製品ロでは,粘性組成物の増粘剤として,構成要件Gに記載さ
れたアルギン酸ナトリウム等の中から,アルギン酸ナトリウムとカルボキシメ
チルセルロースナトリウムの2種が選択されていることになる。
したがって,被告製品ロは,構成要件Gを充足する。
イ 構成要件Hについて
被告製品ロが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(4) 本件特許発明3の構成要件充足性
次のとおり,被告製品ロは,本件特許発明3の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Iについて
上記のように,被告製品ロでは,粒状物である「1剤:顆粒」の水溶性酸は,
コハク酸である。そうすると,被告製品ロでは,粒状物の水溶性酸として,構
成要件Iに列記されたシュウ酸等の酸類の中から,コハク酸が選択されている
ことになる。したがって,被告製品ロは,構成要件Iを充足する。
イ 構成要件Jについて
被告製品ロが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(被告の主張)
平成23年12月9日付け販売分については,乳糖ではなくフルクトースを使用
している。その余の販売分について,原告の主張を否認し,争うが,積極的な主張
はしない。
3 争点(1)ハ(被告製品ハが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
(1) 被告製品ハの構成
包装(甲7)及び試験報告書(甲8)によれば,被告製品ハは,次のとおり構
成される。
a 乳糖,バレイショデンプン,コハク酸,デキストリン,およびステアリン酸
マグネシウムとからなる「1剤:顆粒」と,
b 水,BG,ペンチレングリコール,セルロースガム,アルギン酸ナトリウム,
炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エキス,カフェイン,褐藻エキス,
緑藻エキスおよびフェノキシエタノールとからなる「2剤:ジェル」とを含み,
c 「1剤:パウダー」全体に対して,乳糖が59.4重量パーセント,コハク
酸が13.9重量パーセント,ステアリン酸マグネシウムが1.0重量パーセ
ントであり,
d 「2剤:ジェル」全体に対して,水分が75.2重量パーセント,1,3-ブ
チレングリコールが19.0重量パーセント,ペンチレングリコールが3.2
重量パーセント,フェノキシエタノールが0.5重量パーセント,塩基性炭酸
亜鉛が0.09重量パーセント,炭酸水素ナトリウムが1.1重量パーセント
であり,
e 一包当たり重量は,「1剤:顆粒」は1.6g,「2剤:ジェル」は30gで
ある
f ことを特徴とする炭酸ジェルパックである。
(2) 本件特許発明1の構成要件充足
次のとおり,被告製品ハは,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Aについて
「1剤:パウダー」において,コハク酸は水溶性酸であり,バレイショデン
プンとデキストリンは増粘剤であり,乳糖は水溶性分散剤である。また,「1
剤:パウダー」は,前記増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンが前
記水溶性酸であるコハク酸及び前記水溶性分散剤である乳糖と混合されてい
る粒状物である。なお,被告製品ハにおいては,「1剤」は「パウダー」と表
示されているが,内容物は粒状物である。なお,「顆粒」と表示されている上
記被告製品ロの「1剤:顆粒」の内容物と比較しても,被告製品ロと被告製品
ハの「1剤」の内容物は同等であって,いずれも粒状物であることが明らかで
ある(甲12)。
したがって,被告製品ハは,構成要件Aを充足する。
イ 構成要件Bについて
「2剤:ジェル」において,炭酸水素ナトリウムと塩基性炭酸亜鉛は炭酸塩
であり,水は水であり,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは増粘剤であ
る。また,「2剤:ジェル」は,使用時に,粒状物である「1剤:パウダー」
と混合する粘性組成物である。
したがって,被告製品ハは,構成要件Bを充足する。
ウ 構成要件Cについて
粒状物である「1剤:パウダー」全体に対して,前記水溶性酸であるコハク
酸は13.9重量パーセントであって,2~50重量パーセントの範囲内にあ
る。また,増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンについては,測定
値が出ていないものの,乳糖等の重量比から算出すると25.7重量パーセン
トであるから,10~40重量パーセントの範囲内にある。さらに,前記水溶
性分散剤である乳糖は59.4重量パーセントであって,30~85重量パー
セントの範囲内にある。
したがって,被告製品ハは,構成要件Cを充足する。
エ 構成要件Dについて
粘性組成物である「2剤:ジェル」全体に対して,炭酸塩である炭酸水素ナ
トリウムと塩基性炭酸亜鉛は,それぞれ,1.1重量パーセント,0.09重
量パーセントであり,その合計は,1.19重量パーセントであるから,0.
1~10重量パーセントの範囲内にある。また,水である水分が75.2重量
パーセントであるから,70~97.5重量パーセントの範囲内にある。さら
に,粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘剤であるセルロースガムとアル
ギン酸ナトリウムについては測定値が出ていないものの,化粧品の場合,上記
のように,厚生労働省の通達によって全成分名を分量の多い順に記載すべきこ
とが定められている(甲9)。
この点,「2剤:ジェル」の成分について被告製品ロのパッケージには,成
分:水,BG(1,3-ブチレングリコール)
,ペンチレングリコール,セルロー
スガム,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻
エキス,カフェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノールと記載
されている。
そうすると,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,ペンチレングリコ
ールと炭酸水素ナトリウムとの間の数値となるはずであり,ペンチレングリコ
ールは3.2重量パーセント,炭酸水素ナトリウムは1.1重量パーセントで
あるから,結局,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,それぞれ,1.
1~3.2重量パーセントである。よって,粘性組成物である「2剤:ジェル」
の増粘剤であるセルロースガムとアルギン酸ナトリウムの合計は, 2~6.
2.
4重量パーセントとなるから,0.5~20重量パーセントの範囲内にある。
したがって,被告製品ハは,構成要件Dを充足する。
オ 構成要件Eについて
一包当たり重量は,「1剤:パウダー」は1.6g,「2剤:ジェル」は30
gであるから,「2剤:ジェル」と「1剤:パウダー」の重量比は18.75
であり,1:10~40の範囲内にある。
したがって,被告製品ハは,構成要件Eを充足する。
カ 構成要件Fについて
被告製品ハは,粒状物である「1剤:パウダー」と粘性組成物である「2剤:
ジェル」を混合して,二酸化炭素を発生させる炭酸ジェルパックという外用剤
を調製するためのキットであるから,二酸化炭素外用剤調製用組成物である。
したがって,被告製品ハは,構成要件Fを充足する。
(3) 本件特許発明2の構成要件充足
次のとおり,被告製品ハは,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
ア 構成要件Gについて
上記のように,被告製品ハでは,粘性組成物である「2剤:ジェル」の増粘
剤が,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムである。この点,セルロースガ
ムとは,カルボキシメチルセルロースナトリウムのことである(甲11)。そ
うすると,被告製品ハでは,粘性組成物の増粘剤として,構成要件Gに記載さ
れたアルギン酸ナトリウム等の中から,アルギン酸ナトリウムとカルボキシメ
チルセルロースナトリウムの2種が選択されていることになる。
したがって,被告製品ハは,構成要件Gを充足する。
イ 構成要件Hについて
被告製品ハが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(4) 本件特許発明3の構成要件充足
次のとおり,被告製品ハは,本件特許発明3技術的範囲に属する。
ア 構成要件Iについて
上記のように,被告製品ハでは,粒状物である「1剤:顆粒」の水溶性酸は,
コハク酸である。そうすると,被告製品ハでは,粒状物の水溶性酸として,構
成要件Iに記載されたシュウ酸等の中から,コハク酸が選択されていることに
なる。
したがって,被告製品ハは,構成要件Iを充足する。
イ 構成要件Jについて
被告製品ハが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
(被告の主張)
原告の主張を否認し,争う。
被告は,平成22年3月15日以降,被告製品ハを販売等しておらず,実施して
いない。
4 争点(1)ニ(被告製品ニが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
被告製品ニの名称のうちの「LBL」とは,ラメラビューティラボというサロン
の略語であり,LBLと冠された製品も,その実質は,ブリーズベールCO2ゲル
【パック】(被告製品ロ)である。
この点,実際の市場においても,ブリーズベールCO2GEL【パック】につい
て,LBLと冠された製品が販売されている(甲22)。
したがって,【LBL】炭酸パックCO2ゲル ブリーズベールCO2ゲルは,
被告製品ロと同様に,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するものである。
(被告の主張)
被告製品ニが被告製品ロと構成において同一であることについて争うことを明
らかにせず,その余は被告製品ロと同様である。
5 争点(1)ホ(被告製品ホが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
(1) 被告製品ホの構成
包装(甲23)及び試験報告書(甲24)によれば,被告製品ホの構成は次の
とおりである。
a 乳糖,バレイショデンプン,コハク酸,デキストリン,およびステアリン酸
マグネシウムとからなる「A剤:顆粒」と,
b 水,BG,ペンチレングリコール,セルロースガム,アルギン酸ナトリウム,
炭酸水素ナトリウム,褐藻エキス,紅藻エキス,緑藻エキス,塩基性炭酸亜鉛,
カフェインおよびフェノキシエタノールとからなる「B剤:ジェル」とを含み,
c 「A剤:顆粒」全体に対して,乳糖が58.1重量パーセント,コハク酸が
13.6重量パーセント,ステアリン酸マグネシウムが1.0重量パーセント
であり,
d 「B剤:ジェル」全体に対して,水分が73.8重量パーセント,1,3-ブ
チレングリコールが18.0重量パーセント,ペンチレングリコールが2.8
重量パーセント,フェノキシエタノールが0.5重量パーセント,塩基性炭酸
亜鉛が0.09重量パーセント,炭酸水素ナトリウムが1.1重量パーセント
であり,
e 一包当たり重量は,「A剤:顆粒」は1.6g,「B剤:ジェル」は30gで
ある
f ことを特徴とする炭酸ジェルパック
(2) 本件特許発明1の構成要件充足
ア 構成要件Aについて
「A剤:顆粒」において,コハク酸は水溶性酸であり,バレイショデンプン
とデキストリンは増粘剤であり,乳糖は水溶性分散剤である。また,「A剤:
顆粒」は,前記増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンが前記水溶性
酸であるコハク酸及び前記水溶性分散剤である乳糖と混合されている粒状物
である。
したがって,被告製品ホは,構成要件Aを充足する。
イ 構成要件Bについて
「B剤:ジェル」において,炭酸水素ナトリウムと塩基性炭酸亜鉛は炭酸塩
であり,水は水であり,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは増粘剤であ
る。また,「B剤:ジェル」は,使用時に粒状物である「A剤:顆粒」と混合
する粘性組成物である。
したがって,被告製品ホは,構成要件Bを充足する。
ウ 構成要件Cについて
粒状物である「A剤:顆粒」全体に対して,前記水溶性酸であるコハク酸は
13.6重量パーセントであって,2~50重量パーセントの範囲内にある。
また,増粘剤であるバレイショデンプンとデキストリンについては,乳糖等の
重量比から算出すると27.3重量パーセントであるから,10~40重量パ
ーセントの範囲内にある。さらに,前記水溶性分散剤である乳糖は58.1重
量パーセントであって,30~85重量パーセントの範囲内にある。
したがって,被告製品ホは,構成要件Cを充足する。
エ 構成要件Dについて
粘性組成物である「B剤:ジェル」全体に対して,炭酸塩である炭酸水素ナ
トリウムと塩基性炭酸亜鉛は,それぞれ,1.1重量パーセント,0.09重
量パーセントであり,その合計は1.19重量パーセントであるから,0.1
~10重量パーセントの範囲内にある。また,水である水分が73.8重量パ
ーセントであるから,70~97.5重量パーセントの範囲内にある。さらに,
粘性組成物である「B剤:ジェル」の増粘剤であるセルロースガムとアルギン
酸ナトリウムについては測定値が出ていないものの,化粧品の場合,厚生労働
省の通達によって全成分名を分量の多い順に記載すべきことが定められてい
る(甲9)。
この点,「B剤:ジェル」の成分について被告製品ホのパッケージには,成
分:水,BG(1,3-ブチレングリコール)
,ペンチレングリコール,セルロー
スガム,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,褐藻エキス,紅藻エキ
ス,緑藻エキス,塩基性炭酸亜鉛,カフェインおよびフェノキシエタノールと
記載されている。
そうすると,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,ペンチレングリコ
ールと炭酸水素ナトリウムとの間の数値となるはずであり,ペンチレングリコ
ールは2.8重量パーセント,炭酸水素ナトリウムは1.1重量パーセントで
あるから,結局,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムは,それぞれ,1.
1~2.8重量パーセントである。よって,粘性組成物である「2剤:ジェル」
の増粘剤であるセルロースガムとアルギン酸ナトリウムの合計は, 2~5.
2.
6重量パーセントとなるから,0.5~20重量パーセントの範囲内にある。
したがって,被告製品ホは,構成要件Dを充足する。
オ 構成要件Eについて
一包当たり重量は,「A剤:顆粒」は1.6g,「B剤:ジェル」は30gで
あるから,「B剤:ジェル」と「A剤:顆粒」の重量比は1:18.75であ
るから,1:10~40の範囲内にある。
したがって,被告製品ホは,構成要件Eを充足する。
カ 構成要件Fについて
被告製品ホは,粒状物である「A剤:顆粒」と粘性組成物である「B剤:ジ
ェル」を混合して,二酸化炭素を発生させる炭酸ジェルパックという外用剤を
調製するためのキットであるから,二酸化炭素外用剤調製用組成物である。
したがって,被告製品ホは,構成要件Fを充足する。
キ 小括
以上のとおり,被告製品ホは,本件特許発明1のすべての構成要件を充足す
るから,本件特許発明1の技術的範囲に属するものである。
(3) 本件特許発明2の構成要件充足
ア 構成要件Gについて
上記のように,被告製品ホでは,粘性組成物である「B剤:ジェル」の増粘
剤が,セルロースガムとアルギン酸ナトリウムである。この点,セルロースガ
ムとは,カルボキシメチルセルロースナトリウムのことである(甲11)。
そうすると,被告製品ホでは,粘性組成物の増粘剤として,構成要件Gに記
載されたアルギン酸ナトリウム等の中から,アルギン酸ナトリウムとカルボキ
シメチルセルロースナトリウムの2種が選択されていることになる。
したがって,被告製品ホは,構成要件Gを充足する。
イ 構成要件Hについて
被告製品ホが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
ウ 小括
以上のとおり,被告製品ホは,本件特許発明2のすべての構成要件を充足す
るから,本件特許発明2の技術的範囲に属するものである。
(4) 本件特許発明3の構成要件充足
ア 構成要件Iについて
上記のように,被告製品ホでは,粒状物である「1剤:顆粒」の水溶性酸は,
コハク酸である。
そうすると,被告製品イでは,粒状物の水溶性酸として,構成要件Iに列記
されたシュウ酸等の中から,コハク酸が選択されていることになる。したがっ
て,被告製品ホは,構成要件Iを充足する。
イ 構成要件Jについて
被告製品ホが,請求項1に記載の二酸化炭素外用剤調製用組成物であること
は,上記のとおりである。
ウ 小括
以上のとおり,被告製品ホは,本件特許発明3のすべての構成要件を充足す
るから,本件特許発明3の技術的範囲に属するものである。
(被告の主張)
平成23年3月28日付け販売分については,乳糖ではなくフルクトースを使用
している。その余の販売分について,原告の主張は,否認し,争うが,積極的な主
張はしない。
6 争点(1)ヘ,ト(被告製品ヘ,同トが,本件特許の技術的範囲に属するか)につい
て
(原告の主張)
被告製品へ及び被告製品トは,被告製品イないしニと同一の成分標記がなされて
いるから,これらは互いに同一の成分を有していると考えられる。
したがって,被告製品へ及び被告製品トは,被告製品イないしニと同様に,本件
特許発明1~3の技術的範囲に属するものである。
(被告の主張)
原告の主張を否認し,争う。
本件特許においては,成分の重量比が問題となっているから,侵害論の主張とし
て,同一の成分表記であるから,同一の成分を有していると考えられ,同様に技術
的範囲に属するというだけでは不十分であり,失当である。
7 争点(1)チ(被告製品チが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
被告製品チは,被告製品ホと同一の成分標記がされているから,これらは互いに
同一の成分を有していると考えられる。
したがって,被告製品チは,被告製品ホと同様に,本件特許発明1~3の技術的
範囲に属する。
(被告の主張)
原告の主張を否認し争う。
本件特許においては,成分の重量比が問題となっているから,侵害論の主張とし
て,同一の成分表記であるから,同一の成分を有していると考えられ,同様に技術
的範囲に属するというだけでは不十分であり,失当である。
被告は,平成22年3月15日以降,被告製品チを販売等しておらず,実施して
いない。
8 争点(1)リ(被告製品リが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
被告製品リの顆粒は,被告製品イないしホと同じ成分標記であるものの,ジェル
については,被告製品イないしホとは別の成分標記がなされている。
この点,確かに,被告製品リのジェルは,被告製品イないしホとは別の成分標記
であるものの,被告の製造販売する被告製品イないしホはいずれも本件特許発明1
ないし3の各構成要件を具備していることが明らかであり,さらに,上記のとおり,
被告製品へないしチも,被告製品イないしホと同一の成分を有していると考えられ
る。そうすると,被告製品リにおいても炭酸ジェルパックとしての基本性能を被告
製品イないしチと大きく違える理由はないことから,被告が被告製品リ「のみ」を
あえて被告製品イないしチと異なる成分にて製造販売する理由は考えがたい。
特に,本件特許発明1のうち,ジェルに係る成分は,水,増粘剤,炭酸塩である
ところ,例えば被告製品イのジェルの成分標記から,本件特許発明の要素のみを抽
出すると,水,増粘剤(セルロースガム,アルギン酸ナトリウム),炭酸塩(炭酸
水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛)となる。
一方,被告製品リのジェルに係る成分標記から,同様に本件特許発明の要素のみ
を抽出すると,水,増粘剤(アルギン酸ナトリウム,セルロースガム),炭酸塩(炭
酸水素ナトリウム)となる。
したがって,被告製品イのジェルと被告製品リのジェルとでは,アルギン酸ナト
リウムとセルロースガムとの順序が異なっていること,また,塩基性炭酸亜鉛の有
無の2点で異なっているものの,水,増粘剤,炭酸塩という本件特許発明に記載さ
れた成分に着目すると,同じ順序で構成されている点で両者は同様である。
この点,化粧品の場合,厚生労働省の通達によって全成分名を分量の多い順に記
載すべき事が定められているのであるから(甲9),特許発明に記載された成分に
着目すると,被告製品イと被告製品リとは,ともに同じ順序で記載されており,よ
って被告製品リも本件特許発明の技術的範囲に含まれる。
(被告の主張)
原告の主張を否認し,争う。
原告の主張は,構成要件該当性に関する主張を欠いている。
9 争点(1)ヌ(被告製品ヌが,本件特許の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
原告が調査したところによると,被告製品へ(キアラセルCO2ゲル)と類似の
名称にて,キアラという製品も存在することが判明した(甲31)。そのため,被
告製品イないしリの名称による特定だけでは,被告の侵害製品に漏れが生じるおそ
れが高い。
したがって,被告製品ヌ(構成による記述)も侵害品というべきである。
(被告の主張)
原告の主張を否認し,争う。
10 争点(2)(原告の被った損害額等)について
(原告の主張)
(1) 損害賠償請求(特許法102条2項に基づく算定)
ア 被告は,遅くとも上記警告書が到達した平成22年3月15日から,被告製
品イないしヌを製造・販売している。そして,被告製品の 1 個当たりの消費者
向け販売価格は,1575円(税込み)であるところ(甲3,7),卸売価格
は20%程度と推測できるから,被告は被告製品を1個当たり300円で,他
社に卸売り販売しているものと推測できる。
イ また,被告による被告製品の製造・販売数については,平成22年9月17
日の特許権の設定登録時から本件訴訟提起まで(平成23年9月半ばとする)
の約1年間で少なくとも合計で600万個を下らないと考えられる。
ウ さらに,被告における被告製品の利益率は,販売価格の49%を下らないと
考えられる。
エ そうすると,原告の損害については,被告の利益をもって推定する旨の規定
を使う(特許法102条2項)と,単価を300円とし,販売数量を600万
個とし,49パーセントの利益率を乗じた8億8200万円と算定される。
オ よって,被告が原告に賠償すべき損害額は,金8億8200万円を下らない。
(2) 損害賠償請求(特許法102条3項に基づく算定)
ア また,本件特許発明の技術分野,被告製品の市場,コスト構造,類似事例,
実務慣行に鑑みれば,本件特許発明実施について相当な実施料率は,10%を
下るものではない。
イ そうすると,特許法102条3項に基づく原告の損害は,前記エの売上に1
0パーセントの実施料率を乗じた1億8000万円であり,被告は,原告に対
し,同金額を賠償すべき義務を負う。
(3) 補償金請求
ア 上記のとおり,被告は,遅くとも上記警告書が到達した平成22年3月15
日から,被告製品イ,ロ,ハを含む被告製品を製造・販売しているところ,同
日から,平成22年9月17日の特許権の設定登録時までの約6ヶ月間の製
造・販売数は,少なくとも合計で300万個を下らないと考えられる。
イ また,補償金の額は「実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」(特許
法65条1項)であり,少なくとも,単価に上記販売個数を乗じ,更に10パ
ーセントの実施料率を乗じた9000万円と算出される。被告は,原告に対し,
上記金額を支払う義務を負う。
(4) 弁護士費用
本訴の追行に当たって相当な弁護士費用は,上記損害賠償請求権及び補償金請
求権の10パーセントである2700万円又は9720万円が相当である。
(5) まとめ
よって,損害金等の合計は,2億9700万円ないし10億6920万円を下
らない。本件においては,この一部請求として,5000万円の請求をする。
(6) 被告の主張に対する反論
ア 被告の主張にかかる販売個数等は,過少であり,争う。
イ 本訴において原告は特許法102条1項の損害を主張していないし,株式会
社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ(以下「メディオン社」という。)
は,原告には後記の特許権を行使していないから,同社の特許権の存在は,本
件に影響しない。
(被告の主張)
(1) 販売個数について
平成22年3月15日から平成23年9月17日までの被疑侵害品と考えら
れる製品の販売個数は,別紙販売一覧記載のとおりである。なお,本訴が提起さ
れた平成23年9月17日以降の販売はない。(同日以降の商品は,同名で販売
されているものであっても,本件特許権を侵害しない構成に変更されている。)
(2) 利益率について
平成25年10月24日の本件弁論準備手続期日における主張変更前の原告
の主張である,利益率20パーセントについて,争わない。
同期日において新たに主張された49パーセントの主張については,争う。
(3) 実施料率について
平成25年10月24日の本件弁論準備手続期日における主張変更前の原告
の主張である,実施料率5パーセントについては,被告製品の市場の一般論とし
ては争わず,本件特許の実施料率としては争う。
すなわち,
ア メディオン社は,発明の名称を「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」と
する特許権(特許第5164438号)の特許権者である。
イ 原告は,本件特許の実施品を製造,販売しているが,これは,上記特許権を
侵害するものであるから,被告製品の販売にかかわらず,原告は,上記特許権
の存在により,法律上,本件特許の実施品を製造,販売することができなかっ
たから,本件特許は,法律上の実施可能性がなかったものである。現に,メデ
ィオン社は,上記特許権に基づく権利行使を十全に行っていた。
ウ したがって,本件においては,①特許法102条1項の適用に関して,同項
所定の「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することが
できない事情」が存在し,被告の販売数量の全部又は少なくとも9割を超える
部分について損害額が控除されなくてはならず,②実施料率に関しても,仮に
ライセンスを設定した場合であっても,上記特許との抵触を考えると,通常の
5パーセントといった料率を設定することは困難であり,せいぜい1パーセン
ト程度と評価されるべきである。
第4 判断
1 争点(1)イについて
(1) 証拠(甲3,4,9ないし11)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告製品イ
については以下のとおりと認められる。
ア 被告製品イは,1剤と2剤が別包装された1組の製品であり,内容量は,1
剤が1.6グラム,2剤が30グラムである。
イ 1剤は,成分として,乳糖,バレイショデンブン,コハク酸,デキストリン,
ステアリン酸マグネシウムからなる顆粒状の製剤である。
ウ 本件特許発明の各構成要件との関係において,コハク酸は水溶性酸,バレイ
ショデンプン及びデキストリンは増粘剤,乳糖は水溶性分散剤,顆粒状の製剤
は増粘剤が水溶性酸及び水溶性分散剤と混合された粒状物にそれぞれ該当す
る。
エ 1剤の顆粒全体に対し,乳糖(ラクトース一水和物として)が58.1重量
パーセント,コハク酸が13.7重量パーセント,ステアリン酸マグネシウム
が1.0重量パーセントを占めることから,増粘剤であるバレイショデンプン
及びデキストリンは27.2重量パーセントと推定される。
オ 2剤は,成分として,水,BG(1,3-ブチレングリコール),ペンチレング
リコール,セルロースガム(カルボキシメチルセルソースナトリウム),アル
ギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エキス,カフ
ェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノールを含むジェル状の製
剤である。
カ 本件特許発明の各構成要件との関係において,炭酸水素ナトリウム及び塩基
性炭酸亜鉛は炭酸塩に,水は水に,セルロースガム及びアルギン酸ナトリウム
は増粘剤に,ジェル状製剤は粘性組成物にそれぞれ当たる。
キ 2剤のジェル全体に対し,炭酸塩(炭酸水素ナトリウム及び塩基性炭酸亜鉛)
は1.3重量パーセント,水は75.2重量パーセントを占め,成分の記載順
序,ペンチレングリコール(3.1重量パーセント)及び炭酸水素ナトリウム
の重量(1.2重量パーセント)から,増粘剤(セルロースガム及びアルギン
酸ナトリウム)は2.4ないし6.2重量パーセントの範囲内にあると推定さ
れる。
ク 被告製品イは,使用の際に1剤の顆粒と2剤のジェルを混合して二酸化炭素
を発生させ,肌等に塗布して使用するキット製品である。
(2) 上記認定した事実と,本件特許発明の各構成要件とを対比すると,被告製品イ
は,本件特許1ないし3の各構成要件をいずれも充足するものと認められる。
2 争点(1)ロ及び争点(1)ニについて
(1) 証拠(甲5,6,9ないし11)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告製品ロ
(平成23年12月9日付け販売分を除く)については,以下のとおりと認めら
れる。
ア 被告製品ロは,1剤と2剤が別包装された1組の製品であり,内容量は,1
剤が1.6グラム,2剤が30グラムである。
イ 1剤は,成分として,乳糖,バレイショデンブン,コハク酸,デキストリン,
ステアリン酸マグネシウムからなる顆粒状の製剤である。
ウ 本件特許発明の各構成要件との関係において,コハク酸は水溶性酸,バレイ
ショデンプン及びデキストリンは増粘剤,乳糖は水溶性分散剤,顆粒状の製剤
は増粘剤が水溶性酸及び水溶性分散剤と混合された粒状物にそれぞれ該当す
る。
エ 1剤の顆粒全体に対し,乳糖(ラクトース一水和物として)が59.3重量
パーセント,コハク酸が13.8重量パーセント,ステアリン酸マグネシウム
が1.2重量パーセントを占めることから,増粘剤であるバレイショデンプン
及びデキストリンは25.7重量パーセントと推定される。
オ 2剤は,成分として,水,BG(1,3-ブチレングリコール),ペンチレング
リコール,セルロースガム(カルボキシメチルセルソースナトリウム),アル
ギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エキス,カフ
ェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノールを含むジェル状の製
剤である。
カ 本件特許発明の各構成要件との関係において,炭酸水素ナトリウム及び塩基
性炭酸亜鉛は炭酸塩に,水は水に,セルロースガム及びアルギン酸ナトリウム
は増粘剤に,ジェル状製剤は粘性組成物にそれぞれ当たる。
キ 2剤のジェル全体に対し,炭酸塩(炭酸水素ナトリウム及び塩基性炭酸亜鉛)
は1.4重量パーセント,水は71.3重量パーセントを占め,成分の記載順
序,ペンチレングリコール(3.0重量パーセント)及び炭酸水素ナトリウム
の重量(1.3重量パーセント)から,増粘剤(セルロースガム及びアルギン
酸ナトリウム)は2.6ないし6.0重量パーセントの範囲内にあると推定さ
れる。
ク 被告製品ロは,使用の際に1剤の顆粒と2剤のジェルを混合して二酸化炭素
を発生させ,肌等に塗布して使用するキット製品である。
(2) 上記認定した事実と,本件特許発明の各構成要件とを対比すると,被告製品ロ
は,本件特許1ないし3の各構成要件をいずれも充足するものと認められる。
(3) 被告製品ニについては,証拠(甲22)によると,被告製品ロと同一の名称が
掲げられ,被告が製造元とされていることが認められる。これに加え,被告にお
いて損害論において同一の商品とみなしていることからすると,被告製品ロと同
一の構成であると推認できる。
3 争点(1)ハについて
本件全証拠によっても,原告が請求の根拠とする期間内(平成22年3月15日
から平成23年9月16日まで)に,被告が被告製品ハを販売した事実は認められ
ないから,争点(1)ハについては,判断を要しない。
4 争点(1)ホについて
(1) 証拠(甲9ないし11,23,24)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告製
品ホ(平成23年3月28日付け販売分を除く)については,以下のとおりと認
められる。
ア 被告製品ホは,1剤と2剤が別包装された1組の製品であり,内容量は,1
剤が1.6グラム,2剤が30グラムである。
イ 1剤は,成分として,乳糖,バレイショデンブン,コハク酸,デキストリン,
ステアリン酸マグネシウムからなる顆粒状の製剤である。
ウ 本件特許発明の各構成要件との関係において,コハク酸は水溶性酸,バレイ
ショデンプン及びデキストリンは増粘剤,乳糖は水溶性分散剤,顆粒状の製剤
は増粘剤が水溶性酸及び水溶性分散剤と混合された粒状物にそれぞれ該当す
る。
エ 1剤の顆粒全体に対し,乳糖(ラクトース一水和物として)が58.1重量
パーセント,コハク酸が13.6重量パーセント,ステアリン酸マグネシウム
が1.0重量パーセントを占めることから,増粘剤であるバレイショデンプン
及びデキストリンは27.3重量パーセントと推定される。
オ 2剤は,成分として,水,BG(1,3-ブチレングリコール),ペンチレング
リコール,セルロースガム(カルボキシメチルセルソースナトリウム),アル
ギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,塩基性炭酸亜鉛,紅藻エキス,カフ
ェイン,褐藻エキス,緑藻エキス,フェノキシエタノールを含むジェル状の製
剤である。
カ 本件特許発明の各構成要件との関係において,炭酸水素ナトリウム及び塩基
性炭酸亜鉛は炭酸塩に,水は水に,セルロースガム及びアルギン酸ナトリウム
は増粘剤に,ジェル状製剤は粘性組成物にそれぞれ当たる。
キ 2剤のジェル全体に対し,炭酸塩(炭酸水素ナトリウム及び塩基性炭酸亜鉛)
は1.19重量パーセント,水は73.8重量パーセントを占め,成分の記載
順序,ペンチレングリコール(2.8重量パーセント)及び炭酸水素ナトリウ
ム(1.1重量パーセント)の重量から,増粘剤(セルロースガム及びアルギ
ン酸ナトリウム)は2.2ないし5.6重量パーセントの範囲内にあると推定
される。
(2) 上記認定した事実と,本件特許発明の各構成要件とを対比すると,被告製品ホ
は,本件特許1ないし3の各構成要件をいずれも充足するものと認められる。
5 争点(1)ヘ,ト,チ,リ,ヌについて
原告は,被告製品へ,ト,チ,リ及びヌについても本件特許権の侵害品であると
主張し,その商品パッケージ(甲27から31まで)を提出するが,これらは,単
に含有成分が示されているのみであり,その重量比等は明らかでないから,上記証
拠によっては上記被告製品が本件特許権を侵害するものと認めるに足りず,他にこ
れを認めるに足りる証拠の提出がない。
したがって,争点(1)ヘ,ト,チ,リ,ヌについての原告の主張は理由がない。
6 争点(2)について
(1) 前記1から5までに説示したとおり,被告製品イ,ロ,ホ及びニは,本件特許
の構成要件を充足するものであるところ,証拠(乙1ないし3)及び弁論の前趣
旨によると,原告が,その請求の根拠とする期間である平成22年3月15日か
ら平成23年9月16日までの,被告における被告製品イ,ロ,ホ及びニの販売
実績は,別紙販売一覧のとおりであると認められ,これを左右するに足りる証拠
の提出はない。
なお,原告は,この点につき,上記認定以上の販売実績があったと主張するが,
これを裏付け,または前記被告の証拠を疑うべきとする客観的な証拠の提出はな
い上,前提事実(5)に摘示したとおりの原告の本件訴訟追行の状況及び主張立証の
状況をふまえると,上記証拠に加え,文書提出命令の発令によって,その損害の
立証を図るべき必要があるとは認められない(原告の,平成25年6月7日付け
文書提出命令申立て(平成25年(モ)第922号)は,上記の次第で,これを
却下することとする。。
)
(2) これによると,①被告製品イの,原告による警告書が被告に到着した平成22
年3月15日(甲14,15)から本件特許の登録日である同年9月17日まで
の間(以下「A期間」という。)における売上高は,312万円であり,同日以降
本訴提起ころである平成23年9月16日まで(以下「B期間」という。)の売上
高は62万4000円であり,②被告製品ロ・ニのA期間,B期間の売上高はそ
れぞれずつ120万円であり,③被告製品ホのA期間,B期間の売上高はそれぞ
れ60万円ずつである。
なお,被告において,平成23年3月28日に,被告製品ホと同一の名称の商
品を,同年12月9日に被告製品ロと同一の名称の商品を,それぞれ販売した事
実が認められるが(甲25,26),これらが本件発明の技術的範囲に属すると
認めるに足りる証拠はなく,この部分の売上高を上記算定に加算することはでき
ない。
(3) そうして,本件において,本件特許の実施料率は5パーセント,被告商品の販
売による利益率は,20パーセントと認めるのが相当である。実施料率が10パ
ーセントであり,利益率が49パーセントであるとの原告の主張は,前提事実(5)
エ記載の事実に照らすと,時機に遅れた攻撃方法であることが明らかである上,
それら料率等の根拠も,当事者の異なる別件の判決に依拠するのみであり,到底
採用に値しない。
また,被告は,メディオン社の保有する特許権の存在により,実施料率はより
低廉なものとなる旨主張するが,被告の主張によっても,同社の特許権が,本件
特許権にそのような影響を及ぼすとは直ちには認められないから,主張は採用で
きない。
(4) したがって,
ア 特許法65条1項に基づく補償金請求については,A期間の売上の合計が4
92万円であることから,これに5パーセントを乗じた24万6000円とな
り,
イ 本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求については,B期間の被告製品の売
上合計である242万4000円に20パーセントを乗じた48万4800
円となり,
ウ 上記ア,イに対する弁護士費用としては,7万3000円が相当であるから,
被告は,原告に対し,ア,イ及びウの合計80万3800円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日である平成23年10月19日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払うべき義務を負う。
第5 結論
以上の次第で,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があるが,その余は理由がな
い。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有 恒
裁判官 松 阿 彌 隆
裁判官 松 川 充 康
(別紙)
被 告 製 品 目 録
炭酸ジェルパック(二酸化炭素外用剤調製用組成物)
製品名
イ号 「ピウズCO2ジェルパック」
ロ号 「ブリーズベールCO2ジェル【パック】」
ハ号 「パールブランCO2ゲル」
ニ号 「【LBL】炭酸パックCO2ゲル ブリーズベールCO2ゲル」
ホ号 「ローズメゾンCO2スペリアマスク」
へ号 「キアラセルCO2ゲル」
ト号 「トリコプラチナムCO2ゲル」
チ号 「セルバルーンCO2ゲル」
リ号 「SIS No.9 リカバリーマスク」
ヌ号 上記イ号ないしリ号のほか,以下の構成からなる製品。
A 水溶性酸,増粘剤として加工澱粉,デキストリン,馬鈴薯澱粉,トウモロコ
シ澱粉,キサンタンガム及びヒドロキシプロピルセルロースから選択される1
種又は2種以上,この増粘剤とは別の物質である水溶性分散剤として乳糖,白
糖,D-マンニトール,及び尿素から選択される1種又は2種以上を必須成分
とし,前記増粘剤が前記水溶性酸及び前記水溶性分散剤と混合されている粒状
物と,
B 炭酸塩,水,増粘剤を必須成分とし,使用時に前記粒状物と混合する粘性組
成物とを含み,
C 前記粒状物全体に対して前記水溶性酸が2~50重量パーセント,前記増粘
剤が10~40重量パーセント,前記水溶性分散剤が30~85重量パーセン
トであり,
D 前記粘性組成物全体に対して炭酸塩が0.1~10重量パーセント,水が7
0~97.5重量パーセント,前記粘性組成物の増粘剤が0.5~20重量パ
ーセントであり,
E 前記粒状物と粘性組成物との重量比が1:10~40である
F ことを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物。
以 上
(別紙)
販 売 一 覧
1 被告製品イ(単価はいずれも260円)
販売日時 数量(包) 売上高
(1) 平成22年4月27日 2400 62 万 4000 円
(2) 平成22年6月12日 2400 62 万 4000 円
(3) 平成22年7月13日 2400 62 万 4000 円
(4) 平成22年8月11日 2400 62 万 4000 円
(5) 平成22年9月9日 2400 62 万 4000 円
(6) 平成22年12月27日 2400 62 万 4000 円
小計 14400 374 万 4000 円
2 被告製品ロ・ニ(単価はいずれも500円)
販売日時 数量(包) 売上高
(1) 平成22年4月8日 2400 60 万 0000 円
(2) 平成22年7月14日 2400 60 万 0000 円
(3) 平成22年10月8日 2400 60 万 0000 円
(4) 平成22年12月3日 2400 60 万 0000 円
小計 9600 240 万 0000 円
3 被告製品ホ(単価はいずれも250円)
販売日時 数量(包) 売上高
(1) 平成22年3月26日 2400 60 万 0000 円
(2) 平成22年10月18日 2400 60 万 0000 円
小計 4800 120 万 0000 円
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