平成13(行ケ)453行政訴訟 商標権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法4条1項10号3回
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キーワード |
商標権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成13年(行ケ)第453号 商標登録取消決定取消請求事件(平成14年7月
17日口頭弁論終結)
判 決
原 告 株式会社和漢生薬研究所
訴訟代理人弁護士 西 込 明 彦
同 渡 邉 俊 太 郎
同 弁理士 三 瀬 和 徳
同 小 原 英 一
被 告 特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人 小 林 和 男
同 宮 川 久 成
主 文
特許庁が平成11年異議第91340号事件について平成13年8月
28日にした決定のうち,登録第4298833号商標の指定商品中「化粧品」に
ついての商標登録を取り消すとの部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,「麗姿」の文字を横書きしてなり,指定商品を第3類「化粧品,香
料類,歯磨き」とする商標(登録第4298833号,平成10年7月30日登録
出願,平成11年7月30日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者で
ある。その後,本件商標登録に対し株式会社タケ(旧商号「株式会社オフィス・タ
ケ」,以下「申立人」という。)による登録異議の申立てがあり,特許庁は,同申
立てを平成11年異議第91340号事件として審理した結果,平成13年8月2
8日,「登録第4298833号商標の指定商品中『化粧品』についての商標登録
を取り消す。本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品についての商標登録を
維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年9月
17日,原告に送達された。
2 本件決定の理由
本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,申立人が石けん類及び化粧品
について使用する「サボン麗姿」「麗姿」「TAKE麗姿」の商標(以下,これら
を「申立人商標」という。)は,本件商標の登録出願時において,申立人の業務に
係る商品を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたところ,
本件商標は,申立人商標と同一又は類似の商標であって,その指定商品中「化粧
品」については,申立人の使用する商品と同一又は類似の商品について使用するも
のであるから,指定商品中「化粧品」について,商標法4条1項10号に掲げる商
標に該当し,同法43条の3第2項により,その登録を取り消すべきものとした。
第3 原告主張の決定取消事由
1 本件決定のうち「化粧品」についての本件商標登録を取り消すとの部分(以
下「取消部分」という。)は,申立人商標が,本件商標の登録出願時において,
「化粧品」について,申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者,需要
者の間に広く認識されていたとの誤った認定(取消事由)に基づいて,本件商標が
指定商品中「化粧品」について商標法4条1項10号に掲げる商標に該当するとの
誤った判断に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(申立人商標の周知性認定の誤り)
(1) 麗姿商標の表示主体とOEM契約の成否
原告が製造し申立人が販売した化粧品については,原告が包装まで製作
し,これを原告の総代理店である有限会社ちえの輪(以下「ちえの輪」という。)
にすべて納品し,申立人を含む販売代理店は,ちえの輪と代理店基本取引契約(以
下「本件代理店契約」という。)を締結した上,ちえの輪から商品を購入してい
た。申立人の販売した石けんについては,原告が申立人に直接販売したこともあ
り,また,申立人が他の販売代理店と異なる包装を作成していたが,化粧品は,す
べて,ちえの輪から申立人に販売され,申立人も他の販売代理店と同一の包装を使
用していた。
本件決定は,原告と申立人間の基本取引契約(以下「本件基本取引契約」
という。)が相手方ブランドにより製品を製造するいわゆるOEM契約(以下「O
EM契約」という。)であると認定するが,申立人が化粧品の通信販売を開始した
のは,ちえの輪と本件代理店契約を締結した平成8年7月29日の後であり,平成
6年1月末日に締結された本件基本取引契約が化粧品に適用される余地はない。
申立人は,上記のとおり,ちえの輪と本件代理店契約を締結して販売代理
店になり,ちえの輪から「麗姿」の文字を含む商標(以下「麗姿商標」という。)
の使用された化粧品を購入して販売を開始したが,ちえの輪は原告の総代理店であ
り,申立人はちえの輪の販売代理店の一つであったから,申立人商標を含む麗姿商
標の使用された化粧品は,申立人と原告間のOEM契約による商品ではない。原告
は,本件基本取引契約締結前の平成5年12月ころから,麗姿商標の使用された化
粧品の製造販売を開始しており,他方,申立人が申立人商標を含む麗姿商標の使用
された化粧品の販売を開始したのは,本件代理店契約を破棄し独自に化粧品等を製
造すると宣言して原告との取引をやめた後の,平成9年10月ころである。この時
点において,麗姿商標は,既に,原告の業務に係る商品を表示するものとして周知
であった。
麗姿商標が使用された石けんの広告に「タケ」の表示が付されているもの
があるが,このような場合においても,「タケ」の表示は販売代理店を表示するも
のにすぎないから,麗姿商標が原告の業務に係る商品を表示するものであることは
否定されない。商品の包装に「製造元 ㈱和漢生薬研究所」と記載されることによ
り製造元として原告が明示され,総発売元として申立人の表示がされていること
は,申立人が当該商品の販売代理店であることを裏付けても,本件取引契約がOE
M契約であることを裏付けるものではない。商品の広告において,「総発売元」
「取材協力」「問い合わせ先」などとして申立人の商号等が記載されていても,単
なる販売代理店を広告,取材等の問い合わせ先にすることは世上多々行われている
から,これらの記載もOEM契約を裏付けることにはならない。雑誌等の広告活動
も,原告が当該雑誌社等から取材を受け,販売代理店であった申立人を「総発売
元」等として表示したものも多い。今日のように流通経路が複雑多様化すると,広
告主体が必ずしも商品の製造主体ではなく,販売代理店が広告主体となることも少
なくない。
原告は,麗姿商標の使用された化粧品を大々的に販売したが,これに対し
て申立人は全くクレームを付けなかったばかりか,申立人代表者は,ちえの輪の主
催する販売代理店セミナーに出席して,販売代理店の一類型である「リーダー」の
一人としてあいさつをしている。
申立人は,原告との取引をやめるまでは,ちえの輪から購入した化粧品を
そのまま販売していたのであり,ちえの輪の他の販売代理店が販売していた化粧品
と全く同じ容器及び外箱を使用していた。その容器及び外箱には,麗姿商標が付さ
れ,「㈱和漢生薬研究所」の表示もあるが,申立人の商号等は表示されていない。
(2) 指定商品
申立人が麗姿商標の使用された石けんの広告をしたとしても,本件商標の
取消部分に係る指定商品である化粧品については広告をしておらず,石けんは化粧
品と類似する指定商品ではないから,申立人のした石けんの広告を根拠として,化
粧品について,麗姿商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして周知であ
ったと認めることはできないし,麗姿商標の使用された石けんを化粧品ということ
もできない。
特許庁の「類似商品・役務審査基準」においても,石けんと化粧品は類似
する商品とされておらず,また,取引の実情においても,石けんの生産部門及び販
売部門は化粧品のものと異なり,原材料,用途及び需要者の範囲についても両者は
異なるから,指定商品として類似しない。
したがって,本件商標の指定商品中「化粧品」については申立人の使用す
る商品と同一又は類似の商品に使用するものであるとした本件決定の判断は,誤り
である。
(3) 申立人の取引態様と販売数量
原告の製造販売に係る麗姿商標の使用された石けんの製造数量は,平成7
年6月から平成9年9月までの間に12万7286個であり,ちえの輪の在庫数量
などを考慮すると,この間にちえの輪が販売代理店に販売した上記石けんの数量は
12万1555個となる。そのうち,ちえの輪が申立人に販売した上記石けんの数
量は,5万6997個であり,全体の44.7%である。原告の製造販売に係る麗姿商
標の使用された化粧品については,上記期間の原告による製造数量は31万306
2個であり,ちえの輪の在庫数量などを考慮すると,この間にちえの輪が販売代理
店に販売した上記化粧品の数量は,26万3880個となる。そのうち,ちえの輪
が申立人に販売した上記化粧品の数量は,3万6663個であり,全体の13.8%で
ある。また,上記期間における上記石けん及び上記化粧品の販売数量を合計する
と,ちえの輪が販売代理店に販売した38万5435個中,全体の25%に当たる9
万3660個が申立人に販売されているにすぎない。
このように,申立人がちえの輪から上記石けん及び上記化粧品を購入して
いた平成9年10月までの売上を見ると,麗姿商標の使用された石けん及び化粧品
が,ちえの輪の業務に係る商品を表示するものではなく,申立人の業務に係る商品
を表示するものとして周知であった可能性はない。
第4 被告の反論
1 本件決定の認定判断は正当であり,原告の決定取消事由の主張は理由がな
い。
2 取消事由(申立人商標の周知性認定の誤り)について
(1) 麗姿商標の表示主体とOEM契約の成否
本件商標登録出願前,申立人は,申立人商標を含む麗姿商標を使用した石
けん及び化粧品を,申立人の業務に係る商品として新聞,雑誌類において広告,宣
伝している。申立人は,これら商品の宣伝において,「お問い合わせ/オフィス
タケ」「取材協力/㈱オフィス・タケ麗姿事業部」「発売元 株式会社オフィス・
タケ麗姿事業部」等の表示を付し,また,その箱及び説明書に「総発売元 株式会
社オフィス・タケ麗姿事業部」の表示を付している。申立人商標を含む麗姿商標
は,これらの広告,宣伝,販売等によって,申立人の業務に係る石けん及び化粧品
を表示するものとして周知となった。
原告が麗姿商標の使用された化粧品を製造販売したとしても,麗姿商標が
原告の業務に係る商品を表示するものとして取引者,需要者に理解されていたとい
うことはできない。本件基本取引契約はOEM契約であるからこそ,これに基づき
製造販売された商品の宣伝において「お問い合わせ/オフィス タケ」等の表示が
され,また,その箱及び説明書に「総発売元 株式会社オフィス・タケ麗姿事業
部」の表示がされているのである。ちえの輪と申立人間の本件代理店契約は,原告
と申立人間の契約ではないから,これにより本件基本取引契約がOEM契約である
ことは否定し得ない。さらに,本件代理店契約は,ちえの輪にマージンを支払うな
ど原告の都合上,原告の依頼により締結されたものであり,原告と申立人間の取引
は,OEM契約である本件基本取引契約に基づいてされていた。そもそも,商標と
は,商品の製造者が使用するものだけでなく,販売者が使用するものも含む上,製
造者が同一であっても,流通経路が変われば異なる商標が付されることもある。麗
姿商標は,原告が製造し申立人が販売する商品に付されていたものであって,申立
人の業務に係る商品であることを表示するものである。
(2) 指定商品
特許庁は,類似商品・役務審査基準において,石けんと化粧品が類似しな
いとしているが,上記審査基準は,飽くまで基準にすぎず,本件における両商品の
類否判断は,商取引の実情等に応じてされるべきである。麗姿商標が使用された石
けんは,化粧品的な品質,効能を有する商品としても理解,認識されており,皮膚
に使用される石けんないし洗顔料は,身体洗浄用の石けんとしての意味合い以外
に,化粧品の概念に属するものとしても取り扱われている。また,洗顔料を取り扱
う事業者においては,その品質等に照らし,洗顔石けんを化粧品的効能があるもの
として,化粧品とともに広告,宣伝している実情がある。麗姿商標の使用された石
けんの広告,宣伝に接する取引者,需要者は,これが一般の石けん以上に肌に対す
る品質,効能が優れており,化粧品的な品質等をも有する石けんであると理解する
から,本件商標が化粧品について使用された場合,化粧品についても商品の出所に
ついて混同を生ずるおそれがあり,上記石けんは,指定商品として化粧品に類似す
る商品というべきである。
(3) 申立人の取引態様と販売数量
ちえの輪が全国の販売代理店に販売していた石けん及び化粧品のすべてに
麗姿商標が付されていたとは限らず,また,申立人が原告の販売代理店であったこ
とを認め得る証拠もないから,この点に係る原告の主張は,申立人商標を含む麗姿
商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして周知であったという事実認定
を左右するものではない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(申立人商標の周知性認定の誤り)について
(1) 証拠によれば,以下の事実を認定することができる。
ア 原告は,昭和57年に設立され,健康食品等の製造販売を主たる業務と
してきたが,平成3年ころから「和漢ドゥサボン」商標を使用して石けんの製造販
売を始め,平成5年9月から,上記商標に替え,麗姿商標を使用して石けん及び化
粧品の製造販売を始め,同年12月27日,ちえの輪との間で,「麗姿ブランド全
商品」について,ちえの輪を原告の販売総代理店とする取引基本契約を締結し,従
来,「和漢ドゥサボン」商標の使用された商品を仕入れていた販売店は,ちえの輪
の販売代理店となり商品の販売を継続した(甲11,40-1,2,41-1,
2)。ちえの輪は,総販売代理店として,麗姿商標の使用された石けん及び化粧品
を,全国約700店の販売代理店に納入し,各販売代理店は,これを一般消費者に
販売していた。また,上記各販売代理店は,それぞれ販売員を使用し,これら石け
ん及び化粧品のパンフレットを配布するとともに商品の説明を行い,販路を拡大し
てきたが,地方新聞や雑誌への広告の掲載,新聞折込みチラし,テレビのスポット
広告などの広告も行ってきた(甲6-1~3,7-1,2,10-1~4,甲1
2,13,21-1~3)。(アを通じ甲9,22,乙4)
イ 申立人(当時の商号「株式会社オフィス・タケ」)は,「和漢ドゥサボ
ン」商標を使用した石けんを原告から仕入れ,これを一般消費者に販売していた
が,平成6年1月末日,原告との間で,申立人が継続的に発注する化粧品類の製造
について,原告がこれを引き受け,申立人に売り渡すことなどを内容とする本件基
本取引契約を締結した(甲28)。申立人は,そのころ,原告に対し,「和漢ドゥ
サボン」商標を使用した商品の総販売代理店契約の締結を申し入れたが,原告か
ら,既に,麗姿商標を使用した石けん及び化粧品の販売を開始しており,その総販
売代理店もちえの輪に決まっていることを理由として,拒絶された。そこで,申立
人は,原告に対し,麗姿商標を使用すること,独占的販売でないこと,形式上ちえ
の輪を通して取引することを了承する代わり,通信販売用に石けん用包装のデザイ
ンを変更すること,実質的には原告との直接取引にすることを申し込んだ。原告
は,ちえの輪の了承が得られることを条件にこれを承諾し,ちえの輪の了承が得ら
れたため,申立人は,麗姿商標の使用された商品の販売を開始した。そして,申立
人は,平成8年7月29日,ちえの輪との間で,麗姿商標の使用された化粧品等を
同社から仕入れてこれを販売することなどを内容とする本件代理店契約を締結し
(甲8),ちえの輪の販売代理店の一類型である「リーダー店」となって,ちえの
輪から商品を仕入れて販売するようになり(甲33,39),申立人代表者が,リ
ーダー店の一員として,ちえの輪の主催する販売代理店向けのセミナーに参加する
こともあった(甲15,16-1~17,甲32,検甲1)。申立人は,原告との
上記合意に基づき,原告に商品を直接注文し,原告から直接その納入を受け,マー
ジン相当額をちえの輪に支払っていた。(イを通じ甲9,22)
ウ 平成9年8月以降,申立人(同年2月「株式会社タケ」に商号変更)
は,原告に対する商品の注文を中止し,同年10月ころ,他社から石けん,化粧品
等の商品を購入し,麗姿商標を使用して販売を開始した(甲4-1~3,甲9,2
2)。
エ 原告の製造販売に係る麗姿商標の使用された石けんの製造数量は,平成
7年6月から平成9年9月までの間に12万7286個であり(甲59-58~9
8),これがすべてちえの輪に販売されており,これからちえの輪の在庫数量(甲
60-1,2)を控除すると,上記期間にちえの輪が販売代理店に販売した上記石
けんの数量は,12万1555個となる。そのうち,ちえの輪が申立人に販売した
上記石けんの数量は,5万6997個であり(甲61),全体の44.7%である。原
告の製造販売に係る麗姿商標の付された化粧品については,上記期間の原告による
製造数量は31万3062個であり(甲59-58~99),これがすべてちえの
輪に販売されており,これからちえの輪の在庫数量(甲60-1,2)を控除する
と,上記期間にちえの輪が販売代理店に販売した上記化粧品の数量は,26万38
80個となる。そのうち,ちえの輪が申立人に販売した上記化粧品の数量は,3万
6663個であり(甲61),全体の13.8%である。また,上記期間における上記
石けん及び上記化粧品の販売数量を合計すると,ちえの輪が販売代理店に販売した
38万5435個中,全体の25%に当たる9万3660個が申立人に販売されてい
るにすぎない。
(2) 以上の事実関係に基づき,本件商標の登録出願時(平成10年7月30
日)において,申立人商標を含む麗姿商標が申立人の業務に係る商品であることを
表示するものとして周知であったかどうかについて判断する。
ア 麗姿商標の表示主体とOEM契約の成否
上記(1)イのとおり,申立人は,原告と本件基本取引契約を締結するに際
して,通信販売用に包装のデザインを変更することを申し込んでおり,この点で
は,申立人の販売した石けんの包装のデザインは,申立人が自ら決定する余地があ
ったと解することができる。しかしながら,本件全証拠によっても,申立人が販売
する石けんに付する商標まで自ら決定していたと認めることはできない。むしろ,
上記(1)アのとおり,原告は,平成3年ころから,「和漢ドゥサボン」商標の使用さ
れた石けんを製造販売しており,申立人から,当初は,同商標を使用した商品の総
販売代理店契約の締結を申し込まれたものの,原告が既に麗姿商標の使用を決定し
ていたため,結局,麗姿商標を使用することを承諾したという経緯が認められる
上,形式的とはいえ,ちえの輪と代理店契約を締結して販売代理店となったのであ
るから,申立人が原告との関係で,商品に使用する商標を決定する権限を有してい
たとは到底認めることができない。そして,原告は,平成5年9月から,麗姿商標
を使用して石けん及び化粧品の製造販売を始め,同年12月27日,ちえの輪との
間で,「麗姿ブランド全商品」について,ちえの輪を原告の販売総代理店とする取
引基本契約を締結し,ちえの輪は,麗姿商標の付された石けん及び化粧品を,全国
約700店の販売代理店に納入していたのであるから,麗姿商標を使用した石けん
及び化粧品のデザイン及び商標については,申立人の取扱いに係るものも含め,原
則として,製造元である原告がこれを決定していたと認めることができる。
そうすると,本件基本取引契約の契約書における,原告が申立人の指定
するブランド化粧品類の製造を引き受ける旨の記載は,申立人が自由に商品の内
容,商標等を指定することができるという趣旨のOEM契約ではなく,原告がどの
ような麗姿商標を使用するか決定した範囲内で,申立人が数量,商標の具体的態様
等を決定して発注するという趣旨の契約と解するほかはない。
上記(1)イのとおり,申立人は,石けん及び化粧品を原告から仕入れ,そ
の販売を開始したが,その後,申立人が「和漢ドゥサボン」商標の使用された商品
について総販売代理店契約を申し入れたのに対し,原告が既に麗姿商標を使用して
販売を開始しており,総販売代理店もちえの輪に決定しているとして拒絶したた
め,やむを得ず,平成8年7月29日,ちえの輪との間で本件代理店契約を締結し
て販売代理店になることで麗姿商標を使用した商品を扱うことができたという経緯
が認められる。このような本件経緯に照らすと,申立人は,原告が麗姿商標の使用
を開始した後に,初めて麗姿商標の使用をしたものと認められる。
ところで,製造元がある商標の使用された商品を製造販売し,これを購
入した販売店が当該商品をそのまま一般消費者に販売するという場合には,当該製
造元と販売店とは,いずれも,当該商品に使用された商標を自己の業務に係る商品
であることを表示するものとして使用しているというべきであり,当該商標がだれ
の業務に係る商品を表示するものとして周知となるかは,製造元と販売店間でOE
M契約が締結されたかどうかなど両者間の契約内容によって定まるわけではなく,
当該商標の使用された商品に接した取引者,需要者が,だれの業務に係る商品であ
ることを表示するものとして当該商標を認識するかによって定まる。
本件おいて,確かに,麗姿商標の使用された商品のうち,申立人の販売
に係るものの広告,宣伝においては,「オフィス・タケ」「㈱オフィス・タケ」
「株式会社タケ 麗姿事業部」など,申立人の商号又は略称の付されたものが多い
と認められる(甲4-1~3,甲17,18,24,乙1,2,16-7,8,乙
51~123)。しかしながら,その使用態様を見ると,「取材協力/㈱オフィ
ス・タケ 麗姿事業部」「取材協力/オフィス・タケ麗姿事業部」「お問い合わせ
先/㈱オフィス・タケ」(甲18,24,乙1),「お問い合わせ先/株式会社タ
ケ麗姿事業部」(甲4-1~3,乙16-7),「お問い合わせ/オフィス タケ
麗姿事業部」(甲17),「問合せ先=オフィス・タケ 麗姿事業部」(乙5
3),「協力 オフィス タケ」(乙54)のように,申立人の販売に係る商品で
あることが明確に表示されていないものもあり,また,申立人の商号等の表示は,
麗姿商標の使用された商品の説明に目立たない態様で付記されているものが多い
(この段落掲記の書証)。さらに,申立人の販売する商品の広告,宣伝において
も,「サボン麗姿は・・・和漢生薬研究所から生み出された」(甲17,乙1),
「和漢生薬研究所が・・・生み出した」(甲18),「和漢生薬研究所(現在製造
元)」(乙2)として,原告の業務に係る商品であることが併記されているものも
あり,麗姿商標の使用された石けんを取り上げたテレビ番組(平成8年8月22日
放映の日本テレビ系全国ネット「輝け!噂のテンベスト」,検甲2)中でも,同様
に,原告の業務に係る商品として紹介されている。
そうすると,申立人の商号等の表示とともに麗姿商標に接した取引者,
需要者は,麗姿商標が,申立人のみならず,原告の業務に係る商品であることを表
示するものとしても認識すると認められる。
イ 申立人の取引態様と販売数量
上記(1)エのとおり,原告の製造販売に係る麗姿商標の使用された石けん
について,ちえの輪が申立人に販売した数量は,ちえの輪が販売代理店に販売した
もののうち44.7%であり,原告の製造販売に係る麗姿商標の使用された化粧品につ
いて,ちえの輪が申立人に販売した数量は,ちえの輪が販売代理店に販売したもの
のうち13.8%であり,上記石けん及び上記化粧品の販売数量を合計すると,ちえの
輪が販売代理店に販売したもののうち25%が申立人に販売されているにすぎない。
また,同アのとおり,原告は,ちえの輪との間で,ちえの輪を原告の販売総代理店
とする本件取引契約を締結し,ちえの輪は,原告の製造販売に係る麗姿商標の使用
された石けん及び化粧品を,全国約700店の販売代理店に納入している。各販売
代理店は,これを一般消費者に販売しており,営業活動に際し,これら石けん及び
化粧品のパンフレットを配布するとともに商品の説明を行って販路を拡大し,地方
新聞や雑誌への広告の掲載,新聞折込みチラシ,テレビのスポット広告などの広告
も行ってきたものである。
そうすると,申立人がちえの輪との間で本件代理店契約を締結して麗姿
商標の使用された商品を取り扱って以降,原告が本件商標登録出願をした平成10
年7月30日までの間も,申立人以外に,原告,ちえの輪及びその販売代理店が,
引き続き上記商品を取り扱って,麗姿商標を自己の業務に係る商品を表示するもの
として使用していたのであるし,販売代理店に限って見ても,申立人がちえの輪の
販売代理店として営業していた平成9年8月までの間,麗姿商標の使用された商品
中,申立人の取り扱っていた商品の割合は,上記の程度にとどまっており,その
後,本件商標の登録出願時までの間に申立人の取り扱う麗姿商標の使用された商品
の数量が顕著に増加したことをうかがわせる証拠はない。
ウ 申立人の業務に係る商品を表示するものとしての麗姿商標の周知性
以上の認定及び判断によれば,本件商標登録の出願時において,申立人
商標を含む麗姿商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして周知であった
と認めることはできないというべきである。
被告は,ちえの輪が全国の販売代理店に販売していた石けん及び化粧品
のすべてに麗姿商標が付されていたとは限らないと主張するが,上記(1)アのとお
り,原告は,ちえの輪との間で「麗姿ブランド全商品」についてちえの輪を原告の
販売総代理店とする取引基本契約を締結し,ちえの輪は,麗姿商標の使用された石
けん及び化粧品を,全国約700店の販売代理店に納入し,各販売代理店は,これ
を一般消費者に販売していたものである。そうすると,仮に,麗姿商標の使用され
ていない石けん及び化粧品が原告からちえの輪を通してその販売代理店に販売され
たことがあったとしても,ごく少数の例外的なものにすぎないと推認され,これに
沿う原告の取引先の確認書(甲62,63)もあるから,申立人商標を含む麗姿商
標の周知性に係る上記認定を左右するものではない。
なお,本件は,原告を製造元,ちえの輪を総発売元とする原告らの企業
グループから申立人が離脱して以降,同企業グループと,申立人に関連する企業グ
ループとの双方が,いずれも自己の業務に係る商品を表示するものとして麗姿商標
を使用してきたという事案に係るものである。仮に,麗姿商標を使用する企業グル
ープが申立人らの企業グループのみであるとするならば,麗姿商標に接した取引
者,需要者は,麗姿商標が広く知られていないために特定の企業グループの業務に
係る商品を表示するものと認識し得ないか,又は,当該商標が広く知られており申
立人らの業務に係る商品を表示するものと認識するかのいずれかであるということ
ができる。しかしながら,本件のように,麗姿商標を複数の企業グループが使用し
てきた場合には,当該商標そのものが広く知られたとしても,なお,これが複数の
企業グループのいずれの業務に係る商品を表示するかについてまで広く知られてい
なければ,特定の企業グループの業務に係る商品を表示するものとして広く知られ
ているということはできない。その意味でも,本件においては,麗姿商標が,原告
らの企業グループではなく,申立人らの企業グループの業務に係る商品を表示する
ものとして広く知られていると認めることは困難である。
さらに,本件においては,当初,原告らの企業グループのみが麗姿商標
を使用しており,申立人はこの企業グループの一員であったから,申立人が麗姿商
標を使用しても,グループ離脱前は,この企業グループの一員として麗姿商標を使
用していたというべきである。したがって,麗姿商標に接した取引者,需要者のう
ち多くの者にとっては,申立人が原告らの企業グループから離脱した後も,引き続
き原告らの企業グループが麗姿商標の使用を継続している状況と区別し得なかった
ものと推認されるから,この点においても,麗姿商標が申立人の業務に係る商品を
表示するものとして広く知られるに至ることは困難であったといわざるを得ない。
(3) そうすると,本件商標の登録出願時において,申立人商標を含む麗姿商標
は,申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者,需要者の間に広く知ら
れていたということはできないのであるから,申立人の取り扱う麗姿商標の使用さ
れた「石けん」が本件商標の指定商品中の「化粧品」に類似する商品であるとして
も,本件商標が,指定商品中「化粧品」について,商標法4条1項10号に掲げる
商標に該当するとした本件決定の判断は,誤りというべきである。
2 以上によれば,原告主張の決定取消事由は理由があるから,本件決定のうち
取消部分は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとお
り判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 岡 本 岳
裁判官 長 沢 幸 男
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